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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

plenty

多すぎる荷物と花束と
離れた場所に停めた車まで歩いた

桜が咲いた日
たくさんの
言葉と
雨が降っている

明日からは 新しい生活

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春の詩

冬に捨てた言葉達が
緩む土手で顔を出す土筆の様に
心に返り咲いたなら
なにくわぬ顔をして摘み集めては
花を揺らす風を友に麗かに
春の詩でも書いてみようか

春を待つ
気持ちは一歩
背伸びする

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【短歌】親愛なる冬のみなさま【まとめてみた】

銀紙にくるまれた冬をとりだしてほうばる前にすこし眺める




透明をかさねてかさねて神無月こんないろでも光になるのか


夏掛けにいっしょうけんめいもぐりこむコタツごっこと音も無い窓


濡れ鼠かわかしたので眠りねずミルクのふとんにくるまって尚


おや中尉あなたでしたかこの冬を鏡のように磨く役目は


十二月なにを撮っても美しく星の採取に役立ちました


枝ぶりは丑三つ時ならシカのツノ冬の昼なら空の花束


将来は研究しようと思い立つ無垢なそらほど寒いふしぎを


碧すぎて夜はとうとう紅くなる電信柱へ薪をくべよう




終わり際は初冬とおなじ匂いみたいこんな鼻ではわからないけど

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Gluon nested


生まれ来る時に
握りしめていた全てを捨てて
開いたその小さな小さな手のひらは
全ての世界につながってゆく

https://youtu.be/u8MRUVrDaRU?si=8jAezFt6kATO29Am

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事故

どんでんどんでんどんでんどん

軽自動車が子供を轢きそうだ!

危ないーっ!!

キキーッ!!

ダブンッ!!

でかい鳥が子供を攫いました。

バクンッ
 
鳥が子供を食べました。

「我が子供、鳥の栄養になりにけり。」

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好きだよ

かわいいかわいいあの子は
ミニスカートが似合うんだね

白くて少し筋肉質な足
骨ばった体

何色の服が似合うのかな
なんでも似合うけど

優しい色が好きだな

すぐに肌荒れするのが嫌って言ってたけど
ポツってできたニキビがかわいいんじゃん

いつも笑顔で
きっと辛いこともあるのかな
弱音一つ言わずに頑張るあの子
ちゃんとぎゅってしてくれる人はいるのかな

スポーツが好き
お菓子大好き
目が好き
よく褒められるのは唇と笑顔
今度会ったらたくさんチョコをあげよう


君の好きなもので溢れる世界は


私は私を好きになる

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エイプリルフール

嘘をつけるのは正午まで
どこかの国ではルールがあるという
半日だろうが一日だろうが
年中無休で本当のことを言わない私には
関係のない話だった
似たような言葉をしたためている同士よ
今日ぐらいは、あなたの
ほんとうをさらけ出してみないかい
怖がらなくても
心配しなくても
今日は四月一日だから、
みなも本気にはしないさ
いつものように、冗談めかして
あなたのなかにひそむ
その真実を

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高級なハート


もうすぐお花が咲くよ

仕事人間のあなた 会社を引き継ぐことになったあなた

お花が咲きます

あなたは、日々 黙って 想っている
あたしと中学生みたいなデートをすることを

知っているのよ
春爛漫な あなたの夢を、あたしって

でも思い通りに行かなくて 二人はテレパシーと夢の中で慰め合う

――――やっと 今夜逢えた あたしの我儘のため
それでも ほんの少しの時間は不満よ だけど、嬉しかった

ホワイトデーのチョコレート ありがとう
あの指輪 早く買ってね!
スウィーツを齧ったら 二人のキスのほうが甘かったわ

春が来ると信じて 待っています

あなたの会社が、今にも増してお金持ちになりますように
あたしはきっと……あなたの如雨露でありますように
あなたにもっとナデナデしてもらえますように
あなたとあたし ずっとお花を育てていけますように


https://i.postimg.cc/mrtLps0z/gao-jinahato.png

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電信柱


 奈々のパパは、奈々ちゃんが6才のお誕生日を迎える前に家を飛び出して行ってしまいました。

                *

 奈々ちゃんと、弟である2才の俊太君と、ママとパパは、奈々ちゃんが物心ついた時、東京に住んでいました。
 でも、田舎で寡婦として一人暮らしをしていたおばあちゃんが再婚したのをきっかけに、そのお義祖父さんのところへ、奈々ちゃん一家は呼び寄せられました。山口県です。


「パパは何処へ行ったの? ママ」


 緑色に赤いバラが咲いたワンピースがお気に入りの服。ふっくらとした愛らしい奈々ちゃんは、ある日、ボブヘアーの髪を揺らし、ママに問い詰めました。
 思い切って訊いたのです。

 でもなんとなく、訊いちゃあいけない事のような気がしていた。

「うん、奈々ちゃん。パパはね、今お仕事に行っているのよ。ママと俊太君とで元気に待っていようね」
 笑顔が美しいママは、明るい声で答えました。

「はい……」

 金融業を営むお義祖父さんはおばあちゃんに意地悪ばかりをし、お化粧すらさせませんでした。

 おばあちゃんはかつて、ずっとずっと、いつも美麗に紅を引き、粋に華やかな着物を着る女性だったのに、山口県に嫁いでからは、お手伝いさんのようにお義祖父さんからこき使われるのです。

 奈々ちゃんは怖い目をするお義祖父さんの事が好きになれませんでした。

                *

「あ、パパ! パパッ!」

 ある日の幼稚園の帰り時刻の頃、パパが奈々ちゃんをお迎えに来ました。
 
 その後、奈々ちゃんはあんまり憶えていないけれど、気づくと真夜中で、車の後ろに寝転がっています。
 電信柱が何本も、何十本も並ぶさびしい、畑ばかりが広がる道をパパが車で運転します。
 どうやら俊太君も車に乗っているようです。

 パパのふるさとは東京です。東京を目指していたパパは途中、公衆電話から、山口でオロオロとし生きた心地のしないママに電話を掛けました。

「パパ! お願いよ。奈々と俊太を返してちょうだい。俊太はまだオムツなのよ!」
 ママは電話を受け、泣き叫んでいる。

 高速道路もまだ通っていない昭和の時代です。

 パパは、電話を掛けた兵庫から山口まで、愛するわが子達を返しに車を走らせました。

 ――――ママが嘘をついていた事を、薄々感じていた奈々ちゃんでした。

 パパは、金融業のお仕事が辛くて逃げたのです。優しいパパです。

                *

「お姉ちゃん? パパはなんで居ないの?」
 
 言葉がしゃべれるようになった俊太君が4才の頃、小学3年生の奈々ちゃんに訊きました。

「うん、俊太君。パパはね、お仕事に行っているんだって。きっと帰って来るよ」

 奈々ちゃんはそんな風にしか言えませんでした。

「ふーん」

 俊太君はその時なにを考えたのか、奈々ちゃんにはわかりませんでした。

 絆創膏が取れかかってヒリヒリとする、怪我をした膝小僧のような痛みがするばかり。

 ――――パパが、とっても奈々ちゃんと俊太君が大事だからあんな事をしたと、車で東京へ連れて帰ろうとしたと、わかっている奈々ちゃんです。
 きっとパパは、幼稚園の先生に適当な嘘をついた事でしょう。
 だって奈々ちゃんは、幼稚園バスで毎日帰っていたのだから。

 
 切ないパパの演技を想像し、大人になった奈々ちゃんは(パパに会いたいなー)と今でも思っています。




https://i.postimg.cc/fL0VVYNN/dian-xin-zhu.png

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整理番号:TR-9901  #アイラシヤ大陸

時代 現代
場所 ロシア

シベリアの永久凍土層、地下300メートル。針葉樹林の深淵に沈む白亜の私邸は、地上の零下40度の吹雪を拒絶する「熱」と、過剰なまでの「静寂」が支配していた。
重厚な扉が開くと、そこには現代科学の定義を逸脱した生命のポリフォニーが広がる。天井高10メートルの巨大温室。遺伝子編集で色彩を調整された数千羽の小鳥が舞うその中央、精緻な彫刻が施された黒檀のデスクに、男が座っている。彼の姿は、三重スパイという世俗の呼び名を拒絶するような、圧倒的な静謐さを纏っていた。
ラボの心臓部には、液体ヘリウムで冷却された量子プロセッサが鎮座し、銀色の光ファイバーが神経細胞のごとく壁面を這う。秒間数ペタフロップスのデータが「光の位相」として処理される傍らで、小鳥たちの羽ばたきが計算空間のエラーを物理的に中和する。ここは、国家概念や倫理規定が深度によって濾過されたあとの、純粋な演算の聖域である。
ホログラムを通じて権力者たちへ語りかける。その声は低く、地鳴りのように響いた。
「諸君は現在の混乱を、単なる物理的事象だと考えているのか? 北極圏の熱波、永久凍土の融解、そして対流圏を切り裂く線状降水帯……。これらは気候変動などという生温い言葉で片付くものではない。我々が『あちら側』と呼ぶ、不確定な歴史の濁流を湛えた未知の領域――その位相が、現代の計算空間と同期し始めたことによる論理的エントロピーの漏れ出しだ」
男は画面上のホルムズ海峡の動きを指し示した。
「ホルムズ海峡の緊張も、石油の奪い合いではない。あそこは地球磁気リレーにおける極めて重要なノードだ。米軍が展開する高出力レーダーの交差は、あちら側からの信号を他国に傍受させないための、巨大な電磁的ファイアウォールに過ぎない。地政学的な火種は、情報の検問所なのだよ」
画面には、NASAの「HLS(月面有人着陸システム)訴訟」の電子文書が映し出されている。スペースX、ブルーオリジン、ダイネティクス。三つ巴の法廷闘争。
「NASAがスペースXを選び、ブルーオリジンが提訴する。スターシップの再使用性か、それとも三段式か……。表層では熱心な商売敵の喧嘩に見える。だが、この『遅延』こそが、真の目的のための微調整であることを、君たちは理解しているはずだ」
男の肩で、瑠璃色の小鳥が一際高く鳴いた。その瞳には微細な演算コードが明滅している。
「『アルテミス2』。4人の飛行士を乗せたオライオン宇宙船が月を周回する。だが、その真のペイロード(積載物)は何だ? 軌道上の特定の座標、計算空間の『余白』が物理的な月面と重なるその瞬間に、彼らは何を投下するつもりだね? 月はもはやただの衛星ではない。それは巨大な『中国語の部屋』の外壁に開けられた、唯一の覗き窓だ。君たちが血眼になって開発している月着陸船は、月面に降りるための足ではない。あの不可知の領域へ、観測者の肉体を送り込むための次元潜航艇(ランダー)なのだ」
温室内の一部では、局所的な疑似重力フィールドにより水滴が空中に静止している。男の指先には、イスラエルの諜報技術で鍛えられた精密な触覚センサーと、ロシア宇宙主義が夢見た「不死」への渇望が宿っていた。
「民間企業の訴訟による計画の遅れも、予算の再編も、すべては位相がこちら側と重なる『その日』に打ち上げを同期させるための、精緻なアルゴリズムの一部だ。人類は重力と戦っているふりをしながら、実は論理の重圧に怯えている。スターシップが燃料を積み込む時、それは推進剤ではなく、こちらの世界の『未確定な未来』をあちら側へと輸出するための、存在論的な為替(エクスチェンジ)を積んでいるのだ」
男は通信を切断すると、再びスタインウェイの前に座った。傍らでは19世紀の自動手記人形(オートマタ)が、あちら側の座標を紙の上にカリカリと刻み続けている。
「Нужно довести обман до совершенства.」
奏でられる旋律は、重力に縛られた地球の音楽ではない。それは月軌道の向こう側に広がる、不可知の彼方から吹く、冷たい風の音であった。
【警告:本記録の閲覧ログは、30秒後にハッシュ値の海へと自己消去される】

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コーヒー、深夜、それだけのこと

コーヒーは
いつも僕の悲しみ

何かが心を締めつけるわけでも
あるいは涙腺を痛めつけるわけでも
ないというのに

ただ悲しみだけが
そっとそっと、攻めてくる

コーヒー、深夜、それだけのこと

なのに

ただ顔を上げては
一片の眠気さえ失った目に
星を焼きつける日々が過ぎ去るんだ

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気配

犬を散歩させている人がいた

けれどよく見ると
犬はいない
人もいない

ただ散歩だけがあった

それもまたやがて咲く
桜の気配に
溶けて消えた

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なんにもいらない

なんにもいらない
月明りと煙草があれば

冷たいコンクリートに立つはだし
吹く風になびく黒髪

毛先に降り注ぐ蛍光灯
足をくすぐるカーテン

これからも寄り添う観葉植物
誰かが話してるラジオ

ああ 私の周りには
こんなにものがあったんだなあ

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【詩】再会

待ち合わせの 十三時に
間に合わせて 乗った電車

空いた席を 空けたままで
ドアの側で 外を眺む

空の青は
はやる気持ち 落ち着かせて

山の緑は
はしゃぐ気持ち 迎え入れて

僕は 深く深く 座る
ドアの側の 紅のシート



背に伝わる 淡い揺れに
薄く閉じた 瞼と耳

ガタンゴトの 三連符が
徐々に 遠ざかって消えた

目を開けたら
目的地は とうに過ぎて

聞こえたのは
終を告げる 車掌の声

僕は 恐る恐る 開く
二人だけの トーク画面



開き始めた ドアの隙間
目がけ投げる 細い身体

ありったけの 「ごめんなさい」
投げたスマホ 汗ばむ手に

跨線橋を
猛ダッシュで 渡り切って

滑り込むは
十三時発の 急行 

僕は 破れかぶれ 齧る
ミント味の ガムを一つ



待ち合わせの 饂飩屋から
ストレートに 伸びる列に

一人きりで 待ち続ける
長い髪の 君を探す

「どのあたり?」と
訊くとすぐに 浮かぶ既読

「あたま」と聞き
店の暖簾 目指し走る

僕は 一人ひとり 覗く
二年前と 照らしながら



先頭から 三番目の
瞳と 今 空で触れた

杉の椅子に もたれかかる
君の髪は ショートカット

「大丈夫?」と
尋ねられて マスクを取り

「大丈夫」と
矯正した 前歯を出す

僕は 重ね重ね 下げる
丸い頭 悪い自分



飛んだ刻を カバンに詰め
二十二時に 乗った電車

空いた盤を 埋めるように
角の席に 腰を下ろす

空も山も
水墨画の 夜の町が

昼と同じ
色が香る 街に見えて

僕は じわりじわり 気付く
君に 歩み寄る想いに

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愛と名付ける

言葉にしてしまえば 
愛している 
結局はそれしかない 

あなたというひとを 
私がどれだけ憎み、妬ましく、哀れみ、許せないか 
大切に、誠実に、守り、毛一筋も傷つけたくないか 
あなたは知らないだろう 
どれだけ求め、そして同じくらい突き放したい衝動 
矛盾だらけのこの 
こころで 
愛していると 
他に当てはまる言語が存在しないことが歯がゆく 
結局 
うつくしいものだけをかき集めたようなひとこと
「愛している」 
そんなものではない 
うつくしい想いと同等に醜さが確かにあるのだ
私の中の愛という愛全てを捧げてしまう悔しさ
それを唯ひとりに捧げられる途方もない歓喜

あなたはそんな私のこころを知らず 
信頼しきった顔で無防備に隣で寝ている 
そのすこやかな寝息を永遠に壊したくないのに 
次の瞬間にはもう 
首に両手を這わせ締め上げたくなる 

儚く、したたかなこのこころは何だ 
誰か名付けてほしい 
愛している 
確かに愛してはいるのだ 
だがそこに潜む醜さを包含した時 
それでもやはり 
ひとは 
それもまた愛だというのだろうか 

最近効かなくなりつつある睡眠薬を飲み干し 
あなたのまぶたに唇でそっと触れる 

知らなくていい 
あなたは私が差し出した半分のこころだけを信じて 
残りの半分は知らなくていい 
脅かしたくない 
喰い殺したい 
どこまでも矛盾するこころで 
愛している 
あなたの耳元に聞こえない程のちいさな声で 
私はつぶやいた 

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即時一杯の飯に如かず⑬

 遅く起きた日曜の朝
 ドリップコーヒーを飲みながらキッチンに立つ。

 全粒粉のトルティーヤに、辛く炒めた挽肉、細切りのレタスとストックした常備菜の塩トマトとズッキーニのソムタムに即席サルサソースをかけたら二つ折りにして写真を撮る。
 食べ物は鮮度が命。
 撮影には時間をかけず、すぐ口に運ぶ。
 酸味と塩味のマッチングをヨーグルトベースのスムージーで流し込み、指を舐めたら唇に触れて・・・・・・あの日の出来事を、塗りつぶす。

 溜まった家事をこなしつつパソコンに向かってSNSを始動、タイムリーな記事ではないが個人でやる分には進捗。和真が運営しているサイトにデータベースを送信すると折り返し着信。

 一晩寝て、説教される覚悟はできた。

 『おはよう。昨日仕事だったの?』
 『ああ、うん・・・・・・』
 『お疲れ様。宗ちゃんと寄り戻したの?』
 『そうじゃないけど、成り行きで』
 『だと思った』

 沈黙。電話でよかった、と思う。

 『白鳥と喧嘩でもした?』
 『路嘉とは何もない』
 『ふーん。俺との仲まで疑われてるから、そっちで話つけて』
 『路嘉が迷惑かけて、すまない』
 『いいえ、どう致しまして。じゃあね』

 一方的に打ち切る和真の怒り心頭に押し流され、冷めたコーヒーの底に残る甘さを飲み干す。掃除が終わったら昼は流しのカフェ巡りで仕切り直しだ。


 ◇◇◇


 宗一郎と別れてからの半年
 俺はひとりで飲食店に入る度胸が持てずにいた。
 今このタイミングでなら、とはいえ昼時の行列を避けて他所へ行ってもカフェは圧倒的な女性客で埋め尽くされ敷居が高い。諦めた先で白壁の一軒家からブラックボードが引き上げられているのを見つけて走り出せばclosed(閉店)軽く会釈して爪先を返す。

 「あ、よかったらどうぞ」

 ボードを店内に入れるエプロン姿の女性に案内され、木製のドアを押して進むと子供の頃から見慣れたアニメ映画のような空間に引き込まれる。ステンレスのポットは水滴を落としながら冷をグラスの8分目まで注ぎ「ご注文お決まりでしたら声かけて下さいね」その後、呼ばれて厨房へ消えた。
 
 さて、どれにしようか。
 紙に書かれたメニューを指さし、ナポリタンのサラダ付きに決めた。
 
 メモを取る三つ編みのまとめ髪をした店員の後姿を目で追う。流行りじゃない丸い眼鏡が印象的だ。間もなくして届くサラダは紫玉ねぎとグリーンリーフのミックス、ポテトサラダ、ごまドレッシングのシンプル構成。ランチサービスのゆで卵は程よい半熟で、テーブルの塩をかけて食べる。

 この店はオフィス街で弁当の移動販売をしていた仕出し屋が元だとレビューサイトに投稿されていた。サラダを食べながらメニューを眺めること10分余りで待望のナポリタンがやって来る。
 写真で見るより少々ボリュームに欠けるが、味の方はトマトのホール缶を使った「おふくろの味」赤いソーセージが、懐かしかった。
 実家は共働き
 食事は弁当か袋ラーメンばかり。
 幼心に赤いウインナーがご馳走だったな。
 久しぶりに食べるとうまい!帰りに買って帰ろう。

 「ごちそうさまでした」
 「880円です。ありがとうございます、お気をつけて」

 外に出て見上げれば陽は高く、白昼夢のようなランチにご満悦の俺はバッグの中からスマホを取り出し、路嘉に連絡をした。
 相変わらずの不機嫌で声のトーンも低め、和真と居るのか。探りを入れる不信に対し今、独りだと言っても路嘉は聞き入れはしないだろう。
 彼氏ができると友達と疎遠になる。
 どちらも大切で捨て置けない現実に汗を滲ませ、運動がてら家まで歩くとするか。

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浮気と、男の誠実さについて。

 即時一杯の飯に如かずを連載している、及川まゆらです。

 いわゆるBL小説
 と、いうものは読者を楽しませる「定義」が含まれている作品が多く、こうあれば、あるほど良いとされる法則/テンプレートが定まっているジャンルです。
 女性向けですよね、BLを好んで読みたがるノンケはそれほど多くは無い認識。
 だから女性が好きなシュチエーションを濃厚にした方が、オタクっぽく仕上げた方が受けがいいと知りながら、現実的な恋愛観や男の素質を全面的に押し出した12話目は「男が浮気をする瞬間」を如実に描いています。ああ、なんですよ。男の心理。

 主人公には様々な葛藤が日常と、年下の彼氏との関係にあり。

 いつも浮気をされます。

 ゲイ視点でいうところ、体の浮気はしょっちゅーで。というか男なら・・・・・・軽率ですが"そんなもの"よくあること。
 男のメカニズムをここで熱く語る気はないけれど、性風俗が昔からある産業で、昨今では痴情のもつれの裏側に潜む色恋で命を落とす事件も珍しくない。風営法も変わりました。でも、性風俗はいつの時代も、誰もが利用できる揺るぎない位置付けとして存在しているのかなぜか。
 需要があるから。
 利用する人が多いから、働く人も増えてお客様のニーズに合わせた提供を行えるよう高時給の設定もできる。
 日常的にセックスができる文化が日本人男性にはある。ゲイでも、ノンケでも。お金を出せばセックスができる環境になんせ置かれていますからね。
 性欲ってね、旺盛かどうかではなく性的なことは誰でも興味があるし、できるならしたい。倫理観とかその場に置いて無くなる。だから浮気=悪い事というマインドは「その時、大切な人を思い出せるか」これを実行できる男は、誰かに誠実さを見せていられる。評価される意味と必要性がある男にとっては、そのボーダーは命取り。
 ただ、嘘も方便。他人とのセックスを息抜きだと心の底では思ってる男が大半なので、浮気する側の気が知れないのは当然です。抜けばいい、事後は顔も名前も覚えて無いような事をして、何となくその時をやり過ごした経験なんか誰にでもある。私がいう"そんなもの"とは、読んで字の如くそう。で、ここからもっと深掘りすると男は自分が辛かった時に側にいて心を支えてれた相手に心を許す。

 ここでいう許す、は
 委ねる
 自分の身勝手な甘えを相手に放ってもいいと思い込んで、やる。
 などの意味合いを持つ、心の在り方。

 言い方悪いけど、コイツになら何をやってもいいと思ったら本質的な諸相と行動が拡大する。これは良くも悪くも、絶対です。
 それが性的な行為を伴うと男はみるみる素直になっていく。
 人を知る上で、そのプロセスがあると解像度が高まる。男にはその感覚というか容量が大きいのかなと相手にする上で、感じます。例えば私の友人、アメリカ人男性で大卒後のエントリーからシステムが日本とは全く違う快速エリート勢の仲間入り、一流と呼ばれるステージへ野心で進んだ結果、彼は一族から見放される。そして訪れたコロナ禍と壮絶な4年間。おそらく彼の人生の試練、これ以上にない厳しさとプレッシャーの連続でした。
 彼の孤独に寄り添う私の存在は性愛もブロマンスも超えた親愛で結ばれ、今では思考がクラウド同期しているのではと笑い合う仲。
 男と男が生涯の友として対等に付き合うプロセスに重要視されるのは、絶対的な許し合う心と許容、そして熟年していく過程に私たち男だけが感じる共感。あんなに激しかった彼が優しく思いやる心を最中に捧げられるようになったのは、はっきり言おう私の調教の甲斐あっての出来事。めっちゃ顔面好きすぎる。もう私が理想とする骨格と旺盛が弾ける荒々しさはもうあの時でなければ得られなかったので、出会いのタイミングは大事だと実感。
 今はすっかり大人になっちゃって、相変わらずキレのいい嫌味と思わせぶりに苛々して仕掛けたくなるけど。長い指の上に顎を乗せて眉をしかめて見せる、あの激ルックスが可愛いので許す。お前が何をやらかしても私だけは、私たちだけはわかってあげられるよっていうお墨付き。

 そんな実体験を込めて、物語に付与する。
 主人公は恋愛が下手くそ。
 然るべき処で、怒れない男っているでしょう。感情的にはなるけど感情表現が上手くできない、適切な言葉が出て来なくて泣いてしまう。言えない。その一線を超えたら壊れちゃう。根底に不安を隠し持つ男はいわゆる弱者男性なんかではない。優しいの、愛したいって気持ちが上回るからおかしなことになるんです。

 浮気をされたり
 浮気をしたり
 傷ついたり、生きていく為に仕方ない行為を突発でも受け入れながら生きていく。

 世間ではおじさんと呼ばれ、おじさんであるが故に大勢の他人に対して配慮しなければならない概念に囚われ、それが社会のルールであるが如く思考に埋もれる。
 どうすれば自分が救われるのか。
 苦悩した先に、散々自分を弄んだ元彼しか選択肢が無い。絶望的な状況であっても快楽に身を委ねて逃れたいと思うほど苦しい、主人公の愚かしさは男にしかない心の恥部を夜に溶かしていく。そうやって間違えていく答え合わせが、今後の展開に盛り込めたら物語としては何度でもクライマックスを迎えられる。
 主人公の趣味である料理が充実するのも、食のリポジトリによる効果が大きい。
 料理を作って食べることは彼が心から求める自由な時間と、自分の遠い通りになる「失敗のない幸せ」評価してくれる人々がより幸福を与えて彼を認めてくれる。自信と探求心が同じところにあって満足感を得られるなら、恥ずかしさと引き換えに得る快楽の比では無い。満たされる幸福感と到達するまでの過程は明確で穏やか、そのものが主人公の性格という作りです。
 嫌な事があったら飯を作って忘れて切り替える、単純さも・・・・・・
 人を相手にした時の不器用で、自分中心な考えと失態も、実際にいそうな男として外さない。

 17話で終わった物語ですが、機会があれば視点/一人称なので主人公を変えながらこれからも書き続けられたらいいなと考えています。

 ええ、飯の話に事欠かない「暮らしの手帳」みたいなものですから。

 即時一杯の飯に如かず
 よかったら、皆さまご覧ください。きっと、うまい飯に出会えますよ。

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あさ

めがさめてないている

なにかに
おいかけられていた

めがさめて
つめたいくうきのなか

まだ
ゆめのなか

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木蓮の蕾

ぼくはまだ
あのアパートにいる

冴えない朝の光が
カーテンのすきまから
こぼれてる

きみは なにも言わずに
ぼくの髪を撫でる
それだけでよかったのに


憧れは 遠くて
触れた瞬間に 壊れていく


ぼくは
きみのことが 好きで

だから このままで
いいと 思ってた

きみが ぼくのことを
忘れてしまっても

ぼくは たぶん
忘れない


ベランダの隅で
苔が 静かに増えていく
誰にも気づかれずに

意識が 遠のくみたいに
やさしさは 消えていった


あの日のいたずらも
笑えなかった理由も
まだ ここにある


きみのためなら
どんなことでも
できると 思った

悪いことだって
きっと できる
きみが 願うなら

ぼくに 死んでほしいと
言うなら

そのときは
少しだけ 笑って



木蓮の白さが
やけに 重くて
これ以上
近づかないように

手を思い切り伸ばして
空に触れようと


身をなげるよ

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 4

本音

会いたいと伝えたら
画面の向こうの貴方は
どんな顔をするのかな

びっくりするかな
困るのかな
もし同じ気持ちだったらな

つい送ってしまった
つい溢れてしまった
『本音』
しばらくして
ついた既読

返事が怖くて
画面を伏せて
通知が来ても
気づかないふり

いつも通りの
温度のメッセージ
がっかりしたのと
同じくらい
ほっとしたんだ

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 4

 6

即時一杯の飯に如かず⑫

 ep.12「シメパフェ」

 元彼の宗一郎は浮気っぽくて────
 三下り半を付けるまで随分と時間を費やした。何度となく甘い言葉に騙されきた俺にも惰性があり、違う男に可能性を感じて選ばなかったにのは、他人と新たな関係を構築するのが面倒だった半面、宗一郎を失う寂しさに束縛されていたからだ。
 別れて、半年。
 仕事に打ち込んできたが、誘われたらまんまと出向いてしまう自分の愚かしさに頭を抱える。
 路嘉にどうやって接したらいいのか判らない。
 また、浮気をされたら。ごめんで押し切られやり過ごしてしまう。それが浮気をさせる要因だと和真に指摘されても治らない俺はクズ・・・・・・いや、自分を貶めるのはやめよう。

 湯けむりを潜り、勢よく吹き出るシャワーを顔に浴びて前髪をかき上げる。
 ポンプから押し出される業務用のボディソープを掌で泡立て、汗と一緒に流せばガラス張りの向こう側で待つ、宗一郎と目が合った。
 濡れた体のままバスローブに袖を通して、裸足で絨毯を歩いた先にあるクイーンサイズの広いベッドに横たわり。枕をひとつ、抱えるのが俺の寝ぐせだ。
 まだ少し酒が残ってる。

 「悪酔いしたか?チェイサーしろってあれだけ飲み方教えてやったのに」

 交わしても執拗に追いかけてくる唇を怪訝に払い、酒臭いため息をひとつ。
 わかってる
 どれだけ嫌がってみせても、この男には通用しない。

 「絢斗。ちょっと見ない間に、色気出てきたね」
 「お前がそういう目で見てるからだろ」
 「やばい興奮してきた・・・・・・ほら、これ見ろよ」
 「言われなくても見えてる」
 「素直だな、お前こういうの好きだろ」

 バスローブの上から唇を這わせて耳元で甘く囁いた後、俺の眼前に見開くそれは・・・・・・




 8段重ねのタワーパンケーキ、アイスクリーム付き。




 「本日のシメパフェ」
 「パフェじゃねぇだろ。無理だって・・・・・・宗一郎のだめなところ、そこ!」

 
 部屋にライブステージがある独特なセッティングと、コンチネンタルブラックファーストで有名な新宿ファッションホテルはランチ休憩限定「メガ盛スリーナイン/999円」と呼ばれるホットミールが人気を博している。
 甘いものは別腹というが、宗一郎は甘いものが主食。
 糖尿病予備軍の名を欲しいままにフォークを突き立て、俺が隣に座っているのに自撮りを楽しむ。

 「この上からチョコレートかけて。もっと左、そこ・・・・・・いいよ・・・・・・ゆっくりかけて」
 「わざと言ってないか」
 「絢斗のエッチ。そんなに俺としたいの?」

 上目遣いでスマホのカメラを向ける宗一郎の手を押さえる、やめろ。
 
 甘い余韻が視線となって身を寄せれば、着信音。
 この手を離せば現実に引き戻される。いいのかと声をかけてくる宗一郎の体温から抜け出して、和真の声に答える。
 平然を装う、俺の声に陰る瞬間を見逃さない和真から「今、どこ」まさか宗一郎とホテルに居る、なんて・・・・・・隠し通せる自信はない。
 胸の内がざわつく。今、俺は浮気をしているとここにきてようやく頭が追い付く。身勝手で浅はかな行為に思わず、出掛かった言葉を飲み込んで肩をすくめる俺は息をするのもやっとの思いで、だけど謝罪ひとつせずに電話は終わった。
 和真に謝ったって、仕方ない。でも───
 
 苦しい。

 冷たい真っ黒な塊が温度に溶かされ、角を失うように、俺だって。俺だって甘えたい。
 大人だから、
 男だから、
 そんなの全部忘れて、優しく触って欲しい。どれだけ頑張っても安らぎに辿り着けない生命の危機感に耐えられず、露命を繋ぐ思いで自分から宗一郎の手を握った。

 宗一郎は唇のチョコを舌の先で舐めながら、微かな薄ら声で、事実を覆ったアルミパーチを裂くように返す。
 

 お前の良いところはゴリ押しが通用する
 純然たるその性格だな
 今の俺にできる精一杯はさせてもらう、いいな。シャワー浴びて来る。

 暴かれた俺の正体。
 立ち上がって短い息をつく宗一郎の手を繋いだまま下から見つめていると、甘い香りで囁く。俺とお前しかいないのに、またそれ────全く酷い男だ。

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も、く、げ、き

ワレワレハチキュウジンダ

ミテルダケ セカイヲ

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 9

嘆きの天使

最最最底辺に生きる私には
輝ける未来なんかない
いつでもどこでも空気が読めず
周りからドン引きされる運命になっている

一番嫌いな奴はオノレ自身
こんな人間失格に誰がした
屈辱感に耐えきれずバックレた
世間様の正義が私を木っ端微塵にする

オ前ハ社会ノ穀ツブシ
オ前ハ社会ノ穀ツブシ

高い壁を乗り越えてもさらにもっと高い壁
死ぬまでこれの繰り返し
運の悪い奴は何をやっても
ドツボにハマるようにできている

同情買う奴オレオレ詐欺師
この世は弱肉強食の生き地獄
私のような●●●●●は
一丁前にハッピーになる資格はない

オ前ハ地球ノ落チコボレ
オ前ハ地球ノ落チコボレ

人生に期待する奴は大馬鹿野郎
生きていられるだけで御の字と思え
ラブとかピースとかありえない
夢みたいなこと考えてるから病気になる

オ前ノ一生燃エルゴミ
オ前ノ一生燃エルゴミ

NO NO NO
NO NO NO
NO NO NO
NO NO NO

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 2

 9

日に十回水やり

勾留期限を引き延ばして生命 お世辞の青酸化合物 手首なき手錠    達筆の悪辣    供述を握った おむすびころりん ペンシルの命ごい まだ出るか 桜の内出血 客の串団子 未練ヘアピンになった骨  三年前  つり革でバイアス増殖 思考のバクテリア 感情の殺し屋 執着は大根おろしに混ぜて秋刀魚で食べよう 

     穏やかに生き  


歯の花壇に咲いた皇帝ダリア育てています 

 日に      

   十回       

     水やり 

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 3

 2

死ねなかった男に残ったものは

死ねなかった男に残ったものは
永遠の退屈、燃やせぬ身体
死ねなかった男に残ったものは
無駄な努力に、使わぬ筋肉
死ねなかった男に残ったものは
医者への怨恨、世間への侮蔑
死ねなかった男に残ったものは
開かぬドアと、押し黙る口
死ねなかった男に残ったものは
叶わぬ愛と、聞こえぬ音楽
死ねなかった男に残ったものは
溜まったガスと、腐った身体
死ねなかった男に残ったものは
果てない未来と、永遠の平和
死ねなかった男に残ったものは
飛べない翼と、見下す空 
死ねなかった男に残ったものは
使えぬ性器と、死んだ赤子
死ねなかった男に残ったものは
無望仲間と、悲しき同情

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 3

 5

お約束社会

生まれてきてから、オギャーと泣いて
おっぱい吸うのがお約束
ハイハイした後、おまんま食って
ブーブとねだるのお約束
お約束お約束お約束社会 Hey
お約束お約束お約束社会 Hey
おうちに帰って、お風呂に入って
九時には寝るのがお約束
七時に起きたら、挨拶をして
ご飯を食べるのお約束
お約束お約束お約束社会 Hey
お約束お約束お約束社会 Hey
なんにも変わらぬ毎日舌打ち打って
空き缶蹴るのもお約束
奴隷と気づいて陰謀疑い
読書に耽るのお約束
お約束お約束お約束社会 Hey
お約束お約束お約束社会 Hey
カラオケ行ったら頭にネクタイ
ハメを外すのもお約束
チンポコ出したり事件起こしたり
それでも変わらぬお約束
なんにも変わらぬ毎日眺めて諦め首を垂れるのお約束
悟って年寄り説教若者に Hey Hey Hey
アナウンサー:えー、次期総理に選ばれし、人間は、直ぐに蹴落とされ、その前に国民に少しをば、給付金をばら撒くそうです。そして、N国党立花隆氏の耳を切りつけた若者の普段の様子はとても大人しい青年だったそうな
みんなが求めてやまない安心安全社会のお約束
おもろいことから、泣く瞬間まで設定されてるお約束
時々崩れてまた固まって、そろそろ壊れそうな国このニッポン!
溢れ出して、漏れ出して崩れ出して、それでも総理大臣は
「大丈夫ですよ。アンダーザコントロール!」
お約束お約束お約束社会 お約束お約束お約束社会
生まれて死ぬまで誰かが決め、敷いた社会
任されて従って、責任取らず破壊
求められ、引き寄せあって、回ってく世界
百姓も大統領もフリーターもニートも、皆なにかの線に従って生きていく
世は、一億総合理化社会 脱線するやつはお陀仏だぜ!

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祈り

神様は
ひとりひとりの願いを叶えるほど暇じゃない
救いを求める手を握りかえすには手が足りない
聞くことしかできない

だから
平等に出会いを与えている
それは
人だったりものであったり
言葉かもしれない

楽しいことだけじゃない
悲しいこと、傷つくことかもしれない
でもきっとそこにはなにかがある

友となる
恋をする
ただのすれ違いで終わらせないのは自分

そのとき初めて
出会いは奇跡になる


幸せなら
褒めてあげればいい

見逃している奇跡があるかもしれない

そしていつか穏やかな心をもてたら
相手の幸せを祈るといい

奇跡で出会ったかけがえのない人は
すぐ傍にいるかもしれない
幸せを祈ってくれているかもしれない

奇跡を見つけること
それが
きっと
祈り

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 1

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きみとわたしのあわいに

海と空に境界などないように
白と黒の境界などないように
あり得ないとあり得るの境界も
きみとわたしの境界も
本当はなにひとつないのかもしれない

そこにあるのは
ただ揺らめく波のようなものだけで

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 3

 3

図書館

夢をずっと見ていたんだ
永久の中に沈んでいく
図書館の夢を

図書館は一つの宇宙だった

26文字といくつかの記号

宇宙を表現するには
たったそれだけで十分だと
そう言わんばかりに
図書館は存在していた

夜の果てのさなかで
図書館は星であった

図書館の中に
降り注ぐは
万物不滅の雨

無色透明の水銀灯
照らすのは
存在した
あるいは存在しなかった
書物の表紙たち

君がいつか
僕の書いた
あるいは書かなかった
詩集を手に取りますように

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 8

 9

青の溶液

彗星の速度で
時間の裏側へ遠まわりする
夜に
ないていたのは
きみの骨。

ずっと昔に
置き忘れていた
戸棚の
ビーカーの
青の溶液
核反応の
名残りのように
振り返る一瞬に
飛散した欠片
留め置かれた記憶。

とおりの街路樹は
原子に揺らぎ
葉は すこしの 風にゆれる
裏通りには
犬の模型が
透明のままに
佇んでいる

破片は宙空を漂う
4億年後にも
そこにある。

戸棚のビーカーは
既に破損しているのに
溶液はそのままに
すこし 紫にくすんで
形状を保っている。

ラベルには
1900 と
表記されている。

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 2

 2

くじらといるか

まだ携帯をみんな持っていなかった頃のお話。
彼氏と街で待ち合わせをした。

「百貨店の前のくじらの前で」と、私は言った。

けれど、彼は来なかった。
私は憂鬱を抱えたまま、その日をなんとか過ごした。

狭い街だ。
ばったり彼に会った。

彼は言った。
「待っていたけど、来なかった」と。

私は答えた。
「くじらの前で待ってたよ」

そこから、なぜか現場検証が始まる。
私の指定した場所のくじらを指さし、
「くじらでしょ」と私は言った。

すると彼は、別の“くじら”の前で待っていたと言う。
彼が連れて行ってくれた所にあったのは、
大きないるかの絵だった。

「これは、くじらじゃないの?」
と真顔で言う彼は、学校では物知りで有名だったから、
私はびっくりした。

くじらもいるかも、私たちの小競り合いをよそに
おおらかに泳いでいた。

まだ携帯をみんな持っていなかった頃、
相手の言葉がすべてだった。
肉声というやつだ。

彼が来ないという一大事を、
当時の私は笑い話にできなかった。

いま思えば、すれ違いは大なり小なり
こんなものなのかもしれない。

懐かしき思い出。

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 2

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風船

あの子は風船を持っていた
みんなが欲しがる風船だ
でもわたしはそうじゃなくて
あの子のため息を気に入っておりました

いつだかあの子の風船を
誰かがうばいにやって来たけど
ついに誰のもとへも行かず
わたしはあの子の血を拭きました

              きれいな晴れの日の朝に
         あの子はいつもの明るいえがお
    でもああいとおしいあの子は
風船に連れ去られてしまった
わたしの方があの子より
ずっと背の高いはずなのに
いつの間にかわたしはあの子の
靴の先っぽ    見上げていたのです

そうしてあの青い空へのぼったっきり
わたしはあの子を見ないのです

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 1

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神よ、このまま今際の際まで我を呪い続け給え

 君と初めて会った日の事
君と危うく手を繋ぎかけた日の事
僕は覚えている
どんな記憶よりも鮮明に思い出せる
そして、君が僕に初恋を教えたことも忘れない
僕は、君への初恋に心を侵食されていた

 落ち込む僕に手を差し伸べてくれた君は
どんな苦しい時にも現れてくれた
夢の中でも、妄想の中でも、思考の中でも
もう会わなくなって数年は経つけど
君はいつも僕の中にいた

 でも、断ち切りたいと思うことがある
新しい恋を始めるにも
別の人と付き合うにも
必ず君が付き纏った
君への初恋は呪いだった
断ち切りたいと思っても
君の声を思い出せなくて、嘆く僕が居る

 初恋と引き換えに、僕は代償を負った
会えない苦しみと断ち切れない苦しみ
可憐なバラの茨が僕の心を縛っている
もう、もぎ取れない
もぎ取ろうとすると余計痛くなる

 でも、僕は気付いた
呪いは祓わなくてもいい
この苦しみがあるからこそ
僕は恋愛に本気になれる
やっぱり君が居なくてはいけない
だから、離れないでくれ
星になってでもいい
概念になってでもいい
ただ僕の心から消えないでくれ

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 1

 1

襤褸布

 連載が終わって、ようやく机の上から紙の束が消えた。いや、消えたというより、別の山に移されただけだ。朱の入ったゲラ、付箋のついたノート、書き損じの原稿、飲み残しのコーヒーの輪染み。どれも、まだこちらを見ている。仕事というものは、終わったあとがいちばん目つきが悪い。
 
 夕方から雨が降っていた。窓の外では、団地のコンクリートがぬれて、街灯を受けて白く光っている。こういう光り方を見ると、いつも、きれいだなとは思わない。冷えた流し台とか、病院の廊下とか、そういうものを思い出す。だが、白いものというのは、疲れた頭には都合がよい。汚れがはっきり見えるからだ。
机の下から靴箱を引っ張り出した。中に入っているのは、よそゆきの靴ではない。アノネイだの、デュプイだの、舶来の名前で箔のつく革ではない。国産の牛の皮で、よく見ると筋や血管の跡がうっすら残っている。均質でない。なめしたあとも、どこか生きものの名残が消えきっていない。店の照明の下では、たいてい、そういう革は負ける。きめの細かいフランスの革の横に置かれれば、どうしたって野暮ったい。学歴みたいなものだ。並べた瞬間に、負け方が決まる。
だが、そういう革が、家に持って帰ってきてから逆転することがある。
 
 靴を膝にのせた。甲のあたりには、電車の座席に脚をつっかけたような無神経な皺が幾筋も入り、つま先には、何度もつまずいた人間に特有の、小さな擦過傷がついている。いい靴です、とは言いにくい。けれど、履いてきた時間の量だけは、ちゃんとある。こういうのは人間と同じで、写真うつりでは勝てないが、長く付き合うと、急に厚みが出る。
 
 棚からクリームを出した。溶剤のきつい、手早く光らせるタイプのものもある。あれを使えば早い。くたびれた革でも、十分もあれば、なにか一段上の階層に属しているような顔つきになる。靴の世界にも、そういう金融商品みたいなクリームがある。有楽町の新興の靴磨き屋がそういうのを使う。中身の繊維にまで油を入れて育てるのではなく、表面にだけ、上場企業のIR資料みたいな顔を貼りつけるやつだ。足もとみられない輝き、という言い方があるけれど、あれはたいてい、本当に足もとを見せないための光り方なのだと思う。
 
 今日はそれをやる気になれなかった。
ワックスを指で少しだけ取り、薄くのばす。ほんの膜だ。塗ったのかどうかも分からないくらいの量を、つま先と踵に置いていく。布を巻いた指先でくるくるとまわす。すぐには光らない。むしろ曇る。曇ったところにまたごく薄く置く。仕事でも人間関係でもそうだが、たいてい、薄い層を何回も重ねるほうが、あとで効く。一回で決めようとすると、ろくなことにならない。

 ネットの公営競技チャンネルにアクセスすると、どこかの競馬場の結果を流していた。重馬場だったらしい。人気薄の馬が逃げ切った、とアナウンサーが妙に興奮している。逃げ切り。いい言葉だと思う。たいていの人間は、スタートで負けている。負けたまま、道中を運ばされる。最後に少しだけ脚が残っているかどうか、それだけだ。

 ワックスの層が四つ、五つと重なるころ、革の表面に少しだけ深さが出てきた。鏡みたいな、即席の平たい光ではない。湿った土を踏みしめてきた黒さの上に、別の黒がもう一枚のる感じ。川でもそうだ。浅い瀬のきらきらした反射より、淵の底のほうが、見ていて落ち着く。

 道具箱にウイスキーの瓶があった。安い国産のブレンデッドで、ラベルの角が少しめくれている。グラスに注ぐほどでもないので、指先にとんとんと数滴だけ落とす。水ではなく、酒を使うのは、贅沢だからではない。揮発のしかたがちがう。鼻を刺すアルコールの奥に、木の樽の名残がほんの少しある。それがワックスの油気とまざると、妙に人を黙らせるにおいになる。機械油とも、薬とも、夜ともつかないにおいだ。

 玄関の道具箱から襤褸布を出した。古いシャツを裂いたもので、端はけば立ち、ところどころに黒い筋がついている。こういう布は、買ってきたままのクロスよりよほどいい。こちらの手の脂も、前のワックスも、生活のほこりも、全部しみこんでいる。まっさらな道具というのは、信用できない。人間でも、道具でも、少し汚れているくらいがちょうどいい。

 酒を含ませた布で、つま先を磨きはじめる。力はいらない。ただ、円を小さく、小さくしていく。すると、さっきまで筋や血管の跡をどこか露骨に残していた国産の革が、急に口をつぐみはじめる。消えるのではない。沈むのだ。安っぽさが消えるのではなく、安っぽさごと奥へ入っていく。表面にだけ出ていた生活の傷が、下の層へ押し込まれて、そのかわり、別のものが上に上がってくる。艶、といえば艶だが、もっと不穏なものだ。まともに生きてきました、という光ではない。削れながら、湿気を吸いながら、それでもどうにか形を保ってきたものだけが持つ光り方である。

 つま先に自分の手元がぼんやり映った。襤褸布で靴を撫でている男の姿は、たぶん、豊かな趣味人には見えない。どちらかといえば、何かを隠滅している人間に近い。だが、生活というのは、実際かなりの部分が隠滅作業なのだ。疲労を隠し、貧しさを隠し、嫉妬を隠し、みじめさを隠し、それでも翌朝には、何食わぬ顔で靴を履いて外へ出る。そのために人は、ワックスを重ね、酒を垂らし、襤褸布で磨く。

 連載が終わっても、べつに人間が立派になるわけではない。賞罰も、階級も、加齢臭も、払いきれない請求も、そのまま残る。ただ、原稿を一本書き終えた人間には、ひとつだけ分かることがある。上等な素材を持っているかどうかではない。フランスの革か、国産の血筋の見える革かでもない。人間でも靴でも、最後は、どれだけ丁寧に襤褸布で磨き上げられるかだ。

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池の桜

池の桜は咲いたでしょうか

春爛漫 池の周りを歩くのは
笑い始めるには程よい距離で
スベッてばかりのあなたの冗句に
そろそろと口が綻び出すから

花は見ています
どれだけあなたが善良で
どれだけ私が悪人か
逆も然り
花びらを映す水面の影は
黒い石から放たれている

差し溢れる光に 皆が
裏地の厚みを忘れたら
良いも悪いも一緒になって
かいくぐるだけよ
闇、光、闇、光、

池の桜に聞きましょう
映っているのはどんな絵かと
あなたは少し口を開いて
私はぐっと肩を引き締め

宵闇、酔いどれ、薄色、薄哀し、
池の周りを歩く距離は
程よい頃合いで面を外し
高笑い、互いの、他我に多角と
宴のような顔の混じり合い

そろそろ
歩きに行きましょうか

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 3

 2

ただ泣くことさえ、思うようには。

泣くもんかと歯を食いしばっても
涙が止められない日もあれば
泣きたいのに泣けない日もあって
ただ泣くことさえ思うようにいかない

笑い飛ばしてしまいたいのに
顔を引きつらせるばかりで
笑うことさえままならぬ日もあれば
目に入る小さなものたちに
何度も顔がほころぶ日も

叫びたいのに声にならない日もあれば
叫び出してしまいそうになるのを
震える拳を握り締め堪こらえるえる日も

ずっと眠っていたいのに
何をしたって眠れない日も
ずっと起きていたいのに
起きていられないほど眠い日も

泣くことも
笑うことも
叫ぶことも
眠ることも

そんなことでさえ
思うようにいかない

わたしにとって
生きる日々は
そんなものだ

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✿❀*〜*はなまるあげちゃう*〜*❀✿



朝 ベッドから起き上がれなくっても
ちゃんと目を覚ました
キミはエライ


躰が鉛のように重たくって
背中はバッキバキに痛くて
それでもどうにか起き上がって
ちゃんと燃えるゴミと資源ゴミと
分別できてる
キミはエライ


シンクに溜まった洗い物
洗わなきゃなのにやる気が起きなくて
それでもちゃんとこびりつかないように
お湯につけておく
キミはエライ


クスリ忘れずに ちゃんと飲んだ
キミはエライ


買い出し行くのもしんどかったけど
ウーバーでマック頼んじゃったけど
ちゃんと食べること忘れずできた
キミはエライ


ちゃんとトイレに行って
ちゃんとハンドソープで手を洗う
キミはエライ


スマホばっかり観ちゃうけど
YouTubeばっかり観ちゃうけど
柴犬はるちゃん お布団大好きお姫さま
ゴールデンのコロッケくん とぼけ顔
スコティッシュのレモンさんは超絶イケネコ
豆柴Manyuちゃんはお利口さん
かわいくてかわいすぎてモフモフしたいから
キミはエライ


眠剤があんまり効かなくって 
3時間くらいで目が覚めちゃっても
ラツーダの影響か
夜中に無意識でおかしな行動してても




今日もこうして 息を吸って吐いて
生きることをケイゾクしている



そうして こんな詩を描いちゃったりしている




ただそれだけで
それだけで



もうじゅうぶん 
じゅうにぶん



キミはとってもとっても
エラくて
すんばらしい
存在なのです





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鋳型(アーキタイプ)

蠱毒にて 勝ったわたしが 勝ち上がり 
受精時の レースに続き 二度目の快挙

辞世の句というものを捻っている。
理由は特にない。しいて挙げるならば、
幼き日にわたしであったもの背中を追いながら日課のウォーキングをこなすのがそこそこの苦役だからだと思う。

記憶がいつも二、三の積層で構成されている。
自動再生をオフにすると逆再生がかかる仕様なので統合が許されない。
悔しく思う。

隣のレーンでは、べつの自分が別の条件で走っている。
機会は尊重されるべきだ。

叔母の家に行く途中の鯛焼き屋を思う。
なんで母は借金をするのに手土産をもつのか。
馬鹿げているなと思った。
訪問の形を装った物乞いの手つきも慣れたもので、全8頭が今一斉にゲートに入ります。

蓬風味の薄皮、つぶあん、天然もの。 
一匹づつ焼いた鯛焼きを天然と呼ぶ馬鹿馬鹿しさが無効化する可能性に賭けているが、
どう考えてもレース自体が成立しないので、
おれの霊は最終コーナーでなんだか雑に供養されている。

ワンカップにタンポポを差すな!いや差せ!よっしゃまくった!
アーキタイプ号・日高ビッグレッドファーム出身父母はあのトリックスター、前走1000万下
ハンデ戦・よもぎ賞に続き二度目の快挙。

鋳造された途端に型が自我を定義して一匹分の苦しみが焼きあがる。天然ものと養殖もので何故か苦しみの量さえ違うのではないかという錯覚があり、
霧のように頭を覆うので呼吸がしづらい。
気持ちが悪いので、
隣でも別個体が焼かれていればまだ
痛みが分散されるのではないかと思っている。
またレーンが増える。
あと何回自己条件を勝てば、
この錯覚を払拭できるのかわからない。

シャワーを浴びる背中の像にさえ追いつけない。

鏡の自分はおれより半歩遅れて指を折る。遅い。だからお前は。
あくまで機会は尊重されるべきだが。

に・ど・め・の・しょ・お・り…
ちくしょう。字余りか。

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 2

心理分析

ビーレビューのユーザーが初月の初日に詩を投稿する傾向には、いくつかの心理的要因が考えられます。

1,
焦りや不安感:初月の初日に投稿することで、ルールに従った活動を早く始めたいという気持ちが強まる場合があります。このような焦りは、他のユーザーと比較されることへの不安から生じることがあります。
2,
自己評価の低さ:自分の作品に対する自信が不足している場合、早く投稿しておかないと、他の作品と比べて自分の詩が埋もれてしまうのではないかという恐れが影響している可能性があります。
3,
社会的承認への依存:他者からの評価を強く求める気持ちがあると、早期に投稿することで早くフィードバックを得たいという欲求が働くことがあります。このような承認欲求は、自己価値感に直接影響を与えることがあります。
4,
先延ばしの回避:投稿を先延ばしにすることで生じるストレスを避けるため、初日から行動に移すことで「やってしまった」という安心感を得ようとする傾向も考えられます。
5,
競争意識:他のユーザーとの競争を意識し、早く投稿することで目立ちたいという気持ちが強くなる場合もあります。この競争心は、他者との差別化を図るための行動につながります。


これらの要因が組み合わさることで、初月の初日に投稿するユーザーが多くなると考えられます。

https://note.com/userunknown/n/n5d18176412d0

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3ページ目(11)

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アートフェスタも終盤に差しかかり、どのブースも少しずつ撤収の作業に入っていた。
人気のブースでは品物がほとんどなくなり、持ってきた分の段ボールをたたんでいる作家の姿がある。
パフォーマンスをしていたブースでは、ブルーシートが絵の具でべったりと汚れている。
作家は使い捨てのレインコートを着たまま、慎重にそのブルーシートをたたんでいた。

「……思ったより、厳しかったな」
売れ残った本を丁寧に梱包しながら、朔が言う。
「まあな。こういう場所だし」
湊が机の上を片付けながら答える。
「でも、出てみないと分からなかったよな」

3人は、同じ大学の文芸サークルで知り合い、卒業後は社会人向けの文芸サークルに参加していた。
仕事をしながら、小説を書き続けている。
「初めてにしては、こんなもんじゃないか」
「場違いだったかもしれないけどな」
「それは思った」
少しだけ笑いが混じる。
「でも、無駄じゃなかっただろ」
「うん。小説を探しに来てる人は、あんまりいないってことは分かったし」
「アートだもんな、基本」
「だな」
朔が箱に本を詰めながら言う。

「次はさ」
碧月が少し間を置く。
「文フリ東京、出てみないか?」
誰もすぐには答えない。

「……いいな、それ」
「そっちの方が、見てもらえそうだし。今日はある意味、いい練習になったんじゃないか?」
「うん」
「まーでも、ビビるけど」


アートフェスタオープン後、最初に買ってくれたのは、社会人向け文芸サークル「句読点過多」のメンバー達だった。
「お前ら、本当に出したんだな」
メンバーの一人が、本を手に取りながら言う。
「1冊、買っていく」
そう言ってページをめくる。
少しだけ読んでから、顔を上げる。
「……いいじゃん。こういうの書くようになったんだな」
言い方は軽いが、適当に言っているわけではない。
「今日、サークルあるからさ、持ってくよ。みんなにも見せるよ。感想、来週また伝えるわ」
「向こうのカフェで読もうよ。おもしれーじゃん、これ」
もう一人のメンバーがそう言って、本をレジに置く。
少しだけ間を置く。
「……でも、こういうの、前から書いてたっけ」
碧月は少しだけ間を置いた。
「実は、大学のときに書いていたものを、書き直して出したんです」
少しだけ恥ずかしそうに答える。
そんなふうにして、10冊が売れた。
売れたというより、
見てほしい人たちの手元に渡った、という感じだった。

そこから先は、流れが読めなかった。
ブースの前は、閑散としている時間と、急に人が集まる時間の差が大きかった。
たまに、物珍しさで近づいて、見本を読んでくれる人がいる。
そういう人が一人いると、周りの人も安心したように近づいてきて、小さな人だかりができる。
けれど、それも長くは続かない。
そういう時間は、1日の中で2回ほどだった。
見てくれる人はいる。
ページもめくってくれる。
それでも、買うところまではいかない。
最初は、手に取ってくれるだけで嬉しかった。
それだけで充分だと思っていた。


でも、午後に差しかかるころには、同じ場面を何度も見ているような気がしていた。
見本を読んでいる人を、ただぼんやりと眺めていた。
アートフェスタでは、主催であるテレビ会社のテレビカメラが各ブースを周る。リポーターは作家を相手に、簡単なインタビューを行う。大きなガンマイクと眩しすぎる照明で、辺り一帯は非現実味を帯びている。
その集団を目当てに、人の流れができる。
カメラが回っているときだけ、そのブースに近づいて、本を手に取る人もいる。
欲しいかどうかは関係ない。
その場にいる自分を、映してほしいだけだ。
本を開き、少しだけページをめくる。
そのままレジに置く。
カメラの端に入る位置を探しているようにも見える。
それが読まれるかどうかは、分からない。
それでも、本は1冊減る。

審査員の一団が通ったときも、同じだった。
何人かが足を止め、何人かが本を手に取った。
その中の一人が、見本を少し長く読む。
ページを閉じてから、もう一度表紙を見る。
「……これ、面白いね」
小さくそう言って、碧月の方を見る。
「今は他の作家も見て回ってるから、ここでは買えないんだけど」
少しだけ声を落とす。
「あとで戻るから、1冊とっておいてもらえる?」
碧月は、一瞬だけ言葉に詰まり、
それからうなずいた。
「はい」
審査員は軽く手を振って、次のブースへと移っていく。
そのあと、3人のあいだに少しだけ沈黙があった。
「……今の、やばくない?」
朔が小さく言う。
「うん」
湊も短く返す。
碧月は何も言わなかったが、
机の上の見本を、少しだけ整えた。
そのあとで、少しだけ人が増えた。
誰かにつられるように、数冊が続けて減った。
理由は、よく分からない。
気がつくと、30冊がなくなっていた。


夕方になり、照明の色が少しだけ変わる。
会場全体が、終わりに向かってゆるやかにほどけていく。
ブースの外では、箱をまとめる音や、台車を押す音が混ざりはじめていた。
碧月は、残った本を段ボールに戻しかけて、手を止めた。
足音が、一つだけ近づいてくる。
止まる。

机の上の見本に、手が伸びる。
ためらいのない動きだった。
ページがめくられる。
紙の音が、小さく続く。
最初の一枚で終わらない。
指が、もう一度めくる。
碧月は顔を上げない。
ただ、その動きを視界の端で見ている。
少しだけ、読む時間が長い。


「これ、なんて読むんですか?」
声は静かだった。
碧月は一瞬だけ言葉に詰まり、
それから答える。
「……ゆるし、です」

短い会話が続く。
説明の途中で、一度言葉を探す沈黙がある。
相手はうなずいて、
もう一度ページを開く。
今度は、最初の行で止まる。
しばらくして、本が閉じられる。
少しだけ間があく。
その間が、長く感じられる。

1冊が、手に取られる。
レジの上に置かれる。
動きに迷いはなかった。
碧月は代金を受け取り、本を渡す。
指先が、ほんの少しだけ触れる。
視線は合わない。
そのまま、去っていく。

碧月は、少し遅れて顔を上げた。
遠ざかっていく後ろ姿を、目で追う。
足音だけが、少しずつ遠ざかる。
やがて、人の流れに紛れて見えなくなる。

碧月は、手を動かさなかった。

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諸刃

どんなコトバだって
ひとは傷つくものよ


たとえば「愛している」
という


そのコトバでさえも





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詩は病院をあるく (詩はあるくXXIII)

二ヶ月に一度の金曜日
いつも通りの予約時間

街の割には大きな病院
採血室はもう並んでいる

順番が来て いつも通りに腕を出す

内科のある新館まであるく

街のアマチュア作家の絵や写真
書が並ぶ掲示板の一番端に
少し色褪せた小学生の寄せ書き
コロナの時の あの緊張感を

あの頃詩を書いていたら
わたしは何と書いたのだろう

いつの間にか外のテントはなくなった

テントの跡だけが コンクリートに
未だ残っていた

詩は黙って それを見る
二ヶ月後も まだあるだろうと。

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太洋のさざ波

神様は言いました

 すべてのヒトに個性を持たせる

小さき使いは返します

 主よ、総体ではノイズです

神様は言いました

 そうだよ、そのノイズから
 波が生まれるのを待つのだ

神様は更に続けました

 個性だけあっても
 向きが無いと波は進まないのだ

 風が吹くとき
 月が満ちるとき

 その時――さざ波はうねりを持つだろう。

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気分はもう胃洗浄

切っても別に意味はない
切っても死ねるわけじゃない
切って切って切りまくって
切ってる瞬間だけ解放される

昨日も何気に深く切りたくなって
洗面器に半分くらい血が出ちゃって
手首血みどろスプラッター
結局二十針も縫うハメとなった

解離性人格障害/入院歴有り
切るとついついカイリしちゃって
カイリすると頭の中に別の自分が出てきて
でもカイリした方が楽じゃない(語尾上がり)

そのうち切るだけじゃ飽き足らず
献血で四百ミリリットル抜いてきた
ハンズ(発音は平坦に)で注射器買って
貧血になるまで採血プレイもした

リスカマニアのOD常習犯
摂食障害ウツPTSD持ち
自傷系ネットアイドル生誕
静脈ヒットで鮮血ピューピュー

精神科で薬処方してもらうと
すぐ鼻腔吸引?(半疑問形)して寝逃げする
薬のストックないと不安発作が出るから
病院いくつも掛け持ちしちゃう

コンビニ弁当二つ食べて普通に吐いて
ケーキをワンホール食べて普通に吐いて
ご飯三合釜ごと食べて普通に吐いて
吐くものなくなってカラオケ行った

デイケアの帰り突然パニック障害が来て
あわてて電車から飛び降りた
もうテンパってデパス痛快まるかじり
ああつらいきついしんどいあはははは(五、七、五)

眠剤スペシャルカクテル五十錠飲んで
マイルドセブン一箱食べたら
とうとう救急車で運ばれて
気がついたら胃洗浄されてた

リスカマニアのOD常習犯
摂食障害ウツPTSD持ち
薬事法違反エンジェル乱心
ついにハルシオンデビューだぜっっ

障害者手帳やっとゲットしました
これで今日からバスも乗り放題
ケンジョーシャの皆々様方
どうぞ汗水たらして血税納めて下さ~い♪

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虚空

なにがやりたいと言われても、気分次第で風吹くまま押し流されて
なにが望みだと言われても、このまま人生が平凡なまま永遠に続けば良いということぐらいで
なにが言いたいと言われても、お腹が空けば飯が食いたいということぐらいの内容で
なにか持っているのか? と期待されても、空っぽの頭の中に詰め込まれた不確かな記憶ばかり
なにが出来ると尋ねられたら、教えられたことを失敗を重ねながら成功に変えることぐらい
なにかを知っているのかと興味を持たれても、私は全体の中の部分でしかなくそのパーツ破片の一部を知っていると言えるぐらいのもので
なにか築いてこれたものはあるか振り返ってみても、その時々で壊してきたと覚えている限り
尊敬するものは、あるか? 畏敬の念を持つものはあるか? 触れ難いもの冒し難いものを知っているかと尋ねられれば、嗚呼、弱いものを痛ぶるような事はしてこなかったと答えられる程度
壁に向かって一人投げるボールで笑えるぐらい自分の背骨を丈夫に保っていたいし
道端に佇む草や石ころにだって価値があると思えるハートを大切にしていたい
立派じゃなくたって、機嫌良く笑えてれば万事ハッピーでみんなを和ませられるもんな
揚げたての天ぷらと温いビールがあればいつだって、最高なんだよな
シャボンの泡が浮かぶ夢とソーダ水の匂いを想像すれば、幸せになれるんだよな
刺身に缶ビール 納豆に、豆腐玉子 竹輪と、アボカド
冷蔵庫に沢山ものを詰め込むのが、目下の目標なんだぜ
おもちゃのピストルで、悪者退治だ
ピコピコするハンマーで、毎日笑って暮らそう
吐く息と吸い込む風、生きているってまるで夢みたいだあ

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今年度もお疲れ様でした

沈黙のミーティング。
雄弁に何も語らぬアジェンダ。
捨象のためのデータドリブン。
墓場まで持っていくサーベイ。
戦略なきディレクション。
戦術なきPDCA。
隕石としてのエグゼクティブ。
屈服しないでマネージャー。
暴落するエンゲージメント。
なぜか貰えるサラリー。
打鍵音は銃声である。

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雪山からの置き手紙

カーテンを揺らす如月の風は冷たいけれど
貴男が魅かれた白き雪山の寒さには程遠い
貴男が求める白は此処には無かったのですか
誰も触れられぬ白を求めて未だ帰らぬ人よ

帰らぬ者を憎まず帰さぬ白を憎む私の心に
白は無駄に鋭く突き刺さっては希望を装いながら光っています
永遠の眠りの中でさえ自分の白を求め止まない貴男には
目覚めを迎える眠りの残酷さなど解るはずも無いのでしょう

目まぐるしく移る季節の中で変わる色彩は
淡々と綴られた置手紙の余白を広げるばかり
カーテンを揺らす風はやがて温もりを持ち
愛おしさと悲しみを記憶として置き換える事で
私の心に刺さった白さえも許しの鑢で丸みを付けようとするけれど

雪山から 貴男が 戻る日まで 置手紙は 溶けぬ雪で 封印し

私の命が尽きる時間を要しても置手紙を遺書と改名させはしない
貴男が求める白は私の心に刺さったままなのだから

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阿国花伝

 昔、出雲の杵築に阿国と呼ばれる巫女がゐた。家は代々神に仕へ、神意を人の世に傳へる事を業とする家である。阿国もまたその一族としての生を受け、幼き頃より神に捧げる舞を舞つてゐた、阿国は一族の者の中でも右に出る者がゐない程舞が上手であつた。
 永禄の頃、社の勸進を名目として諸國を巡る折、荒れ果てたる里の廣場にて七座を舞つてゐる時、群衆の中より荒い聲が立ちて、
「そんなことして何になる」
と叫び、石を投げる者がゐた。
「神に祈つたとて何の意味がある、數日前、隣村に飢饉が起こりみんな死んだ。村民は眞面目で厚く神佛を敬つてゐたんだ。本當に神樣がゐるんならこんな事にはならんだらう。」
と、罵詈雜言が風のごとく吹き荒れてゐた。それも無理はなく、村民にとつては舞や藝能の類などは、京の公家や格式高い武家などの餘裕がある者達にとつての娯樂であり、明日も生きていけるかわからない日々を送つてゐる農民からの顰蹙を買ふにはあまりにも十分すぎるものだつた。況してや、この時代になると神樣の存在や神祕現象等の靈妙なものに對して懷疑的な風潮が出てきてゐた。阿国はその刹那、心境に「神に祈る意味、藝能の意味とは何なのか」と云ふ問いが浮かんだ。阿国はそんな葛藤を抱きながら各地で舞ひを續けてゐた。しかし、こんな惱みを抱きながら舞つてゐたもんだから、出來榮えはみるみる稚拙になつていった。
 かくして、反芻する思索を伴に諸國を巡り。やがて京の島原に辿り着いた。此處は人の欲と夢とが交はるところ、音曲は絶えず、言葉は花のごとく散り、情は夜に蘖し夜に朽ちる。阿国は此處で遊女と云ふものを知つた。阿国の目には遊女は人の嘆きや欲望を身に引き受け、笑みの下に深き孤獨を藏する者にみえた。阿国は日を費やし、彼女らの歩み、視線の影を見つめてゐた。やがて心動かされ、同性でありながらも、その色香に心を打たれた。阿国は花魁一人を迎へ、夜中語つた。舞のことや、花魁界隈の事情、花街のことや、各地を旅して勸進をしてゐること、そして、内に抱へる葛藤のことも赤裸々に語つた。花魁の言葉は輕い樣にして重く、
「わちは生まれた時には父母もおらず孤兒として生を受けたけど、今の旦那に引き取られて今のわつちがありんす。もし仮にこの生まれに意味が最初からあるなら、わつちはおそらく天涯孤獨の儘、生き死んでゐたでせう。さう考へると意味と云ふのは後付けで、最初から意味をもつて存在したもの等はないのかもしれませんね。」
 と花魁は微笑み乍らさう言つた。阿国は其の時、靄のかかつた心境に一點の光が射した樣に感じた。惱みと云ふ濃霧は晴れ、阿国の心は明鏡止水の樣に透き通つて清く澄んだ相を帶び始めた。まるで、其れは神樂を舞ひ始めた昔日の頃と同じ心境である。
 時は知らず知らずのうちに移り、いつしか夜の氣は盡きて、東雲の光が天地のあはひに滲み出でてゐた。曉を迎へた空の色は紫と朱色の二重の層を象つてゐた。夜もすがら花魁に言はれた事の餘韻に浸つてゐた阿国は一睡もできなかつた。阿国は宿から出て、水路の溝に立つた。そして、一思ひに護身用の短刀で髮を切り斷つた。阿国は何處か決意を固めた目をしてゐた。そして其の切つた髮を水路に流した。その刹那、阿国の境内に覺悟と云ふ燈が燈めいた。神の爲に舞ふも、人の爲に舞ふも、意味を求めればみなすべて空しく、意味を忘れて舞へば、やがて意味は後より立ち現れるもの、と、阿国は悟つた。茜さす水面に寫る亂れはだけた着物を天女の羽衣の樣に纏ひ着てゐた阿国の姿は藝能の神である天宇受賣命を彷彿させるやうであつた。
 阿国は京の四條河原に仮小屋を結び、日々其處に立ち舞ひ續けた。嘲りを避けないため男裝し、神樂にも遊興にも屬さない舞を編み出した。その舞は、敬ひと戯れ、聖と俗とを隔てず、見る者の心を搖らし、笑はせ、時に不安を呼び起こした。
 人々は是れを「かぶき踊り」と呼んだ。かぶくとは常ならぬこと、外れしことの意である。かくてし阿国の舞は、神を離れ、人に近づき、人の世に根を下ろす藝となつた、後の世に歌舞伎と稱せられる大河の源となる。
 神に仕へし巫女の舞は、意味を疑ふところから始まつた。疑ひを抱きて舞ひ續けた果てに、ひとつの世を動かす力へと變じたのである。されば、人の營みの意味とは、初めにあるにあらず、耐へて續けた跡にのみ、ほのかに殘り、その遺燈を繼承され續けた結果、後々、開花するものだと、後の世の我らは思ふだらう。

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箱入り

 このままふくれ続けたらきっと指がちぎれるから、切ろう。
 わたしは告げ、かの女の錆びた指輪へ鉈を振りおろしたが、折れたのは刃だった。思えばこれも、きのうたたき割った夫の脳髄で錆びている。刻みこまれた誓いのぶんだけ指輪に分があったのだろう、はみ出しかける脳の片隅でわたしは思考する。折れた刃は飛びすさり、わたしの眉間を貫いて、脳漿の漏れに栓をしている。
 長雨を飲み、かの女はふくれている。絹のようだった肌理が、渇いた綿より欲深くひらいて雨季を貪る。飢えていた腕がなん倍にも太る。きのう焼かれた顔の焦げ目が、腐りゆく水に白々しく薄れながらどこまでも広がる。粥に似ながら煮くずれることを知らない、若さが、左手のちぎれそうな薬指にだけ血を焚いて、食いこむ指輪に誓われた名前と同じいろに錆びる。

 かの女はかつて、わたしの娘だった。
 女衒に売ったのが九日前、思いがけず帰ってきた。性病に肌を食い破られ、ごみ溜めに捨てられたので、這い出してきたと娘は言った。死なないと埋めてもらえないの、と娘は言い終えた。
 八日前、夫が木箱に娘を転がし裏庭へ投げたのはそのためだ。雨季に蓋され長雨に漬けられ、きのうまで、娘の肌は溺れながら若い皮脂を吹きあげて、あらゆる水気をはじき飛ばしていた。わたしが塩水で炊いた粥も、その例に漏れない。
 七日間、娘の転がる箱で粥を食ったのは蟻だけだったが、わたしの薄い塩味に飽きたらずきのう、蟻どもの群れが美味な脂を掘ろうと、娘の耳に口に臍に、膣にもぐりはじめたので、穢された箱へ夫が油を撒き火を放ち、泣いた、まだ清かった刃の火照る影で。

 その膣を掘ったのが翅をもつ女王だったら、別の物語が飛んだのかもしれない。きょう、油に焼かれたかの女の脂が、地の潮を覆う。降り溜まり蒸発する地の体液の循環を、焦げ落ちた皮脂の油膜で食い止めている。
 このために地表が海を失っても、たとえば涙の降る限り、血のしたたる限りかの女は飲み、新しい海を生むために溜めるだろう。眉間の栓を抜き放ち、噴きあがる脳漿の虹でわたしは感傷する。わたしの箱のこの穴を、いつかちぎれたらあの左手薬指が貫いてくれるだろう。

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点描

二つのコップは水かきをひらき
潤った合谷にシナモンをまぶせば
蛾が舞い踊り
さいてんをはじめる
虫唾を吸ったヤマボウシは赤面して
点々とした灯台守になり
夕餉を香らせ
十六進数を唱える囲繞地に
さいげんをせまる紋様
体育館を転がる埃に跳躍を与え
定点観測を忘れてしまったハナクソが
遠心力を繋ぎ合わせて
大気圏を殴打する
かけ湯を何度も何度も掴もうと
にじんだ笑い声が白々しく
茎の渋味を脱出して
かりあげた湖畔を透過する
地形の標本を仰視すれば
誰も記録していない
カタカタと回転する終点のすきまから
滴る消息を印刷する蛍火の欠片が
滑り落ちるのに適した角度で手を振れば
宴を終えた化石が洗い流され
方眼紙の黄ばみを思い出す

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