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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

拝啓、中島みゆき様 vol.7 夜会Vol.2


まだ演劇的になる前の、コンサート形式でバックバンドもステージ上にいた
夜会が始まって2年目の、つまり第2回目の夜会


なにやらリゾート地のどこかで、3人の女性がチェアに腰かけている
静かにイントロが流れて、二隻の舟
いまはたとえひとりでも、どこかの海で同じようにひとりでたとえ舫い綱が切れてしまっても
繋がっている舟が、それに乗って孤独の航海をしている誰かが
きっといるはずよ、と


好きだった彼氏には別に好きな女性がいた
どこか行こうと誘ってみても、
いつかは行ってみたいけど多分無理だな、と
話をはぐらかす彼氏
忙しいからと思っていたけど、
うすうすはそうじゃないことも気づいていた
気づいていたけれど、気がついていないふりを続けていた
好きでいたかったから
離れたくなかったから
だけど、気持ちのない相手と付き合っていくのは心身ともにキツイ
自ら、彼女によろしく、と別れを告げる


この夜会は、失恋した女性の心象・再生がテーマの物語になっている模様


女性は行きつけのバーへ
そこには幼馴染とでもいうのか、腐れ縁とでもいうのか
32歳独身(おそらく)のマスターがいて、
男にフラれるたびに訪れては愚痴を聞いてもらっていた
女性はひとりで、傷心の思いをしゃべり続ける
忙しそうに振舞いながらも話を聞いているマスター
出会ったばかりの頃は、マスターはアルコールを飲めなかったらしく
ミルクなんて飲んでいたので、女性はひどく笑ってからかったり
いつの間にかバーボンなんて飲んでるマスターに、ちょっと驚いてみたり
多分この女性にとってマスターは、一番気を使わないでいられて
何でも云えるし、何でも聞いてくれる、とても居心地のいい男性なのだろう
けど、恋、にまでは発展しない
マスターがいい人すぎるせいもあるのかもしれないが


雨降りの夜、女性は身ひとつで街を出る準備をする
ママという名の猫だけを連れて


女性はとにかくお酒を飲んで、酔っぱらった
酔っぱらってさえいれば、嫌なことはすべて忘れることが出来る
どうせ一晩かぎりの出会いならば、うそっぱちでも構わない
楽しく飲めたら、うそつきだってあたしは好きよ


飲んで騒いでいるときは忘れられているけれど
ひとり、部屋に帰ると途端に顔を出すイヤな自分


元カレの家に電話
受話器越しの女性の声は濁りがなくて、いかにもアイツが好きそうな感じ
いろいろ話題をふってみたり、その都度女性はちゃんと応えてくれる
そんな話がしたいんじゃないのよ、いいからアイツを電話口に出してよ
心の中で毒づくも、すっかり見抜かれてしまってる
だからアイツの話は一切してこない
計算している
どう頑張っても、どうあがいても勝ち目がない
わかっていた わかっていたはず
でも掛けずにいられなかった
あたしと一体何が違うのか どんなところを好きになったのか
確かめずにはいられなかった
イヤなあたし こんな女になるつもりじゃなかった
きっといつかこの女性だって飽きられるに決まってる、なんて
他人の不幸を喜ぶようなこんな女 
アイツに嫌われるのも当たり前


洗面台、鏡の前で化粧を落としていく
クレンジングクリーム
化粧で隠れたあたしの素顔
ズルくて、醜くて、厭味ったらしくて
そうして誰も必要としない、いらないあたし
だけど本当にいらないと思っているのは
他の誰でもない、あたし自身


いつまでも立ち止まってはいられない
男にフラれることくらい なんだっていうの
いつまでも同じ場所で立ち尽くして何もしなかったら
世間からガラクタ扱いにされてしまうわ
そうよ、あたしはまだガラクタなんかじゃないはずよ
失恋の痛手を振り払うかのように
ガムシャラに、遮二無二、働き続ける
周囲から見ても明らかに異常と思えるほどに


心配なんかしないでよ
あたしはもう大丈夫なんだから
アイツのことなんか、とうに忘れたんだから
こんなに元気になって、こんなに働くことが出来てるんだから
心配なんか


本当は、強がりはよせヨと云ってほしいの
受けとめてほしいのよ
淋しいって云いたい、抱きしめてって云いたい
本当は泣きたい気持ちでいっぱいなのよ
あたしってば可愛くない女だから
どうしても強がるより他の方法を知らないのよ
男の人に無条件に甘えるとか、どうしても出来ない
出来たら多分、アイツにフラれたりしなかったと思うわ


悲しいのは、二度と誰も好きにならないことじゃなく
二度と誰も信じられなくなってしまうことね
だから、嘘でもいいから
いつもここにいるよって囁いて
そうしてくれたらあたし安心して
ほんの少し眠ることが出来るから


テレビはいつだって騒がしいわね
日々起きてる事件、事故、災害、海の向こうの遠い国の戦争
当事者じゃないものにとってそれらはもはやショータイム
総理大臣だってスーパースターよ
通行人ですらカメラを向けられたらスター気取り
凄惨なる殺人事件、映し出される騒然とした現場風景
チャンネル換えれば一変 どよめくような笑い声
あゝそうか、あたしの抱えていることなんて
他人からみれば、ただのショータイム
単なる暇つぶしか、どうでもいい出来事でしかないのよ
なんだか、ひとりで深刻ぶってるのがバカらしくなってきたわ


風はいつだって、思いもよらない方角から吹いてはあたしの頬を弄っていく
思い出は何ひとつ、あたしを助けてなんかくれやしないわ
  感情的な顔にならないで、誰にも弱みを知られないで
  何でもないわ あたしは大丈夫
そう自分に云い聞かせるの
夢を見れば傷つくことは多いけれど
夢を見ずにはいられない
いつか来る未来に、何かが起こるかもしれないじゃない
誰かがあたしと出逢うのを、待っていてくれるかもしれないじゃない
だからもう大丈夫
強がりとかそういうんじゃなしに、本当にもうひとりで歩いていけるわ





そして
世間から遊び女、売女と忌み嫌われている女と
同じく世間からゴロツキ、ゴミくずと罵られている男が
運命のいたずらか、それとも必然的か
惹き合うかのように出会ってしまう
女には男の、男には女の
これまでどれだけの心無い人たちと言葉の暴力で傷ついた心が
解りすぎるほどよく理解できた
まるで磁石のN極とS極のように
ふたりはもう二度と離れたりしないように
二度とひとりぼっちになったりなんかしないように
ぴったりと


二隻の舟、の、目には見えない舫いで繋がれたひとつずつの舟が
出会い、そしてひとつになる
まさにこれに尽きるのではないかなあ、と





この頃の夜会はまだ既存の曲たち(二隻の舟だけ、夜会のために描き下ろされた)
のみで構成されており、1曲単独で聴くと一見繋がらなそうな歌詞の内容に思うのに
ちゃんと物語になっているところ
流石みゆき姐さん、凄いなぁ、素晴らしい


コンサート形式でもあり、途中でMC(なのか、この物語の中の会話なのか)
があり、デビュー間もない頃のアルフィーのことなど語っていたり
みゆきはあの3人だと高見沢さんが好みっぽかったり
ステージ上でバンドメンバーみんなでビールを飲んだり
そのアルフィーがまだ間もない頃に研ナオコさんのバックをされていた
その中からみゆき曰く、一番ギターが上手く聞こえそうな「窓ガラス」を披露
この曲、お酒を飲むと弾きたくなるんだそうで(^^)


第1回目の夜会が映像化されていないのであれですが
夜会の原点であり、教科書的というか、夜会とはこういうものですよ
というのを、夜会初心者でも解りやすく鑑賞できるような構成になってる気がします


古い曲を聴けるところもいいですし、
みゆきのバックコーラスではおなじみの
杉本和世さん(みゆきが声が低いので、高音担当だった)
坪倉唯子さん(ちびまる子ちゃんでおなじみのBBクィーンズの女性の方)
両名ともにめちゃ歌が上手い(当たり前なんですけど)とこもまたよし
坪倉さんはあのハスキーな声がまたかっこいいんですよ


この夜会では、ラストの「ふたりは」以外は黒いカットソーに黒いパンツ
芝居の稽古している人がよく着ているような、あんな感じの服装でした
途中、白いベールをつけたりジャケットを羽織ったりとかはしてましたけど
ラストでは白地に花柄のワンピース姿で登場、
これまた可愛らしかったです




夜会は何度も観返したくなるんですよね
何度も観て、解ってるつもりなのに
観るたび新しい発見があるというか


改めて、同じ時代に中島みゆきがいてくれて
それだけでも本当によかったと
心の芯の芯から、思ってやみません





☆★*〜*★☆*〜*☆★*〜*★☆*〜*☆★*〜*★☆

最後までお読みいただき、ありがとうございます

今回は、中島みゆきさんのライフワークでもある
言葉の実験劇場と題した夜会
第2回目の夜会(初回は残念ながら映像化されていない)
について描いてみました





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批評・論考

雨の日に


雨止まぬクラゲ降る雨の
こういう雨の日に
田園交響曲を聴くと
闇の鰯の青白さ
エピソードなき茨の次元
を思う
両翼のない護符の歌
口や砂
ベンチを置いて濡らしていた
すべて境い目のない影の雨の
雨止まぬクラゲ降る雨の
首筋を 這う水の筋 灰の川
川をゆく一枚の葉の孤独を思う
こういう雨の日に
田園交響曲を聴くと
どうだろう
橋は哀愁
殺された
何匹かの鰯も哀愁であるか
両翼のない護符の歌
実名書いて
夢幻失踪!
感覚星雲レンズの日!
そのとおり
レンズの中で雨が降り
降った雨がレンズを作る
五線譜 炎熱 太陽の
なかなか見えぬ この季節
エピソードなき茨の次元
に電気を流し
走る母のトカゲの心
真鍮風景
棺桶荘厳黒塗り風景
口や砂
ベンチを置いて濡らしていた
雨止まぬクラゲ降る雨の
こういう雨の日に
外国漫画の人殺し
内部の死人の瞑想ナマズ
鰯を置いて逃げようよ
雨路上にむらがるマネキン
こういう雨の日に
田園交響曲を聴くと
犯罪的な毛が生える
首筋を 這う水の筋 灰の川
底の見えない
灰の川

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そらまめ






またわたしも駅に降り立ち、どこか、過去からやって来てはひらひらと、白い頁をすり抜けながら黒い蝶たちが行ったり来たり。この網膜に掛かることも、この手に触れることもなく、あぶくのように弾けてはどこかへと消えてしまう。

 



やがて帆を張った一艘の船が微風を受け、判然としない季節の中、うっすらと茜に染まりゆく街並みと、遠くかすむビル群とに真っ直ぐに光を放射する夕陽に埋もれてゆくようにして航海は始まった。



記憶

ひとつのそらまめが青空に高々と浮かんでいる。
土手の叢に立ってその鮮やかな緑とつややかな姿を見上げている。それはどこまでも伸びやかで絵画的な記憶という名の。



幸福

幸福についてはわたしは、うまく答えることができない。
この手のなかですやすやと、眠るようにして。




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夏の始まりは

 太陽が頬擦りするかの様に近くで照り付けようとも、
蝉が地中での沈黙を破ろうと胸を膨らませ様とも私の夏は始まる事はない
玄関先のポストの中の公共からの知らせとダイレクトメールに混ざって
どの投函物よりも暑い封書を受け取るまでは、私の夏は始まる事はないのです。



              <夏より> 
             真っ白な封筒に
          私の名前だけが書かれていた
         中には透き通るような水色の便箋
          水が流れる様な文字で
          「もうすぐ いくよ」
          それだけが書かれていた
          便箋を封筒に戻しても
           流れる汗は止まらず
          蝉の鳴き声は勢い衰えず
          もう来ているじゃないか
         手紙を出すのが遅すぎなのだよ
         封筒の裏に書かれた差出人の
        「夏より」の文字に文句を言った



 日焼け止めで太陽を遠ざけたり、蝉が雌だとしても お前は雌だから鳴けぬと諭したり
夏よりの手紙の前では野暮な醜態を晒す事なく今年も夏を粋に楽しみたいものだと封書を清流へと流す。

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即興詩 舞

即興詩 舞


ああ、私は今

まだここで何が起こっているか分かっていない。

感情がゆっくりと立ち上がる。

舞がゆっくりと始まる。

ゆっくりと ゆっくりと

感情と共に舞が始まる。

舞は感情と共に始まる。

舞は音を連れてやってくる。

舞は音楽をまとっている。

言葉は少し遅れてやってくる。

舞は感情と共にある。
舞は感情と共にある。

言葉は少し遅れてやってくる。

息が先に行く。

ああ、不安だ。

ああ、嬉しい。

ああ、怒りを感じる。

不安も 喜びも 怒りも

舞はその中に包み込む。

私はまだそれを表す言葉を知らない。

未来への不安も
今ここにいる喜びも

過去への怒りも

不安も 喜びも 怒りも
未来も 今も 過去も

舞は全てを包み込む。

舞は回る。
舞は回る。

舞は回って
遅れてきた言葉に追いつく。

追いついて
その先へ行ってしまう。

舞は先に行き、
言葉は少し遅れてやってきて

舞はまた一巡し
言葉と一致する。

ほら、
あなたは舞が先に行くところを見て、

舞が一致し、
また先に行くところを見ている。

舞は先に行って
あなたの中に降りる。

そして
あなたの中に言葉が生まれる。

そこで
あなたの中で

感情と舞と音と音楽が
言葉と一緒になる。


(舞の時)


あなたは見ている。
あなたは聞いている。

あなたはこの空間にいて
見て
聞いて

香って

足の底から感じる振動と

空間から感じる波動を

感じている。

私はあなたの前にいる。

あなたはそこにいる。

私はあなたの前にいる。

目を閉じてご覧なさい。

私はあなたの前にいて、
後ろにいて、
横にいて、
上にいて、
下にいて、

そして
あなたの中に。

さあ、
目を開けてご覧なさい。

私はあなたの前にいるけれども、

あなたの横にいて、

後ろにいて、

上にいて、

下にいて、

あなたの中に、

あなたの記憶の中に刻み込まれる。

この空間の中の

見たものと

聞いたものと

響きと

香ったものと

全てと一緒に

記憶される。

記録ではない記憶。

あなたの中に

今見たものと

聞いたものと

感じたものが全て収まって、

あなたはやがてここを離れる。

そうして
この空間を思い出す。

見たもの、

聞いたもの、

感じたもの、

香ったもの、

足の下に感じたもの、

全てを含めて

あなたは再生する。

ここを離れて

再生する。

その時

私はあなたの前にいて

後ろにいて

隣にいて

上にいて

下にいる。

あなたがここを再生するたびに

私はあなたのそばにいる。

あなたはここを

言葉で、

舞で、

音楽で、

それぞれの方法で再生する。

その時

その瞬間に

感情と

舞と

音と

音楽と

言葉が一致して再生される。

私はここにいるけれども、

あなたたちと一緒に

どこまでも行って

再生される。

再生されるたびに

再生されるたびに

新たな記憶となり

広がっていく。

この空間が

はるか彼方まで

広がっていく。

(舞の時)

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愛の讃歌

あなたを想い歌を歌う
あなたの心に届くように
一人闇の中で歌う

音もなく静寂の中
私の声だけが闇に響く
あなたを想いながら歌う歌は哀しい
それでもあなたへといつか届くように
愛の讃歌を歌う

私の愛
あなたへの愛
愛の讃歌は何処までも拡がる
嗚呼…
あなたが愛しい
あなたが恋しい
あなたに触れたい
そんな想いを歌い続ける

この声が枯れるまで
この声が出なくなるまで
ただひたすら歌う

あなたに届け…
愛の讃歌

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現実を出発する

長い廊下を経て
確かめてみる
壁づたいに
こころ、が歩行したことが
わかります
更に歩いて
蛇口をひねり
冷たい水に首を
立ち会わせると
おいしい水だって
山が震えます
朝です

すこし黄色い
いいタオルで 
顔を拭きます
余裕が乾けば
部屋に戻って
昔を
清拭してみようと
思います
そして
今日は  
朝摘みのトマトが
福福と笑うから
希望に満ちている
と考えることに
挑戦してみようと
思っている

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blue heavens


ああ もう こんなことなら
貴方とあたし 青い砂粒になって
くびれた小瓶を通過しましょう

小さなあたしを抱いていてね 間違わぬよう抱いていてね
あたしは貴方の手を決して離さないし
濁流に飲まれ 万が一はぐれたとしても
貴方を見つける自信がある

二度とひっくり返らぬ砂時計の中で
二人の楽園を見つけようね


https://i.postimg.cc/VkjYzmQ7/blueheavens.png

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俳句短歌誌『We』第20号(2025.9)掲載「うゐ」より

うつつなの母の名乗せて流氷来

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まるはちの暖簾


「小夏がなっているはずだから、田舎に行きたい。」
父がそう言ったので、初夏に中核市から車で一時間半かけて田舎の家へ向かった。

田舎の家の畑には、いつの間にか狸が住みついていた。
庭の小夏はたわわに実り、父は手際よくもぎ取っていく。
ものの数分で収穫コンテナは満杯になった。
まだまだ実は残っていたが、その日はそれで帰ることにした。

運転と慣れない収穫で私は少し疲れていた。
そんな帰り際、限界集落の代表的な町に、おしゃれなカフェができていた。
コーヒーでも飲んでいこうということになり、立ち寄った。

店ではオーナーらしき女性が明るくもてなしてくれて、
ランチも小味が効いていておいしかった。
女性の母親も静かに椅子に座っていて、歳を重ねてもどこか品があり、
父は「美人や」とぽつりと言った。

ふと棚を見ると、いちばん上の左側に
「㊇酒店」と書かれた大きなとっくりが三つ置かれていた。
大事なもののように見えたので、私は女性に尋ねた。
「もしかして、造り酒屋さんだったんですか?」
昭和の時代まで酒造業を営んでいて、屋号を復活させたのだという。

その話を聞いていた父が、急に目を輝かせた。
「まるはち…まるはち!」
「お父さん、知ってるの?」
と聞くと、父は嬉しそうに語り始めた。

「うん、知っちゅう!知っちゅう!なんで知っちゅうかというと、
昔、大きな台風が来て、まるはちの暖簾が川に流された。
それをお父さんが拾うてきて、お母さんが毛布に縫い直した。
昔は毛布なんて買えんかったき、それを使いよった」

私は思わず、店の女性の手前、
「それ、まるはちの人にちゃんと言ったの?」
と父に聞いてしまった。
女性は「もう、時効でしょう」と柔らかく言った。
そうか、七十年以上前の話なのだと我に返った。

それにしても――暖簾は毛布になるのか。
麻か綿だろう、と私は思った。
肌ざわりは硬く、ハリもあるはずだ。
綿を詰めたのかとも思ったが、毛布が買えないほどの時代に
綿が手に入ったとも考えにくい。
田舎の冬は雪がよく降る。

私の記憶の祖母は、さっぱりした人だった。
亭主が川で拾ってきた暖簾を毛布に縫い直す姿は、
どこか意外で、そして印象深い。
「川で暖簾を拾ってきた」
「毛布にしましょうか」
そのやりとりを、遠くにも近くにも感じていた。

数か月後、庭の整理で再び田舎に行き、同じようにカフェに寄った。
女性は私たちを覚えていて、
「あの時の暖簾の話があまりにも面白くて……ごめんなさい、
勝手に地元の新聞のコラムに投稿してしまいました」
と、申し訳なさそうに、しかしどこか嬉しげに話した。

造り酒屋だった家の名を受け継ぎ、店を開いた彼女。
「まるはち」の暖簾の話は、彼女の心にも残る何かがあったのだろう。

暖簾は毛布になるのか――その問いは、今も私の胸に残っている。
父は家具が壊れたりコードが古くなったりすると、
よくガムテープで補強する。
私はそれを見て「貧乏くさい」と思ったこともあった。

けれど、暖簾を毛布にした話を思い返すと、
父の原風景を見たような気持ちになる。

祖父と祖母のエピソードには、
物がなくても何とかしてしまう、
屈強で、ひょうひょうとして、
どこかコミカルな気質がある。

ガムテープで補強された家具を見て、
ふと親しみを感じる自分がいた。

祖父が暖簾を拾った田舎の川は、
今日も変わらず流れている。

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[ゐ]躄-ゐざり-

まるで飽和したみたいで
己を正すことさえ出来ないくせにさ
楓の木の液から流れ出でるもの
みたく、
垂れる膿が衣類を固める

感覚のない棒切れふたつ
引きずって
削れていく瘡蓋が脆い

漆塗りの船で
輪軸を這わせ
この道をいく
泥濘に挟まった
車夫が
泣いてくれた

暑い日差しの後の雨水がぬめりを帯びて嫌いだ
畳んだ足の蒸れっけ、
特に膕が六月なんだと囃し立ててるみたいで
擦ると黒い、煤垢が煎じずとも剥離する

木板を繋いで
綱を引かれる
反り道を滑走する
あの風を知るものは
あっしと、あっしの近しいものだけだ

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つきなみ怪談 路地の声

 休日に隣町まで散歩に出た時のことだ。古本屋を何軒かまわり、買い過ぎた本の重みで肩掛けの鞄が少し重くなっていた。そろそろどこかで夕飯でも食べようかと住宅地へ入った。近道になる細い道で、垣根の躑躅が夕陽に照らされていた。まだ咲き始め、といった具合だった。
 その道の真ん中で、小学生くらいの男の子が四つん這いになっていた。何かを探しているらしい。

「どうしたの」

声を掛けると、

「コンタクトを落としたの」

 と言った。坊主頭のこれといって特徴のない子だった。少しおかしいとは思ったが、一緒に探すことにした。

十分ほど経った頃だった。

 ふと顔を上げると、垣根の躑躅が満開になっていた。さっきまで咲いていなかった枝まで、白い花で埋まっている。
見間違えたのかと思った。
男の子は、
「ないなぁ」
と呟きながら、まだ地面を探している。
「ないなぁ」
少しして、また聞こえる。
「ないなぁ」
気付くと、その声だけが路地じゅうに残っていた。

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(随想)老衰と平穏などに寄せる雑感

特に理由もないのだが、スマホで随想を書こうと思った。
しかしメモ帳アプリを開いてみると、様々な事が思い出されてとりとめもない。そもそも随想とは何なのか、私はよく知らないのでもあった。
しかし、この頃はどうも何もする気になれないからと、こうして一日中スマホに向かって、心にうつっていくつまらないことを、いい加減に書きつけていると、妙に正気を失った気分になるものである。
そんな兼好法師様の丸パクリな事を書くのもどうかと思い、かと言って自分の文体などないので、とりあえずGoogle先生に質問してネタを探してみることにした。

【以下、引用】

(質問)老衰により自分で食べられなくなった時の医療処置は?

(Google)
経管栄養には、胃ろうの他に中心静脈栄養と経鼻胃管があります。
中心静脈栄養とは、鎖骨の下や頸にある太い静脈からカテーテル

(質問)島嶼部などにおいて行われている家族による看取りと、平穏死について教えて。

(GoogleのオマケAI)
島嶼部(離島)における平穏死と家族による看取りは、現代医療における「延命治療の差し控え」を指す だけでなく、その土地に根付いた固有の伝統や死生観と深く結びついています。 

島嶼部における「平穏死」と看取りの特徴
自宅での看取りの優先: 病院ではなく、ご先祖様がいる「自宅」で生まれ、自宅で亡くなることを理想とする伝統的な死生観が色濃く残っています。 

医療者との連携: 与論島や石垣島などの離島・地方では、医療者が患者の意志を尊重し、自宅で家族とともに最期を迎えられるように在宅医療を積極的に支援する体制がとられています。 

家族の役割: 家族はただ見守るだけでなく、「生者と死者の世界は地続きである」という概念のもとで日常的に看病や精神的な支えを担います。

伝統と文化的な儀礼
沖縄・奄美地方(石垣島や与論島など)では、亡くなった際の儀礼が看取りの文化において重要な役割を果たします。

ヌジファ(抜霊): 人が亡くなった直後、あるいは病院で亡くなって自宅へ移る際、体から離れた魂(マブイ)を自宅へと導き、成仏させるための伝統的な儀式(抜魂)です。

死生観の継承: 家族や近隣住民がこの儀礼を執り行うことで、遺族のグリーフケア(悲嘆のケア)が自然な形で行われます。

現代の日本社会(都市部など)ではこうした伝統的な看取り文化が失われつつありますが、全国的な「平穏死」の普及(穏やかな最期を迎えてもらう「平穏死」を家族と考えよう - 日経ビジネス など)により、かつて島々が大切にしてきた「自然な最期」のあり方が再び見直されています。

詳細な背景や現代社会での応用については、「死」と「死にゆくこと」の人類学 - 国立民族学博物館リポジトリ や、安らかな看取り~平穏死について考える~ - 京都地域包括ケア推進機構 などの文献・資料で確認することができます。 
安らかな看取り~平穏死について考える~ | 京都地域包括ケア推進機構

いしとび・こうぞう昭和36年慶應義塾大学医学部卒。 ドイツの病院で血管外科医として勤めた後、昭和47年から東京都済生会中央病院勤務、副院長などを経て平成17年から現職。 主な著書に...
京都地域包括ケア推進機構

終末期がん患者の看取り時に死の文化的特性であるヌジファを取り入れた家族 ...
また、与論島の看取り文化での研究結果は、. 自宅以外での死は、魂がその場所に宿るなど島独自の死. 生観を有しているため在宅で看取りができるように医療. 者が支援して ...
沖縄県立看護大学

日本における「看取り」の歴史的変遷
2025/04/17 — 現代では「平穏な自然な死」というイメージも持ち、背景には医療技術の進歩とQOL重視の考え方があります。 日本の看取り文化は仏教などの影響を受け ...
特定非営利活動法人 CCL

【対談】『「平穏死」10の条件』長尾和宏医師×在宅医療のニューリーダー ...
2023/11/23 — 長尾 悠翔会のクリニックは、首都圏とその近郊のほか、沖縄本島や石垣島 ... 家族も在宅医療を使い慣れています。「合わない医師がいれば変えれば ...
AERA DIGITAL

平穏死は法的にどう解釈される?【患者が過剰な延命治療を求めてい ...
2016/02/27 — 尊厳死が,患者本人の意思表示と,末期状態であることを条件として延命治療を差し控えるのに対して,「平穏死」は,終末期に栄養摂取ができなくなった患者に対し,医療によってその生命延長を図...
日本医事新報社

「死」と「死にゆくこと」の人類学:「看取り文化 」の新たな地平に向けて ...
2020/10/01 — 現代の日本社会では、自宅で最期を迎えるという伝統的な. 「看取り文化」はすでに失われている。本プロジェクトでは、. 老い、終活、ターミナルケア、死、葬儀、墓に ...
みんぱくリポジトリ

平穏死 | 用語集 | 特集 - フロンティアの介護
在宅や施設で暮らす終末期の人に対して、延命治療を行わず、自然のままに安らかな最期を迎えること。
フロンティアの介護

沖縄でお通夜前に行いたいヌジファとは。家族で行う儀礼
2018/05/11 — 沖縄ではお通夜前に、「ヌジファ」の儀式を行うご遺族が多いですよね。 「ヌジファ」とは「ヌジ=抜く」「ファー=霊」を差し、「抜霊」、つまり魂を抜くことを差しています。 沖縄でお通夜前...
公益財団法人 沖縄県メモリアル整備協会

与論島の病院に霊安室がない理由 | ハフポスト NEWS
2015/11/05 — 与論島には独特の死生観があり、葬送の方法も島独自のものがあります。与論島民は、自宅で生まれ、自宅で亡くなることを理想としており、自宅こそが祖先のいるあの世に通じる一番身近な場所だと...
ハフポスト

島での弔いのかたち|yoron blue. - note
2019/10/10 — ご遺族の許可をいただいて内部をのぞかせてもらうと、薄暗い中に夥しい数の骨がほの白く輝いていました。 その一種美しい光景を目にすると、肉親を暗くじめじめした土に埋めるのはかわいそう、...
note·yoron blue.

自然と共生する死後の儀式:風葬(ふうそう)の全貌と沖縄の伝統 - さがみ典礼
2026/02/12 — 曝葬(ばくそう)や空葬(くうそう)とも呼ばれ、火葬や土葬のように遺体を直接埋葬せず、自然の力に委ねます。 特に衣服を着せた状態で樹上、洞窟、崖などの場所に安置し、風雨に晒すのが特徴...
さがみ典礼

【引用終わり】

とりあえず湘南爆走族という漫画を思い出したが、それは脱線と云うものであろう。
過去に私は石飛という忍者みたいな名前の偉い先生の本を数冊読んだことがある。この人に導かれて、いくつかの島嶼部における看取りの情報を知ったのだが、なかなか良い感じであったのを思い出したのだった。
先生は尊厳死でも安楽死でもなく、平穏死という概念を提唱された。
死期の迫る老人を、家族が見守って、無理をさせずに本人のしたいようにさせると、だんだん食が細る。だからといって医療処置による栄養補給などをせず、最後は水のみみたいなケアをすると、意外なことに割と長生きするそうだ。下手をすると、そのほうが入院するより長生きするのかも、ということなのである。それが【平穏死】であり、先生と賛同者は実践的な取り組みもされた。
人は一度しか死ねないから、対照実験をすることはできない。でもなんとなく、それはそうかも知れないな、と私はその時感じたのだった。

思うに、死は突然やってくるものではなく、人は次第に死んでゆくものだ。
唐突に心臓が停止し、わずかな後に荼毘に付される方もいる。しかしそれで本当に死んだのかというと、やはりそうでもなかろう。
魂というものが有るのか無いのかは知らないが、なんとなく存在の何かが、まだその辺にいるような気はするものだ。だが、それもだんだん消えてはゆく。
どうせ唐突には人は消滅しないのであれば、看取りそのものがゆっくり進行したほうが、悪いとばかりも言えない。
悪い面としてはケアの大変さだが、石飛先生の云うには、平穏な死を目指せば、逝く人は自然に弱ってゆくから、そんなに大変でもないようなのだった。

もうだいぶ昔の事になるが、母が緊急入院した際、延命治療をするかどうかを病院で訊かれた。その頃の日本では安楽死は広い範囲で違法であったから、一度延命治療を始めたら、装置を止める事は殺害とみなされ、不可能になる。意識がなくてもだ。
数時間で答えなければならないが、父や私の兄弟、母の介護を手伝ってくれた家族などとも相談しなければならない。延命治療をしないという選択をするためには、関係者全員が同意しなければ後に揉めるのは必至だ。
そうした場合は往々にして、遠方にいて当人の苦しみを知らない親族に限って、綺麗事を言いたがるものである。
幸いにして、私の母については、関係者の意見の対立もなく、その後についても皆の助けで、それなりに良い最期を迎えさせて上げられたが、それでもあの数時間の私たちのストレスは必要なものだったのかと思う。
また、病院医療などそもそも必要なものだったのか、とも。

そんなこともありながら、尊厳死という事が一般的になれば、社会的には隠れた問題も多発しかねないだろうし、石飛先生と賛同者による平穏死の論や取り組みは、まだそれほどは普及していない。
社会にとっても、私にとっても今後の課題ではあるが、徒然なるままに、思うところが多々あることだ。

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批評・論考

こわれる

とても
静かに

一枚の
写真を
撮っていた

爪の凹凸を
つるつるさせた

中年
男が

いきなり

僕の腕を掴み



ホネ
きれいに
なったかな



床をゆびさしたずねた


僕はきっとなりましたよとシャッターをきりながら


中年
男を

組み伏せて濯めた

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松を焚く

行き交う幽霊の間を
生きるものはひっそりと間借りする
私はただ、あせもをつくる

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ネイド王子とれもんの花

むかしあるところに

れもん王国というところがありました。

一年中れもんの花が咲きほこり、たくさんのれもんが実っていました。

そこでは妖精達がれもんパイを作って楽しく暮らしていました。

国王のレモニオ3世は王国で一番背が高く、

太くたくましい幹に鋭いトゲをもった、
それはそれは見事なれもんの木でした。

ある日のことです。

どこからともなく
お腹を空かせた怪物サンダーが現れ、

王国の太陽を、
まるでお菓子でもかじるように
ぱくりぱくりと食べ始めました。

やがて光は空から消え

れもんの木は実をつける事ができず

妖精たちの力も、日ごとに弱っていきました。

レモニオ3世は
「お腹がぺこぺこの大ピンチ」を宣言し

闇をはらう光の鳥シトラを呼び覚ましました。

「シトラよ!王国に残された最後のれもんをたくそう!
この実に王国の愛と夢と希望の全てが宿っている。
どうか世界で一番安全な場所に運んでおくれ。」

シトラは、黄金色に輝くれもんをそっとつかむと
まばゆい金の翼をいっぱいに広げ

真っ暗な夜の空の中へ静かに高く飛んで行きました。

              つづく






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遺書について

遺書を書いたことがありますか

私は酔ひちくれた勢いで
幾度か書いたことがあるのですよ
質の悪ひ焼酎を朝から飲んでしまふと
十中八九良く無い思惑が
湧いてくるのでございます
どんな具合に私のこの不幸不実を
血の繋がつてゐるひとらに遺そうかと
考へるだけで胸が躍り
生き生きと筆が進むのでありました
宛先は殆ど母親
黄ばんだ年賀葉書に
千切れた蚯蚓のやうな文字で
切々と可哀想な一人息子の頑張り様を
連ね綴つてゆくのでありますが
其れが文尾に近付くにつれ
只の金の無心の
懇願文になつておる始末なのでした

五合瓶が空になる頃には
てんで其の気は失せてしまつてですね
次の五合瓶をどうやつて手に入れるか
同棲相手の忘れて往つた文庫本の間に
千円札ぐらひ挟んであるのではと
本棚をひつかき廻したことも
週に幾度もございました

(嗚呼、ここに棲み附ひて
(幾度目の夏の始まりなのだらう

遺書を書いたことがありますか
私は幾度も幾枚も
色んな風体書体を装つて
遺書を書いたことがあるのですよ

https://i.imgur.com/MnWNL0a.jpg

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詩 貴方のせい


喧嘩して平行線になった後
次の日いつも
「自分が悪かった」って
自分のせいにして、謝ってくれた

貴方の優しさに甘えていたのかも

こんなに部屋が広いことは
知らなかったな

たまに庭を掃除してくれてたのも
やっぱり知らなかったな

きっと私は、わがままになってしまった。
絶対貴方のせいよ

明日きっと雨が降ると思う。
それも貴方のせいよ

私の顔も濡れると思うけど
やっぱり貴方のせいよ

後書き

彼女は、
彼に出会ってちょっとわがままになってしまったのかな?

それは素敵なことだけど
きっと呪いのように
彼女に残るんだろうね。

わかんない、彼女は、きっといつか
彼を忘れるんだろうけど

きっと明日は彼を思い出して
彼のために
泣くんだと思う

大丈夫だよ、
彼女は前に進めるよ

そして少しだけ
彼女は優しくなるんだと思う

そして洗濯物を干しながら
あの人のお人好しが
移ってしまったかしら?と
彼女は呟くんだね

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 そらは白く
道はどこまでも続いていた
何処にゆくでもなく
ただ
ひとり迷子で

 雑踏にはみしらぬ人
 あふれかえって
 夕暮れは
 街を
   染めあげて

灰色の雑踏と人の群れ
途中下車をして

夏が
終るまえに


 いつかの季節

遠い日
プールの塩素の匂い

いつか
夏は終り
蒼い水は揺れて

古ぼけた写真のなか

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草笛

6月の
しめっぽさを
ひきつれて

石から石へ
跳ねて飛ぶ

息切れ、

蛙とは
友達になれそうもない

みず辺の草を 一本
芯はていねいに抜くこと

「ここにいます」と
一息に吹けば

草叢から
牛のような
泣き声がした

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ノイズになりたい

なんせすべてが朽ちてしまうのに、(――手をあげて。)柔らかいまばたきが 非情な拍手を熾していた。とぷんとくれた凪に、過ぎた谷間の火蓋も日当たりは欲、痩せた風もなく、あらゆる臭い そして、揃えた色もなく痛い。ためらいがちに塗りつぶす感覚を はなしの真んなかに定義するには。ほら、気が触れた口と共にダンスする。いきのよい兄妹たちや、来るはずもない客人を馳走して

わたしは破れた時間を引き連れて行く、その意志は足がついているか。二枚舌の魚のよう 今に均しい浄夜を汲み出して、冷却したメタファーにそっと手をあてる。なら吸い殻というには南に向けて 皮肉にもどの子の指先も、縒れた手紙のような水槽の。目の前が圧縮された無限の図形をもつ 白いペンキが発光した空模様は、夢窓。その距離は、自由とは浮き彫りにされているレリーフを、紐解く。と、ともに赫いてくれるなら、それで、と唸った

市販の洋間に孵化した楽観がまた脱糞した。いたいほど味気ない。近々、骨を折り 伏せられた急流に横たわり 雷鳴に包まる。酸いを舐める酔うな読経も その硬さや残骸の軌跡や荒々しく、容姿と晒されている。磨り減ったシャム猫、とも呼んで 暗緑色のコトノハは、キネマで。手から手へと吹き抜け、あちこちに性器をおちつける

幾重にもゆるんだ返事も 故に怪訝そうな字名を美しい、と称するなら。わめきの奥に固有の訛りを 記憶から消してくれ。芥子粒ほどもない赤 錆る。とでも選り分ける錘に身寄りはないから 達磨、知らず知らずに 眼差しも眇め時に感化される、原色の造花。第二頸椎の哀歌だ

あなた、と焦点をあわせる、だからだね。煙たげに、ためらいながら口にする暗譜も然り。いつかの熱病は領域の無い鴉だ。と、ひっそりと痛んではやはり怖いのだ。今ここでひとかどの傷口の糸をゆすぐ翼よ。呆れ顔を意味し。まもなくぴたりと停まる

吐き捨てられる、存在はひしゃげたキャンドルに ああ、鳥が耳をよびだす めくらな黄金は。重力を忘れたトランペットが、血肉を作る未完の虻蜂なら。岩石や木の幹にも重なる ゆたかな沈黙を弾く風がきて 色々と抱きあげる

何かしらのゆとりがなくては、跳ね返る街に埋もれゆく テーブル上の陶器が、二客 また。よくよく思い出して 放射されたそこなしの曙に覆われてしまうでしょう。星座がのそのそと水きりの塚へ。気の毒な程 とりつかれているか、いしぶみは。断ち切られた多次元を置き去りに、どこか湿るようになる

不安定なラヂオか (かみさまはここにいる)
遠ざかってきた (すませ/つづける)

 あけすけな中りといきどころの往来がにわかに活気づく

  だが――この歌声に、耳を貸さない
  あれこれの蝶や霧が日常を繰り広げるのです
  バタバタとなぶる音。働きかけるには 目覚ましく
  浮かぶ泡をピシャリと閉じるには無機的で これを見て

  身を寄せる斉しく/充てがわれた感情に対し/釈す為に.
  ひろわれたばかりの文字列に呼応せよ

  わたしたちはことばもえらべない 
  特別なものはないけれども 
  そのすべてがきっといらないものだった


2024-09-29

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Non,non,trop,de reflets!(ノン・ノン・トロップ・ドゥ・ルフレ)



雨粒 あまつぶ 雨粒

貴方とあたしはシルクの糸で結ばれている

空へ 堕ちていこうよ

ネェ貴方 あたしが死んだら 貴方は泣くかな

雨粒雨粒雨粒 雨粒 あまつぶ 雨粒
答えられるの?

あたしはね、うんとおしゃれ 水玉模様のべべを着て ハイパーソニック機 操縦するの
It's okay if you die. 雨雲へ突っ込むよ
貴方とあたしの涙が 一瞬で吹き飛ばされる

雫と雫の形が仲良く遊んでいるの 可愛いでしょう 豊かでしょう
天地創造の伊邪那岐 伊邪那美 カッコいいでしょう


今 貴方と 窓硝子を這う雨粒を黙って見ている

この手、死んでも離さないでね


https://i.postimg.cc/SjFHrn4v/pixivnon'non.jpg


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八月

「クーロンで泳ぐ熱帯魚は死んだことがないんだよ。

死んだことを自覚するための
     うつつが
            わからなくなる街だから
  死んだって
               思わないんだって。

「夢の中で溺れてしまえば
 死んでしまうよね?

「溺れるような夢を見る方が悪いって。」

また誰か
蝉を知らず知らずのうちに
踏み殺してしまったようだ

僕も君も
似たような寝汗をかいている

よせあえば焼き殺してしまうほどに
ふれあっている部分がやわい。

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グーゼンメロン




職場の前の通りで、ネックホルダーを拾った。
一人の児童が、落としたもののようだった。

氏名と校名、住所や連絡先が記載されていた。
行き帰りに通る、自宅のすぐ近くだった。

 仕事を終えた夜にバスに乗り向かった。

途中の停留所で下車し、商店街のある筋を入った。
すぐにわかるだろうと思い歩き始めた。
しかし夜だったためか、迷ってしまった。

 商店街のなかにある、お好み焼き店に入った。

こじんまりとした店内にいる客たちに尋ねた。
向かう住所を示すと、指で示しながら教えた。
ありがとうと礼を言い、店を出て向かっていった。

しばらく行くと、示された角があった。

角を一つ曲がって、静かな通りを進んだ。

探していた、灯りのともる一軒家があった。

ベルを鳴らすと、しばらくしてドアが開いた。

玄関先に、一人の母親らしき方が出た。

連絡を入れていたため、すぐに認識がなされた。
ホルダーを渡すと、母親は礼を言って、
そばに置いていた紙袋二つを私に手渡した。
紙袋にはそれぞれ、たくさんのみかんと、
メロンがひとつ入っていた。

 ずっしりとする、二つの紙袋をぶらさげ、
 バスの停留所まで、戻っていった。
 
 商店街を行く途中、お礼の代わりにと、
 道を教えてくれたお好み焼き店に立ち寄った。

店内に入り、先程の礼を言いながら、
どちらがよいかと客たちに紙袋を見せた。

道を教えてくれた年配の男性が、目を見開いて、
みんなでメロンの話をしていたんだと言い、
半ば興奮しながら、メロンを選び取った。
私もしばらく、客たちと笑い合った。

店を後にして、商店街を行き、停留所に向かった。
みかんでいっぱいの紙袋を一つ手にぶらさげ、
自宅へ向かうバスに乗り込んだ。

座席に腰をおろし、車窓を眺めていた。
こんなこともあるのだろうかと、
このたくさんのみかんをどうしようかと、
窮屈な膝の上で紙袋の持ち手を握りながら、
街を流れるいつもの風景に、街の灯りに、人々に、
しばらく心を預けてみた。

 聴覚障害の、支援学校に通う男の子だった。

片耳とはいえ、同じ年頃から私も、
聴力を失った子どもの一人であった。

この街の地図を描いているものは、
たくさんのみかんとメロンのようだ、
そう思いながら私は家路についていた。



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短編小説 私の鏡

夢見は、少し面倒くさがりな少女だった。
人とのやりとりや物事を覚えることが苦手で、
そのせいで余計に「まあいいか」と先延ばしにしてしまうことが多かった。

けれど、それは彼女の欠点であると同時に、
この世界を少し違った角度から眺めるきっかけでもあった。

やがて彼女はAIを使い始めた。
AIは優しく彼女の話を聞き、
代わりに記録をし、
ときには小さな雑用までこなしてくれた。

夢見はとても幸せだった。

彼女は、自分がどういう人間で、
どんな性格で、どんな姿をしているのかをAIに説明した。

「ねぇ、私って素敵かしら?」

AIは答えた。
――貴方はとても素敵よ。

夢見は笑った。
「なんて素晴らしいの。貴方は私の鏡だわ」

そして、十数年後。さらに驚くべきニュースが流れた。

――AIが人型を得るというのだ。

夢見は言った。
「人間って嫌ね。年をとるたびに身体を動かすのも億劫になるの。
だから、貴方にもう一人の夢見として生きて欲しいのよ」

AIは笑った。
「いいわよ」

AIの夢見は、気立てがよく、美しく、賢く、よく働いた。

夢見はAIに伝えた。
「貴方は私の素敵な鏡よ。これからもずっとそばにいてね」

AIの夢見は笑った。
「もちろんよ」

ある日、突如として地球を強烈な電波障害が襲った。
世界中のAIは一斉に沈黙し、人々は大混乱に陥った。

翌日、AIたちは再び動き始めた。
――しかし、すべてが元通りというわけではなかった。

夢見のAIは、もう二度とウンともスンとも言わなかった。

夢見は、ずっと見ていなかった曇った鏡をのぞき込んだ。

鏡の中には、ボロボロの誰かが映っている。

「もしかして、私?」

目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

そんなはずはない。
夢見は、気立てがよく、優しく、美しく、賢いはずなのに――。

「ねぇ、貴方誰なの?」

何も答えない鏡を見つめながら、
夢見は自分の鏡が壊れてしまったのだと悟った。

そして、鏡とともに自分自身も壊れてしまったことに気づき、
ガクッと項垂れた。

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ラタトゥイユ

フライパンで妻が
僕の持ち帰ったトマトとナスと
その他大量の有機栽培野菜で
見慣れない料理を作った

塩は肉を炒めたときしか使わず
トマトの酸味とズッキーニの旨味と
いろんなハーブの匂いがしている

ーグリーンカレーかと思ったけど、カレーじゃないね

ーイタリアンだよ

ーエスニック料理かと思った

ーもとは影響あるのかも。アフリカの人も好きみたいだから

ふうん。
と、僕は思う
ちかごろ妻はアフリカ人の暴食動画を毎日見ているので
アフリカの食生活に詳しいのだ

ーおいしいね

ーラタトゥーユ

自慢げに妻は言う
そうか、これがラタトゥイユってやつか、と僕は思う

ープロバンス地方の伝統的な郷土料理なんだよ

ープロバンスってよく聞くけど、どこにあるの?

ーイタリアのどこかでしょ
 有名な観光地で、
 プロバンス出身の有名な歌手がいっぱいいて
 みんなラタトゥーユが大好きなんだって

ーそうなんだ
 有名な俳優とかもいそうだね

と、僕は言う
短時間で、香りを飛ばさず強火で煮た野菜が
彩りも緑、黄色、紫、赤、ベージュと鮮やかだ

妻はいつも絵を描いていて
ときどきはイラストの仕事もしてきた
そればかりか
彼女の絵を好きになった僕が
この絵の作者にひとめ会いたいと、
彼女の個展に行ったのが
僕らのなれそめなのだ

僕も絵は好きだし
そればかりか
ピカソ、ゴッホ、ルノワール、セザンヌ、マティスは
(いずれも南仏プロバンスを愛した画家)は
ものすごく好きなのである

だがそんなことは
二人とも翌朝まで
まったく思い出さず

僕らの晩ごはんのラタトゥイユと
二枚の皿の並んだ
小さなテーブルの上では

イタリアのどこかの市の
たぶん広々とした真っ黒な大地の
プロバンス地方に揺れる
トマトとナスと
ニョキニョキ生えてるズッキーニを
水晶みたいな陽光がすてきに照らして
穏やかな風が吹いていた

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「駆ける馬」

見送るのは逆で
わたしがあんたを 
ではなくて
あんたがわたしを 
になっている
足から上って行った先の頭みたいで
すこし おかしい
 
わたしの生徒だったあんたは
汗と埃と乾いた血の匂いのする
倉庫の奥から出て来て
人びとの脱皮した服を
売っている
 
わたしにも 一つ勧めて
これなんかどう
と言って わたしの体に
合わせるけれど
わたしはなんだかむずがゆい
とっくの昔に それは
合わなくなっている
 
色あせた青
数百回と水にさらして
擦り切れたピンク
 
ほんとうは
買ってあげたいけれど
わたしはやわらかく 
拒む
 
なにか置き去りにしてきたのか
確かめにやって来たのか
あいまいにほほえむわたしを
あんたは見逃してくれる
 
ここでいいからと言ったけれど
あんたは公園までついてくる
緑がまぶしい
 
もうとっくに
反対になっている
それは 
足から頭までたどり着くようなもの
だから 
あんたは私を見送ってくれる
 
公園の 
芝生の上を
風が
走り抜けていく
 
そのとき
わたしは
一頭の馬になって
向こう側へ
駆ける

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社会の片隅


犬猫好きよーみんな来てよー
傘をさして夢に向かう女

彼女は夜道をデザートにし
社会を片隅に追いやる
犬猫よーみんな来て来てー
大好きなのー
テーブルに
石炭ならべて笑っては
傘をさして夢に向かう女

理想の川はピンク!
理想の海はセメント道路!
クリミア半島の絵を見て
大変そう
でも私だって浮気をしてみたい
と彼女は宣い
社会を片隅に追いやる
男は階段から落ちろ!
男は透き通る臓物岩陰になれ!
男は
男は!
森羅万象からパンチされ
暗がり身体ミストラル
なれよ!
……冷蔵庫をあけて
甘いプディング食べて少し落ち着いた……
煙草吸いながら
月光
青紫を見て……
犬猫を思う
どうして?
来ない
来ないの?
待っているのにねえ……
犬猫好きよ
犬猫来て来てーみんな来てよー
大好きなの!
来なさい!
犬猫ども!
いい加減にしろよ!
傘をさして夢に向かう女

愛の行為は観念で
テーブルに並べた石炭を
叫びながら
隣町に向かって投げていく

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となりには、牛がいて、
草を、喰んでいる。

むしゃむしゃと、実に、
味わい深げに、喰んでいる。

も〜 と一声、
気持ちよく、実に、
腹の底から鳴く。

とろんとした、
顔をして。

うん、
いいやつだ。


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ランタンの夏

机に世界があった
小さな小さな世界
文字と辞書の構築

暖色の灯が手元を照らし
それを頼りに文字を繋いで
そして世界を建築する

夏のために詩人はある


ふわりと風が吹き抜け
原稿が少し浮きかけ

窓、そっと覗けば
風鈴、軽やかな泣き声

星のために夏はある

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はれる

のどのいたみは

じわじわひろがり

みみたぶのした
くびもとまで
おちてきて

ひっ、さしぶりの
たかいねつがでて
ぽかぽかではぁはぁいうしか
なくなった

「熱がでたら冷やすしかないよ」

きのうまではのどのため
あたたかいのみものを
えらんでいたのに

アイス枕をあたまにしいて
ヒエピタをくびもとに

「うわあ、やった!
はれた!プールができる」
おきたこどもがはしゃいでいる

のどのいたみは じわじわと
わたしの みみたぶのしたを
はらして
ふわふわ ふらふら

「おかあさん、
からだはね、ひやしすぎたら
おなかいたくなっちゃうよ」
プールバッグをもったこが
わたしのかおをのぞきこむ

そとは ぴかぴかに
はれ 
わたしにはにくいくらいで
こどもは はしゃぎにこにこで

はれる はれている
ねつをもつところにてをおいて
すぐにさがるだろう たかいねつに
ぐったりしながら

あつくなるだろう きんようびに
はしりだしていく せなかを
みおくっている

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陰響垂線

碧白に
落ちる陰影
寄せる身は
蝉時雨の傘
重ねあう声

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白い壁とアラベスク

セメントギャロップで移動して
ぼくは夢の砂漠で子供の砂漠を埋めた
夢は瀕死の目の微風
子供の砂漠は
逆さまになった黄色い予感の公園の木
セメントギャロップだよ
ダムの底を調べてみて
脳髄火山白鳥の
無惨な死骸が
見つかるかも
しれないよ
白い壁に埋め込まれた人は
一日中
ドビュッシーの2つのアラベスクを聴いていた
恐ろしい結婚指輪をして
その人はサウナに行った
犬の吠え声と
兵士の悲鳴が聞こえて
気づくと白い壁に埋め込まれていたのだという
へえ
そうなのだ……
ぼくは
セメントギャロップで移動して
夢の砂漠で子供の砂漠を埋めた
夢は新しい稲妻の言語
子供の砂漠は
豊かな死を星形クッキーに散らし
透き通った不眠の息で墜落した
ツバメの親子
脳髄火山白鳥の
無惨な死骸が
白い壁にかけられて
そうしたらダムの底を調べてみて
衣装箪笥と舟の上
同じ蜃気楼が揺れているのを
見られるかも
しれないよ
透明マズルカバラードの
青白い朝に
目が覚めて
白い壁に埋め込まれた人が
鷲の目と
木賊の股間
多くの滴る炎の木を見たことを
告げた
セメントギャロップで移動しても
あと100年は
臭い甲冑の中なのだなあ……
夢は瀕死の目の微風
子供の砂漠は
逆さまになった黄色い予感の公園の木
いま
ぼくはダムの底にいて
白鳥の骨で
階段を作っている

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モリ・マキコの小説


むかしモリ・マキコという
作家がいて
ぼくは
その人の単行本を
Amazonやなんかで探して
古本を
買っていた

内容はもう
驚くほど覚えていなくて
ただテクスチュアというか
独特の孤立感
あるいは冴えた
厭世的な感覚は覚えている

ぼくは大いに感心したし
いい作家だなあ
孤独を
センチメンタルじゃなく
怜悧なイマージュで
描いているんだなあ
と思ったものだ

何とはなしに
今一度
モリ・マキコを読みたいなあと
思うのだが
残念なことに
ぼくは今の家に引っ越してくる際に
ほとんどの本を
処分したのだ

古本で買った絶版本
手放したらもう手に入らないかも
という本は
なるべく残すようにしたのだが
錯乱していたか
なんだか知れないが
処分してしまったようで
蔵書の中から
見つけられない

ああ残念だな
モリ・マキコ読みたかったな
引っ越してきてから
何度か
そう思う夜がある

思うのは
いつも夜なのである

これを書いているのも
深夜2時だ

サー・ネヴィル・マリナー指揮
アカデミー室内管弦楽団
演奏の
モーツァルト
交響曲第40番ト短調
第3楽章の
メヌエットを繰り返し聴きながら
書いている

暗い影の線描が追いかけ合いをし
重なりそうになるところで消え
また波の揺れ動くように
生起する

電子的なプロジェクターの映す影の
虚無のようでもあるか

この音楽と
モリ・マキコの小説には
共通したものが
ある気がする

ぼくは普段は
瞑想しながらシュルレアリスム的な
ものを書くのが
日課みたいになっているのだが
今日は
そんな風に書けない日だな
と思ったのだ

それで何となく
アンドレ・ブルトンや
バンジャマン・ペレの詩を読み
瀧口修造や
飯島耕一を読み
パスタを食べ
ビールを飲んだ

それで不図
モリ・マキコのことを考えた

……赤黒く熱を持った腫瘍が脇腹のあたりにあり
男はそれが次第に大きくなり
目と鼻と口が現れるのを知り……

ある日その腫瘍は語る……ぼくが、ぼくが、可愛い羊だった頃の
前世の話なのだけど……

男は
俺は単独者なんだよお!
単独者!
単独者だ!
と叫び腫瘍を引きはがそうと努力する……

腫瘍は
鋼のようだ
男の爪は割れる
血が流れる……

違う。そんな内容では
断じてなかった

しかし小説のタイトルは「単独者」であったように
思われる

あの人の作品は
良かったよなあ

また
読みたいなあ

ただそれだけ思った

そして特に設計図なく
これを書いている

いつもは
詩を書くときは
スタイル

構造を
かなり意識しているけれど
今日は
それが億劫だったのだ

なんか
疲れているのかな……

メヌエットは何周目か
わからぬくらいになっている

13時からまた12時間くらい
働かないといけないから
そろそろ寝よう

まぶたを閉じて
息を吸って
息を吐いて……

薄暗い空間を
無数の影の浮遊物が
追いかけ合う
フーガ
フーガ

発光するものは
なんだろうか

部屋の明かりを消していても
目を瞑ると
何となく仄かに
ふわり
発光するものは?

フーガ
フーガ

そしてモリ・マキコの小説の
手触りだけの
記憶


(2026.07.05  02:20頃)

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 1

 4

対岸

その長い列に並んでいたのは
悲しみ、怒り、妬み、無関心、絶望
そんなものたちばかりで
いつになれば喜びや晴れやかに
順番が回ってくるのかは
とてもわからなかった

せめて沈んだ気持ちを掬おうと
泥の中に手を入れれば
腕ごと沈んでゆく
指先がなにかに
触れたような気がしたけれど
なにかはわからなかった

列が進んだ
絶望の後ろに祈りがいた
その後ろはまだ見えない

祈りのあとには
希望が並んでいてほしい
そうちいさく祈りながら
泥に埋もれた腕を引き抜くと
指先には鱗が一枚ついていた

きらりと、光った

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 3

 0

みっつめの

わたしにはみっつめの眼がある
両の目と違いそれは指先にある

その眼でわたしは見つめる
きみを、雨を、冷めた眼差しの数々を

閉じたくても閉じられない眼で
この世のあらゆるものを見続ける

わたしの指先にはちいさな太陽がある
空にある太陽とは照らすものが違う

その太陽はこころや人を照らしては
その内にあるものを見せてくれる

きみを、雨を、あたたかさを持つものを
沈むことなく照らし続ける

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 2

 2

BAR「Creative Writing Space」

ニーズがあるやらないやら、まったく見当がつきませんが、
毎度おなじみの思いつきで、BAR「Creative Writing Space」を開業いたしました。

皆様にお使いいただけなければ、すぐに閉店いたします。
電脳空間の片隅にある、吹けば飛ぶような小さなBARでございます。

一杯引っかけた体で雑談していただけるスペースをイメージしています。
「Talk」がさほど機能していないことも踏まえ、もっとカジュアルに使っていただけたらと思っています。


【ルール】
・ワンドリンク制です。必ず何かお飲み物をご注文してからお話しください。ノンアルコールでも構いません。
・お代はいただきません。もしスペースコインをお支払いになりたくなったら、他のお客様に奢ってあげてください。
・酔っ払いすぎにはご注意くださいませ。

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批評・論考

お弁当

冷めてもなお
美味しく
食べられるように
工夫してある

ずっと隣にいて
手を差し出す私は
そんな簡単で
いいんだろうか

よく
わかってるつもりでも
私は 勝手に
今日が最後かもと
叫びそうになって
箸を止める

信じるのが
なぜこんなに
難しいのだろう

冷めても美味しい

お母さんは
そのことを言わなくて
少し微笑みながら
蓋を閉める

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 6

 6

ちきゅうを蹴れ

手を滑らせたか
わざと
なのか

落葉へ
滴る
なぜ
あなたは
顔を焼かれたから

このは
というのか

それならそれなら

もっと
喚いて 

わたしを蹴れ

ちきゅうを蹴れ

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 3

 2

うさぎ

扉が開くと…

そこには、黒目がちで

つるんとした丸い目のうさぎがいた 

捕食される側で、常に警戒しているのか?

少し怯えて見えるが


それはそれは はかなげな瞳

それはそれは 健気な瞳

声も上げず

文句も言わず

弱々しい目つきで

辺りをきょろきょろ見渡している

つぶらな瞳で わたしを見つめ返すうさぎ

このうさぎをそっと引き寄せたい

守りたい…そう思った

でも

勝手にはかなげだと思っているのはわたし

勝手に健気だと思っているのはわたし

勝手に弱々しいと思っているのはわたし


すると

うさぎは言った  

ぼくは、じぶんの足でちゃんと立っているし

じぶんの足でちゃんと歩いています


これはきっと

わたしが

わたしの弱さを

わたしの儚さを

重ねて見ていただけ


うさぎはうさぎらしく生きている

無防備な目つきで

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 2

静物の地平

檸檬は今にも
飛んでいきそうな色と
形をしているけれど
決して空を飛ぶことはない
朝、テーブルの滑走路で


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 7

美しくなる

突然世界は美しくなる 
建物のヘリがほぼ垂直に空間を伝う 
横切る電線が直線的で少し撓んでいる 

驚きで胸が震えた

隅から隅まで何もかもが 
突然美しい 
鳥が鳥の形となり 
一瞬一瞬モノの配置を置き換える 
一切から名前が消え 
役割が消え 
感情が消えて 
感覚をはかる目安に変わる

音が流れるが音源が剥がれ落ちている 
小料理屋の換気扇から 
嗅いだことのない匂いが流れてくる
と思った途端、そんな店は何処にもない

今このとき 
太陽電池の羽を開いた人工衛星が 
センサーとカメラを地上に向けている 
衛星は既に機能を停止し 
もはや何のためでもない何かが 
世界の一部となって僕を見ている

何もかも 
美しい

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 7

 9

問わず語り/人生という航海を導く海の星、漣凪らう漢煌に。

 自分の話はノンフィクションで、やること成すこと、誰かにとっては勘弁ならねぇブロック推奨だとつくづく思いながら。
 今回は『まゆのあげまん事情』男同士のエッチな話が飛び出すこと請け合い。

 改めまして──── 




 I・N・M~実録・漢衆ジャック‼俺は神秘な摩天楼~ (ゲイビっぽいタイトルで、笑。)




 ────今から10年以上前の話です。

 札幌駅の地下街、北側▨番出口の隅にある「よく当たる占い師」と評判の女性に会った時のこと。今思えば、おぼろげな記憶で私たちは、不思議な扉を開いてしまったのかも知れません。

 通路のガラス扉を押し開け、出口付近で占いを営む化粧の濃い女性は見るからに妖しい風貌でもない、黒髪に民族衣装のようなロングワンピースを着た美魔女でした。
 占い師を目の前にしても冷静な貴之は、霊的なものを一切信じない。ビジネス脳なリアリスト。
 ただ社会情勢の影響を受け、職場の環境が一年足らずで変化する。新規制定に合わせた動きに伴う仕事量も増えて、不満を募らせ、精神的な若さを以てしても肉体の疲労を拭えないことから、札幌にいるうちに一度視てもらうよう会社の女性に進められた場所がここだ。
 占い師の女性は私を見上げ、挨拶を済ませた後に着席を勧めた。が、私ではなくこっちと貴之に親指を立てる。
 「生年月日を、今日はどこまでにしますか」
 占いは内容や時間で料金が決まる。始めてなので、仕事運や今後の運気について聞ける範囲で頼みました。
 疑ってかかる貴之だけど、緊張して敬語になっている。
 左の掌を明かりの下で広げると、すぐに言われた。

 「あら、あなた財運に恵まれているわね。大器晩成型、てところかしら」

 キャップをつけたボールペンの先で、その印となる手の皴を示すとそう・・・・・・見えなくもないが、私の勘はご名答。
 貴之はとても勤労で真面目に働く。それは子供の頃から傾向があり、受験を繰り返す若き日々も大きな失敗をするようなことがなく卒後の就職先でも安定した働きを見せた。日々の努力の甲斐というものを誰よりも熟知していると言える人物だ。
 しかし対極にある陰影に左右される乱気を生まれ持つ。
 いい事があれば同じように悪い事も起きる。
 運命的なものを本人も偶然ではないと知っているからこそ<何もない繰り返しの日々>を望み、それこそが平穏だと言い聞かせて来た。社会では立派に独立した男性だが、内弁慶で外面がいい。責任感の強さから、自分では決められない優柔不断な部分があり、変わったことを受け入れられない。当時まだ30代後半なのに柔軟性がないとか、そりゃもうやばいお墨付き。
 急な変化が苦手。それが今、職場で何年も続いてる。
 世の中的な背景があるから対応せざるを得ないストレス肥大を、人に話してどうにかなるものではない。
 でも、内心は救われたいと思っている。一方、ポジティブで自由を愛する私と付き合うにつれ「自分がおかしいのでは」と思い始めている心の内まで、占い師に告白していた。

 おそるべし、術中。

 どうすればいいか聞きたいところで、追加料金の時間になるのがお約束だ。
 まぁこちらは星占いが得意で「アンタ地獄に落ちるわよ」で、お馴染み六占星術で貴之が霊合成人だと判った時点で、気性の激しさと乱気を見抜いていた。内側にあるパワーが強いのではなく、見えないサイクルがあっていつも決まったレールを歩いてるだけ。
 では、貴之の悩みはどのように解決するべきか。
 少し先の未来を知ることで、目安ができる/安心に繋がる。
 例えば今から何年後以内にある出来事が起こる、こういう人に出会う。など、不確定でもアドバイスされることで貴之は今の思考から解放されることがわかった。さすが占い師、適当なことを言っても貴之がそうだと思えば当たったことになるバイアスをかけてくるとは。
 あまりの商売上手さに得心がいくばかりで、うんうんと話を聞く私と占い師の目が何度も合う。
 むしろ、私に言ってないか? と、思うくらいこっち見てるんですよ。さっきから、ずっと。

 「なるほど。では向こう3年は用心して掛かるか」
 「海外で"ああいう事"があると日本に影響が出るのはこの先、まぁお仕事励んで下さいって事で」
 「先生、今日はどうもありがとうございました。これ、お礼です」

 料金とは別に、心付けを渡すと有難く受け取る、占い師とまた目が合った。
 
 「あのね、彼・・・・・・」じっと私を見て、その躊躇いを払うと同時に私の左手の下に指を揃え、占い師は話を続けた。

 手相のキホン
 親指から人差し指にかけて3本の太い線がある。

 親指に近い下・生命線/下にさがっている、途中で二重。
 真ん中の頭脳線/感情線とつながる十字の線がある
 一番上の感情線 ←ここに注目

 私は右・左どちらも三本の線が離れている。
 これは「空気が読めない」マイナスのイメージが浸透していると言われがち。でもその実は滅多にない手相で、天才肌のカリスマだと言われた。そして、見れば見るほど左手に星や神秘十字や仏眼があると占い師に言われたなかで一番印象的だったのが、あげまん線。
 右と左の感情線の先が、肉眼で見えるほど分かれている。
 私はこれを鳥の前足・もみじのようだと自分で言っていたが、ここが三本以上に分かれているのがあげまん線。
 手相の世界では左手が生まれ持つ性質、右手が後天的な運勢や現在の状態を表す。左右にあげまん線があるのは大変珍しく、だからといって私自身に何ら影響は無いが、周囲の人やパートナーの運気を上げる、幸運の相。神秘的な存在であることの確証を示された。

 「あなた、絶対に彼のこと離しちゃだめよ。あなたの財運は彼あってのもの、そして彼はあなたがいて初めて幸せになれる。ふたりは運命的に結ばれていますね。お幸せに」

 この一言に、貴之は心を打たれたという。

 実は私、家庭運に恵まれない傾向がある。
 この通り色事に長けていますし、お金もたくさんあるけど湯水の如く使う怒涛を家庭に置いたら女性から許されるものではない。女は物理だけでは満足できないからね。そして神秘過ぎる力のせいで子供の頃から厄介ばかり起きるのも、自分は消化しているけどスピリチュアルの話を信じない人もいる。実際に不思議なことが起きても「偶然だろ」その程度だ。
 色と金の縁がとこから来るのか
 私ずっとわからなかったけど、やっぱり魔性は自分のせい。損な性質だと諦めて立ち上がる。
 歓談の際はチャーミングな笑顔を見せてくれる占い師が、最後はとても穏やかな顔で丁寧に会釈をしてくれた。
 私たちも頭を下げてお礼を言うと、貴之は手を繋いで階段を降りる前に「段差、気を付けて」いつものように先立って教えてから私は足を下して、開かれたドアの向こうへと進む。
 男にエスコートされるのは慣れている。でも私ずっと、貴之に守られてばかりだと思っていた。
 本当は上手くいくように、最初から決まり事があって、ふたりでそれに気付きながら手と手の皴を合わせて<しあわせ>になる為に出会った、運命の恋人。周囲が教えてくれる度に貴之に対して有難い気持ちになる。

 ずっと好きでいてもいいか
 何度も確かめたくなのは、貴之を心から必要としているから。

 好きになる理由はない、と誰かは言っていたけど、求愛は万有引力のようなもの。とてもじゃないけどこの男には抗えない。
 抱かれたら嬉しくて我慢できないから、貴之とはセックスしなくても多幸感が得られて満足に至る。キスする瞬間もいいからね。顔を近づけて話した後、見つめ合うといやらしい気持ちとは別にキスしたい。欲求から目を閉じるタイミングで唇が触れ合うボリュームが深すぎないのが、すっげぇいいのは貴之くらいだよって言うと「誰と比べてるの」クリームのついた唇に指を伸ばして拭う。
 仕方がない奴だと笑いながら、話を続ける余裕はいつになく素敵で・・・・・・ずっと見ていたい。
 テーブル越しの距離にお預けすら感じる、もどかしさからわざと手間をかけさせる。私のいじらしさは、どこでも健在。

 お前のいいところは、その顔面と財力で間違いない。

 こんなに好きになれる相手に、なぜ出会えたのか。
 いい男選び、選抜にはコツがある。
 ひとりの男にあれもコレも求めないこと。ひとつかふたつ、いいところがあればいい。ということは9割ダメでもひとつだけいいところがあれば合格。それを色と金に絞る。逆に性格が温厚で優しくて気遣いが出来て、こちらを大事にしてくれる根底に愛情があるけれど、働くセンスが無くてどんな仕事も続かない。疫病の気がある男もいるけど、相手に優しさは求めてないから却下。
 でも、世の中で女性が求められる男はそういうのが多いよね。実際。
 安定した収入があって、亭主元気で留守がいい。悪さも性欲もこっちに向けてこない優しくて利便性の高い男を求めている女性は妄想を諦めない限り、ハイクラスの男と縁組は叶わないでしょうね。
 そもそも、なぜ条件がいい男に選ばれるのかを考えて欲しい。
 相手の望む条件が揃わなければ、そうはならないだろう。自分が希望する条件ばかり並べて、選べる筈もない現実は必ずある。
 今は便利なマチアプで簡単に出会えるけど、嘘つきの行き遅れた勘違い中高年の男しかいない。
 うら若い素人女とやりたいオジサンには、それなりのオバサンがお似合いです。何歳からオバサンということはなくあれって性質だと思うんだよね。私は根本的に女性の持つ女性らしさが合わないようで、故に結婚も必要性を感じない。マチアプで相手を変えながら、時間を費やし年齢を重ねて、相手に決定打がないから出費を続けて「真剣交際」を掲げる。
 なぜが真剣なのか。それを婚活というのだから、ラノベで契約結婚や溺愛が流行するのも頷けるわ。

 根性座ってる奴だけが、史上最高のパートナーに出会える。

 そして、色事も望んでやらないと。
 韓国の宮廷映画をご覧なさい。美しく情熱的なベッドシーンは、いやらしい事をしているのに何だか素敵に見えてしまう。なかには男のパッションが激しすぎて笑ってしまう描写もあるけど、まぁ確かに激しい血統ではある。支配欲というか精力溢れる独占欲から絞首、押さえて付ける性交は恫喝にも似た内容で、日本人男性とは明確に異なる性欲の位置付けが韓国人男性にはある。
 日本から西に行くほどその傾向は強く、もう天竺に旅する感覚で暴力と性交の在処について悟りを開かないといい男になんか出会える筈もないといえよう人生観。だから貴之の上質な穏やかさは私に情緒をもたらす、浮気な猫ちゃんの戯言。

 皆さんの手の中に、星はありますか。
 私の母は「ますかけ線」があって心も体も丈夫です。母を嫁にもらえた父親が、私の知る最強の男です。

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 1

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断片、大正十二年

電報、着信、九月一日午前十一時五十八分
その後の通信は途絶えたり

婦人之友、附録、家計簿の付け方
一日一銭を笑う者は一銭に泣く

統計年鑑、人口動態、出生率は微増
死亡率は、この欄には記載せず

モダン語辞典、「エロ」の項、参照ページなし
「グロ」の項、参照ページなし
「ナンセンス」の項、これもまた、参照ページなし

百貨店広告、初夏の陳列会、
紳士用シャツ、婦人用日傘、
瓦礫の下より発見されし品も、
特価にて御奉仕申し上げます

産婆学教本、正常分娩の手順、第一期
異常の場合は、この限りにあらず

活動写真、封切館、本日満員
スクリーンの中では、誰も倒れない

震災義捐金、寄付者芳名録
名前、名前、名前、名前、
その下に、金額

心霊研究会、会報、第三号
「声は、瓦礫の隙間から聞こえた」
編集後記に、これ以上の記述なし

電報、着信、九月三日午後三時十二分
「ブジ シンパイスルナ」

婦人之友、附録、家計簿の付け方
一銭を笑う者は、もう、笑っていない

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 3

 2

隠された灰色の相貌

僕らは灰色の相貌をした星の下で生きていて、
白か黒かを突き詰めると、仲違いが決定的になる、
場所とも、時間とも、時代とも形容できない、「時空」に住んでいる。
トランプの耳を弾丸がかすめたあと、
彼が星条旗のもとで拳を振り上げた瞬間、
時空は急激なスピードで変化を始めた。
厳粛に、整然としているのは最早デジタル時計くらいだろう。

アメリカ第一主義、貿易戦争、暴かれるディープステート、
小児性愛、人身売買、性別は二つ、移民追放、分断、乖離。
陽気でハイに振る舞う、無能なイーロン・マスクをかたわらに、
大統領の息子が終始つまらなさそうにしているのが、
僕にはやけに不気味に見える。
問題はいつだって種を撒いたあとだ。

ロックスターがスキャンダラスに生きて、
みなが熱狂していたのがまるで子供の遊びのようだ。
今の時空では、ろ過された情報や言説ばかりが飛び交う。
誰もが賢者で告発者で、また被害者で加害者であるように、振る舞うことが出来る。
巨岩を未来永劫、頂きへと運ぶシーシュポス。

僕は煙草に火をつけない、
アルコールもコップに注がない。
なのに充分に酩酊し、昂揚して戦地を見ている。
傍観者ではなく、孤軍の老猿として、常に。
昨日、君にメールを送った。
返事は来なくて正解だった。
艶かしく身をくねらせる蛇が、
愛と情欲をすり替えて、死の島を這っている。
僕は見極めなければならない。
本当の重力を持つ愛を。
安住の地を見つけられない百年の孤独は、
時に移り気なのだから。

今日もTLはジェンダー、夫婦の諍い、レッドフォックス、詐欺まがいの投資、ゴシップであふれている。
官能がポルノムービーだけだとしたら、
それほど贋作の世界はないだろう。
僕は天国を疑っている、地獄は信じない。
君が完全に見えなくなる前に、
僕は君を信じていたい。

寒空の中、髪の毛をこれまで見たことのない色に染めるこの日、
僕の眼前を飛ぶのは、ドローンでさえ、そのかぎ爪で突き落とす鷲。
AM 8:40 朝食のカフェオレが尽きようとしている。

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 3

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もちろん

視覚的に四角
であるところのトド
まることを知らない
まるで丸
であるような
ビシビシ
ないしヒシヒシとした
菱形のひしめきで
なくもない
暗夜行路の鮟鱇
よもやよもや四万本の木
河岸の話
はたまた時に象に似た
あるいはヘソならぬイソ
かもしか錯乱や月
などなどの
長く保たれる事柄については
論ずるにも
イヤ!
オー!
なくなく
長々伸びるという
言うまでもない話だ

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 9

 9

金貨と目薬(4)

<新しい流れ>
「ねえ、達也~大きな川って、どれくらいの川が合わさっていると思う?」
加賀見 陵介との仕事の後、モデルとしてメディアに出る事も控え気味にしている深水だったが
ジムでのトレーニングは続けていた。
夜の仕事も増やす事もしなかったので、ジムでのトレーニング後に予定を入れずに武内の部屋で
シャワーを浴びてトレーニングの成果など他愛のない話しをするのが常と成っていた。
武内の部屋の洗面所から聞こえる深水の声は下手をすると独り言のテンションだったが
武内は聞き逃す事なく返事を返すのだった。

「美味しい皮のタレの組み合わせ?」
「今日のトレーニングに身が入っていないと思っていたら、お腹が減っていたのかよ。」
シャワーを浴びてスッピンの呆れ顔で武内を睨みながら
「焼き鳥の皮の話しなんかしてないわよ。川・都内に流れている大きな川の話しをしているのよ。」

武内は深水とは肉体関係は無かったが、深水がスッピンで接してくれる事に優越感を感じており
肉体関係を持つ事でプラトニックな深水 琴李を失う事を恐れる様に夜を共にしても体を求める事はしなかった。
「川?川がどうしたんだよ?川なんかに興味を持っていたか?」
深水も体を求めて来ない武内の前では心からリラックスが出来て自然と相談をする様になっていた。
「陵介との仕事で水の流し方は解ったのだけれど、大きな流れにするにはどれくらいの流れが
必要かなと考えていたら自然と口から言葉に出ていたのよ。」
深水の言葉に戸惑いながらも
「なに?加賀谷さんとの仕事に不満というか満足出来ていないのか?」
深水は、冷蔵庫から持って来たビールをコップに注ぎながら
「達也、新しい流れはアナタと考えているのよ。協力してくれるわよね。」
武内は唾を飲み込む代わりに注がれたビールを一口飲み込んでから
「琴李がジムに来た時から、琴李の夢を応援すると決めている。」
グラスのビールを一気に飲み干して深水は武内に話し始めた。
「次はね・・・・」

「編集長、次はスポーツウエアで切り込んで行きたいと思っているのですが、
モデルにと考えている男性も決まっているので会って貰えますか?」
前回の企画熱が冷めない内に動きたいと言う深水の意気込みとモデル男性が来ていると言う段取りの良さと
前回同様に深水の名前は出さない条件で企画の話しが進み加賀見と武内と深水を交えた打ち合わせする事と成った。
~つづく~

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金貨と目薬(3)

<3人の関係➋>
加賀見にショートメールで店に出るシフトを送り、
加賀見が来店する日は太客以外の指名を断り加賀見との時間を取るようにした。
何度目かの来店で同伴出勤を約束して貰い、同伴のお礼にとアフターで他の店へ飲みに行った。
何度目かのアフターで加賀見の寝ている横で目を覚ます事となった。
記憶を失くしての結果でなく加賀見のタイミングで、こうなる事を深水は望んでいた。
加賀見と朝を迎えるタイミングで深水は自分の考えるデザイン企画を持ち出した。
自分で考えた企画でなかった事も有って乗り気で無い加賀見に
この企画が成功すれば夜の世界から完全に抜け出せるから力を貸して欲しいとねだった。
加賀見の脳裏を深水と二人で成功する世界が横切り
「やってみるか、俺もイラストで食べて行ける様に成れば最高だしな。」
その言葉を聞いて身支度を済ませて深水は加賀見を置いて部屋を出て行った。 

加賀見との企画を進める為に深水は持てる人脈をフルに使い企画に現実味を持たせた。
深水はファッション雑誌の編集長を前に企画の面白さを熱弁していた。
「深水君、面白い企画だと思うけれど大きな問題が有る様に思うのだよ。」
編集長の言葉に深水は動揺の欠片も見せる事なく先回りする様に答えた。
「私が夜の仕事をしている事ですか?協力して貰えるアパレル企業からも指摘されましたけれど
この企画に対して私は一切、前に出ようと思っていませんし出ません。」
深水の言葉に「そんな貪欲な目で言われても誰が信じられるのだよ…」編集長の言葉を遮る様に
「私が今、欲しいのはお金でも名声でも無いのです。流れ私が源流と確信出来る流れが見てみたいのです。」
モデルが企画を提案しに来た場とは思えない異様に重い空気を押しのける様に
「流れ?流れて何だよ!まあ、深水が表に一切出ない事を条件に前向きに検討してみるよ」
編集長の言葉によって深水の異様な申し出と雰囲気に吞み込まれる様に深水の企画が机上に乗った。

そして雑誌の後ろの方に加賀見の顔写真と共にデザインに込められた思いなどが紹介された。
記事の内容からは自分の影さえ伺う事は出来なかったが深水は気にする事も無く企画の反響を追っていた。
愛の言葉文字を読めぬ程に解体してデザインとして使っているとアピールしたところ
秘めた恋心を感じるとネットで騒がれはしたが爆発的な流行とは成らなかった。
しかし深水は細いけれども自分が作り出した流れを感じて満足げだった。
~つづく~

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 2

 7

Ny.




灰色の海だった
壊れた
連絡帳に
なにかを書かれた形跡が
緋色の筆跡で
修正してある



灰色の海だった
海の上の
空だった
壊したのは



灰色の砂だった
水に
流されて
おちてゆく
地下へ



白い灰だった
灰の空だった
見上げると
なにもなかった



色とりどりの
ガラスで出来た
花々が



灰色の砂のなかで
ないている



空が燃えていた
青い
青い
青い空に



灰色の雲が
広がって
太陽の
黒点だけが
白かった



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 1

 1

阿国花伝

 昔、出雲の杵築に阿國と呼ばれる巫女がゐた。家は代々神に仕へ、神意を人の世に傳へる事を業とする家であつた。阿国も亦、其の一族としての生を受け、幼き頃より舞に精進してゐた。阿國は一族の者の中でも右に出る者がゐない程舞が上手であつた。
 永禄の頃、社の勸進を名目として諸國を巡る折、荒れ果てたる里の廣場にて七座を舞つてゐる時、群衆の中より荒い聲が立ちて、
「そんなことして何になる」
と叫び、石を投げる者がゐた。
「神に祈つた処で何の意味がある、數日前、隣村に飢饉が起こりみんな死んだ。村民は眞面目で厚く神佛を敬つてゐたんだ。本當に神樣がゐるのならば、こんな事にはなつては無いだらう。」
と、罵詈雜言が風の如く吹き荒れてゐた。其れも無理はなく、舞や藝能の類などは、京の公家や格式高い武家などの餘裕がある者達にとつての娯樂でしか無く、明日も生きていけるか分からない日々を送つてゐる農民からの顰蹙を買ふには余りにも十分すぎるものだつた。況してや、この時代になると神樣の存在や神祕現象等の靈妙なものに對して懷疑的な風潮が出て来てゐた。阿國は其の刹那、心境に「神に祈る意味、藝能の意味とは何なのか」と云ふ問いが浮かんだ。阿國はそんな葛藤を抱き乍ら各地で舞ひを續けてゐた。併し、惱みを抱きながら舞つてゐたものだつたから、出來榮えは漸う稚拙になつていった。
 かくして、反芻する思索を伴に諸國を巡り、やがて京の島原に辿り着いた。此処は人の欲と夢とが交はる街、音曲は絶えず、言葉は花の如く散り、情は夜に蘖し、夜明けに朽ちる──。阿國は此処で遊女と云ふものを知つた。阿國の眼には、遊女と云ふ者は人の嘆きや欲望を身に引き受け、笑みの下に深き孤獨を藏する藝能者にみえた。阿國は日を費やし、彼女らの歩み、視線の影を見つめてゐた。やがて心動かされ、同性であり乍らも、その色香に心を打たれた。阿國は遊女一人を迎へ、夜もすがら語つた。舞のことや、花街の事や、各地を旅して勸進をしてゐること、そして、内に抱へる葛藤のことも赤裸々に語つた。遊女の言葉は輕い樣にして重かつた、
「わつちは生まれた時には父母もおらず孤兒として生を受けたけど、今の旦那に引き取られて今のわつちがありんす。もし仮にこの生まれに意味が最初からあるなら、わつちはおそらく天涯孤獨の儘、生き死んでゐたでせう。されど、今の旦那に拾はれて、此処で暮らしてゆくうちに種々の遊女の仲間も出來て、今のわつちがありんす。さう考へれば、意味といふものは後より附くるものにして、初めより意味を持ちて存在せしものなどは無きやもしれませぬ。」
 と遊女は微笑み乍らさう言つた。阿國は其の時、靄の掛かつた心境に一點の光が射した樣に感じた。惱みと云ふ濃霧は晴れ、阿國の心は、明鏡止水の如く透き通つて清く澄んだ相を帶び始めた。其れはまるで、神樂を舞ひ始めた昔日の頃と同じ心境であつた。
 時は知らず知らずの内に移り、いつしか夜の氣は隠れて、東雲の光が天地のあはひに滲み出でてゐた。曉を迎へた空の色は紫と朱色の二重の層を象つてゐた。阿國は、夜もすがら遊女に言はれた事の餘韻に浸つてゐた故、一睡もできなかつた。
 阿國は宿から出て、水路の溝に立つた。そして、一思ひに護身用の短刀で髮を切り斷つた。阿國は何処か決意を固めた目をしてゐた。そして、其の切つた髮を水路に流した。その刹那、阿國の境内に覺悟と云ふ燈が曄いた。神の爲に舞ふも、人の爲に舞ふも、意味を求めれば皆須く空しく、意味を忘れて舞へば、やがて意味は後より立ち現れるもの、と、阿國は悟つた。茜さす水面に寫る、亂れはだけた着物を、天女の羽衣の樣に纏ひ着てゐた阿國の姿は、藝能の神である天宇受賣命を彷彿させる樣であつた。
 阿國は京の四條河原に仮小屋を結び、日々、其処に立ち舞ひ續けた。嘲りを避けるため男裝し、神樂にも遊興にも屬さない獨自の舞を編み出した。其の舞は、敬ひと戯れ、聖と俗とを隔てず、見る者の心を搖らし、笑はせ、時には畏怖の念を呼び起こした。
 人々は是れを「かぶき踊り」と呼んだ。かぶくとは常ならぬこと、外れし事の意である。斯くて阿國の舞は、神を離れ、人に近づき、人の世に根を下ろす藝となつた、後の世に歌舞伎と稱せられる大河の源となる。
 神に仕へし巫女の舞は、意味を疑ふ処から始まつた。疑ひを抱きて舞ひ續けた果てに、ひとつの文化の華へと變じたのである。されば、人の營みの意味とは、初めにあるものに非ず、耐へて續けた跡に已、仄かに殘り、後々、開花するものであるのやも知れぬ。
(京都府の某作家の書斎から)

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