投稿作品一覧
お父さんが欲しかったもの
息子はもうすぐ十八歳になる
お父さんは
とてもたくさん話すだろう
もういいが、
といってビールを注ぐだろう
お父さんは息子と
お酒を飲むのが
夢だった
でも産まれたのは娘二人で
だから、まだ5歳の息子に
ビールの泡を飲ませようとして
母に怒られていた
お父さんはなぜ
男の子がほしかったのか
お父さんのお葬式で
「あなたがつつみさん?」
と、会社の方に声をかけられた
私が引きこもってしまっていた時期
父は仕事の後、いろんな人に
相談していたと
いうことだった
すごく遅くに
仕事から帰ってきても
特に私を気にしてないようで
そんなことより
とても疲れていた
そのくらいから
言葉にはしないけど
なにかにつけて
手紙を書いてくれた
そこに全てが綴られていたんだと
やっといま気づく
お父さんが欲しかったもの
星祭の祈り
打水代わりの夕立ち
星祭の祈りの短冊を濡らして
通り過ぎていった
その後の凪いた軒先
風鈴が退屈そうだったから
うちわで仰いでみた
『何してるの』と笑うあなたに
「早くお祭りいこうよ!!」
と子供みたいにはしゃいでみる
現代の彦星と織姫なんて
ロマンチックではないけれど
隣に居られるあたりまえが
ずっと続くことを祈って
いたむ
どこか が
うっすら いたんでいて
いたみが ないことなど
なく
じわじわとくさっていく
それが いきる
いききる ことなら
かなしくて しようがないから
あめのひ これいじょう
くさらないために
しっかりと かさを さす
おはよう
きょうはのどがいたんでいる
紫煙
丸めた唇から
紫煙が輪を作り
宙に舞う
言葉はいらない
驚く顔を見て
笑顔から輪がひとつ
もっとと
大きな輪を
せがむ
ひとり
夜の部屋で
輪を作る
吐き出した
紫煙で
輪を崩す
灰皿から
線香のように
静かに舞い上がる
指を避けて
部屋の灯りのリングを
包んで消えた
詩は二度目の夏をあるく(詩はあるくXXV)
夏が
黒い梅雨の 合間に
まるい
白いすそを ふちどり
詩は
てをのばす けれども
まだ
もう少し その先に
あす
夜明け前 星をみよう
詩と
そらの かわべを あるこう。
メロン
ひとの手を叩く
無慈悲にたじろぐばかりの
ぼくのために豊潤な果肉
乾いた風を吸い込んだ緑
わずかに湿りを帯びて今
野の一群をさらい陽をくぐり
ここに解き放たれて
ずっしりと内を満たした実の
球の表皮に縦横にめぐらせた
脈の交わりに指を這わせながら
ぼくの地図の上
いつしか
思い思いに輝く
みえない光のこどもたち
あちらこちら燻る
暗い穴ぼこのようになって佇む
きこえない雨のこどもたちの
まだ蒼く閉じられた瞳の前
ただそっと降り立って
柔らかな肩の縁にそって
まばゆく瞬く
何気ない小さな善意に
与えられる一つの恵み
つながっていく
ぼくの地図をころがる
この街の季節の中をどこまでも
夜から
二つ
瞳が
落ちる
墨汁
かと
瞬けば
血が
転がる
金貨と目薬(4)
<新しい流れ>
「ねえ、達也~大きな川って、どれくらいの川が合わさっていると思う?」
加賀見 陵介との仕事の後、モデルとしてメディアに出る事も控え気味にしている深水だったが
ジムでのトレーニングは続けていた。
夜の仕事も増やす事もしなかったので、ジムでのトレーニング後に予定を入れずに武内の部屋で
シャワーを浴びてトレーニングの成果など他愛のない話しをするのが常と成っていた。
武内の部屋の洗面所から聞こえる深水の声は下手をすると独り言のテンションだったが
武内は聞き逃す事なく返事を返すのだった。
「美味しい皮のタレの組み合わせ?」
「今日のトレーニングに身が入っていないと思っていたら、お腹が減っていたのかよ。」
シャワーを浴びてスッピンの呆れ顔で武内を睨みながら
「焼き鳥の皮の話しなんかしてないわよ。川・都内に流れている大きな川の話しをしているのよ。」
武内は深水とは肉体関係は無かったが、深水がスッピンで接してくれる事に優越感を感じており
肉体関係を持つ事でプラトニックな深水 琴李を失う事を恐れる様に夜を共にしても体を求める事はしなかった。
「川?川がどうしたんだよ?川なんかに興味を持っていたか?」
深水も体を求めて来ない武内の前では心からリラックスが出来て自然と相談をする様になっていた。
「陵介との仕事で水の流し方は解ったのだけれど、大きな流れにするにはどれくらいの流れが
必要かなと考えていたら自然と口から言葉に出ていたのよ。」
深水の言葉に戸惑いながらも
「なに?加賀谷さんとの仕事に不満というか満足出来ていないのか?」
深水は、冷蔵庫から持って来たビールをコップに注ぎながら
「達也、新しい流れはアナタと考えているのよ。協力してくれるわよね。」
武内は唾を飲み込む代わりに注がれたビールを一口飲み込んでから
「琴李がジムに来た時から、琴李の夢を応援すると決めている。」
グラスのビールを一気に飲み干して深水は武内に話し始めた。
「次はね・・・・」
「編集長、次はスポーツウエアで切り込んで行きたいと思っているのですが、
モデルにと考えている男性も決まっているので会って貰えますか?」
前回の企画熱が冷めない内に動きたいと言う深水の意気込みとモデル男性が来ていると言う段取りの良さと
前回同様に深水の名前は出さない条件で企画の話しが進み加賀見と武内と深水を交えた打ち合わせする事と成った。
~つづく~
サマーノイズ
やっと
夏が来る
夏は好きだ
いや大好きだ
降りそそぐ雷鳴
耳をつんざく蝉の声
世界を白く遮断する夕立
空高く弾け飛ぶ打ち上げ花火
どれもこれもが大音量で
わんわんと泣き叫ぶ
私の声をすべて
掻き消しては
無にかえす
安らかさ
ゆえに
七夕祭り
商店街やショッピングモールでの七夕祭りイベントで配られる笹がプラスチックで出来ている事に
違和感を持たなく成っている自分に対して子供がプラスチック製の笹を見て
何故 笹がプラスチックなのと聞いて来た時の適切な答えは何だろうと思う。
まだ、日本にパンダが居た頃ならばパンダのご飯をお祭りの道具に使うのは気が引けるだろと言えたかもだが
日本にパンダが居なくなった今は、誰に子供を納得させる為に前に立って貰おうかとくだらない事で悩むのは止めて
ロマンチックな星祭りを詩でも書いて楽しむ事にしましょう。
年に一度の星祭り
川星に阻まれ会えぬ二つ星
笹船にさえ乗れぬ姿見て
何を願えと言うのやら
短冊に涙で綴られるは悲恋かな
恥ずかしがり屋の織姫に引きこもり気味の彦星だから雲のカーテンを閉めてから逢うかも知れないけれど
気象台が梅雨に入ったと発表すると雨を降らすのを止める意地悪な梅雨だから、二人が口づけをしている時に
雲のカーテンを開けてしまうかもですね。
自分達の願いも大事ですが自分達の星 地球が夜空に輝く星たちに負けぬくらいに美しくあれと
願うのも星祭りの楽しみ方かもなどと思いながら七月七日の七夕の夜空を眺めてみようかと思います。
純粋れんこん
天丼の『てんや』で
五三八円の天ぷら生ビールセットを頼んで
僕はちょっと呑んでいる
このセットでは4品選べるので
海老
いか
れんこん
いんげん
を、注文した
財布には七二〇円しかないから
これっきりだ
いか天を食う
柔らかくて
青春の味だよな、と思う
ミルキーで
中学生っぽい味だ
次にいんげんの天ぷらを食う
少し、グリーンな気分になる
ブルーではない、グリーンな気分だ
それから海老天を
尻尾の先まで食う
天ぷらと言えば、海老は主役だ
学生時代、父が連れて行ってくれた高級な天ぷら屋で
カウンター越しに海老の踊り食いが出てきて
ためらっていたら
もぞもぞ動いた
生きているのだ
びっくりした僕を父は楽しそうに眺めていた
どうにかそいつの身はやっつけたが、
千切るまでビクビク動いてた
父は頭と尻尾も、上手に割って片づけたが
僕には頭と尻尾は食えなかった
店主は黙って皿を下げ、父と目配せして
食い残した頭と尻尾を
からりと揚げて、無言のまま
再び出した
以来、僕は
海老のてんぷらは
尻尾まで食わなければいけないものだ
と、思っている
付いていれば、頭も食わなければいけない
人生には
逃げ場のない高級店で
頭と尻尾しかない海老天を
食べなければならない時もあるのだ
しかもそれが美味かったりするのである
いろいろあったものだが
何だかんだ言っても
あの頃の僕に
親父は親父なりに優しかったのだろう
最後に、れんこんを食う
れんこんには何の思い出もなく
ただ
れんこんの味がした
旨かった
(2024.10.20「焔」初出・2026.7.5改稿)
オン・ザ・ミルキー・ウェイ
私の丸い乳房を撫でると
吹き出す乳は
やがて
天の川になり
オン・ザ・ミルキー・ウェイ
あなたの手は乾いている
と思ったけれど意外
しっとりと柔らかい手だった
爪の先がかぎ裂きになっていて
私は切る
パチリと切り離される
飛び散った爪を
床から拾い上げる
硬い半透明の三日月
あなたは痛いと言って
手を引っ込めるけれど
私は少しもあなたを傷つけはしない
大丈夫 ただ切り離されただけ
パチリと音が鳴って
私の中に移された
半透明の三日月
あなたの爪の先を
何度も指で確かめる
もうかぎ裂きではない
滑らかに尖がって手を放す
私の丸い乳房から吹き出す白いミルクを
柔らかい手に受けて
あなたは飲む
切り離された半透明の三日月を
私は両手で
ミルキーウェイの中央にかえす
月が出ている
object.
𝚘𝚋𝚓𝚎𝚌𝚝.𝗼𝗯 𝗷𝗲𝗰𝘁
人の手
に依る。
風雨の蒼に堆積した
埃を払う
木肌
に触れる
涼しげな冬
の絵に
雪が降っている
窓の外には
いつもの
静かな朝
すずしい
水が囀る
蛇口から
おちる水滴、波紋
雨宿り、
してゆけば、よいのに
昨日、
駅まえを歩いた。
あまやどりしても
よいのに
うちみずのあびない
よいあくびのするところ
ねこの草のね
みえ隠れする
葉にそよぐ
ゆびさき
美しくなる
突然世界は美しくなる
建物のヘリがほぼ垂直に空間を伝う
横切る電線が直線的で少し撓んでいる
驚きで胸が震えた
隅から隅まで何もかもが
突然美しい
鳥が鳥の形となり
一瞬一瞬モノの配置を置き換える
一切から名前が消え
役割が消え
感情が消えて
感覚をはかる目安に変わる
音が流れるが音源が剥がれ落ちている
小料理屋の換気扇から
嗅いだことのない匂いが流れてくる
と思った途端、そんな店は何処にもない
今このとき
太陽電池の羽を開いた人工衛星が
センサーとカメラを地上に向けている
衛星は既に機能を停止し
もはや何のためでもない何かが
世界の一部となって僕を見ている
何もかも
美しい
◽️プチストーリー【愛す(あいす)】(作品No_01)
「そのアイスおいしそうぉ」
彼女が僕のコーンに載っかっているまん丸アイスを見つめている。
その視線で溶けやしないか心配になるほどだ。
「、、、、少し食べる??」
僕にはもうこの言葉一択しか選択肢がなかった。
「うんっ!!」
急におもっいっきり笑顔に変わり、首の頷きが、目がテーブルを見てまた僕をみた、いやアイスの方かもしれない。
あーん、パクっ
「おいしぃー!」
「人からもらうのってなんでこんなに美味しいだろうね!」
「ね!」
なんか全てのことがどうでもよく思わせてくれるこの瞬間
僕はアイスが大好きだ。
(了)
雨に唄う
うなだれた足元染める黒いしみ
身を知る雨に濡れて唄えば
草待ち:ずいぶん遠くのほうで
ずいぶん遠くの方で
誰かを思うのが好き
バーゲンプライスのある本屋で
ポエトリー&ハーツ
と書かれたペーパーブックに目をやりながら
これは これは
ずいぶん遠くの誰かが
すぐ側によってきて
助けてくれなければ
とても とても
キャッシャーまでは持って行けない
よ
買いそびれて
帰る家並みのきれいに刈り込まれた芝生は
幼い頃のフェンス沿いの日々を
眩しくも
優しく思い出させて
「日曜の朝」
とか
「日曜の陽射」
なんかの歌詞の意味が
目の前に確かに放り出されていて
自転車をこぎながら
一人で笑ってしまう
芝生の脇のいくつかの
オオバコやタンポポしか数えるものもないのに
ひとこぎ進む度に
君を通り過ぎた気がした
「花束と折り鶴が少しだけ風に揺れる、ように」より
---------
https://youtube.com/shorts/9-IodLQpBWE?si=-vbgnfLUOv3h-JM_
ヒコーキ耳の詩
鳴けない猫がいる
そいつは雨ふりの日曜日に
一匹暮らしの部屋で
無口な犬の真似をしながら
愛されたいとただ願っているんだ
年老いてくさいお前の倫理観で
その猫をなぐるな
美しい
夕日を見ながら私が紙になると
妻は薄い私の身体を
一枚一枚
シュレッダーにかけていく
紙はシュレッダーするものよ
と妻は震える手で淡々と私を
回転する歯の方に押し込んでいく
細断された紙片は風に乗り
どこかに運ばれ
そのどこかでもっと小さな
繊維や粒みたいなものになるのだろう
これが君と見る最後の夕日か
そう思うと紙のように
思い出までもが薄くなって
視覚も嗅覚も透明になっていく
最後に君の首筋の匂いを嗅ぎたかったな
それは言葉になったのだろうか
私は私がいなくなった後の
夕日と妻のシルエットを想像する
美しい
2023年前半期、精神病棟記述詩
今この瞬間、誰かと誰かがkissをして
今この瞬間、誰かと誰かが殺されて
今この瞬間、誰かと誰かがアイスクリームを舐めている
今この瞬間、誰かと誰かが皿を洗い
今この瞬間、誰かと誰かが蕎麦を茹で
今この瞬間、誰かと誰かがお茶を飲んでいる
私がなにをしても、世界は変えられない
ただ、風が吹き、雨が降り、雷が鳴る
ただ血が吹き出、ただ血が止まり、ただ目に涙する
私は、世界をコントロール出来ない
善きにせよ、悪きにせよ、変えたいと思わない
私は全能の神でいるより、風に揺れる木の葉でありたい
寒空の下、揺れる木の葉が、存在の小ささと儚さを教えてくれる
『君という星華』
幼少時代に比べ随分と厚みの無くなった液晶画面
それから流れる天気予報の声を聞きながら手早く朝の支度を済ませ、玄関へ向かいかけては引き戻り「外出される方は、念のため傘を」そんな言葉をボタン一つで遮って
時計を見れば、いつもの時間
混み合う車輪の上から眺める商店街の街並みを彩る様に灯籠飾りや提灯が至る所で揺れている
笹を携えた子どもたちが大人の後を追っているのが目に入り、同時に流れた「本日は、七夕祭りのため」のアナウンス
見渡せば、チラホラと浴衣姿
「もう七月か」呟く代わりに短い溜め息一つを漏らし、何処か浮き立つ車内を後にして「せめて定時に」と密かに意気込み重い硝子扉で意識を変えたのは、数時間前のこと
終業直前、不躾に唸った使い古しのスマートフォン
何事かと開いた通知の揶揄うような「待ってるぞ?(笑)」に添付されていた浴衣姿に緩む口元を頬杖で誤魔化して
重い硝子扉を開けば、今朝の自分が恨まれる夕立に
雨宿りに寄った雑貨店
なんとなく目に留まった季節雑貨に君に似合いそうな名も知らない華を模したブローチを見付けた
レジにあった花言葉一覧の写真の中に見付けた
物静かで儚げなのに凛と強い、そんな君に似合いの華は月下美人と云うそうだ
夜毎の戯れ
雨の夜はきみのこと想うよ
濡れるのが何より嫌だと
震えながら言ったこと
覚えているよ、今も
雨の音が聞こえる
闇のせいで何も
見えなくなる
窓の外へと
想いだけ
届けと
祈る
夜
2018/07/07
────────
止まない不安を凌ぐために
僅かな灯りの下でペンを
走らせる音、それさえ
雨音に似ていました
せめて思いだけは
届くことを願い
切手を貼った
それなのに
水性故に
宛名は
消え
涙
2018/07/08
────────
窓
から
見える
あの街灯
点滅してる
きみの言葉が
消えてしまった
あの夜からずっと
確かめたいよ、心を
2018/07/12
────────
無邪気さが
焦れったい夜でした
雨はわたしを
たしなめるように降り続き
紫陽花が青く染まったのです
これは甘雨だと
花が言うので
飲んでみたけど
とても苦くて驚きました
すぐにでも
飛んでいきたい気持ちを
雨が上がるまで
耐えていました
2018/07/12
────────
滲んだブルーブラックの
インクが空を染めたなら
きみを探しに行くよ
今宵 闇を纏うのは
きみのこころ確かめるため
静寂の中で二人きり
さあ 聞かせて
きみの声
指先 見つめ
身じろぎもせず
待っているよ
2018/07/14
────────
大事な文書を
暗号化して
鍵を掛けて
満月の夜は
衛星通信と致しましょう
大きなパラボラアンテナに
かかる雲は無く
今宵は快晴
インクブルーの空
明滅する信号を
正しく繋いで
読み解いて下さい
解凍するには
じゅうぶんなほど
暑い夜です
2018/07/15
────────
ふたりきりで
かたく鍵を掛けて
昼夜交わした言葉
覚えていますか
強い日差しを浴び
砂塵にまみれたアンテナ
少しずつ太陽雑音が
言葉を奪っていったけれど
きみが見ていたのは
ただの幻影ですか
ぼくが愛していたのは
ただの信号ですか
2018/07/30
────────
待っていたはずの雨上がり
賑やかになる街並み
喧騒、ノイズに
絡め取られ混線する光の糸
そのどれか、
あなたに繋がる一本を手繰り寄せるほど
わだかまり、足踏みする意図が
玉留めを作る
丸めた文が
机の端で発光している
まぼろしのように
けれど確かに
(此処に居ます)
2018/07/31
────────
この手を伸ばしても
確かめられない存在を
もどかしく感じているのか
それとも近づきすぎて
嫌われてしまうのが怖いのか
言葉だけではもう
繋ぎとめられない
強まる雨音に
燻りだす埋み火をどうか
どうか叱ってください
(確かめたい)
2018/07/05
────────
小路の紫陽花が
今年も咲きました
密やかに伸ばした枝の
閉じている花芽にも
夏の陽射しや
冬の寒さはひとしく訪れ
繰り返す明暗に
埋み火の夢を見て
懐かしい雨音の鳴る方へ
季節をひらけば
約束が無くても
其処できっと会えますね
2018/07/08
────────
一雨ごとに季節は進み
気がつけばこうしてまた
afterglow × 杜琴乃
2018–2020 往復書簡形式による連詩
▓▓▓▓の報復主義
・攻撃を受けたら、必ず倍返しにすること。
・攻撃をしたら、必ず倍返しにされる前提で行動すること。
報復主義的生き方の実践は、たったこれだけだ。
さあ、始めよう。新しい生存戦略。
ぎもん
❶なぜあなたの発話内容には、いつもあなたしかでてこないのか。でも、一方で、"わたし"を通さない問題意識などあるだろうか。
❷主語を自分にしか設定できないのは、未熟なのではないか。でも、一方で、インターネット上の語りとはそういうものではないか。無限の私語りの集積がインターネットではないのか。
❸上に反論。インターネット上には私語り以外にもあらゆる語りが存在する。しかし語る際に、わたしという意識を通して問題設定をするため、やはりわたしを通さない語りはないのではないか。
❹それなら時刻表とか、説明書とか。
ここで力尽きました。思いついたらまた書きます。
墓滅入り
丁度五年前、
夜勤明けの其の足で
中原さんの墓を見に行つた。
吉敷川の
干上がつた川底に、
小石小石小石小石小石小石小石小石小石小石
小石小石小石小石小石小石小石小石小石小石
小石小石小石小石小石小石小石小石小石小石
小石小石小石小石小石小石小石小石小石小石
を、掻き分けて、辿り着く、
住宅地の禿げた一画に
中原さんの墓は在り
その石肌はなめくじのやうに
てらてらと青白く光つていた
花筒はとうに涸れているし
其処で、
私が好きな花を巧く答えたとて
中原さんは
きつとちつと舌打ちするのでせう
旧小郡驛方面から
観光機関車の汽笛
幽かに、
中原さんの墓は在るだけで
あのひとつのものは
解らなかつた
私が失職する前の
他愛の無い出来事である。
https://i.imgur.com/UAQzgl4.jpg
報せ
よい報せってぇのは
いつだって
いつも
一歩遅れてやってくる
だからさ
だから
そんなに焦って
出ていかなくっても
いいんでないかい
戯曲《明晰な負傷者》に基づくカヴァティーナ
実験用の傷は表面に透明な晩鐘の審美主義的な田園音楽を想い浮かべている。ときにその構成は《セゾン》とか《オブジェ》と呼ばれる場合があるが細密に見れば雪でできた猿は乗船員にはなりえない。雪はコラージュではないし実現困難な迷宮におきざりにされた黄色い帽子でもない。ぼくが見た彼は断層で《公営方式のシバムギから採集された大いなる涙のベッド》と呼ばれ逞しいがすでに臨終に近い腕から幻覚的な表情の香りを漲らせていた。他のどんな牛の脛にも似ていないその実験用の傷について彼は《薄暗いカヴァティーナ》に尋ねよと頻りに言った。孤独な者はつねに岩場へみちびかれ人間でできた波間からは資材と磁石の声がさかんに響く。それら人間の波間は雪である。そしてやはりそれはコラージュではないし表情のない記憶の松明でもありえない。「軽はずみな狼だよ、軽はずみなカビの生えた歓迎会だよ」吐息が夜に埋葬される。ときにその構成は《セゾン》とか《マヤ族の習慣》と呼ばれる場合があるが細密に見れば猿でできた純粋な動脈硬化は乗船員にはなりえないしその伴侶にもなりえないのである。「ああ、ぼくの新しい専門家、ああ、ぼくの憧れて来た村の機関銃掃射」悪態は大地より悲しい気晴らしである。ぼくが見た彼はおきざりにされた黄色い帽子をかぶり長い時間をかけて桃色の液体の美しい夜に基礎づけられた猿たちが乱舞しながら宣伝する純粋絵画の努力としての呼吸法につらなるけっして複雑ではない戯曲を書いていた。ありとある指のうごき。ありとある短い経歴への賛美。ぼくは工場の暗い認識の状態のままで晩鐘が鳴っているのを聞いて実験用の透明な傷の表面が徐々に徐々に生垣や牢獄から立ちのぼる煙の恍惚のふとももの内側深くに滲み出していくのを受け入れた。雪は陥没した神秘である。岩場にみちびかれた人間はひとりひとりが波間の構成要素として呼吸する。口はなく執拗な死後もそこには存在しない。
ねねここ
気がつくと
たくさんの
ねこねこねこ の顔が
寄り集まって
こちらを見ている
何十の ねこねこねこ
何百の ねこねこねこ
の目線が
金色に見つめている
その前を
わたしたちは 右往左往して
追い立てられるねずみのように
暮らしている
あらゆる 石垣の上の空に
あらゆる 境界線の土に
背丈の目盛りを 掘りつけられ
削られた森の 木々の合間に
ねこ ねこ ねこ
ねね ここ ここ
じいっと 動かない 何百の
ねこの目の中には 月も陽もあるから
夜も昼も その目は
閉じることがない
こうしていると もうどこまでが
一匹のねこなのか
空の縁 地平線 あの山も全て
ねこの一部なのだろうか
新月の闇に ねこたちは
溶け合わさり わたしたちへ覆いかぶさる
そういえば ねこは元は海なのだ
だから時々
リビングの椅子や塀や屋根の上で
液状に戻りかけているではないか
ねこたちが いっせいにまばたくと
わたしたちは流れ星を見たという
ねね ねね ここ ここ
ここ ここ こ こ
からっぽの ねずみとりのそばには
大きな爪が
だまって置かれている
モリ・マキコの小説
むかしモリ・マキコという
作家がいて
ぼくは
その人の単行本を
Amazonやなんかで探して
古本を
買っていた
内容はもう
驚くほど覚えていなくて
ただテクスチュアというか
独特の孤立感
あるいは冴えた
厭世的な感覚は覚えている
ぼくは大いに感心したし
いい作家だなあ
孤独を
センチメンタルじゃなく
怜悧なイマージュで
描いているんだなあ
と思ったものだ
何とはなしに
今一度
モリ・マキコを読みたいなあと
思うのだが
残念なことに
ぼくは今の家に引っ越してくる際に
ほとんどの本を
処分したのだ
古本で買った絶版本
手放したらもう手に入らないかも
という本は
なるべく残すようにしたのだが
錯乱していたか
なんだか知れないが
処分してしまったようで
蔵書の中から
見つけられない
ああ残念だな
モリ・マキコ読みたかったな
引っ越してきてから
何度か
そう思う夜がある
思うのは
いつも夜なのである
これを書いているのも
深夜2時だ
サー・ネヴィル・マリナー指揮
アカデミー室内管弦楽団
演奏の
モーツァルト
交響曲第40番ト短調
第3楽章の
メヌエットを繰り返し聴きながら
書いている
暗い影の線描が追いかけ合いをし
重なりそうになるところで消え
また波の揺れ動くように
生起する
電子的なプロジェクターの映す影の
虚無のようでもあるか
この音楽と
モリ・マキコの小説には
共通したものが
ある気がする
ぼくは普段は
瞑想しながらシュルレアリスム的な
ものを書くのが
日課みたいになっているのだが
今日は
そんな風に書けない日だな
と思ったのだ
それで何となく
アンドレ・ブルトンや
バンジャマン・ペレの詩を読み
瀧口修造や
飯島耕一を読み
パスタを食べ
ビールを飲んだ
それで不図
モリ・マキコのことを考えた
……赤黒く熱を持った腫瘍が脇腹のあたりにあり
男はそれが次第に大きくなり
目と鼻と口が現れるのを知り……
ある日その腫瘍は語る……ぼくが、ぼくが、可愛い羊だった頃の
前世の話なのだけど……
男は
俺は単独者なんだよお!
単独者!
単独者だ!
と叫び腫瘍を引きはがそうと努力する……
腫瘍は
鋼のようだ
男の爪は割れる
血が流れる……
違う。そんな内容では
断じてなかった
しかし小説のタイトルは「単独者」であったように
思われる
あの人の作品は
良かったよなあ
また
読みたいなあ
ただそれだけ思った
そして特に設計図なく
これを書いている
いつもは
詩を書くときは
スタイル
形
構造を
かなり意識しているけれど
今日は
それが億劫だったのだ
なんか
疲れているのかな……
メヌエットは何周目か
わからぬくらいになっている
13時からまた12時間くらい
働かないといけないから
そろそろ寝よう
まぶたを閉じて
息を吸って
息を吐いて……
薄暗い空間を
無数の影の浮遊物が
追いかけ合う
フーガ
フーガ
発光するものは
なんだろうか
部屋の明かりを消していても
目を瞑ると
何となく仄かに
ふわり
発光するものは?
フーガ
フーガ
そしてモリ・マキコの小説の
手触りだけの
記憶
(2026.07.05 02:20頃)
共謀
あの乱層雲は正犯であり雨は従犯である
あろうことか彼らは折り畳み傘を所持していた
静かなかたまり
扉がみえたらね
あれほど追いかけっこしたのに
よーいどんっで
扉がみえたらね
ぼくったら月なんかすっかり忘れて
ひとりお家に帰る
さようなら
月といっしょに
僕はうちにかえる
よーいどんで駆け出して
電線の五線譜
月は光る音符
夢中で走ると息がみだれて苦しくなった
冷たい息の通りみち
少し喉を鳴らしてみると
掠れた音が小さくでた
足を止めれば
この夜の白熱灯
ぼくを追い越して
ひとりぼっちにしたりしない
ふりかえると
扉がみえて
ぼくったら
いつもうっかり月なんか忘れて
さよならも言わないで、
僕は
ひとりうちに帰る
トイレと水筒と私
水筒の中に水が入っていてそれを飲みます。
ごくごくごくごく
なんだこれ、しょっぱいぞ!これはおしっこだ。
俺の水筒におしっこを入れたのは、誰だー!!
ぽわぽわぽわぽわー
過去編
ジョジョジョジョジョー
現在に戻る
そういえば昨日水筒におしっこを入れました。答えは私でした。
おしっこを水筒にする私を見て、トイレが嫉妬して泣いていました。
「全く!私ってやつがいながら...ぐすんぐすん」
そんなトイレがいたのに、私は寝ぼけていて慰めもしなかったのです。私は、なんてやつなんだ。トイレというやつがありながら水筒におしっこをして...。罪悪感で胸がいっぱいになりました。もう遠足を楽しむ気分ではありません。
「先生!僕はトイレというやつがありながら、水筒におしっこをしてしまいました。トイレは悲しくて泣いていました。早く謝りに行かなければいけません。」
「おおそうですか。そうですか。でもね、それくらいのこと、意外と気にするほどではないかもしれませんよ。トイレに感情はありません。」
「トイレに感情は、ありまあああす!!」
私はそう叫び家に向かって突き進みました。
ぴちょぴちょ、ぴちょぴちょ
床は水浸しです。やはり、泣いています。
「トイレすまなかったー!!」
ガチャッ!
トイレの部屋を開けると、何やら転がっています。これは、サンポール!トイレ用洗剤です!そして中身は空っぽです!
「まさか!飲んだのか!これを!!全部!!!!」
トイレには水が溜まって、ぴくりともしません。
「吐き出せ!吐き出せー!!!!」
がちゃがちゃがちゃがちゃ
私は水流し用の手すりを必死に動かしました。
ガチャガチャガチャガチャ、ガチャガチャガチャガチャ
ついにトイレは、動きませんでした。
トイレは、自殺しました。
お線香を炊きました。
私の涙とトイレの水が混ざり合い、ロマンティックでした。
深淵を見下ろす
ゆっくりと渦巻くその中心には
底が見えぬ深淵が形成されてゐて
何故か私はそれを見下ろせるのです。
まるでそれはヰリアム・ブレイクの詩篇の
幻視の世界に呑み込まれたやうな世界だったのです。
ブレイクがabyssと呼んだであらう其処には
苦悶するネブカドネザル王のやうな獣人で犇めき合ひ、
存在の呻き声ばかりが腹の底に響き渡るのです。
その深淵は、しかし、私のみを呑み込まず、
それ以外のものならば何でも呑み込むのでした。
私はそのabyssを覗き込みながら、
何故に苦悶する獣人ばかりが其処に犇めき合ってゐなければならぬのか不思議なのでありました。
何故なら苦悶は私も同様にしてゐて、私こそはabyssにゐるべきものだった筈なのです。
それが私はそのabyssから疎外され、
独りabyssを見下ろしてゐなければならぬことに大層不満だったのです。
これは、しかし、私が傲慢だったのでせう。
私の苦悶は、abyssに犇めき合ふ存在に比べれば全く取るに足りぬもので、
どうでも良かったのかも知れません。
然し乍ら、私の苦悶は、私に大きく関はるものに違ひなく、
決してabyssに犇めく獣人に引けを取らぬものと思はれたのですが、
まだまだ私は未熟者で、abyssに下れぬ存在なのかも知れないのです。
それはある意味で哀しいもので、
天地逆転した考へ方なのですが、
私こそabyssの住人でなければならぬといふ焦燥に駆られるのでありました。
つまり、私の思索はまだまだabyssに犇めくものたちに比べれば浅薄でしかなく、
私の存在の位置がまだ、その渦巻く深淵には足一歩たりとも入れぬものでしかなく、
つまりは、私なんぞは虱にも匹敵すら出来ぬ存在と言うことなのです。
これには臍を噛む思ひなのですが、
しかし、そのabyssは決して私を受け容れないのです。
このまま未来永劫当事者になれぬ私は、
世界外でしか存在出来ぬ哀しい存在でしかないのです。
直截に言へば私なんぞが存在する事自体が烏滸がましいことだったのです。
とても哀しいです。
はらはらと頬を流れる涙は、
その深淵へと零れ落ち、
abyssは大雨となり大水が出て、其処で犇めき合ってゐた苦悶する獣人は悉く水没するのです。
たちまち溺死するものたちにより死屍累累となり、abyssは阿鼻叫喚の世界へと一変してしまったのです。
何て事でせう。
私の涙が死に死を呼ぶとは。
呻き声は更に大きくなり、
何だか其処は芥川龍之介の『蜘蛛の糸』の世界へと変貌したのか、
私に助けを求めてゐるのです。
これではいけないと私は左腕をそのabyssに投じたのですが、
abyssに生き残ったものたちは私の手へと我先にと先を争ふのですが、
哀しい哉、私は非力で羸弱なため、たった独りの存在しか引き上げられないのです。
其処で引き上げようとしたのですが、吾も吾もと独り引き上げようとしたものの身体にしがみ付くものが続出したのです。
それでは私は引き上げられません。
しかし、よくよくabyssをみてみると唯、独り水没しながらも思索に耽り、
私の手などに目もくれぬものがゐたのです。
私は足先に力を込めて右腕を放し、
さっとそのものへと伸ばして引っ捕まへては、瞬時に引き上げ、
さうして、私は左腕を偶然近くに転がってゐた斧で切り落としたのです。
痛みで私は更に泣きくれて、
また、切り口から噴き出す血もそれに混じって
abyssは血の雨の大水で地獄の様相を呈したのです。
私はたった独りの思索に耽るもの以外を選別してしまったのです。
何て傲慢な事でせう。
私は血が噴き出す左腕の血を止めるために切り口のところを口と舌とで紐できゅっと縛り付け、
然し乍ら、痛みで涙は止まらなかったのです。
さうしてabyssは更なる大雨が降り、abyssのものたちは全て水没して死んでしまったのです。
すると深淵の渦は急速に回転速度を上げて、しゅっと何処へか消えてしまったのです。
かうして私は無数の死を背負った存在となり、
一方で私が引き上げた思索者は、終ぞ私には目もくれず、只管自身に耽り続けるのでした。
旧世紀末少年
解答者は現れないまま
30年も手付かずの宿題を解く為に、
絶版にされた成長神話や
詠み人知らずの安全宣言を、
もう一度なぞる価値はあるの?
実在するのかなんて知らない、
それでも、
誰もがその肩越しに
同じ神様の息遣いを聴いていた時代を、
羨みたくなる愚かささえ罪なの?
'平和'や'安心'は、
ずっと僕らのそばにあって当たり前の存在だと、
いつからそんな思い違いをしていたの?
これだけ溢れた街なのに
何か足りない僕らはつまり、
気絶しそうな口調の話し言葉で、
夜通し喋りまくる火花だ。
吹き消されそうな種火に、
萎びた体をぶら下げて歩く明晰夢だ。
そんな僕らの、
うたた寝みたいな人生を切り裂いて駆け抜けてく、
悩み多きハイティーンの不気味な暴走を讃えるのは、
疲労を忘れさせる
劇薬的な人工甘味料と、
不整脈のようなサイキックビートに貼り付く企業広告、
凄まじい物量で循環する情報、
疑念、熱意、冷笑、正義。
そんなものとすれ違うだけでもう、骨が軋む音がする。
大通りを歩く夢破れた背中、
解体現場の足場から差し込む斜陽、
砂上の楼閣を飾る
プロジェクションマッピング、
緑地整備区画の土だけが
その移ろいを見つめ続けている。
焼け爛れた栄光が幾万と眠る
貨幣経済の瓦礫を更地にし、
踏み固めようとした都会人の
赤錆びた血潮の匂いを漂わせ、
不穏な靴音を受け止めてきたコンクリートにうずくまって
僕らは今夜、
誰の祈りの墓標になれるだろう。
大人がぶちまけた好き勝手の皺寄せと片付けに追われて、
'自己中心の世代'だと揶揄されながら、
一生の時間を
時代の帳尻合わせの為に吹き飛ばして生きた、
母の輝きと父の背中は、
一服の暇さえ許されずとも
僕らを育て上げた。
それでも、
古き良き人々がいずれ僕らに明け渡す社会は、
あなたたちがその先頭にいた頃よりも
ずっと禍々しい。
そんな時代の汚れた空気を
胸いっぱいに吸い込んで、
貰い物の自由を有り難がる世界は今日、
'12:31'
時刻表通りに滅びるはずだった
人類史の新しい千年紀。
2000番目の空に生まれた僕は今も、
ゆりかごの囚人。
もしもこの国が歴史の、
どこか大切な分岐点で、
選ぶべき道を間違えたのだとしたらそれは、
熱病的な活気の泡に飲まれて
'有限'を捨てた、あの遠い夏の日...
'永遠'が待つという方角へ舵を切った先が
こんな世界だったとは。
裏切られた口々から
失望が噴き出す。
断を下した男の名前を
誰も覚えていない、
この椅子取りゲームにあぶれた僕はせめて、
ひときわ目立つ
矢印の向きに従っておこうか。
参加者の頭数は
最盛期をとうに過ぎ、
1億2000万人分の
最後通告は一斉送信され、
僕らは聞いてしまった。
聞いていた話とは違う事実を、
突きつけられてしまったんだ。
自由席には人数分の用意がない事、疲れた誇りの受け皿の不足と、
僕らではもう
どうにもならない現実に。
ーーー敵も味方も隣り合って
手狭な生活は続く。
酸欠状態に喘ぐ右脳をなだめ、
左脳で吐き出す言葉の殺傷能力は、意味を失くした優しさの代わり。
そんな風に武器を握った青年たちの破裂と
砲撃開始の号令でようやく、
未来世紀の始まり?
有識者曰く、
「どう見ても終わり」
[ゐ]躄-ゐざり-
まるで飽和したみたいで
己を正すことさえ出来ないくせにさ
楓の木の液から流れ出でるもの
みたく、
垂れる膿が衣類を固める
感覚のない棒切れふたつ
引きずって
削れていく瘡蓋が脆い
漆塗りの船で
輪軸を這わせ
この道をいく
泥濘に挟まった
車夫が
泣いてくれた
暑い日差しの後の雨水がぬめりを帯びて嫌いだ
畳んだ足の蒸れっけ、
特に膕が六月なんだと囃し立ててるみたいで
擦ると黒い、煤垢が煎じずとも剥離する
木板を繋いで
綱を引かれる
反り道を滑走する
あの風を知るものは
あっしと、あっしの近しいものだけだ
俳句短歌誌『We』第21号(2026.3)掲載「ヱビスクドール」より
遠なれば勿忘草になる人形
歪なパッショ
雨に濡れた感情が
項垂れて泣き出した
言い訳は未練に閉じ込めて
ネオンの海を泳いで渡る
夜の街は衰弱し
もう 瀕死の状態
闇に隠れてするキスは
魔力的快楽の味がする
喜びも悲しみも
七色の海苔巻きにして
パック詰めにした
アルコールに毒された眼は
まるで
三途の川を渡る猫
風のおいはぎは
ナフタリンのにおいのする背広を
奪い取ろうとする
寂しいなんて
夜の帳が下りれば
暗闇と一緒
闇に飲まれて他人に変身
水に浮かべた黒い涙
変色した心が
花のように散っていく
へみんぐうぇい
はみんぐうぇいへみんぐうぇい
へみんぐうぇいはみんぐうぇい
とても高い
空の部屋において
ときに椅子から身を乗り上げ
窓をわずかに開き
ひとり顔をのぞかせては
空言の
お念仏のように
くりかえし吐き捨てられた
言葉はひらひらりと舞い落ちて
アスファルトを行き交う
通行人たちに踏みつけられ
チューインガムみたいにぺたんこになり
街は汚れた
晩節のあなたは痛々しく
滑稽で惨めだった
男は皆孤独の道をゆく者だなどと
弱い者を叩く強者の仕草を繰り返し
今、求められるリーダー
一番にふさわしいあなたを謳う
世は、イエスと傾き
白く輝かしい歯をむき出しにする
終日秋の陽のような歪むにぶい笑い
武器兵器と握手を交わし
海の王者と追っかけこ
俺だけの世界のなかで完結し
勇ましく豪語してみせた
へみんぐうぇいはみんぐうぇい
はみんぐうぇいへみんぐうぇい
ところで
ご存知だったでしょう
きっとどこかで
聞こえてきたでしょう
非正規世紀生気精気性器西紀盛期正気と
見知らぬ流氷の果て
たどり着いた者たちの声を うたを
海中を優雅に舞う
天使とも呼ぶ
頭の先をぱっくりと開き
獲物を捉えて生きる凶暴な
水のように透き通る生命
小さな存在たち
わたし自身
かつてそうだったのです
とてもつめたい茫洋とした世界
拠り所など見つけられないままに
わたしは
わたしの赤い心臓を守ったのでした
赤い心臓の鼓動を確かめていたのです
へみんぐうぇい とはなんでしょう
はみんぐうぇい でしょうか
はみだしている のでしょうか
はみんぐあうと したのでしょうか
かみんぐあうと のはみんぐでしょうか
へみんぐうぇいはみんぐうぇい
へみんぐうぇいはみんぐうぇい
心の休憩
いつからだろ
人を見ているだけで
怖いと
思うようになったのは
いつからだろ
泣きたいのに
泣けなくなったのは
いつからだろ
笑いたいのに
笑えなくなったのは
きっと
一度や二度の出来事じゃない
小さな傷が
重なって
心が
身構えることを
覚えただけ
怖くなったのは
弱くなったからじゃない
守り方を
覚えたから
泣けなくなったのは
感じていないからじゃない
溢れすぎて
閉じてしまっただけ
笑えなくなったのも
心が死んだわけじゃない
安心できる場所を
探してる途中
だから
泣ける日も
笑える瞬間も
ゆっくり
戻ってくるよ
心は
壊れたままじゃない
ただ
疲れて
休んでいるだけ
鉄格子の中に描かれた炎の文字
主観的なピアノが燃え上がり 焼け跡から一個の鉛の卵が転がり出る 卵は清潔な接吻を受けて客観的な鉄格子となり その内部では角笛の音を立てて炎が大きく動いた 無病の鳥たちは目玉を焼かれ叫びながら天文学的な夜を遍歴し 鉄格子は溶けて地獄のような地表を露呈し 幽閉されている巨大な黄金の家畜が屋根の上を浮遊する無数のナイフについて予言した ガラスは不純にして妖艶 数世紀隔てて樹木はペリカンとしての比喩を生きる そうだ 比喩は鮮明な迷宮で馥郁たるアポロンの車輪の季節のもとで醜く腐り落ちた両腕を またたく浴槽で擦るマッチ箱のようなこの狡猾な青空のような 主観的なピアノを忘却したのだ ひとりの男が裸体となり永遠の煙突に飛び込むとき リズムを得た崇高な認識は ひとりの男が裸体となり切り株の黎明において切り刻まれた雑木林の夢となって死ぬるとき この感覚と模倣と 絶え間ない認識の雨は 鉛の卵を無数の赤く滲んでいる火の中へと投げ入れた 君はペリカンと契約した棘の刺さった少年 君はアイリスの心臓と不思議な木陰を流れる水を盗み飲み白骨化した少年 君はピアニストではない 君は主観的な狼狽の水晶だ そして 奇妙な形の夢の中の田園を旅する少年なのだ 悲劇はそれ自体がカボチャの花弁 そして 予言された無数のナイフのように美しい無数の頭のない僧侶たち もはやいかなる歯槽膿漏もシャンデリアを否定しない 死滅しやすい水のしたたりが またもや客観的な鉄格子を濡らしていく このマッチ箱の矩形の臓物に招かれた無病の鳥たち けたたましくオルガンの声で啼く鳥たちは墜落し 鉄格子の内部の炎は隆盛を極めた アラビアの馬たちが曳いていく黄金の悲しみの家畜の死骸 風景は生存し 比喩はこうして死んだ リズムを得た大工たちが瞑想しながら行く 海に浮かぶ主観的なピアノの蓋がひとりでに開き燃え上がり 憂鬱な眠りのような時間が一瞬たゆたったのちに 焼け跡から一個の鉛の卵が転がり出る 卵は宇宙の清潔な血の一滴のように光る 顔は罅ひとつなく幽閉され 角笛の音が黒い羽毛として空間に浮き上がった
しあわせ
「永遠なんてかなしいのかな。
終わりのほうがしあわせなの?」
「こわくなるから僕たちは、
そういうことにしたんだよ。
きっと神様もね。」
川
氷雨に向かう途中の一枚のガラスの窓に
何が書かれていたか
人間は不意打ちされ
古い土地に水が流れる
透明になれ
本よ
透明になれ
両性具有の死刑囚
水の上を持続して進む教会がある
茨の頭をし
瑪瑙の肉体を持つ司祭が
手を振っている
氷雨に向かう途中で青ざめていくのは
愚かなことだ
一枚のガラスの窓には
何が書かれていたか
何ニモナレズ
何ニモナレズ
何モノニモナレズ
文豪ニモ詩人ニモ成レヌ
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリハテタ
回転しない木馬
遊園地に「回転しない木馬」があった
妻と娘が乗り
僕が写真を撮ることになった
バーにおつかまりください
というアナウンスの後にブザーが鳴り
回転しない木馬が
回転し始めなかった
妻と娘が同じ場所から
笑いながら手を振っている
僕もシャッターを切りながら
時々手を振って応える
長かったり、長くなかったり
そんな一生のうちのほんの数分間
みんなで笑って
みんなで手を振る
終了のブザーが鳴るまで
夢中に家族であり続ける
梅雨のある日
生ぬるい風が地面を這う
呼吸が頬に纏わりつき
抱える洗濯物を全て放り出し
縁側の下敷きになって
死んでしまいたい
スリッパを履き
廊下伝いに階段を上がる
物干し場に着くと
明るく 高らかに
誰かが歌を口ずさんでいた
よく見ると私で
簡単なことを学んだ
人生は 裏表だと
干し終えると表から
宅急便ですと声が聞こえる
見下ろすと
暗い縁側の下から
私が「はいはい」と
出てゆくのが見えた
裏は隙間で
次にいつ私を殺すか
機会を狙っている
風はついに雨に変わって
野糞
小雨降る
丑三つ時の
ひっそりとする
国道沿いから
崖下へつながる
ごみだらけの
砂利の小道を進み
高く生い茂る
鋭い茎を揺らす
草叢にまぎれて
裸の尻をひろげた
ひねり出た
排泄物の
臭気立ち昇る
湯気の中
とぐろを巻き
闇と交わい
やがて
半屈みの
足元を周り込み
どろどろの
体をひきずり
草叢の奥へと
崖を下った先の
民家の窓の
灯りとともに
うねりながら
消えていくものを
見守っていた
八月
「クーロンで泳ぐ熱帯魚は死んだことがないんだよ。
死んだことを自覚するための
うつつが
わからなくなる街だから
死んだって
思わないんだって。
「夢の中で溺れてしまえば
死んでしまうよね?
「溺れるような夢を見る方が悪いって。」
また誰か
蝉を知らず知らずのうちに
踏み殺してしまったようだ
僕も君も
似たような寝汗をかいている
よせあえば焼き殺してしまうほどに
ふれあっている部分がやわい。
大志
歳上の女性を墜とし
その女性となん十年も切れずに
こっちも腹の脂肪が気になりだす頃
こんなおばさん、まだ縛ってくれるんだ
なんて言われてみたい
そのときにはもう
すっかり調教が済んじゃってて
いや
色っぽいお姉さんの頃に
もう調教は済んじゃってて
いつもおばさんを縛っている縄は
なん十代目かがもう真っ黒で
股が当たるところなんかそれだけじゃなく
なんかテカテカ光っちゃってて
プレイ前
そんな辺りに鼻を寄せると
おばさん
耳の先まで真っ赤になっちゃって
何やってんの! やめなさい!
なんて
だけどまだ縄十代目の頃は
お姉さん口調がまだまだ強く
咎めるように
キッと睨んできたりもしてるんだけど
縄二十代目の頃には
なんかなよなよしてきちゃって
三十代目の頃は
シクシク泣きだしちゃったりなんかして
おばさんは
臭いくらいのほうがいいんだけど
いや
臭けりゃ臭いほどいいんだけど
でもその頃にはこっちだって
以下のような社交辞令が
言えるようになってたらいいな
おばさんはいい匂いだよ。
いつでも、どこの匂いでも……
縄三十代目の頃には