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2021/01/01 12:00:00

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長万部へ      《散文詩》

長万部へ行こうじゃないか、とミノル君が切り出した。私は感激した。由利徹が来るというのだ。なるほど、そいつぁいい、と賛同し、ついでに八雲で蟹も食って来ようぜ、と新たに提案する。はしゃいで私はコップを呷り、もじゃもじゃ頭のミノル君はセブンスターを美味そうに吸い込んでは煙りを吐き出す。五時半の長万部行きに乗ればいい、とミノル君が云う。先ほど、学校から帰ると学生服脱ぎ捨て酒屋へ赴き、ミノル君の誕生祝いにサントリー・カスタム一本買い求めて戻り、エビセンと南京豆なんかをツマミにずっと飲み続けているのだ。我々は律儀で真面目な学生だ。と云うのは、学生服を再度着用して奴は椅子、私はベッドの端に腰をおろしてウィスキーを飲んでいるのだから。制服の襟には室蘭S高校の校章、Mに錨マークのバッジが光っている。窓の障子を透かして入ってくる日差しは鈍く、六畳ほどの部屋は何か薄暗いのだが、本棚三本もの蔵書が羨ましく、下宿生活が物珍しく、しばしば放課後に私はこの部屋へ別称「しけこむ」と云われる訪問をする。

さあ、行こうじゃないか。ん、出発進行だ。と二人立ち上がり、襖開けて部屋を出ると、覗いていたごとくに突っ立っていた下宿のオバさんに出くわし、あら、ご飯は?とミノル君に問いかけるのに、けっこうです、僕たちは蟹を食べに行ってきますから、とその眼鏡をかけたオジさんのような顔のオバさんに答えるのを聞きながら、玄関の引き戸をがらがら開けて外へ出ると雪。大きな綿のような雪がふわふわスローモーションのようにゆっくりと落ちてくる中、ミノル君のあとを追う。

喫茶店すぷーんふるの前を通り過ぎ、第一ホテルの角を曲がると東室蘭の駅舎が間近に姿を現し、ひゃあ、もう着いてるぞお、というミノル君の声にそちら見やれば、ごおごおと赤黒い煙りを雪空に吹き上げて停車しているのは黒光りした蒸気機関車。雪漕いで、転んで起きて、入口に辿り着き、階段を昇る。悪臭漂うほの暗く長い長い階段を息せききって昇り切り、売店と待合室の前に屯している大勢の中を通り二人改札抜けると、いつもは下りの階段が上りになっている。あれれ、これは本輪西や伊達紋別みたいな造りの駅に変っちまってるぞ、と訝りながらも、汽車はあちらのホームだね、と確かめるや、目の前に屹立するがごとき急角度の階段を昇り始めた。前後しながら二人、ほぼ垂直のその木製の階段をロック・クライミングよろしく昇り終えると左手に回廊があり、様子伺えば床はあちらこちら黒い穴だらけ。中を覗けば立ち昇る機関車の石炭臭い煙りに、わっ、と二人噎せ返り、恐る恐る左足、右足、と交互に擦るように歩き渡り、さあ降りるぞ、と見下ろせば、その数段先のすぐそこから階段が切れている。参ったなぁ、こりゃ、と下を眺めると、階段に赤いシーツのようなカーテンのような布が結わえてあり、それが捩れて縄のように紐のようになったところへ大勢の人たちがしがみついているではないか。しゃーないぜ、と云うミノル君の声に臍を固めて我ら二人も、ぐいっ、と力を込めて紐を掴み、降り始めた。早く早く、汽車が出ちまうよ、そう云ったって、おい、男の頭に靴はないだろ、痛いよ、などとやり合いながらようようホームに降り立つと同時に、ボーーーーーーーーーッ、と汽笛一声かん高く構内に鳴り響いた。残る体力振り絞り、ごおっ、ごおっ、ごおっ、と蒸気の音もの凄く動き始めた機関車のデッキに大勢に混じって飛び乗ろうとしたが、振り落とされてホームにあえなく転落。

ああ、と慨嘆これ久しゅうしていると、スガさーん、スガさーん、こっち、こっち、とホームの反対側から私の名前を呼ぶ声があり振り向けば、ディーゼル機関車三両立ての中から手を振っているメガネをかけた者がおり、客車に乗り込んで誰かと見れば、それは札幌で古本屋をやっている同業のササキ君という友人であり、室蘭へ行きましょう、室蘭へ、古本屋が新しくできたというニュースをキャッチ致しました、かつて誰も見たこともなく今まで知られていなかった幻のとんでもないまったき珍本があるという極秘情報なのですよ、いいですか、見つけた暁には山分けですからね、ともかくそれでぱあーっとやりましょう、ぱあっーと、と興奮の態で話すTシャツ姿のササキ君を横目で眺めながら、前祝いです、と差し出されたカンビール飲みつつ、なんとなんと、でもまあそれもいいかな、と心傾き動かされ、しかしそんな有益な報せをもたらしてくれるとは持つべきモノはああやっぱり友達であることよなあ、といつのまにやら姿の消えたミノル君を捜しもせずに、雪も止んで夏の真昼のように明るい夜を今ゆっくりと走り出した室蘭行きの中、窓の外に流れ行く原油タンクや、美しい黄色やピンクに赤い煙り吐き出す煙突が空高くそびえる工場の連なりを眺めているばかりなのであった……………………
                              















*註 由利徹(1921~1999)は喜劇役者。彼の後期の十八番的な芸に、独特の滑稽な表情で、奇妙な身振りと伴にただ一言、「オシャ、マンベ」と繰り出すギャグがあった。

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透明人間と

【透明人間の憂鬱】

透明人間の悩みは
最近、髪の毛が薄くなってきたこと
これでも若いころは
リーゼント、ヨロシクきめて
ハマのあたりでバリバリに透明だったぜ、ってなもんで
今ではバッサリ落とした七三わけ
毎朝、鏡の前で
育毛剤を専用ブラシでトントントントンとやって
ああ、今日も透明でよかった
安堵のため息をつく



【透明人間の「さよなら」】

透明人間は「さよなら」という言葉が好きだ
綺麗で美しい響き
何より「さよなら」と言ったときの
口の動きが素敵だと思っている

透明人間は誰にも「さよなら」を言ったことがない
気がつくと、仲間の透明人間はいなくなっている
恋人もそんなふうにいなくなった
自分もいなくなる時はいつもそうだ

「さよなら」
つぶやいてみる
言葉は季節風にのって
はるか異国の地にとどいた
初めて聞く異国の言葉に
少年はあたり見まわしたが
空耳かな、と壁にボールを蹴った



【透明人間の考察】

透明ではない人間には
不透明人間と
非透明人間と
未透明人間がいると
透明人間は考えている

三種類もあるから
透明ではない人間の世界には
争いが絶えないのだ、と

透明人間は透明人間

透明人間は眠くなった
洗いたてのタオルケットが気持ち良い

眠っている間も透明でありますように



【透明人間の週末】

透明人間は週末になると
水族館に行く
最近は特にマンボウがお気に入りで
日がなその水槽の前で過ごす

閉館後も透明人間は帰らない
透明人間は時々思う
閉館なんて変なシステムだ
すべての人間が透明なら
こんなシステムはいらないのに

透明ではない人間は
死んだら土に還るというけど
透明人間が死んだら
海か空に還るのではないかしらん

守衛室から失敬したドーナツを食べながら
マンボウの優雅な泳ぎにうっとりする



【透明人間の夢】

空を飛びたい、なんて夢見てたのは
昔の話さ、と透明人間

カチャリ

自動券売機で切符を買う透明人間
都会ではひとりでにコインが宙を飛んでも
誰も驚かない
ありがたいことだ、と透明人間



【透明人間の思い出】

写真たてには空ばかりの写真
ここに自分がいて
そのとなりに恋人がいて

今、雲が笑った?

いや、思い出と名のつくものは
いつでも気まぐれに振舞うものだ



【透明人間の願い】

透明人間も
透明ではない人間も
幸せでありますように





【さよなら】

私のノートから
透明人間がいなくなった

それは突然に、というより
透明人間が足の方から
徐々に消えていく感覚

風でノートがめくれる

「さよなら」

の文字

以降、空白のページ

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天体の音楽

その人は指紋だけだった
哺乳瓶の指紋は知らないもんで
最初は浴室の鏡についた指紋だった
はじめて飲んだコカコーラの瓶にも
授業中に舐めていた鉛筆サックにも
その人の指紋がついていた
写生大会で金賞になった絵にも
あおい指紋がいくつもあった
中学一年生のとき
教室の時計を見ると
まちがえることはない
その人の指紋がついていた
かき氷を出す店の硝子の器にも
その人の指紋が残っていた
初デートで訪れた
水族館のペンギン水槽にも
その人の指紋がペンギンよりも多く
こびりついていた
川に指紋 雲に指紋
宇宙のはるかかなた銀河にも指紋
それらは右手の人差し指の指紋
太極図のようにせめぎ合う渦
と渦 音にない沼のように
顔のわからないその人が
たしかにいるというあかし
いつかその指紋で
全身をやさしく
くるまれたい
もちろん伴奏は
指紋だらけのグランドピアノで

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にんじんを食べるとうさぎになってしまうよ
そう嘯いて揺れている後ろ髪ばかり見ていた
学校で教えくれるきれいなものは
青い空や小鳥のさえずり、
あるいは星の瞬きばかりで
擦りむけた膝をあわせながら
どこまでも灰色の空にも
柔らかな陰影がそそぎ
鼻の粘膜をかすかに濡らす
雨の香りもまた
美しいと
あなたは
教えてくれた

(熱
 を帯びていく
 わたしたちはからだ
 に熱を巡らせて 
 刷毛で塗るみたいに
 熱
 を塗り合う)

クラスの
女の子たちは
男の子たちの
話をしている
ねえわたしたちにも
言葉
があったら

(わたし
 の指をひく指
 の柔らかな体温
 揺れている
 ポニーテイルがほんとうに
 うさぎ
 に見えるね)

まだ
女の子たちは
男の子たちの
話をしている
わたしは外に出て
今日は部屋干しだったか
と嘆く
嘆きながら
わたしは
ひかりが
曇り空のもとで
一層柔らかく
美しい

知っている

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人倫

あいつらは
エアコンの外側で
息をしている

ぬいぐるみを抱いて
ねころんでいる肥満体
畳の痕がくっきりと見える
頸に蝿がたかる

(追い出せないのか? モトハシくん)
(センセ まずミホンを)
(君の役目だよ モトハシくん)

昼の熱波を吸い込んだ三畳間
何処より聞こえるか蓄音器
太陽黒点が極大を記録する頃合い
オレンジ色の路地を
人力車が通り過ぎていく
ちょうど密漁した鎌首を
昆布で煮ているところだった

(どうにかできないのか サカモトくん)

人倫を捨てたウイルスどもが
鼻毛を抜き合っている
静かな二階
倒壊した三階
終末も近いらしいこの世界で
背中から羽根が生えはじめているのは
懲罰か
恩寵か

ぶるぶる ぶるぶる

(ぎょくさいしなさい、ミヤケくん)
(せめてマスクを)
(ウツクシク散るんだ、ミヤマザクラのように)

歯茎から枝が伸びているのはなぜ
ヘソからお湯が湧いているのは夢

恩寵か
拷問か

エアコンの外側では
人倫が通用しない

親方が風鈴をぶら下げてやって来る

(朝イチから、ご苦労さまです。)

りんりんりん りんりんりん

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メートル法(訳詩)

ポプラの木々の間に鳥だ!
あれはまさしく太陽だ!
百の木の葉は小川を泳ぐ
黄色なる小魚の群れ。
あの鳥はその上をかすめ飛び
両の翼に日を担う。
太陽神のアポロンよ!
汝の生み出すものこそが
木々から漏れる眩い光!
その歌声は
風にかさこそ鳴りやまぬ
木の葉を優に凌ぐのだ。




※ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ(1883~1963)の詩を訳した。原題は"Metric Figure"で「メートル法」と訳されるようだが、私には意味がわからない。ウィリアム・カーロス・ウィリアムズは米国の詩人で、エズラ・パウンドやT.S.エリオットに比肩する20世紀の詩人とされ、モダニズムやイマジズムを思わせる作品を書く。私は詳しくないが、文学においては、モダニズムとは現代的かつ新奇の傾向であり、イマジズムとは視覚でとらえた対象を明確な言葉づかいで言い表す形式であるそうだ。ウィリアム・カーロス・ウィリアムズは故郷のニュージャージー州の町医者として生涯を過ごし、その傍らに詩作しており、町の人々や景色を切り取って詩へと昇華した作品が多々見られるようである。詩人兼医師であるので、文系が理系と一つの人物の内部で統合されているという点ではゲーテや鴎外とも似ているが、作品の性格はだいぶ異なるようである。以下に原詩を挙げる。



There is a bird in the poplars!
It is the sun!
The leaves are little yellow fish
swimming in the river.
The bird skims above them,
day is on his wings.
Phoebus!
It is he that is making
the great gleam among the poplars!
It is his singing
outshines the noise
of leaves clashing in the wind.



この詩は韻を踏んでおらず、必ずしもリズミカルでもなく、どちらかといえばぶっきら棒とでも言えそうである。原詩の yellow fish は「ブリ」という訳があるようだが、果たしてそう訳していいものかどうか。ネットで yellow fish を検索すると、何とも可愛らしい黄色い魚が出てくるのである。また、Phoebus は太陽神アポロンの別称であるが、日本ではこの名前では知られていないので、訳ではアポロンを使った。

白状すると、私がこの詩を訳したのは感銘を受けたからではなくて、訳しやすそうだったからである。一読して少しも感心しなかった。それでも不思議なもので、ひとたび訳し、何度か手直しをしているうちに、愛着が湧くものであり、いまでは原詩も訳詩も読み返すたびに、ふうん、なかなかいいものじゃないか、と思ったりするのである。

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確認は後で

三月後半に入っても、朝はまだ冷える。
庁舎の入口で、靴底が乾いた音を立てる。コートを脱ぎ、席に着く。

メールを開く前に、内線が鳴った。
秘書課だった。

「白石さん、市長判断の件で共有です」

「はい」

「今回の案件ですが、先に現場を動かす方針になりました」

メモを取る手が止まる。

確認は……
そう言いかけて、言葉を切った。

「まず対応をお願いします」

「……わかりました」

受話器を置く。

メールを一通、現場に回す。
文面を三度読み返してから、送信した。

しばらくして、電話が鳴る。

「これ、どこまでやっていいんですか」

現場の担当者だった。

「安全確保を優先してください。確認はこちらで引き取ります」

一拍置いて、相手が息を吸う音がした。

「……わかりました」

午前中は、その対応で過ぎた。
誰かが異を唱えることはない。
ただ、確認の問い合わせが途切れない。

昼前、短い打ち合わせが入った。

「今回の進め方、前例はありますか」

資料をめくる。

「同じ形ではありません」

ページを戻す。

「ただ、判断の趣旨は共有されています」

「じゃあ……白石さんの見立てで進めましょうか」

午後、現場から報告が上がってくる。
いくつかは想定どおりで、いくつかは少し外れている。
修正を入れ、順序を整え直す。

コピー機の前で紙が詰まった。
取り除きながら、さっきのやり取りを思い出す。

確認は後で。
誰も口にはしない。
ただ、順序だけが先に決まっていた。

夕方、上司が声をかけてきた。

「今日の件、助かったよ。現場も動いてる」

「はい」

席に戻ると、机の上に新しい書類が置かれていた。
同じ進め方を前提にした内容だった。

時計を見る。
定時まで、あと十分。

今日も、問題は起きていない。

ただ、
確認というプロセスだけが、
どこにも存在していなかった。

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あれは それは これです



あそこは
分岐点
あっちは
汽水域

歩いて 美容院に行って
髪をカットする
かなり のびましたね
彼方から 神のように手が伸びてくる
「そこは おもいっきり 切ってください」

感覚器官の陶酔

鏡の中から
価値ある輪郭だけ ぬきだし
腹の そこを 真っすぐにして
こっちを 探す
こっちの 分岐点
こっちの 汽水域

髪は おもいのほか なくなり
なにかを おおく捨てたら
「ただいまあ」

いま まさに
両手をひろげて 海に
であった気分 

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恋の実

二月十四日。
机の中に置かれた恋の実。
中に誰にも知られたくない想いがあり、丁寧な包装に包まれている。

それを発見した青年。
持ち上げてそれを見る涼しい顔。
立ち上がり、近くにいた一人の女子の肩を叩く。

会話する二人。
くれたのか、と尋ねる青年。
女子はポニーテールを揺らして首を振る。

困惑する二人。
誰から、と尋ねる女子。
青年は首を傾げて、恋の実を近くの棚に置き去りにする。

距離が近い二人。
やがて触れ合う手。
それはそれは、品種改良のされてない“いちご”のよう。

並び歩く二人。
それを見ていた私。
置き去りの恋の実は独りで回収した。

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もしもし宇宙です

今日も錆びかけのアンテナをたてる
僕だけが知ってる その番号

ピー ガラガラ ピー

「はい こちらピコパコ星人です
ご機嫌いかが」

「こんにちは
僕は 昨日お父さんが死にました
お母さんは 泣いています
お姉ちゃんは 熱を出しています

僕は 幼稚園の先生に送ってもらいました
なんだか綺麗な 雨の日でした」

「ピコパコ星には 家族という概念がありません
 お父さんのことは残念でしたが 理解することはできないでしょう
 そんなことより こちらの星に来てくれませんか」

「ごめんなさい そちらに行くには 僕たちの星の技術が足りないみたいです
 あなたの星のお話を聞かせてくれませんか」
 
「現在ピコパコ星では 近くの星が爆発した影響で
 交通が滞っています
 エネルギーが足りずに たくさんの方が亡くなっています
 なんとか そちらの星からエネルギーを送ってもらえませんか」

「わかりました」

僕は無線機を持って 国の偉い人に会いに行った

「ピコパコ星でエネルギーがたりずに たくさんの方が亡くなっているそうなんです
 なんとか 助けられませんか
 ここにピコパコ星に繋がる 無線機もあります」

「この国は 課題が山積みだ
 そんなことより 君も自分のことに 集中しなさい
 お父さんが 亡くなったんだろう
 ピコパコ星とやらに 構っている暇はない」

 僕のアンテナはその日壊れて
 二度と宇宙へは繋がらなかった

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しらやまさんのこと 4

卒園式ではいつも以上に
園長先生のお話 長いね
と うちの子供が気にかかる
寝てはいないか
ちょっかい出してはいないか
そんな心配もなんのその
みんなちんまりと神妙な面もちで

ときどき奇声を発する子を
とても優しいお母さんがふんわりと
けっしてぎゅっとではなく
ふんわりと

その中でR君は何を思っているんだろう
知らない世界を旅しているようで
窓の向こうの山々は
そろそろ緑支度をはじめるけど
そのまた向こうの白山さんは
五月までは白いままで
ときどきそっちの方を向いてRくんは

おおう

と声を発する
彼の世界は
あそこにも繋がっているのだろう

さてさて
わが子のクラスは
どうしてそんなに神妙な顔をしていたのか
と思ったら

Rくん ぼくたちはみんな
Rくんの わらったかおが
だいすき 
だよ

と特別ではない特別な言葉を
R君に送るためだったようで
そんなときに限って
Rくんは何も言わない
しばらくして
また何ごともなかったように
いくつもの世界に遊びに行ってしまう

そんな子が同じクラスにいたこと
何年も知らなかったとは
パパとしては情けないよな
と思った帰り道で

まんなかぐみさんまで
Rくんはずっと とじこもっとったけど
おおきいぐみになってからは
いっしょにあそんだげん

でも しょうがっこうは
ちがうげん

という息子は
もう用事のなくなってしまった
園を降りかえる
その向こうには
いつもより輝く白山さん


特別ではない特別なこと
みんな小さい胸を痛めながら
大きくなっていくんだろうか

どこからともなく
高い声が聞こえてきた

Rくん またわらっとる

という息子と一緒に
涙をぬぐった


  

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力とユーモア

推薦対象

僕の人生、漫画だよ~
by 鏡ミラー文志

力強く、かといって力みすぎることのないユーモラスなカウンター文学

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問わず語り/蛍雪の功と、春隣。

2026年、最初のエッセイ。

 初冬の書初め。数年前に本拠地として利用していたノベルアッププラスで『馬』エピソードを書下ろし。
 スピード感を持って書かなければいけない理由が、ふたつ。
 私は文章に賞味期限があると思っています。エッセイはタイムアタック。最後まで書いて推敲は後で、この方法で書いています。画面の前から離れても、その日のうちにまた書く時間があればトライ。でも、生活の余白を埋める予定は様々。ひとりで暮らしてないとそんなもの。
 だからテーマを用意して、時事ネタや近況報告などが多くなってしまうのはそのせい。
 小説だと物語の進行などの設定(プロット)を予め用意して、その時々で思い描く内容を区切りながら「読み切り」スタイルで書き上げますが、エッセイは一度きり。CWS投稿用に下書き保存したエッセイの数は半年で30本・・・・・・といったら、驚きますか。

 もっと哲学、とか。
 このエッセイを読む確率が高いのはCWSユーザー。現代詩の解体や見解、詩が書けるようになるのがベスト。なんだろうけど、調べるほどに現代詩の文化、歴史とそのものが持つ性質は勉強ではなく実践が必要なのだと思い知らされる。
 ちょっと軽い気持ちで────
 詩を書いて閉じる分にはいいのよ、すごく。

 それを誰かに見せる気にはならないので。あくまでも私の場合。

 さて、先日書いてたエッセイが消えました。ノベプラの本文は窓を消しても復元しますが、文章の一部3000/800字程度しか戻らず、改めて書く気が失せる。
 二度あることは三度ある
 CWS本文に打ち込んだ投稿もエラーで全部消えました。
 執筆した時間でいえば4時間、10000字の消失。およそ3話分、それほどボリュームがなかったからいいけど、今後はデジタルノートを利用して手元を整理しながら、投稿に向けた方が読み物はできると判断。
 投稿サイトはジャンル別で書き分けて、気分転換できるように工夫しています。
 これは受験勉強で学んだ、同じことをやり続けても飽きない方法。
 しくじり先生という番組で、オリエンタルラジオの中田敦彦さんが同じ方法で勉強して、慶応義塾大学に合格。あっちゃんが実際にやっていたんだから、マジです。その方法とは?

 主要・五教科。

 好きな教科から始める。まずは国語、社会。脳が動くようになったら英語、ちょっと休憩にラジオ番組を30分ほど聞きながら単語帳を軽快にめくり読み上げて、次に理科や社会の文章問題を解きながら読書する。数学は短期集中・20分、休憩5分をワンセット4回。それ以上やらないと決めていた。
 ある程度のルーティンで脳の活性化をコントロールして、飽きないように長時間の勉強を習慣にする。

 これがオリラジあっちゃんの勉強法と一致していたのは、驚きました。

 ずっと同じことを集中して続けるとミスが起きるので、たまに体を動かしたり、家族と一緒におやつを食べながら図形を書いて計算、問題集をやりながら談笑する。全く離れるのは部活やバイトをしてる時間だけ、だから家庭ではいつも勉強をして見えたかも知れない。
 勉強は成果が伴う。テストの点数が全て。ただ学力だけではない、副教科(実技)の評価も内申点の計算式に入るので、苦手を克服して得意に換えていく努力が評価に繋がる。
 ランクは総合的な判断で、単なる自分の立場つくり。当日点が取れないと意味ない。
 本番に強くなければ勝てないのはスポーツも同じ。思考を形成する関節環境は整っていたので、課題に対する探求心と問題点のロジカルシンキングを同時に働かせて「なぜ」を解明する私立探偵気味な節がありました。

 勉強ができない。
 持って生まれて性質上、合わないという人いるけど、苦手意識は要らない。
 勉強への興味を損なわないよう、面白く考えるのが私の概念です。

 テストに謎解き要素と伏線はないけど、時間内に問題を解き明かすこと。
 単純な考察はこうだ。一門何点+問題数=得点の足し算。
 まず、名前を書いてプリント全体をよく見る。問題形式(選択問題や穴埋め問題など)の位置情報を指差し確認しながら、指の間を潜らせるペンを掴んで、順番に問題を解いていくことなんかしません。解る箇所から埋めていく。大概テストは範囲を指定されるので事前のチェックと記憶を引き出せるか、ここで命運が別れる。この時点で試されていることに勇敢に挑む。独特な暗記を得意とする私にとって国語と社会は「答えはどこかに書いている」それを時間内にみつけられるか、自問自答より、もっといい方法がある。
 例えば、ひらかなで答えがわかるけど、漢字がわからない時は教室を見渡して、ヒントを探す。
 振り返ればカンニングの警告で担任の咳払いが飛んでくる、そうなる前の善処として文章のどこかに書いてないか。否、問題の制作ミスに耽る時間が惜しいから、自分の引き出しを開けよう。
 わからない漢字が「興」だとしよう。その場合、部首を分解して覚えているので組み上げていく。

 さん・どう・は

 書き順で上部の左右にを三本線・同・カタカナのハ=興

 熊と態は「ム月ヒヒ」クマは四本足、人間は心。こういう覚え方をします。次。
 選択、穴埋めの次に抜き出し問題のようなそのまま書けばいい箇所は何を求められているのか明確にしてから目読をして、探す。一番時間がかかるのが、記述。私はこれが得意なようで苦手、短文にまとめるならいざしらず文字数が決まっている場合、自分が何を思い、答えに至ったのかは不要。
 作文みたいに感情を述べるのではなく明確さを求められている。
 まるで脱獄犯を捕らえるが如くスポットライトを照らして、答えをみつける判断力と決断はスリル満点。そんな性格ですから自己採点にネガティブな要素はなく、少し先の未来の自分に期待しかない。
 さて、時間を持て余す連中が物音を立て始める頃、私は何をしているかといいますと。
 かきかた鉛筆恋占い。四六時中、何かしらの占いをやってる神妙深い少年まゆ。恋のお相手は皆さまご存じ、平安時代のプレイボート・在原業平。〇〇工業地帯という文字を見たらすぐに「えー、また業平のなりだよぉ」と照れる、あの感性は思春期の恋煩いだったと思いたい。

 世の中は頭のいい悪い、できるできないで判断する人が多いくらいだ。
 差別的だよね。違いを探し当てることに、何の意味があるのか。

 真面目に勉強というものに取り組んだところで、その実であったり目標がないと好奇心が誘惑を掴まえにいく。子供は想像力だけで楽しめるでしょう。お金と実力も社会的信用もないけど、自由な想像を巡らせるのは無料。想像上の自分は強く、無敵で、美少女が自分のことを勝手に好きになる。そんなに俺のこと好き?高まる自惚れと根拠の無い自信を盛り上げて、勇気づける。そんな経験は誰にでもあるよね。
 社会にはルールがあって、自分より上手くできる人だけが頭ひとつ抜けて選ばれる。頭のいい悪い、お金の有無や親が許す自由度という格差を一番わかりやすい方法で表現するとしたら「いじめ」集団生活の中ではみんなという単位、意思疎通や明確な言語化を求められます。
 弱い者いじめの文化継承もあり、ただ・・・・・・私みたいなうつけを手数で嫌がらせしようものなら、相手が敵わない大人を駆使してやり返すくらい心無いことも子供だからやります、勿論。
 いい悪いを決める裁判に被告という立場で、謝罪させてもなお、私にしたことを風化させないよう周囲に記憶させ、相手に何度も嫌な気持ちを思い出してもらう。それで相手の立場が悪くなったら、みんなを宥め、喧嘩はよくないと促し、だけど助けてはやらない。見殺し上等。物の価値観が独特で鈍感だからこそ成せる個性とでもいえば少しは聞こえが良いでしょうか。
 故に、内申点の計算式を意識しながら副教科の評価を落とさず学校生活を自ら整えていくことくらい日々の生活として受け止められる。自己管理ができるようになると、将来の目標である進路が見えて来る。やりたいことは大人にならないと何もできないと早い段階で判断がついていたので、将来の夢は「大人になること」支配からの卒業を、誰よりも望んでいました。
 途方もない夢はいずれ後遺症に変わって、周囲が目覚ましく成長していくのに夢を信じて貧乏したって己が根性を貫けたらそれでいい意地なんぞ身につけるものではない。貧乏人は意地が悪く、病気の人は現実が儘ならなず捻くれている。そこに他人が許容し、承認できるだけの価値は、あると思いますか。
 尊厳として在ること、それは否定しないけど。
 留まる者、愚かなりし。/堕天国宣言、戦わなければ愛より尊い花冠は得られない。
 子供でいられる時間は短い。成人になるまでの20年、カリキュラムに埋め尽くされた時間をどう過ごして大人になるのか。失敗しながら、成功体験を繰り返して、笑い合う仲間たちといずれ離れていく漠然として未来に何があるのか。期待しながら迎えるより、私は自分で決めたかった。そして、今が在る。

 受験生の皆さん
 人生に何度しかないチャンスをどうか掴み取って下さい。
 足りなかったものは後で幾らでも数えられる。それを減らすことが将来の負担になるので、自分の為に出来る限り最善を、そして自分を大切にしてくれる人に思いやりを忘れずに。
 
 私の場合、長らく続けてきたことは、習慣になり、正確であるほど技術は評価され社会で成立しています。文書制作の仕事や、物づくり、いわゆる手に職という分野が本業。こうしてエッセイを書いていられるのも、過去の自分からの贈り物だと、幸甚に存じます。それではまた別の機会に。
 

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トンネルと巨人

 そのトンネルは巨人がオナホとして使っているので、汚かった。汚いし時々巨人のペニスが襲ってくるので誰も使いたくなかった。危なかった。人は巨人の怒りを買いたくなかったので、そのトンネルを巨人に捧げることにした。人間は通らないように、通行禁止にした。

 ブオンブオンブオンブオン 

 巨人の自慰は激しいのでトンネルはすぐにぼろぼろになる。

 カンカンカン、カンカンカンカン

 その度人間は修理した。巨人の機嫌を損ねないようにがんばった。巨人も喜んでオナホを使っていた。

 ブオンブオンブオンブオンブオンブオンブオンブオン

 巨人は毎日気持ちよくオナニーしていた。

 一方その頃人類は、戦争をしていた。

 ドカンドガーン、ドカンドガーン!!

 軍事力はどんどん発達していった。ある日、鉄砲ができた。巨人はトンネルオナニーをしていた。ある日、爆弾ができた。巨人はトンネルオナニーをしていた。ある日、戦車ができた。巨人はトンネルオナニーをしていた。ある日、ミサイルが出来た。巨人はトンネルオナニーをしていた。

 そして人類は気づいてしまった。私たちはもう、巨人を恐れる必要など、ないのです。

 その日はすぐやってきた。巨人はいつものようにトンネルオナニーをしていた。

 ブオンブオンブオン、ブオンブオンブオン

 どくどくどく、ドピュッ!!

 巨人が気持ちよく果てたその時、

 ビュパーッ!!

 宙に浮いた精液を突き抜けやってきたのは、ミサイルだった。

 ドガーン!!

 巨人は訳がわからなかった。私にオナホを提供してくれた人間たちがなんでこんなことをするのだろう。メンテナンスまでしてくれたのに....。愛されてると思ってたのに...。

 ドーン!!

 巨人は倒れた。即死だった。

 ボボボボボーン!!

 ミサイルの爆発と共に巨人の精子は山々に降り注いだ。さつまいも畑にも降り注いだ.その年のさつまいもは例年より巨人の味がしたと言われている。

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ひかり

夕方が終わらない国だった
夜は上から組み立てられて
ふわっ、と空が折れる

午後7時を過ぎても 空はまだ青い

交差点で立ち止まると
空に細い線がいくつも張られている
鳥のものでも 雲のものでもない
街の上だけにかかる網

トラムが通るたび
屋根の棒が触れて
火花にならないほどの
ひかりがほどける

建物はまだ昼のままなのに
その線だけが うすく ねむる

カートの鎖が外れる音が 数年後
ふたつの国で同時にこぼれ
昼の色が残る空の下
1ユーロ硬貨が乾いた音を立てたところで
目が覚めた



同じ形の取っ手を押し込みながら
惣菜の湯気と人の列の体温に背中を押され
思わず100円玉が転げ落ちる

ベルリンの歩道はこんなに広くて
硬貨が落ちた瞬間に
風景から切り離されるのに
日本では ずっと帰れず
振り返ってしまう

手の中の硬貨を確かめて
やっと歩き出しても
服屋はもう閉まっている
白いシャツが ひかりに浸かったまま
誰の肩にも届かない

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[こ]子と俺

君にはちゃんと理解してもらわなければならない
はっきりとしておかなければならない
君のママをこの世で一番愛しているのは俺であること
君がどんなに一番になりたくても君に一番は譲れないこと
君が生まれるずっと前に俺の一番にすると誓ったあの日から、今に至るまで守り続けた決意を初めて揺るがしたのが君だ

君は俺に試練を与えるかわいい天使だ
君のママが大いなる痛みと引き換えに光と共に落とされた君は俺の人生最大のライバル
それと同時に君のママを共に守る戦友でもあるんだ
俺が老兵となりて朽ちる時、お前の一番が変わっていても、変わらず君の一番だったものを守ってやってくれ
君はそういう美しい心を持って成長していく
君はお母さん似だからね

君は世界で一番の最強の子だ
君のママが最強なんだから
俺はしっかりと尻に敷かれて
君たち二人の幸せを世界で一番考えてるからね

少しずつ君の前歯が生えてきて少しずつ成長する感じられることが愛おしい
俺の皮膚を叩く強さをより深く感じていけることが誇らしい
様々な顔を振りまいてくれるその自由さが彩りを授けてくれる
君は世界の特効薬だ

もしも君が人生最大の窮地に陥った時
どうか周りを見てほしい
君に手を差し伸べる最強がいることを
僕がそうだったように

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沿うて滴る

貴女の御顔を
流るる雫は
時には冷たい汗となって
縁になぞって
溢れゆく
汗ばむ季節になると
私はほんのり趣を感じる
色艶を感じる貴女の表情が
私を高揚感に襲わせる

嗚呼なんということでしょう
私は気づいてしまったのです
その艶やかなヴェールは
いつか消えてしまうとわかっていても
引き剝がしてしまいたくなるような
この何とも言えない感情を
一体どう表せばいいか
いつまで経っても
思いつくことができず
貴女に沿うて滴る雫を
じっと眺めるしか
するべきことはないのだと…

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【読みにくい朗読劇】CALL MY NAME


ー 本作品は「読みにくい朗読劇」として、劇団BOWにより2026年12月に上演されたものです。ー




男A しかし、こちらの書面に書いてある貴方の名前は大変読みづらいですね。

男B 人の名前に対して読みづらいというのは失礼千万ですな。
   貴方の排外主義的差別思想が垣間見えるようです。

女A そうですよ。
   難民審査を所掌する在留査察専門官として、弁えた発言をして頂きたいです。

男A でも、こんな名前読めないですよ。

女A 失敬極まりない。
   片仮名で振り仮名まで振ってあるじゃないですか。

男B 私が、外国を出自とする者だから何を言っても構わないと
   鷹を括ってらっしゃるのでしょう。

男A しかし、そういわれましても。
   ダリヤ・ビント・アブデュルルフン・イブン・マイヤーム。

男B 違います。
   ダリヤ・ビント・アブドゥルラフマーン・イブン・カリーム・
   バルザーニー・ロジャヴァーニーです。
   人の名前くらいスラスラ言っていただけませんかね?

男A 言えないでしょ。
   中東問題に詳しいとかいうそちらの弁護士の先生なら
   スラスラ読めるのですか。

女A 当たり前です。
   ダリヤ・ビント・アブドゥルラフマーン・イブン・カリーム・
   バルザーニー・ロジャヴァーニーさんです。
   ほら、スラスラ言えるでしょう?

男A ふむ〜。

女A 名前をスラスラ言えるだけじゃあありませんよ。
   例えば、ファルハード・アミール=カミーラーイさんとくれば、南クルド、
   アリ・ハミード=マフムード=ハワラニさんとくれば中部クルド、
   私ほどの人権派弁護士ともなれば名前から出身地を推測することも
   できるようになりました。
   因みに、モハンマド=ホセイン・ベフズァード・サルマストさんとくれば、
   アフガニスタン系の方ですね。

男A 長ったらしい名前の人たちだ。忌々しい。
   どうしてそんな名前の人たちが態々日本で就労したいと
   おっしゃるんだろう。

男B そんな言い方はないでしょう。
   私はすでに難民認定を所掌する法務省出入国在留管理局に連絡し、
   難民認定申請書を地方出入国在留管理局に提出した上で、
   難民審査官との面接を受けるよう慫慂されたところです。

男A 慫慂、だなんてあなた難しい言葉をご存知なんですね。
   それに貴方の風貌はまるでアジア人、いや日本人のように見えますね。

男B ええ、人種としては私は日本人かもしれないのです。
   私は両親を知りません。
   私は施設で育ったんです。

男A 施設っていうのはどちらの施設です?

男B シナン・アブドゥルラフマーン・ハルカット・バルザンジー・シャリーフ、
   アルビール県シャルワナ村にある児童擁護施設で育ったのです。
   両親はもしかしたら日本人だったのかもしれない。
   しかし、私はシナン・アブドゥルラフマーン・ハルカット・
   バルザンジー・シャリーフ、アルビール県シャルワナ村の
   児童養護施設に預けられたが故に、
   ダリヤ・ビント・アブドゥルラフマーン・
   イブン・カリーム・バルザーニー・ロジャヴァーニーなどという名前に…

男A もういいですよ。
   で、貴方はそのシナン・アブドゥルンラフマーンヌ・バルジザンとかいう
   トルコの村で…

女A トルコじゃありません。
   シナン・アブドゥルラフマーン・ハルカット・バルザンジー・シャリーフ、
   アルビール県と言えば、イラク北部にあるクルディスタン地域にある
   行政府ですよ。
   クルド人問題はトルコだけに限られた問題ではない。
   自家薬籠中の物として頂きたいところです。

男A あなた本当に詳しいんだな。

女A 常識ですよ。
   アルビール県といえば、Makhmur Refugee CampやQushtapa Refugee Campが
   有名ですし、バルザニ慈善財団が管理する、
   ロジャヴァ出身シリア難民向けアクレ難民キャンプなども
   知られています。

男A 別に知られてねえよ。
   貴方方の狭い狭い世界で知られている話でしょ。

男B 狭い世界の話じゃありませんよ。
   バルザニ慈善財団管理下のロジャヴァ出身シリア難民向け
   アクレ難民キャンプは国際的に知られています。

男A 知らないって。困るんだよ。
   なんで難民が態々日本くんだりまで来るんですか。
   そもそも日本まで来れる、そんなゆとりがある時点で
   難民じゃないでしょう。
   そういうエセ難民みたいな人たちが西川口だか蕨だかに集まって、
   それを中途半端な知識の芸能人がツイートして、
   連日、日本では大炎上ですよ。
   困っているんですよ。

女A しかし、彼は日本語が話せますよ。

男B そうです。
   私の見た目は日本人のようですし、
   実際、日本の文化に関しては、ずっと憧れを持って勉強してきました。

女A 彼はアニメや漫画だけじゃない、
   真に古典的な日本文化に精通しています・

男B そうなんです。
   私は日本の文化に憧れがあります。
   左義長と神嘗祭の夜に響く能管の音色、
   注連縄を張った瑞垣の奥で、
   御霊会に参列する僧が錫杖を打ち鳴らし、
   花傘巡行の列が御田植祭の道を進み、
   流鏑馬の馬が鶯張りの回廊を駆け抜ける、
   そんな日本の風景を体験したいと思い

女A そうです。
   彼は私にこう言いました。
   御柱祭や花傘巡行の列、管絃祭の舟に揺れる提灯の光、
   瑞垣越しに響く祝詞、そして大祓の茅の輪を潜る人々の
   息づかい……そんな音と匂いに囲まれてみたい。
   その夢を胸に、Barzani Charity Foundation–managed Akre Camp for Syrian refugees from Rojavaを抜け、
   Gawilan Refugee Campの日本政府・UNIDO共同農業支援プロジェクト——
   正式名称は“Emergency Agribusiness Empowerment Initiative for Food Security Enhancement in Erbil Governorate”——
   の認定証を手に、アルビール県マハバード通りの埃を踏みしめながら
   ここまで来たんだ!
   どうです?

男A 確かに彼は日本語も流暢だし、日本文化への造詣も深いようだ。
   おまけに人種としても日本人なのかもしらん。
   しかし、おいそれと難民申請を受け付けるわけにはいきません。

女・男B どうして?

男A だって、本当に難民なのかどうかよく分かんねえじゃん。

女A 難民であることは明らかでしょう。
   出身地を聞いただけでわかりますよ。

男A 貴方はシナン・アブドゥルラフマーン・
   ハルカット・バルザンジー・シャリーフ、
   アルビール県の実情が分かってないんだ。

男A 分かってないよ。

女A 分かってないって、それは難民審査を所掌する
   在外寓居査閲官として職務怠慢でしょう!
   開き直っとるじゃないですか。
   謙虚になれよ!

男A うるさいな。
   分からないものは分からないんだよ。
   分からないものは受け入れられない。
   読めもしない名前の人と共生なんて
   無理に決まってるじゃないか。

男B それは貴方が知る努力、読む努力を
   していないからでしょう!

女A そうですよ。
   まともな国際感覚と知性があれば、
   名前くらい簡単に読めますよ!

男A あーもう、五月蝿い、五月蝿い!
   はい、帰った、帰った!
   はい、しっしっ!

男A あ、もしもし。
   今日も変な難民申請の奴が来たから
   さっさと返しちゃったよ。
   あのさあ、小鳥遊彪雅国家外審庁在外寓居庇護 請審査監理官補佐に
   言っておいて欲しいんだけど、
   百目鬼千颯外務庁庇護請求事案総合審議執行管理参与監理官補佐の方が
   俺なんかよりこのポストに適任なんじゃないかと思うんですよ。
   それか、御厨巽国家難邦庇護条約遵守状況監査執行統括最高審理官か
   月見里糸雨特例在留資格庇護案件総合調整連絡審理執務統括監督官とかの方が
   向いているんじゃないかな。
   とにかくさ、もう読めない名前の奴らと仕事するの
   うんざりなんだわ。
   そう言っといてね。
   じゃ!

               (了)

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巨体嗜好症ーー性愛千句--

巨体嗜好症――性愛千句
笛地静恵
【ノート】

笛地静恵(ふえちしずえ)男性です。一九五五年生まれ。
SNS上に二年半にわたり発表した、主に性愛をテーマとする三千余句から千句を選びました。「巨体嗜好症」という題名は、尊敬する稲垣足穂の「天体嗜好症」に、インスパイアされて命名したものです。R-18の句集です。成人したら読みにきてください。
有季も無季も定型も自由律も、節操なくごちゃごちゃに混じっています。三段切れなども使用しています。自己のやや特殊な巨大な少女を愛する性的嗜好を、創造の核としています。性愛の表現に限界を設けないように、手法にもできるかぎり規制をかけないように心がけました。俳句でも川柳でもない「句」として鑑賞いただければと思っています。
笛地がネットに発表してきた、巨大な少女たちが活躍する物語の読者の方々にも、楽しんでもらえる内容になったと思います。もしも好きな一句を、見つけていただければ、望外の喜びです。読みやすさを考え、四巻二十章に編集しました。
 自己紹介を兼ねて、ときおり暗誦する三十余句を、引用しておきます。

父母の快感の夜に生を享け
人形の四十八手の秋葉原
男の世ふみ潰すのみハイヒール
しがらみやマンモスの牙をけずる
屋根裏のない時代まで散歩する
満月の赤線を越え傾けり
熱低や沼正三と二丁目へ
江戸切子星の夜景の青や碧
錬金の賢者の石路傍の石
そうなのかもう死んだのか蝶なのか
青臭き人魚すくいのカーバイト
ゆうれいは天井の杉板に食いこんでいる
東京を押し潰したりアゲハ蝶
あら汁の好きな人魚とまずビール
大よりも小のつづらを好む老い
美しき若人らつぎつぎと生まれ来る
デルヴォーの子宮の底の良夜かな
月光の人間椅子へ尻を据え
眉間にはレモンサワーの皺をよせ
書のごとくおんなひもとく村の暮
廃線の駅舎の猫と汽笛待つ
鶴病みて水晶の脾を啄みぬ
地下鉄や線に終わりなき預言
狂句には狂気の裂け目狂い咲き
とぼとぼと雨のうしろを雨男
羊水の帆船右へ傾けり
立ち飲み屋赤きダルマとにらめっこ
男子みな忘れたふりの十四日
肉眼で見られぬ我の後頭部
なぜだろうこんなにも月光がしみる
人間の詞華集を食うリリシズム
青空へ渇きの井戸の底光り
なまたまご熱いごはんのエロスかな

 もし一句でも、おもしろいと思われた句があれば、読んでみてください。よろしくお願いします。性は生であり、そうである以上は、すでに死を内包しています。ごく自然に性愛から老いへのつながりを、うたうことができました。

二〇二五年四月三日

笛地静恵

目次

ガリバーの娘たちの巻






子宮ホテルの巻






スカートの下の荒野の巻
十一
十二
十三
十四
十五

乳首山頂の巻
十六
十七
十八
十九
二十


ガリバーの娘たちの巻



性愛の鍋それぞれに味がある
燦然ぞフロントホックご開帳
校庭に雨のふとももはじく列
夕紅葉山の生理の盛りなり
女子だけが家庭科室の密会へ
先輩を上ばきのごとはきつぶし
黒レースシルクのブラの乳輪へ
若葉して体操服の影ふたつ
ブリーフの輪郭なぞる競べ馬
春の画のかんじんなとこだけ空白
ブルマーの湾曲青し着陸す
はじめての固さに笑い踊子草
ぴょっこんとかわいくおじぎ新芽かな
体育館倉庫の隅を貸し切りで
セーラーの撫で肩のえり手首 細
女子たちの着替えのあとの教室に
父母の快感の夜に生を享け
男子より女子の大きい五年生
新しき乳房の統べる我が五月
たそがれのはるかへかえれ夢精卵
スカートの中の荒野を夕焼けて
巨乳山谷間どっぷり大暑かな
こうなっていたのか禁漁区
みていいよトイレのドアをあけたまま
ほんとうの愛をじゃまするわかれ道
角砂糖のぼりのぼれよありのまま
見たゆえに一寸法師流刑地へ
不機嫌なシュミーズたちとふとん部屋
漁師小屋赤い蝋燭を人魚へ
春の夜の夢の浮橋どんぶらこ
わだつみや二重らせんののたうつは
地下鉄は曲がり女の奥の駅
ふとももに蟻をまよわせ昼ごはん
子どもの日「おいしゃさんごっこして」
キャタピラー陰阜を越える春の雷
スキー履き斜面をすべる雪女
終電の大股開きミニスカ座
夕焼けの雲を炎上黒き塔
夜明けのカルデラを星のキャラバンと
男へはまつ毛と胸を大盛りに
藤の棚養護教諭の手は白衣
安下宿ブラウン管のポルノ蚤
十月十日子宮ホテル滞在記録
ちんちんのつけ根の位置に穴はない
ダンジョンの入り口ではや自爆かな
おずおずとブリキ男の虹を追い
挑戦の大陰唇を山岳部
紫陽花や露地の師匠の裾捌き
十円ですべてみせます木下闇
指紋からはすかに光り梅雨の闇



嬢に棹させば流され早漏
短夜の時を惜しめる筆下ろし
郭公や不倫の果ての黒ネクタイ
そこだけの雨の気配の青葉闇
雲の峰ビキニの胸を比べつつ
夏めいてパン屋のあの子ふっくらと
活きた日々ロマンポルノの美と純と
アパートの深夜放送下の部屋
吊り橋のあの板からの先がない
翡翠に恋を盗まれ禁欲へ
底辺の遠きデートの金縛り
スカートの参拝蛇のジュリアナへ
長き夜へ蛾は銀粉のながし目を
着飾りし娘に茨城訛りあり
パンティと紙幣等価交換し
あてのない耳へ泊めてとつぶやく子
しもの毛やシャネルの蝶のバブルバス
人肌のシャンパンに酔えサルガッソー
夜の姫と朝は宿題解くホテル
いつわりの時代のうそのつわりかな
突き刺しぬスカイツリーをアスホール
籐椅子の蠢く午後のお嬢様
ふられたよ雨にも降られ吹きちぎれ
黒豹の如き女と獣園へ
モテ期など来てもいないさモンテーニュ
青蔦の女神開脚グロッタへ
鉄骨のあなたの鎖骨あたしもよ
陰毛の森を彷徨い半世紀
陰核に腹ばいとなり見下ろせり
褶曲の山脈の襞影深し
白妙のブラの斜面へシュプールを
雨だれの倦まず弛まず穿つ日々
温水の大地溝帯下降せり
鼻の下どこまでのびるのっぺらぼう
ズロースの尻の谷間に顔を入れ
太腿へ乳の漲るシルヴァーナ
稲光り女体山脈産道を
陰陽の男体山の蹲る
ともかくもあしたへとどけ子宮式
とびこみのスクール水着くいこみの+
フライデーときに奴隷を志願して
抱擁の肋骨軋む心の臓
美人客のっぺらぼうの赤い頬
白桃の桃の臀部の露骨なり
くちづけのビール臭きをゆるしつつ
エイズなど知らぬ時代のおめでたさ
雀斑の白き高地へ花盛り
六尺の娼婦へ奢る黒麦酒
髪洗う仕上げのシャワーかけてやり
人形の四十八手の秋葉原



処女という幻想を売る電気街
太腿の四十デニール攀じ登れ
狼と血と血痕と赤頭巾
炎天や蒸れる女の群れる駅
ハイヒールほどよく蒸れる午後の五時
緊迫の女縄師の乳首立つ
老鶯や歌に孕みの力あり
カルーアの母乳搾りや夜の不倫
遺伝子を人魚ら食らう金魚玉
メテオラの僧の明眸罪深し
看護師の白衣の下のローライズ
ミミズの子あながあったらはいりたい
風を読みあの子の部屋へドローンを
少女ケンタウロスの背に渇き
男の胸筋に潰される胸がある
サニタリーショーツの好きなやつのゆび
夕立ちの部室に紺のブルマ脱ぎ
男の世ふみ潰すのみハイヒール
高層のビルの鏡に盛るまつ毛
ひきの腹おやゆびの姫おしつぶし
ゲームするさみしいよねえ金曜日
青梅雨の女王のラバー匂い立ち
鼠径部を下山途中の遭難者
うつせみの一寸先の闇になく
鰹節田螺を好む少年期
サーカスに柔らかき酢の神話あり
立て札【産道に入るを禁ズ】
卵管を潜るスキューバダイビング
東京へ敵のヒップが落ちてくる
ワイシャツとネクタイ毟り椅子の背へ
緊縛や金襴緞子剥落し
夏帯を国芳の猫ほどくべし
旅に病み乳房の村の午睡哉
恋人とひとめでわかる牛丼屋
パンティの真白き不二の寝
なまぬるきこんにゃくすくう舌の先
しがらみやマンモスの牙をけずる
チョンの間の裸電球切れしまま
少年や半ズボンから金亀子
紺青のレザーの女王蛇衣
屋根裏のない時代まで散歩する
身を削りご奉仕します鰹節
パンティの高温多湿懲罰房
軍隊を丸呑みにする売笑婦
UFOピアスの孔に吸いこまれ
競技会足の先から女体山
はるばると水源もとめ遡る
上流へ口実として岩魚釣り
言葉では女を抱けぬレ・トリック
湯上りの汗のおんなのひざまくら



満月の赤線を越え傾けり
月光の大股開きチョモランマ
大いなる乳房都心へ垂れ下がり
足がかり手がかりとして網タイツ
凋落の金の斜面をハイヒール
異邦人女の地図の旅はるか
炎天の影寄り添いぬ彫り深し
蛇いちご愛は一語で騙るべし
焼き林檎アリスと齧る寂しさよ
ひややっこ三行り半のやっこだこ
空中へはしごは垂れてさようなら
かけそばや恋にいのちをかけしこと
のみの身のはねてもはねても乳の山
ひきこもりぬきつくされぬエロサイト
蟻のごと攀じ登りゆけブラジャーを
二等辺三角形夏至の火よ
少年よ帆を高くはれ筑波山
めしべのみスカイツリーとせいくらべ
雲を呑み紅きくちびる雪女
黒髪の黒雲あらし雪女
男とは屹立このむ生き物ぞ
肛門期ここがこの世のとっぱづれ
うろうろとうろつくばかりうつろ舟
立葵青い星から来た女
ハイヒール男尊女卑の拘束具
おっぱいはふたつあるのよくちびるさん
すみやかにアダムのリンゴかじるイヴ
パンツぬぐ腰に自由の息吹あり
しののめの聖地の葦のしなやかに
耳をあて臍の声きく夜さびし
別れとは乳肉のごと柔らかに
烏賊墨のスパゲッティの黒い舌
風青しブルマ湾曲登りつつ
胎盤へノーチラス号子宮海
あげつらうつらさにあきたあかつきの
生まれたままで生まれる安居
熱低や沼正三と二丁目へ
蟲螻蛄の都市さりさりと石の下
スカートを天蓋として瞑想期
水晶をてのひらに享けつぶしたり
パンティに片目を盗られオーディン神
炎々とモテねえ日々の黒歴史
コスプレの巨乳ふたつを首に下げ
くちづけに溺れ戦艦のみこまれ
失恋のひといろをのみあまがえる
ふもとからスイッチバック乳首へと
黒髪の深みに探す行方哉
江戸切子星の夜景の青や碧
もののけの絶えし木曽路の鹿の歌
安楽の椅子光速を疾走し



錬金の賢者の石路傍の石
梅雨寒の瀧の直下を女体へと
水戸の子と納豆こねる塩梅で
鉄道の同じ座席だ夏銀河
古池や青き胡瓜と赤き浮子
水源へ遡るまで精子船
食べられる恋を至上と家鼠
三角はときに四角へプリズムや
蜘蛛の糸地下の女の髪の抜け
霧深し女の塔を登る猫
そうなのかもう死んだのか蝶なのか
楼蘭や女王の足の下に消え
むっちりとズロース下ろすゴムの痕
ぼんじりを頼みアラフォーひとり酒
むしむしと蒸発をせよブルマ紺
村祭りわたあめ売りの下りる雲
天狗の子いっぽん杉に星ひとつ
青臭き人魚すくいのカーバイト
ふんどしへお面のひとみみぎひだり
大小の一物ならべ茣蓙の上
おねえちゃん帰ってこない夜の祭り
赤いタコ売るオジサンは手八丁
キスのあとサクサクくだくカルメ焼き
約束を固く握れば夜の杜
金玉の泣いた赤鬼射的場
スカートや金魚ら逃げろ赤い影
夜の市たましいを去るごくつぶし
もろこしの焼かれマニエリスムの夜
皮むけてへびぬくもりの穴に入る
知と愛とカスターリエン朝の庭
火宅とはカタクリスムのクリトリス
子ども部屋みだらなオモチャ隠しけり
引用の迷宮の卵内奥へ
ハイヒール小人の靴屋爪先へ
硝子瓶海賊船の嵐哉
人間のマリオネットのあやつりの
ゆうれいは天井の杉板に食いこんでいる
赤トンボ銀ギラ銀に沈みゆく
女の子足の片蔭秋葉原
空蝉や包容力の虚構性
時計草未来の子でも恋は恋
スカートの三角錐ぞ夏来たる
爪先に溽暑つぶれる黒タイツ
駄菓子屋のメクリの籤の無窮なり
材木屋角を曲がればラブホテル
シルヴァーナ水平線を胸曲げる
蚤の市美女の血液量り売り
池袋ぬか漬け臭き映画館
雌の前つばさ尖らせ夏燕
十八の腕のつけねの乳の張り


支給ホテルの巻



若者は船漕ぎ出だす大暑へと
味噌汁の上の澄みつつ夏の菊
深夜へと流し目およぐ露天風呂
夕暮れに一角獣と掃苔へ
手鏡へ映す性器の歪みけり
肉厚のジョッキで呷る生ビール
いかせてはまたいかせては夜の舟
逃げ水やアスファルトより河童の手
ささやきはくさかげろうの旅の本
行水や湯呑みの中の未亡人
茫漠と乳部山脈登山小屋
向日葵や光りに叛く傷みあり
たそがれて独り身の夜につかむもの
ところてん少女の膣に出口なし
東京を押し潰したりアゲハ蝶
ああ 女の息に生まれる 風よ
人形に逝くとき吾に蝶の羽
二次元の少女を愛し美少年
ださずにはすまぬ男のあわれさよ
朝シャンのふりして洗う下着かな
びんびんねどうする腫れていたいでしょ?
女から出してもいいとゆるされて
ゴンドラのおっぱい洗う夏バイト
この世とはなつかしさかな草いきれ
なつかしき人の名わすれコンビニへ
くりかえし西日の部屋のカムイ伝
小水の瀧の湖岸へ波高し
夏野より遥かに望め双丘を
帰省してなまりに染まるおしゃれな子
打ち水の男を迎え濡れたまま
衣紋竹シルクのブラの乾きつつ
まさに今ふたつに割れる受精卵
数知れぬ交尾の床や熱帯夜
蚤の身の知るのみぞ身の下世話
汗しとど渋谷は乳の谷間へと
夕焼や百万都市を尻に敷く
雷雨過ぎ健やかな乳の匂いよ
成熟と若さの出会う君の腰
あら汁の好きな人魚とまずビール
レテ河の岸へ句を積む一石経
山百合や雌蘂天へと聳え立ち
夜の孤独男を犯す力あり
乳房から上陸をする夏の果て
わが息子うなだれるまま立秋へ
人妻の乳酪を練る朝の市
保健室生理整頓秋立つ日
立秋や鎖骨の影の汗淋漓
滑落のストッキングを内腿へ
スカートのずり上げなまなましい桃
はじめての風呂 父以外の男と



血管の太さを舌に夏の露
女とは観音様か夏惜しむ
蜩や精子時代の揺れる船
サーカスの蚤ほど知らず無知の音
全天に素足の影の都市暗し
新蕎麦や娼婦二人と街道を
林檎園不倫の止まぬ午前五時
紺青のブルマのうねりマス・ゲーム
チョンの間の草のしずくやすいっちょん
大よりも小のつづらを好む老い
人妻の茶筅の泡の濃やかに
胴の肉垂れ下がるまま夏の果て
カマキリの雌うるわしの冷蔵庫
口腔の桃や果肉へ満ちる汁
山もみじ三角木馬さみしけり
恋人よ切手の糊の粘り哉
逞しき筋肉の足ペディキュアを
遠火事の鎮まる頃に終わる自慰
笛吹きや人みな性のよろこびを
美しき若人らつぎつぎと生まれ来る
椋鳥や精子一匹鷲掴み
先輩の乳房を背負い三歩のみ
右脚の尾根をたどればブルマへと
おひめさま一寸奥まで参ります
女とは見上げる山と観自在
草の葉やしゃがむ乙女の仰ぐ天
男とは酸いも甘いも椿の実
遺伝子の若き媒体白き桃
たらちねや白く大きくあたたかく
千一夜洞窟の壺底なしへ
猿酒や湖水の藍へ銃口を
青い地球の耳飾りの少女
いただきはあまりに遠し秋の蚊よ
ご破算に願いましては恋の秋
アリバイの競輪不倫インを斬る
見上げてごらん夜の太陽
無心に啜るクンニの乳を
六階の画廊淫靡の秋湿り
健全やeスポーツのペッティング
グラビアのスカートめくり荻の風
芋虫や悪人志願透ける皮膚
刃を入れて左右対称林檎の果
アラフォーとそば屋の酒を木槿垣
足あてる秋めく腰をゆらすまで
先生は小さいほうね衣被
金剛の露に潰れる不二の山
青春期錬金の炉に熔解し
進撃の立体駆動立ち上がれ
青年よ大尻をいだけ青葡萄
ああ、お嬢様そんなにお猛りになられては



雷雲や女王の口の雨を呑み
黒髪の潮に揉まれる勇魚捕り
待宵や城門固き乳金具
革命の幻想郷へ早漏屋
壮観の二つの月を見る男
評判の夜の女王と月の宿
白菊や湯殿あかるき水のおと
デルヴォーの子宮の底の良夜かな
体育のアイツが消化される午後
三日月に切られしままの林檎園
いわし雲そらのふかみへ沈みゆく
自然薯やすりこぎ棒の黒き艶
ふとももの奥の谷間へぼくたちは
ほんとうにねむっているのおねえちゃん
おんなにはほら穴あるよおどかされ
黒髪の匂いの森へかくれんぼ
八月の男を吸わせタンポンに
重厚のもんぺの尻の稲架を組む
高層の密会は百八階
腰骨の陰の諧調秋麗
コンドーム精液の玉百八つ
背くらべママのおっぱい見上げつつ
鋭角に太刀魚の愛の水圧へ
秋燕終末の日に飢えるため
月光の人間椅子へ尻を据え
たらちねの片膝をつくヘラクレス
つばをためメトロポリスへ落とすのみ
コスプレのナースのやさしピンク色
ノーマンや黒蜜の夜へつややかに
もう少しあともうすこし秋の潮
デパ地下で夜食を仕入れラブホへと
恥おおき人生なれど落鯰
紫蘇の香やはかなきものを信じたり
ハイヒール高速道路またぐとき
ものうげにとびらへもたれ裂け目かな
十月のサーカス大き乳を載せ
長き夜はコーダのごとく暁へ
純白の下着を捧げ薄紅葉
ミソハギやしみじみとわがミソジニー
ビデ使い捨て一億の男を流す
ナプキンへ包んで丸め元のカレ
一輪を口うつしされ菊膾
前を向く白き山より湧く水へ
色好きな女のままでいてくれよ
眉間にはレモンサワーの皺をよせ
わが罪は神無き月のわが前に
地下都市や不気味の谷の人形師
シミューズや天衣無縫の白い月
烏瓜天を揺さぶり破瓜の声
忠実に落陽の季語しゃぶる舌



十六の乳首へ男またがらせ
漂うは寄る年波に流されて
バービーの娼婦の館灯を点し
秋日和こころに哀の病いあり
小魚のコンドームへと秋出水
厚底のショット・グラスとひとりのみ
京急にはたちを抱いたけだるさと
うれいつつ酔性夢私でくたばるか
東京の箱庭の巣へ蟻地獄
人妻と艶夢の続き早寝する
大陸へ滴り落ちる乳の川
母の胎飲み屋の在らば寄ってから
上は金下は赤毛のラティーナと
初キスや人祖アダムの腿太き
白砂とアグネス・ラムとラム酒かな
やらないという選択肢なし秋深し
地下二階人間椅子の売り場過ぎ
英霊の聲を伏せたり秋の虹
晩秋の眠りについた谷間から
丑三つの黒鶴来る遊水池
潤む目の半球をゆくノーチラス
陋屋に不純文學積み重ね
一トンの姉妹と木星ガニメデへ
ひとさらいがくるからもうかえろうよ
いたずらな少女と廻るリリパット
あといくつ月の終わりへ雁の宿
春よりも人血もとめ秋桜
つゆだくの女と入る牛丼屋
秋雨の膣くちほどにものをいい
樽生の黒のギネスを持つ女
書のごとくおんなひもとく村の暮
人肌の燗にゆっくり口を寄せ
陰毛へ夜間飛行の熱気球
いたずらなラストノートの膣ヴァニラ
秋寂の乳房に渋谷圧潰を
エピファニーヒル午餐やや遅刻
くちびるの糸ついと消え雪迎へ
酢橘サワー昨夜は俺が搾られた
成層圏絶対領域良夜哉
できるときできるかぎりを秋惜しむ
泉よりまた輪廻への予感あり
十代の王の椅子とし番台を
老骨を鏡の部屋にさらし首
縦笛のぬくもり濡れる指の穴
交渉は鋼鉄都市の街娼と
相棒は女剣士の膣の奥
人鬼の雑炊を煮る奴隷市
死者の入るを禁ズ 神聖娼館
宵越しの精は持たねえ使い切り
川向こう人形町へ人形と



錬金を口実として媚薬売り
満ち足りて何を土産のジギタリス
水星のほくろ太陽面通過
はるかなり電話ボックス呼び出しぬ
はいいづる牝の迷宮ようやくに
したたかに生きて牡の巣を臨む
消えぬまま六十年のシャボン玉
冬浅し水商売の指の先
生牡蠣の下から上へ啜る汁
茶の花のはたけ借景ラブホテル
くちびるから秋田の美酒を迎えに
玄関の若さの締まり有難し
鷹の眼の五臓六腑を翔けるべし
月明や乳を浮かべて湯殿かな
湯の底のすあしの指のはさむかに
太陽にストッキングの鞭の音
光のみ纏う乙女子ルノアール
天然の黒光りせよ泥鰌掘り
赤線の路地を曲がれば昭和へと
ネクタイの垂れる朱塗りの衣紋掛け
三味線の爪弾く音の糸を引き
まっすぐにつながる奥の路地の家
逝く声の演技も床し優し君
床の間の書も花の名も色の道
朝茶漬け佃煮少し川の音
廃線の駅舎の猫と汽笛待つ
額縁と猟銃冷えるアトリエに
ブーツより見上げる天の高さ哉
帆船や風を孕みて欲情す
新鮮な精を寝酒の高鼾
品川のしぐれの坂をビル風と
はしゃぎつつ高層ビルへキャミを干し
ぬりかべのいつも無口な恋心
未黒野を黒衣の僧か西行か
雲の峰雲のかげりにかくれんぼ
世を祝い大きく舐める泡の国
竹馬の高く嘶き戦あり
しるこ屋に若き女のしぐるるや
おのおのに精気をこめる闇の鍋
大福を黒のレースへ包みつつ
三時過ぎ女中の腋の腥し
城塞へ難攻不落黒タイツ
振袖や八百八町道連れに
船長の巨乳の湾の深さ哉
おさげ髪ねえやの吾を捨て子して
なめくじら便所の壁をよじのぼれ
海峡を渡れば遠き女哉
海星らの月光の釘うちつけぬ
宿帳のわが名に添わせ源氏名
霜月や夢罪放免影二匹


スカートの下の荒野の巻

十一

部屋つきの露天の風呂の雪囲い
下腹部を祭り太鼓の響く哉
観念のゆらゆら萌えて霜の月
浦安のホテルの窓に都鳥
四十の左の肩へ冬の雨
セーターの斜面に指のシュプールを
ためらいの家からむけるかたつむり
ビキニ脱ぎまず匂いからマウントを
襞のみが考えられる嘘がある
白菜の鍋に蕩ける骨女
声だけで逝きそうになるイケブクロ
いつまでも女はおんな柿落葉
つぎつぎと若き乳房の実りゆく
陰核のひとつ落ちたり冬の道
火の番のもう一回と柝を入れる
藍染めのどこまでが空けざやかに
昭和へと隠れる茅の雪の宿
フィルムの画像もうすれ白昼見
大いなるつづら恐ろし雪深し
ふりしきるラブホの部屋の舞い上がる
部屋干しのパンスト弛み冬の雨
生肉を購う横浜駅の大女
黒髪の櫛を囚える十二月
女医の胸白衣を高く告知せり
大潮に真白く泛ぶ孕み胎
極月や捨てる家あり蛞蝓ら
青銅を万年筆に年の暮
寒の風呂しもの毛を剃る尼僧たち
品川の知の銀箔にハレルヤを
アトリエの襞の奥まで覗く花
夜来たる廃都の空を含羞し
原宿の乳したたらせくだんの子
妙齢の乙女の起伏冬日和
搾るのは得意なのよとレモンサワー
陰毛の根元は暗し冬の杜
曲馬団上半身は人の馬
たまあられほとばしる卵みだらなり
肉塊へ日の当たりつつ午睡かな
雪落ちて閂を挿す裏の門
呼び覚ませみどり子たちを山眠る
唇は裏切るものと決めている
鶴病みて水晶の脾を啄みぬ
雪おんな腰に白雲まとわせつ
立てば這え歩めば這えのサド心
スキー場ゲレンデを曲げ女体山
霙より雪までの大理石峠
大雪や氷河の底の重圧を
渋皮の剥けて立身出世栗
生きていりゃいいことあるさなめくじよ
左右から白い翼の抱きしめる

十二

黒鱏の飛びはねていく冬の雨
のぞきこむ枯れ井戸スコープ底なし
クリスマス苦しみまするひとりもの
AIの受胎告知を厳かに
靴下の中に元カレ贈り物
聖樹には新製品のコンドーム
濃密のブッシュ・ド・ノエル口をつけ
異教徒は家族を捨てて自分だけ
太腿の真白き塔や冬景色
童貞と処女が創めた創世記
口中に延びる乳首を回す舌
たぷたぷと下腹ゆらすノリごこち
預言者も裸で生まれ出る聖夜
つらなりは青からすうり北斗星
円形の黒きリースへキス捧げ
コンビニの熱いおでんとラブホ街
大根とあん肝煮込みまた女
地下鉄や線に終わりなき預言
胸そらすカラータイマー赤色に
コンドーム蒸着!という奴がおる
受胎するおそれ童貞人形師
音信の不通となりし雪の宿
ひときれの恋くちもとへねぎま鍋
ヤドリギやドルイド僧の古代の森閑
紅白の歳暮祝いの下着から
童話には性のいろはをきびだんご
七人の小人に好きな部位のあり
赤ずきん猟師の銃を腹に受け
冬の空恐怖のキスが落ちてくる
血管の樹を遡る冬の蝶
白黒の渾然交渉寒の猫
高熱に魘されるまま膣の中
まれびとを迎えて開くあかずの間
恋などは欠けた茶碗の酒に訊け
好きなもの観音びらきやめられぬ
かなしいなうるめイワシよまあ飲むか
白々と白ける白の白髪や
おかあさんぼくがつかったこんにゃくを
冬椿ひだりの頬のしずくのみ
蝋燭の炎へ恋を祈りけり
デニールの寒風を蹴る鬱ガール
寒風へ絶対領域仁王立ち
濡れたまま雨戸にそっと冬の星
母乳入り珈琲の味熟女の夜
紺碧のセーラー服の雪崩れ落ち
乳首より跳び下りてみる虚空蔵
狂句には狂気の裂け目狂い咲き
正月や正常位のみ正すべし
新鮮の淑気は来たり淑女より
手づからに反りをたしかめ弓はじめ

十三

お年玉うやうやしくもしらたまを
温泉の渓流白く年立ちぬ
鯉の恋こくがあろうがなかろうが
いくつかの秘密のしるし古日誌
軟着陸おおつごもりの月の海
大晦日貫く愛の低姿勢
レミングら初東雲へスイミング
体位とは力点・支点・作用点
乳頭は山のあなたへ道の駅
昨年中は大きなお世話でしたストーカー
堂々の巨乳を揉めり鏡餅
横須賀の波へまっ赤なスカーフを
遺伝子の相性うらない始めます
ささやきの恋をささやき枯葉町
小寒や木星卵の分裂し
イベリコの豚もふられりゃ木がふれる
松納注文多い泡の店
女王様ストッキングの匂う葦
長身の娼婦の部屋のローヒール
ガーターや薔薇の庭園逍遥す
ルージュのみヌードへ着せてひらひらり
雪女深山の風を孕みけり
重ね着の性器を登る山男
懸崖に天狼星を貫けば
雪女のどふるわせて、大嵐
右の羽もうないけれど壁を越え
レンタルの女の脚と冬紅葉
大根を一本背負い冬の旅
蹌踉と枯蟷螂の首の筋
さしいれはカストラートのカステラを
犬死にの犬へ運河の雨蕭蕭
うすぎぬの君よ淫らな蝶となれ
ひとりとは沙汰は三度であとひかぬ
鍵穴や覗く童子や死と乙女
冥府とは女陰にひらく目蓋かな
葡萄酒の樽へ隠れる世界線
さかしまのさかさまおとこ輪廻かな
神保町密偵潜む棚の裏
さかほがいブラキストンを遡る
ホログラムホムンクルスの子宮揺れ
バベルの塔跡地絶賛分譲中
クリムトの金にゆらめきビルの風
子宮の奥の邑に還ろう
陰唇を極める森の隠れ宿
老人形展示会高齢者割引
とぼとぼと雨のうしろを雨男
もりあがりあふれるものを凍ての滝
ソムリエのワインの品を嗅ぐ鼻梁
はじめての失敗なんてなんでもない
季語の無い街に生まれた記号論

十四

あしあとはつけられぬまま月の海
杞憂より黒のヒールの底あおぎ
寒風や糸を切られる夢を見た
四本の足を伸ばしてホテルの湯
水槽の翡翠の水に緑亀
ちりちりと黒い三角ちりぬるを
陶芸家轆轤も濡れる中の指
細工師や体位の変化手ぎわよし
枯野より胸の谷間へ細い道
人形師二度の離婚を人形と
寒烏愛を忘れた木が痛い
焼酎の小宇宙へは花と月
贈ります金星大の金の薔薇
真実の限りも知らに冬深み
転生は薔薇星雲の彼方へと
雨水には黄金の亀の沈む沼
ぷっくりと腹をさらして寒蜆
葉牡丹の開いたままの襞に雨
数年でオバケ屋敷さラブホテル
オネエさん影は着替えか霜の窓
荒涼の茜の岸へ燗の酒
助六のあとの刺し身は柴沼で
いつわりのご主人様へ舌を出し
月光に舞い降りて来よ恋の糸
山小屋へ男は呼ばれ雪の井戸
手ぶくろの雪の公園きつねのみ
青黒き穴に星釣る我が凍湖
心臓をください春のサイボーグ
内臓の脂肪を喰らい鳴く鶴ぞ
たそがれの東キャナル市鶴帰る
深海の哲学語れ痩せた烏賊
天上の牛丼屋へと腕を組み
サバ缶とストロングゼロ星三つ
一粒の米も流さず米を磨ぐ
あたしんち貧しかったから、ふ、と笑う
一杯のみそ汁こころあたたかし
シラウオやモビー・ディックに憧れて
鳥雲に入るゾーンへと黒飛沫
あしゅらおう踵をかえす彼岸過ぎ
蠟梅や紅茶にレモン入れたまま
師走には西池袋ねぎま鍋
掃除婦の冷えに疲れた腰を揉み
冬眠やこの夜を過ぎて次の夜へ
手足荒れ掃除婦白く眠るべし
紅白の二色の紙の小箱哉
内面を見つめ孔雀の眼の焦点
羽毛より潮騒の香の渡り鳥
色ちがい三色の紙おそろしや
てのひらの乳房のかたちこれは誰
寒の雨消石灰は発熱し

十五

顔へ騎る紺のブルマの圧さかな
跳び箱の粗き布地へ頬擦りを
体操部マットの塩を調味する
褐色の鹿に跨る黄色猿
子羊の沈黙を煮る羊ども
黒く塗れ裏からバターああ滲む
満ち潮の原理を教え春立ちぬ
海流へ歌を海豚を人魚へ
メモリーの目盛りはとみにヘルダーリン
愛されたことのある日のひだまりよ
いろいろと季疲れのする二月来る
白衣には白衣の詩情白き峰
わたしたち汚れているの看護師は
職業の秘密漏らさぬ固い舌
いまのみは癒されていよ奉仕する
立ち仕事むくみ揉みあげふくらはぎ
人面の犬いそいそとヒール舐め
地吹雪を圧して吠えよ雪女
泥葱の一皮剝けば輝けり
白菜の白さのゆえにゆるしけり
少年の少女へ変わる地動説
新宿や百夜夜行の百丁目
うぶ声のはたととだえてラブホテル
縦横の武蔵小杉に宮本氏
羊水の帆船右へ傾けり
横笛の耳を澄ませる能の面
厳粛に眉間を揉んでエロサイト
立ち飲み屋赤きダルマとにらめっこ
どろどろの汁に淫するモツ煮込み
地下のバーママの子宮へ背を丸め
牛すじのスジを通してせつなさや
くすくすと女子に笑われ腰が引け
愛の矢の無限遠点狙うのみ
囲炉裏にはいつも男の魚がいる
シラウオの人の顔読むひややかさ
男子みな忘れたふりの十四日
デパートにかゆいところをこすりつけ
ジャガイモに男を磨く皮がある
雑踏の頭上に黒い太陽が
種芋の紺のブルマの太る夜々
赤つばき首の落ちるよりはやく
物干しへ夫を干して春淡し
行水の盥を揺らす乳の影
聞くは一時の恥ヘビ穴に入る
けがれなき清水は苔をいつくしみ
燃えるとも飛びこむ蝶の誠あり
平成を去る夜の地下のブランデー
日蝕や人形の宿昏みゆく
春の水むくむく動け砂の粒
ポストへと死亡通知を影法師


乳首山頂の巻

十六

落ちにけり落ちにけり落ちにけり滝壺
亡骸の火と変わるべし黄金蛾
タバスコやスパゲッティの燃え上がる
紹興酒檸檬雄々しく杜少陵
虹の脚大きく開く世紀かな
ぬめぬめと裂け目をひろげ春の空
レーザーを掌底で受け赤ブルマ
おとうさんおふろをまたぐぞうさんね
蜷局巻く蛇の重心中心に
いろいろの遺伝子を継ぎ猫の恋
つぶつぶと楊枝ほじくる田螺和え
春水の土手すれすれへ溢れけり
枝ひとつ揺らしさくらの予言かな
姦通のせんたくばさみぼろぼろに
ブラジャーへ君を呼びたい春の谷
大脳の灰白質は裸体のみ
視神経尻の谷間を下るべし
肉眼で見られぬ我の後頭部
はやすぎた目をあわさずに春火鉢
ブルックナーシューリヒトのアダージョよ
司書ついに書架にならびぬつつましく
両腕で抱擁できぬ太腿を
吉野家のビールで肩へよりかかり
ゆきてまた帰り道あり性の果て
花びらのへりより淵をのぞきこむ
そちらでも空は春になりましたか
このひとは生まれる前に寝た女人
自らの卵子を買いに道の駅
深山の電話ボックス緑呼び
寒山を帰りて夢の十夜目の
西方に妖しき噂青い牛
引用のうねりからまりなめくじら
肌色の大地貫け水の脈
エーテルの小雪となりて降る里に
くれないの芯射るわれの火吹き竹
金魚玉赤い人魚を二、三匹
梯子かけビキニラインを剪定へ
もう少し下よといわれ舌を出し
痛い、けど、やめないで、だきしめて
内面の深度粘膜接触面
男ってこんなことまでできるのね
大うなぎお濠を出でてそれからは
ダリーくんあの子の胸へ侵略す
いろりばた目がまんまるのウーの子ら
うたれ強い性欲ならばザラガスだ
新宿のヒールの濁る春の昼
てのひらに乗せる男の手をひろげ
いたずらなつまさきピンク春コタツ
陰獣やひざへだっこの春炬燵
春の夜の窓いっぱいの乳房かな

十七

盗賊や砂丘のくびれなまめかし
詩の中へ縄文土器をひとかけら
その川のはじめのしずくゆびさきへ
朝焼けや犬のふぐりを照らしけり
逞しき甘藍の芯の大理石
エンピツのヌードをなめよメモリーよ
啓蟄や果肉のしまり首をしめ
柿食えばゲノムの鐘の夢幻能
氷河期の終わりに青き雪解河
三月の脳中の霧の点描
うらみごとすきとおるまでねぶか汁
ふる傷やポルノ映画のポロポロと
石をもて傷つける身の泣く豚ぞ
どじょう鍋残酷の機微わきまえよ
つつましく私生活から自滅する
古代を透かす土器よ精霊の腑分け
土偶くんお前も好きかシジミ汁
鶏小屋に生まれるものの予感あり
つくば山どこまでいけど里の夢
夢女力の限り来たり去る
隼やとりかへばやや鶯や
二次元やアニマアニムスアニムスメ
中空にやっかいなものはいりこみ
そのひとはそこにいるだけ春の庭
箱庭の底には青い空がある
ジブンちへ帰れない駅いく旅も
吾輩は複雑である名前とは
玄関におひさまの立つ日曜日
針先は布の広さを慕いけり
裂け目へと吸い寄せられて象墜ちる
海豹や昔の愛に魘されて
青の無い傘屋の内を見て帰る
蒸れ蒸れの女子高生の雨の中
短夜の枕の下にコンドーム
直角の通りを曲がり君の家
どうしてもキスをしたいと恋手紙
春色の紺のスカート土手の下
菜の花と下着の色を同じうす
うすぎぬやおぼろにかすむ円い月
一本を口に摘んで春の草
春の水かくもあふれる流れかな
わがダンス君のダンスにダンスする
さざなみに指くすぐられ笑う君
行く春や紫霞む筑波山
まだなのと眠そうな目の細い日や
小手かざし絶景かなの春の乳
立たぬまま春の女と朝の風呂
青い目の青い書物の青い部屋
男の股間にかかわるが撤退だ
ピーターに乳首あずけるウェンディ

十八

霙より男にくらり腕枕
恋ごころ黒電話機の重さ哉
湾内に男を囲い好色屋
夜更かしの百についてのものがたり
銀時計が壊れた時間が割れた
方違え我は小暗き路地に入る
禁断の症状縷縷と年代記
なめくじをみくだしているかたつむり
まっすぐの道はさみしくつい曲がる
なぜだろうこんなにも月光がしみる
くれないの胃の腑に沈むわれの腕
抽象の乳に足もと救われる
ゆくほどに細く細くて裏の道
大根の絶対領域白き哉
ほろ酔いの女のまぶた花の宵
お立ち台ガラスの下をふみつぶせ
ジュリアナへつきあわされてクアーズを
ジュリ扇や春いろいろの町田駅
太腿の虜囚となりて大桜
人肉の春の峠を売られゆく
ストロボのヌード写真を女医さんと
鉄骨を象持ち上げる渋谷駅
時計屋の零時を告げる古時計
きっかけは塩の加減のギムレット
スツールにはちきれそうな網タイツ
二人してチーズケーキを西ひがし
眠らない灯りをともしネグリジェ街
狡猾や乳房の部屋の寄生人
掌に思い出を揉め彼岸西風
人肌の燗はとろりと上野駅
パン生地を白く捏ね上げ春の雲
紫のショーツの似合う女かな
春夜クリムトの画集に黄金
さびしさや光りの乳にやしなわれ
スリッパのみだらにみだれラブホテル
羞恥心第二の皮膚を鎧とし
男性のお道具女子会品定め
洋灯の下で腐肉を切る市場
ジーパンのヒップハングの野蒜摘み
春の夜の夢に浮き橋流された
買う店と愛を売る店おもてうら
おヘソの下にお豆屋さんがござる
逐電は男の孤剣春の塵
朝寝して朝立ちをして朝酒を
ウォッカに膝を盗られて流氷を
老サクラししゃも三匹焼いてきた
芋虫の右か左か夢の道
死んだ町きつねのうどんの二杯目を
民宿の朝は人魚の酢味噌和え
蕨狩あたらしき光りをまとい

十九

揚げひばり肩甲骨へ翼生え
雪崩れるや麓の村へ雪女
無花果を喰い終わるまで禁猟期
芳香の第七感界春の声
不倫とは対岸へ橋霧の中
玄関に水晶売りの星月夜
観音やひとつひとつの足の指
いらいらとはしからくずすひややっこ
雨の森下着を脱いだ蝸牛
連想の色の俳句の艶めかし
めっちゃヤバい夜這いの村のJKら
アニタ・エクバーグの北窓を開く胸
JKのスカートの裾スカイツリー
吟醸を古都でもとめし杯へ
ぐい呑みや旅の思い出てのひらに
鼠径部を一列に行く大氷河
鞭の知を語りて舌にソクラテス
おもらしのガルガンチュアの春の鼻
月の紺ひとすじ白きハミパンが
一瞬の首都消失の足の跡
陰毛の一本すらも動かせず
まろやかな母韻をなめるちょうの舌
鮟鱇め深海の性欲の肝臓め
胎蔵界へ臍の緒の胎児
白い雲から白い手が垂れ
かすみたなびくおとめ春のはらわた
甘噛みの前歯の朝の萵苣を裂き
乙女にはウェットスーツ子宮中
咲いたのに見るひといない花疲れ
ふらここや聖フランチェスコの笑み
乳房へロープウェイの急傾斜
長針短針らせんぜんまい時計
疲れては男が勃たぬ落し角
抒情立ちのスタンドプレイひきこもり
文体は梨で初めて体位変え
鳴いたゆえ雉すべりゆくきりぎしを
張力の水すべりゆく水すまし
校庭へ帆船の来る水曜日
不忍の桜蘂降り廃墟へと
しがみつき若き血を吸い言語老
初めてのリンゴに笑うきみの頬
豹が降る日を驚かず昨日のこと
人間の詞華集を食うリリシズム
体毛の草ツンツンと肌を征く
カラス鳴けクロスロードのひと節を
八重桜山脈のごと襞に襞
十四の女に負けた少年期
本能の壊れた日永猿発語
世界にはなお数知れぬ肉の市
まず骨を女を削り身を削り

二十

惑星や大陸もまた腿の上
サバ缶を世界の果てのコンビニで
三年を寝太郎するか落花燦
差し入れのびわ茄子キュウリ野球部へ
小父様の水晶と貝殻とパイプ
腐蝕画微細蟲を彫る幻燈
四方よりしんしんとしなやかな蟹
眼球を左へ飛ばし恋の花
クトゥルフも九龍城も蟹と烏賊
枝豆や抜いてしみじみ白犬歯
鳩化して蛇となる日のヨハネ伝
人の世のたそがれどきに来る舟は
ゆるやかなひき潮のとき砂の魚
黒潮や人魚の腰のくびれたり
ここよりは肉のうなばら肉に肉
くるめきのめまいの渦の泡の国
火遊びのさびしきギャルのしかすがに
六月の友の上履き香ばしく
春の木を二つに裂いて鉈に火を
鼻梁へと夕焼け雲が落ちて春
黒薔薇や学生服のおさげ髪
青空へ渇きの井戸の底光り
股間の逆三角形の黒き均衡
茶道部のマンネリスムの体位かな
便所の落書「もう一歩前へ短小」
料峭や未来の木乃伊ほろほろと
若者の汗食用の蘭を斬る
荷造りは古い屋敷の下宿人
緑蔭の影に抱かれ黒と紺
黒髪を登りて唄え恋の鯉
設計図二枚少女捕獲専用
機械の乙女と心中する日
塹壕に頬すりよせるキャロルと
毛織物は日に焼かれている
ふとももは生ハムにしておくからね
包丁の稍翳りつつ帰れ、鶴
黒髪をあげてうなじに白を見せ
夜道には人さらいが隠れていた
茅葺きの屋根を圧して杉の梁
モンローの蝋人形と地下室へ
満開の菜の花の下の女装
麦うづら遊行の僧のごとくにて
ときたまごはしのさきからとろとろと
なまたまご熱いごはんのエロスかな
むっくりとアンドロギュヌス水墨画
黒ギャルとセイタカ童子上野駅
巨体嗜好症星の下に生まれた
ともかくもやることはやる人間と
性愛の夜の彼方に産声を
百均のサバ缶を開け最後

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黒い雌羊の詩

すてきな自分の部屋で眠るのが
いちばん恐ろしいと教えてくれた少年
秘密を背負いすぎたために
たいへん丸い背中をしている誰かの祖母
泥やすすや生き物のくそで顔をよごし
ながらえようとした女たちの系譜
人々に正直な人間になりたい
よそものでありつづけることは
やさしい詩の卵かもしれないから

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子ども部屋の禁忌

子ども部屋の鏡はいつも裏返しにされている
母が言う
「映ると困るものがあるのよ」
納得したふりで
夜中こっそり表にしてみたら
私の顔が映っていた

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主張強めの文芸投稿サイト運営者日記(2月20日更新)

なにはともあれ、Creative Writing Spaceである。
風邪をひいて寝込んでいたら、SNSの向こうから当サイトの名物キャラクター「田伏正雄」をめぐるざわめきが聞こえてきた。

ヘビーユーザーたちがTABUSE、TABUSEと言っているのである。要するに、「最近怠けてねえか?動けよゴラ!」ということなのだろう。こちらは風邪だと言っているのに、容赦の欠片もない…。

しかし、私も伊達に酔狂で文芸投稿サイトの運営をやっているわけではない。文芸投稿サイトなんていう面倒以外、何も生み出すことがなさそうな掲示板サイトを好き好んで運営している変態なのである。当然、咳を連打する最中にでも、場については考えている。何かコミュニティメンバーらの愉しみになるような出し物を提供しなければならない。

そこで、試行的に運営者日記を始めることにしたのだ。
プレリリース期には毎日のように書いていた。どうやら一部にマニアックな読者もいたらしい。本リリース時に全部消してしまったが、それをまたやってみる気になったのだ。

ただしこれは、運営の考えを「理解してもらうため」の日記ではない。
むしろ逆である。議論するため。反発するため。時には喧嘩するための装置である。


ーーー
私は当初から、Creative Writing Spaceを「ネットフリックスのような仕様にしたい」と言ってきた。
ネットフリックスは巨大で、多くの人が使う。しかし、運営者の顔は見えない。

だが、よく見れば驚くほど思想が強いことが分かるだろう。

決して無味無臭のプラットフォームではない。奇妙にしつこい企画。特定の価値観に傾いたラインナップ。
シナフィルしか好まないような実験的なオリジナル映画。一度観れば十分なはずの大麻料理番組が、なぜか執拗に存在し続ける。


これらは偶然ではない。おそらくピーター・ティールやニック・ランドなどの新反動主義思想にかぶれた起業家の嗜好が如実に現れているハードコアな部分がある。
むしろ奥に分け入るほど、運営者の癖は濃くなる。私はそうしたあり方を是としているのだ。

無思想のプレーンな場など、文芸においては退屈でしかない。右だ左だ、保守だリベラルだという話ではない。「主張がある」という状態を恐れる気はないということ。そもそも、主張のない奴が文芸投稿サイトのコアな場所にいることの方が不自然ではないか。



ーーー
文芸投稿サイトの面白さは、作品そのものだけにあるのではない。
むしろ、「この場をどう設計するか」という議論のほうが、時に作品以上に刺激的だ。

投稿サイトは、参加者一人一人が受益者であると同時に貢献者でもある、きわめて動的な存在である。運営だけが作り手なのではない。参加者もまた、設計の一部を担っている。だからこそ、場についてオープンに語ることに意味があるだろう。

Creative Writing Spaceは、すでに月300作品投稿が当たり前という規模に成長した。次の問いは明確だ。
・どうやってコアを濃くするか。
・どうやってライトユーザーも心地よく滞在できるか。
・どうやって新しい人を呼び込むか。

その議論自体を、コンテンツにしたい。運営者、コミュニティメンバー、ビジティングライターが入り混じって語り合う。
その混沌こそが、この場の本体になっても良い。


ーーー
私たちの出自には、「文学極道」という伝説的な詩投稿サイトがある。
罵倒上等。誹謗中傷上等。常時5ちゃんねるのように荒れ倒していた硬派でカオスな空間だった。
それはすでに正式に無くなり、いまではアクセスさえできない。

そして、そのアンチテーゼとして生まれたB-REVIEWもまた、文学極道の残兵に乗っ取られ、抵抗する者らとの間で諍いが激化し、結果、運営者の多くが失踪し、空洞化とともに機能停止へ向かっている。

自由度を上げすぎれば、場は荒れて崩壊する。

規律を強めすぎれば、場は退屈に堕する。

本来、芸術は爆発である。だが爆発は、設計しなければ持続しない。
本当はもっと解放したい。だが無秩序のままでは壊れる。
エネルギーの方向をどうデザインするか。そこにこそ、運営の仕事がある。


ーーー
最後に、私個人のルールを明言しておく。私個人への罵倒、批判、批評、それに対して喜んでコインを払うことはあっても、それを理由にサイトからBANすることは絶対にない。どうぞご自由に。花緒と相性の悪い人は参加できない、みたいなサイトにしたくない。

ただし、単なる荒らし行為と判断した場合は、スレッド単位での削除やブロックはありうる。
それでも、私に対する荒らし行為を理由にサイト全体のBANはしない。これまで徹底してそうしている。

荒らし系のプレーヤーには共通点がある。
弱そうな人、荒らされるのを嫌がりそうな人を素早く見つけ、そこにちょっかいを出して様子を見る。
とくに、上記の文学極道、B-REVIEWを乗っ取った残兵の周辺がそれをやった瞬間、私は容赦がなくなる。

様子を見たいなら、花緒に喧嘩を吹っかければいいのだ。
毒味役になるのも、運営の役割である。
この場はブロック、ミュート、ワンクリック通報機能が実装されている。
相手が楽しくなるような議論の吹っかけ方でないと、存在できない。
少なくとも、この日記に対しては、少々の突っかかり方ではブロックしないことをお約束するので、どうぞお気兼ねなく。

さて、この日記は不定期で更新する(かもしれない)。

理解してほしいわけではない。対話の装置になればいいと思っているのだ。


では、今日はこれくらいで。Bye。

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批評・論考

五行歌作品集 その11 「阪急宝塚本線」

【観察】

人間観察には
事欠かない
歩く人より
立ち止まる人が多い
大阪梅田


【こしとった】

ミナミとも違う
大阪のキタの
人情味を
こしとった
服部天神


【こんなにも】

こんなにも
小さな駅だったんだ
あの頃は
大きく見えた
雲雀丘花屋敷


【あんなに】

想い出には
あんなに大きいのに
こじんまりと
あたたかい
山本


【営み】

変わらないのは
変わり続けてきた
営みがあるから
今日も明日も明後日も
命の線路は続いていく

https://www.facebook.com/share/p/1ARTotHy3c/

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死ぬな蜚蠊よ

室外機の錆、抜ける蜚蠊の健気さよ
アジアの飯を食らう、隣の佳人に目もくれず
目だけが正直で、目だけが嘘をついた
雨の変わりに舌が降ってきて
私の代わりに喋っていた

迷宮を前に硬直する身体、つんのめる
転がる石にも苔は生す、重畳
はっ、としたらぶつかった
仏陀、石仏陀にぶつかった
ナンマイダ、枯木立より寒風の吹く

無数の色のオセロ、白と黒だけがない
違う色を出しては置いていく、置けなくなれば
当然積んでいく、あざやかなケルン
ひっくり返らない、置かれるだけの
小さな社、高く高くと

トンボの交尾、トンボの死骸
重なって溶けて、それで?
不自然な自然の、ささやかな物語
新しい命と、古い命は
同じページの、同じ場面で
交差し、ゆるやかに離れていく

ああ、ある一時、その時間を
ともに座れば、蜜柑の季節にもなる
息の白さ、やわらかさに負けて
力を抜く、抜けた力が山を抜く
山を抜けたら竹林の先
空の青みに目が眩む

室外機の錆、抜ける蜚蠊のせつなさよ
未来はこの一点に集約する
2人の船乗りは、やがてそれぞれの航路へ
蜚蠊の航路に塵紙の壁、ああ
死ぬな蜚蠊よ、死ぬな死ぬな
ぐったりとゴミ袋に吸い込まれては
術なし、また命が交差して、離れていく​

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招かれざる私

園内のひときわ暗いところに
かわいい花が咲いている
まだ名前をもたない苔がため息をつき
かつて若かった樹木もおとなしく老いていく
つまり時間は進んでいるのに
私の核心は凍りついたままだから
うまく呼吸ができない
ふれあいに
溺れたり反対に冷たく蔑んだりしているのは
幼く曖昧な動植物園で
知恵のナイフに跡形もなく裂かれながら
子犬のしっぽを見てしまったせいなのか
みんなちがってみんな悪であると
誰か教えてくれたらよかった
私の髪や身体はさびしさの匂いがする
マルセイユ石鹸でも薔薇のパルファンでも
消せないクライン・ブルーの臭気
これを連れていても生きていくほかないのだ
抱きしめているすべてが空虚だとして
空虚はたくましく意識されることによって
象も地球もまたいで跳躍してしまうのだから
歪み真珠のようなたましいの輪郭を
指をさされて笑われてもつづけなければ
いけないと知っているのだけれど
つまさきから流れる血の赤さが
いまはとても痛い

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問わず語り/雨水・浅き夢みしすかせ奉り、候。

 AМ9:30

 毎週のように降った雪が路肩で山になっているけど、今年は雪解けが早いのかな。という景色を左へ。マンションが立ち並ぶ、この辺りは都心から離れたビジネスホテルがあって札幌市内に展開しているMORIHICO.STAY&COFFEEが併設している。
 今朝はモーニングを食べながら執筆。
 お目当てのフレンチトーストは朝食付き宿泊プラン利用者限定メニュー。残念だけど、私がここで食べたいのは、おかめやの食パン。札幌市西区発寒にある業務用高級食パンの工場で知られるおかめやは、工場直売の小売販売を行っている。焼きたての長い角食は「まっすぐに持ってください」この言葉通り、柔らかすぎて型崩れする。袋に包まれた姿で濡れるものだから、少し開いて、角を摘まんで下に指をおろすとちぎれる様に・・・・・・もう、大興奮!・・・・・・数年前に勤めていた会社で定期購入が行われていた為、便乗したのは言うまでもない。

 市内飲食店で「あれ?」と思うのは、大概おかめや。中央区なら、サンドリアの可能性も。
 前にも書いた気がするけど、札幌は山から海に向かって扇状になった街で、東京都23区の約2倍、香港と同じ広さ。6割は森林。人間が住んでいる地域は札幌10区が全体の4割しかない環境で、中央区寄りの白石区で食べれるのは、ほんとに嬉しい。

 さっきまで眩しかった窓の外に目をやると、大粒の雪がまっすぐ街路樹に降りる。
 ロールカーテンを巻き上げると高い窓の向こう側に鉛色した空。晴れると放射冷却になるので、吹雪になっても、このくらいならいいと思える。


 さて、温かいうちに食べよう。


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 モーニングプレートの内容

 ・季節のサラダ:北海道興部町産ベーコン・黄パブリカ・ラディッシュ・りんごをトッピング
 ・自家製たまごサラダ
 ・ヨーグルト:いちごジャム付き)
 ・季節のスープ:ほうれん草のロースト胡桃トッピング/プラス100円

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 厚切りトーストは四角いバターが溶けてパンの切り目に落ちる。
 ナイフで少し押し付けると乾いた音を擦りながら、理想的な溝バターに!右手にフォークを持ったままトーストを掴んで歯の間に挟む・・・・・・さくり・・・・・・残酷な圧力を受けて嚙みちぎれる。普通の食パンなら。
 おかめやの食パンは歯を埋めたまま、手を遠くへやると、むっちりと伸びながら裂ける。
 例えていうなら、ストッキングの伝線と似ている。極細糸の繋ぎ目に穴が開いて、引っ張られることで縦に裂けていくあの感じ。わかる?思い切り噛んでやらないと歯がパンを貫通しない弾力と柔軟さ。じわるバターから乳製品の香りが鼻に抜ける。何度も。

 うまい。なんて、素っ気ないリアクションはできません。

 仰け反って喘ぎそうになるくらいセクシーな局面で、やばっ・・・・・・パン全部食べちゃいそう。落ち着け、私。
 本日のスープ、カップに口付けて飲み込む。
 がっつり野菜の味がする私好みのスムージーに、ローストした胡桃がめちゃ美味しくて、これ・・・・・・酒じゃね?(酒と男ってすぐ欲しくなるよね)
 興部ベーコンはスーパーでも取扱いがあるけど、ちょっとしたお値段。
 朝から2枚も食べれるのは、贅沢だよ。
 たまごサラダは塩加減とソフトな触感、このくらいがいい。もう全部が心を掴む要素。

 ドリンクは土倉のほうじ茶ラテ。
 札幌に自社工場がある土倉は北海道で愛され続けて60年の老舗。CMソング「だから土倉のお茶に決めてます♪」祖母の代から飲んでるから私で三代目。
 北海道では、ほうじ茶のことを、番茶と呼びます。
 香ばしさの順だと番茶>麦茶>とうきび茶。土倉のとうきび茶とっても美味しいので、メーカーから販売している【北海道大地の恵み・北海道産の麦茶/とうきび茶/黒豆茶バラエティパック】おすすめ。こちらの商品は全てノンカフェインなので、小さなお子様や体調管理が必要な大人まで幅広く、そして美味しくご愛飲いたただける自信があります。もう、うちはこればっかりですから。

 ドリンク2杯目が割引になるから、お抹茶とショコラオランジュ/期間限定どっちがいいかな。

 思考をまったりとさせる酸味控えめなヨーグルトを彩る、いちごジャムは甘酸っぱい「初恋の味」です。
 食品アレルギーで、バラ科の果物ほぼ食べれなかった頃。それでも食べたくてアレルギーの薬を2週間飲み続けて、やっとひとくち辿り着く。その至福に魅せられたのは、今から8年前。俺たちのオンちゃんが豊平区の坂道から中央区に引っ越して、それも大通駅直結という立地の札幌市民交流プラザにMORIHICO.芸術劇場がオープンした。
 夏が暑くて、頼りない秋の窓辺に座った私は、当時トレンドだったフルーツサンドを迷わず選んだ。
 キューブタイプのおすまし顔でやって来た噂のフルーツサンド。掴んだら肘を上げて、口の中に放り込む。

 わ、
 わ、
 
 ・・・・・・わや。 ※北海道弁「なまら」の上位互換。

 私の日常会話で、フツーに北海道弁が出る属性。
 うまいべぇ~食べてみれ/函館〇〇〇CM風ではなく、わや。この一発で具合がわかってしまう道民の皆さんと、握手。
 これは森彦のコーヒーが美味しく飲めちゃうやつで間違いない。ライトなコーヒーを好む私にとって森彦のコーヒーは正直、苦すぎて、飲み終わった後に胸やけ必須で晩ごはんが食べられなくなる。あの違和感を洗い流す、上質な生クリームと見るほどに可愛いルックスをクリームの間から覗かせるいちごはキュンとした甘酸っぱさ、私まんまと丸め込まれる。これはトータルバランスの美食として優勝しちゃうのでは、と思いましたが・・・・・・
 森彦のコーヒーは苦くて、未だ苦戦している。
 カフェなのに。あろうことかコーヒーを注文しない、いちごファンの私。
 それでも森彦を選ぶ理由は、各店舗コンセプトがあり、ファブリックな空間で私のボディに必ずマッチする椅子があること。お客様目線でいうと、座り心地は、居心地です。この条件を満たすカフェ、あまり無い。
 たくさんの好きと、思いでがある森彦に、死んでもいいほど恋してる。
 片思い歴8年、好きになったら一途な私はXで創立者である市川さんに出会った過去があります。


 市川さんの上梓した自書には、こう書かれている。


 ------------

 カフェなんかこの世になくても究極的には困らない。だけれども、この世からカフェが無くなってしまったら、僕たちはどの場所で夢想し、愛を語り、希望を見出したらいいんだ。

 ------------

 それは私の心に、ゆっくりと降り積もる雪にも、似て。
 春まで待てない。逸る足取りで古民家の本店に向かった。軋む床板、急な階段を登れば、窓から見える景色はまだ寒々としており、でもここで確かめたかったんです。彼の愛情を。その全てが私の為にあることを、どうしても。
 森彦のケーキ
 一番好きなのは、りんごのシブースト。
 おそらくケーキの種類でシブースト愛が深い。牛乳、玉子、砂糖で作られたクレームを冷やし固めるシンプルなケーキ。
 昔、いたのよ。これを上手に作る魔術師が、確か人妻に横恋慕してたっけ。
 彼は腕組みを解いて「ああ、これを食べたらいいんだね」そう、私はりんごが食べられない。でもずっと私の代わりに思いで多きシブーストを食べて感想を聞かせてくれる。窓際の狭い席に向かい合って座る、私たちの間にあるシブーストが角を無くす頃、深煎りのコーヒーに微睡む彼は「何だか他所の家に来ている気分で落ち着かない」私も最初はそうだったよ。でも、ここが好きだから一緒に来たかったの。
 長らく一緒に暮らしてもデートなんかしない私たちはここで、やっと結ばれた気がした。

 後に、市川さんに宛てたポストは・・・・・・

 愛を語りました
 希望をみつけました
 彼と、ふたりで。
 今日はどこの森彦にいく?
 選択肢はたくさんあるのに森彦を選ぶのは彼を独り占めにしたいから。俺の我儘を叶えてくれる場所、ないと困るよ。 

 いいねを送ってくださったこと、今でも嬉しく思っています。ありがとう。
 深愛なる慕情を込めて────
 また、いつか愛の廿楽をついばみに来るから。チョコレートのクッキーは、お預け。

 ・
 ・
 ・

 腹ごしらえが終わったら、さぁ希望を胸に次へ。歩きだせ、私。

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慶弔

臙脂のばかでかい垂れ幕の、そら 煙幕に垂らして、それはもう随分前からずっと、したしたと鳴らして。帯びているのだと思った。伽藍堂では陽と月は宙には上がらず、私のまわりには輪郭ばかりが 塗りつぶされ等しく吃って。土踏まずからスウミリ 浮いた分 お喋りでうんとおしゃまな姿絵を無心したのですから



花火はどうやらうんとはやく 散らしたようだった。起き出したのが遅かったゆえ仕方ないのだが。ノウサギが数匹 路面をはしりぬけるような風があって、わるくないよと考え、ひひと凌いだ。それでもう一眠り。多分季節を廻らせて カノジョとふたり 河川敷で夜桜だよ。水鏡には粋狂なものを見たかのような己が共鳴りにある、



『慶弔』



煤けた黒真珠の眼球がこちらを見ている。肋の浮いたヒトガタの中心から天地の様子まで あらゆるものが刳れたあと。旧式のマグマは ガタがきていたがそのほてりは保たれ ぬるい繭のような人肌を造りあげていたのだと、(彼は云う。)鈍重の刻と共に砂礫に還るよう屍毒を吸い上げる、成熟の祀りに



これは排泄物は雅な精気とじゃれ合い逢瀬を八重に咲かす、年輪を刻み風雪に耐えて、襤褸を出す。まったく不快感が逆流し汚物を撒き散らすようだ。その走馬灯は喀血と糞からできているのだろうよ。なあ、芯に火がつくと感情が溶け出したあとに残った私は何だ。今、シャボン玉はくるくると色を変え魅了して已まないものだったか



風が埃が土煙が砂塵が、なにごともなかった。若葉が揺れ、日も月もやわらかだった。大雨が降ったあとに、流れが干上がって、道ができていた。そこに行列をなして、征く逝く。とぼとぼと、大股で、跳ねるように。風が埃が土煙が砂塵が、かき消さんとするばかりに。草花が燃える、日も月もしじま そのものだった

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二十四の遠景 -- 少年期川柳二十四句 ーー

二十四の遠景 ―― 少年期川柳二十四句 ――


笛地静恵





嘘もアウフヘーベンする夏木立


引き抜けば無知を歌えり夏大根


黒マグロ超自我のバイシクル漕ぎ







現象や掛布ライスのおもてなし


バゲットを二つ、三つと竹籠へ


ソシュールの諸行無常へあとずさり







雲海の波の無上のしぶき浴び


あまりにも倫理的なりアマリリス


ウシガエル沼の底から腹を抜き







針へ糸ついに通しぬ少年記


かけ声だけは元気なんだ朝刊をなげる


手の豆の鉈に磨かれただ黄色







ゆっくりの時間を食べにうなぎ屋へ


寝違えてうしろを向けぬコロンブス


校庭の隅へ十二の骨埋める







サイレンや花火師の子の立ち上がり


血管のねじれて廻る床屋さん


丑三つや鉄工場に灯の三つ







早起きなら校門前の文具屋さんかな


削り出す自分の名前消しゴムに


少年期遠景へ描け遠き峰




(了)

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静けさばかり満ちて

ガラスの反射が
ゆっくり薄れて
歩幅だけが
時間を連れていく

揺れないままの
会話の余白
触れない距離が
丁度よかった

わかり合うほど
曖昧になる
正しさだけが
先に眠る

改札の向こう
風が軽くなる
答えはまだ
急がなくていい

静かなままで
隣にいれば
夜はそれだけで
形になる

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 3

 2

冬日

肺に沁み込む
未明の氷雨

薄灰色を
映す雲

午後の風花
沈む警笛

白霧に煙る
頂き仰ぐ

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箱の中、からだ

IKEAが昔は好きではなかった
広くなった目を携え、よく知らない言葉を眺める
でっかいコンクリートの箱
ちゃんと窓もあるのに、目はグレーばかり見つめてた

短い、と思う
それは足が長くなったから?
それとも、マップを手に入れたからだろうか
人生の短さの曲線の滑り台を降りる感覚

大きくなるもの、それが邪魔だ
食べる日々が鬆だらけだからみんなよりマシかも
ゆくゆくは全部脱ぎ捨てて
もっと大きな箱に行くつもり

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俺の惑星

猿の星から脱出して
俺が辿り着いたのは女ばかりの星だった
だから、その星の人類である女たちは将来滅びる
断っておくが、美女ばかりの星でない
しかし、女ばかりの星には違いなかった
俺は飢えたゾンビのようにすがりつく女たちから逃げるように
その星を脱出した

その次に辿り着いたのは
蠅の星だった
蠅の羽音で耳がおかしくなりそうだった
耳もそうだが腹の調子もおかしくなり
俺は耐えきれずに脱糞した
すると一気に蠅が集まってきた
俺は飢えたゾンビのように俺の肛門あたりにすがりつく蠅たちから逃げるように
その星を脱出した

その次に辿り着いたのは暗い星だった
あまりに暗いので俺のこころまで鬱々としてきた
鬱病に効く薬でも買おうと薬屋に入ったが
店主がレジの横で自殺した後だった
俺は適当に鬱に効く薬をポケットに入れて店を出た
その星があまりにも暗いのはそこに生きた人間はいなくて
死人しかいなかったからだ
今度は誰からもすがりつかれることはなかったが俺は暗い気分から逃げるように
その星を脱出した

その次に辿り着いたのは誰もいない星だった
降り立った瞬間からその星を支配したのは俺だった
猿が支配していた星
女が支配していた星
蠅が支配していた星
死人が支配していた星
5番目で俺は俺が支配する星を手に入れたことになる
これは天文学的数字で考えたとしてとてつもない確率に違いない
俺は幸福だった
この広い宇宙で俺のように自分の支配する星を持つ王様のような男が
一体何人いるのだろうか
俺は宇宙船から降りてデッキチェアを出して寝転んだ
丁度よいハビタブルゾーンなのか
太陽光が心地よかった
しばらく俺は半睡眠した
と、その時ピンポーンと大きな音がした
直方体の大きの宇宙船のようなものが飛来して俺の星に堕ちて来たのだ
船体は大気圏突入時の摩擦で焼け焦げ白い煙が上がっていた
船体には薄っすらと黒い猫のような紋様が描かれていた
俺は慌ててその宇宙船を調査した
すると中から山のような白いマスクが出て来た
最後には納品書兼請求書が
注文もしてない大量のマスク

俺は不審に思った
するとまたピンポーンと大きな音がした
2つ目の直方体が届いた
中からは大量のポルノ映画のDVDが出て来た
そして納品書兼請求書
何だこれは?と思っていたら
またもやピンポーン
3つ目は大量のどら焼きが
すっかり腹が減っていたのでどら焼きを食いながら考えた
この星は以前聞いたことがあるいたずら発注をする輩が標的にする星ではないかと
色々と送り付けてくるのはいいが
まさか、この星がついさっきまで無人だったとは知らずに馬鹿なやつらだ
この調子で色々送られてくれば俺はこの星で労せずに生きて行ける
そうこうしているうちにも
次から次へと直方体は堕ちて来た
中身は烏骨鶏の卵だったり
プロテインだったり
しじみ汁だったり
高圧洗浄機だったり
まるで不眠症かノイローゼのやつが真夜中のテレビショッピングを見て
ストレス解消のために注文でもしたようなモノばかりだった
何個目かの直方体からは
請求書だけが入っていた
おかしいなと見てみると
薬品名と効能が書かれてあった
俺はあっと思った
これはあの暗い星で俺が手に入れた鬱に効く薬に対する請求書だ
あの星で俺があの店に入ったことを見ていたやつがいるのか?
それともあの自殺したと思われた店主は死んでなくて…

なんだか嫌な予感がした
次に堕ちて来た直方体からは
女が小さな子供の手を引いて降りてきた
いや、なに、俺はその美人が好みではない、それに旅の恥は何とやらで確かにあの女ばかりの星では求められるままに快楽に耽ったさ
そのことは触れずにおくつもりだったが
生き証人の母ちゃんと坊主がこうして追い掛けて来たんだから年貢は納めよう
と、色々考えていたら坊主は直方体に入っていたゲームウォッチに夢中で呑気なものだ
母ちゃんは何やら恨みがましいことを俺にまくし立てているが言語が分からない
ああ、せっかくの俺が支配する星が一気に生活臭くなった

すると、今までとは比べ物にならない直方体が堕ちて来た
中からは手紙と返送用の小型の直方体が無数に出て来た
差出人はどうやらあの蠅の星の蠅からだった
蠅と思っていたが実はかなりの高等生物だった
どういう手段かは分からないが俺に分かる言葉でその礼状は書かれていた
「あのように栄養化が高く美味なるものをご馳走いただき大変感謝する。分析の結果アレは貴殿にとっては不要のモノであるようだ。であれば、貴殿があれを排出されるたびに我が星に送り届けて頂きたい。タダとは言わない。請求書と振込先を同封してもらえればきちんとした対価は支払う」と
差出人は蠅の王となっていた
まあ、気が向いたらやってみるさ

俺はふと思った
そう言えばあの猿の星からは何も届かないのか?
俺は猿の星のことを思い出そうとしたがなかなか思い出せない
確かこの星や元来俺の故郷である地球同様ハビタブルゾーンにあった
空は青くて山や川もあった
あとは、なかなか思い出せない
と、その時母ちゃんが地平線を指差した
薄っすらと動く影のようなものが見えた
俺は慌てて宇宙船に戻り双眼鏡でその影を見た

猿の群れだ
馬に乗り武装した猿の大群
俺は母ちゃんと坊主を足蹴にし
慌てて宇宙船に戻り
宇宙船のエンジンを始動させた
なんてことだ
猿の星から脱出したと思っていたのに
結局は戻って来てたなんて
とにかく飛び立つのだ

なのに、宇宙船が何故か垂直に浮かび上がらない
仕方がない
苦手だが水平飛行に切り替えて
勢いがついたら上昇しよう
猿の大群が迫ってきたがぎりぎり宇宙船は飛んだ
しばらくすると警報ランプ
前方に障害物
俺は必死で避けた
危機一髪
こんなときに障害物だなんて
と、避けた障害物を振り返って目視した
大きな像だった右手にトーチを掲げ
左手は銘盤を抱え
頭には7つの突起を持った冠…

顔の様子からしてメスの猿だと分かる
これで顔が人間なら
ニューヨークの自由の女神そっくりだ
そう思うと急に地球が懐かしくなった
よし
進路は一路
地球まで
そう思った瞬間
ピンポーン
目の前に例の直方体
俺は目を大きく見開いて息を飲んだ
ぶつかる!

ピンポーン

ん?あっけなく直方体に衝突して死んじまったか
と、思ったら

夢?

ピンポーン
「宅急便でーす」

あ、思い出した、今日はネットで買った『猿の惑星』のDVDが届く日だった。
俺は眠りに落ちていたベッドから立ち上がると玄関に。
『もう、受け取りました』と母ちゃんが言う
俺はDVDを受け取ると今度はソファへ
坊主がスマホでゲームをしながら俺の隣に座る
そして俺を見て言った
『ねえ、ねえ、さっきは、何で僕を蹴飛ばしたの?』

知るか…

〈了〉

 0

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 4

 3

空白都市

この街にはこんなに人がいるのに
君だけがいない

浜辺に打ち寄せられ
銀色の腹を見せて腐っていく魚のように
街の空は白く輝いていて
僕たちは光るものを
偽物の宝石をこんなに沢山持っている
指を見れば
二千円のジルコンと二十万円のダイヤ
ではもちろんよく輝くのはジルコンの方で
奥底から湧きでるほんの仄かな繊細な虹
を愛するのは難しい
ぼくらはそれほどに飽きっぽいから
否 否
この星の石に名前などなかった
ただ45億年を黙って生きてきただけ
人に値段をつけられるな
自分の値段は自分でつけろ
そしてどんなに安く買われていても
その本当の値段を譲るな
忘れるな

あの白い建物は
いつかのアミューズメントパークだった
観覧車に乗った君と膝突き合わせ
高いところが怖くて震えながら街を見下ろした
地平線の向こうまで生活はぎっしり詰まっていて
見えるどの窓もどうしょうもなく
ほの暗くて四角くて人間の匂いがした
君は神様だからブロック遊びみたいに
建物をつまんで積んだり崩したりして
あそこの道とこの海岸線を繋いで
街のうららかな夜明けに見えない波を
漣を一面に打ち寄せさせるのだろう
あの濁流でなく透明できれいな洪水ならば
溺れてもいいとみんな思っている
かも 内心ではどこかでは
海に帰りたいけど海が迎えに来るのは嫌なんだ
現象は 神様の指が決めた通りに
過去や未来へとタイムラグしながらやってくる
そう
神様は、決めるだけで
生きることはしない

ゆっくりと境界線が崩れていく
眩しすぎる真昼に目が見えなくて
君と手を繋いで歩いたそこは
草原だったか公園だったか
桜の香りと酔っ払いたちの臭気
怒声と歌声が響いていたのを覚えている
君が走ると私も走った
リードで繋がれた犬と飼い主みたいに
もちろんどちらも犬でどちらも飼い主で
何なら
花の色を浴びすぎた詩人だったのかもしれない
連結することばとことば
それから改行 改行 改行、そして空白
まだ黙らないのなら
遊んでよ もっと

(ねえ
スーパーファミコンの頃のマリオやったことある?
引っ越しはひび割れブロックから
次の足場に飛び移ることに似ている
飛び移ったらもう元の場所には立てない
夜になったら家も居場所もない
だからヒビだらけのところには
長くいられないとしても
飛ぶときには足がすくむんだ
でも人生は強制スクロールだから
そもそも
戻ってとり忘れたアイテムを取ることも
光る翼の亀を倒して
翼を奪い直すこともできないね
ねえ
君はあのゲームクリアできたの?
翼は手に入ったの)

点滅する信号機の横断歩道の
ダルメシアン模様の陽だまり
道路のあちらとこちらでは
時が断裂してる
通りゃんせ通りゃんせ
通れない通せない問題ない
改行、改行、改行、句読点のない深夜の断章
雲の一切れと
そして空白

君との愛は本当に見事な嘘みたいだったよ
鮮やかな
鮮やかな虹色のルービックジルコニア
もうあのアミューズメントパークもなくて
ひとりで
街外れに新設された観覧車に乗る
高いところはやっぱり怖くて怖くて
震えながらガラスに顔を近づけ
西日の街に
ギリギリで触れないキスをする
いつまでもこれが君の顔
あの横断歩道にも公園にもどの建物にも道にも
君はいない
君だけは いない

(これはラブイズオーバーではなくて
ゲーム・イズ・オーバー
だがライフ・イズ・ネバー・オーバー)
本当にいないのは誰か?
君か
私か
この途方もない街を円卓と囲む
私たちみんなか
安っぽい疑問、改行、改行、改行
ありがとうのうしろの

空白

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 3

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predestination 0

半月ぶりにキャンデーが帰ってきて
まちは大騒ぎ
先月、まちを襲ってきた悪党達を全員撃ち殺した後に、まちを出て消息が途絶えていたが聞くところによると他の町の荒くれ者を退治していたらしい。
一匹狼で殆ど自分の事を語らないので誰も彼の詳しい事はわからない
黒のボルサリーノ製の帽子を深く被り
黒色のスーツと高級時計を身に付けて彼はまちを歩いてゆく
女達は彼の姿を一目見ようと街中に繰り出し逆に男達は揉め事にならないように家の中で大人しくしている
女達の熱い視線を無視してキャンデーは
酒場によって強い酒を一杯飲み干す
すると町長が役人達を引き連れて酒場に入って来て、先月のお礼と新たな用事をお願いする。
キャンデーは深い帽子の奥から町長達の顔を見てわかったと返事をする
ショルダーホルスターの中のリボルバーも休む暇は無い
キャンデーは酒場を後にして娼婦を抱きにゆく。
別に女を欲している訳ではなくて、余りにも女を相手にしなくてあっちだと思われる事を避けるためだ
3人分の料金を払って1人を後ろから抱いて残りの2人に細々した世話、煙草を持たせたりバーボングラスを持たせたりする
女達は自分こそが相手をしてもらう役になる為に揉めたりするがキャンデーが褐色の女を選び他の2人には次に来た時に相手をしてやると告げる、その言葉だけで女達は力が抜けて立ってられなくなる
キャンデーは果てる事は無い
後ろから女を満足させるだけさせて自分は果てる事は無い、ホルスターは付けたままだ
リボルバーは収まっている
相手をした女は暫くは使い物にならないので残りの女達に体を拭かせて服の世話をさせる
キャンデーは女に煙草の火をつけさせる
そして3人分よりも多い金額を置いて店を出る
日は暮れかかっていてキャンデーはまちのレストランに向かう
町長達が予約していた1番良い席に座る
まちの有力者達が5分置きに挨拶に来る
キャンデーはそれに返事することなくコースを食してゆく
デザート迄に12人の有力者が入れ替わる
彼はコーヒーを飲んだ後に席を立ち店を後にする
彼は再び酒場へと足を向ける
今度は大きな劇場付きの酒場だ
しかし今日は楽団がいない日でキャンデーはジュークボックスに硬貨を入れてサムシング・イン・ザ・ウェイのボタンを押す
ジュークボックスは静かに光を放ち
キャンデーを違う世界に誘う
キャンデーは酒を飲んで
それからジュークボックスの隣の機械に硬貨入れる
そして自分専用の番号を押すと
レシートがカタカタ音をたてて排出される
15センチぐらいの排出されたレシートを機械から切り取りそのままスーツのポケットに押し込む
機械にはdiary_aryarchiveと書かれてある
キャンデーはそのまま酒場を後にする
ギターの音色がまちに溢れだす
彼は町長の所有している宿屋の1番値段の高い部屋に泊まる
ベットに寝て足を組んでいる
彼はスーツの上着を脱いで椅子にかける
ホルスターは付けたままだ
スーツに捩じ込んだレシートを取り出す
其処には♯の後に乾いた文字が何行か打ち込んである
それをキャンデーはジッとみている
途中ウイスキーを一杯飲み干す
10分程レシートを眺めてから彼はそれを綺麗に四つ折りにしてそれから細かく切り裂く
彼はそれを窓の外の風に投げ入れる
細かく千切れたレシートは夜の黒に張り付いてやがて何処かに去ってゆく
彼は窓を閉めて一つため息をつく
ベットに寝転んで足を組む
ショルダーホルスターの中でリボルバーは完璧のまま静かにしている

 0

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ぼくはセカイを心中させたい

 ぼくのお家は救われたいこと座です。量産されたスーサイド&スーパーマーケット。みなさんと購入する、ぼくを贈る希死念慮ゼリー。くにゅくにゅのあひるが天井で溶けてゆく。伽藍堂の団欒にキザな言葉で書き殴る。



 いぢめだっていえない曲の数数を破壊するために生まれてキた、ぼくの身体ハ中学生。コンパクトディスクの裏側に指紋をつけて、カッターナイフで音楽を切り刻む。お財布から取りだした校歌で、ミネラルウォーターを購入し、髪の毛のいっぽんいっぽんまで、みずに浸して感受性と閉じこもる。



 薔薇肉のアルバイトしているやつって、おまえかって、ぼくに聴いてきたラブレター。ギターの隅に火をつけて、ハートでお願い燃やしてやるよ。



 罪悪感・罪悪感・罪悪感、コロコロでしごかれた、ぼくの青春。バイブレーターでさざめく森が、とてもうる星やつらだぜ。



 ライオンのフリしてやってきた蝉の抜け殻に恋をする。賜物みたいな恋がしたい。くにゅくにゅのあひるの溶けた玄関の時計に右肩を押しつけて、ぼくをみつめるきみはセカイだ。



 サア、扉を開けてください。ぼくのお家は救われたいこと座です。きみを残して,「きみ」を「きみたち」に変えてやるよ!



 はっと息をした瞬間、きみの泪が、ぼくに押し寄せてくる(ぼくは知った!),罪悪感・罪悪感・罪悪感、そんなものはどこにもない(知りたいだけ、ぼくは知った!)!



 ただし、ただしくやってやる(滴ることで、死を知ること、雨がみんな、教えてくれた!)!




 知りたいだけ、ぼくは知った!

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名称未設定のリリィ (小説の習作 TW⚠️CSA)

 私がたくさんの不安だと思っていたものは実はたった一つの不安だったのだ、という話を誰かにするかどうかずっと迷っている。それは世界と自分との境界が見事に融けてほどけてしまって、このユリ子という人間がもう再び回収できなくなること。つまり、すでに生活を蝕みはじめた痛みが私の一面ではなく私自身になることだ。 
 少し余裕のある実家に甘えたまま、二十代の半ばにさしかかっても毎日遊ぶばかりで働こうとしない私を「リリィに悩み事なんてないでしょ」と笑い飛ばした、両親がサーファーの美波は本当に頑張り屋だ。でも、大切な秘密は話せない。それから、実家で飼っているおばあちゃん猫のサボテンが立て続けにくしゃみする動画を、手を叩いて面白がっていた人気者のM先輩には絶対教えない。私の一人暮らしの部屋に遊びに来て、シングルベッドが海洋生物のぬいぐるみでいっぱいなのを前に「ユリサン、もしかして病んでんの?」なんてまったく悪気のない様子で怖がっていた妹の詩さんではきっと理解できないし、なにより、年下の相手になにかを相談するとか打ち明けるというのは私のポリシーに反した。他にもなん人か友達とか家族とか呼んでいる人の顔が浮かんではすぐに消えてしまう。
 だから、小さなノートとおしゃべりすることを思いついた。父方の祖父がずいぶん昔にプレゼントしてくれた、赤いタータンチェックの表紙のノート。このノートは分厚くて無口で、あとで秘密にしたくなるかもしれないテーマについても話せるし、ほどほどに批判的だ。こういうのは使う人の力量や置かれた環境にも左右されるけれど、さいわいにも私には持ち前の内気さと自分だけの部屋があった。そしてときにはくよくよ悩んだり、不気味でエロティックな空想に耽ったりするための十分な時間も。
 不穏なイメージに身を捩りたくなるほどそそられる自分を恥じてアルコールに逃げても、酔いがさめたら私は今度は酔っていた間の言動を心配しはじめるのだから、この際あえてこの赤いノートに正直に打ち明けてみようと思う。ひとりぼっちで眠る夜はときどきとても創造的だし、ナルシストではなくてもたまには鏡を覗きたい。
 
 第一の告白は、ふつう性的だとされない対象に性的に惹かれつづけてきたこと。小学校にあがるより前の光景もいくつか思い出せる。祖父の応接間の古いソファーに並んで座る、彼の柔和な友人たち。幼い私がはしゃぐ姿にみな一様に目を細めて手招きする。その節くれだったシミだらけの手、手、手。非性的な、いや非性的であるべき愛情表現に対して当時の私ではまだ言語化できない疼きを感じ、それでもなんだか秘密にしておいたほうがよさそうだと諒解できるだけの勘は持っていた。
 子どもになにかを秘密にさせようとする大人はほとんど例外なく悪い大人だとやさしい祖父は教えてくれた。私はそれを聞きながら、秘密というものは子どもにとっては危険なものなのかもしれないと思った。だから祖父の友人たちや路面電車で母と私に飴をくれた老人への言葉にできない高揚や私自身の目の輝きのことはできるだけ考えないようにしてきたし、実際中学くらいになって周りが惚れた腫れたのと騒ぎだすまでは直面せずにいられた。
 今にして思えば、持たされる秘密と持つ秘密とを混同していたような気もする。自分と他者とのちがいというものが、クラゲと海みたいに曖昧でローコントラストだった。骨のない魂で地上の世界を生きていこうとしていた無知で無力な私は、現在の私へと確かに連続している。
 小学校の卒業式にはなにやら喪服のようないでたちで出席した。六年間ずっといじめられっ子だったのになにもしてくれなかった先生たちへのささやかな当てつけのつもりだった。「先生ありがとう」なんて絶対言いたくなかった私は、男の子っぽい黒い襟付きシャツに同じく真っ黒のパンツ、無骨な革靴を履いて、ママの聖さんに無理やりつけられた小ぶりな薔薇のコサージュだけが白く浮いていた。それは黒猫のサボテンの胸にある小さな点とそっくりだった。 私は校歌と君が代を誰よりも大きな声で怒鳴りちらした。今だったら校歌も国歌も歌ってやらなかっただろうけど、その頃の私は中途半端に反抗的なだけで本質は臆病なボンクラだった。いじめという現象も隠蔽体質の学校も天皇制もよく似ていてみんなファッキンだということまではいまいち分かっていなかった。
 私は一応優等生という立場にあったから、この卒業式は成功とはいえないまでも、のちのちたくさんの大人の狼狽した顔を思い出してほくそ笑むというちょっとした楽しみを残してくれた。
 中学にあがってからも私はあまり学校に馴染めなかった。同じ小学校の連中が大勢一緒についてきたのもあるけど、同級生たちの雰囲気が日々異様な感じに変化していくのを耳や目や鼻腔で知る生活がつらかった。男の子たちはまるで精子の上に学ランを着込んでいるようだったし、女の子たちは休みが明けるたび爛熟していった。
 でもたまにそうではない生徒がいて、そういう子たちとはよくつるんだ。彼らと遊んでいる時間は、学校じゅうに蔓延する競争的な空気を離れて思いきり呼吸できた。私たちは、校内で人気のある異性と付き合わなければいけないとかモテるためのテクニックとかそういう価値観に疲れていて、しかもその疲労についてしょっちゅう軽口を叩きあっていた。私たちのうちでもっともよく気が利いたのは私より一つ年長の自閉症のAで、彼女はみんなが退屈しているとききまって刺激に満ちた話題を提供してくれた。
「母が違和感に気づいたあの日から、人々はボクに"お前は正気ではない"と耳元で囁いてきた。それでもしかるべき時期とやらが来たらすぐに、お前も男と番え子を産めとしつこく言うようになるはずだ。お前の判断は信用ならないというメッセージを与え続けてきたくせに、自分たち以上の正常さを求める。しかも正常と異常を線引きする権利は全て向こうにあるわけで、健康な人々に許されたちょっと変態っぽいお楽しみも障害者がやれば症状になる。ボクはこの先セックスに何を夢見て生きればいい?」
 放課後よく、近くの河川敷に並んで寝そべった。ある者は大の形に草を倒し、また別の者はダンボールを持ってきた。私は青い空よりもピンクと紫の空が好きになった。
 
 中学二年生の冬休み直前、数学のYという教師に呼び出された。当時六十近いベテランで、ぼさぼさの白髪頭に金属フレームの眼鏡をかけていた。ジャケットはいつもしわっぽい。少し短気なところがあり、生徒たちからはあまり人気がなかったが私はとてもセクシーだと思っていたし、理系科目が苦手だった私にYは意外と優しかった。改めて考えてみると、はじめからそのつもりだったのかもしれない。
 二学期に入ってすぐのころから彼は放課後ときどき、個人的に授業をつけてくれるようになった。例の仲間と遊べる機会が減るのは少し惜しかったけど、二人きりになれるのが嬉しかったのでそれでも素直に授業を受けていた。
 彼はしわの目立つ服を着ているのに、毎朝衣装箪笥から出勤しているのではないかと思うほど強い防虫剤の匂いがした。私は彼自身のわずかな体臭を求めてねずみの子のように鼻をひくつかせた。Yを見る私の目はおそらく他の誰を見つめるときよりも潤っていて、確かに肉欲まじりではあったがどこかしら初恋めいていた。
 個人授業をしてもらうようになって、入学以来壊滅的だった数学の成績が多少ましになった。教え方がよかったのだろう。事情を知らないママは十年経った今でもYのことを「いい先生だったよね」と言っているくらいだ。
 
 その日は妙に暖かかった。晩秋と呼べそうな時期ももう過ぎかけて、街のお店にはカラフルなお菓子やオーナメントがめいっぱい溢れ、校内のカップルはイルミネーションデートの計画を立て始める週だった。
 準備室で待っているといつものように背中を丸めて入ってきたYは、熱いよ、と私に缶のココアを手渡した。私たちは机を挟んで斜め隣どうしに腰を下ろした。ココアはとても甘く、飲むほどに渇いていくようだった。私は少し前からYの目を見るのが怖くなっていた。視線が合うとき彼の目は充血しその中心は黒い穴みたいになっていて、そこから何か恐ろしい獣が飛びかかってくるみたいな気がしていたからだ。
「ユリちゃん、先生のこと好きかい?」
 彼は唐突に質問すると、眼鏡をはずして机に肘をつき私を見つめた。その目はやっぱり黒々として穴のようで、思わず目をそらした。
「……うん」
「そうかあ」
 Yは笑った。そして立ち上がり、私のすぐ隣に座り直した。彼の体臭が強く香った。それはあの防虫剤の匂いではなかった。どうしよう、地獄の果てまで持っていくつもりだった秘密をこの魅力的で狡猾な大人はあっさり看破してしまったのだ、とようやく気づいた。
「ユリちゃん、先生のこと好きか?」
 彼はほとんど同じ言葉を繰り返した。私は彼の目をはっきり見た。穴は私を吸い込もうとしていた。
「今日はプリントないの」
 そう訊ねたとき、私の舌はもうYの唇の中にあった。そこはとても柔らかくて湿っていた。そして抱きしめられると、今度はあの防虫剤の匂いを何倍も濃くした匂いがした。その匂いは私にYへの必死の愛着を呼び起こしたが、同時に強い嫌悪も生じさせた。
「先生、ユリちゃんのこと好きだよ」
 耳もとで彼が囁く。私はぎゅっと目を瞑る。Yの濡れた舌が首筋を這う。耳たぶを噛まれるとくすぐったいような快感が体じゅうに走る。彼の指はもたつきながらリボンを外し、シャツの上から胸のふくらみを検査する。さっき飲み物で温まったはずの私の身体は冷たく凍っていて、Yはそれを美味しいアイスクリームみたいに扱った。
 骨ばった手がスカートの中に入った瞬間、私は自分がこの大人ともう離れられなくなっているのをはっきり悟った。恐ろしいことが起こっているのは分かっていた。怒りと快感がないまぜに私の体の中で暴れ回り、自分でも制御できなかった。こうなってしまったからには離れられないのだ、という確信に近い諦めがとにかく消えなかった。
「ユリちゃん」
「……なに?」
「先生はユリちゃんのこと大好きなんだよ」
「…………うん」
 Yにとって私はただの子どもではないことがはっきり分かったし、だからといって大人になれるわけでもなかった。そしてこの出来事を誰にも言うことができなかったのはなぜだろう? 秘密にしなきゃいけないと思っていたのはなぜだろう?
「ユリちゃん、好きだよ……」
 その日、私は私自身に裏切られた。Yとの不気味な逢瀬は結局卒業まで続いた。

 以降、ファンタジーを持つことに怯えるようになった。Yの事件が起きる前から私は性的空想の中で、誰か大人の男に幼い自分を犯させることがよくあった。ときには子羊のように、また別のときは生意気に挑発的に。後者の場合必ず、男を怒らせるまでがセットだった。そういった子どもらしからぬ空想が私の知らないうちに滲み出し、Yに似た邪悪な大人に見破られるのがなにより怖かったし、お前は歪まされてしまったのだと憐れまれることも避けたかった。だから誰にも真実を知られないように、親に隠れて酒を飲みやたらと眠る習慣を身につけた。これが第二の告白だ。
 高校は女子校に入った。私は、男子生徒が怖いから女子校に行きたがっているという親と教師たちの解釈をまったく信じていなかった。でも、たしかに男嫌いの傾向はあった。中学校時代Yに不本意に手ほどきされた私のセックスへの憧れは、同年代の男の子にはやはり向かなかった。そしてまた女同士の友情や信頼関係にもそれほど期待していなかった。だから小学生のときと同じく、一人でいる時間が多くなった。それはとても楽だったしそのぶん空想の世界に浸ることもできた。
 高校では、ちょっと変わった子というポジションを獲得した。中学のときのような不健全な関係は誰とももたなかった。しかし相変わらず空想の中では何者かに犯され続けていた。その相手はあるときは近所の医院のベテラン院長で、またあるときは白樺の老木だった。暖かい地域で生まれ育った小柄な私にとって北国の歴史を見てきた大きな異種という存在は興味深かった。「彼」の幹に耳を当てて「彼」が私を啜り上げるのを聴くことがもしできたらなどと、現実離れしたイメージに夢中になった。
 そしてそんなファンタジーは、たいていの場合自分にも相手にも説明できないものだった。誰にも打ち明けることはなかったし、空想と現実の区別がついていないのではと心配されるのは面倒だと思った。
 高校三年間、彼らを想って自分を慰めた。でもその回数を重ねるにつれ、次第に虚しさを感じるようになった。それはまるで自慰行為を覚えたての中学生が陥りがちな自己嫌悪に似ていた。しかし私の場合、性欲に耽溺し堕落することへの恐れというよりはむしろ、何かとても大事なものへの裏切りの意識に苦しめられた。猥褻なイメージが浮かぶたびに女という性を汚してしまったように感じ、ママやおばあちゃんの顔を思い出した。
 高校三年の冬、私は激しく嘔吐した。もうこれ以上空想に振り回されるのは嫌だと思った。「彼」は私を啜るのを止め、私のほうも妄想するのをやめた。それはとても辛いことだった。でもそうしなきゃいけないのだ、と自分に言い聞かせた。
 大学は地元を出たかったので東京にある外国語系の学部を目指した。受験勉強はそれなりに頑張ったが、第一志望には落ちてしまった。しかし第二志望だった女子大になんとか受かり、上京することになった。
 上京の日、パパの薫さんは聖さんに内緒でお小遣いをくれた。私はそれを東京で新しいブラウスとスカートにつぎ込んだ。両親は娘が新しい環境でうまくやれるのかひどく心配していた。
「無理してサークルとか入らなくていいんだからね。勉強だけ一生懸命やればいいよ」
 二人は口を揃えてそう言った。当時高二だった詩さんも、ユリサンは協調性がないんだから友達百人みたいなのは目指さなくていいよ、と真剣な顔をしていた。私はそれにうんと答えたけれど、すぐに不真面目な遊びに夢中になった。
 
 私はマッチングアプリで遊び相手を探した。地元から出てきたばかりで知り合いのいなかった私にとって、ネットの世界はオアシスだった。
 いろいろな人と会った。でも誰と会っても、あの空想の存在たちには及ばなかった。彼らにはある種の品性があったが、現実の男はとにかく下品だった。彼らは酒臭い息を吐きかけながら私の全身をまさぐり、あるいは己のものをしごいた。そのつど私は生々しい嫌悪感を覚え、一方で征服欲にも溺れた。
 大学二年の冬、風貌が少しだけYに似た年上のBに出会った。彼は人並みにいやらしかった。でも、それと同時にあの白樺の気高さを思い起こさせた。
 私たちは頻繁にデートを重ねた。二人には共通言語があった。すなわち、非社会性だった。この医者も結局私を裏切ったけれど、それでもそれなりに楽しかったから関係はだらだら続いた。
「リリィ、センセイは君のことが本当に好きなんだよ」
 会うたびにBはそう言った。私はそれを聞くと、彼の首に手をかけて絞め殺してやりたくなった。でもそうはしなかった。なぜならこの大人を本当に殺してしまったら、私は自分自身も殺さなきゃいけないと分かっていたからだ。
 
 大学三年、つまり私が二十歳のときにYが自殺した。風の強い日で、聖さんと一緒に喪服を着て葬儀に参列したのを覚えている。出棺する直前、最後に見た彼の顔はやはり穴のようだった。
 何度も空想の中で彼を絞め殺したけど、それはやっぱり違うと思った。
「ユリちゃん、先生はユリちゃんのことが大好きなんだよ」
 しかし私はその愛とやらを受け入れなかった。だから彼は私を置いていった。その確信があるからこそ、私はYのことが嫌いだった。大人のくせに子どもに甘ったれるなと思った。
「私は先生のこと嫌いだった」
 葬儀の日の夜、私は両親にそう告げた。
「なんで?」
「だって自分のこと大人だと思ってたでしょ。それにすぐユリのこと子供扱いしたし。だから嫌い」
「ふうん……」
 二人は顔を見合わせて不思議そうにしたけど、それ以上何も言わなかった。そして私をベッドに入れて子守唄を歌ってくれた。その後のことは覚えていないが、目覚めたとき聖さんはダイニングでウイスキーを飲んでいた。薫さんは玄関先で吐いていた。東京に戻ってから、私は一度もセックスをしなかった。

 大学卒業とともに地元に帰った。大学時代の友人たちはみな都会での生活を望んだが、自分だけはあの街を離れられないと思った。地元で一人暮らしを始めると、ファンタジーに再びぶつかった。私はもう一度、「彼」の幹に耳を当てるようになった。「彼」は前ほど啜ってくれなくなった。でも決して私を見捨てはしなかった。
 妹が早くに結婚したり出産したりしても私は子供を作らなかったし、空想はあいかわらず尽きなかったけど現実の相手と関係を結ぶことはもうなかった。北極(博多阪急)からやってきた白熊のアティカスに打ち明け話をしているときが、一番心が穏やかになった。
「ユリには恋人がいない」
(うん)
「でも好きなヒトたちがいる」
「ユリは、そのヒトたちのことを考えるととても幸せになる」
「でも、そのヒトたちのことを考えるととても寂しくなる」
(なんで?)
「ユリは、そのヒトたちのことが好きだから一緒にいると苦しくて悲しくて……少し離れるだけで寂しいから会いたくなるのに、一緒にいても幸せで苦しいからやっぱり離れたい。近くにいるときは隣にいるだけでこんなに幸せなのに、離れているときの苦しさを考えると頭がぐちゃぐちゃになるのが嫌。それで結局大好きなヒトたちから逃げてしまうんだ」
(……わかんないよ)
「ユリは、男の人が怖い」
(そうかもね)
「女の人も怖いんだ。ママや妹が普通にしていることでも、自分は違うんだって思い知らされるから」
「みんな、たいていはユリに酷いことをしたりはしない。ただちょっと違ったやり方で愛したり愛されたりするだけだ」
(うん)
「でも、ユリはそれが怖いから、だからもう誰とも一緒にいられない」
(……)
 そんな生活が二年ほど続いた。相変わらず悪夢の中でYと出会い続けたし、それはYが死んだところで終わりにはならなかった。

 ある午後私は、薫さんの車の後部座席でうたた寝していた。
「ユリ、着いたよ」
 薫さんが私を揺り起こした。車から降りると、そこは見覚えのある場所だった。一面金色のススキ野原にポツンと存在する大きなお堂のような建物。そこに入っていく黒いスーツの大人たちの背中。それは私が小学校四年生の秋の光景だ。
「ユリ」
 薫さんは私の肩を抱いた。その瞬間、父親を突き飛ばして駆け出していた。心臓が痛いくらい速く脈打っていたけど足は止まらなかった。
「ユリちゃん!」
 誰かが後ろから私の名前を呼んだ。でも振り向けない。だってそれは、母親の声ととてもよく似ていたから。
「ユリ!」
 私は走った。あのお堂に向かって。しかしそこにたどり着く前に誰かに腕を摑まれた。

「……先生」
 その身体は大きくて温かかった。そしてやはり穴のような目をしていた。
「ユリちゃん、僕は君の先生だったね」
 Yはそう言って微笑んだ。私は泣きながらうなずいた。
「どうして先生のことを怖がっていたんだい?」
「……はじめから先生が怖かったんじゃない。あの日から全部がおかしくなってしまったんだ。先生、なんで、なんでよ」
 ただしゃくりあげるしかなかった。すると彼は私の頭を撫でた。その感触も匂いもずっと昔のままだった。そしてそれはつまり、目の前のこの人は死んでしまっていてもういないということを意味していた。それがはっきりしてしまったから涙が止まらないのだということも。
 Yは私をなだめてお堂の方に歩き始めた。私もそれに従った。
「やっぱり、ユリちゃんは怖かったんだね」
「……うん、でもいまは怖くないよ」
「ほんと?」
 彼は嬉しそうに笑った。お堂にはもう誰もいなくて、人々はその前の舞台で何かをしているらしかった。目を凝らすとそれは葬儀のようだった。
「ああ、あれは僕のための葬式だね」
 Yは他人事のように呟いた。そして私の手を引いて人のいないお堂に足を踏み入れた。
「先生、死んじゃったの」
「うん。死んだよ、でもユリちゃんのせいじゃないから泣かないでね」
 そう言ってまた私の頭を撫でた。私は涙を袖口で拭って顔を上げた。お堂の中は暗くてよく見えないけど、Yの姿ははっきり見えた。
「先生、どうして死んじゃったの」
 彼の目はもう穴ではなかった。それはただの吸い込まれそうな二つの瞳だった。
「先生が、ユリちゃんのことを傷つけちゃったからだよ」
 先生は、私の腕を軽く引いてもう一度抱きしめた。私は抵抗しなかった。そうするべきだと思った。
「ユリちゃん、ごめんね」
 首を振ると、気をよくしたのか先生は腕の力を強めた。
「ユリは先生のこと許さない。ずっと嫌い。そう決めているし、どんなやさしい言葉も過ちをなかったことにはできない。でもね」
 それは先生のこと忘れないってことなんだ、と私はとうとう言ってしまった。
「ユリちゃん、ありがとう」
 彼はようやく腕を離した。そして立ち上がった。
「もう、行くね。ユリちゃん」
 彼はこちらに手を振ってお堂の出口に向かった。私もそれについていった。でも、彼が扉に手をかけた瞬間、思わず叫んでいた。
「先生!」
「なあに?」
「……また会える?また会えるよね?」
 先生は少し考えてから、
「それは……分からないや」
「どうして」
「僕はもう死んでるからねえ」
 そう言って扉が開いた。その瞬間、強い風が吹いてきて現実の世界に引き戻された。
 
 目を開けるとそこは、見慣れた自分の部屋だった。私は慌てて起き上がった。部屋にはぬいぐるみたち以外誰もいなかった。ベッドを降りようとしたとき、ふと鏡の中の顔が目に入った。
 そこに映っていたのは確かに私の顔だったけど、それは今まで見たこともないような表情をしていた。きっと私は夢の中で私の知らない人と会っていたのだろう。その人のことが大好きだったんだなと思ったら悔しくなって、散らかった部屋を手当たり次第に片付けはじめた。
 ウォッカの空き瓶をかき分けて、少し汚れたタータンチェックのノートを拾うと、一番最初のページを開いた。そこには祖父の筆跡で私の、私自身の名前が書いてあった。その文字を指でなぞる。
「Yuriko E.」    
                             〈了〉 

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それは最後の夏のバラ (訳詩)

それは最後の夏のバラ
残されひとり咲いている
その子の可愛い友はみな
枯れ果て逝ってしまったのにね
その赤らみに照り返したり
漏らす吐息に応えたりする
同種のバラの花のみならず
その蕾すらどこにもいない

己れの茎に嘆きを零す
お前ひとりを残しはしない
愛しいものは眠りの床さ
お前も共に眠るがいいさ
思いを込めてその葉一枚また一枚と
俺は寝床に散らしていくさ
お前の庭の仲間はみんな
もはや薫らず死して眠れるこの床に

俺ももうじき後を追うもの
友の情けも衰えて
濃やかに織り成す仲の輪の中からも
玉の思いも落ちては消える
心の友のみな横たわる時
優しい者みな消え去った時
この寂寥の世にひとり
生き長らえる者がいようか



※トマス・ムーア(1779~1852)というアイルランドの詩人の代表作を訳してみました。当時は(いまも?)有名な詩人だったらしいのですが、不勉強で彼については、いくつかの詩を読んだことがあるくらいで、詳しくは知りません。この作品は、訳しながらだんだんと気分が沈んでいき、最期は暗く落ち込んでしまいました。読み手にそんなことを思わせるのだから、それなりの詩人と言えるのかもしれませんね。何でも、ゲーテも彼に一目置いていたとか何とか。訳については、言葉の流れや響きを重んじているので、原詩には忠実でないところもあります。それに自分の英語力ではよくわからないところもあったりして…。何にせよ、これからは、英語圏の詩人の詩を訳してもみようかと思います。

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陽の埋葬

──おいでなさい。よい星回りです。
(ゲーテ『ファウスト』第二部、相良守峯訳、罫線加筆)


畳の湿気った奥座敷、御仏壇を前にして、どっかと鎮座する巨大なイソギンチャク。


(座布団が回る、イソギンチャクが回る、互いに逆方向に回りはじめる)


──おいでなさい。よい星回りです。
(ゲーテ『ファウスト』第二部、相良守峯訳、罫線加筆)


イソギンチャクが呼吸をするたび、星々が吸い込まれ、星々が吐き出される。


(そのたびごとに、宇宙はこわれ、宇宙はつくられる。)


──おいでなさい。よい星回りです。
(ゲーテ『ファウスト』第二部、相良守峯訳、罫線加筆)

螺旋に射出された星々が超高速で回転する。


(刹那の星回り!)


星と星と星との饗宴。


鐘と鐘と鐘とが響きあう。
(ジョイス『ユリシーズ』9・スキュレーとカリュブディス、高松雄一訳)

(団栗橋だなんて、懐かしいわねえ
 京阪電車も、以前は、地面の上を
 走ってて。ほら、憶えてるでしょ
 橋の袂を通るたび、桜の花びらが)


semaphore 腕木信号機。


(通過する急行電車!)


semaphore 腕木信号機。


(通過する急行電車!)


──もうどのくらい占星術に凝っているのかね?
(シェイクスピア『リア王』第一幕・第二場、大山俊一訳、罫線加筆)

(憶てるでしょ、ほら)


点滅する信号機!


さくら、


さくら、


点滅する信号機!


さくら、


さくら、


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首輪の縫い目をあなたが指でなぞるとき
私の輪郭はやさしく整っていく
あなたの足元で目を閉じると
私は誰よりも自由になる
過去と現在のあやまって結ばれた
痛みの瘤をきびしい愛撫にほどかれる
私はこげ茶色の毛をした
怯えて吠えちらす一匹の若い牝犬

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詩作鍛錬万景峰

深夜みたいな夜、若い男が自らを鍛錬していた。マゾヒスティックな姿にしか見えなかった。夜だから血迷っていたのか、元々がのぼせ気味なのか。パインジュースが舌に染みるようで時々シーと言いながら口から息を吐いていた。吸っていたのかもしれない。 Tシャツの背中には万景峰と書かれてあった。漢字で。その下、ちょうど肩甲骨の真ん中あたりにサングラスの太った男の笑顔がイラスト風にプリントされていた。高価な物なのか、安価な物なのか。 若い男は、時折頭を掻きながら、シーシー言いながら、パインジュースをごくごく飲みながら、ボールペンでノートに字を書いていた。日本語だった。 若い男は、詩を書いていた。書いてはパインジュースを飲み、飲んでは書いていた。 タイトルは『禁止事項』。つまらぬタイトルだった。気の利いたタイトルを考えつくようなら、そもそも詩など書かないのではないかと思ったが、暇に任せてもう少し観察することにした。 『禁止事項』。要するに、この言葉を使って詩を書いてはいけない、逆だろうか、この言葉を使って詩を書いてはならない、というようなことをツラツラ書き並べていた。 『禁止事項』 これらの言葉を使って詩を書いてはいけません。 これはルールです。 
夢 
花 
雲 
風 
宇宙や宇宙関連 
空 
春 
夏 
秋 
冬 
わたし 
あなた 
君 
俺 
光 
雨 
約束 
時間 
道 
海 
時計 
優しさ 
人 
人間 
命 
生命 
愛、愛してる 
恋 
好き 
嫌い 
抱く 
怒る 
嘘 
真実 
存在 
あいさつ 
泣く 
笑う、笑顔 
口づけ、キス、接吻 
男 
女 
声 
匂い 
花の名前 
カタカナ 
人生 
生きる 
死ぬ 
平和 
戦争 
世界 
国、国家 
叫ぶ 
さまよう 
魂 
心 
料理 
食材 
飲料 
手紙 
なぜ 
謎 
鳥の名前 
山 
川 
湖  
岩 
星の名前 
親 
子 
父 
母 
家族 
子供 
息子 
娘 
祖母 
祖父 

もう少し書くつもりだったのだろうが、男は動かなくなった。心肺停止。 そして、その霊魂は、離脱して部屋の天井の片隅で浮かんでいたわたしのとなりにやってきた。わたしの肩越しに見えた、私を含めた無数の霊魂の数に驚いた表情だった。詩を書くことが好きな人間の霊魂があまりにも多いことを知った彼は戸惑っているようだった。それに霊魂になってしまうと、ボールペンも紙もないので詩を思いつくことは出来ても書き留めることができない。それでも果敢に禁止事項を踏まえて詩を思い浮かべようとした。タイトルは…の最初の4文字を思い浮かべた瞬間に霊魂は消えてしまった。机の上には原稿用紙に書かれた『禁止事項』だけが残っていた。

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カウンセリングルーム

雪解けがわずかに響いている
川のほとりで凍りついた名前
その果ては誰も知らないまま
水は忘却された声を聴く
名前を亡くした人々が川辺に集まる 
無数の唇には縫い合わされた痕がある
呼吸のたびに桃色の霧がふくらみ 
彼らのうち誰もそれに触れようとしない
執拗に折りたたまれた手紙に似て
人々の手のひらはしっとりと濡れている
意味の消えたインクが皮膚の文法を狂わせた
水面には植物が群れをなし 
それらの花は逆さに咲き
見つめた誰かのまなざしが 
乳房の裏で腐敗する

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可愛いホクロ


あなたのホクロが はやく見たい
あたしの二の腕の裏側のホクロに はやく 優しくしてほしい

きっと退院してすぐは ご病気があるから愛し合えないかな
元気になったら 骨折して 救急車で運ばれるぐらい
ギュッ してね
約束よ

指切りしてくれたら
電気を消して もう寝ます



https://i.postimg.cc/MZCdY2BG/ke-aiihokuro.png

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花が咲くように

 ブラウンフェルス城の城門横に構えたホテルの一室からは、木組みの家並みがゆったりと流れる時の中に佇んでいる様子がよく見て取れる。石畳の道には観光客が弾んだ声を上げ通り過ぎてゆく。未だ目の覚めない男は、ベッドのうえで何度も寝返りを打ちながらその穏やかで退屈な平和を聴いていた。

「おはようございます、エルンスト先生」
 不意に男とも女とも取れぬ美しい声に呼ばれ、その男、エルンスト・ニールマンはゆっくりと老いた身体を起こした。
「おはよう、ルカ」
 エルンストがルカと呼んだ少年は、部屋の入り口に佇み、寝惚けた優しい微笑みを前にその冷淡な美貌を微塵も崩さない。エルンストは見慣れたその顔を見詰め、遥か遠い記憶を思い起こした。まだ、エルンストが三十代の頃の事だ。毎朝、毎朝、エルンストはその頃の事を思う。
 呆然と浸っていると、ルカは徐にベッドへと歩み寄った。硝子玉の瞳に見下ろされ、エルンストは思わず喉を詰まらせる。
「心拍数が上がっています。何か心配事でもあるのですか」
「いいや、何もない」
 それ以上ルカは踏み込んでは来ず、エルンストは深い溜息を吐いた。

 顔を洗い、チェックアウトを済ませ、ふたりはホテルを後にした。大きな四角い革張りのスーツケースはルカが持ち、エルンストは片手に持っていたハットで見事な白髪を抑え微笑んだ。
「さて、今日は何処へ行こうか」
「雨は降らないようです。散歩をするには適しています」
 観光客が行き交う城前の通りを眺めるエルンストの横顔を真っ直ぐに見詰め、ルカは無機質にそう伝えた。このやり取りも一体何度目か。その疲労感に、エルンストの枯れた唇からは吐息が漏れる。

 晴れ渡る空を見ると思い出す。研究室にこもりパソコンの画面ばかりを見詰めていた日々を。エルンストは白んだ瞳を細め、流れてゆく雲を追いかける。青白く透ける、肌のようだ。触れたことはなかった。触れる前に、消えてしまった。

「ほら、外に出ると気持ちがいいでしょう」
 その声が遠くなった耳に触れる。幻聴か、記憶の底か分からないままルカを振り返る。硝子玉の瞳は、どこか知らない空間を見詰めていた。
 その先を追いかける。ちょうど路地裏から通りに出てきた青年が、祖母の手を引いていた。

 エルンストはまた空を見上げた。太陽を嫌い、ブラインドを締め切った研究室がエルンストの城。そこ以外に空気はなかった。けれど誘われるまま外に出てみると、確かに気持ちが良かった。肺を通り抜ける空気は澄んでいた。呼吸ができた。それは、彼がいたから。

 ふとふたりの前をじゃれあった子供たちが通り過ぎた。明るく開けた笑みを浮かべ、彼らは声を上げて笑っている。頬が緩む優しい景色にエルンストも口元を弛ませ、そっとルカの腰に手を添えた。
「ご覧ルカ」
「はい、先生」
 ルカは言われた通り、子供たちを見詰める。
「あれが笑顔だ」
 不純物の何もない、純粋な笑顔。ルカは相変わらず子供たちを目で追いながら、おおきく頷いた。
「はい、それを教えて頂いた回数は二百五十二回目です」
「そう、何度も教えたね」
「はい、先生」
 エルンストはまたひとつ息を吐いた。変わらない返答。変わらないルカ。やはり重い疲労がエルンストの肩を圧した。
「エルンスト先生、交感神経が活性化しています。少しお休みになられた方が」
「いいや、違うんだよ、ルカ」
 優しく首を振り、エルンストは疲れたように笑った。

 あの晴れた日の言葉の往復が、ずっと頭の中で鳴り響いている。
 君を側に置いておきたい。はい、先生。驚かないで、君を愛しているんだ。気持ちが悪い。
 悪くなった記憶からも消えない笑顔。全身で拒絶を示す引き攣った頬、離れてゆく背中、愛しているという呪いの言葉──。

 ルカは相変わらず真っ直ぐに子供たちの笑顔を見詰めている。その横顔に、エルンストの胸は圧し上げられて軋む。想いを伝えなければ、きっとこの道を歩むことはなかった。それは不幸か、幸福か。

 ひとつ吐息を吐いて、エルンストは老いた足を踏み出した。
 ふたりはブラウンフェルスの街をゆっくりと歩く。擦り切れた靴底を引き摺るように音を立てて歩むエルンストの少し後ろを、ルカは何も言わずについてくる。気が付けば、故郷のミュンヘンをこの少年と旅立ってから随分と長い時が経った。
「もう長い事旅をしているね」
「はい、先生」
 記憶の底に染み付いた顔と同じはずなのに、相変わらずルカの返答に抑揚は無く、エルンストの心を狂わせたあの笑顔を見せてはくれない。エルンストはふと足を止め、自身を見詰めるルカの温度のない頬にそっと触れた。
「君はいつ、笑ってくれるのだろう」
 まるで蕾が綻ぶような笑みを、何時見せてくれるのか。独り言であった筈のその言葉を、ルカは残酷に拾う。
「エルンスト先生が望まれるのでしたら、私は笑う事ができます」
 まるで愚かな老父を嘲笑うその存在に、エルンストは吐き気を催す程の愉楽を覚えた。

 従順なルカ。愛など知らないルカ。その唇はもう二度とエルンストを気味悪がって罵ったりはしない。その深い安堵と嫌悪感が、エルンストの曲がった背筋を震わせる。
「さあ、行こうか」
「はい、先生」
 その声の調子は、あまりにもいつもと同じだった。

 エルンストはまた歩き出す。ルカが笑顔を手に入れるまでの終わらない旅路を。遥か昔その身に刻まれた、狂おしい呪いを連れて──。


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拝啓、中島みゆき様 vol.4 生きていてもいいですか


中島みゆき7枚目のアルバム、「生きていてもいいですか」
これ、CDを手にとった瞬間、ジャケットのインパクトにノックアウトされます。
まず、全面真っ黒。
その真っ黒の真ん中に白く、うっすらと消え入るように浮かぶアルバム名の文字。
怖い。はっきり云って怖い。迂闊に手を出してよさそうな代物じゃない。
CDショップなら、レジに持っていくかどうか怯んでしまいます。
それくらいに、ジャケットだけですでにかなりインパクト大なアルバムです。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

1曲目、うらみ、ます。


よくも悪くも、中島みゆきという歌い手のイメージを決定づけてしまった、
好いた男に弄ばれ、ひどいフラれ方をした女がその男を死ぬまで恨み続けるという、
云ってみればつまり、暗くて陰湿で怖い女、というイメージを、
世の特に男性たちに強烈に植え付けてしまった曲でもあります。
わたしの知り合いにも、わたしがみゆきのファンだと知るや、
やたらと怖い怖い、恨まれそう、と云っていた人がいました、余談ですが(苦笑)。

ある雑誌の記事にこの曲について言及したものがあり、その中でみゆきは、
「死ぬまで」というところが、そこまで恨み辛みの根っこが深いんだと
聴く側が受け取ってしまったことに対して、本当はそうじゃないんだと。
恨み辛みも所詮は「死ぬまで」のことで、墓場に入ってまでも恨み続けるわけじゃない。
所詮はその程度のことなのよ、と。
相手を云々というよりは、自嘲気味に云ったコトバ、だったそうで。

ジメジメとした暗い歌と思われがちだけど、本当はそういう歌じゃないんだと。
そんなようなことを仰っておられました。
そういう風に思いながら聴いてみると、また違った味わいができるような気がします。

みゆきはたしかに怖い人です。
ですがそれは、人間の根源的で根本的な本質を見抜く鋭い感性を持っているからで、
決して真夜中の暗い部屋の中、別れた男の寝床にぬっと立っているような、
そういった怖さではないのです。
まあ、わたしが云うまでのことでもないんですけど(^_^;)


2曲目、泣きたい夜に


  ♪一人で泣くとなんだか自分だけいけなく見えすぎる
   冗談じゃないわ 世の中の誰も皆同じくらい悪い

自分ばっかり悪いような気がしてしまって、味方なんか一人もいない気がするとき
この歌詞に何度も何度も何度も救われてます。
みゆきの曲は、大勢でわいわい聴く曲じゃないですよね。
ひとりでしみじみと聴く、というより誰にも云えない自分の気持ちを
そっと聞いてもらうような気持ちで聴くものだと思います。


3曲目、キツネ狩りの歌


可愛らしい曲調と歌詞なのだけど、内容はかなり辛辣。
仲間とともにキツネ狩りに行ったつもりが
実はその仲間がキツネだった
キツネを仕留めるために放つ弓
放つ言葉、という意味なのかも
放った言葉の弓が、誰かを殺すこともありえる、という。


4曲目、蕎麦屋


この曲はたしか、ラジオで所ジョージさんと何かの賭けをして、
負けたら「蕎麦屋」というタイトルの曲を作ることになって、
で、負けてしまったのでこの曲ができた、と思います。
世界じゅうのすべての人が皆偉いような気がして
自分なんかいらないんじゃないかって、そんな風に思ってるところに
突然おまえから蕎麦食べに行こうと電話が来るんです
おまえはこっちの事情なんてまるでお構いなしに他愛ない話でケラケラ笑って
ラジオからはさっきからずっと大相撲中継が流れてて

  ♪あのね、わかんない奴もいるさって

突然云うんですね。
こんなこと突然云われたら、そりゃあ泣きますよ。泣いちゃう。
多分おまえは、世の中のほとんどがわかんなくっても、否定しても、
ひとりくらいはわかってる人間いるから。
そのひとりが俺だから、ってことを伝えたかったんでしょうね。
虫の知らせじゃないけど、おまえには何か感じるものがあったんでしょう。


5曲目、船を出すのなら九月


狂騒のような夏が少しずつ帰り支度を始める九月
あなたという愛を失っても
愛はそこら中に転がっている
愛なんて別に大したものじゃない
どうせいつか冷めてしまうもの
だから捨てるには九月がちょうどいい
みんなが冬を見ている九月が


6曲目、インストゥルメンタル


7曲目、エレーン


中島みゆき全曲の中で、おそらく1・2位を争うほどの暗く重たい曲。
誰もが口ぐちに、とんでもない女だった、質の悪い女だった、死んでいってよかったと
噂され続け、たったひとり淋しくゴミ捨て場で死んでいた孤独な外国人娼婦・エレーン。
言葉の上手く通じない彼女はほとんど人と話すこともなく、
所持品も安い生地のドレスと、
タンスの引き出しの奥に仕舞っていた生まれた国の金に換えたわずかなあぶく銭。
国に残してきた小さな子どものための。

この曲は実話を元にしているらしく、
みゆきと仲のよかった外国人娼婦が、
ある日ゴミ捨て場で死体となって発見されたことが、
この曲を作るきっかけだったらしい。
アルバムタイトルでもある、生きていてもいいですか
誰もがそれを問いたい、けれど答えは解っているから誰も問うことができない
死んでしまった外国人娼婦だって、あんな死に方するために生きていたんじゃないはず。
日本に来れば、お金も稼げるし、子どもにも美味しいもの食べさせてあげられる、
もうちょっといい家にも住めるかもしれないし、いい暮らしもさせてあげられる。

この曲は、みゆきのエレーンに対するとてつもなく優しいまなざしと、
生きるということの、どうしようもない無常観、虚無感、貧困、格差、外国人、職業差別、女性蔑視
といったものをこれでもかというほどに突き付けてきます。
スゴイ曲です。


8曲目、異国


みゆきは度々、故郷はあるのに、帰りたくても帰ることができない
そんな人たちの心情をテーマに曲を作っていますが、
この曲はその最たるものではないかと、個人的にはそう思っています。

  ♪とめられながらも去る町
   悪口ひとつも自慢のようにあたたかい
   忘れたふりを装いながらも靴を脱ぐ場所があけてある

だけども、帰れないものにとっての故郷は
去り際に二度と帰ってくるなとツバを吐かれ
故郷の話の輪の中に入れてももらえず
しがみつくにも足さえみせず
うらみつくにも袖さえみせず
泣かれる筋合いもない
そこで生まれ育ったということさえも、なかったことのように
それはもう自分にとっては、血のつながった他人のような
「異国」そのもの。

  ♪100億粒の灰になってもあたし
   帰り支度をし続ける

というのがもう、堪らなく
なんとも云えない、ずっしりしたものが
聴き終えたあともずっと、重くのしかかってくる
曲です。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

うらみ、ますの「死ぬまで」から、異国の「100億粒の灰になっても」
そしてアルバムタイトル・生きていてもいいですか
とても深く重く、そして鋭く心の芯の芯の部分を突き刺してくる
そんなアルバムなのではないかと、わたしは思っています。













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批評・論考

やかましい静寂

僕が、この島を離れないのは
静かなところが怖いから。
初めて、島を離れた日。見知らぬ土地、見知らぬ人
ほんの少し匂いが違う空を見上げて

「静かな場所」だと思った

轟音で鳴り響くヘリは、上空を通らない
行き交う人たちは、無言で足早に横切る
たくさん人がいるはずなのに、そこには誰もいないかのような
僕を包むあたたかな陽の光とは裏腹に

雑踏の音が、しんとしていた

そして、島へ戻ると、途端にやかましく感じ始めた
人々のざわめきが
木々の声が
波の音が
ヘリが

あの、静かな土地に帰りたい、恋しいと思い始めた
だが、僕は、静かな土地の住民じゃあない
いくら希ったって、叶うものもかなわない
幾分か月日が経つと、次第に怖くなってきた
もう一度、島を離れると、今度こそ戻れないと
宙ぶらりんのまま
いったきり

恋しくて、苦しくて、悔しくて

どうしようもない気持ちのまま、刺すような日差しを浴びる
この島は、おせっかい焼きの塊だ
静かなところは僕の心の中だけ

そう言い聞かせて
耳鳴りみたいな潮騒を抱え込む

朝になれば
商店のシャッターは乱暴に開き
名前を呼ぶ声が
遠慮もなく背中を叩く

逃げ場のない親しさ
ほどけない網みたいな視線
優しさはときどき
棘を隠したまま差し出される

それでも夜になると
島は急に、深海のように沈む

遠くで回るヘリの灯り
規則正しく瞬く赤が
星のふりをして
僕の未練を数えている

あの土地の静けさは
僕を透明にした
ここでは
僕は名前を持ちすぎている

呼ばれるたびに
僕は僕に固定される

けれど
もし本当に
どこにも属さない静寂の中へ
溶けてしまえたら

僕は
僕を保てるのだろうか

うるささのなかでしか
形を持てない心がある

波が砕けるたび

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誰ガ一番馬鹿カ?

電気八日
ガスが十日、今週の
とうの昔に「オカケニナッタ電話ハ
都合ニヨリ現在繋ガラナクナッテオリマス」
何も貯まらぬ家に蓄積し堆積した
家賃はガソリン燃え上がる火だ
もうじき灯油も底をつくというのに
ニュースでは景気のいい話ばかりしている
テレビでは健康そうな家族が笑いながら髪を洗っているが
彼女に教えた天気予報がはずれて吹雪ざざざのぼうぼうぼう
また人間面したボクの信用がなくなった
ソウダ、イイゾ、誰ガ一番馬鹿カ?
トイレタンクが日がな一日何かをつぶやいてタメ息ついている
「確実と格安のアリバイ」「ふれあい友の会」「口座売買」「マゴコロろーん」」
ソウダ、ソノ調子
ボクの強迫神経症が彼女に伝染し
冷たい心臓の部屋の中
電気、ガス、ストーブ、ドアの鍵、チェックにチェック重ねて
外出も寝ることもままならぬ
デ、ドウダ?イイゾ、コレハスゴイゾ
ソウダ、ソノ調子、誰ガ一番馬鹿カ?
止まり木では前傾姿勢で眠るインコが飛び降り自殺を考えている
水道管がすすり泣く、メガネのれんずがオカシイ、視界が歪んでいます
歯がボロボロだ、テレビの画面は紅い砂漠になってしまった
昨日雪道で転んだ彼女も動かない
バネが飛び出し冷たく首を垂れてる
ケイコー灯も馬鹿だ寿命だマチガッテイル
洗濯機も馬の嘶き悲鳴をあげてる
電子れんじも破産だカンシャク起こしてる
ストライキだ、万国の同士諸君(ってどんな諸君?)
食卓のナットーはただ独り粘り強く戦っているぞ
ソウダ、イイゾ、ソノ調子、サア
へっじふぁんどは断固撲滅すべきだが
ロードー組合費を捻り出せないボクはこのごろ頭が腸捻転でん
新聞勧誘のおじさんがトイレペーパー一個哀れんで置いてった
やがて電気の男たちが来る、ガスの男たちが来る
もうじきここは零下の暗黒世界
蛸の会長に相談しよう自家発電
ソウダ、ソノ調子、イイゾ、マスマス、サア
人間面したボクが叫ぶ
誰ガ一番馬鹿カ?
雪を燃やせ!
ガソリンだ!ガソリンだ!ガソリンだ!
火だ!

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茫漠

二人組の男たちは
海のものとも山のものともつかぬ
姿で並んで座っている

手持ちのカードを
すべて明かしているのに
何も教えてくれない
逆光にまかせて

眼の中に潮が満ちるのは
窓から海が見えるからだよ

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Finger prints

私は太陽の指紋を見た事がある

太陽から生まれた人間は、
太陽と臍の緒で繋がったまま、
それが導火線になり燃え続けている

今こうしてる間も、
肉眼では見えない回転寿司が、
私の体内をぐるぐる回ってる

全ての人から耳と鼻が消えて、
この世から耳鼻科が消える

子宮内で氷河期起こして、直接的に卵子凍結してる

地球がコードレスじゃなくなって、
自転するたびに巻き込んでいく電源コード、
そしてプラグが抜けて、この世界は一旦終わる

地球をぺちゃんこにして、
ステッカーにして月に貼ったら、
そこが第二の地球に変わる

背中がマグネットの人間だから、
冷蔵庫の前に立つとくっついて離れなくなる

ハンドスピナーの子を妊娠してるから、
体内でずっと胎児が回転してる

私は奈良の大仏の手の平から生まれて来た
全身が鋼鉄で出来た人間

第二関節の中にある空間が私の唯一の居場所だった

喉ちんこをミサイルみたいに吹っ飛ばした夕暮れ

歌舞伎町の真ん中で、
IQをスプリンクラーのように撒き散らす

それを吸収して賢くなった
トー横キッズが作った新しい国

地球上のコンクリートをアンチエイジングさせて、
ただのセメントに戻したら、
灰色の海がプカプカ浮かんだ

「忘れたヘアゴム取りに一旦、
地獄に戻ったら閻魔大王がつけてたんだけど?」

浄水器を眼球にはめ込んだ、
もっとキレイな涙を流すために

ポケットの中で瞬間を育ててるカンガルー

瞬間はそこで音速に成長してマッハで地球上を移動し続ける

ルービックキューブの隙間から生まれて来たカラフルな絶望

ピリオドから生まれて来た真っ黒な影の赤ちゃん

それらはこれ以上小さくなれないマトリョーシカが、最後に吐き出した物。

顔面をピストルの形に変えて、
今日の絶望をBB弾にして飛ばす

世界に渦巻を巻き起こせる能力がある私は、
君の体内で台風を起こす。

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ナイルレストラン物語

 銀座のナイルレストランには、かつてラジャンさんという大番頭がいた。今もいらっしゃると思うが、全盛期の彼は、店の中を睥睨するように奥にどっかと構え、それでいて人当たりは恐ろしく良かった。 満面の笑みで

「ムルギーでよろしゅうございますね」

と、メニューも出さずにオーダーを取ってしまう。客のほとんどがムルギーランチを頼むのは、それが名物だからじゃない。あのラジャンさんのスタイルに気圧され、絡め取られてしまうからだった。
名物のムルギーランチは、鶏モモの乗ったカレーで、ゆでたキャベツとマッシュポテトがそえられている。

「マジェてね!」

ラジャンさんは、混ぜて食べろと力説する。どんなお嬢様も、ラジャンさんに気圧されて、カレーを行儀悪く、ぐちゃぐちゃに混ぜるのだった。

 自分はまだ、仕事を始めたばかりの駆け出しだった。先輩に靴を投げられながら、基本を叩き込まれていた。 36時間ぶっ通しで働いて、朝の10時ごろ、ふらふらになりながら晴海通りを抜けて銀座に出る。
あの頃の歌舞伎座は、まだ高層ビルと一体になる前の、重厚で古めかしい佇まいだった。幕見席も当日発売で、気が向けば小さなカウンターで券を買い、ふらりと入ることもできた。
「もう、お上がりいただけますよ」
劇場の、黒いスーツの係員は、下手したら牛丼一杯の価格の切符しかもっていない客にも、恭しかった。
幕見席用の専用の入口は、本当に狭かった。

 けれど、勤務明けの日が土日なら、歌舞伎座よりも迷わず銀座の場外馬券売り場へ向かった。 1レースが始まるのはだいたい10時。 お目当ては、4レースの障害レースだ。
障害レースというのは、せいぜい競馬場を1周する普通のレースとは違い、2周近くを、竹の柵や池を飛び越えながら、えっちらおっちら回ってくる競技なのだ。 そこにはスピードもないし、華やかなスターホースもいない。騎手だって、テレビを賑わすような有名どころはまず出てこない。
馬に乗ったことのある人ならわかるはずだ。障害の騎手は、格別に格好いい。 拍車を使う古いスタイルの田中騎手(今は調教師になった)、鞭を風車のように回す嘉堂騎手、そして何も考えず突っ込んでいき、たまに勝つ野武士のような出津騎手。 歌舞伎でいうなら、名門の家に生まれた血筋のいい役者ではなく、養成所あがりのいぶし銀――そんな役者ばかりが集まっているのが、障害の世界なんだ。
競馬の専門紙ですら、障害をまともに予想できる記者はそうはいない。彼らは馬をタイムや血統でしか見ないからだ。 だが、競馬場を2周も回りながら飛び跳ねるレースは、力任せに走ったところですぐにバテてしまう。 大事なのは「息を入れる」のを覚えることだ。
水泳を思い出してほしい。 息継ぎができるようになって初めて、5メートル、10メートルという限界を超え、25メートル、50メートルを泳げるようになった、あの感覚だ。

 思えば、あの時の自分は、息継ぎなんかできていなかった。 先輩は何も教えないまま、自分に靴を投げる。仕事をすべて自分に押し付けて、先に仮眠へと消えるのだ。 仮眠の前に、先輩はコンビニで買ってきた新刊のコミックを、ゴミ箱へダンクシュートを決めるようにぶち込む。落ち武者のような髪がその瞬間揺れて、不養生で青白い肌があらわになった。
けれど、先輩はどんな時でも冷静だったし、判断がブレることはなかった。 

「お前は、なぜそう見立てた? 状況の変化と手がかりから、根拠を述べろ」

 不機嫌な一言を投げ、コミックを投げ、靴を投げる。家に帰ってからも、ただ記録を見返し、手を動かして、どうやったら上手く運べるのか。それだけを考えていた。今思うと、真面目すぎたね。

そうそう、障害レースの話だ。 馬は、障害を走るようになっても、すぐには上手く息をつけない。 けれど、何回か走るうちに、馬は覚えるのだ。息継ぎを。 そうなると、がぜん走りは変わる。

 そのタイミングをどう掴むか。 それは、数字しか見ていない人間には一生わからない。 調教の様子、騎手や厩舎のコメント、そして当日のパドック。そうした断片から、馬が上手に息継ぎができるようになった「瞬間」を読み取る。 それが分かれば、障害レースは面白いほど勝てる。 「なんでこんな馬が来るんだ」と周囲が首を傾げるような8番人気の馬を、頭に据えて馬券を買うことができるようになるのだ。
晴海通りの奥、マロニエ通りにある銀座場外(ウインズ銀座)は、どこか洒落た建物だった。鉄骨の錆が浮いたような立川や錦糸町の場外とは大違いだ。
自分が好きだったのは、地下のミニシアターのようになっている一角だ。 競馬場に行ったことのある人ならわかるだろう。皆が新聞やレーシングプログラムを置いて、当たり前のように席を取るのが競馬場の日常だ。場外売り場なら、マナーはもっと悪い。

 けれど、銀座場外の地下にあるその場所には、新聞で席取りをする人間はいなかった。
ここはみんなの席だから、という暗黙の了解があり、レースを見終われば、スッと席を立つ。そして馬券を買いに行き、戻ってきては空いた席に座る。 たまに、競馬場のように3席も4席も新聞を放り投げて占領する奴がいれば、飄々としたおじいさんが

「ここはみんなの席だからね」

と笑って、新聞をどけてしまう。その実力行使は、実に見事なものだった。

「次は、どこだい」

「福島だよ、開幕週だ、内側がのびるぞ」

わいわいと、みな競馬に興じる。東西の場に加えて、ローカル場というのがあって、レースは10分刻み。けっこう忙しい。

「次は、障害か!」

「これはむずかしいな。いったって、逃げ切れんだろう」

「福島は小回りだ、先にいったほうが勝つよ」

「福島のバンケットは難しいぞお」

その一角で、自分はいろいろな人と仲良くなった。 銀座といっても、いかにもな金持ちはそう多くない。蒲田の工場の隠居さんや、近所に務める板前さん。そんな人たちが多かった。 自分はいつしか「障害の兄ちゃん」と呼ばれるようになり、時折予想を聞かれるくらいにはなっていた。 実際、あの頃の自分は、面白いほど障害レースを当てることができたんだ。
障害レースを当てて懐に余裕ができると、マロニエ通りの銀座場外を出て、晴海通りのほうへ向かう。 二階建ての、少しボロっちいナイルレストラン。隣には同じくレトロな「レストラン早川」がある。
(ここのポークソテーは本当にうまい。肉汁にバターをモンテしたソースが、もうたまらないのだ)

 そして自分は、当時の海老蔵(今の團十郎か)よりもずっと強い目ヂカラで
「ムルギーでよろしゅうございますね」
と慇懃に微笑むラジャンさんに告げる。 
「いや、マトンカレーとアチャール。あと、マサラチャイをください」
このオーダーが通ったとき、自分は初めて「大人になれた」気がした。 職場に戻れば、先輩は相変わらず新刊コミックをゴミ箱にダンクシュートして、自分に靴を投げたけれど。
クローブのがっつりきいたマトンカレー、乳酸発酵して、ザワークラウトのような酸味のアチャール、そして、スパイスのきいたマサラチャイ。
大人の世界のなんと素晴らしかったこと!


 今、自分はナイルで好き勝手にオーダーを通せるようになった。 七之助が大好きなチキンマサラだって、激辛の海老カレー(海老蔵は関係ない)だって。何なら銀座の紳士のように、カレーの前にラサム(トマト味のスープ)を頼んで、ゆったりと食事を始めることだってできる。
ファンの目をさけて右近さんがカレーを食べてまったりしている二階に通してくれる。そこで、食後のマサラチャイに、スプーン3杯、砂糖をいれて、ギーの浮いたチャイをゆっくり飲む。歌舞伎座の夜の部、16時はまだまだ先だ。

 ラジャンさんは言う。 
「この前、ご飯を残されたそうですね。なにかありましたか?」 
これは味に問題があったのかを気にしているのではなく、こちらの体調を気遣ってくれているのだ。

 自分はもう、先輩に靴を投げられることもない。 。自分の見極めで動き、自分の手で事を進める。
それは、あの地下のミニシアターと、ナイルレストラン。 あの頃の銀座が、自分に「息継ぎ」を教えてくれたからだと思っている。
だから、自分は東京の中で銀座が一番好きなんだ。

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北投温泉 

 ようやく海外と自由に行き来できるようになった今、台湾の「釣蝦場(エビ釣り堀)」が恋しくてたまらない。 台湾のエビ釣りというのは、釣り堀で手長エビを釣る遊び。日本でいえばパチンコような、お世辞にも上等とはいえない、湿った空気の漂う遊びだ。

 だから、台北の友人は「エビ釣り」と聞いただけで、あからさまに眉をひそめる。彼は旧台北一中の流れを汲む、台湾一の名門校時代は、フェンシングの選手としてアジア大会にも出たような、文武両道の教養人だ。そんな彼にとって、友人の私が「下卑た遊び」に耽るのは耐え難いことらしい。彼は私がそんなものを忘れるようにと、台北の洗練された賑わいをこれでもかと浴びせかけ、私の感覚を「矯正」しようと画策してくる。
 
 無類のお菓子好きである彼に連れられ、台北に行くといつも洋菓子巡りをすることになる。

「どんなもんだい、台北の洋菓子も、東京レベルになってきたろう?」

法式菓子(フランス風の菓子)という看板の出た路地裏の店のケーキは、確かにレベルが高い。キャラメリゼされた青リンゴは、芳香いっぱいでいて、酸味と甘味のバランスが申し分なく、その下のクレーム・ダマンドのしっとりとした重厚な層と、土台となるサクサクのシュクレ生地が、まるで精密な建築物のように口の中で調和する。 どこを切り取っても「正解」しかない、完璧な設計図通りの味だ。

「ああ、これはおいしいね」

彼は微笑む。街の小さなお店を覗いたかと思えば、さっと五つ星ホテルに入ったりもする。そのすぐ後で、今度は下世話な路上の屋台へ飯を食いにいくのだから、案外、彼と私の好みは似ているのかもしれない。 台北では、巨大なビルに店を構える有名店が、実は屋台からはじまったという話がざらにある。屋台で一発当ててやろうという野心があるうまい店が、路上にひしめいている。

 屋台飯をつつきながら、彼はいつも私を諭すように言う。 我々は、そのとき、台北の少し北、淡水というところで、名物の屋台飯、「阿給」という煮込み料理を食べていた。

「温泉なら、台北にも北投や陽明山があるじゃないか。なのに君は、どうしてまた南へ行くんだい?」

私は沈黙する。 本当は、エビ釣りがしたいのだ。南の 原住民の部落に泊まって、素朴なきび飯を食べて、明け方にビンロウを一発キメてから、あの薄暗い釣り堀へ向かいたい……。 そんな渇望を、誇り高き台北人の彼に言えるはずもない。

「ああ、じゃあ今回はしばらく北投に滞在するよ」


 私は彼の顔をたててそういう。阿給はうまい。けれど、心の中の羅針盤はすでに南にむいている。
黒と白。大理石の床。恭しく挨拶にきたシェフに笑顔で彼は応対して、誰もいなくなってからボーイズトーク。

「結婚しろと親がうるさくてね、これはこの前紹介された、台中の娘」

彼が差し出した写真は、洋風のドレスを着た、色白のお嬢さんが写っていた。化学工場からデパートまで手広くやっているグループの娘だそうだ。

「いいじゃないか、俺なんか県庁の下っ端役人、高等官なんかじゃないぞ、せいぜいが判任官の娘なんかですら、最近は紹介もしてくれない。君だったら県令の娘だ
って紹介されるのだろう」

まあ、ろくでもないボーイズトークだ。ガールズトークはえげつない、ということになっているが、男性たちだってこういうことをいうのだから、まあおあいこだね。


 彼は少し前、精神的に危なくなって、いつも銃を身につけていた。彼の親も大きな商売をしている。お見合いひとつで、命をとられるような思いをするのかもしれな
い。自分は、夜中に電話してくる彼にいったのだ。大丈夫か、いざとなったら日本の田舎にアパートを借りてやる。しばらくパチンコでもやって、打ち捨てられたように暮らせ。

 大理石の床は、チェスの盤面のようだ。自分はふと、今の彼女のことを考えた。

 彼女の完璧なスコットランドディフェンス、それを崩していく。そうだ、この白黒の上でね、ナイト同士がつぶしあって、ビショップ同士が牽制しあい、ポーンが突っ込んでいく。

 彼女を得たときに、自分は幸せだと思った。教養がある女。そのへんの育ちの悪い婚活女じゃないぞ。珠洲焼の美しさのわかる本物の女だ。

 けれど、所詮それはディフェンスを崩して得たにすぎないのだ。小便臭い、南台湾。そう、路地裏の女。朝までずっと握っていてくれた女。俺はこの女のためにやろうと心から誓った女、ああ、俺の求めているのはこの大理石のチェス盤で得たものではないのだ。
 
 北投温泉の宿は、申し分なかった。熱海の温泉宿のような、過ごしやすく文明的な宿。少し古くさいが。
もう私の心は台北になかった。明日、発とう。
連泊の予定だが、南にいくことになったから、今、精算してくれといったら、派手なネイルのフロントの小姐(シャオジエ)は、上乗せすればいいものを、バカ正直な勘定を書いて投げてよこした。


続く

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