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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

言葉販売店

丁寧に並べて
見やすく
高く積まない
在庫切れは起こさない

言葉を
そうしていきたい



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日照り


除け者の
肩に
被ふ
屑払い

塗り潰す

土壇場雨
切り落とし

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指先

先生の質問に
山田君が手を挙げて
クラス中が騒然となった
先生もクラスの皆も
山田君が
誰であるのか知らなかった
じゃあ山田くん答えて
動揺しながらも
かろうじて先生は
山田君を指したけれど
本当は誰も
山田君の苗字どころか
名前すら知らない
ただ挙げた手の指先が
水泳のように綺麗で
先生もそこが気に入ったのだろうか
すぐに二人は結婚して
子供ができた
同じ山田君になったね
先生は子供に笑いかけるけれど
皆が一番困惑したのは
先生が誰なのか知らないこと
知らない、と
山田君も言ったこと

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昼と夜を別つ国

キノコバエ
チョウバエ
ショウジョウバエ
みんなあつまり
蕺の夜咄を聞くことがある
カーテンの向こうに昼と夜を別つ国あり
指さす先に
驚きや喜び栃の木や楤の木プラタナスが葉を広げ
街灯によって
睡眠を覚えた私たちの前に
異郷として峙つもの
「戻ってくると思ってたのに」
「投げちゃったね、とおくに」
見知らぬトーク画面に
見知らぬスタンプが押され
見知らぬままメッセージの往復が続いた

まんまるいつき
手のひらにおさめ
斑な淵に建つ砦
キノコバエ
チョウバエ
ショウジョウバエ
みんなあつまり
夜伽を終え
みつからなくなったものや
死んだ者もいた
倉庫ではネズミ捕りの粘着シートを踏んだオヤジが
声高に私を呼んでいた
「今から行くって」
「ダメかもしれない」
そうか、あのメッセージもきっと
ハエたちが接ぎ木のように
造った系統樹があって
その樹は人々から
真実の通時態と呼ばれていた
五本回しで積まれた米袋の向こう側に
オヤジの声がして
周りこもうとした時
昼と夜を別つ国
いみじう暑い夏を具す
私たちの言語を用いて寿ぐと
オヤジは粘着シートの上で足裏から
徐々に溶け落ちていった

「最後に非通知で電話がかかってきますから、くれぐれも出ないようにしてもらえますか」
「火星からの通信が途切れたのもきっとそのせいでしょう」
「だから、私には夜が必要だった」
「そういう時都合よく眠れなくなって」
「お互いにまだよく知らなかったから」
「最後くらい笑顔がいいなって」
言いさしのまま終われない会話が続き
ハエたちは散り散りに去っていった
昼と夜を別つ国のものども
すさまじき心肝を曝す

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【推薦文】白くて眩しい

推薦対象

サマーノイズ
by 白雨いろ

この詩の作者は一行の長さへの、おそらくは無意識なまでに洗練された感覚が特徴的であり、また空白行の使い方が優れている。
なのでつまりは、余白の使い方に面白さがあり、文字のないスペースから、単なる余韻を超えた詩的な要素が味わえる。
哀しみの詩からは嗚咽が伝わり、ネコの詩からは穏やかな動作が伝わる、といった具合だが、非言語表現だから全ては読み手次第でもある。

本作品の余白から何を読むかも読者次第ではあるが、詩集に入るのならレイアウトは美的センスのある人の腕の見せ所だろう。個人的には、えっち且つ健康的な太ももが見たい。

私はしろねこ社の詩集には、表紙絵などで繊細で奥が深い暗色の表現に魅力を感じているが、それも社主社員のテキストの読み込みと美的センスの融合があっての事と思っている。レイアウトに拘った、且つ何も付け加えない、純白の余白にも期待する。
詩集で、真っ白な紙のうえに展開される、この作品の絶妙な曲線をしみじみと(且つニヤニヤと)鑑賞したいので推薦する。

(修正2026.7.20 15時50分)

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新落語 一文字シリーズ 「うな丼の話)

新落語
一文字シリーズ
「うな丼の話)

今宵は、

このような
言葉があるのは
それは、
誰もが知っている
はねる
文字を変更
うさぎ
から
うなぎ丼
それからどうした
うなぎ屋
それでどうした
お待たせ
うな丼です
そのあとどうした
お金がないと
店員につげたら
そのうな丼
はねられた
最後はどうなった
どちらも
はねられます
こんなの
どうでしょう
書けるもんなら
書いてくれ

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【推薦文】無頼派詩集、出して下さい

推薦対象

遺書について
by 三明十種

本作は自分の死という、重くもあり、侘びしくもある主題を扱う作品。なのに軽妙さ、とは私は思わない、軽妙さでも洒脱でもなく、もっとどんくさいが、独特の【優れて「投げやり」な】ユーモアが光る、愛らしい作品。

なお、本作ラストのスタンザはメタを仕掛けており、この作者が遺書を書く状況の切実さを自ら揺らして居るが、これは強がりと私は解した。
他の作品からこの作者の「孤独」との付き合い方を読むと、なおさらだ。
無頼派詩集を期待して、推薦します。

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雷鳴

「澄みたるは、老年の如し」
と、若きニゴリテルは言いました
「私は、ニゴリテル。平和な時間時代
その一瞬一瞬の暇と退屈を精神の安寧者たちと、共に過ごす
精神の疲弊と荒廃から、やがて欲望は膨れ上がり
発散解消が上手く得られぬまま、悲壮が私を蝕み
勝者たちが、私の時間を搾り取る
憧れの淑女、キヨメテルは多くの男性の羨望の的」

「染み渡るは、腐敗臭の如し」
と、同居人のクサリハテルは言いました
「俺は、クサリハテル。忙しい戦争の時代を生き抜いた
その一瞬一瞬の、争いとトラウマからくる傷跡を、同じ仲間たちと共に過ごす
精神の充足と、欲望の満足。肉は、血沸き賑わい
税は、国民が私の代わりに払う。喜悦が私の頬を緩ませ
敗者たちと、楽園の時間を過ごす
憧れもなく、永遠に続くオナニーが私の心を癒す」

「響き渡るは、快晴の狼煙」
と、老フザケテルは言いました
「オイラは、フザケテル。出来の悪い息子を精神病院にぶち込んだ
後は、自分は妻と忙しさと楽しきを国に保証された年金生活
その一瞬一瞬の、平穏と無事の世界を心ゆくまで、堪能する
良心の欠乏と、永遠の快楽。妄想は膨れ上がりて
天国へと続く理想と夢へ、私を連れていく
勝者敗者関係なく、皆私に身をひれ伏す
憧れはとうの昔消えていった、鬱陶しき先人たちよ」

それを天から見下ろす、シゴイタルが見て言いました。
「私の名前は、シゴイタル。天からの裁きといつかお前らを、シゴイタル
所詮この世は弱肉強食のサバイバル。勝った者達例外なく、ミナイバル
人生経験を雄弁に語り、女を孕ませ、女は抱かせ、けしからんサバイタル
不埒娘と、淫乱熟女たちめに、拳銃を突きつけ、マナーをいつかオシエタル
良心が作る地獄と、それを信じぬ天国野郎ども。イカサマ達に、人生というものをマナンダル
勝者敗者なき福祉国家日本を米国式資本主義の世界に、いつかトビコマセタル
そんで持って言葉の遊びの合間に、雷と天誅の用意をイソイダル
いつかヒライタル、我リサイタルに、マネイタル」

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悲色図 安驚 美礼無頭

悲とは、なにか?
一方が善かれと思い、悪行は正当化される
巧妙な企てもあるけれど、傲慢な振る舞いもある

色とは、なにか?
その黒い雨の降る時、皮膚まで爛れおつる
歪んだ妄想の果てにあるもの。責任は、回避される

図とは、なにか?
記録されたるそのさまは、暗澹たるその姿
地獄とは妖怪のいくところであるけれど
正にそのさまである

安とは、なにか?
虫や獣の如く処理されたものたちよ
安らかに眠りたまえ
高貴なるその意思を貫通した人々と共に
正義は、我々にある

驚とは、なにか?
あれから何十年経ち、人々の記録は常に更新されていった
洗脳は驚きであるけれど、新世界の幕開けである

美とは、なにか?
靖国の英霊を敬う時、死んでからも認められたいと願う人々のことを思う
イマジネーションは天空を駆け巡りながら、この大地へと根をつける

礼とは、なにか?
マナーを守らぬ大国に、頭を下げ続ける我が従属国よ
独立は英断であるけれど、大きなリスクを伴う

無とは、なにか?
忘却は虹の彼方にて、漆黒の闇へと誘う
確かな罰則もないけれど、いつかは天罰が襲う

頭とは、なにか?
一億総病棟時代に、賢人がいた時代を思う
我ただ一人願うのは、脳内のその無事である

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立ち去る

離れる
別れる
立ち去る
ただ一歩前に進むだけで楽になれるのに
どうしても出来ない…

「愛」が私を引き止める
愛されてないのが分かっているのに
あなたから離れられない
身体は離れたいと訴える
心は離れたくないと訴える
あなたは近くに存在しないのに
あなたを愛する私だけが存在している

遠いあなた
近づいたと思ったら
また離れてしまうあなた
何度も追いかけ
何度も泣いて
もういっそ離れたままで良かったのに
あなたは近づいてくる
そして私はまたあなたを愛する

あなたは離れても
すぐに私の傍に帰ってくる
もう疲れた…
立ち去る事が出来ない私
一歩…
ただ一歩だけでいいのに
勇気が出ない
だから今度あなたが離れたら
私はもう待たない
私はもう追いかけない
苦しみ藻掻くのはもう嫌

「立ち去る」
今、その勇気を持って
あなたから離れたいと思う
充分苦しみ哀しみ泣いたから…

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甘やかな敗北


君の毛先が揃って
僕の知らない横顔を彩る

君が笑うと
僕は跳ねて
君が話すと
僕は和らぐ

君の変化1mmで
僕の世界は瞬きと光る

君の視線も
君の温度も
君の香りも
君の音も

僕が触れない
君の全てで

僕は毎回
白旗を振る

甘やかな世界で
君が輝く
そんな日々が
僕の敗北

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ひまわり


光を追って
目を
顔を
そちらに向ける

眩しくて目を細め
大輪の笑顔に
手をかざす罪は
僕だけのもので

その存在に
凛とした視線に

息を飲み
目を瞑る

圧倒的な
華やかな声は

僕の奥を
震わせて
僕の背筋に
冷えた吐息が
かかるようで

逃げ出す足に
力が入る
膝が抜けて
怖いと漏らす

輝く花びらで
人は殺められる

なんてことを
口ずさむのは
僕だけの咎

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呪縛


この苦々しさを
どのように表せば

表したところで
なにを得ることもない

しかしながら

職業になる
味になる
価値になる
犯罪被害の材料になる
犯罪加害の材料になる

生きることを邪魔する記号
肉体があるということがすでに不自由の根源
そこに輪をかけて
よろしくない
呪縛

もしかすると
死後の世界とやらに於いても
呪縛

肉体を得た瞬間から始まる
呪縛

セイベツ
セイベツ
ときに
ネンレイ

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在る

寂しい人を見たなら
後ろからそっと手を添え
一人を分け合う
優しい風になり

心の糧を探す人には
足元をそっと支えて
一人に沈まぬ
泥臭い土になり

涙を流す人には
傘は差さずに
一人を潤す
清らかな雨になり

誇れる自分を見たい人には
灯した種火を渡して
一人を消さない
温かな月になり

いつでも私は
そこに在る
気付かなくとも
あなたの影になり

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人肌の想像力

思いやりには
しなやかな想像力が必要だ

想像力には
あたたかな温度が必要だ

たとえばそう
ちょうど人肌くらいのあたたかさが

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私という惑星

靴底に春を敷きました
さよならぶりの外出は
三日と九時間と行ってきますのあと
昼寝をしたから輪郭をうしなった私に
春が生きなさいと言ったから

まずは春を踏みます
生意気ばかりいうくせにせっかちで
カタツムリみたいににぶい
春が悪夢なら幸せですよねまったくです

夏は冷凍保存します
最悪のときには冷えていて最高のとき
何食わぬ顔をして溶かして食べます
衣を替えたら変わる不幸なら美味しい

ささくれは秋に抜くのがいいでしょう
みえないところにささったものほど
秋に抜くのがいいでしょう
好きな色の絆創膏を買いこんで
ほら秋が落ちてきます

靴紐で冬を結びましょう
はなやかでなくてささやかでいいのです
私という惑星を
生きるためでいいのです

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でもまたしぬとおもう

明るいものを明るいと
暗いものを暗いと
なぞってすごしたら
さんびゃくろくじゅうごにち

そして朝、
きっとあくびをした
家のない猫も町も君も
昼、
きっとゆめをみた
どこかの森が燃えていて
雨になりたいと思う
夜、
さよならがこわくなる
うまれたらしぬとしりながら
僕も君もしにたがる

ほんのすこし風がふく
本のせなか、写真立て、鏡のなか、
風がふくと知ったのは
ぼく、ひとりになったから
また水底へ落ちるときがきた

そしてそっと、
生きたがるぼくを
誰も知らない

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次こそ…

ベールみたいな霧雨が街を覆う
なんでもない顔ですれ違う人々

白杖をつくおじいさん
手伝いたいと
思ったけれど
見ていることしか
できなかった

1人の青年が
手を差し伸べて
おじいさんの手を握った

とても眩しかった
雨の街の
一瞬のヒーロー

次は私も と
小さな後悔を味方にして
電車に乗りこむ

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ネイド王子とれもんの花

むかしあるところに

れもん王国というところがありました。

一年中れもんの花が咲きほこり、たくさんのれもんが実っていました。

そこでは妖精達がれもんパイを作って楽しく暮らしていました。

国王のレモニオ3世は王国で一番背が高く、

太くたくましい幹に鋭いトゲをもった、
それはそれは見事なれもんの木でした。

ある日のことです。

どこからともなく
お腹を空かせた怪物サンダーが現れ、

王国の太陽を、
まるでお菓子でもかじるように
ぱくりぱくりと食べ始めました。

やがて光は空から消え

れもんの木は実をつける事ができず

妖精たちの力も、日ごとに弱っていきました。

レモニオ3世は
「お腹がぺこぺこの大ピンチ」を宣言し

闇をはらう光の鳥シトラを呼び覚ましました。

「シトラよ!王国に残された最後のれもんをたくそう!
この実に王国の愛と夢と希望の全てが宿っている。
どうか世界で一番安全な場所に運んでおくれ。」

シトラは、黄金色に輝くれもんをそっとつかむと
まばゆい金の翼をいっぱいに広げ

真っ暗な夜の空の中へ静かに高く飛んで行きました。

              つづく






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blue heavens


ああ もう こんなことなら
貴方とあたし 青い砂粒になって
くびれた小瓶を通過しましょう

小さなあたしを抱いていてね 間違わぬよう抱いていてね
あたしは貴方の手を決して離さないし
濁流に飲まれ 万が一はぐれたとしても
貴方を見つける自信がある

二度とひっくり返らぬ砂時計の中で
二人の楽園を見つけようね


https://i.postimg.cc/VkjYzmQ7/blueheavens.png

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[ゑ]ゑビスビール

カウンターで烏龍茶を飲み
ご飯の(中)と塩辛と、野沢菜と、つくねハンバーグを頼んだ。
隣のやせ細った中年が「ここは酒飲みの場だ!」と私を糾弾する。
バツの悪い私は桃烏龍を一杯頼む。
店員が気まずそうにすると私自身も気まずくなる様子に居た堪れないような、申し訳ないようなおもいでいっぱいだった。
頭上端に追い詰められたブラウン管テレビは野球中継を表情に表し、見るものは、負けている阪神に対ししかめっ面を向ける。
中年は「今年もダメじゃねが!」と毒を吐いて、その毒が私のつくねハンバーグにスパイスとなった。
縦縞のシャツに身を包んだ店主と中年はプレイヤーのバッドシーンを肴にビールを喉に通らせていく。
茶色の瓶から保冷されたミニグラスへ注がれる黄色は白の泡になりて、トクトク、シュルルシュル、という音を、こんな喧騒の中でも私の耳に与えてくる。
それは居酒屋という名の通過儀礼のようなもので、私のような下戸は本来淘汰される忌人なのかもしれない。
私は飲めないが、誰かが飲んでいる姿が好きだ。
愚痴を吐き、アルコールを流し、
罵声を吐き、アルコールを注ぎ、
笑いを撒き、アルコールを浴びる、
そんなどうしようもないほど全力な彼らが愛おしい。
野球中継を、枝豆を、店主の声を、喧騒を、狭くほこりっぽい空気を彼らは肴にしてその黄金色の液体を嚥下するのだ。
今を流し、明日を顧みらず、味は分からず、ただ、酔いしれるため。
どうしようもないほどの渇きを、潤わせるために今日もここは賑わっている。
中年の飲むビール瓶のラベルを見る。
恵比寿様は微笑んでいる、私ではなく、彼らに。
それがたまらなく悔しい、なんて思ってみたりもする。
恵比寿様の籠に鯛の尾が見える。
あなたの幸運は好きな野球チームが勝つことか、または宝くじでも当たることか、
今、この場の酒が美味い、それだけでいいか。
私は飲めないことをわかっていながら、微笑む恵比寿様の後光のようなものに当てられた(きっとそうだ)から、私はビールを注文した。
中年は嬉しそうだった。

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笑う、回転する、



転がる箸を見て笑うのは年頃のお嬢さん
なんて彼女たちについて考えるだけで 
なんて野暮ったいつまらないと
いい年をしたオトナが宣う衰退減退において
オトナであろう年頃の男たちの笑えない
それこそ野蛮の思考が放つのだと
それこそを笑えと呪詛と祝福とにある者よ

1から12までのマグカップの破片を
あちらこちらせっせとかき集めては
つなぎ合わせるだけの虚無の器
再生を図る昨日から今日明日明々後日へと
大木に生える枝葉の連なり折れ曲がり
それぞれ誕生までの不可知のぞろ目をめぐる
懸かる一発のルーレット分子の分際として

冷蔵庫のドアを開けると滑り落ちてきた
一本のバターナイフがキッチンの床の上
をくるくると回転しバタンと倒れる
足元において踊り子を演じてみせる
を見て笑う腹を抱えるオトナの男の腰回りを
上滑りするだけのうなだれたこの髭面を
洗い流しては塗り変えてしまう鏡面の
銀とともにある一瞬間の可笑しみ愛おしい

自己の分際を忘れて用を離れて踊り出す
ただ笑いのために笑い合うだけの
すべてを忘れさせる様が可笑しくて笑う
なぜ可笑しくて何が美しくて
などと疑念観念さえをも巻き込まれてしまう
回り始める0を1として弾き合いはみ出す
連続する互いが互いを弾き飛ばし合って
景色になってお嬢さんたちきっと巻き込む


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もう怖くはない


軽くなったと思ったら
いつの間にか思い出に

落ち着いたと思ったら
いつの間にか思い出に

優しくなったと思ったら
いつの間にか思い出に

寂しさと引き換えに
懐かしさが身について

こうなればもう怖くはない
いつまでも一緒にいられるから





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かえすものがない

そういえず
うつむいたまま
ははのせなかを
みつめていたのは
いつだったか

そうおおきくもなく
たくましくなんかない
なのにすぐ
まえにとびだしてきて

どんなものにも
どんなときだって
ほえてくれた
わたしがおびえ
うなりだすまえに

なつのよぞらは
まだみあげてなくて
梅雨明けはかってに
はっぴょうされたらしい

かえすものがない
あまりのあつさに
くるしいおもいで
よみがえる 
にげてばかりのなつのみず
しんきろくづくしの今夏


   しんきろう

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雨、風、あれ荒ぶ大気

傘なんて役にたたない
さしても激しい風で折れてしまう
だから
ただ冷たく殴りかかってくり雨風に打たれるだけ


憎しみ、悲しみ、あれ荒ぶ私の心

優しさなんて役にたたない
優しく囁かれても
私の心はあなたが居なくなれば
すぐ折れてしまう
だから…
だけど…
やっぱりあなたの優しさは
やっぱりあなたへの愛は心地いい
だから私はあなたの優しさに
ただ打たれるだけ


愛、優しさ、あれ荒ぶあなたへの愛
涙なんて役にたたない
どんなに泣いてもあなたは私の元へは来てくれないから…

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希望は

闇に産声を上げてこそ

梅雨の朝
光が滴り落ちる
露と結ぶ

私は露を舐める
私は光漲る

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宿る

雷鳴が
臓腑を揺らす
狭間刻

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タンポポ

いつまでも 変わらないと 言ってたね
まぁ 誰も そう言わなきゃ 生きてゆけない

今にも泣きそうにうるんだ ひとみだけを
この胸は おぼえていた

心だけは 変わらないと 言ってたね
口紅が にあうように なってもと

今までおぼえていた 君の素顔は
もうこの胸を 逃げてゆく


あぁ 時の風に吹かれて 飛んでゆく 白いタンポポ
いつの日かまた どこかで 会えたとしても

東京の風に吹かれて 散ってゆく 白いタンポポ
好きだったのは きれいな君じゃない




久しぶりの 言葉も 僕は言えず
昔より ずっときれいな 君がほほえむ

今までおぼえていた 君のえがおは
もう この胸を 逃げてゆく


あぁ 時の風に吹かれて 飛んでゆく 白いタンポポ
コンクリートのすきまの 土にしがみつけ 

東京の風に吹かれて 散ってゆく 白いタンポポ
好きだったのは 黄色い花じゃない





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https://youtu.be/7M8gljZ4Zy0?si=eWTcCTki7fb9-Pcs
https://youtube.com/shorts/1zFHNH4t5fE?si=6C8DSfpyHdT7D0_q

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ユリシーズ王の独白 (テニソン)

      はじめに

テニソンの"Ulysses"を訳した。ダンテの『神曲』を読むとオデュッセウスが自らの人生を回顧する場面がある。訳者の平川祐弘によれば、テニソンにも似た主題の詩があるという。興味を抱き、我が家の猫額書庫から十代の頃に買ったテニソンの対訳本を探し出した。頁を捲る手ももどかしく、探していたものが見つかった。ユリシーズはオデュッセウスのラテン名ウリッセースの英語読みだそうな。テニソンのユリシーズは、老いてますます盛んであって、知識欲と冒険心に魂を鷲掴みにされ、妻子を置いて、死んでも構わん、西の果てまで赴こうと船旅に出る(道心止み難く妻子を捨てて出家した西行を思う)。テニソンの『ユリシーズ』はそこで終わっているが、ダンテの『神曲』では、最果ての海で大波に呑み込まれ地獄に落とされるところまでが描かれている。テニソンにせよダンテにせよ、その筆、雄渾であり胸を打つ。

テニソンがこの詩を書いたのはまだ三十代の頃であるが、折しも親友の死に直面している。人は誰しも日々死に向かっているのだから、毎日を安逸に過ごさずに己れを鼓舞し叱咤激励する必要を感じていたようだ。時の宰相はこの詩を読んで感銘を受け、詩人に敬意を表すべく、年金二百ポンドを贈呈したそうな。

ところで、私ときたら、ユリシーズ王と同じく老いているのだが、若い頃に心を急かした野心はことごとく崩れ落ち、いまや呆けて縁側でお茶でも啜っていたいと思う反面、何のこれしきとばかりに文芸の道を不遜にも究めたいとも思い、日々これ拮抗して如何ともし難いのであるが。なお、詩のほうであるが、できる限り五音か七音にするよう心掛けた。勿論ながら意訳超訳何でもござれ、となっており、終いの方は調子が高ぶって文語体となっているところもある。悪しからず。







      ユリシーズ王の独白

何の足しにもなりはせん、俺という王が怠惰に
この荒れた岩の間に、大人しく囲炉裏に座り、
老妻の傍、未開の民に、
野蛮な法を計量し施行するのは。
奴らは蓄え食らうだけ、寝惚け眼で俺なんざ知りもせぬ。
俺はどうにも漂泊の思いが止まぬ。俺の命のこの果汁、
一滴残らず搾り取りたい。慕ってくれる
仲間がいてもいなくても、いつだって
苦も楽も味わい尽くしてきたものだ。陸の上でも、
海の上、雨を降らせるヒヤデスの星、風に乗るちぎれた雲を差し置いて
霞んだ海をかき乱す時すらも。俺は名を成し遂げた。
それでも心は満たされず、いつも旅路に急かされて、
旅の先々、諸々の都市や風習、
気候や議会、政府について見聞を広めたものだ。
とりわけ、俺が何者なのか、世間からいかに崇敬されているのか、しかと分かった。
遙か風吹くトロイの平野、互いに剣を打ち鳴らす、
好敵手との戦いの喜びもひとしおだった。
俺の出会ったすべてが俺の滋養となった。とは言えど、
せいぜい俺の経験は門と変わらぬ。さらに向こうに未踏の地、
一歩一歩と俺が進めば、
いっそう退き、霞むのみ。
休んで、死んで、磨かずに錆び、
活かし輝くこともないとは、何とつまらぬ命だろうか!
生きるとは息するだけではあるまいに。
命に命、重ねても、どうせ儚い
命であるし、今生の俺、余命はもはや幾ばくも無い。
俺の一分一秒は、常に何かを生み出すが故、
それにも優る価値を持ち、かの永遠の静寂から、
俺に新たに切り分けられる。仮に三年、
俺が力を温存すれば、無意味な人生、過ごすのみ。
老いて益々盛んなる俺、
燃えど尽きせぬ知識欲、
人の思いの限りを越えて、沈む星すら凌駕するとは。

我が息子、テレマカスを見よ。
俺はこの子に王笏と王土の島を託すのだ。
俺を労り、己れの激務を
聡明に遂行し、沈着冷静、
荒ぶる民を和らげて、温良篤実、
野蛮な民を教化する。
一点の瑕疵すらもない。
日々の責務に専念し、
母への孝行怠らず、
家の神への崇拝も一方ならず、だ。さて、俺は行く、
奴には奴の定めがあって、俺には俺の道がある。

港が見える。船が帆を膨らませている。
杳として、洋々とした大海原よ、我が水夫たちよ、
我らは共に悩み苦しみ汗を流した。
雷、猛暑、額を挙げて、囚われのない心でもって
陽気に歓迎したものだ。
共に老いたり、とは言えど、老いには老いの名誉もあれば
なお目指すべき目標もある。
死がすべて閉ざすその前、終焉の前、
神々とすら争った俺、そんな男に相応しい、
いまだ果たせぬ重要にして崇高な使命があるのだ。
岩間から漏れ出すともし火、
静まっていく長い一日、ゆっくりと上りゆく月。海の深みから
遠近に声音がうめく。いざ、友よ、
新世界探検、遅きに失することはない。
押し出せ、押し出せ、皆の者、整然と定位置につけ、
波の耕地を強打せよ。我が目的は不動なり、
我が死して水漬く屍、何のその、
日没を越え、西、沈みゆく星々を逝け。
海の淵、我らを流し去ろうとも、
幸ふ島に到り着き、
我らに親しき、かの偉丈夫のアキレスに出会うとも。
余りに多くが失われても、いまだに多くが残されている。
かつて我らの天地を退かした力はないが、
それでも我らは我らなり、
英雄の心と一つの等しき剛毅、
時と定めに弱りたりとは言え、意志はいよいよ堅固となって、
努め、尋ねて、見い出して、屈することはあり得ないのだ。







参考文献
テニスン詩集:イーノック・アーデンその他
訳注者 吉竹 迪󠄁夫
開文社出版


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喫茶店

私を縛るのは 腕時計という名の足枷

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観覧車のあるビル

思い出というのは、断片的な一枚の写真が引き出すものなのかもしれない。

名古屋と聞いて思い出すのは、お城や広い道ではなく、観覧車がついているビルだった。

まだ小学生だったころの正月。どこかへ出かけることもなく、家族が揃っていた日。
うちの前に車が止まる音がした。
ドアが開き、閉まる音がして、ドアチャイムが鳴った。
母が出るとすぐに、「あらぁ」と大きな声を上げた。
そんな母の相手を奥さんに任せて、ごつい人が入ってきた。「おおどうした」
父の驚きまじりの笑顔の先には、“横さん”がいた。

横さんと父は同じグループ企業で働いていたことがあった。
父は電気技術者、横さんは建設会社というつながりから知り合ったのかもしれない。

その辺りはわからないが、とてつもなく恐い顔をした人だということで覚えていた。
何しろ建設会社の現場監督だ。
多少、素性のわからない人もいる現場を仕切るには、迫力というのも求められていたから、ぴったりだったのだろう。

ただ、横さんは実家の名古屋へ引っ越していった。
父とは、その転居以来の再会だった。
とはいえ旧友との再会よりも、横さんの興味は僕だった。

父との軽い挨拶を済ませると、
「覚えているか?」
鬼瓦のような顔を崩した。
忘れようにも、夢に出てきたら泣いてしまうような迫力がある。
うなずくとうれしそうに、「お年玉」といって、その年の最高額となる一万円が入っていた。

恐いのは顔だけで、とにかく優しかった。
とくに子供に恵まれなかった横さんは、まだ幼稚園に通っていたころの僕をかわいがってくれた。

そこからは酒盛りとなり、僕と妹は早めに寝てしまった。
横さんのいびきはすさまじい音だったと、父は起きてから笑いながら話していた。
横さんは笑いながら、何度も小さく頭を下げていた。

僕を「実家まで連れて行きたい」と小さな声で頼んでいた。
正月とはいえ、我が家にはどうせ行くところなどない。
父は軽く、「いいよ」と答えた。
気が変わらないうちにと思ったのか、横さんは奥さんに帰り支度を急がせて、僕を車に乗せてエンジンをかけた。

まるで行ったことのない土地。
高速道路から、夕日の中に建つ、名古屋城が見えた。

実家の人たちとの食事は、中華料理店へ連れて行ってもらった。
横さんは、
「せっかく子供が来ているのに、なぜハンバーグ屋とかに行かないのか」
と自分の親をしかりつけていた。

そこから見たこともないぐらいの大きさの、ゲームセンターへ連れて行ってもらった。
さんざん遊び、横さんの家でいびきを聞きながら寝た。

翌日、名古屋駅まで車で連れて行ってもらい、新幹線の切符を渡された。
通路側のチケットを僕に渡すとき。
「窓際の人に『子供だから、替わってください』というんだぞ」
横さんの言葉に、うなずいてから乗り込んだ。

席に着くと、恐い顔をくしゃくしゃにして泣いている横さんが、窓から見えた。
それが横さんに会った最後だった。

家に客が来ている時は、誰であろうと歓迎してうれしそうに話をする父だったが、彼らが帰る時間になると、きまって黙って部屋に入り出てこなかった。

どんな小さな別れであっても、避けようとするのだ。

そんな父は気管支ぜんそくの重い持病をもっていたこともあって、
「自分は知り合いのだれよりも早く死にたい。そしてみんなに『いいやつだった』と泣いてもらうんだ」
と言っていた。
その願いは、ほぼ叶ったといってもいい。
ただ唯一、父より先に逝くことでその願いを裏切ったのは、横さんだった。

知らせは突然の電話だった。母が台所仕事をしていたので、父が電話を取った。
明るかった返事が一瞬で沈黙に変わった。
そして母を呼び受話器を渡した。
横さんが亡くなったという奥さんからの知らせだった。

大腸がんで、ごつかった身体は骨と皮のようになっていたという。
その姿を見られたくないと、だれにも知らせなかったと聞いた。
母は奥さんを慰めながら、受話器を握り泣いていた。
父はテレビの画面に顔がつきそうなぐらい近づいて、立膝をついてじっとしていた。
視線はテレビに向いているが、見ていないのと同じだ。
ただ黙って動かず、立てた膝を手でしっかり握っていた。

17時4分。

数年後、父は横さんが亡くなったのと同じ時間に逝った。
願いを叶えなかった横さんが迎えに来て、恐い顔を崩しながら、父に謝っているのかもしれない。
同じ時間と聞いたとき、そんなことを思った。

大人になり、年下の友人が名古屋に住んでいたことから、遊びに行ったことがある。
車で様々なところを案内してくれた。
ぽつりと、
「小さかったからよく覚えてないけど、観覧車がついたビルがあったのを覚えているんだ」
そう言うと友人は、
「ああ多分わかります」と車を走らせた。
すると、その観覧車が現れた。
それとともにぼやけていた、横さんの恐く優しい顔がはっきりと浮かんだ。

古い記憶というのは、意外に引き出しさえ見つければ思い出せる。
横さんのことを知らない友人にも、そのときのエピソードを語ることができる。
一度出てくると、話はどんどん広がっていく。

横さんが亡くなってから、ほとんど思い出すことはなかった。
それが「観覧車のあるビル」を見た瞬間、声や笑顔、泣き顔、そして大きないびきまでがよみがえった。

年を取って、寿命からして当然というこの世の去り方ではなく、会話の中で生き生きと浮かび上がる。
「観覧車のあるビル」のような、思い出の象徴。
父が望んだのは、こういう存在だったのかもしれない。
僕はいくつ、そんな記憶をもっているのだろうか。

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夕景

あなたはどこにいる
どこにいるのか
けして触れられない どこかにいるのか
無造作にカーテンをふくらます
秋の風のような

わたしたちは
道端で見つけたかたつむりと
雨の日 たまたま出会うことがないみたいに
二度とすれ違わないし
頬に触れあうこともない

あなたが1893年に生まれて
だれかが2540年に死んでゆくから
わたしが怠慢を積む間に
あなたは嘔吐する

わたしはそれがなぜかを知っている
おおむね左眼の裏が痛いせいで
ときにかなしみのせいだ しかし
じつのところは

もはや あの夕暮れのひかりを
受けとることができない
小高い丘を登れないし
視界のかすむのがくるしい

許されるなら あなたは
かがやく水辺を両手に抱えたまま
雲に座ることを選んだでしょう
きっと
軽々と飛びまわって

それは勝手な理想だろうか

わたしはいつも知らない
夕映えを背に道を歩むうちに
あなたがなにをうしなったか

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陰響垂線

碧白に
落ちる陰影
寄せる身は
蝉時雨の傘
重ねあう声

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届かない


言葉にしたからって
何もかも救われるわけでもないのに



A4用紙にべっとり貼り付けた
この肥大した自尊心を



どこへもぶつけようがなく 
誰にもあてようがないから



とりあえずぐしゃぐしゃに丸めて 
ゴミ箱に放りなげてみた





5センチほど手前で 
ぽとりと落ちた







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きのうのゆめ

あまりにもおかしなゆめだったので
かきのこしておかなければと
ひらいたら
君の詩がひろがっていて

そのなかに
テレパシーみたいなことば
ひろいあげる

亡くなったはずの
超有名人の三輪さんが
何故か我が家で晩ごはん
作ってくれた料理

「あら、なにこれ
この家には不思議なものが湧いてるわよ
みてみなさい」

真っ白なチューリップみたいなお皿
その中には
エビ、エビ、エビ、エビ

三輪さんが作った料理を食い尽くし
湧いてきて、、何故だか、
勝手に揚げられていくエビ、エビ、エビ、

ぶぅわぁってわいてきて
カラカラに揚げられて
真っ赤になって、身体を丸めず
そらしてそらして
チューリップのお皿に真っ赤な
エビの束、たば、たば、たばばばばぁ

きのうのゆめ
君が書いたあの詩には
「エビになりたかった」とかいてあり
何だコレはと
まだ夢の中にいたのかと
あわわわ

あのエビはたべられなかった
三輪さんは高らかに笑い
わたしたちは恐縮ばかりして
何故ここに?と
サラダをばかりを食べていた

何だったのだろうアレは

君にはラインより手紙より
詩にして伝えようと思ったのだ

どうせ。だから
わざわざ。してみたかったのだ
意味不明なちょっかん、テレパシー

三輪さんの髪は上品な金色でした

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ばんえい競馬

灼熱
ばんえい競馬
歓声が
重く残りし
コース場

燃え上がれ
歴史と金銭
人の思いを
ソリに載せて
レース始まる

号砲に
重種馬
突き進み
超越せし
小障害

進む命
なおも燃えつつ
滾り出し
歓呼従え
爆発してく

歩くよに
重く引きずり
歴史負い
歓喜従え
吹き湧き上がる

立ち止まり
大障害
息を吸い
命合わせろ
熱熱上げて

一斉に
挑みかかるは
馬と人
絶望的な
坂に向かって

喝采に
競馬場が
揺れ動く
世界唯一
その熱により

越えに超え
重量引きて
進みゆく
馬体から噴く
蒸気機関

灼熱
吹き湧き上がる
熱狂の
命は重し
ばんえい競馬

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夜を歩く

なつかしい下書きを持って歩く
二十歳の私へ書いた手紙が
届かないまま
十年以上経った今もまだ
空想のいきものや
記念メダルにこだわっている
行くあても帰るあてもないまま歩く
深夜のコンビニは
夜明け前の匂いがした
お互いに手紙では語り尽くせない数の
時間が必要だったのだろう

人生の塹壕で
怯えて暮らすこども
私と同じ名前をしていた
将来の夢を尋ねられ
エビになりたいと答えた
私が常に欲していたのは
許される実感で
今この瞬間
罰を受けずに済めばどんなによかったか
二十歳の私への手紙が届かないように
私は抱きしめてやれなかった
ひんやりと冷たい空気の層が
私たちを隔てていた
手を伸ばせば
届いたかもしれない
だが、それすらできずに
私は夜を歩く

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すてないで

超個人的なメッセージだけが
誰かの心を根こそぎ奪う

信じてやまない底無しの闇を
作り出すのは夜ではない
朝の光カーテンの隙間がこわい

すてないで
喪失ばかりをおそれていて
あふれんばかりの可能性を
感じることすら出来なくて

ならばいっそのこと
ナキモノヘ
極端になるのは
カテイも結果も背負えない

すてないで
海の引いては寄せて
永遠があるのはあの場所だけで
ふるさとから離れられなくて
海まですぐにいける距離の町に暮らす

なにをかきたいか
なにをいいたいか
なにをつたえたいのか
なに、を、かんがえてきたのか
曖昧にぼかす為の忙しさを身に纏い
「いま」を「いきる」だろう「ひと」に
なりすまして

蹴って歩ける空缶を探す
見つけたら舌打ちするだけなのに

    すてないで


あれこれは たぶん
わたしから わたしへの 

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豆腐について

(一)

明方の台所で
豆腐がひとり
脱皮をしていた
家の者を起こさなように
静かに皮を脱いでいた

すべてを終えると
皮を丁寧に畳み
生ごみのところに捨て
冷蔵庫に入った

夕食は冷奴だった
僕は明方に見た
豆腐の脱皮の光景を
妻に話した
何、それ
と言って妻は笑った

豆腐も笑った



(ニ)

夕食に冷奴を食べようとして
豆腐を呼ぶけれど
テーブルの下で膝を抱えたまま
出てこようとしない
仕方なく
自分もテーブルの下に入って
同じ格好で隣に座る
しんみりとした夜
豆腐も自分もこんな暗闇から
生まれてきたのかもしれない
そう思うと懐かしく感じられて
いつもよりたくさん膝を抱える



(三)

夕食の冷奴を食べると
石鹸の味がした
石鹸だった

豆腐はすべて食べてしまったの
妻は悲しそうに言いながら
絹ごしのような滑らかな手つきで
ビールを注いでくれる

ベッドの上には
枕の代わりに豆腐が
ぐちゃぐちゃに捨てられていた
本当はこんなにたくさん
食べ残してしまったのだ



(四)

豆腐のプラモデルを買った
思ったよりもたくさんの部品があった
毎日夢中で組み立てて
その間にきみは
近所の羊飼いと駆け落ちしてしまった
数日後きれいな豆腐が完成した
通はわざと角などを崩すらしい
薬味はお好みで
と説明書にあったので
ネギと生姜を買いに出かけた
本当はきみに一番見せたかった



(五)

テーブルの下に
豆腐が落ちていた 
食べるの、食べられるのに疲れて
飛び降りたのかもしれない
窓を開ける
初夏の風が吹いて
部屋の中を涼しくする
豆腐を庭の隅に埋めて
簡素な弔いの言葉を添えた
豆腐屋でその話をすると
お店の人は黒板の正の字に
一本付け足した
今日のおすすめは
厚揚げらしい



(について)

豆腐を食べているうちに
豆腐のことが気になり始めた
豆腐の色はどうだったか
豆腐の形はどうだったか
匂いや味はあったか
どのように崩れ
何を受け入れ
何を拒むのか
すぐにでも豆腐屋に行って
確かめたいけれど
今は豆腐を食べるのに忙しい
いつまでもなくならない豆腐を前に
長梅雨は明ける

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拳骨奇譚

 読本作家手塚兎月には、二人の弟子ありき。一人は朔次郎といひ、一人は陰嗣といふ。朔次郎の作るところの読本は、いと面白く、風刺にも機知にも富みたれば、町人も武士も、新作の出づるごとに争ひて之を読みけり。されど其文章は未だ巧みならず、文法を誤ることもあり、言葉遣ひもまた粗かりけり。一方、陰嗣は、生まれながらに文才に恵まれたり。漢文にも通じ、古典を学びて、その法に従ひ文章を書きたれば、その文はいと流麗にして、一字一句まで美しかりけり。文章そのもの、一つの美術品を見るがごとき趣がありけり。併し、その話の筋は少しも人の心を動かさず、どこかで見聞きしたやうな話のみ多かりけり。されば学者や同業の者どもには賞めらるることあれど、世の人々の人気はいたく乏しけり。かくて世の評判は、専ら朔次郎の方に集まりたり。
 ある日、国学者本居宣長、兎月がもとを訪ね来たり。
「今、『源氏の物語』を基として『手枕』を書き居るなり。されど文章の細かきところに心迷ひて、思ふやうに筆進まず。願はくは、力を貸してくるゝ者なきや。」
 兎月は少しもためらふことなく答へたり。
「それならば、わが門に学ぶ陰嗣をお使ひなされ。あれならば、きっとお役に立ち申す候。」
 宣長は静かにうなづきたり。
 朔次郎は、そのやり取りを傍らにて聞き居たり。先生の口より陰嗣の名のみ挙がりて、自らは一言も呼ばれざりしこと、胸の奥に魚の小骨の刺さりたるやうに残りけり。
 その後、朔次郎は折を見て兎月のもとへ参り、静かに尋ねたり。
「先生、何ゆゑ私にあらずして陰嗣をお選びになりしや。世の評判ならば、私の方こそ勝り居るではありませぬか。」
 兎月は急ぎて答へず、静かに茶をすすり、やがて口を開きたり。
「朔次郎、お前の書く物語は、たしかに人を楽しませる力あり。されど宣長殿の望まれしものは、物語の面白さにはあらず。文章そのものの美しさなり。それを論ずれば、陰嗣に及ぶ者はあるまじき。そもそも読本とは、ただ珍しき話を書きて人を笑はせ、驚かすためのものにはあらず。その類は戯作の道なり。読本とは、昔の人の教へを伝へ、善き道を後の世へ残すものなり。そのことを思へば、陰嗣こそ此度の役には最もふさはしき者なり。されど、お前にも功ありき。お前の読本は、読本は難しく近寄りがたしと思ひし世の人々の心を変へたり。その働きは決して小さからず。されど読本の道を深く究め、日々励み居るは陰嗣なり。この頃、儂はあれを後継とせんことを考へ居る。お前はもはや儂が導かずとも、一人にて道を歩めるほどになりたり。」
 この言葉を聞きて、朔次郎は頭を垂れたり。先生の言葉、道理なきにはあらねど、胸の内にはなお晴れぬもの残りたり。世の人々は己を認め、己の名を誉めそやす。されど師のみは陰嗣を選びたり。その思ひは火のごとく胸を焼き、いかにしても消ゆることなかりけり。その夜、朔次郎は心晴れず、ただ独り町を歩みたり。
 庄屋の屋敷の角を曲がりしとき、道の先に黒き影の立てるを見たり。影は音もなく朔次郎の方へ近づき来たり、少し隔たりたるところに立ち止まりぬ。やがて、その姿はしだいに人の形となりて現はれ、低き声にて静かに言ひたり。
「お前……誰かを妬み居るな。」
 その声は静かなれど、胸の底まで響くものあり。朔次郎は思はず身震ひせり。目の前の男は人の姿こそして居れ、その身には人ならぬものの気配ただよひ、見らるるだけにて心の内までも見透かされし思ひなり。
 男は尚も静かに言葉を続けたり。
「もし、その心を満たしたくば、その魂を我に渡せ。さらば人を越えたる才を授けん。人の命は短く、学ぶにも限りあり。されど我らと共にあらば、久しき時を生き、尽きることなく修業を積むこともかなふべし。」
 朔次郎は、その言葉を聞きて、しばらく黙したり。断るべきこととは知りながら、心は少しもその方へ向かはず。恐ろしき誘ひなれど、その甘き響きは、いつしか彼の胸を深く捕へたり。
 彼は遂にうなづきぬ。
「よろし。われは、その契りを結ばん。」
 男は静かに笑みたり。
 やがて足もとの影へ手を差し入るれば、不思議なることに、一枚の紙と一本の筆とを取り出しぬ。紙には契約の文並び、その末には名を書き記すべきところあり。朔次郎はためらふことなく筆を執り、その名を書きつけたり。その刹那、胸に浮かびしものは、陰嗣の顔なり。羨み、憎み、慕ひ、また恥づる心までも入り交じり、何とも名づけ難き思ひ胸に満ちたり。
 男はその紙を受け取りて、静かに頷きたり。
「これにて契りは成れり。されど、一つ忘るるな。今日より其方は、人にあらず。我らと同じく、怪しきものの類となる。その身となれば、人の道理も、人の常識も、もはや昔のままにはあらず。この姿となりて己を保つことかなはず、自ら滅びし者も少なからず。其方がその末路をたどらぬことを、ただ祈るばかりなり。さらば、いづれまた会はん。」
 男の姿は、言ひ終るや否や、夜明けの光に照らされて細かく裂け、灰のごとく風に散り失せり。
 幾日か過ぎし後、丑三つ時のころなり。陰嗣は燈火の下に独り机に向かひ、静かに筆を運び居たり。その折、表の障子、激しく破れたり。陰嗣は驚きて立ち上がる。そこに立ちしは朔次郎なり。されど、その姿はもはや人にあらず。肌は青白く、眼は深く濁り、全身には人ならぬ気配漂ひたり。怪異となりきることもかなはず、また人としても帰るところを失ひて、その姿はいよいよ痛ましかりき。陰嗣は思はず歩み寄りたり。
「朔次郎か。お前、このところ姿を見せぬゆゑ、皆して案じ居たぞ。一体いづこに居たりし。……それに、その姿は何事ぞ。」
 陰嗣の声には責むる色なく、ただ友を案ずる情のみあり。朔次郎は顔を伏せたるまま、小さき声にてつぶやきたり。
「何ゆゑだ……。」
 その声は震へたり。
「何ゆゑ……お前ばかり。」
 やがて顔を上げ、声を荒らげたり。
「何ゆゑ先生は、お前を選びし。何ゆゑ、われにあらざりし。」
 その叫びとともに、懐より短刀を抜き放ち、一息に陰嗣の胸を突きたり。陰嗣はよろめき、机にもたれ、口より静かに血を流しぬ。されど、その眼は少しも朔次郎を恨まず。ただ静かに息をつき、途切れ途切れに語り始めたり。
「私は……人に誉められたくて……書き居るのでは……ない。書くことは……私の命……そのものなり。たとへ、この先……誰一人……読まぬとも……。私は……書く。文章の……美しくあれかしと願ひ……一字を削り……また一字を書き添へ……。ただ、それだけを思ひて……筆を執る。愚かなほど……不器用なれど……。其が……私の……読本の道……なり。」
 朔次郎は、その言葉を聞くや、しばし声もなく立ち尽くしたり。ふと机の上へ目を移せば、そこには書き終へし原稿、書き損じたる紙、幾度も書き直したる跡など、山のごとく積まれたり。いづれも世に出でしことなく、人の目に触れしこともなし。誰にも誉められず、誰にも知られず、ただ筆を執ることのみを願ひて書き続けたる跡なり。其の有様を見し刹那、朔次郎の胸は激しく打たれたり。
 彼は今こそ悟りぬ。われは作品を愛してゐたるにあらず。人の誉めそやす声を愛してゐたり。名を求め、賞めらるることを願ひ、その心のみを育て来たりしなり。鬼となる契りを結びしも、さらに文を磨かんがためにはあらず。己が足らぬところを補ふためにもあらず。ただ、人より勝ち、人より誉められんことを願ひたるのみ。その醜き心、今さらながら己が胸を深く刺したり。
 朔次郎の眼より涙あふれ出でぬ。
「われは……今まで……何をして来たりしぞ。」
 彼は短刀を取り落し、よろめきながら家を出でたり。
 東の空は、いつしか白み始めぬ。陰嗣は残れる力をふりしぼり、消え入りさうなる声にて呼び止めたり。
「朔次郎……。」
 されど朔次郎は、つひに振り返ることなし。
「もう申すな。われは、もはや破門の身なり。先生の門を逐はれしといふにはあらず。読本の道を捨てしといふにもあらず。われは、人としての道を失へり。人そのものより、破門されたる身なり。」
 そのまま彼は歩み続けたり。やがて朝日、山の端より静かに昇りぬ。その光は、容赦なく朔次郎の身を照らしたり。怪異となりしその身は、日の光に触るるや、たちまち煙を上げ始めぬ。肉は焼け、肌は崩れ、灰となりて風に舞はんとす。されど朔次郎は逃げず。ただ天を仰ぎ、涙に濡れし顔のまま、静かに微笑みたり。
「かくも美しき朝を……われは、生きてゐし折、一度たりとも見たることなし。」
 やがて天を仰ぎて、声を震はせたり。
「われは何ゆゑ、この世に生を受けたりしや。もし、このやうな末路を迎ふるためなりしならば、われは彼岸へ赴くほどの者にもあらざるべし。死ぬることすら、われには過ぎたる願ひのやうに思はるゝ。嗚呼、われは今、死に臨みても、なお罪を重ねし心のみ覚ゆるなり。」
 その声は朝空に消えゆきたり。ほどなくして朔次郎の姿は崩れ、風に吹かるゝ灰となりて地に落ちぬ。陰嗣は力なく戸口まで這ひ出で、その灰の前に静かに額づきたり。
 しばらく黙したるのち、かすれし声にて言ひぬ。
「朔次郎……。お前の書く物語は……まことに……面白かりき。」
 朝風は静かに吹き渡りぬ。灰はふはりと舞ひ上がらんとせしが、陰嗣の流したる血に溶け入りて、つひに空へ帰ることなく、紅き血の中に静かに消え失せたり。その朝の空のみは、何事も知らぬがごとく、いよいよ青く晴れ渡りたり。

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天王寺動物園行

甥っ子(血のつながりはない)と動物園へ行って来ました。
記憶にないくらい久しぶりに来たけれど、きれいになっていて、とくに糞の匂いがしなくてびっくりしました。

https://i.postimg.cc/c6hshQLg/IMG-20260712-142747.jpg
狼ののみどに棲まふ夜擬

https://i.postimg.cc/V5gYgjkZ/IMG-20260712-142758.jpg
かの小町腰かけて待つ蛇に

https://i.postimg.cc/YjRpR1Cd/IMG-20260712-142807.jpg
二度童子せなに白犀うすれゆく

https://i.postimg.cc/yWjVjF8Q/IMG-20260712-142918.jpg
水鞠を支ふる象の深ねむり

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 ◽️プチストーリー【色は美しい】(作品No_07)140字

チラシばかりのマンションの私のポスト。
まだ慣れない仕事の帰りに
疲れても何を期待してかいつも目を細めて覗いてしまう。

あれ・・ポストカードがチラシに混ざって入ってる。
桜が満開。
手をひねり宛名を見ると、母だ。
一番下に添えられた手書き
「お母さんは桜もいいけど、あなたの原色が焦がれるな」

(了)

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希望というもの

未来に希望なんて持っちゃいないけれど
「明日はカツカレーが食べたい」
そんな希望なら持っているよ

そんなものは希望じゃないなんて
馬鹿げたことを一体誰が言ったの
どんなちいさなことも、生きる希望になり得るんだ

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端緒




神籬の傍らで

鉛色の空が
崩れ落ちた

榊の葉先を越えて
幕屋を打つ

瀟々と

土を解く雨音が
拍を取る


最初の呼吸


銀雨の向こうに
空の傷口から覗く青

── 碧井雫



#碧井雫#詩#現代詩 

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同じ価値

十の電話番号の

その一つに
生まれ変わろう

零も九も

きみも
ぼくも

比べなくて

いいから

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夜になるピンクの怪獣

人身御供について
糸巻鱝を食すように
祭壇に灯された火
貸してくれ
羽ばたいてみえるものは
すべて虎鶇と名付けてしまう
困った神様だ

せめて
名付けえぬものについての
理や狸や埋火を与えてほしい
絶えてほしい
心の臓が張り裂ける
いきおいで
やはり叫ぶのか
きみは ぼくではないと
おお、ピンクの怪獣が
私を見ている
滲んでいくピンク
夜になるピンク
怪獣が見ている

ドローンを飛ばしても
独裁者になっても
道路交通法に則っても
どこで何をしていようとも
ど根性あるのみと
ピンクの怪獣が
夜になる
私を見ている

神様!
夜伽の前に
虎鶇をください
消せない火
貸してくれ
何の断りもなく
許してほしい
一言ですむ話を
繰り返しては
詩だと言い張り
墓穴で暮らす
きみは ぼくではないよね?
そして、

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room (blue)

いつか、何処かの天体で
ありふれた日々を
ありきたりに刻んでいる

最後のさよならを云う時に、
そこにある冷えた空気は
青白い幽体の影か幻か

薄暗がりの室内 そこにある植物は
やすらかに眠る
日々に、
絶え間なく訪れる
雨、と風に舞う煩いごと
光に分解されて

窓から射し込む光が 壁を這い床を伝う
酸素の濃度に淡い蔦の絡む
音は、きっと優しい声で
囁いているのだろう

電子顕微鏡に映る木星は
相も変わらず
愛想のない笑顔で
遠くを向いて俯いている

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「駆ける馬」

見送るのは逆で
わたしがあんたを 
ではなくて
あんたがわたしを 
になっている
足から上って行った先の頭みたいで
すこし おかしい
 
わたしの生徒だったあんたは
汗と埃と乾いた血の匂いのする
倉庫の奥から出て来て
人びとの脱皮した服を
売っている
 
わたしにも 一つ勧めて
これなんかどう
と言って わたしの体に
合わせるけれど
わたしはなんだかむずがゆい
とっくの昔に それは
合わなくなっている
 
色あせた青
数百回と水にさらして
擦り切れたピンク
 
ほんとうは
買ってあげたいけれど
わたしはやわらかく 
拒む
 
なにか置き去りにしてきたのか
確かめにやって来たのか
あいまいにほほえむわたしを
あんたは見逃してくれる
 
ここでいいからと言ったけれど
あんたは公園までついてくる
緑がまぶしい
 
もうとっくに
反対になっている
それは 
足から頭までたどり着くようなもの
だから 
あんたは私を見送ってくれる
 
公園の 
芝生の上を
風が
走り抜けていく
 
そのとき
わたしは
一頭の馬になって
向こう側へ
駆ける

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かがむ

鏡の前
かがみこむ
十代の頃
母を責め立てた
同じ台詞で
責め立てられ

かがむ
立ち上がれなくなって
梅雨入りしたばかり
強い雨の日

四文字の言葉ばかりが
母になったわたしを
刺して

かがむ
鏡の前から
一歩も動けず
立ち上がることすら
出来ずに

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松を焚く

行き交う幽霊の間を
生きるものはひっそりと間借りする
私はただ、あせもをつくる

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