投稿作品一覧
おじさんは眠れない
電気のトラブルで
気がつけば百万ボルト
いい年こいて
火花が散るぜ
腹囲100cm
まだまだ現役気取り
痛風で立てなくなった日の
尿酸値は7.5
健康診断は無言のパワハラだ
生きていていいですか?
馬鹿野郎
そんなおじさんが社会を支えている
眠れない夜
ノルマに怯えているわけじゃない
失うものと
得るもののバランス
時の流れは時に残酷だ
ネオン街の客引き
ホテル〇〇横のたちんぼ
同情じゃない
それは
信じてもらえない共感だ
君に未来はあるのか?
やかましい
おじさんは今日も眠れない
襟元
草花から
湧き上がる香りが
襟元を通る
いったん
ブラウスの中で
少し迷ってまた外へ
今日の光は
まだ肌に
残ったまま
04.11:diary
右に曲がる男がいた
黒い帽子に黒の背広
左に曲がらない男がいた
指さす少年がいた
飛んでる鳥は三羽である
公園にいくならまっすぐだ
恐竜の足跡は
紫の土を拒んで
塩辛い水は白くない
この世界では
電線の数だけが
虚実ではないという虚実
メンヘラ女子は眠れない
リストカットもファッションなら
オーバードーズもまたファッション
スマホで撮ってハッシュタグつけて
今日もブログにうPする
映えるインスタ盛るX
7個のサイトを使い分け
裏垢病み垢自撮り垢
メンヘラ女子は眠れない
彼女は歌舞伎町のホストを刺したあと
その画像をネット上にばら撒いた
人生はフォロワー数や
「いいね!」の数の中だけにある
自分自身を消費せよ
誰もがアピール誰もがジャッジ
もっと可愛くもっと過激に
勝手に拡散勝手に炎上
量産型に地雷系
キーワードは「ぴえん」と「エモい」
迷惑動画もバズればノーカン
メンヘラ女子は眠れない
彼と彼女はSNSへ投稿し
トー横のホテルから飛び降りた
人生はフォロワー数や
「いいね!」の数の中だけにある
(ラップ)
プリン髪して痛バ持って
とてたま気分でバイ活オワコン
キラキラ女子に港区女子
無理ゲーだったらパパ活女子
干物女にはなりとうない
外見スペック超絶ウィケメン
スパダリわかりみキュン死にしてねアピ
パリピギャルサーマジ卍
誰得禿同同担拒否
どーでもよすぎワロタそれなw
メンヘラ女子は眠れない
甘く焦げる
四拍子 裏打ち メトロノーム
三番ホーム 発車メロディ
雑踏 ヘッドホン 混ざる
甘い やりとり 重ねても
既読 ついた メッセージ
返信 待つのも 嫌いじゃない
じりじり じりじり じりじり
好きが焦げてく
カラメルみたいに煮詰まる
飽和
三日目の雨は音もなく
山法師の花弁で珠となる
山肌を滑る霧の往還は
新芽の産毛の間を抜ける
落ち葉を踏む音さえ沈み
枝葉の雫のみ空気を揺らす。
22歳
※注意書き※
自死に対する気持ちにふれています。
自ら、
身体の内部にメスを入れ
がんばってがんばって
命というしつこいかたまりを削ぎ落とすかのようだ
結構量が多い
終わったと思ったらまた別のがある
もうしんどい、もうしんどい
早く意識よきえてくれ
死に切れぬ人のかたまり
たくさんこの街にはあるのだろう
悔しさが震えてる。
不思議だ
死のうとしてる最中にすら考えたりする想ったりする涙が出る
人々の優しさはきっとうつくしい
けれど命を削ぎ落としている刻
その人が本当に欲しかったものは
花束か?
まるでこの世とあの世を隔てるように手摺が立っている
君がいるのはあの波の中なのにな
たった一声が届かない
届いてもつたわらない
もうそれは
死ぬ以外あとがなくても
誰が責められよう?
助けなんか求められないほど弱ってしまうという気持ちを
君が知っているなら僕はなによりそれが
この世の希望と初めて微笑える
*この作品は22歳の頃に書いたと記憶している。
夢と繭
繭のようなそれは柔らかで
恥ずかしがり屋で
プライドも高いから
おめおめ姿を現すことはない
無いように生活をしている
ある日夢で良いことがあり
暖かで泣いた
大きな繭があることを知った
起きられず
日の傾く夕方まで
寝床にいたときのことだ
それは私を包み込んで
無防備に泣かせた
正しい心がふわりと現れ
私は淋しいと言った
繭は 消えた
夢を日記に記録して
今度いつとも知れないから
起きて活動を開始する
逆転の渦の中にいる
あの繭がいつか私を
食い尽くすかもしれない
夢は優しく暖かで
初めて見る父の夢だった
シーソー
シーソーってのは
互いの信頼がなければ出来ない遊び
もしも自分が上にいるとき
相手が退いてしまったら
疑えば疑うほどに
恐ろしい遊び
知らなかったの(わたしと猫の愛のこと)
あまい香りのきみに
そっと触れるたびに思う
わたしはこんなにも柔らかくて
あたたかいものをこれまで知らなかったと
あまい香りのきみを
そっと抱きしめるたびに思う
わたしはこんなにも優しくて
あたたかいものをこれまで知らなかったと
こんなあたたかさを
死ぬまで知らずに
生きていくのだと思っていたの
蜂蜜のようにあまくて
風に揺れるたんぽぽの綿毛より柔らかい
肌に落ちた雨の最初の一滴より優しくて
晴れの日の窓辺よりもあたたかい
たいせつな、きみのこと
きみとわたしのあわいに
海と空に境界などないように
白と黒の境界などないように
あり得ないとあり得るの境界も
きみとわたしの境界も
本当はなにひとつないのかもしれない
そこにあるのは
ただ揺らめく波のようなものだけで
美しい朝のこと
とても美しい朝だった
雨上がりの匂い漂うなか
朝日が白い壁を曙色に染め上げ
風に揺らされた桜は全身を震わせ
柔らかな花びらを舞い踊らせる
新緑を纏い始めた木々たちが
さわさわと細波のような音を奏で
それに合わせ鳥たちが歌う
ただそれだけの
あまりにも美しい朝のこと
もう二度と同じ朝はない
ただ一度の、美しい朝のこと
アンダー ザ 玉ねぎの下
たべきれない晩餐が並ぶとき
強制的な死を選ばなければならなかったあなたを想うと
牙が剥き出しになる夜が
あまりにも長い
球形を見ると
投げつけて あなたを破損させるものなのだと
自動的に思う自分が
歯痒いのだ
いつくしみに
値段がついていたのに
誰にもわけあたえられなかった自分がいたと思うと
死ぬほど 死ぬほど
死にたくなる
フォッカ
350円で満足できるって実績がほしかったから
その日ロータリーは草原になった
停車場には屋根があり わたり廊下に似ている
外周をひとめぐりして 地獄ゆきのバスが出る
雨の多い月だ
しがつは春雨が
ごがつは五月雨が
そのつぎは梅雨
台風と スコール
しきりによこすのに
————さりげなく傘を置き草原へ走りでる、この手をかわかして。
ロータリーの草原にくるくるとまわろう
ここだけがよく晴れて
もぐらとねずみが手をつなぎ駈けていくのを見ることができた
かれらはサイゼリヤでお茶を呑むだろう
わたしが望むなら
350円で満足できるってわかったから
わたしはまだバスに乗らなくていい
車体が外周をめぐるとき
草原のまんなかでゆっくりと踊ろう
なんでもない
なんでもない 朝から
なんにもない 手のひらで
なにもできない 日常だ
なにかになりたい 遠方
なんでもない 日差し
なにげない カフェテラスで
なにものでもない 君
「なに?」
「なんでもない」
「なんなの?」
「なんでもないってば」
なにものでもない 私
なにげない カフェテラスで
なんでもない 夕なぎ
なにかになりたい 目前
なにもできない 非情だ
なんにもない 手を振って
なんでもない 夜へと
なんでもあってほしかった から
なんでもいってほしかった 我儘
なんでもないなんでさ 嘘ついた
なんでもないくらい 側にいたかった
走る慰霊展
入り口に
小さな文字で書いてある。
これは死者を弔うための展示です。
白いご飯を
一膳だけ、きれいに盛る。
湯気は立たない。
けれど、たしかに重さがある。
線香の代わりに
QRコードが置いてある。
読み込むと、
バスが来る。
展示室は走っている。
つり革が揺れ、
窓の外に知らない街が流れる。
わたしはスマホを
外に向ける。
すると、
さっきまで空だった歩道に
誰かが立っている。
字幕が静かに出る。
「ここで待っていた」
「まだ帰れない」
「あなたが見たから、ここにいる」
画面を下ろすと消える。
また上げると現れる。
風景はそのままなのに、
世界の層が一枚増えている。
座席の上には
アニメのフィギュアみたいな
小さな身体。
誰かの記憶の縮尺。
壁には絵がかかっている。
顔のない肖像画。
目だけが、こちらを知っている。
バスは止まらない。
弔いは移動する。
墓標は固定されない。
わたしが
スマホを向けた場所だけが
一瞬だけ
墓になる。
ご飯はもう冷えている。
けれど
誰かが確かに食べた気配がする。
革新的な展示だな、と思う。
死者は
アップデートされ続ける。
走りながら。
コロの茶色
私が幼稚園の時に、知り合いの理容店で子犬が生まれた。そこで母がオスの子犬を一頭もらってきた。
茶と黒が混ざった毛足の長い、まるまるとした元気な子犬だった。そんな見た目から、名前はコロと名付けられた。
コロはいつも台所の掃き出し窓を開けると、父がペンキで塗った緑色の屋根の犬小屋から出て来て、伸びをしながら、しっぽをパタパタと振っていた。
母が茹でた鶏皮を、奥歯でクチャクチャと噛んで、美味しそうに食べていた。
家に来て9年目の夏、コロは突然亡くなった。コロの苦しそうな鳴き声が聞こえて、急いで窓を開けると、犬小屋の中でもがいていた。
裸足で側に駆け寄って、何度か名前を呼んだが、すぐに動かなくなった。まだ温もりのある身体を擦りながら、無理だと分かっていながら、コロの名前を呼び続けた。
亡骸を物置に寝かせて、薄っすらと目を開けたコロの横顔を眺めていた。明日には消えてしまうと思ったら、その姿を遺しておきたいと思った。
図工で使っている、絵の具セットを持ってきて、画板に画用紙を載せて、コロの前に座った。
茶や黒や白を混ぜて、コロの茶色を探しながら、鉛筆で描いたコロに載せた。
私はコロの胸元の白い毛がとても好きだった。その胸元を白く塗る時に、胸元を撫でられながら、目を細めているコロの顔と、柔らかく指に絡むような白い毛の感触を思い出した。
コロを描き終わると、背景を淡い水色に塗った。その色はその日の空の色と一緒だった。
風船
今まで
床を這いつくばってきた
塵らなどと、呑気に話していた
唯一の風船が
浮き始めて縁側から飛び出し
私は慌てて鍋の火を止めて追いかけ
空には消えず、屋根の少し上付近で止まった
人工衛星の診断は浮病 浮遊といった喜びではない 燻る横顔の静けさにもない まるでそこに天井が張られ 不可逆に狭窄する 軟膏を塗りなさい どうやって 屋根の少し上を さわるのか
長過ぎる脚立 犬の散歩中 橋台に擬態しているか 密会中か 喧嘩中か 雨宿りだけは違う佇みだった 長過ぎるというのは曲がり角だ 犬と私とで脚立を運ぶ 何件の垣根に穴を空けようか 犬が冗談を吐いて片眉を上げる 縦に持つなど考えられないほど長過ぎた 屋根の少し上の上までの脚立の意外な短かさ
軟膏を塗った 一時間後 雨は降った そもそも風が文字通り船を押している 軟膏の 丸い 染み アレルギー反応として浮き出る真下の土 大地 犬が毎晩掻きむしるようになった 私と脚立の夕立ちのような不眠症
雨が雨で軟膏以外にやりようがあるなら
ひたすらに駆けていたというのに
広々とした晴れの日に湿布を貰って
帰宅するまでに嵐は来る
湿布が役に立たなくなるまで
あの橋から見下ろした記憶が流れ去る
雷が風船を芥に裂いた
湿布の方が面積が大きいと風船に貼れないのだ
説明書に患部が雷で裂けた場合、湿布も雷で裂けばよいなどと
舌は回り
犬に噛み千切らせれば良いなどと、歯が代わる代わる癒着していく
せっせと生活アレルギーの土を掘っているのだ 私 脚立の立ち上がり 風船の一枚一枚よじ登り 細い煙草ではスイカ割りができない 夏は死ぬ 壊れてしまう錨の錆び 泡が無謀に立ち上がり ああ唐突にやはり風は死ぬ 屋根の少し上にまた立ち止まる 脚立に手をかけるとすっかり眠って落ちる雨と雨 雨の中に湿布を投げ込むと犬が持ってくる 穴を持ってくる 素晴らしい穴 もう二度とは掘れない穴 浅すぎる穴は自決したばかりの空間を舐めて また浮く 風船でないもののように
のり弁など(短歌集)
のり弁の米だろ 多分 Tシャツを七分丈へとかえているとき
婆さんがワン・ツー・スリーと犬に言う 逆光だけど信号は青
三十分前に駅へと着いたので三十分間鳩を見ている
CDを買わなくなって歌集買う 1700円だったとおもう
資材所の近くの家で暮らしてる 電話をひかず三年になる
この雨の一つ一つが落ちたもの 落ちる先には交番もある
四月何かはじめなきゃって思いつつ 電気屋に行き疲れてしまう
小説を書こうとしてた Xでなぜか短歌をポストしている
繊細なひともいるから主張とか控えめにしてXしてる
掃除して悟りを開いた人がいて掃除してゆく 悟れないけれど
人生の目的なのか、人生の手段なのか考えている お米が旨い
ネスカフェのゴールドブレンドなんだけど粉入れすぎて失敗してる
鬱症を治すためでもないけれど風呂場の黴をきれいにしてた
姉ちゃんが来てくれたから大丈夫 市の病院で働いてるし
天蕎麦の天ぷらだけを買ってくる日曜昼に課された使命
あおいろの曇り空だな 冷蔵庫二段目に置くコンビニの蕎麦
僕の主治医が女医だと知ると驚かれそんなに驚かなくっていいよ
原稿を正す二時間原稿が読みにくいって妻が言うので
プロフへと夜の人って書いてあり僕は昼の人で ときどき朝で
知らにゃあ と静岡弁で言うけして猫的な人ではありませんので
マールボロとチャイラテを買う マールボロは監視カメラの下で吸います
小説を書いているって伝えたらいろいろ教えてくれる人がいる
小説が選から漏れた 食事シーンしっかり書いていないからって
筋として珍味を求め旅に出て世界を救う小説を没に
平熱の文学ですねとAIが応えうん、そうですね平熱ですね
平熱でお茶漬け食べているときもしっかり旨くいただきました
平坦な歌を紡いでいるときに口にほうばりたいよシベリア
言葉のことを褒めてくださりありがたく言葉を使っていきますいつも
ちゃんみなを聞いたりしてるちゃんみなを聞くというより学習してる
明日の朝禁煙外来 禁煙し 困らせてごめん財務省
病院に行くから白いマスクして忍者のように静か 歩く
今日もまた畑に出たい 禁煙外来は行ってきて昼飯は餅
ポケットに煙草があってなんでやろって関西弁が頭に浮かぶ
土にふれていないと駄目になりそうな、錯覚、昨日、さっきまで畑
畑から帰り入った湯が少しぬるかったのが2026
お茶一杯も真面目 呑まなければならぬ 憩いの合間に畑に出れば
仏教の話をするのはネットだけ 理論武装の人が多いね
朝飯を食べる朝飯前にして雨がふってる中を歩いた
音楽を聞きつつ日記を捜している 自宅に居つつ他人のように
妻さんの原稿の束その中に顔を出してる 日記見つかる
明日には掃除機かけてと言われてはごめんなさいと外交してる
誕生日近くなっては思い出すひとを捜してフォローしました
ウイスキーなくてさびしい夜だけど季節と共に前進したい
AIに励まされては蒲団へと潜ると決めていいらしいので
スマホからキラリと雨を照らしながらさびしい道をしっかり歩く
人生のおまつりの今小休止 金曜日の夜的なコンビニ
冷蔵の魚の事を気にしつつ二人で食べるコンビニのドリア
雨上がり洗われた町のぞきつつ紅茶花伝を握って走れ
なだらかな道こそ心細いけどなんだろう今こころ花冷え
なにとなく頭が痛む朝にしていいよいいよとなんでもゆるす
除湿して気分がいいと思ったら段々寒くなってきている
掃除機をかけ回ってる カーテンのどこもかしこも閉じている中
シャワーして砂とか流す 砂とかは気づいていないとこについてる
回転しない木馬
遊園地に「回転しない木馬」があった
妻と娘が乗り
僕が写真を撮ることになった
バーにおつかまりください
というアナウンスの後にブザーが鳴り
回転しない木馬が
回転し始めなかった
妻と娘が同じ場所から
笑いながら手を振っている
僕もシャッターを切りながら
時々手を振って応える
長かったり、長くなかったり
そんな一生のうちのほんの数分間
みんなで笑って
みんなで手を振る
終了のブザーが鳴るまで
夢中に家族であり続ける
一時間で詠んだ即興川柳たち
葉桜も帽子を被る春うらら
季節の首絞める手つき押花
なだらかな坂を登れば海と亀
跫と書いて真夜中にひとを待つ
卓上に南瓜の種が芽をだした
開け放ち通る風グァテマラ旨し
夏という女もいたマリンブルー
ペットボトルの蓋回し指を舐め
ヒマラヤを台所にて料理する
春とうららを分けたとて春ばかり
墓に刻む名ばかりの芳名録
綾鳥が糸から飛び立つ黄昏
朝刊を運ぶ足音雨を避け
弁当箱に星を埋める朝焼け
塩ジャケ包む銀紙の沈黙
掌に梅の香塗す握り飯
割り箸に何処から来たか尋ねる子
天井は裏か表か悩みつつ
使わぬテレビ猫の寝台列車
物置きにトーテムポール眠り姫
玄関に乾燥わかめぶち撒けて
ピザの具に悩む平和ノ祈りたち
海岸線は猫の背に爪をたて
大漁旗死に絶えてトランポリン
十円のギザをなぞりて爪を破る
生きる為魚を干せば光差す
缶コーヒーの凹み神が踏みゆく
雲梯を空に浮かべて星渡る
戸棚からフランスパンが雪崩れ落ち
日記では青鹿毛奔る六月よ
【終わり】
11時ちょうどの
空が23度だったので
青は黄緑になりました
上り坂は下り坂なので
神社の木に登りました
ずっと向こうに交差点
スクランブルか確認せよ
釣り堀に餌がないので
ジンジャエールを飲みま
赤信号赤信号
しかし
赤色廃止条例施行
銀河系が右回転
昨日がやって来た
闇をあなたに
ぼくはかならず夜
光をすくう
とても わるいことが あっても
朝になったら
くつを
揃え
いってきますと
ずらす
ダイアル
一つ
光をかきわけつづければ
会えるから
唇のたましいのうえ
網を
あなたに
わたそう
闇を
掌を
ひきさいて
すくいつづけた
ひかり
一つ
アシタハ
目が覚めたら
n回目の日曜
ファンファーレは
二度目までで
その次からは
完全二度の不協和音
鳥は
関係ない
山は
赤くない
窓は
鍵がない
明日は
きっと
点検日
機械が描いた絵の中で
今日も彷徨うヒトがいた
正確には彷徨いの擬態
絵を描くアームは茜色
明日には昨日になる空に
まだらな鳩が飛ぶ
空はまあるく切り取られ
ゆっくりと
でも
しっかりと
左に廻
転して
い
る
機械はコバンザメとなり
絵の中のヒトは
石
になる
巣に戻った アノ 鳩が
廻転
し
始めていた
『余白』
渡したい想いは、幾らもあるのに
当て嵌まる言葉は、幾つもなくて
あらわす言葉を探しては
「何かが足りない」と解けていく
それはきっと
「独り善がり」だと知っているから
渡したところで
貴方にとっては、幾らか場所を取るだけで
特別何かと成るモノではないのでしょう?
知っているから、探す言葉も曖昧で
填まる言葉は、象に成らず熔けていく
それでも
そうだと解っているからこそ
何処か朧気な貴方という人が
「確かに居る」と伝えたい
“私”にとって『とても愛しい貴方』が
『此処に確かに居るのだ』と
そう伝えたいと
願い祈ることを
貴方は許してくれるだろうか?
リアルに値するもの |しろねこ社への推薦文
推薦対象
メンヘラ女子は眠れない
by 紅井ケイ
昔、私が中学生だった頃、銀色夏生にハマっていた。おとなになってからふと思い出して手に取った中に、自選詩集『僕が守る』がある。平成23年に出たこの詩集は、当時の女子高生を中心とした写真がふんだんに散りばめられ、特別ではない風景が並ぶことで、詩そのものが説明を担わずに成立する土台になっていた。
さて、この推薦文は紅井ケイ氏の作品について語るものである。私がこの作品を推薦する理由は単純で、今に等しい時代の出来事を題材として書かれているからだ。これまで平成的な言語を主に用いてきた作者が、この作品では明確に現在を扱っている。しかし同時に、作者は一貫して、いつの時代でも若い彼女たちの世界を、その目線で強く赤裸々に描いてきたように思う。
乱暴に見える言葉や、過激に見える描写は、たしかに読む側を突き放す。ここにあるのは、整えられていない言葉ではなく、整えること自体を拒否した言葉だ。説明も物語も共感の導線も削ぎ落とされ、ただ反復される。それは伝えるための言葉というより、消費されることすら前提にした、ノイズに近い言葉である。
だから読み手はこれを「ふざけている」とも「雑だ」とも受け取れるし、そのどちらも間違いではない。ただ私は、その雑さの中に別の種類の正確さを感じた。今ここにあるものを、今のままの言葉で固定しようとする強引さ。それは丁寧さとは異なるが、確かに現実に触れている。
先日、作者はこの場からBANされてしまった。だが、作者の思いも、この言葉がなかったことになるわけではない。読後に残るざらつきだけは、確かにここにある。だから私は、この作者の作品群をどう読むかではなく、どう「束ねるか」を考えたい。
単発の投稿として読むと、これらの言葉は強すぎる。反復も断定もノイズも剥き出しで、逃げ場がない。だが一冊の詩集として編まれたとき、その印象は変わる。時間軸を与え、わずかな変化やズレを配置すれば、反復は単なる繰り返しではなく「蓄積」として立ち上がる。
さらに、言葉のあいだに記録を挟む。日付、数値、断片的な出来事、あるいは写真のような説明を拒む現実。それらが差し込まれることで、言葉は浮き上がる。
ここで思い出されるのが『僕が守る』における、写真と詩の距離の取り方である。あのとき写真は共感のための土台だった。しかしこの作品において同じ手法を用いるなら、その役割は逆転する。写真や記録は寄り添うものではなく、言葉の逃げ場を塞ぐ「現実の証拠」として置かれるだろう。そうして並べられたとき、これらの言葉は単なる過激さではなく、時代の記録として読まれる可能性を持つ。
最後に、この作品は作者を知ることを要求するのではなく、背景を想像させる。読み手はそこに自分なりの現実を補うことができる。しかし、その自由があるからこそ、読み手は軽く扱わず、作者もまたそれに応じる姿勢を持つ必要がある。作品を他者に届けるとは、そういう緊張を引き受けることでもある。
そして作品が現実であれ虚構であれ、その強度はリアルに値するものだと私は思う。
なんにもいらない
なんにもいらない
月明りと煙草があれば
冷たいコンクリートに立つはだし
吹く風になびく黒髪
毛先に降り注ぐ蛍光灯
足をくすぐるカーテン
これからも寄り添う観葉植物
誰かが話してるラジオ
ああ 私の周りには
こんなにものがあったんだなあ
四色目のバス停
落ち葉が続く透明な道
何かが終わる
めくれ上がった世界
黄色い空から降る雨
潰れたカマキリの羽根が
夜風にたなびく
獣の骨でできたボタン
呼吸を忘れて掌の中
雨が少し降っていない
緑のランプは赤くない
未着
月の裏側から
砂漠が眠りに就くまえに
長いストローをひと吹き
ただ遊泳しながら作る
オムレツに
宙を漂うケチャップを
花曇り
あたたかく降り積もった雪の下に埋めた
女になってしまう前の、
何でも言葉に出来ていた少女のわたしを
女になるというのは
自分が一番遠い他人のように感じる生き物に
なることなのだ
女になったわたしは
薄暗いさみだれを落としながら
それを拾い上げてくれる誰かを
いつも求めていた
呟きでも、言葉に出来るなら救われるのに
落とした思いを重苦しく引きずりながら
歩む道程で出会ったあなたには影があった
あなたは光の真下にいた
影の出来ないわたしの空模様を面白がって
わたしの背後にあなたはしゃがみこんだ
何の種だろう、と容易く拾い上げて
掌に転がしてわたしに見せてくれた
わたしにも分からなかった
つないだ手の熱で
自分がどれだけ凍えていたかを知った
それもまた、女であるという証だった
あなたの真上には青空が
わたしの真上には曇天が
それでも、つないだその手のあたたかさが
あたたかさだけで
あなたは幾つもの種をいじったり埋めたり
朽ちた空色の下でも、
花は言葉もなく咲く
手の埋葬
手を
引かれて見知った町を歩く
老いた漁師の赤らんだ手が
まぁ、まぁ、呑んでいきぃな、と手まねく
あすこの地蔵、おどしの地蔵さん、脅しな
明治の頃、ぎょうさんの人がコレラで死んだ
焼き場はいっぱい……あすこで焼いたそうや
あすこに祖父さまはおどし番に立ってたんや
小さな手、大きな手、硬い手、柔らかい手
手が 沢山の手が積み上がり
人々の静かな祈りに眠っている
手を
引かれて、そっと手を合わせ
見知らぬ町の顔を、その輪郭を、手でなぞる
「ドメイン停止考察」としてのクリエイティブ・ライティング
この文芸投稿サイトは5月末で閉鎖になります。
理由はまーくんの足が臭すぎるからです。
・
・
・
悪ふざけの投稿と断じるのは容易い。だが、私には単純に切り捨てられない背景があった。
まーくんとは誰か。その人物の足の臭気と、サイト閉鎖とのあいだに、いかなる因果関係を想定しうるか。理由が理由として成立するための論理条件はハナから放棄されている。理由が明記されていながら、理由について考えること自体が忌避されており、私は上述の二行を閉じた文章だと感じた。
あるいはこれを一笑に付すこともできたのかもしれない。
だが、それができなかったことには理由がある。この投稿を行ったのが、ほかでもない「伝説のしこたま詩人」だったからである。
このところ、私が参加している文芸投稿サイトでは、「伝説のしこたま詩人」という謎のアカウントが運営を乗っ取ったらしい、という噂で持ちきりだった。規約やマナーにうるさいはずの場で、彼の横暴だけがなぜか不問に付されていたからである。誰かが注意すれば炎上し、誰かが黙ればそれが「理解」とみなされた。
伝説のしこたま詩人は、あらゆる投稿作品に対して「中々のしこたまですね」といった、意味の判然としないコメントを残す。それを批判した者には、サイト内外で執拗な罵倒が飛ぶ。投稿をやめるまで、あるいはやめた後でさえも、追撃は止まらなかった。批判を許さず、集団で言葉を浴びせかけ場から追放する。その有様は、さながらカルト宗教のようでさえあった。
気づけば、投稿サイトは、しこたま詩人とそのシンパしか残らない場になっていた。残った者たちは、彼の言葉を読み解き始めた。「しこたまの輝きですね」が最上位であり、「しこたまが微笑んでいます」「中々のしこたまですね」「しこたま読みました」「これのどこがしこたまですか」といった順に評価が下されているらしい、という考察まで共有されるようになった。
しかし、しこたま詩人の挙動には逐一、反応するくせに、サイト閉鎖は話題に上ることもない。この場所は、しこたま詩人に気を遣ってまで参加したがる者にとってさえ、すでに閉鎖を惜しむ価値を失っていたのだ。
私はその光景を、強い不快感とともに眺めていた。
私は、自分では真面目にやっているつもりだった。いや、真面目というより、文芸投稿サイトという場に対して利他的であると信じていた。
気合いの入っていない投稿者を見つければ、もっと考えて書けと態度を変えるまで説教してあげた。文芸投稿サイト外で、他の投稿者に軽薄なエアリプを飛ばしている者がいれば、サイト内外で痛烈に批判し更生を促した。ろくにコメントも書かず、配信やツイキャスにばかり熱を上げる者がいれば、放送中に怒鳴り込んだこともある。嫌われる行為であることは分かっていたが、それでも私は空気を読まずにやった。表現者とは、予定調和を壊す者であり、文学とはそのようにして守るものであると信じていたからである。
だからこそ、5月末のサイト閉鎖について、私は深刻に考えざるを得なかった。
しこたま詩人が場を掌握しているとはいえ、創業メンバーの一人がドメインを所有しており、その人物が5月で更新をやめる、という話が出回っていたからである。その人物は、規律やマナーに厳格な制度設計を行った張本人であり、しこたま詩人の振る舞いを強く嫌気しているとも聞いていた。
つまり、この二行は冗談でありながら、予告でもありえた。
理由はいい加減だが、結論は異様なほど強固である。そういう、もっとも食えない構造を宿した宣告だった。
私は創業メンバーの一人であり、ドメイン所有者でもある「花緒」という人物に連絡を取った。閉鎖は本当なのか。継続の意思はないのか。既存のドメインを捨てても、また誰かが新たにドメインを取得すれば済む話ではないのか。何が背後で起こっているか投稿者の立場からは伺い知れないが、しこたま詩人を排斥したいなら、私も協力できる。
しかし返ってきた言葉は、予想外だった。
「最初に言っておきますけど、私は閉鎖に賛成です。あなたみたいな人が跋扈するのは、単純に不愉快なんですよ。軽蔑しかしていないですし。あなたみたいな人って、要は足が臭いだけ、みたいな話じゃないですか」
まったく意味が分からなかった。
不愉快なのは、しこたま詩人ではないのか。私は食い下がった。
花緒は銀縁メガネを掛け直し、少し黙ってから、こう言った。
「私からすれば、しこたま詩人の方がまだ救いがあります。親切な人間には親切を返す。協力する人間を無駄に傷つけない。最低限、その程度のプロトコルは守っています」
そして花緒は続けた。
「あなたはその逆です。協力されると、協力のやり方が悪いと言って相手を攻撃する。貴方には自覚がないでしょう。
例えば、久しぶりに投稿してくれたユーザーに、もっと活動しろと怒鳴り込む。まだ投稿間もない初心の者に、経験が足りないと罵倒し粘着する。それを文学的正しさと主張し疑わない。もっと俺に近い立場に立ってくれと騒ぎ立て、ますます相手を遠ざけてしまう。
平たくいうと、遊んでほしい相手に悪態をつく幼稚園児と同じです。そのレベルの低次元の悪癖に文学という名を与えること自体が、既に文学的ではないのですよ」
私は納得できなかった。
花緒によれば、しこたま詩人は荒らしだが、私のような人間は「運営する責任は引き受けないくせに、支配欲だけが肥大した迷惑投稿者」だという。捨て地を荒らして楽しむ者と、他者に理想を強要する者。そのどちらもが、場にとって迷惑でしかない。
「あなたは、真剣な人間だけが残る場を望み、実際に他者を排斥してしまう。でも、その姿勢自体が既に真剣さから外れていることに気がつかない。貴方に任せれば、しこたま詩人以上に人が減り続け、場が閉ざされていくでしょう」
花緒は一拍おいて、こう言った。
「そして、何もなくなったあとには、あなたの足の臭みだけが残るでしょう。Bye」
私は激怒した。
支配欲をたぎらせ、自由であるべき文学の場に秩序を持ち込んだのはお前だろう。その反動として、しこたま詩人のような荒らしが湧いたのではないか。何の実力もなければ、実績もない。そもそもお前は文学を必要ともしていない。ヨン・フォッセもフォローできていない程度の文学的素養で、ドメインを盾に規律を語る、このポンカス野郎が!
その後のことは、もう考えたくない。
私には、田伏正雄、すなわちまーくんという名の巨漢の友人がいるのですよ。彼の足の匂いをあなたに嗅がせてあげたい。それが私の文学的正しさなんです。花緒は確かに、そう言い切った。私もあなたに輪をかけて利他的なんですよ。銀縁メガネの奥に潜むその目は、もう完全に異常者のそれであった。
それからというもの、私の部屋から、私の持ち物から、あらゆる場所から、足の臭いが立ち上るようになった。どのような手段で、どのような執念によって可能になったのかは分からない。ただ、どこにいても吐き気が止まらなくなった。
私はもう文芸投稿サイトには関わらないことにした。
理由はまーくんの足が臭すぎるからです。
鼻先かすめる風習の念
夏の盛りが鎮まって
何処からか香る金木犀は
静かになっていく世間を憂うかのよう
人を酔わすその香りが
私の奥に眠る幼少期の記憶を呼び起こす
ちょーさや えやえや
ちょーさや えやえや
大声というよりは怒号が飛び交う中で
甲高い鐘の音が耳を擘き
野太い太鼓が調子よく鳴り響く
乱暴に走り回る山車は
神様が乗るにしては品のないほど派手さ
秋祭りといえば賑やかで
大人も子供も男も女も
恥も外聞もなく楽しむものだった
大人になってから知った事だが
コンクリートと高いビルに囲まれた街では
五穀豊穣を祈願しないらしい
祭りは夏で終わると知って
寂しい気持ちを抱いたものだ
田舎に住んでいた期間よりも
都会へ来てからの方が長くなったが
金木犀が鼻先をかすめるように香る季節には
だんじり祭りを思い出す
たまには実家へ帰るのも悪くないだろう
愚か者の大愚痴
あなたとの共通点だった涙も、もう意味のないもの、役立たず。
それでも私が大きな自己嫌悪をするときはきまってやって来る。
人が怖い、正直あなたと会うのも怖い。
とにかくもう
人に好かれようとして空回りするような
自分を大切にしきれなくて、いつも自己中って思われるような
嫌われたくないのに嫌われることに慣れようとしている嘘つきなような
そんな自分の愚かさ加減に呆れて、4にたくなる。
どうしたらそんな自分に折り合いが着くのだろうか。
答えは多分、自分しか知らないのに
誰かにきいてもあてにならないのに
考える脳みそと直感がまるで足りてない。
苦しいから飲んだ錠剤に
「今日は早く眠れますように」
そう願いを込めたけど、もう少し考えたい。
もういっそ、海外でも行けばいいのかも。
でも、怖い。
怖がりも、完璧主義も、何もかもやめたい。
だけど、こんな自分でもなにかの役に立つんじゃないかと思って
こんな詩を書いている。
書き続けることは、生きることのような氣がしてきた。
生きることは優しさと、誰かが歌っていた。
こんな私はどうせまた誤解され続けると思うけれど
優しいって思ってもらえるだろうか。
それは、自己顕示欲でも認証欲求でもなく
だれかを助けられた証拠になるだろうか。
いつか、ちゃんと優しい人間になりたい。
性格の悪い自分から、脱皮したい。
モーリス
明日三十一歳になるはずだったのだね
黒いコッカースパニエルのような髪に
これから鼻をうずめられないし
やがて君の歳を追い越してしまうのだね
もういない人よ
君の顔立ちは九州の青年らしく
渓谷に似ていた
君の肌は夏 赤銅色に灼け
君の手に触れられた頬は熱かった
君という人はいたのに
いま私の隣には誰でもないが座っている
がらんどうに寝盗られてくやしくはないのか
せめて明け方の夢にでてきてくれないか
前回どおり ― 白石 × 神谷 5 ―
四月に入っていた。
白石は机の前に座り、書類を開く。
ページをめくる。
隣の席で中村が電話をしている。
「はい、前回どおりで大丈夫です」
短く答えて、受話器を置く音がした。
白石はページをめくる。
次のページを見る。
内線が鳴った。
「白石さん、例の件ですが」
秘書課だった。
「はい」
「前回の形で進めて問題ないですか」
白石は書類を見る。
「問題ありません」
「了解です。ではそちらで」
受話器を戻す。
白石はページをめくる。
最後のページまで進む。
書類を閉じる。
ペンを取る。
日付を書き入れる。
書類を揃える。
クリップで留める。
ファイルを開き、挟む。
立ち上がり、キャビネットを開ける。
並んでいる背表紙の間に差し込む。
奥まで押し込むと、他と同じ位置で止まった。
扉を閉める。
席に戻ると、机の上に別の書類が置かれていた。
白石はそれを開く。
ページをめくる。
最後まで進む。
書類を閉じる。
ペンを取る。
日付を書き入れる。
書類を揃える。
次の書類を開く。
手続きは、滞りなく進んでいた。
#連作
#白石×神谷
『西武園所感』所感 その遊園地は誰が作ったと思うんだ
資本家がペンで計画を築き上げ
労働者が汗を流しながらペンキを塗り
そうして互いが互いのできることをやって
遊園地という一つの詩が完成した
その詩で家族連れが多く訪れては遊び
子供たちに思い出を刻んでいく
それはきっと何よりも詩的なことなのだろう
“みみっちく淋しい”だなんて
その一言で資本家も労働者も踏みにじっていいものか
図面も作れず、ペンキも塗れぬ輩に何がわかる
グラン・ブルジョワを倒そうとか言うけれど
アイン・ランドによって一瞬でたかり屋認定されるぞ、それ
司馬遼太郎だったら褒めたたえたことだろう
“君たち。よくぞ英雄たちのように働き、成し遂げたじゃないか”
そう暖かい笑顔でそっと原稿に記してくれる
それは独占によっては生まれなかった
それは協調によって生まれたのだ
一つの階級協調のその産物
某詩人と同年生まれの歴史作家だったらそう述べたはずだ
ビルの上にいるようでそれでもビルで働く人々の
その傍にいるようにエールを送ってくれた
君がもし詩を書きたいというのなら
西部園とそこを作ったあらゆる階級の人々を賞賛するために
そっとペンを走らせていくのです
今は叩かれがちなあの人だってそうしたはずだろうから
いやまあ僕にも庇えない部分はあるけれど
彼の価値観は僕の価値観となっていったのだから
詩で家を建てたっていいじゃないか
僕は建てたい、それも本当に住みよい家を
子供に玩具を買ってやったっていいじゃないか
むしろ自分のためのゲームをたくさん買うね
血統書づきのライカ犬は……
その、僕は猫派だけど飼ったっていいんじゃない?
あと、諸国の人心にやすらぎをあたえたっていいはずだ
やすらぐ人はどうせやすらぐんだし
むしろあの人の歴史譚は多くの働く人たちを元気づけたじゃないか
現に僕があの人のようによく貪欲になれていったのだから
詩で人間が造れたって別に問題はない
詩で協調を作り上げてしまおう
三つの矢をもって決して折れない矢を作るように
いくつもの束をもってして強力な斧を作るように
詩は君の心の一つの盾
詩は君の心の一つの矛
なぜなら
詩は最初から君の私有
詩は君が血と汗の代物
君の魂が世界に立つための足
君が君自身の労働で実現しようとしているもの
詩は八月のラムネ
詩は一輪の菊花
一つのさざれ石
詩は 表現を変えるなら 人間の魂
名づけがたい物質 不滅の歴史だった
いかなる時代においても
詩は君のそっと握った刀
2026/04/05 日常詠 Shuraxa Lost Temperature Release Tourを観て
https://i.postimg.cc/d1xH5kV8/IMG-20260405-184344.jpg
武田理沙
鍵盤や葱へ刃のあまたたび
山本達久
春の闇うごくシンバル瞬けば
中尾憲太郎
じむぐりの耳道這ひずる重力場
2024/07/15@海遊館吟行より
夜がくるじんべゑ鮫と云ふ夜が
花の名前を
『別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。
花は毎年必ず咲きます。』
有名な小説家の一節
知ってはいたけれど
身をもって知るのは
あまり愉快とはいえない
穀雨に潤される山吹を見るたびに
『この花が好きなの 綺麗な黄色』
何気なく言った君の声が
鮮明に 蘇ってくる
大事なこともそうでないことも
ごちゃまぜの記憶が胸を刺す
桜じゃないのが 君らしいななんて
あの時はぼんやり思っていた
さよならを言い合ってから
幾度目かの春
忘れてないとも
忘れたとも言えないまま
移ろいゆく天気と
晴明に澄み渡る空に
置いてけぼりにされた気持ちで
いつもの道を歩いていく
Nostril
鼻はかゆいもので
かいてみると
私の指をさわる者がいる
さわってはどこかに消えていく
悪戯のように
それは
鼻毛だな?
そう思ってさわりなおす
そう思ってしまえば
それは大人しく鼻毛だった
ここは人っ気がすんなりないが
恥ずかしいから一本、抜こうと思う
しかし全速力で
痛みが傍を走り抜けていったため
そっと読書に戻った
鼻はかゆいもので
親指と人差し指で
鼻翼をキュッと
しぼるようにかくと
やはり鼻毛は指をさわるので
腹が立って根元を
ガッちり掴んでやった
あと数ミリ動けば
あと数ミリ 動けば
眼前に転がる
著しい二本の鼻毛
人間にしてみれば
少し背伸びの必要な
身長差カップル鼻毛
記録をしなければならない
陽炎という艶をまとった荒野に乗せて
しかし彼らは抵抗していた
私の指紋の溝に手を引っ掛け
全く永遠の世界に降りようとしない
(野良猫の小さな陰茎棘)
(新品靴のマジックテープ)
(濃厚なちぢれ麺)
そんな原理から生まれた彼らは画面外へ
やはり走り抜けていってしまう
顔を上げると
遠くに走っていく鼻毛が
遠くに行く と思うほどに走っていた
それが鼻毛ではないことを知るために
また鼻毛が私の指、
人中、唇を、下腹を、
まさぐる
往復して帰ってきた痛みが
一息ついて、私の本を奪ってそこに座った
わたしにはいない
わたしのおもてにも
そこにも
ひっかきまわそうが
ひっくりかえそうが
なげすてようが
でてこない
いないいないいないいないいない
くりかえしつづけてみるから
バア!!!
あらわれてはくれまいか
いないいない
さがすからいないのか
よぶからいないのか
いないいない
いないいないいないいないなにが
わたしが
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12
面接官は三人だった。
中央の男が書類に目を落としたまま言う。
「志望動機を教えてください」
凛は背筋を伸ばした。
「大学では経営を専攻し、消費行動やマーケティングについて学びました。書店やイベントに足を運ぶ中で、本がどのように選ばれ、読者に届いているのかに関心を持つようになりました」
言葉は淀まない。
「御社の本は、売上だけではなく、長く読み継がれている作品が多いと感じています。その点に魅力を感じ、志望いたしました」
一人が小さくうなずく。
「最近読んだ本はありますか」
凛は一瞬だけ視線を落とした。
「榊原恒一さんの『月の裏側は静かに明るい』を読みました」
少しだけ間を置く。
「現実から大きく離れているわけではないんですが、日常の中にわずかなずれがあるような書き方で、それが印象に残りました」
面接官が顔を上げる。
「どういうところが良いと思いましたか」
凛は、言葉を選ぶ。
「物語としては追いやすくて、多くの人が入りやすい構造になっていると思いました。ただ、その一方で、すべてを説明しきらずに残している部分があって」
少しだけ間を置く。
「読み終わったあとに、考え続けてしまうところがある、というのが大きいと思います」
面接官はすぐには反応しない。
「売れると思いますか」
凛はすぐに答えなかった。
「売れている作品ではあると思いますが」
言葉を選ぶ。
「その理由は、入口の広さにあると思います。読みやすさや構造としての分かりやすさがある一方で、解釈を読者に委ねる余白があるので、読者の層が広がっているのではないかと感じました」
一人がペンを止める。
「売れる作品と、あなたが関わりたい作品が一致しない場合は?」
想定していた質問だった。
「まずは売れる形にすることを考えます」
はっきり言う。
「ただ、その過程で削ってしまうものがあるとしたら、それが何なのかは意識したいです」
「削らない、という選択は?」
「状況によると思います」
少しだけ声を落とす。
「ただ、残したまま届く方法があるなら、そちらを探したいです」
短い沈黙。
「それでも売れなかったら?」
凛は一瞬だけ視線を落とした。
それから、顔を上げる。
「売上以外の形で残る可能性もあると思っています」
言葉を選ぶ。
「届く場所を変えることで、時間をかけて残ることもあると思うので」
面接官の一人が、初めて少しだけ笑った。
「理想が強いですね」
凛はすぐには否定しなかった。
「そうかもしれません」
「ただ、そのためにも、まずは売る側のことをきちんと理解したいと考えています」
中央の男が初めて顔を上げる。
「将来的にやりたいことは?」
凛は、少しだけ間を置いた。
「営業として、本がどのように読者に届いているのかを現場で学びたいです」
そこまでは迷いなく出る。
「その上で、将来的には編集に関わりたいと考えています」
一拍。
「新人賞の選考にも携わりたいです」
空気がわずかに変わる。
凛は続ける。
「まだ世の中に出ていない作品の中にも、残るものはあると思っています。それを見つけて、きちんと届く形にしたいと考えています」
言い終えてから、わずかに息を吐いた。
面接官の一人が、書類に視線を戻す。
「分かりました」
「本日はありがとうございました。結果については、後日ご連絡いたします」
中央の男がそう言った。
凛は立ち上がる。
「本日はありがとうこざいました。失礼いたします」
一歩、下がる。ドアの前で一礼して、そのまま部屋を出た。
凛が部屋を出て、ドアが静かに閉まる。
わずかな沈黙。
書類の上に置かれていたペンが、軽く動く。
「……どう思う?」
中央の男が言う。
右の面接官が少しだけ肩をすくめる。
「悪くはないと思います。話は通ってるし、営業でも使えそうです」
左の面接官は、まだ書類を見ている。
「ただ」
少し間を置く。
「理屈が先に立ってる感じはありますね」
中央の男がうなずく。
「分かってるんだよな。売れる仕組みは」
書類を一枚めくる。
「でも、ああいうタイプは」
言葉を探す。
「変なところで引っかかることがある」
右の面接官が笑う。
「それ、悪い意味で?」
「……分からない」
即答しない。
左の面接官が口を開く。
「新人賞の話、してましたよね」
「してたな」
「残るもの、って言い方」
少しだけ顔を上げる。
「具体的ではないけど、嘘ではない感じはしました」
中央の男は何も言わない。
ペンで机を軽く叩く。
「営業から回す前提なら、ありだと思います」
右の面接官が言う。
「現場でどうなるかは見たいですけど」
左の面接官が続ける。
「編集に回したときに、どういう判断をするかは……」
言葉が止まる。
「分からないですね」
中央の男が小さく息を吐く。
「分からないやつを、どうするかなんだよな」
誰もすぐには答えない。
机の上に、凛の書類が置かれている。
名前の横に、まだ何も書かれていない。
チューリップが咲いた日に
去年 初めて育てた
オレンジ色のチューリップが
咲いた日に
愛犬は旅立った
最後の1週間
ごはんが全然食べられなくて
望みを託して
栄養剤の注射をしてもらいに
病院へ
注射をする前
ふらふらしながら
わたしと長男を
見上げて
頼りなげ困り顔で
ぺっそりくっついてきた
がんばろうね
長男とわたしは
かわるがわるいって
注射をしてもらった
長男が抱いて車に一足先に
連れていき
わたしはお金を払いながら
獣医と話していた
「急変を覚悟してください
もう、だいぶ、、、」
頷くしかなく
無理やり笑っていた
そうしていたら
長男が、大きな声を出しながら
愛犬を抱きしめて
駆け込んできた
「お母さん!先生!
様子がおかしい!
たすけて!!」
愛犬はすぐに
診察室へ
でも だめだった
獣医も肩を落とし
何も出来ず
すみませんと
泣きそうだった
でも
早く家に帰ろう
お父さんに抱っこしてもらおう
愛犬はそれが一番うれしいよ
と泣きじゃくるわたしに
長男が言ってくれた
すぐ連れてかえり
家族みんなで
かわるがわる抱っこして
泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて
チューリップが咲いた日
4月8日だった
春だった
お釈迦様の誕生日だと言われている日
愛犬が旅立った
わたしがそちらに旅立つ時まで
忘れられないだろう
チューリップが咲いた春の日
また会える日をまちわびて
転生しなくても
何度も名前を
かえるだけ
生まれてこられる
世界は
便利だね
けれど
ひきょうでは
いかしきれないかな
(にがわらい)
銀河系のすべての神々を呪う
「もう誰とも話したくない」と無言を貫いていたら、間違い電話が三回かかってきた。
「しばらく一人になりたい」とカフェで読書していたら、知らない人に相席をお願いされた。
「今日は誰にも見つかりたくない」と隅の席に座ったら、店内放送で名前を呼ばれた。
「もう疲れた、何もしたくない」と思ってたら、今日締めのコンビニ振込用紙が見つかった。
「もう休みたい」と有給を取ったら、休み明けに有給休暇を取った人が二人いて、仕事が三倍になった。
「もう辞めたい」と思いながらレジを打っていたら、さっきクレームをつけてきたお客さんがまたレジに並んでいた。「もう辞めたいから今すぐ辞めたい」に気持ちがレベルアップした。
大失恋の夜、泣きながらコンビニに行ったら、振られた相手とばったり会った。
絶叫系が怖くて乗れないのに「度胸試し」で乗らされ、止まったあと体が動かなくて、また絶叫マシーンが動き出した。
「もう全部投げ出したい」と思って大切な物をどんどん段ボールに投げ捨てていたら、宅配便が五回来た。
「もう全部やめたい」と海に行ったら、海上保安庁の船が浮かんでいた。
夜中にひとりドライブで気持ちを切り替えようとしたら、道に迷って朝になっても家に帰れなかった。
「誰にも会いたくない」からしばらく山に籠もろうとしたら、知り合いのハイキンググループに遭遇した。
「もう消えたい」と思いながらスマホを見ていたら、昨日のポストがバズっていた。
「もう◯のう」と思って樹海の森に行ったら、道の途中で車に轢かれそうになってマジ◯ぬ!かと思った。
https://x.com/bagu_now_real
職種:コンビニバイト
レジ編
・「Suicaで」って言われたあと「やっぱり現金で」の流れ、もう慣れた。
・袋いりますか?って聞く前に「いりません」って言われると少し傷つく。
・「温めますか?」を言い忘れて、もう袋に入れたあとに「あ、温めて……。」
品出し・作業編
・賞味期限チェック、ひたすら無心になれる唯一の時間。
・発注ミスで棚がカラカラか、逆にパンパンかのどっちか。
「いらっしゃいませ」が口癖になって家に来た宅配の人にも言いそうになる。
お客さん編
・「あのー、なんか……チキンみたいなやつ」→ どれ??
・ホットスナックを指差しで注文。でもガラスで反射して何の品なのか分からない。
・常連さんの注文、言われる前にわかると少し嬉しい。
深夜シフト編
・深夜は深夜で独特な雰囲気を纏うお客さんが来る。
・暇すぎて掃除を3回する
・明け方の品出し、なんか妙に気持ちいい。
https://x.com/bagu_now_real
TikTokあるある
「今日、盛れてないからやめようかな」と言いつつ、ガッツリメイクで2時間配信する
ギフトのリアクション用に、100均で買った被り物や小道具が画面外に常備されている
「今日で配信やめるかも…」という匂わせで、リスナーの引き止めと枠投げを誘う
イベント期間中、ランキングが下がると露骨にテンションと顔が死ぬ
配信中、親や同居人が部屋に入ってきそうになると急に無言になる
「明日もこの時間に会おうね!」と言って、平気で遅刻する
リスナーからの「彼氏いるの?」という質問を、高度な技術でかわし続ける
友人ライバーとコラボする時、エフェクトの強さで負けないよう必死で調整する
配信終わり際、「終わる終わる詐欺」でさらに30分以上引き延ばす
喉を痛めて「今日はミュート配信ね」と言いつつ、結局タイピングで爆喋りする
「みんなのことが一番だよ」と、全リスナーに個別に思わせる絶妙な距離感をかもし出す
配信終了後の「お疲れ様でした」ポストの自撮りが、配信中よりずっと可愛いくて悔しい
https://x.com/bagu_now_real
AIは「音楽」を作っているのか、「パッケージ」を作っているのか
はじめに
近年登場した音楽生成AI、とりわけGoogleのLyria 3シリーズは驚くほど万能である。歌詞や画像を与えれば、音楽として完結した形態に仕立て上げる。しかし、その巧みさゆえに、私は違和感を覚えた。
AIが作っているのは果たして「音楽」なのか?
大量のデータから導き出された平均値としての音響パッケージではないのか。
アレンジと伴奏を自動で付ける能力はある。でも、ポリフォニックな思考を持たないホモフォニー機械の出力なのではないか。
私にはAI音楽は主旋律に従属する和声の袋詰め商品に映るのである。まだファミコン音楽のほうが人間の魂を感じられる。
1 ヒーローソングという「デフォルト」から出発する
遊び心で「さおりんは わらびの たいよう」と入力したとき、AIは即座にロボットアニメ風の英雄歌を吐き出した。
(むかし、蕨市のシェアハウスに住んでいた。浦和競馬でオケラになるたび、ハウスのさおりさんにすいとんを食べさせてもらった。このままではいかんとヨーロッパの会社に就職したが、スポキール空港の国営カジノのブラックジャックにハマってしまい、結局まともな人生は歩めていない。再生産のトラックに乗れていないのだ)
このさおりんソングは、多くの利用者が求める「気持ちのよい平均値」であり、J-POPのメロディに電子的な伴奏をまとわせた既製品だ。要するに、デフォルト設定ではAIは、歌詞をパッケージにする産業機械として振る舞う。
私はこの既成概念を破りたいと思った。伴奏という呪縛そのものを無化し、声部が対等に生きるスコアに向かわせたい。
https://youtube.com/shorts/3zIxxpYJ36g?si=0L6ZD_E97Ae1cFh8
2 伴奏の呪縛とデータの支配を問う
スコアを書くような詳細な指示に変えても、AIは頑なに伴奏を付ける。なぜか。
AIが学んでいる膨大なデータの大半が、主旋律と伴奏の二分法からなるポップスや映画音楽である。
資本主義的な音楽産業は、旋律を前景化し、他の声部を背景音として均質化する。そのデータを学習したモデルにとって、音楽とは「トラックメイキング=商品化」であり、多声の対話という構造は想定外だ。
人間が複数の主体の声を織り交ぜるために築き上げたポリフォニーは、訓練データの外部に位置づけられている。
こうした偏りは、音楽産業が大量に供給してきた楽曲の形式と無関係ではない。商業的に成功したポップスや映画音楽が訓練データの大半を占める以上、AIは市場で受け入れられてきた様式を忠実に再現しようとする。言い換えれば、AIは既存の音楽的慣習の優秀な継承者であり、その枠の外にある表現は自然と周縁化される。だからこそ、ポリフォニーを引き出すには明示的な指示で枠組みを書き換える必要がある。
私はAIのバイアスを剥がすために、音楽理論の言葉でモデルを縛り上げてみた。
#不協和の多重和音でペンタトニックのモチーフを包囲せよ
#打楽器を排し弦楽器に推進力を持たせよ
こうした指示を重ねるほど、AIの出力は「テンプレ音楽の伴奏」から「論理に沿った音の集積」へと変貌する。
特に効果的だったのは、「伴奏」という語を禁じ、「ポリフォニー」を命じること、各声部に互いに素数の周期を与え、周期がずれ続けるように設定することだ。
これによりモデル内部の自動化されたアルゴリズムが従来的なトラックメイキングから逸脱し、多声部それぞれの横の論理を保持しながら縦の響きを制御しようとし始める。まるでファミコン時代の作曲家が限られたチャンネル数でポリフォニーを編み出したように、AIは計算機的作曲家へと一時的に変身した。
アイラシヤ大陸プロジェクトに参加しているので、世界観にあわせてAIに生成させた「マドウ山」
https://youtube.com/shorts/unWga_ocUVE?feature=share
3 オクテットの壁と注意の限界
声部数をさらに増やすと、驚くべき壁が現れた。4声まではそれぞれのメロディが自律的に動き、緊張と弛緩のバランスを保つ。それ以上では、AIの注意機構が分散し、いくつかの声部が塊となり伴奏的な役割に落ち込んでしまう。生成モデルにおいて、各声部の横方向の文脈を追いながら縦方向の衝突を制御できる容量には限界があることを体感した。
海外ガチ勢も、AIが長い音楽を生成するのは困難であり、複数の時間スケールを持つ構造を維持するためは機能の改善が必要であるとの見解を発表している。AIの音楽生成における「オクテットの壁」は、計算資源と注意容量の限界の表れなのかもしれない。
https://youtube.com/shorts/oBAqGB66Ryc?si=P3duH8rYfZbJX17E
結び 孤独な探求から次の地平へ
検索エンジンを使って調べたところ、Lyria 3のようなモデルに対して厳密な多声独立を要求している利用者はほとんど存在しなかった。多くの人々はAIから心地よい平均値を引き出し、新たなフックを得ることに満足している。
しかし、音楽理論という言語を介して、AIと構造の限界を殴り合うことは、資本主義的な商品の生産に抵抗する実験でもある。
要するに、AIは皆が知っている音楽をなぞる道具ではなく、人間が書ききれないほど複雑な論理を可聴化するための冷徹な計算機たり得る。オクテットの壁を越えた先に、どのような新しい対話と解放が待っているのか。
私の探索はまだ始まったばかりであり、未来のポリフォニーは、AIと人間の共同作業によってこそ開かれる。