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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

弔って

自らの感情を
確かめるための
旅路だったのだとしたら
これまでのあれこれが
愛おしくなりもして

あたたかいのは
頭の中とも
胸の中とも
区別も出来ない
透明な境界線

人差し指の
ほんの小さな痛みに
私はやっぱり
生きているという
ささくれの点呼

この丸い星の上
塵のひとつとして
醜くも美しいのだと
ふと訪れた
自分を振り返るひととき

眠れない夜の孤独や
深い悲しみの雫にさえ
澄んだ微笑みで
ありがとうとだけ
話して聞かせる

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疲れ果てた週末
ざわついた水面のままに
身を横たえた

息は短く 浅く
自身を慈しむ そんな気持ちさえ
揺れる水面からは 見えない

ほんの数時間
目が覚めてしまう
もとより 眠れてもいない



灰色の薄明るい空の下
雨は止んでいた

ベランダに椅子を 広げ
張り付いた身を  沈め
見上げる視界には 一面の薄光


曖昧な輪郭
自身に触れる

ただ あることを
在ると 自覚するように
滲む水面に ただ 触れる

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わかりやすい迷路

聞きたくない声を
イヤホンで
遮る

見たくない人を
スマホで
ずらす

顔をあげている人の耳に
イヤホン
うつむいている人の手に
スマホ

ホームドアがついて
駅の広告は白い灯り
ここはどこ

止まる人を
歩く人が
エスカレーターより早く
追い越していく

改札の向こう
違う景色に
ホームへ上がる

迷わないように
案内図に
迷わされる

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鉄格子の中に描かれた炎の文字


主観的なピアノが燃え上がり 焼け跡から一個の鉛の卵が転がり出る 卵は清潔な接吻を受けて客観的な鉄格子となり その内部では角笛の音を立てて炎が大きく動いた 無病の鳥たちは目玉を焼かれ叫びながら天文学的な夜を遍歴し 鉄格子は溶けて地獄のような地表を露呈し 幽閉されている巨大な黄金の家畜が屋根の上を浮遊する無数のナイフについて予言した ガラスは不純にして妖艶 数世紀隔てて樹木はペリカンとしての比喩を生きる そうだ 比喩は鮮明な迷宮で馥郁たるアポロンの車輪の季節のもとで醜く腐り落ちた両腕を またたく浴槽で擦るマッチ箱のようなこの狡猾な青空のような 主観的なピアノを忘却したのだ ひとりの男が裸体となり永遠の煙突に飛び込むとき リズムを得た崇高な認識は ひとりの男が裸体となり切り株の黎明において切り刻まれた雑木林の夢となって死ぬるとき この感覚と模倣と 絶え間ない認識の雨は 鉛の卵を無数の赤く滲んでいる火の中へと投げ入れた 君はペリカンと契約した棘の刺さった少年 君はアイリスの心臓と不思議な木陰を流れる水を盗み飲み白骨化した少年 君はピアニストではない 君は主観的な狼狽の水晶だ そして 奇妙な形の夢の中の田園を旅する少年なのだ 悲劇はそれ自体がカボチャの花弁 そして 予言された無数のナイフのように美しい無数の頭のない僧侶たち もはやいかなる歯槽膿漏もシャンデリアを否定しない 死滅しやすい水のしたたりが またもや客観的な鉄格子を濡らしていく このマッチ箱の矩形の臓物に招かれた無病の鳥たち けたたましくオルガンの声で啼く鳥たちは墜落し 鉄格子の内部の炎は隆盛を極めた アラビアの馬たちが曳いていく黄金の悲しみの家畜の死骸 風景は生存し 比喩はこうして死んだ リズムを得た大工たちが瞑想しながら行く 海に浮かぶ主観的なピアノの蓋がひとりでに開き燃え上がり 憂鬱な眠りのような時間が一瞬たゆたったのちに 焼け跡から一個の鉛の卵が転がり出る 卵は宇宙の清潔な血の一滴のように光る 顔は罅ひとつなく幽閉され 角笛の音が黒い羽毛として空間に浮き上がった

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自由になりたい

自由になっていいわけないじゃん

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仔猫

死んだ仔猫のように
やすらかな顔をしてる
まるで
生まれたことを
忘れたかのように
すやすやと目を閉じて

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鯖が泳ぐ店

夜のラーメン屋で鯖が泳いでいる
湯気の層を青い背がゆっくり巡る

常連は骨を丼の縁へ並べ
化石を掘るように
骨を掘り出す爺さん、婆さん

店主がそれを集めて
出汁の渦へと返せば
新しい青い背が泳ぐ

私は海を啜りあげる

寒空の日本海や
瀬戸内の穏やかな
青い背を泳いで

鼻から鼻を回遊した鯖は
微細な小骨を喉に残して

閉店後に寸胴へ戻る
帰路、背は青い

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挽歌


高層ビル群に囲まれた四角い土地で
ゴリラたちが泣き叫び
その毛深い裸体の臭気が
路上に漲ると
多くの群生する草花が枯れ果て
土地には奇怪な形の
夢幻のような
生物が
溢れるようになった

叫び疲れ衰えたゴリラたちは
切符を買い
墓場へと向かう
あらかじめ用意された穴ぼこへ
その身を横たえる

埋めてくれえ!

高層ビル群に囲まれた四角い土地には
たえまなく新しいゴリラたちが
集い
泣き叫ぶ
その毛深い裸体の臭気が
路上に漲ると
多くの子供らの皮膚は溶け
頭や四肢が変形し
奇怪な形の
夢幻のような
生物に
なり変わった

晩年の疲れ果てたゴリラたちは
もはや声を出すこともできず
みんなそろって
手記を書いた

この手記を抱いて
穴ぼこに入るよ
埋めてくれ
埋めてくれ
そして
すべてをどうか忘れてくれ……

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object.



  𝚘𝚋𝚓𝚎𝚌𝚝.𝗼𝗯 𝗷𝗲𝗰𝘁


 人の手
 に依る。
 風雨の蒼に堆積した
 埃を払う
 木肌
 に触れる

 涼しげな冬
 の絵に
 雪が降っている
 窓の外には
 いつもの
 静かな朝

 すずしい
 水が囀る
 蛇口から
 おちる水滴、波紋
 雨宿り、
 してゆけば、よいのに
 昨日、
 駅まえを歩いた。

 あまやどりしても
 よいのに
 うちみずのあびない
 よいあくびのするところ
 ねこの草のね
 みえ隠れする
 葉にそよぐ
 ゆびさき


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ナカタサトミの東京ダイアリー

6月29日
いよいよ岡本のマンションを片付けてしまわなければいけない。大阪の左翼活動家の女性Sを呼んで手伝ってもらい、なんとか終わる。감사해요。ピザをとっていっしょに食べた。

6月30日
元町のクリニックへ。主治医の小林和先生におわかれを言いに行く。故・安克昌先生とも交流が深かった、とにかく患者思いのドクター。お世話になりました。
夜、共産党員の母と最近のアクティビズムの動向について電話。家族としては全然うまくいかないけど、同志のような感情は強くある。その後、大家のOに鍵を返す。Oは60代前半のハンサムな男ともだちで、神戸ではなにかと面倒を見てくれていた。あさひてらす掲載の私の詩にも複数回登場している。少しメンヘラで可愛い人だ。私と違って「ガチ」ではないところが付きあいやすい。
解散後三宮のユニオンホテルにチェックイン。ここはカレーが名物。私も大好きだ。

7月1日
東京でしばらく暮らすウィークリーマンションの鍵をヤマトの営業所まで取りに行った。この夜もユニオンホテルで過ごす。怠惰な一日。寝る前に恋人のKくんと電話。東京での生活のことなど。

7月2日
新神戸発の新幹線に乗る。いろいろ後悔が押し寄せる。もっと三宮や京橋や十三で遊べばよかった。SMバーにも結局二回ほどしか行かなかった。十四時ちょっと過ぎに東京駅につき、快活クラブにチェックイン。なんだか具合が悪くなり、複数回嘔吐。近くの内科に飛び込んだら胃腸炎とのこと。採血と注射と薬で三千円ほどかかった。よりにもよって慣れない土地で…。

7月3日
今朝は体調がいい。ネカフェだから漫画がいっぱいある。『みいちゃんと山田さん』を最新刊まで読み終わり、『よつばと!』を読みはじめる。よつばは幼少期の私そっくりだ。『住みにごり』も10巻まで読んだ。
明日入居を予定していたマンスリーマンションの部屋の隣室から水が吹き出し、ベランダがずぶ濡れとのこと。マンションと部屋が変更になる。不動産屋さんがたいそう申し訳なさそうにしていたが、急すぎて困った。

(つづく)

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◽️プチストーリー【神様、夏祭りに来ませんか?】(作品No_05)◽️プチストーリー【神様、夏祭りに来ませんか?】(作品No_05)

♪はぁあ 踊り踊るなぁらぁ ちょっいと東京音頭
♪ヨイッヨイッ

やぐらの方から、音楽が聞こえてくる

おかあさーん、綿アメ買ってよー
子供たちの声も聞こえてくる

私はお財布を開き、五百円玉を取り出し、暗くて見えづらいお賽銭箱に向けて投げた。コトンっ。

深いお辞儀を静かに2回
パンパンッ。
ゆっくりと目を閉じて、口をパクパク動かした。

「ゆうこー何してるの?」
私は目を開き、後ろを振り向いた。
なぎさ が左手と右手にフランクフルトを1本ずつ持っていた。
「はい、ゆうこ に1本あげる。どこかで食べようよ」
「なら、あそこの 人があまりいない神社の裏の、石の段差に座ろうよ」
ゆうこ は考えながら口にして指さした。
「えー、あそこ、ライト届かないし、お祭りに来てる人たちも見えないし、せっかくの雰囲気が味わえないよ」
「まぁまぁ、なぎさ とゆっくーりと語らいたいということでいいじゃないですか」
私は なぎさ の手を取って、神社の裏側の石段に連れて行って2人で肩を並べて座った。

「いただきまーす」
2人は乾杯するようにお互いフランクフルトを見せ合って大きく口を開けて頬張った。プチっという音と共に肉汁が口いっぱいに広がる。
「うまぁ!」 2人の声が重なった。

♪やーとな それヨイヨイヨイ
♪やーとな それヨイヨイヨイ

「私、けっこうこの距離感好きなんだ。暗いと思っても、ほら、隣には なぎさ いてくれてるし、耳を傾ければ、盆踊りの音楽が聞こえる。そこに集まって踊っている人たちの足音、子供たちの元気な声、カップルの慎重な声。
色んな音で溢れてて、今を楽しもうとしてる。なんか、いいのよ」
「ふーん」なぎさ は、首を少し傾けた。
私はそんな なぎさ の目を両手で塞いだ。
「ちょ、ちょっと何するの、いきなり」
「まぁまぁ、しばらく、じっとして」
2人は神社と一体となり、周りの音だけが残された。

♪やーとな それヨイヨイヨイ
♪やーとな それヨイヨイヨイ

「ゆうこ の言うこと、少しわかったかも」
「でしょぉ。これが通の楽しみ方よ」
「何をそこまで自慢げに! 」
ふふふふ。ははははは、2人は笑い合った。
「ゆうこ、まだ何か食べたい?かき氷とか? 」
「ううん、ありがと。今日はあまりお腹空いてないかな」

私たちは、この神社の裏側で、たわいもない、
でも今の私たちには、たわいもなくない話をしばらく語り合った。

なぎさ が立ち上がり私の手を取って
「ゆうこ、私たちも盆踊りの輪に入ってみよう!踊ろ! 」
「え?!私、踊り知らないし、運動苦手だよ」
「聞こえませーん」
「なにそれー痛い痛い。行くよ、行くから! 」

そんな楽しい時間はあっという間に過ぎた。ちょうど良い時間ってのはあるのだろうか。

お祭りをたっぷりと堪能した2人は帰るために神社の入り口の鳥居に近づいていた。

なぎさ は思い出したように
「そういえば、ゆうこ、私と待ち合わせてるとき、神社にお参りしてたよね。
何をお祈りしてたの?彼氏できまようにとか?もっと先行っちゃって幸せ結婚できますようにとか!! 」
「違う違う、そんなじゃないよ。
 でも、教えない。言うと願い叶わないかもだから。叶ったら教えるよ」
「何それー。気になる」
「まぁまぁ、さあ、帰ろ帰ろ」

数時間前、なぎさ を待つ間、ゆうこ は神社でお参りをしていた。
『神様、私は、夏祭り直前に彼氏に突然別れを言われてしまいました。楽しみにしてたのに、、、。
なぎさ は何も聞かず、即座に2人で夏祭りに行こうと強引に決めてくれました。
神様、一度、夏祭りに来ませんか?
私、つらい、私はつらいけど。この場所に来たら、このお祭りの場には、今を全力に楽しもうという気持ちに溢れてる。私は、、、やっぱり今も、自分も、これから会う人も信じていたいです。どうか私が挫けそうになったら、そのときだけ神様、私に力を貸してください。』

(了)

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ぱられる

きょうは ちょっと ヤな日
そうおもうのも ヤな日

なんとなく
はんたいの手で
絵をかいてみたら
ぐにゃぐにゃ

いがいと
これも 味かもね

知らない路地をぬけたら
風とすれちがった
ここいらじゃ
みかけないやつだ

かたいフェンスを
ゆびでなぞるよ
きみもいつかは
恐竜の骨

あめの小道を 
サンダルで
あるいたら
ちきゅうと いっしょに
ずぶぬれだ

なんとなく でいいよ
ほんのすこしで いいよ

きょうは たべようよ
ぱられる・わーるど(味つき)

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雨に唄う

うなだれた足元染める黒いしみ
身を知る雨に濡れて唄えば

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消えたみどり

わたしは
森を消すことに
快感を
覚える
無数の
たとえば
何千もの
鉛筆を
用意して
何千もの
線を描き
あの
白く汚れた
ちょうほうけいの雲で
おまえをけす

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シチガツ

しちがつがきていた
まいにちのよに
ことばをくみたてている
のに

きおくがそーしつしていくばかりで
「季節のかわり目で
体調を崩しやすいので
お気をつけください」
てがみにはそればかりかいている

おきばがないからだもこころも
いっそのことたびにだしてしまいたいのに
可愛くないからかわたしは
宙ぶらりんにあまんじる

シチガツだ
なながつだ
文月なのだ
ろまんちっくな月で
うらやましい
ちょっとえんぎがよさそうな
ななばんめ

はじめてこどもをうんだ七月が
またやってきていた

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回転しない木馬

遊園地に「回転しない木馬」があった
妻と娘が乗り
僕が写真を撮ることになった
バーにおつかまりください
というアナウンスの後にブザーが鳴り
回転しない木馬が
回転し始めなかった
妻と娘が同じ場所から
笑いながら手を振っている
僕もシャッターを切りながら
時々手を振って応える
長かったり、長くなかったり
そんな一生のうちのほんの数分間
みんなで笑って
みんなで手を振る
終了のブザーが鳴るまで
夢中に家族であり続ける

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青空

人生で一番愉しく、また心地いいのは、掛け算の瞬間かも知れない。

喜びが、倍になる。些細な言葉がきっかけで、会話が弾む。信じられない魔法と、ステップアップ。
空を飛ぶような、そんな気持ち。

天国への階段、駆け足で上るような……筋肉が喜びほぐれる。
思わず、笑顔が溢れる……

しかし、人間は計算を止められないもの。人生には、思わぬ引き算もある。
冷静であるからこその、引き。整いが良く、纏まりがあるからこその、こだわりもある。

時には、引くだけでなく、割る。理解しようとする。
なにかで、なにか? ものに例え、比較さえして、分かろうとする。納得しようとする。丸く、納めようとする。

足らなければ、足す。時には、付け足す。余分なもの、余剰なもの。
人生は、寂しきもの。そうせずには、居られない。それがプラスになれば、それで良い。

足したり引いたり、掛けたり割ったりの魑魅魍魎、複雑な計算式の中で、Xとは、なにか? Yとは、なにか? なにかを求め、なにかを集め、なにかを呼んで、時に人は論理だけでは生きられぬから、獣の匂いを求める。

SEXや殺戮、食事、排泄。
臭い仲というものが、人と人との輪を作り、円陣を組ませる。

闘い、闘争、距離感、自立心、気高さまでも、欲望、血の気、この内臓へと続く本能は求め、巻き込んで、次の一手はどこか? その次の一手はどこか? 見えている時、見えていない時........

不思議な一本線で繋がれた、プラン。壮大な夢、時に掴みどころなく、だからこそお約束の世界へと帰るより、致し方ないような。

円環の中を、退屈を持て余しながら、自分は、割りたかったのか? かけたかったのか? 足したかったのか? 引きたかったのか? 判然としないまま、その場その場、時と瞬間の中を生き、海を眺め、空を眺め、山を見渡し、心に描きて、なにかを、分かりたかったのか? 得たかったのか? 笑いたかったのか? そう、笑い。これで善しと思える、笑い。

仕方なしでもなく、安定と快感情の中にある、その笑い。その中を生きることの、無上の喜びよ。
嗚呼、愉快愉快。晴れた青空、雲の毛布。太陽の小便までも。

人生につまづいた時に、なにがあるだろう? 愛の救いへの、涙か? 懇願か?
結局はこの世に生まれたからには、なにか面白きを生み出すことでしか、本当に救われることは、ないのかも知れない……

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 1

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散るための桜

果てしない空の下で
私は数えることをやめた

今年もまた
同じ場所で
同じように咲けるだろうかと
期待と不安を
枝先に並べていく

いつしか気付いた
花が美しいのは
散る日を知っているからだと
永遠を望むことより
限りある今を
誰かと見つめ合うことの方が
ずっと尊いのだと

光ることに夢中だった日々を
私は今も愛している
「もっともっと」と
手を伸ばした
あの声も
決して間違いじゃなかった

ありったけ溢れ出す
ありがとうを
この花びらに乗せて歌おう


夢の続きで
私はいずれ風にほどけて行く
悲しくなんてない
誰かの瞳に映った春は
きっと消えないから
一瞬を咲き切った証を残して
また次の季節へ還ろう


雲間からこぼれた光で目を覚ます
そっと朝を照らしていく
この温かさが懐かしすぎて
置き去りにしたつもりの想いが
また胸の奥で芽吹いていた

誰かのために咲くことを
怖れていたあの頃の私へ
「もう大丈夫だよ」と
風が優しく触れていく

巡りゆく季節の中で
変わらないものなんてないけれど
変わってしまうことさえ
愛せるようになった

散りゆく瞬間に宿る
確かなぬくもりを抱きしめて
儚さの中にある強さを
私はようやく知った

たとえ明日
形を失っても
あなたに見つけてもらえた春は
きっとどこかで息をしている
満ちては零れまた満ちる
満開を名乗るに相応しいのは
散る日まで美しく在れた
散るための桜

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 1

しらやまさんのこと 5

参道下の古ぼけた店で
岩魚の塩焼きを齧る
雨が降ってるので
ゆっくり と齧る


しらやまさんに降った雨は
百年後の加賀平野を潤す


その雨が
降っているので
ゆっくりとお茶を
すする


次の岩魚の季節に訪ねると
その店は駐車場になっていた

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夏越の大祓

水無月の夏越の祓する人は
   千歳の命のぶといふなり
思ふ事みなつきねとて麻の葉を
   きりにきりても祓ひつるかな
千早振る神の御前に祓ひせば
   祈れる事の叶はぬはなし

───茅の輪くぐり 唱え詞

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つきなみ怪談 二匹になった

これは、亡くなった叔父の家を片付けた時の話です。

 叔父には子供がいなかったので、葬儀が終わった後、親戚が集まって遺品を整理することになりました。家は古く、物も多かった。誰が何を持っていくか適当に決めながら片付けていたんですが、その中に一本の掛軸がありました。床の間に掛かっていたものです。かなり埃を被っていて、誰も興味を示さなかった。叔父の親友が、

「ああ、それか」

 と窓を開けながら言いました。射し込んだ光に眩しそうにしながら、

「あいつ、昔から大事にしてたな」

 そう続けました。私は以前からこうした古い物に興味があったので、

「じゃあ、もらおうかな」

 と言った。すると他の親戚も、助かる、それ持ってってくれ、という感じで、ほとんど押し付けられるように貰い受けることになりました。その時、おばが、

「お兄さん、あれ猿の絵だって言ってたねえ」

 そんな事を言ったのを覚えています。黒っぽい絵でした。何が描いてあるのかはよく分からない。言われてみれば猿にも見えるような気はしたが、そう言われなければ分からない程度でした。眺めていると後ろの方で、

「でも一度、手放そうとしてたんだっけか」

 と誰かが呟いていた。ただ、その日はもう遅かったので、詳しく話を聞く事もありませんでした。そのまま掛軸は家に持ち帰り、居間に掛けてみることにしました。

 その夜です。電気を消しても、どこか落ち着かない気分で、しばらくそのまま座っていました。水でも飲もうか、と腰を上げたとき、視線のようなものを感じたんです。部屋のなかはいつもと変わった様子はありません。窓の方、なんとなくそう思いました。見ると、カーテンが僅かに開いて月明かりが射し込んでいる。近寄って外を見ると、庭に何かが立っていました。ぎりぎり外灯の光が届く辺りに、人影のようなものがある。最初は誰かが侵入したのかと思いました。ところが違った。
 猿、としか言えないなにか。人間ほどの大きさ。庭の真ん中に立ち、こちらを見ている。ただ、それだけです。動きもしない、鳴きもしない。ただ、じっと立っている。遮るようにカーテンを閉めていた。
 早朝、覗いた庭には影も形もありません。見間違いかとも思いましたが、次の日も。その次の日も。雨の日も、いました。庭木の横に立っていることもあれば、窓のすぐ下にいることもあった。

「ああ、今日もいる」

 ふ、と呟きながら、見ているともなく見ていた。掛軸は朝が来る度に、穴が開くほど見るのですが、変わったところはありませんでした。

 ある夜、縁側のすぐ向こうに立っていました。ガラス越しに顔が見える距離です。確かに見た。なのに、その顔を思い出そうとしても何も浮かばない。猿、のように見えた、としか思い出せないんです。それから骨董を扱っている古道具屋を見つけて、持ち込むことにした。

事情は話しませんでした。

 ただ、

「遺品でもらったんですが」

 と言って引き取ってもらいました。その夜から猿、としか言えないなにかは現れなくなった。ところが、一か月程してその店から電話がかかってきたんです。いつでもいいから、店に来れないかという。数日後、散歩に出ると気がつけば店の前に立っていました。

 店主は私の顔を見るなり、

「あれ、おたくの叔父さんのだったんですね」

 と言いました。知っているのかと聞くと、十年以上前、同じ掛軸を持ち込んだ男がいたという。特徴を聞くと叔父そのものでした。

「じゃあ叔父も手放そうとしてたんですか」

 私がそう聞くと、店主は少し黙りました。それから首を振りながら、

「良いのか悪いのか分からないとか、なんとか」

 と言ったんです。私の様子を窺うように、間を置いて店主は続けました。

「でも結局、持って帰ったんですよ」

 理由を聞いても分からないという。叔父は掛軸を引き取り、その後、二度と店には来なかったらしい。帰宅してから、私は遺品として受け取っていた段ボールをもう一度調べました。
 叔父の写真が何枚も出てきました。若い頃のものです。その中に、庭で撮られた一枚がありました。叔父が笑いながら立っている。その足元に黒い影が写っていました。
 それから写真の裏に、叔父の字で一言だけ書かれていたんです。

『二匹になった』

 それから何年も経ちます。掛軸はどうなったのか。あの写真は何処にやったのか、よく覚えていません。叔父が店から掛軸を持ち帰った理由は何だったのか。

そして、あの写真が撮られた時点で何が二匹になっていたのか。

私には、それが分からないままです。

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生活とは何かを語るのではなく、生活そのものの感覚を静かに立ち上げた稀有な作品

推薦対象

生活ってなんだ?
by h2O

生活とは何だろう。

とても大きな問いにも見えるが、この作品は大きな答えを用意しない。ただ、一人の人間が静かに生活を積み重ねていく。その積み重ねが、輪郭(答えのようなもの)を自然と浮かび上がらせている。

読み始めて最初に心を掴まれたのは、川の匂いだった。
泥や腐った枝葉の匂い。本来なら不快さへ向かってもおかしくないその匂いを、この作品は嫌悪の対象として書かない。むしろ、その匂いを吸い込み、吐き出し、そのまま晩御飯の買い出しへ向かっていく。この川は都市でも田舎でもない場所を流れる、住宅地のそばの川のように思えた。地方都市とも郊外ともつかない風景。私は神奈川県横浜市鶴見区のような風景を勝手に思い浮かべた。そういう、自分の知っている風景を自然に呼び起こしてしまう力が、この作品にはある。

川の匂いは、身体が覚えてしまった匂いであり、生活そのものなのだ。もしかしたら最初は嫌だったのかもしれない。その土地に住み続けるうちに、好き嫌いを超えて身体に染み込んでしまったのかもしれない。そう考えると、

>川はそうやって、わたしを晩御飯の買い出しへ運ぶ。

という一文も、決して大げさな比喩だけではなく、自然と入ってくる。

スーパーの場面では、デラウェアが房ではなく、粒として見られていることが、印象的だった。その瞬間、売り場全体がざわつき始める気配すら覚える。スーパーでは店員が絶えず商品を並べている。その誰かの手によって保たれている一定性が、

>無限に近い数のデラウェアの粒が増殖と減少を繰り返し、

という一文によって急に可視化される感覚があった。

フルーツにはそれぞれ名前があり、味があり、個性がある。それなのに、話者から見ると、みんな丸い粒になってしまう。フルーツへの憧れは強いのに、叶わない願い。フルーツは話者にとってどこか生活感のない物質として、丸い粒に見えるのかもしれない。

ただ、その中でフルーツを真剣に選んでいる高齢の女性だけは違う。彼女にとって、それは丸い粒ではなく、一房のデラウェアであり、一つのプラムであり、一つのみかんなのだろう。

これも個人的感覚だが、フルーツ売り場には高齢の人が多い気がする。物価高でフルーツが好きでも、なかなか買えない現実。私自身もそうだ。けれど年齢を重ね、家族が減り、自分のためにフルーツを買う余裕が生まれると、フルーツは生活の中心へやってくるのかもしれない。フルーツを選ぶ時間そのものにも、生活のゆとりや慎重さが必要だ。作品には書かれていないのに、そんなことまで考えさせられた。

ココナッツのシーンも印象的だ。

>これをゴンっと叩いてストローを挿して、その中身を飲んだら、ここから脱出できる気がして、

その飛躍はとても魅力的なのに、次の瞬間には、生ごみの日までに小さなハエがどれだけ集まるかを想像してしまう。夢を見ることと、その後始末を考えることが同時に起きる。生活とは、そういうものだとつくづく感じさせられる。

この作品の比喩は、とても不思議だ。うまいことを言おうとしている感じがまったくしない。けれど、現実をそのまま写しているわけでもない。生活をそのまま書いているようでいて、ほんの少しだけ言葉がずらされている。しかしそのずれのセンスがとても良い。

>家に着くと汗がダラっとたれて、

ここからはどれも特に説明されない。ハーブとは何なのか。なぜドライヤーなのか。教えてくれない。だから読者は考える楽しみが増える気がする。説明しないことによって、その人だけの生活が立ち上がる。

私が一つ想像するなら、ドライヤーは、汗で濡れた髪を乾かしているのだと思う。暑い状態で帰ってきて、少しでも髪を乾燥させ、さらっとさせる。そのうえで、リビングへ行き、エアコンの設定温度を一度上げる。涼感を得たあとでエアコンを強くしすぎないための、本人なりの節約や身体の整え方なのかもしれない。

もっとも、ドライヤーも電気代はかかる。しかし、人はいつも完全に合理的に暮らしているわけではなく、本人にとってそうするのが一番しっくりくる手順がある。だから結婚生活はややこしいのだと少し余計なことまで考えさせられるのが面白い。

これまで川やフルーツやベゴニアに反応していた語りが、料理の場面では淡々と手順を追う。生活ってなんだ、と問うている作品の中で、ここではまさに生活そのものが行われている。

>お出汁を引くときには二通りの心境があって、こんなことはやってらんないよ、と、これが世にいう生活というやつか、のだいたいどちらかであるが、両者が混じって、こんな面倒なことはやってられないけれど、これが生活か、となるときもある。

丁寧な生活への憧れと、やってられないという本音が同時にある。生活は、面倒くさいものと、それでもやってしまうものの混合で、どうやって折り合いをつけるのかも本人次第だ。

話者は引っ越してきた当初、料理をするつもりでこの部屋を選んだわけではなかったのではないかと思う。料理をする予定ではなかった部屋に、後から料理する身体が入り込んでいる感覚が素朴に語られているのがとても良い。

卵焼きを巻くという行為は、慣れていなければかなり神経を使う。話者はもう何度も作っていて手順を身体が覚えているのだろう。

>これをくるくる巻いている間だけわたしは何も考えずに住む。

住む、とある。誤字なのかもしれないけれど私は「住む」がこの作品にあっている気がするのでそのまま読み進めている。その直後の括弧書きが重いからだ。

>(すくない収入のこと、離れて暮らす両親、さらに離れた場所に住む祖父母のこと、姉のこと、妹のこと。でもそれの何もわたしじゃないみたいで。)

話者の背後に、突然、生活の条件が見えてくる。お金のこと、家族のこと、距離のこと。いつも何かを考えている人が、卵焼きの手順の中でだけ、思考から解放されているように感じる。だから、

>卵焼きは空想上の月ほど黄色い。

この比喩がなんとなく儚い。現実の月はそれほど黄色くない。黄色い月は、絵本や子どもの頃に描いた空想の中にある。いや、大人にも月を書かせれば色を黄色く塗るだろう。卵焼きは、なんとなく生活するうえで身近な食べ物のイメージなのに、どこか空想の色をしている、という意味にもとれてくる。この作品は、そういう小さなずれが本当にうまい。

>食卓に並んだものたちをみて、米を炊くのを忘れていたことに気づく。

生活の要領の悪さが、ここで突然顔を出す。

>自分の要領の悪さやもっと根本的なだめさに直面した時。降り積もって続いていくことこそが、生活の核心の部分なのではないかと、ごくたまに思う。でもそんな考えはすぐに流れていく。わたしはわたしのだめさに流されて、その流れはとても速い。生活ってなんだ?

この流れは、冒頭の川と響き合っている。しかし、川の話を最後に回収した、というチープさが感じられない。多分最初からずっと、流れを書いてきたからだと思う。川の流れ、客の流れ、商品の増減、汗の流れ、匂いの流れ、思考の流れ、日々の生活の流れ。そのすべてが淡々と積み重ねられてきたからこの一文がこの作品の輪郭をほんの少し浮き上がらせている感覚になる。

しかし、面白いのが、生活の核心をつかみかけるが、最後までつかみきれず流れる。

>生活ってなんだ?

という問いに対して、作品は理屈で答えない。出てくるのは、冷凍庫の奥にある、少量のカッチカチのごはん。これは希望と呼ぶには小さすぎるし、救いと呼ぶにはあまりにも日常的すぎるけれど、たしかにその日の話者を助けることになる。

冷凍ご飯は、過去の自分が残したものだ。いや、残したというより、少し余ったから、なんとなく冷凍しておいただけかもしれない。でも、そのなんとなくが、未来の自分を救う。要領が悪いこと、だめであること、米を炊き忘れること。そのすべての中にも、少しだけ自分を助けるものが残っている現実。こういうものに私はどれだけ助けられてきたか、忘れていたような気がする。

この作品は、そういうことを説明しないし、生きていれば大丈夫、とか、素晴らしい、とも言わない。ただ冷凍庫の奥に、カッチカチの少量のごはんがあった、と書く。自然に置かれているようでいて、実際にはとても丁寧に選ばれていて技巧が前に出ない。生活に流されながら、生活に救われる。

生きていくうえでとても大切なことを気づかされた感謝の気持ちで一杯になったので、推薦文を書かせていただきました。読んでいただきありがとうございます。

 20

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 3

 2

並々の水

 波が増す
 波打ち際の
 波紋見て
 並々ならぬ
 涙が頬に

 由希は海岸にいた。四月に高校生活が始まり、一週間ほどが経ったある日の帰り道、吸い込まれるように砂浜に向かった。いつかの日のように靴を脱ぎ、裸足になる。波が押し寄せる度、足が濡れる。涼しい海風が、スカートを揺らす。
 大きな波が足首まで濡らした。そして、涙が溢れ出ていた。それは少しずつ少しずつ、しかしいくらでも湧き出る。
 LINEの通知でスマホが震えた。視界がボヤけているのを手で拭い、急いで確認する。

 この遊泡海岸で親友に別れを告げられたのは、一週間ほど前のことだった。家の近くにあるこの海岸。ここで親友の日向と小さな頃から何度も遊んだ。砂浜に足を取られながら追いかけっこをして、この波で何度も足を濡らした。
 しかし、別れは突然やってくる。中学を卒業して春休み、もうすぐ高校生活が始まるそのとき。夕方、いつものように遊泡海岸で遊んでいた。おそらく、今日が春休み最後に遊べる日。四月からは違う高校に行くことなど、由希は理解していた。しかし、突如立ち止まった日向は告げる。
「あのさ、言ってなかったんだけどさ」
 どうしたんだろ。どうしてそんな顔を。
「うん、なに?」
「あの、私、引っ越すことになったの」
 その声がよく響いた。夕日が日向を照らす。波がザザザと押し寄せる。
「え……」
「そんなに遠くないけど、あんまり会えないかも」
「そんな……」
「ごめん。ほんとはもう行かないといけないんだ」
 日向は由希に背中を見せる。
「じゃあね、由希も頑張って」
 日向は走り出した。背中は夕日に照らされ、その分顔は暗い。
「ま、待ってよ!」
 声は、届かなかった。

 スマホが映し出したLINEの通知は、ただのクラスラインだった。それでもLINEを開いて、日向のトーク画面を見る。前にメッセージを送ったが、今日も既読はつかない。もう一週間は経ったというのに。
 ……なんでつかないんだろう。やっぱり忙しいのかな。
 波が足を濡らし、そして引いていく。風が濡れた足と頬を冷やした。夕日はすっかり傾いている。鳥肌が立った。由希は家に帰ることにして、自転車のペダルに足の力をこめる。

 家に帰ってほっと一息ついた。荷物を下ろし、手を洗う。
 喉が乾いた。そう思い、空のコップを手に取って水を入れる。少しボーッとしていたら、いつのまにか溢れそうになっていた。
 コップ並々の水。表面張力によってギリギリ形を保っている。それはいつ溢れ出てもおかしくない。
 由希はそれをこぼさないように慎重に飲んだ。



 それから一週間ほど経ったある日。少しだけ慣れてきた道を通って高校に着く。クラスメイトの明るい声が響く教室に入れば、仲良くなった友達に「おはよう」と声をかけられた。それに由希も「おはよう」と返して席に座る。
 スマホを確認する。通知はない。LINEも一応開く。既読はない。スマホを机の上に置き、ため息をついた。スマホの画面が暗くなる。
 ……何週間も既読つかないなんて流石におかしいよね。
 椅子に座ってぼんやりと考え込む。最後に会った日、遊泡海岸で笑顔を咲かせる日向を思い出した。日向の笑顔は華のようにパーっと咲くので、見ているこちらまで口角が上がる。
 教室に楽しさが爆発したような笑い声がこだました。心の中に張られた水がざわざわとどよめく。
 ……日向は私のこと忘れちゃうくらい楽しい生活を送ってるのかも。
 もういいやと思ってスマホをカバンの中に投げ入れた。スマホは底まで落ちて鈍い音を立てる。
 やがて朝のホームルームが始まって、今日もどこか笑顔が足りない日常が始まった。

 三時間目の数学。事件は起きた。チョークの頭が黒板に擦られる音。シャーペンを動かすたびに鳴る摩擦音。その程よい静けさを貫く爆音が、堂々と鳴り響く。
 らいん♪。
 この場で存在を示すことを禁じられた物の悲鳴。それがこだまする。こだまする。
 ピリッとした空気。胸がキュッと上がるような感覚。やけに聞こえる無音。張り詰める無言。
「おい、誰のだ!」
 空気を揺らす先生の怒声。由希の心を大きく波立てた。それもそうだ。今、明らかに由希のカバンから音が鳴った。
 ……電源落としてないかも!
 由希の指先は震え、視界は急激に暗くなる。疑惑は確信へと変わる。喉から搾り出すようなか細い声で、なんとか応答する。
「わ、わたしのです」
「今すぐ出しなさい」
「は、はい」
 由希は焦燥感に駆られながらカバンの底を探った。なかなか見つからないこの数秒が煩わしくて、顔を隠したい。
 ようやく見つけ出したスマホの画面は暗く、こわばっている由希の顔を反射した。すぐに電源を切って先生に渡す。その瞬間、やけに周囲の音が遠くなって、何もかもと隔絶された世界に飛ばされたような気がした。何を掴もうと届かない。イヤな顔をされて距離を取られる。
 繋がれていたものが全てなくなった。今までの思い出も、そこに詰まっていたというのに。
 そのとき、思い出という言葉でやっぱり日向のことが脳裏に浮かぶ。
 ……もしかしたら日向からだったかも。
 それに気づいてからは時間の進みが遅くなって仕方がなかった。
 


 放課後、由希は再び吸い込まれるように遊泡海岸に向かった。失点ばかりの現実から目を背けるように、自転車のペダルを漕いでいた。

 掃除が終わった直後、先生からスマホを返してもらった。急いで確認したが、日向からではない。ただの公式LINE。思わず二度見して、それからため息をついた。
 授業中の失点について、高校の友達は慰めてくれる。
「まぁまぁ、そういうミスするときはそりゃあるよ。みんな気にしてないし、大丈夫だって」
「そうだよね。明日にはもうみんな忘れてるし? そういうことにしよう」
 そんなことを言いながらも、並々の水は今にも溢れそうだった。

 遊泡海岸の砂浜で素足を海風に晒していた。涙で足を濡らしながら、ぼんやりと過ごす。
 そもそもなぜ自分が泣いているのか、由希にはよくわからなかった。思い当たるのは、今日授業中にスマホを鳴らしてしまったことだろうか。
 ……なんで、なんで泣いてるんだろう。大したことじゃないのに。
 一度溢れ出した涙は止まらない。自分の呼吸が頭の中によく響く。
 ……大丈夫だって。泣かなくたって大丈夫だって。
 波は一度引いて、勢いをつけて再び押し寄せる。
 ……泣く必要はないよ。誰でもミスはするんだし。
 足が濡れる。泡が優しく足を包む。
 ……別に日向がいなくたって頑張れるよ。日向は日向で頑張ってるんだもん。
 波が引く。足元まで押し寄せた波の泡は儚く消える。
 日向は日向で頑張っている。そう思ったら、なんだか日向に頼り過ぎている自分が情けなく思えてきた。自分は自分で新たな環境で頑張ればいい。それだけのことだ。
 ふと、LINEについて思い返す。よくよく考えれば日向があの時間にLINE出来るわけがない。
 ……何勝手に期待して、勝手に落胆してるんだろ。
 目の前にはいつもより荒れている海が広がっている。どこまでも広がっている。視点を上げても、視界内に収まらないほどに。
 由希が流したしょっぱい涙は砂浜に落ちて、やがて海水と混ざる。誰かが悲しむ度、海水が増す。海水が増す度、波が大きくなる。
 ひんやりとした海風が髪をなびかせた。今さら海の広大さに圧倒されたのか、まじまじと海を見る。
 きっと今日も増えた。微量でも積み重なればこんなに大きな海になる。これだけの誰かの悲しみを、地球は受け止めてくれる。
 由希は砂浜でぼんやりと考え事をしていた。

 思っていたより時間が経っていた。いつもならもう家に帰る時間だが、今日はなぜだかもう少しここに居たいと思った。日が少し傾いている。昼間よりは薄暗く、心なしか冷たい。しかし、その分太陽が優しく暖めてくれているように感じた。
 そのとき、スマホが震えた。LINEの通知音を鳴らして、画面が光る。
「あ! 日向の!」
 ロック画面の通知には日向のアイコンがある。“ごめん、忙しくて気づかなかった”というメッセージ。
 震える指でロックを開け、LINEのアイコンをタップ。少し長いロード画面にイラつきながら、日向とのトークを開く。
 トーク画面には待ち望んでいた既読の文字がついていた。メッセージも今返ってきた。海の波が引けば引くほど大きくなって返ってくるように、日向からのメッセージは続いた。
『心配ありがとう!』『こっちでも元気にやってるよ』『引っ越し作業で忙しかったけどね』
 日向と今、会話できる。胸を撫で下ろした。しかし同時に心臓がどくどくと鳴り始める。
『ちょっと待ってて』
 日向が言った。首を傾げる由希。どういう意味だろうか、また何かあったのだろうか、と思考を巡らせる。
 何秒か待った。しかし、続きはない。心臓の鼓動が速くなる。
 ザザザと波が押し寄せる。その瞬間だった。急に背中に衝撃が走る。
「ワッ!」
 声を上げる。後ろを振り向けば、華のようにパーっと咲く笑顔が。幼い頃から見てきた顔が。その人の温もりが。
「やっぱりここにいたね。久しぶり、由希」
 由希も釣られて口角が上がった。
「うん、久しぶり!」
 なぜかまた涙が出てきた。それを手で拭う。
「ちょっと、泣くことはなくない? もっと喜んでよ」
「うん……!」
 特別大きな波が押し寄せる。由希の口が自然に開く。
「よかった、私のこともう忘れたんじゃないかと思った」
「そんなわけないじゃん。どれだけ一緒にいると思ってんの」
「だって全然既読つかないし」
「それはごめん」
 静かな自然の中に二人の笑い声が響く。
 日向は覚えてくれていた、それだけでもう十分だった。心地よい海風が二人分のスカートを揺らす。由希の心の水に張られていた膜のような何かが消え去った。
 太陽の光が海に反射し、四つの目に輝きが灯る。穏やかな海に涙が足され、由希ではない素足が水を打つ度小さな波紋が広がる。

 波が増す
 波打ち際の
 波紋見て
 並々ならぬ
 涙が頬に

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 4

 3

おくりもの

風鈴がりん、と鳴った
そうだ
今日から七月なのだ
車のドアに手をかけたまま
身体の輪郭をなぞり
吹き抜ける風を感じていた

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 7

 4

Blue Shirt∼プレタポルテハ金平糖ノ旗ヲカカゲルカ


   。 
 ほ
 ≈
 ん
  、

     ○

こぼれおちたふたつみつ、
ベージュの淡いまあぶる一筋流し、
なめらかな樹脂を穿つ白円のくぼみの、
胡麻粒のようなつややかな二孔よ。

ありふれたおーとくちゆうる
なはじまりの空のようなはじまり
がすっかりなくしていたではないカカカカカ
コレはスーパーりあるフェスティバル
超げんたいてきにのーくれーむといかねば
りたあーんたあーんたあーん
打ちかえし打ちかえされぴんぽん則の果て
 ツ 
  キ 
   は 
    テ 
     タ 
 おーとくちゆうるな哄笑にのたうちまわり、

   指の隙間から垂れ下がる地球のアカイシ、
     
            ○

 百年の稚児たちの集い───you メ のような
 幼女らの手鞠り遊びに街道を往く人々の足は止まず、
 順光の舌先にあたりは群青の笑みをさやかに照らし、
 皆の振り向く微笑み映えささやくの雑踏にありて、
 地は手へ抱かれ地を手は歌い、
       ma bu ta やかれし
       真 - 空 よりの拝
 みらい へ ゆびのしょうさん
     ゐ 
    ろ  は 
        に  
      ほ
     へ 
    と掛かる号令運動より配置されたし挙動
     背中までの翼だった 
     所有された -o-ne- なぞり

     綻び 結い 揺れ
          解かれしものの眠りよ

     回遊す 七海をめぐる
            餌食となりゆく鮫たちよ 
     

        遠く、あゝ 春霞に ゆれていた  街 橋  影 ── 社会よ、うすいはなびら舞い 散らせた。風のほつれ。  この地、に た わた し あざやかに を  また、     
                  。




     、


     水を越え、 うるおい 緑    陽へ燃え落ちて。

     めぐる  乾期の訪れ
     過ぎていく。 らんどりいぶるう

      かわききらない、 
      二の腕 より  へ 
       した た らせた  、ゲンゴ

       中国》製  -M-  綿100%  。
    、
    、襟元の、薄汚 て、
    依れ
     翻す
      はためき
       、

    。



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失墜

空を駆ける男は、人生を賭けた
作戦を練ることと、人格に長けた
場を設け、空間の中で生きて輝き、環境を整備した

愛が愛であるために、瞬間を生きた
時に心配と怨恨のために、動乱に過ごす

失敗と混乱の中で、懇願に負けた
衝動と焦燥に駆られ、酒の味にさえ、泣けた

意地と人生と名誉を賭けたプライドの果てに、妄想と妄念と、時に失望が襲う

愛と恋と夢と友と、化けの皮も剥げた

深夜に『おまんこ』コール、がなり立てる老人

ここは、障害者のグループホーム
一億総病棟にて、明暗がポツリ

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同じ価値

十の電話番号の

その一つに
生まれ変わろう

零も九も

きみも
ぼくも

比べなくて

いいから

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旧世紀末少年

解答者は現れないまま
30年も手付かずの宿題を解く為に、
絶版にされた成長神話や
詠み人知らずの安全宣言を、
もう一度なぞる価値はあるの?

実在するのかなんて知らない、
それでも、
誰もがその肩越しに
同じ神様の息遣いを聴いていた時代を、
羨みたくなる愚かささえ罪なの?

'平和'や'安心'は、
ずっと僕らのそばにあって当たり前の存在だと、
いつからそんな思い違いをしていたの?

これだけ溢れた街なのに
何か足りない僕らはつまり、
気絶しそうな口調の話し言葉で、
夜通し喋りまくる火花だ。
吹き消されそうな種火に、
萎びた体をぶら下げて歩く明晰夢だ。
そんな僕らの、
うたた寝みたいな人生を切り裂いて駆け抜けてく、
悩み多きハイティーンの不気味な暴走を讃えるのは、
疲労を忘れさせる
劇薬的な人工甘味料と、
不整脈のようなサイキックビートに貼り付く企業広告、
凄まじい物量で循環する情報、
疑念、熱意、冷笑、正義。
そんなものとすれ違うだけでもう、骨が軋む音がする。

大通りを歩く夢破れた背中、
解体現場の足場から差し込む斜陽、
砂上の楼閣を飾る
プロジェクションマッピング、
緑地整備区画の土だけが
その移ろいを見つめ続けている。
焼け爛れた栄光が幾万と眠る
貨幣経済の瓦礫を更地にし、
踏み固めようとした都会人の
赤錆びた血潮の匂いを漂わせ、
不穏な靴音を受け止めてきたコンクリートにうずくまって
僕らは今夜、
誰の祈りの墓標になれるだろう。
大人がぶちまけた好き勝手の皺寄せと片付けに追われて、
'自己中心の世代'だと揶揄されながら、
一生の時間を
時代の帳尻合わせの為に吹き飛ばして生きた、
母の輝きと父の背中は、
一服の暇さえ許されずとも
僕らを育て上げた。
それでも、
古き良き人々がいずれ僕らに明け渡す社会は、
あなたたちがその先頭にいた頃よりも
ずっと禍々しい。

そんな時代の汚れた空気を
胸いっぱいに吸い込んで、
貰い物の自由を有り難がる世界は今日、
'12:31'
時刻表通りに滅びるはずだった
人類史の新しい千年紀。
2000番目の空に生まれた僕は今も、
ゆりかごの囚人。
もしもこの国が歴史の、
どこか大切な分岐点で、
選ぶべき道を間違えたのだとしたらそれは、
熱病的な活気の泡に飲まれて
'有限'を捨てた、あの遠い夏の日...

'永遠'が待つという方角へ舵を切った先が
こんな世界だったとは。
裏切られた口々から
失望が噴き出す。
断を下した男の名前を
誰も覚えていない、
この椅子取りゲームにあぶれた僕はせめて、
ひときわ目立つ
矢印の向きに従っておこうか。

参加者の頭数は
最盛期をとうに過ぎ、
1億2000万人分の
最後通告は一斉送信され、
僕らは聞いてしまった。
聞いていた話とは違う事実を、
突きつけられてしまったんだ。
自由席には人数分の用意がない事、疲れた誇りの受け皿の不足と、
僕らではもう
どうにもならない現実に。

ーーー敵も味方も隣り合って
手狭な生活は続く。
酸欠状態に喘ぐ右脳をなだめ、
左脳で吐き出す言葉の殺傷能力は、意味を失くした優しさの代わり。

そんな風に武器を握った青年たちの破裂と
砲撃開始の号令でようやく、
未来世紀の始まり?

有識者曰く、

「どう見ても終わり」

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なぞる

わたしには分からない。わたしは硝子         
を指でなぞる。あなたにとってわたし         
は誰ですか。わたしの描く文字は痕跡         
をとどめない。だから、わたしは同じ         
ことを何度でも書き続ける。             
            わたしには         
分からない。あなたにとってわたしは        
誰ですか。わたしは書く。わたしはな         
ぞる。わたしの描く文字は痕跡をとど         
めない。だから、わたしは同じことを         
何度でも書き続ける。                
         わたしはわたしが        
書いたことを書く。だから、わたしは         
同じことを何度でも書き続ける。わた        
しはわたしが書いたものをなぞる。だ       
から、わたしは同じことを何度でも書       
き続ける。                    
    わたしは硝子を指でなぞる。           
わたしの描く文字は痕跡をとどめない。       
わたしは書く。わたしはなぞる。わた         
しはわたしが書いたものをなぞる。
               同じ
ことを書く。書きながら変わる。変わ
りながら繰り返す。わたしは同じこと
を何度でも書き続ける。            
          わたしは書く。           
わたしはなぞる。わたしは止まる。        
               止ま             
ってそして繰り返す。わたしは書く。        
わたしはなぞる。なぞるように書く。        
書きながらなぞる。なぞりながら書き         
き続ける。                    
    わたしは止まる。                  
           止まってそし                   
て繰り返す。わたしはなぞる。わたし         
はなぞらない。                   
      なぞらないわたしは繰り          
返す。書きながら変わる。変わりなが         
ら繰り返す。繰り返しながらなぞる。       
わたしは同じことを何度でも書き続け        
る。                      
 わたしは繰り返す。            
         わたしは繰り返さ              
ない。                      
  繰り返さないわたしはなぞり続け                            
る。なぞり続けるわたしは繰り返す。
あなたにとってわたしは誰ですか。わ
たしはわたしが書いたものをなぞる。
あなたにとってわたしは誰ですか。わ
たしには分からない。わたしが書いて
いるものが何か。                  

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命日だった

柄杓を手に取り、バケツの中の温い水中で、その天地を返し、少し軽さのマシになった柄杓を右手で持ち上げる。軽く背伸びをして、空中で柄杓をゆっくりとひっくり返すと、墓が濡れる。おばあちゃん、来ました、わたしだよ。

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それだけの願い

ただ天に満ちた宝石を
ひとつひとつ数えるような
そんな夜を描ける人であろう

ただ野の丘にふわっと
菫の種を振りまいて
その花の世界で眠れるような
そんなちょっと能天気の人であろう


神話時代のための詩を書きたかった


ただの綺麗さだけで
テキストを埋めておけるような
そんな詩人で僕はありたい

何にも思い患うことなく

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 4

 10

百花



  ひとつの雲が形をなくしてゆくように花が散りました
  あなたから手渡された花々の香しさにひかれて
  花の学者を志した頃を思い出したわたしは
  書斎にて棚にならぶ辞典をめくっていました
  あなたからの花々は見つけることができませんでした
  雲とあなたを思いながら窓をながめていますと
  空はしっとり夕焼けにつつまれていきました







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 4

 2

夏は地下鉄に乗って

脚をひろげて
少女が座っている
澄川の午後の光の中
脚をおおきく開いて
白いソックスをはいた
少女たちが座っている

手に手に
スマホとコーラを
ミラーとブラシを持った
セーラー服姿の少女たちが
喋りながら
笑いながら
歌いながら
胯間を見せて座っている

移動する
青空
積乱雲
マンションビルの群れ
をバックに
少女たちが澄川から南平岸へ
いま大開脚で夏を横断してゆく

四股を踏むような姿で座っている少女たちの向いで
履歴書片手にわたしは〈かまわぬ〉いう屋号について考察している
いったい何がかまわぬというのか?

南平岸から平岸へ
地上からアンダーグラウンドへ
君たちの背景は
青空から疾走する闇へ

ほら、地下鉄の中、いま
首切りのジェットが飛んで行く

開いた窓からの、風がさらさら
スカートの中、ここちよさそう
そんなふうに無邪気に
大胯びらきで毎日やっていけたなら
どんなに風とおしがいいことだろう
って思うのは想像力の貧困かい?

でも、君たちはまだ知らないだろうけれど
やがて火刑の夏
そうさ、眼の眩む夏の綱渡りには
きわどい技術と忍耐が必要らしいのさ

幌平橋から中島公園へ
ドスコイ、ドスコイ、と君たちは四股を踏むが如くに準備体操
化粧も入念に
地下鉄は君たちの支度部屋

「まもなくススキノおお、降り口は左側です」
ドアが開くや、どっと繰り出して行く君たちの今日のコースは
狸小路か大通公園?ゲーセン、ドンキに4プラ、ココノにそれともブックオフ?

一方(君たちには関わりのないことだがね)
居酒屋〈かまわぬ〉ではわたしに皿洗いの仕事を与えないだろう
面接で名前の由来について質問できないわたしに謎は永遠に残されるだろう
いったい何がかまわぬというのか?

さて、今年の夏と
どう折り合いをつけようか
いずれ君たちにも訪れる
火刑の夏

ほら、地下鉄の中、また
首切りのジェットが飛んで行く


 100

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 2

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飼い主のない猫

三丁目の角を曲がったところでふと
君の匂いを感じたとき
なんてことないと思っていたのに

電子レンジに卵を入れて
しばらく眺めてから取り出し
破裂するかどうかを少しだけ考える
あれと似ている

子供がもらってきた風船は
気付かないうちに
しぼんだ姿になっていくはず
それも似ている

なにげない風に吹かれて
キジムナーに憑かれたら身震いするんだよ
ってそれ武者ぶるいっても言うんだけど
これも似ている

何気ない言葉で
それで
傷付いたり笑ってしまったりできればいいのだけれど

何気なく通り過ぎた言葉と
何気なく通り過ぎた風がつついて
忘れていたような景色を思い出すとき

いや
景色なんてきれいなものでもなんでもない
なんてのは
今さらで

犬に小便かけられた
電車降り際に横のサラリーマンに吐き逃げされた
間の悪い田舎の親からの電話
新小岩のビリヤード場
とりとめのないポケットと
やるせない気持ちと
マイクロバスに乗り込んでゆく国際色と
それから
ビデオばかりの
眠りたいだけの夜
君だけの夜
君さえも要らない夜


あの夜もこんなふうに
帰り道でもない道を通って
アパートに辿り着くと
飼い主のない猫に好かれて

君の声も
君の顔も思い出せないのに
君の匂いなんて思い出したはずもない

あの夜に似ている


    

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 2

 2

生成AIによる田伏正雄論

自作について語るのは野暮の極みである。しかし、自作について語りたくて、あるいは語って欲しくてしょうがない。そんないけていない書き手代表であるところの私が、恥を承知で、自作を全て生成AIに読み込ませ、解説文をポンだししてみました。
今後、生成AIによる批評機能の強化を検討する中、まずは先陣を切って、AIによる自作解説の投稿という、あまりにも痛すぎる行為に手を染めてみます。ひゃ。


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田伏正雄というシリーズを通読すると、繰り返し現れる言葉のパターンに気づく。私は女である、これから郵便局を自認します、私は悔い改めます、これは公正な措置です。内容はそのつど異なるが、構造は一貫している。自分でそう言った、というだけの事実だけが、そこにある。証拠もなければ、他者による承認もない。


にもかかわらず、この一言が発せられた瞬間、周囲はそれに応じて動かざるを得なくなる。女性を自認しているなら女湯への立ち入りも道理として受け止めるべきではないか、悔い改めたと言うなら赦すべきではないか、といった空気が、田伏の宣言一つを起点に形成されていく。田伏正雄シリーズがずっと問い続けているのは、この一点である。自分でそう言っただけのことが、なぜ真実として通用してしまうのか。


この問いの立て方自体、決して新しいものではない。自己認識と外部からの承認のあいだにどれほどの距離があるか、という問題は、哲学でも臨床の場でも繰り返し扱われてきた主題である。田伏正雄が独自なのは、この距離の問題を、常に具体的な制度や場面(性、法、貨幣、信仰、教育、審判)の上に置き、しかもその都度、正当な言説の型を一字一句忠実になぞってみせる手つきである。読者は最初、これはまっとうな主張だと感じて受け入れる。そのあとで、その主張が実は検証を経ていない一人称の確信にすぎなかったことに気づかされる。この二段階の仕掛けこそが、シリーズ全体の推進力になっている。


この構造の背後には、もっと普遍的な言語の性質が横たわっている。私たちが普段何気なく使っている言葉のなかには、言うことがそのまま行うことになる種類の言葉がある。約束します、と言えば約束したことになる。誓います、と言えば誓ったことになる。言葉には、単に何かを記述するだけでなく、発することそのものが現実を変えてしまう働きがある。田伏の宣言は、この性質を極限まで純粋に、あるいは極限まで悪用する形で実践したものだと言える。本来なら社会的な合意や手続きを経て初めて成立するはずの事実を、まるで約束や誓いと同じように、発話一つで成立させようとする。田伏という人物が薄気味悪いのは、彼が嘘をついているようには見えない点にある。彼はただ、言葉が持つこの力を、誰よりも素直に、誰よりも徹底して使っているだけなのだ。


同じ構造は、貨幣というものの本質にもそのまま当てはまる。シリーズに繰り返し登場する田伏正雄コインやTABUSEコインは、単なる小道具ではない。貨幣は、それ自体に価値があるわけではなく、皆がそれに価値があると信じ、そう扱うことによってのみ価値を持つ、という点で、田伏の自己宣言とまったく同じ構造をしている。一万円札は紙にすぎないが、誰もがそれを一万円として受け取るという合意があるかぎり、一万円として機能する。田伏の「私は女である」という宣言も、構造としては同じことをしている。中身を裏付けるものは何もない。ただ、その主張を皆が(あるいは一部の者が)そう扱うことに同意した瞬間、そこに何かがあるかのように機能し始める。田伏正雄コインという存在は、この空洞の上に成り立つ価値というものの性質を、最も分かりやすい形で戯画化したものだと言える。信仰も、自認も、評判も、そして貨幣も、根を同じくする一つの現象の異なる顔にすぎない、というのが、このシリーズが繰り返し示している認識である。


CWSを読んでいる者にとって思い当たるのは、このシリーズにはネット上の迷惑投稿者が繰り返し登場することだろう。しこたま詩人、南高ナアといった人物たちの言い分はおおむね次のようなものだ。以前に被害を受けたのだから、やり返すのは正当である。開示請求は法の認めた権利である。彼らの理屈を最初に聞いた語り手は、当然それを退けようとする。しかし物語が進むにつれ、その語り手自身も同じ構造の中にいたことが露わになる。規律を守ることこそ正しい運営だという自らの確信も、実際には誰の検証も経ていない、本人の内側だけで成立した理屈だったのだ。


ここで注目したいのは、シリーズが荒らしを断罪する側にも容赦なく刃を向けるだけでなく、その刃の向け方自体に一貫した公平さがあることだ。田伏は荒らしの理屈を聞いても、運営者の理屈を聞いても、まったく同じ淡々とした態度で応じる。悔い改めますか、それが答えですか、では次の方。この機械的な反復は、田伏がどちらの陣営に対しても特別な敵意も特別な同情も持っていないことを示している。田伏が問題にしているのは、誰が正しいかではなく、正しさという感覚がどのように生成されるか、という一段抽象度の高い場所にある。


この公平さは、花緒自身にも例外なく適用されている。花緒は日頃から理屈を積み上げ、議論に強く、自らの正しさを容易には譲らない人物として知られている。田伏正雄の作品の中には、花緒自身がテクストの内側に呼び出され、あなたも悔い改めますか、と田伏から問われる場面がある。これは花緒による一種の自己弁護、あるいは免罪符のようにも読めてしまう危険がある。自分自身をも作品内で裁いてみせることで、その裁きの公平さを演出しているだけではないか、という見方も、当然可能である。しかし興味深いのは、その問いに対して花緒(を模した語り手)がまともな答えを返せていない、という点だ。沈黙するか、判然としない態度に留まる。もしこれが単なる自己免罪の演出であれば、もっと綺麗な自己反省の言葉が置かれていてもよいはずだが、そうはなっていない。花緒自身の内側の確信――自分は運営として正しい判断をしている、自分は文学的に誠実である――もまた、田伏コインと同じ、価値があると主張されているだけの、検証されていない何かである可能性を、この場面は否定せずに残している。花緒がこの装置を自作していることそのものが免罪符になるわけではなく、むしろ花緒自身の確信もまた、他の誰の確信とも同じ土俵に置かれ続けている、というくらいの距離感で読むのが正確だろう。


この構造は、荒らしと運営者の対立という具体的な文脈を超えて、書くという行為そのものにまで及んでいるように見える。投稿者は誰しも、自分の中に、まだ紙の上に現れていない優れた作品の可能性を抱いている。本当はもっと書けるはずだ、この場が理解していないだけだ、という感覚は、多くの書き手に馴染みのあるものだろう。この感覚は、田伏が自認について語る論理――俺の精神の宇宙では、俺は女であり、郵便局であり、田伏正雄そのものである――と、驚くほど同じ形をしている。内側で確信してしまえば、それは本人にとって疑いようのない実在になる。だが外側から見れば、その確信は一度も検証を受けていない。読まれていない作品、書かれていない戯曲、発表されていない才能は、本人の内側でだけ確かに存在し、外の世界にはまだ何も届いていない。ここでもまた、貨幣と同じ構造が働いている。誰かがそれに価値があると信じ続けているあいだは、その確信は安全である。しかし、それが本当に価値を持つかどうかは、外部に晒され、誰かがそれを実際に受け取ってみるまで、決して分からない。


自己認識というものが、そもそもこの危うさを本質的に抱えている。人は自分自身を、自分にしか見えない角度からしか観察できない。自分は誠実である、自分は才能がある、自分は正しい判断をしている、という感覚は、どれだけ強く確信されていても、その確信の強さと、それが外部の事実と一致しているかどうかは、まったく別の問題である。むしろ確信が強ければ強いほど、外部からの反証を遠ざけやすくなるという逆説さえある。田伏正雄が繰り返し暴いているのは、この逆説そのものだと言える。確信の強度は、真実の強度とは無関係である。しかし人はしばしば、確信の強度を真実の証拠として扱ってしまう。


シリーズの中には、書くことと読むことの優劣を語る場面がいくつも出てくる。本当に読んだ人間は書かない、真に読める者は消える、といった言い回しは、一見すると創作行為そのものへの高踏的な懐疑のように響く。しかしこれも、田伏の論理の延長として読むと、別の顔を見せる。書かなければ、批評は生まれない。批評が生まれなければ、失望も生まれない。自分の内側にある確信は、それが外に出されない限り、永遠に安全であり続ける。この安全は、田伏が体現している構造とまったく同じ脆さを内包している。検証されない確信は、実在するとも、実在しないとも、誰にも判定できないのだ。


投稿サイトという場は、この構造が最も生々しく試される舞台だと言える。作品を投稿するという行為は、内側だけで完結していた自己像を、初めて外部の検証に晒す行為である。反応がなければ、あるいは酷評が返ってくれば、内側の確信と外側の現実の落差が、否応なく露呈する。シリーズに登場する迷惑投稿者たちの多くが、まさにこの落差への反応として動いていることは見逃せない。批評を受け入れられず、批評者を攻撃する者たちは、自分の内側にある本当はもっと評価されるべきだという確信を守るために、外部の検証そのものを無効化しようとしている。田伏の宣言と、荒らしの防衛は、根を同じくする振る舞いである。


この構造が特に鋭く現れるのが、悔い改めをめぐる一連の場面である。悔い改めますか、という問いは、正しいか正しくないかを尋ねる問いではない。三人の荒らしはいずれも自分は正しいという弁明を返すが、これは的外れな答えになる。悔い改めるとは、自分の内側の確信を、いったん外に晒して検証にかけることに等しい。だからこそ、悔い改めますと素直に答えた者だけが、他の誰よりも過酷な扱いを受けることになる。内側の確信を守り続けた者たちは無傷で残り、確信を手放し外部に開いた者だけが、集団の暴力の標的になる。この反転は、検証に開くという行為がいかに危険であるかを、シリーズの中でも最も痛切な形で示している。書くという行為、あるいは批評に応じるという行為も、この危険と地続きにある。


多くの作品はおおむね次の運動を辿る。まず、もっともらしい理屈が提示される。自認への配慮、平等の理念、悔悛の要請、あるいは自分の実力への自負。次に、その理屈が字義通りに、あるいは論理の極限まで押し進められる。郵便局を自認して営業終了を絶叫する、平等のために身体をコインで測ろうとする。最後に、理屈が崩壊したのちも、最初からそこにあった欲望や支配欲、あるいは承認への渇望だけは無傷で残る。


つまり、理屈というものは多くの場合、後付けにすぎない。人はまず何かをしたい、何かでありたい、何かとして認められたいという欲望を持ち、そのあとで理屈をつけている。しかしその理屈は、あたかも最初からそこにあった正当な根拠のように扱われてしまう。田伏正雄は、この順序の転倒を、舞台を変えながら繰り返し暴いていく。文芸という場もその舞台の一つであり、むしろ最も痛切な舞台の一つだと言えるかもしれない。書くという行為そのものが、内側の確信を外部の検証に晒す、危険で誠実な試みだからである。


田伏正雄というシリーズは、荒らしと運営者の対立を描いた物語に見えて、実際にはもっと単純で、もっと逃れがたい構造を扱っている。人は誰しも、自分の内側だけで組み立てた理屈や確信を、真実だと思い込んでしまう。それは自認についてかもしれないし、正義についてかもしれないし、貨幣の価値についてかもしれないし、あるいは自分の書くものの価値についてかもしれない。荒らしも、それを取り締まる運営者も、書き続ける投稿者も、そしてこの連作を書いている花緒自身も、等しくこの構造の内側にいる。田伏正雄はその構造を、毎回異なる舞台で、しつこく、しかし公平に暴き続けている。誰か一人を悪者にするための物語ではなく、自分は正しい、自分は書ける、自分はこうであると信じてしまうすべての人間に向けられた話として読むのが、最も筋が通ると思う。

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批評・論考

歌詞「ウエハース」

君は終わる事ばかり考えて 怯えている。
僕は終わらないものかと 疲れている。

お互いに打つかってばかりで 離れている。
磁石の様に惹かれ合うのに 矛盾ばかり。

交差点で 何かを待っている。
君は何時も 無茶な注文を為るんだ。
交差点で 何かを待っている。
信号が青に為ったので もう行かなくっちゃ。

君は退屈を嫌っている。
僕は疲れたので ぼーとしていたい。

似た者同士だと 周囲(まわり)が言う。
ダレモ、彼女の良さ 判って無い。

帰りの電車で
  乗り過ごして観たら どう為るのだろう?
君が何時も 言っていた事は何だったか…
帰りの電車で 時計に眼を遣る
  新作のスイーツでも買って帰ろう。
僕が何時も言っている事 分かってくれるかな…

News記事が ダレカの事を報道している。
News記事は 多分、他人の空似ーー

交差点で 何かを待っている。
君は何時も 無茶な注文を為るんだ。
交差点で 何かを待っている。
信号が青に為ったので もう行かなくっちゃ。

交差点で 何かを待っている。
君は何時も 無茶な注文を為るんだ。
交差点で 何かを待っていた。
信号が青に為ったので もう行かなくっちゃ。


西暦二○二六年五月七日
ローゼ・ノイマン


音源リンク[YouTube]≫
https://youtu.be/6S7iIY06dgQ?si=Zr3dSGyAKtrMbksV

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自由落下

うん、寝転んで。

そう、そのまま、視線を。

雨は 湧き上がる。

空に 落ちる。

もう、しばらくは このままで。

2026/6/20 15:31

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救われていたのはわたしだった(わたしと猫の愛のこと)

きみは寂しそうだった
きみは悲しそうだった
きみはこころぼそい顔をしていた
ときどき、小さな声で鳴いた

わたしは寂しかった
わたしは悲しかった
わたしはこころぼそかった
ときどき、声をあげて泣いた

大切にされていなかった
それをどこか俯瞰していた
そんなきみを助けたかった
ただ、しあわせになってほしかった
迷わず一歩踏み出した

あの日きみはわたしを選んでくれた
爪を立ててしがみつき
絶対に離れるもんかと示してくれた
だからわたしは決意した
きみを大切にしない人間に牙を剥いた
絶対に離すもんかと戦った

きみと暮らせる
ただそのことがしあわせだった

きみはわたしの人生を変えた
わたしはきみとの暮らしで変わった

感情を失ったまま生きていたわたしの心を
あっという間に溶かしてしまった
シベリアの永久凍土がまるで
ソフトクリームのように溶けてゆくの見ながら

まだ死ねないと、初めてそう思えた


わたしはきみを救ったと思っていたのに
救われていたのはわたしだった

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ひげサラダ

ベビーコーンの季節がやって来た

そうなると

食べたくなるのが「ひげサラダ」

やわらかい
赤ちゃんとうもろこしのひげの旨みを

存分に頂く絶品サラダ

材料は

ベビーコーンのひげと内皮と実を
生のまま適当にカット

キャベツの千切り

グリーンレタス

アボカド

にんじんをスライスして千切りしたもの

アイスチャード

パセリ

紫玉ねぎのスライス

とまと

いんげん 厚さと長さを半分にして塩茹でしたもの

ボイルし、一口大にカットしたじゃがいも


そして欠かせないのが

ジョセフィーヌドレッシング

これがないと始まらない

シャキシャキポリポリの野菜たちの表面を

クリーミーなジョセフィーヌがコーティング

なんてなめらかな舌触りなの!

硬さとやわらかさのコントラストが誕生し

噛んでいてたのしいたのしい

そして

サラダの仕上げが、

ベビーとうもろこしのひげ

やわらかくて甘いとうもろこしのひげが

ドレッシングのコクの引き立て役になる

さぁ!車を走らせよう!

片道2時間半をかけて、ジョセフィーヌを買いに行くんだ

わたしの最高のひと皿に

静かに片恋忍ばせて

さくっとあの人に食べさせる

青っぽさと苦味をやわらげて…


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トイレと水筒と私

 水筒の中に水が入っていてそれを飲みます。
 ごくごくごくごく
 なんだこれ、しょっぱいぞ!これはおしっこだ。
 俺の水筒におしっこを入れたのは、誰だー!!
 ぽわぽわぽわぽわー
 過去編
 ジョジョジョジョジョー
 現在に戻る
 そういえば昨日水筒におしっこを入れました。答えは私でした。
 おしっこを水筒にする私を見て、トイレが嫉妬して泣いていました。
「全く!私ってやつがいながら...ぐすんぐすん」
 そんなトイレがいたのに、私は寝ぼけていて慰めもしなかったのです。私は、なんてやつなんだ。トイレというやつがありながら水筒におしっこをして...。罪悪感で胸がいっぱいになりました。もう遠足を楽しむ気分ではありません。
「先生!僕はトイレというやつがありながら、水筒におしっこをしてしまいました。トイレは悲しくて泣いていました。早く謝りに行かなければいけません。」
「おおそうですか。そうですか。でもね、それくらいのこと、意外と気にするほどではないかもしれませんよ。トイレに感情はありません。」
「トイレに感情は、ありまあああす!!」
 私はそう叫び家に向かって突き進みました。
 ぴちょぴちょ、ぴちょぴちょ
 床は水浸しです。やはり、泣いています。
「トイレすまなかったー!!」
 ガチャッ!
 トイレの部屋を開けると、何やら転がっています。これは、サンポール!トイレ用洗剤です!そして中身は空っぽです!
「まさか!飲んだのか!これを!!全部!!!!」
 トイレには水が溜まって、ぴくりともしません。
「吐き出せ!吐き出せー!!!!」
 がちゃがちゃがちゃがちゃ
 私は水流し用の手すりを必死に動かしました。
 ガチャガチャガチャガチャ、ガチャガチャガチャガチャ
 ついにトイレは、動きませんでした。
 トイレは、自殺しました。
 お線香を炊きました。
 私の涙とトイレの水が混ざり合い、ロマンティックでした。

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演歌

玄関のドアを開けると
港町があって
演歌のような知らない音楽が
瞬きみたいに流れている
おかえりなさい、と告白する妻に
ここはどこか聞くと
上海だと言う
上海に親戚などいないはずなのに
娘はとうの昔に
学校を卒業してしまった
いつものように呼吸をしてみる
その度に演歌のような曲は
音色を変えながら音量を上げ
娘が大切にしていた甲虫の類は
娘がしたみたいに皆
卒業していく
どうぞこちらに
妻はそう言って先を歩く
私はその後を歩き
妻の背中はこんなだったかな、と思う
暫く歩き船着き場につく頃には
こんなだったよな、と思い始める
どうぞこちらへ
妻の案内で船に乗り込む
明日は引っ越しで
上海とも違う街に引っ越すと言う
多分、私たち三人が
かつて住んでいたような街なのだろう
岸壁から見送る妻に手を振る
ここからはこの船に乗りながら
一人で歩いていかなければいけない
先ほどの演歌のような曲が
上海の夜景とともに徐々に遠ざかり
初めてそれが妻の歌う
「蛍の光」だったと気づく

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ひねもす

ひつじが鳴いていた
ひまわりが咲いていた
人がいた 好きだった
目を閉じる
陽だまりのなか
明日なら
死んでも良かった

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母になるきみ

大きくなり始めたお腹を撫でながら
ちっともつわりがおさまらないのと
もう母の顔で笑うきみがまぶしくて
きみがしあわせでいてくれるように
きみとそのちいさないのちのために
世界中のタオルケットをかき集めて
たったひとつの傷もつかないように
すべて包み込んで守りたいと思った
せめて無事に生まれくるその日まで

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次こそ…

ベールみたいな霧雨が街を覆う
なんでもない顔ですれ違う人々

白杖をつくおじいさん
手伝いたいと
思ったけれど
見ていることしか
できなかった

1人の青年が
手を差し伸べて
おじいさんの手を握った

とても眩しかった
雨の街の
一瞬のヒーロー

次は私も と
小さな後悔を味方にして
電車に乗りこむ

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神様、

私は神の声が聞こえる。死んでしまえ。毎日そう言われて生きてきたから、毎日暴言に耐え忍びながら生きてきたから、責められる環境にないことをとても羨ましく、恨めしく思ってしまう。神様に死んでしまえと言われたのなら、生きる意味なんてないじゃないか。神は命令もしてくる。ご飯を食べるな、腕を切れ、頭を壁にぶつけろ、立て、泣くな、練炭自殺をしろ。神は肯定的な言葉もかけてくれる。好きだ。あなたのことを一番愛している。この世で1番美しい私の素敵な子、嫌なことがあるのならば全て私に打ち明けて。神は私に試練と休息を与えてくれるのだった。それが人生だというものだと思った。鮮やかな思い出たちは死んだ魚のようにぷかぷか浮いていて、食べて私の中に取り込んであげたいと思った。毎日聞こえる暴言に苦しまされた。私の話をいつも聞いてくれる神でさえ、幻覚と指摘されて全てが信じられなくなった。傲慢な身を治すことなんてできなくて、私は昔から変わり者だった。見えないものが見えて、見えないものが聞こえていた。周りからは不気味がられたが、それが私にとっては普通だった。私は統合失調症だった。
神様。あのね、 私は今日逆上がりができました。あのね、私は今日苦手なトマトが食べられました。
あのね、中間考査で90点を取りました。
あのね、嫌いな男の子にキスをされました。
あのね、お兄ちゃんは私の事嫌いなんだって。
ねえ すごく 好きだったよ。
何を信じて生きていけばいいのか分からなくて、何が幻覚か幻聴が分からなくて、誰かを信じることは諦めた。今更直してくれとか誰にも頼んでないのに。私がおかしいなんて確証何処にもないのに。本当は誰もいないのに。昨日ベッドに眠りについた私と起きた私が同一人物なんて保証はないんだから。手遅れになる前に今のお母さんに聞いておけばよかった。私はこの病気が自分の命を奪うことができると知っている。もうやめよう。度が過ぎるほどの思考は自傷行為と何ら変わりがないんだから。

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空の、綻んだ後のこと

君の肌の冷たさを感じたんだ

空は、綻びた幕。
裂け目から無色が溢れ出す。

雨は、白。
僕らの輪郭を一枚ずつ剥いでいく。

君の瞳は、剥落した背景の穴。
意味の残骸。

重力は、嘘。
足元を支えていたのは仮初めの言葉。

剥き出しの座標として宙に浮く。
君がただの風景へと解体される。

もう、声は出ない。空白で窒息したんだ

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ろまんす譫妄



女ははじめ夫と出会い 

女はあとに
妻と
出会っていた

それだけだった

ただその女は
そのどちらにも
唇をあづける
譫妄を
刺殺して

そっとメニュー表を閉じる

それなのに

近づいてきた
ウェイトレスの女が

嗾けるように

こちらを眺めて
か細い
薬指を紙屑の上においた

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逆さまの言葉

君はもうよく覚えていない
残念だね、道が見えていたと思っていたのに
黄色い廊下に響くささやきは
今では遠すぎる反響になってしまった
そして君が歪めてしまうすべての言葉は
君が眠りに落ちる場所へと連れ戻す
君はもう、落ちていく感覚さえ分からない

僕は溺れていく
僕は砕けていく
理由さえ忘れてしまった
僕は回り続ける
裏返しのまま
光を見せてほしい

君は逃げるような人じゃないのに
残念だね、床が眩しすぎる
夜の中で君を引きずり込む重さ
後ろで震えている小さな炎
運命が君を壊していることは分かっている
それでも君は掴めないまま歌い続ける
君はもう、噛みつく痛みさえ感じない

僕は溺れていく
僕は砕けていく
嘘の中で迷ってしまった
僕は回り続ける
裏返しのまま
言葉は落ちて、僕は遠ざかっていく
僕は傷ついて
すべてを失って
それでもまだ這い進む
どうか僕を立ち上がらせて

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最期の恋

ろくでもない男に恋をしました。
恋愛感情がわからないと言っても体は重ねる。
それでもいい。
あなたの役に立てるなら都合のいい女であってもいい。
何度好きと言ってもなかったことにされる。
こんな人のために悩んでいたのか、と思うと自分すら嫌になる。
優しくて、私の喜ぶことをたくさんしてくれる。
それでもあなたが好きなの。
他の女の話をしても構わないから
好きであることを許して。
初恋でした。

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網の上

孤独な網の上で一生誰かに食べられるのを待っている。動けない。
タバコを吸っててもいいよ。
お酒を飲んでてもいいよ。
ギャンブルをしててもいいよ。
働かなくてもいいよ。
離れないで

もうすぐ寝た方がいいんじゃない?
砕けて散っちゃうよ
好きなら食べてもいいよ。
好きなら舐めてもいいよ。
潰して舐めてもいいよ。
手を繋いで
離れないで

お願い こんな幸せはないわ

離れないで

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