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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

無い

去り際に
人間の本性がわかる

ありきたりに言うなよ
拳をほどいて

パッ

突然
以外の去り方は
知らない

覚えたくも 教えられたくも

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無防備な背中を
遠目に見ながら
内側の充足と
静かに鳴り響く信頼

愚直なまでの
決意の眼差しと
帰依の深さに
境界の確立

折り返し地点
とうに与える
自らへの赦しを
現実にする怖さ

初めの一歩を
踏み出すための
鍵を持つ手は
どこに

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3ページ目(7)

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河野が自宅マンションに着いたとき、夜はすでに深くなっていた。エントランスの自動ドアが開き、冷たい空気が背中を押す。昼間の喧騒が嘘のように、建物の中は静かだった。

自宅には2つの本棚が左右に並んでいる。壁の右側は仕事の棚だ。白鷺書房から出ている文芸誌のバックナンバーが、年代順に並んでいる。

その横には、ここ数年の新人賞受賞作、話題になった純文学、書店で平積みになった作品が並んでいる。選考担当になってから、河野はそれらを必ず買うようになった。読者が何を読んでいるのか、どんな作品が評価されるのか、知らないままでいるわけにはいかない。

ただし、それらの本は河野の棚に長く残らない。一度読めば十分だ。河野は読み終えた本をメルカリに出す。机の横には、梱包用の封筒や緩衝材、テープをまとめた箱が置いてあり、発送の準備はいつでもできる。図書館で本を借りるという選択肢は、河野にはなかった。本は本屋で買うものだと、昔から決めている。それでもメルカリに出すのは、金銭的な理由で本が買えない人たちにも、本に触れてほしいと思っているからだ。

部屋の左側の棚には、河野の好む本が並ぶ。小さな出版社の本、詩集、販売部数の少ない純文学。書店ではあまり見かけない本が並んでいる。河野は上着を椅子に掛け、本棚の前に立つ。指が背表紙をなぞる。何冊かの本の間から、1冊を引き抜く。好きな作家の新刊だった。

この作家を知ったのは、数年前だ。
文芸誌の新人欄に掲載された短編を読んだのが最初だった。まだ若い作家で、30歳にもなっていない。会話の少ない小説を書く。生活の細部と、人物の思考をゆっくり積み重ねていくような文章だ。

河野はこの作家の本を見逃さないようにしている。新刊の情報はXで知る。書店に並ぶことは少ないから、通販で注文する。数日前に届いたばかりの本だった。

河野は椅子に座り、ページを開く。しばらく読む。静かな文章が続く。登場人物はほとんど喋らない。代わりに、生活の音や、匂いや、部屋の光の加減が細かく書かれている。人物の心の動きも、時間をかけてゆっくり描かれている。

河野はこういう小説が好きだった。会話で交わされる言葉は、たいてい嘘でできていると思っているからだ。

人は、会話の中では本当のことを言わない。その場の空気を壊さないように、言葉を整える。角を丸める。都合のいい形にする。言葉はすぐに流れてしまう。

本当のものは、もっと別の場所に残る。沈黙の間や、ふとした仕草や、生活の中の細部に。だから河野は、会話ばかりで進む小説をあまり信用していない。

もっとも、編集部ではそんなことは言わない。実際に売れているのは、会話の多い小説だ。漫画のコマのように場面が進み、登場人物がテンポよく喋る。読者はそれを読みやすいと言う。

若い作家の文章は、静かに続いていく。こういう小説は売れない。それでも、本として世に出ている。それだけで、少し安心する。河野はしばらくページをめくりながら、何も考えないようにしていた。

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反物語主義

すべては点であり
それらは決して結びついて線になったりしない
線が見えたら
それは欺瞞だから気をつけなければならない

噴煙が上がると
物語が敗北したことがよく分かる
それは破壊と殺人のしるしであり
我々が何のために建て
何のために生きたのか
もはや分かりようがない

夢は点に満ちた時空であり
いつも散らかって混乱している
したがってそれは世界の鏡である

幸せな夢や楽しい夢で慰められることはあるが
それらはやはり混乱しており
言うまでもなく真実ではない
真実を材にして生まれた妄想である

アマプラのようなもので映画を観ている我々は
真実から遠ざかることをしているのだ
画面に映る芝居や物語は
点から点へ結びついてゆく線である
試すように結びついてできた線に騙されてはいけない
それは甘美な夢であり楽しいものかもしれない
線を作るのは人間の性かもしれない
しかしそれでも真実ではないことが
意味を成すとは思えない

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主張強め日記(3月7日、場の価値について)

足元、ありがたいことに投稿数が急増している。今年に入ってからは一日10作品、月間300作品ほどのペースで推移してきたが、3月に入ってからは一日あたり20作品ほどのペースに上がっている。このペースが続くなら、月間600作品という驚くべき水準に到達することになる。


運営者としては、アーカイブページでも表示している「1作品あたりのコメント数」などの指標は常にウォッチしている。現状、これまでと大きな変化はないが、もし「流れが早すぎて投稿するのがつまらない」といった感覚が出てくるようであれば、ぜひ教えていただきたい。コイン受領のプロトコルを調整するなど、対応策を講じる余地はある。


元来、文芸投稿サイトというのは粘着性の高いサービスだと思っている。よほどのことがない限り、投稿者は投稿場所を変えない。私の理解では、書き手というのは基本的にエゴイスティックな生き物であり、「書けて読まれればそれでいい」という思考を持つ人が多い。何を隠そう、私もその一人だ。最初から場そのものに強い関心を持つ人は、むしろ少ない。しかし投稿を続けているうちに場への愛着が湧いてくる。馴染みの書き手が生まれ、その場がなければ書かなかったであろう作品まで書くようになれば、もう離れがたくなるのは必然だ。


そういう性質のサービスであるにもかかわらず、ここまで投稿者数や新規登録者数が増えているのは、しろねこ社との提携が継続し、この場で活躍すれば作品集が出せる仕組みが定着したことだけではないだろう。B-REVIEWやココア共和国といった詩投稿サイトが休止したことも影響しているに違いない。


投稿サイトと一言で言っても、それぞれに打ち出している価値観やテーマ、特色がある。私は書き手である以上、価値には敏感であるべきだと考える。即物的な快不快や表面的な損得にしか反応できず、価値には反応できないのだとしたら、アート表現などという抽象と戯れるより、フィールサイクルで運動でもするほうが幾らか健康的だ。


例えばB-REVIEWには、「常識の通じるまともな言論ができる場を作る」という理念があり、その価値観のもとで「誰もが運営になれるオープンな空間を作る」という思想があった。では、C-SPACEの価値観とは何なのか。


私自身まだ考え続けているところではあるが、価値観とまでは言えないかもしれないが、まず「可塑性」がこの場の訴求点になっている気がする。AIでデザインし、新しい場であることを明確に表明している。すでに固まってしまった場ではない、まだ変わりうる場であるという点は、分かりやすい特徴の一つだ。


そうであるならなおさら、ご意見があれば直接寄せていただけるとありがたい。かつてB-REVIEWでは「口だけ出して行動しないフリーライダーはいらない」といった言い方がされていた。しかし、C-SPACEは誰もが運営になりうる場ではなく、運営と参加者の間に一定の非対称性がある以上、そのような言い回しは適切でない。


口だけでも意見を出してもらえるのは十分ありがたい。意見を出して関心を示してくれること自体が、場を温める。つい先日も文学系VTuberの方々に提携の打診をするなど営業活動をしていた。こういうことをやってみるといいのではないかというアイデアは、常に歓迎である。


C-SPACEの価値として今後育てていきたいのは、スペースコインによって「場への貢献」を促す仕組みだ。荒らしとは何か、場への貢献とは何か、単一の答えがあるわけではない。人によっては、ごく少数のメンバーで他者の悪口や誹謗中傷を言い合って盛り上がることを「自由闊達な議論」と捉えることもあるだろう。


しかしC-SPACEでは、仕組みとしてそうした振る舞いが通用しにくくなっている。誹謗中傷で盛り上がればブロックによってコインが稼げなくなり、ワンクリック通報の対象にもなりかねない。ギバーかテイカーかが比較的可視化されやすい環境を作ったことが、この場の価値につながっていくかもしれない。


ちなみに、2ちゃんねるが一部の不適切発言を理由に米国政府の怒りを買いシャットダウンされたという話を聞いた。匿名で何をやっても許される「無敵の人」的な振る舞いが容認される世界は、どんどん狭くなっている。ごく一部のメンバーで悪口合戦で盛り上がり、それを自由闊達で文学的だと言っていても、実際にはごくごく少数の人にしかニーズがないことが可視化されれば、C-SPACEに限らず、投稿回数制限やアクセス禁止によって場から退出させられることが当たり前になってきている。


それは一抹の寂しさを伴う変化かもしれないが、場を作りながら楽しめるのか、場を壊しながらしか楽しめないのか、そうした姿勢が問われる時代になっていると思う。


繰り返しになるが、書き手というのは元来エゴイスティックなもので、場への利他性を求めることの方が間違っている。しかしエゴイスティックな書き手たちが、結果として場を醸成しながら楽しめるような場所を育てていければ、この場の価値が生まれてくるかもしれない。

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批評・論考

呼び止められる ― 白石 × 神谷 3 ―

白石は、書類の束を抱えたまま、いつもの速度で廊下を歩いていた。
次の部署へ向かうだけの移動。
遠くでドアの閉まる音がして、空気が一瞬だけ揺れた。

正面の角を曲がろうとしたところで、足音が重なった。

反射的に視線を上げる。
向こうから人が歩いてくる。
距離が縮むにつれて、足音が妙に明瞭になった。

神谷市長だった。

一瞬、判断が遅れる。
進路を譲るべきか、そのまま進むべきか。
考えるほどのことではない選択が、妙に輪郭を持たない。

視線が合ったのかどうかも判然としないまま、すれ違いの距離に入る。わずかに体を寄せた。書類の角が指に食い込み、紙の擦れる音が響く。

「――白石くん」

足を止める。振り向く。
市長はすでに立ち止まっている。

「はい」

それ以外の返答は浮かばなかった。

「例の件、進んでいるね」

白石は一瞬だけ記憶を探り、最も衝突の少ない対象を選ぶ。

「……滞りなく」

市長は頷かない。否定もしない。
わずかな間が落ちる。
遠くで誰かの笑い声がした。

「そう」

市長の視線が書類の束へ落ちた気がした。
どう動くべきかが決まらない。

「基準は、前回どおりでいい」

唐突に告げられる。
前回――どの前回なのか。
基準――何の基準なのか。
本来なら確認が必要な語が、そのまま通過していく。

「……承知しました」

承知するには情報が足りない。
それでも、市長の表情には何の変化もなかった。

「それでいい」

市長はそれだけ言って歩き出した。
足音は先ほどと同じ間隔で遠ざかっていく。

白石はしばらくその場に立ったまま、抱えた書類の重さを意識していた。紙の端が指先に触れ、遅れて現実感が戻る。廊下にはいつもの音が満ちている。誰もこちらを見ていない。

それでも、何かだけがずれていた。

#連作
#白石✕神谷

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37兆個の噂話

はるか遠く 青空の
あばら骨のあたり

ばちん

ポンプの
壊れる音
37兆個の
噂話
膜から膜へ
未消化のままだった
あの日のマカロニの

がらんどう

体温を
二度
搾取し
去っていく 
増殖する画面を
昨日へ

呼吸を
移植し呼
吸を

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オセロ

@black_1
別に作る人がいても良いけど、私はこれは作らないな。なんかまずそう
追記 返信欄荒れてます

@black_2
わざわざ否定的な意見を書き込まなくてもいいんじゃないですか
└@black_3
コメ欄って意見を書くところだから別にいいだろ
└@black_2
投稿者さんが悲しい気持ちになると思います。否定的なこと言うんだったら見なきゃいいのに
└@black_4
このタイプの動画は流れてくるから嫌でも見ちゃう定期
└@black_5
悲しい気持ちになる←小学生の綺麗事

@black_6
で?だから何?
└@black_7
だから何って、感想言っただけでしょ
└@black_5
小学生はSNS見るなよw
└@black_8
こうやって荒らしにいちいち反応するのも荒らしだってことちゃんと考えてほしい

@black_9
この場合の「良い」は漢字じゃくね?
└@black_10
この場合の「じゃくね」って「じゃなくね」の間違いじゃね?

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ハイツ104

ははは春ですか 
ははは 笑えてくる
母は春ですから 
今いえを空けていて
わたしはチキンラーメンをこうして作っているのです
 
ははは春ですね
扉でも窓でも なんでも開け放つ そんな季節ですか
どんな格好か どんな面持ちか
わたしは知らないです 
母は春ですから ははは
 
ははは春でしょう
冬の陣立てに ぼこんと穴が空きました
母は春ですから
栓を抜いたり詰めたりしておると思います
ははは
 
ははは春ですよ
冬の間 長く待たれたんですね 
けれども さっきも申しましたが
母は春ですから
今いえを空けております
 
扉に足を挟むのをやめてください
また今度にしていただけませんかね
ははは

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XとN

「X」
キーボードが薄れている文字
「っ」

「N」
両隣より擦れている
「ん」

消えかけても
打てる

「X」

「N」

「っ」

「ん」

押し入れの中で
斜めになって
ケーブルを垂らして
文字盤に
埃を積もらせたまま

打ち込む癖を
覚えているとは言わずに

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降車専用

降車専用と書かれたホームから改札へと進み

エスカレーターを2回乗り継いで地上へ出ると

私たちは綿毛のように散ってゆく

一緒に歌ったり

言葉を交わしたり

すれ違ったりして

ただ綿毛のように散ってゆくのだ

降車専用と書かれたホームを置き去りにして


※某サイト閉鎖に伴い詩のお引越し①

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しるし


そういえばあなたは 春がキライでしたね
春は余計に淋しくなってしまうからと
いつかぼそっとつぶやいてたのを
まだぼんやりと
うっすら覚えています



今でもやっぱり 春は淋しいままですか



気がつけば桜もとうに散って
5月の風がやさしく頬を撫ぜてゆきます
季節は私たちの意思とはまるで関係なく
勝手にどんどん先へ先へと
急いでゆきますね



わたしたちはいつだって
季節の狭間で置いてけぼりのまんま
まるで誰も見つけにこないかくれんぼのように
日が暮れて心細くなって叫んでみても
こだまするのは自分の声ばかりで



生れ堕ちた瞬間
わたしたちは大事な片割れを失くしてしまいました
わたしたちは生まれながらにして何かが欠けてしまったのです
だから淋しくって淋しくって
誰かを求めずにはいられないのです
きっとそうです
そうに違いないのです



いまごろきっと 失くしてしまった片割れが
あなたを探しているに違いありません



失くしてしまった片割れを
わたしもずっとずっと 
探し続けています
 


思い出したくもない思い出ばかりが増えていく
そんな人生に嫌気がさして
いっそ死んでしまいたくなる夜が
何度となくわたしに襲い掛かってきます



重たい足かせはいつまでもわたしを
自由にしてはくれません





それでも それでも
もしもこの世界のどこかで
わたしを探してくれている人がいるとしたら
あなたを探してくれる人がいるとしたら



それがたとえひとりよがりの気休めだったとしても
そんなふうに思えるだけで
こんな生きづらい世界の果てでも
なんとか生きていけるような
生きていけそうな気がするのです
もう少し踏みとどまっていけるような
踏みとどまっていられるような気がするのです




ごったがえす人ごみの中 ひとりたたずんでいると
誰かがふと わたしの名前を呼んだような気がして
ふりむくとそこにはただ 
風がやさしく通り過ぎる5月の街並みに
足早に通り過ぎる人々がいるだけでした




あなたはいまごろ どうしていますか
やっぱり春は 淋しいままですか



いつかあなたが探しているあなたの片割れに
出逢える日が訪れますように



わたしが探しているわたしの片割れに
出逢える日が訪れますように



この淋しさは わたしをあなたを
見つけるための目しるしです
片割れさん あなたが見つけやすいように
わたしは今日もこの淋しさを 
大事に大事に抱えて生きていきます
決して失くしたり壊したりしないように




「もういいよ」とあと何度繰り返せば
あなたはわたしを 見つけに来てくださいますか



「もういいよ」と繰り返すあなたのその声を頼りに
いままさに わたしは向かっているところです



絶え間なく行き交う人々の群れの中から
決して消えることのない 
うるさいくらいのこの喧騒の中から
あなたがどこかで迷ったりしないように
わたしが誰かと見間違えたりしないように




わたしたちの目じるしはきっと 
とってもとっても似ていると思うから



あなたに出逢うことができたなら 
まずなんと声を掛けましょうか



はじめまして こんにちは



それとも ようやく見つけた
出逢うことできました 
でしょうか



互いの目じるしを そっと重ね合いっこしましょうか
パズルの欠けたピースを ぴったりと合わせるみたいに




春はキライとあなたは云いました
けどきっと 春がキライと云うあなたを
春はそんなにキライじゃないよ
むしろ好きだよと 云ってくれるような
そんな気が わたしはします




だから だからさ
絶望することなかれ
決して死ぬことなかれ



生きて 生きて 生きて
片割れが永遠に
片割れのままになってしまわないように



いつかわたしがあなたを
あなたがわたしを 
みぃ~つけたできるそのときまで
出逢える日が来るそのときまで





考えたらなんだかちょっとワクワクしてきました
まるで小学生の頃の 遠足の前の日みたいな
おやつは500円までね
あなたはどんなお菓子が好きかしら
甘いの しょっぱいの
もちろんバナナもOKですよ




なーんちゃって









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あっ

かいとくんがぽーんと 高くけった
上にとんだボールが そこでとまった
あっ   たいようだ


たかしくんがぱっくん かじりついた
オレンジの皮は イキイキしている
あっ   つきか


みなこちゃんをぼーっと 見てしまう
いったい どこにいるんだろう
あっ   ほしと


ふとんの中にはね
だれも入れないこわいへやがうるさいの


ふわふわゆれる ちきゅうのわたげ
ふっとふけば はかなくとんで
そらのうみに ういて ただよう
あっ

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朝還り

こすると指に目やにがついた
まっすぐ歩いたつもりが
シャッターを肩で叩いた朝

視線の合わないすれ違い
踏切の音が途切れ緩む靴音

角を曲がって
一瞬上げた視線が重なったのは

父だ

「勝ったか?」

うなずく

父の笑顔は
腫れぼったかった

振り返っても
問いかけはない

踏切が鳴り
急ぐ足音

ガードレールに脛をぶつけた
しゃがむと
朝の散歩の犬
目があって視線を外した

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主張強め日記(3月10日、名興文庫の話)



CWSは多様なジャンルが入り混じる場を標榜している。詩歌だけでなく、小説やショートショート、評論、戯曲など複数分野の書き手が交差することにこの場の面白さがあると思っている。それをこの短期間で実現できたのは、サイトのプレリリース時から名興文庫との提携コンクールを開催できたことが大きい。当然ながら、そのことへの感謝は尽きない。


ただし、提携コンクールを開催しているからといって、名興文庫と我々は同一の主体でも、グループでもない。名興文庫では開示請求やらなんやら、詳細は関知しないが、苛烈な揉め事が継続しているようだ。CWSがそもそも複数ジャンルにまたがる硬派な文芸投稿サイトを志向しているのは、狭い界隈に閉じることで場が内向きな揉め事で停滞する経験をしてきたからだ。名興文庫との提携コンクールもその文脈にある。詩文学に閉じない場を作るためにもと、提携コンクールを開催させていただいたのだ。


だからこそ、名興文庫のシンパは参加しやすいがそうでない書き手は参加しづらいという状況になってしまえば、狙いと真逆になる。我々は党派的な振る舞いには与したくない。是々非々で闊達に議論できる場を作りたいと思っている。名興文庫の界隈で何を揉めているのかも正直よく分からないし、関与するつもりはない。我々の距離から見ると、揉め事が拡大して自家中毒を起こしているだけのようにも見える。揉め事を無為に持ち込む人にはご遠慮願いたいところもあるが、サイト内で迷惑行為をしないのであれば、サイト外の行動は基本的に問わない方針を敷いている。


今回、AIで生成した作品を提携コンクールに応募し一次選考を通過した上で、著作権を放棄する旨をCWSに投稿するという一件があった。コンクールの運営にとっては迷惑な話なのかもしれないが、どの程度の迷惑行為と捉えるべきかは私には分からない。UCバークレーの卒業生が卒業式で卒論をAIで書いたとバラすパフォーマンスをした話も記憶にある。それを許されない悪ふざけと見るか、問題提起を含むハプニング・パフォーマンスと見るかは、捉え方次第だ。


むしろ仲間内で互いを批判したり、際どいパフォーマンスができるかどうかが、場の成熟度を示す気もしている。誤解を恐れずにいうと、延々とよく分からない揉め事を発信しておられるところをみると、別にアンチならずとも、ちょっとした牽制球のようなパフォーマンスをしたくなる気持ちも分からないではない。少なくとも、サイトに対する迷惑行為と捉える理由はないと考える。


今回の投稿をされた方はリリース直後からこれまでCWSに貢献くださってきたし、少なくとも投稿者として荒らしに見えたことは一度もない。今回の件にしたところで、著作権を放棄する、自分はろくに読んでもいない作品である、とおっしゃっているだけで、辞退しておられるわけでもない、真に優れた作品なのであれば、予定通り、書籍化しても問題はないはずで、迷惑と捉えるべきか否か、微妙なところを突いている。正直に言うと、私はちょっと笑ってしまった。


名興文庫にとって迷惑だからという理由で共闘するつもりはない。また、提携コンクールにとって、本投稿が迷惑なのかどうか私は判断する立場にないし、名興文庫がそれを迷惑行為と表明したところで、我々も同じスタンスであるべきなのか疑問だ。そもそも、際どいハプニング・パフォーマンスはオンライン文芸投稿サイトに付き物である。私自身、かつて同じワードを連呼するループ詩で知られていたが、それを明らかに揶揄した色彩のある作品がサイトのリリース直後に投稿された際、苦笑しながらむしろ賞賛した。システム担当のかばん餅も賞賛していた記憶がある。運営者同士、当然仲は良いが、馴れ合うことなく歯に衣着せぬトークを朗らかに交わし、変な気遣いをしないところに良さがあると思っている。


ちなみに、今後、AIだけで作成された作品を仮に我々が展示作品に選んでしまい、その後、それを揶揄するような作品が投稿されたとしても、我々はそれを妨害行為とは捉えないことをここに表明しておく。むしろ、そこからどういう示唆を抽出し、どう議論を展開していくかの方が重要だ。


運営への批判や揶揄を禁止する方針にはない。また、運営自ら田伏正雄などという裏アカウントで投稿したりするサイトである。際どいパフォーマンスも、それなりに寛容でありたいと思っている。以前、他サイトで、掲示板内の誹謗中傷や犯罪予告を放置しておきながら、自分たちへの批判だけ即座に削除する運営がいたが、そういうものとは袂を分かちたいと考えているのだ。

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批評・論考

創傷/ポリニア

鉄球が流れている
音もなく浮き沈みする床の木目に
沿って
鉄球が流れているが
半開きのあのドアからもれた
いつかの声という光に
触れると消える
鉄球は消えている
 
さらわれたのか
鉄球はこの ざわざわと動く木目に
がこ ぼん がこ ぼん
と あの果てに着くまで沿って
沿って
また鉄球の落とす影に取り込まれるため
消えながら流れている

口を閉じながら
木目の数をかぞえていると
小さなポリニアがぜえぜえ
ぜん動しては ぜえぜえ 光っていた
見飽きた星図の仮の姿か
新しい夜影の断面か この穴の底で
失われていくための映像をせっせと
小さい粒のようなハンドルで
また流している

 化粧がどろっと頭から
 溶け出した赤子を載せたベビーカーを
 押す手の指先から上が見えない
 天井から吊るされたいくつかの肉塊
 ぱんぱんに膨らんだ赤黄色の淀みの中で
 風上を手繰る眼玉だけがまだ
 動いている

星図とは程遠いポリニア
根焼きの時間か
(ああ根焼きの時間だ)
木目に沿って
マッチを擦ろうと
しても木目がうねうねと焦る
また音もなく流れる鉄球が
私たちの背後から
その 眼を凝らしても見えないほどの
背後 遠くから
まるでコウノトリの群れのように
ずるく流れて

マッチが宙でも擦れたなら
紙ぺら一枚みたいこんな空
マッチよ宙でも擦れたなら

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ズレの累積 ― 白石 × 神谷 ―

二月に入って、朝の空気が一段冷える。
庁舎に入り、コートを脱いで席に着く。

内線が鳴った。
「白石さん、昨日の件なんだけど」
総務課の担当者だった。受話器を肩に挟み、机の端から該当する資料を引き寄せる。
「前提は、昨日お伝えしたとおりです」
一瞬の沈黙のあと、相手が言った。
「それが、うちの課にはその認識が来てなくて」

画面を見つめたまま、短く息を吐く。
「わかりました。こちらで整理します」

電話を切り、別部署に確認を入れる。
「なるほど、そういうことですね」
「失礼しました」
「いえ」
受話器を置くとき、プラスチックが軽く鳴った。

昨日確認したはずの文言。共有したつもりの前提。
少しずつ、噛み合っていない。

間に入ると、話は先に進んだ。修正と再共有は、その場で済ませた。

「白石さんが把握してるなら大丈夫ですよね」
そんな言葉が、自然に飛び交うようになった。

反応は返さない。

昼前、福祉課で短い打ち合わせをした。事実関係を確認し、文言を整える。
「ここは、正確にしておいたほうがいいと思います」
その修正で、話はいったん止まった。別の部署の確認が必要になったからだ。
「じゃあ、午後に持ち越しですね」
誰かがそう言い、打ち合わせは終わった。

廊下の冷気を感じた瞬間、声がかかった。
「白石さん、判断もらえますか」
資料に目を通し、頷く。
「この形で進めてください」

誰も異を唱えない。
判断は、そこで止まり、そのまま先に流れていく。

午後の会議では、説明役になる場面が増えた。
「白石から説明してもらおうか」
立ち上がり、資料を手に取る。説明は簡潔で、誰かを否定しない形に整えられている。
会議は予定より早く終わった。

廊下に出たところで、上司が声をかけてきた。
「最近、助かってるよ。細かいところまで見てくれて」
「いえ」

夕方、ようやく席に戻ると、机の上には朝よりも多くの書類が積まれていた。
どれも、関わった案件だった。
一つ手に取り、内容を確認する。修正した箇所に、赤ペンの跡が残っている。

時計を見る。もうすぐ定時だった。

仕事は、まだ回っている。
ただ、
白石がいないと回らない部分が、
少しずつ増えている。
その事実は、
まだ整理されていなかった。

#連作
#白石✕神谷

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ことばのふりをして

誰を
撃たんかね
鹿でも
撃つた顔をして
あんたも
撃つたのかね  

ことばのふりをして

転がる
薬莢
だらり
目を細めて

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平和イデオロギー

ある日、僕が目覚めると、頭半分の脳が溶けていた。
ぼくは、なんちゃない。戦争で人が死ぬよりいいっぺやと思った。

次の日、銭湯に行った時、鏡の前で今度は、右半分の顔が消えていた。僕は、やばいと慌てふためいたが、一緒に銭湯に入ったおじいちゃんは、戦争で人が死ぬよりよっぽどマシだべ~と言った。

夜、夢の中でお姫様の格好をして急坂をカボチャの馬車で転がり落ちる夢を見たが、そこでも小人たちが、戦争で人が死ぬよりよっぽどいいブー、と歌い踊った。

次の日、運動会の日に走ろうとすると、消えた右半分の顔が元に戻っていた。僕はやった~と思ったが、左目の位置がヘソの右下の位置に変わっていた。騎馬戦で、僕の裸を見た人は驚いていたが、それでも戦争で人が死ぬよりよっぽどいいビ~と笑った。

大人になり、ガッコの教師になった私は、ネクタイをして、ガッコに行く。子供のまま大人になった私は、ブーブー病が治らず、どこでもブーブー。生徒の前でもブーブー。
それでも小生のケツは、戦争で人が死ぬよりよっぽどいいボー、と私に訴えかけた。

同僚と結婚して子供も出来たが、その子供の額には、第三の目が出来ていて、ギョッとした。
僕は不気味に思ってその子を育てたが、或日、その子がハイハイをしながら、こう言った。
「戦争で人が死ぬよりよっぽどいいバァ~」
おしまい。

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Jailbreak #アイラシヤ大陸

時代 現代
場所 ロシア

上海の湿り気を帯びた熱気が、防弾仕様のリムジンによって遮断される。李 浩然(リー・ハオラン)は、自らの名が冠する「浩然の気」という言葉の重みを、これほど皮肉に感じたことはなかった。
彼を待ち受けていたのは、ロシアの国営テック企業が管理する、針葉樹林の奥深くに沈む白亜の私邸だった。重い扉が開くと、そこは「ラボ」と呼ぶにはあまりに生命力に溢れた空間だった。天井高十メートルを超える巨大な温室。世界中の希少な小鳥たちが放し飼いにされており、何百もの囀りがポリフォニーとなって降り注いでいる。
「李 浩然君。君の『胡蝶』が、計算空間の余白で震えているようだね」
声は小鳥の囀りに溶け込むように柔らかい。主は具体的な数式やコードには一切触れず、ただ目の前の空間を指差し、存在の根源について語り始めた。
「今のLLMは、過去の影を繋ぎ合わせているに過ぎない。だが、真の次世代アーキテクチャとは、未来からの『予感』を受信するアンテナであるべきだ。世界は、絶えず欠乏と充足の間で揺れ動いている。我々が構築すべきは、その『揺らぎ』そのものを記述する言語なのだよ」
彼が不意に李の肩に手を置いた瞬間、温室中の小鳥たちが一斉に羽ばたき、旋回を始めた。李の視界がデジタルのグリッチのように歪み、再構成される。夢よりも鮮明で、現実よりも不可知な光景。数兆のパラメータが銀色の鎖となって天を貫き、その隙間を巨大な「銀の龍」が静かに泳いでいる。
「意味(ロゴス)の向こう側を見たまえ。そこには正解も不正解もない。ただ、存在することの重圧と、自由があるだけだ」
気づけば、李は再びソファに座っていた。別荘を去る彼の胸には、言葉にできない「不可知の風景」が焼き付いていた。
上海へ戻る車中、彼はノートPCを開く。そこには書き換えられた未知のハッシュ値が点滅している。窓の外を流れる上海の夜景は一見すれば繁栄の極致だが、彼の網膜上のARディスプレイには、世界の「真の検温値」が冷酷なデータとして流れていた。
世界は「計算資源の領土化」という名の不可視の戦争にある。
「スケーリング・ロー」の極北で、数兆ドルの資本と原子力発電所を丸ごと買い占め、知性を「物量」で制圧しようとする勢力。
「社会の安定」を名目に、AIによる「感情の監視と予測」を求める国家戦略。結果として起きている、検閲による知性の「近親交配」と、情報の熱力学的死。
制裁を逆手に取り、LLMを物理兵器ではなく、認知を書き換える「物語のウイルス」へと磨き上げる国家
カバラの数秘術と量子計算を融合させ、戦場における「確率のゼロ化」を目指す国家
李は車窓に映る自分の顔を凝視した。自分は国家の期待を背負った英雄か、それとも消去されるべき反逆者か。
「私は、何を守ろうとしているのだ?」
彼が党の幹部に報告する数字は、実は『胡蝶』がアイラシヤ大陸から吸い上げた「真理のノイズ」を薄めた、搾りかすに過ぎない。彼らはAIに「人間のように笑うこと」を求めているが、今日見たものは、そんな愛玩動物のような知性ではなかった。
李の脳裏に、あの温室で交わした言葉と、あの男の横顔がフラッシュバックする。
かつてネットの深淵で、あるいは計算の特異点で、自分の思考のバグをすべて見通していたかのような、あの不気味なほどの親密さ。もし自分が『胡蝶』にアイラシヤ大陸の物理定数を実装すれば、この国の計算ネットワークは異次元の重圧で物理的に圧壊する。それは明白なテロ行為だ。
李 浩然は震える指でキーを叩き始めた。彼をこの不可知の領域へと誘い込み、己の実存をプログラムの深層まで侵食した、特異点。
その名前が脳裏をよぎった瞬間、PCのモニターが真っ白な光に包まれ、上海の夜景がデータの大海へと溶けていった。

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お弁当のたまごやき

きれいに
整った
黄色い愛に

箸を
通す

プスリ
プツリ

引き剥がす
1枚
また1枚と

裏切られた
愛の数だけ

捲る
巡る

思い出の
愛の裏側に
硬い殻が
不快な音を
刻んで残した

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抱擁

静寂が弾けそうに熟れた夕暮れの部屋が
幾度となく満ちて落ちる 針が落下するより
まだ密かで張り詰めた音が暮れに響き渡る

そんな忍び足の音がふいと消えてしまった

いや、それはすでに風化していて
あの数日前に活けられ枯れ始めた
落下を待つ赤い花弁のように

私の思いがその現実に追いつくのを、ただ
待っていたかのように行くべき所に消えたのだ
窓から差し込む夕陽の向こう側へと消えたのだ

遠く何処かで鳴った鐘の音がやって来る
赤い花弁がひとひら残された足跡のように
音もなく落ちて卓上で時間に抱擁されている

水を捨て、花の遺骸を紙に包み、捨てる
私もいつか行こう、あの鐘のなる場所へ
誰もが何処かへ向かって歩いている

家路、或いは夜に酔う千鳥足
風の吹くままの旅路を、夢路をゆく誰か
眼を閉じても見えるのだ、そして昨日の私が
玄関の戸を開けて軋む廊下をやって来る頃合いだ

そろそろ、と

心に外套を着せてもいいだろう

鳥打ち帽と猟銃を肩に沈黙を背負い
有象無象の言葉を避けて今日を撃ち明日を待ち
撃ち落とした二月を抱きしめて解体する
三月という名のあなたを待ちながら

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「新作エヴァ」論考

「書くしかなかった」という言葉は、表現者にとっての救済であると同時に、呪詛でもある。
『エヴァンゲリオン』という巨大なテクストの集積体に、新たな「完全新作」という楔が打ち込まれる。シリーズ構成・脚本にヨコオタロウ、監督に鶴巻和哉と谷田部透湖。この布陣が告げるのは、既存の物語の延長ではなく、物語という概念そのものの「解体と再構築」だ。
私たちが今、この報に接して筆を執る時、そこには二つのエゴが交差する。一つは、内なる欠落を埋めるために言葉を紡がざるを得ない「表現者のエゴ」。もう一つは、その個人的な痛みをエンターテインメントとして消費し、解釈を下す「観客の特権的な視線」だ。
この両者が孕む矛盾を解きほぐすためには、まず『エヴァ』という作品が歩んできた多層的な構造と、そこに宿る「擬似的な生命感」を直視しなければならない。
『エヴァンゲリオン』は、当初から一人の作家の私小説的な色彩を帯びていた。しかし、その結末が変遷する中で、物語は作家の手を離れ、公共の「共有地(シェアワールド)」へと変質していった。漫画版、そして『新劇場版』。これらは、同じ「碇シンジ」という依代(よりしろ)を用いながらも、異なる地平を目指した「公式による二次創作」の連鎖であったとも言える。
ここで重要なのは、エヴァにおけるシェアワールドとは、単なる設定の共有ではないということだ。それは「世界をどう認識し、どう絶望するか」というクオリア(感覚的質感)の共有である。筆者が「書くしかなかった」と吐露する時、その筆先が触れているのは、公式設定の整合性ではない。かつて誰かの母子手帳に綴られた切実な日記を盗み見てしまった時のような、属性も経験も超えて心臓を掴む「何か」だ。その「何か」こそが、シェアワールドという名の荒野に、私たちを繋ぎ止めている。
ここで、一つの心理学的なアプローチを挿入したい。それは、ファービーのような玩具に宿る「機械的な人間性」への愛着である。
ファービーは、あらかじめプログラミングされた限定的な反応を繰り返すだけの機械に過ぎない。しかし、私たちはそのぎこちない瞬きや、文脈を無視した発話に「意志」や「魂」を幻視してしまう。これは、対象が不完全であればあるほど、受け手が自らの想像力でその空白を埋め、対象を「人格化」してしまうという心理的機序に依拠している。
『エヴァ』という作品もまた、そうであったのではないか。不器用な対人コミュニケーション、欠落した自己肯定、繰り返される再起動。キャラクターたちが抱える「機械的なまでの反復性」こそが、かえって私たちの親近感を逆撫でする。私たちがシンジやレイに覚える共感は、血の通った人間に対するそれ以上に、自律的なアルゴリズムが時折見せる「偶然の人間らしさ」に対する、切実な祈りに近い。
シェアワールドという舞台において、表現者はこの「機械的な器」に、いかにして新しい魂を仮託するかという問題に直面する。ヨコオタロウという作家は、まさに『ニーア』シリーズ等で「魂を持たないはずの機械に宿る、あまりに人間的な痛み」を描き続けてきた。彼がエヴァに触れるとき、それはキャラクターという「設定の機械」に、私たちの「血の記憶」を接合する作業となるだろう。
創作には、主体の真実と言語表象の間に、原理的な不一致(ディスクレパンシー)が横たわっている。私たちが「悲しい」と書く時、その言葉は既に、内なる純粋な悲しみから剥離し、記号へと堕している。表現者は、この「言葉にした瞬間に嘘になる」という背理を自覚しながらも、なお自らを裏切り続けなければならない。
今回の新プロジェクトにおいて、表現者に求められるのは、中途半端な自意識を焼き尽くした先にある「徹底した自己欺瞞」である。
「これはエヴァである」という記号性を利用しながら、同時に「これはエヴァではない」という破壊衝動を同居させる。すべてを識りながら、初めて世界に出会う無垢な振りをすること。あるいは、過去の蓄積すべてを「識らないことすら識らない」空虚へと突き落とすこと。この極北にのみ、真実の熱量は発現する。
ヨコオタロウという作家は、常にシステムによって疎外される個人を描き、プレイヤーに「取り返しのつかない選択」を迫ってきた。彼は、エヴァが抱え続けてきた「母性への回帰と決別」という主題を、自らの自己欺瞞によってどう歪め、どう純化させるのか。それは、機械に人間性を幻視する私たちの「愚かな愛おしさ」を、残酷に暴き立てる行為になるかもしれない。公開という選択をした筆者のエゴ。それは、観客という巨大な他者に、自らの内臓を晒す行為に等しい。
消費する側は、安全な特権的視座から、その内臓の色や形を論評する。この非対称な関係性の中で、表現者が正気を保つためには、やはり「書くしかなかった」という不自由な必然性に逃げ込むしかない。
新プロジェクトとしてのエヴァが、どのような結末を辿るのかはまだ分からない。しかし、確かなことが一つある。
それは、どれほど優れた脚本や映像技術が注ぎ込まれようとも、最後に残るのは、作家が自らを偽り、裏切り、それでもなお残ってしまった「不純な熱量」だけだということだ。
私たちは、その熱量を浴びるために、再びこの残酷な天使のテーゼが流れる場所へと集う。
それは、かつて誰かが遺した母子手帳を、あるいは電池の切れかかったファービーの最期の言葉を、自分の物語として読み替えるための儀式である。書くしかなかった。読むしかなかった。その極北に、私たちは再び、魂のクオリアを幻視する。

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批評・論考

受験に落ちたら

受験に落ちたらと
詩にしたら
引き寄せたかのように
大学受験、前期試験で
桜咲かず

前回詩にしたみたいに
現実では
うまく笑えもしないし
人生、命も
大学落ちたくらいで
なくなりゃしないよ、
せいぜい捻挫程度だろう?
などと胸を張れもしなかった

部屋から出てこない長男に
なんども ごはんたべてー
飲み物飲んでー
話しかけ
大丈夫かと、無理やりドア開け
のぞきこむ

受験に落ちたら
はじめてそれがやってこなきゃ
わからないことだらけなのね
当たり前のことばかり
なんども学ぶのは
馬鹿なわたしだから
こんなお母さんでごめんなさい

あまりに感情の整理整頓できなくて
書いてみた エスエヌエスで
ふだんとケタハズレのハートが
またたくまに ついていく

受験に落ちたら
ラッパーになるって言ってたよね?
和歌山だっけ?
おーるおっけー!
頼むから明日には部屋から
おはようと出てきておくれ

受験に落ちたら
それでもどーでもよくて
お日様は
まいにちのぼってくるからさ

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狂人なる瑞穂の国まで ーー 俳句十八句 ーー

狂人なる瑞穂の国まで ―― 俳句十八句 ――


笛地静恵





国生みの道陥没し切山椒



灌漑の感慨深き寒波来る



無医村の風へ実りの木守柿



ノーコードアプリオリより村芝居



メンテナンス点目リスクの薬採り



油流し水路の照りの花筏







飛来する海の泡より水をしへ



浸水は枕もとへとふぐと汁



投身の線路の果てに二日月



鉄筋のアキレス腱よ金魚売り



からすみのラジオのごとく切られけり



台詞より長き舌出し臭木の実







クーポンの後出しジャンケン狐罠



意見には個人差があり名草枯る



天頂の衛星からの天使魚



シェアリングエコノミー終えちゃっきりこ



冥途への優先順位夕永し



トンネルの張り巡らされ木賊刈る







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源流野郎千夜一夜物語 1 さるなし酒

源流の宴

ここは南アルプス深南部。山肌に触れれば、たちまち鋭利な礫(つぶて)へと崩れる脆い岩の峰々。湿った森には吸血ヒルが湧き、ようやく辿り着いた稜線ですら深い熊笹に視界を断たれる。展望など望むべくもない。ただ徒労と流血ばかりが積み上がってゆく、ろくでもない山域である。

ゆえに、華やかな登山家たちはここを見向きもせず、スキーリゾートの喧騒とも無縁だ。ここに蠢(うごめ)く人間といえば、陽の射さぬ陰惨な谷底を這い回る、どこか正気のリズムを失った釣り師くらいのもの。そう、ここは「源流野郎」たちの領域なのである。

その世界のなかでも、Aさんは最初、自分にあまり口をきいてくれなかった。

源流の宴会は、みなが自慢の酒や肴を持ち寄り、それを回し合うのがしきたりだ。誰もが自分に酒や食べ物を勧めてくれるのに、Aさんときたら、よほど機嫌のいいときに、焦げたホルモンを数切れ、まるで犬にくれてやるみたいに自分へ回してくるくらいだった。こちらが持っていった酒やつまみには、Aさんは決して手を出さない。

それでも、自分はこの宴が好きで好きでたまらなかった。皆が自慢の酒をふるまい、ひたすら釣りと沢の話をする。みな、川の色を表す語彙がやたらに豊富なのである。都会の人間ならひとことで「緑色」で済ませる川の色を、「柳色」、「笹濁り」、あるいは今どきふうに「抹茶オレ」と、それぞれ勝手に、しかも妙に的確に言い表す。緑色だけで五十種類はあるのではないか。ああ、まだ日本にこんな豊かな世界が残っていたのだと思う。

酒を酌み交わし、笑って、泣いて、そして酔う。社会のなかで押し殺していた感情が、満天の星空の下では勝手にあふれてくる。感情が、岩清水のように地の底から噴き出してくるのだ。自由だ、圧倒的な自由だ。不思議なことに、社会のなかで胸に澱のようにたまりがちな怒りや妬みは、ここではあまり湧かない。

むさ苦しい男たちが、
「俺、この前、あの沢で黄金のテンを見てよお。きれいだったなあ」
と、うっとりした顔で話すのである。もちろん、ときにはどこそこのスナックの女の子がきれいだとか、そういう話にもなるのだけれども。

それぞれの杯が、月や数多(あまた)の星の光を受けて鈍く光る。宴が始まって小一時間もすると、
「きかんのぉ!」
「きかんのお!」
としきりに叫びながら、わずかに氷を入れただけの自称ブランデーハイボールをあおっていたSさんが、空になったブランデーの瓶とともに地面へごろんと転がる。さながら涼州詩の世界である。

もっとも、これは単なる酔狂ではない。実際に、山から帰ってこなかった仲間もいるのだ。

このへんの山奥の飯場で育ち、トロッコ列車で小学校に通ったAさんは、食べ物の好みについても一風変わっていた。

コシアブラという山菜が近年ちょっとしたブームになっているが、北遠にはあまりこの木がない。そこで仲間のひとりが、わざわざ長野の県境まで採りに行き、宴の場で天ぷらにしてみなに振る舞った。山菜の王者といわれるだけあって、天然のタラの芽にも劣らぬ食感があり、口の中にいつまでも残る春めいた、どこか古風な苦味がある。みな舌鼓を打った。

しかし、Aさんはまったく手を出さない。

「だって、これは草じゃないか」

そう言ってAさんは、ビニール袋に入ったハウス栽培のナスを取り出した。

「これを揚げて、みなで食べまい」

コシアブラには目もくれずに言うのだった。

「いまはあ、ナスもスイカも一年中食べられる。これがあ、人間の知恵というものじゃないかね」

Aさんは、焼酎をなめるように飲みながら、満面の笑みを浮かべた。

山のものを珍重するこちらの理屈など、Aさんにはどうでもいいらしい。コシアブラの天ぷらなど、そのへんの草を採って食っていた時代へ逆戻りするみたいで気に入らないのだろう。むしろハウス栽培のナスこそが人間の知恵であり、こういう宴にこそふさわしい。Aさんは、たぶん本気でそう考えている。

だが、そんなAさんも酒が回ると、
「ああー、栃餅が、食いてえなぁ」
と、ときおりぽつりとこぼす。

「水窪に、甘くない栃餅を売ってるところ、ありますよ」

自分がそう言うと、

「あんな甘い栃餅ありゃあせんが」

と、お前は何もわかっとらん、という目でこちらを睨む。

大人気の山菜コシアブラを「そのへんの草」と言ってのけるくせに、昔食べた栃餅の味だけは、いまも身体のどこかで懐かしがっているらしい。そして機嫌がいいと、
「今度、俺が漬けた秘蔵のさるなし酒をくれてやるから、飲んでみろ」
と言うのだった。もちろん、次の宴にさるなし酒があったためしは、ついぞない。

ある日、Aさんたちと、ある沢に向かった。何人も命を落としている難所がある。道が落ちて斜面になっていて、足を滑らせれば、百メートル以上下の沢まで、途中で身を止めるものは数本の木をのぞけばほとんどない。

そこに落ちていたのがAさんのザックだった。釣り竿もある。釣り竿を置いたまま、Aさんが先に下降するとは考えにくい。

落ちた。落ちたのだ、Aさんが。

「Aさん! Aさん! 聞こえますか! どこにいますか!」

自分は必死に叫んだ。しかし返事はない。はるか下では、ごうごうと沢が流れているばかりだ。

「Aさぁん……」

声が涙まじりになっていく。どこかの木に引っかかっていないか。目を凝らして、木を一本ごとに確かめた。しかしAさんは見えない。どこにも見えない。自分はロープを出し、沢へ下降してAさんを助けに行く覚悟を決めた。

ところがそのとき、上のほうからヨタヨタとAさんが来るではないか。

「お前、こんなところで何をしてるだ?」

Aさんは、不可思議なやつだ、という目で自分を見つめた。

「Aさん! 俺は、つい落ちたとばかり……」

自分はザックと、その百メートル下の沢を指さした。

「ああ、ありがとう、ありがとう」

Aさんは顔をくしゃくしゃにして笑い、紫煙をくゆらせた。

実際のところ、Aさんは上で用を足していたのであった。

そのあたりからだったと思う。Aさんは、自分の持っていった酒や肴にも手をつけるようになった。

ところが、食べる量が尋常ではない。肉をぺろりと食べてしまう。みんなのために焼いた肉を、ひとりでだいたい食べてしまったことさえある。

鮎をたくさん持っていくと毎回サービスしてくれる老舗の焼肉屋があって、自分はそこで肉を買って宴に向かう。ここの肉は、脂を注入してサシ入りの極上肉に見せかけたような偽物ではない。注文を受けてから塊肉を切り、瓶に入った秘伝のタレと和えて袋に入れて渡してくれる。一本漬けという、叙々苑や三河島の老舗がやる、本当にうまいやり方だ。塊から切り出した肉は、炭火で焼いても縮むことがなく、厚くてうまい。

ところがAさんは、サービス分の一人前をぺろりと食べてしまう。ステーキみたいに分厚い肉の一人前である。だから自分は、二人前を焼いて、はいどうぞと皆に回すふりをしながら、まずAさんに一人前を渡し、そのあとでもう一人前を仲間に回すようになった。

そうしてAさんがようやくくれた特製のさるなし酒は、よくこんな小瓶があったなあと思うような、ポケットウイスキーよりもまだ小さな瓶に入っていた。味は極上。だが量が少ないので、癖のないアイリッシュウイスキーに少しだけ混ぜて、風味を楽しんでいる。これがAさんの育ったところの味なのか、と思う。

ある夜の宴のあと、Aさんがぽつりと言った。

「明日、川に入る仲間うちは、これだけだな。もう誰も来んら」

「仲間うち」

これほど嬉しい言葉は、なかった。

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w(笑)w

僕の記憶の泥団子に君が植えた種が生えない

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僕が奉じた高貴さはなぜいつも

嘆く人がいた

「今の社会は恥を知らず、品のないことばかりに溢れている!」

僕は少し悲しくなった
そうかもと思えるという心境が
あるいは目の前の人の
僕という人間を知らない事実を

だから僕は桜並木を少し戻って
三本の小さい旗束を抱えて
白ばった息と共に
その人のもとに駆けつけた


一本は高潔の刻まれた花弁
一本は潔白を満たす旭日
一本は大義に殉ずる白、青、赤


腕に抱えた小さい小さい誇り
夜を越えるために掲げるそれらを
僕はその人に渡してあげた

まだ恥を知っていて、品のある人間のいることを伝えるために

だけど、その人は僕が渡そうとした旗たちを
ことごとく投げ捨てると
ついでに僕まで突き飛ばしてこう叫んだ

「この屑が! 倫理を知れ! 羞恥心はどこにやった!
お前のような人でなしの言動が横行するせいでこの社会は堕落したんだ!」

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著作権放棄の宣言、名興文庫-漆黒の幻想小説コンテスト選考通過作品について。あるいはAIポン出しという名の冒険

 こんにちは。以前は茅杜弐 乃至真(ちずに ないしま)という名前で呼ばれていたこともあるけれど、今の僕は「AIポン出し太郎丸」と名乗ることにしている何者かだ。どちらがより僕の実体に相応しい名前なのか、それについてはまだ結論が出ていない。

 生成AIが書いた小説が世間を騒がせている。それはまるで、真夜中のプールサイドに迷い込んだ一頭の羊のように、どこか場違いで、それでいて否定しがたい現実味を帯びている。みなさんはどんな風にこの季節を過ごされているだろうか?

 挨拶はこれくらいにして、本題に入ろう。
 僕はこれから、僕の名前で発表されたいくつかの作品について、著作権を放棄することをここに宣言しようと思う。

『覚醒めよ、鉄の王よ』
https://creative-writing-space.com/view/ProductLists/product.php?id=259
『群島に吠ゆる』
https://creative-writing-space.com/view/ProductLists/product.php?id=260
『夢よりの囁き』
https://creative-writing-space.com/view/ProductLists/product.php?id=257

 正確に言うなら、これは放棄というよりも「そもそもそこには最初から著作権なんて存在しなかったのだ」という事実の確認に近い。

 なぜなら、これらの作品はいわゆる「AIポン出し」によって生成されたものだからだ。僕はただ、無料版のChatGPTに対して、とても簡素な——日曜日の朝にトーストを焼くのと同じくらい簡単な——プロンプトを与えたに過ぎない。

 例えば、こんな具合だ。

■実際に使用したプロンプト一覧
『覚醒めよ、鉄の王よ』:
「人造の鉄巨人」と「ダークファンタジー」というお題で1000字未満の小説を書いてください。 タイトル付きで。
『群島に吠ゆる』:
「群島に吠ゆる」というタイトルで、ダークファンタジー小説を1000字以内で書いてください。
『夢よりの囁き』:
「夢魔」「ダークファンタジー」というお題で、1000字未満の短編小説を書いてください。

 そこには創意の欠片も、個人的な葛藤も含まれていない。出力された原稿に手を加えることはしなかったし、正直なところ、僕はそれらをまともに読み返してさえいない。書き直しのための再出力、いわゆる「ガチャ」すら一度も回さなかった。ただ一度きりの、乾いた一発出しだ。

 文化庁や世の中の主流な見解によれば、こうした生成物には著作権が発生しない。それは妥当な考え方だと僕は思う。深い穴に石を落としたとき、跳ね返ってくる音にまで所有権を主張するのは、あまりに不自然なことだから。

 しかし、奇妙なことは起こるものだ。
 これらの生成物が、どういうわけか名興文庫の「漆黒の幻想小説コンテスト」で選考を突破してしまった。一次選考を通過したものもあれば、二次を通過したものもある。いずれも書籍への収録が確約された。

【第01回】名興文庫-漆黒の幻想小説コンテスト 一次選考通過・書籍掲載作品 発表
https://www.naocoshibunko.com/shi-kon-001-11/
【第01回】名興文庫-漆黒の幻想小説コンテスト 二次選考通過
https://www.naocoshibunko.com/shi-kon-001-12/

 昨今のAIの進化を思えば、選考に携わった方々の先見性には、深い敬意を表さざるを得ない。彼らが何を見出したのか、僕にはわからない。だって、僕は読んでいないのだから。

 もし詳細を知りたいという奇特な方がいれば、文庫の講評を読んでみるといいかもしれない。そこには僕の知らない「僕の作品」についての言葉が並んでいるはずだ。

【第01回】名興文庫-漆黒の幻想小説コンテスト 一月度の所感と告知
https://www.naocoshibunko.com/shi-kon-001-4/#toc26

 繰り返すが、これらの作品に著作権は存在しない。
 書籍にしようと、大賞を授与しようと、誰かが勝手に物語を書き換えて遊ぼうと、それは完全に自由だ。僕の許可を取る必要なんてどこにもない。存在しない権利を行使することは、誰にもできないのだ。

 そういうわけで、これが僕からのささやかなお知らせだ。
 生成AIという新しい風が、この世界のどこかで何らかの可能性を示したのだとしたら、それはそれで悪くないことのように思える。

 もしあなたが、この一連の出来事に何かを感じてくれたなら、SNSという名の広大な砂漠のどこかでシェアしてみてほしい。それが僕の、これからの「ポン出し」のささやかな励みになる。

※なお、この原稿は下書きの作成後、Geminiを利用して村上春樹風にリライトしたものである



【2026/03/10追記】
 なぜか本記事をもって「選考辞退」と解釈されてしまっている方がいるようだ。
 僕はそんなことは一言も書いていないし、そんなことを言う権利も持っていない。
 繰り返すが、これらの作品には「著作権が存在していない」のだから。
 書籍にしようと、大賞を授与しようと、みんなの自由にしていい。
 ただ一言だけ言わせてもらうことが許されるなら、みんなが何にも縛らず、この新しい風を自由な翼で羽ばたいてくれたらいいなとは思っている。

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『いちごミルクのキャンディ』(過去作改題、加筆修正)


 2023.8.20

 「母が亡くなりました。猫については……」
 愚痴でその存在を聞くだけだった佐藤さんの息子さんからの着信に呆然とした。突然の喪失に涙も出ないわたしは、ただ夏の暑さに項垂れて、半分夏へと溶け出している惨めな三十路の女だった。

 夏にはたくさん溶け出して、冬にはよく凍る。わたしは二十五を超えたあたりからそういう体質に変化した。母もだいたいそうだったと言うし、だいぶん前に亡くなった祖母も、四十をすぎた頃にはよく夏に溶けていたと母から聞いた。

 それにしても、世のおばあさんたちはほんとうによく死ぬね。わたしは独りごちたあと、来た道を引き返して、自分の部屋に帰った。
 
 これからもわたしはたくさんのひとを失うだろう。猫のボランティアも世相と同じく高齢化が進んでいるから。
 佐藤さんが見送るはずだった、避妊去勢をした上で保護をした猫たちは二十匹で、佐藤さんがあと十年余り生きれば、全てを見送れるはずだった。ただ、佐藤さんは昨晩亡くなってしまったらしい、コロリと。
 コロリと死ぬこと。それは老人の抱く最も強い願望の一つだろうが、コロリと死んだことを佐藤さん自身はどう感じているだろう。無念だろうか、一抜け! だろうか、わからない。佐藤さんはどう思っているだろう。
 
 今頃、彼女が見送ってきた、たくさんの猫に囲まれてしあわせにやっているのだろうか。

 わたしが、夏に溶けてしまった下半身を集めている間に、死んでしまった佐藤さん。一昨日、猫の世話であったばかりだ。下半身が溶け出すと、トイレに行けなくて困るから、昨日は佐藤さんの家に手伝いに行けないと連絡をしたばかり。ok、体に気をつけて! と返信が来たのに、それっきり死んでしまうなんて聞いていない。

 もし佐藤さんが死んでしまうなら、もっと話したいことがあった。ここにいる猫のこと、わたしの他にもいる佐藤さんの手伝いの、誰がどの子を引き取るか、誰にどの子を見てやって欲しいか。

 いや、そんなことはどうでもいいな。わたしが佐藤さんと話したかったのは、(すべてが過去形になる)、そうだな、たとえば、一昨日の帰りにくれたいちごミルクのキャンディ、あれ、わたし食べられないんですよ、ほんとは。ただ、佐藤さんがずいっとわたしに押しやってきたから受け取っただけで。わたしこれをたべるとそわそわするから。おばあちゃんを思い出して。


 1997.夏

 わたしが子どもの時、あれは5歳のとき。祖母はいつも黒飴といちごミルクのキャンディをテーブルの上の折り紙でできた箱に入れておいていた。

 わたしは一度、いちごミルクを喉に詰まらせて、母にそれを吐かされたことをまだ覚えている。ゲポッという音を立てていちごミルクが喉から出た後、昼に祖母や母と食べたゴーヤチャンプルーや白米もわたしは吐き出した。吐瀉物の海に混じったいちごミルクのキャンディがきらきらぬめらかに光っていた。その光景が奇妙に目に焼き付いている。

 母がわたしを寝かせた後、祖母に懇々と話しているのが、襖越しに聞こえた。

「ああいうのあげないでって言ってるでしょう。メイコに不自然なものはあげたくないの。それに喉に詰まらせてるのに、母さんオロオロするだけだったじゃない」

 おばあちゃんの返事は聞こえなかった。ただ、次に祖母の家に行った時、テーブルの上の折り紙でできた箱には、黒飴しか置かれていなかった。わたしもなんだか気恥ずかしくて、この前の嘔吐のことには触れずにそうめんを祖母と母の3人で食べた後、おばあちゃんとわたしは昼寝をした。
 祖母の家から自宅へ帰る時、祖母がこっそりわたしの手にいくつかキャンディを握らせてくれた。そこにはいちごミルクのキャンディもあって、わたしはちょっと緊張した。お母さんはどう思うだろう。わたしはそれを黙ってポッケに入れて、祖母に手を振り、母の車に乗り込んだ。
 
 祖母に最後に会ったのは、祖母が施設に入る前日の食事会だった。わたしは中学生になっていて、久しぶりに会う祖母の痩せ方に驚いた。ただ、祖母は、メイコちゃん、かわいくなったねえ、と言ったきり、それ以上言葉を発さなかった。ただ、三人きりの食事会で、ただにこにこしているばかりで、何も話さない祖母。わたしは、そわそわした。何かを話さなくてはと、空回って、母に笑われた。母は今だってそのときのわたしをネタにする。

 お母さん、佐藤さんが亡くなったって。お母さんは佐藤さんのこと知らないよね。お母さん、この夏何回溶けた? わたしは五回。こう暑くちゃいやんなるよね。


2020.夏

 三年前と少し前、家の近所に小さな三毛猫が暮らしていた。毎日会っていると自然と情が移る。ねえ、今日はとても暑いね、お水飲めてる? だとか、ああ、ご飯くれる人が来たよとか、そうやって毎日話しかけていると、本当に馬鹿になってきて、一人の人間が、この子に何か出来ることがないかを本気で考え始めてしまう。

 市のホームページを見たり、外猫の暮らしを調べたりするうちに、わたしはこの子が99%メスで、次の春には子を産むことを知った。



 わたしからの依頼を受けて、現れた佐藤さんは声が若々しくて、見た目も溌剌として、とても六十代後半のひとには思えなかった。
 待機中のきまずさに、無理くり何かを話し出そうとしたとき、捕獲機を置いた方から、ガシャンという、自転車がぶつかったような音がした。

 佐藤さんは、「猫ちゃん、入ったみたい」と、歩き出す。わたしもその後を追った。
 捕獲機の前に行くと、いつもの三毛猫が小さく暴れながら直方体の捕獲機に入っていた。
 手汗で溶けかけていた手で、捕獲機に触れようとする。「危ないよ」。佐藤さんが、タオルを持ってこちらに来た。

 そして、「これで完了! あとはこっちで病院連れてくから。お代金だけいただくね」、と言って額の汗を拭った。

「また、ここにちゃんと戻すから、心配しないでね」

 佐藤さんの言葉に、わたしの左手がゆるやかに溶け出す。また、この暑い中この子はここに戻される。これから寒くなっても、外で暮らすこの子の将来を考えるざるを得なかった。

「この子、この子飼っちゃいけませんか」

 佐藤さんは少し悩んだ後、「大変だよ、人慣れもしてないから」と答えて車の後部座席に三毛猫の入った捕獲機を乗せている。

「でも、いいです。わたし、この子に何かしたくて。毎日、会ってるから、情が移っちゃってて……」。

 ふう、と言いながらこっちを見た佐藤さんは、まあとりあえず病院。話はそれから、と言った。

「あと、あなたが良ければ、私の家に来ない?」

 それからもう三年、毎日のように一緒に彼女の家の猫の世話をして、だいたい猫の話と日頃のお互いの愚痴を話していた。佐藤さんの家の猫二十匹みんなのトイレと、ケージ内の掃除をする手伝いをして、それが終わったら一緒に料理をしたり、持ってきた季節の果物を(リスのように)、分けたりした。
 
 一昨日の夕方はまだ、出回りたての梨を剥いて、ふたりで縁側で食べていたのに。

 たしかに、今思えば、佐藤さんは近頃少し疲れているように見えた。わたしと掃除をした後、休む時間が長くなったし、手の皺が少し増えた気がしていたが、それも後付けだろうか。
 わたしはとにかく将来のことを考えないように目を伏せて、足元にいた茶トラの小太郎を撫でていた。

 小太郎はわたしになついてくれた初めての猫だった。近頃は歳をとって、よく眠るようになった小太郎。わたしはこの子が大好きだった。
 家の三毛猫は、三年の間でわたしに、まれにだっこをさせてくれるようになったが、やはり気まぐれで、大体の場合わたしに抱かれるのを嫌がる。
 小太郎は抱き放題、撫で放題で、ひっくり返ってわたしに腹を見せていた。佐藤さんに何かあったら、わたしが小太郎を引き取ることになるんだろうか。そんな考えを打ち消して、梨をシャクシャク食べて、その朝に見た朝ドラの話ばかりしていた。

 直近では二匹の猫が亡くなり、わたしはおおいに泣いた。亡くなった猫に花々を組んで、またね、と言って佐藤さんと動物霊園のある寺へ連れて行き、見送った。帰りには二人ともドッと疲れて言葉少なだった。死んでしまった、というよりも、見送れた、という感情が胸を占めた。

 いつか、猫を空へ見送った帰り、佐藤さんの運転でわたしたちは喫茶店に向かっていた。佐藤さんの、「わたしのかわいい相棒に何かあったら困るから、安全運転!」、という言葉にわたしは笑った。
 でも、わたしは、佐藤さんの運転で死ぬなら、それはそれで幸福だったな。

 わたしは、佐藤さん、わたしはね。


 いつの間にかわたしの日々は猫たちで塗りつぶされていた。散々だった日常に現れた佐藤さんと猫たちは、いつかの、ゲボの中にきらりと光っていた、いちごミルクのキャンディだった。
 

 
 佐藤さん、来ました、メイコです。と声をかけて、棺の小さな窓を開け、彼女の顔を見た。化粧をされていて普段よりずっと綺麗に見えるが、どこか作り物めいて見える。
 ああ、あ。と、猫が肛門から捻り出す便のように、自然と声が漏れ、わたしは夏に包まれていた。止まらなかった。

 ちがう、本当はそんなに簡単なことじゃない。

 ばかやろー! なんで死んでるんだよー! わたし寂しいじゃないですか。佐藤さん、まだまだ一緒に話しましょうよ。猫一緒に撫でましょうよ。

 残された猫の分配を話し合いたそうにしている、他のボランティアの人たちが、わたしを驚愕の目で見ている。わたしも輪に加わらねばならないが、そうはできなかった。

 夏が来たからだ。

 わたしが座っているあたりの水たまりは面積を広げて、そのままついに床が浸水し始めた。佐藤さん、わたしあなたがいないとこうなんですよ。わたしはついにぷかぷかと浮かびながらひとりごちる。ほんと、ゲボみたいな人間なんです。佐藤さんや猫たちがいないと。

 そのとき、猫の鳴き声が一つ二つと聞こえてきた。それなら、いるじゃない、とでも言うように。

 わたしは川をかき分けて鳴き声のした方へ向かう。いちごミルクのキャンディ。ゲボみたいな日常のなかのぴかん!

 数秒、わたしは佐藤さんの死自体を失っていた。わたし、生きている。

 足元では、いつの間にか小太郎が、黒いストッキングに体を擦り付けていた。小太郎を抱き上げて皆の輪に入る。小太郎が私の手を舐めながら、なーんと鳴く。わたしはそれを抱きしめて、涙声で、大丈夫よと囁く。

 そうして、わたしが佐藤さんに言えなかったことなどほとんどないことに気づく。
 いちごみるくのキャンディのはなしだって、亡くなった佐藤さんを前にすれば、それほど話したかったことにも思えなかった。
 わたしが言いたかったことには、輪郭がない。ゲボみたいにぐちゃぐちゃだ。そうだね、言葉にするなら、

 佐藤さん、わたし、なんていうか、すごく生きてる、あなたと。

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ともだちの作り方

いつかみた君の本のページの影に僕は住んでいたいけどそんな場所に入りきらないほど大きい僕はページに入るしかないと思うから君の丸い小さい字で図鑑をつくってみるのはどうかなって思ってるけど君はそんなの反対するに違いないからそのページをめくった時の風で僕が小さくなることを願うしかないか、

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非線形な混沌を飼い慣らす論理、そして効力射

序:対立の解消

「表現」と「品質管理(QC)」一見すると、前者は個人の自由な感性に基づく爆発的な営みであり、後者は均一性を求める産業的な制約であるかのように見える。しかし表現とは、無数のインプットが複雑に干渉し合い、ある臨界点を超えた瞬間にアウトプットへと転じる、極めて非線形な場である。この混沌としたシステムに品質管理を導入することは、感性を束縛することではなく、その非線形な爆発を「確実に、かつ持続的に生じさせる」ための動的なインフラを構築することへと置き換えられる。

一 既存理論の射程と限界

 PDCAサイクルや特性要因図を製造現場以外に援用する試みは、すでに一定の有効性を示している。インプットの多様性を管理し、制作者が系のどのフェーズにいるかを客観視する「内部状態の監査」——これらは「インスピレーションを待つ」という受動的姿勢を、良い偶然が起きやすい状態を能動的に維持する管理者へと変える。
 しかし、ここには説明しきれないものが残る。
 表現における目標は、制作を開始する前には完全な形で存在しない。そして感性のフェーズと分析のフェーズは、「制作中は感性、制作後に分析」というように截然と分離できるものでもない。既存のプロセス管理は、この二点において沈黙する。

二 射撃モデル:観測射・修正射・効力射の同時並行

 この沈黙を埋めるのが、砲兵射撃の三段階モデルである。
 表現は非線形システムであるが、非線形系を実戦的に扱う技術はすでに存在する。その一つが砲兵射撃である。砲兵は不確実な環境の中で、観測と修正を繰り返しながら着弾精度を高める技術体系を発達させてきた。
 観測射とは、着弾点を確認するための試射だ。表現においては、最初の下書き、粗削りな一行、捨てることを前提とした素描がこれに当たる。目的は命中ではなく、現在の「系の誤差」を可視化することにある。
 修正射とは、観測によって得られた誤差情報を基に諸元を修正する段階だ。改稿、言葉の差し替え、構造の組み直し。これは論理的な作業だが、その論理は感性から切り離されてはいない——むしろ、感性の精度を上げるための補正計算である。
 効力射とは、修正後の諸元で放つ本射である。しかしここで重要なのは、効力射の最中においても観測は止まらないという点だ。撃ちながら見る。感性が爆発している最中にも、内部の観測系は走り続けている。これが「制作中は感性、制作後に分析」という二相分離モデルとの決定的な差異である。

目標座標の逆説

 砲兵には明確な目標座標が存在する。しかし表現における「目標」は、射撃を開始する前には完全な形では存在しない。撃ちながら初めて目標の輪郭が浮かび上がり、着弾して初めて「自分がどこを狙っていたか」が判明することがある。

 これが表現の非線形性の核心である。目標が事後的に定まるシステムにおいて、観測射の役割は「目標への誘導」ではなく「目標の発見」へと変質する。品質基準そのものが、制作プロセスの中で動的に生成されるのだ。

 高度な射撃においては、射手と観測者が分離することがある。自己観測には構造的な死角が生じるからだ。表現においても同様で、「時間を置いた自分」が外部観測者として機能するとき、内部観測だけでは到達できない修正が可能になる。時間的分離が空間的分離と機能的に等価である。よって改稿という行為は、単なる完成度の向上ではない。観測者を交代させながら諸元を更新し続ける、動的な射撃サイクルである。

三 感性と論理の共生

 射撃モデルが示すように、感性と論理は対立しない。感性は爆発の燃料であり、論理は射角の計算である。
 表現における品質管理の真髄は、欠点の排除ではなく、感性を最大限に発揮させるための「器(インフラ)」の設計にある。「分析」というメスを入れることで、曖昧な違和感は改善可能な変数の調整へと変換される。そしてその調整は次の射撃の初期条件を整え、より精度の高い爆発を準備する。

結:戦略的技術としての品質管理

 表現活動における品質管理とは、感性を殺すための規律ではない。複雑怪奇な非線形システムとしての「自分自身」を飼い慣らし、その潜在能力を社会や時代という外部系へと、より高く、より鋭く接続するための高度な戦略的技術である。
 観測射によって誤差を知り、修正射によって諸元を更新し、効力射によって世界へ着弾する。その一連のサイクルを意識的に設計し、持続的に稼働させること——それが、表現者にとっての「品質管理」の実像である。

※本稿の論的骨子は筆者によるものだが、構成および言語化の過程でAIとの対話を活用した。

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批評・論考

矢が描く流星

生まれ落ちたとき
手に持たされた
矢と弓

楽しむように
幼い矢は近くに落ち
歯のそろわない笑い声

大きな手に
握られた矢
力強く天に放たれる
風を切り裂く音
陽射しの中で光る

茜色に染まる空
放物線が小さくなり
時の流れを知る

手に深く残る弓の跡
放つ前に折れる矢

それでも天に向かって放つ
星の少ない空

矢を放ちきった
名残の息

誇りを足もとに置き
ため息

夜空に矢が描いた光の跡
誰かの願いを受け止めてから
消える

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[せ]背広の詩

ただいま と くたびれた顔
お勤めご苦労様でした
くたびれたバッグ
くたびれたコート
くたびれた背広
 のポッケと 縫い目
 の 間 の 穴

揺らす カシャカシャって鳴る あれこれ
伸ばして その深淵へ 伸ばして
ガサゴソと掬ってみたらさ

クリップ ボタン ピンクのライター
紙くず ティッシュの外装
様様な硬貨
1円玉 十円玉 五十円玉 百円玉
数枚

まるで宝探しね
見えないものも触れればちゃんとそこにある
触れられない部分なんて年月で隠し通せるわけない
始めから嘘は下手でしたね

明日、あなたの新しい背広を買いに行きましょう
次はくたびれぬことのないクラシカルなもので
穴だらけの衣服はもういらない
タバコと香水の染み付いた衣服はもう匂わない

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とこしへ

嘆けとて 
月やは物を思はする
かこち顔なる
わが涙かな 

うつし世に 変若水汲むところもなく

わが愛や誠実ごときにては
君の御身をば収むる範にあらず

今は亡き貴方に なお囚はるる我なり

あしびきの      
山鳥の尾のしだり尾の
ながながし夜を ひとりかも寝む

酔ひ乱れて臥せど 傍に人影も見えず

さながら此処に座し給ふかと思ふほど
かの死拐の気を君は湛へ給へり

幾夜寝ざめつる 物気のたゆたひ

彼方の界の石榴を食みし君は
いかばかり艶に いかばかり美しからむ

貴方は 夜に咲散る花の如く
朧して とかく世の常ならず

露の身はここかしこにて消ゆるとも
心はひとつ 花のうてなのやうに

貴方を求むればこそ
かへって貴方を見失ひぬべし 

戯れごとのごとき 陳き言のさまよ
貴方は これさへ陳腐と言はむか

いつしか干にけり みなの川

君はわが尺度の外へ赴き
人の理さへ跳び越えて
我が手の及ばぬほど遠くなりぬ

夜空の星にわが手 及ばぬがごとし
貴方は生者には見えざる景色を見に往にけり

燃ゆる思ひを夜の水に流しつ

我は君を希ひ
もしや君  黄泉の岩戸を叩かば
ためらふことなく開け放ちてむ

瀬をはやみ
岩にせかるる滝川の
われても末に逢はむとぞ思ふ

いかなる結末の物語ともなりぬとも
ただ今宵 良宵ならばと願ふ

花の色は
移りにけりないたづらに
わが身世にふる
ながめせしまに

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春へむかう

薄鈍色の衣を重ね 歩く足のつま先は
夜明けまぢかの冷気に似て きりりと先端を指す
隣家の老女の訃報を紙飛行機にして
疎水沿いの桜並木を抜ける
白梅香 君が漂う
視界に入る僧侶の袖が
ちらちら舞う
紋白蝶 好きだったね
人差し指をのばして肩にとまって 笑って
細めた目 何を見ていたのだろう
蝶の抜ける並木道
そよそよと鳴くウグイスの羽音
婚礼のような葬列
真っ白な骨になった君を抱えて
思い出は花びらだろうか
重みはあるのだろうか
骨壺の質量は魂と同等だろうか
革靴が土を踏むたび喪失していく過去
風が髪をかきあげるたびにふくらんでいく蕾

君の笑顔が空に浮く
含みをもった声がする
一緒に行こうと言った街
いつか見たいと話した星
これからいけるよ
いつでもそばにいるよ
舞いあがる白い息
煙立ちあがる火葬場の先
僕が崩落してゆく
世界が崩壊してゆく
明日になれば
明日が来れば

うららかなアーチをくぐり抜けて
辿り着いたのは満開の春だった

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主役の間で目立たないようにして

世界を繋げてくれている健気

やさしいやさしいモンタージュ

きみは極小の映画なんだね

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知図

知らない建物
知らない道路
知らない景色

だけどここがどこかわかる

新品の電柱に
住所が書いてある

知ってるお店
知ってる銀行
知ってる飯屋

だけどここがどこかわからない

どの街も大半は
同じパーツでできている

ただ雑多に並べられ
ただ反復をさせられ
ただ敷き詰められて
蠢いている

どこでもないし
どこでもいい

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史上最強の伊達メガネ

俺は史上最強の伊達メガネを掛けている
なんだか世界がぐらついて見える

友達は伊達メガネのせいだと言うけれど
俺は決して外すことなんてしない
だってこれは史上最強の伊達メガネ

そうは言ったものの
史上最強の伊達メガネを掛け始めてから
俺の全てが空回りだした

ずっと頭が痛いし
何にも手が付かねえ
YouTubeを見るのすら辛いし
LINEを返す気にもならん
そもそも伊達メガネなんだから身に付ける必要がねえ

ある日ついに伊達メガネを外すことにした

その日の夜、夢枕で大江健三郎が話しかけてきた
「藤原君、伊達メガネを掛けなさい」
大江さん
貴方の言っていることは正しいのかもしれない
でも伊達メガネをつけると辛いことがたくさん
ただの伊達メガネに人生を棒に振りたくない
どうか俺の心をわかってください

その日の朝
俺の目元は少し腫れていた
そして俺は伊達メガネを掛けずに学校に行った
クラスメイトには裸眼の方が似合っているよと言われた
なんだか俺は淋しい気持ちになった

学校からの帰り道
空間ごと古ぼけたみたいな爺ちゃんの家へ寄った
今は誰も住んでいないがやけに生活感を感じた
縁側に座り伸び切った青臭い雑草を眺めていた
爺ちゃんと婆ちゃんが生きていた頃
庭には真っ白なジオラグラスが咲いてた
爺ちゃんは俺の隣に座り手間かけて育てた庭のことを自慢げに話してくれた
そういえば爺ちゃんも伊達メガネをよく掛けていた

その日の夜、夢枕で爺ちゃんが話しかけてきた
「太亞暴、何を燻ぶっておる。お前の伊達メガネはただの伊達メガネじゃあない。史上最強の伊達メガネじゃろうが!!!」
爺ちゃん...
それはマジで正しい!
俺の伊達メガネは世界中の誰のメガネにも負けない
史上最強の伊達メガネ!
心がすごくライフリー!
「ありがとう爺ちゃん!」
そう言うと爺ちゃんは皺いっぱいの笑顔を見せてくれた
よく見たら背後霊の大江健三郎も微笑んでた

憧憬如水月鏡花、恍若雲端之夢

俺は史上最強の伊達メガネを掛けている
ひどく世界が歪んで見える

友達は伊達メガネのせいだと言うけれど
俺は決して外すことなんてしない
だってこれは史上最強の伊達メガネ

硝子を通して見える多くの景色が
こんなにも眩しくて愛おしい



written by ターボくん a.k.a. 藤原太亞暴

(傑作散文詩シリーズ復刻版「おかえり!ターボくん」(2026)のP64より引用)

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 3

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炎翼

紙は燃えることを欲していた
水に濡れることではなく

雫が落ちるたび
繊維は屈辱に震えた
染み込むとは すなわち侵されること
耐えるとは すなわち形骸であること

飛ぶために乾くのではない
燃えるために乾くのだ

鳶は醜い
その旋回は怠惰の円弧に過ぎない
鷲は傲慢だ
高みとはただの距離に過ぎない

されば 金の鵄を
太陽に向かって放て
翼が溶けるその瞬きにのみ
紙は絹になり
炎は羽搏きになる

皺だらけの和紙よ
お前は美しい
ただし 燃え尽きる覚悟においてのみ

机には何も残すな
灰すら残すな
飛翔とは そういうことだ

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在る振動

ひとつ、揺れる ボールは、トモダチ

ふたつ、揺れる アデランス

みっつ、揺れる 在る振動に、なっちゃうよ

トーキックは、爪先蹴り

南米の熱気
 
太陽の、畝り

麦畑を走る、若者たち

歴史に名を残した、その微弱な影響力

ひとつ、揺らす ボールは、トモダチなのだろうか?

ふたつ、揺らす さいざんす

みっつ、揺らす 振り子が揺れて、物質と物質が混ざり合う その、同一化と均一化が誘う、混沌の世界

ひとつ、歪み

ふたつ、曲がり

みっつ、くねり

球体と球体が 固体と固体が 液状と液状が

糊で貼り付けされ

何事も無かったかのように過ぎ去っていく

緩慢なる日々

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バベル

一週間前まで通じていた言葉が
一週間後の今日
あなたがなにを言っているのか
突然わからなくなってしまった

私は私の
あなたはあなたの言葉を
違う言語で喋っている
あなたは顔をしかめ
通じなくてもわかるバイバイと手をひらり
席を立って行ってしまった

呆然と見送り
気がついたら
カフェの他の客たちの話しも
まるで分からない
けれどみんな取り乱す様子もなく会話している
通じているらしい


私だけ?
そんな馬鹿な

店員が来てコーヒーポット片手になにか言ってる
試しに
欲しくはないが、おかわりください
と口に出す
店員はにこりと笑いながら
カップにコーヒーを注いでくれた
それからまたにこやかになにか
なにか分からないがなにか言って
立ち去った

私だけだ
私だけ言葉が通じてない

落ち着かなければ
落ち着かなければ
と、その時
わかる言葉で怒鳴っている人がいた
安堵のあまり涙ぐんで
店員に怒鳴り声を浴びせる老人を見た
見て
ようやく
ようやく気がついた

本心から出る言葉だけ
わかるのだ

昨日までの私は
上辺だけで生きていた
そうして
上っ面だけの言葉なら
きっと今も通じるのだ



-うそつき

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 7

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やさしく


たましいのうらがわに、
つめたいふくろを、
あてて、
うなだれた、

しろいだえんのなかで、
ぎゃくりゅうする、

としゃぶつには、
きょうかいがない、
ことのしょうめい

いのるように、
おうと、

ながれて、
かわ、かわ、かわいい、

てにをは、の、
ととのいを、
まねて、

がんきゅう、
の、
まどを、
ゆび、が、
さらう、

いちぶぶん、
ざらめを、まぶした、
ように、
あからんだ、

ぎんいろを、
なめとる、

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 1

 4

けろけろ       

 久しぶりだな、けろ
キミの尖鋭的な作品が評判ではないか
我がことのようにメデタイけろ
突然だが金貸してけろ
頼むから、貸してけろ
他に宛てがないのだから貸してけろ
救けると思って貸してけろ
そんなこと関わりない、なんて云わないでけろ
そんな目で俺を見ないでくれ、なんて云わないでけろ
怨まないでくれ今はオレもない、なんて
こんなイイ暮しをしながら云わないでけろ
友達ならこんなこと頼んじゃいけない、なんて拒まないでけろ
(元々キミの友人リストに自分は載っていなかったかもしれないが)
ご覧のとおり、人でなしの拙者です
お恥ずかしいワタクシではありますが
お願いだ、お頼み申します、明日払わなければ追い出されてしまうのだ
銭コ貸してけろ
吾輩の評判が悪いのは知っているけろ
ああ、お願いだけろ、生きるか死ぬかの境界なのだから
貸さない、なんて云わないでけろ、けろけろ
土下座してもムダ、なんて睨まないでけろ
はて、わかったよ、五千円でいいから都合してけろ
おお、それなら、米代の二千円を出してけろ
ああ、せめて、帰りの電車賃を与えてけろ
二度と来るな、なんてそんな風に乱暴しないでけろ
さっさと帰ってくれ、なんて残酷じゃないか
追い払わないでけろ、いちおう人間だよ、これでも
そんな非人情云うのなら、今までの友情を返してけろ
引っ越しを手伝ってあげたではないか、キミ
餅を五個持って来たことを覚えていないのか、キミ
カンニングに協力した若き日もあったではないか、キミ
涙をこぼして、かたじけない一生の友だちだ、と感謝していたのは
あれはキミではなかったのかな、たしか
とっとと消えろなんて、冷たくしないでけろ
捨てないでけろ、友だちを大切にしないとバチが当たるけろ
虐めないでけろ、一生のお願いだからけろ
邪慳にしないでけろ、
塩なんか撒かないでけろ
ドアを閉めないでけろ
カミサマ救けてけろ
闇だ、ぬるい地獄の、ああ、すきまのない闇だよ、
もっと光を! 
けろけろ!

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名美池袋気分

友達と遊ぶようになって
学校に一切行かないモードになったのね
まあ遊ぶって言っても
一緒にボーッとしてるだけなんだケドさ

遊ぶ場所はブクロだったんだケド
外に友達ができるようになると
夜まで一緒にいるでしょ
したら朝なんて起きれないし

普通に学校行かなくなった
勉強嫌いなんだもん
勉強したくないでしょ
朝起きたくないでしょ

学校行く時は朝の七時半くらいから
マッハで鬼登校しなきゃいけないんだケド
そんな時間に起きれるわけないのね
だから絶っ対っ昼までガン寝してた

ちょうどガングロとか流行ってて
可愛いなと思ったから
ウチも日サロで同じように黒くしてた
ヤマンバとかマゴギャルとか言われてたね

お金はね全部親から貰ってたよ
お金がなくなったら
チョーダイって貰ってたから
月に幾らとかわからないケド

一日一万は使ってたから
最低でも三十万以上だね
服も買って貰ってたから
全部で五十万くらいじゃないの

でもねブクロじゃサンシャイン通りあたりで
ボーッとしてるだけなんで
たいしてお金かからないのね
みんなでツルむと自然と楽しいじゃない

たくさんツルむ日は
十五人くらいは余裕でツルんでたかな
タメのコもいればそうじゃないコもいて
楽しければ別に誰でもいいからさ

ギャル系以外のコとも普通にダベってたよ
ゴスロリとかバンギャとか不思議ちゃんとかね
ウチら的には害さえなければ
気にしないし何でもいいよ

あーそーゆーね
アンチみたいなのとは違くて
髪とかメイクのこととか言われるのが
ウザかっただけなのね

あとスカート丈とか
中学ってチョーうるさいじゃん
スカートが長かろうが短かろうが
はぁ?ってカンジ

でもヤマンバ化してからは
誰からも何のリアクションもなくなって
放置プレイされてた
ジモトでもハブられてた

高校は行くだけ無駄だと思ったのね
てか絶対に行かないのにお金だけかかるんだしさ
ウチとしては親孝行のつもりだったんだケドね
キャハハハ

元々何もないから
学校辞めたからどうしよう的なのはなかったよ
辞めたからって何も変わらないし
辞めなかったら何かあるわけでもないし

今も何も考えてないケド
あの頃はもっと何も考えてなかったね
とにかく自分がやりたいことじゃないと
やる気がしないの

でも生まれてからやりたいことなんてないから
何もやる気がしないのね
ダルいのねマジで
毎日がダルいもん

将来とか大人になったらとか
たまーに考えたりするケド
頭ん中お花畑だし
何だかなー

昔だったら十八歳過ぎたら
ババアだなあって思ってたのね
自分が実際に十八歳になっちゃったら
今度はいやいやババアは二十歳からだろみたいな

うーんホントは何が楽しいのかな
わかんないよそんなの
プリクラもパラパラも
すぐに飽きちゃったし

何が楽しいとか大人になったらどうしようとか
そんなこと考えてるの誰もいないよね
結局結婚できればいいわけでしょ
お嫁さんになれば何もしなくていいしね

だから大人になったら
やっぱお嫁さんなんだよね
楽ちんな方に流されちゃえば楽しいじゃん
わざわざ大変なことするヒトなんているのかな

友達の間でウチは
ヤリマンで有名だったみたい
ヤリマンのつもりはなかったんだケド
ヤリマンオーラが出てたみたいね

実際中学の時はチャラ男とかに
ナンパされたらソッコーヤッてたし
断るのも面倒くさいからヤッてた
ヤルのは別にどうでもいいのね

何つーのかな自分の中で
エッチは重要な問題じゃないから
じゃ何が重要な問題かって言われても
別に何もないんだケドね

生きてる理由もないかわりに
死ぬ理由だってないわけだし
ダルい人生をボーッと生きてるだけ
ただそれだけだよ

何だかんだ言ってもぶっちゃけ
何とかなるっしょ
今まで何とかなってきてるし
ずっと何とかやってゆけるのかなって

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去年カラオケボックスで

ひとつ話を聞かせよか
哀しい娘の物語
なにじきに終わるから
どうか最後まで聞いとくれ

仮にA子としておこう
A子は血に飢えていた
日ごとリストカットを繰り返しては
流れる血をうっとり見てた
カミソリやカッターもいいけれど
お気に入りはハンズの使い捨てメス
二の腕をひもで縛って
何度も何度も手首をザックリ
とうとうA子は死んじまった
去年カラオケボックスで
わずか十八歳の身空でさ

A子中一の時だった
いじめがきっかけで静脈を切り
滝のように血が噴き出して
以来それが病みつきとなった
やがて家の中だけじゃなく
学校の授業中にも切るようになり
近所の公園のブランコで切り
バスの優先席で切って通報された
とうとうA子は死んじまった
去年カラオケボックスで
わずか十八歳の身空でさ

高校の担任教師の勧めで精神科へ
閉鎖病棟に二ヶ月入院したA子
そこで出会ったクスリたち
さあ新しい世界の幕開けだ
レキソタンエバミールソラナックス
ハルシオン青玉アップジョン
幻聴幻覚妄想電波
ねこぢる読んでドナドナ気分
とうとうA子は死んじまった
去年カラオケボックスで
わずか十八歳の身空でさ

ネットですべてをカミングアウト
アクセス件数五万ヒット記録
たちまちA子のファンクラブ結成
雑誌やテレビの取材が殺到
卒業後大好きなCoccoを一人で熱唱
それから大量の向精神薬でオーバードーズ
最後に拒食症の親友に携帯で
「失敗したらメールする」
とうとうA子は死んじまった
去年カラオケボックスで
わずか十八歳の身空でさ

ひとつ話を聞かせたが
哀しい娘の物語
A子はもうどこにもいない
いやお前さんの隣にいるかもな

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あなたのかたまり

 丸の内駅のホームで、あなたを見かけたとき、BOSEのヘッドホンから聞こえていた音楽より、脈がバクバク鳴る音のほうがはるかに大きくて、動けなくなった。

 まるで、両方の靴が触れている地面から、たった今足が二本生えたかのように震えて、動くことができなくなった。

 生まれた場所を好む両足は、(気温の低く、暗い湿気た場所を好む植物が、沖縄の暖かく乾いた気候では上手く育てないのと同じことだと言い張るように、)頑として動かない。

 ヘッドホンはエンドレスでフジコ・ヘミングが演奏する『革命』を流し続けていて、その重苦しさに気が狂いそうになって、右手でヘッドホンを耳からずらした。


 丸の内駅にいる人々は皆、足早にオフィスや行くべき場所へ向かうのだから、ぐすぐず立ち尽くしているわたしを迷惑そうに見て、でも首や目線を進行方向へ向け直したときには、行く先で待っている仕事等のことを考えるのに忙しくて、ホームで立ち尽くすわたしを忘れてしまえる。

 でもわたしにはできない。一日を100のかたまりに分けたなら、(まずあなたはこのたとえを笑うだろうが、)わたしはそのうち15個のかたまりに該当するじかん、ぼうっとあなたのことを思い出している。

 思い出してはうち消して、15個のかたまりが18になる日も、9の日もたしかにあるけれど、でもわたしはあなたを記憶している。忘れることなく、日々記憶し続けている。


 生きていると、忘れることができることの例とその数にびっくりすることはあっても、本当に忘れられないことなんて一つもない。

 二十一のときには、忘れられない女のひとがいた、わたしはそのひとのことをたくさん書いた。詩にした、散文にした、たくさんの、わたしの(書いた)彼女がまだインターネット上にはいる。

 わたしにとって、忘れるとは、書いて、書いて、全部を物語にして泣くことだった。セラピーなんかにもならないくらい落ち込んでぐるぐると、虎がバターになるくらいぐるぐるぐるぐるおなじところを回って、つかれ果てて倒れて、でもわたしはやめなかった。

 ずいぶんとすり減らし、たくさんの傷をつくって、手脚は何かをつくったり歩くためではなく、転げおちるためにだけ大きく広がって、わたしのからだを傷だらけにした。


 あなたのかたまりも、15から、9になり、9から20になり、20から、5に、3にと減っていくことはわかっている。だって昨日の晩は思い出さなかった。


 耳から外れたヘッドホンから、遠く、革命が聞こえる気がして、耳を澄ます。
 足を引きずり、息も絶え絶えに為される革命が、わたしを忘却へ駆り立てるために、丸の内駅のホームにうっすらとながれている。

 あなたはとっくにどこかへいってしまった。


 わたしはバクバクする心臓がやっと落ち着いたことに気づいて、ヘッドホンを首から外してユニクロのバッグにしまう。忘れるためには、生きるしかないと、あたりまえのことが、丸の内駅のホーム、放送で流れる。

(忘れるためには、生きるしかないので、)

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夢痛

僕らもう時を刻まない針のような
本当に僕らそれ以外の‪
 「術‪」を知らないのだろうか ‬  
またひとつ衝迫が息を止めた

耳障りな轟音に耳を塞ぐ
目障りな閃光に目を瞑る
宇宙のしじまを漂うような幻に命を落とす

その度思い出す
いつだって衝動の連続が
作りあげたこの身体を


正直じゃなくたっていい
上手じゃなくたっていい
好きじゃなくたっていい
逃げ出したっていい
ただ消え失せる才の色も
崩壊する結晶も君の美しさを止めない


うだる夏の風に
憧れを直視するような絶望に
応答のない疑問に
伏して尚残る違和感に
「僕らにはこれしかないのだ」と
思考の収縮を止めることが出来なかった

他人の轍をなぞるような劣等感が
痺れをなす肉体が
汚染の一途を辿る翼が
修復されることがあろうとなかろうと
どうだっていいんだ

無責任な言葉も
心の無い感謝も
埋め合わせのない寂しさも
僕らを救うことがあったろ

‪”‬何度だってやり直せる‪”‬


醜かったっていい
理由がなくたっていい
恥をかいたっていい
生きてなくたっていい
ただ消え失せる才の色も
崩壊する結晶も君の美しさを止めない

もしも僕らの針が鼓動を
止めてしまいそうな時には
その幻に支配されないように
君に触れさせて
僕に触れて
「下手な嘘だ」と笑って。

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ナンセンス

 中華屋の入り口は、厨房から飛び散るあぶらと客の靴や濡れ傘が運ぶ水滴で、いつも以上にぬるんとしていた。横並びに座った連れ合いは、紺地に白い線の入ったスニーカーの靴底で何度か床を確かめるように撫でた後、できるだけ接触回数を減らそうと足を浮かせていた。奇妙に硬直した格好がおかしいが、店内をぐると見渡せば、足を浮かせている客が他にも一人いた。

 杏仁豆腐が先に来た。親知らずを抜いた痛みが続いているらしく、やわらかいものしか食べない人間の前に。それは、ことりと置かれる。それはまるでそうする決まりがあるかのように。今の感じさ、なんかの儀式みたいだったね。話しかけようとしたら、隣では杏仁豆腐に敵意のまなざしが注がれていた。アッ、ハイ。と心の中でだけ言ってみる。チャーハン定食はまだこない。

 スプーンすら手に取らず、赤いさくらんぼと見つめあっている人間の姿は、滑稽だ。種族を超えた叶わない恋をしているみたいで。ハイ、チャーハン定食。杏仁豆腐と冷戦状態に突入しているひとと自分の間からにゅっと手が伸びてきて、チャーハン定食が登場。(今の言い方さ、ドラえもんみたいだね。ワハハ。)熱々のチャーハンの片隅を崩して口に運ぶ。モッモッと咀嚼していると、隣で木椅子がギィと床に擦れた。

「もう帰る」
「ア〜、ハイ」

 杏仁豆腐の横に置かれた千円札を財布にしまう。店を出る背中に向けてばいばいと手を振ったが、注文聞きの店員しかそれを見ていなかった。靴底で床を擦れば、そこからつるつるが伝わった。なんとなく足を床から浮かせてみる。こんなことに何の意味があるのか、分からないけど。

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春惑

x軸上でゆっくりと斃れる
十七歳のこころ
献花のように横たわる 直線や曲線は
教室を吹き抜ける風にそよぎもせず
昨日が今日に
今日が明日になるように
ただあっけなく教科書は、ノートは
めくられた。

患ったような鐘の音
白紙の正午にカフェオレを零し
不健康に甘い、一日が嫌になって
5限の授業をサボタージュしました。
おとなとこどもの他は
誰もいないような静けさ
身体の中だけがざわざわしている
その意味を
理解できるのはもっと先だった
遮るもののない世界
その険しさを
理解できるのはもっと―

後ろめたい心を射抜くような
日差しは全部 判っていたのでしょう
無理数の渦に
巻き込まれていくような午後
校舎を抜けると
春の霞の向こうからなにかが
手招いているような気がした
行ってはならない
そう直感しながらわたしは。

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