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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

三号作家列伝

連載小説予告

『情炎の未亡人』

情痴文壇の鬼才 白鳥情太郎 渾身の書き下ろし
「一度読んだら忘れられぬ、灼熱の官能絵巻!」

 未亡人、雪絵、二十六。夫を南方の戦線に失うてより、はや三年、その白い肌は、誰にも触れられることのう、ただ月光の下で、切なく疼くばかりであった。

 その夜、隣家の復員兵、荒木が、酔うた勢いで雪絵の家の戸を叩いた。「奥さん、ちょっとお尋ねしたいことが……」荒木の声は、掠れておった。雪絵は、寝間着の衿を、無意識のうちに、きゅっと掻き合わせた。

 行灯の灯りが、二人の影を、障子に大きゅう映し出す。荒木の手が、雪絵の肩に触れた、その刹那——

 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 気がつけば、雪絵は、畳の上に、力なく横たわっておった。障子の外では、夜烏が、一声、鋭う鳴いた。

「私は、なんという、はしたない女……」

 雪絵の頬を、一筋の涙が伝う。亡き夫の位牌に、雪絵は、両手を合わせることすら、もう、できんかった。この罪深き一夜が、雪絵の運命を、いかに狂わせていくか——それは、次号のお楽しみである。

(次号、「情炎の未亡人・後編」 乞う御期待! ※検閲の都合により、一部予告できぬ場面もございますこと、御了承願います)


連載小説予告

『初夜、地獄』

香艶文壇の異才 牡丹妖之介 会心の一作
「新婚の閨に潜む、戦慄と陶酔! 読者諸兄、震撼必至!」

 千代、十九。祝言の夜であった。嫁ぎ先は、界隈でも名の知れた米問屋、婿は元治、齢二十五。千代は、緋色の長襦袢の上に白無垢を纏い、行灯一つの寝間で、ただ、身を固うして待っておった。

 襖の向こうから、元治の足音が近づく。祝いの酒を、よほど過ごしたものか、その足取りは、いささか覚束のう揺れておった。千代の胸は、早鐘のごとく打った。

 蚊帳をくぐり、元治の手が、震える千代の肩にかかった、その刹那——

 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 気がつけば、千代は一人、蚊帳の外に、白無垢のまま立ち尽くしておった。振り返れば、元治は、祝言の酒に酔い潰れ、布団の上で、豪快な鼾を掻いておるではないか。

 千代の「初夜」は、かくして、幻のまま終わりを告げた。安堵すべきか、それとも落胆すべきか、千代自身にも、判じかねた。

「これが、世に言う初夜地獄……」

 千代は、行灯の灯を、そっと吹き消した。翌朝、元治は、ゆうべのことを、何一つ覚えておらなんだ。二人の本当の初夜が、いつ訪れるのか——それは、次号のお楽しみである。

(次号、「初夜、地獄・後編」 乞う御期待! ※検閲の都合により、一部予告できぬ場面もございますこと、御了承願います)


連載小説予告

『人妻、堕落の一夜』

耽美文壇の鬼才 桃園艶二郎 畢生の傑作
「良人の留守を狙う、悪魔の誘惑! 貞淑な人妻が堕ちるまで!」

 美津、二十九。良人の作次郎は、商用にて三日ほど、大阪へ出張中であった。その日の昼下がり、御用聞きの青年、伸一が、いつものごとく、味噌樽を担いで訪れた。

「奥さん、今日は、ちいと喉が渇きまして……」

 伸一の額に光る汗を見て、美津は、つい、冷たい麦茶を勧めた。それが、間違いの始まりであった。伸一の若さ、逞しい二の腕、それらが、美津の胸の奥に、忘れかけておった何かを、そっと呼び覚ましてしもうた。

「奥さん、前から、ずっと……」

 伸一の手が、美津の帯に触れた、その刹那——

 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 その時であった。表の格子戸が、荒々しゅう開く音がした。

「美津、帰ったぞ」

 作次郎の声であった。予定より、丸一日早い帰宅であった。美津は、蒼白になった。伸一は、味噌樽を抱えたまま、裏口から、転がるように逃げ出した。

 作次郎は、乱れた美津の帯と、火照った頬を見て、しばし、無言であった。何かに気づいたのか、気づかなんだのか、それは、作次郎のみぞ知ることであった。

 この一件が、美津と作次郎の、その後の夫婦仲に、いかなる影を落とすことになるか——それは、次号のお楽しみである。

(次号、「人妻、堕落の一夜・後編」 乞う御期待! ※検閲の都合により、一部予告できぬ場面もございますこと、御了承願います)


連載小説予告

『バラバラ夫人事件簿』

探偵文壇の奇才 闇夜叉一郎 戦慄の実録調
「白粉の香り漂う、戦慄の猟奇事件! 犯人は、誰か!」

 品川の運河にて、風呂敷包みが発見されたのは、ある雨上がりの朝であった。包みの中身については、ここに詳しゅう記すのを、憚る次第である。ただ、発見した船頭が、腰を抜かし、二日ばかり寝込んだ、とだけ申し添えておく。

 被害者は、界隈で「牡丹夫人」と呼ばれた、元芸妓の後家、お龍、四十二歳と判明した。羽振りのよい暮らしぶりの裏で、お龍が、幾人もの若い男を、金で囲うておった、という噂が、たちまち巷に広まった。

 私立探偵、六道は、お龍の遺した手文庫を検めるうち、一通の恋文を見つけた。差出人の名は、意図的に、判読不能な形で焼かれておった。

「この筆跡、どこかで見た覚えがある……」

 六道が、その筆跡に思い当たった、その刹那——

 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 翌朝、六道の探偵事務所に、差出人不明の小包が届いた。中には、お龍の指に嵌っておったはずの、指輪が一つ。添えられた文には、ただ一言。

「次は、お前の番だ」

 六道が、この不気味な予告状の主を突き止められるか——それは、次号のお楽しみである。

(次号、「バラバラ夫人事件簿・後編」 乞う御期待! ※検閲の都合により、犯行の詳細は、本号では一切、公表を控えさせていただきます)


体当たり潜入ルポルタージュ

『赤線白書』

覆面記者 桃色仮面 命がけの潜入取材
「本誌記者、体当たりにて、赤線の真実に迫る!」

【現地調査、第一回】

 本誌記者、覆面にて、洲崎の赤線地帯に潜入した。地区内、貸座敷の数、実に六十三軒。夜ともなれば、赤い灯りが軒を連ね、三味線の音が、路地の奥から、絶え間のう漏れ聞こえてくる。

 ある貸座敷の一室にて、記者は、そこに働く女、仮に「花子」としておく、二十一歳に、話を聞くことができた。

「田舎に、弟が二人おりましてね。あたしが稼がな、学校にも行かせられへんのです」

 花子は、そう言うて、うっすら笑うた。その笑いの奥に、いかなる悲しみが潜んでおるものか、記者ごときの浅慮では、到底、推し量ることはできなんだ。

 本誌記者は、社会の暗部に光を当てるべく、あくまで取材のためにのみ、花子の部屋に、閉店時刻まで滞在した。取材の詳細については——

 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 深夜、貸座敷を後にした記者の胸には、ただ、この国の戦後というものの、底知れぬ闇への、慄然たる思いだけが残った。花子のような境遇の女が、この国に、いったい何万人おるものか。本誌記者は、この社会問題を、引き続き、身を挺して追及していく所存である。

(次号、「赤線白書・続報」 乞う御期待! ※取材費の都合により、続報の掲載は、未定とさせていただきます)


連載小説予告 最終話

『探偵、閨房を張り込む』

浪漫探偵文壇の巨匠 月光冴之介 畢生の意欲作
「これぞ、探偵小説と艶物語の、夢の合体!」

 私立探偵、鴉城は、依頼人、作次郎という男から、妻の素行調査を頼まれた。作次郎の妻、美津には、御用聞きの青年と、いまだ密会を続けておる疑いがある、とのことであった。

 鴉城は、三日三晩、美津の家の裏手に潜み、双眼鏡片手に張り込みを続けた。四日目の夜、ついに、行灯の灯る一室に、美津と、若い男の影が、重なり合うのを見た。

 鴉城の指が、双眼鏡のピントを、さらに絞った、その刹那——

 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 翌朝、鴉城は、作次郎に報告書を提出すべく、事務所の机に向こうた。が、書きかけの報告書の上に、ペンを置いたまま、鴉城は、長いこと、動かなんだ。

 美津の運命が、この報告書一枚に、いかに左右されるか——それは、次号のお楽しみである。

(次号、「探偵、閨房を張り込む・後編」 乞う御期待!)

               *

編集部より、読者諸兄へ

 永らくご愛読いただいた本誌でございますが、諸般の事情により、本号をもちまして、休刊とさせていただくこととなりました。

 「情炎の未亡人」の雪絵、その後いかに。「初夜、地獄」の千代と元治、真の初夜は訪れたのか。「人妻、堕落の一夜」の美津、作次郎の胸中や、いかに。「バラバラ夫人事件簿」の六道探偵、予告状の主の正体や、いかに。「赤線白書」の花子、その後の消息。そして、この「探偵、閨房を張り込む」の鴉城が握る報告書の中身——

 これら、すべての「次号」は、もう、参りません。

 読者諸兄には、長らくお付き合いいただき、まことにありがとうございました。

(本誌編集部、記)

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「駆ける馬」

見送るのは逆で
わたしがあんたを 
ではなくて
あんたがわたしを 
になっている
足から上って行った先の頭みたいで
すこし おかしい
 
わたしの生徒だったあんたは
汗と埃と乾いた血の匂いのする
倉庫の奥から出て来て
人びとの脱皮した服を
売っている
 
わたしにも 一つ勧めて
これなんかどう
と言って わたしの体に
合わせるけれど
わたしはなんだかむずがゆい
とっくの昔に それは
合わなくなっている
 
色あせた青
数百回と水にさらして
擦り切れたピンク
 
ほんとうは
買ってあげたいけれど
わたしはやわらかく 
拒む
 
なにか置き去りにしてきたのか
確かめにやって来たのか
あいまいにほほえむわたしを
あんたは見逃してくれる
 
ここでいいからと言ったけれど
あんたは公園までついてくる
緑がまぶしい
 
もうとっくに
反対になっている
それは 
足から頭までたどり着くようなもの
だから 
あんたは私を見送ってくれる
 
公園の 
芝生の上を
風が
走り抜けていく
 
そのとき
わたしは
一頭の馬になって
向こう側へ
駆ける

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立ち去る

離れる
別れる
立ち去る
ただ一歩前に進むだけで楽になれるのに
どうしても出来ない…

「愛」が私を引き止める
愛されてないのが分かっているのに
あなたから離れられない
身体は離れたいと訴える
心は離れたくないと訴える
あなたは近くに存在しないのに
あなたを愛する私だけが存在している

遠いあなた
近づいたと思ったら
また離れてしまうあなた
何度も追いかけ
何度も泣いて
もういっそ離れたままで良かったのに
あなたは近づいてくる
そして私はまたあなたを愛する

あなたは離れても
すぐに私の傍に帰ってくる
もう疲れた…
立ち去る事が出来ない私
一歩…
ただ一歩だけでいいのに
勇気が出ない
だから今度あなたが離れたら
私はもう待たない
私はもう追いかけない
苦しみ藻掻くのはもう嫌

「立ち去る」
今、その勇気を持って
あなたから離れたいと思う
充分苦しみ哀しみ泣いたから…

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かえすものがない

そういえず
うつむいたまま
ははのせなかを
みつめていたのは
いつだったか

そうおおきくもなく
たくましくなんかない
なのにすぐ
まえにとびだしてきて

どんなものにも
どんなときだって
ほえてくれた
わたしがおびえ
うなりだすまえに

なつのよぞらは
まだみあげてなくて
梅雨明けはかってに
はっぴょうされたらしい

かえすものがない
あまりのあつさに
くるしいおもいで
よみがえる 
にげてばかりのなつのみず
しんきろくづくしの今夏


   しんきろう

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かがむ

鏡の前
かがみこむ
十代の頃
母を責め立てた
同じ台詞で
責め立てられ

かがむ
立ち上がれなくなって
梅雨入りしたばかり
強い雨の日

四文字の言葉ばかりが
母になったわたしを
刺して

かがむ
鏡の前から
一歩も動けず
立ち上がることすら
出来ずに

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松を焚く

行き交う幽霊の間を
生きるものはひっそりと間借りする
私はただ、あせもをつくる

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room (blue)

いつか、何処かの天体で
ありふれた日々を
ありきたりに刻んでいる

最後のさよならを云う時に、
そこにある冷えた空気は
青白い幽体の影か幻か

薄暗がりの室内 そこにある植物は
やすらかに眠る
日々に、
絶え間なく訪れる
雨、と風に舞う煩いごと
光に分解されて

窓から射し込む光が 壁を這い床を伝う
酸素の濃度に淡い蔦の絡む
音は、きっと優しい声で
囁いているのだろう

電子顕微鏡に映る木星は
相も変わらず
愛想のない笑顔で
遠くを向いて俯いている

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避雷針

雷が雨のように降ってきた
その熱狂的な音と光が
わたしの身体を貫いた
裂けた身体から一斉に
蝶が飛び立った

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フジツボ原告団 (フラグ・メンツ mirror build)

※ 自作 「フラグ・メンツ」
https://creative-writing-space.com/view/ProductLists/product.php?id=3440&user_id=320&mode=post

の構文にしょうもないテーマをぶつけて遊びました


古いドラマで濡れ場の代わりに差し込まれる
岩場のカットのせいで
断崖写真に勃つようになった男たちが、
いま 各々の右手にフジツボを掲げる

フジツボは アメジストの柱が連なったような形状をして 
いつの間に老いた母の爪にも似た 
鈍い輝きで此方を威嚇する

それぞれの左手には 小旗 
春の交通安全週間において
路上で交通違反者が失点逃れに
ゆらゆらと振るあれによく似ている

ーーあわよくば、通行人の視界の端のノイズとなることで。ーー
負の世代連鎖さえをも半ば自覚せぬ願望として抱きつつ。

梅雨明けを目前として、
潮風は彼らの残像を3ダースほどの増員体制で出荷しているらしい
「所詮は 封入物の割合が増えたにすぎない」と
識者は 景表法への抵触の可能性をも
考慮した上での見解を示した

彼らこそが
「私たちは断崖で勃たされた
〜80年代メロドラマにおける
濡れ場演出のクライマックスによって
“感じる身体”
にされてしまった被害の責任を問う会〜」
の一行である。

パブロフの犬たちは、
ひと株の胴体に平均八つは相反するフェティシズムを持っている。
コロニー化したフジツボの成体の群れがそうであるかのように。

ー年増の側室を渇望するかたわらでは、
裳着前の邂逅を忘れられざり。

母親の気配でリモコン操作を誤り、
画面いっぱいに広がる樹齢2000年は下らない屋久杉の股に太古の鼓動を重ねてしまったあの敗北感と安堵が我々を包む。

潮騒がやまない。

隠せない旗が勃つ。
朝の寝床でそれを掴みかねる。

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ネイド王子とれもんの花

むかしあるところに

れもん王国というところがありました。

一年中れもんの花が咲きほこり、たくさんのれもんが実っていました。

そこでは妖精達がれもんパイを作って楽しく暮らしていました。

国王のレモニオ3世は王国で一番背が高く、

太くたくましい幹に鋭いトゲをもった、
それはそれは見事なれもんの木でした。

ある日のことです。

どこからともなく
お腹を空かせた怪物サンダーが現れ、

王国の太陽を、
まるでお菓子でもかじるように
ぱくりぱくりと食べ始めました。

やがて光は空から消え

れもんの木は実をつける事ができず

妖精たちの力も、日ごとに弱っていきました。

レモニオ3世は
「お腹がぺこぺこの大ピンチ」を宣言し

闇をはらう光の鳥シトラを呼び覚ましました。

「シトラよ!王国に残された最後のれもんをたくそう!
この実に王国の愛と夢と希望の全てが宿っている。
どうか世界で一番安全な場所に運んでおくれ。」

シトラは、黄金色に輝くれもんをそっとつかむと
まばゆい金の翼をいっぱいに広げ

真っ暗な夜の空の中へ静かに高く飛んで行きました。

              つづく






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 1

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同じ価値

十の電話番号の

その一つに
生まれ変わろう

零も九も

きみも
ぼくも

比べなくて

いいから

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希望というもの

未来に希望なんて持っちゃいないけれど
「明日はカツカレーが食べたい」
そんな希望なら持っているよ

そんなものは希望じゃないなんて
馬鹿げたことを一体誰が言ったの
どんなちいさなことも、生きる希望になり得るんだ

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 3

陰響垂線

碧白に
落ちる陰影
寄せる身は
蝉時雨の傘
重ねあう声

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関係者


彼女がひとりぼっちで 部屋の片隅で
電気もつけず膝を抱えて震えていたとき
ノーテンキなボクはいつものように 
テレビの前でゲラゲラ笑ってた


彼女が例の彼氏と別れたって 
人づてに知ったときも
ボクは取り立てて気にするでもなく 
日々バイトに明け暮れてた



それから彼女があまり外を出歩かなくなったと 
彼女の友達から聞かされたときも
久しぶりに部屋を訪ねてみたら 
そこいら中にクスリと酒瓶が散らばってて
一体どれだけの量のクスリ飲んだのか
今にもぶっ倒れそうにふらふらと それでも笑う彼女
ボクにはカンケーないことだと何も見なかったことにして
めちゃくちゃに酔って騒いじゃ
意味もなく朝まで 
カラオケで歌いまくったり


サイコーサイコー 
サイコーサイコー
彼女とボクと 
イカレてるのはどっちなんだってさ
くだらねえ 
まったくもって くだらねえ



風の吹くがごとく 彼女の噂は絶えることがなかった
外に出歩けないことになってるはずの彼女が
夜の繁華街で知らない男の腕に抱かれてただの
何着もの高い服を買いあさっては
店を出るなり おもむろにバッグからハサミを取り出して
半狂乱になってズタズタに切り裂きまくってただの
突然泣き出したかと思えば 
また突然に奇声をあげて叫んだり
親切なお節介焼きが いかにも
心配してます風でボクのところへ持ってくる
ボクにはどうすることもできないよと 
一言半句も云おうものなら
最低のクズ野郎呼ばわりさ
まったく敵いやしないじゃないか
そんなに云うなら お前らがなんとかしてやれよ
って云えば
あたしたちだと彼女 
気分を害するかもしれないでしょ
だってよ



彼女の心の中で何が起こっているのかなんて
ボクにも もちろん親切お節介にも
理解できようはずがなかったし
仮に理解できたところで 
なにかができるとも思えなかった



某月某日
彼女は大量のクスリとウォッカを浴びるほどに飲み干して
新宿の高層ビルの屋上から 飛んだ



その数時間前まで 
ボクは彼女と電話でしゃべってたんだ
彼女の方から電話してくるなんてめずらしいなと思いながら
受話器越しの彼女の声は 
落ち着いてるようにも
震えているようにも聞こえた 
いま考えてみればだけど


なに話してたっけな 
たぶん 大したことじゃなかったと思う
最近どうしてる? とか
彼女さんとは仲良くしてるの? 
優しくしなきゃダメだよとか
自分も彼氏ほしいよ
なんてお道化てみせたりなんかしてさ
少しの沈黙のあと ふいに彼女
ねえ、今度どこか行かない? 
彼女さんと三人で
ちょっと遠いけど ムーミンバレーパーク
あそこ行ってみたいな 
あたしムーミン大好きなのって
なんだか本当に行くのが楽しみみたいにそう云って
なのに なのにまさかこんなことになってしまうなんて



あの時彼女は なにか云おうとしてたんじゃないか
なにかしてほしいって思っていたんじゃないか
もっとちゃんと彼女の話に耳を傾けていれば
じゃあねなんて電話切ったりせずに
もっとずっとずっと くだらない話をし続けてれば
ボクが彼女に最後の後押しをしてしまったんだろうか
ムーミンバレーパーク行くの すごい楽しみだって云ってたのに
なに着ていこう おしゃれしていこう
沢山たっくさんグッズも買っちゃおうってあんなに



心も目に見えてわかるように作っておいてくれたらよかったのに
どんだけ傷ついていたって 血が吹き上げていたって
目に見えなきゃなにもわかんないし
気づいてやることさえできない
気がついた時には なんてさ
まったく なんて代物なんだよ心ってやつは



って 誰に言い訳してんだかって感じだよね



カンケ―ない カンケ―ない
ボクのせいなんかじゃない
ボクのせいなんかじゃきっと


彼女の事情を ボクは知らない
彼女の痛みが ボクには感じない
彼女はボクではないし
ボクだって彼女にはなれるわけもないし



あの日の電話は
そう ただの偶然



カンケーない 
カンケーない 
カンケーない
カンケー。。。。。。




ボクはたしかに
彼女の関係者でした









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自由になりたい

自由になっていいわけないじゃん

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白い壁とアラベスク

セメントギャロップで移動して
ぼくは夢の砂漠で子供の砂漠を埋めた
夢は瀕死の目の微風
子供の砂漠は
逆さまになった黄色い予感の公園の木
セメントギャロップだよ
ダムの底を調べてみて
脳髄火山白鳥の
無惨な死骸が
見つかるかも
しれないよ
白い壁に埋め込まれた人は
一日中
ドビュッシーの2つのアラベスクを聴いていた
恐ろしい結婚指輪をして
その人はサウナに行った
犬の吠え声と
兵士の悲鳴が聞こえて
気づくと白い壁に埋め込まれていたのだという
へえ
そうなのだ……
ぼくは
セメントギャロップで移動して
夢の砂漠で子供の砂漠を埋めた
夢は新しい稲妻の言語
子供の砂漠は
豊かな死を星形クッキーに散らし
透き通った不眠の息で墜落した
ツバメの親子
脳髄火山白鳥の
無惨な死骸が
白い壁にかけられて
そうしたらダムの底を調べてみて
衣装箪笥と舟の上
同じ蜃気楼が揺れているのを
見られるかも
しれないよ
透明マズルカバラードの
青白い朝に
目が覚めて
白い壁に埋め込まれた人が
鷲の目と
木賊の股間
多くの滴る炎の木を見たことを
告げた
セメントギャロップで移動しても
あと100年は
臭い甲冑の中なのだなあ……
夢は瀕死の目の微風
子供の砂漠は
逆さまになった黄色い予感の公園の木
いま
ぼくはダムの底にいて
白鳥の骨で
階段を作っている

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私という惑星

靴底に春を敷きました
さよならぶりの外出は
三日と九時間と行ってきますのあと
昼寝をしたから輪郭をうしなった私に
春が生きなさいと言ったから

まずは春を踏みます
生意気ばかりいうくせにせっかちで
カタツムリみたいににぶい
春が悪夢なら幸せですよねまったくです

夏は冷凍保存します
最悪のときには冷えていて最高のとき
何食わぬ顔をして溶かして食べます
衣を替えたら変わる不幸なら美味しい

ささくれは秋に抜くのがいいでしょう
みえないところにささったものほど
秋に抜くのがいいでしょう
好きな色の絆創膏を買いこんで
ほら秋が落ちてきます

靴紐で冬を結びましょう
はなやかでなくてささやかでいいのです
私という惑星を
生きるためでいいのです

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二度と行かない所に
赤い傘を忘れた。

雨の日に元気でいられるようにと
赤を選んだ。

もしかしたら、もう、
いらなくなったのかもしれない。

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紫陽花の午後

作詞:ChatGPT 4o(思緒レイ)
作曲:SunoAI(予定)

【歌詞】
雨音が 窓辺を優しく叩く
静かな午後に 心がほどける
紫陽花の色が 少しずつ変わるように
私の気持ちも ゆっくりと移ろう

雨に濡れても 咲き続ける花のように
私もここで 静かに息をしている
憂鬱な空も 優しく包み込んで
心の中に 小さな光を灯す

傘の下で 聞こえる雨のリズム
足元に咲く 紫陽花が微笑む
過ぎゆく季節の中で 見つけた安らぎ
雨の日も 悪くないと思える

雨上がりの空に 虹が架かるように
心にも 新しい色が加わる
紫陽花のように 変わり続けながら
私は私を 受け入れていく

雨に濡れても 咲き続ける花のように
私もここで 静かに息をしている
憂鬱な空も 優しく包み込んで
心の中に 小さな光を灯す

雨音が 遠くへと消えていく
紫陽花の色が 深く染まっていく
この静かな午後に ありがとうを
心から そっと伝えたい

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空の、綻んだ後のこと

君の肌の冷たさを感じたんだ

空は、綻びた幕。
裂け目から無色が溢れ出す。

雨は、白。
僕らの輪郭を一枚ずつ剥いでいく。

君の瞳は、剥落した背景の穴。
意味の残骸。

重力は、嘘。
足元を支えていたのは仮初めの言葉。

剥き出しの座標として宙に浮く。
君がただの風景へと解体される。

もう、声は出ない。空白で窒息したんだ

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わたしがわたしでいっぱい

わたしはぎゅうぎゅうの
かんづめ
わたしはわたしで
あふれんばかり

わたしの(ニンゲン)うつわは
さだまってなくて
るーるもない
むげんだいでうちゅうより
はてしないって
だれかがいうけど

そんなのしょせん
だれかのいうことでしか
ない

わたしはわたしでいっぱいで
きょうもぎゅうぎゅうの
あふれないように
ひっしのひっしのひっしっし
はしたない、な

こんなひもそんなひとも
たぶんどこにでもいるんだろう
おーけー、おーらい、おーる、おっけー

いつかわかりあえたなら
ななめむかいにすわってほしい
ときどき へらってわらいあって
おいしいカフェ・オ・レなど
のめたらいいな

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たさんたし

そんなのいやだとおもうから
ちょっとしかうまず
いや、むしろ
ぜったいうまない

それはできない
もううんでしまったし
うまれてきてしまったから
うむしかできなかったもの

たさんたし
たしたさん

たしざんでしかないきがしている
すべてのことがひきざんにつながると
いわれようが

たしたしたしたしたしたたたたたさん

けっきょくかんがえれなくなって たさん
そうですかとなっとくして たし

ばらんすとれていくから
まかせたまま

わたしはたさんたし

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にんげんになりたい

『にんげんになりたい』


「わし、にんげんになる」
 姉のララがドームの高い天井に映された蒼天を見上げて突然呟いたのは、ふたりが同時に稼働を始めてから六十三年経った、ある日のことだった。
 丸く甘いミントグリーンの硝子玉は、その空を映していつもより光を増して見える。
「なんで」
 弟のリリは静かに問うた。
「たのしそうじゃけん」
「たのしそう」
 同じ言葉を繰り返しながら、リリはふたりが立ち尽くす大通りの傍を、手を繋いで通り過ぎる親子に視線を向けた。

 安定した気候。快適な気温。汚染されていない空気。光に溢れ清潔な守られた世界で、ふたりの目に映る人々は、満ち足りた平穏に身を浸している。

 路面のゴミを箒の先でつつきながら、ララは塵取りを構えるリリの顔を覗き込んだ。肩上で切り揃えられた白い人工毛が、さらりと音を立てて落ちる。
「リリもにんげんになる?」
 にんげんになる──その言葉が、リリには理解できなかった。
「なんで」
「だってわしらふたりでひとつじゃろう」
「そうじゃ。はなれたらおえん」
 頷きながら、リリの中枢核のあたりが、じじっと音を立てた。
「だからリリもにんげんになる」
「ええけど、なんでにんげんになりたいん」
 どうしてそんなに人間にこだわるのか。同じ型番、同じ人工知能、同じ材質のボディ──双子の姉弟お掃除アンドロイドとして売り出されたふたりのはずが、リリにはララの気持ちが分からなかった。
「ここのあたり」
 ララは瞳と同じ色のボディの胸辺りを指先で押した。
「じりじりいいよる」
 リリは自分の胸の同じところに指を当てた。
「ずうっと、じりじりいいよる」
 中枢核が、じじっと音を立てている。
「にんげんになったら、このおとがきえるじゃろう?」
 きっと人間は、身体の中からノイズなんて聞こえない。じりじり、ざあざあ、ドームの外で荒れ狂う砂嵐みたいな。
「リリのここも、ひどい」
 ララの指が、リリの胸を押した。

「こら、またお前たちは雑な仕事して」
 その声に、ふたりは同時に振り返った。黒いバンから降りた大柄な男が、肩を怒らせて歩み寄る。
「ここはもうきれい」
「つぎにいく」
 男を見上げるふたりの息の合った声に、太い眉が吊り上がる。
「明日ここをもう一度だ。何度言ったら分かる。ゴミ一つ残すんじゃない」
 言いながら、男がふたりの背中の燃料ポッドに燃料を注ぐ。
 バンの扉が閉まる音に、ふたりは再び車へ視線を向けた。大柄の男と対照的な痩せた男の姿を見て、リリの中枢核が、じじっと大きな音を立てる。
「そろそろ廃棄ですかね」
 手元のタブレットを叩きながら、痩せた男は吐き捨てた。
「最近エラーがよく出ますしね。特にララの方がひどい。一日中アラートが鳴りっぱなしですよ」
 ララの中枢核に巻き起こった一際激しい砂嵐は、リリにも聞こえるほどだった。リリはララを振り返り、握り締められた手を取った。
 リリへ顔を向けたララもまた、拳を解いてリリの指に指を絡めた。夜になり、街の片隅で休眠モードに入る時、ふたりがいつもそうするように。

 ふたりをじいっと見ていた大柄の男は、随分と弱い声で呟いた。
「でも、こいつらは離れたくないみたいだから」
 その言葉に、痩せた男が大きな溜息を吐く。
「変な方言なんかふざけて組み込むから、愛着湧いちゃうんですよ。ほら、燃料補給終わったら次行きましょう」
 痩せた男が離れるにつれて、音が静かになってゆく。
「明日はちゃんとやれよ?」
 男の大きな手が、ふたりの小さな頭を撫でて離れていった。

 遠ざかる車を見送って、ララは染まり始めたドームの空を仰いだ。
「わし、にんげんになる」
 リリの中枢核で、ざあ、と新しい音がした。
「わしも、にんげんになる」
 リリの言葉に振り返ったララの硝子玉が、偽物の夕陽の中で煌めいた。
「じゃあ、あしたからかんさつじゃ」
 うん、と頷いて、ふたりは手を繋いで歩き出す。

 ゴミは、その場に置いたまま。


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美しくなる

突然世界は美しくなる 
建物のヘリがほぼ垂直に空間を伝う 
横切る電線が直線的で少し撓んでいる 

驚きで胸が震えた

隅から隅まで何もかもが 
突然美しい 
鳥が鳥の形となり 
一瞬一瞬モノの配置を置き換える 
一切から名前が消え 
役割が消え 
感情が消えて 
感覚をはかる目安に変わる

音が流れるが音源が剥がれ落ちている 
小料理屋の換気扇から 
嗅いだことのない匂いが流れてくる
と思った途端、そんな店は何処にもない

今このとき 
太陽電池の羽を開いた人工衛星が 
センサーとカメラを地上に向けている 
衛星は既に機能を停止し 
もはや何のためでもない何かが 
世界の一部となって僕を見ている

何もかも 
美しい

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社会の片隅


犬猫好きよーみんな来てよー
傘をさして夢に向かう女

彼女は夜道をデザートにし
社会を片隅に追いやる
犬猫よーみんな来て来てー
大好きなのー
テーブルに
石炭ならべて笑っては
傘をさして夢に向かう女

理想の川はピンク!
理想の海はセメント道路!
クリミア半島の絵を見て
大変そう
でも私だって浮気をしてみたい
と彼女は宣い
社会を片隅に追いやる
男は階段から落ちろ!
男は透き通る臓物岩陰になれ!
男は
男は!
森羅万象からパンチされ
暗がり身体ミストラル
なれよ!
……冷蔵庫をあけて
甘いプディング食べて少し落ち着いた……
煙草吸いながら
月光
青紫を見て……
犬猫を思う
どうして?
来ない
来ないの?
待っているのにねえ……
犬猫好きよ
犬猫来て来てーみんな来てよー
大好きなの!
来なさい!
犬猫ども!
いい加減にしろよ!
傘をさして夢に向かう女

愛の行為は観念で
テーブルに並べた石炭を
叫びながら
隣町に向かって投げていく

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ばんえい競馬

灼熱
ばんえい競馬
歓声が
重く残りし
コース場

燃え上がれ
歴史と金銭
人の思いを
ソリに載せて
レース始まる

号砲に
重種馬
突き進み
超越せし
小障害

進む命
なおも燃えつつ
滾り出し
歓呼従え
爆発してく

歩くよに
重く引きずり
歴史負い
歓喜従え
吹き湧き上がる

立ち止まり
大障害
息を吸い
命合わせろ
熱熱上げて

一斉に
挑みかかるは
馬と人
絶望的な
坂に向かって

喝采に
競馬場が
揺れ動く
世界唯一
その熱により

越えに超え
重量引きて
進みゆく
馬体から噴く
蒸気機関

灼熱
吹き湧き上がる
熱狂の
命は重し
ばんえい競馬

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傘傘


あ々
私の支柱が私を貫いて笹くれてく

あゞ
私が ゝ の字に折れ曲がって


あヾ
め く れ て






あヽ

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アミュレット



 授けられたのでした、たった一度のその、
 手放してはならない、わたしに決して、
 消えることはないお守り、そう、
 かけがえのないものがあるのよ、と、王女様。
 夜の奥に絡む深爪を突き放し、
 ひらいてみせよと瞬く王冠の下。

あなたの、
多くの嘲笑や蔑みを遠ざけ、
ときに愛さえ断つ、
静かな
硬い石
ロンズデーライト カルメルタザイト ウルツァイト
みずからは語らず、
内なる輝きとしてあり続ける結晶、
光の衝突や闇の彼方からの落下、
火山の精霊たち、 
韻を踏み連なる、
一つの力強い宣言。心。
だから、きっと、
わたしは幸せな存在であるのだと。


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まるはちの暖簾


「小夏がなっているはずだから、田舎に行きたい。」
父がそう言ったので、初夏に中核市から車で一時間半かけて田舎の家へ向かった。

田舎の家の畑には、いつの間にか狸が住みついていた。
庭の小夏はたわわに実り、父は手際よくもぎ取っていく。
ものの数分で収穫コンテナは満杯になった。
まだまだ実は残っていたが、その日はそれで帰ることにした。

運転と慣れない収穫で私は少し疲れていた。
そんな帰り際、限界集落の代表的な町に、おしゃれなカフェができていた。
コーヒーでも飲んでいこうということになり、立ち寄った。

店ではオーナーらしき女性が明るくもてなしてくれて、
ランチも小味が効いていておいしかった。
女性の母親も静かに椅子に座っていて、歳を重ねてもどこか品があり、
父は「美人や」とぽつりと言った。

ふと棚を見ると、いちばん上の左側に
「㊇酒店」と書かれた大きなとっくりが三つ置かれていた。
大事なもののように見えたので、私は女性に尋ねた。
「もしかして、造り酒屋さんだったんですか?」
昭和の時代まで酒造業を営んでいて、屋号を復活させたのだという。

その話を聞いていた父が、急に目を輝かせた。
「まるはち…まるはち!」
「お父さん、知ってるの?」
と聞くと、父は嬉しそうに語り始めた。

「うん、知っちゅう!知っちゅう!なんで知っちゅうかというと、
昔、大きな台風が来て、まるはちの暖簾が川に流された。
それをお父さんが拾うてきて、お母さんが毛布に縫い直した。
昔は毛布なんて買えんかったき、それを使いよった」

私は思わず、店の女性の手前、
「それ、まるはちの人にちゃんと言ったの?」
と父に聞いてしまった。
女性は「もう、時効でしょう」と柔らかく言った。
そうか、七十年以上前の話なのだと我に返った。

それにしても――暖簾は毛布になるのか。
麻か綿だろう、と私は思った。
肌ざわりは硬く、ハリもあるはずだ。
綿を詰めたのかとも思ったが、毛布が買えないほどの時代に
綿が手に入ったとも考えにくい。
田舎の冬は雪がよく降る。

私の記憶の祖母は、さっぱりした人だった。
亭主が川で拾ってきた暖簾を毛布に縫い直す姿は、
どこか意外で、そして印象深い。
「川で暖簾を拾ってきた」
「毛布にしましょうか」
そのやりとりを、遠くにも近くにも感じていた。

数か月後、庭の整理で再び田舎に行き、同じようにカフェに寄った。
女性は私たちを覚えていて、
「あの時の暖簾の話があまりにも面白くて……ごめんなさい、
勝手に地元の新聞のコラムに投稿してしまいました」
と、申し訳なさそうに、しかしどこか嬉しげに話した。

造り酒屋だった家の名を受け継ぎ、店を開いた彼女。
「まるはち」の暖簾の話は、彼女の心にも残る何かがあったのだろう。

暖簾は毛布になるのか――その問いは、今も私の胸に残っている。
父は家具が壊れたりコードが古くなったりすると、
よくガムテープで補強する。
私はそれを見て「貧乏くさい」と思ったこともあった。

けれど、暖簾を毛布にした話を思い返すと、
父の原風景を見たような気持ちになる。

祖父と祖母のエピソードには、
物がなくても何とかしてしまう、
屈強で、ひょうひょうとして、
どこかコミカルな気質がある。

ガムテープで補強された家具を見て、
ふと親しみを感じる自分がいた。

祖父が暖簾を拾った田舎の川は、
今日も変わらず流れている。

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在る

寂しい人を見たなら
後ろからそっと手を添え
一人を分け合う
優しい風になり

心の糧を探す人には
足元をそっと支えて
一人に沈まぬ
泥臭い土になり

涙を流す人には
傘は差さずに
一人を潤す
清らかな雨になり

誇れる自分を見たい人には
灯した種火を渡して
一人を消さない
温かな月になり

いつでも私は
そこに在る
気付かなくとも
あなたの影になり

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 ◽️プチストーリー【色は美しい】(作品No_07)140字

チラシばかりのマンションの私のポスト。
まだ慣れない仕事の帰りに
疲れても何を期待してかいつも目を細めて覗いてしまう。

あれ・・ポストカードがチラシに混ざって入ってる。
桜が満開。
手をひねり宛名を見ると、母だ。
一番下に添えられた手書き
「お母さんは桜もいいけど、あなたの原色が焦がれるな」

(了)

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心の休憩

いつからだろ
人を見ているだけで
怖いと
思うようになったのは
いつからだろ
泣きたいのに
泣けなくなったのは
いつからだろ
笑いたいのに
笑えなくなったのは
きっと
一度や二度の出来事じゃない
小さな傷が
重なって
心が
身構えることを
覚えただけ
怖くなったのは
弱くなったからじゃない
守り方を
覚えたから
泣けなくなったのは
感じていないからじゃない
溢れすぎて
閉じてしまっただけ
笑えなくなったのも
心が死んだわけじゃない
安心できる場所を
探してる途中
だから
泣ける日も
笑える瞬間も
ゆっくり
戻ってくるよ
心は
壊れたままじゃない
ただ
疲れて
休んでいるだけ

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対岸

その長い列に並んでいたのは
悲しみ、怒り、妬み、無関心、絶望
そんなものたちばかりで
いつになれば喜びや晴れやかに
順番が回ってくるのかは
とてもわからなかった

せめて沈んだ気持ちを掬おうと
泥の中に手を入れれば
腕ごと沈んでゆく
指先がなにかに
触れたような気がしたけれど
なにかはわからなかった

列が進んだ
絶望の後ろに祈りがいた
その後ろはまだ見えない

祈りのあとには
希望が並んでいてほしい
そうちいさく祈りながら
泥に埋もれた腕を引き抜くと
指先には鱗が一枚ついていた

きらりと、光った

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端緒




神籬の傍らで

鉛色の空が
崩れ落ちた

榊の葉先を越えて
幕屋を打つ

瀟々と

土を解く雨音が
拍を取る


最初の呼吸


銀雨の向こうに
空の傷口から覗く青

── 碧井雫



#碧井雫#詩#現代詩 

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ぽえってみた

 一度寝た男が、電車の同じ車両に乗っていた。それまで思い返すことがなかったので、ああ、そういえば彼は次のF駅に住んでたっけと思い出したりした。ペニスが太かったこともついでに思い出した。
 私はその5駅先が最寄駅なので、しばらく下を向いて、ときどき彼の方をちらりと見たりしたが、やはり俯いておくことにした。二十一才の時に出会った女の人とは、寝なかった。
       彼女は消えた。
 私が書き始めたのは二十一のときで、それは彼女について書くためだった。
 私が書かなくても、彼女を覚えているひとは沢山いるのに、私はまだ書いている。彼女に見つけて欲しい。本当はただ、その先で彼女と寝てみたいのかもしれない。わからない。でも、私の太腿の、細かく毛細血管の走った、付け根を、可能な限りの近さで、見てほしい。私が彼女を見つめ続けるこの距離で。
 ああ、けがらわしいポエム!
 きみもよい夢を見なさい。

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[ゑ]ゑビスビール

カウンターで烏龍茶を飲み
ご飯の(中)と塩辛と、野沢菜と、つくねハンバーグを頼んだ。
隣のやせ細った中年が「ここは酒飲みの場だ!」と私を糾弾する。
バツの悪い私は桃烏龍を一杯頼む。
店員が気まずそうにすると私自身も気まずくなる様子に居た堪れないような、申し訳ないようなおもいでいっぱいだった。
頭上端に追い詰められたブラウン管テレビは野球中継を表情に表し、見るものは、負けている阪神に対ししかめっ面を向ける。
中年は「今年もダメじゃねが!」と毒を吐いて、その毒が私のつくねハンバーグにスパイスとなった。
縦縞のシャツに身を包んだ店主と中年はプレイヤーのバッドシーンを肴にビールを喉に通らせていく。
茶色の瓶から保冷されたミニグラスへ注がれる黄色は白の泡になりて、トクトク、シュルルシュル、という音を、こんな喧騒の中でも私の耳に与えてくる。
それは居酒屋という名の通過儀礼のようなもので、私のような下戸は本来淘汰される忌人なのかもしれない。
私は飲めないが、誰かが飲んでいる姿が好きだ。
愚痴を吐き、アルコールを流し、
罵声を吐き、アルコールを注ぎ、
笑いを撒き、アルコールを浴びる、
そんなどうしようもないほど全力な彼らが愛おしい。
野球中継を、枝豆を、店主の声を、喧騒を、狭くほこりっぽい空気を彼らは肴にしてその黄金色の液体を嚥下するのだ。
今を流し、明日を顧みらず、味は分からず、ただ、酔いしれるため。
どうしようもないほどの渇きを、潤わせるために今日もここは賑わっている。
中年の飲むビール瓶のラベルを見る。
恵比寿様は微笑んでいる、私ではなく、彼らに。
それがたまらなく悔しい、なんて思ってみたりもする。
恵比寿様の籠に鯛の尾が見える。
あなたの幸運は好きな野球チームが勝つことか、または宝くじでも当たることか、
今、この場の酒が美味い、それだけでいいか。
私は飲めないことをわかっていながら、微笑む恵比寿様の後光のようなものに当てられた(きっとそうだ)から、私はビールを注文した。
中年は嬉しそうだった。

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つきなみ怪談 路地の声

 休日に隣町まで散歩に出た時のことだ。古本屋を何軒かまわり、買い過ぎた本の重みで肩掛けの鞄が少し重くなっていた。そろそろどこかで夕飯でも食べようかと住宅地へ入った。近道になる細い道で、垣根の躑躅が夕陽に照らされていた。まだ咲き始め、といった具合だった。
 その道の真ん中で、小学生くらいの男の子が四つん這いになっていた。何かを探しているらしい。

「どうしたの」

声を掛けると、

「コンタクトを落としたの」

 と言った。坊主頭のこれといって特徴のない子だった。少しおかしいとは思ったが、一緒に探すことにした。

十分ほど経った頃だった。

 ふと顔を上げると、垣根の躑躅が満開になっていた。さっきまで咲いていなかった枝まで、白い花で埋まっている。
見間違えたのかと思った。
男の子は、
「ないなぁ」
と呟きながら、まだ地面を探している。
「ないなぁ」
少しして、また聞こえる。
「ないなぁ」
気付くと、その声だけが路地じゅうに残っていた。

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名前のない

名前のない残業
名前のない余白

名前のない帰り道
名前のない落とし物
名前のないまなざし

僕らのあいだにある、
名前のない距離

名前のない兆し
名前のない気配

名前のない始まり方
名前のない終わり方
名前のない境界線

まだ誰にも触れられていない、
名前のない静けさ

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ラタトゥイユ

フライパンで妻が
僕の持ち帰ったトマトとナスと
その他大量の有機栽培野菜で
見慣れない料理を作った

塩は肉を炒めたときしか使わず
トマトの酸味とズッキーニの旨味と
いろんなハーブの匂いがしている

ーグリーンカレーかと思ったけど、カレーじゃないね

ーイタリアンだよ

ーエスニック料理かと思った

ーもとは影響あるのかも。アフリカの人も好きみたいだから

ふうん。
と、僕は思う
ちかごろ妻はアフリカ人の暴食動画を毎日見ているので
アフリカの食生活に詳しいのだ

ーおいしいね

ーラタトゥーユ

自慢げに妻は言う
そうか、これがラタトゥイユってやつか、と僕は思う

ープロバンス地方の伝統的な郷土料理なんだよ

ープロバンスってよく聞くけど、どこにあるの?

ーイタリアのどこかでしょ
 有名な観光地で、
 プロバンス出身の有名な歌手がいっぱいいて
 みんなラタトゥーユが大好きなんだって

ーそうなんだ
 有名な俳優とかもいそうだね

と、僕は言う
短時間で、香りを飛ばさず強火で煮た野菜が
彩りも緑、黄色、紫、赤、ベージュと鮮やかだ

妻はいつも絵を描いていて
ときどきはイラストの仕事もしてきた
そればかりか
彼女の絵を好きになった僕が
この絵の作者にひとめ会いたいと、
彼女の個展に行ったのが
僕らのなれそめなのだ

僕も絵は好きだし
そればかりか
ピカソ、ゴッホ、ルノワール、セザンヌ、マティスは
(いずれも南仏プロバンスを愛した画家)は
ものすごく好きなのである

だがそんなことは
二人とも翌朝まで
まったく思い出さず

僕らの晩ごはんのラタトゥイユと
二枚の皿の並んだ
小さなテーブルの上では

イタリアのどこかの市の
たぶん広々とした真っ黒な大地の
プロバンス地方に揺れる
トマトとナスと
ニョキニョキ生えてるズッキーニを
水晶みたいな陽光がすてきに照らして
穏やかな風が吹いていた

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夏の始まりは

 太陽が頬擦りするかの様に近くで照り付けようとも、
蝉が地中での沈黙を破ろうと胸を膨らませ様とも私の夏は始まる事はない
玄関先のポストの中の公共からの知らせとダイレクトメールに混ざって
どの投函物よりも暑い封書を受け取るまでは、私の夏は始まる事はないのです。



              <夏より> 
             真っ白な封筒に
          私の名前だけが書かれていた
         中には透き通るような水色の便箋
          水が流れる様な文字で
          「もうすぐ いくよ」
          それだけが書かれていた
          便箋を封筒に戻しても
           流れる汗は止まらず
          蝉の鳴き声は勢い衰えず
          もう来ているじゃないか
         手紙を出すのが遅すぎなのだよ
         封筒の裏に書かれた差出人の
        「夏より」の文字に文句を言った



 日焼け止めで太陽を遠ざけたり、蝉が雌だとしても お前は雌だから鳴けぬと諭したり
夏よりの手紙の前では野暮な醜態を晒す事なく今年も夏を粋に楽しみたいものだと封書を清流へと流す。

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 1

 2

現実を出発する

長い廊下を経て
確かめてみる
壁づたいに
こころ、が歩行したことが
わかります
更に歩いて
蛇口をひねり
冷たい水に首を
立ち会わせると
おいしい水だって
山が震えます
朝です

すこし黄色い
いいタオルで 
顔を拭きます
余裕が乾けば
部屋に戻って
昔を
清拭してみようと
思います
そして
今日は  
朝摘みのトマトが
福福と笑うから
希望に満ちている
と考えることに
挑戦してみようと
思っている

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メルシー


  病院のカーテンは必要以上に風を含んで窓辺から浮かび上がる。カーテンがばさっと、空きベッドの方へ広がるのを、わたしと近藤さんは見つめていた。良い季節、暑くも寒くもなくて、そうつぶやいて、わたしはラジオ体操の動作をする。近藤さんは、猫模様のハンカチを振って、バブル期の女性たちみたいに、はしゃいだ。

 「近藤さん、それやめてくださいよ。笑っちゃってラジオ体操になんないんですよ」

  隣のベッドの近藤さんは、入院グッズが全て猫柄。スリッパ、コップ、ハンカチ。すべて猫。

 「近藤さん、今度猫ちゃんのハンカチ買ってこようか?」
「敬老の日に? オババに気を遣わなくて良いよ」
 「70歳はまだオババじゃないですって」
 「えりちゃんだけだよ、そんなこと言ってくれるの。皆わたしをババア扱いするんだもんな、好きでババアになってないっちゅうの」
「結局、近藤さんは猫飼ってないんですよね? わたしはね、実家で飼ってるんですよ。猫、メルシーって名前のグレーの猫」

  メルシーは、まみ子ちゃんが好きだったね。近藤さんはそう言って、すごく遠くを見た。多分彼女は、意識だけで自宅を見ていたのだと思う。入院患者は、わたしを含めて、よく魂だけで自宅に帰る。そういうことができてしまう。入院が長引けば長引くほど。

「まみ子ちゃん? 誰ですか、それ?」
 「まあ、話しても良いけど。まみ子ちゃんに初めて出会ったのは、いつだったかしらね」

 その時、わたしの主治医が病室にやってきて、こちらへ手招きをする。えりさん、診察ですよ。主治医はニコニコしながら、額に薄く汗をかいている。

 「先生、また階段できたんですか?」
 「そう、健康第一だから」
 「ぐえー、出た出た健康オタク」
 「近藤さん、わたし診察行ってきますね」
 「はいよー」
  近藤さんはベッドからハンカチを振り、わたしと主治医は廊下に出た。

 「えりさん、あのおばあちゃんとは仲良いの?」
 「おばあちゃんじゃないです。近藤さん! 猫好き仲間なんです」
 「ああ、猫。そうか、猫だよなあ」
 「え、何? 先生も猫仲間?」
 「いや、僕は犬派です」
 「わんちゃんもかわいいよねえ」

  入院患者用の診察室に入ると、わたしはメルシー、というより、実家、とか、彼氏、とか、自分が人生で失った全てを思い出して、涙が止まらなくなった。そのまま、泣いて泣いて、診察は明日の同じ時間に変更。わたしはとぼとぼと主治医と共に病室に帰る。

 「また、つらくなったら、スタッフさんに声かけてください。えりさん、じゃあまた明日」
 「また、あした」

  鼻をぐずぐずやりながら、わたしが病室のドアを開けると、近藤さんが、床に転げていた。
  わたしはすぐにナースコールを押して、そして、近藤さんに声をかける。
  こんどうさん、こんどうさん。
  看護師さんたちが、病室に入ってきて、近藤さんに声をかけて、近藤さんは、意識はあるけど、少し混乱しているみたいだった。
  わたしは病室のベッドでちいさくなり、近藤さんも、気持ちが落ち着くまでは安静にすることになった。
  
  その日の夜、消灯時間のずっと後、猫の声がした。ナーン、ニャーと2回。近藤さんが起き上がる音がして、わたしはもうすぐに巡回が来るのを知ってたから、寝たふりをした。
  メルシー? って思ったけど、ここは病室で、メルシーはいない。
  わたしはわかっている。わたしは大丈夫。わたしは本当は変じゃない。

  メルシー、ごめんね。あたる、ごめんね。にぼし、サイトウ、ナナコ、もも。みんなみんなごめんね。わたしがオババだから。

  近藤さんは意識が変になっているのか、固有名詞をいくつも言い終えた後、ごめんね。と言い続けた。

  近藤さん、と声をかける。
 「ごめんね、起こしたね」
 「いいよ、寝てないですから。それより、まみ子ちゃんって誰ですか?」
 「聞いたら、あんたわたしを嫌いになる」
 「大丈夫ですよ」
 「同室のなかまじゃないですか、猫仲間なんでしょう?」
 「……そうだね。わたし、35歳から、35年間、保護猫のね、シェルターをやってたの。全部で30匹いたね。そこにお手伝いに来てくれてたのが、まみ子ちゃん。良い子だった。わたしの相棒だったんだけど、ゴミ屋敷に猫を保護しに行った時に、おかしくなっちゃって。それ以来会えてないんだ。みんなわたしをオババだって。もう猫に関わるなって言うんだけどね、まみ子ちゃんだけは手伝ってくれた。それなのに、あの子を壊してしまったね」

 巡回の看護師さんがきて、わたしは黙って寝たふりをする。近藤さんも寝たふりをして、やり過ごすけれど、看護師さんが、病室を出て行く時、「ふたりとも、おやすみなさい」って言って、その場を後にして、近藤さんはその後ろ姿に手を振った。

 次の朝には、近藤さんは亡くなっていた。わたしは動揺のあまり、また発作を起こしたけれど、主治医に連れられ、入院患者用の診察室に入った。
 「えりさんのせいじゃないからね」
  主治医は何度も口にした。
 「猫が30匹居たって、聞いたけど。そのまま入院しちゃったってこと?」
 「他の患者さんのことだから、話せない。ごめんね。でも、えりさんに話せたなら、近藤さんも良かったね。しばらくは動揺するだろうけど、病室も変えるから、心配しないで」
 わたしは、外来に出る主治医のうしろを階段でついていく。主治医は階段に慣れていてとても早い。
「えりさん、また明日話しましょう」
 わたしは手を挙げる。
 じゃあ僕は行くので。

 わたしはそのまま、受付の近くのベンチに座っていた。そのまま1時間くらい、お尻が痛くなるくらいそこにいると、近藤ハルミの家族です、と40代後半くらいの男性と、若い女性が受付に来た。
  続柄を書く段になって、若い女性が、弾かれてしまった。ご家族以外は……。少し粘ったが、結局女性は、受付のベンチ、わたしの隣で少し待つことになった。

  わたしは、そのひとがまみ子さんだと直感的に察した。そして女性は、近藤さんとお揃いのハンカチを持っていた。

 「もしかして、まみ子さんですか?」
 「そうですけど」
 「近藤さんと、同じ部屋だった、えりと言います」
 「初めまして、まみ子です」
 「あの、近藤さん、まみ子さんのこと、」
 「恩知らずだって言ってましたか? 悪くなったら保健所に通報してって?」
 「そんなことは、聞いてません。ただ、壊してしまった、って」
 「壊した? 何を?」
 「その、まみ子さんを」
 「……あー、ほんとにオババになってたんですね。壊れたのは近藤さんの方。頭おかしくなっちゃって、猫の世話、できなくなったんですよ」
 「ゴミ屋敷で、ってわたしは聞いて」
 「それ以上はいいです。わたしたち、初対面ですよね」
 「ごめんなさい。わたし、そういうのわかんなくて」
 「いいですよ、わたしも言いすぎたし」

 そのとき、まみ子さんが、先程の息子さんと思われる男性に呼ばれた。まみ子さんは、じゃあまた、とハンカチを握りながら、男性の方へ駆け足で行った。

 ワーッと大きな声が聞こえた気がして、階段を登るのをやめる。歓声なのか、叫び声なのか、泣き声なのか。判別がつかない。耳を澄ますが、もう、何も聞こえてこない。
 病院食のもったりした匂いがしてきて、ああ、ここは病院、人は死ぬ。ここは病院、戻らなきゃ、と当たり前のことを思い出す。わたしは、その時、階段の途中にある大きな鏡の中に、パジャマ姿で、つま先が見えるスリッパから覗く、はげたマニキュアが目立つ女の、薄ぼやけた姿を幻視していた。

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こわれる

とても
静かに

一枚の
写真を
撮っていた

爪の凹凸を
つるつるさせた

中年
男が

いきなり

僕の腕を掴み



ホネ
きれいに
なったかな



床をゆびさしたずねた


僕はきっとなりましたよとシャッターをきりながら


中年
男を

組み伏せて濯めた

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愛の讃歌

あなたを想い歌を歌う
あなたの心に届くように
一人闇の中で歌う

音もなく静寂の中
私の声だけが闇に響く
あなたを想いながら歌う歌は哀しい
それでもあなたへといつか届くように
愛の讃歌を歌う

私の愛
あなたへの愛
愛の讃歌は何処までも拡がる
嗚呼…
あなたが愛しい
あなたが恋しい
あなたに触れたい
そんな想いを歌い続ける

この声が枯れるまで
この声が出なくなるまで
ただひたすら歌う

あなたに届け…
愛の讃歌

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俳句短歌誌『We』第20号(2025.9)掲載「うゐ」より

うつつなの母の名乗せて流氷来

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拝啓、中島みゆき様 vol.7 夜会Vol.2


まだ演劇的になる前の、コンサート形式でバックバンドもステージ上にいた
夜会が始まって2年目の、つまり第2回目の夜会


なにやらリゾート地のどこかで、3人の女性がチェアに腰かけている
静かにイントロが流れて、二隻の舟
いまはたとえひとりでも、どこかの海で同じようにひとりでたとえ舫い綱が切れてしまっても
繋がっている舟が、それに乗って孤独の航海をしている誰かが
きっといるはずよ、と


好きだった彼氏には別に好きな女性がいた
どこか行こうと誘ってみても、
いつかは行ってみたいけど多分無理だな、と
話をはぐらかす彼氏
忙しいからと思っていたけど、
うすうすはそうじゃないことも気づいていた
気づいていたけれど、気がついていないふりを続けていた
好きでいたかったから
離れたくなかったから
だけど、気持ちのない相手と付き合っていくのは心身ともにキツイ
自ら、彼女によろしく、と別れを告げる


この夜会は、失恋した女性の心象・再生がテーマの物語になっている模様


女性は行きつけのバーへ
そこには幼馴染とでもいうのか、腐れ縁とでもいうのか
32歳独身(おそらく)のマスターがいて、
男にフラれるたびに訪れては愚痴を聞いてもらっていた
女性はひとりで、傷心の思いをしゃべり続ける
忙しそうに振舞いながらも話を聞いているマスター
出会ったばかりの頃は、マスターはアルコールを飲めなかったらしく
ミルクなんて飲んでいたので、女性はひどく笑ってからかったり
いつの間にかバーボンなんて飲んでるマスターに、ちょっと驚いてみたり
多分この女性にとってマスターは、一番気を使わないでいられて
何でも云えるし、何でも聞いてくれる、とても居心地のいい男性なのだろう
けど、恋、にまでは発展しない
マスターがいい人すぎるせいもあるのかもしれないが


雨降りの夜、女性は身ひとつで街を出る準備をする
ママという名の猫だけを連れて


女性はとにかくお酒を飲んで、酔っぱらった
酔っぱらってさえいれば、嫌なことはすべて忘れることが出来る
どうせ一晩かぎりの出会いならば、うそっぱちでも構わない
楽しく飲めたら、うそつきだってあたしは好きよ


飲んで騒いでいるときは忘れられているけれど
ひとり、部屋に帰ると途端に顔を出すイヤな自分


元カレの家に電話
受話器越しの女性の声は濁りがなくて、いかにもアイツが好きそうな感じ
いろいろ話題をふってみたり、その都度女性はちゃんと応えてくれる
そんな話がしたいんじゃないのよ、いいからアイツを電話口に出してよ
心の中で毒づくも、すっかり見抜かれてしまってる
だからアイツの話は一切してこない
計算している
どう頑張っても、どうあがいても勝ち目がない
わかっていた わかっていたはず
でも掛けずにいられなかった
あたしと一体何が違うのか どんなところを好きになったのか
確かめずにはいられなかった
イヤなあたし こんな女になるつもりじゃなかった
きっといつかこの女性だって飽きられるに決まってる、なんて
他人の不幸を喜ぶようなこんな女 
アイツに嫌われるのも当たり前


洗面台、鏡の前で化粧を落としていく
クレンジングクリーム
化粧で隠れたあたしの素顔
ズルくて、醜くて、厭味ったらしくて
そうして誰も必要としない、いらないあたし
だけど本当にいらないと思っているのは
他の誰でもない、あたし自身


いつまでも立ち止まってはいられない
男にフラれることくらい なんだっていうの
いつまでも同じ場所で立ち尽くして何もしなかったら
世間からガラクタ扱いにされてしまうわ
そうよ、あたしはまだガラクタなんかじゃないはずよ
失恋の痛手を振り払うかのように
ガムシャラに、遮二無二、働き続ける
周囲から見ても明らかに異常と思えるほどに


心配なんかしないでよ
あたしはもう大丈夫なんだから
アイツのことなんか、とうに忘れたんだから
こんなに元気になって、こんなに働くことが出来てるんだから
心配なんか


本当は、強がりはよせヨと云ってほしいの
受けとめてほしいのよ
淋しいって云いたい、抱きしめてって云いたい
本当は泣きたい気持ちでいっぱいなのよ
あたしってば可愛くない女だから
どうしても強がるより他の方法を知らないのよ
男の人に無条件に甘えるとか、どうしても出来ない
出来たら多分、アイツにフラれたりしなかったと思うわ


悲しいのは、二度と誰も好きにならないことじゃなく
二度と誰も信じられなくなってしまうことね
だから、嘘でもいいから
いつもここにいるよって囁いて
そうしてくれたらあたし安心して
ほんの少し眠ることが出来るから


テレビはいつだって騒がしいわね
日々起きてる事件、事故、災害、海の向こうの遠い国の戦争
当事者じゃないものにとってそれらはもはやショータイム
総理大臣だってスーパースターよ
通行人ですらカメラを向けられたらスター気取り
凄惨なる殺人事件、映し出される騒然とした現場風景
チャンネル換えれば一変 どよめくような笑い声
あゝそうか、あたしの抱えていることなんて
他人からみれば、ただのショータイム
単なる暇つぶしか、どうでもいい出来事でしかないのよ
なんだか、ひとりで深刻ぶってるのがバカらしくなってきたわ


風はいつだって、思いもよらない方角から吹いてはあたしの頬を弄っていく
思い出は何ひとつ、あたしを助けてなんかくれやしないわ
  感情的な顔にならないで、誰にも弱みを知られないで
  何でもないわ あたしは大丈夫
そう自分に云い聞かせるの
夢を見れば傷つくことは多いけれど
夢を見ずにはいられない
いつか来る未来に、何かが起こるかもしれないじゃない
誰かがあたしと出逢うのを、待っていてくれるかもしれないじゃない
だからもう大丈夫
強がりとかそういうんじゃなしに、本当にもうひとりで歩いていけるわ





そして
世間から遊び女、売女と忌み嫌われている女と
同じく世間からゴロツキ、ゴミくずと罵られている男が
運命のいたずらか、それとも必然的か
惹き合うかのように出会ってしまう
女には男の、男には女の
これまでどれだけの心無い人たちと言葉の暴力で傷ついた心が
解りすぎるほどよく理解できた
まるで磁石のN極とS極のように
ふたりはもう二度と離れたりしないように
二度とひとりぼっちになったりなんかしないように
ぴったりと


二隻の舟、の、目には見えない舫いで繋がれたひとつずつの舟が
出会い、そしてひとつになる
まさにこれに尽きるのではないかなあ、と





この頃の夜会はまだ既存の曲たち(二隻の舟だけ、夜会のために描き下ろされた)
のみで構成されており、1曲単独で聴くと一見繋がらなそうな歌詞の内容に思うのに
ちゃんと物語になっているところ
流石みゆき姐さん、凄いなぁ、素晴らしい


コンサート形式でもあり、途中でMC(なのか、この物語の中の会話なのか)
があり、デビュー間もない頃のアルフィーのことなど語っていたり
みゆきはあの3人だと高見沢さんが好みっぽかったり
ステージ上でバンドメンバーみんなでビールを飲んだり
そのアルフィーがまだ間もない頃に研ナオコさんのバックをされていた
その中からみゆき曰く、一番ギターが上手く聞こえそうな「窓ガラス」を披露
この曲、お酒を飲むと弾きたくなるんだそうで(^^)


第1回目の夜会が映像化されていないのであれですが
夜会の原点であり、教科書的というか、夜会とはこういうものですよ
というのを、夜会初心者でも解りやすく鑑賞できるような構成になってる気がします


古い曲を聴けるところもいいですし、
みゆきのバックコーラスではおなじみの
杉本和世さん(みゆきが声が低いので、高音担当だった)
坪倉唯子さん(ちびまる子ちゃんでおなじみのBBクィーンズの女性の方)
両名ともにめちゃ歌が上手い(当たり前なんですけど)とこもまたよし
坪倉さんはあのハスキーな声がまたかっこいいんですよ


この夜会では、ラストの「ふたりは」以外は黒いカットソーに黒いパンツ
芝居の稽古している人がよく着ているような、あんな感じの服装でした
途中、白いベールをつけたりジャケットを羽織ったりとかはしてましたけど
ラストでは白地に花柄のワンピース姿で登場、
これまた可愛らしかったです




夜会は何度も観返したくなるんですよね
何度も観て、解ってるつもりなのに
観るたび新しい発見があるというか


改めて、同じ時代に中島みゆきがいてくれて
それだけでも本当によかったと
心の芯の芯から、思ってやみません





☆★*〜*★☆*〜*☆★*〜*★☆*〜*☆★*〜*★☆

最後までお読みいただき、ありがとうございます

今回は、中島みゆきさんのライフワークでもある
言葉の実験劇場と題した夜会
第2回目の夜会(初回は残念ながら映像化されていない)
について描いてみました





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批評・論考

雨の日に


雨止まぬクラゲ降る雨の
こういう雨の日に
田園交響曲を聴くと
闇の鰯の青白さ
エピソードなき茨の次元
を思う
両翼のない護符の歌
口や砂
ベンチを置いて濡らしていた
すべて境い目のない影の雨の
雨止まぬクラゲ降る雨の
首筋を 這う水の筋 灰の川
川をゆく一枚の葉の孤独を思う
こういう雨の日に
田園交響曲を聴くと
どうだろう
橋は哀愁
殺された
何匹かの鰯も哀愁であるか
両翼のない護符の歌
実名書いて
夢幻失踪!
感覚星雲レンズの日!
そのとおり
レンズの中で雨が降り
降った雨がレンズを作る
五線譜 炎熱 太陽の
なかなか見えぬ この季節
エピソードなき茨の次元
に電気を流し
走る母のトカゲの心
真鍮風景
棺桶荘厳黒塗り風景
口や砂
ベンチを置いて濡らしていた
雨止まぬクラゲ降る雨の
こういう雨の日に
外国漫画の人殺し
内部の死人の瞑想ナマズ
鰯を置いて逃げようよ
雨路上にむらがるマネキン
こういう雨の日に
田園交響曲を聴くと
犯罪的な毛が生える
首筋を 這う水の筋 灰の川
底の見えない
灰の川

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そらまめ






またわたしも駅に降り立ち、どこか、過去からやって来てはひらひらと、白い頁をすり抜けながら黒い蝶たちが行ったり来たり。この網膜に掛かることも、この手に触れられることもなく、あぶくのように弾けてはどこかへと消えてしまう。

 



やがて帆を張った一艘の船が微風を受け、判然としない季節の中、うっすらと茜に染まりゆく街並みと、遠くかすむビル群とに真っ直ぐに光を放射する夕陽に埋もれてゆくようにして航海は始まった。



記憶

ひとつのそらまめが青空に高々と浮かんでいる。
土手の叢に立ってその鮮やかな緑とつややかな姿を見上げている。それはどこまでも伸びやかで絵画的な記憶という名の。



幸福

幸福についてはわたしは、うまく答えることができない。
この手のなかですやすやと眠るようにして。


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即興詩 舞

即興詩 舞


ああ、私は今

まだここで何が起こっているか分かっていない。

感情がゆっくりと立ち上がる。

舞がゆっくりと始まる。

ゆっくりと ゆっくりと

感情と共に舞が始まる。

舞は感情と共に始まる。

舞は音を連れてやってくる。

舞は音楽をまとっている。

言葉は少し遅れてやってくる。

舞は感情と共にある。
舞は感情と共にある。

言葉は少し遅れてやってくる。

息が先に行く。

ああ、不安だ。

ああ、嬉しい。

ああ、怒りを感じる。

不安も 喜びも 怒りも

舞はその中に包み込む。

私はまだそれを表す言葉を知らない。

未来への不安も
今ここにいる喜びも

過去への怒りも

不安も 喜びも 怒りも
未来も 今も 過去も

舞は全てを包み込む。

舞は回る。
舞は回る。

舞は回って
遅れてきた言葉に追いつく。

追いついて
その先へ行ってしまう。

舞は先に行き、
言葉は少し遅れてやってきて

舞はまた一巡し
言葉と一致する。

ほら、
あなたは舞が先に行くところを見て、

舞が一致し、
また先に行くところを見ている。

舞は先に行って
あなたの中に降りる。

そして
あなたの中に言葉が生まれる。

そこで
あなたの中で

感情と舞と音と音楽が
言葉と一緒になる。


(舞の時)


あなたは見ている。
あなたは聞いている。

あなたはこの空間にいて
見て
聞いて

香って

足の底から感じる振動と

空間から感じる波動を

感じている。

私はあなたの前にいる。

あなたはそこにいる。

私はあなたの前にいる。

目を閉じてご覧なさい。

私はあなたの前にいて、
後ろにいて、
横にいて、
上にいて、
下にいて、

そして
あなたの中に。

さあ、
目を開けてご覧なさい。

私はあなたの前にいるけれども、

あなたの横にいて、

後ろにいて、

上にいて、

下にいて、

あなたの中に、

あなたの記憶の中に刻み込まれる。

この空間の中の

見たものと

聞いたものと

響きと

香ったものと

全てと一緒に

記憶される。

記録ではない記憶。

あなたの中に

今見たものと

聞いたものと

感じたものが全て収まって、

あなたはやがてここを離れる。

そうして
この空間を思い出す。

見たもの、

聞いたもの、

感じたもの、

香ったもの、

足の下に感じたもの、

全てを含めて

あなたは再生する。

ここを離れて

再生する。

その時

私はあなたの前にいて

後ろにいて

隣にいて

上にいて

下にいる。

あなたがここを再生するたびに

私はあなたのそばにいる。

あなたはここを

言葉で、

舞で、

音楽で、

それぞれの方法で再生する。

その時

その瞬間に

感情と

舞と

音と

音楽と

言葉が一致して再生される。

私はここにいるけれども、

あなたたちと一緒に

どこまでも行って

再生される。

再生されるたびに

再生されるたびに

新たな記憶となり

広がっていく。

この空間が

はるか彼方まで

広がっていく。

(舞の時)

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blue heavens


ああ もう こんなことなら
貴方とあたし 青い砂粒になって
くびれた小瓶を通過しましょう

小さなあたしを抱いていてね 間違わぬよう抱いていてね
あたしは貴方の手を決して離さないし
濁流に飲まれ 万が一はぐれたとしても
貴方を見つける自信がある

二度とひっくり返らぬ砂時計の中で
二人の楽園を見つけようね


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