投稿作品一覧
屁
屁は笑えるから好きだ
屁はした後気持ちがいいから好きだ
屁は愛とか正義とか喚かないから好きだ
本当にそうか
本当にそうなのか
嗅ぐ人が嗅いだら屁は不快なのだ
ゆったりと優雅な席で
屁はした後恥ずかしいのだ
誰の前でも
屁は稲妻のごとく走っているのだ
尻の下から天空高くへと
屁は確かに喚かないが
屁は愛そのものだ
それでなかったら空気に溶け込んで場をなごます筈がない
屁は正義そのものだ
それでなかったら汚れを外に追い出して空に返す筈がない
握りっ屁
透かしっ屁
ひとつとして同じ匂いのする屁がない
ひとつとして同じ音としてこの大地空間に木霊する屁はない
屁
僕は君のことが未だに好きになれない
点描
二つのコップは水かきをひらき
潤った合谷にシナモンをまぶせば
蛾が舞い踊り
さいてんをはじめる
虫唾を吸ったヤマボウシは赤面して
点々とした灯台守になり
夕餉を香らせ
十六進数を唱える囲繞地に
さいげんをせまる紋様
体育館を転がる埃に跳躍を与え
定点観測を忘れてしまったハナクソが
遠心力を繋ぎ合わせて
大気圏を殴打する
かけ湯を何度も何度も掴もうと
にじんだ笑い声が白々しく
茎の渋味を脱出して
かりあげた湖畔を透過する
地形の標本を仰視すれば
誰も記録していない
カタカタと回転する終点のすきまから
滴る消息を印刷する蛍火の欠片が
滑り落ちるのに適した角度で手を振れば
宴を終えた化石が洗い流され
方眼紙の黄ばみを思い出す
3ページ目(11)
11
アートフェスタも終盤に差しかかり、どのブースも少しずつ撤収の作業に入っていた。
人気のブースでは品物がほとんどなくなり、持ってきた分の段ボールをたたんでいる作家の姿がある。
パフォーマンスをしていたブースでは、ブルーシートが絵の具でべったりと汚れている。
作家は使い捨てのレインコートを着たまま、慎重にそのブルーシートをたたんでいた。
「……思ったより、厳しかったな」
売れ残った本を丁寧に梱包しながら、朔が言う。
「まあな。こういう場所だし」
湊が机の上を片付けながら答える。
「でも、出てみないと分からなかったよな」
3人は、同じ大学の文芸サークルで知り合い、卒業後は社会人向けの文芸サークルに参加していた。
仕事をしながら、小説を書き続けている。
「初めてにしては、こんなもんじゃないか」
「場違いだったかもしれないけどな」
「それは思った」
少しだけ笑いが混じる。
「でも、無駄じゃなかっただろ」
「うん。小説を探しに来てる人は、あんまりいないってことは分かったし」
「アートだもんな、基本」
「だな」
朔が箱に本を詰めながら言う。
「次はさ」
碧月が少し間を置く。
「文フリ東京、出てみないか?」
誰もすぐには答えない。
「……いいな、それ」
「そっちの方が、見てもらえそうだし。今日はある意味、いい練習になったんじゃないか?」
「うん」
「まーでも、ビビるけど」
アートフェスタオープン後、最初に買ってくれたのは、社会人向け文芸サークル「句読点過多」のメンバー達だった。
「お前ら、本当に出したんだな」
メンバーの一人が、本を手に取りながら言う。
「1冊、買っていく」
そう言ってページをめくる。
少しだけ読んでから、顔を上げる。
「……いいじゃん。こういうの書くようになったんだな」
言い方は軽いが、適当に言っているわけではない。
「今日、サークルあるからさ、持ってくよ。みんなにも見せるよ。感想、来週また伝えるわ」
「向こうのカフェで読もうよ。おもしれーじゃん、これ」
もう一人のメンバーがそう言って、本をレジに置く。
少しだけ間を置く。
「……でも、こういうの、前から書いてたっけ」
碧月は少しだけ間を置いた。
「実は、大学のときに書いていたものを、書き直して出したんです」
少しだけ恥ずかしそうに答える。
そんなふうにして、10冊が売れた。
売れたというより、
見てほしい人たちの手元に渡った、という感じだった。
そこから先は、流れが読めなかった。
ブースの前は、閑散としている時間と、急に人が集まる時間の差が大きかった。
たまに、物珍しさで近づいて、見本を読んでくれる人がいる。
そういう人が一人いると、周りの人も安心したように近づいてきて、小さな人だかりができる。
けれど、それも長くは続かない。
そういう時間は、1日の中で2回ほどだった。
見てくれる人はいる。
ページもめくってくれる。
それでも、買うところまではいかない。
最初は、手に取ってくれるだけで嬉しかった。
それだけで充分だと思っていた。
でも、午後に差しかかるころには、同じ場面を何度も見ているような気がしていた。
見本を読んでいる人を、ただぼんやりと眺めていた。
アートフェスタでは、主催であるテレビ会社のテレビカメラが各ブースを周る。リポーターは作家を相手に、簡単なインタビューを行う。大きなガンマイクと眩しすぎる照明で、辺り一帯は非現実味を帯びている。
その集団を目当てに、人の流れができる。
カメラが回っているときだけ、そのブースに近づいて、本を手に取る人もいる。
欲しいかどうかは関係ない。
その場にいる自分を、映してほしいだけだ。
本を開き、少しだけページをめくる。
そのままレジに置く。
カメラの端に入る位置を探しているようにも見える。
それが読まれるかどうかは、分からない。
それでも、本は1冊減る。
審査員の一団が通ったときも、同じだった。
何人かが足を止め、何人かが本を手に取った。
その中の一人が、見本を少し長く読む。
ページを閉じてから、もう一度表紙を見る。
「……これ、面白いね」
小さくそう言って、碧月の方を見る。
「今は他の作家も見て回ってるから、ここでは買えないんだけど」
少しだけ声を落とす。
「あとで戻るから、1冊とっておいてもらえる?」
碧月は、一瞬だけ言葉に詰まり、
それからうなずいた。
「はい」
審査員は軽く手を振って、次のブースへと移っていく。
そのあと、3人のあいだに少しだけ沈黙があった。
「……今の、やばくない?」
朔が小さく言う。
「うん」
湊も短く返す。
碧月は何も言わなかったが、
机の上の見本を、少しだけ整えた。
そのあとで、少しだけ人が増えた。
誰かにつられるように、数冊が続けて減った。
理由は、よく分からない。
気がつくと、30冊がなくなっていた。
夕方になり、照明の色が少しだけ変わる。
会場全体が、終わりに向かってゆるやかにほどけていく。
ブースの外では、箱をまとめる音や、台車を押す音が混ざりはじめていた。
碧月は、残った本を段ボールに戻しかけて、手を止めた。
足音が、一つだけ近づいてくる。
止まる。
机の上の見本に、手が伸びる。
ためらいのない動きだった。
ページがめくられる。
紙の音が、小さく続く。
最初の一枚で終わらない。
指が、もう一度めくる。
碧月は顔を上げない。
ただ、その動きを視界の端で見ている。
少しだけ、読む時間が長い。
「これ、なんて読むんですか?」
声は静かだった。
碧月は一瞬だけ言葉に詰まり、
それから答える。
「……ゆるし、です」
短い会話が続く。
説明の途中で、一度言葉を探す沈黙がある。
相手はうなずいて、
もう一度ページを開く。
今度は、最初の行で止まる。
しばらくして、本が閉じられる。
少しだけ間があく。
その間が、長く感じられる。
1冊が、手に取られる。
レジの上に置かれる。
動きに迷いはなかった。
碧月は代金を受け取り、本を渡す。
指先が、ほんの少しだけ触れる。
視線は合わない。
そのまま、去っていく。
碧月は、少し遅れて顔を上げた。
遠ざかっていく後ろ姿を、目で追う。
足音だけが、少しずつ遠ざかる。
やがて、人の流れに紛れて見えなくなる。
碧月は、手を動かさなかった。
入れば、終末
否加熱の笑いか美談を切る時
悔いが出る上空に歯がたを垂らす
この病態と似て 心拍は企画されて死に
ハレーションが毎秒の錯誤を落として
喉の奥の背徳が光る
口は二度と開かない 毛先にさえ
獄門パスポートを解約したい
純潔が帰国できないから
背へ エゴから 染み も
陸が庇護欲を削ぐ濾過なら
新たな賛辞がかかげられて
腫れ合いに釘
盗られた狭間は海に代わられる
白い小人たちは上顎に佇む母に別れを告げて
立派な化石になってくるよと 冗談を言った
頭蓋骨の気まずさ
猫背はひどくなるばかりだろう
へーベルの探究の跡
潤いながら停止する囚人
天の根元の切れ目をただ
隠された腐敗が統べている
止めどなく流れるのは
卑屈さに愛されてしまった陽光
無機質な指にすがり こびりつく粘度の
ざわめきに淡々とする
雨にずぶ濡れた疑念が迫る前に
目覚め、が物質になる前に
滑稽なスポンジを用意する
やがて
罰 は終わる
Inner necessity 7# アイラシヤ大陸
時代 現代
場所 東京都
男は無言のまま、先ほどまでドアの隙間に無機質に嵌められていた独自の拘束具を、手慣れた動作で取り外した。エリカはその時、ようやく担当ホストとの泥沼のようなやり取りを思い出した。しかし、それさえも今の彼女にとっては、遠い異国の出来事のように感じられた。
「夜は長い。何か食べようか?」
男が内線で食事を注文する。運ばれてきたのは、低温調理された極彩色の甲殻類に、トリュフの土壌を模した黒いクランブルが散らされた、彫刻のような一皿だった。皿の縁には分子ガストロノミーによって抽出された「潮騒の泡」が静かに弾けていた。
男はセラーから、ラベルの剥げかけた年代物のボルドーを取り出した。抜栓された瞬間、部屋の空気は数十年分の時間が熟成された芳醇な香りに満たされる。彼はエリカのグラスにその深い血の色を注ぎ、自らもゆっくりと口に含んだ。
沈黙の食事が終わると、男はジャケットのポケットから銀縁の細い眼鏡を取り出し、慎重に耳に掛けた。そのレンズは、膨大なデータの海を「正しく視る」ためのフィルターであるかのように見えた。彼は指先で眼鏡のブリッジを静かに押し上げ、ドレッサーに並ぶラ・メールの香りと、カトラリーが触れ合う音の混ざり合う奇妙な静寂の中で、再びタブレットの画面に視線を落とした。
エリカは備え付けの炭酸水で喉を潤しながら、先ほどから気になっていたCWS(クリエイティブ・ライティング・スペース)の画面を再び指先でなぞる。
「ねえ、おじさん……この『アイラシヤ大陸』って、元々はグリフィスの物語じゃないの?」
男は眼鏡の奥の瞳を細め、司書のような淡々とした口調で応えた。
「……ああ、そうだ。説明の優先順位から後回しにしていたが、これは千才森 万葉という方が提唱したシェアード・ワールドの企画だ」
「二次創作企画『#アイラシヤ大陸』。千才森氏のMy Spaceには、この世界の根源的なルールが記されている。それが今の我々の窮地を救うヒントになるかは不明だが、世界の理(ことわり)を理解する助けにはなるだろう」
エリカは千才森氏の記した説明文と、それに対するグリフィスの過去の応答を読み耽った。文字を追うごとに、彼女の中でバラバラだったパズルのピースが、引き寄せられるように結合していく。
「……これ、別の『系』からの干渉だよ。李の存在もそう。だから……」
エリカは再びグリフィスの過去ログの深淵に潜り、ある仮説を掴み取った。
「これって、多次元……あるいは異なる時代からの干渉っていう形なら、物語の大きな流れを歪めずに、今の詰んだ状況を修正できるんじゃないかな」
「例えば?」男が再び眼鏡のブリッジを押し上げる。そのレンズには、新宿の夜景とコードの羅列が重なって映っていた。
「李が収集するデータを逆解析して無効化する存在を、彼と同じように『別の領域』から召喚するの。例えば……グリフィスが書いている『阿部中期』っていう時代。あそこの、なんとも言えないナンセンスでシュールな空気感を使って、李の脅威を感知して送り込まれるエージェントみたいな存在を作れない?」
「独立系の介入か……」男は顎に手を当て、思考の迷宮を彷徨う。「この世界の制約において、他系への干渉がどこまで許容されるかは不明だが、李 浩然という存在自体が外来の異物である以上、その毒を以て毒を制する論理は成立しうる。逆手に取る、ということか」
「阿部中期にさ、『田伏正雄商店』って場所があるでしょ。あそこ、なぜかキアヌ・リーブスの肖像画が飾ってあったりして、最初から時空が歪んでる設定になってるじゃない。すでに掲載されて、受け入れられている『確定した事実』として。だから、その世界観を崩さない形で、あの演算システムに介入できる存在を、このグリフィス期に送り込むの」
男はしばらく沈黙し、窓の外に広がる新宿の、無数の光の粒を見つめていた。やがて、重い扉を開くような決意で口を開く。
「やってみる価値はある。……では、どのような『形』をした存在を送り込むべきか、君の直感を聞かせてくれ」
エリカは腕を組み、三面鏡に映る自分の、記号化された「頂き女子」の容貌をじっと見つめた。
「そうね……私、難しいことはわかんないけど。デジタルの妖精っていうか、ボカロで言うなら『初音ミク』みたいな感じかな」
「なぜ、ボーカロイドなんだ?」
「……なんとなく。電子の海を泳ぐ、実体のない、でも誰にでもなれるような存在。それが一番、このガチガチの論理(システム)をすり抜けられそうな気がして」
「……エリカ。君の直感は、哲学の思索を飛び越えるな。ウーリチの伝言主が、君の創造性に重きを置いていた理由が、なんとなく理解できた気がする。よし、二人でその『現象』を記述しよう」
食事を終えた二人の共同作業によって紡がれた設定は、一編の物語としてCWSに放たれた。
題名は、『MIKU #アイラシヤ大陸』。
アップロードボタンを押した直後、画面は拒絶の警告を出すことなく、吸い込まれるように「公開中」の表示へと変わった。正解の鍵が、音もなく錠前に嵌まった瞬間だった。
エリカは、自分の指先から何かが失われ、同時に何かが流れ込んでくるような、底知れぬ不思議な感覚に囚われていた。
(私……私の名前、なんだっけ。エリカ……だよね? これ、本当に、私の……)
鏡の中の「エリカ」という記号が、高級化粧品の香りと共に、一瞬だけデジタル・ノイズのように揺らめいた。
パラジクロロベンゼン
学習机の上で勉強されているのは
パラジクロロベンゼン
パラジはパラダイス
クロロは苦労人
ベンゼンはベンゼン大使
みな、一様に春を待ってる
勉強しているのは
ナオミキャ・ンベル
ナオミキャは浪岡修平
ンベルはとどのつまり
明日からきっちりと春である
浪岡修平は「防虫剤を囲む会」の会長
もちろんナオミキャは浪岡修平だが二人に面識はない
ンベルはどとのつまり
月に一度の会合が奇しくも本日開催される
第一高等学校の校舎が見える公民館集会場
八畳敷きの部屋
定刻通りに会合は始まる
事務局長の田中が簡単に挨拶をし
会の設置規則第四条第一項に基づき会長である浪岡修平が
座長として議事の進行を執り行う旨を宣言する
ちなみに田中は事務局長を名乗っているが
その他に事務局員はいない模様
この会においてパラジはパラダイスではなく
クロロは苦労人ではなく
ベンゼンはベンゼン大使ではない、それはあくまでも
ナオミキャ・ンベルの学習机の上のみのことである
ンベルはとどのつまり
明日からきっちりと春である
浪岡修平はこの公民館のある町会長にも就任している
地元のちょっとした名士であり
優れた人格の持ち主であり
肩が小さい
若い頃に肺を患い生死の境をさまようが
奇跡的に助かる
以来、痰の絡む咳をよくするようになる
さて、という浪岡修平の一言で議事が始まる
出席者は会長及び事務局長を含め七人
ナオミキャ・ンベルは学習机で一人
流れるように議事は進行する
畳の上に座る七人の真ん中には防虫剤がひとつ
会が始まってから五分遅れて会員の中村が到着する
それから数分後、定期券を忘れたと言って
中村は再び離席し公民館を出て行く
ナオミキャ・ンベルが窓を開ける
風の匂いを嗅ぐとやはり間違いなく
明日からきっちりと春である
近所の犬が吠える
何にでも吠える犬である
定期券を取りに走る中村の姿が見えるが
ナオミキャ・ンベルにはそれが誰であるか知る由もない
学習机の上では
パラジとクロロとベンゼンが
一様に春を待って
春の話をしたがっている
集会場では浪岡修平の流れるような進行で議事も終盤である
次回の会合の日にちの取り決めを行い
結局間に合わなかった中村には
後日事務局長の田中が連絡することとなる
次回の主な議題は予算と決算です
田中が確認をする
もうそろそろ春ですかね、と浪岡修平が呟くと
会員が一様に頷く
ンベルはとどのつまり
明日からきっちりと春である
中村が転ぶ
上着のポケットの中で防虫剤の割れる音がする
それでも立ち上がり
会に間に合うことを信じて走り続ける
パンを焦がした
パンを焦がした。
これは昨日、
朝食に食べたら美味しいだろうと思って買ったパンだ。
うっかりしていた。
もう少し焼こうと
時間を足したのが間違いだった。
“もう少し〜しよう”は、慎重に。
職人みたいにトースターを見つめて、
美味しい頃合いを
そっと見極めるように、
じわりじわりと攻めていく。
今度からはそうしようと、
焦げたパンを見て思った。
岐路
目の前にある
分かれた道
赤子が後ろへ
下がらないように
人は前へ歩む
他人の言葉が耳に届く
おいしい店の匂い
横切ったきれいな人
足を踏み出せば
幻覚のように
魅惑の道は消える
たとえいま苦しくても
歩んだ道には
触れられる温かい手
選べるのはひとつだけ
足跡が残る
過去は自分だけのもの
ただ泣くことさえ、思うようには。
泣くもんかと歯を食いしばっても
涙が止められない日もあれば
泣きたいのに泣けない日もあって
ただ泣くことさえ思うようにいかない
笑い飛ばしてしまいたいのに
顔を引きつらせるばかりで
笑うことさえままならぬ日もあれば
目に入る小さなものたちに
何度も顔がほころぶ日も
叫びたいのに声にならない日もあれば
叫び出してしまいそうになるのを
震える拳を握り締め堪こらえるえる日も
ずっと眠っていたいのに
何をしたって眠れない日も
ずっと起きていたいのに
起きていられないほど眠い日も
泣くことも
笑うことも
叫ぶことも
眠ることも
そんなことでさえ
思うようにいかない
わたしにとって
生きる日々は
そんなものだ
鋳型(アーキタイプ)
蠱毒にて 勝ったわたしが 勝ち上がり
受精時の レースに続き 二度目の快挙
辞世の句というものを捻っている。
理由は特にない。しいて挙げるならば、
幼き日にわたしであったもの背中を追いながら日課のウォーキングをこなすのがそこそこの苦役だからだと思う。
記憶がいつも二、三の積層で構成されている。
自動再生をオフにすると逆再生がかかる仕様なので統合が許されない。
悔しく思う。
隣のレーンでは、べつの自分が別の条件で走っている。
機会は尊重されるべきだ。
叔母の家に行く途中の鯛焼き屋を思う。
なんで母は借金をするのに手土産をもつのか。
馬鹿げているなと思った。
訪問の形を装った物乞いの手つきも慣れたもので、全8頭が今一斉にゲートに入ります。
蓬風味の薄皮、つぶあん、天然もの。
一匹づつ焼いた鯛焼きを天然と呼ぶ馬鹿馬鹿しさが無効化する可能性に賭けているが、
どう考えてもレース自体が成立しないので、
おれの霊は最終コーナーでなんだか雑に供養されている。
ワンカップにタンポポを差すな!いや差せ!よっしゃまくった!
アーキタイプ号・日高ビッグレッドファーム出身父母はあのトリックスター、前走1000万下
ハンデ戦・よもぎ賞に続き二度目の快挙。
鋳造された途端に型が自我を定義して一匹分の苦しみが焼きあがる。天然ものと養殖もので何故か苦しみの量さえ違うのではないかという錯覚があり、
霧のように頭を覆うので呼吸がしづらい。
気持ちが悪いので、
隣でも別個体が焼かれていればまだ
痛みが分散されるのではないかと思っている。
またレーンが増える。
あと何回自己条件を勝てば、
この錯覚を払拭できるのかわからない。
シャワーを浴びる背中の像にさえ追いつけない。
鏡の自分はおれより半歩遅れて指を折る。遅い。だからお前は。
あくまで機会は尊重されるべきだが。
に・ど・め・の・しょ・お・り…
ちくしょう。字余りか。
駅名だったか。なにかの音数を数えなくてはいまここにいる自分が吹き飛ぶ錯覚がある。
もっとも何を数えていたのかわからなくなったのだが。
朝の寝床、
点呼作業では浮上している自分の名前を確認していたのだが、今いる無人駅のような場所ではそれがかなわない。
そもそも、なんでおれはこんなやつの名前を確かめる必要があるのかわからない。
恋人を作れる機会も人権も人より半馬身足りないと思っている女だ。手元の単勝馬券
1️⃣シャーデンフロイデ
なんでこんな嫌な名前の単勝100円なんか買っとるん。
上に「がんばれ!」って書いてある。応援馬券というシステム自体が嫌らしいとおれは思っている。場外で惰性でくっついとる男に付き合って馬券買ってから蕎麦屋に寄る。熱いかしわそば、帰りに前時代の象徴と化したピンク電話の前でレースのコースター上の座を誇っている小分けのポリ袋には、薄黄色の幸福。
天かすとボトル入りのめんつゆを買う、この女、それだけは譲れない。
蓬、柏、と名付けていた。和菓子由来の名前をつけるのが女らしいと思ったからだ。
しかしその声たちは女らしさを拒んだ。「どうして毎朝点呼するためだけの名前まで女らしくせなあかんねん。」
出身地不明の声は有給申請用のとはちがってよく働いた。
労働をゲーム化しすぎるきらいがあったが。
シャーデンフロイデにも平等の勝機がある。そう空間上にいるおれのような誰かに告げるように呟くと、
女はそれが嬉しくなった。
給湯室のちゃぶ台の上、冷めただれかの差し入れの鯛焼きを一口齧る。後輩の作り声もやはり公営競技の中継でしか見かけない顔の女子ナレーターのようだ。誰かの娘のような寵愛をえた愛人であったり愛人の代替としての寵愛を射止めたような女の。
三月の半ば、誕生日に予想紙のごとく三重の赤丸をつけ、だれかの本命を気取ったカレンダー。
後輩より数日早く生まれただけのわたしのデビュー戦、手応えのない着順。
天然がどうとか人工がどうとかいうどうでもいい話を熱っぽく語り、そういう◯◯ちゃんって人工っぽいよなーっていうツッコミを犬のように待っている。
どうせ冷めてしまったら同じなんだよね。
番狂わせがほしい。
後ろにいるほうのわたしがわたしを追い抜いてゴールして、それを笑っているわたしになりたい。
厩舎でもいい。1レースに3頭出したい。
私の両隣は、私が知ってる私がいい。
ブロック戦術を正当化してみたい。
表彰台で、申し訳なさそうな顔をしたい。
嬉しさを噛みきれずに引き攣りたい。
足元の草を食んで他人事としたい。
蓬でも、榊でもいい。
わたしはそれでも、柏がいいかな。
𝚂𝙷𝙸𝙽𝙸𝙶𝙸𝚆𝙰 𝙻𝙰𝚂𝚃 𝙱
2026/03/30
手の埋葬
手を
引かれて見知った町を歩く
老いた漁師の赤らんだ手が
まぁ、まぁ、呑んでいきぃな、と手まねく
あすこの地蔵、おどしの地蔵さん、脅しな
明治の頃、ぎょうさんの人がコレラで死んだ
焼き場はいっぱい……あすこで焼いたそうや
あすこに祖父さまはおどし番に立ってたんや
小さな手、大きな手、硬い手、柔らかい手
手が 沢山の手が積み上がり
人々の静かな祈りに眠っている
手を
引かれて、そっと手を合わせ
見知らぬ町の顔を、その輪郭を、手でなぞる
雪山からの置き手紙
カーテンを揺らす如月の風は冷たいけれど
貴男が魅かれた白き雪山の寒さには程遠い
貴男が求める白は此処には無かったのですか
誰も触れられぬ白を求めて未だ帰らぬ人よ
帰らぬ者を憎まず帰さぬ白を憎む私の心に
白は無駄に鋭く突き刺さっては希望を装いながら光っています
永遠の眠りの中でさえ自分の白を求め止まない貴男には
目覚めを迎える眠りの残酷さなど解るはずも無いのでしょう
目まぐるしく移る季節の中で変わる色彩は
淡々と綴られた置手紙の余白を広げるばかり
カーテンを揺らす風はやがて温もりを持ち
愛おしさと悲しみを記憶として置き換える事で
私の心に刺さった白さえも許しの鑢で丸みを付けようとするけれど
雪山から 貴男が 戻る日まで 置手紙は 溶けぬ雪で 封印し
私の命が尽きる時間を要しても置手紙を遺書と改名させはしない
貴男が求める白は私の心に刺さったままなのだから
BAR「Creative Writing Space」
ニーズがあるやらないやら、まったく見当がつきませんが、
毎度おなじみの思いつきで、BAR「Creative Writing Space」を開業いたしました。
皆様にお使いいただけなければ、すぐに閉店いたします。
電脳空間の片隅にある、吹けば飛ぶような小さなBARでございます。
一杯引っかけた体で雑談していただけるスペースをイメージしています。
「Talk」がさほど機能していないことも踏まえ、もっとカジュアルに使っていただけたらと思っています。
【ルール】
・ワンドリンク制です。必ず何かお飲み物をご注文してからお話しください。ノンアルコールでも構いません。
・お代はいただきません。もしスペースコインをお支払いになりたくなったら、他のお客様に奢ってあげてください。
・酔っ払いすぎにはご注意くださいませ。
Creative Writing Space事務局
2026/03/21
批評・論考
人間
太古の昔から、戦争の神様はいたけど
反戦の神様はいないから
戦争に反対する人間を讃えよう
悪と戦うのは正義だとか
防衛は侵略じゃないとか
そんなことを言う神様を見捨てて
良い戦争とか、悪い戦争とか
敵とか味方とか関係なく
戦争に反対する人間を讃えよう
あなたのこと、わたしのこと。
血液型を聞かれる。
でも、もっと聞いてほしいことがある。
誰と住んでいるか聞かれる。
でも、もっと聞いてほしいことがある。
料理できるか聞かれる。
でも、もっと聞いてほしいことがある。
わたしは、
あなたが話したいことを
ちゃんと聞けているだろうか。
ビールの匂い
バスのドアが開いて、初老の男性が乗ってきた。
座席は埋まっていたので、私のすぐ近くに立った。
歩き回ってきたのか、少し汗ばんだおでこをハンカチで拭いている。
そのとき、なにか懐かしい匂いが鼻についた。
“ついた”と書いたのは、それが決していい香りではないからだ。
「息子をもった父親は、
一緒に酒を飲むのが夢なんだ。
それをお前は壊した」
まだ十代、法律的には飲めない年齢の私にビールを勧めた父。
「頭が痛くなる」
と一杯だけで断ったときに、父は残念そうに私に言った。
「うまそうに飲むんだけどなぁ…」
と未練たっぷりに、ビールを自分のコップに注いだ。
父は、白飯を食べながら「お茶みたいなもんだ」とビールをのどに流し込んでいた。
和菓子を食べながらでもビールを飲むのだから、たしかにお茶扱いだったのだろう。
対して母の系統は下戸だ。
母方の血を引いたのだろうと思っていた。
学生時代、飲み会に参加しないというのは楽しみをひとつ失うことに等しい。
ある飲み会で友人に日本酒を勧められた。
そこへたまたま隣に座った友人が、
「これ旨いんだよ、辛口で。少し飲まない?」
と勧めてきた。
普段なら断るのだが、その日は気分が良かったのか、あまっていたお猪口を受け取り飲み始めた。
弱い、好まないと思っていた酒がうまく感じ、飲み続けることができただけでなく、酔わなかった。
それから何度か試した。
結局頭が痛くなるのはビールだけだったのだ。
一方で父は酒に強かったが、日本酒、焼酎を好まなかった。
好み、体質が合わず、家飲み派の父と外でしか酒を飲まない息子。
グラスとおちょこを合わせる機会は訪れなかった。
冬でも冷えたビールを好んだ父は、1月のある日、瓶ビールをぶら下げて帰ってきた。
栓を空けて飲み始めたが、途中で息苦しそうな仕草を見せて、飲むのをやめてしまった。
ビールを1本飲み切らない父を見たのは初めてだった。
そしてそれが最後のビールになった。
日差しの強い夏の休日、父は自宅の屋根に寝そべり、肌を焼き、汗を流すのを好んだ。
もちろん部屋に戻ってきたらビールである。
野球場でもよく飲んでいた。
神宮の外野寄りの内野席の最上部、風が少し抜ける席でやじることもなく、静かに飲んでいた。
春や秋は母を連れて広い公園へ行き、花を見ながら飲んでいた。
一杯目は一気に飲み、二杯目は自分のペースで口に運ぶ。
グラスに注がれたビールを飲む姿が浮かぶのだが、同時に思い出されるのが匂いだ。
汗をかいた父からは、少しビールの匂いを感じた。
子供の頃、肩車をしてもらったときに、髪から感じた「香り」ではない「匂い」。
嫌ではなかった。
横に立っている男性は、ふたつ先の停留所で席が空き、離れたところに座った。
「寒い冬にな、
それはそれで旨いんだけど、
やっぱりビールは夏だ。
一杯目はとくに最高だ」 。
命日ではないが、ビールを買って墓参りに行ってみた。
汗をかいた缶を墓前に置く。
父のビールは減ることはない。
代わりに少しビールに慣れて、一杯でふらつくことがない私が、缶ビールを減らしていく。
一気に飲まずゆっくりと苦みを味わいながら、言葉のない会話を楽しむのがいい。
ビールを飲み干して、空の缶を墓前に置いて、帰るためにバス停へ向かった。
バスに乗ると前に座って、顔を出している子供が少し嫌な顔をした。
私からも父と同じ匂いがしたのだろう。
「君もいずれは飲むようになるよ、
きっと」
そんな心のつぶやきを感じたのか、子供は隣に座る父に抱きついた。
ビールを飲まない父だったのかもしれない。
Daseins-Wunderland
その「境界」の波打ち際には、かつて人間が「正義」と名付けた巨大な積み木が、今はただの灰色の墓標として積み上がっていた。それは実体を持たぬイデアの残骸であり、忘却の淵に沈みゆく思考の断片である。空は不機嫌な鉛色を湛え、海は存在の根源的な不安を象徴するように唸りを上げ、岸辺の岩――固着した過去の記憶――を噛み砕いていた。
二人の生い立ちを語る正確な言葉を、歴史は持ち合わせていない。彼らはある時、世界の「余白」から染み出してきたような存在だった。起源を持たず、ただ未完の物語の断片を拾い集めるようにして、この荒涼とした岸辺で呼吸を繋いできたのである。
彼らが「家」と呼んでいたのは、座礁して久しい一隻の巨大な廃船の、心臓部にあたる機関室だった。そこは、錆びついた鉄の肋骨が剥き出しになった、クジラの胎内のような空洞である。かつて機械仕掛けの律動を刻んでいたエンジンは、今や緑青を帯びた沈黙の彫刻と化していた。
兄は、壁一面に拾い集めた「世界の断片」を貼り付けていた。宛先不明の古い手紙、色褪せた植物図鑑の頁。それらは、人間という「欠落の記述」を解読するための曼荼羅(まんだら)だった。一方、妹は部屋の隅、破れたビロードのカーテンを敷き詰めた湿った布の海に溺れながら、兄が読み聞かせる「ここではないどこか」の楽園の寓話に、自らの存在を委ねていた。
この静寂の闇の中で、兄はしばしば一つの問いを反芻していた。それは、自分たちが身を寄せるこの巨大な機械の残骸に、かつて「魂」が宿っていたのかという問いであった。
兄は、錆びついた歯車を撫でながら思考する。もし魂を「内部に秘められた主観的な輝き」と定義するならば、プログラムされた応答や機械的な連動の中に、それは存在しないのかもしれない。しかし、魂とは「他者の眼差しによって立ち上がる現象」ではないか。誰かがその機械に意志を感じ、その沈黙に意味を読み取るとき、魂は「記述」としてその空洞に受肉する。
魂とは、存在そのものに備わった属性ではなく、関係性という回路の中で点滅する電気的な火花に過ぎないのではないか。だとすれば、この廃船も、そして自らの論理(ロゴス)によって妹を導こうとする自分自身も、精緻に組み上げられた「欠落の器」に過ぎないのかもしれない。人間というあまりに絶望的な欠落を埋めるために、我々は「魂」という名の幽霊を捏造し続けているのではないか――。
兄のこの冷徹な洞察は、妹の無垢な信頼という鏡に映されることで、さらに残酷な輝きを増していった。
二人の服装は、この世界の不条理を象徴していた。
兄は、銀灰色の鱗のようになった軍用の重厚な外套を纏い、ポケットには「論理の破片」を詰め込んでいた。彼にとっての「正義」とは、混沌とした海に、揺るぎない幾何学的な秩序を与えることだった。対照的に、妹は廃船から剥ぎ取ったレースの断片を繋ぎ合わせた、幽霊のように薄い白いドレスを身に付けていた。彼女の瞳には客観的な現実は映らず、独我論という名の甘く濁った幻覚の中に生きていた。
その日、賢い亀もドードー鳥も、生への盲目的な意志に従って岩陰に身を潜めていた。だが兄は、自らの内に積み上げた「論理」が、現実に打ち勝つことを証明しようとした。彼は自ら定めた倫理という名の律動を過信し、存在の証明を持たぬ小さな「器」へと妹を招き入れた。
「さあ、認識の変容の時間だ。素晴らしい絶対的な真理を見に行こう」
器が岸を離れた瞬間、世界という名の「客観」は牙を剥いた。色彩が現象世界から剥がれ落ちるような、刹那の沈黙。器が逆巻く無意識の怒濤に呑み込まれたとき、高く掲げられた狂信的な断定は虚無の飛沫の中に霧散した。妹は、自分がなぜこの冷たく暗い「非存在」の檻に閉じ込められたのか、その不条理をロゴスで解き明かす間もなかった。
器が裏返った瞬間、認識の水平線という名のチェス盤はひっくり返り、無防備な現存在(ダーザイン)たちは慈悲なき虚無の潮流へと投げ出された。二人の時間は、そこで閉じた円環となり、永遠の静止へと至った。
事象のあと、存在の岸辺には無数の「なぜ」という名の懐疑が打ち上げられた。
かつて「希望」という名の器であった二人の空洞を、今は緑青を帯びた蔦が締め上げ、精緻な濾過装置のように過去を吸い上げている。陽光という、あまりに平等で冷酷な「忘却」が、彼らが握りしめていた思想の断片を、星屑のように燃え立たせている。
かつて兄が問うた「魂」の在処は、結局のところ、この沈黙する海へと還元された。魂とは、失われた後にのみ観測される「不在の光」だったのかもしれない。
沈黙が現実の幕を振り下ろすとき、鏡の迷宮に閉じ込められた楽園は瓦解し、再演を拒絶するただ一つの「終止符」だけが刻まれる。残されたのは、ただ陽光にさらされた虚無の海と、割れた砂時計の破片だけだ。
ただ、冷ややかな絶対的客観だけが知っている。この何処へも至らぬ終焉こそが、すべてが望み続けた「始まり」の対極にあった、唯一の救済であることを。
光る海豚
狩る者の足跡は濡れる
おまえの涙ではないか
煙草の烟で親は
姿をくらまし
波頭に
出生届を叩きつけ
光った海豚が
飛沫を
はためかせた
きみだ
素直
褒め言葉だと思って
便利に使うなよ
まったくもって正直に生きては
いませんから
素直な良い子
真っ直ぐ育ってほしい
何じゃそりゃ
あまりにもご都合主義な皆様に
乾杯します
こちらは常に完売なのに
ニチャラニチャラと笑ってくださり
有り難う
疲れた私は憑かれたように
眠ったあとで
突かれたように
起き上がる朝を迎える毎日
素直じゃないです
まったくもって
わたしはわたしという名の
作品を
各々に差し出す為に必死ですわ
ええ
ええ
もう舞台から飛び降りる覚悟でいいますわ
素直にいえば
すべてがだいきらいです
恋と愛と
恋すると
ワガママを言ってみたくなって
愛すると
困らせるのが嫌になる
恋すると
心が 言葉が 欲しくなって
愛すると
心を 言葉を あげたくなる
ゆらゆらと揺れるわたし
いつかあなたへ辿り着けるかな
蕾のまま
好きだと告げることが
好きだと思うことさえ
裏切りなのではないか
そんな 迷い 抱えて
それでも
綻んだ桜の蕾を見つけて
目に浮かぶのはあなたの顔
鬼
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蒸し暑さにパタパタと襟口を摘んで扇ぐと、俺はじっとりと流れる額の汗を拭った。
「……ねえ、まだと?」
前方に向けてそう声を掛ければ、振り返ったタッちゃんはカラッとした笑顔を見せる。
「なんや、もうきつかと? もうすうだけん、楽しみにしてな。きっと驚くけ」
「…………。それさっきも言いよったやん」
「そうちゃ。さっきもおんなじこと言いよったやん。だいたい、“面白かもん”ってなんなん?」
「暑うてかなわんばい……」
口々にそんな愚痴を溢せば、「根性が足らんなぁ」とだけ告げて再び歩き始めるタッちゃん。そんなタッちゃんの背中を追いかけながら、道なき道をひたすら四人で歩いてゆく。
そもそもの事の発端は、一刻半前のことだった。
『鬼狩り山で面白かもん見つけたったい。今から見に行こうや』
得意気に胸を張りながらそう宣言したタッちゃんは、ニカッと笑うと鼻を擦った。そんないつもと変わらない、普段通りの日常。
まさかこんなにしんどい思いをすることになるとは、あの時の俺達は誰も予想もしていなかった。
村の外れにあるこの場所は、普段人などほとんど寄り付きもしない※鬱蒼とした山。かつて鬼が住んでいた土地として語られ、村人からは畏怖の対象として“鬼狩り山”なんて名前で呼ばれている。
当然ながらそんな場所なので、人が歩けるような歩道が整備されているわけもなく、うだるような暑さの中歩くのはかなりの疲労を感じた。
「──ほら、あれ見てみぃや!」
一際大きく声を発したタッちゃんは、前方を指差しながら後方にいる俺達を振り返った。
「……やっと着いたと?」
「ほら、凄かろ!?」
疲労困ぱいの俺とは対照的に、ワクワクとした瞳を輝かせるタッちゃん。その指先を辿って更に奥へと視線を移してみると、何やら墓石のようなものがある。
「なんやろ、あれ」
独りごちると、ぜぇぜぇと息を切らしながら追いついて来た武ちゃんが、額に流れる汗を拭いながら俺に向けてポツリと呟いた。
「……誰かん、お墓かな?」
二人で顔を見合わせながら小さく首を傾げる。
「※祠じゃなか?」
そんな俺達の後方からひょっこりと顔を出した清ちゃんは、そう言うと興味深げにクリクリとした瞳を開かせた。
「鬼神や。こりゃあ、鬼神様ば祀っとう祠ばい」
フフンと鼻を鳴らしながら胸を張ったタッちゃんは、「面白かとは、これからや」と俺達に向けて宣言すると、再びクルリと背を向けて歩き始める。そんなタッちゃんにつられるようにして後を追うと、祠らしき石の裏側へと回り込む。
そこにあったのは、観音開きの粗末で薄汚れた小さな箱。箱とはいえ、よくよく見てみると何やら※仰々しい型をしている。
(さっき祠っち言いよったし、これも神様でも祀っちょるんやろうか……?)
「こん中見たら、驚くけ」
そう言いながら扉に手を掛けたタッちゃんを見て、驚いた俺は思わず声を上げた。
「待って! ほんとに開けっと? 祟られたらどげんするん!?」
「大丈夫だって。敏雄は臆病ばい。心配せんでもなんも起こらんけん」
「でも……」
タッちゃんは大丈夫だと言って笑っているが、目の前の箱を見るとどうにも不安が込み上げてくる。それほどに、不気味で陰湿な雰囲気を放っているのだ。
「うちも見てみたかね」
清ちゃんの言葉を聞いて武ちゃんの方へと視線を移してみると、困ったように視線を彷徨わせながらオロオロとしている。
「大丈夫だって。俺は昨日見つけた時にいっぺん開けたけど。ほら、なんもなっちょらんやろ?」
「そうよ、心配しすぎばい。せっかくここまで来たんに、なんも見らん気?」
そんなタッちゃんと清ちゃんの意見に押され、すっかりと勢いのなくなった俺は苦笑した。
「う、うん……ごめん」
俺のその言葉を合図に再び扉に手を掛けたタッちゃんは、一度ぐるりと俺達の顔を確認すると口を開いた。
「じゃあ、開くっぞ」
「うん」
「……う、うん」
「うん。早う早う」
箱の前に屈み込んだ清ちゃん達二人を見つめながら、武ちゃんと二人で少し離れた背後から静かに見守る。ギギギと鈍い音を立てながら開かれてゆく観音扉。その光景は、なんだかやはり少し恐ろしい。
背中を伝っている汗が一気に冷めてゆくような感覚に、俺はたまらずゴクリと小さく喉を鳴らした。
「わっ。……なんこれ?」
「どがんね、カッコいいやろ? 鬼んお面ばい」
「そうかなぁ……。なんかちいと不気味やわ」
「清江にはこん良さが分からんとか。やっぱり女はいかんなぁ」
「そがんことないし。こんお面が悪かとばい」
そんな二人のやり取りを黙って背中越しに眺めていると、こちらを振り返ったタッちゃんが手招きをする。
「そがんとこ突っ立ってないで、二人もこれ見てみぃや」
「う、うん」
「……うん」
武ちゃんと一緒に恐る恐る近付くと、屈んでいる二人の背後からそっとタッちゃんの手元を覗いてみる。
そこにあったのは、古木で作られた鬼の面。ドス黒く古めかしいその様子から、その表情も相まって何だか※禍々しいものを感じる。
「な? カッコイイじゃろ」
タッちゃんはそう言って嬉しそうに笑っているが、俺にはこの面の良さが全く分からなかった。
「なんか不気味やわ……」
「何ば言いよっと、こがんカッコイイんに。武史はこん良さが分かるやろ?」
「……あ、うん。カッコイイかも」
「そうやろ? お前だけやな、こん良さが分かるとは!」
武ちゃんの返事に満足したのか、とても嬉しそうな笑顔を浮かべるタッちゃん。その横では、武ちゃんが興味深げにお面を覗き込んでいる。
どう見てもただの薄汚れた不気味なお面だが、この二人にはそうは見えないらしい。
(こん古さが逆にカッコイイんやろか? それにしても、不気味な顔ばい……)
おもむろに面を被り始めたタッちゃんを見て、思わず一歩たじろいだ俺は息を呑んだ。
目出し部分の穴が小さいせいか、その表情は外からでは全く読めず、それがより一層不気味さを増している。
(…………まるで本物の鬼みたいや)
怒りとも哀しみとも言い切れぬ、なんとも恐ろしい表情をした鬼の面。
そこにいるのは確かに見慣れたはずのタッちゃんだというのに、何故か俺の目には本物の鬼のようにしか見えなかった。
◇
──それから二週間ほどが経ったある日のこと。
いつものように畑仕事の休憩中に岩陰で休んでいると、そこへひょっこりと顔を出した武ちゃん。
「敏ちゃん、お疲れ様。今日も暑うてたまらんね」
暑さのせいか少しばかり紅潮した頬でニッコリと微笑むと、そう告げた武ちゃんは俺のすぐ隣に腰を下ろした。
「ほんと暑うてたまらんよね……。武ちゃん、今日ん畑仕事は? もう終わったと?」
言いながら首から下げた手拭いで額の汗を拭うと、冷たい水の入った竹筒を武ちゃんの目の前に差し出す。それを受け取った武ちゃんは、「ありがとう」と告げるとゴクゴクと勢いよく喉の奥へと流し込む。この暑さだ。よほど喉が乾いていたのだろう。
数秒ほど黙ってその様子を眺めていると、ようやく満足したのか、武ちゃんは片手で拭った口元からプハッと息を吐き出した。
「うちは収穫は先週で終わっちょるけね。今日は枯葉や残った根の処理だけやったけ、午後は遊んできていいって」
「そっか。俺もあと少しで終わるけ、終わったら一緒に遊ぼうや」
「うん。……あ、そうや。さっき清ちゃんに会うたんやけど、今日は忙しゅうて遊べんって言いよったばい」
「あー……そういやあ、ヤギのお産ん近かって言いよったわ」
「そうなんや? じゃあ生まれるまでは無理そうやなぁ」
「うん、そうやな」
「じゃあ、暫くは二人やな……」
「……そうやなぁ」
「…………」
「…………。ねえ……、タッちゃんは?」
最近めっきりと見かけなくなったタッちゃんの名を口にすると、一瞬ひりついた空気がその場に流れる。
あの日あの山で祠を見つけた日から、徐々に様子がおかしくなっていったタッちゃん。いつもなら元気に外で遊んでいるはずなのに、最近では家に引きこもっているのか、滅多にその姿を見かけることもなくなってしまった。
(最後に会うたのはいつやったっけ……?)
そんなことを考えながら、鬼の面をつけたタッちゃんの姿を思い浮かべる。
特に何かがあったというわけではない。ただ、あの日あの山で見つけた鬼の面を持ち帰ったタッちゃんは、その面をとても気に入ったのか、下山してからもよく面を被っていることが多くなった。
その様子は村の人々から薄気味悪がられ、俺の目から見ても少し異様だった。
もしかして、あの祠で何かに祟られてしまったのでは──? そうは思ったものの、あの山に無断で入ったことを咎められるのを恐れ、周りの大人達には誰にも相談することができなかった。
もしかしたら兄なら何か知っているかもと、三つ年の離れた兄にそれとなく聞いてみると、随分とあやふやな内容しか返ってこなかった。
『──やけな、あん山で鬼ば殺して村を守ったんや』
『あん山に鬼ば住んどったと?』
『そうや』
『一人で?』
『そうや』
『突然現れたと? そもそも、どっから来たと?』
『そがんこと知らん。鬼は突然現るっとばい、やけ怖いんやろ?』
『…………また鬼ば来るやろうか?』
『そりゃ分からんばい。もしかしたら来っかもしれんし、来んかもしれん。あん山に近付かんば大丈夫ばい、きっと』
俺は兄に聞いたことを後悔した。ぼんやりとしたその内容では、逆に余計な不安を募らせるだけだったのだ。
どうやら兄は祠の存在など全く知らないようで、そんな兄に鬼の面の事など聞けるはずもなかった。兄の話からわかったことといえば、かつて村に鬼が出た時、あの山で追い詰めた鬼を殺したことから、今では“鬼狩り山”と呼ばれていると。そんな山の名の由来くらいだった。
「タッちゃんは……っ、最近なんか変ばい」
小さな声でポツリとそう告げた武ちゃんの声は、あまりに弱々しくて蝉の鳴き声にかき消されてしまいそうな程だった。
「確かにあんお面ば最初に見た時カッコイイて思うたけど……。だけんって、あげん毎日かぶちよるなんて不気味ばい」
「…………。やっぱり……祟りなんやろうか?」
「……そうかもしれんばい」
蒸し暑さで大量の汗を吸収した着物はべっとりと張り付き、執拗に肌に※纏わり付くその感触は随分と着心地が悪かった。
俺は張り付いた着物の裾をギュッと上に引き上げると、あの日あの山に行ったことを後悔した。
◇
「……あっ! ねえ見て、あれタッちゃんじゃなか?」
不意に立ち止まった武ちゃんを振り返ると、すぐ横に戻って武ちゃんの指差す方角を覗いてみる。するとそこにいたのはやはりタッちゃんらしき人物で、※他人の家の敷地内で何やら漁っているようだった。
「タッちゃん……?」
思わず漏れ出た俺の声に反応してピタリと動きを止めると、ゆっくりとこちらを振り返ったタッちゃん。その顔は鬼の面で覆われ、異質な雰囲気を放っている。
「……なん、しよーと?」
恐る恐るそう声を掛けながら視線を下へと移してみると、その手には締め殺された鶏を抱えている。
──タッちゃんが殺したのだ。
そう理解した次の瞬間、全身の毛穴から一気に大量の汗が吹き出すのを感じた。
(目の前におるんは、ほんとにあのタッちゃんなんやろうか……?)
生まれてから十二年間共に過ごしてきた友人として、どうにも目の前の光景が信じられなかった。
例え家畜とはいえ、決して動物を傷つけることのなかったタッちゃん。普段はあんなに豪胆なくせに、人や動物を傷つけることを極端に嫌っていた。そんな心優しい少年なのだ。
にじりと一歩前へと踏み出したタッちゃんを見て、あまりの恐怖からヒュッと乾いた空気が口から溢れ出る。
「こ……っ、こっちに来るな!」
意外にも、そんな声を張り上げたのは武ちゃんの方だった。
カタカタと全身を小さく振るわせながらも、必死に威嚇してみせる武ちゃん。その姿を前に一体何を思ったのか、その場で足を止めたタッちゃんはただ静かにこちらを見つめ返した。
ほんの数秒の後、その沈黙を破ったのは武ちゃんの声だった。
「敏ちゃん、早う逃げよ!」
そう告げるなり、俺の手を取った武ちゃんは「祟りや……!」と叫びながら一目散に走ってゆく。当然ながらその手に掴まれている俺は、武ちゃんと一緒にその場を強制的に走り去ることになる。
けれど、今はそれが有り難かった。恐怖で固まってしまった俺は、あの場から一歩も動くことができなかったのだ。
「武ちゃ……ありが、とう……っ」
息も絶え絶えにそう告げれば、ようやく足を止めた武ちゃんがこちらを振り返った。
「やっぱり……、祟りなんや。おかしかったやろ? ……あげなん、タッちゃんじゃなか!」
ついには涙声になって声を荒らげた武ちゃんは、鼻を※啜ると両目をゴシゴシと雑に擦った。
「どうすりゃあいいんやろ……」
「タッちゃんには近付かんことばい」
「でも……タッちゃんはどげんするん!?」
「子供ん僕達にはどがんすっこともできんばい……大人に任せようや!」
「あん山に入ったこと言うと!? 怒られてまうやん!」
「そがんこと言いよー場合じゃないやろ!」
「……っ、……」
「…………っ」
互いにぜぇぜぇと肩で息をすると、呼吸を整えてからもう一度お互いを見合う。
「……ごめん、武ちゃんの言う通りやわ」
「僕こそごめんね。言い過ぎたばい」
今ここで二人で争っていても意味は無いのだ。とにかくこの事態を大人達に話さなければならない。そして、一刻も早く祟りに対処してもらうべきなのだ。
そう考えた俺達は、お互いの両親にあの山での出来事と今日見たことを話すと約束した。けれど、その日の帰り道は酷く憂鬱で、まるで沼地に足を取られているかのように重い足取りだった。
◇
──気づけば季節はすっかりと秋口になり、うちの畑では大根の種まきが始まっていた。
そんないつも通りの日常の中。あれからタッちゃんがどうなったのか、俺の気がかりはそればかりだった。
秘密を打ち明けた日には、随分とこっ酷く叱られた。それでも、抱えていた重荷から解放されたせいか、俺の心は幾分か軽くなったように感じた。けれど、その隙間はすぐに新たな問題が埋めることとなった。
秘密を打ち明けた俺に対して、タッちゃんとは二度と関わるなと両親は告げたのだ。
祟りから解放されればきっと元の関係に戻れる。そう信じていた俺は、両親から告げられたその言葉に大きなショックを受けた。
そして何より、そんな両親に逆らうことのできない自分自身に失望した。
「タッちゃん、どげんしよるかな……」
独りごちると、夕焼け色に染まった空を見上げる。そこに広がっていたのは穏やかな琥珀色で、まるで心の中にくすぶっているドロドロとした感情が炙り出されてゆくようだった。
情けないことに、俺はあの日見たタッちゃんの姿が未だに恐ろしかった。だからこそ、両親に止められているという口実を盾に、あれ以来タッちゃんの家にすら近づいていなかった。
そんな自分の弱さを呪いながらトボトボと歩いていると、突然の衝撃に吹き飛ばされた俺は尻餅を着いた。
「……っ、痛ったぁ」
擦りむいた掌の痛さに顔を歪めると、体当たりしてきた本人であろう人物にそっと視線を移す。するとそこにいたのは、先ほどまでその安否を心配していたタッちゃんだった。
「タッ、ちゃん……?」
久しぶりに見るタッちゃんは随分と痩せこけ、なんだか薄汚れている。そんなことを思いながら手元を見てみると、そこにはあの日見た時と同じ締め殺された鶏が握られている。
それを認識した途端、あの日の恐怖を思い出してカタカタと震え始めた身体。
「……敏雄」
「ひ……ッ!」
タッちゃんの動きに驚いた俺は、咄嗟に片手で顔を覆うとズリズリと後ずさった。そんな俺を見て、伸ばしかけた右手を引っ込めたタッちゃん。
恐る恐るその様子を窺ってみると、タッちゃんの身体には所々に擦り傷や打撲痕がある。察するに、これは昨日今日できたばかりの傷ではないようだ。
目の前の光景を眺めながら、俺は混乱する頭の中で必死に思考を巡らせた。
(なんで……タッちゃんは泣きよるんや──?)
ズレた鬼の面の隙間から見えたタッちゃんは、悔しさと悲痛に満ちた表情を浮かべながら涙を流している。
「……タッちゃん?」
心許なくそう発したその声は、随分と弱々しく情けないものだった。
「──また鬼子が悪さしよった! 早う捕まえるぞ!」
「あっちに行ったぞ!」
村人達の怒号が響く中、ズレた鬼の面を被り直したタッちゃんは一気にその場を駆け抜けた。
「……っ。待って、タッちゃん!」
必死の声も虚しく、あっという間に走り去ってしまったタッちゃん。
何がなんだか状況の分からないまま、ただ静かにドクドクと鼓動を早める心音。今まで自分が信じて疑いもしなかったものに、その根拠のなさを感じてひんやりとした汗が流れ出る。
俺はカタカタと小さく震え始めた足でふらりと立ち上がると、何度も※躓きそうになりながらもタッちゃんの家へと急いだ。
そこに見えてきたのは、村人たちに囲まれて暴行を受けているタッちゃんの両親の姿。今年の春頃から病で臥せっていたタッちゃんのお父さんは、今にも折れてしまいそうなほどに痩せこけている。
「……っ、許してくんさい。ちいと食べ物が欲しかっただけなんや」
「何度目や、こん穀潰しがっ! 満足に働けんくせに食べ物ばよこせやなんて、なんて図々しかばい!」
「鬼子ん親も鬼に違いなか! 殺せ!」
「「「殺せ!」」」
村長の言葉を合図に、「殺せ! 殺せ!」と大合唱する村人達。まるで地獄のようなその光景に、俺はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
先ほど見たタッちゃんの傷跡を思い返しながら、ガタガタと震え始める全身。
鬼の面を被り始めてからおかしくなったタッちゃん。今にして思えば、それ以前から時折悲しそうな表情をしていたような気がする。よくよく考えてみれば、それはタッちゃんのお父さんが倒れてからのことだった。
何故、そんなことにすら気づいてあげられなかったのか──。頬を伝う涙を拭うと、俺は震える口元から小さな声を漏らした。
「……っ、俺はなんて馬鹿なんや」
この村の田畑や家畜は、全て村の財産として村長が管理している。そうやって昔から支え合って生きてきたのだ。きっと、鬼という異物を排除しながら。
兄から聞いた鬼の伝承を思い返しながら、止めどなく溢れ続ける涙。
タッちゃん達家族は、もしかしたら村八分による差別にずっと苦しんでいたのではないだろうか──?
(やとしたら俺は……)
村人達によって撲殺されてゆくタッちゃんの両親を眺めながら、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を歪める。
「……鬼はお前らの方や」
そう小さく呟いたその声は、誰にも聞かれることなく村人たちの怒号によってかき消された。
────────
────
「「「鬼子を殺せ! 村長殺しの厄災や!」」」
この日は、すっかりと陽が落ち切った夜深い時刻になっても、月明かりの下では村人たちの怒号が鳴り響いていた。
松明片手に必死になって森の中を探し回る村人達。その横をすり抜けるようにして森の中を進むと、俺はタッちゃんの行方を必死になって探した。
両親を殺された仇に、村長を殺害してしまったらしいタッちゃん。そんなタッちゃんの心情を思うと、堪え切れない涙にグッと唇を噛み締める。
こんなにも愚かで弱い俺では、タッちゃんの為にできる事など何もないのかもしれない。そうは思っても、それでもどうしてもタッちゃんに一言謝りたかった。
「タッちゃん……どこにおるん」
突然の突風に瞼を閉じると、再び開いた先に見えたのは探し求めていたタッちゃんの姿だった。
「……タッちゃん!」
そう叫べば、ゆっくりとこちらを振り返ったタッちゃん。その顔は鬼の面で覆われ、タッちゃんが今何を考え、どんな表情でいるのかは全く分からない。
「っ、……ごめん! ごめんね、タッちゃん!」
涙でぐちゃぐちゃになった顔でそう叫べば、ただ静かにその場からこちらを見つめ返すタッちゃん。俺にできる唯一のことは、この場から立ち去るタッちゃんを静かに見送ることだけ。
クルリと背を向けて森の中に消えてゆくタッちゃんを見つめながら、心優しい少年に向けて何度も謝罪する。
月夜に照らされて浮かび上がったあの姿を、俺はこの先も一生忘れる事はないだろう。
返り血を浴びて、まるで血の涙を流しているかのように見えた鬼の面。
それはきっと、お面の裏で一人ずっと泣いていたタッちゃんのように──。
その日を最後に、俺がタッちゃんに会うことは二度となかった。
─完─
春うらら
私の知る春は
うららうらら麗らかな灰色
雨の匂いがする
ぱらりぱらり湿った土香
濡れそぼる花びら
しとりしとり滴る花露
俯く目に映るのは
ぽとりぽとり枯れ落つ薮椿
頭上で啼く烏
宵闇迫る空
消えた笑い声
霞み歪む景色
それが私の知る
絶望と希望入り混じる
うららうらら
麗らかな春
まつり
冷たい朝の光は
ねじり鉢巻のように
僕を天使のパクりにした
ひたひたと
部屋を練り歩いて
誰を引き連れるわけでもない
ただ今日という祭に捧げる、
箸巻きもどきを作る
飴色の写真は
フライパンじゃ作れない
だからだろうか
寄れたシーツに潮騒の痕が
朗らかに残っている
多分僕以外にとってはガソリンで
僕にとってはジョウロの汗だ
ペラ一枚の神様は
方眼でできている
レゴだから踏み絵もできないね
だから嬉しいんだ
飽きっぽい僕のための祈り
ラムネが口いっぱいに広がって
バチが当たる音がする
[つ]つまんないや
なりふり構わずに人を傷つけ、愛し怒らせて
一方的に振りかざした刃がまたあなたの頸動脈に刺さっていく
息も絶え絶えのあなたの声が聴こえない
締めつけられた喉が糾弾する言葉を許さない
暇に腐って 惰眠を貪って 悦楽に微睡んだ
死んで濁った目のカルマ
なぁ 脈が上手く動かせないんだ
つまんないや つまんないや
生きようが死んでようが結局一緒じゃないか
つまんないや つまんないや
鼓動は徐々に萎んでいく
付き合いきれないね 同じだよきっと
過ったことに笑われて、正しさなんか見出せなくなって
誰よりも正しくあろうとした私はいったい何なんですか
恥ずべき日々に蓋をして身を潜めて生きる正午
教えに囚われていく毎日だ 教えに呪われていく毎日だ
勧められある程度楽しかった映画も漫画も音楽も
だんだんと嫌いになっていく
きらびやかなものがドロドロに溶けた鉄のようだ
つまんないや つまんないや
平和も戦争も溶けて煮詰められた坩堝
つまんないや つまんないや
安らぎさえ退屈の延長線
「つまんないか? そうだよな」
灰になって 骨になって 動けないのに
死にたくはないんだよ 誰も彼も
誰よりも愛されたいなんて喚き散らす自己愛者
つまんないや つまんないや
融通もやり直しも利かない世界だ
つまんないや つまんないや
人知れず朽ちていくこの身体が
今 誰かのためにと無理やりいかせようとする
それは愛や呪いじゃなく、自然的なことさ
色の気配の二篇
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雨音は色を変えて
雨粒は
カーテン越しに
夜半の符号を 未だ打っている
その拍子に合わせ
わたしの手が
部屋の冷気と
布の囁きを 探る
春の冷たさを
すこしだけ避けながら
すこしだけ受け入れる
レースの 向こうに
フリルの 内側に
そんな色を 想う。
―――
新しい色は風とともに
部屋の湿度は 色を変える
カーテンは 空の影を映す
窓の隙間から 風を受け取る
フリルの内側の 音が変わる
湿度の記憶は
肌を覆う ドレープの光沢
春の風を
すこしだけ受け入れて
すこしだけ溢れさす
部屋に溢れた風は
わたしの色を
外へと 連れ出した。
いいあらわせないけど
自死をした娘さんの携帯料金を
ずっと払い続けている
と綴れたブログを見かけた
誰に何と言われようが
そのお金は必要経費で
娘そのままなんです。
このような言葉に
しばられたみたいに
こころがびたり
ここ数日
かたまってうごけない
わかる気がします
などとたやすくことばは
かけられず
けれどなにをするときも
ふいにそのひとの言葉を
何度も何度もおもいだした
昨日の夜読んだ漫画の主人公の
言葉が
そんなわたしをひょいっと
すくいあげた
何年ぶりかにゆっくりじっくり
漫画を読んだ
「わたしがあなたの記憶も全部
未来に連れて行くよ」
こんな風に言っていて
この主人公のエルフ族は
寿命がとてつもなくながく
周りのは人間は「通り過ぎていくよう」に
「人生」を終えてしまう
いいあらわせない
なにをなにがいいたいのか
わからない つたわりきらないばかり
だから
だけど
だからこそ
やっぱりいいあらわせない
や
ただただ あの主人公の笑顔が言葉が
眩しくって
生きているって
わたしも料金をはらいつづけてしまうかもしれません
そうおもうのです
願い
嫌でなければ
明日の朝 私が目覚めた時に
愛していると言って貰えますか
その言葉で私は
書きたい事を日記に書きながら
自分がなりたい自分になれるように
生きてゆこうと思います
嫌でなければ
明日の朝 貴方が目覚め時に
愛していると言っても良いですか
嘆きの天使
最最最底辺に生きる私には
輝ける未来なんかない
いつでもどこでも空気が読めず
周りからドン引きされる運命になっている
一番嫌いな奴はオノレ自身
こんな人間失格に誰がした
屈辱感に耐えきれずバックレた
世間様の正義が私を木っ端微塵にする
オ前ハ社会ノ穀ツブシ
オ前ハ社会ノ穀ツブシ
高い壁を乗り越えてもさらにもっと高い壁
死ぬまでこれの繰り返し
運の悪い奴は何をやっても
ドツボにハマるようにできている
同情買う奴オレオレ詐欺師
この世は弱肉強食の生き地獄
私のような●●●●●は
一丁前にハッピーになる資格はない
オ前ハ地球ノ落チコボレ
オ前ハ地球ノ落チコボレ
人生に期待する奴は大馬鹿野郎
生きていられるだけで御の字と思え
ラブとかピースとかありえない
夢みたいなこと考えてるから病気になる
オ前ノ一生燃エルゴミ
オ前ノ一生燃エルゴミ
NO NO NO
NO NO NO
NO NO NO
NO NO NO
黒い傘とテッポウユリ
祖母は学生の頃、カラフルな色の傘を買ってもらえず、黒い傘をさして学校に行っていた。それをクラスメイトにからかわれて、恥ずかしい思いをしたそうだ。
母方の祖母の家は貧しく、古い木造の借家だった。風のある日はいつも玄関のガラス戸が軋む音がしていた。
祖母は花が大好きで、自分の好きな花を植えた庭をとても大事にしていた。庭で蟻を見たり、花にお水をあげたり、その庭で沢山の時間を祖母と一緒に過ごした。
父が迎えに来た時、車窓から白い割烹着を着た祖母の寂しそうな顔が見えた。離れるのが辛くて、こっそり泣いたことを祖母は知らない。
初夏になると、その庭には白いテッポウユリが咲いた。祖母が蕾が少し開いたものを選んで、新聞紙に包んで、学校に持たせてくれた。教卓の上の花瓶に生けられたユリは、とても誇らしく見えた。
何年かぶりに会った祖母は、棺の中で花に埋もれていた。薄紫色のトルコキキョウ、淡いピンクのガーベラ、真っ白な胡蝶蘭、黒い傘しかさせなかった少女は、カラフルな色をまとい天国へ旅立った。
私が顔を見せないことを、祖母がこぼしていたと母から聞いて、足が遠のいてしまったことを、棺の中の祖母に詫びた。私は大事な人程、背中を向けられるのが怖いのだ。
テッポウユリが咲いたあの庭で、祖母は私のことを思い出していたのだろうか。あの花の庭に祖母はいない。
今年もユリの季節が来た。傘をさして歩いていると、甘いユリの香りがして足を止めた。庭先で白い割烹着を着て、花の手入れをしている祖母の姿がそこにあった。
LESSON 1
なんだか妙に 心がザワザワ落ち着かず
目覚めてしまった午前1時
喉が渇いて 乾涸びそうな妄想にまたかられ
フラフラする足取りで冷蔵庫へ
ペットボトルのウーロン茶 グラスにも注ぎもせず
息も切らせずグビグビがぶがぶ
イッキに飲み干す
体調がずっとよくない
もう2年以上もずっと
あの人から離れることが出来れば
一切の関わりを断ち切れたら
いまよりきっとよくなるはず
……そう思っていたんだけどな
そんなカンタンなことでもなかったみたい
よくさ 子どもの頃にひどい目に遭ったとしても
大人になれば なんとかして苦悩から乗り越えて
強く生きていけると どうにでも生きていけると
そう思い込んでいるひとがいるけれども
それは大きな間違い
だってひどい目に遭ったって気づくのは大人になってからだから
子どもの頃に感じた なんだかよくわからない違和感
同じひとつ屋根の下に住んでいるのに
あっち側 と こっち側
ベルリンの壁よりももっと分厚くて高い壁が存在しているみたいで
なにかと云えば すぐにモノをぶん投げ破壊しまくる父親
ただ単に気に食わないという理由だけで
殴る蹴る髪の毛掴んで振り回す
いつも不機嫌そうで具合が悪そうな母親
口を開けば 出ていく出ていく
顏が違うだの 嬉しそうにしやがってだの
生意気だ 目つきが悪い うちの家系にそういうのはいない
夕食に家族全員が揃ったためしなどなく
母親はいつも ごはんの支度だけしたら
ひとり どこかへいなくなっていて
寝る時間まで帰ってくることはない
この家はなにかがおかしい とは思いながら
なにがおかしいのかっていうのがわからない
そういうの気づくの 大人になってからだから
大人の方がむしろ生き苦しいしツライししんどい
泣き言だって弱音だって本当は吐きたい
でももう大人だから 大人なんだからって
だから仕方なしに 平気なふりを装って生きてるだけ
終わった出来事 遠い過去の出来事
いつまでも縛られてるなんておかしい?
そうね おかしいかもしれない
けれど
記憶の再生ボタンは勝手に何度も何度も押されては巻き戻し
巻き戻されては押されを繰り返す
そしてこうささやきかける
「逃げられると思うなよ」
こんなあたしにだって 忘れたくない出来事くらいある
はじめて中島みゆきの夜会を観に行った日のこと
あまりに感動して 帰りの電車でもずっと号泣してた
はじめてみゆきのコンサートに行った日のこと
何十年ぶりかで歌うという「世情」を生で聴けたこと
はじめてエレカシのライブに行ったこと
背伸びしないとなかなか見えなかったけど
それでもエレカシはミヤジは めっちゃカッコよかった
何度目かのライブでは ミヤジが歌唱中に感極まって泣いちゃって
なんだかこっちまでギュってなったこと
悪いコトばかりでもなかった
いいコトだって
笑えたコトだってあったはずなのに
思い出し方をうまく思い出せない
忘れてしまったからなのか
教わってこなかったからなのか
だったら
だったらさ
LESSON 1
からはじめましょう
ツライ過去 思い出してしまったっていいんです
心に深く深く刻みこまれてしまったのだもの
そう易々と消えるものではないのだから
それで自分を必要以上にいじめるのは
もうやめにしましょう
自分をいじめてしまいそうになったら
そのいじめてるやつをノートに書き出して
白日の下に晒してしまいましょう
眠れないときは 無理して眠ろうとしないで
好きな音楽を聴いたり 本を読んだり
夜空を見上げたりするといい
温かいミルクとかココアなんか
ゆっくりゆっくり飲みながら
古い映画を観るのもいいかも
少し疲れてきましたね
甘いものでも食べて
ひと休み ひと休み
そしてね ひとしきり書き終えたら
ここ一番重要 試験に出すレベルで重要
今日出来たこと3つ
最後に必ず書き記す
なんだっていいの
こじつけだってかまやしない
とにかく 今日いちにち
自分がんばった
よしよし いい子いい子
えらいえらいって
なんにも出来なくっても
それでも なんにも出来ないことを
がんばりましたって
目いっぱい 思いっきり
褒めちぎって讃えてあげて
LESSON 1
あなたは悪くない
生まれてきたことに正解も不正解もない
あなたは間違っちゃいない
疲れたら休んだっていい
倒れそうになったら
どこかに寄りかかったっていい
そしてまた一歩 また一歩
先に踏み出せたならそれで
それこそが 生きる道しるべ
サーチライト
LESSON 1
さぁ 練習しましょう
もうじき
夜が明けます
グラデーションモーニング
白という色すら
何百種類もあるらしい
ニンゲンにも
コトバにも
キモチにも
沢山沢山タクサンたくさん
つかれちゃうから
もっと シンプルに
まとめたら いいのに
かなしいはかなしい
うれしいはうれしい
くやしいはくやしい
だいすきはだいすき
おはようはおはよう
ひねくれてないきもちだけを
つれていきたくてわたしたくて
カーテンをあける
空すら見事に絶妙なグラデーション
むらさきもしろもあおもおれんじもピンクもくろも
ふくんでまざりあってとけきりはせずの
朝がいて
図書館
夢をずっと見ていたんだ
永久の中に沈んでいく
図書館の夢を
図書館は一つの宇宙だった
26文字といくつかの記号
宇宙を表現するには
たったそれだけで十分だと
そう言わんばかりに
図書館は存在していた
夜の果てのさなかで
図書館は星であった
図書館の中に
降り注ぐは
万物不滅の雨
無色透明の水銀灯
照らすのは
存在した
あるいは存在しなかった
書物の表紙たち
君がいつか
僕の書いた
あるいは書かなかった
詩集を手に取りますように
も、く、げ、き
ワレワレハチキュウジンダ
ミテルダケ セカイヲ
はるのはじまり
少しくすぐったい
春みたいな温度
はじまりの前
右隣で微笑むあなた
ふと手が触れて
心が動く予感は
静かに体温を上げて
小さないろ達
花のいろ 新芽のいろ
あさひにうつるそのいろは
まだゆるりとゆれてゆれて
むねのなかの 小さな月は
肌にうつるそのいろいろの
波紋となって浮かびあがる
わたしをつつむ いろ達に
染まるわたしの小さな月は
夜の優しさ 抱えたままに
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HEY HO
HEY HO 夕焼け、満月、風切る私
犬が鳴くのと同じように、歌を歌う
HEY HO 朝露、宿木、愛の雨
鳥が囀るのと同じように、歌を歌う
HEY HO 秋風、春風、弛まぬ流れ
川が流れるのと同じように、歌を歌う
HEY HO 自信満々、天狗鼻
山が聳えるのと同じように、歌を歌う
HEY HO 怒り爆発、快楽絶頂!
雷が鳴るのと同じように、歌を歌う
By Myself
躰中のやりきれなさを振り起こして
もう 誰もあたしを止められない
誰もあたしを縛りつけられない
あたしは あなたじゃない
他の誰でもない
あたし自身に変わってく
理性で抑し殺して生きるのはとっても窮屈だわ
聞き分けのいいやさしい女になんて
悪いけどあたし なれそうにないの
誰かのために自分を犠牲にするなんて
そんな生き方はもうやめにしたのよ
ただこれからもずっと
好きな服を着て生きていたいだけ
サイズの合わない靴を履いて歩くのは
とてもとても歩きづらいったらないからね
あんたが選んでくれたあの靴じゃもう だから
同級生だからって 友だちなんかじゃなかった
彼女たちはただ あたしを笑うだけだったわ
先生たちにも嫌われてたの
学校はいつも あたしに冷たかったのよ
でも 別に気にしちゃいなかったわ
何をするにも トイレに行くさえゾロゾロと
連れだって行動している彼女たちが
なんだか あたしには奇妙なモノのように思えて
ガヤガヤ騒がしい休み時間
あたしはひとり教室の片隅で耳にイヤホンをつっこんでは
太宰や寺山や坂口安吾なんかを
ひたすら読みふけっていたわ
孤独だからって 淋しいっていうのとは理由が違うのよ
淋しいのは あなたをとても遠くに感じてしまうことよ
たとえばその瞳の中に その態度の中に
ここから先はSTAFF ONLY 立入禁止のテープ
あたしの思ってることが あなたに伝わらない
あなたの傷みが あたしにはわからない
そういうのって泣きたくなるわ
あなたはそれを知らなすぎよ
幸福な人ね
あたしそういうの
うらやましい
躰中のやりきれなさを振り起こして
もう 誰もあたしを止められない
誰もあたしを縛りつけられない
あたしは あなたじゃない
他の誰でもない
あたし自身に変わってく
あたし自身に
変わってく
Germany
私はケストナーであったし
あるいはマンでありたいと祈った
わがままは言わないからヘッセとして生きたかった
なぜ心の迸るままに生きることを許してくれなかったのだろう
『巨大な憎悪が私を生かしている。フランスが滅びるのを見るのが確実なら、私は千年でも生きるだろう』
塹壕の中で鉄十字が煌いたとき
ゲマインシャフトは高貴さであった
響き渡る塹壕の砲声と大地を覆う黄色い煙は
人間精神のその一大的交響曲の
完成ゆえの神聖さだけを意味した
卑俗さも卑劣さもそこにはなかった
だから塹壕戦は僕にとっての神様だった
トリコロールを燃やすこと
それは全人類の望んだこと
ありとあらゆるトリコロールを踏みつけるんだ!
君が君という人間性を守るために戦うんだ!
共和主義者どもを地の果てまで追い詰め、ギロチンにかけるんだ!
火にくべていくんだ! そして八月の砲声をもう一度だ!
それだけが人間を救う方法で
それしか高貴さを復元する方法もない
だから僕はヨーロッパ精神とそのクライマックスたる塹壕戦を愛していました
だのに
どうして僕のドイツへの欲求はいつも憎まれたんだろう
どうして誰も僕の高貴さに赦しをくれなかったのだろうか
楽園に行く。
こんにちは。鬱病女です。なんと鬱病な私が!旅行に行きました。母に同伴してもらい、飛行機も列車も乗れました。母がいなかったらきっと行けなかったでしょう。母、本当にありがとうございます……。感謝…………
旅行はとても楽しかったです。今回は母協力の元、連れて行ってもらうことに成功しました。
特急列車に乗っている時のワクワクは、子供の頃のきらめきを連想させるようなものでした。特急列車で歩くたび揺れが私を包み込みました。ホテルは狭いけれど、知らない場所で眠ることは私に非日常な感覚を届けてくれました。
私は毎日布団の中に引きこもり泣いています。ですが、旅行中はなんだかそんな私が嘘みたいでした。すっぴんにワンピースでスキップをして、カンカン帽を被って見たり、新しくピアスを買ってつけてみたり、募金をしてみたり、猫を追いかけてみたり、神社で参拝をしてみたり……。時間は嘘つきのように過ぎていきました。見知らぬ果ての古き土地はなんだか全てのものが煌めいてみえました。
私は東京に帰って、自分の部屋に荷物を置き布団に潜り込むでしょう。そのときの私が泣いているかは、分かりません。自傷行為をしているかもしれません。でも私は私に忘れないでと言いたいです。あなたは旅行をして、見ず知らずの土地で楽しみ、生きることに希望を見出したのだと。あなたは少しでも、あなたは楽園で生きたひとなのです。
フラグ・メンツ(現代詩手帖 落選につき皆様による批判を受け付けています)
約束を違えた襟の ボタンひとつを
なおす術さえ 教わらなかった子ども ら
各々の部屋に埋葬されている、だと。
私はそれが許せなくて、ドアを叩いた
ぶよぶよに腫れ上がった 手旗信号 届くか
拳骨が見えて 内側はあばかれる
諦めているのはわたしなのに
この生き物ときたら痛覚さえないとは
外縁で折り合いをつけなくては
内側から食い破られてしまう
侵入者を 腿を 腕を 抓っていたのは
私の手ではなかったのか と
少しは疑え。語りの主体は誰
きみという 可変のシェルに籠る
居留守がばれ続けている
不在と書いた 白旗を立てた この領地を
所有したくない と思った、感情の数だけ身体を割いた という口上を自己防衛に使った それは三人称でも転用可能か検索した
とメモした 紙片は虚しく空調にはむかった
フラグメンテーション
齧ったトーストのかけらで
構成されたような具合の身体性
ばらついたまま あさましい欲望を余すもの
ナイフにこびりつく
バターが不快で 漆喰を塗る音が不快で
飛び出してしまいたい。
うちなる他人のものとして
切り離して責任を逃れたのはだれ?
あと何度かはこの問いを再起していい筈だ
芯を食いにいけばいい 芯を立てればいい
そして常に すり替えればいい
喉元で正せ 襟とただせ
編集時の差異こそ本懐ともてなせ
口がふえたごとに 噤まれるとされど
スレッド数など比例しない
すっぱい葡萄の 枝まで食えばいい
実感を握って 痛覚を得よ わたしの氷を わたしの陣地に 取りに行かないと
手も足も増えるんだ そらみたことか
盛大な離反 しかし コアなどあると思ったか
断片たちから名前を選べ
断片化された名前を選べ
あるいは 選ぶな
𝚂𝙷𝙸𝙽𝙸𝙶𝙸𝚆𝙰 𝙻𝙰𝚂𝚃 𝙱
2026/03/08
あれは何の音
あれは何の音
鳩が泣いてる
あれは何の音
腸が動いてる
あれは何の音
明日が来ない
冬の透明
白い息が
頬を舞う
ふと夜空を見上げたら
月と星たちがきらめいていた
無垢なひかりに照らされて
私の心も
すこしずつ
洗われていく
透き通っていく
距離きれい
距離きれい距離正常距離すなお距離ちかい距離異常距離こわした距離埋めた距離おいた距離焼いた距離たべた距離はいた距離裏返した距離ねばついた距離褪せた距離折れた距離煮た距離詰めた距離棄てた距離ひろった距離拭いた距離眺めた距離苦い距離渋い距離甘い距離辛い距離厚い距離薄い距離軽い距離重い距離逃がした距離飼った距離借りた距離濡れた距離脱いだ距離洗った距離干した距離履いた距離よごした距離綺麗
ゆうた!!
ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆつた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆうた ゆう ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! ゆうたああああああああああああああああああああああ!! 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手と灯り
肩に乗り
高いところから見た空と雲
おもちゃが壊れて
泣いた背中に触れた声
完成がわかっているように
ピースが埋まり
絵が見えてきている
肩を超えて夕陽が作る影
老いた手を引き
合わせる歩幅
重ねた日々を薄める霞む目
寝返りをうつ夜
枕が合わず迎えた朝
窓から漏れる陽射しを
手で遮る
踏み出した瞬間に
流れるときは
目の奥に消える
重ねた記憶を
浮かび上がらせるろうそく
照らす灯は揺らいでいる
密愛者のひとりごと
秩序立った昼間の街の輪郭がほどけ、夜が立ち上がる。
パノラマ街に滑り込んだ私たちは、
当たり前の日々を骨の髄まで染み込ませた体で、
ありふれた週末限りの恋人となり、
霞みがかった心ごと火の玉になろうとする。
うわの空を滑る巨大な旅客機が月明かりを吹き飛ばせば、
もう一瞬で夏だ。
どんな言葉に辿り着けば満足なのかも分からず、
私たちは喋り続けた。
映画やドラマじゃない、こんなにもありふれた夜なら、
固く閉ざした魂もいっそネジを外して、
そのつもりならいつだって引き返せるぐらいの、微睡の中へ。
よがって、もがいて、軋むベッドの上、
皺くちゃのシーツを二人で纏う。
私たちは、絡め合う思惑の海をたゆたう迷子。
誰かに強く抱きしめられている時だけは、
何も考えられなくなるのをいいことに、
私は、一つ一つの心残りに折り合いをつけるだけで使い切ってしまいそうな、
命の残量に思いを巡らせていた。
巡らせた思いの水中に、呑まれていった。
...701号室を出たあなたに5分遅れて建物を離れれば、
二時間だけのやましい約束は終わる。
首都高速に乗る前のタクシーの車内に、
大仰なボリュームのドリームポップがフルバースで駆け抜けて、
後部座席の私は、
追いすがるテールライトの眩い光を右目で溶かす。
道の段差に揺られて、他人との軋轢に振られて、
寝静まった家々の間を縫う路肩に停まり、
'ただいま'も'おかえり'もない、赤茶けた溜め息ひとつの帰宅。
今の私が帰って来られる場所は、まだ、この街にしかない。
永遠みたいな顔をした寂しさと連れ添って上京したばかりの私を、
出迎えてくれたあの初々しさの気配はもう残っていない、103号室。
一人には少し広かったこのワンルームが狭くなるたび、
心の隙間はむしろ広がる一方で。
新しい'今日'を受け取るごとに、
手放す言葉をひとつ選べ、と詰め寄る真っ白い原稿用紙には、
花開く時を逃し続ける何万もの夢の蕾が宙ぶらりんのまま、
今もずっと、咲いてみせるその日までの勇気を、
張り詰めている途中だったりして。
ひとりになるとどうでもいい事に頭を使い始めるのが私の悪い癖。
真面目に勉強していたらもっと華やいでいたかもしれない二十代が、
もうすぐ終わる事。
所在も忘れたフォルダに眠っている書きかけの詩を締めくくる為の、
決定的な一言。
明日からの私の、生きる意味。
とか。
生きているだけで必要とされる人間なんて、
ほんの一握りの、限られたヒロインだけ。
なりたい自分も、逢いたい誰かも、取り立てて思い当たらない毎日に、
四六時中試されているような。
ある日ふと、何もかも諦めたくなる瞬間はきっと少なくないな。
私には、そうしないで済む理由がどれだけ残っているだろう。
引き金に指をかけた私を引き止めてくれる人たちと、
あと何年繋がっていられるのだろう。
探し求めたってもう彼はいない四畳半のフローリングに、
二人で選んだカーテンの影が月明かりを遊泳している。
限りなく灰に近い真っ黒な夜でも、
報われた日の朝に広がる一面の白でもない、
そのどちらにも、あと一歩届かない場所。
私の夏は今年も、ここに捨てる事になりそうだ。
即時一杯の飯に如かず⑪
ep.11「アフタヌーンティー」
六本木某所
品格が求められるエグゼクティブに許された完全会員制のプライベートクラブは窓のないラグジュアリーな空間にシノワズリを潜める。海外エアライン機内誌で紹介される高級クラブは第一線で働くビジネスパーソンの社交場。
燦然と輝くアフタヌーンティーセットに見惚れる。
ここで見たものは全て、表には出せないので、記憶に留めたい。
伝統的なスリーティアーズは下から順に、
サンドイッチ
スコーン
ペストリー
英国式キューカンバ―サンドイッチにフォークを入れると鮮やかな緑色に吐息が漏れる。軽快にピクルスを口に運んだところで、宗一郎が笑いながら長椅子に背を預けた。
「ふぅーん。彼氏とセックスしない理由は、あれか」
「・・・・・・総一郎、あのさ」
「俺よりいい男と出会ったら、それは俺の運の尽き。もう、こうして会うことも無くなるんだろうな。俺たち」
スコーン、食べないならクロテッドクリームが欲しいと目で欲しがる俺を悪戯にも覗き込む、総一郎は黒すぐりをナパージュしたような瞳で見つめ返してきた。
「ニースでこれ食べた時の俺たちは、若かったな」
総一郎の手から離れる、それは音もなく崩れながら懐かしい香りを立てた。
ティアンと呼ばれる器に野菜を入れて焼いた料理のエピソード。
スライスしたトマト、ズッキーニ、シェーブル(山羊のチーズ)が並ぶフランス料理は彩りこそ良いが味に馴染みがない俺にとって酸っぱい思いで。
────あれから10年。別れても宗一郎と居るのは、一度きりの奇跡が起こす縁で、結ばれているのかも知れない。
「お前の初めてを貰った時は「こんなに幸せでいいのか?」さすがに躊躇ったよ」
フォークの先が急に重くなって落としそうになる。
その話だけは、やめてくれ。
初めての男といえば美しく聞こえるが、それまで経験する機会がなかっただけで恋人はいた。相手が求めて来ても応える事ができなかったのは・・・・・・誰にでもある葛藤・・・・・・簡単に許せるほど性的な興味を示すことができずに避けてきた俺の心と体は、たった一夜の過ちでは済まない程、宗一郎のいい様にされた。
3段目、待望のペストリーに屈託のない笑顔を見せる宗一郎は愛慕のショコラに狙いを定め、天の川のような星屑を散りばめたグラサージュに唇を寄せる。
続いて俺も、ああ────
職人の技術もさることながら、恋人たちがロマンチックに過ごす時間を演出する為だけに創られた一欠が甘く溶けていく。最中に一瞬の煌めきを残しながら消えていく至高の完成度に瞳を閉じて、胸に募る思いごと飲み込む。
「芸術的で、言葉にならない」
「だろ?ルノーのショコラは俺のサルバトーレなの」
真っ赤なラズベリーに舌鼓を打つ、宗一郎の唇から抜き取られる金のスプーンはガラス製のランプから漏れるわずかな光を集めながら繊細な輝きを放ち、不敵な笑みを呼び寄せる。
慌てて視線を外したがテーブルの下で指先を忍ばせる攻防に勝てないまま捻じ込んでくる強引さに、負けた。
ぬくい、だとか、ひゃっこい、だとか
あたしの手って
ひとよりちょっぴりぬくいのね
ぬっくいのよ
よくさ 手がぬくいひとは心が冷たいとか
ひゃっこいひとは 心がぬくいとか
云ったりするひとっているじゃない
ていうか
むかしっからのいい伝え
習わし的な
心臓に一番近くにあるから的な
そういうヤツ
でもさ でもでも
手が ぬくい
とか
ひゃっこい
とかで
心の温度がわかるんだったら
こんな楽ちんなことってないよね
もっと世の中へいわになるっていうか
無駄に争ったり ややこしくなってこじれたり
そういうの きっとなくなるんだろうし
てか
心の温度ってなんだろね
なんだろ
春
梅は うむ
海は うむ
木に
水に
倦むことなくただようもの
昨日無く
いつまで有るかわからぬものを
そうして
うまれたものは いまを
駆ける 颯爽と
きみが嗅いだ花や潮の香は
通って行った証拠だ
姿は見せず
春の馬が