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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

バベル

一週間前まで通じていた言葉が
一週間後の今日
あなたがなにを言っているのか
突然わからなくなってしまった

私は私の
あなたはあなたの言葉を
違う言語で喋っている
あなたは顔をしかめ
通じなくてもわかるバイバイと手をひらり
席を立って行ってしまった

呆然と見送り
気がついたら
カフェの他の客たちの話しも
まるで分からない
けれどみんな取り乱す様子もなく会話している
通じているらしい


私だけ?
そんな馬鹿な

店員が来てコーヒーポット片手になにか言ってる
試しに
欲しくはないが、おかわりください
と口に出す
店員はにこりと笑いながら
カップにコーヒーを注いでくれた
それからまたにこやかになにか
なにか分からないがなにか言って
立ち去った

私だけだ
私だけ言葉が通じてない

落ち着かなければ
落ち着かなければ
と、その時
わかる言葉で怒鳴っている人がいた
安堵のあまり涙ぐんで
店員に怒鳴り声を浴びせる老人を見た
見て
ようやく
ようやく気がついた

本心から出る言葉だけ
わかるのだ

昨日までの私は
上辺だけで生きていた
そうして
上っ面だけの言葉なら
きっと今も通じるのだ



-うそつき

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呪縛

意識はまるで実験のようで、ぼくの躰はぼくだけのもので、けれども何がヒトの中心にあるのか、気付いてくると一切合切脱ぎ捨てたくもなる。沸き上がる焦燥感をとりあえずカフェインのせいにして、絡み付く倦怠感は季節性の鬱ということにした。熱は計らない、検温欄に思いつきの差し支えない結果、小さいころ、平熱が高くてなかなかプールに入れてもらえなかったな。健康は単色のジグソーパズルみたいだ、数字はつめたくてかなわない、触れれば生温かい首元は、誰が為の体温になりうるのか。

やっぱりだめかもしれない、両腕がいつもの百倍に膨れ上がった感覚、あるいは重力、それなら万力のように明日を潰してしまいたい、両手をこめかみに押し当てて、そのまま眠りに落ちていく、夢の中でも取り柄が無くて、白が似合わない。それでまた目覚めてしまう、寝汗が、起き抜けの虚しさを透かしていく。やわらかな陽光に包まれた部屋は、逃避の末で無いと言い聞かす。しかしながらあの頃には朝があった。光に、朝が。

むざむざと、

知にとらわれて、牙を失くす、あなたの生活はとてもきれいだ、クラドスポリウムが友達のぼくとは違う。健常が、笑顔で脛を叩いて回る。閉塞的だ、酒池肉林だ、楽しいかい、青二才。HBの鉛筆は人を刺す道具じゃないことを、今なら教えたい。臭さにも寒さにも慣れてしまった、ここは肥溜めだよ、千切れた月曜、金切り声、癌細胞、殺害された齧歯目。少年少女の悪戯で、壊れ損なったアンドロメダのゆくえが、混沌とひしめく。いつまでも聞こえてこない、放課後を告げるチャイムは何処。

それでも、

傘を忘れ続ける。向こう見ずな三日月。桜の木の下で待ち合わせる。ぼくと違って白の似合うきみ。春に溶けゆく晴れ姿。全部違うのに。一緒になって雨に濡れて、笑い合って、触れ合って、卒業した。あの瞬間、どんな世界でも。大切なものを抱きしめて離さないで守っていられるのはぼくらだけなのだと、思っていた。

で、

まだやさしさを尊び、思いやりに涙する日々を望むのかい。その健気さにこそ泣いてしまうよ、朝も昼も夜も、春も夏も秋も冬も、逆も裏も対偶も、そもそもの命題も、すべて出鱈目じゃないか。希望のために色を映さなくなってしまうなら、道理のために声を出せなくなってしまうのなら、もう探さないで。奈落の底でぼくと遊ぼう。

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我が家の便所には、ね

ぼっろぼろの放浪記

たぶん、いや、
ぜったいに

小水の始末が悪い次男が
ひっかけたりしてるだろう

きたね。
言われようが

ぼろっぼっろの林芙美子

「ねぇ、センセ。
お汁粉でも食べに行きませんか?」
誰かのスカしたそのひと言

やたらに好きさ

焦心。女は辛し。生きるは辛し。

ぼーろっぼっっろの放浪記
幾年たとうがリズム健在。

我が家の便所には、ね
わたししか読まない
わたしだけの 放浪記があるんだよ

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家出娘(She’s Leaving Home)

これは、とある村の村人、ありさという少女のお話です。
この村では、誰もが平和で安定した暮らしを営んでおりました。
村人平八の娘、ありさはとてもつぶらな目で、外の世界を見つめておりました。

「この平和な村の外には、きっと素敵な夢のある世界があるんだわ」
ありさが時折その思いを語ると、平八はそれを頑なに否定しました。

「外の世界は危険が詰まっている。絶対にここを出てはならん」
ありさがあまりに外の世界への夢を語るので、平八は必死で部屋の窓ガラスの外に板を貼り付け、部屋の窓から外の世界を見れないようにすることもあるほどでした。

「ああ、外の世界を見たい」
ありさはその想いから、ついに病気になってしまいました。

「ありさ、すまない」
娘が病気になった原因を反省し、平八が窓ガラスに貼った板を撮ると、ありさはその日の夜に家を飛び出し、村外れから街へと駆け出しました。
ありさが街へ出ると、そこには今まで見たこともない世界が広がっておりました。

イルカにまたがる男の子がいました。
その男の子は、なにを言ってもなにを尋ねても言葉の後ろに、エヘンエヘン。
どうして、そんなに言葉の後ろに、エヘンエヘンとつけるの? と尋ねても
「そんなこと、僕の知ったことか? エッヘン」
と答えるのみでした。

馬に乗る女の子がいました。
その女の子は、なにを言ってもなにを尋ねても、言葉の後ろにイヤンイヤン。
どうして、そんなに言葉の後ろにイヤンイヤンとつけるの?
と尋ねても
「そんなこと聞かないでよ。いやーん」
と答えるのみでした。

ラクダと一緒に歩く男性がいました。
その男性は、なにを言ってもなにを尋ねても、言葉の後ろにオホンオホン。
どうして、そんなに言葉の後ろに、オホンオホンとつけるの?
と尋ねても
「そんなこと、俺の知ったことか? オッホン」
と答えるのみでした。

猫を撫でる女性がいました。
その女性は、なにを言ってもなにを尋ねても、言葉の後ろにウフンウフン。
どうして、そんなに言葉の後ろに、ウフンウフンとつけるの?
と尋ねても
「そんなこと私に聞いても知らないわよ。うっふん」
と、答えるのみでした。

口から黒い炭を吐くおじさんがいました。
そのおじさんはなにを言ってもなにを尋ねても、言葉の後ろにイカンイカン。
どうして、そんなに言葉の後ろにイカンイカンとつけるの?
と尋ねても
「そんなこと、俺に聞いては、イカンイカン」
と答えるのみでした。

顔を真っ赤にして怒るおばさんがいました。
そのおばさんはなにを言っても、なにを尋ねても、言葉の後ろにアカンアカン。
どうして、そんなに言葉の後ろにアカンアカンとつけるの?
と尋ねても
「そんなこと、私に聞いてはアカンアカン」
と、答えるのみでした。

犬をステッキで叩く老人がいました。
そのおじいさんは、なにを言ってもなにを尋ねても、言葉の後ろにゴホンゴホン。
どうして、そんなに言葉の後ろにゴホンゴホンとつけるの?
と尋ねても
「そんなこと私に聞いたって、分からないなぁ。ゴホンゴホンゴッホン」
と答えるのみでした。

イルカにまたがる男の子。馬に乗る女の子。ラクダと一緒に歩く男性。猫を撫でる女性。口から黒い炭を吐く男性、顔を真っ赤にして怒るおばさん、犬をステッキで叩く老人、色々な人と逢いましたが、ただの一人も、ありさの求める答えを差し出してくれる人は、おりません。
もう帰ろうと思い、もと来た道を振り返ると、もと来た道が分からない。そこへ、カンガルーのようなポッケをした老女が歩いてきて、その老女はなにを言っても、なにを尋ねても、ゴメンゴメン。
どうして、そんなに言葉の後ろに、ゴメンゴメンとつけるの?
と尋ねると

「それは、貴方の気を悪くしたと思ったからよ。ゴメンゴメン」
と、お詫びに、帰りのバスに乗るお金をありさに渡してくれました。

「私の来た道は、バスが通らないの。そのお金の代わりに、宿をとりたいわ。私を泊めてくれない?」
老女がそれに了解し、ありさを自らの宿に泊めると、それ以降、ありさが元いた村に戻ることは、もう二度とありませんでしたとさ。

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「母であったなら」

ゆりかご、ゆりかご
おんなじ顔の子供がいる
1人はあなたであったはず
1人はあなたが殺したはず
ゆりかご、ゆりかご
愛されてはいたゆりかごの中
それを確かめてしまうのは
まだ足りないと泣く、あの子のため
ゆりかご、揺れないで、ゆりかご
揺れなくなったあの日を
ずっとずっと後悔してる
すっからかんのゆりかごの中
愛すべき子供であったはず
抱きしめて、あげられれば
声をあげて笑ったはず

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主張強め日記(3月7日、場の価値について)

足元、ありがたいことに投稿数が急増している。今年に入ってからは一日10作品、月間300作品ほどのペースで推移してきたが、3月に入ってからは一日あたり20作品ほどのペースに上がっている。このペースが続くなら、月間600作品という驚くべき水準に到達することになる。


運営者としては、アーカイブページでも表示している「1作品あたりのコメント数」などの指標は常にウォッチしている。現状、これまでと大きな変化はないが、もし「流れが早すぎて投稿するのがつまらない」といった感覚が出てくるようであれば、ぜひ教えていただきたい。コイン受領のプロトコルを調整するなど、対応策を講じる余地はある。


元来、文芸投稿サイトというのは粘着性の高いサービスだと思っている。よほどのことがない限り、投稿者は投稿場所を変えない。私の理解では、書き手というのは基本的にエゴイスティックな生き物であり、「書けて読まれればそれでいい」という思考を持つ人が多い。何を隠そう、私もその一人だ。最初から場そのものに強い関心を持つ人は、むしろ少ない。しかし投稿を続けているうちに場への愛着が湧いてくる。馴染みの書き手が生まれ、その場がなければ書かなかったであろう作品まで書くようになれば、もう離れがたくなるのは必然だ。


そういう性質のサービスであるにもかかわらず、ここまで投稿者数や新規登録者数が増えているのは、しろねこ社との提携が継続し、この場で活躍すれば作品集が出せる仕組みが定着したことだけではないだろう。B-REVIEWやココア共和国といった詩投稿サイトが休止したことも影響しているに違いない。


投稿サイトと一言で言っても、それぞれに打ち出している価値観やテーマ、特色がある。私は書き手である以上、価値には敏感であるべきだと考える。即物的な快不快や表面的な損得にしか反応できず、価値には反応できないのだとしたら、アート表現などという抽象と戯れるより、フィールサイクルで運動でもするほうが幾らか健康的だ。


例えばB-REVIEWには、「常識の通じるまともな言論ができる場を作る」という理念があり、その価値観のもとで「誰もが運営になれるオープンな空間を作る」という思想があった。では、C-SPACEの価値観とは何なのか。


私自身まだ考え続けているところではあるが、価値観とまでは言えないかもしれないが、まず「可塑性」がこの場の訴求点になっている気がする。AIでデザインし、新しい場であることを明確に表明している。すでに固まってしまった場ではない、まだ変わりうる場であるという点は、分かりやすい特徴の一つだ。


そうであるならなおさら、ご意見があれば直接寄せていただけるとありがたい。かつてB-REVIEWでは「口だけ出して行動しないフリーライダーはいらない」といった言い方がされていた。しかし、C-SPACEは誰もが運営になりうる場ではなく、運営と参加者の間に一定の非対称性がある以上、そのような言い回しは適切でない。


口だけでも意見を出してもらえるのは十分ありがたい。意見を出して関心を示してくれること自体が、場を温める。つい先日も文学系VTuberの方々に提携の打診をするなど営業活動をしていた。こういうことをやってみるといいのではないかというアイデアは、常に歓迎である。


C-SPACEの価値として今後育てていきたいのは、スペースコインによって「場への貢献」を促す仕組みだ。荒らしとは何か、場への貢献とは何か、単一の答えがあるわけではない。人によっては、ごく少数のメンバーで他者の悪口や誹謗中傷を言い合って盛り上がることを「自由闊達な議論」と捉えることもあるだろう。


しかしC-SPACEでは、仕組みとしてそうした振る舞いが通用しにくくなっている。誹謗中傷で盛り上がればブロックによってコインが稼げなくなり、ワンクリック通報の対象にもなりかねない。ギバーかテイカーかが比較的可視化されやすい環境を作ったことが、この場の価値につながっていくかもしれない。


ちなみに、2ちゃんねるが一部の不適切発言を理由に米国政府の怒りを買いシャットダウンされたという話を聞いた。匿名で何をやっても許される「無敵の人」的な振る舞いが容認される世界は、どんどん狭くなっている。ごく一部のメンバーで悪口合戦で盛り上がり、それを自由闊達で文学的だと言っていても、実際にはごくごく少数の人にしかニーズがないことが可視化されれば、C-SPACEに限らず、投稿回数制限やアクセス禁止によって場から退出させられることが当たり前になってきている。


それは一抹の寂しさを伴う変化かもしれないが、場を作りながら楽しめるのか、場を壊しながらしか楽しめないのか、そうした姿勢が問われる時代になっていると思う。


繰り返しになるが、書き手というのは元来エゴイスティックなもので、場への利他性を求めることの方が間違っている。しかしエゴイスティックな書き手たちが、結果として場を醸成しながら楽しめるような場所を育てていければ、この場の価値が生まれてくるかもしれない。

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批評・論考

ことばのふりをして

誰を
撃たんかね
鹿でも
撃つた顔をして
あんたも
撃つたのかね  

ことばのふりをして

転がる
薬莢
だらり
目を細めて

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37兆個の噂話

はるか遠く 青空の
あばら骨のあたり

ばちん

ポンプの
壊れる音
37兆個の
噂話
膜から膜へ
未消化のままだった
あの日のマカロニの

がらんどう

体温を
二度
搾取し
去っていく 
増殖する画面を
昨日へ

呼吸を
移植し呼
吸を

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まだ

あなたはわたしを
怖い
と言う
草花は
ひとつも揺れず
土踏まずは
重さが違うと言って
昨日を睫毛に
ひっかけたまま

あなたはわたしを
怖い
と言う
瞬く画像は
四捨五入を促し
秒針でさえ
俯き
昨日と今日を
行き来するのに

目を閉じても
あなたは
音を見上げ
明日のうたを
選び続け
わたしだけは
降りて行く

あなたはわたしを
怖い
と言う
鳥は昨日を目指して
空に落下し続ける

動き出したあなたの
足音が

遠く

わたしは
あなたは

まだ
まばたきを
している

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創作の動態モデル:干渉場としての創作

2026年2月27日 00:39
(多々AI対話/推敲/Claudeで記事作成)


はじめに
創作を「自己表現」と呼ぶとき、二つの前提が忍び込んでいる。

表現に先立つ「自己」が存在するという前提。そして、創作が内側から外側へ向かう一方向の運動だという前提。

本稿はこの二つを解体する。創作を、内部・外部・時間・他者が互いに干渉し合う動態システムとして記述することを試みる。




I|起点という幻想
創作の「起点」はどこにあるか。

通常の説明は「内側にある何かが外部へ押し出される」と語る。しかしこのモデルは、素材の側から創作が始まる経験を説明できない。言葉が先に動き、それに引きずられて内的状態が後から生成される——そのとき、何が起点だったかは事後的にも定まらない。

「起点」は創作の最中には存在せず、完了後に遡及的に構成されるものだ。

内→外、外→内、外→外という三つの方向は排他的な分類ではなく、同一の出来事を異なる角度から見たときの記述の差に過ぎない。内部と外部という区分は分析のための座標であり、創作そのものの構造ではない。

創作は、内と外が互いに境界を書き換えながら干渉し合う**場(field)**として記述される。




II|理解は表現の副産物である
「理解してから表現する」という順序は、創作においては逆転する。これは多くの創作者が経験的に知っていることだ。

しかしこの逆転もまだ線形モデルの残滓を含んでいる。より正確には、表現と理解の関係は遅延を伴う非線形ループだ。

表現 → 理解 → 再表現 → 再理解 → ……

重要なことが三つある。理解は表現の副産物として発生するのであり、目的として追求できない。この遅延の幅は可変で、理解が翌日来ることもあれば、十年後に来ることも、生涯来ないこともある。そしてループは閉じない。理解は次の表現を誘発し、その表現がまた別の理解を生む。

創作は説明より常に速い。

説明はその後を追いかけるだけであり、創作を完全に記述する言語は原理的に存在しない。




III|形式は思想より強い
作品が完成した瞬間、作者の制御は半ば終わる。

形式は一度外化されると、作者の意図を参照せずに動き始める。作者が構造の要請に「従わされる」ように感じるのは、意図よりも形式の方が優先されているからだ。これは「暴走」ではなく、構造の自己保存と呼ぶべき現象だ。

制御の獲得と喪失は対称ではない。喪失の方が構造的に優位だ。

だからこそ「書いて考えが変わる」という経験は偶然ではない。形式が思想を再編するのは必然だ。

同じことは受容においても起きる。高密度な作品は受け手の側で無数の異系統を発生させ、作者の意図は起点の一つに過ぎなくなる。フィネガンズ・ウェイクも聖書も、作者が統御したはずの構造が、時間の中で原形を失いながら増殖し続けた。




IV|作品はウイルスである
作品は「伝達」されるのではなく、感染する。

受容者は共振する。あるいは拒絶する。過剰反応し、変異的に再解釈し、あるいは作品を誤読することで自分自身を攻撃する。この最後のケース——「自己免疫的受容」——は創作文化において頻繁に起きる。読者が作品を通じて自己の既存構造を攻撃し、崩壊させる。それが「読書体験が人を変える」と言われるときに起きていることだ。

作者は最初の宿主に過ぎない。

作品は作者から離れた瞬間に別の生態系に入り、独自の変異を始める。創作は伝達の設計ではなく、感染経路の設計だ。




V|主体は中心ではなく、通過点である
作品を外部に出すと、他者は「作者像」を生成する。この像は作者に逆流する。作者は自己規定を保留しているにもかかわらず、外部で強制的に規定される。

そして逆流が次の創作を条件づける。創作主体は純粋な内的圧力だけで動いてはいない。外部が生成した自己像に応答しながら、次の形式を選ぶ。

主体は外部干渉の通過点であり、創作システムの中心ではない。

これを図式化すれば:

内的圧力 × 素材の自律性 × 外部受容の変形 × 時間の遅延 × 作者像の逆流

この式は閉じない。どの項も単独では創作を成立させない。




VI|創作は螺旋である
創作サイクルを「循環」と呼ぶのは不正確だ。創作は同じ場所に戻らないからだ。

より正確な比喩は螺旋だ。ループしながらも深さ方向に進む。速度が変わる。途中で別の渦に巻き込まれる。同じことをしているように見えて、毎回別の層にいる。

創作の非反復性——同じテーマを何度描いても尽きない感覚——はここに由来する。




おわりに
創作とは、内部エネルギー・素材の自律性・外部受容・時間遅延・作者像の逆流が相互干渉する不安定なシステムを、形式によって一時的に安定させる操作である。

しかしこの安定は仮設だ。形式が完成した瞬間に崩れ始め、読者の中で変異し、逆流として作者を変形し、次の不安定を生む。

創作をやめられないのは評価や承認のためではない。自分が全体を制御していない運動に、それでも触れ続けることができるからだ。

制御できないものに形を与えようとする運動が止まらない。それは衝動というより、存在様式に近い。



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批評・論考

枯れぬ欲は破滅

赦しを請うのは自己での完結
朱を熱する
己のみ満足を得られる
罪の意識は気づかずに染みになっている

小指の先から侵入したガラスの破片は血管の移動をやめず
心臓を破裂させる

人差し指、撫でる背骨との距離
これは触れているのか
否、触れていない

欲は鷹
雀になりたかった

川に飛び込んだ烏の翼は渇きを知らず
とても気分がいい
お似合いだ

苦痛はオオルリ
裏切りはカナリア

燕が育む雛鳥
巣食いの敵

鋏で断つは赤いハンカチ
断ちたくないのは赤子の雑巾

願え銀の匙
感情は黒く染まる
瞳は乳白色

欲は地球の重力を遥かに超える
月が近づきすぎた
突き抜けて天の川銀河に放り出される

右手は少しだけ生きていたように見えた
現実は凍った薬指

欲だけが残留
それだけでは足らず親指すら崩壊していった

それでも尽くことを知らない

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「パスポート」

何処かに行きたいというくせに
そんな気力もない日々で

やりたいことも、行きたいところも
たくさん、たくさんあったのに
何にもできない日々でいるのが
酷く悲しくて泣いてしまう

なんにもできない人間になってしまった
遠くに行きたい
逃げたい、なのかも
行く元気もないくせに
想像だけは一丁前で

日々を想像の中で過ごす日々で
現実を直視することも出来ない
きっと見えているはずなのに
見えないふりをしているのも
そうじゃないと

そうじゃないと
とても生きていけないから

もう少しだけでも、
私を生かして欲しい
いや、生かさないで欲しい

ふふふ
願いも一丁前だったね

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遠い日

探してごらん
あの人はしゃがんで
視線を合わせた

散らばったかけらを
ひとつひとつ拾い上げる

かけらでひびが入った
水たまりの薄い氷
拾う手をしびれさせる

口を手で覆って
白い息で温める姿
真似てみる

両手で大事に抱えても、
石に躓き転んだ

宙を飛ぶかけら

音を立てて
グラグラと揺れて
やがて止まった

隣には誰もいない

かけらが
悴んだ手から落ちる
足の上に乗り
割れずに残った

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レシートの束

隣の席から
声が聞こえなくなる

空のビールを
店員が下げる

テーブルは拭かれ
知らない人が
コーヒーにミルクを入れる
渦を巻きながら褐色が薄い茶色へ

残したくない言葉は
新たな注文のシートに隠された

財布にはレシートの束

束をめくる指が
目で追うたびに止まる

感熱紙が薄れて
日付が消えかけた
レシートが一枚
揺れながら床に落ちた

薄れた同じフォント
目を引かず
足もとのまま

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目まぐるしく変わる映像的言葉の表現に惹かれて(作品「葬列」へのしろねこ社との共同コンクールへの推薦文)

この作品を読んで面白いと感じたのは、言葉の表現による映像のカット割りです。
自分は文脈を追うよりも興味を魅かれた言葉から作品を紐解き違う角度から読み
自分の心地良い形に組み替えては、一つでも多くの組み合わせを探しながら楽しんでいます。
この作品に関しては映像がフラッシュ的に頭に突き刺さる感じが印象的でした。

少女時代に思う大人のイメージが大人に成った時には情けない動物に成っている映像的な表現

葬列に並ぶのだから親族の葬列だと思われるのですが、地獄の文字を使っての映像的な表現

亡き親族を惜しみ泣く人を匂いの強い茉莉花に喩え
必要以上に淫らさと「女」を強調させて煩いと投げ捨てる様な映像的な表現

棺の中には祖母が居られるかと思わせる描写も攻撃的で
戦争という言葉を使うことによって祖母も攻撃的であるなら
自分も攻撃的に立ち向かう映像を鮮明にしている様に感じられるところ。

戦争を無くすには経済的要素が大きく影響しているという思想と
愛する者を捕食して自分だけのものとしようとする原始的な思想を
雌犬ではなく雌狼が遠吠えしている様な映像的な表現で終わった感じがとても面白く思いました。

個人的には、雌狼に何度も何度も頭から食いちぎられる地獄の苦しみの中で
茉莉花の香りに誘われて繰り返される苦痛が天国の快感になる事を願いながら
葬列の棺に入った自分の情けない顔を見てから、少女の後ろを歩きたいと思わせる
独特の雰囲気を持つ作品「祖列」の映像的言葉の表現に自然と引き込まれていました。

作者 ナカタサトミさんは、穏やかな気持ちで言葉を綴り静かな映像を表現したかったかもしれません。
作品「葬列」への違った感想を知りたいという思いと、突き刺さる様な映像を楽しんで貰いたいとの思いから
作品「葬列」を読む事をお薦めします。

推薦部たるものを書くのが初めてなので作品「葬列」のイメージを悪くしていないかと心配ですが
各々に楽しみ方が有ると思うので私の文で興味を持たれて読んで貰えると嬉しい限りです。

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かみしばい

ねえこっちにおいで
木の葉が揺れる君の声
一緒に図書館へ行こう
お日様が作った木陰の君の声
もうすぐ読み聞かせが始まるよ
雨が歌う君の声

本の世界は無限に広がるの
鳥がささやく君の声
君が物語でありませんように
土に還る僕の心

神芝居が始まるよ

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最後はどこへ

路肩の雨水は
あみあみを追いかける

まんまるの雨水は
トタン屋根を転がり
鉢の花を踊らせる

通学路の水たまりに
集まる雨水は
長靴にリズムを
刻まれる

そこまでは見ていたんだ

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 目まぐるしく変わる映像的言葉の表現に惹かれて(しろねこ社との共同コンクールへの推薦文)

推薦対象

葬列
by ナカタ サトミ

この作品を読んで面白いと感じたのは、言葉の表現による映像のカット割りです。
自分は文脈を追うよりも興味を魅かれた言葉から作品を紐解き違う角度から読み
自分の心地良い形に組み替えては、一つでも多くの組み合わせを探しながら楽しんでいます。
この作品に関しては映像がフラッシュ的に頭に突き刺さる感じが印象的でした。

少女時代に思う大人のイメージが大人に成った時には情けない動物に成っている映像的な表現

葬列に並ぶのだから親族の葬列だと思われるのですが、地獄の文字を使っての映像的な表現

亡き親族を惜しみ泣く人を匂いの強い茉莉花に喩え
必要以上に淫らさと「女」を強調させて煩いと投げ捨てる様な映像的な表現

棺の中には祖母が居られるかと思わせる描写も攻撃的で
戦争という言葉を使うことによって祖母も攻撃的であるなら
自分も攻撃的に立ち向かう映像を鮮明にしている様に感じられるところ。

戦争を無くすには経済的要素が大きく影響しているという思想と
愛する者を捕食して自分だけのものとしようとする原始的な思想を
雌犬ではなく雌狼が遠吠えしている様な映像的な表現で終わった感じがとても面白く思いました。

個人的には、雌狼に何度も何度も頭から食いちぎられる地獄の苦しみの中で
茉莉花の香りに誘われて繰り返される苦痛が天国の快感になる事を願いながら
葬列の棺に入った自分の情けない顔を見てから、少女の後ろを歩きたいと思わせる
独特の雰囲気を持つ作品「祖列」の映像的言葉の表現に自然と引き込まれていました。

作者 ナカタサトミさんは、穏やかな気持ちで言葉を綴り静かな映像を表現したかったかもしれません。
作品「葬列」への違った感想を知りたいという思いと、突き刺さる様な映像を楽しんで貰いたいとの思いから
作品「葬列」を読む事をお薦めします。

推薦部たるものを書くのが初めてなので作品「葬列」のイメージを悪くしていないかと心配ですが
各々に楽しみ方が有ると思うので私の文で興味を持たれて読んで貰えると嬉しい限りです。

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w(笑)w

僕の記憶の泥団子に君が植えた種が生えない

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めくられなかった冬の跡

骨の髄からはるばると、長い永い道のりの上、欄干のむこうで流れゆく時を見ないで歩き続ける。ここでは命に轢かれることもなく、未来に切り裂かれることもなく、なにより幸福の匂いがしないから気分が良い。

百年の経過は悲劇を繰り返すのに十分過ぎる、らしい。それが今。頭で考えてるうちは進化しないね、皆、忘却の向こうにある新鮮な目覚めが欲しい。

無知をはにかんで、同調をほころばせ、裸のまま仲間とままごとなすがまま。母は十年前に海になった。しがらみが無くなれば、渇ききった肌を、暗闇のようなロングローブがたやすく招き入れる。一寸先はpositive、昨日までたったひとりで戦ってた、あなたの頁は今日、白昼の下で削除されました。なにを言っても、結局は巻き戻せないからだに消化されてしまったのです。

かわいそうに生きたまえ。薄紅色の唇で愛を語るな、媚びろ、頼むから家も建てるな、木造の胎盤が。白蟻に喰い尽くされる前に、一花咲かせてみなよ、私の知らない時空で、意味の焼け死んだ言語にさ。

とどのつまり、
言葉でなければならぬ理由とはなんなのでしょう、きみはどうして、言葉なの?目が見える私はもれなく狂っている。怒りという感情との向き合い方を知らない、勘違いにさえ人間味が無い、鼻腔の奥で如何様師の化かし合い、でも呼吸だって今しかない。だから、

ごめんなさい。

今年の冬も、私は、
鍵括弧を閉じられずに終わりそう。
才能が無いの。
季節の狭間、
ベルガモットに操られて
あるべき姿はティーカップの底
抜け殻のように、
亡骸のように、
そんなふうに横たわる一室のなかでも
迷子になった両目を瞑る。
螺旋の午後をのぼりつづけた先、
燻るような倦怠に
タートルネックを着せて
一等星に撥ねられないように
二ヶ月ほど続いた満月をバターナイフでひと削ぎ。
哀しげな影もそっと食べてしまいたい、
ずっと会いたかったような顔で。

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マイクロキメリズム

今日知った
この言葉のせいで
わたしは死ねなくなりました

あなたたちが
まだわたしを
まもっているなんて
まもっているなんて

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受験に落ちたら

受験に落ちたらと
詩にしたら
引き寄せたかのように
大学受験、前期試験で
桜咲かず

前回詩にしたみたいに
現実では
うまく笑えもしないし
人生、命も
大学落ちたくらいで
なくなりゃしないよ、
せいぜい捻挫程度だろう?
などと胸を張れもしなかった

部屋から出てこない長男に
なんども ごはんたべてー
飲み物飲んでー
話しかけ
大丈夫かと、無理やりドア開け
のぞきこむ

受験に落ちたら
はじめてそれがやってこなきゃ
わからないことだらけなのね
当たり前のことばかり
なんども学ぶのは
馬鹿なわたしだから
こんなお母さんでごめんなさい

あまりに感情の整理整頓できなくて
書いてみた エスエヌエスで
ふだんとケタハズレのハートが
またたくまに ついていく

受験に落ちたら
ラッパーになるって言ってたよね?
和歌山だっけ?
おーるおっけー!
頼むから明日には部屋から
おはようと出てきておくれ

受験に落ちたら
それでもどーでもよくて
お日様は
まいにちのぼってくるからさ

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非線形な混沌を飼い慣らす論理、そして効力射

序:対立の解消

「表現」と「品質管理(QC)」。一見すると、前者は個人の自由な感性に基づく爆発的な営みであり、後者は均一性を求める産業的な制約であるかのように見える。しかし表現とは、無数のインプットが複雑に干渉し合い、ある臨界点を超えた瞬間にアウトプットへと転じる、極めて非線形な場である。この混沌としたシステムに品質管理を導入することは、感性を束縛することではなく、その非線形な爆発を「確実に、かつ持続的に生じさせる」ための動的なインフラを構築することへと置き換えられる。

一 既存理論の射程と限界

 PDCAサイクルや特性要因図を製造現場以外に援用する試みは、すでに一定の有効性を示している。インプットの多様性を管理し、制作者が系のどのフェーズにいるかを客観視する「内部状態の監査」——これらは「インスピレーションを待つ」という受動的姿勢を、良い偶然が起きやすい状態を能動的に維持する管理者へと変える。
 しかし、ここには説明しきれないものが残る。
 表現における目標は、制作を開始する前には完全な形で存在しない。そして感性のフェーズと分析のフェーズは、「制作中は感性、制作後に分析」というように截然と分離できるものでもない。既存のプロセス管理は、この二点において沈黙する。

二 射撃モデル:観測射・修正射・効力射の同時並行

 この沈黙を埋めるのが、砲兵射撃の三段階モデルである。
 表現は非線形システムであるが、非線形系を実戦的に扱う技術はすでに存在する。その一つが砲兵射撃である。砲兵は不確実な環境の中で、観測と修正を繰り返しながら着弾精度を高める技術体系を発達させてきた。
 観測射とは、着弾点を確認するための試射だ。表現においては、最初の下書き、粗削りな一行、捨てることを前提とした素描がこれに当たる。目的は命中ではなく、現在の「系の誤差」を可視化することにある。
 修正射とは、観測によって得られた誤差情報を基に諸元を修正する段階だ。改稿、言葉の差し替え、構造の組み直し。これは論理的な作業だが、その論理は感性から切り離されてはいない——むしろ、感性の精度を上げるための補正計算である。
 効力射とは、修正後の諸元で放つ本射である。しかしここで重要なのは、効力射の最中においても観測は止まらないという点だ。撃ちながら見る。感性が爆発している最中にも、内部の観測系は走り続けている。これが「制作中は感性、制作後に分析」という二相分離モデルとの決定的な差異である。

目標座標の逆説

 砲兵には明確な目標座標が存在する。しかし表現における「目標」は、射撃を開始する前には完全な形では存在しない。撃ちながら初めて目標の輪郭が浮かび上がり、着弾して初めて「自分がどこを狙っていたか」が判明することがある。

 これが表現の非線形性の核心である。目標が事後的に定まるシステムにおいて、観測射の役割は「目標への誘導」ではなく「目標の発見」へと変質する。品質基準そのものが、制作プロセスの中で動的に生成されるのだ。

 高度な射撃においては、射手と観測者が分離することがある。自己観測には構造的な死角が生じるからだ。表現においても同様で、「時間を置いた自分」が外部観測者として機能するとき、内部観測だけでは到達できない修正が可能になる。時間的分離が空間的分離と機能的に等価である。よって改稿という行為は、単なる完成度の向上ではない。観測者を交代させながら諸元を更新し続ける、動的な射撃サイクルである。

三 感性と論理の共生

 射撃モデルが示すように、感性と論理は対立しない。感性は爆発の燃料であり、論理は射角の計算である。
 表現における品質管理の真髄は、欠点の排除ではなく、感性を最大限に発揮させるための「器(インフラ)」の設計にある。「分析」というメスを入れることで、曖昧な違和感は改善可能な変数の調整へと変換される。そしてその調整は次の射撃の初期条件を整え、より精度の高い爆発を準備する。

結:戦略的技術としての品質管理

 表現活動における品質管理とは、感性を殺すための規律ではない。複雑怪奇な非線形システムとしての「自分自身」を飼い慣らし、その潜在能力を社会や時代という外部系へと、より高く、より鋭く接続するための高度な戦略的技術である。
 観測射によって誤差を知り、修正射によって諸元を更新し、効力射によって世界へ着弾する。その一連のサイクルを意識的に設計し、持続的に稼働させること——それが、表現者にとっての「品質管理」の実像である。

※本稿の論的骨子は筆者によるものだが、構成および言語化の過程でAIとの対話を活用した。

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批評・論考

雑記Ⅰ

生きることにあまり意味を持たせたくないことに変わりはないが、いつまでも無味無臭な存在で居続けられるとは、さすがに白髪の増えてくるこの歳になると思えなくなる。そのままの君でいいのはせいぜい25歳辺りまでで、内外の代謝は想像以上の冷酷さで行われるので、若さに縋るようにそのままでいいはずがないなどと、駅からの帰り道やアルコールの回った夜分、ベッドに入り意識の途切れるまでの数分間で考えてしまったりする。

だんだん面倒くさくなる。現象に、思想に、いちいち独自性を伴った名前を、言葉を付けようとするのが。そういう、ドラマを求めようとするのにも飽きがくる。飽きなくとも、草臥れてくる。思考のフィルター無しに、我が儘に明け透けと振り翳せる性格でもない。無理矢理社会に放り出されて数年もすれば、板についてくる生活とか、負うべき責任とか、親のこと、後継のこと、なにより体力。多方向からじわじわと、生々しく、迫り来るように直面するあれこれ。

何処ぞの馬の骨のきれいごとは、ますます響かなくなってしまった。しかし本質とか、含蓄とか、そういう深みを求めているかといえばそういうわけでもなく、それっぽい雰囲気さえあれば、あとは見せ方だけ。見せ方だけなのか。霧のようにつかめないのに、なにかに纏わりつかれるように日々を暮らしていると、若い頃に求めていたそれらも重苦しくなってくる。

あらゆる物事を人がやらなくてよくなる時代が近づいている。そうなったとして、今感じている霧は晴れるのか。纏わりついていたものから解放されるのか。春夏秋冬を静かに感じながら、穏やかに死ねるのか。また、まっすぐに本質を追い求められる日がくるのか。否、きっとそうはならない。このままの私では。

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忍耐

ここが誰の家だろうと知ったことではないのに
表札に書いてある名前がやたらと憎たらしく
居場所という居場所が鬱陶しい
留守番電話から
歯に衣着せぬ焦燥がリビングを駆け巡り
団欒はまた剥離する
もとより
食事は嫌いだった。
ただ与えられる
物質も
知識も
暮らしとは遠くて、凍える
寝たら死ぬぞ
そう言われているような。
精神は
掛け布団を頭までかぶって家族が寝静まるのを
待つ
ひいては
ドアの施錠音が何度もフラッシュバックした
いつもすぐそこを流れる運河に苦しめられた
街を無垢にしていく静寂も
裏を返せば不実に思えた
害悪だから
そう思う資格などないのに
迫り来る
もっともらしい朝から
逃げるようにベッドを飛び出しても
水色のプレパラートに微生物の蠢く視界
橋の向こうの穢土で曝け出される
コールタールにまみれた理解
どこをどうすれば
よかったのだろう
そんな疑問が浮かんでは汚れて
苛立った言葉たちの
舞踏の中で衰弱して
明瞭になる
耐え忍んではならない、その先ー

5時のチャイムが鳴ったから遊ぶ約束をした
使い古された挨拶に
アドレナリンをペーストして
あなた、という
諸行無常を迎える
その、がらんどうの瞳に映る私
見せていいこころはもう何もない
煩悩はコップの中で、かろうじて溢れ出てこない
衝動はコップの中で、かろうじて溢れ出てこない
愛情はコップの中で、かろうじて溢れ出てこない

表面張力に感謝です

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11号の魔法

ストッキングが張り付いて
思い出したように足がむずむずした

スーツの角ばった肩のライン
まっさらでパリっと白いシャツ
ちゃんとした服を着れば ちゃんと見えるもんだなあ
前髪をしきりに整える 猫背が自然としゃんとする

母は私をくるくる回しては
離れて見てを繰り返す
更衣室の鏡もしぱしぱ瞬きをして
私の影で暗くなったり光ったり

痛んだ髪と覚えたてのメイク
取り外しできるシャツのリボン
変身ではないけれど
纏ったささやかな魔法

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せ、きせつ

まっくらにならないことに、
驚いてたちどまる

日の出まえの 薄青が
窓のそとに貼りついていた

深夜 東京は氷点下

圧倒的な静かであって
畏けるほど つめたいにもかかわらず

ぬるま湯のような 最初の冬だ。

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鈍行列車

六駅さきから はるばる
運ばれてきた 錠剤

これがねこなら
不穏な思いやりであるところ
錠剤であれば 安心

くっきりと白いカラー
りっぱな見ため

たぶん もう
誰かの おくすりに なることもない

旅が訪れるだろう

手をふるよ 錠剤
楽しんで 錠剤

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ある日の君の

沈む



白い水蒸気の中



永く続く



深緑は繁る



赤い実は爆ぜる



瑞々しい身体伸びやかに



未熟なまま踊る

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25時

帰りたい


どこに?


まだ遊んでいたい


今も


大好きだよ と呟いて


チャコールグレーのフードの中で

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あなたのかたまり

 丸の内駅のホームで、あなたを見かけたとき、BOSEのヘッドホンから聞こえていた音楽より、脈がバクバク鳴る音のほうがはるかに大きくて、動けなくなった。

 まるで、両方の靴が触れている地面から、たった今足が二本生えたかのように震えて、動くことができなくなった。

 生まれた場所を好む両足は、(気温の低く、暗い湿気た場所を好む植物が、沖縄の暖かく乾いた気候では上手く育てないのと同じことだと言い張るように、)頑として動かない。

 ヘッドホンはエンドレスでフジコ・ヘミングが演奏する『革命』を流し続けていて、その重苦しさに気が狂いそうになって、右手でヘッドホンを耳からずらした。


 丸の内駅にいる人々は皆、足早にオフィスや行くべき場所へ向かうのだから、ぐすぐず立ち尽くしているわたしを迷惑そうに見て、でも首や目線を進行方向へ向け直したときには、行く先で待っている仕事等のことを考えるのに忙しくて、ホームで立ち尽くすわたしを忘れてしまえる。

 でもわたしにはできない。一日を100のかたまりに分けたなら、(まずあなたはこのたとえを笑うだろうが、)わたしはそのうち15個のかたまりに該当するじかん、ぼうっとあなたのことを思い出している。

 思い出してはうち消して、15個のかたまりが18になる日も、9の日もたしかにあるけれど、でもわたしはあなたを記憶している。忘れることなく、日々記憶し続けている。


 生きていると、忘れることができることの例とその数にびっくりすることはあっても、本当に忘れられないことなんて一つもない。

 二十一のときには、忘れられない女のひとがいた、わたしはそのひとのことをたくさん書いた。詩にした、散文にした、たくさんの、わたしの(書いた)彼女がまだインターネット上にはいる。

 わたしにとって、忘れるとは、書いて、書いて、全部を物語にして泣くことだった。セラピーなんかにもならないくらい落ち込んでぐるぐると、虎がバターになるくらいぐるぐるぐるぐるおなじところを回って、つかれ果てて倒れて、でもわたしはやめなかった。

 ずいぶんとすり減らし、たくさんの傷をつくって、手脚は何かをつくったり歩くためではなく、転げおちるためにだけ大きく広がって、わたしのからだを傷だらけにした。


 あなたのかたまりも、15から、9になり、9から20になり、20から、5に、3にと減っていくことはわかっている。だって昨日の晩は思い出さなかった。


 耳から外れたヘッドホンから、遠く、革命が聞こえる気がして、耳を澄ます。
 足を引きずり、息も絶え絶えに為される革命が、わたしを忘却へ駆り立てるために、丸の内駅のホームにうっすらとながれている。

 あなたはとっくにどこかへいってしまった。


 わたしはバクバクする心臓がやっと落ち着いたことに気づいて、ヘッドホンを首から外してユニクロのバッグにしまう。忘れるためには、生きるしかないと、あたりまえのことが、丸の内駅のホーム、放送で流れる。

(忘れるためには、生きるしかないので、)

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平和イデオロギー

ある日、僕が目覚めると、頭半分の脳が溶けていた。
ぼくは、なんちゃない。戦争で人が死ぬよりいいっぺやと思った。

次の日、銭湯に行った時、鏡の前で今度は、右半分の顔が消えていた。僕は、やばいと慌てふためいたが、一緒に銭湯に入ったおじいちゃんは、戦争で人が死ぬよりよっぽどマシだべ~と言った。

夜、夢の中でお姫様の格好をして急坂をカボチャの馬車で転がり落ちる夢を見たが、そこでも小人たちが、戦争で人が死ぬよりよっぽどいいブー、と歌い踊った。

次の日、運動会の日に走ろうとすると、消えた右半分の顔が元に戻っていた。僕はやった~と思ったが、左目の位置がヘソの右下の位置に変わっていた。騎馬戦で、僕の裸を見た人は驚いていたが、それでも戦争で人が死ぬよりよっぽどいいビ~と笑った。

大人になり、ガッコの教師になった私は、ネクタイをして、ガッコに行く。子供のまま大人になった私は、ブーブー病が治らず、どこでもブーブー。生徒の前でもブーブー。
それでも小生のケツは、戦争で人が死ぬよりよっぽどいいボー、と私に訴えかけた。

同僚と結婚して子供も出来たが、その子供の額には、第三の目が出来ていて、ギョッとした。
僕は不気味に思ってその子を育てたが、或日、その子がハイハイをしながら、こう言った。
「戦争で人が死ぬよりよっぽどいいバァ~」
おしまい。

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在る振動

ひとつ、揺れる ボールは、トモダチ

ふたつ、揺れる アデランス

みっつ、揺れる 在る振動に、なっちゃうよ

トーキックは、爪先蹴り

南米の熱気
 
太陽の、畝り

麦畑を走る、若者たち

歴史に名を残した、その微弱な影響力

ひとつ、揺らす ボールは、トモダチなのだろうか?

ふたつ、揺らす さいざんす

みっつ、揺らす 振り子が揺れて、物質と物質が混ざり合う その、同一化と均一化が誘う、混沌の世界

ひとつ、歪み

ふたつ、曲がり

みっつ、くねり

球体と球体が 固体と固体が 液状と液状が

糊で貼り付けされ

何事も無かったかのように過ぎ去っていく

緩慢なる日々

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[せ]背広の詩

ただいま と くたびれた顔
お勤めご苦労様でした
くたびれたバッグ
くたびれたコート
くたびれた背広
 のポッケと 縫い目
 の 間 の 穴

揺らす カシャカシャって鳴る あれこれ
伸ばして その深淵へ 伸ばして
ガサゴソと掬ってみたらさ

クリップ ボタン ピンクのライター
紙くず ティッシュの外装
様様な硬貨
1円玉 十円玉 五十円玉 百円玉
数枚

まるで宝探しね
見えないものも触れればちゃんとそこにある
触れられない部分なんて年月で隠し通せるわけない
始めから嘘は下手でしたね

明日、あなたの新しい背広を買いに行きましょう
次はくたびれぬことのないクラシカルなもので
穴だらけの衣服はもういらない
タバコと香水の染み付いた衣服はもう匂わない

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終わりのない旅の始まりに

 終わりを願っていた――。

 希望に満ち溢れた明日を夢見ていたのはいつだったのか。思い出せやしない。
 深く溜息を吐いて、彷徨っていた。

 金曜の夜だ。町を歩く人間の多くが気忙しく、しかしどこか楽しそうにしているのは、週末の予定を脳内でシミュレーションしているためか、一週間の労働を終えたつかの間の喜びを噛み締めているのか……。なんにせよ、自分には関係のない話だった。

 あてなどなかった。
 帰りたい場所もなかった。
 だから、ただひたすらに彷徨っていた。

 大通りから一本中に入れば、雑居ビルや小さな飲み屋の立ち並ぶ路地。赤提灯の店からは楽しげに笑う誰かの声がする。

 世界が違う。

 喧騒の中にいながら、自分の周りだけは静寂に包まれている。そんな気分だ。
 足早に通り過ぎると、先へと進む。進むにつれ、人通りが減ってゆく。ああそうだ、それでいい。無機質な建造物は古びて冷たい。その冷たさこそが、今の自分が求めているものに違いないと確認する。

「……ん?」
 少し先に、ぽっかりと見える灯り。雑居ビルの隙間にあるショーウインドウから漏れ出る光。こんな場所に、一体何の店があるというのか。少しずつ近付くと、その正体が明らかになる。
「画廊……?」
 通りに面したガラス張りの向こう側、何枚もの絵が飾られているのが見えた。

 こんな場所に画廊があるのもおかしな話だったし、こんな時間にまだ店が開いていることにも違和感を覚える。それとも単に作業中か何かで明かりが点いているだけなのか。しかし、店の前には「OPEN」の札が掛かっていた。
「開いてるのか……」
 思わずひとりごちる。

 すると、店の奥から一人の若い男がひょいと顔を出した。目が合ってしまい、咄嗟に目を逸らし軽く頭を下げた。頭を下げたのがまずかったのか、男は店のドアを開け、
「どうぞ、まだ入れますよ」
 とにこやかに話し掛けてきたのだ。
「あ、いや、私は……」
 一目見れば客じゃないことくらいわかりそうなものだ。くたびれたシャツにジーンズ。履き古したスニーカーに、バックパックといういでたちなのだから。
 片や若い男は、スラックスにワイシャツ、ベストを着て、シャツは腕まくりしておりノーネクタイ。やはり時間外なのではないか? 画廊の店主にしては崩しすぎている。髪も長めで、綺麗にカラーリングしたアッシュグリーン。営業スマイルにしては人懐こすぎる顔で、
「大丈夫です。どうぞ」
 と言う。
「何がどう大丈夫なのか」そう、口を突いてしまいそうな自分にストップをかける。こんなところで喧嘩腰になってどうするというのか。相手は赤の他人なのだ。

 促されるまま、中へと足を進めてしまった。ただ、魔が差したのだ。
「ごゆっくりどうぞ」
 中に入れるだけ入れると、男はまた奥へと引っ込んでしまう。煩く付きまとわれ、セールストークを聞かされるわけではないのだと、少しホッとする。
 このまま黙って出て行くこともできる。が、サッと見渡しただけでも色とりどり、美しい絵の世界が目の前に並んでいた。少しくらいなら、見てもいいだろうという気持ちになっていた。

 まず飛び込んできたのは、広い草原に立つ一本の木。その木には少女が乗るブランコが揺れている。夏の絵なのだろうか。明るい日差しの下、ワンピースを着た少女は楽しそうに笑っていた。タイトルは、「いちこ」とある。きっとこの少女の名だろう。

 その隣に掛けてある絵は風景画だ。どこかの山の光景だろうか。うまく描けてはいるが、だからどうということもない。タイトルは「あの山」となっていて、どの山なのかはわからなかった。

 画廊というのは、色々な作者の絵を置くのだろうか。絵のタッチやイメージもすべて違っているようだ。前衛美術というのか? わけのわからない赤や青の線で出来ている絵などもある。

「全然わからんな」
 そもそも絵に詳しくはない。それどころか、自分はこんな風に画廊で絵を見るような人間ではない。芸術には無縁だったし、興味を持ったこともない。
 改めて、なぜこんなところにいるのかと考え、頭を振る。

「……っ!」

 店の奥、一枚の絵が目に飛び込んでくる。
 柱の陰に隠れて、外からは見えなかったその絵に、目を奪われる。

「……これは、綺麗だな」
 思わず口から漏れ出る言葉。絵の良し悪しなど分からない自分でも、この絵は素晴らしいものだと確信が持てるような、美しい絵画。

 タイトルは「青い少女」となっている。制服姿の少女がこちらを向いている。物憂げな表情は、何を訴えているのか? 蝶が舞うその向こうには大きな時計の文字盤。手にしたナイフとフォーク。目の前の皿には花びら。最初に思ったのは、吸血鬼。赤い花びらを前にしている、人ならざる者のような美しさを見てそう感じたのだ。

「なにを……」
 思わず苦笑する。
 少女の絵に心奪われている自分が急におかしくなってきた。いい年をして、吸血鬼だなどという発想も急に恥ずかしく思えた。ガキじゃあるまいし。

 軽く頭を振り、青い少女に背を向ける。このまま黙って出て行けばいい。そう思っていたのだが。

「楽しんでいただけてますか?」
 店の奥から若い男が顔を出す。
「あ、ええ、まぁ」
 ハッキリしない自分も悪いのだ。ここに用はないと、出て行けばいいだけのことなのに。

「どれも素敵な絵ばかりなんですよ。訳ありですけどね」
 わざとらしく含みのある言い方をする男に、思わず片方の眉を上げる。
「ほら、そこの絵」
 男が指したのは、老夫婦が縁側に並んで将棋を打っている絵だ。春の花に囲まれた庭先で仲睦まじい様子が描かれている。タイトルは「対局の行方」となっている。
「温かみのあるいい絵ですよね。だけど本当は大変だったんです」
「……大変だった?」
「ええ、奥様が先に末期癌になってしまったんですがね、ご主人は健康だったもので」
「……は?」

 何を言っているのかわからなかった。夫が残されてしまうことが大変だったという意味だろうか? 確かに男寡《おとこやもめ》は生活が荒れると聞いたことはあったが、それがこの絵とどう関係するのかわからない。

「奥様はご主人と一緒に、というのを最後まで拒んでまして。でもご主人は絶対に一緒がいい、と。仲が良かったんですね」
 まったくもってなんのことかわからない。首を傾げて見せるが、見事に無視される。

「あ、その隣のこれ、いちこちゃん可愛いでしょ!」
「……はぁ」
 さっきのブランコの女の子の絵だ。確かに可愛いが……?
「いちこちゃんは、事故に遭ってしまって、後遺症が酷かったんです。ご両親は最後まで反対してましたが、いちこちゃん本人の希望が強かったのでね」
 だから、なんなんだ?

「なんの話です?」
 わけがわからないので、正直にそう言ってみる。きっとそう言わせようと思っているのだ。策略に嵌るようで気分が悪いが、好奇心が先だ。自分の中にまだ知りたいと思う「欲」があることに驚く。

「ああ、説明が遅れました。ここに描かれている人物はすべて、"生きていた人間"なのですよ」
「は?」
 何を言っているのか。
 そりゃ、モデルがいるのだから、皆生きていた人間だろう。

「おっと、失敬。この説明ではわかりませんよね。この絵に描かれているのは生きた人間、描かれているのではなく、絵の中に『いる』と言えばいいのでしょうか?」
「はぁぁ?」
 思わず声が大きくなる。この男、どこかおかしいのだろうか? それとも自分が馬鹿にされているのか。怪談というには幼稚で、笑い話にはユーモアがなさすぎる。

「信じませんよね。でもあなたはここに来た。それは"資格がある"ということだ」
「資格?」
「ええ、そうです。望むなら、の話ですが」

 男が何を言わんとしているのか。
 つまり、お前も絵の中に入るか? と聞いている……ように思えるのだが。

「いや……」
 何を言えばいいのかわからず、目を泳がせる。泳がせた先に映る絵に描かれた人間の姿。これがすべて、生きた人間だと……いや、「だった」という話? そんなバカな。では現実世界にいた彼らはどうなるのだ? 神隠しのように消えてなくなるのか? それとも魂だけが抜き取られ、死ぬのか? もしそうなら……

「死ぬのか?」
 訊ねてしまう。

 男は驚いたように目を見開くが、すぐにまたひとのいい笑顔を作ると
「死というものの定義が、魂と肉体の消滅だというなら、死ぬわけではありませんね。どちらかというと、逆ですから」
「逆?」
「これは永遠の命だ」
 にこりと口の端を上げる。
「絵の中で、生き続ける……のかな、と」
 最後は曖昧だ。

「……意識はあるのか?」
 我ながら馬鹿げた質問だ。何を聞いているのか。絵の中に入るという話を信じるのか?
「意識……ですか。私は入ったことがないのでわかりませんが、多分ないでしょうね。……いや、もしかしたら絵の中にはあるのかな?」
 人差し指を顎にあて、可愛く天を見上げてみせる。

「せっかくですから、一つずつ説明しましょうか」
 何故か楽しそうに、くるりと背を向け店に掲げてある絵を端から指し示し、そこに書かれている人間の「生前の話」を始める男。少しうんざりしながらも、その話に耳を傾ける。大半は病気や怪我、寿命が迫ってきたことをキッカケにここを訪れ、絵の中に入っていったようだ。そして次に、あの、青い少女――。

「彼女は……」
 男の声のトーンが、変わる。
「彼女は、少し違う」
「違う?」
「ええ。彼女は、自らここを訪れました。でもそれはそうするしかなかったから……」
「というと?」
「自らを、売ったのですよ」
 目を伏せ、呟くようにそう言った。

「……売った?」
「ええ。美しい子でしたからね。その存在そのものに、価値があった」
 過去に思いを馳せるように、その絵を見つめる。
「どうしても金を用意しなければいけない状況にあった。だから、その身を売ったんです」
「……絵に入ることで金になるのか?」
 なんだかおかしな話だ。それは命を売り渡すという話なのだろうか?
「ああ、それは時と場合によります。あの時は、彼女の絵を買いたいという人物がいましてね。破格の値を付けた。生身の人間は年を取りますが、絵は年を取りません。永遠に美しいまま、手元に置いておけるでしょう? 彼女の絵は、ある富豪が望んでいたものだったんです」
「……その富豪は、初めからその少女を狙っていたということか?」
「そうですねぇ、うちに来た時にはすでに話は決まっていたように思います」
 改めて、青い少女を見る。

 物憂げな表情。一体どんな気持ちでいたのだろう。……いや、"いるのだろう"なのか?

 ここで一つ、疑問が沸き起こる。
「富豪に買われた絵が、何故ここに?」
「ああ、最近その方が亡くなられましてね。ご遺族から買い取ってほしいと言われたものですから」
 出戻った、ということらしい。

「……彼女をここから出すことはできないのか?」
 こんな若さで、その身を犠牲にして……そう考えるとつい同情してしまう。もう役目を終えたのなら、戻ることは叶わないのだろうか。
「彼女が生きた世界はここにはもうない。彼女の家族はもういないし、今、戻ったとしても……」
「……そうか」

 確かにそれはつらいだろう。自分の大切だった人が誰もいない世界。
 ……だが。

「彼女が願うなら、やり直すことはできるんじゃないのか?」
 自分の口からそんな言葉が出るのは驚きだった。
 何の希望もないと決めつけているこの世界に、どうして戻そうなどと思うのか。単なるエゴでしかない。若ければ何でもできるという安直な一般論を掲げているに過ぎない。

「それは、確かにそうですね。もしかしたら新しい自分を手に入れて、幸せに生きられるのかもしれませんから。でも、彼女が元の世界に戻るには、ある条件が整わなければいけない」
「条件? どんな?」
「代わりが必要になるんですよ」
 ふぅ、と小さく息を漏らし、男が言った。
「彼女と交代に、絵の中に入る誰かが必要だ」
「それは……」
 ゴクリ、と喉が鳴る。

 絵を見る。少女の目は……自分を見ているように感じられた。

「……もし彼女が出たいと願っていたら、出られるのか?」
「ええ、代わりがいれば」
「彼女は、天涯孤独の文無しか?」
「富豪がだいぶ積みましたからね。当面の生活くらいはうちで面倒を見られますけど……?」
 男が意味深な視線を向けてくる。
「……そうか」

 ならば、出るか?
 心の中で、話し掛ける。もちろん、彼女からの返事など、ない。
 だが。

「出たいと願っていなければ?」
「代わりの人間が絵から弾かれるだけです」
「そう、か……」

 迷いなど、なかった。こんなおかしな話を真に受け、自分が何をしようとしているのかは考えても意味がない。ただ、こうしたいと……自分でもよくわからない感情に心が動いただけだ。

 終わらせる。
 そうだ、終わらせるのだ。
 自分の、明日を。

 そして始めたいのだ。
 彼女の、明日を。

 気付けば、自然と手を伸ばしていた。額縁の中、青白く美しいその一枚の絵画に向け、手を……。
 
『いいの?』

 柔らかくも儚い、小さな声で問われる。
 
 ああ、いいとも。
 私の命をあげよう。もう、要らないものだから。
 
『ほんとうに、いいの?』
 
 いいんだ。
 終わらせる。そのために歩いていたのだから。
 だから、生きたいのなら……生きろ。
 こんな世界でも、光を見つけることが出来るかもしれない。
 
『ありがとう』

 その小さな呟きを合図に、絵に指先が触れる。

 ──たぷん。
 
 それはまるで、水面に入っていくかのような感覚。
 体に纏わりつく「なにか」は冷たくも温かくもなかったが、心地いいと……そう思った――。
 
 
 その画廊に飾られた新しい絵には、小さく微笑む髭面の男の姿があった。
 くたびれたシャツにジーンズ。履き古したスニーカーに、バックパックを背負っている。どこへ向かっているのか、あるいは、どこからか帰ってきたのか。
 晴れやかな顔で佇む男が描かれた絵のタイトルは……
 
「終わりのない旅の始まりに」





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小さな星の軌跡 幕間話 始まりの いっぽ(1年前の思い出)

裏通りの 初めての お店
その 棚の隅っこ
コットンだけの棚を そっと

薄い水色に
刺繍の星が五つ、六つ

その横で
菫が 小さく息づいてる
紫じゃなくて あわくて 優しい菫色
指でなぞると
糸の凹凸がくすぐったい

「これなら 誰も気づかない
でも わたしだけ 知ってる」

試着室の うちがわ
わたしの 小さな うちがわ
温かくなる うちがわ

星は静かに 瞬いて
菫は 微笑んでいた


袋の口には リボンの封が
やわらかな紙の音は
秘密の囁き

今日から
わたしのブラウスのしたに
小さな宇宙と花畑が
一緒に ひろがる

星は 鼓動と共に 震える
菫が 呼吸に合わせ 花弁を広げる

わたしが 初めて 選んだ
わたしは 初めて 知った

これが わたしの いっぽ
踏み出した 小さな その先で
ふわりと 風が 通り抜ける

少しだけ もちあがった スカートが
わたしの 始まり。

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無題

 春、
 かぎりなく夜に近い時間、
 家を出たとたん、

 わたし、チェーン店のかつやで出てくるお漬物のことを思い出した、

        、ありありと、
      、少し唾液が増えるくらい、

 なぜかつやのお漬物の匂いが、
 自宅のマンションの前の、
 気の利かない道路に、
 これほどに、立ち込めているのか、

 これはなんの植物の香りなのか、
 知りたいのです、

        (わたしが右手に持っている、
      2週ためたゴミ袋からする匂い、
           では、なさそうです、)
 
 いちにち寝て過ごしたので、
 あたまが痛くて、
 その分、そうぞうはふくらみます、

 吉本ばななの『キッチン』のような、

 あたたかいドラマがあって、
 誰かがだれかにカツ丼を届けたのでしょうか、

 その残り香に、
 わたしはひとり、
 唾液を増やしているのでしょうか、

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遺書

書けないんだろうとおもう
さいごのさいごには

それに最後くらい
一緒に連れていきます

いちばんすきなもの
わたしのことば
だから

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わたしだって

わたしだってかんたんにしにたいといいたい
わたしだってかんたんにもうやめたとにげたい

まっしろにもまっくろにもとうめいにも
なれやしないせかいときせつで
おすにおせないリセットぼたん

だれかのめせんとことばでガンジガラメ
ここから退避しようがたいしてかわらぬ対比

わたしだってわたしだってわたしだってわたしだってわたしだってわたしだってわたしだってわたしだってわたしだってわたしだってわたしだってわたしだってわたしだってわたしだってわたしだってわたしだってくちをついてでることばがこれだからすぐいわれるよね発達障害すぐつまづく段差ないはずの現実でよのなかしんぷるいずべすと難しくしてるのはあいまいみーまいん答えはでてるのにね

わたしだって毎日いいたいよ
いきていたくないつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいげんかいうごけない
いえるもんかできるもんかガンジガラメ


いつか ぱっと花火みたいに 散って
残像 すら よるのおそら


もういいかなっておもう
  ことばひとつが このせかいには
わたしひとりにはおもすぎたかるすぎたどうでもよすぎた わたしだってわたしだってわたしだって だれかみたいに







 思い切りしにたいといいたい
まいにちすりきれるくらい いいたい

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バイバイ・エンキドゥ

 今
 君が飛び立つ理由を僕は知らない
 君が微笑んでいる理由も僕は知らない
 なあ エンキドゥ
 この世でやるべき事は僕よりも多いはずだし
 この世で愛されているのも君の方だ
 
 生命のエネルギーに充ち満ちていた
 皮膚が白くなってゆき
 その代償に色の無い羽がはえ
 その羽をさすると一瞬だけ消えるのだが
 君はかえって淋しそうな顔になり
 また もとのように

 色の無い羽はやがて翼へと
 そして 広がり
       ゆらぎはじめた


    *******

 精神の世界の中で生きるからって
 それでかっこつけてんの

 あんたがそうしていたって
 こっちは目え皿にして
 耳の穴かっ穿じって
 末梢神経をつなぎあわせて
 あんなこともこんなことも
 嘘も本当もみんなひっくるめて
 吸い取ってやる

 そんでもっていつか
 精神の世界の中とやらに入り込む時には
 天才だなんて呼ばれているあんたにも
 ちょっとは教えてやるさ


    *******


 今
 君が飛び立つ理由を僕は知らない
 君が微笑んでいる理由も僕は知らない 

 バイバイ、エンキドゥ

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ハイツ104

ははは春ですか 
ははは 笑えてくる
母は春ですから 
今いえを空けていて
わたしはチキンラーメンをこうして作っているのです
 
ははは春ですね
扉でも窓でも なんでも開け放つ そんな季節ですか
どんな格好か どんな面持ちか
わたしは知らないです 
母は春ですから ははは
 
ははは春でしょう
冬の陣立てに ぼこんと穴が空きました
母は春ですから
栓を抜いたり詰めたりしておると思います
ははは
 
ははは春ですよ
冬の間 長く待たれたんですね 
けれども さっきも申しましたが
母は春ですから
今いえを空けております
 
扉に足を挟むのをやめてください
また今度にしていただけませんかね
ははは

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炎翼

紙は燃えることを欲していた
水に濡れることではなく

雫が落ちるたび
繊維は屈辱に震えた
染み込むとは すなわち侵されること
耐えるとは すなわち形骸であること

飛ぶために乾くのではない
燃えるために乾くのだ

鳶は醜い
その旋回は怠惰の円弧に過ぎない
鷲は傲慢だ
高みとはただの距離に過ぎない

されば 金の鵄を
太陽に向かって放て
翼が溶けるその瞬きにのみ
紙は絹になり
炎は羽搏きになる

皺だらけの和紙よ
お前は美しい
ただし 燃え尽きる覚悟においてのみ

机には何も残すな
灰すら残すな
飛翔とは そういうことだ

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霊威師のレンリ 旅語り「山の贄」・玖  (終)


 目を開ける。何も見えない。
 暗闇。
 陽の光があったはずの周りには何もなく、ひたすら果てしない闇が広がっている。
 音が響く。
 水滴が落ちる時のような、静かな音。
 周囲に何もないにも関わらず、その音は、周囲の何かにぶつかって反響しているかのように、多重的に響き合っている。

『ここは、なんだ?』

 目を開けた黒い狼が声を出す。しかし水滴の音とは違って全く反響することなく、むしろ闇の向こう側へと吸い込まれているようだった。

『誰か居ないのか? 誰か……』

 孤独。
 周囲にある音は反響しているのに、自分の発する声は何も影響を与えられないと言う実感が、あまりにも孤独を助長していた。
 そのままの状態で居ること、暫し。
 全ての音が水の滴る音の向こう側へと吸い込まれ続けていくことに身を委ね始めた時だった。

〈ぴちゃん……ぴちゃん……〉

 その音の向こう側に、何者かの足音が現れる。

『ここはミノリサマの、いや、人柱となった娘が味わった祠の暗闇の中とでも言っておこうか』

 すると突然、水滴の音を越えてくるようにして、足音の方から何者かの声が聞こえてきた。
 その声の調子から、それが若い女性であることは分かる。だが姿は見えない。

『何者だ? いや何者でも良い! 話を聞いてくれ!』

 黒い狼は、流石に孤独に耐えかねていたのか、大きな声でその推定女性に向けて話しかける。しかし。

『お前は、ただ自身の特性に合わせて生きてきただけかも知れないが、それが他者の領域を脅かしたならば、その報いは受けなければならない。それが人であれ、神であれ』

 その声は、狼の呼び掛けには一切応じずに、ただ淡々と、裁判官がその判決を言い渡す時のような口調で一方的に言葉を紡ぎ続けていく。
 そして。

『この暗闇における孤独が、その報いであると知るが良い。かつての娘の献身が末永く村に安寧をもたらすよう、昼も夜もない永久の暗闇の中で、お前への封印が無意味化するその時まで、文字通り、娘のための『山の贄』となるが良かろう。お前が、山犬の頭領や他のヌシ達を取り込んで、その栄養源としてきたように』

 そう言ったのを最後に、反響している音の中へと溶け込むようにして足音を鳴らし、声の主は気配を消してしまうのだった。

『一体、何を言って!? 待ってくれ! 俺を一人にしないでくれ!』

 何者かは、深い暗闇に向けて、さながら狼が吼えるように悲痛な叫びを上げる。

『おい! 待て! 待てよ! 待って……くれよ!』

 だが、もはや何もその声に応えることは無く。ただ果てしない暗闇と、全てを吸着するように滴る水音のみが、その場に残されたのだった。

 ──それから。

 祠での仕事を無事に終えたレンリは、事の顛末と今後のことを伝え、報酬を受け取るべく、村長の家に戻っていた。
 見れば、その手は手袋と包帯で、その顔は頭巾によって覆われて隠されており、片方の目元以外は見えないようになっていた。その目元も、瞳は相変わらず夕焼けと夜とが混ざり合ったような色が渦を巻いており、どうにも独特の雰囲気を漂わせていている。
 そんな彼女を、ケンゼが一人で出迎えた。
 ケンゼいわく。

「ガンキは部屋で転寝を。家内は見回り組の様子見に向かってますよ」

 と言うことだった
 そう言う事なら好都合と、レンリは早速報酬などの話し合いを始めることにした。
 性急ともとられそうなその提案に、ケンゼが目を丸くする。

「本当に、ここで受け渡しまで済ませて宜しいのですか? ガンキもレンリ殿を気にしていましたが……」
「ええ。これで良いのです。そのために、ここに荷物を纏めておいたのですから。それにガンキには、既に伝えたいことは伝えましたので」
「そうでしたか……。それはそれとして、顔など隠されて、一体どうされたのですか? 瞳や髪色でしたら、ここにそれを気にする者はいませんから、お気になさることも無いでしょうに」
「いえ。神格相手に霊威術を使用した後の術式の反動を受けている姿は、到底お見せできないので……」

 心配そうに声を掛けてきたケンゼに、レンリは目元だけで微笑みを表現して見せる。

「よく、分かりませんが……。怪我をしたとか、そう言う事ではないんですね?」
「ええ。“怪我は”ありません」
「そうですか。それならば良かったです。ガンキにもそう伝えておきましょう」
「はい。お願いします」
「ああ、そう言えば。ミノリサマや山の荒神は、結局どうなりましたか?」
「ミノリサマについては、全く問題なく。また荒神についても、事前に仕込んでおいた封印術と私の霊威術をもって、祠の中に縛り付けましたので。当分の間は悪事を働くことは無いでしょう」
「ああ……。有難う御座います。何とお礼を申し上げれば良いのやら」
「お気になさらず。ただ、山犬たちについては、しばらくはうろついている可能性がありますので、「山の贄」の儀式が終わるまでは、警戒を怠らないでくださいね」
「承知しました。何から何まで、有難う御座いました。では、これらの包みが、今回の報酬となります。お収め下さい」
「有難う御座います」

 ケンゼから差し出された包みを受け取ったレンリは、素早く中身を確かめていく。
 その際に、包みの一つからは、宝石類が軽く接触する音や硬貨同士がこすれ合う硬質な音が聞こえ、もう一つの包みからは、乾いた物同士が擦れ合うときの軽い音が聞こえた。
 その音を聞き、レンリは一つ頷く。

「確かに、受け取りました。では、私はもう、これで発ちます」
「もう少しゆっくりなさってからでも、と提案したいところですが」
「有難い申し出なのですが、私の今の状態では、長居は出来ませんので」
「……分かりました。お気を付けて。我らはいつでも歓迎しますので、是非またお越し下さればと思います」
「有難う御座います。その際には、また」

 そう言ってケンゼに一礼すると、とレンリは、荷物を手早く纏めて装備し、颯爽とした足取りでその場から去っていく。

「!?」

 その時、ケンゼは気付いた。
 振り向く際にちらりと見えた彼女の首元に、何やら薄っすらと文字のようなものが浮かんで、更には、小さな裂け目のような暗闇がそこに見えていることに。
 それだけで、今の彼女がとても普通の状態ではないように思われ、彼は思わず息を呑んでしまう。

「術の反動と言っておられたが、あれは一体? あれではまるで、自身の中に何か途轍もないものを宿していて、それを押し留めているようにも……」

 レンリの姿が見えなくなった後、ケンゼは一人呟く。

「霊威師とは、霊威を術として使う者たちとは聞いていましたが、あれではまるで、『霊威そのもの』ではないですか。なるほど、姿を隠したのはそう言うわけですか。霊威師自体の数が少ないというのも納得です」

 そして、そのように言葉を締め、どこか悲しそうに玄関口を見据え続けたのだった。

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イルミネーションとあなた 時間が止まるのが見えた

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『詩』春のはじまり

陽ざしが ゆらゆらと柔らかく
黒く 固い 大地を
やさしく 温めはじめる

冷えた 空気は
少し 驚いたように
ほのかに 色めき
うごきだす

梅の花の 小さなつぼみも
鳴くのが下手な うぐいすも
春という名のもと
すべてが ゆっくり
ひかりを 分かちあい
ゆるゆると 解けあう

「春が来た」という 言の葉に
「春は誰が呼ぶの?」と
無邪気に問う
幼子の手を握り

春は万物の
命の芽吹きのチカラが
呼ぶのだと
ひとりごちながら
ふたり歩く
春 まだ浅い さんぽみち
うららかな 春のはじまり

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問題です

【第一問】
ほしくてたまらないのに
手にはいるはずないから
あきらめるしかないもの
なーんだ?


【第二問】
ほしくてたまらないのに
ほしがってはいけなくて
夢の中にしか出てこないもの
なーんだ?

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音信

顔もないから
落書きみたいに
壁や柱に
刻んでみたり

忘れた後も
ふと目に付けば
また初めから
やり直せるとか

幻だったら
自由になるって
本当はずっと
信じてもいない

けれど待つのは
穏やかな唇
静止画のまま
貼り付けながら

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詩の鑑賞の三側面について

【解釈、作者の意図を知ること】
 およそ芸術作品というものは、人間が作ったから芸術なのである。どんなに美しくてもオーロラや朝日それ自体は芸術ではない。そこで、芸術は作者がたくらんだ意図にそって鑑賞しようとするのがよく、そうするのが鑑賞の端緒であろうと私は思う。
 ロールシャハテストの絵が「何に見えますか?」と、問われたとき、何らかの図に見えたとしてもそうは答えず、「こぼしたインクに見えます」と答えることもできると言えばできる。だがそれでは質問の言葉を、発話者の(通常想定される)意図とは離れた解釈をしているため、問答によって情報量が増していない。トートロジーであり問答が時間の無駄に帰す。説明するなら、質問の意図は「このこぼしたインクの染みのようなものは、あなたの知っている何を連想する・または何に見える形をしていると思いますか?」と訊いて回答させる意図であり、それはあらかじめ「インクの染みに見える」ことが前提されている。別の例でいうなら、全ての油彩画は油絵の具を乗せたキャンパスに見える。だが、いつまでそう思って見ていても仕方ないというのと同じことだ。
 そのように、芸術作品を鑑賞するとき最初から意図を無視すると、作品と鑑賞者の間にすれ違いが起きるので、結果的に作者、作品、鑑賞者の合計の情報量が増加しない。そんなことをしても得られるものは少ない。と、少なくとも端緒ではそう思われる。
 しかし作者の意図を考え始めた途端、直ちに、それが作者の意図であるかどうか証明できるのか、という問題が生じる。それは作者自身の表明(アーティストステートメント)やその他の発言、作者の語彙や傾向性の分析、作者への質問などにより一部は根拠づけられるが、それですら不完全だ。なぜなら人間は刻一刻変化し、その記憶も思考も一瞬後には消えたり書き換えられたりするので、作品を作成した瞬間の作者というものが、厳密に言えば虚構だからだ。他にも作者の意図の推定法は多々あるが、どれも作者の意図を証明するには至らず、それは基本的に不可能である。
 しかし証明は出来なくても、多かれ少なかれ妥当と主張できる推定は可能だ。その最初のステップは、作品を検討し、あるパーツとパーツとの関係を分析することによって行われるだろう。
 詩についていえば、ある語がどういう文でどの語順で使われたかによって、また、その語や文と他の語や文との関係によって、作者の意図が不完全にだが推定される。
 例えば同じ文が繰り返されているなら、そこにはリズムを生じさせたり、強調したり、同じ言葉の意味を段階的に深めたりする、何らかの意図があるのだろう。文が途中で改行されていれば、そこに生じた空白スペースには、挿入可能な他の語が省略されていたり、余白自体が何らかの図形を表していたり、と、何かしら意図があるのだろう。すべての個所から副詞や形容詞が除かれていたなら、既存の語では表現できないものを主題としていたり、言語的な解釈をできるだけ通さない即物的な描写が必要であったり、作中の事物が類別化されることへの拒否があったりするのだろう。その他の点でテキストを検討し、さらに有益であれば作者の自作言及など他のテキストも援用できる。
 そうした推定から、各箇所で相互矛盾せず、作品の主題や構成と適合する推定を選び、全体を一貫して読解するとき、それでも作者の意図どおりに読んだと証明は出来ないものの、自分なりに妥当な読み方をしたとは言えるだろう。
 その上で、おそらく疑問や謎が残るだろう。もし残るとすれば、それが作品の「オリジナリティ」と呼ばれるものであると思う。その部分は、作者の意図を推定することでは鑑賞できない。そこに出現したのは本物の他者であり、こちらの知覚と断絶してるし、想像を超えるからだ。

【鑑賞、作者の意図を無視すること】
 すでに述べたとおり、そもそも作者の意図というものは厳密には読者が作成した虚構だし、作者が錯乱状態にある場合、テキストが自動生成されたものである場合、作者が無意識的か意識的にか「偽の作者」である場合など、前項で述べた読解が瓦解するケースもある。瓦解しても問題はない。実際私は、作者の意図が推定できないか、推定する傍から瓦解する傑作の詩作品をいくつも知っている。
 それでも端緒においては読解しようする、すなわち読もうとする目線は必要で、それがない低品質な、あるいは無価値な批評に接したことが私にもある。たとえば、「長い」と、一言だけ述べる評者も実在し、私は出会ったことがある。別の事例で、女性のショーツをテーマにした作品を合評に提出したことがあるが、ショーツがテーマであるというだけで批評も感想も口にするのを拒否されたこともあった。批評では、そうしたことにならないよう、作者の意図を尊重してみることがまずは大事だと思うが、そのうえで、やはり作者の意図を無視して、作品と対峙することも同様に重要であると思う。作者の意図を無視して読まないと鑑賞できないが、そう読むと実に素晴らしい作品も多いからだ。
 例えば北園克衛の「単調な空間」は、なぜ助詞で改行されているのか? なぜ、と考えようともしないのであれば、あの作品の面白さには接近できないと私は思う。しかし、答えはあの作品を目にするたびに変わっていく。作者の意図を無視して、自分にとってこの改行はなぜこんなに響くのか、と驚嘆しないと鑑賞が始まらない。
 それほど極端でなくとも、読みとった作者の意図を無視して、自分にとってはあるフレーズが何を意味するかを読んでいくことは、むしろ日常的な所作であるし、有益でもあると思う。

【感動、作品に心うたれること】
 私の場合は、「すてきだな」と思うか思わないかの言明が、主旨や思考としては批評のほぼ全てであり、前に述べた二つの項目は、その説明又は過程に過ぎない。言葉数としてはそうならない場合の方が多いのだが。もちろん、すてきかどうかは表面の意味においてだけではないし、言葉の表面の意味ではその逆である場合もある。
 この側面では作品と作者を分離することは行われないし、読者と作品の分離も別に必須ではない。作品に用いられた言葉の意味すらも直接は関係ない。

【追記】
 詩の鑑賞について、私なりに三つの側面について語ったが、二三の追記を付す。
 まず解釈についてだが、どれほど精密に、どれほど膨大な可能性を考慮して作品を解釈しても、ある人が選んだ解釈が唯一の解釈であり、他に妥当な解釈ができない、という事は詩作品では起きる可能性がほとんどない。ごく普通の意味でもそうなのだが、加えて詩作品では句読点、改行個所、余白、各行の長さ、配置の形態など、音となる文字以外の要素も解釈の対象になるからだ。
 だが、ある解釈に対して、別の解釈の妥当性を主張することは可能な場合がある。たとえば「いぬ」と書かれた個所を、名詞の犬と解するか、動詞の活用形の「去ぬ」と解するかは、議論することが出来る場合がある。それでも作品全体を通じれば、同じ解釈に至ることはほぼない。

 作者の意図から離れて、作品を鑑賞する場合にも、当然ながら様々な鑑賞が存在しうる。これは説明の必要もないかもしれない。それは対象作品を素材化し、あらたに創造を行うことを伴うからだ。

 感動についても同様である。同じ感動はない。
 しかし感動については、ある作品がとくに面白くなかった場合に、他の人がその作品にいたく感動しているのを聞いたり見たりした瞬間、唐突に自分もその作品に心打たれてしまう場合があることを追記しておく。これは合評でも起きるが、私の経験では朗読会でもしばしば起きる。読むことは読み手の感動を言外に伝達するからである。

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批評・論考

学校ぎらい

薄暗い部屋で息継ぎするように
自分を塗りつぶす言葉を必要としたきみは
見えざるピンクの詩を書いていた
きらめく失血 幽体離脱のおまじない
生まれつき身体のない人の身体
逃れることなどできない
教育はときに所有に似て
不躾な視線に眺めまわされるという美徳で
秋の夜長の喘息発作で
甘く苦しい関心がきみを見ているのだ
帰りの会で男の子の名前を言うと
赤面するきみを
国語の時間当てられるたび
吃音するきみを
先生は可愛がってくれる
博物館の小鳥として死んでいる
病気の子どもの青白い頬へ
褪せた唇へ彼は手を伸ばし
逃す気などないくせに逃げておいでと言う
やがてきみは学校ぎらいになる
大人の男をきらいになる
生きのびるためにばかになる

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詩の生態学

読んでいる新聞までもちがう私が入れた
昇り龍のデジタルタトゥーや
夜の森のうねりや
小鳥から象 象から小鳥へと上下する身体や
宇宙の果てない裂け目に墜ちる時間が
指先の詩の卵 シラミの子
さびしさの缶詰を開けて
かれらを逃がしてやるとき
薹が立ったニンフェットの
無垢なままに邪悪なファンタジーが孵化する
香りの良い血反吐のようなものである

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