N o w   L o a d i n g

通知

ユーザー名

メッセージ

2021/01/01 12:00:00

通知の有効期限は3か月までです。

メールアドレス パスワード 共有パソコン等ではチェックを外してください パスワードを忘れた方はこちらから

投稿作品一覧

ただのビニール

黄昏れ時の街 人通りはまばら
黒いビニール片が のたうちまわる
まるで生き物みたいだ
風が命に似たものを与えた
残酷なことに思えてしまった
風がなければ あのビニールは
のたうち回らなくて済んだのに

 0

trending_up 2

 0

 1

共感のキャンディ

つばささんは
図画工作で
9つのキャンディを作りました。

さみしい かなしい つらい
 
たのしい うれしい わくわく

せつない いたい  たすけて

では

つばささんが
いま
口の中で転がしている
きもちが
何の味か
わかる人は
手を挙げて

 0

trending_up 3

 0

 0

Creative Writing Space KPI分析 ~アーカイブの月別履歴より~

■はじめに
私は普段、オンラインサービスのプランナー(企画)の仕事をしている。
プランナーの数あるタスクの一つにKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)の分析がある。オンラインの世界では、ユーザー行動がリアルタイムに数値で可視化される。アクティブユーザー数や売上など、サービスの業績が良好かどうかを判断するための数値が常に更新されるのだ。このKPIを毎日チェックして、施策の振り返りや内容の調整を行ったりするわけだ。

さて、Creative Writing Spaceには「アーカイブ」というページがある。
その中の「月別履歴」という項目には、月毎のサイトのKPIと言うべき指標(投稿数、閲覧数、コメント数、いいね数)が公開されている。
まず、これらが公開されているのは驚くべきことだ。運営者視点だと、こういった指標は普通隠したいものだ。 数値が悪化した際に場の過疎化が進んでいることがユーザーに伝わってしまうからだ。運営の真意までは分からないが、サービスの状態をユーザーに開示している点は、透明性の観点から言って称賛されるべきことだと思う。
そして同時に、これは「生きたデータが文芸の場で公開されている」という、極めて珍しい事例でもある。もちろん私のような人間には垂涎ものである。文芸×KPI。貴重なデータを見かけたらとりあえず分析せずにはいられない、職業病(誤用のほう)だろうか。



■本題
前置きが長くなってしまったが、今回はアーカイブページで確認できる数値を使って、直近のCWSのサービス状況や今後の予測を見てみようと思う。
普段作品を読んだり書いたりしている間は意識しづらいが、CWSという場も人がいなければ廃れてしまう。そんな「場」の健康状態をチェックしてみようという意図だ。

対象期間は2026年1月から4月。4月の数値については4/15 23:59頃の数値を参照し、これを2倍して4月の着地見込みとした。ちょうど月の半分なのでそこまで外れないはずだ。

※厳密な話をすると、あまり良い予測方法ではない。月末月初は通常とは異なるユーザー行動があると考えられるため(CWSで言えば、コイン消費なしの投稿権を消化するために月末月初の投稿が増える等)、精度高く予測するなら日毎の数値変化を参考にする必要がある。今回は日毎のデータが使用できないため、単純に2倍することで代用した。

※また、詳細は4月のアーカイブを見てもらえればと思うが、異常値と思われる閲覧数のついた作品がいくつかあるため、それらは事前に除外した上で数値を2倍している。

1月から4月までの各種指標を、新しいものから順番に並べてみる。
表計算ソフトではないので見づらいと思うが、仕様上やむを得ないのでお許しを。



■1月~4月各種指標
(スラッシュ区切りで左から投稿数 / 閲覧数 / コメント数 / いいね数 / コメント投稿比率 / コメント閲覧比率)

2026年4月(着地見込み)
392 / 37824 / 1546 / 1292 / 4.16 / 4.09%

2026年3月
457 / 43212 / 2188 / 1603 / 4.79 / 5.06%

2026年2月
332 / 26123 / 1535 / 1142 / 4.62 / 5.88%

2026年1月
305 / 22741 / 1202 / 792 / 3.94 / 5.29%



■考察
まず目を引くのが3月の各種指標の増加。閲覧数は前月比65%、その他も40%近くと大幅に増加している。
これは以前花緒さんが日記で仰られていた通り、ビーレビやココア共和国といった詩投稿サイトが消滅・休止したことで人が流れてきたのが最大要因と考えられる。
というか、まさに私がその一例である。1年半ほど詩作を休止していて、1月に入って再開しようとココア共和国に投稿し、3月号の発表を楽しみにしていたのに一向に発表がなく、何事かとXを見に行ったら「あれぇ……?」となった一人である。
ありがとうCWS。

3月の指標に関してもう一点述べておくと、コメント/投稿比率とコメント/閲覧比率が低下していないという点も特筆すべきである。
新規ユーザーにとって、他人の作品にコメントするのは結構ハードルが高い行為(はじめましての相手とコミュニケーションするの、気が引けがち)だが、人が増えたことに連動してコメント数も増加している。
文芸を通じた交流活動に意欲の高いユーザーが流入してきたと解釈してよいだろう。

4月は全体的に数値が下がる見込みだが、これを直ちに悲観する必要はない。
・オンラインサービスの一般論として、4月というのは人々の生活が大きく変化するタイミング(入学/卒業、異動、転勤等)なので、KPIが特殊な変動を見せることは決して珍しくない。「新社会人が仕事に忙殺されて作品を書く時間が取れなくなった」等の例を考えてみると想像しやすいかと思う。
・これまた一般論として、新規流入したユーザーは時間経過で徐々に離脱していく。3月は新規流入が多かったので、4月に下がるのは自然と言える。

また、投稿数やコメント数が減ってしまっている点を問題視する見方もあると思うが、私はどちらかと言えば「投稿数やコメント数の低下の割に、閲覧数が維持できているな」という所感だ。
正確なDAU(日毎のアクティブユーザー数)はアーカイブからは分からないが、おそらく人自体は残っているのではないだろうか。5月の数値を見てみないと何とも言えない部分だが。



■5月の見通し
2025年1月〜5月(昨年の同時期)の数値を参考にするのであれば、今年も5月は4月よりも各種数値が減少すると考えるのが妥当だろう。
ただし、昨年はCWSのリリース直後だったこと、今年はビーレビやココア経由の流入があった等、状況が全く異なるため過去の推移は正直あまりアテにならない。
ここからは私の直感になるが、3月に流入したユーザーが緩やかに離脱し、1月と2月の間くらいの水準に落ち着くのではないだろうかと思う。

---

長文になってしまったが、今回はアーカイブで公開されているデータを使ってKPI分析を行ってみた。
文芸サービス上で詩人のユーザー行動や特性について考える機会はおそらく世界中探してもここにしかないので、そういう意味で貴重な体験ができたと思う。

 0

trending_up 29

 4

 0

批評・論考

「DDoS攻撃による異常な閲覧数の増加疑惑」としてのクリエイティブ・ライティング

田伏正雄はもういない。
殺したのは私である。
私が田伏をアクセス禁止処分により伝説のしこたま詩人に変換したのだ。


始まりはとある通報であった。田伏正雄という常連投稿者が、伝説のしこたま詩人という新参ユーザーに嫌がらせをしているというのである。私は意外に感じた。なぜなら田伏は、その倫理観の捻じ曲がった投稿作品からサイコパス的性格を有する異常者と目されていたものの、投稿サイト内では貢献的な姿勢が一貫していたからである。地球の裏側で1万人が惨殺されようと、サイトにコメント投稿する方が大事、と公言して憚らない彼のスタンスは、人間としては大いに疑問を感じるものの、サイト運営者としては都合よく感じる部分も多分にあったのだ。


田伏の旺盛なコメントはかなりクセの強いものではあったが、それゆえにファンも多く、コメント欄の盛り上げに貢献してくれていた。何かといえば鼻毛が伸びすぎているという話題に無理に繋げ、笑いを喚起する彼の筆力には、私自身、一目置くところもあったのである。その田伏が、伝説のしこたま詩人と喧嘩になり、しこたま詩人を騙る裏アカウントを複数作成し、誹謗中傷に熱を上げているという。


正直なところ、私は対応をあえて遅滞させていた。田伏正雄のような異常性が明らかな人物と深く関わりたくなかったし、なにより場への貢献度の高いユーザーに対するアクセス禁止処分には慎重であるべきだというサイトポリシーもあったからである。


どちらかというと、伝説のしこたま詩人の方が私は気に入らなかった。あらゆる作品に、しこたま面白かったです、これは本当にしこたまですか?などと悪ふざけのようなコメントを行う。この種のユーザーは、容易に想像できると思うが、投稿作品の質は低い。しかし伝説のしこたま詩人から直々に、サイト内外で誹謗中傷行為を受けている、と通報があり、対応しないわけにもいかなくなった。


私はまず、田伏正雄にDMを送った。努めて穏当な文面にした。誰かと揉めているようだが心当たりはあるか、もしサポートできるなら遠慮なく教えて欲しい、というような内容である。田伏から間髪入れず返信が来た。文面は長く、一読しても意味が判然としなかった。二読しても判然としなかった。三読して、ようやく構造が見えてきた。


田伏は、伝説のしこたま詩人という存在そのものが、文芸投稿サイトに対する暴力であると主張していた。しこたまというワードを反復することによって詩的語彙を汚染し、コメント欄を形骸化し、真剣に言葉と向き合っている投稿者の意欲を削ぐ、その行為は文学に対するテロリズムであると。そのうえで田伏は、複数の裏アカウントを用いて誹謗中傷を行ったことを否定せず、むしろ正当防衛と居直っているように感じられた。


私はDMを読み終えて、少し考えた。田伏の言っていることは、ある意味では間違っていない。伝説のしこたま詩人のコメントは、確かに、何か大切なものを少しずつ削っている。私もそう感じていた。感じていたが、感じていることと、複数の裏アカウントで誹謗中傷を行うことのあいだには、やはり何か隔たりがある。その隔たりに名前をつけることを、田伏は拒んでいるように覚えた。


続いて伝説のしこたま詩人からも長いDMが届いた。こちらは読んで、すぐ意味がわかった。田伏が怖い、というのである。田伏がどこからでも現れる。田伏によって自分に似たアカウントが日々増殖し、揉め事が各所で発生し、それらが全て自分に帰責される。私はそのDMを読みながら、伝説のしこたま詩人もまた、田伏によって確実に傷ついているのだと理解することができた。同時に、伝説のしこたま詩人のコメントによって、田伏もまた何かが損なわれているのだと、田伏の長いDMが示していた。両者はそれぞれの仕方で、互いを正確に傷つけ合っているのである。


調査を進めると、裏アカウントの数は1万あった。ありとあらゆるSNSに「伝説のしこたま詩人」を騙るアカウントが存在する。合計1万である。これらは常に「しこたま」という語彙を使い、しこたま詩人を騙り、読めば読むほど、しこたま詩人という人間が倫理的にもとった異常なサイコパスであることが浮かび上がってくる。


日々、伝説のしこたま詩人を名乗るアカウントから相談が寄せられ、次第にどれが本物のしこたま詩人なのか、あるいは本物のしこたま詩人というものがそもそも存在しているのか、判然としなくなってきた。


そのような状況の中で、私はある確信に至った。田伏正雄は、伝説のしこたま詩人を消そうとしているのではない。むしろ増やそうとしているのだと。しこたま詩人を騙るアカウントが1万に達したとき、本物のしこたま詩人は1万分の1になる。1万分の1になったしこたま詩人を誰も見つけることはできない。田伏は誹謗中傷を行っているのではなく、希釈を行っているのではないか。これは文学に対するテロリズムというより、文学に対する新手のDDoS攻撃である。日々、伝説のしこたま詩人を名乗るアカウントから投稿があり、異常に多くの閲覧数が記録される。IPを確認すると、伝説のしこたま詩人が投稿し、1万に及ぶ伝説のしこたま詩人がそれを閲覧している。


私は田伏正雄のアクセス禁止処分を決めた。理由は明快である。複数アカウントによる組織的な誹謗中傷はサイトポリシーの明確な違反であり、その規模が1万に及ぶ以上、例外を設ける余地はない。ただ、決めながら私は、田伏正雄の行為の論理と、私がサイトポリシーとして掲げてきた論理のあいだに、ある種の相似を見ていた。場を守るために、場を乱す者を排除する。私がやってきたことと、田伏がやろうとしたことは、目的の水準では異なるが、手段の構造においては同じである。この相似を田伏は知っていたのかもしれないし、知らなかったのかもしれない。


処分の翌日、田伏から一通のメッセージが届いた。
文面は短かった。
「あなたも伝説のしこたま詩人ですか?」


私は返信を書こうとして、やめた。やめてから、もう一度書こうとして、またやめた。田伏の問いに答えるためには、まず私が伝説のしこたま詩人でないことを証明しなければならない。しかし私には、その証明の方法がわからなかった。私のサイトには毎日、誰かの作品に対して、これは本当にしこたまですか?というコメントが届く。私はそのコメントを削除したことが一度もない。削除する根拠が見当たらなかったからである。


世界には1万のしこたま詩人がいて、その殆どが本物のしこたま詩人ではないと考えられる。もし本物のしこたま詩人がいるとすれば、もうその者は伝説のしこたま詩人を名乗っていない可能性が高い。そうであるならば、しこたま詩人という名前ではない全てのアカウントに対して、これはしこたまですか?と聞くことには、一定の合理性があるということになる。


田伏正雄はもういない。しこたま詩人であれば、本当は田伏正雄ですか、と聞きたくなる。しこたま詩人でなければ、本当はしこたま詩人ですか、と聞きたくなる。田伏正雄を殺したのは私である。田伏の最後の問いだけが、まだここに残っている。それから、田伏ではない一般ユーザーからもDMが届くようになった。


あなたも伝説のしこたま詩人ですか?

 0

trending_up 82

 6

 1

#じんたま 8 fiction

深夜二時。国道沿いのコンビニ駐車場には、マットグレーにフルラッピングされた最新のテスラ・モデル3が、深海魚のように静かに潜んでいた。エンジン音のない車内は、巨大なセンターディスプレイの青白い光に満たされ、外界の湿った空気とは切り離された、無菌室のような静寂が保たれている。
助手席に座る男は、「AURALEE」のペールトーンのスウェットシャツに、光沢のあるナイロン素材のトラックパンツを合わせ、足元には手入れの行き届いたニューバランスの「990v6」が鎮座している。その洗練されたクリーンな装いは、令和の都市部で消費される典型的な「余裕」を体現していた。
対照的に、ハンドルを握る女は、「BALENCIAGA」のクロップド丈のフーディーを深く被り、ボトムスにはヴィンテージ加工が施されたワイドデニム。その手首には、最新のApple Watch Ultraが冷たく光り、通知のたびに彼女の肌を小さく震わせていた。
男がスマートフォンの画面をスワイプする手を止め、ワイヤレスチャージャーに置かれたデバイスを見つめた。
「ねえ、知ってる? 『#じんたま』っていう配信」
声を潜めて切り出した男に、女はワイヤレスイヤホンを片方外し、気だるそうに視線を向ける。
「たまにタイムラインに流れてくるけど、四時間とか平気で喋ってるやつでしょ。タイパ悪すぎて聴く気になんない」
「普通のはそうなんだけどさ。たまに、『バグってる回』があるんだよ」
男の語り口に、少しだけ重い湿り気が混じった。女は眉をひそめる。
「バグってるって何よ。放送事故?」
「いや、もっと作為的というか。噂じゃ、特定の回だけに『作家』がついてるって言われてるんだ。押井守がプロットを書いてるっていう噂まである。構成の密度が、単なる雑談の域を完全に超えている時があるんだよ。現実の解像度を少しずつ下げていくための、実験映像のシナリオみたいにさ」
女は思わず鼻で笑った。
「まさか。あんな巨匠が、個人配信にコミットする意味がないでしょ」
「ああ、表向きはね。ある界隈のインフルエンサーが囁いているのは、これが政府が進めている目標の一環だって説だよ」
男は周囲を気にするように声をさらに低くした。テスラの車内には、微かなファンの音だけが響いている。
「一見、無秩序な言葉の応酬に見えるけど、実はあれ、リスナーの『共感』や『拒絶』の生体反応をリアルタイムで収集して、集団的無意識の制御アルゴリズムを構築するためのテストベッドだっていうんだ。だから、異常なまでの長尺なんだよ。人間の集中力が完全に切れて、意識的な防衛が剥き出しの無意識へと溶け出す瞬間を検知するためにね」
女の指が止まった。高精度のエアコンが効いた車内の空気が、急に肌寒く感じられる。
「……じゃあ、あの三人は何なの? 役者だって言うの?」
「分からない。ある回では、メインキャストの三人が、最初から最後まで『四人目』がいる前提で会話を進めた。つつみさんがその『誰か』の話にお茶を濁して、三浦さんがその男の過去を詰め、クヮン・アイ・ユウ氏が絶妙なタイミングで意見を求める。リスナーには、その四人目の声は一切聞こえないし、チャット欄も凍りついているのに、三人の間では完璧に整合性が処理されている。あれは観測者の脳に『不在』を刷り込む、心理ハッキングだったんじゃないかって言われてる」
女の目が、フロントガラス越しに、LEDの街灯が白く照らす無機質な駐車場を見つめた。
「もっと怖いのは、三役を演じ分けていたとされる回だ。後で有志が音声を解析したら、三人の声の波形や呼吸の同期率が、同一人物のものだと示された。一人の人間が、四時間一度も綻びを見せずに、三つの実存を完全に使い分けた。それは感情生成と実写エージェントの混合テストだった可能性が高いんだ」
男はシリコン製のストローで、アイスラテの残りを啜った。空気が混じる音が、密閉された車内に不協和音として響く。
「彼らはそれを『ナラティブ』と呼んで、僕らの現実感を少しずつアップデートしていく。気づいた時には、僕らの思考自体が、彼らの設計した……なんてね」
女は自分のiPhoneを手に取った。ハッシュタグ「#じんたま」を検索しようとして、わずかに指が震える。
「今夜も、やってるのかな」
「さあね。でも、もし聴くなら気をつけろよ。君が聴いているその声が、本当にその人の喉から出ているものか。あるいは、君のニューラルネットワークを書き換えるためのノイズか。それを証明する手段は、もう残ってないかもしれないんだから」
テスラのディスプレイがふとスリープに入り、車内は完全な闇に包まれた。暗い窓の外では、街灯が一つ、不規則なリズムで点滅を繰り返していた。それはまるで、虚空に打ち込まれた楔が、今にも抜け落ちようとしている合図のようだった。

※この物語はフィクションです。登場する人物、団体、名称、および配信内容はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。また、特定の陰謀論や社会実験を示唆するものでもありません。

 0

trending_up 13

 1

 0

ディア

雨がしきりに降るようになって
しきりにわたしもくしゃみをする
こんな日は先のことばかり考えて
ひとり寂しくなってしまう
誰かずっと隣にいてくれたらいいのに

不幸なままでいいよ     わたし幸せだよ
優しくなくたって
ちゃんと君のこと一度も
わかったことなんてなかったけれど
それでもきっと君は
笑ってゆるしてくれるのでしょう


自分だけわかればいいって
なかなか思えなかったんだ
雨が止んで     わたしは嘘癖の咳をしながら
不安そうにあたりを見回してたんだ

たとえば君と一緒にいれば
どんなに苦しくてもやっていけるけど
気楽にいたいんだ    優しくなくたって
この世に悪いことなんてひとつもないんだから
ああ親愛なる
わたしは君をなんて思えばいい?

 0

trending_up 4

 0

 0

春の外出


各駅停車はねむりごえ
ちょっと淋しい夏の匂い
のする六月
みたいな四月


走ったり 跳んだりしなくても
歩道橋をのぼれば
ごく自然に空へ踏み入ることができる
青の鳥居だから


機嫌よく歩こう


なくした免許は腰掛けて
行儀よく旅を続け
錠剤とゆきあう
 ——丘陵地帯には
   紅いろのサツキがあり
   ひとびとは花を食べたそうだよ
   見物しようか とね


まあたらしい免許は
ちゃいろな小瓶につめられ
ちゃぷん
春の日に光る
局員はまんぞくしてうなずいた
さあ我々がおどりますから
道なりにゆけば
空へ入れます——


思い出はさかのぼって失うことができる
そのため
局員が盆踊りをおどっているあいだは
ロータリーはまるい


どんどん歩こう
好きになろうと努力した
夏みたいな春を
この春の
これっぽっちの幸福を


各駅停車はねむりごえ
生が終わってくれるなら

各駅停車はねむりごえ
ここらで死んでなるものか


乗車が始まった
乗車は 乗るまえから始まっていた

 50

trending_up 18

 1

 1

連作『セノーテ』より



鏡より鏡に似たり白梟

https://i.postimg.cc/0jDcpPyT/20260418-204638.jpg

(買ったのは句ができた後でした)

 0

trending_up 11

 0

 1

書いてみた

書いてみたくなった
書いてみた
投稿してみた
読んだ人がいた
また書いてみよう


―風が温もり
 眩しくなった―

 70

trending_up 235

 13

 18

ネクライム

一定の間隔で
切り分けられた
青みがかつた夏服達は
まだ明け透けな朝の中を
淡い期待に胸を膨らませながら
自転車で駆け抜けてゆく

(わたしのネクラな出立ちを見るや)

あなたの
日灼けして
突つ張つた口許が
こう動く

き、も、ち、わ、る、い、

metal tape 巻き戻されて
臙脂の体操服のまんま
勃起したまんま    
皮かぶつたまんま
雑木林の中を転がり落ちる

(わたしのcrimeは丸分かりだつた)

あなたの
糜爛だらけの
驢馬のやうな口許が
こう動く

き、も、ち、わ、る、い、

穢れを秘めた夏服達は
あなたに紛れて校門をくぐる

https://i.imgur.com/QK3Fu5J.jpg

 0

trending_up 133

 6

 4

目に見えない重さの比較

球児の涙と逆行するラムネの泡

 100

trending_up 73

 6

 6

坂道

自転車を漕ぐ。
目の前には上り坂。
通学路にあるこの結構急で地味に長い上り坂を見るだけで憂鬱になる。
ペダルが重くなって、その分足に力を込める。
なかなかに厄介だ。

厄介と言えば、学校から出される課題もだ。
一体どれだけ出せば気が済むのだろうか。
そんなことを考えて更に嫌な気持ちになり、ため息をつく。
辛い辛い上り坂がようやく平坦になった。

一日が始まり、そして学校が終わる。
毎度の如く課題を出されてバッグの中には大量の教科書類が詰まっている。
先生は「努力した分だけ報われるんです」なんて言うが、本当にそうなのだろうか。
ただプレッシャーが物理的な重みに変わり背中にのしかかるだけだ。
そんなバッグを背負いながら私は坂を下っていた。
下り坂は好きだ。
何もしなくてもとっても速くなるから。
速くなるたび強くなる風が頬を撫でる。

厄介だった上り坂が、こんなにも気持ちのいい下り坂へと姿を変える。
そのとき何故か先生の言葉が鮮明に蘇った。

でも、努力した分しか報われない。
この坂道がそう言っている。

そのとき、再び先生の言葉が蘇った。

「道はたくさんあります。どう選ぶかは、皆さんにしか選択できません」

 100

trending_up 28

 3

 2

[な]なんでもない

なんでもない    朝から
なんにもない    手のひらで 
なにもできない   日常だ
なにかになりたい  遠方
なんでもない    日差し
なにげない     カフェテラスで
なにものでもない  君

「なに?」
「なんでもない」
「なんなの?」
「なんでもないってば」

なにものでもない  私
なにげない     カフェテラスで
なんでもない    夕なぎ
なにかになりたい  目前
なにもできない   非情だ
なんにもない    手を振って
なんでもない    夜へと

なんでもあってほしかった から
なんでもいってほしかった 我儘
なんでもないなんてさ   嘘ついた
なんでもないくらい    側にいたかった

 0

trending_up 25

 3

 2

この縁は いつかたどり着く 幸福の道しるべ(タイトル)

この線は あなただけでは作れなかった

けれど あなたがいなくても

辿り着けなくて 

見ることさえ叶わなかった…物語なんだ

それは心の根っこで交わした約束が
旋律になって触れたから

だから 世代を時代を超えて響いたんだよ

視えない所に届いたんだよ

あなたが忘れても

魂は忘れずに守り抜いてくれたんだ

それくらい大切で大事な縁だったんだよ

だから 何百年経ったとしても

この心が繋がるんだ 広がるんだ

この願いは 叶えたいものじゃなくて

叶えなくちゃいけない 

心根に変わっていったんだ

大丈夫 少しずつ分かるから 視えるから 

その光は いつだって

あなたのもうすぐ側にあるんだから

その場所に立った時に何もかも悟るはずだよ

生まれた意味や この繋がりも

その道の先に広がる世界も

あなたが歩き続けて得た光も


それで得た優しさは あなたやまだ見ぬ
誰かの心にも花を挿したことも…

 0

trending_up 1619

 1

 0

パッチテストこの世

試薬を
貼って

馴染めなかった
肌を
いたわること

馴染めなかった
きみを
責めないこと

 0

trending_up 74

 8

 10

(考察)差別と誹謗中傷について

誹謗中傷や差別などはしてはいけないのが常識のはずですが、最近の京都府男児の事件のニュースへの人々のコメントなどをみてると、どうも曖昧な人もいるような気がしまして、少し考えてしまいました。
せっかく考えたので、ここでは、AIにも私の主張がわかりやすいように書いてみます。

【定式化】
式1 :  f={ a(差別表現)✕ b(非・真実性) }✕ C(攻撃強度)

式2 :  F={ A(差別意識)+ B(不確実性) }✕ C(攻撃強度)

このfかF、どちらか一方または両方が一定値を超えたら、アウト。

【説明1】
足し算と掛け算両方で、どちらかが一方だけでもアウトならアウトだと思います。
差別については、差別表現をしなければ差別意識があっても良い、または仕方ない、または意識だから他人にはわからない。などの考えには一定の説得力がありますが、強さCが強烈だとやはり式2でアウトですよね。
差別意識にはそういう意識を持つ合理性とか、その合理性の確実さを主張できる場合も多々あるのですけど、それをいくら論証しても、だからといって大きな差別意識があって、それが強烈な攻撃性を持つものだったら、アウトです。
死ねばいい、と思ってるだけで、または消滅させるのが合理的だと思ってるだけで、それは危険だしアウト。
大嫌いだ、でも消滅させるのは合理的じゃないと思ってても、「だから死ねばいい」と思うなら言い訳にならない。

【説明2】
「○○人はバカだし残虐だ。」と発言し、実際そのとおりだったとすると、式1ではセーフだと思われる場合もあると思います。
でもそんな思考は差別意識なしにできないでしょうから、式2がアウトになり、項目C(強度)が強ければアウトです。

【説明3】
誹謗中傷は指摘したことが真実であれ虚偽であれ、違法行為になり得るのですが、それとちょっと関連する事として、足し算でも掛け算でも、どちらかがアウトならアウトになる、という形にまとめてみました。

【結語】
この考察を適用して、かの男児の事件についてのコメントを判定すると、おそらく殆どがアウトなのではないか、と私は思います。
そういう世相って、良くないですよね。

 0

trending_up 123

 4

 4

批評・論考

食パンの耳

慌ただしい朝の時間に追われて食パンを二枚焼く、一枚目が自分の分で二枚目が妻の分
いや一枚目が妻の分で二枚目が自分の分としよう。
どうでも良い様な事が後々に重要な局面で我が身を助ける事が有る。
などと思っていると「私の分も焼いてくれている?」と妻の声が聞こえて来た。
「もちろん焼いているよ」と妻に返事をしてから、
「急いでいるなら、先に焼けた方を食べる?」と自然な流れで言葉が口から出ていた。
食パンが焼ける間にインスタントコーヒーをあるべき姿へと戻そうと湯を沸かしマグカップを用意した。
「あなたには、コーヒーをあるべき姿に戻せないでしょ」
妻が言うには、私にはインスタントコーヒーを豆に戻す力は無いと教えたいようだ
「そぉかな~僕なりにコーヒーを満足させる姿へと戻す自信が有るのだけれどな~」
私は、インスタントコーヒーのあるべき姿はマグカップで揺れる姿だと教えたかった。
妻が最初に焼けた一枚にマーガリンを塗りながら、もう一枚を私の皿へと乗せてくれた。
キツネ色に斑焼けた食パンが痺れを切らせた様に皿へと運ばれ、
その気遣いに何の言葉も返さずにバターを塗る時間をも惜しむかの様に口へと運んだ
慌ただしい朝の時間の裂け目にバターも塗らずに食べられ消えゆく食パンが
妄想の中で色々な可能性をプレゼンしてくる。
まずはハムエッグがのせられドラマのワンシーンの様な朝食風景が浮かびサラダが無い事で色褪せる。
続いてバターとジャムの背徳感の重ね塗り、せめて飲み物は健康との帳尻を合わせる為に牛乳を提案されるが
牛乳は匂いが鼻に届いたところで体が拒否反応を起こして却下される。
平日をぎゅっと圧宿し休日の朝に持って出かけるサンドイッチ、もはや弁当ではないかの疑問の中で
パンの耳が手際よく切り落とされてゆくが、現実ではパンの耳が喉に閊えて噎せる原因に
咳き込む主には、お構いなしに妄想で切り落とされたパンの耳は袋詰めにされて店で売られていている。
その一袋を握りしめている子供の情景が浮かんだところで「時間は大丈夫なの?」の妻の声
ハッと打ち切られた妄想の狭間で台所の時計を見ながら最後の一口をコーヒーで流し込む。
玄関へと向かう背後から「ゴミ捨てお願いね!」の言葉、
それに継ぐ念押しの言葉を遮る様にゴミ袋を掴む前に妻の方へ掌を向けて手を上げる。
偽善にも成らなかった妄想の食パンの耳に背中を押されて、ゴミ袋と使い古されたカバンを持って
食パンの耳を切り落とす生活、食パンの耳を求める生活、食パンの耳をコーヒーで流し込んだ朝に
今、日常の糧となった食パンの耳を心で追いながら
明日の食パンを妻からの催促なしで買って帰ろうと心に決めて仕事場へと向かう。

 0

trending_up 54

 8

 5

夏の再会、冬の距離①|夏の再会ー彼女

待ち合わせの駅は混んでいた。
改札を抜けると、人の流れの向こうに彼が立っているのが見えた。
柱の横でスマホを見ている。
久しぶりに見る横顔は、記憶とほとんど変わっていなかった。
名前を呼ぼうか迷っているうちに、そのまま距離が近づいた。
気配に気づいたのか、彼が顔を上げる。

「久しぶり」

照れた顔で、それだけ言った。
私も笑って答えた。

「久しぶり」

半年ぶりに会って、そのまま箱根へ出かけた。
助手席に座ると距離が近くて、少し落ち着かない。信号で止まるたびに、何か話す。仕事のこと、途中で見えた店のこと、どうでもいい話ばかりだった。
笑って、少し黙る。その繰り返し。
特別なことは何もないのに、楽しかった。

景色のいい場所で、彼が車を停めた。箱根も東京と変わらず暑くて、日差しが強かった。彼はスマホで景色を撮っていた。私はそのまま眺めていた。

「いい景色だね」

彼が言った。

帰る前の夜に、少しだけ真面目な話になった。
このまま友達でいるのか、もう一度やり直すのか。

彼は、やり直したいと言った。

少し考えてから、条件をひとつだけ出した。
言葉じゃなくて、形で見せてほしい、と言った。

彼は少し間をおいてから、わかった、と言った。

帰り道は静かだった。
外はもう暗くなっていた。

窓の外を見ていると、

「眠い?」

と聞かれた。

「少し」

目を閉じたけれど、起きていた。

家に帰って、しばらくしてからLINEが来た。

楽しかった、と書いてあった。
嬉しかった、とも書いてあった。

そのあとに続いていた。
まだ仮だと思っていること。
ちゃんと約束できるようになるまで待ってほしいこと。

同じ文章を、もう一度読んだ。

スマホを伏せても、しばらくその意味がひっかかっていた。

布団に入って、天井を見た。

帰る前の夜のことを思い出した。

彼との時間は楽しかった。
でも、まだ先のことは何も決まっていなかった。

#連作
#恋愛

 0

trending_up 22

 2

 2

アシタハ


目が覚めたら
n回目の日曜

ファンファーレは
二度目までで

その次からは
完全二度の不協和音

鳥は
関係ない

山は
赤くない

窓は
鍵がない

明日は
きっと

 0

trending_up 21

 1

 1

#じんたま 7 three-body probl

4月17日。クヮン・アイ•ユウ氏のX(旧Twitter)から通知が届いた。
ツイキャスが始まろうとしている。私にはまだ片付けるべき用事が山積していたが、とりあえずスマートフォンを繋いだ。視聴時間の蓄積がコンティニューコインの不要化に繋がると知って以来、私はたとえ耳を傾けられずとも回線を維持することを自分に課している。それは、私がCWSに「じんたま」を投稿し続けるための、いわば生態系の維持に必要な儀式のようなものだ。
本来、雑談会は翌日――つまり今日、行われるはずだったという。急遽決まった配信。ユウ氏はまだ家庭内での役割分担を終えていないらしく、背後には「なんやねん」といった生活の軋みが微かに漂っていたが、彼は瞬く間に配信という名の坩堝(るつぼ)へと飲み込まれていった。
画面の向こうで、三浦氏は人と魔物の境界を自在に行き来していた。
その姿に、私は『魔界転生』の天草四郎を幻視する。時として、それは「だいぶやばい」領域にまで踏み込んでいるように見えた。
私、グリフィスとのやり取りにも積極的に触れてもらった。私は「読み物」としての強度を意識するあまり、時として前のめりな筆致になることがある。記憶を頼りに綴っているため、時系列が前後したり、ニュアンスを誇張したりすることもあるだろう。
しかし、二人はそれを「ナラティブ」として受け入れ、その良質な部分を丁寧に拾い上げてくれる。
ありがたいことだ。
やがてつつみさんが登場し、雑談会が熱を帯びる。彼女はCWSでの私の投稿に対して投げ銭を贈ってくれることもある。その厚意には、いつも深い感謝の念を抱いている。
週末という解放感も相まってか、三浦氏の内なる悪魔的要素はその権限を増しているように思えた。三者の間に、鋭い火花が散る場面さえあった。
私はといえば、細々とした用事をようやく終え、徐々に深く聴き入る体制を整えていた。
「じんたま」の連載を始めた当初、私は「三者それぞれの強すぎる個性が、必ずしも配信に資するかどうかは疑問だ」と記した。しかし、昨夜の放送は、結局丸々四時間に及んだ。時計の針は深夜二時を回っていた。
私もまた、中断を挟みながらも三時間は聴き続けていたはずだ。
一つのコンテンツで四時間。それはもはや、既存の「配信」という枠組みに収まるものなのだろうか。
それは一つの「旅路」と呼ぶにふさわしいものだった。私は三人に、どこか遠い場所へ連れ去られていた。名もなき場所への、ささやかな小旅行。私は彼らの言葉の渦を巡り続けていた。
配信が終わり、家族が寝静まった暗闇の中、クヮン・アン・ユウ氏のクールダウンを誘うような声が流れる。
その時、私の中で、ある記述が鮮烈に蘇った。
"They found balance amidst the chaotic dance."
"They asked: 'What if one body were a mere speck of dust?' 'What if they stood held at the points of a perfect triangle?'"
"Like a sudden calm in a tempest, these were the elegant 'special solutions.' Today’s Lagrange points—where telescopes keep their silent vigil—are the echoes of those wedges driven into the void to steady the chaos."
混沌としたダンスの中に、彼らは均衡を見出した。
一人の体が、ただの塵に過ぎないとしたら? もし彼らが、完璧な三角形の頂点に留まるとしたら?
嵐の中に訪れた不意の静寂。それはエレガントな「特殊解」だった。
望遠鏡が静かな監視を続ける今日のラグランジュ点。それは、混沌を鎮めるために虚空へと打ち込まれた、楔の残響なのだ。
正直なところ、その真意はまだよく分からない。
しかし、彼らが流す「じんたま」と、私の記す「じんたま」は、分かちがたく繋がっている。その確信だけが、暗闇の中で静かに呼吸をしていた。

 0

trending_up 46

 1

 0

亡霊

あなたまでだんだん薄れていくから
わずかな寂寥と共に
あなたを亡霊の世界に送り出す

見送るのはいつも私の方で
接点のない他人だけが、ますますくっきりして
私の内側の世界は沙漠になる

結んだ関係は解かれて薄れていって
私の中で砂の堆積物に変わっていくから
一陣の風が吹いたらおしまいの合図

薄れていく
崩れていく
だれもかも
亡霊になり

私の知らない世界で
今日もみんな笑っているのだろう

 100

trending_up 156

 7

 12

ビー玉越しの

ラムネ瓶から
取り出したビー玉
太陽にかざせば

祖国を見た


風鈴が泣いた

 0

trending_up 31

 1

 2

求めれば求めるほど ひらく距離

ほら 喉から手が出てる
惨めなのは どっち

 0

trending_up 48

 1

 3

漫画家志望の初老男

漫画家を目指して 30年
職場じゃ最年長 still part-time / no fame
昼メシ 卵焼き 冷めた弁当
腹へっても鳩に give / no gain

水道がついに止まる日常
うすっぺらな感覚 軽い異常
テレビは通常 でも部屋は異様
息の根 止まりそうな low tension / slow

週刊誌 めくるその指先
初老の男 無言のまま立ち
去年の日付 色あせた文字
なのに初見の話ばかり

知らない事件 知らない名前
読んだはずなのに 記憶がない
ページの奥に 残る気配
new or old? あいまいな境界
指名手配犯 似てるらしい
似てないらしい still close / maybe

写真の目が こちらを見る
見慣れてるはずの この顔
ページを閉じても 残る視線
消したはずなのに 消えない scene
逃げているのは どっちだろう
考えすぎて 笑ってしまう

似てる 似てる まだ似てる
閉じても 開いてる still 見てる
去年 今年 どっちでもいい
名前はどこにも 書いてないのに

うすっぺらな感覚 剥がれる感情
残るのは音と わずかな残像
初老の男 ページを閉じた
閉じたまま end / no reaction



この詩を歌詞にしてsunoで作曲した HIPHOP Verはこちら↓↓↓
https://youtube.com/shorts/_ureypuWYW4?si=ipZAnTRhW0D92UUH

 0

trending_up 136

 4

 4

リリパット・ファンタジー ーー 一人芝居用台本 ーー


リリパット・ファンタジー ―― 一人芝居用台本 ――

笛地静恵

【演出ノート】R18です。暴力や性的虐待の表現をふくみます。上演許可不要。改変自由。女声推奨。前半(Part 1_2)では、先輩の暴力的支配に怯える「被害者」としての震える声。しかし、Part 3以降では、立場が逆転します。大声で怒鳴るのではなく、慈しむような、あるいは幼児に話しかけるような「不気味な優しさ」や「恍惚感」を混ぜます。復讐の残酷さを際立たせてください。舞台上には、マットまたは、180×90の布(よれないよう四隅を固定)を用意。演者は、最後以外は、この上から出てはいけません。視線で一点を凝視することで、そこに先輩がいることを、観客へ印象づけます。効果音やBGMは、適宜、自由に挿入してください。第三次世界大戦への危機の日々に 二〇二六・四・十七 笛地静恵 

Part1

 信じられない。いつも大きくて強くて。暴君のような人だったのに。バスケット・ボール部の主将だった先輩が。
 ねえ、先輩。あなたには、何度も殴られましたよね。グローヴみたいな拳骨で。顔だけは、やめてって。泣いて頼んだのに。顔だけは、やめて……泣いてすがるあたしを、拳で黙らせられて。嫌な音と一緒に、口の中に鉄の味が広がった。あの時、あたしのこころで何かが砕ける音がした。目をはらして。転んだとか、ごまかすのが、たいへんでした。全身に赤痣と青痣が絶えませんでした。いつも、びくびくと暮らしていました。
 放課後、友達とパンケーキを食べに行く。そんな当たり前のことが、あたしには許されませんでした。家の門限も、先輩が決める。メールの返信が、五分遅れれば、次の日の部室で『教育的指導』という名目の拳骨にさらされました。ただ痛いだけじゃなかったんです。ただの暴力なら、いつかはからだが治してくれます。でも、先輩はあたしから、ことばまで奪いました。
 友だちとの何気ない会話の内容まで報告させられました。少しでも、先輩の気に入らない名前が出れば、その場でスマートフォンの連絡先を消させられました。あたしの世界から、一人、また一人と人が消えていきました。最後には先輩という巨大な暗黒の太陽だけが、あたしのこころを焼き尽くすためにいすわっていました。
 先輩が拳を振り上げるたびに、あたしのこころが、灰となって崩れていく音がしました。バスケの仲間と笑い合うあなたの広い背中を見ながら、部室の鏡を横目で見ていました。顔の腫れが引くのを、祈っていました。あたしの青春は、あなたの機嫌をうかがうためだけの、時間でした。

Part2

 もう死んでしまおうと思って、校舎の屋上に向かう階段の途中で、後輩君に呼び止められました。彼は、セーラ服の襟元からのぞく青痣に、きがついていました。何も聞かずに、手に小瓶を握らせてくれたんです。「あなたの世界のルールを、書き換えてください」一年の後輩君がくれたお薬は、原宿の外国人の占い師から、買わされたそう。
 「あなたの悩みを、すべて解決します」いかにも、あやしげ。笑い話ですけど、あたしには小さな赤い瓶が、神様からの贈り物に見えました。西日に透かした小さな瓶は、夕焼けを切り取って閉じこめたみたいに、深くて、冷たい赤い色でした。監獄の門を開けるための、たった一つの鍵かもしれない。震える手で握りしめていました。誰もいない放課後の屋上で、ようやく『助けて』って。言葉にできたんです。階段の踊り場で、二人で泣きました。
 後輩君の背中にも、先輩が投げつけたボールでできた痣がありました。部活のスターとして称賛される先輩の影で、あたしたちは同じ絶望を共有する、無名の何処と言って取り柄のないその他、大勢の生徒でしかなかったんです。薬は、復讐の道具というより、二人で生き直すための治療薬。あたしたちだけじゃなくて、暴君の先輩が踏みにじってきた、すべての人の復讐でもあるんです。

Part3

 旧体育館の地下倉庫。先輩の好きな場所でした。歴史と伝統のあるバスケット・ボール部の領土ですものね。何が起こっても、先生たちも、見て見ぬふり。何度も誘われました。抱かれました。
 あたしが熱を出していた日も、先輩は、無理やり旧体育館につれてきて、自分の欲求だけを満たして帰りました。「お前は俺の物だ」あの日の冷たい目は、今はもうないのでしょうか。ただ震えているだけの小さな虫。どちらが本当の先輩なんでしょう。
 築五十年。来春は、取り壊されます。耐震基準に満たないから。先輩との想い出の旧体育館が、消えてくれる。さっぱりとして。いい気持ちです。さようなら、あたしの地下の監獄。来春、この古い体育館が壊される時、あたしの心の中にいた巨大なあなたも、ようやく瓦礫とともに消えてくれる。その日まで、精一杯、あたしたちを愉しませてね。あたしの、可愛い、小さな、小さな……、元カレ君。
 二人のベッドになった足元の汚れたマットレス。この上だと、どこにいったのか。見えないぐらいですねえ。踏みつぶしちゃいそうです。小さな両のお手手を、ふり回してますね。何か叫んでいるようです。けど、何もきこえません。声が小さすぎます。先輩は、もう蟻一匹分ぐらいの、大きさしかないんです。そんなに真っ赤な顔をして、まだあたしを怒鳴りつけようとしているんですか? 小さな口の動きで、わかりますよ。
 『殺してやる』
 『女のくせに生意気だ』
 そう言ってるんですね? 小さくなっても、先輩のこころは、傲慢な裸の王様のまま。容赦しなくていいって。ようやく確信が持てました。

Part4

 こうして足の指先で挟んで、持ち上げることもできます。今日、体育の授業があったから、汗をかきました。少し臭いですか。ごめんなさい。意外に頑丈なんですね。固いです。足の指先で、無造作に摘まんでも、潰れません。砂粒みたいな感触です。これならば、いろいろと遊べそうです。あら、そんなに震えて。先輩の大きな身体を、あんなに恐れていたのに。今じゃ、あたしの足の親指の爪が、あなたにとっては絶望的な高さの壁。……ふふ、もっと逃げて。必死な足掻きが、何よりも甘い蜜の味になるから。
 あたしも、ブルマを脱ぎます。後輩君のズボンとパンツもおろして。あはは、逃げている。どこへ行くつもりですか。どこまで行っても、マットの上ですよ。指先で摘まんで、持ち上げて。後輩君の、ペニスの上に乗っけて。先輩は、あたしの浮気を疑ってましたけど、ほんとうに、誰とも、何もなかったんですよ。勝手に嫉妬して。怒り狂って。暴力までふるって。ばかみたい。
 でも、今日は、本当に、新しい彼氏を紹介します。じゃ~ん。ぜひ、そこで自己紹介をしてください。スキンシップから始めましょ。先輩、男の子も、好きみたいじゃないですか。バスケット・ボール部の美形の後輩に、せまったんでしょ。あたし、知ってるんですよ。
 後輩君に、マットの上で膝立ての姿勢に、なってもらって、あたしが、四つん這いの態勢になると、口の高さに、ちょうど、性器が来る。キスしようっと。後輩君、愛してるよ。救いの手を差し伸べてくれ。ありがとう。感謝してるよ。びくん。跳ね上がってる。元気だねえ。あはは、必死で、しがみついてる。三年生の先輩が、一年の後輩君のおちんちんに跨っている。気分は、どうですか。そこは、とっても高いのかしら。ええと、ちょっと待って。あたし、暗算は苦手。三十センチでも、百倍だから。0.3メートル×100。三十メートル。ちょっとした、ビルの屋上ぐらいですね。勃起した後輩君のこれも、同じぐらいの長さがあるから。ビル一個分ぐらいは、あるんですよね。円筒形だから、ロケットの胴体の上みたいな感じかしら。これから、本格的な発射体制に入りますけど。
 驚天動地の大地震に見舞われているようなもの。でも、動かないと、つまらないなあ。爪先でつぶしちゃうぞお。後輩君の陰毛の森の迷宮も楽しいけど、先端に向かって逃げなさい。さもないと、あたしの爪で、胴体を真っ二つにしちゃうぞ。うふふ。亀頭に登っている。一年生の先走り液で、尿道口に張り付いちゃったのね。身をふりほどくことも、できない。からだを自由にできない。先輩、弱っちい。もう、これからは、あたしたちのおもちゃです。そのつもりで、いるのよ。

Part5

 いつも、あたしに咥えさせるのが、好きだったわよね。顎が痛かった。吐きそうになっても、やめてくれなかった。休み時間にも、飲まされた。水道でうがいして、精液の臭いをごまかすのが、たいへんだった。大好きなふぇらちおを、今の大好きな彼氏にする光景を、そこからじっくりと見物してね。後輩のペニスの上。特等席です。楽しんでください。あなたのために、用意したんだから。しがみついている。落ちないように。こんなにも、おしゃぶりを好きにしたのは、先輩なのよ、エッチな臭いを嗅いでいるだけで、よだれが出て来る。あたしのお口で、暴れているし。もっと激しくいくわよ。
 あわわ。危ない。先輩を唾といっしょに、飲みこむところだった。気をつけなくちゃ。胃液で消化しちゃう。まだ、簡単に終わらせるつもりはないから。それは、もっと後の愉しみ。これは単なる仕返しじゃありません。あなたが踏みにじり、自分の物だと言い張ったからだを、自分の手に取り戻すための儀式なんです。あなたが小さくなった今、ようやくこの肌も、この呼吸も、あたしだけのものになったと感じられます。
 先輩が、あんなにも好きだった場所。毎日、求めて来た。痛いから、やめて。いやだといっても、やめてくれなかった。もう二度と、生きては、出てこられないかもしれない。あたしのあそこ。この世で見られる、最後の景色かもしれない。満足でしょ。先輩からは、どんなふうに見えるのかしら。黒い毛が、もじゃもじゃと生えた、巨大な龍のお口みたいなもの。まあ、同じようなものかなあ。怪獣なのかもしれない。これから、生きたままのあなたを、飲みこんでしまうんですもの。よだれも垂れ流しているでしょ。
 先輩が、あそこの毛を剃るのを許さなかったから。陰毛も縦横無尽に繁茂しているし。腋毛も剃らせてくれなかった。夏場は、半袖の白いブラウスも着られなくて、たいへんだった。そんなところまで、あたしを自分の物にして、支配したかったのね。
 
 さあ、おいでなさい。後輩君。待たせてごめんね。遠慮しないで、奥まで入ってきて。先輩もいっしょに裂け目に押しこんで。ああ、いいわ。大きい。太い。亀頭で、無理矢理に押し広げられる感覚が、好き。いつも、自分勝手に、やって。ひとりで、行ってしまった。あたしは、ひとり、取り残されて。さびしかった。後輩君は、やさしい。あたしのいうとおりに、してくれる。動いて。押しこんで。そのまま、きて。もっと奥まで。ああ、ついて。ついて。もっとついて。めちゃくちゃにして。ああ、あああん。先輩が、あたしの中に入っている。動いている。苦しいの。もがいている。こりこりと。Gスポットが感じている。生きた人間を、あそこに入れている。なんて背徳感。興奮する。あなたに汚され、奪われ続けた肌。ようやくあたしの意志で熱く脈打っている。先輩。あなたを飲みこんでいるこの身体は、もうあなたの所有物じゃない。あたしが、あたしを愛し直すための、神聖な宮殿なの。

Part6

 後輩君も、あなたに憧れてバスケット・ボールに入部したんだよ。それなのに、理不尽なしごきで、心を折られた。そんなひとりだった。私たちは、あなたという巨大な影に怯える犠牲者だった。でも、旧体育館のマットの上で、笑っているのはあたしたち。あなたの暴力が届かない場所。ようやく自由に呼吸できる。うれしい。
 あなたは、あたしが捨て去る過去の一部にすぎない。さようなら、あたしを閉じこめていた小さな王国の暴君さん。あたしと後輩君の人生は、今日から始まる。濡れている。ああ、こんなのはじめて。あたしの愛液に、おぼれて。

Part7

 ……ああ、お久しぶり。あたし、失神していたかも。あまりにも、よかったから。またせたかしら。あたしの足の間の、汚れたマットレスの上。生きていたのね。膣の中で、ペニスにつぶされなかった。たいしたもんだわ。さすがに、体力だけはあるみたい。ねばねばの白い液体の中から、二本の足で立ち上がっている。歩いてる。かわいい。一年生の精液と、あたしのラブ・ジュースの海に浸かった気分は、どうかしら。口や鼻に入ったかな。飲んでもいる。ブレンドの味は、おいしかったでしょ。よかったわあ。先輩との、どんな一夜よりも、感じた。しばらく、雲の上を漂っていた。エクスタシー。ほんとに、ひさしぶり。さあ、第二回戦を、はじめましょ。校門が閉まるまでは、まだ少し間があるから。旧体育館なんて、今日みたいに、バスケット・ボール部の練習が休みの日は、誰も来ない場所だし。

Part8

 いいわよ。あなたにも、お勧めする。今は、ブラの谷間に、入れてるけど、パンティの中という日もある。使い方は、自由自在。一度、試してごらんなさい。お薬も、特別期間限定セールで、安く手に入るよ。これから、後輩君と、原宿でデートなの。もしあなたが、大きすぎる絶望に悩んでいるなら、いつでも言ってちょうだいね。赤い小瓶、まだ少しだけ、残ってる。使ってみたいでしょ。それじゃ、行ってきまあす。(了)


 0

trending_up 25

 3

 1

夜明け前をあるく

とおくで
金属がひとつ 軋んだ気がした


Vベルトの背伸びか バルブの寝返りか
夜の工場は ときどき夢を見る

ピトー管が息を吹くと
鉄心コイルが脈を打つ

メインプラントの片隅で
七二時間の試作運転

眼鏡レンチを二本
ハンマーを一本
手にしただけで
空気の密度が すこし変わる

記録計のペンは
管理範囲にいる
ただチャート紙は
一瞬だけ かすかな揺れを残していた

配管を叩けば
キン キン と 夜の骨が鳴り
一か所だけ
ごちり と 鈍い返事が返る


ーー十七番閉塞

私の声はインカムに乗り
次の停止時間の予定へと
静かに書き換わる

ハンマーを片手に
夜明けの匂いを吸いこみながら
音と においと 振動を
もう一度 確かめにゆく

メインプラントから
今日のボトムブローが始まった
朝焼けに真っ白の蒸気が立ちあがり
古い木戸がぴりぴりと震える

何も起きなかった八時間が
次の八時間へ
そっと手渡されるように わたしはあるく。

 50

trending_up 105

 7

 4

言葉のいのち

想いに気づいた
瞬間に

心が生まれる

言葉のなかに

溢れる生命

癒やされて

光となって
放たれていく

 50

trending_up 37

 5

 2

箱入り

 このままふくれ続けたらきっと指がちぎれるから、切ろう。
 わたしは告げ、かの女の錆びた指輪へ鉈を振りおろしたが、折れたのは刃だった。思えばこれも、きのうたたき割った夫の脳髄で錆びている。刻みこまれた誓いのぶんだけ指輪に分があったのだろう、はみ出しかける脳の片隅でわたしは思考する。折れた刃は飛びすさり、わたしの眉間を貫いて、脳漿の漏れに栓をしている。
 長雨を飲み、かの女はふくれている。絹のようだった肌理が、渇いた綿より欲深くひらいて雨季を貪る。飢えていた腕がなん倍にも太る。きのう焼かれた顔の焦げ目が、腐りゆく水に白々しく薄れながらどこまでも広がる。粥に似ながら煮くずれることを知らない、若さが、左手のちぎれそうな薬指にだけ血を焚いて、食いこむ指輪に誓われた名前と同じいろに錆びる。

 かの女はかつて、わたしの娘だった。
 女衒に売ったのが九日前、思いがけず帰ってきた。性病に肌を食い破られ、ごみ溜めに捨てられたので、這い出してきたと娘は言った。死なないと埋めてもらえないの、と娘は言い終えた。
 八日前、夫が木箱に娘を転がし裏庭へ投げたのはそのためだ。雨季に蓋され長雨に漬けられ、きのうまで、娘の肌は溺れながら若い皮脂を吹きあげて、あらゆる水気をはじき飛ばしていた。わたしが塩水で炊いた粥も、その例に漏れない。
 七日間、娘の転がる箱で粥を食ったのは蟻だけだったが、わたしの薄い塩味に飽きたらずきのう、蟻どもの群れが美味な脂を掘ろうと、娘の耳に口に臍に、膣にもぐりはじめたので、穢された箱へ夫が油を撒き火を放ち、泣いた、まだ清かった刃の火照る影で。

 その膣を掘ったのが翅をもつ女王だったら、別の物語が飛んだのかもしれない。きょう、油に焼かれたかの女の脂が、地の潮を覆う。降り溜まり蒸発する地の体液の循環を、焦げ落ちた皮脂の油膜で食い止めている。
 このために地表が海を失っても、たとえば涙の降る限り、血のしたたる限りかの女は飲み、新しい海を生むために溜めるだろう。眉間の栓を抜き放ち、噴きあがる脳漿の虹でわたしは感傷する。わたしの箱のこの穴を、いつかちぎれたらあの左手薬指が貫いてくれるだろう。

 100

trending_up 1668

 15

 46

替えのきく唯一

或る生涯では
俺は一つの砂だった
一つの浜を構成する数多の砂の内の一つだった
或る生涯では
俺は一つの細胞だった
一つの人を構成する数多の細胞の内の一つだった
或る生涯では
俺は一つの星だった
一つの夜空を構成する数多の星々の内の一つだった
或る生涯では
俺は一つの宇宙だった
一つの次元を構成する数多の宇宙の内の一つだった
或る生涯では
俺は一人の人間だった
たった一つの地球を構成する生命体の内の一つだった
そして
たった一つの国を構成する国民の内の一人だった
そして
たった一つの俺を構成する内の一人であった
お前がたった一人のお前であるように
俺もまたたった一人の俺であった

 0

trending_up 35

 2

 1

白に翳る

私にとって春を告げる花は桜ではない。毎年、家の近くの道沿いにある、白いモクレンが咲くと、春が来たんだなと思う。

産毛に覆われた蕾が、少しずつ大きくなって、子供の握り拳くらいの大きさになると、皮が弾けて白い花が顔を出す。その弾ける音を、いつか聞いてみたいと思っている。

白い花びらが、一枚一枚ハラハラと開いて、天に向かって咲く姿が、私はとても好きだ。

私は物心ついた時から、友達が赤やピンクの花を好む中、白い花を選んでいた。

供花のイメージも強いが、翳りを感じるところに何故か惹かれてしまう。

そのままの形で花を落とす、その潔さも好きだ。

去年はせっかく咲き始めたモクレンが、春の嵐で散ってしまい、落ちた蕾の前で立ち尽くしてしまった。花の時期は一年に一度、数日しかないのに、自然のいたずらに思わず天を仰いだ。

歩道に落ちた、少し茶色くなったモクレンの花が、踏みつぶされた姿さえ、私には孤高に見える。

 0

trending_up 45

 2

 1

はらり

若葉噴き出す桜の小道を通り
猫の待つ家へと帰る

着替えていると
髪からか
服からか
はらり
花びら一枚落ちてきた

桜の木からの贈り物
きょとんと
猫が匂いを嗅ぐ
別れを告げる置き土産
ふふふと
顔がほころんだ

たった花びら一枚で
猫も人をも惹きつける
桜にはとてもかなわない

ため息ひとつで飛ぶよな
薄くちいさな花びらさえも
まるで千年の古木の如き懐だ

 0

trending_up 33

 3

 2

美しい朝のこと

とても美しい朝だった
雨上がりの匂い漂うなか
朝日が白い壁を曙色に染め上げ
風に揺らされた桜は全身を震わせ
柔らかな花びらを舞い踊らせる
新緑を纏い始めた木々たちが
さわさわと細波のような音を奏で
それに合わせ鳥たちが歌う
ただそれだけの
あまりにも美しい朝のこと

もう二度と同じ朝はない
ただ一度の、美しい朝のこと

 90

trending_up 244

 8

 19

かの者

かの者は今も尚、十字架に磔にされて、人間の為の晒し者となってゐる。
何故、基督者はかの者を十字架から下ろさうとしないのか。
かの者は彫像に為っても尚、十字架から下ろされぬ不合理を
基督者はそれが恰も当然の如くに看做し、
しかし、本当にそれでいいのか。
かの者が、基督が憐れではないのか。

――何を馬鹿な事を! 基督は彫像になって尚十字架に磔されてゐる事にこそに意味があるんぢゃないか!
――はて、磔に何の意味があるといふのか?
――基督は基督者の全存在の哀しみを受容してゐるのさ。
――それは、基督者の我儘ではないのかね?
――我儘で結構ぢゃないか。基督は基督者の苦悩を全て受け止めるのだ! その証左が磔刑像なのさ。

何時見ても磔刑像の基督を正視出来ぬ《吾》は、
果たして、基督にでもなった気分でゐるのか。

――それ以前に、己の苦悩は先づ、己が背負はなくてどうする?

――ほらほら、磔刑像の基督が笑ってゐるぜ。

さうして、かの者は全人類の哀しみを人類が存在する限り永劫に背負ひ続けねばならぬ宿命にあるのか?

――ふっ、それは、とっても哀しいことに違ひない! しかし、基督者はそれを基督に課してゐるといふこの矛盾をどう受容してゐるのか!

 0

trending_up 18

 0

 2

散歩の途中

視線が折れ曲がって
地面を這っていくと
隣町の犬に出合う

(貴殿の名は ホモンクルスか)

ぬっと突き出た枝に擦り寄って
気持ちのいいツボを探っている

(今年の梅は早い)

座れない椅子ばかりあるので
這いずって進む

遺跡の片隅に円を描き、
少し粗相をしていると
タローオカモトにぶつかった

見たこともない太陽をかかげている

(地球の裏側から砲弾の香り)

この樹の下で事件があった
三人の遺体が盗まれた
吾輩の嗅覚にまちがいはない

鼻を近づける

まだ残っている

土の下ではなく、
時間の裏側に

三人分の体温が
順番を間違えたまま
折り重なっている

匂いは、腐らない

ただ、ほどける

きのうと明日が
同じ湿り気で
鼻の奥にひろがる

もっともはち切れる地点を探す

三内円山遺跡の
わずかな勾配の先で

一歩ごとに
別の季節を踏んでいる

(今年の梅は早い)

さっき嗅いだはずの春が
まだ来ていない

舌を揺らしながら
行きつ戻りつしていると
星座が見えてくる

空ではなく、
地面の匂いの中に

吾輩の眼は
空と地面のあいだをさまよう

そのあいだにだけ、
時間の裂け目がある

 50

trending_up 70

 5

 3

弔いの椿



子供の頃に住んでいた家の隣は、春にはシロツメクサやタンポポが咲く野原で、近所の子供達の遊び場になっていた。

小学校からの帰り道にその横を通ると、「ミャーミャー」と声が聞こえた気がした。急いで声のする方へいくと、黒い子猫がそこにいた。抱きかかえてみたものの、母が猫が嫌いだったことを思い出して、草むらにそっと置いて、後ろ髪を引かれながら、振り返らずに走って家に帰った。

夜になって布団に入ると、風の音と一緒に微かにあの子猫の声が聞こえたような気がした。2階にある子供部屋の窓を開けて、空き地の方を見たが、冷たい風が吹いているだけだった。

いてもたってもいられず、パジャマで家を飛び出し、月明かりを頼りに子猫を探すと、枯れた葦の中で子猫を見つけた。私を見て鳴く声は昼間よりもか弱く聞こえた。

縋るように、私の方へ歩いてくる子猫を、放って置くことができず、家に連れて帰ることにした。子猫を見て母は困惑していたが、取り敢えず、庭にある物置小屋においていいと言ってくれた。その夜は毛布にくるまって、子猫の入った段ボールの傍で眠った。

朝になって子猫の様子を見ると、目ヤニが酷く鼻水も出ていてた。生まれて初めて動物病院に電話をした。たどたどしい子供の説明に、電話の向こうの先生がイライラしているのが分かった。母と一緒に動物病院に行き、貰った薬をあげると元気になった。母も子猫がいつの間にか可愛くなったようで、家で飼うことになった。

子猫は黒と白のハチワレの立派な雄猫に成長した。ご飯を食べた後に口をペロッとする仕草から、名前はペロと名付けた。ペロは外にふらっと出かけては家に帰って来る、そんな気ままな暮らしをしていた。

そんなペロが何日か帰って来なくなり、こんなことは初めてで、母も私も近所を探し回ったが、ペロの姿を見付けることは出来なかった。

一週間程して、近所の人がペロが庭で死んでいると言いに来てくれた。白に赤いサシの入った椿の木の根元で、ペロは硬くなっていた。ペロの周りには、花首から落ちた椿の花が、いくつも落ちていた。

今でもペロに似た黒い猫を見かけると、あの時の椿の花を思い出す。あの弔いの椿を。

 0

trending_up 29

 4

 2

銀河系のすべての神々を呪う 

「もう誰とも話したくない」と無言を貫いていたら、間違い電話が三回かかってきた。

「しばらく一人になりたい」とカフェで読書していたら、知らない人に相席をお願いされた。

「今日は誰にも見つかりたくない」と隅の席に座ったら、店内放送で名前を呼ばれた。

「もう疲れた、何もしたくない」と思ってたら、今日締めのコンビニ振込用紙が見つかった。

「もう休みたい」と有給を取ったら、休み明けに有給休暇を取った人が二人いて、仕事が三倍になった。

「もう辞めたい」と思いながらレジを打っていたら、さっきクレームをつけてきたお客さんがまたレジに並んでいた。「もう辞めたいから今すぐ辞めたい」に気持ちがレベルアップした。

大失恋の夜、泣きながらコンビニに行ったら、振られた相手とばったり会った。

絶叫系が怖くて乗れないのに「度胸試し」で乗らされ、止まったあと体が動かなくて、また絶叫マシーンが動き出した。

「もう全部投げ出したい」と思って大切な物をどんどん段ボールに投げ捨てていたら、宅配便が五回来た。

「もう全部やめたい」と海に行ったら、海上保安庁の船が浮かんでいた。

夜中にひとりドライブで気持ちを切り替えようとしたら、道に迷って朝になっても家に帰れなかった。

「誰にも会いたくない」からしばらく山に籠もろうとしたら、知り合いのハイキンググループに遭遇した。

「もう消えたい」と思いながらスマホを見ていたら、昨日のポストがバズっていた。

「もう◯のう」と思って樹海の森に行ったら、道の途中で車に轢かれそうになってマジ◯ぬ!かと思った。

https://x.com/bagu_now_real

 0

trending_up 3637

 3

 3

[に]二番丁三番地

約50フィートか落としたOrange缶
抜けて、
    小さくなって、
          甲高い音を撒いて、
          滲むコンクリート
静かすぎる世の中も生きづらいね

        首のない鳩に
       群がるカラスを肴に
   安いカップ酒を煽る浮浪者
を、見ている

煤こけた団地
の、雑草に潜む


少なくなったね。と 独り言
懐かしさなんてない
ただ古ボケただけ

同じものを重ねただけの
等間隔が、 等間隔が、 等間隔が、
 分譲地、 産業地帯、 ひび割れた住宅
等間隔に、 植栽、  植栽、  植栽

ばぁるろろろぉ・・・
あ、郵便屋さん だ
閑静に轟く 
赤い点

ちらほら、
窓の、
開く、住人

平日
  落ちる

     今日

 0

trending_up 10

 0

 0

メメント・モリ

砂取船が音もなくすすむ
行き過ぎたあとには
しずかな波紋が
裾へ向かって
ゆっくりひろがっていく

行き場をなくした言葉
対岸へ届かない想いの滓が
浮かんでくる
芥になってしまえば
よかったのに まだ
なにか言いたげな音を立てる

引き返してくる船に
浄化される時を待つ
ひとの思いと川砂を
一緒くたに積んでやってくる

あなたの罪もぼくの罪も
終わりに向かって
岸辺でさらさらと落ち
ただの美しい円錐となる
いつか いつかと
ささやく鳥のこえ

 0

trending_up 60

 3

 0

重声

【1】
窓辺に一羽が来ていた
影が枝に重なっていた
そういう言い方は疲れる
【2】
鳴いた
音を鳴き声と呼ぶ
誤訳でも呼びたい
なぜだ
追い越されたものが死ぬのか

【三】
飛んだ
「二度と」はいつからいつまでだ
勝手に決めるな
鳥が
落ちることを飛ぶと呼ぶのは罪か
【四】
喉に一羽いる
ならば何だ
傷から鳥が生まれたのか
もう痛い
生きていたくない
勝手を言うな
君は誰だ
【五】
鳥が静かになった
わからない
一生か
君は
……
そうか

 0

trending_up 76

 4

 2

父さん 2025ver.

父さん あなたの手は――
節くれだった 大きな手だった
製鉄所の高炉で働いた手
消防士として ホースを握りしめた手
高度成長期を――生き抜いた手だった

父さん あなたの手は――
キャッチボールのボールを
私の手のひらより ずっと小さく見せた
野球部だったあなたに似なかった私は
投げても 受けても うまくできなかった

父さんの手――肩車の手
動物園によく連れて行ってくれた
父さんの手でがっしりつかまれ 
私は肩の上――高い場所から 世界を見た

だけど 動物のにおいが嫌いだった私は
写真にいつも ふてくされて写っていた

父さんの手――バイクのハンドルを握る手
手袋もしないで バイクのハンドルを――がっちりと
父さんの背中にしがみつきながら
「どこへ行くの?」と ひやひやしていた私

父さんの手――バス停でタバコを挟んだ手
部活帰り 遅くなる私を
父さんは バス停に――立って待っていた

煙をたなびかせる ハイライトの匂い
タバコが苦手だった私は
そそくさと 横を通り過ぎた

父さん あなたの手は――
結婚式の白いハンカチを持つ手だった
泣いていた大泣きしていた
花婿の父が泣くなんて――
誰が想像しただろう

父さん あなたの手は――
病室のベッドで ピースサインをしていた
「看護認定?最高ランクだ!」と笑った
でも――
私は信じたかった
タバコをやめた父さんは 癌にならないって

棺の中の父さんの手は――大きかった
数珠が 小さく見えた

棺に収まる父さんの手を
私は 合わせて数珠をかけた

それだけが――
唯一 父さんにしてあげられたことだった

葬式を切り盛りするだけで
悲しむことが――できなかった

だから ずっと問いかけている

父さん あなたは幸せでしたか

運動好きの父さん――
あなたは幸せでしたか?

不器用な父さん――
あなたは幸せでしたか?

涙もろい父さん――
大きな手の――
私の父さん

あなたは――幸せでしたか?

父さん 
あなたの手は――大きかった
私の心の中にも――
ずっと ずっと残っている

 0

trending_up 439

 6

 11

【詩】生きる

ビーカーの縁 ぴったりに
張られた水を ゆっくりと
捨てたいのに


捨てられずに
甘く閉まった 蛇口から
零れ落ちたる 一滴を
拒みたいのに


拒みきれずに
波紋がスーと 広がって
側面をツーと 伝う水
止めたいのに


止められずに
両手をなぞる 冷たさが
底から垂れて 濡れる床
拭きたいのに


拭き取れずに
乾いてくれと 願いつつ
時が経つのを 待つ間にも
注がれていく

ごくひっそり

注がれていく
得体の知れぬ 不安にも
言葉にならぬ 不満にも
限度があると 分かるなら
耐えたいのに


耐えられずに
自分を終える ことでしか
この苦しみを 抜け出せる
術は見当たる ことがなく

握力計を 握るように
全体重を 掌にかけて
容器ごと 粉砕して
終いたいのに


終わないのは
割れた破片を 懸命に
集める貴方の 優しさに
感謝の言葉を 送りたいのに
何も言えずに 終わるから

割れた破片を 慎重に
寄せる貴方の ビーカーに
水が溜まって ゆく瞬間を
生み出したく ないから

それはどうも 嫌だから

産み落とされた 者として
水を 溢れさせながら
水を 受け取り続ける


どう見ても ロスの多い 生き方だけど
これからも ビーカーを 抱えて生きる

 0

trending_up 51

 2

 1

あなたのいないこの世はコワイ 

あなたのいないこの世はコワイ

あなたのいないこの世はコワイ

あなたのいないこの世はコワイ



 0

trending_up 28

 1

 3

確固たる答えなきエッセイ『実在の事件のその創作について』

 実在の事件、それはなんとも誘われる題材であろう。こと社会風刺として国家社会を誹り、あるいは人間の失望というものを描きたがる人にとってはこれほど美味しい素材もないだろう。だが、これは同時に残穢となりかねないのだ。とくに人が生き残っているようなものに関しては。
 もちろん、それがジャーナリズム的あるいは一歩距離を置いたうえでの作品だとするならば、それは一定程度の安全性を有する。そうでなければオウムの問題に関して論じていた村上春樹は世間からの攻撃の憂き目にあったことだろう。彼の一歩引いた世界への見方はそれすなわち同時に彼自身を守る盾となっている。
 しかし、作品に何らかの不快性を付与するとなると話は変わってくる。誰かを不快にすることを前提でやると、当事者よりもやはりその他多くの読者たちの方に違和感を抱かせるのだ。とりわけ、そういうのを「不快に思われた方がいたら大変申し訳ありません(笑)」という感じの態度を悪びれもせずに浮かべながら免罪符にして作品を公表すると、いっそう事態は悪化することになる。

 しかし、ここで一つの疑問が生じる。
たとえばオウムによる地下鉄サリン事件も秋葉原における通り魔事件もあるいは少年Aが神戸で引き起こした事件も佐世保における小学生が引き起こした事件も、まだネタにはできないし、僕だってしたくはない。でも、なぜか僕が第一次世界大戦の神話化、植民地(大英帝国の宝石)への郷愁の告白、共和主義者たちへの憎悪の吐露をしたとしても、「この作品が誰かにとっての残穢にならないことを願っています。」と言われることはないのである。
不思議なものである。僕は散々ナショナリズムのその発露はしたし、ナショナリズム自体もある意味実在の出来事といっても良いはずなのである。というか『眠れる場所』という過去の作品の挿絵で多分何かに気付いた方もおられるはずだ。だが、一向に批判はない。実在の事件どころか戦争が数年間ずっと行われているというのにも関わらず。
顰蹙を買う実在の出来事・事件と、そうでないもの。この両者の区別は大変難しいし、僕だって答えは持ち合わせているわけじゃない。多分、顰蹙には共感が由来しており、それが発動されるための時間と距離には制約がある……といったのも答えの一つかもしれないが、それもどうにも確証を持てない。


 ただそれだけの文章ではあるが、どうかポイント稼ぎがてら、なんやかんやの考察を残していくのも手ではないだろうか。もしかしたらコメント欄で議論が興って、そこからまたコメントを残していけばもっとポイント稼げるだろうし、僕も興味深くはあるのだ。

 0

trending_up 218

 4

 11

批評・論考

晴れたらいいな

履き潰した黒いパンプスが異物となる朝

よそよそしい 君も私も

頭上には鉄塔の窪みが残っている
撓んだ髪の毛には
今日も高圧の電気が絡まっている

無線イヤホンが語るとき 
時折 言葉は咽せて咳をする

改札はへどろを飲み込む速度で息をする

黒い人間 黒い人間たち 止まらない
後頭部の渦巻きは規則正しく流れていく

ぎょろりと見下ろす信号機は混色を起こす

ふと怖くなって首筋を触る
削れたピンヒールでアスファルトを叩く

眼鏡の鼻当てがなんだかやけに痛い朝
おはようございます、今日も早いねと
背骨が喋る慣用句

たぶん明日も曇天で
バスは雨垂れで汚れてて

砂埃でざらつく唾を吐き出す
歯の隙間には
今朝噛み潰したおはようが挟まっている

 0

trending_up 39

 1

 1

処刑台の署名

密封された正午
礼拝堂の重厚な扉を開錠し、無人の空間へと足を踏み入れる。
その日、太陽は残酷なまでに輝き、石畳の白光は私の網膜を焼き切らんとしていた。
内部は、戸外の狂熱を拒絶するように冷え切っている。
医師である私は、往診鞄を床に置いた。コツン、という乾いた音が天井の闇に吸い込まれる。ここでは時間は死に絶え、埃っぽい光の柱の中に、没薬(もつやく)の古びた香りが停滞していた。
祭壇の上には、一枚の地図が広げられている。
今日、この場所で、「病」に対する外科手術が行われる。
やがて、三人の男が音もなく入ってきた。
彼らに名前はない。ただ、背負っている「影」の輪郭が異なるだけだ。
私は彼らの脈を診ることはしなかった。
「署名を」
私の声は、自分のものではないように響いた。死んだ母の葬儀で聴いた讃美歌のように、無機質で、空虚な響き。
豹(ひょう)の男が、龍の男から手渡された銀のペンを取る。そのペンは、「壊疽(えそ)」を焼き切るための、中国製のメスに他ならなかった。
ペン先が紙を削る音。
その瞬間、世界を締め付けていた見えない指が、わずかに緩んだ。
だが、それは回復ではない。ただの「麻痺」だ。龍の男が提供した麻酔が、ゆっくりと世界の血管を回り始めたに過ぎない。
異邦の沈黙
儀式は終わった。三人は言葉を交わすことなく、再び灼熱の外の世界へと消えていった。
私は独り、礼拝堂に残される。
開け放たれた扉から暴力的な光が差し込み、私の影を長く引き延ばした。
足元には、誰かが落とした一発の薬莢と、龍の男が残した銀のコインが転がっている。
「明日は、今日よりも少しだけ息がしやすいだろう」
独り呟いた言葉が、幸福を指しているのかはわからなかった。
私は鞄を拾い、礼拝堂の鍵をかけた。海峡を抜ける船の音は聞こえない。ただ、遠くで波が石壁を叩く単調で無意味なリズムだけが、この不条理な一日の終わりを告げていた。
ポケットの中の銀貨を指先でなぞる。それは救済の代価ではなく、沈黙を買い取るための口封じの聖貨だ。龍の男が残した一瞥は、慈悲よりも深く、そして致死的な静謐を湛えていた。
扉を閉ざした瞬間、世界から色彩が剥落した。網膜には白熱する太陽の残像が、黒いシミとなってこびりついている。往診鞄の重みを右手に感じながら、私は石造りの回廊を歩み始めた。
祭壇の地図は、もはや地理学的な案内図ではない。街の臓腑に食い込んだ「悪性腫瘍の転移図」であり、男たちが署名という名のメスで切り裂いた、生け贄の皮膚そのものだった。
ペンを走らせた男の指先には、硝煙と古い金貨の匂いが染み付いていた。彼が署名したとき、空間の密度が歪み、因果の連鎖が一時的に停止するのを私は見た。
一方、銀のメスを差し出した男の瞳には、感情の枯渇した深淵が横たわっている。彼が提供した麻酔は、苦痛を和らげるためではなく、世界が自らの死に気づかぬよう意識を混濁させる毒薬だった。
崖の淵で立ち止まると、ポケットの中で薬莢が密やかな金属音を立てた。それは摘出された「病理」の欠片であり、この不毛な手術が成功したことを証明する、唯一の臓器である。
「幸福とは、絶望が等比級数的に希釈された状態を指すに過ぎない」
日記にそう記すべきだろうか。
海峡を渡る風は、死者の溜息のように湿り、私の白衣を無遠慮に翻す。物流も、希望も、慈愛も、すべてはこの密封された正午の熱気に蒸発してしまった。
見上げる空は陶器のように硬質で、神の不在を証明するように澄み渡っている。
明日、人々は目覚め、喉元を締め付けていた絞縄がわずかに緩んでいることに気づくだろう。彼らはそれを「平和」と呼び、「奇跡」と称えて、再び平庸な日常という名の緩やかな自殺を繰り返す。
私は鍵をポケットの奥深くへと沈めた。
この街の執刀医として、私は知っている。
麻痺はやがて解け、壊疽は再び、より深い場所から静かに、そして確実に世界を侵食し始めることを。
波の音だけが、無意味な円環を完結させるために、石壁を叩き続けていた。
「手術は成功した。だが、患者は死んでいる」
私は青すぎる空に背を向け、影の中へと足を浸した。

 0

trending_up 23

 2

 0

羚を見つめて

円らかなる瞳は


熱悩し

懊悩し

痛悩し

苦悩し

苦悶し

煩悶し

欝悶し

愁悶し

愁情し

愁歎し

愁苦し

衆苦し

困苦し

憂苦し

艱苦し

艱危し

艱難し

艱虞し




見つめてる




懐かしんだ柘榴を貴方は踏み均すのね


 0

trending_up 20

 1

 0

V

配信画面に切り替わる瞬間が
部屋の壁より先に
わたしの皮膚を更新する
もはや祈りではなく
手癖でもなく
半壊した儀式として
あなたを推す、たましい、

あなたが勝手にわたしを救った
言葉は軽くて
体液の粘度に耐えない
「向こう側」
で笑うあなたの息は
フーリエ級数展開されて
電波に乗り
私の耳まで届くのです
距離は倫理の代わりにならず
切り抜きの秒数で愛を学んだ者は
結末の尺を待てない
アーカイブを二倍速で巡礼しながら
私は何を省略しているのか
あなたの退屈
あなたの生活
あなたが勝手に引き受けた
あなた以外のすべてのもの

救い
あるいは逆さまの脅迫、
矛盾はないどこにも
群衆は祝祭であり
同時に略奪でもあるから
世界が壊れたのではなく
わたしが勝手に傷ついただけだ
神格化、あるいは
極端に俗っぽいあなたの
弱さを見たくない
でも弱さが好きだ
その弱さより
ずっと強いあなたのたましいが好きだ

あなたが勝手にわたしを救った
わたしは
救われる資格がないまま
あなたに怒っている
あなたを愛している
あなたをなぶる妄想をしている
あなたになぶられる妄想をしている
巨大な祭壇に詣でて
すべての整合性が解体されるのを見ている

 250

trending_up 188

 3

 5

ある春の気球学入門 

正午のサイレンの余韻がまだ響いています
とろとろと眠ってしまいたい春の午後のはじまりでした
どうしたことか突然妻がふくらみはじめたのです

今日まで職にもつかず稼ぎもなく蕗など食べて妻を
揉んだり捏ねたり転がしたりなどして遊んできたわたしです
自称びんぼう太りの毬のような妻はころころ
それはおもしろいように転がるのでしたが

さきほど二人で食べたドーナツが原因なのでしょうか
ふくらし粉が溶けずに固まりで入っていたのでしょうか
おくびをひとつふたつとするわたしのそばで
にわかにみるみる妻がふくらみはじめたのです

パンにも金にも家にも愛にもこだわらない男のそばで
さびしく肥えた女の腹部が今さらに膨張しだしたのです
愛よりも大きな球体となりどんどんわたしに迫り来る妻の声を
手をばたつかせて何かぱくぱくと口をうごかす妻の声を
わたしは聞きとれないのです

ぱんぱんに張り切ったみごとな女体
それは憎悪のようにも希望のようにもみえるのですが
今にも破裂しそうに膨らんでかすかに浮かびつつある妻を
部屋いっぱいになる前にベランダの窓を開けて
外へ解放してあげるやいなや
するすると肉色の球体は空に昇っていったのです

妻よ 親しい他人の君よ
おまえは空から米やパンをひねり出し
今日また不可能から可能へと飛び越える
うららかにおまえはいま羨ましいほど自由だ

                    (さようなら詐欺師のあなた)
            (ごきげんようペテン師さん)    
      (奪うばかりのイカモノ詩人さん)

                   何をいっているのか
               口をぱくぱく動かす
           それは大きな風船になった妻を
       わたしは眼で追います
   
   五月の風に乗って春の午後
ヒバリは空に
カラスも飛んで

 0

trending_up 71

 3

 2

逃げ水

消失点の手前
前の車まで
500メートル先に
みなぎる輝き
縞模様のような
逃げる黒いゆらめき
わかっている
あれは影
ゆるやかな坂道に
浮き沈みしている
のどの渇き

 0

trending_up 112

 8

 4

幸せ

海の水を掬すくっても 青ではなく
雲を握つかんでも 白ではない

哲学者でもない我に
幸せは?と問うても
最適解は みつからない

ただ 太陽が眩しくて
ただ 風が優しい

穏やかな毎日へと繋がる
遥か山の端はから届く
美しい調べのシンフォニー

幸せを問うよりも
ただ 音を楽しみ
なににも揺るがず
どこへも流れない
確固たる我に
幸せはかすかに微笑む

不協和音は逃げ去り
優しく強く
穏やかで弱く
今日も
明日も
小さき幸せの音ねが
我を包む

 0

trending_up 26

 2

 1

 0

trending_up 0

 0

 0