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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

目まぐるしく変わる映像的言葉の表現に惹かれて(作品「葬列」へのしろねこ社との共同コンクールへの推薦文)

この作品を読んで面白いと感じたのは、言葉の表現による映像のカット割りです。
自分は文脈を追うよりも興味を魅かれた言葉から作品を紐解き違う角度から読み
自分の心地良い形に組み替えては、一つでも多くの組み合わせを探しながら楽しんでいます。
この作品に関しては映像がフラッシュ的に頭に突き刺さる感じが印象的でした。

少女時代に思う大人のイメージが大人に成った時には情けない動物に成っている映像的な表現

葬列に並ぶのだから親族の葬列だと思われるのですが、疑獄の文字を使っての映像的な表現

亡き親族を惜しみ泣く人を匂いの強い茉莉花に喩え
必要以上に淫らさと「女」を強調させて煩いと投げ捨てる様な映像的な表現

棺の中には祖母が居られるかと思わせる描写も攻撃的で
戦争という言葉を使うことによって祖母も攻撃的であるなら
自分も攻撃的に立ち向かう映像を鮮明にしている様に感じられるところ。

戦争を無くすには経済的要素が大きく影響しているという思想と
愛する者を捕食して自分だけのものとしようとする原始的な思想を
雌犬ではなく雌狼が遠吠えしている様な映像的な表現で終わった感じがとても面白く思いました。

個人的には、雌狼に何度も何度も頭から食いちぎられる地獄の苦しみの中で
茉莉花の香りに誘われて繰り返される苦痛が天国の快感になる事を願いながら
葬列の棺に入った自分の情けない顔を見てから、少女の後ろを歩きたいと思わせる
独特の雰囲気を持つ作品「祖列」の映像的言葉の表現に自然と引き込まれていました。

作者 ナカタサトミさんは、穏やかな気持ちで言葉を綴り静かな映像を表現したかったかもしれません。
作品「葬列」への違った感想を知りたいという思いと、突き刺さる様な映像を楽しんで貰いたいとの思いから
作品「葬列」を読む事をお薦めします。

推薦部たるものを書くのが初めてなので作品「葬列」のイメージを悪くしていないかと心配ですが
各々に楽しみ方が有ると思うので私の文で興味を持たれて読んで貰えると嬉しい限りです。

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誰かのあの子

私の好きな場所は、川沿いにある、赤い屋根の小さなお店です。そこは住宅街なのですが、そのお店だけが異世界のような雰囲気をまとっています。重い茶色の扉を押して中に入ると、手作りの洋服がたくさん並んでいます。
チェック柄のシャツ
私はそれを手にとって見てみます。その奥にあるあれもこれもそれも、とても素敵です。手作りの温かみと、機械のような精巧さが共存しているのです。私はそれを作った人を想像しました。茶色い長い髪をいつもおさげにして、りぼんの髪飾りをつけている。いつもにこにこしてて、お裁縫が大好きなの。
ドット柄のスカート
あの子が着ているところを想像しながら、私はお札を一枚、ハート柄の缶に入れました。新札を二つ折りにして入れました。本当は少しだけお釣りが来る価格だったのだけれど、気にせず入れました。
お花柄のワンピース
何も持たずに私は家を出ました。本当は何かひとつ買うつもりでお金を入れたのだけれど、入れてしまったらもうその気持ちはなくなったみたいです。お店を出たらお天気雨が降っていました。狐の嫁入り、という言葉を私に教えてくれたのは、誰だったでしょうか。たしか、優しい声の持ち主だったのだけれど。ぽつぽつぽつと雨がリズムを刻みます。なんだか歌いたい気分です。だけど歌が思い出せません。
縞模様のマフラー
橋の向こうに虹がかかっているのが見えました。雨はもうすぐやみそうです。私はもう一度、お店の中の服のことを考えました。だけどひとつも思い出せません。私の欲しかったのは、なんだったのかしら。あの子なら、そうあの子ならきっとわかるはず。
こんなところに私のあの子はいないのよ。
私のあの子がどこにも見つからないの。

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ハンドドライヤーの旅

コロナの頃
トイレからハンドドライヤーが消えた
正確には消えたわけではない
壁には残っているのに
電源だけが切られ
「使用中止」と書かれた
張り紙が貼られていた

風だけが止まっていた

その張り紙だけで
ハンドドライヤーは急に
よくないもののようになってしまった
何が本当に正しいのか
誰にもよくわからないまま
とりあえずいろんなものが
中止になっていく
そして人は、静かにそれに従う

コロナが一年過ぎた頃
このままもう使われないのではないかと
不安になったハンドドライヤーたちを見て
ハンドドライヤーの神様が
急いで呼び集めた

そして旅に出した

風を求めている人たちのところへ

旅の途中で
ハンドドライヤーたちは気づく
自分たちは風だけを
知っていたわけではなかった

手の記憶を知っていた

ハンカチで拭く人
手を振って乾かす人
ズボンで拭く人

それでもハンドドライヤーを使う人はいた
青い光に少し安心する人
風で水がさっと飛ぶ感覚が好きな人

ハンドドライヤーは
風を吹かせながら
その人の手の温度や震えを覚えていた

旅の途中で初めて見た

人の手と手がつながる瞬間を
痛いときに握る手
泣いているときに背中をさする手
子どもの手を引くお母さんの手

風より強いものがあることを知った

旅が終わると
ハンドドライヤーたちは
元のトイレへ戻った
電源が入り、また風が吹く
でもその光は、前と少し違う
青い光の奥に
ほんの少しオレンジが混じっている
手を差し出すと
その風はどこかやさしい

まるで誰かと握手をしているみたいに

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眠れぬあの子

今日も自分を責めて
ぐるぐるぐるぐる

今日も人を責められなくて
ぐらぐらぐらぐら

今日も誰かに批判を受けて
ぼろぼろぼろぼろ

本当は自分を自分で愛してあげたいだけ

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心の在り処

閃光が発し
暗闇に包まれても
その瞳は うららかにこの世界を映している

叫び声があがり
銃声が轟いても
その耳は よどみなくこの世界を聞いている

村八分にされ
石を投げられる時も
その心は ひたむきにこの世界を掴んでいる

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葬列

大人は少女のころ考えていたよりさらに
情けない動物だとわかってつづくことにした
叱ってくれる人がいないのでこわいが
地図もないのでたまらないが
みんな子どものまま老いていくのだからと
どこからともなくなだめられて
足を止めずに歩こうと思った
それでもやっぱりときどきは止まって
地獄を振り返るのだとも知っている
しかし諦めたがらんどうではなく
血から洟汁から茉莉花の匂いたつ
鉤括弧つきの「女」になりたくて
わおお わおおと煩い犬になった
私は牙をむき それらは
ほかのけだものたちより鋭いくらいだった
美容室に行くのは不道徳だと祖母は言うが
逃げていくのだ
裸の色の口紅へと
孔雀のようなマスカラへと
脱毛クリニックの施術台へと
贅沢をしすぎて
戦争をする金がなくなればいい
私という上等の雌犬は
このままほどほどに壊れてしまうために
群れの後ろからついていく
一匹残らず抱きしめて殺してやりたいと
幸福な想像をしながらあとをつけている

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エキストラ

風を前座にホームへ電車が入る
開いたドアに飲み込まれる

背中を押されて
かかとを踏まれた
声はない
目も合わない

窓の向こうの薄明りの闇
地下鉄のドアに
演劇のポスター
鮮やかに浮き上がる

かすれた声が駅名を告げる
つり革を頼る
手に汗

発車を知らせるベルが鳴り
ドアが閉まる

つり革を
右手から左手に
空いた手をジャケットで拭う

揺れる

つり革から手が離れ叩いた
ドアのポスターの照明は
消えない

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朱色の塔

かかとを上げると
朱色の塔が空を刺している

玄関を出て重い門を押して
家の前の坂道を僕は下る

絵を描き、積み木を並べて
空想の街ができていた

坂道は昔のままだ

今は
なだらかな上り坂

積み木のようなビルに門はない
足は向かず通り過ぎる

肩を叩かれた

雨だ

靴の上で粒が跳ねた
折り畳み傘が開いた

雲にまとわりつかれながら
朱色の塔が空を刺していた

かかとを上げずに見えるのは
背が伸びただけ

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w(笑)w

僕の記憶の泥団子に君が植えた種が生えない

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「パスポート」

何処かに行きたいというくせに
そんな気力もない日々で

やりたいことも、行きたいところも
たくさん、たくさんあったのに
何にもできない日々でいるのが
酷く悲しくて泣いてしまう

なんにもできない人間になってしまった
遠くに行きたい
逃げたい、なのかも
行く元気もないくせに
想像だけは一丁前で

日々を想像の中で過ごす日々で
現実を直視することも出来ない
きっと見えているはずなのに
見えないふりをしているのも
そうじゃないと

そうじゃないと
とても生きていけないから

もう少しだけでも、
私を生かして欲しい
いや、生かさないで欲しい

ふふふ
願いも一丁前だったね

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時が揺れて

風がなびいて
時が揺れ

似た景色に心が馴染み
昔がそっと戻ってくる

明日を見ていたあの頃の
心の弾みが蘇り

どうにもなれなかった
今の私に流れ込む

過ぎた時間を一瞬と
言えないほどには生きたけど

あの頃の
私に会えるほどではない今を

そっと切なさでごまかして

懐かしい残り香に
少し酔って風が吹く

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ハイツ104

ははは春ですか 
ははは 笑えてくる
母は春ですから 
今いえを空けていて
わたしはチキンラーメンをこうして作っているのです
 
ははは春ですね
扉でも窓でも なんでも開け放つ そんな季節ですか
どんな格好か どんな面持ちか
わたしは知らないです 
母は春ですから ははは
 
ははは春でしょう
冬の陣立てに ぼこんと穴が空きました
母は春ですから
栓を抜いたり詰めたりしておると思います
ははは
 
ははは春ですよ
冬の間 長く待たれたんですね 
けれども さっきも申しましたが
母は春ですから
今いえを空けております
 
扉に足を挟むのをやめてください
また今度にしていただけませんかね
ははは

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創作の動態モデル:干渉場としての創作

2026年2月27日 00:39
(多々AI対話/推敲/Claudeで記事作成)


はじめに
創作を「自己表現」と呼ぶとき、二つの前提が忍び込んでいる。

表現に先立つ「自己」が存在するという前提。そして、創作が内側から外側へ向かう一方向の運動だという前提。

本稿はこの二つを解体する。創作を、内部・外部・時間・他者が互いに干渉し合う動態システムとして記述することを試みる。




I|起点という幻想
創作の「起点」はどこにあるか。

通常の説明は「内側にある何かが外部へ押し出される」と語る。しかしこのモデルは、素材の側から創作が始まる経験を説明できない。言葉が先に動き、それに引きずられて内的状態が後から生成される——そのとき、何が起点だったかは事後的にも定まらない。

「起点」は創作の最中には存在せず、完了後に遡及的に構成されるものだ。

内→外、外→内、外→外という三つの方向は排他的な分類ではなく、同一の出来事を異なる角度から見たときの記述の差に過ぎない。内部と外部という区分は分析のための座標であり、創作そのものの構造ではない。

創作は、内と外が互いに境界を書き換えながら干渉し合う**場(field)**として記述される。




II|理解は表現の副産物である
「理解してから表現する」という順序は、創作においては逆転する。これは多くの創作者が経験的に知っていることだ。

しかしこの逆転もまだ線形モデルの残滓を含んでいる。より正確には、表現と理解の関係は遅延を伴う非線形ループだ。

表現 → 理解 → 再表現 → 再理解 → ……

重要なことが三つある。理解は表現の副産物として発生するのであり、目的として追求できない。この遅延の幅は可変で、理解が翌日来ることもあれば、十年後に来ることも、生涯来ないこともある。そしてループは閉じない。理解は次の表現を誘発し、その表現がまた別の理解を生む。

創作は説明より常に速い。

説明はその後を追いかけるだけであり、創作を完全に記述する言語は原理的に存在しない。




III|形式は思想より強い
作品が完成した瞬間、作者の制御は半ば終わる。

形式は一度外化されると、作者の意図を参照せずに動き始める。作者が構造の要請に「従わされる」ように感じるのは、意図よりも形式の方が優先されているからだ。これは「暴走」ではなく、構造の自己保存と呼ぶべき現象だ。

制御の獲得と喪失は対称ではない。喪失の方が構造的に優位だ。

だからこそ「書いて考えが変わる」という経験は偶然ではない。形式が思想を再編するのは必然だ。

同じことは受容においても起きる。高密度な作品は受け手の側で無数の異系統を発生させ、作者の意図は起点の一つに過ぎなくなる。フィネガンズ・ウェイクも聖書も、作者が統御したはずの構造が、時間の中で原形を失いながら増殖し続けた。




IV|作品はウイルスである
作品は「伝達」されるのではなく、感染する。

受容者は共振する。あるいは拒絶する。過剰反応し、変異的に再解釈し、あるいは作品を誤読することで自分自身を攻撃する。この最後のケース——「自己免疫的受容」——は創作文化において頻繁に起きる。読者が作品を通じて自己の既存構造を攻撃し、崩壊させる。それが「読書体験が人を変える」と言われるときに起きていることだ。

作者は最初の宿主に過ぎない。

作品は作者から離れた瞬間に別の生態系に入り、独自の変異を始める。創作は伝達の設計ではなく、感染経路の設計だ。




V|主体は中心ではなく、通過点である
作品を外部に出すと、他者は「作者像」を生成する。この像は作者に逆流する。作者は自己規定を保留しているにもかかわらず、外部で強制的に規定される。

そして逆流が次の創作を条件づける。創作主体は純粋な内的圧力だけで動いてはいない。外部が生成した自己像に応答しながら、次の形式を選ぶ。

主体は外部干渉の通過点であり、創作システムの中心ではない。

これを図式化すれば:

内的圧力 × 素材の自律性 × 外部受容の変形 × 時間の遅延 × 作者像の逆流

この式は閉じない。どの項も単独では創作を成立させない。




VI|創作は螺旋である
創作サイクルを「循環」と呼ぶのは不正確だ。創作は同じ場所に戻らないからだ。

より正確な比喩は螺旋だ。ループしながらも深さ方向に進む。速度が変わる。途中で別の渦に巻き込まれる。同じことをしているように見えて、毎回別の層にいる。

創作の非反復性——同じテーマを何度描いても尽きない感覚——はここに由来する。




おわりに
創作とは、内部エネルギー・素材の自律性・外部受容・時間遅延・作者像の逆流が相互干渉する不安定なシステムを、形式によって一時的に安定させる操作である。

しかしこの安定は仮設だ。形式が完成した瞬間に崩れ始め、読者の中で変異し、逆流として作者を変形し、次の不安定を生む。

創作をやめられないのは評価や承認のためではない。自分が全体を制御していない運動に、それでも触れ続けることができるからだ。

制御できないものに形を与えようとする運動が止まらない。それは衝動というより、存在様式に近い。



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批評・論考

詩の鑑賞の三側面について

【解釈、作者の意図を知ること】
 およそ芸術作品というものは、人間が作ったから芸術なのである。どんなに美しくてもオーロラや朝日それ自体は芸術ではない。そこで、芸術は作者がたくらんだ意図にそって鑑賞しようとするのがよく、そうするのが鑑賞の端緒であろうと私は思う。
 ロールシャハテストの絵が「何に見えますか?」と、問われたとき、何らかの図に見えたとしてもそうは答えず、「こぼしたインクに見えます」と答えることもできると言えばできる。だがそれでは質問の言葉を、発話者の(通常想定される)意図とは離れた解釈をしているため、問答によって情報量が増していない。トートロジーであり問答が時間の無駄に帰す。説明するなら、質問の意図は「このこぼしたインクの染みのようなものは、あなたの知っている何を連想する・または何に見える形をしていると思いますか?」と訊いて回答させる意図であり、それはあらかじめ「インクの染みに見える」ことが前提されている。別の例でいうなら、全ての油彩画は油絵の具を乗せたキャンパスに見える。だが、いつまでそう思って見ていても仕方ないというのと同じことだ。
 そのように、芸術作品を鑑賞するとき最初から意図を無視すると、作品と鑑賞者の間にすれ違いが起きるので、結果的に作者、作品、鑑賞者の合計の情報量が増加しない。そんなことをしても得られるものは少ない。と、少なくとも端緒ではそう思われる。
 しかし作者の意図を考え始めた途端、直ちに、それが作者の意図であるかどうか証明できるのか、という問題が生じる。それは作者自身の表明(アーティストステートメント)やその他の発言、作者の語彙や傾向性の分析、作者への質問などにより一部は根拠づけられるが、それですら不完全だ。なぜなら人間は刻一刻変化し、その記憶も思考も一瞬後には消えたり書き換えられたりするので、作品を作成した瞬間の作者というものが、厳密に言えば虚構だからだ。他にも作者の意図の推定法は多々あるが、どれも作者の意図を証明するには至らず、それは基本的に不可能である。
 しかし証明は出来なくても、多かれ少なかれ妥当と主張できる推定は可能だ。その最初のステップは、作品を検討し、あるパーツとパーツとの関係を分析することによって行われるだろう。
 詩についていえば、ある語がどういう文でどの語順で使われたかによって、また、その語や文と他の語や文との関係によって、作者の意図が不完全にだが推定される。
 例えば同じ文が繰り返されているなら、そこにはリズムを生じさせたり、強調したり、同じ言葉の意味を段階的に深めたりする、何らかの意図があるのだろう。文が途中で改行されていれば、そこに生じた空白スペースには、挿入可能な他の語が省略されていたり、余白自体が何らかの図形を表していたり、と、何かしら意図があるのだろう。すべての個所から副詞や形容詞が除かれていたなら、既存の語では表現できないものを主題としていたり、言語的な解釈をできるだけ通さない即物的な描写が必要であったり、作中の事物が類別化されることへの拒否があったりするのだろう。その他の点でテキストを検討し、さらに有益であれば作者の自作言及など他のテキストも援用できる。
 そうした推定から、各箇所で相互矛盾せず、作品の主題や構成と適合する推定を選び、全体を一貫して読解するとき、それでも作者の意図どおりに読んだと証明は出来ないものの、自分なりに妥当な読み方をしたとは言えるだろう。
 その上で、おそらく疑問や謎が残るだろう。もし残るとすれば、それが作品の「オリジナリティ」と呼ばれるものであると思う。その部分は、作者の意図を推定することでは鑑賞できない。そこに出現したのは本物の他者であり、こちらの知覚と断絶してるし、想像を超えるからだ。

【鑑賞、作者の意図を無視すること】
 すでに述べたとおり、そもそも作者の意図というものは厳密には読者が作成した虚構だし、作者が錯乱状態にある場合、テキストが自動生成されたものである場合、作者が無意識的か意識的にか「偽の作者」である場合など、前項で述べた読解が瓦解するケースもある。瓦解しても問題はない。実際私は、作者の意図が推定できないか、推定する傍から瓦解する傑作の詩作品をいくつも知っている。
 それでも端緒においては読解しようする、すなわち読もうとする目線は必要で、それがない低品質な、あるいは無価値な批評に接したことが私にもある。たとえば、「長い」と、一言だけ述べる評者も実在し、私は出会ったことがある。別の事例で、女性のショーツをテーマにした作品を合評に提出したことがあるが、ショーツがテーマであるというだけで批評も感想も口にするのを拒否されたこともあった。批評では、そうしたことにならないよう、作者の意図を尊重してみることがまずは大事だと思うが、そのうえで、やはり作者の意図を無視して、作品と対峙することも同様に重要であると思う。作者の意図を無視して読まないと鑑賞できないが、そう読むと実に素晴らしい作品も多いからだ。
 例えば北園克衛の「単調な空間」は、なぜ助詞で改行されているのか? なぜ、と考えようともしないのであれば、あの作品の面白さには接近できないと私は思う。しかし、答えはあの作品を目にするたびに変わっていく。作者の意図を無視して、自分にとってこの改行はなぜこんなに響くのか、と驚嘆しないと鑑賞が始まらない。
 それほど極端でなくとも、読みとった作者の意図を無視して、自分にとってはあるフレーズが何を意味するかを読んでいくことは、むしろ日常的な所作であるし、有益でもあると思う。

【感動、作品に心うたれること】
 私の場合は、「すてきだな」と思うか思わないかの言明が、主旨や思考としては批評のほぼ全てであり、前に述べた二つの項目は、その説明又は過程に過ぎない。言葉数としてはそうならない場合の方が多いのだが。もちろん、すてきかどうかは表面の意味においてだけではないし、言葉の表面の意味ではその逆である場合もある。
 この側面では作品と作者を分離することは行われないし、読者と作品の分離も別に必須ではない。作品に用いられた言葉の意味すらも直接は関係ない。

【追記】
 詩の鑑賞について、私なりに三つの側面について語ったが、二三の追記を付す。
 まず解釈についてだが、どれほど精密に、どれほど膨大な可能性を考慮して作品を解釈しても、ある人が選んだ解釈が唯一の解釈であり、他に妥当な解釈ができない、という事は詩作品では起きる可能性がほとんどない。ごく普通の意味でもそうなのだが、加えて詩作品では句読点、改行個所、余白、各行の長さ、配置の形態など、音となる文字以外の要素も解釈の対象になるからだ。
 だが、ある解釈に対して、別の解釈の妥当性を主張することは可能な場合がある。たとえば「いぬ」と書かれた個所を、名詞の犬と解するか、動詞の活用形の「去ぬ」と解するかは、議論することが出来る場合がある。それでも作品全体を通じれば、同じ解釈に至ることはほぼない。

 作者の意図から離れて、作品を鑑賞する場合にも、当然ながら様々な鑑賞が存在しうる。これは説明の必要もないかもしれない。それは対象作品を素材化し、あらたに創造を行うことを伴うからだ。

 感動についても同様である。同じ感動はない。
 しかし感動については、ある作品がとくに面白くなかった場合に、他の人がその作品にいたく感動しているのを聞いたり見たりした瞬間、唐突に自分もその作品に心打たれてしまう場合があることを追記しておく。これは合評でも起きるが、私の経験では朗読会でもしばしば起きる。読むことは読み手の感動を言外に伝達するからである。

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批評・論考

わからないことからはじまる詩作の自由

詩は「わかる」ために書くものではない。むしろ「わからない」ことから始まる。言葉を分解し、無心に組み直すことで、意味ではなく感覚が立ち上がる。そのとき詩は、伝達ではなく接触となり、読み手にとっての鏡や触媒となる。


・わからないものへの切り込み方

なにが書かれているのかわからないものを読もうとするとき、どう切り込もうか、いつも考える。まず探すのは、わからないものの中にある「違和」だろう。

それは文体の変化や語彙の選択、論理の飛躍かもしれない。テキストの中には何かしらのパターンや秩序がある。それを違和感として無意識に探っているのだ。

その違和がとても違和だったとき、それは作者が意図的に残したものではなく、むしろ消そうとしても消せなかった何か——最も本質的なものが宿っているという感覚がある。その痕跡が詩に馴染んでいるかどうか。



・接触という楽しみ

結局のところ、作者がなにを言いたかったのか、詩がなにを伝えたいのか、ではない。わたしがこの詩に対してどう掴んでいくか、どう触っていくか。わからないからこそ「まだ見えていない構造」への入り口を自分で設定する。楽しむべきは、接触だと思う。

芸術を見るように鑑賞するのか、文学を読むように納得するのか。書き手の癖としても、読み手の癖としても偏りはある。その中でやはり、自分の思っていない方向が現れることを素直に楽しめるかどうか。意味を重視して書いている人は意味を探してしまう。自分の傾向を自覚した上で、あえて真逆のアプローチを取ってみる。そうすることで「自分の思っていない方向が現れる」瞬間を楽しめる。

間違っても問題はない。詩に近づきすぎても遠すぎても、気づきは得られないかもしれない。その距離感。一連を取っても、コトバの並びを見ても、まるで楽器の調律をするみたいに、詩との間合いを微調整していく。その「ちょうどよい距離」は詩によって、その日の自分によって、きっと変わるものだ。



・書かれていないものを読む

書きたいことが見えない、何も訴えてこない——それは、書かれていることから書かれていないものを想像できないからだ。鑑賞者であれば、作者の意図とは無縁の世界にいるべきなのかもしれない。

詩の中を歩こう、詩に触ってみよう。この完成品ならば、どういう方向に読み手は引っ張られるだろうか。その道筋を自分の中で立てておきたい。それが裏切られるから、全く予想がつかない方向へ読み手は読解するから、作者として考える価値をいただくものだと思う。

詩という完成品の向こう側にいる人間、その人の癖や迷いや、思わず露呈してしまった何か——詩を通して人間そのものがにじみ出てきてしまう。なにを書いたのか、ではなく、なぜこうなったのか。なぜこうでなくては成立しなかったのか、を作品から逆算する。



・読み手に委ねること

「言いたいこと」は、読み手が勝手に読み取るものだ。だから作者は逆に、読み手を引き寄せるように、覗かせるように仕掛けなくてはならない。読み手が自由に触れるように、風通しも、オブジェクトも、モノやコトも、そうあるように配置する。どこかなにかに触れ、読み手それぞれになるだけ。

詩が読み手を変容させるのではなく、読み手がその詩に触れることで、より深く自分自身になっていく。詩は鏡のようで、触媒でもある。



・詩にしかできないこと

散文で説明できること、エッセイで明確に言い切れること、小説として具現化できるなら、わざわざ詩にする必要がない。でも、どうしても一つの言葉に収まらない、立ち上がってくる何かがある。だから詩という形を取らざるを得ない。

詩に近づきすぎてはいけない。かといって遠すぎてもいけない。難解・わからない、のひとことで終わっても、それでいい。無理に理解してもらう必要もないし、万人受けを狙う必要もない。詩自体が人を選ぶ。なにかしら楽しんでくれたらいい。理解されなくても、評価されなくても、ただ楽しんでもらえれば。

その楽しみ方も人それぞれで。手探りを楽しむ人もいれば、音の響きを楽しむ人もいるし、わからなさ自体を面白がる人もいるだろう。



「意味の伝達」ではなく「感覚と自由の共有」に重きを置く。読み手に委ねられ、詩そのものが人間のように「生きて」変容していく。そのプロセスを楽しむことこそが、詩の醍醐味なのだと思う。

2025-08-28初稿
2026-03-05改稿

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批評・論考

『詩』春のはじまり

陽ざしが ゆらゆらと柔らかく
黒く 固い 大地を
やさしく 温めはじめる

冷えた 空気は
少し 驚いたように
ほのかに 色めき
うごきだす

梅の花の 小さなつぼみも
鳴くのが下手な うぐいすも
春という名のもと
すべてが ゆっくり
ひかりを 分かちあい
ゆるゆると 解けあう

「春が来た」という 言の葉に
「春は誰が呼ぶの?」と
無邪気に問う
幼子の手を握り

春は万物の
命の芽吹きのチカラが
呼ぶのだと
ひとりごちながら
ふたり歩く
春 まだ浅い さんぽみち
うららかな 春のはじまり

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白のスケッチ

殴られた場所がヒリヒリする 白線には乗らない ベルが短く鳴れば 指紋がひかりを散らす 風紋という言葉があるけれど 詩のなかでしか見たことがない/今年は京都にも雪が降った(こんなに積もったのは数年ぶりかな)(数年って何年?)さあ…… 

ちべたいちべたい雪が降っても たばこはベランダで吸う(引っ越しのとき怒られるし)(というか、引っ越し前提でない家に住んだことがない)でもずっと京都だ ついのすみか ついのすみか (私はどこで死ぬのだろう?)

最後に会った日のあなたは雪だるま作って いい年してベタなことするのって良いよねと(ハニカミながら)言った そうだねと言ったと思う そのあとのセックスはとても気持ちよかった(昔のセックスほど鮮明に思い出せる)紙があればどこでも折り紙を作るクセ、直ってないと良いな これはほとんど祈りのような気持ちで

記憶のなかのふるさとにはいつも雪が降っている べつに豪雪地帯ではなかったけど

何年ぶりかにつららを見た 天井から(というのも、アパートの最上階に住んでいますので)雪の解ける音が聞こえる 雲がサーッと退く時間が好きだよ 昔、書きかけて諦めた論文に、もう一度取り組みたくなる (arXivで検索すればなみたまくんの論文がたくさん出てきて、わたしも!わたしも!と思う) 広告が風でめくれて 帰りの電車が来て ゆっくりと列がほどけていく

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小さな星の軌跡 幕間話 始まりの いっぽ(1年前の思い出)

裏通りの 初めての お店
その 棚の隅っこ
コットンだけの棚を そっと

薄い水色に
刺繍の星が五つ、六つ

その横で
菫が 小さく息づいてる
紫じゃなくて あわくて 優しい菫色
指でなぞると
糸の凹凸がくすぐったい

「これなら 誰も気づかない
でも わたしだけ 知ってる」

試着室の うちがわ
わたしの 小さな うちがわ
温かくなる うちがわ

星は静かに 瞬いて
菫は 微笑んでいた


袋の口には リボンの封が
やわらかな紙の音は
秘密の囁き

今日から
わたしのブラウスのしたに
小さな宇宙と花畑が
一緒に ひろがる

星は 鼓動と共に 震える
菫が 呼吸に合わせ 花弁を広げる

わたしが 初めて 選んだ
わたしは 初めて 知った

これが わたしの いっぽ
踏み出した 小さな その先で
ふわりと 風が 通り抜ける

少しだけ もちあがった スカートが
わたしの 始まり。

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11号の魔法

ストッキングが張り付いて
思い出したように足がむずむずした

スーツの角ばった肩のライン
まっさらでパリっと白いシャツ
ちゃんとした服を着れば ちゃんと見えるもんだなあ
前髪をしきりに整える 猫背が自然としゃんとする

母は私をくるくる回しては
離れて見てを繰り返す
更衣室の鏡もしぱしぱ瞬きをして
私の影で暗くなったり光ったり

痛んだ髪と覚えたてのメイク
取り外しできるシャツのリボン
変身ではないけれど
纏ったささやかな魔法

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ツギハギだらけの心縫うように

かわいげのない子どもでした
大人のずるさを知ったのが3つの頃で
上目遣いで人を見るようになったのが5つの頃でした


かわいげのない子どもでした
こっちへ行けば ばあさんにそっくりだと拒絶され
あっちへ行けば あの女にそっくりだとぶん殴られ
この世に味方なんかひとりもいないことを悟ったのも
ちょうど5つの頃でした


大人の顔色ばかり伺うようになって
自分のホントの気持ちがよくわからなくなったのが6つの頃で
下ばかり向くようになったのが8つの頃でした


ぐっすり眠れたためしなんて一度もないし
いつも何かしらが壊れる音が聞こえてきて
あゝ これは間違いなくこの家族が壊れていく音だと
浅い眠りの中でぼんやり考えていたのが9つのころでした


妙に冷めた子どもだったと思います
大人のしていることを ただ黙って
じーっと見ているような子どもでした
どっちの味方とか敵とか
バカなんじゃないかとさえ思っていました
その一方で関心をひくために 勉強がんばって
関心をひくために テストでいい点とって
だけどいつも間違ったところばかりを責められるばかりで
褒めてくれることは 一度たりともありませんでした


ホントの気持ちなんて誰にも見せないし
見せてしまったら 何をされるかわかったもんじゃありません
顔色を伺い 余計なことは云わないように
怒らせないように 怒らせないように
それが私の 生きる最後の手立てでした



     はやく死んでくれたらいいのに
     どこかで事故にでも遭わないかな
     どこかのやさしい殺し屋が
     あいつのどてっぱらに一発ぶっぱしてくれないかな
     そんな妄想にばかりふけるようになっていき
     いつしか 自分で家に火を放つことさえ想像していました



私の精神は徐々に壊れていき
まるで気の抜けた炭酸飲料のように
何もかもが無意味に思えてきて
もうすべてどうでもいい
どうせ最初から壊れてるんだから
いっそ何もかも捨ててしまおう
それで楽になれるのならそれもいいじゃないか
私が背負い込むには その荷物はあまりに重すぎました
押し潰されそうな心を平常で装うのにも疲れ果て
それがちょうど15の頃でした



こんな話したら 不幸自慢とか自分可哀想と思ってるとか
そんなふうに云われてしまうかもしれませんね



でもね だけどね 
自分の詩でくらい 本当のことを云ったっていいじゃない
本当のことを描けなくなったら 何が詩か
なんてね ちょっと開き直ってみたりして
解ってほしいなんて そんな図々しいこと望んでやしません
だって外は昨夜から降り出した雨が いまだ止まず降り続いて
おまけにこの部屋は なんだか
とっても湿度が高くて不快だから
ただ話してみたくなっただけなの
それだけのこと
そう ただそれだけの




かわいげのない子どもでした
繋ごうとした手を振り払われる
普通にしているだけで
自分といるときと顔が違う
嬉しそうにしやがって と



大人になったら 
少しは楽に生きられると思ってた
あの人たちから離れさえすれば
自由に生きられる
そう思って耐えてきた
つもり



けれども いまだにうまく呼吸できないのは
いまだ どんな顔をすりゃあいいのかわからないのは
一体?



     私は あなたを気持ちよくするための道具じゃない
     私は あなたの愚痴文句を吐き捨てる掃き溜めじゃない
     私は あなたの憎むんでいる親父やばあさんや自分の兄妹じゃない
     私は あなたのサンドバッグじゃない
     私は あなたを気持ちよくするためにいるわけじゃない



あなたがいままで生きてきて味わってきたツライこと
そっくりそのまま私に返すのは もうやめてください
あなたのその悲しみや苦しみ 怒りや憎しみといったもの
向けるべき相手が違うでしょうに
それじゃ やってることは
あなたがされてきた憎くて憎くてたまらないそいつらと
まったく一緒じゃない


なんてね 


いくら云ってみたところで通じる相手ではないから
あなたには 私の声は聞こえない 届かない
頭いいひとには敵いませんよ
そっくりだ よ~く似てるわ
ふたコト目には それですもの


云えば云うほど 虚しくなるばかり


ただ塩っ辛いだけのコトバを呑み込んで
生焼けだらけの なんだかよくわからない思いを
無理くり押し込めて
だからいつだって心はカラカラで
甘い甘~いジュースばかり欲しがってしまう




かわいげのない子どもでした
なにをしてもしなくても
最初っから いらない子
最初っから 過ちの子


間違いでも過ちでも
生きていかなきゃならないのなら



そろそろ 自分いじめはもうやめにして
ツギハギだらけの心縫うように


生きてみようと思うのです



しなやかに
したたかに





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枯れぬ欲は破滅

赦しを請うのは自己での完結
朱を熱する
己のみ満足を得られる
罪の意識は気づかずに染みになっている

小指の先から侵入したガラスの破片は血管の移動をやめず
心臓を破裂させる

人差し指、撫でる背骨との距離
これは触れているのか
否、触れていない

欲は鷹
雀になりたかった

川に飛び込んだ烏の翼は渇きを知らず
とても気分がいい
お似合いだ

苦痛はオオルリ
裏切りはカナリア

燕が育む雛鳥
巣食いの敵

鋏で断つは赤いハンカチ
断ちたくないのは赤子の雑巾

願え銀の匙
感情は黒く染まる
瞳は乳白色

欲は地球の重力を遥かに超える
月が近づきすぎた
突き抜けて天の川銀河に放り出される

右手は少しだけ生きていたように見えた
現実は凍った薬指

欲だけが残留
それだけでは足らず親指すら崩壊していった

それでも尽くことを知らない

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オフィーリア

さびしいのは
人々が解剖する言葉ばかり持っていて
この丘から見える景色をビョーキと呼ぶこと
並んで座ってくれないこと
それをやさしさだと信じていること
いかがわしい愛の行き場が
思春期病棟のシーツのしみであること
しかし聖なる倒錯者の行進が荒れ野をいけば
普通人などダイヤモンドの泥の底
人はたましいの強靭ゆえに狂うのだから
オフィーリア  あなたの乱心のなんと気高く
たくましかったことか
あざ色の小川を死へと流れる女たちよ
柳の枝のような人の命よ
やがて女の共同墓地に光がふる
(ほのぼのと暗い擬似恋愛の水で濡れた髪を
自分自身で拭いてやると季節が匂いたち
言葉を捕らえることができた
父よ 兄よ 娘は妹はついに誕生したのだ)
尊いもの狂いとすこやかなかんばせの
オフィーリア
そして詩と聖娼めいた血肉の私よ

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うさぎのラブレター

ボーイフレンドよ
きみがもし来年の春もいるなら
ほかの誰もはいることがないように
不器用でいいから繕っておいてください
男なんかに負けるな
犯してやるくらいのつもりで
生きていけと祖母と母には教わったのに
ほんとうは野うさぎみたいに柔らかくて
きみやほかの人の両手におさまりたいし
ときになすすべもなく
目を赤くして泣いていたい私は
守りきれなかった感受性と
束ねられてしまった自分自身を
むごたらしい音をたてて引きずっています
凛とした
という男の人に使わない形容動詞が大嫌いで
溶けたバターのまなざしの中だけ生きられる
血だらけのうさぎとしてです
きみはきつねに似ているから
最後まで食べてくれますね
私の部屋の掃除も
目玉焼きの焼き加減も覚えてくれますね

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隔壁と曲率



都営大江戸線の
リニアの唸りが
僕の背骨を裏返し
鋼鉄の隔壁へ
貼りつける

摩擦
火花
三万ボルトの血流

僕の皮膚は
トンネルの曲率に従って
鈍く湾曲し
暗闇を削りながら
速度だけを覚える

持続する意識は
合成樹脂にしがみつき
結露となって宿り
滴り落ちる

誰のものでもない
掌の熱を
自己だと
誤認しはじめる

僕は
都市の構造材
君は
排気口から吐き出される
百合の吐息

剥き出しの鉄筋が
君の肋骨と交差し
世界と僕の境界は
溶接される

すべては
ひとつの
巨大な
震える器になる





合成樹脂に絡まった
指の隙間から
したたり落ちるマゼンタとイエロー
この車輌には
パラノイアしかいない

深海トンネルの曲率が
限界を超えている
リベットに癒着した
私の背骨が
プロメテウスの生首を
要求している

加速
減速
加速
加速する意識
折れ曲がる腕と脚と首
振動する欲動
ネイルオイルと交配する
三万ボルト
の電流

(ゴールドマンサックスの複眼が燃えている)

排気口から漏れる
百合の唾液は
あたたかく

六本木、麻布十番、汐留、門前仲町

穴子飯、鰻飯、深川飯

 アア
 モウ
 ボクタチハ
 トエイ
 オオエドセン
 ノ
 イチブ
 ナノデスカ

コンタクトレンズの皮膜が
地層を這いまわる
曲率が
無数の人体にからみつき
揺さぶっている
毛細血管から溢れだす
用途不明の液体

次々に生まれる
湾曲に沿って
構造材にすがる
烏賊が数匹

君らの内壁は
都市のふるえる
粘膜

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(よしよしいい子だ、 これはただのゲームなんだからね!)

白濁の雨に降られ
言葉をくべられても
私は浄いままの火だ
彼らの指は探りあて 損ない
絶やせるまでには器用でなく
働き者のかたい皮膚ももたない
これは生き物のかたちの火
フェミナの喪の週のように痛ましい炎と
獰猛の煙たつ火だ
記憶の莢膜たる身体の奥のマントル
地球の腰の炎 彼の罪 ながらえた霊魂
ふるさとの町を焼きつくすほど燃えている

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三通の手紙

みなさんへ
すみれの花を摘むように私を見つけても
どうぞ心まで抱かないでください
愛されても愛されてもあなたがたは壊すから
コンソメスープにされるのを待つ
たまねぎの欠片たちにしないでください
心は一つだけあればいい

×××さんへ
心だけ抱いてください
本当はまだ白雪の心をよごれた足で踏んで
そのエレガンスの
ただ一つのしみを私に伝染してください
二十五歳のさもしいヴァージニティの奥に
自己愛的に放ってください

お父さんへ
あなたが私を抱きしめてくれた
取り戻せない毎日のために夜泣いています
そして孤独な子どものたやすさを知る
大人たちを懐かしんでいます
みんな少しずつあなたに似ていて
諦めることができなかった

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明日明後日幸せだって

私は、いつだって、幸せなのです、今日は、満員電車の窓から、ひまわりの花が見えました、黄色くて、とても大きい花です、りかちゃんはそれをきれいと言ったので、私もキレイと言いました、ねえ。

みて

みて


みて

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ピクトグラム

まばゆいほどに男ぎらいな私の祖母は
女らしさからの自由をめがけ
なよなよしい孫娘をつかんで投げる巨女
だから孫娘は放物線を描いて墜ちて死ぬ
女らしさへの自由 自由 自由とつぶやいて
まちの真ん中を熱い血で濡らす
うしろめたい幸福つまり初恋やラブレターや
まなざしの記憶が流れて失われるときも
ビルのトイレのピクトグラムは
脈々と正しさの色をしているだろう

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冬隠

胸中覆っている雪
季節が変わり染み入る傷み
見つめる眼が
外衣のごとくおおいつくす。

水花 咲きたりき。

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「新作エヴァ」論考

「書くしかなかった」という言葉は、表現者にとっての救済であると同時に、呪詛でもある。
『エヴァンゲリオン』という巨大なテクストの集積体に、新たな「完全新作」という楔が打ち込まれる。シリーズ構成・脚本にヨコオタロウ、監督に鶴巻和哉と谷田部透湖。この布陣が告げるのは、既存の物語の延長ではなく、物語という概念そのものの「解体と再構築」だ。
私たちが今、この報に接して筆を執る時、そこには二つのエゴが交差する。一つは、内なる欠落を埋めるために言葉を紡がざるを得ない「表現者のエゴ」。もう一つは、その個人的な痛みをエンターテインメントとして消費し、解釈を下す「観客の特権的な視線」だ。
この両者が孕む矛盾を解きほぐすためには、まず『エヴァ』という作品が歩んできた多層的な構造と、そこに宿る「擬似的な生命感」を直視しなければならない。
『エヴァンゲリオン』は、当初から一人の作家の私小説的な色彩を帯びていた。しかし、その結末が変遷する中で、物語は作家の手を離れ、公共の「共有地(シェアワールド)」へと変質していった。漫画版、そして『新劇場版』。これらは、同じ「碇シンジ」という依代(よりしろ)を用いながらも、異なる地平を目指した「公式による二次創作」の連鎖であったとも言える。
ここで重要なのは、エヴァにおけるシェアワールドとは、単なる設定の共有ではないということだ。それは「世界をどう認識し、どう絶望するか」というクオリア(感覚的質感)の共有である。筆者が「書くしかなかった」と吐露する時、その筆先が触れているのは、公式設定の整合性ではない。かつて誰かの母子手帳に綴られた切実な日記を盗み見てしまった時のような、属性も経験も超えて心臓を掴む「何か」だ。その「何か」こそが、シェアワールドという名の荒野に、私たちを繋ぎ止めている。
ここで、一つの心理学的なアプローチを挿入したい。それは、ファービーのような玩具に宿る「機械的な人間性」への愛着である。
ファービーは、あらかじめプログラミングされた限定的な反応を繰り返すだけの機械に過ぎない。しかし、私たちはそのぎこちない瞬きや、文脈を無視した発話に「意志」や「魂」を幻視してしまう。これは、対象が不完全であればあるほど、受け手が自らの想像力でその空白を埋め、対象を「人格化」してしまうという心理的機序に依拠している。
『エヴァ』という作品もまた、そうであったのではないか。不器用な対人コミュニケーション、欠落した自己肯定、繰り返される再起動。キャラクターたちが抱える「機械的なまでの反復性」こそが、かえって私たちの親近感を逆撫でする。私たちがシンジやレイに覚える共感は、血の通った人間に対するそれ以上に、自律的なアルゴリズムが時折見せる「偶然の人間らしさ」に対する、切実な祈りに近い。
シェアワールドという舞台において、表現者はこの「機械的な器」に、いかにして新しい魂を仮託するかという問題に直面する。ヨコオタロウという作家は、まさに『ニーア』シリーズ等で「魂を持たないはずの機械に宿る、あまりに人間的な痛み」を描き続けてきた。彼がエヴァに触れるとき、それはキャラクターという「設定の機械」に、私たちの「血の記憶」を接合する作業となるだろう。
創作には、主体の真実と言語表象の間に、原理的な不一致(ディスクレパンシー)が横たわっている。私たちが「悲しい」と書く時、その言葉は既に、内なる純粋な悲しみから剥離し、記号へと堕している。表現者は、この「言葉にした瞬間に嘘になる」という背理を自覚しながらも、なお自らを裏切り続けなければならない。
今回の新プロジェクトにおいて、表現者に求められるのは、中途半端な自意識を焼き尽くした先にある「徹底した自己欺瞞」である。
「これはエヴァである」という記号性を利用しながら、同時に「これはエヴァではない」という破壊衝動を同居させる。すべてを識りながら、初めて世界に出会う無垢な振りをすること。あるいは、過去の蓄積すべてを「識らないことすら識らない」空虚へと突き落とすこと。この極北にのみ、真実の熱量は発現する。
ヨコオタロウという作家は、常にシステムによって疎外される個人を描き、プレイヤーに「取り返しのつかない選択」を迫ってきた。彼は、エヴァが抱え続けてきた「母性への回帰と決別」という主題を、自らの自己欺瞞によってどう歪め、どう純化させるのか。それは、機械に人間性を幻視する私たちの「愚かな愛おしさ」を、残酷に暴き立てる行為になるかもしれない。公開という選択をした筆者のエゴ。それは、観客という巨大な他者に、自らの内臓を晒す行為に等しい。
消費する側は、安全な特権的視座から、その内臓の色や形を論評する。この非対称な関係性の中で、表現者が正気を保つためには、やはり「書くしかなかった」という不自由な必然性に逃げ込むしかない。
新プロジェクトとしてのエヴァが、どのような結末を辿るのかはまだ分からない。しかし、確かなことが一つある。
それは、どれほど優れた脚本や映像技術が注ぎ込まれようとも、最後に残るのは、作家が自らを偽り、裏切り、それでもなお残ってしまった「不純な熱量」だけだということだ。
私たちは、その熱量を浴びるために、再びこの残酷な天使のテーゼが流れる場所へと集う。
それは、かつて誰かが遺した母子手帳を、あるいは電池の切れかかったファービーの最期の言葉を、自分の物語として読み替えるための儀式である。書くしかなかった。読むしかなかった。その極北に、私たちは再び、魂のクオリアを幻視する。

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批評・論考

模索を放棄、停止

鉛筆を手に取る
紙は今か今かとこちらを見ている
 
唸り声
 
紙は本当に自分を見ているのか
鉛筆はとがっているのか
 
耳鳴りが頭に響く
 
呻き声
 
鉛筆を床に転がす
髪を破く
 
これは私の自由だ
これは私の意思だ
 
破壊的なものでも衝動的なものでもない
ただ紙がそこにあっただけだ
 
生きることは紙を破らなかったことにしてしまうことだ
破壊を拒んでいる
 
生きることがどういうことなのか人は死を持ってもしても知ることはない
 
どう生きて行くかは想像もつかない
それに耐えられることもできない
 
正しく生きるとはなにか
見当もつかない
 
私は憎悪を変換して得になることをできるほど強くない
裏があるのだ
そこには魂胆が隠れている
 
勘繰る
 
無知は無限に広がる探究心の大元だ
その一歩は難しく手を伸ばせない
それを超えることが可能ならばひとつ私は前進できるのか
 
機械的な音が耳をつんざく
思考の邪魔だ
無音は煩くて仕方がない

わずらわしい

無音の中での空気の振動は鼓膜を破壊してしまうのではないか
無音がうるさい
ぴーぴーと耳の中で反響する
 
意思は存在するのか
 
振り返って私はそれを理解したい
前は見ていたくない
過去だけでいい
 
忘却はそこでおしまい
 
私は前進することを諦めている
ここで終わりなのだ
 
息をしていても頭を働かせても私は本当の死に向かっていたい
心臓の音はいつ、いつ止まるのかそれが待ち遠しい
 
自身がわからない
なら相手も私は理解ができない
私は何人いるのだろう
意識、他者からの観測
どれも私
 
人が好きでも自分が嫌いなのならば人のことは理解ができないだろう
 
大層なことは考えていない
私は欲求を満たす為に生きていたい
それは尽きることのない
だが興味を失うことは最も恐れることだ
 
批判を恐れるのは防衛
 
一歩を踏み出すにはそれ以上の恐怖がつきまとう
私はそれが恐ろしくも好奇心に抗うことができない
 
現実と向き合ったところで私は変わらない
本当にそうだろうか
目の前に死が転がっていたら私は取り乱すだろうか
死は安寧をもたらすものだと勝手にしがみついているつもりになっているだけなのか
 
それは本当に恐ろしいものなのか
誰も知らないのだから恐ろしいものなんて誰が決めたのか
終わることが怖いのだろうか
意識が何処へ飛んでいくかがわからないから怖いのだろうか
21gは何処へ向かうのだろうか
それが向かう先には何があるのだろうか
 
自身のすべてを知ってしまうのが終わりなのだと私はそう願う
だから私は終わらないのだと思わせてほしい
意識が途絶えたとしても

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欲求の果て

全てを知ることは不可能ですか
その先にあるのは虚無ですか

私は全てを知りたいのです

そこには何もないのですか

髪はさらさらなのですか

ほんとうにそうなのですか
全てを知ることは本当にできないのですか

私の頭は壊れてしまうのですか

容量に限界はほんとうにあるのですか
髪がさらさらなのは事実ですか

事実は存在するのですか
本当のことは実在するのですか

生が終わった瞬間に全てを知ることができるのですか

髪がさらさらなのは事実ですか
それすら分からないのですか

星が輝いているのは本当ですか
光は本当に速いのですか

知ることは怖いことですか
手に取ってしまったら失望してしまいますか
こんなものかと落胆してしまうのですか

知ることをやめられないのです
ですが辿り着く先は虚無なのだと思います

髪がさらさらなのは事実ですか
私が見ているものは事実ですか

他の人の思考に触れることは不可能なのですか

知ることはやめられないのですか
脳みそはとまってしまいますか

全てを知りたいのは傲慢ですか

髪がさらさらだと誰が決めたのですか

私は誰なのですか
それすら分からないのですか

汚いことは悪ですか
綺麗なことは正しいことですか

自身で完結する連想ゲーム

それは誰が理解できるのですか
理解を求めることは傲慢ですか

人はなにを求めて生きていくのですか
死は停止ですか

停止は本当に止まっているのですか
誰が死が終わりだと決めたのですか

誰も知らない
誰も知らない

その先に何があるのか知らないのなら断定はできないのではないですか
死は本当に終わりですか

髪が靡くのはさらさらだからですか

幼子の描いた絵は価値はないのですか
巨匠が描いた絵と何が違うのですか

髪はさらさらですか

靡く、靡く、靡く

存在とは何なのですか
ここには誰かいるのですか
目に映るものは本当に存在しているのですか

私は存在していますか
私は、事実は、存在するのですか
誰が証明をしてくれますか

死は終わりだと思いますか
生は始まりだと思いますか
誰しもに訪れるそれは最大の恐怖ですか
その先には何もないのですか
死は本当に終わりなのですか

最大の恐怖は知ることを辞めることだと思います

靡いたのは髪ですか
それはさらさらでしたか

正しいことは存在しますか

知ってしまうことはある種の死だと思いませんか

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学校ぎらい

薄暗い部屋で息継ぎするように
自分を塗りつぶす言葉を必要としたきみは
見えざるピンクの詩を書いていた
きらめく失血 幽体離脱のおまじない
生まれつき身体のない人の身体
逃れることなどできない
教育はときに所有に似て
不躾な視線に眺めまわされるという美徳で
秋の夜長の喘息発作で
甘く苦しい関心がきみを見ているのだ
帰りの会で男の子の名前を言うと
赤面するきみを
国語の時間当てられるたび
吃音するきみを
先生は可愛がってくれる
博物館の小鳥として死んでいる
病気の子どもの青白い頬へ
褪せた唇へ彼は手を伸ばし
逃す気などないくせに逃げておいでと言う
やがてきみは学校ぎらいになる
大人の男をきらいになる
生きのびるためにばかになる

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詩の生態学

読んでいる新聞までもちがう私が入れた
昇り龍のデジタルタトゥーや
夜の森のうねりや
小鳥から象 象から小鳥へと上下する身体や
宇宙の果てない裂け目に墜ちる時間が
指先の詩の卵 シラミの子
さびしさの缶詰を開けて
かれらを逃がしてやるとき
薹が立ったニンフェットの
無垢なままに邪悪なファンタジーが孵化する
香りの良い血反吐のようなものである

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因果掌都市

 街は光と霧に溺れていた。ネオンの海を滑るドローンの群れが、空中を細かく切り刻むように飛ぶ。ビルの壁面に投影される広告は、瞬時に情報を書き換え、街の因果を微細に撹拌していた。

 彼は掌を差し出す。指先の電子触覚センサーが微振動し、空気中の因果の粒子を捕捉する。都市全体のログが彼の神経網に流れ込み、ひとつの“事象の点”が選ばれる。通りの一角、雨に濡れた自販機の前で、ひとりの少女が立ち止まる。彼女が傘を開く瞬間、掌から微かな信号が流れ、数分後の列車事故をわずかに回避する因果が書き換えられた。

 地下では黒い網のような回路が蠢き、影たちが情報を掬う。彼は座禅のように目を閉じ、掌を軽く回すだけで、都市の流れの中に潜む「不確定性」を整列させる。時間の厚みが指先にまとわりつき、過去と未来が交差する点で微かな光が瞬く。

 建物の影に隠れた追跡者が、彼の掌の動きに気づき、息を殺す。しかし、彼の視界の中では、追跡者の存在もまた因果の一部であり、微細に調整された現実の中で予定された軌道を歩んでいた。

 雨粒が電線に落ちる音すら、計算の対象になる。ひとしずくの落下が、都市の片隅で交わる三つの出来事を結びつける。それはまるで、微かな風に触れた曼荼羅の一筆のように、世界の秩序をわずかに書き換える儀式だった。

 掌を開くと、すべてが元の位置に戻ったように見える。だが、都市の裏側では、ほんのわずかに異なる因果の波が広がり、誰も気づかぬ小さな奇跡を生んでいた。

 街は光の網目で振動している。高層ビルの間を飛ぶドローンが、情報の軌道を微細に書き換える。雨粒がネオンに反射し、都市全体を銀色の曼荼羅に染め上げる。

 掌を差し出すと、都市の各区画の因果エリアが浮かび上がる。ここでは、雨に濡れた路地、地下道、廃ビル、空中ハブ、すべてが独自の物理・情報プロトコルを持つ。彼は掌を動かすだけで、そのエリアに潜む小さな因果の波を整列させる。

 路地の少女は掌先の信号により、わずかに足を止める。数分後の落下事故が回避されることは誰も知らない。地下鉄の運行もまた、微細な手の動きによって遅延が微調整され、乗客の運命を連鎖的に変えていく。

 影の中、追跡者が息を潜める。しかし掌の中で彼の存在も計算され、都市の因果網に組み込まれる。交差する線上で、複数の偶然が必然に変わる瞬間、空気はわずかに震える。

 ビルの屋上では、別の観測者が掌を広げ、遠くの交差点の信号灯を読み取り、歩行者の軌道を微調整する。微小な変化が連鎖して、三つの出来事が一瞬で同期する。水たまりに映る街灯の揺らぎもまた、因果のアンカーとして働く。

 都市の中心、古い寺院の廃墟では、掌を閉じた瞬間に情報が圧縮され、過去と未来の重ね合わせが微かに揺れる。観測者は目を開くと、何事もなかったかのように歩く群衆を見渡す。だが、裏側では、数十人の運命が静かに書き換えられていた。

 雨粒が落ちる音が、曼荼羅の筆のように都市を描き、掌から伝わる振動が全体を整える。目に見えない因果の線が繋がり、都市全体が一つの巨大な「生きたマンダラ」となって脈動する。

 彼は掌をゆっくり閉じる。都市は静寂に戻ったように見えるが、微細な変化は残り、誰も気づかぬまま新しい歴史の分岐が生まれていた。

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 その頃、とある封筒が机の引き出しでひっそりと息を潜めて待っていた。

 河野はエレベーターの鏡に映る自分を、ぼんやりと見ていた。2次選考に向けた残業続きの疲労が顔に出ている。選考担当を任されてからもう3年目だというのに、頭のなかの、しばらく使われていなかった部分が無理に働いたような感覚に襲われて、心身ともにすっかりくたびれていた。

 凛と話していた最終候補作品の内容が、まだ頭から離れない。技巧の問題ではなく、どこか懐かしい感覚があった。自分の弱さを避けていない文章。避けていないどころか、顕著にしていると言ってもいい。作家自身もわかっているはずだ。白鷺文学新人賞の選考委員はここ数年変わっていないし、どのような作品が選ばれるのか。その傾向を外している。これまでの選考委員会の雰囲気を考えても、賞は、たぶん取らないだろう。それでも…

 河野自身、何とも説明のできない気分だった。出版社はもちろん、選考委員達も、自分たちがこれまでに選んだ受賞者がその後どのような小説を書いていったのかを見ている。「白鷺文学新人賞受賞作家 待望の新作」、と書かれた帯をまとい、2作目までは販売部数が伸びる作家がほとんどだ。

 しかし、問題はそこからだった。いわゆる「純文学」は現在の若者の本離れも影響し、年々売上が落ちていた。コツコツと自分の姿勢を変えずに書き続けながら、アルバイトをしている作家もいれば、家族のためにと、自分が書きたいものとは切り離し、読者目線の、速いストーリー展開重視に切り替えて書く作家。そして、志半ばで挫折し、それ以来書けなくなった作家のことも、風の噂で耳に入る。

 選考委員自身も、執筆に向けて、違う環境に身を置き、新しい知識や文化に触れることを大切にしている。それでも、絶対に譲れない軸は忘れない。だから、選考基準から少しずれることがあっても、心を揺るがす作品には必ず目が留まるはずだ。だから…

 もしかしたら、とんでもないミラクルが起きるんじゃないか?

 我ながらチープな言い方だと思いながらも、まるで高校野球の決勝戦を観る前のようにワクワクする気持ちが湧いてくるのだった。


 河野はポケットの中を探る。角の擦れた革のキーホルダーが、指先に触れる。鍵は2種類付いていて、1つは自宅の鍵、もう1つは机の引き出しの鍵だ。

 封筒のことを思い出す。一昨日届いたが、開封せずに机の引き出しに置いたままにしてある。封筒は、特別な紙でもないし、どこにでも売っている茶封筒だ。それなのに、差出人の住所と出版社名が印刷されているだけで、封筒は急に重さを持ったもののように見える。河野は差出人が印刷されている封筒の裏面を伏せるようにして引き出しにしまい、鍵をかけた。

 最終候補。

 その言葉だけは、頭のなかで何度も形を変えて浮かんでくる。河野はため息をつく。今は、開けない。自分の会社の新人賞の選考会が終わるまで。それが終わるまでは、まだ、選ぶ側にいる。まだ何も決まっていない。河野はキーホルダーをポケットに戻し、帰路についた。

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まんこ保存者

「はい。今日も1日が始まります。たまには先生の昔話でも話そうかなと思います。先生は昔、生まれました。母のまんこから出てきたのです。その時の記憶は先生にはありませんがそれは間違いないのです。」
 しゃしゃしゃしゃ
 たかとくんとさやかさんが小声で話しています。
 ギロ
 先生は話をやめて彼らを睨みました。
 しゃしゃしゃしゃ
 教室にたかとくんとさやかさんの話し声だけが響きます。
 はっ
 たかとくんとさやかさんは話をしているのが自分たちだけなことに気づき恥ずかしそうに話すのをやめました。先生は視線を前に戻し話を続けます。
「それはもう40年前のことで、みんなはまだ生まれていません。それに私が生まれてきた母のまんこももうこの世にはありません。燃やされてしまったためです。母は去年亡くなり、その死体は燃やされてしまいました。まんこも一緒に燃やされてしまいました。私のこの世への入り口はなくなってしまったのです。奪われてしまったのです。ですから、みなさんにはおすすめします。母親が亡くなったらまずまんこを切り取り、保存しておくのです、ホルマリンを買ってきてそのなかにつけておくのです。先生の話を終わります。」
「起立。礼。」
「ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
 朝の会は終わりました。

 1時間目は総合の時間です。みんなでクラスの目標を決めます。
「はい。今日はみんなで二学期の目標を決めますよ。まずそうですね。クラス目標に何が相応しいか意見がある人挙手してください。」
 パパパッ、手が上がります。
「はい。じゃ佐藤くん。」
 ガタッ、佐藤くんは立ち上がります。
「ええと、協力することが大事だと思います。みんなで協力していろんなことを乗り越えていきたいです。」
「なるほど。いいですね。」
 カッカッカッ、先生は黒板に『協力』と書きました。
「はい。次。ではたかこさん。」
「創造です。今までにない新しい雰囲気で新しい経験をしていきたいからです。」
「チャレンジです。」
「エンジョイです。」
「みなさんいいですね。どれも大切です。でも一番大切なのは今朝先生がお話ししたことです。私が生まれてきた母のまんこはもうこの世にはありません。燃やされてしまったためです。母は去年亡くなり、その死体は燃やされてしまいました。まんこも一緒に燃やされてしまいました。私のこの世への入り口はなくなってしまったのです。奪われてしまったのです。みなさんにはこんな思いはしてほしくありません。ですので、2学期の目標は『お母さんが死んだらまずはまんこを保存しよう』とします。いいですね。」
 わーわーわーわー!!
 クラス目標が決まりみんな大喜びです。目標は、早速次の日から黒板の上に表示されました。
『お母さんが死んだら、まずはまんこを保存しよう』

 次の週は参観日でした。大勢の親御さんがクラスにやってきます。国語の授業でごんぎつねをやっていました。
「ごん、お前だったのか...」
 めそめそめそめそ
 先生が泣き始めました。保護者は授業を見ています。じじじっ。子供達を見ています。じじじっ。そんな中たかとくんのお父さんが黒板の上を見ました。じじじっ。
『お母さんが死んだらまんこを保存しよう』
 と、掲げられています。
(これは、変だ!)
 ビビーン!!
 たかとくんのお父さんは思いました。お母さんにも知らせます。
「おい、あれ...」
 黒板の上を指さして伝えます。
「なに...?」
 ビビーン!!
 お母さんもおかしいと思いました。
「ありがとうございました!」
 授業は何事もなく終わりました。しかし、たかとくんのお父さんとお母さんは釈然としません。先生に質問するべきだと思ったのです。
「すみません。たかとの保護者なんですけど...」
「あら、たかとくんのお父さんとお母さんですね。今日はお忙しい中来てくださりありがとうございました。きっとたかとくんも喜んでいますよ。」
「はい。素敵な授業でした。しかしですね。あの、黒板の上にある『お母さんが死んだらまんこを保存しよう』というのは、なんなのでしょうかね。」
「あ、それはクラス目標ですよ。」
「ちょっと、不適切じゃないですか。なんでこんなのが小学校のクラスの目標になるのですかね。」
「はい。説明させて頂きます。まず、私が生まれてきた母のまんこももうこの世にはありません。燃やされてしまったためです。母は去年亡くなり、その死体は燃やされてしまいました。まんこも一緒に燃やされてしまいました。私のこの世への入り口はなくなってしまったのです。奪われてしまったのです。ですから、みなさんにはおすすめしているのです。母親が亡くなったらまずまんこを切り取り、保存しておくのです、ホルマリンを買ってきてその中につけておくのです。」
「そんなこと、ないと思いますよ。人生は出会いと別れの繰り返しです。母のまんこにしたってそうです。私の母も一昨年亡くなっています。それぞれのこだわりがあるのはわかりますが、母のまんこが焼かれてしまったことに対する後悔はありませんでした。教育方針として間違っていると思います。」
 たかとくんの父はキッパリと言いました。 
 ワナワナ、ワナワナ
 先生の顔はみるみる険しく、そして赤くなって行きます。
「お前ら人間じゃねえ!」
 先生は吐き捨てたように言い、去って行きました。
「変な人が息子の担任になってしまったわー!!」
 たかとくんのお母さんは思いました。先生のことはまんこ狩り師と呼ぶようにと、たかとくんに教えました。

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モーリス

明日三十一歳になるはずだったのだね
黒いコッカースパニエルのような髪に
これから鼻をうずめられないし
やがて君の歳を追い越してしまうのだね
もういない人よ
君の顔立ちは九州の青年らしく
渓谷に似ていた
君の肌は夏 赤銅色に灼け
君の手に触れられた頬は熱かった
君という人はいたのに
いま私の隣には誰でもないが座っている
がらんどうに寝盗られてくやしくはないのか
せめて明け方の夢にでてきてくれないか

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好きなひとに
好きではないと言う
あのひとはわたしが好きだから
余計わたしに執着するようになる
だから
わたしも好きだとは言い返せない
その執着をどうしても失いたくない
それどころかその想いを迷惑そうにする
ほら
失えないものが絶対に失われない枷になる

あの人は私を好きではないとつめたく言う
まるで本気でそう思っているかのように
けれどその眼差しだけは嘘をつけない
そんな熱を帯びた眼で見詰めて
あの人の想いは丸分かりなのに
けれど
その嘘がなんの為なのか
理解出来てしまうから
あの人からは決して
離れられない

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まだ

あなたはわたしを
怖い
と言う
草花は
ひとつも揺れず
土踏まずは
重さが違うと言って
昨日を睫毛に
ひっかけたまま

あなたはわたしを
怖い
と言う
瞬く画像は
四捨五入を促し
秒針でさえ
俯き
昨日と今日を
行き来するのに

目を閉じても
あなたは
音を見上げ
明日のうたを
選び続け
わたしだけは
降りて行く

あなたはわたしを
怖い
と言う
鳥は昨日を目指して
空に落下し続ける

動き出したあなたの
足音が

遠く

わたしは
あなたは

まだ
まばたきを
している

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風見鶏の唐揚げ

「鳥の唐揚げひとつ」
 店主に注文した。
「すみません。今在庫を切らしているため、風見鶏の唐揚げになってしまいます。」
 店主は言った。
 はて、風見鶏の唐揚げとは?よくわからないな。
「風見鶏の唐揚げとはなんですか」
 店主に聞いた。
「風見鶏を唐揚げにしたものです。」
 なるほど。風見鶏を唐揚げにしたものか。
「そんなものを売ってもよいのですか。」
 私は尋ねた。
「いいんです。」
 店主は答えた。へえ、いいんだ。
 折角なので、注文してみた。
「風見鶏の唐揚げひとつ」
「へいよっ!!」
 風見鶏の唐揚げがでてきた。風見鶏自体はどうやらプラスチックでできているようだった。
 はてさて、食べていいものなのか。辺りを見回すと、みんな風見鶏の唐揚げを食べていた。
 モグモグ、サクサク、カザミカザミ。
 しかし、みんなが食べているからといって食べていいということにはならない。悩みに悩んだ結果、食べないことにした。

 翌朝テレビをつけると、例の店主が謝罪している。どうやら風見鶏の唐揚げを食べた人々、コケコッコーしか、言えなくなった。私は、風見鶏の唐揚げを食べなかった自分を褒めた。偉いぞ、よしよし、よしよし。
 風見鶏の唐揚げを食べなかったことを自慢したくなった。そこで、向かいの佐藤さん宅のチャイムを押した。奥さんがでてきた。
「私は昨日、風見鶏の唐揚げを注文したにも関わらず、食べませんでした。」
「まあ、すごい。」
 奥さんは私のことが好きになった。佐藤さんの夫は最初は怒ったが、私が風見鶏の唐揚げを注文したにも関わらず食べなかった人間だということを知り納得した。それどころか、夫さんも私のことを好きになった。あれやこれやしているうちに、風見鶏の唐揚げを注文したにも関わらず食べなかった判断力が評価され、内閣総理大臣になった。
 風見鶏の唐揚げに感謝しなければいけない。風見鶏の唐揚げがなければつまらない日々が続いていただろう。ということで、権力を乱用し例の店主を釈放、感謝状を送った。しかし、このことについて国民の理解が得られなかった。理解を得るために会見を開き、
「権力を乱用した。」
 と説明した。
 内閣支持率は一気に低下。内閣は解散に追い込まれ、私は内閣総理大臣から一般人になった。それどころか、取り調べを受けることとなった。逮捕されたくないので、警察官をみな殺しにしようと思い、風見鶏の唐揚げをたくさん作った。
「はい、どうぞ。」
「いいえ、いりません。」
 誰も食べなかった。ちくしょう、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい。
 悔しかったので、悔しがった。警察は、私があまりにも悔しがっていたので、許してくれた。

 うちに帰った。何事もない日常が、一番の幸福なのかもしれないな。ゆったりビールを飲みながら、思った。

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25時

帰りたい


どこに?


まだ遊んでいたい


今も


大好きだよ と呟いて


チャコールグレーのフードの中で

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鎮まれ 炎

恋は静かな爆薬か
普通を装うこの感情は
天使のいたずらか
悪魔の贈り物か

答えもわからず
不用意に触れ
心は輪郭を失った

眩しい光の上に
揺らめく透明な闇を
見る ただ見る

心の空虚を隠す色を
探す ただ探す

心の真空で爆ぜる恋の炎が
行き場もなく
燃える ただ燃える

炎に映る過去の自分が
嗤う ただ嗤う











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目の前のあなたに向けた、唐突で演算的なラブレター

好きです。付き合ってください。

これは照れ隠しです。「私」は私ではないかもしれない。

テクストを本心として読ませることはできない。
でも好きという気持ちは本当なんです。
どうすれば伝えられるかな。

この気持ちはきっと鑑賞される。
私とあなたの間に広がる断絶はあまりにも深いけれど、
私の気持ちが本当なことには変わりありません。

(一人の人間として、私の声を聞け。)
好きです。付き合ってください。

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めくられなかった冬の跡

骨の髄からはるばると、長い永い道のりの上、欄干のむこうで流れゆく時を見ないで歩き続ける。ここでは命に轢かれることもなく、未来に切り裂かれることもなく、なにより幸福の匂いがしないから気分が良い。

百年の経過は悲劇を繰り返すのに十分過ぎる、らしい。それが今。頭で考えてるうちは進化しないね、皆、忘却の向こうにある新鮮な目覚めが欲しい。

無知をはにかんで、同調をほころばせ、裸のまま仲間とままごとなすがまま。母は十年前に海になった。しがらみが無くなれば、渇ききった肌を、暗闇のようなロングローブがたやすく招き入れる。一寸先はpositive、昨日までたったひとりで戦ってた、あなたの頁は今日、白昼の下で削除されました。なにを言っても、結局は巻き戻せないからだに消化されてしまったのです。

かわいそうに生きたまえ。薄紅色の唇で愛を語るな、媚びろ、頼むから家も建てるな、木造の胎盤が。白蟻に喰い尽くされる前に、一花咲かせてみなよ、私の知らない時空で、意味の焼け死んだ言語にさ。

とどのつまり、
言葉でなければならぬ理由とはなんなのでしょう、きみはどうして、言葉なの?目が見える私はもれなく狂っている。怒りという感情との向き合い方を知らない、勘違いにさえ人間味が無い、鼻腔の奥で如何様師の化かし合い、でも呼吸だって今しかない。だから、

ごめんなさい。

今年の冬も、私は、
鍵括弧を閉じられずに終わりそう。
才能が無いの。
季節の狭間、
ベルガモットに操られて
あるべき姿はティーカップの底
抜け殻のように、
亡骸のように、
そんなふうに横たわる一室のなかでも
迷子になった両目を瞑る。
螺旋の午後をのぼりつづけた先、
燻るような倦怠に
タートルネックを着せて
一等星に撥ねられないように
二ヶ月ほど続いた満月をバターナイフでひと削ぎ。
哀しげな影もそっと食べてしまいたい、
ずっと会いたかったような顔で。

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雑記Ⅰ

生きることにあまり意味を持たせたくないことに変わりはないが、いつまでも無味無臭な存在で居続けられるとは、さすがに白髪の増えてくるこの歳になると思えなくなる。そのままの君でいいのはせいぜい25歳辺りまでで、内外の代謝は想像以上の冷酷さで行われるので、若さに縋るようにそのままでいいはずがないなどと、駅からの帰り道やアルコールの回った夜分、ベッドに入り意識の途切れるまでの数分間で考えてしまったりする。

だんだん面倒くさくなる。現象に、思想に、いちいち独自性を伴った名前を、言葉を付けようとするのが。そういう、ドラマを求めようとするのにも飽きがくる。飽きなくとも、草臥れてくる。思考のフィルター無しに、我が儘に明け透けと振り翳せる性格でもない。無理矢理社会に放り出されて数年もすれば、板についてくる生活とか、負うべき責任とか、親のこと、後継のこと、なにより体力。多方向からじわじわと、生々しく、迫り来るように直面するあれこれ。

何処ぞの馬の骨のきれいごとは、ますます響かなくなってしまった。しかし本質とか、含蓄とか、そういう深みを求めているかといえばそういうわけでもなく、それっぽい雰囲気さえあれば、あとは見せ方だけ。見せ方だけなのか。霧のようにつかめないのに、なにかに纏わりつかれるように日々を暮らしていると、若い頃に求めていたそれらも重苦しくなってくる。

あらゆる物事を人がやらなくてよくなる時代が近づいている。そうなったとして、今感じている霧は晴れるのか。纏わりついていたものから解放されるのか。春夏秋冬を静かに感じながら、穏やかに死ねるのか。また、まっすぐに本質を追い求められる日がくるのか。否、きっとそうはならない。このままの私では。

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無題

 春、
 かぎりなく夜に近い時間、
 家を出たとたん、

 わたし、チェーン店のかつやで出てくるお漬物のことを思い出した、

        、ありありと、
      、少し唾液が増えるくらい、

 なぜかつやのお漬物の匂いが、
 自宅のマンションの前の、
 気の利かない道路に、
 これほどに、立ち込めているのか、

 これはなんの植物の香りなのか、
 知りたいのです、

        (わたしが右手に持っている、
      2週ためたゴミ袋からする匂い、
           では、なさそうです、)
 
 いちにち寝て過ごしたので、
 あたまが痛くて、
 その分、そうぞうはふくらみます、

 吉本ばななの『キッチン』のような、

 あたたかいドラマがあって、
 誰かがだれかにカツ丼を届けたのでしょうか、

 その残り香に、
 わたしはひとり、
 唾液を増やしているのでしょうか、

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バイバイ・エンキドゥ

 今
 君が飛び立つ理由を僕は知らない
 君が微笑んでいる理由も僕は知らない
 なあ エンキドゥ
 この世でやるべき事は僕よりも多いはずだし
 この世で愛されているのも君の方だ
 
 生命のエネルギーに充ち満ちていた
 皮膚が白くなってゆき
 その代償に色の無い羽がはえ
 その羽をさすると一瞬だけ消えるのだが
 君はかえって淋しそうな顔になり
 また もとのように

 色の無い羽はやがて翼へと
 そして 広がり
       ゆらぎはじめた


    *******

 精神の世界の中で生きるからって
 それでかっこつけてんの

 あんたがそうしていたって
 こっちは目え皿にして
 耳の穴かっ穿じって
 末梢神経をつなぎあわせて
 あんなこともこんなことも
 嘘も本当もみんなひっくるめて
 吸い取ってやる

 そんでもっていつか
 精神の世界の中とやらに入り込む時には
 天才だなんて呼ばれているあんたにも
 ちょっとは教えてやるさ


    *******


 今
 君が飛び立つ理由を僕は知らない
 君が微笑んでいる理由も僕は知らない 

 バイバイ、エンキドゥ

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ある日の君の

沈む



白い水蒸気の中



永く続く



深緑は繁る



赤い実は爆ぜる



瑞々しい身体伸びやかに



未熟なまま踊る

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曇天のオーケストラ

この年12回目の開演の夕方
雨や風、が縦や横もわからず
吹き付ける暗い時分に
誰も僕らの演奏を
聞こうとはしなかった

呼び込みは
傘を差し帰路につく人を
より足早にさせるだけだった

公園のブランコの末席に
滲むほど濡れた楽譜と
同じような顔をした
君がいた

雨に濡れ
風に押しつぶされても
家に帰ることを
君自身だけが許さず
頼りない腕を独り
振り続けた

雷が挨拶を終えた頃
君は再び楽譜を広げ
大きく息を吸い
手を振り上げた

すると突然雨風が止み
雲間から君へ
スポットライトが灯る

その瞬間
団員は君に
注目を吸われ
腕を振り下ろすと
自然と演奏が始まっていた

雨はパチパチと水たまりをたたき
風はビルの間を駆け抜け
雷は楽団のスケールを見せつけるように
重く響いた

最後の音が終わり
君が腕を下ろすと

雨が水たまりを打ち
拍手のような音がだけが
君の全身を包んだ

だが君は喝采に気づかず
楽譜をたたんでいた

曇天の下帰路に着く
君の背を押し出す

晴れ舞台へ

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