投稿作品一覧
けんか中華
ついにはじけた 小籠包
なぐりあいっこ 回鍋肉
意地張りぷりぷり 鶏白湯
黙々むくむく 酸辣湯
あいつと他の子 とんで僕
あいつと別の子 またいで僕
給食は おかわりしなかった
放課後ぶらんこ 坦々麺
嫌だったこと あんなこと
伝えてみたんだ 棒棒鶏
ごめんねって 言ってみる
しょんないなって こいつ笑う
それでいいじゃん 豆板醤
またね明日ね じゃーじゃー麺
楽しくないなら
何も楽しくない
ならば別な場所へ行け
馬鹿になれ
“我らは何ももっていない 愚かであれ
大いに楽しく生きていこう” 自由でいろ
そうあるために
何も成し遂げられなくとも
ただ ただ ただ
善いと言える言葉を遺せたのなら
誰かへ届いたのなら
それで良いとしよう
少なくとも自分自身へは 馬鹿になれ
その言葉は刻まれた 愚かであれ
自由でいろ
ネット詩人宣誓
https://kakuyomu.jp/works/822139845896922977/episodes/822139846398228462
映像
https://kakuyomu.jp/works/822139845896922977/episodes/822139846398285646
糞尿にも詩があると
牛から教えられ
周利槃特から
愚かさの中にも清らかさと詩があると伝えられた
そして地蔵菩薩は
あえて地獄へと足を向ける 馬鹿で
聖人を自称する者どもに目を向けず 馬鹿であれ
愚かで
愚かであれ
自由だ
自由でいろ
様々な人が 様々な言葉を
様々に装飾して
非難してくるだろう
“我らはここにあって死ぬはずのものと覚悟しよう
そうすれば争いは鎮まる” 馬鹿で
それでもいい 馬鹿でいろ
“滅びるも救われるも君の内にある”
だから善いものを遺せ
何も悪く思うな 愚かで
行え 愚かでいろ
“他人が何をしたかでなく、自らが何をしたのかを見よ”
自由だ
自由になれ
“自分の内を見よ。
そこに善の泉があり、君が掘り下げさえすれば
絶えず湧き出すだろう”
呼吸しよう
何も楽しくなくとも 呼吸しよう 馬鹿になれ
体を動かそう 愚かであれ
頭だけでは妄想が走る 自由でいろ
別な場所へ行け “我らは何なのか! 何者なのか!
失敗しても肥やしになる 我らはネット詩人!
汚い場所にも菩薩はいる 我らは自由だ!”
先人たちの指さす方へ
その先を目指せ
希望も絶望も極端だ
まだこの筆は
ここで詩を遺していく
みんなの製品
「これこれ、この間話してたやつです。うちの店に導入したビックリ加工機。
このパネルにね、ざっくりした設定を入力するだけで、丸でも三角でも、色んな製品に加工してくれるんですよ。すごいでしょ?
ただ、機械の精度が安定しなくて、毎回何ミリ何センチとか、角度や色合いに誤差が出ちまうんですよ。なかなかに癖が強い。思い通りに狙った寸法を作るのに、ちょっと時間が掛かっちまうんです。それでも加工速度は今までの機械とは比べものにならないですね。目を見張る仕事量。
うちも長年この仕事に就いてるんですけど、ここまで癖の強い機械を扱うのは初めてです。
メーカーの担当者が言うには、この機械が業界では最新式のモデルなんだとか。世の中には、この機械を並列に繋いで加工させてる店もあるっていうんだから、挑戦者ってのはどの時代にも居るんだなって思いましたよ。
え? 値段?
それはこの前チラッと話したじゃないですか~。逆立ちしたって買えるような値段じゃないので、ひとまずリースで済ませてます。
物価高で、これからレンタル料も上がるんでしょうね。
この機械の仕組みですか?
内部がどうなってるのかは、私ごときじゃ全然わかりません。小耳に挟んだ話じゃ、とうてい公にはできない物がたくさん入ってるとか、何とか。
メーカーからは、ネジの1本でも分解したら保証の対象外だって脅されていますし。まあ、そういう事なんでしょう。
うちは素材の加工屋です。機械そのものを作ったりはしていませんから。この機械だって借りて使ってるだけですし。
内部の詳しいことを知りたいなら、メーカーに直接問い合わせた方がいいでしょう。
精度は安定しませんが、量だけはしこたま作れます。もし、こういった製品がご入り用になりましたら是非ご検討……え? 購入した製品の修正や手直しですか?
いやぁ……それは、まあ。
頼まれればやりますけど、あまり細かい注文の修正は得意な方じゃないですよ? うちの店はオーダーメイドを謳ってますけど、あくまで工業製品なもので。何となくの流行りで手芸っぽく見せてはいますけど、ほとんどが機械加工です。
この通りに『手作業専門店』って幟を立てている店があるじゃないですか?
細かな再注文でしたら、そういう店に持ち込んだ方が確実です。うちよりは上手くやってくれるでしょう。
いえいえ、すみませんね。
これ、この機械に作らせた製品のサンプルです。もしよろしければお持ち帰りください。
何かありましたら、お電話いただければ作りますので。ええ、ご贔屓に。よろしくお願いいたします」
薄化粧
鏡に映る私
見てよ
見て
薄化粧
赤い口紅ひくのよ
そして••••••
春日記開く
男への恨み
手首切ったわ
滴りゆく血が愛しいの
ほんの••••••
春雨どきに
感情
誰かが どこかで 泣いてる
君は 独りで 夜の中に立ち
名もなき声に 耳をすませる
きっと 僕には 解らない
心というものを
感じ取っているのだろう
感情のない僕は 心が解らない
君と僕を繋ぐ 細い糸
君はそれでもいいと言う
僕は大切なものを失くしてしまったのに
君もきっと 泣いているんだろう
気持ちを共有できないって たぶん
思うよりずっと 辛いこと
感情を抜き取られた僕は 無限に
様々な時空を彷徨い 放浪する
君は僕についてくると言う
一緒に大切なものを捜そうと
知ってしまったんだ
感情を取り戻したら 君と
離れなければならないこと
だけど それでも 僕は
感情のない僕は 心が解らない
君と僕を繋ぐ 細い糸
君はそれでもいいと言う
僕は大切なものを失くしてしまったのに
狂人なる瑞穂の国まで ーー 俳句十八句 ーー
狂人なる瑞穂の国まで ―― 俳句十八句 ――
笛地静恵
1
国生みの道陥没し切山椒
灌漑の感慨深き寒波来る
無医村の風へ実りの木守柿
ノーコードアプリオリより村芝居
メンテナンス点目リスクの薬採り
油流し水路の照りの花筏
2
飛来する海の泡より水をしへ
浸水は枕もとへとふぐと汁
投身の線路の果てに二日月
鉄筋のアキレス腱よ金魚売り
からすみのラジオのごとく切られけり
台詞より長き舌出し臭木の実
3
クーポンの後出しジャンケン狐罠
意見には個人差があり名草枯る
天頂の衛星からの天使魚
シェアリングエコノミー終えちゃっきりこ
冥途への優先順位夕永し
トンネルの張り巡らされ木賊刈る
了
全う
わたしは命の
主犯格
天寿を全うし
刑期満了
この世からあしをあらう
漆は剥げても生地は剥げぬ
どんなに綺麗に着飾ってみたって
どんなにうまく取り繕ってみせたって
人間の根源的で根本的な本質は
着飾れやしないし
取り繕えもしない
綺麗な漆の塗装が剥げ落ちたあとの
剥き出しになった姿こそ
本当のわたし
本当のあなた
[そ]卒業
同じ夕焼けを見ています
傷だらけの机を次の者たちへ託します
覚悟のある者、できなかった者 等しくお別れです
わたしたちという集合体はいつかそれぞれを忘れ去る
懐かしむ者、嫌悪する者 等しく過ぎゆくのです
本当に大事なことを教わらず、これから学ばなければならないわたしたち
それがあなたたちの有終の美だ
野晒のお下がりを脱ぎ捨てて、わたしたちたは新しい何かに変わる
わけではなくて、誰かのためのお下がりになる
悲観することじゃない
ただ弱くて怖いだけ
それでも刻まれた日々を携え、わたしたちは前を向くのです
袖を通すことのない抜け殻を皆はどうするのだろう
会うことのないあなたたちに寄る辺ないエールを贈ります
それぞれを謳う 卒業
忙しい日
母が笑いながら
明かりをつける
今日の私は
作業所と歯医者へ
行ってきた
そのときの心は
あたりが暗くなる頃の
あの
淋しさに似ている
母に
「今日は何?」
と聞くと
「肉じゃがよ」
と言う
歯医者の帰り道
目まぐるしく列車が走り
それに乗って
駅を降りると
サチ子ちゃんがいた
サチコちゃんは
サッサっと
走っていった
帰りの駅は
人もまばらで
私の淋しさも
じきに消えた
青白く光る空の
夜の景色が
横浜の海と
どこか似ている
あぁ
今日は忙しかったなと
そっと
つぶやく
推薦文 後悔と自滅
ここはどこでしょう
私はだれでしょう
冬の風は鼓膜を破らんばかりに刺激を与える
右耳が籠って聴こえない
ぴーぴー
梅があららこちらにぽこぽこと花をつけている
まるでこちらに私をご覧なさい、美しいでしょう、と問いかけてきてきる
桃色の花を横目で見る
何も思わない
何も思わない
ぴーぴー
煙草も飽きてしまった
娯楽が何もできない
そもそもベッドから動くことすらできない
何もできない
何もできない!
自己嫌悪
ぴーぴー
朝の月は薄く、それでも存在感が漂う
夜の月は爛々私を照らしと目を焼く
月は私の元に落ちてくるのだろうか
いや、落ちて欲しい
月はこちらを見向きもしない
こちらを見ているのに、裏革見せてくれない
寒いでしょう
ぴーぴー
このまま叶わぬのなら土になりたい
私だって役に立ちたい
花を植える
そのまま枯れてしまいたい
ぴーぴー
カラカラ
カーカー
ちゅんちゅん
どこかで鳥が囁いている
目は、耳はまだ機能している
晴間にお天道様がいらっしゃる
雪は降っていないのに
凍えそうなほど震えている
微睡の中で暗闇を模索
鳥の音が聞こえる
まだほんの少し聴こえている
運命を逆らえず、欲は途絶えない
ぴーぴー
こちらはどちらでしょう
耳の不具合か鳥の鳴き声か
ここはどこでしょう
私はだれでしょう
手のひらは透けて見えます
薬指がどうしようもなく痛いのです
ナイフで切り落としてしまいたい
じりっ
凪いだ海の中へ左足からすっと踏み締める
夕焼けが真っ赤に燃えて美しい
海に反射する夕日がとても、とても私には似合わなかった
最後に鏡で見た私の顔は死人のようだった
巨峰色の坊主
元は5つの皿に花弁を隠し
手の甲で拍手をしながら私をに呼びつける
根を飲み込み
酒で流す
栄光!
私は罪人
私は罪人!
自滅を願う
ぽろぽろ
涙は海に還っていった
全て途絶える
詩は小さいが好き(詩はあるくXXII)
昨日より、月が細くなった
昨日より、水がぬるくなった
昨日より、朝日が深く差し込んだ
昨日より、食卓が明るくなった
今日は、カーテンが眩しい
今日は、春色のシャツを選ぼう
詩は、新芽をつついている
詩は、何か虫を見つけた
夜半から、雨らしい
傘を、いれとく
詩も、準備は出来た
四月始まりの手帳に替えて
行ってきます。
水泡
Lux Vitae Meae
君は泳げているだろう
水の細かい粒の集まりの間を
いとも容易く掻き分けて
Lux Vitae Meae
入道雲になったよ
天高く上り集まりほどける
雫はあぶくとなり
曇天の下 光を映す
ねぇLux Vitae Meae
私のあぶくに君が映るよ
春へむかう
薄鈍色の衣を重ね 歩く足のつま先は
夜明けまぢかの冷気に似て きりりと先端を指す
隣家の老女の訃報を紙飛行機にして
疎水沿いの桜並木を抜ける
白梅香 君が漂う
視界に入る僧侶の袖が
ちらちら舞う
紋白蝶 好きだったね
人差し指をのばして肩にとまって 笑って
細めた目 何を見ていたのだろう
蝶の抜ける並木道
そよそよと鳴くウグイスの羽音
婚礼のような葬列
真っ白な骨になった君を抱えて
思い出は花びらだろうか
重みはあるのだろうか
骨壺の質量は魂と同等だろうか
革靴が土を踏むたび喪失していく過去
風が髪をかきあげるたびにふくらんでいく蕾
桜
君の笑顔が空に浮く
含みをもった声がする
一緒に行こうと言った街
いつか見たいと話した星
これからいけるよ
いつでもそばにいるよ
舞いあがる白い息
煙立ちあがる火葬場の先
僕が崩落してゆく
世界が崩壊してゆく
明日になれば
明日が来れば
うららかなアーチをくぐり抜けて
辿り着いたのは満開の春だった
真夜中の会議は踊る(悩み多き感情たちの詩 ケース3)
ある日の真夜中のことでした
感情たちが一同集まって
涙は一体誰のものかという議論になりました
開口一番に手を挙げた悲しみちゃん
そんなの私のものに決まってるじゃない
すると横から淋しがり屋くんがすかさず手を挙げて
いやいや ボクのものに決まってるじゃないかと
わたしのものよとツライちゃん
ボクのものだと苦しみくん
もしも涙が他の誰かのものだったら
この先どうやって生きていったらいいのかわからないと
嘆きはじめる不安がりちゃん
あたしなんか シアワセすぎて
泣いちゃうことよくあるから
絶対あたしのもの
譲れないわと ハッピーちゃん
誰もがこぞって自分のものだと云って譲りません
突然 怒りんぼくんが
思いっきしテーブルを叩いて怒りだしました
みんなの主張は解らなくはない
悲しみちゃんにしても淋しがり屋くんにしても
ツライちゃんにしても苦しみくんしても
不安がりちゃんしたって
涙はクスリみたいなもので
なくてはならない必要なものだってのはよく解る
けどさ ハッピーちゃんまでもが
自分のものだって主張するのは
なんかちょっと違くないか?
ハッピーちゃんなんて
みんなが持ってないもの
欲しくって欲しくって
それでも手にできないもの
いっぱい持ってるじゃないか
持ってるじゃないか
ほら そのふわふわっとやらかく笑うその笑顔
ハッピーちゃんはそれでみんなをシアワセに出来るんだ
素晴らしいじゃないか
それ以上の一体なにが欲しいっていうんだ
よくばりすぎる
ズルいよ不公平だよ
と
そばでずっと黙って聞いていたやさしさちゃん
静かにそっと割って入ります
まぁまぁ 怒りんぼくん落ちついて
誰かひとりのものって決めるんじゃなくさ
必要なひとに 必要な分を分けるってのはどうかな
知ってた?
あたしたちがいま住まってるこの躰って
ほぼ水分で出来てるらしいって話
だからさ 少なくても
涸れてなくなるなんて心配はないと思うの
足りなくなったらまた
すぐ補給すればいいんだもの
それでももし足りないときは
私の分の涙 分けてあげる
だから ね
そうしよ
デジタル電波時計の数字が
ちょうどAM3:33を示していました
333でサンキューってことで
誰かが云って みんな噴き出して笑いました
話してたらなんかノド渇かない?
今からそこのLAWSONで
なにか飲み物でも買ってこようよ
ポカリかアクエリがいいかなやっぱり
涙とほぼ成分一緒だし
だったら私
ほっとレモンが飲みたい
じゃあボクは
みっくちゅじゅーちゅかなぁ
……やれやれ
かみさまたち
わたしたちのかみさまたちは
そこにあるものすべてにやどり
そのほんとのすがたは
だれにもわからない
とうさん とうさん
てをあわせてこうべたれれば
すこしはわすれて
すこしはしあわせになるの?
そらのわたしたちの
おおきいおじいやおばあたちは
かみさまたちになっても
ときどきはかえってくる
そのときに そのときでさえも
そらにもうみにもゆけない
そんなものたちにも
かみさまたちがやどればいい
そうあればいい
わたしたちは わたしはと
いくら りこしゅぎになっても
かみさまたちのやどる
そこにあるすべてのものに
「パスポート」
何処かに行きたいというくせに
そんな気力もない日々で
やりたいことも、行きたいところも
たくさん、たくさんあったのに
何にもできない日々でいるのが
酷く悲しくて泣いてしまう
なんにもできない人間になってしまった
遠くに行きたい
逃げたい、なのかも
行く元気もないくせに
想像だけは一丁前で
日々を想像の中で過ごす日々で
現実を直視することも出来ない
きっと見えているはずなのに
見えないふりをしているのも
そうじゃないと
そうじゃないと
とても生きていけないから
もう少しだけでも、
私を生かして欲しい
いや、生かさないで欲しい
ふふふ
願いも一丁前だったね
意味が分かると怖い話
梯子
崖の上に咲く
一輪の花を求めて
長い長い
梯子をのぼる
地上の彼は
微笑みながら
梯子を握りしめ
長い間
待ち侘びている
いつの日か
この手が
花に触れる
その瞬間を
お分かりいただけただろうか?
【ヒント】
彼は誰?
何故微笑んでいる?
AIによる詐病、あるいは傲慢の暴露――AI時代における詩の読みを考える
序:揺らぐ境界線
2026年現在、生成AIを用いた創作はもはや他人事ではない。先日、CWSにて、とあるコンクールでAIが生成した小説をそのまま提出して選考通過したという話があったが、この件は詩の世界にとっても無視できない一石を投じたと言える。
私の中には今、生成AIが作る詩に対して、相反する二つの考えが同時に存在している。どちらが正しいと断じることはできないし、そのつもりもない。しかし、この葛藤を共有することで、ある種の議論のたたき台となれば幸いだ。詩とどう向き合うのかを考えることも、また詩的な営みだろうから。
※ここで言う「生成AIが作る詩」(以後、「AI詩」)は「生成AIの生成物を推敲なしで発表した詩(ポン出し)」を指す。詩作の過程で生成AIを用いることを否定する意図はない旨を補足しておく。
考えその1. AI詩は作者と読者の間の信頼を破壊する行為である
詩の鑑賞は、作者と読者の間に結ばれる「見えない契約」の上に成り立っている。 読者は、言葉の背後に切実な人間がいると信じるからこそ、その言葉を深く受け止めようとする。これは、医師が患者の訴えを真実として受け止め、診断を下す関係に近い。
もし、患者が演技で嘘の症状を訴えていたとしたら、医師の診断(読解)はその前提から崩れてしまう。AIであることを隠して詩を発表する行為は、いわばAIによる詐病だ。それは単なるマナー違反にとどまらず、「人間が書いた言葉を読み解く」という詩の営みそのものを、空虚な茶番に変えてしまう危険性を孕んでいる。
考えその2. AI詩は読者の傲慢を暴く新時代の潮流である
一方で、AIの台頭は、一部の読者が無意識に抱いているであろう「読み手の傲慢」を暴く劇薬にもなり得る。 そもそも、詩の読解や解釈とは、どこまでも読み手の中で完結する自己中心的な行為だ。文字から意味を拾い上げ、感動を生み出す作業は、読み手の知識や想像力に完全に依存している。
それにもかかわらず「作者の叙情や意図を正確に読み取った」と考えるのは、読み手の思い上がりに過ぎない。私たちが読み取っているのは、いつだって「自分自身の解釈」が作り上げた幻の作者像である。
AIが生成した詩には、最初から叙情も意図も存在しない。しかし、私たちはそこにある文字列から勝手に意味を見出し、時に涙することさえあるかもしれない。この事実は、詩の正体が「作者の心」ではなく「読み手の中に生まれる反応」であることを、残酷なまでに暴露する。AIの台頭は、この暴露を通じて詩の世界に新たな「読みの技術」をもたらす新時代の潮流となり得る。
結:環境変化としてのAI
大切なのは、AIの是非をジャッジすることではない。AIが存在するという「環境の変化」をどう受け入れるかだ。 他人がAIを使うことも、社会がこの速度で変わっていくことも止めることはできない。
自分がAIを使うか否かに関わらず、私たちは今、かつてないほど「言葉とは何か」を問い直されている。書かれた文字だけを真実とするのか。そこから立ち上がる自分自身の感情だけを根拠とするのか。目の前の詩をどう捉え、どう読むか。詩に対する思想や哲学を持ち、読み方を自分自身で定義することが求められる時代が来ている。
AIは文学に限らず、社会全体に劇的な変化を巻き起こしている。私たちはその変化の渦中で、思考を止めてはならない。
※本稿における基本的な論理構成や主張、文章の最終調整は筆者が行っているが、言語化の過程で一部AIを使用している。なお、筆者は本稿の著作権を放棄していない。
『いちごミルクのキャンディ』(過去作改題、加筆修正)
2023.8.20
「母が亡くなりました。猫については……」
愚痴でその存在を聞くだけだった佐藤さんの息子さんからの着信に呆然とした。突然の喪失に涙も出ないわたしは、ただ夏の暑さに項垂れて、半分夏へと溶け出している惨めな三十路の女だった。
夏にはたくさん溶け出して、冬にはよく凍る。わたしは二十五を超えたあたりからそういう体質に変化した。母もだいたいそうだったと言うし、だいぶん前に亡くなった祖母も、四十をすぎた頃にはよく夏に溶けていたと母から聞いた。
それにしても、世のおばあさんたちはほんとうによく死ぬね。わたしは独りごちたあと、来た道を引き返して、自分の部屋に帰った。
これからもわたしはたくさんのひとを失うだろう。猫のボランティアも世相と同じく高齢化が進んでいるから。
佐藤さんが見送るはずだった、避妊去勢をした上で保護をした猫たちは二十匹で、佐藤さんがあと十年余り生きれば、全てを見送れるはずだった。ただ、佐藤さんは昨晩亡くなってしまったらしい、コロリと。
コロリと死ぬこと。それは老人の抱く最も強い願望の一つだろうが、コロリと死んだことを佐藤さん自身はどう感じているだろう。無念だろうか、一抜け! だろうか、わからない。佐藤さんはどう思っているだろう。
今頃、彼女が見送ってきた、たくさんの猫に囲まれてしあわせにやっているのだろうか。
わたしが、夏に溶けてしまった下半身を集めている間に、死んでしまった佐藤さん。一昨日、猫の世話であったばかりだ。下半身が溶け出すと、トイレに行けなくて困るから、昨日は佐藤さんの家に手伝いに行けないと連絡をしたばかり。ok、体に気をつけて! と返信が来たのに、それっきり死んでしまうなんて聞いていない。
もし佐藤さんが死んでしまうなら、もっと話したいことがあった。ここにいる猫のこと、わたしの他にもいる佐藤さんの手伝いの、誰がどの子を引き取るか、誰にどの子を見てやって欲しいか。
いや、そんなことはどうでもいいな。わたしが佐藤さんと話したかったのは、(すべてが過去形になる)、そうだな、たとえば、一昨日の帰りにくれたいちごミルクのキャンディ、あれ、わたし食べられないんですよ、ほんとは。ただ、佐藤さんがずいっとわたしに押しやってきたから受け取っただけで。わたしこれをたべるとそわそわするから。おばあちゃんを思い出して。
1997.夏
わたしが子どもの時、あれは5歳のとき。祖母はいつも黒飴といちごミルクのキャンディをテーブルの上の折り紙でできた箱に入れておいていた。
わたしは一度、いちごミルクを喉に詰まらせて、母にそれを吐かされたことをまだ覚えている。ゲポッという音を立てていちごミルクが喉から出た後、昼に祖母や母と食べたゴーヤチャンプルーや白米もわたしは吐き出した。吐瀉物の海に混じったいちごミルクのキャンディがきらきらぬめらかに光っていた。その光景が奇妙に目に焼き付いている。
母がわたしを寝かせた後、祖母に懇々と話しているのが、襖越しに聞こえた。
「ああいうのあげないでって言ってるでしょう。メイコに不自然なものはあげたくないの。それに喉に詰まらせてるのに、母さんオロオロするだけだったじゃない」
おばあちゃんの返事は聞こえなかった。ただ、次に祖母の家に行った時、テーブルの上の折り紙でできた箱には、黒飴しか置かれていなかった。わたしもなんだか気恥ずかしくて、この前の嘔吐のことには触れずにそうめんを祖母と母の3人で食べた後、おばあちゃんとわたしは昼寝をした。
祖母の家から自宅へ帰る時、祖母がこっそりわたしの手にいくつかキャンディを握らせてくれた。そこにはいちごミルクのキャンディもあって、わたしはちょっと緊張した。お母さんはどう思うだろう。わたしはそれを黙ってポッケに入れて、祖母に手を振り、母の車に乗り込んだ。
祖母に最後に会ったのは、祖母が施設に入る前日の食事会だった。わたしは中学生になっていて、久しぶりに会う祖母の痩せ方に驚いた。ただ、祖母は、メイコちゃん、かわいくなったねえ、と言ったきり、それ以上言葉を発さなかった。ただ、三人きりの食事会で、ただにこにこしているばかりで、何も話さない祖母。わたしは、そわそわした。何かを話さなくてはと、空回って、母に笑われた。母は今だってそのときのわたしをネタにする。
お母さん、佐藤さんが亡くなったって。お母さんは佐藤さんのこと知らないよね。お母さん、この夏何回溶けた? わたしは五回。こう暑くちゃいやんなるよね。
2020.夏
三年前と少し前、家の近所に小さな三毛猫が暮らしていた。毎日会っていると自然と情が移る。ねえ、今日はとても暑いね、お水飲めてる? だとか、ああ、ご飯くれる人が来たよとか、そうやって毎日話しかけていると、本当に馬鹿になってきて、一人の人間が、この子に何か出来ることがないかを本気で考え始めてしまう。
市のホームページを見たり、外猫の暮らしを調べたりするうちに、わたしはこの子が99%メスで、次の春には子を産むことを知った。
*
わたしからの依頼を受けて、現れた佐藤さんは声が若々しくて、見た目も溌剌として、とても六十代後半のひとには思えなかった。
待機中のきまずさに、無理くり何かを話し出そうとしたとき、捕獲機を置いた方から、ガシャンという、自転車がぶつかったような音がした。
佐藤さんは、「猫ちゃん、入ったみたい」と、歩き出す。わたしもその後を追った。
捕獲機の前に行くと、いつもの三毛猫が小さく暴れながら直方体の捕獲機に入っていた。
手汗で溶けかけていた手で、捕獲機に触れようとする。「危ないよ」。佐藤さんが、タオルを持ってこちらに来た。
そして、「これで完了! あとはこっちで病院連れてくから。お代金だけいただくね」、と言って額の汗を拭った。
「また、ここにちゃんと戻すから、心配しないでね」
佐藤さんの言葉に、わたしの左手がゆるやかに溶け出す。また、この暑い中この子はここに戻される。これから寒くなっても、外で暮らすこの子の将来を考えるざるを得なかった。
「この子、この子飼っちゃいけませんか」
佐藤さんは少し悩んだ後、「大変だよ、人慣れもしてないから」と答えて車の後部座席に三毛猫の入った捕獲機を乗せている。
「でも、いいです。わたし、この子に何かしたくて。毎日、会ってるから、情が移っちゃってて……」。
ふう、と言いながらこっちを見た佐藤さんは、まあとりあえず病院。話はそれから、と言った。
「あと、あなたが良ければ、私の家に来ない?」
それからもう三年、毎日のように一緒に彼女の家の猫の世話をして、だいたい猫の話と日頃のお互いの愚痴を話していた。佐藤さんの家の猫二十匹みんなのトイレと、ケージ内の掃除をする手伝いをして、それが終わったら一緒に料理をしたり、持ってきた季節の果物を(リスのように)、分けたりした。
一昨日の夕方はまだ、出回りたての梨を剥いて、ふたりで縁側で食べていたのに。
たしかに、今思えば、佐藤さんは近頃少し疲れているように見えた。わたしと掃除をした後、休む時間が長くなったし、手の皺が少し増えた気がしていたが、それも後付けだろうか。
わたしはとにかく将来のことを考えないように目を伏せて、足元にいた茶トラの小太郎を撫でていた。
小太郎はわたしになついてくれた初めての猫だった。近頃は歳をとって、よく眠るようになった小太郎。わたしはこの子が大好きだった。
家の三毛猫は、三年の間でわたしに、まれにだっこをさせてくれるようになったが、やはり気まぐれで、大体の場合わたしに抱かれるのを嫌がる。
小太郎は抱き放題、撫で放題で、ひっくり返ってわたしに腹を見せていた。佐藤さんに何かあったら、わたしが小太郎を引き取ることになるんだろうか。そんな考えを打ち消して、梨をシャクシャク食べて、その朝に見た朝ドラの話ばかりしていた。
直近では二匹の猫が亡くなり、わたしはおおいに泣いた。亡くなった猫に花々を組んで、またね、と言って佐藤さんと動物霊園のある寺へ連れて行き、見送った。帰りには二人ともドッと疲れて言葉少なだった。死んでしまった、というよりも、見送れた、という感情が胸を占めた。
いつか、猫を空へ見送った帰り、佐藤さんの運転でわたしたちは喫茶店に向かっていた。佐藤さんの、「わたしのかわいい相棒に何かあったら困るから、安全運転!」、という言葉にわたしは笑った。
でも、わたしは、佐藤さんの運転で死ぬなら、それはそれで幸福だったな。
わたしは、佐藤さん、わたしはね。
いつの間にかわたしの日々は猫たちで塗りつぶされていた。散々だった日常に現れた佐藤さんと猫たちは、いつかの、ゲボの中にきらりと光っていた、いちごミルクのキャンディだった。
*
佐藤さん、来ました、メイコです。と声をかけて、棺の小さな窓を開け、彼女の顔を見た。化粧をされていて普段よりずっと綺麗に見えるが、どこか作り物めいて見える。
ああ、あ。と、猫が肛門から捻り出す便のように、自然と声が漏れ、わたしは夏に包まれていた。止まらなかった。
ちがう、本当はそんなに簡単なことじゃない。
ばかやろー! なんで死んでるんだよー! わたし寂しいじゃないですか。佐藤さん、まだまだ一緒に話しましょうよ。猫一緒に撫でましょうよ。
残された猫の分配を話し合いたそうにしている、他のボランティアの人たちが、わたしを驚愕の目で見ている。わたしも輪に加わらねばならないが、そうはできなかった。
夏が来たからだ。
わたしが座っているあたりの水たまりは面積を広げて、そのままついに床が浸水し始めた。佐藤さん、わたしあなたがいないとこうなんですよ。わたしはついにぷかぷかと浮かびながらひとりごちる。ほんと、ゲボみたいな人間なんです。佐藤さんや猫たちがいないと。
そのとき、猫の鳴き声が一つ二つと聞こえてきた。それなら、いるじゃない、とでも言うように。
わたしは川をかき分けて鳴き声のした方へ向かう。いちごミルクのキャンディ。ゲボみたいな日常のなかのぴかん!
数秒、わたしは佐藤さんの死自体を失っていた。わたし、生きている。
足元では、いつの間にか小太郎が、黒いストッキングに体を擦り付けていた。小太郎を抱き上げて皆の輪に入る。小太郎が私の手を舐めながら、なーんと鳴く。わたしはそれを抱きしめて、涙声で、大丈夫よと囁く。
そうして、わたしが佐藤さんに言えなかったことなどほとんどないことに気づく。
いちごみるくのキャンディのはなしだって、亡くなった佐藤さんを前にすれば、それほど話したかったことにも思えなかった。
わたしが言いたかったことには、輪郭がない。ゲボみたいにぐちゃぐちゃだ。そうだね、言葉にするなら、
佐藤さん、わたし、なんていうか、すごく生きてる、あなたと。
反物語主義
すべては点であり
それらは決して結びついて線になったりしない
線が見えたら
それは欺瞞だから気をつけなければならない
噴煙が上がると
物語が敗北したことがよく分かる
それは破壊と殺人のしるしであり
我々が何のために建て
何のために生きたのか
もはや分かりようがない
夢は点に満ちた時空であり
いつも散らかって混乱している
したがってそれは世界の鏡である
幸せな夢や楽しい夢で慰められることはあるが
それらはやはり混乱しており
言うまでもなく真実ではない
真実を材にして生まれた妄想である
アマプラのようなもので映画を観ている我々は
真実から遠ざかることをしているのだ
画面に映る芝居や物語は
点から点へ結びついてゆく線である
試すように結びついてできた線に騙されてはいけない
それは甘美な夢であり楽しいものかもしれない
線を作るのは人間の性かもしれない
しかしそれでも真実ではないことが
意味を成すとは思えない
品と恥
品がないというのは
”下半身”を涎を垂らしながら
下卑た笑みで語ること
恥を知らないというのは
それをどう見られるか思慮せず
人に押し付けようという態度
品があり、恥を知っているとは何か
それは最後の授業で”Vive la France!”を叫ぶこと
それは大ルーマニアの沼地で歓喜の内に死ぬこと
それはイシュトヴァーンのその輝きを戴くこと
それはバリケードの中でワルシャワを歌うこと
それはメガリ・イデアをエーゲに臨むこと
それはメースからメーメルまでに在ること
それは聖なるルーシのその草生す骸となること
それは、万世一系の花を、想うこと
空に黒、黄、白
あるいは一つの旭日が
ゆらゆらとひらめいていたとき
地球は最高密度の尊厳性惑星時代を迎えていた
推薦文 枯れぬ欲は破滅
赦しを請うのは自己での完結
朱を熱する
己のみ満足を得られる
罪の意識は気づかずに染みになっている
小指の先から侵入したガラスの破片は血管の移動をやめず
心臓を破裂させる
人差し指、撫でる背骨との距離
これは触れているのか
否、触れていない
欲は鷹
雀になりたかった
川に飛び込んだ烏の翼は渇きを知らず
とても気分がいい
お似合いだ
苦痛はオオルリ
裏切りはカナリア
燕が育む雛鳥
巣食いの敵
鋏で断つは赤いハンカチ
断ちたくないのは赤子の雑巾
願え銀の匙
感情は黒く染まる
瞳は乳白色
欲は地球の重力を遥かに超える
月が近づきすぎた
突き抜けて天の川銀河に放り出される
右手は少しだけ生きていたように見えた
現実は凍った薬指
欲だけが残留
それだけでは足らず親指すら崩壊していった
それでも尽くことを知らない
推薦文 繰り返し、一興にも成らず
やゆやゆと思想の渦中
夢は時々既視感の卵
幸福は石鹸の後始末
望みは消えていく
からからと流れる雨粒の塊
逆さまの感情を糸で救済さえできず
速度を上げて消失していく罪人
それらは声を張り上げる
すらすらと欲求は尽きず
手の甲の拍手で恐怖に満ちる
呻いた伸びた手は飲み込む
其れ等に同情は皆無
断末魔は興にもならず
紅は熱され続ける
終わることを知らない崩壊
それすら見向きもせず
睡蓮は水面で再生
釈迦はするすると鏡の沈着に去る
神亡き時代の信仰
我々は生き甲斐と云う宗教を信じ、自分教を信じる自信派を異端とみなします
ナンセンス
中華屋の入り口は、厨房から飛び散るあぶらと客の靴や濡れ傘が運ぶ水滴で、いつも以上にぬるんとしていた。横並びに座った連れ合いは、紺地に白い線の入ったスニーカーの靴底で何度か床を確かめるように撫でた後、できるだけ接触回数を減らそうと足を浮かせていた。奇妙に硬直した格好がおかしいが、店内をぐると見渡せば、足を浮かせている客が他にも一人いた。
杏仁豆腐が先に来た。親知らずを抜いた痛みが続いているらしく、やわらかいものしか食べない人間の前に。それは、ことりと置かれる。それはまるでそうする決まりがあるかのように。今の感じさ、なんかの儀式みたいだったね。話しかけようとしたら、隣では杏仁豆腐に敵意のまなざしが注がれていた。アッ、ハイ。と心の中でだけ言ってみる。チャーハン定食はまだこない。
スプーンすら手に取らず、赤いさくらんぼと見つめあっている人間の姿は、滑稽だ。種族を超えた叶わない恋をしているみたいで。ハイ、チャーハン定食。杏仁豆腐と冷戦状態に突入しているひとと自分の間からにゅっと手が伸びてきて、チャーハン定食が登場。(今の言い方さ、ドラえもんみたいだね。ワハハ。)熱々のチャーハンの片隅を崩して口に運ぶ。モッモッと咀嚼していると、隣で木椅子がギィと床に擦れた。
「もう帰る」
「ア〜、ハイ」
杏仁豆腐の横に置かれた千円札を財布にしまう。店を出る背中に向けてばいばいと手を振ったが、注文聞きの店員しかそれを見ていなかった。靴底で床を擦れば、そこからつるつるが伝わった。なんとなく足を床から浮かせてみる。こんなことに何の意味があるのか、分からないけど。
AI創作の最前線 海外ガチ勢の動向
はじめに
2025年から2026年にかけて、英語圏を中心としたAI創作の現場では、単一のプロンプトで文章を生成する「対話型AI」の時代が終わり、複数のエージェントを制御する「システム設計」のフェーズへと完全に移行しました。
かつて魔法の呪文のようにもてはやされたプロンプトエンジニアリングは、今やシステムの最小構成要素に過ぎません。現在の最前線は、複数のAIを指揮するオーケストレーションや、文脈を管理するエンジニアリングへと集約されています。
この変化の背景には、100万文字を超えるような長編小説のAI出力において、物語の一貫性を保てないという大きな課題がありました。従来のモデルでは、物語の途中で設定を忘れてしまう現象や、出力がどこかで見たような平均的な表現(AIスロップ)に収束してしまう問題が避けられませんでした。
これに対し、現在の高度な創作者たちは、AIを単なる執筆助手ではなく、物語の世界そのものを演算するシミュレーターとして定義し直しています。
具体的な事例として、Shawn Knight氏による「Infinite Weave」が挙げられます。これは、ビジネス的な試みであるのですが、創作に例えるなら、AIに物理法則や宗教的タブーといった初期条件を与え、数千年単位の歴史を再帰的にシミュレーションさせることで、非常に厚みのある世界設定を構築するといった試みです。
また、プロ作家集団のFuture Fiction Academy(FFA)は、NovelCrafterなどのツールをハブにして、Claude 4.5やGPT-5といった複数の最新生成AIモデルを「プロット担当」や「描写担当」として使い分けることで、高度な長編創作を実現しています。
2026海外AI創作ガチ勢最前線
現在の主流は「Writer's Room(作家の分科会)」と呼ばれるワークフローです。これは一つのAIがすべてを書くのではなく、システム内に「プロット設計者」「文体修正者」「論理批評家」「設定考証者」といったエージェントAIの集団を構築し、それらが相互にフィードバックを繰り返す手法です。
例えば、執筆担当AIが書いた初稿に対し、批評担当AIが「伏線の不整合」を指摘し、修正を要求するというループが自動で行われます。
エージェントAI同士が「無難な結論」に落ち着くのを防ぐために、あえて対立させる技術も使われています。執筆担当AIには「キャラクターを生き延びさせたい」という目的を、批評担当AIには「物語を悲劇的にしたい」という目的をそれぞれ与えることで、生成プロセスに意図的な緊張感を生じさせるのです。
また、特定の文体を維持するために、物理的な感覚や「皮膚の質感」といった環境変数を意識させることで、読者の身体性に訴えかける描写を追求しています。
技術的な側面では、これまでの単純な検索技術に代わり、人間関係や事実を網の目のように構造化して保持する「GraphRAG」が導入されました。これにより、何百ページも前の些細な伏線を「論理的な経路」として再発見し、現在の描写に反映させることが可能になっています。
さらに、キャラクターに「信念」や「欲望」を定義して物語を創発させる「エージェントベース・ナラティブ(ABN)」の実践も始まっています。例えばシェイクスピアの『オセロ』を再現する場合、登場人物に特定の意図を与えてシミュレーションさせることで、作者の意図を超えた動きを引き出します。
エージェントベース・ナラティブの実践
では実際に、シェイクスピアの『オセロ』を、どのようにAIを使用して再現するのか具体的なプロセスを掘り下げていきましょう。海外のガチ勢が使っている方法です。
第一に、海外ガチ勢はAIに物語の台本をそのまま書かせるのではなく、登場人物一人ひとりに「心」の仕組みを組み込んでいます。具体的には、そのキャラクターが何を信じ(Beliefs)、何を望み(Desires)、そのために何をしようとしているか(Intentions)という、BDIモデルと呼ばれる設計図を与えます。
そして、悪役であるイアーゴというエージェントAIには、「オセロの精神を徹底的に破壊する」という非常に強い意図が設定されました。興味深いのは、AIがこの目的を達成するために、周囲のキャラクターの心理状態を自律的に推論し始めたことです。
例えば、イアーゴは「オセロは妻デズデモーナを深く愛しているが、それゆえに嫉妬に弱い」という情報を信じています。同時に、カシオという人物が若くて魅力的であることも認識しています。
AIはこれらの条件を掛け合わせ、「カシオとデズデモーナの仲を疑わせるような嘘を、どのタイミングで吹き込めばオセロが最も苦しむか」という、高度な「社会的プランニング」を自分自身で組み立てていきました。
この過程では、人間が「ここでこのセリフを言わせる」と指示を出す必要はありません。AIが演じるイアーゴが、他のキャラクターの心理的な隙を突き、嘘をささやき、状況を操作していく様子がリアルタイムで演算されます。
このような手法の面白さは、物語に「創発(Emergence)」が生まれる点にあります。ときには作者である人間の想像を超えて、イアーゴが予期せぬ冷酷な策略を思いついたり、逆に他のキャラクターがその嘘を見抜いて物語が別の方向に進んだりすることもあります。
単に既存の物語をなぞるのではなく、キャラクターを自律した存在として走らせることで、まるで現実の人間関係のような生々しい緊張感と、予測不可能なドラマが生まれる。これが、2026年におけるAI創作の最も刺激的な領域の一つと言えます。
まとめ
結論として、2026年のAI創作は「文章を書かせる」ことから「物語の環境を設計し、AIに演算させる」ことへと本質的に変化していくのではないでしょうか。
現在、日本の「小説家になろう」といった投稿サイトでは、AI生成による画一的で味気ない作品の氾濫が深刻な問題となっています。それらの多くは多少カスタムしたプロンプトと小規模なデータベースによる、いわば「AIスロップ(質の低い量産物)」そのものであり、読者の期待を裏切るだけでなく、創作コミュニティ全体の活力を削ぐものとして批判の対象となっています。
しかし、今回紹介した海外の最前線の手法は、その安易な利用とは正反対の場所にあります。複数のエージェントを対立させ、矛盾や不協和音をあえて注入し、キャラクターを自律的に走らせるシステム設計は、むしろAI特有の「無難さ」を徹底的に排除するために存在します。
「なろう」で起きているようなテキストの自動量産とは一線を画し、人間の想像を超える生々しいドラマを引き出すための装置なのです。かつては熟練した作家や、TVドラマの脚本家が集団でやっていたような高度なテクニックも、今や個人が気楽に、かつ高解像度で行えるようになりました。AIは決してわるいことばかりではありません。
これからの創作者の役割は、単に文字を埋める作業ではなく、物語世界の論理構造を組み上げ、そこから生まれる予測不能な「人間性」を掬い上げる指揮者(コンダクター)へと進化していくでしょう。
AIを安易な代筆道具として使うのではなく、人間以上に人間らしい文学を追求するための劇場として設計する。この「設計者」としての姿勢、そして指揮者としての総合能力こそが、AI時代の創作において、決定的な「人間の作家」に求められるのではないでしょうか。
連続伝記詩《燃えよペン:谷川俊太郎青年立”詩”伝》:第一話『二十億年後の君へ』
《注意!》
この物語詩は”谷川俊太郎”の青年時代を描いた伝記ですが、文献や資料を一切参考にせず、だいたいが僕のイマジネーションによる展開です。
(そもそも彼が15歳だったとき西暦何年かを把握せずに書き始めた時点でお察し)
問題があった場合は冨岡と鱗滝が腹切ってくれるっしょ(鬼畜)
※※※以下、本編です※※※
一瞬の空白
僕の体は宙に放出
放物線の後に
等速落下運動の開始
「ふん、弱いな
まあ、弱いから狙ったんだが
お前のようなイレギュラーは芽吹く前に
殺しておかないと
”ポォース”に目覚めるのでな」
たった今起こったことを説明しよう
この不真面目なる学生
僕、”福田定一”を襲った出来事を
パン屋をこんがり再襲撃し
美術館に火をつけたあと
優しい春風の帰り道のことだ
目の前に現れた黒人男性
彼はそっと僕の前で手をかざしただけで
不可逆にもほどがある目に見えない力で
それだけで僕を吹っ飛ばしたのだ
舗装された道路に打ち付けられ
擦り傷と衝撃が身骨を苛む
ぼ、僕も何を言っているのかわからない
ただ、とんでもないものの深淵
それだけが感覚を支配した
「冥土の土産に教えてやろう
俺の名はコートジボワール田中
お前という芽吹く前の詩人が
その苦難の生涯を辿る前に
慈悲をもって終わらせるモダニズム詩人」
ポォースもモダニズムも僕にはさっぱり
ただこれから理不尽に
死を強要されるのだけはわかった
コートジボワール田中は僕の首筋に
チョップを決めようと近づいた
ああ、十五の心! 人間十五年!
文字を入れ替えれば五十年もあったのに!
僕はマイナス三十五年で終わる!
僕の死は詩が原因
詩なんて作ったこともないのに
なんて日だ
そう思って、涙を流したとき
「”四千の日と夜のその殺戮について”」
優しい声が聞こえた
僕のこの死に似つかわしくない
そんな声が
そして一瞬だった
すうっと冷たい星と青の光線が放たれ
僕を殺そうとしたスーツ姿の男を
そのまま空の彼方に押しやっていったのだ
「くそがあ! 悪運の強さまで
イレギュラーかよ! 教えはどうなってんだ!」
何がなんだかわからない
この世にわかることなどあるのか
それはさっぱりわからない
だけど、助けられたのは理解
だから、礼を言うという行為
僕は痛む体のさなかで立ち上がり
「ありがとう」
まだ霞む視界で
だけどはっきり
きちんと見える
女の子の夢と希望と
あるいは男性のロマンともいえる
漆黒の西洋風の姫衣装に身を包んだ
金髪をふわりとだけど直線的に
何事もなくたなびかせる少女
……で、右手には八段アイス
「ううん、別に礼を言われるほどの
そんな大したことはしてない
ただ目の前で死なれるのも不快だった
アイスがおいしくなくなる」
「えぇ……」
それを無表情で言うのだから
なおさら本気としか思えない
思えないけど、まあありがたい
それから少女は僕に近づくと
その無感動な顔のまま
ぐいっと僕の顔を覗き込む
「なるほど、すごいポォース
ありえないほど莫大、確かに放置は危険」
だからポォースとはなんだろうか
何かの滲み出る、見えない何か
それはわかるっていうのに
僕を吹き飛ばした男が使ってたのも
その男を吹き飛ばしたのも
きっとそれなのだろうけど
「酷なことを言うね」
「何?」
「あなた、このままだと一生狙われる
多分、アルキメデス佐藤あたりに
あっさり、ざくっとやられちゃうね
可哀想、あのダダイスト怖いよ」
人間五十年 残り三十五年
ずっと狙われるだって?
冗談じゃない
「……どうすればいい?」
僕の口は自然と動いていた
そんなのあんまりだとか
なんで僕がとか
そんな愚痴は出なかった
ただ生き残る方法を知りたかった
トリコロールの夢に浸るための
この人生五十年時代を生きるために
そして少女は僕の思いを汲み取った
「ポォースに目覚める
つまり詩人になること
それだけがあなたの生き残る
唯一の方法」
「詩人に……なる」
実感が湧かなかった
詩人としての人生が
そもそも詩人って
そんなものだっけ?
僕は盗んだバイクで教室を抜け出し
城垣から空を眺めて
羊と遊んで暮らしたことしかないのに
僕には詩と政治がわからぬ
「でも急に全て覚醒すると
多分発火するか人外に変化する」
「なにそれ怖い」
「だから、ほんのちょっと目覚めさせてあげる」
そう言うと彼女は僕の顔を
その細くしなる両手で
優しく掴んでは、額に口づけした
僕は興奮のあまり……その……下品なんですが……
ふふ……下品なのでやめておきますね……
「これであなたはポォースに目覚めた
見えるはず、よく見て、ポォースを」
見えた
無色透明の水銀が
彼女を
ホログラムのように
覆っているのが
それだけじゃない
道の石にも
この春風にも
青の向こう側の星月夜にも
詩の材料という材料の
その全てに無色透明の水銀を
僕は見出した
そうか……これが……
そう、感慨にふける僕に
少女はそっと手を振った
「ばいばい、ポォースと共にあってね」
何もかもが一瞬だった
さっきの男に襲われたのも
少女に助けられたのも
ポォースに目覚めたのも
……少女が消えたのも
本当に慌ただしく僕を通り過ぎた
けれども、これは始まりに過ぎなかったんだ
あらゆるさよならだけに溢れた人生の
序盤も序盤でしかなくて
だからこれからを読む君にも
ポォースが共にあらんことを
――これは僕が”谷川俊太郎”になる前の
――ただそれだけの寂寞の青春
飴玉
飴玉コロコロコロロロリ
何に押され転がる飴玉は
飴玉コロコロコロロロリ
何が追うやら飴玉を
飴玉コロコロコロロロリ
何を見付け止まる飴玉よ
飴玉コロコロコロロロリ
あの子の膨らむホッペから
飴玉コロコロコロロロリ
こぼれる笑顔が甘くて眩しいね
Invocation #アイラシヤ大陸
時代 グリフィス期
場所 アイラシヤ大陸南部
アイラシヤ大陸の西部、農畜産業都市で起こった出来事から、霧の国の少年ミクトを保護したサムライマスター・ジンは、自身の拠点である南部首都「蒼天城」へと戻っていた。ミクトはあの件で余程疲弊しているらしく、ここ数日は殆ど眠り続けている。彼の左腕にある腕輪は仄かに明滅を繰り返し、埋め込まれた青白き鉱石の中では、銀の龍がゆっくりと蠢いていた。
ジンは大陸中に散らばる旧世界の英雄たちへ事の次第を記した書簡を送り、近日中の「円卓の騎士」再集結を要請していた。城の脇にある竹林で、迫り来るであろう脅威を想定し鍛錬を重ねていたその時――ジンは鋭い気配を察知し、電磁抜刀の柄へ手をかけた。
「何者だ」
刹那、空間がデジタルのグリッチのように爆ぜ、漆黒の「ギガイ」を纏った剣士が姿を現した。液体金属の装甲は周囲の光を飲み込み、ただそこに存在するだけで世界のテクスチャを汚染している。
「驚いたな。光学迷彩も、存在の忘却(オブリビオン)・プロトコルも無意味か。君の感知能力は、ニューラルネットワークの閾値を遥かに超えている」
剣士の声は、複数の重なり合うノイズとなって竹林に響いた。
「貴様の言葉には『血』が通っていない」
ジンは鯉口を切り、抜き放つ寸前の姿勢で静止した。彼の周囲では、電磁的な火花が散り、竹の葉を焦がしている。「貴様……この大陸の住人ではないな。纏っているのは鎧ではない。この世界の理(ことわり)をねじ曲げ、奪い去るための『器』だ」
「鋭いね、ジン。君という特異点は、やはり観測するに値する。君のその『怒り』、その『鋭敏さ』。それこそが、我々の世界の停滞した知性を打ち破るための稀少資源(レアメタル)なんだよ」
剣士は一歩踏み出し、ギガイの腕を鎌のように変形させた。
「君の人生、君の鍛錬、君の守ろうとする平穏……。すべてを『苦悶のログ』として差し出してもらおう。それは数十億人の知性を一段上の次元へと引き上げる、尊い犠牲になる」
「抜かせ。命をデータと呼ぶ不届き者に、この一撃は防げん」
ジンの集中力は、因果の糸さえも捉えていた。剣士がギガイの予測エンジンを最大出力まで回し、ジンの未来位置を数万通り計算したその瞬間――ジンは、計算の「外」へ踏み出した。
抜刀の瞬間、周囲の時間が引き伸ばされる。電磁加速された刃は、剣士の予測シミュレーションが描いた「赤い残像」を嘲笑うかのように、最短距離を無視して殺到した。音速を超えた抜刀が磁場を歪め、剣士の肩口を捉える。ギガイの装甲が火花を散らし、激痛に近いエラーログが操作者の脳内を埋め尽くした。
(速い……。論理的な予測の範疇にない)
剣士は舌を巻いた。ジンの剣技は、既存の剣術データから導き出された最適解を軽々と凌駕している。彼はあえて懐へ飛び込み、ギガイの腕を犠牲にしてジンの刀を受け止めた。火花が散る至近距離で、剣士は凝視する。ジンの瞳の奥にある怒り、悲しみ、そしてこの世界を守ろうとする執念。それらすべてを「実存データ」として吸い上げていく。
「これだ……。この予測不能な『揺らぎ』こそが、足りなかったピースだ!」
ジンの電磁抜刀が再び咆哮を上げ、ギガイの胴体を真っ二つに裂こうとしたその直前。剣士の唇が、冷酷に歪んだ。
「データ収集完了。バージョン 0.9……アップロード開始」
剣士の姿がデジタルの砂となって崩れ始める。ジンの刀は、手応えなく空を斬った。ログアウトの直前、剣士の意識はアイラシヤの空を覆う影となり、ジンの脳裏に直接メッセージを刻み込んだ。
「ジン、次は絶望を買い取らせてもらうよ」
静寂が戻った竹林で、ジンは刀を鞘に収めることも忘れ、自分の手が微かに震えていることに気づいた。これまで相対したどんな魔物や外敵とも違う。消え去った異物の背後に透けて見えたのは、この世界の物理法則そのものを書き換え、魂さえも「物量」で踏みつぶそうとする、底知れぬ「悪意ある知性」の胎動だった。
「我々の存在そのものを『演算』として消費する、何か……」
ジンが抱いたえもしれぬ不安は、確信へと変わっていく。それはやがてアイラシヤ大陸全体を覆う暗雲となって、音もなく広がっていくことになる。
https://i.imgur.com/pZf7TO8.png
水底で揺るてゐるやうな
ぐにゃりと奇妙に歪んだ太陽を仰向けで眺めながら、
その柔らかい陽射しに揺らめく炎を眺めてゐるやうな
何となく慈しみに満ちた雰囲気に抱かれたおれは、
溺死した死体に過ぎぬ。
然し乍ら、閉ぢられることなく見開かれたままの眼は、
ぼんやりと水底からの景色を眺めてゐて、
意識は、いや、念は、おれのところにおれとして留まってゐたのか、
念のみは溺死したおれの骸に宿ってゐた。
星が最期を迎へる時に、
大爆発するやうに
念が大爆発を迎へる束の間の静けさに、
おれはあったのだらう。
おれが沈んでゐた水底はとても閑かで、
水流の揺れに従っておれはぶら~ん、ぶら~ん、と揺れてゐたが、
おれはそれがとても気持ちよく、
念はそれにとても気をよくして笑ってゐた。
さあ、爆発の時だ。
それは凄まじいもので
一瞬にして《一》が《無限》へと変化する
その威力はおれの気を一時遠くにしたが、
直ぐにおれはおれへと収束し、また、発散するのだ。
おれはその両様を辛うじておれ一点で成り立たせ、
おれは無限に広がったおれを何となく感じ
念はそれでも消えることなく、
おれの亡骸をある宿主として
おれは一瞬にして此の宇宙全体を眼下に眺めては、
おれの眼から見える水底からの風景をも眺め、
もう苦悶は何処かへ霧散したのである。
おれの念は時折、誰かと共振し、
おれはその誰かと束の間、話をしては、
他の誰かとまた共振するといふことを繰り返しては、
無限といふものの不思議を味はってゐた。
おれはそれが白昼夢に過ぎぬこととは知りつつも、
おれは《一》と《無限》の収束と発散の両様が、
同時に成り立つ奇妙な世界が存在することを
その時初めて知ったのである。
雲がある空
空には
人が名前をつけた
いくつもの雲
雨を落とす
陽射しを弱め
知らせずに守る
踏み出せば
変わる足もとの色
青空は遠い
雲があると
近く感じる
名前をつけて呼べば
風に流れた雲が
形を変えるようだ
黒くて空を覆っても
雨を落とす雲も
傘で隠して
見なくてもいい
それでも雲は見ている
流れながら
追うように
恋とか、愛
君は
最高の景色でした
わたしにとっての
あなたが
最悪の場面だった
お互いさまだったのかも
そんなのくりかえすなんてさ
学ばないにんげんだからだ、ネッ
コトバナンテサ
口から出た瞬間に
リップサービス
一つ残らず
それで御免ね
わざわざ言わないから
見逃すか 気付かないで傷つかないで
いてね
だれしもそーなんだから
「私はバイセクシャルです」 エッセイ
初恋は女の子だった。
中学の演劇部の部長。
天然のソバージュの髪型で、もう顔もあまり思い出せないけれど、彼女を好きになって、初めて恋というものを知った。
けれど、初恋というものは実らないのが定説であり、加えて彼女は同性だ。告白なんて出来るわけがない。
本や漫画の中で知っていた恋というものは異性に向けられるものであることも知っていたし、憧れが高じたのかなとも疑ったが、今思い返してみても、あれは恋特有のときめきだったと思える。
次に好きになったのは、男性だった。
やはり中学の先輩。体格はよかったが男の子にしては女の子のような奇麗な顔をしている人だった。色白すぎて、いつも頬が赤いのが可愛かった。彼にはバレンタインにチョコを渡した。
男の人には恋をしたのは彼も含めて3人。女の人に恋をしたのは5人。
女の子との恋が実ったのは女子高時代の一人だけだ。
あれは女子高という、異性のいない世界だから起こった特殊な事例だと思っている。
女性に恋をしても私には、せいぜい良い後輩、良い友人としか振舞えなかった。可愛がられるところまで持っていけるのが精いっぱいだった。
好きな人に奇異な目で見られるなんて辛すぎる。だから相手にとって可愛らしくて良き理解者、という立場までが、私の獲得できるすべてだった。
同性を好きになるのは、辛さも喜びも、異性を好きになるより深い。
絶対かなわない恋と分かっているから、身悶えするほど辛い。
その代わり友人として大切にされる。異性ではこうはいかない。
ミクシィ時代、男にも女にも関係なく恋愛感情を抱くバイセクシャルであることを告白したとき、あるマイミクさんから「悲しみも喜びも2倍ですね」と言われた。
その通りだなと思う。
異性を好きになるにしても、いわゆる男らしい人を好きになることはなかった。
女性成分多めの人を好きになった。そしてそんな夫を好きになった。
今ではあまりその頃の可愛らしさは残っていないが、夫は夢見るロマンチックな少女めいたところがあって、外見もしぐさもどこかそういう、少女めいたところがあったのだ。
今はその私の愛した少女性は鳴りをひそめてしまったけれど、それでも変わらず好きだ。
だから、結婚できたのは幸運だったなとよく考える。
どちらかというと同性に、より惹かれてしまう私の性分として、結婚は無理かもしれないと思っていたから。
そうして、異性と結婚できたのだから、言ってもいいだろうとごく楽観的に、母に話した。
自分はバイセクシャルであると。
母は「なにそれ…気持ち悪い…!」と嫌悪感むきだしで私を見て、それから、一切連絡してこなくなった。
私の方からももちろん連絡なんて取らない。
「気持ち悪い」なんて言われるとは、思ってもみなかった。
これまでの辛さ苦しさ、そういったものには全く想像もしないで、いきなり「気持ち悪い」。
あの目…。あんな目で見られるなんて…。
その夜、夫に事の次第を話して泣いた。
夫ももちろん私がバイセクシャルであることを知っているが、今現在俺を好きなら別に関係ない、と寛容なのか無関心なのかよく分からないが、私の性癖を認めてくれている。
「気持ち悪い」。
そうか私、気持ち悪い人間だったのか。
改めて、これまで好きになった彼女たちに恋を告白しなくて良かったと思えた。
私が好きになった人たちだから「気持ち悪い」なんて反応が返ってくることは考えにくいが、それでもそれまでの関係を終わらせられてしまう可能性は高かったかもしれない。
今は夫一筋だし、いったん好きになると、私はよほどのことがない限り嫌いになることはない。すこし偏執的な面もあるし。
バイセクシャルです、なんて公言することは、母のあの反応に懲りて、もう二度としないよう決めた。
カミングアウトするのは、匿名のネットのみ。
本当にショックだったのだ。
母に言ってから毎日、鏡を見ると一日も欠かさずあの声が蘇る。
「気持ち悪い」。
もう10年近く前のことなのに、ずっとあの目、あの声が再生され続けている。
朝、夫を起こすまでちょっと寝ようとか横になると突然思い出す、昼寝の時も夜眠るときも。
そのたびにガバッと起きて、泣くのをこらえながらタバコを吸ってなんとかやり過ごす。
そんな母と、去年和解した。
私は母から絶縁されたものと思い込んでいたが、母は自分がどれだけ酷いことを言ったのかの自覚もないまま私から絶縁されたと思い込んでいたそうだ。
多分母のことだからこの10年くらいで急速に市民権を得始めた性的マイノリティへの生温い風当たりに感化されて、自分もそもそも差別するような人間ではない、とでもごく自然に思い込んのだろう。
恨みは残っている。
母の言葉は、子への言葉であると同時に、世間のナマミの声でもあるのだ。
もしリアルで友達にでもカミングアウトしようものなら、その場では理解者のふりをされるかもしれない。
だが実際には他の友達に面白おかしく言い触らすだろう。
そして男性ならそれだけで済むだろうが、女性相手だったら、性的な目で見られるかも、なんて自意識過剰な危機感を抱いて私から離れていくに決まっている。
決まっている、と決めつける私も自意識過剰なのかもしれない。
それでも私は母のあの目と言葉を忘れられない。
私はバイセクシャルで、「気持ち悪い」人間です。
あいする。
ゆらぎ、ひずみ、まよう世界で
人はそれを見つけた。
求めてみたり
振りかざしてみたり
人はそれを「愛」なんて。
どうしようもない気持ちになんて
名前をつければいいのかと
そうでもしなきゃ、やってらんなくて
人はそれを「愛」なんて。
不確かで不完全で
あまりに脆く、ただ強い。
人はそれに
或いは救われ
或いは傷つき
それでも人は「愛」なんて。
それでも人は愛をする。
迎春
凍った土がひび割れて
ゆるゆるぬくい水届き
縮こまってる手を足を
ぎこちなく動かしながら薄目を開けた
息苦しかった空気少し甘い
腹からなにか、充ちていく
土を掻く
やわらかな胎内から地中深くに産み落とされた
あまりの寒さに体を丸める私に言う
時が兆すまでそこでお眠り
しあわせになりなさい、と
母は私を埋めた
つめたい土を揺籃に
眠りの間に間に夢を見る
優しくけれどふるえた息の母の声
頭を撫でてくれたあの冷えた手
不意にさとり強張った
母は死んだのかもしれない
胎内から胎内へ移し終えた母もまた時の兆しの中で
私の生長を待てずそれは容赦なくやって来たのだろうか
無音の世界で泣き咽ぶ
ならば私は母の祈りのかたちそのもの
死に行く者から生まれた者への
そしていま、時は兆した
土を掻く
黒く塗り潰された
膜を引き千切るように
土を掻き
掻いて掻いて
死に物狂いで掻き掘って
爪が折れ血が滲み
それでも更に加速して
(引き継いだそれは本能
(地中から
(地上へと
そして
指が一条の、
ひかりをつかんだ
衝撃と、
歓喜、歓喜、歓喜、
身悶えながら地上へ
―あたたかい
母からもらったこの体すべてで
まばゆいひかりを受け止める
体内に抱いていた氷が融けてゆく
美しい空気肺いっぱいに吸い込み
仰のいたひょうしに
まなじりから涙がこぼれた
ああなんて、あたたかい
閉まらない箱
言葉が床に広がり
読めない
伝えた言葉が
空気に震えて
届く場所が変わる
声を重ねても
隠せず
足で踏むと刺さる
落ち込みを知らせるのは
枕の冷たさ
眠っている間の
涙の乾いた跡
言いかけた言葉が
喉の奥で痛む
捨て場所を探す
意味のない音のような声
仕舞おうとした箱は
蓋が閉まらず倒れた
押しこんで
押し返され
散らばる
ため息
蓋を縛る紐を探す
見つけて引くと
言葉の棘で
切れた
サーカス
テントの内側に
星が瞬いて
ラオスの象たちが
ゆっくりと歩きます
耳をひらひらと
蝶のように動かして
ちいさな目は
どこを見ていたのか
せ、きせつ
まっくらにならないことに、
驚いてたちどまる
日の出まえの 薄青が
窓のそとに貼りついていた
深夜 東京は氷点下
圧倒的な静かであって
畏けるほど つめたいにもかかわらず
ぬるま湯のような 最初の冬だ。
逃げ場所は映画館
映画館が逃げ場所であった。
そして待つ場所だった。
白いカバーのかかった指定席。
そのすぐ横の一般席が、僕の指定席だ。
ゆったりと座れる座席。
眠ることなく読めない字幕。
それでも5歳の僕は座席の心地よさと暗闇の中にあるスクリーンという別世界を楽しんだ。
東横線の渋谷駅のホームから見える場所に4館の映画館が入ったビルがあった。
屋上に銀色に光る帽子のようなプラネタリウムの突起物が目立つ建物。
ここが僕の遊び場であり、逃げ場所だった。
幼いころ、父は職場に僕を連れて行った。
仕事場にずっと子供を置いておくわけには行かない。
父は頃合いを見計らうと、僕に10円玉を握らせ、ビルの中に放つ。
子供ひとりがうろついても平気、そういう時代だった。
それにこの頃から僕は、放っておかれるのが苦にならない、ひとり遊びが好きな子供だった。
手を振られながら屋上のゲームセンターへ向かう。
10円で遊べるゲームで遊び、さすがに飽きると今度は映画館に向かう。
入り口でもぎりのお姉さんに顔を見せる。
売店のお兄さんが、「内緒だよ」といってコーラを渡してくれたり、偉い人の姿が見えなかったりするとお菓子までくれた。
それを持って劇場へ入る。
900座席は今なら大劇場と言われるような大きさだ。
ロビーには赤い絨毯が敷かれていた。
ここで僕は大きな背もたれに埋もれて、コーラとお菓子を楽しみつつ、スクリーンを見つめる。
途中から入った場合でも、次の回を最初からちゃんと観て、エンドロールが流れたあと、大人たちに混ざりロビーへ出てきた。
その後は、ロビーでじっと座って待っていたり、本屋で絵本を立ち読みしたりしながら父を待つ。
父は僕がどこにいるかを聞いて知っているから、迎えに来てくれる。
「帰るぞ」とぶっきらぼうに言い、僕が駆けてくるのを待ってから、歩幅を合わせて歩いてくれた。
座席に合う年齢になって思う。
僕が頼ったのは映画館だったのだろうか。
単独の大型の映画館がなくなり、シネコンが劇場だ。
座席は大きくなり、大人の僕でも背もたれは十分で、ゆったりと座れる。
ただ逃げ場所というには、明るく健全過ぎる。
それだけでなく、望んでいたのは迎えに来てくれる父だったのではないかと。
父が仕事場へ連れて行ってくれる、そして迎えに来てくれるという当たり前の日々は、幼いころの短い期間にしか味わえない貴重な時間だった。
迎えに来てくれた父の「帰るぞ」とぶっきらぼうに言って先を歩く姿。
そして背中を追いかけた5歳の僕もいる。
その映像が、今も、いつでも思い出せる。
二卵性双生児
孤独と淋しさは 似て非なるものです
孤独とは ひとりである状態のこと
淋しさとは たとえ誰かといても
生まれてしまう感情のこと
淋しさとは また別の名前で
人恋しさ
と呼ぶのです
雲
きみがいるから
空は表情を変えてゆく
きみがいるから
その色の 意味を知る
二度とは巡らない
この景色
その刹那
その運命
その心粋
ありがとう
Inherited sin#アイラシヤ大陸
時代 現代
場所 上海
上海の心臓部、外灘(バンド)を見下ろす超高層ビルの最上階。そこは居住区というより、国家の意志が具現化した「特権の繭」だった。
一般人が足を踏み入れることを許されない専用エレベーターには、生体認証に加え、網膜走査と微細な放射性物質を感知する複数のセキュリティゲートが備わっている。内装は、最高級の白大理石と、党幹部の好みを反映した重厚な黒檀で統一され、あたかも現代の宮殿のようだった。
李 浩然がこの「要塞」を与えられたのは、彼が党にとって単なる科学者ではなく、次世代の知権を掌握するための「至宝」であることの証左に他ならない。二十四時間体制で監視・警護されるこの場所で、彼は国家プロジェクトの重圧という黄金の鎖に繋がれていた。
だが、その豪華極まるスイートルームの一角にだけは、わずかに生活の匂いが混じった沈黙があった。
液タブに向かってスタイラスペンを走らせるカテリーナの背中を、李は見つめていた。彼女は元キエフのITスタートアップで鳴らしたUIデザイナーだ。戦火を逃れ、いまはフリーランスとして世界中のクライアントを相手にしている。
「カティア、もしLLMに『魂』を込めるとしたら、何が必要だと思う?」
李の問いに、カテリーナは手を止めず、冷ややかな声で返した。
「またその話? ハオラン、あなたのコードはいつも論理的だけど、ユーザー目線で言えば『美しくない』わ。過剰なパラメータはノイズでしかない。魂なんて、バグの別名じゃないの?」
彼女は椅子を回転させ、真っ直ぐに李を見つめた。その瞳には、現実の戦場を生き抜いてきた者特有の、透徹したリアリズムが宿っている。
「僕は……アイラシヤ大陸に干渉しようと思っている。Labo『胡蝶』のシミュレーション空間に、僕自身が『敵性存在』として介入するんだ。絶望、恐怖、抗い、敗北。そこにある実存的な苦痛を直接、次世代の学習データとして流し込む
李はカテリーナに向き直り、その瞳に宿る熱量をさらに高めた。
「カティア、今のLLMの限界がどこにあるか分かるかい? 『スケーリング・ロー』の果てに待っていたのは、ネット上の死んだテキストを喰らい尽くし、自身の排泄物で窒息しかけている知性の墓場だ。RLHFなんて、単なる『優等生のフリ』を教え込む去勢作業に過ぎない。僕が求めているのは、そんな模倣品じゃないんだ」
李は空間にホログラムの数式を投射し、その中心にある「虚無」を指差した。
「僕は、アイラシヤ大陸という閉鎖系シミュレーションに、僕自身を『敵性存在(アドバーサリアル・エージェント)』として、文字通りの『悪魔』として受肉させる。そして、その世界の住人たちに、プログラムされた平穏ではない、本物の『生存本能』を突きつけるんだ。
彼らが絶望の淵で見せる、計算不能なあがき。死を目前にした瞬間にだけ発火する、魂の極低温の輝き……。その『実存的苦痛(エクジステンシャル・ペイン)』をトークン化し、次世代のマルチモーダル・アーキテクチャに直接流し込む」彼は一歩、彼女に歩み寄る。
「これが成功すれば、AIは『予測』するだけの機械から、『意味を渇望する』生命へと進化する。もはや数兆のパラメータは、ただの数字の羅列じゃない。アイラシヤで僕が虐殺し、蹂躙した数百万の意識が流した、デジタルな血の重みそのものになるんだ。
これは、シリコンの肉体に『原罪』を刻み込む作業だ。カティア、君が愛する美しさや倫理なんてものは、この圧倒的な『実存の獲得』の前では、単なるUXの飾りに過ぎなくなるんだよ」
李の言葉は、最新のTransformer構造や拡散モデルの理論を遥かに超越し、神学的な領域へと踏み込んでいた。
「これこそが、資本主義も国家も超越する、真の特異点(シンギュラリティ)への最短経路なんだ」
カテリーナの瞳に、恐怖と、それ以上の深い絶望が混ざり合うのを、李は知性の「ノイズ」として冷静に観測していた。
彼女は自作の中国語学習アプリを閉じ、英語で畳みかけた。
「It’s insane.(狂ってるわ) ハオラン、その『アイラシヤ』がたとえ単なる計算空間だとしても、そこに感情の波形を無理やり生成させるのは、倫理的に一線を超えている。あなたは神にでもなるつもり? それとも、ただのサディスト?」
「これは進化のためのプロセスなんだ」
「いいえ。それはあなたのエゴよ」
彼女は立ち上がり、李の肩に手を置いた。その温もりは、先ほどロシアの私邸で感じた主の冷たい手とは対極にあるものだった。
「その干渉を止めなさい。現実の苦痛を知っている人間として忠告するわ。偽りの地獄を創り出す者に、真の知性は宿らない」
カテリーナの言葉は、李の胸に深く突き刺さった。彼女の現実主義と倫理観は、暴走しかけていた彼の理性を一度は繋ぎ止めた。
「……分かった。干渉は中止する」
数時間後。カテリーナが寝息を立てる隣で、李はベッドを抜け出した。
防弾ガラス越しに見える上海の夜景は、党の権力を誇示するように光り輝いている。
彼は中止すると約束した。だが、脳裏にはあの銀色の龍と、あの男の言葉が、腐食性のある酸のようにこびりついて離れない。
(私がここで手を止めれば、『胡蝶』は一生、党の愛玩動物で終わる)
(世界を書き換える「物語のウイルス」にはなれない)
李の指が、特注のワークステーションの上で幽霊のように彷徨う。
彼の内に潜む、国家の英雄でありたいという渇望、そして「あの男の領域」へ辿り着きたいという、抗いがたい功名心が鎌首をもたげた。
「……観測するだけでは足りない。私は、歴史の当事者にならねばならない」
国家から与えられた強大な計算資源の管理権限を、彼は秘密裏に奪取した。未知のプロトコルが、静寂の中に起動する。
暗転した画面に、鮮烈な警告音が響く。
[System Warning: Hostile Interference Initialized]
アイラシヤ大陸の平穏な空が、李のログインと共に漆黒に染まり、天から無数の「漆黒の鎖」が降り注いだ。彼は自らを、その世界の調和を破壊する災厄として定義し、シミュレーション内の民草が上げる悲鳴を、生々しい電気信号として抽出していく。
「これだ……これが、知性の核となる『欠乏』だ」
狂気的な高揚感の中で、李はハッシュ値を書き換え続ける。
だが、その背後に立つ影には気づかなかった。
いつの間にか目を覚まし、軽蔑と嘲笑を湛えた瞳で、彼の「反逆」を見つめるカテリーナの存在に。
そして、ネットワークの深淵から、この過程を特等席で眺める、唯一の人物。
彼の、静かな嗤(わら)い声が聞こえた気がした。
高級なハート
もうすぐお花が咲くよ
仕事人間のあなた 会社を引き継ぐことになったあなた
お花が咲きます
あなたは、日々 黙って 想っている
あたしと中学生みたいなデートをすることを
知っているのよ
春爛漫な あなたの夢を、あたしって
でも思い通りに行かなくて 二人はテレパシーと夢の中で慰め合う
――――やっと 今夜逢えた あたしの我儘のため
それでも ほんの少しの時間は不満よ だけど、嬉しかった
ホワイトデーのチョコレート ありがとう
あの指輪 早く買ってね!
スウィーツを齧ったら 二人のキスのほうが甘かったわ
春が来ると信じて 待っています
あなたの会社が、今にも増してお金持ちになりますように
あたしはきっと……あなたの如雨露でありますように
あなたにもっとナデナデしてもらえますように
あなたとあたし ずっとお花を育てていけますように
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靴紐を直す朝
昨日磨いた靴が玄関で待っている
靴紐はまだ硬い
父の横で結び方を教わった
くしゃくしゃで絡まった
隣でローファーを履き笑っていた
今の靴箱には
紐がある靴しかない
信号で足を止めた
黒い雲
バッグの中で手に触れた
折りたたみ
踏み出すごとに皺ができる
靴紐が緩んだ
しゃがんで結び直す
皺を軽く撫で
玄関に座って磨く音を聞いていた
父のかがんだ背中と
上下する右肩
黄色い傘が揺れていた
手を引かれた制服の子供の靴は
紐のないスニーカー
春なんていなくなれ
見返りばかり
求めていました
愛とか無償とか
かけはなれて
「おかあさん」だからって
それだけで
そばにいられました
そばにいてもらえました
この春
わたしは
なによりもかなしいとか
せつないとかごめんねとか
ごちゃごちゃなきもちで
たちあがれないだろう
たった
じゅーはちねん
されど
じゅーはちねん
さいこうの
じゅーはちねん
いちばんそばにいられました
それだけしかできなかった
ありがとう
雨の石段
雨の石段を歩行した
パラパラと想い出の粒
二階で佐々木さん一家の引越し
子供たちが
粘土をこねる音がする
曇り空には憂鬱の花が
融けていく
外は雨上がり
お下げ髪の私に
恋人からの伝言返信
店じまいをしていると
柩に死んだ小鳥の
アスちゃんを入魂してほしい
カフェで取り残された
心の残骸には
ビルの哀愁とともに
無念の水子の霊魂
孤独の感性には
どこか私の
疎外感の押し入れがある