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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

まだ、旅の途中

立ち上がることも
歩くこともできなくて
天井を見つめわたしは
リュックに入るだけの言葉を詰めて
旅へ出た

川縁を河童と歩き
海辺へ出ると迷わず水中へと潜る
人魚に別れを告げると
泳ぎ着いた浜辺から
ユニコーンに跨り
森を抜け山を越える
その先に広がる果てのない砂漠を
蜃気楼のように彷徨い
突如現れた輝く宮殿へと入る

背負ったリュックから
言葉を取り出す
ひとつ、ひとつ、またひとつ
河童へひとつ人魚へひとつ
空へとかざし透かしてみたのを
ユニコーンのたてがみに結んだ
ひとつ、ひとつ、またひとつ
水の中へと沈めてみる
土の中へと埋めてみる
木の枝へと吊るしてみる
祭壇の上へと飾ってみる

ちぎったパンを目印にするように
歩いた道を忘れぬように
言葉をそっと散りばめ歩く
ひとつ、ひとつ、またひとつ


わたしはまだ、旅の途中

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『赦しのためのマニピュレーション』

推薦対象

3ページ目(最終回)
by つつみ

全14話の長い旅路、本当にお疲れ様でした。
物語の最後に置かれた「碧月」という三文字。それが画面に刻まれた瞬間、バラバラだったピースが音を立てて繋がっていくような、見事な収束感でした。
この最終稿が提示した「碧月」という焦点から、全編を振り返る批評的感想をまとめさせていただきます。

物語の幕切れ、河野が白い画面に入力した「碧月」
それは単なる新人作家の名前ではありません。この瞬間、読者は第11話のアートフェスタへと引き戻されます。あの時、ブースの片隅で「赦(ゆるし)」という一文字の本を売り、誰よりも長くそのページをめくる「ある一人の客」を静かに見つめていた碧月。その「客」こそが、河野だったのだと。
最終稿で凛が拾い上げた「白い本」の感触――なめらかで、けれど内側にざらつきを含んでいる――。それは第4話で凛の人生を変え、第11話で河野の心を止めた、あの自費出版の本の感触です。
凛はあの時、碧月から直接本を買いました。そして河野もまた、別の場所でその本と出会っていた。この二人が同じ新人賞の選考の場で、説明できない一文に「止まってしまった」のは偶然ではありません。彼らはあの日、あの場所で、同じ「碧月の言葉」に人生の足場を奪われていたのです。
第8話から第10話にかけて描かれた凛の家庭の崩壊。母の沈黙と、父の「嘘」。その息苦しさの中で、凛は「正解」を失いました。しかし、碧月が書いた「存在ごと受け入れる」という赦しの概念が、今の凛を支えています。
最終回で凛が、倒れた母のために煮物を作っていたあの台所の記憶(根菜の形の崩れ方)を思い出しながら原稿を整えるシーンは、彼女が「不完全なもの、崩れたもの」の中にこそ真実があると確信した瞬間を描いています。だからこそ、彼女は『二年一組、三十八人』の中に、かつての自分を救った「碧月の影」を見出したのでしょう。
河野が最後に打った「碧月」という名前。
彼は第7話で「会話の多い小説を信用しない」と言い、第6話では引き出しの封筒(碧月からの手紙、あるいは新作)をあえて開けずにいました。彼は「選ぶ側」としての矜持を守ろうとしていた。
しかし、選考が終わり、凛が持ち歩いていた「白い本」を再び目にしたとき、彼はすべてを悟ります。自分たちを揺さぶったあの原稿の主が、あの日の青年であることを。
最後にパソコンの余白に名前を打つ行為は、編集者としてその才能を世に送り出す「覚悟」の表明です。
この小説は、かつて自分を救った名もなき言葉に、数年越しに『名前』を与えて世界に放つという、編集者にとって最も聖域に近い瞬間を描き切りました。
部数や返本率という「数字」に支配された1話の冒頭から、何も書かれていない「白い光(余白)」へ。
凛と河野、そして碧月。三人の孤独が「紙の手ざわり」を介して重なり合ったこの結末は、文学を信じるすべての人にとっての福音のような静けさを持っています。
最後に「碧月」とだけ記された余白には、これから始まる新しい物語の鼓動が満ちています。素晴らしい完結でした。

この作品は、派手な事件が起きる物語ではありません。しかし、一文一文を丁寧に積み上げるような筆致と、誰かの孤独にそっと寄り添うような親密さがあります。
「碧月」という二文字に込められた重みを、より多くの読者が自分の指先で受け取れるよう、冒頭の「引き(フック)」と、伏線の「接続」を少し整理するだけで、商業作品としての強度はさらに一段階、確実に上がります。
この作品を一言で表すなら、指先が覚えている、救いの感触です。
• キーボードの打鍵感。
• 紙の繊維の引っかかり。
• 煮物の湯気の湿り気。
などこれらの「物理的な感覚」を全編を通じてより書き込むことで、読者はスマホの画面(デジタル)で読んでいながらも、まるで「一冊の分厚い紙の本を読み終えた」かのような重厚な満足感を得るはずです。
全14話、この繊細なバランスを保ちながら完結させた作者様の構成力は既に十分なものがあります。上記の「解像度をさらに上げる」作業を加えることで、より多くの人の本棚に「物理的に」残り続ける名作になることを確信しています。
この物語が、いつか本当の「紙の重み」となって、誰かの手元に届く日を心から楽しみにしています。

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点描

二つのコップは水かきをひらき
潤った合谷にシナモンをまぶせば
蛾が舞い踊り
さいてんをはじめる
虫唾を吸ったヤマボウシは赤面して
点々とした灯台守になり
夕餉を香らせ
十六進数を唱える囲繞地に
さいげんをせまる紋様
体育館を転がる埃に跳躍を与え
定点観測を忘れてしまったハナクソが
遠心力を繋ぎ合わせて
大気圏を殴打する
かけ湯を何度も何度も掴もうと
にじんだ笑い声が白々しく
茎の渋味を脱出して
かりあげた湖畔を透過する
地形の標本を仰視すれば
誰も記録していない
カタカタと回転する終点のすきまから
滴る消息を印刷する蛍火の欠片が
滑り落ちるのに適した角度で手を振れば
宴を終えた化石が洗い流され
方眼紙の黄ばみを思い出す

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#じんたま 15 Rendering the Answer

配信「#じんたま」はクヮン・アイ・ユウさんの個人的事情があって、夏季はできない可能性がある。掌編「#じんたま」は、あくまで配信「#じんたま」の影を成す存在だと思っている。
私がCWSに参加した理由はシンプルに、花緒氏と関わりをもってみたかったからだ。
B-REVIEWの所謂Discord(ディスコード)では、花緒氏に対する不信感と憎悪で溢れていた。原因は色々あるだろう。しかし、何故花緒氏がそこまでB-REVIEWに対して敵性行動をとるのか、よく分からないと思っているメンバーも何人かいた。
B-REVIEWの事に詳しくない私でも、花緒氏の怒りの意味は理解していた。B-REVIEWのサイト方針を反故にし、それに反発した投稿者を結果的に追放に等しい行為で退会処理を行った事だろう。しかし誰にでもわかるのはそこまでで、分からないのは「何故そこまでの怒りを伴った敵性行動を取るのか」という点だった。
私には文学極道時代の花緒氏のイメージがあった。私は運営内で「私に花緒氏と対話をさせてくれないか」との旨を伝えたが、その時点で運営内も混乱しており、外部窓口の統一ということで、私の提案は厳しく却下された。
しかし、運営内部でもサイト内ルールに抵触している可能性がある人物が何名か指摘されていた。私はその時まだ外部に向けてのアクションは起こしておらず、暫定的に私を代表にしてもらい、運営の何名かを対外的に整合性を期すために暫くの間アクセス禁止にするなどの処置を取った上で、代表として花緒氏と今後のB-REVIEWの方向性について話をさせてもらえないかと提案した。
だが、その提案は激しい叱責と共に却下されてしまった。「私が代表になることを誰も望んでいない」「何故お前が勝手なことをやるのか」「能天気な奴だな」といった罵倒を受け、私も黙らざるを得なかった。私はその夜に決断し、Discordのアプリそのものを削除した。
掲示板上で運営を辞めた旨を伝え、花緒氏や他数人と、炎上している件について言葉を交わした。私の行動が影響を与えたかどうかは分からないが、一時的には落ち着きを得た。けれど結局、8期運営は花緒氏をアクセス禁止処分にし、独自ルールも交えながら、結果的に数十人のアカウント削除を実行するに至った。
こうして文字に起こすと、全てが正確に記されているかは自信が無い。ここの部分は様々な関係者の検証が必要であると思う。掌編の進行上、ここではこのように書き記すことにした。
運営をおりてからも、私はB-REVIEWには顔を出していた。運営のメンバーは、私がディスコードのアカウントを削除したかどうか分かっていたのかは分からない。私は誰にも何も言わずに削除したので、困惑させていたかもしれない。一年後、二歩氏をB-REVIEWの運営に推薦するために再インストールした時、多くのメッセージが届いていた。
私が8期運営を勝手に辞めてから暫くして、花緒氏がCWSの宣伝にやってきていた。その時点でどれだけの人間が反応したか分からないが、私は個人的に花緒氏を応援したい気持ちがあった。皆は花緒氏のことをよく思っていなかったが、私はやはり文学極道時代の彼の、コントラ氏の作品上で新参者ながら果敢にコメントした心意気みたいなものを買っていた。
彼のコメントは素晴らしく、その作品上では文極の当時の旬の詩人が挙ってコメントを入れていた。私も激しくやり合っていたが、コントラ氏の作品を良しとする人間の方が少なかった中で、彼はそちらの方向性の意見を述べて注目を浴びていた。山田太郎氏が激しく憤慨していた記憶がある。その記憶を元に、私は花緒氏の成すことを応援したかった。
彼が新しく作ったサイトなら、安定するまでは作品を書くことで応援できたらと感じていた。私は「femme fatale」という題名の作品を、謂わば「はなむけ」として投稿した。その想いが通じたのか、その月の代表作品として展示してもらった。花緒氏の心情はよく分からなかったが、文極、B-REVIEWを通じてそのような栄誉を受けたことがなかったので、恥ずかしいような嬉しいような気分だった。そのことがあって、結局今現在まで投稿活動を継続している。
私は今、三浦氏のYouTubeの中の配信の一つを聴いている。今から七年前の「B-REVIEW閉鎖の危機から新生スタートまで5時間30分の会議」というものだ。
内容は、初代運営が引退して第二期の運営が誕生する部分のツイキャス放送を纏めたものだ。参加している面々も錚々たるものだ。三浦氏が場を仕切っていて、その放送内の花緒氏は何となく元気が無い。やはり未練があるのかもしれない。
花緒氏は迷いながらも託そうとしているのだ。その心情は痛々しくもある。三浦氏は仕切りに徹している風で、感情は読み取れない。しかしながら三浦氏はやはりこの頃からビーレビを一旦閉じる選択肢も提示している。
彼の一貫性には疑問はあったがこの放送を聴いて三浦氏の人間性を見直す事になっている。百均氏はいないようだ。花緒氏は百均氏のことを頻りに気にかけている風にも見える。冷静に話しているようで声に覇気はなく、感傷的で、いつものクレバーな感じも鳴りを潜めている。
やはり海外拠点の事もあって花緒氏は限界を迎えている感じだ。
ここまで書いてきて、そろそろ核心に迫りたいと思う。
つまり、この掌編『#じんたま』は、本来は花緒氏が書き記すべきであり、私は図らずも花緒氏のghost(ゴースト)として、彼に成り代わって筆を取っているということなのだと思う。
三浦氏と花緒氏が百均氏を伴ってやりたかった事。三浦氏が配信「#じんたま」でなそうとしている事。花緒氏がクリエイティブ・ライティングに未練があり、この場の立ち上げた理由。それらが、この一連の中に潜んでいるのではないかという答えに辿り着いている。
クヮン・アイ・ユウ氏という人格者を据えての、配信とクリエイティブ・ライティングとの融合。その答えが「#じんたま」にあるのではないかと思っている。花緒氏はB-REVIEWに対しての無念さ、未練をもっと語っていいと思う。花緒氏なりの語らないという美学もあるのだろう。しかし語ってそのことで笑われたりしてもそれは仕方がない。しかしユウさんや三浦さん、つつみさんはそれを笑わないはずだ。
花緒氏も三浦氏も、「#じんたま」に何かを見出しているのではないだろうか。B-REVIEWの投稿者が望んでいたもの、私達はいつかその地平に辿り着かなければならない。それは何かを守ることなのか、それとも何かの追求なのか。
まだ分からない。しかし、それは分かり始めてはいる気がする。

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祭りのあとに

祭りの帰りに蛍を見に行った。
私は片手にヨーヨー風船をポンポン弾ませて歩いた。彼がすくってくれたヨーヨーはゴムの匂いがして、粉っぽさがあった。
河原に着くと川が喋った。
「ターコイズターコイズ」
辺りはしんと静まり返り、蛍がたまにちろちろと光って飛んでいた。川は喋り続けていた。ターコイズターコイズターコイズ。私は彼の手をぎゅっと握ろうとしたけれど、空を切った。いつの間にか彼はいない人になっていた。川の声を聞きながら私は彼のことを思った。ねえ、私たちがあった日のことを覚えてる?雪がね、降ったんよ夏なのに。私は雪の結晶に乗って聞こえてくる電車の音や、蝉の合唱、学校のチャイムに胸をときめかせいた。みんな異常気象がだいすきだったし、子供たちが思いも思いに投げてくる雪玉もかわいかった。あなたもそうやって生まれてきたって知っとうよ。雪が唇と触れ合って、鳥のような声で太陽光が叫んだ。煩い。思い出そうとすると、川が煩い。遮るものがないからかもしれない。私の口の隙間から彼の声が出て「六根清浄六根清浄」と鳴いた。そこにいたんやね。

あなたの名前を私は忘れてしまって、
雪の降る昼下がりのひかり。つらく当たってしまったからこんなに小さくないているのね。プール終わりのふやけた手のひらの皮をめくる。粉雪は次第に牡丹雪に、七日目の生を終えた蝉たちのかげおくり。萎んでいく生命線を必死に爪で刻んで、逃げないように捕まえていると、蛍、蛍がひと群れの光の波となって、粒子を纏い散り散りに消えていった。
「ターコイズターコイズ」
「六根清浄六根清浄」
川と彼の会話は続き、遠い未来まで流れていくような気がした。ぱしゃっとヨーヨーが割れて水たまりをつくる。真っ暗闇の中、私だけが皓皓と輝き、口からは彼の手が伸びる。もうどこにも行かんといて。私はその手をぎゅっと掴んだ。

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『し』そして

魂迎鳥は中天で照り映え
裏側に書かれた文字を読む
されど、永遠に子供時代は終わる
人生の共時態を捕え
憎く憎み切れないまま
肉を斬る
馴れ初めや
鈴のような音は
玄関に滞留し
いつかは私も
私も私も私も私も私も私も私も私ももももももも私も
ドアを開ける日が来る
内側と外側という恣意性に守られた
シニフィアンは遊動円木だね

胎児のころの記憶の
喪が明けて遊歩道を歩く
朝から悪質な色をした空原や
その日限りの運勢が
路で暮らす街

さっきから何を言ってんの?
ほんまのこと言いいや
めんどくさがらんといて
いいかげんなこと言わんといて
ちゅうとはんぱはやめて
はよして
はよ
昨日、街路樹にナイフか何かでつけたような傷を見つけた。それは平仮名の『し』の形に見えた。死なのか子なのか私なのか詩なのか。樹液がとろりと傷からあふれ、見たことのない虫が大股で歩いていた。あ、と私は声を出したように思う。もしくは出したような気がしたのか。いくつも『し』が並んでいたのだ。
あたしにやって愛はあるんやからと誰かに向けた言葉も解きほぐされ
冷凍していた。

何日も何日も経ったある日
ぽっかりと空いた空に
降り止まぬ光
そして

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感覚の歴史

「なんで?」
「え?」
「なんでここおるん?」
ああ、と私は頭の中で言った。
「爪、欠けてん。昨日」
「それだけで?」
「うん。それだけ。あんたは?」
「歯、抜けてん。それだけ」
「歯が?大人の?」
「ううん、こどもの」
「まだ生え変わってないん?」
きみは自虐的な笑みを浮かべて「ちゃうよ」と言った。
「大人の歯がもともとなかったんよ。だから、歯抜けやねん」そう言ってきみはいーっと歯を見せた。下の歯が二本ないように見えた。
「そんなことあるんやね」
「そんなことあるんやで」と私の口調をきみは真似た。私はふふっと声を出して笑った。きみもつられて口元だけ笑った。

見学の生徒は私たちだけだった。雨の日の体育館はいつもより広く見えた。シャトルランの音声。ほとんどが脱落して走っているのはあと三人。脱落した生徒たちは好き勝手に雑談していた。
私たちだけ体育館の隅で並んで体育座りしていた。
この座り方は体に悪い。生徒に立ち上がりにくい姿勢にさせる一種の身体拘束だと物の本で読んだときみは説明した。私は黙って聞いていた。雨の音を。
「雨の日にはさ」と私が言いかけると、覆うようにきみが「祭壇」と言った。「裁断」だったかもしれない。とにかくそう言ったのだ。
「え?」
「ううん、なんでもない」
それきり私たちは黙った。激しく雨樋を伝う雨音が祭りみたいだと思った。シャトルランは終わっていた。先生が全員を集めてなにか話していた。
「感覚の歴史なんやと思う」ときみは不意に呟いた。
「この雨やって太古の昔から繰り返し降りなおした雨。雨粒ひとつひとつに映ってる世界があんねん。うちらみたいにな」
うん。と私は声を出さずに言った。音にだって波にだって光にだって私たちを映す世界があって、世界って言葉でしか括ることができない私たちの狭い了見にだって覆い尽くす祭りがある。

探しに行った。
虹の端っこ。
遠くへ
逃げていく
きみを
私は
追って
飛ぶ
空が飛ぶ
鳥のように空が飛んで
私はまた
きみを失っていた。

雨滴のように散らばって
にげていくかんかくのせかい

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わたしはおさけがのめません

おとしていれる
いつかのひとこと
スパイスになるんだよね
癖になるってやつかしら

こぶしのすきまからずるり
しぼっているのは
レモンではないけれど

たさくはださく
へたなてっぽうかずうちゃあたる
けいはく うすっぺら
しではないね
なにこれ?

かおをしかめて 
めをつぶり
いっきにのみほす

お酒がのめないから
くらべようがなくて
くやしいけれど
たぶんね、なんねんなんじゅうねん
ねかせそだてたものと
おなじくらい しぶい しぶとい

わたしはおさけがのめません
ですからこうやって
我が身のなかにかかえこみ
ねかしつけなだめつけたアレコレ
そっと 眠れない夜にだけ

おとしていれて
またのみこんだりしているのです
真夜中の台所で

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宙ぶらりん


シングルファザーの場合 周りの人間は子どもに大変だね という
シングルマザーの場合 周りの人間はお母さん大変だね という
どちらも片親に違いないのに この差はなんだろうと思ってた
男は外で仕事 家のことは子どもが担うことになるからか?
女は外で仕事し 家のこともしなければならないからか?


親の都合で 離婚まで決着つけなかったために
越境通学することになり
朝5時起きしてバス通学してた
田舎で時間通りに来たためしなどなく
ある時は バス停で待っているにも関わらず
素通りされたこともあり
仕方なしに大橋を歩いて帰ってことも

土砂降りの雨の帰り
待てど暮らせど一向にバスが来ず
定期は持っていたが 予備のお金は持っておらず
どうすることも出来ず途方にくれていたとき
たまたま通りかかった親切な方に 
方向が同じだからと車に乗せてもらったことも

母親は仕事で まだ帰ってなかったので
勿論どうやって帰ってきたかも知らない
親切な方に車に乗せてもらったと云っても
特に何を云うでもなかった

慣れないバス通でちょっと疲れて寝てようものなら
楽するためについてきたのかと 
まったく意味不明な理由をくっつけては
当てつけみたいに 烈火の如く怒った

なので以来中学時代は 絶対に疲れたと云うまいと決めて
ついでにそのせいで成績まで下がれば
きっと怠けているからだって云うに決まっているから
何も云わせてなるものかと
とにかく頑張った
頑張った つもりだった



母親も大変だったことは知ってる
生活のため 深夜遅くまで働いて
朝も早くから出かけていたし
それに
なにもしないで家にいる
兄のこともあったし
疲れて帰って もう何もしたくないと
横になってしまいたい気持ちも

わたしも自分でできることは
なるだけ自分でやるようにしてきた

休みの日には掃除や洗たく
自分の昼ごはんくらいは
自分で用意するようにしていた
カンタンなものくらいしか作れなかったけれども

せっかく部屋を片付けても
見えるところしか掃除しない
押入れの中まではやってない、という意味らしい
とか
そんな言葉を投げつけられるだけだったけれど



高校受験にしたって 
子どものときから決めていた学校があったし
そこに行くものだと思っていたのか
一切なにも 気にしてもくれなかったし
その割 テストの点数にだけは
やたらと口を出してきたり


受験日前日 なにが気に入らないのか
例のごとくに兄がまた暴れだしたため
私は他人の家から受験会場に向かうハメに
あの時 何故に兄ではなく私が他人の家に
だったのだろう
何故に他人の家から向かわなければならなかったのだろうか

あの日 兄が暴れたのは
私の受験が失敗すればいいと
失敗して笑いものにしてやろうと
そういう魂胆であることは
わかっていた
わかっていたけれども

母もまた 私ではなく
兄の味方だった
あんたはしっかりしているから大丈夫よな?

しっかりしている
しっかり

しっかり



卒業式の日 私は母に来てもらいたかった
15年間 中学の3年間はとくに
いろいろあったから
来てくれるものとばかり期待しちゃってた
来てくれたら ありがとうございましたと
ちゃんと云うつもりでいた
云うつもりでいたんだ

けれども 母は来なかった
ああ またか
こんな日でも来てくれないんだな と
しょうがないしょうがないと自分を納得させて
いつもお世話になってる遠い親戚のおばさんの家に行くと
母がうなだれて座っていた
来なかった理由 それは
朝に兄がまた暴れたため ということだった

そのことと私の卒業式は全然関係なくない?って
思わず口をついて出そうになったけれど

多分この人にとっては 毎朝5時に起きてバス通していたことも
土砂降りの雨で 来ないバスを延々と待ち続けていたことも
担任からは連絡先の電話番号書いた紙 失くしちゃったと
悪びれもせずに平然と云われ
台風で休校になったと連絡も貰えなかったことも
理不尽な云いがかりにも 一言半句の文句も云わず
希望通りの高校にちゃんと合格したことも

全部ぜんぶ 勝手に好きでついてきたんだから
そんなもの別に大変なうちに入らないし当然のこと
くらいにしか思っていないんだなって

まぁ昔っからそうだったけどさ
そっかそっか そうだよなそうだよって
もう文句も云う気すら起きなくなって
ただただ 笑ったよ

本当はめちゃんこ傷ついてたけど
傷ついてるってことすらきっと
この人には理解できないんだろうから
笑うよりほか しょうがないじゃない




お母さん大変だから 助けてあげるんだよ
お母さん たしかに大変でしたね
夜遅くまで仕事して ホントにお疲れさまでした
でもさ でも私だって大変だったんだよ
疲れてても早起き辛くても なんとかやってきたつもり
だからさ だからたったひとこと
ひとことでいいから云って欲しかったよ
よく頑張ってきたねって


兄妹平等 ってよく云ってたけども
知ってる? 同じように扱ってるようでも
器が違うんだって話
コップいっぱい溢れるほど水を注いだとしても 
器の大きさが違えば
当然与える水の量だって違ってくるっていう
私の分の器は きっととっても小さい器だったんでしょう
卒業式に来てくれなかったのも
行けなくてゴメンでもなく
兄が暴れたんだからしょうがないだろって
だけど コップの水は溢れるほど与えてやってる
あなたにとってはそれくらいにしか思っちゃいなかったんですよね?
なにか反論ありますか?
反論あるならどうぞ




シングルファザーの場合
シングルマザーの場合



どちらも片親に違いないのに
違いないはずなのに



お母さん大変だから
助けてあげるんだよ



親は子どもになにをしても許されて
子どもが親を助けないと
ワガママだと責められて



あの日 伝え損ねた「ありがとう」は
いまも誰にも
知られることもなく



ぶらりぶらんと
宙ぶらりん






☆★*~*★☆*~*☆★*~*★☆*~*☆★

昨日は世の中的には
「母の日」だったんですね

こういうことを云うと、心が狭い、とか
親だって一生懸命だった
冷たい子ども、感謝知らず、
だとか罵られそうですが

それでもわたしは
云わなくてよかった、伝えなくてよかった、と
いまでも思っています

云ったところで、どの道忘れているか
曲解して、どうせ責めてくるのは
目に見えてわかっていることなので




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二間で始め
せまくはなかったよ

その距離その時間その呼吸
あのとき何もいらずに
共に起き
共に寝て
腹が減り
鰯を食らう
光る肴
美しい酒の音
ひとときの宴

めぐる
めぐる
ふたたびの夜

ちっぽけな夢さえあれば
何も持たずに
鰯と酒とあなた
ただそれだけで

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しのかきかた

せかいを
だれかのてのひら
って おもってみたら

きらくかひあいか
それすらわかれて

せかいを
わたしのあたまのなか
って きめてみたら

かるいのかおもたいのか
やっぱり「だれか」を
いしきしていて

ペンを
めざめていちばんで
にぎっている
いまは、 いしょではなく

いきていく
そのための メモとして

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忘れた風景と覚えている道

道は覚えている
最初の角を左に曲がる
小学校の通学路
 
真っすぐ進み
丸い角をまた左へ曲がる
道沿いに建っている
 
新しい家が並んでいる
そこに以前何があったかを思い出せない
ただ表札の文字に見覚えがある
 
道は覚えている
なのに変わった風景が
変わる前を覚えていない
 
丸い角を曲がる場所に
階段の屋根が破れた
古いアパートが変わらずある
 
古ぼけたアパートは変わっているはずなのに
くたびれたTシャツは
住んでいる人は違うのに
前から干されていた気がする
 
チャイムが聞こえた
その音だけは変わらず
子供たちの声が聞こえる
校庭を囲む壁の
削れた場所を覚えている
 
その記憶があっているのか
わからない
 

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じんたまマイクテスト

Realtekじゃなくて
PODCARD
Realtekじゃなくて
PODCARD

USBを抜く
挿す
再起動

Loopback ONOFF
Gate OFF
Reverb

Realtekを検出しました

Bluetoothが
ゆっくり点滅している

マクロ = 自動でやらせたい処理
VBA = その中身を書くための言語

Sub セルを黄色にする()
Selection.Interior.Color =
RGB(255,255,0)

End Sub

For i = 1 To lastRow
Next i

イオンで買った
糖質オフの野菜ジュース

リュックより重い

ジャラジャラのキーホルダー
朝補習を諦めて
ミスドに入る女の子

USBを抜く
挿す
再起動

PODCARD-Podcast Workstation
入力を検出しました

朝7:40のイオンの店員さんが
とても親切です

お互い白髪があるから
目を見て
ありがとう

「このデバイスを聴く」
のチェックを外す

午後2時半
安い機器同士で
噛み合う歯車

机の上の
マイボトルに入ったルイボス茶

思ったより重い

言葉がたくさんあるのに
対話を諦めて
Xで呟くサラリーマン

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生き方試験(連詩その3)


*******************

言葉が愛だというのなら
あたしはきっとずっと 
言葉に飢えている
言葉を渇望している

*******************

期待は失望を連れてくる 
希望は絶望を孕んでいる

*******************

右のものを左にしたって 
縦のものを横にしたって 
上手く行かない時は上手く行かない 

それがモノの道理というもの
そういうふうに出来ている

*******************

他人を大事にするにはまず自分からなんて 
壊すことしか教わっていないのに
失くすことしか憶えてこなかったのに
一体どうすればいいと云うの

*******************

辛いのは 悲しいのは
あんただけじゃないなんて云われて 
それでどう納得すればいいっていうんだ

*******************

竹を割ったような性格というが 
人間を真っ二つにすら割ることなんて出来ないのに 
その根拠はどこから来るのだろうか

*******************

辛いと思えるうちはまだマシなのよ 
なんとかしたいという気持ちがあるから

*******************

いつか終わる 
そのいつかが例えば明日だと云われたら 
もっと切実な今日を送れるだろうか

*******************

誰かが死んでもいいよって云ってくれたら 
あたしは死ぬことができるだろうか

*******************

もどかしいという言葉の意味を
しみじみ噛みしめる夜

*******************

恐い怖い 人間がなによりコワい

*******************

すべてを諦めたと云いながら 
未練たらしくいつまでも 
生きることをやめられないでいるのです

*******************

眠れない夜 
誰かの声が聴きたくて
誰かとただ話したくて 
深夜0時 
いのちの電話

ツー、ツー、ツー
ただいま大変電話が混み合っております
ツー、ツー、ツー

*******************

あなたにとっての本当と 
あたしにとっての本当は違うんだと 
今更ながら知った夜

*******************

気にしてないってフリするのも 
案外キツイもんなんだぜ

*******************

あの時あなたに 
いつまでも同じ場所で立ち止まらないでって云ったけど 

いつまでも立ち止まったままなのは
あたしの方でした

*******************

変われないんじゃなくて 
変わろうとしないから 
いつまで経っても同じ処から動けないんだ

わかっているのに
わかっているのに

*******************

お酒に酔って 
前後不覚になって 
あなたにキスしたい

*******************

サヨナラよりも酷い言葉だった 
終わりはいつも決まって
こんな味気ない
忌々しい気持ちにさせられる

*******************

悲しみってやつはどうしてこんなにも 
塩っ辛くて 後味が悪い味がするのだろう

*******************

あたしは孤独と生きていく 
淋しさなんてとうに忘れてしまったわ

*******************

何をしてもしなくても
わざとらしく見える人というものは
どこにもいるものね

*******************

新しい服と靴を買った 
まだ当分は生きそうだ

*******************

優しさが余計すぎる人がいる 
彼らは一様にあなたのためだなんていうけれど 
こちらから云わせてもらえば 
そうしている自分に酔ってるだけだろって

*******************

遠くへ行きたいってずっと思ってた 
どこへ?って聞かれた 
答えられなかった 
ただここじゃないどこかへ行きたいと 
生きたいと思っていた

*******************

たとえばこの世界が
あした終わりを迎えても 
そこからまた花は芽吹くのだろうか

何もない荒野の果て
荒廃した砂埃にまみれながら 
凛として ただ一輪
吹きすさぶ風に揺れながら

*******************

生きることにもし
試験があるとすれば

きっとあたしは 
落第するに違いない

*******************









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どこかの星で

遠い異国の地には、
憧れがある。

行ってみると、
暑さにふらふらになり、
もう二度と行かないと思う。

終わった恋も、
そんなものなのだろうか。

今日も、別れたひとと
会うのだけれど。

相も変わらず、
わがままで賢い人だ。
あいそが良いが、
文句が多い。

呆れかえれば、
人間関係は
少し面白くなる。

頼むよ、
はいよ。
どうもありがとう。
どういたしまして、
おきをつけて。

ギブアンドテイクではなくて、
ただのスルースルーだ。

気づけば私は、
どこかの星についたようだ。

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 1

 1

し、てん

なんしゅるい
なんてんかを
ならべて
ころがして
みていた

してんだけでも
めがまわりそうだ
おもっても
わずらうな

ずれていく
おどらされていく
くるくるまわりながら

てのひらのあたたかさに
めをゆっくり
とじている

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 4

 3

したためて

可愛らしい便箋も
軽やかな心も
持っていないけれど
この瞬間の
溢れ出す想いを

あなたを
ただの奇跡として
伝えたい

私に
分かち合う温もりを
教えてくれたように

右手の動くまま
発つ前にそっと
言葉を置いておこう

可愛らしい便箋も
持っていないけれど
この瞬間の
素直な気持ちを
少ししたためて

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 5

 6

君の涙

 君の涙が
 一粒の雨となる

 やがてくる夏に
 雨を降らせよう
 折り畳まれてゆく雨粒が
 僕の口へと入る頃

 喉元を通り過ぎる時
 僕の胸が苦しくなる
 心を口から吐き出そうとしたが
 日々の忙しさの余り辞めた

 僕を哀しませないでおくれ
 君の涙を飲み込む前に

 君の涙が
 一粒の雨となる

 僕が老いてゆく前に
 どうか 君よ
 雨に溶けてほしいから

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 3

 2

恋は甘い眠り

何度目かの呼び出しに
醒めた心で向き合ってくれた君
僕の言葉は届く事無く音もなく消え
君の言葉は意味を持たずに重く重なる
時間だけは正確に夜を刻み
二人の言葉を寄せ集めては
逃れる事の出来ない現実へと誘おうとする
甘い眠りから覚めた時から
僕は新しい子守歌を歌い始める
君の居ない夢を見る為に

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 6

 6

所与性一行

それで、八十年前のケンポーに誰が合意したって?

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 1

 7

剥製怪談

   叔父が剥製を作る人だったんです。本業じゃなくて、半分趣味みたいな感じでしたけど。屋敷の離れを工房にしてて、狐とか鳥とか、色んな動物が置いてありました。子供の頃、よくそこに遊びに行ってたんですよ。薬品の匂いがして、夏でも少し涼しかったのを憶えています。剥製って怖がる人もいますけど、叔父は優しい人でしたし、自分は平気でした。ただ、目だけはちょっと苦手でした。剥製の目、あれ硝子玉だけど、工房に長くいると、たまにどれもこれも、こっちを見てる気がするんですよね。

   叔父は作業しながら変なことを言う人で、

「ここで寝ると、動物の夢を見る」

   なんてよく言ってました。最初は冗談だと思ってたんですけど、

「鹿になると、走ってるだけで楽しいぞ」

   とか、

「鳥は疲れないからいい」

   とか。

   妙に具体的に話すんですよ。それで、たまに工房のソファで本当に寝てました。自分も高校くらいの頃、一回そこで昼寝したことがあるんです。その時、変な夢を見ました。
林の中を走ってる夢で。
視線が低いんです。
草の匂いとか、地面蹴る感じとか、やけに生々しかった。起きたら叔父が笑って、

「狐だったろ」

   と言ったんですよ。
今でも思い返すと、妙に胸がざわつきます。
叔父が死んだのは、それから何年か後でした。
急でしたね。心筋梗塞だったと思います。
身寄りがほとんどいなかったんで、最終的に屋敷、自分が管理することになって。最初のうちは、懐かしくて時々工房で寝てたんです。
そうすると、やっぱり夢を見る。鹿だったり、鳥だったり。妙に感覚だけがリアルなんですよ。
風の音とか、身体の軽さとか、土の匂いとか。だから最初は、叔父の言ってたこと本当だったのかな、くらいに思ってました。ただ、途中から夢がおかしくなった。
   ある時、自分、工房の中にいる夢を見たんです。作業台の上に誰か寝てる。最初、知らない人かと思ったんですけど、自分でした。仰向けで、目だけ開いてる。そんな自分を少し離れたところから自分が見てるんです。その時、不思議だったのが、その……怖くなかったんですよ。

「ああ、こういう感じなんだ」

   と思ったのを覚えてます。 

それから夢が変わりました。
動物の夢を見なくなった。
代わりに、昔の夢を見るんです。
小学校の帰り道とか。
大学入って最初に住んだ部屋とか。
別れた彼女と歩いてるところとか。
ただ、変なんですよ。
ちゃんと自分の記憶なのに、距離がある。
思い出してるっていうより、誰かの映像を後ろから見てる感じでした。
しかも、夢の中で時々、視線を感じるんです。
工房の棚。
あの剥製の目が並んでる。
暗いところから、ずっとこっちを見てる。
そこに笑い声みたいなのが混じるんです。
叔父の声に聞こえる。
ある時、ふと思ったんですよ。
叔父は、
動物になりたかったんじゃなかったのかもしれない。
動物の目を借りて、見てたんじゃないかって。
誰の、というか、たぶん、自分を。

   なんか、そう思った瞬間から、工房で寝るのやめられなくなったんです。
理由は自分でも分かりません。ただ今でもたまに寝ています。
あのソファ、まだ置いてあるから。
最近は、夢の中で工房を見ることが増えました。
棚に剥製が並んでるんですけど、
数が少し増えてるようで、どうも
以前はなかった動物があるようでした。
犬みたいにも見えるし、人みたいにも見える。
暗くて、ちゃんとは分からないんですけど。

   この前、夢の中で叔父がいたんです。
作業台の横で、自分の方を見ながら、

「いい夢だろ」

   と、言ってました。

   その時、叔父の後ろの棚から視線を感じました。
あれ、たぶん、
自分だったと思います。

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 2

 1

ティーチャーズ・ペット


カーボン鉛筆の芯が折れて転がる
熱のこもった午後 黒い旗
地下道に似た県立高校の廊下
紙を裂く匂いまでわかりました
幼さをむさぼる人の気配で
三角定規の影も歪む バランスが悪いから
密接した呼気は部屋にたまっていく
伸びすぎた私の前髪が欲望の言い訳ですか
青白い蛍光灯が見ていたことの
いっさいを忘れてしまい
ぼんやり目覚めた冬の朝にだけ
膿んだたましいを温めるなら
量産型
よくある詐欺師の生き方ですよね
苦しみに満ちた自分の生命を抱えきれず
落ちていくとき少女を道連れにする
夢の残像を背中に生やして
留守番電話は聴かずじまいの先生
さほど強くもない風が吹き
何事もなかったように日が暮れ
いつか二人で標本になるの?

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文学館にて  《散文詩》

講演という二文字を含む文章の並ぶ紙がファクシミリから流れてきたのは、あれはたしか去年の秋の終り頃の黄昏のことであったが、その翌日にはもう電話が鳴り、◯◯文学館の副館長と名乗る人物が、申し出の件いかがでしょうか?と訊いてきたので、で、何をすればよろしいのですか?と問うと、シについて話して頂きたいのです、という思いがけぬ依頼で、詩についてはもちろん、死についても師についても語り得ぬという確信のあった私は、是非にと請われたのであるけれど、たとえいかなるシであろうとシについて人前で話す自分の姿を思うと赤面、脂汗が浮かぶのを覚え、電話の前で何度も頭を下げて丁重にお断りをして、それからその件についてはきれいさっぱり真っ白に忘れて、またいつもの酩酊生活に戻ったのだけれども、昨夜前触れもなく、明日は何時ぐらいにいらっしゃいますか?とまた件の副館長からの電話が入り、は?と大いにうろたえたのであるが、聞けば私の講演会が明日開催される運びとなっており、「奇才◎◎◎◎氏来る」というポスターまで誂えての触れ込みに、町中の◎◎◎◎ファンの熱気は今や凄まじいものがあります、と副館長が述べるのを、◎◎◎◎が自分の姓名と同音であるのが不思議かつ幾分のこそばゆさがある外は、何処か遠い辺境の出来事にしか聞こえず再度断ろうとすると、それは今となっては叶いません、と今回は強硬なトーンで迫る相手に押されて生涯初の講演をする羽目になったのだけれど、内容は詩について何でもいいから話してくれとのことで、そうか、やはりシは詩であったのか、とこれには弱り果てたのであるが、考えてみれば、なぜ私という男に詩について語れと云って来たのかが皆目分からないのであって、というのも詩のごときものは書いてはいるが未だかつて一度も公に発表したこともなく、書き溜めたものを部屋の机の引き出しに仕舞ってあるのみで、年柄年中酒を飲んでいるか、のびた饂飩のように横になって気球の夢を見ながら眠るだけの毎日を送っている男なのに詩についてなぞ話せるわけもなく、さてこの災難を如何に逃れよう、と思い巡らしてはみたが朝まで何も思い浮かばず、まんじりともせず、◯◯駅前行きのバスに乗り込んだ私ときたら、道々話の接ぎ穂を少しでも考えて行こうと目論んでいた車内では、寝不足と重圧からくる嘔気を堪えるのに必死で、しかし自分の詩のごときものは一種この嘔気のようなものであると云えなくもない、とヒラメキを得たりもしたのだけれど、無情にも小一時間で着いた◯◯市は黄金週間だというのに生憎の小雨模様で、明日には崩れそうな古くて小さな酒場の並ぶ暗い小路を傘もなく濡れながら歩き、やあやあ、どうしたらいいのだい?鷗さんと水鳥に挨拶しながら運河沿いを探してみるが文学館らしき建物は見つからず、もう一度来た道路を戻り、途中のコンビニで道を訊ねて、観光客相手に馴れているらしき女性店員が手際よく教示した通りに進んで行くがどうにも辿り着かず、このままでは何かの物語のようにいつまでたっても館に入り込めないぞ、と不安暗澹、だがそれもいい、このままずうっと永遠に迷っていればいいのさ、この私は、と捨て鉢になりさえしたのであるが、気を取り直して今度は道沿いのホテルのレストランに入り訊ねれば、さきほどから何度も前を行ったり来たりしていた灰色の昔の役所のごとき建築物が目指す場所だと知り、なあんだ、と幽霊のように濡れてようよう文学館に到着したのが開演五分前であり、私が遁走して現れないのでは、とそれは気を揉んでいたらしいススキのようにほっそりとして頬のこけた副館長が、お待ちしてお待ちして頸がこんなに長くなってしまいました、と海藻のようにゆらゆら揺れながら微笑むのに出迎えられ、案内された薄暗く寒々しい会場に恐る恐る足を踏み入れると、町中の◎◎◎◎ファンというわりに座っているのは二十人余りの老若男女、その四十幾つの目玉がいっせいに私を注視するのに堪らず赤面、案の定、汗がどっと吹き出して来るのを覚え、やはり同姓同名の◎◎◎◎氏と勘違いされているのではないか、それとも私◎◎◎◎は詩について利いたふうなことを話せると人々に思わせるような騙りを何処かで演じたり、現在も騙りつつある夢遊病者なのか、と訝りながら、副館長が私を紹介しているのを上の空で聞き流している間に、ほの蒼い空気の後ろの席のその辺り、薄暗がりにいる聴衆の中に、イトウさんにチカさん、オグマさんにイッスイさんなど、この館に縁の顔たちが一瞬ハッキリと見えて、はっ、として自分が何処で何をしているのかも分からなくなり石になりかけたが……縺れた舌でようやく……詩は、ずうっと苦しんでいます、悲鳴を、あげています……と語りだしたまではいいが、四十幾つの目玉に射竦められる中、夜のように暗い窓の外でにわかに凄まじい勢いで激しさ増してゆく雨の音を聞きながら、冷たい汗を浮かべつつ、白紙を前に一行も進めぬかのごとく沈黙したまま立ち尽くす今の今なのだ。

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アレキサンドライト

平日のデパートは人もまばらで、ゆっくりと婦人服のフロアを回った。

マネキンに着せられた、少し光沢のあるシャンパンゴールドのブラウスに目が止まった。そのブラウスの入ったショップバッグを肩に掛けて、アクセサリー売り場に向かった。

天然石のコーナーにあった、光の加減で色が変わる石に惹かれて、アレキサンドライトの雫型のピアスを買った。

まだ誰も帰っていない家のドアの鍵を開けて、急いでショップバッグをクローゼットの奥にしまった。

リビングのソファーに腰掛け携帯を開くと、一ノ瀬からのメールが届いていた。

「7月4日金曜日の11時半に、新丸ビルのイタリアンのお店を予約しようと思っていますが、ご都合いかがですか。」

「わかりました。よろしくお願いします。」

何度も打った文字を消しながら、やっと返信した。

いつもはユニクロやGUばかりの私が、デパートに行ったのはこの為だった。

夫と子供達の朝食の食器を洗い終わると、急いでシャワーを浴びた。染み付いた家庭の臭いを洗い流す為に、サボンのローズのスクラブで全身を洗った。

いつもは付けないコーラルピンクの口紅を塗ると、くすんだ肌の色が明るく見えた。鏡の前にいるのは私のようで私ではない、知らない誰かのようだった。

バス停に向う途中の道で、いつもはしないヒールの音に気分が上がっていく。

駅のコンコースにある店のショーウインドーに映る自分を、何度も確認しながらホームに向かった。

電車に乗るとドアの前に立って、流れる景色を見つめた。見慣れた街の景色がどんどん窓の向こうに流れて行った。

東京駅のホームに降りると、ガラス張りのビルの群れが、空を塞ぐように並んでいた。

ヒールの音が人の喧騒にかき消されていく。踵の靴擦れの痛みが私を正気にさせた。

36階の窓からは、さっき見上げたビルが直ぐ横に見えた。

真っ白なテーブルクロスの上に次々と料理が運ばれて来る。淡いピンクと水色のビオラの花が添えられた、三口で食べ終わってしまいそうなパスタを、銀のフォークで口に運んだ。レンチンの冷凍パスタのほうが美味しいと思ってしまった自分が可笑しくなった。

グラスに注がれたスパークリングワインの泡が、店員に注がれる度にキラキラと弾けて消えた。

電車に揺られながら、さっきとは逆に流れる車窓を眺めていた。隣に座る大きなキャリーケースを持った中年の女性は、うとうととする度に私の肩にもたれかかってきた。その女性が束の間の現実逃避を楽しんだ同胞のように思えた。

玄関のドアを開けると、娘のローファーがあった。そのまま洗面所に行って、いつもの部屋着に着替えて化粧を落とした。

シンクでお米を研ぎながら背中で娘の話を聞く。相槌を打ちながら、あのスパークリングワインの泡と、そのグラスの向こうにいた一ノ瀬を思い出した。

会計を済ませた一ノ瀬が店から出てきた時、私の全身を一瞬、値踏みするかのように見た。その時のことが引っかって、着信に気付いていたが返信できずにいた。

お風呂に入り、洗面所に置いてあった、アレキサンドライトのピアスを手に取って眺めた。私の耳元にあったこの石は、一ノ瀬にはどんな色に見えたのだろうと、ぼんやり思った。

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日常的世界思慮

トイレのドアを開ける
床にネジが落ちている
何のネジか分からない、分からないのだが
それは確かに正しい場所で役割を果たしていたはず
ネジ穴にネジが入って物体が固定されている、という状態が確かにあったはずなんだ
こういうことは世界にたくさんある
何気なく使う給湯器だってそうだ
屋外に設置されたそれは見えない場所で確実に仕事を果たしている
給湯器内部に流れる水がガスによって生み出された熱によってお湯になる
人間の操作によって蛇口のコックが開きお湯が吐き出される
そのお湯だってもとを辿れば水道局から運ばれている
もっと言えば水源から流れてきている
水源から蛇口までの間にどんな生物やバクテリアが水中を泳いできたか、これは知る由もない
自宅の水道水ですらこうなのだ
見えないものは知ることができない、そして見えないものもまた世界
死んだ爺ちゃんのロックが解けないiPhoneの中身は誰にも分からない
お隣さんの家庭内事情について怒鳴り声以上のことは分からない
太陽内部のビジュアルは1600万度耐熱カメラができるまで分からない
気になるあの子の本心なんて一生かけたって分からない
私は世界を何も知らない、きっと何も知らないまま死んでいくんだ
それで、結局これ何のネジなんだよ――

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卒業式にて

 背伸びをして煙草を吸うあなたに
 雨の中 ときめきを覚えた
 大学の卒業式を抜けて
 二人で口づけを交わした

 口紅を塗る私の瞳に
 大人びたあなたが映る
 就職したら二人は別々の
 道を歩んでゆくのかな

 カフェで二人でいつもの
 会話を交わすあなたと
 この通りを歩くことさえ
 もうやってはこない季節

 スーツ姿のあなたがまぶしい
 心が水のようにきらめく
 また二人でお茶しようね
 いつかどこかで逢おうよ

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牛が雪崩込んでくる

牛が雪崩れ込んでくる。

新しいおが屑の上に、麦わらを敷き詰め、牛を入れる。
飛び跳ね、テンションを上げつつ牛が雪崩れ込んでくる。
顔を麦わらに擦りつけ、飛び跳ね、走り回り。
せっかくの麦わらを、咀嚼して反芻する。

牛が雪崩れ込む。
産道よりこの世に粘膜まみれで。
子牛は歓声を上げて、親牛でも顔を振り上げつつ走りだす。

牛の肉が、名前も顔もなく冷蔵庫より雪崩れ込んできた。
焼かれ煮られ、人の口へ入っていく。
これが牛の命の完成だ。
そうだとしても。
牛たちが雪崩れ込んで走って来る。
息を、声を、体を弾ませて。
数百キロの体重は唸りを上げる。
明日も昨日も、一瞬前も一瞬後すらもなく、牛の命は灼熱する。

生は、死は。
極端だ。
絶望も希望も、善も悪も。
境界を突破して牛は雪崩れ込む。
わずか一時、一刹那。
呼吸ができた。牛たちはこの一息の中に命を爆発させる。

数億年後に、地球上からすべての命は消えるという。
それでも命は燃え上る。
ほんのわずかな時間の中で。
絶対的に。

陽だまり色の麦わらの中、牛たちは眠りついている。
みんなくっつきあって、夢の中に雪崩れ込む。

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 2

 2

オープニング

お別れは
はじめて では なかった

白黒の カーテン
手折られた 百合
渾身の力で砕いた白骨

海のむこうへと 手を 振った

沖に流れる舟たちは
まっとうされた彼らのための

願いに句点を打つように
夜がほどけてゆくように
浴槽に渦をなすように

存分に使い果たされた
星々たちを 見送ってばかり いたものだから

わたしはわたしの 生命(いのち)たる
硬さや重み、そのあつさ
気づかぬままに消費した

だのに、いま

産声あげた かわいい、おまえ
輪郭を得た わたしの、祈り
胎で藻掻いた かがやく、スピカ

――これが、生命(いのち)・と

火花をあげて 告げている
何億回と放つシグナル

あの 荒野へ
あの 闇夜へ
あの 渚へ

余白を塞ぐ
雷音が、

――これこそ、生命(いのち)・と

廻りはじめる 内なる季節

愚かで未熟で高慢な
わたしの心の焦点を

あわせてくれて

ありがとう

これからわたしは “生きる” をはじめる

おまえと 共に  “生きる” をはじめる


 うんでくれて、
       ありがとう

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 3

 3

[ひ]人手無

ある晴れた日の出来事、それはとても清らかで美しい日だった
自暴自棄で爆弾を抱えて叫ぶ者
自尊心を捨てきれない資産家
まるで悪鬼や餓鬼の見世物日和
最果てみたいな掃き溜めの日々 きっとあなたも咎の人
両手足を繋がれて暗がりを這い回る
金のことだけ考えて命を焚べる きっといつの時代も変わらない

生きていく 生きていくんだぼくらは
電磁波やアルコールに浸りながらも
生きていく 生きていくんだ
限りあるエネルギーで 回復しない肉で
とてもじゃないけど生きるのに必死過ぎるのさ 人ってものは

騙し騙しで投与する鎮痛剤が主食です
痛みに耐え忍びながら平然とした顔で殺してやりたいと渦巻いてる
他人どころか自分さえ誤魔化さなきゃ到底息ができない毎日
ハッピーエンドもバッドエンドも世の中にはきっとありはしない
ただただなんの保証もないまま繰り返しを全うして縛られるだけの無間
俺は違う! だなんてあなたは何もかも否定して祈るだけでしょう
蹲って、諂って、どこにあなたがいるってんだ!
自己を鑑みないで不当だと大きく喚くだけ
なぁ、ぼくはお前に言ってんだよ ちゃんと前見て話せよ

生きていく 生きていくんだぼくらは
傷つけ合いながらも延命しあって
生きていく 生きていくんだ
なんの約束もしなくても 忘れてても
とてもじゃないけど生きるのに身勝手過ぎるのさ あなたは

大抵のことを置き去りにして それは本当に必要だったかさえ分からぬまま
自己証明のやり方を必死に模索する無様でかわいい我々です
「神様、私は清く正しく、誠心誠意尽くしてきただけ
慰めて、愛して、大事にされたい」と他者を蹴落としながら言うんでしょ
そんなあんたの脳天にペンでも刺してやりたい
有象も無象も未曾有もないくらい浅ましい
ヒトデナシが蔓延るぼくらの大地は尚も美しい

生きていく 生きていくんだぼくらは
手足が震えるほど叫び続けて 血反吐吐きながらも
生きていく 生きていくんだ
人間であることに後ろめたくても 誇っても
とてもじゃないけど生きるのに不器用すぎるのさ 人ってものは

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 2

おもちゃのちゃ・ち・ゃ・ちゃ


街中のいかにも陽気そうなな露天商のオッチャン
ニコニコ柔和な笑顔で


「ちょいとそこのお姉さん、おひとつ愛はいかが?」
「こっちには掘出し物のシアワセもあるよ」


プラスチックのおもちゃみたいなそれらが
大きな布の上に 雑然と並べられています


「今なら安くしとくよ」


どう見たってニセモノに違いなさそうだけど
そんなのもう どうだっていい
ホンモノかニセモノの違いなんて
誰にも見分けることなんか出来っこないんだから


「あるだけ全部いただくわ、お兄さん」





「ところでお兄さん、お代はいくら?」








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 1

 5

リハーサル

予行演習を している。

いつか 白く生まれるための
いつか 銃を撃つための
いつか 大樹に寄り添うための
いつか ナイフで傷つくための
いつか 甘美に酔うための
いつか 孤独を編むための
いつか 涙を赦すための
いつか 花へと謝るための
いつか 狭間で抱き合うための
いつか 岸から離れるための

予行演習を している。



スターターピストルは
もう 鳴っていることも 知らずに。

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 4

 10

こころ

さあ
行っておいで

でも
また戻っておいで

私は
何時でもここにいるから


私の心は旅が好き
今 ここにいたかと思えば
すぐにまた出かけてしまう
じっとしているのが嫌い

憧れを追いかけたり
道端の名もない花と
おしゃべりしたり
空や風に手を振ったり

昼下がりの穏やかな陽に
慰めてもらったり
いつも楽しそう

そんな心は
嫌いじゃないけど
時々
お前がいないと寂しくなる

だから
遊び疲れたら
いつでも帰っておいで

好こうと嫌おうと
お前の故郷は
ここしかないのだから





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 3

 1

【短歌】浮かれぽんちな春の我々【まとめてみた】




     わたくしの幼さ賛同しよう春どんなとこでも躍る勇気を



     ****************



花々のまだ咲いてない境内をわっと吹き抜けそらをゆらせば

はなひなた生きているとはねむること白い光のカラフルなこと

今日だって気持ちだけなら桜ラテ青とピンクは似合うんだって



     みちたりた気持ちであるくコノハズク信号かわってソファソ、ソファソ



これが地球どっと青空こわいほど耳もと唸る風はくさいろ

春野菜ポン酢をふくめさっぱりと胡椒もかけるわ柚子もそえるわ

いきがいの第七希望に通過したキャラメルラテ宛お祈りメール




     縁側で茶を呑むじじいがまっていた雑木林のグラン・パ・ド・ドゥを



あざやかな空を一枚ミズナラの物干し竿へかけときました

地面からひらくさくらが口角をあげて拒否する記念撮影



     ****************



ソライロとなづけたひとは今どこでひんやりとした火を炊くだろう


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 3

 1

その水が氷った時、それはもう水とは呼べない
同じことだと思うんだ
君の前に手付かずで置かれた
アイスコーヒーに入っていた氷が
ただの水になるまでの短い時間に
僕たちの関係を名づけていた呼び名が
他人、と変わってしまったように

*

氷で出来た、鍵と鍵穴
溶ける前に、差し込まれた
そうして私の中に入ってきたあなたは
つめたいと感じただろう
事実私は凍えていた
だからあなたも凍える前に出て行きたい時に
出て行けばいい
私は私から、出て行けないけれど

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 12

レモンジャムになれなかったレモン

確かに5年の月日をかけて
レモンの花は咲いた。

でも、ほんの小さな衝撃で、
レモンの花が下に落ちてしまった。

そんなレモンの花を
土に埋めて葬った。

皆さん!
ここにはレモンジャムはありません
レモンの花だけです。

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 4

 8

宮沢賢治の「歯ぎしりしつつ、行き来して」ってのも、七音、五音なんだよ@しろねこ社賞推薦文

推薦対象

さじ
by 尾崎ちょこれーと


 私は何か、もう自分の中で、詩、というものを書く、という事から、詩というものを、読む、という事に興味が全く移ってしまったように思う。
 今までのインターネット上での活動の経験もあって、詩を読む、閲みする、その過程で学ぶ、という事は貴重な体験だったのだと思う。


ネット詩、ありがとう。


 そうしてネット詩平等論に至ったわけだけれど、しかし、私の「好み」その今まで経てきた経験の過程を踏まえて、「ああ、今、この方の詩は凄く良くわかる」というのがある。

 比喩、圧倒的テキストボリューム、序破急、ナンセンス、フォマリスム、本歌取り、シュール・・・。
もう何でもありと言った世界の中で、ああ、この人の作品は何か自分の詩の把握が近しい、と、思うことがある。


そこで尾崎ちょこれーとさんなのですけれど、難しい事を書けば、この方の音律
日本語のリズムの把握の近さ、という点でわたしは勝手、近しい位置にいると思う。


はじめて尾崎ちょこれーとさんとコメントやりとりしたとき、彼女は確か
「毎朝、遺書を書くように詩を書いています」とあっけらかん、に言っていた。
言っている事と、このあっけらかん、の差に最初は戸惑ってしまった。


そうして、CWSの方に来てコメント付けをする中で、尾崎ちょこれーとさんの作品にふれて音律的に「こうこう、こういう事ですよね」とコメントしたのだけれど、何か、その返信コメントにも「あっけらかん」がしっかり入っているような気がした。

その「あっけらかん」に細かな分析をコメントするのも、無粋なような気がしてだから、もう「イイネ」でいいのじゃないかと思っている。


「音律は詩の命だろ!」


 誰かのいつかの怒号が聞こえてくるような気がするが、そうなのだ。音律は、詩の命だ。
 しかし、すべての方がそれに賛同されて、みんな、音律を意識した詩を書きはじめたらおかしい。
 突っ込んで書けば、五、七、五、七、七、という短歌を三遍くりかえして並べたら
 それは自由詩になるが、じっさいそう書かれている方もいらっしゃるがそれでいいのだろうか。それでもいいのだけれど。
 こう、うーん、とまたぐるぐる考えている内にまた、「あっけらかん」としてればいいんだ、と思った。


 日記としての詩の在り方、詩とは本来プライベートな試みの筈で、それを公にするというのはどういうことなのか。
 そうして、詩人、多すぎる問題、という事を考えても、新陳代謝の問題も考えていかなければならない。
 私の書きたいようなことは、尾崎ちょこれーとさんが、黙々書いてくれるだろうという期待というか安心を勝手している。


 そうしてnote.comというサイトもあるが、その近々、海外の方が読めるよう仕様が変わって、
 AI自動翻訳されるのですけれど、そのとき、「日本語としての音律」は多分死んでしまう。


 このCWSも先進的なサイトとして、そうなるかも知れない。
 でも、「このひとがいいなー、と思ったら推薦すればいいよー」とラフに教えて下さった人がいたから。

 尾崎ちょこれーとさんの詩の貴重性を重んじ、書籍化を推薦します。

 宜しくお願い致します。


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うらなりの双眸

長い長い廊下のお先にあるという。その歩道橋は吹き抜けて星空に抱かれていた。このエスカレーターは今も上昇中である。ただ生暖かい風にのってカレらを何処へ誘うのだろう。ワタシはお花畑へ征く路地裏に耀くネオンサインの、小さな珈琲店で、一篇の口伝を交換したのはいつだったのか。記憶の片隅に馨る母親の姿を探している幼児が、ぼくだったのかきみであったか、見つけ出せないでいた。スライドする端末から引き出される記述をおもむろに書き足すように、事あるごとに自らを傷つけては膿んでいく、そんな父や母の面影であろうか。未だ薄闇のその背の赫だけはハネのようにさかえて見える。この爪を立て己を剥がすような、画面越しに現れては消える、うたかたのようなかたち。その世界を映し出す水晶体、我々は美しい球体に見合おうとする。いまにして思えば、手の内で転がるビー玉のイロハなど、玩ばれて喘いでいるにすぎない。水槽の内側で魂の色を塗り潰し、塞がれていった、過去、その瞳はただただ凡庸に映し出している。空理も天道もない因果も道筋も消えた永久のキネマとして。そんなだれかが描き落としたツキモノものだろうが。

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[の]凌霄花-ノウゼンカズラ-

甲高く舞う
硬式球が飛行機雲を造る
子どもたちは空へ両手を掲げ
今にも飛び出してしまいそう
舞うことを試みて 笑う

積乱雲がきらきら
瞬いて、
影の伸びた、高架下
ぼくらはそこを基地と呼ぶ

錆びたタバコ屋の看板に軍手。
旅行代理店のリーフレットの焼け。
温排水の魚たち。
かれらは町の一部としてぼくらを覗く

襟元に汗が滲む
鬱陶しい夏ときみが好き
肌が小麦に変わる
季節に囚われぬよう
きみはオリーブを塗った

分け合った
アイスキャンディー

落ちて
アリが
群を
成す

夏の終末
栄光は花火が
昇がった
咲いて散った
橙。

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六個

きちんと

鶏が
落とした

錠剤

箱に
いれて
並べた

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丸刈り税込1100円

これは日記である
詩ではなくて

思うところがありすぎて
死にたさが極まって
でもそう言うわけにもいかないので
それならば


よんじゅういっさいで
丸坊主にしてみた

死にたいなら
髪の毛くらい失おうが
屁でもないはず


良いのですか?
本当に?
思い切りますね、、、
本当にいいですか?
念入りに4回確認されて
バリカン

半分くらいまでは
笑っていられたのに
7割、8割髪の毛が
オサラバしたときに

泣いてしまいそうになった


たかだか坊主 されど髪の毛

坊主になってから
夫は、目を見て話してくれないし
次男5歳も「しばらく帽子をかぶってて。
女の子じゃなくなったおかあさんは
すきじゃない」とむくれている

くしくも、母の日のプレゼントだと
ニコニコわらうわたしの似顔絵を
持ち帰った日だった


「前髪、消すね。
おかあさんのえ、にてなくなったから
前髪、、、どこいったんやろう」
次男が悲しそうで悲しかった

丸刈り1100円税込
ものの10分で終わり、
帰りにうちわと、缶ジュースまで
頂いた

これは詩じゃなく日記


わたしはわたしを誇りたい

丸坊主くらいだけど
丸坊主に思い切って
できる人生を

そうそう送れはしないのだから


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さじ

すくわれるのか
すくうのか

してんをとわれ
まあまあ、
どうでもいいじゃないか

したにのる
しびれるあまさの
プリンは 
ひゃくえんていどに
みあうかいかん

なごりおしく
ぎんいろをなめれば
きぃんと
いたんだ

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2023年末法隆寺吟行より

求ればみな凍てたまふ夢殿よ

https://i.postimg.cc/g2djHdJh/rectangle-large-type-2-f4b2dc93ef1e24c31d7bb2512e6fe8e0.jpg

※法隆寺前の食堂の、斑鳩グルメ竜田揚げ定食。

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サッカーボール

ラフカディオ・ハーンの右眼が
お椀をのぞく
片眼はオリオン座を見ている

しじみ汁に浮かんだ
日々の稼ぎの糸くず
砂まみれの網膜から
サッカーボールが飛んでくる 急速に

(のびていく地平線が 真っ赤だ)

純度100%の貝殻が
宇宙を構成する砂礫の
一粒 ひとつぶ 一即多
であるのかな
(バンバンと黒板を) 叩く

…おんぶおばけの闇 舌舐めずりの雀

コップに浮くのは
シジミの脂だけで 十分です
アテネフランセ ジャポネーゼフラッセ
るんるんるんと 海の彼方から
砂礫が吹いている 文法教育の裂け
目を
サッカーボール
が ぼこ ぼこ ぽこり

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初投稿 くどうなおこさんに似せて のはらのあり達

みぎにさわさわ
ひだりにさわさわ

こんにちは
おさきに どうぞ

ぼくらの ツノは
おしゃべりの アンテナ
のはらじゅうの「だいすき」を
いそいで あつめて いるのです

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批評・論考

窓の月

いつ何の待ち時間だっただろうか
何気なく広げた雑誌に描かれていた月が
眠れぬ夜の瞼の裏に浮かび昇る
何を照らすでもなく沈まずに薄れ消えてゆく
瞼に昇る窓の月を観て欲しくてさ



窓の月は窮屈そうで
私の目を盗んでは
窓枠から外れようとしている
眠れぬ夜は
逃げる月を逃がさぬよう
漫ろに円をえがく月を称え
詩を綴り続けようか
でも皐月の夜は短すぎて
早朝の空に白け顔の月を
引き留める引力は私には無く
睡魔の熱で溶けゆく
飴細工の思考の中で
薄れゆく月に手を振るばかり




などと紙上に昇る窓の月を文字にするから
読んだなら窮屈そうな月をどうか
感性の海へと解放してはくれないか
薄れ消えゆく窓の月に手を振るだけの私に代わってさ

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感覚の電車に乗ってみませんか?

推薦対象

水脈の往還―26歳の遥
by 筑水せふり

これから書く文が推薦文として成立するのか不安が有りますが
自分が面白いと感じた世界観が他の人も面白いと感じるのか知りたいので書いてみます。
電車に乗り座席に座り着いた駅で降りる。
そこには、電車に乗る意味も駅に向かう目的も存在しない。
電車が起こす起動音と自分以外の乗客と共存する閉鎖的空間の空気の圧迫感があるのみ
座席に座る自身を器にして液体を注ぎ電車の揺れや乗客の移動による傾きでの液体の変化を
主観的に客観的に観察しながら息苦しく窮屈な感覚で楽しんでいる様に思えました。
主人公の遥が降りる駅で自然と自分も降りてみるが遥が抱えている揺れに合わせて
自分の心の動揺が止まらず揺れを感じながら、改札口へと消えそうな遥を見送っていました。
この作品は3部作で遥が何処へゆくのかを自分も追い読みしていませんが
この感覚の電車に乗って揺られる事をお薦めしたいです。
電車の揺れを自分の動悸と合わせれば、乗り物に弱い人でも楽しめると思います。
それでは、私は一足先に遥の後を追いかけてみたいと思います。

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たぶん

たぶん
玄関を開けると
外側があるとは
かぎらないなあ

春と
春へと
収斂すると
情動量に比例して
避けがたい
クレパス
祭りの
準備

「たぶん
詩人を一人
虐殺するのに
コストはいらないさあ」※

裂け目から発芽する奴
と発芽しない奴の差
花を咲かせるもの
花を摘むものの
耐え難き差を
鞣していく

存在の
存在による
存在の存続
引用を繰り返す
書き言葉話し言葉 

内側へ
春の内側へ
収縮と再生の連鎖
夥しい数の語彙
クリシェの使い方に
慣れた山師や山伏
辛夷の花がちり
潤いをもたらす頃
詩人たちの死を
詩はしたたかに
確からしくふるまう
蜥蜴


※は藤井貞和『全部引用、たぶん』より引用

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俺は、これじゃあもう、情熱大陸じゃないですか、と言った。@しろねこ社賞推薦文

生臭い風が吹いてくる 磊
https://creative-writing-space.com/view/ProductLists/product.php?id=4014



 私は詩が読めなくなってしまっていた。
 現在は閉鎖している詩を中心とした投稿掲示板「B‐REVEW」に私、田中は、主に選評を受け持つ、という形で活動させていただいた。
 そうして今も事後処理に追われているが、「B‐REVEW」で私は、すべての投稿作品を閲みし、その中から良いと思った物を選ぶ、という作業をしていた。しかし、ロジカルに考えれば、何か作品を選ぶ、その書き手に信を置くという事は、必然として、他の方の作品を選ばない、という事なので、その手の内から、作品を大量、「落とす」という作業なのであった。
 それは多面的に構成されているネット詩カルチャーの一面でしかないのだけれど、個人的にはネット詩平等論の立場から「B‐REVEW」の運営を一時、退いたのであった。
 しかし、その運営を退く、というとき、私は一つ注文をつけた。
 毎月二作品ではあるが、コンスタントに作品を投稿して下さる方こそ大切にしてやってくれと。
 なぜならば、そういった詩の向上を自らに課し、ライフサイクルの内に、詩作そして追求が見られる正に求道を置く、修練者に信を置かずして、何を信じればいいのか、わたしたちは。
 しかし、私のその注文が受け入れられる事は無かった。悲しい事である。


 これを痛恨の極みと呼ぶのでしょう。


 時間が飛ぶけれど、そして現在、ここCWSにコメント付与という形で参加した後、以前「B‐REVEW」で、毎月、毎月、律儀に、且つ前衛的と言っていい、硬派で通していたこの書き手が活動を継続していたという事実を知った。
「あっ」と思った。

 しかし、そもそも一体なぜ詩が読めなくなってしまったのか?それは正直、どこまでも硬派で通した作者の追求、そして作風の変貌についていけなくなってしまったのだ。

 例えば、音楽で云えばマイルス・デイヴィスが電子楽器を利用してジャズを「更新」させたとき、一体、どれだけの人が、そのマイルス・デイヴィスを歓迎しただろうか。

 ボブ・ディランが、アコースティック・ギターを、エレキ・ギターに持ち替えてフォーク・ソングを、フォーク・ロックに「変化」させたとき、一体どれだけの人が歓迎しただろうか。


 好意的に受け止めた人もいれば、ブーイングが起こるというのも、当然の人間の反応なのである。もう、こんなのはジャズじゃない、フォークじゃない。表現者が、ふり切るというのはそういうことだ。そう思わせることだ。
 こういう表現もある、こういった描き方もある、そういった緻密な時代の推移の、歴史の推移の中でも、書きつづける──その「ある一つのドキュメント」として、私はこの作者の作品の書籍化を臨むのである。


 正直に書けば、書籍化というのはコマーシュの問題と密接に関係しているのは、重々承知だ。
 しかし、この作者は私のような怠惰な作品管理はしていないと、勝手、思っている。

 又、この推薦文を書いた事によって、この作者が更なるフェーズとして、「大衆」を意識したとき、どんな作品を展開するのか、鼓舞してみたいという下心もある。

 まだまだ言わせていただきたい。銀色夏生の本を買って、詩に目覚めた少女が、ワイアード、インターネットを通じて、女性の自己実現を果たすという物語は私の中で、今も続いている。


 

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批評・論考

正しくなりたい、優しくなれない。

あの人たちは、どうしてあんなにも楽しそうに笑えるの?
答案用紙に転がる血走った目玉は何を見ていたの?
大人になっていつか立ち止まったみんなに、
私のささやかな闘いの日々は、'青春'と呼んでもらえるの?
そういう嫉妬や身震いを喰い荒らした私の影は、
色濃く黒ずんですぐ、私の背丈を越えた。
切り落としたくて、カッターナイフの刃を腕に突き立てた私を、
傷跡が残ってはいけないからと、思い留まらせてくれた手は、
確かにあった。
あったのに、私の瞳は拒絶していた。
口先は強張り、言葉尻は尖り、
力強く振り払った時の痛みを隠す為に、
悪びれて笑った。
素直になれない臆病さも、期限切れの思い出に縋る心のよろめきも、
いずれ時間が全部洗い流してくれるものだと信じきっていたのだろう。

ひとりぼっちだと哀れまれる事が辛くて、
中途半端でも大人になった。
いい加減に生きてきたつもりなんてないけど、
踏みとどまった分だけ、みんなとの差は開いた。
着飾った言葉ではなく、正気の私のままで愛されたくて渇いていた。
誰かの体温に。

きっと随分前から分かっていたんだ、
このままじゃいけないって事。
逡巡する目玉を鷲掴みにして、時間はまだ私を試したがっているから。
向こう側に行けたら、きっと今よりほんの少しだけ、
良くなる予感が燻っているから。
それだけが、死ねない理由。

今だって、あの人たちみたいに上手く笑えない。
怒りや若さを壁に投げつけたあの頃を悔いても、
もう追いつけない。
「当たり前」が出来ない自分を恨んでみても、
とても間に合いそうにない。
終了時刻を過ぎたあとも、教卓の上に忘れられていた私の答案用紙は、
記名欄だけが今も白いままで、
みんながこの先のどこかで思い返す楽しかった頃の毎日に、
私は多分、いない。
まともな人間には、きっと死ぬまでなれないとしても、
そんな自分さえ許せる証明を、私だけは知っている、はず。

何も言えずに悲しい目をして、誰もいない別の道を歩き始めたけれど、
私が私を選び続ける目的は、あの人たちとそんなに変わらない。

幸せになるってこと。

ただそれだけの為に、どうしてこんなにも、
頭の中がめちゃくちゃになるのだろう。

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v oi d

息づいたものが 声とならずに蒸散するのがわかる
それは どこに行ったのか と 戸棚の方を見遣った 
v と d が 語義通り母のない子のように 
前提を置かれず 黙らせられている

急須のうらの 一つ一つのそれが 
手を取り合って 

次はphraseになりたいな

と思ったかは知らないが 
とびおりた先でのありかたを 諦めた様

まだ 無視への抗議をしていたい といった
vとdのあいだに 

おい 

とこえをかけたのに 
voidが一つできてしまって
piss と呟いた

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