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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

SMiLE

ここは、とある夏の海岸。
夏真っ盛りのビーチで、音楽好きらが一人の音楽家について、ビーチ姿で日光浴をしながら語り合っております。

「ブライアンウイルソンは、歌ったよ」
「ブライアンウイルソンは心から、歌ったよ」
「ブライアンウイルソンは天使のような声で、歌ったよ」
「ブライアンウイルソンは心の奥から、歌ったよ」
「その歌を聴いて何故、人は胸を打たれるの?」
「それは『神のみぞ知る』ところさ」

夏の太陽、ギンギンメラメラ。ハートは、シュビドゥバ。
朝の納豆。爽やかに匂い立つ。外へ出掛ければ、野外イベント。
日本のお寿司と、アメリカのカリフォルニアロール。小さな島国と大国を隔てる海。
そしてそこに橋を架け、人々を繋ぐ音楽。

「ブライアンウイルソンは、砂場でピアノを弾いたよ」
「ブライアンウイルソンは、薬に溺れたよ」
「ブライアンウイルソンは、おうちに引きこもったよ」
「ブライアンウイルソンは、精神を病んだよ」
「それなら何故、音楽を捨てることを選ばなかったの?」
「『グッドヴァイブレーション』を、大切にしてたからさ」

我、思う。私の父は、父親として相応しくなかったと。私の兄は、善人ではなかったと。
戦後この国は科学技術大国に飴を与えられ、乗っ取られた挙句チキンにされ、羽を失ってしまったと。
ハリウッドが与えた、夢。すべては、幻想か? 雨風凌ぎ、秋に木枯らし吹き、それでもなんとか生きてきた。

「ブライアンウイルソンは、笑ったよ」
「ブライアンウイルソンは、高らかに笑ったよ」
「肉親に虐待され、グループ内の人間関係に苦しめられ、レコードビジネスのプレッシャーを抱えながらも、笑顔と愛と喜びで溢れる最高の音楽作品を作って、高らかに笑ったよ」
「それなら何故、高らかに笑ったの?」
「それは彼が、苦しかったからさ。笑顔は、最高の良薬だからね」

人生は、厳しい。人生は、楽しい。
私を苦しめた兄は、廃人になった。父親とはもう、別れた。
もう、誰かの所為にしたり、責任を押し付けるのは、辞めだ。
さあ、仕事を始めよう。一意専心。集中、のめり込むこと。
音楽リスニングから培った集中力。『Long Promised Road』長く果てない道。
持続する職業の安定が、未来を約束してくれる。

「ブライアンウイルソンは、死んだよ」
「ブライアンウイルソンは、亡くなったよ」
「ブライアンウイルソンは、死んでしまったよ」
「亡くなったよ」
「それなら何故、亡くなったの?」
「『呼吸停止。敗血症、膀胱炎、神経変性疾患、睡眠時無呼吸症候群、慢性呼吸不全、慢性腎臓病』死因は年齢もあるが、太り過ぎ。薬もやり過ぎていた。彼は死ぬまで音楽の波に乗ることをやめず、船出し続けた。その勇姿は、人々の胸に永遠に刻みつけ続けられるであろう。彼は死んだが、魂までは亡くなっちゃいない。今頃、空の毛布でゴキゲンにお眠りになっていることだろう『I WENT TO SLEEP』と」

私の空想ひは、これでおしまいであります。

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 1

 2

処分

二月八日(日)
夜道を歩いていると、道がツルツルの氷であったため、転倒。手首と肘、膝をしたたか打つ。パートナー氏、私を置いて先へ先へと歩く。黙々と歩くパートナー氏の背中を見ながら、ゆっくり、慎重に立ち上がる。体重を預けた手首が、曲げると痛む。
夜、タコライス、袋詰めのサラダ、わかめスープを作り食べる。料理をすることでのス
トレス発散が日課となりつつある。しかし洗い物は辛い。

三月十日(火)
日中仕事。買い物をしてから帰る。酒、みりん、油など切れるタイミングが重なる。買い物袋が指の関節に食い込む。
夜、アラビアータ、袋詰めのサラダ、セロリと玉ねぎのスープを作り食べる。我ながら美味。お湯が出ず、洗い物難儀。指、ますます悪化。スマホでユーチューブを聴きながら笑う声が背後から聞こえてくる。

四月七日(火)
おつりを出す際にもたついていると、「早くしろ! 恥ずかしい」と詰られる。思わず小銭を数枚、落とす。なかなか治らない、ひび割れた指で散らばった小銭を拾い、後列の人に頭を下げながら、逃げるように去る。視線が刺さる、とはこういうことか。
夜、ガストのハンバーグをウーバーイーツに頼み食べる。冷えているが、まあ、美味い。企業努力の賜物に感謝。

五月十九日(火)
テレビで金があったら何をするか、という質問に対して「美味しいものを食べる」と回答する人あり。
夜、余り物の、冷凍焼けしてそうな肉じゃがを解凍して食べる。いつ作ったか、日付はいつのまにか消えていた。処分と割り切る。

六月八日(月)
ようやく、指先のひび割れが改善の兆しを見せる。指先の皮の部分はだんだんと厚くなっていくが、いずれまたひび割れるだろう。水道水が温かくなってきたのが救いか。
夜、食欲なし。食べなければ洗い物が出ないことに思い至る。流しにはコップのみ。

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午前4時


ねないといけない。
ねないといけない。
ねないといけない。

トントントン

「はぁい、どなたでしょう。」

「わたくし、『明日』という者でございます。
あなたの家で『今日』を匿っているという噂を耳にしたものでして。」

あぁ、まずい。

「そうですか。生憎わたしはひとりですし、ここにはだぁれもいませんよ。」

「では、上がらせていただいてもよろしいですか?」

「いえ、散らかっていますので、少々お待ちくださいな」

ふとんの中に、小さく『今日』がうずくまっている。
追い出すなんて、できっこないのだ。

いっしょにふとんに潜りこむ。

ドアの隙間から『明日』のひかりがのぞいている。

ねないといけない。
ねないといけない。
ねないといけない。

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羊と兎をめぐる冒険

走る車の窓からの夏の光はさびしい
センチメンタルやエモーションではなく
あれらはもっと暗い地点にある光
愛されて育った人と同じ言葉を持てず
冷やかし以外で使ったことがあまりない
汎用の形容も嘆息も使いたくないのに
他者を見るときまなざしが泥のように深い
ご先祖様のセックスと蛮行の連続でできた
心と身体は文章題の点Pと点Qだ
大人は汚いと真顔で言う中年は危ない
わめくガキは嫌い わきまえた若者も嫌い
家の黒い雌羊として生まれて生きて
どこにも属すということができない女に
いいんだよと簡単に言ってくれる人は
まもなく女を寝室に引っぱり込むだろう
社会は複雑怪奇な森林の類であるらしく
ここでは善良な市民も一羽の肉食の兎だから
きょうもひと口ずつ食べられている

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 9

逃げ場所は映画館

映画館が逃げ場所であった。
そして待つ場所だった。

白いカバーのかかった指定席。
そのすぐ横の一般席が、僕の指定席だ。
ゆったりと座れる座席。
眠ることなく読めない字幕。
それでも5歳の僕は座席の心地よさと暗闇の中にあるスクリーンという別世界を楽しんだ。

東横線の渋谷駅のホームから見える場所に4館の映画館が入ったビルがあった。
屋上に銀色に光る帽子のようなプラネタリウムの突起物が目立つ建物。
ここが僕の遊び場であり、逃げ場所だった。

幼いころ、父は職場に僕を連れて行った。

仕事場にずっと子供を置いておくわけには行かない。
父は頃合いを見計らうと、僕に10円玉を握らせ、ビルの中に放つ。
子供ひとりがうろついても平気、そういう時代だった。

それにこの頃から僕は、放っておかれるのが苦にならない、ひとり遊びが好きな子供だった。

手を振られながら屋上のゲームセンターへ向かう。
10円で遊べるゲームで遊び、さすがに飽きると今度は映画館に向かう。

入り口でもぎりのお姉さんに顔を見せる。
売店のお兄さんが、「内緒だよ」といってコーラを渡してくれたり、偉い人の姿が見えなかったりするとお菓子までくれた。
それを持って劇場へ入る。

900座席は今なら大劇場と言われるような大きさだ。
ロビーには赤い絨毯が敷かれていた。

ここで僕は大きな背もたれに埋もれて、コーラとお菓子を楽しみつつ、スクリーンを見つめる。
途中から入った場合でも、次の回を最初からちゃんと観て、エンドロールが流れたあと、大人たちに混ざりロビーへ出てきた。
その後は、ロビーでじっと座って待っていたり、本屋で絵本を立ち読みしたりしながら父を待つ。

父は僕がどこにいるかを聞いて知っているから、迎えに来てくれる。
「帰るぞ」とぶっきらぼうに言い、僕が駆けてくるのを待ってから、歩幅を合わせて歩いてくれた。

座席に合う年齢になって思う。
僕が頼ったのは映画館だったのだろうか。
単独の大型の映画館がなくなり、シネコンが劇場だ。
座席は大きくなり、大人の僕でも背もたれは十分で、ゆったりと座れる。
ただ逃げ場所というには、明るく健全過ぎる。

それだけでなく、望んでいたのは迎えに来てくれる父だったのではないかと。

父が仕事場へ連れて行ってくれる、そして迎えに来てくれるという当たり前の日々は、幼いころの短い期間にしか味わえない貴重な時間だった。

迎えに来てくれた父の「帰るぞ」とぶっきらぼうに言って先を歩く姿。
そして背中を追いかけた5歳の僕もいる。
その映像が、今も、いつでも思い出せる。

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Q&A

先生 密室の恋に愛はありますか?
私たちはサイバー空間の書庫のなかで
つめたい床に裸のお尻を押しつけながら
信頼できない語りをとかした
コーヒーらしい飲み物をくっくっと
くっくっと飲んでいますけれども
私はなんだか眠くなってきたような
そういうような気がするのです
そして今夜の夢には
とてもうつくしいリリスがでてくるけれど
朝になればきっとあなたの赤ペンで
痛々しいまでに塗りつぶされて
先生が私を欲しがる男の人ではなくて
お父さんだったらよかったと思うでしょう
さっきあなたが後ろ手に閉めたドアの
向こうになにがあったかは
もう忘れてしまいました
それがあなたとあなたのさびしさの
悪気のないいちばんの望みだから

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フラクタルなきみと私たち

せんだっての落雷で
うすむらさきの丘の若い樹木が
真っ二つにスプリットされた
裂傷の内側には名付けようのない光の粒が
びっしりと呼吸している
枝たちはお互いの行き先を知らないまま
空を分けあい
それぞれ葉脈は生の記憶を薄く見つめあうし
丘を流れる川も石に触れて変わる音がある
ここに聴く者がいなくても
水は音のかたちを撫でながら
遠くへにじんでいくものだ
川はいくつもの枝葉をくぐり抜け
やがて見知らぬ海の心臓をやさしく震わせる

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気取る

気取ってる
ええ気取ってますとも

朝が夕に近づいていっても
窓から砂嵐を見るように
途切れ途切れに夢を見ます
遠いところでクラクションが鳴り
太鼓のようで
「パレードだな」と砂嵐が言います
それも過ぎ 夕の色が薄っすらと増し
私はゆっくりと寝返りをうつ

パワーなどは
スーパーに行けば売っています
買えないのは 小さな舟 
川を渡るのに必要な舟です
それを気取っていると人は言い
愚かだと嘆きます

でもたしかに
気取っているのです
本当に舟を手に入れ
川をゆくものはわずかですから

なぜなら
そうそう舟は売っておりません

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 2

 4

アンシエー マタ ヤーサイ


県立病院前バス停で見知らぬ女性に声をかけられて
よくよく 顔をよくよく見てみれば
あの色黒で歯のやけに白かった娘じゃないか

こんなに色白でスマートになるならば
あの日の体育館の裏で
うん と頷いていたらよかったか なんて


 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 サーターテンプラー屋ぬお嬢さん

 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 帰る場所は もう この島じゃないんだろう




コザのそば屋で偶然会った
小学校からの友達も
たまの休みで帰ってきてたさ と言う

もうすっかりナイチャーになったねえ
と言うと お前は
顔をまっ赤にして 島酒 あおった


 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 ナイチャーって言ったのは 悪かったさ

 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 またくぬ店で くぬ酒ぬ続きを




この齢にもなればしかたもないが
元気だった友の一人が急におじいに呼ばれ
ニライ・カナイに行ってしまった

馬鹿がつくほど優しくいつも笑っていた
残されたふたりの天使も父親に似るのだろう
笑顔の似合う娘に育つだろう


 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 清明ねえ巡いやびら

 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 七月ねえ降ってぃ来うよお




我侭言って大分休みをもらったけど
明後日からは仕事に戻るさ お父
明日の朝の飛行機に乗るさ お母

昔の詩人のように風を待つこともなく
いつもの生活に戻れるのだけど
僕の帰るべき場所はどこなんだろう

さあ


 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 我 生したる 父母

 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 アンシェー アンシェー マタヤー サイ
 我 生したる 縁ぬ島


 アンシェー
   マタヤー サイ
 







(読み方と個人的な解釈)
************************************
アンシェー マタヤー サイ=それじゃあ また です
サーターテンプラー=サーターアンダギー
ナイチャー=内地人
ニライ・カナイ=島に幸をもたらす神の住む場所、理想郷
島酒(シマザキ)=泡盛
清明(シーミー)=旧暦三月の吉日、墓前に供物をし、その後、共食する(中国の風習)。
巡(ミグ)いやびら=巡りましょう
七月(シチグァツ)=旧盆(旧暦七月)
降(ウ)ってぃ来(ク)うよお
我(ワン)生(ナ)したる


https://youtube.com/shorts/I3RkG8_xXis?si=MAibozfd11qiHWlq
https://youtu.be/XdNQjtbEYMw?si=mpudE0r8mbhT_OtR

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貸し本棚に関する意見交換会

貸し本棚サービスをローンチし、すでに一定の盛り上がりが見られつつあります。
こうした中で、ぜひお互いの貸し本棚、本のラインナップなどについて、意見交換する場をつくらせて頂きました。

Talkでやる手もあるのですが、貸し本棚サービスの立ち上げを優先するために、ぜひコメントすれば、自動的にコインが貯められる
掲示板スペースで意見交換会を催したいと思っております。

ということで、まずは取り急ぎ、会の発足を宣言させてくださいませ。

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批評・論考

金貨と目薬(3)

<3人の関係➋>
加賀見にショートメールで店に出るシフトを送り、
加賀見が来店する日は太客以外の指名を断り加賀見との時間を取るようにした。
何度目かの来店で同伴出勤を約束して貰い、同伴のお礼にとアフターで他の店へ飲みに行った。
何度目かのアフターで加賀見の寝ている横で目を覚ます事となった。
記憶を失くしての結果でなく加賀見のタイミングで、こうなる事を深水は望んでいた。
加賀見と朝を迎えるタイミングで深水は自分の考えるデザイン企画を持ち出した。
自分で考えた企画でなかった事も有って乗り気で無い加賀見に
この企画が成功すれば夜の世界から完全に抜け出せるから力を貸して欲しいとねだった。
加賀見の脳裏を深水と二人で成功する世界が横切り
「やってみるか、俺もイラストで食べて行ける様に成れば最高だしな。」
その言葉を聞いて身支度を済ませて深水は加賀見を置いて部屋を出て行った。 

加賀見との企画を進める為に深水は持てる人脈をフルに使い企画に現実味を持たせた。
深水はファッション雑誌の編集長を前に企画の面白さを熱弁していた。
「深水君、面白い企画だと思うけれど大きな問題が有る様に思うのだよ。」
編集長の言葉に深水は動揺の欠片も見せる事なく先回りする様に答えた。
「私が夜の仕事をしている事ですか?協力して貰えるアパレル企業からも指摘されましたけれど
この企画に対して私は一切、前に出ようと思っていませんし出ません。」
深水の言葉に「そんな貪欲な目で言われても誰が信じられるのだよ…」編集長の言葉を遮る様に
「私が今、欲しいのはお金でも名声でも無いのです。流れ私が源流と確信出来る流れが見てみたいのです。」
モデルが企画を提案しに来た場とは思えない異様に重い空気を押しのける様に
「流れ?流れて何だよ!まあ、深水が表に一切出ない事を条件に前向きに検討してみるよ」
編集長の言葉によって深水の異様な申し出と雰囲気に吞み込まれる様に深水の企画が机上に乗った。

そして雑誌の後ろの方に加賀見の顔写真と共にデザインに込められた思いなどが紹介された。
記事の内容からは自分の影さえ伺う事は出来なかったが深水は気にする事も無く企画の反響を追っていた。
愛の言葉文字を読めぬ程に解体してデザインとして使っているとアピールしたところ
秘めた恋心を感じるとネットで騒がれはしたが爆発的な流行とは成らなかった。
しかし深水は細いけれども自分が作り出した流れを感じて満足げだった。
~つづく~

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m.a.n


世界が悪いです
男性が憎いです
何度殺されても
死ぬことができなくて

過去は過去だと言う割に
尖った言葉には
直ぐに出て来る精神分析

性を語るとあらわれる
ジェンダーレスな
せまい狭い世界

偉そうに振り回す
知識の刃は諸々
脆い癖にそれが故の
伝家の宝刀

私を潰したのは男という
性でした
間違いなくそうなのに
人差し指一つ立てられて
「しぃー」と言われて
終わりでした

私を一つも知らないくせに
簡単な言葉で薄い人生だと
笑われたこと
忘れようがありませんが
其れをしたのは詩人でした
アレをしたのは男性でした

世界が憎いです
男性が悪いです
今はそれを言う時代じゃないよ
なんでも責任転嫁して
逃げ足だけは天下一品

貴方に何が言えますか
踏みつけられるんじゃなく
殺され続けたことがありますか
それで生き続けたことがありますか

私は地獄を知っています
生き地獄というものです
ワザワザ話すのも嫌なので
触れない事だらけ

アナタハシッテイマスカ
アナタノミヨウトモシナイ
バショ二コソ アルノデス

伝家の宝刀早く片付けてよ
世界が悪いです
男性が憎いです

アナタが何より嫌いです

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 8

図書館物語

01
図書館にパンが落ちていたので男は拾って食べたのだが、それはパンではなくムカデの足だった。

02
図書館の大砂漠で遭難した司書は一週間後に救助され、その翌年には大統領になったが、死ぬまで左側に物を置かなかった。

03
図書館で借りてきた本を途中で読むのを止めて、魚は自分の鱗をしおりの代わりにはさんだ。

04
図書館の館長になることが夢だった少年は、大人になり夢がかなって館長になったけれど、誰もそのことを教えてくれない。

05
図書館が休みの日、館長は網と虫かごを持って野原に昆虫図鑑を捕まえに行き、もう昆虫図鑑は要りません、といつも副館長に叱られる。

06
泥棒は図書館にあるすべての本を盗んでしまおう思ったが、海の大好きな子どもがいると可愛そうなので、「海辞典」だけは残して行った。

07
翌日、泥棒が図書館に行くと、「海辞典」は貸し出し中だったので、すっかり安堵してシナモンパンを買って帰った。

08
図書館は図書館に生まれてきたことが嬉しくて、どこにあるのかわからない、心、というわれているところで、皆にありがとうを言う。

09
図書館の本がすべて盗まれてしまったので、館長は空っぽになったすべての書棚を丁寧に拭き掃除して、とりあえず、昆虫図鑑を十冊並べた。

10
盗んだ本を返してください、と毎日泥棒の夢の中に図書館が泣いて出てくるので、泥棒は本を返しに再び図書館に忍び込んだが、昆虫図鑑十冊のスペースのところだけ本が並べられず、受付カウンターに「世界美術史体系全十巻」を平積みして置いて帰った。

11
朝、カウンターの上に置かれた「世界美術史体系全十巻」を見つけた司書は、淡々とそれらをもとの位置に並べ、十冊の昆虫図鑑を淡々と館長の机の上に平積みして置いた。

12
図書館を走り回る子供のポケットから湿気たネズミ花火がこぼれ落ちて、夏は小さくてもいつか願いのように終わる。

13
図書館の一階フロア南西角はタイル一枚分が海になっていて、そこだけ「遊泳禁止」の看板が立っている。

14
図書館は駅から歩いて五分です、という案内を見た人から、走れば何分ですか、とか、雨の日は傘立てがありますか、とか、私はどうしたら良いのでしょうか、などの問い合わせが年に数件ある。

15
図書館にも秋が来て、館内の何処かからコオロギが鳴き始めるその姿を、誰も見たものはいない。

16
駅前が再開発されて図書館が廃止されてしまう夢を見て慌ててとび起きた館長は、図書館がどれだけ人々に愛されているか演説するために、慌てて再び眠りにつかなければならなかった。

17
南西角にある海で館長が大きなクジラを釣り上げて図書館を壊しそうになった日から、「遊泳禁止」の看板の隣に「釣り厳禁」の看板も立つこととなった。

18
館長は、もしかしたら自分は本ではないかと思って、自分の体を捲ろうとするけれど、いつも三ページ目から先が捲れないので諦めてしまう。

19
図書館に住み着いている幽霊は閉館時間が過ぎて誰もいなくなると、本を読むことを楽しみにしているけれど、言葉がすべてすり抜けてしまうので、体はいつまでも綺麗なままだ。

20
「今度の日曜日は図書館の日です アタリが出るともう一冊借りれます それと元気なアキアカネを差し上げます」図書館通信 第九四三号より

21
休館日、本は本であることを忘れて、思い思いの時間を過ごすが、中でも一番人気なのは読書だそうだ。

22
雪が降った日は、図書館に来ている人みんなで雪だるまを作るけれど、名前を何にするか決める前にいつも融けてしまう。

23
死ぬ前にもう一度図書館に行きたいという母親の願いを叶えるために、女は母親の手を引いて図書館前の緩やかなスロープをゆっくりとのぼり、この本がいい、と指し示した「竹取物語」の絵本を一冊だけ借りて帰った。

24
家に帰ると、母親は女と同じ布団に入り、借りてきた「竹取物語」を女に読み聞かせるのだけれど、文字がぼんやりとしか見えないので、そのほとんどは記憶の中の「竹取物語」だった。

25
春になると図書館の周囲一面はきれいなお花畑になって、時々軽い怪我をする人がでてくる。

26
図書館に一台しかない公衆電話がどこに繋がっているのかわからないことが最近になって発覚したが、それでは今までいったい誰と話をしていたのか、謎は深まるばかりだ。

27
朝一番に図書館に来て、一日中「優しい人入門」の背表紙を十年間撫で続けている男は、それでも手垢ひとつ付けないのだった。

28
図書館の空にかかった虹を折りたたんで大好きな人にプレゼントする、というペテン師の予定は、いつも予定のまま終わる。

29
図書館は数年前に既に死んでいて、現在皆が使っているのはその亡骸だということは、出入りの電気技師だけが知っている。

30
図書館は息を引き取る直前、今までありがとう、とこっそり制御盤の裏に書置きを残したのだった。

31
開かれた窓の外にはゼリー状の空が広がっていて、誰かがテーブルに置き忘れて行った歴史書を風が捲る音だけが静かに響く、ただ水溜りのようにある午後の図書館。

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 4

 2

私は鳥である

私は生まれた――人の子として
しかし私の心には宿る
大空の気ままな吟遊詩人
「自由」を愛し 謳歌する鳥の心が

かつて私は野良猫だった
街の中で孤独の毒餌を食べた野良猫
私は毒に狂い 人と知り合っては求めていた
その人からの無償の愛とやらを

しかし今では私は鳥だ
自由を愛し 自由に空を舞いながら
自由に詩を歌として歌う詩人だ

あれほどに求め あれほどに溺れた
「恋愛」さえも 自由を奪う鉄の鎖
呪われた狂気の酒と 今は見下す!


(2026.5.31)

作者より。
私は双極性障害2型という精神障害がありまして、深刻なうつ状態から長らく投稿をお休みしていました。
今は回復し、かなり安定してきたため、こちらへの詩の投稿も再開します。
皆さま、改めてよろしくお願いいたします。

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 6

コント原稿 結婚相談所

「初めまして。予約していたものですけれど」
「あ、どうぞ、おかけ下さい。予約時に教えていただいた理想の相手像にぴったりの方がおられたんですよ」
「え、本当ですか」
「ええ、ラヴィちゃんと言いまして」
「外国の方か」
「色気のある」
「うんうん」
「しっかりとしたお子さんを産めそうな」
「うち、親がうるさいんですよ」
「瞳が少し吊り目で」
「いいですね」
「唇が厚めの美人さん」
「そうそう」
「山梨県は南アルプス市鋳物師屋遺跡よりお越しのラヴィちゃんです。どうぞ」
「土偶じゃないですか!」
「コントをやる際は、ここでラヴィちゃんの写真を張ったパネルを出してください。
URLはこちらhttps://www.isan-no-sekai.jp/report/6196」
「メタいな! オイ!」
「ご懐妊の婦人を模したのではと言われる円錐型土偶で大きなお腹に手を当て、子宝の女神として皆様に愛されております。しっかりとしたお子さんを産んでくださること、間違いなしです!」
「だから土偶じゃないですか! 結婚できるとか以前の問題!」
「山梨県南アルプス市ふるさと伝承館でお待ちしてくださってますよ! 入場料はまさかの無料!
また分身が国立歴史民俗博物館におられます! 入場料600円!」
「うるさいわ!」
「では、他の方が良いと」
「そうしてください」
「では普段から身だしなみを整えている方はどうでしょう」
「いいじゃないですか」
「体は安産型でありながらその造形はまさに芸術」
「子供は欲しいですからね」
「やさしく、それでいて鋭い眼差しはあたかも蛇の様」
「そういう美人さんもいいなあ」
「お化粧も髪型にもこだわる、またとないお方です」
「素晴らしいじゃないですか」
「まさにビーナス」
「どんな人かな」
「長野県は棚畑遺跡よりお越しの縄文ビーナスちゃんです
URLhttps://www.city.chino.lg.jp/site/chinomiryoku/miryoku11.html」
「また土偶じゃないですか!」
「そのお体には雲母によるラメが入り、光に照らされると輝くと言う類例のない、目が文字通り眩むお美しいお方です」
「お化粧って、それ!?」
「また頭頂部には渦が描かれており、これは髪型なのではという説があります。他には見られない表現です」
「だからなんで土偶なんだよ!」
「お待ちください」
「なんだよ」
「国宝です」
「知らんわ!!」
「長野県茅野市尖石縄文考古館にてお友達で恥ずかしがり屋で国宝の仮面の女神ちゃんとダブル国宝でお待ちくださっているんですよ! 入場料500円!
またしても分身が国立歴史民俗博物館におられます! 入場料600円!」
「無駄に押しが強いな! オイ!」
「仕方ありません。別の方ですね」
「そうしてください」
「では大柄の方でも大丈夫ですか」
「ええ、問題ないです」
「体はがっしりと」
「スポーツやっていたのかな」
「それでいて自分独自のファッションに自信を持っており」
「おしゃれ好きか」
「普段は道の駅にてお勤めになっています」
「売り子とかかな」
「北海道は著保内野ちょぼないの遺跡よりお越しのニックネーム・カックウちゃんです
URLhttps://www.jomon-do.org/chukudogu」
「なんでしつこく土偶なんだよ!」
「待って下さい」
「だからなんだよ」
「北海道初の国宝です」
「知らんつの!」
「しかも日本で唯一道の駅で会える国宝です」
「だから知らねって!」
「銀箔を使って精巧に写し取った分身が、函館市役所と江別市の北海道埋蔵文化財センターにおられ入場料無料! 札幌市の北海道博物館にもさらに分身がいたりします。入場料800円!
まさに! 分裂するアイドル、それがカックウちゃんです!
本体は道の駅縄文ロマン南かやべに付属の函館市縄文文化交流センターにてお待ちしてくださってますよ! 入場料300円!
これまた国立歴史民俗博物館に分身がおられます! 入場量600円!」
「知らんつってるだろ!」
「でもってそっくりなご親戚もしくは分身と思われる中空土偶のニックネーム・マックウちゃんが東京都町田市の田端東遺跡よりお越しになっております!
URLhttps://www.city.machida.tokyo.jp/bunka/bunka_geijutsu/cul/cul08.html
町田市考古資料室にてお待ちです! 入場料はなんと無料!
なんで北海道と東京でここまでそっくりなのか!
ロマンが尽きません!」
「こっちは精魂尽き果てるわ!」
「そしてこれらの土偶がまさかの国立歴史民俗博物館におられます! 千葉県の皆様、ぜひお越しくださいませ! 縄文土器土偶に、平成の子供部屋を再現し、歴代のおせち料理をずらりと並べ、果てはゴジラまで展示されております!
まさに狂気の館! もはやこの博物館と結婚したいレベルです!」
「どんな博物館だよ! 勝手に結婚してろ!」

「と言いますか。こんなにこのかわいい土偶が嫌なんですか。なんでですか」
「なんでですかじゃないですよ」
「では全然別な方をご紹介しますね」
「お願いしますよ」
「お名前はハニィちゃんでして」
「嫌な予感がするんですけど!」
「日本で代名詞的な埴輪の踊る人々埴輪。埼玉県は野原古墳群よりお越しです!
URLhttps://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2152
どうでしょう?」
「どうでしょうじゃねーよ! いい加減にしろ!」
「本人は東京国立博物館におられますが人気者のアイドルにつき、訪れたとしてもお会いできるとは限りません。
分身が熊谷市江南文化財センターにおられますので、そちらにお伺いください。入場料はこれまた無料です!」
「しつけーわ!」

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宵境

黄昏に
影から生まれ
宵闇へ
滲む境目
音も無く啼く

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ポストモダン焼き(郵便弟論)

郵便ポストに弟を丸めて入れる
イカ焼きのつもりで 
マヨネーズをもたせてある
空腹でも三日はもつだろう
少しは反省すればいい

ポストのなかで 
弟が マヨネーズをなめている 
世間をもなめている 
切手じゃあるまいが

おれが入ってなきゃ
たこ焼きでさえ 
タコ入りにはならんやん と 
変な関西弁で吠えている

実家は北海道にある
イカ焼きといえば
輪切りのアレだったはずが
まるで 葉書にソースと
マヨネーズを塗っている

弟には郵便論がわからないし
すべての書簡は青のりで
黒塗りにされてしまう

「多分やけど 
たこ焼きにキャベツを入れたものから 
検閲されてんねんで 俺ならそうするわ」

弟があって 兄があり
誤配を前提に 北海道より
4日はかかって 大阪に着く
訛りがあって 誤配が生じ
切手を貼って 白飯を食って

道頓堀 ぬかるむ泥ソース 
さながら白封筒のスーツを浸し 
カーネルの肩を抱き 2ショットをキメる
弟は 投函されたまま 開封を待つ

親指を立て 漸く届いた故郷が
弟の口を借り なまらうめえ といった 

母語がとどき
父も泣いたが

おれは 許さない

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霹靂録/短歌連作

遠雷が霞む視界を波立たせなんか人生続いているな

物置にしまったままの過去たちよ勝手にどっか逃げてください

産廃の処分コストも跳ね上がり本年も不良セクタと共に暮らすか

春雷のような記憶に怯むものがあり主治医にはどうやら詩句が難解らしき

飛び立った鳩の行方を訊く調子多分わたしはここにいません

継続の 意思が問われて いるようだ そうはいっても おーい本人!

(応答せよ)

水際を 縫って石塊 川縁の 空を三度か 貫いて落ち 

(またも反応 なかったようで)

かまぼこの 板に「しるこ」と 書いて立て
明日からこれを 表札とする

歴史とか傷の匂いがするものと隔てられれば誤動作もない

耳鳴りを うまく使って 特定の ノイズを消せる 技術はないか

絶望の 一歩手前で メーターが 全トラックを ミュートするわけ

遠雷の ように兆した 不穏にも そんな薬が 効くと思うか

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無人島レコードに『タモリ2』

先日、所属する障害者の芸能事業所の歌の講師から『無人島レコード』という本を、貸して頂いた。
『貴方が無人島に一枚持っていくなら、どんなレコードが良いですか?』と言うお題で、各界の著名人に文章を募ったこの雑誌『レコードコレクターズ』誌(通称『レココレ』)による企画本。
良く考えたらこの本は昔、本屋で立ち読みしたことがあった気がするけれど、本の内容を改めて読み、自分も感情移入して本の中の企画に入り込んで、自分だったら、どのレコードが良いか考えた。それで浮かんだレコードが、タモリが1978年に発表したセカンドアルバム『タモリ2』スネークマンショーのレコードと同じアルファレコードから発売されている。

無人島ではどこまでポピュラーな、というか、大衆的、最大公約数的かつ常識的な振る舞い、つまり文明社会における正気の佇まいが求められるだろうか? 恐らくどこまで狂っていても、珍奇であっても、異常であっても『ギャートルズ』の世界のように、生きるための生存本能と、直感力、動物的鋭さがあれば、それで良いのかも知れない。つまり変態で良い、アブノーマルで良い、他人に極端なまでに理解されなくて良い。そこで聴く音楽なぞ、どこまでも個人の好みであって、趣味的であって良いとあらば……私はこのレコードを、選ぶ。

このレコードにおけるタモリは、へんちょこりんである。ジャケットでは口を斜めに尖らせ、玩具のような眼帯と、冗談のようなモーツァルト風カツラをつけ、こちらを不敵に睨んでいる。この感じが妙に、ずっと眺めていても飽きない。悪ふざけを本気でやるんだという、リスナーとタモリとの共犯関係。それを端的に表したようなジャケットである。

レコードの内容。タモリが得意のインチキ語を駆使して、果敢に芸に励んでいる。『やる気があった』時代のタモリ。何度も聴いているので、最早笑うために聴くというよりは、その不思議な趣、味わいと化した詩のようなものを聴いている……そんな感じ。そういえば私はこのレコードの中にある不思議な味わいであり、趣のようなものに惹かれ、こういうイメージをずっと追い求めてさえいたのではないか? とさえ思えてくる。

詩とは、言葉の舞踊であると誰かが言ったそうだが、確かに言葉を通して乱れ咲き、はたまた狂い咲きしている言葉の舞踊者としてのタモリがここにいるのである。

『虚無』というと、また深い仏教的なお話になりそうだが、その囚われ心なき故の、奔放さとパワフル。そこから湧き出る『透明な屁』のような。不思議な温和があり、ユニークがあり、毒気があり、そしてなによりも捻くれがあるとでもいうような……勿論『屁』は透明なものだが、そこにピンとした美しさを感じ取れる場合、それは食べているものが良い。内側から湧き出るガスであるけれども、その内側の内容が良いということになる。そう言う意味での『透明な屁』の例え。例えば真冬の南極で取れる氷のような、ピーンと筋張って緊張感に満ちた、そういう『屁』そう言う清潔な毒気が、このレコードにはある。つまりこのレコードは冗談ではなく、本物級に『高貴』なのだ。それはタモリが下品を演じながらも、大衆迎合に流されず、貴族的精神を保っているからということに他ならない。言わば、スレスレの変態を演じ、極限まで狂気を感じさせながら、どこまでも文明的かつ理知的で、正気そのものであり、物事に対する深い洞察と、それ故に、簡単には分からせない、分からせてなるものかと言うおじさんの意地悪とへそ曲がりが炸裂して、それが笑いを生んでいる。そんなおじさん好きの女子高生もマッツァオの、奇跡のエクスタシーアルバム。

このレコードは、飽きない。
このレコードの中に詩の要素を感じられたら、無人島にて釣り糸を垂らして魚を捕まえ、魚を焼いたら、時々腹休めにこのレコードを聴こう。
無人島の夜、臭そうだ。
レコードもほんのり臭くなって、そのレコードを抱えたまま、汚れたランニング姿で、朝焼けとともに起きる。怖気持ちよさそうだ。
「はがだろやあ てめにたとぶなあ もざもちぞお 永遠のてふやに さてどあらなん〜(自作ハナモゲラ川柳)」

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批評・論考

鋳型(アーキタイプ)

蠱毒にて 勝ったわたしが 勝ち上がり 
受精時の レースに続き 二度目の快挙

辞世の句というものを捻っている。
理由は特にない。しいて挙げるならば、
幼き日にわたしであったもの背中を追いながら日課のウォーキングをこなすのがそこそこの苦役だからだと思う。

記憶がいつも二、三の積層で構成されている。
自動再生をオフにすると逆再生がかかる仕様なので統合が許されない。
悔しく思う。

隣のレーンでは、べつの自分が別の条件で走っている。
機会は尊重されるべきだ。

叔母の家に行く途中の鯛焼き屋を思う。
なんで母は借金をするのに手土産をもつのか。
馬鹿げているなと思った。
訪問の形を装った物乞いの手つきも慣れたもので、全8頭が今一斉にゲートに入ります。

蓬風味の薄皮、つぶあん、天然もの。 
一匹づつ焼いた鯛焼きを天然と呼ぶ馬鹿馬鹿しさが無効化する可能性に賭けているが、
どう考えてもレース自体が成立しないので、
おれの霊は最終コーナーでなんだか雑に供養されている。

ワンカップにタンポポを差すな!いや差せ!よっしゃまくった!
アーキタイプ号・日高ビッグレッドファーム出身父母はあのトリックスター、前走1000万下
ハンデ戦・よもぎ賞に続き二度目の快挙。

鋳造された途端に型が自我を定義して一匹分の苦しみが焼きあがる。天然ものと養殖もので何故か苦しみの量さえ違うのではないかという錯覚があり、
霧のように頭を覆うので呼吸がしづらい。
気持ちが悪いので、
隣でも別個体が焼かれていればまだ
痛みが分散されるのではないかと思っている。
またレーンが増える。
あと何回自己条件を勝てば、
この錯覚を払拭できるのかわからない。

シャワーを浴びる背中の像にさえ追いつけない。

鏡の自分はおれより半歩遅れて指を折る。遅い。だからお前は。
あくまで機会は尊重されるべきだが。

に・ど・め・の・しょ・お・り…
ちくしょう。字余りか。

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鼻水

言ったってまた
無理しちゃうよね
知っているけど

頑張り過ぎて
これまで数え切れない
咳と鼻水

大丈夫って聞くから
あなたは大丈夫って
言うしかないよね

耳の向こうは
鼻声と咳払いの
夕暮れの歌

ホント無理しちゃうよね
分かっているけど
生真面目と心配性

早く治るといいなぁ
ホントの声色
忘れちゃう前に

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生き物エレジー 

それ以上でも、以下でもない事実がある。多く相談者と相談相手の関係において、 相談者の方が相手を見ている。しかし、後者の立場的優位性から、もっと言えば力の論理から多くその認識に誤解は生まれる。かくして相談者の多くが相手が充分に話を聞いてくれないと外で不平をもたらす事になる。相談相手からすれば力の論理で言えば立場上自分に分がある事は自明のことなので、外で何を言われている か?  知ったことか?  嫌なら最初から私を尋ねなければいい、となる。しかし、相談者からすれば相談する相手を選ぶ自由はそれ程広くないという事実がある。相談者の選べるカウンセリング相手は訪問先を訪ね、自分が指名したわけでもない、 訪問先が選んだ人間である。健気にも彼は初めて面会する相手に取り敢えず信頼す る姿勢を見せる。が、実際は誰もが(本来それで正解だが)遠慮がちに言っても本音では誰一人初めから無防備に信頼は寄せていない。カウンセラーが初めに確認したいのは相手が自分に信頼を寄せているかという事。又、実際はこちらが先決だが、相手が相談主として信用するに足るかという事。そう、こちらの側も本音では 用心深い。相手が用心している様子。簡単に他言出来ない実情をベラベラと語る様 子。丹念に見分け、ひどい話かも知れないが、態度の上でも舐めてかかる場合も多 くありうる。相談主は一方では信頼しているからこそ話しているという姿勢を見せ ながら、一方では内心不信を抱えている。その不満がストレートに出てしまう相手もいる。 
「お開き! 信頼しないなら出て行って貰おう」 
とは、ならない。役職上、自分が信頼出来る相手であることをお金を出して訪問に来た相手に示すことが必要だ。辛抱と忍耐。しかし、実際はやり取りを続けるには どこかで双方が折れて妥協するしか無いのだ。相談主からすれば選択肢はそう多く 無い。相談相手からすれば 
「お前の代わりなら、幾らでもいるよ」
が本音である部分も多いが、その幾らでもの中のパーツの一部を簡単に手放す訳に はいかない。パーツが連なって全体がある。パーツを疎かには出来ない。こう言っ た現実を内包し、無意識の下に包み隠しながら問題解決のために融和を装う。それが嫌なカウンセラーとそのカウンセラーの態度を嫌がる病者。しかし、立場上相互依存的にお互いを求める間柄である以上、カウンセラーは当然のこと、繕うという、本来健常者が常識的に出来ていることがどんな病んでいる状態であれ、病者にも求められる。現実的には双方が時間との闘いである。カウンセリングに天国を期待し てくるのは病者の社会的意識の低さを表しているに過ぎない。社会で一端の成功を修めた人間がそんな人間を見下すのは仕方がない。が、それを踏まえた上で、現実的なこの世に避けられない課題として病理があり、自分も含め病を抱え、 その課題の解消法を探るのがカウンセリングの仕事だ。決して愉快犯的に覗き見趣味として他人の心を覗くことをこの世界の信条としてはならない。多くの医者がその点で大きな勘違いを犯している。それをどんな病者も当人達よりみている。一方で当人達は医者より自分を見れているだろうか? どんな人間も鏡以上に自分を見る事は出来ない。それがこの世界の持っている他に類を見ない奥深さだ。 『医者が語ると患者が黙る』 患者の多くは実生活において、受け身を強要されていることで悩みを抱えているものが少なくない。彼ら彼女達から言葉を引き出し、受け身から解放し、他人に対し、積極的な姿勢と与える力を持たせる。これが私が仕事上一つの指針としているものだ。殆どの人間は人の話を聞けてない。又は、充分に聴ける人間が一人でもい たなら、恋人の破局はないだろう。好きで付き合った同士でも解ってもらえない事 が原因で別れるものだ。双方の同意の形をとるものもあるだろう。どちらかに倫理的な問題を問えるものもあるが、つまるところ根本的な原因は我々は一つではない と言う事だ。元は一つだったかも知れない。もうそれはずっと前のことだ。その時の記憶について詳細に言葉で掘り起こして語れる者はいない。医者は音楽を聴くようにじっと耳を攲(そばだて)て、どんな不協和音であろうとも患者の話す言葉の 一つ一つを心に止めようと努める。しかし、実際は私にだって時間がある。カウンセリングを大回りしている間、全ての病者の悩みを心に留める?  だから、ペンが ある。筆記したものを読み直せば、病者の対処すべき問題について、幾つか思い当たる事がある。思いがけない発見。宝石箱のようなとまではいかないが、まぁ、仕事を通してそれが、その人の抱える問題を通して人生という不可解なものを考える手掛かりになる事だってある。好ましいにせよ、好ましくないにせよ、医者は患者の本当に望んでいるものについて目覚めさせ、理論立ててそれを認識させる。するとうまくいけばどんな未熟な人間でもヨチヨチ歩きでもどうやったら歩けるか? と言う意識は向かうようになるだろう。健全な人間ならそこへ向かって自然と歩い ていくようになる。医者がすべき事はその手助けをする事だけだ。大抵の医者は多 くの悩みを聞いている内にどこかで 
「よくもこんな下らん話をダラダラと出来るものだ」 
と思うものだ。その通り、貴方と私は違う。私と彼も違う。だから、彼の味方をする義理は職務上の建前でしかない。好ましくない政治的主張も大概ある。ダメな医者ほど己(おの)が価値観でそれを否定し、患者の意識を自身の好ましい方向に捻じ曲げてしまう。時には、政治的にきわどいテーマを持ち出し、同意を求めてくる患者もいる。中には賛成出来るものもある。が、簡単に同意する訳にはいかない。 簡単に判子を押す訳にはいかない。一歩社会に出れば誰でも、印鑑証明書のように立場上、慎重に言葉を選ぶべき発言がある。危ない話を持ちかけられそうになることもある。性的誘惑を思わせるものも。穴に落ちる前に私はそっと相手に分からぬタイミングで見えない位置に忍ばせてある録音テープのボタンを押す。テープは危険が去ったと分かった段階で消去する。つまり、悪用したり、うっかり第三者の手に漏れなければこちらに落ち度はない。それを道徳的に許せないと言う議論はお話にならない。こっちは危ない道に誘い込まれるかも知れないのだ。どんな職業でも、特に教科書を自分で作っていく必要があるような独創性を自らに課し、かつ社会の晒し者にされかねない道徳的な危険性を秘めている職務において、そこへ向かおうとしている人間は地雷を踏まないよう、しっかりその道の法律について勉強しておく必要がある。決して感情論では法律は動かない。
 「正しい事は全て法律で保障されている」
 歴史的に未開の人間でなければ赤面せずにはいられない発言だ。文面上のことが有事に対し、万能でない事は体系的な知識を持った人間なら自明のことだ。法律とは勝ってきた規則だ。大声では言えないが、中にはとんでもない悪法だってあるかも 知れない。歴史的にみれば確かに今日で悪法だったと定説になっている法律も少なくない。イヤ、この国においてまさかそんな筈は......そうです、そうです、その通りです。しっかり自分を守るための弁解もお忘れなく。結局道徳的な感情論を持ち 出してくる輩の多くが、歴史的に群衆の中で勝ってきた論理、つまりは力の論理、数の論理をあてにしているのだ。自然淘汰を賛美するダーウィン的世界観の持ち主が持ち出すクロマニヨン人の勝因や恐竜が滅びた理由。サッカーの試合のように、 滅びた理由について考え、それを反面教師にして生き延びようとする。しかし、滅びた者達にスポットを当て、彼らの悲劇と没落の物語を描こうとする人間がいたっ ていい。そんなモノはなんの役にも立たないじゃないかって?  なら、貴方は永遠に風のように時期が来れば自然淘汰されていく人生指南書を追い続けていればいい。買っては捨て、覚えては忘れ、飲み干し、吸収してはすぐ何も残さずに捨てていく営みを繰り返す人間が一人でも多くいることは、常に新しい新商品を売り込みたい業界人にとって好都合なのかも知れない。偉大な人物が勝ったことなど一度も無い。イエスキリストに信者が求めた事はなんだったか?  それは天国と地上の苦しみからの救いという禁断の木に生った甘い果実である。
 「私は多くを許した。しかし貴方達は殆ど全てを許さないどころか、私が大切に育 てた樹木に生えたリンゴやバナナを根こそぎ奪い取った。しかし、それでも私は許 すだろう。それでも貴方達は私から奪うつもりか?」 
若しかしたら、イエスが十字架の上で磔にされた姿でこう語ったとしても、その声に真摯に耳を傾けたいと思う人間は少ないのかも知れない。チャールズチャップリンは晩年進歩的なSF映画を疎んじた。ジョンレノンは晩年 
「僕は50年代の人間なんだ」 
と、十代の頃出逢い、生涯愛して離さなかった原始的なロックンロールへの想いを語り、その後の音楽シーン全般において、生演奏のものでさえ事前に録音したものに合わせて歌う瞬間、失われてしまうものがある。と録音技術の飛躍的向上による音楽の人口化について否定的な見解を示した。立川談志はもう、寄席の客の好むものがおれの時代のものと変わっている。と嘆きながらもう飽きた、と言葉を残して生涯を閉じた。私の尊敬する人物に時代と価値観の落差を唱えず亡くなった人間は一人もいない。勝つのはいつも、迎合上手な群れだけだ。その群れというものも、 個人と言う実体を持たない架空の概念としての群れのことであり、つまり勝った人間など一人もいない。正しいものが勝ち、劣ったもの、間違ったものが敗れるなど嘘だ。多くの理不尽な死に様を終えた人々がいる。アフリカに生まれた子供達。何も間違ってない。アフリカに生まれたと言うだけだ。それを自然淘汰と言うなら、 自然淘汰に正義を求めるのは土台無理があると言うものだ。アメリカにアメリカ人は一人もいない。いるのはヨーロッパ人だけだ。日本に日本人は? 和服を着てい る者も、パンよりご飯を好む者も、洋菓子より和菓子を好む者も全てではなけれ ば、ジーパンに巨大なコークとケンタッキーフライドチキン、おっと、ポップコー ンもお忘れなく。勝ったか? 負けたか? 知ったことか!! 

「なんかどうでも良くなっちゃったんですよねえ」 

(「よく分かってるじゃないか」
と答えて笑いを取りたいが、相談主に未だ熱が 残っているのを察知し、深刻な波長に合わせるべきか未だ探りを入れている)
 「逆に言えばどうでも良くないと思ってる方がしんどくない?」 
「嗚呼、そうですねえ」 
(ソフトな言い方に変えてみる。まずまず好反応だ)
「どうでもいいことを一所懸命やると下らないになるよね?  下らないを一所懸命やるとバカバカしくなる。脱力する。これでいいじゃない」
「うーん......」
(少し重い沈黙が生まれる。お安い御用だ)
「もうちょっと、こう......」
 (「分かってる。意味を求めてるんだろ?」と答えたいが、しばし待つことにする) 
「真剣になってる人に同調しすぎちゃって疲れちゃってる? みたいな?」 
「ハァ......嗚呼......ですかねえ?」 
「まぁ、優しいんだろうねえ」
(返答を待つ)
「………」 
「大義とか正義がないと崩れてしまうものがある。それはどうでも良くない。支柱として足場を支えている訳だ。つまり経済とかお金であるとか、みんなそれはどうでも良くないよ」 
「うーん......ですねえ......」
 「ホラ、猿が高い山に登ってさ。バナナの取り合いするでしょ? それが出来なかったら悔しい。でも、それで悩むのは違うと思うな」

「(笑)」


「ホラ、そこは脱力するとこよ(笑)」

「...........でも......」(しばしの沈黙の後、彼が切り出す)

「ウン......」

「でも、もうちょっとなんかこう......ウーン......」 
「例えば、一定量真剣気味になりすぎる人というのはいて、例えば自分が見くびった相手から面倒な態度を取られる事はその人間にとって好ましくない訳だ。どっちが本当に舐めてるかっていうと自分じゃない。相手だよ。こっちは相手以上に礼儀を守ってる面がある。だから相手が自分を見くびるとしたらそれは相手が田舎者な んだよ」

「ハァ、それは先生のぉ......」
 「プライドとか、矜恃っていうのは大事なんじゃない? ただ、それが何に支えられてるかって考えてみるといい。頭を下げる相手がいて、成り立つ面があるでしょ? じゃあ、頭を下げてる人間はなんだ? とか他人を押しのけてそれを当然の権利と思ってる人間はどうか? とか考えたらさ。不満を持つよりどうでも良くなれるっていうのはある意味で幸せだよね。誰だってどうでも良くなりたいんだから」

「先生、それは......」 
「どうでも良くなって、こうやって椅子に仰け反ってブァーってやりたいよ」 
「ウーン......先生! ぶっちゃけすぎじゃないですかね?」
 「そうかなぁ? じゃあ、例えば私が貴方をむやみやたらと褒め称えたとしよう... どう思う?」

「うーん、なんか......怪しいな......とは......」 
「ケーンゼン! 正解! つまりなんか目的があってそのために利用するための餌と思う。これが上下が逆だと割りかし普通だ。日常自然に起きてる現象だが、そこには内心不安だから相手を立てると言う面がある。字句通りに受け取ったり、相手の主張する意図通り受け取らないのが通常のコミュニケーションだ」 
「ハァ......」
(「オチはない」とは直ぐには口に出さない)

「.......話のオチはない!」
(出しちゃった!) 
「(笑)」

「(笑)」 
「ハハハ、今日はちょっと喋り過ぎましたね。オチって言うのは一つの結果ですよ。試合で言えば中継後の世界です。誰だって終えた後より向かっている時が一番楽しい。山道を登って考えた結果を望むのではなく、山道を登って結果が出ることを期待して登っている瞬間が楽しいのです。後は裏切られた、いい結果悪い結果は、代償として又恩恵として副残物でしかない。副産物を第一に考えるなら、楽しくはないが、楽な人生を歩めるでしょう。SNSで知りたいことを調べれば直ぐ答えが出 てくる。納得出来ない答えだと思える人は山道を登る可能性を持った人間です。熱湯沸かして3分で答えが出る。正に即席ラーメンの世界。俺たちはもっと旨いラー メン出してるよ、とテレビが呼びかけ、ラジオや出版社は、オレならアンタをもっと酔わせることが出来る。とびきりの密造酒だ、と胸を張る。ラーメンだろうと旨い酒だろうと、始終腹に溜め込んではち切れんばかりの人生も悪くない。ただ、たまには自分の足で一歩踏み出す人生。それも悪くない。今の時代、パソコン画面上でいいねボタンを押せば『トモダチ』の世界です。トモダチの定義も随分幅広く、 また控え目になりましたよ。僕らが幼い頃は友達と言ったら夏になったらカブトムシを捕まえに一緒に誘い、冬になれば雪玉を投げ合って雪だるまやカマクラを作 り、やっとこさこぎつけてお互いトモダチと呼び合える仲と認められるようになったものですが。三十過ぎたら、健全な人間は社会に出てひとっこさお金を稼ぎにドサ回りを続けなきゃいけない。つまり遊んでる時間なんてないんだから昔のトモダチシステムは重荷になり、今のシステムはとても便利です。相手がそれを認めてく れる好都合は逆に言えば怖さでもある。コミュニケーションの一つの彼岸のカタ チ。それは別れです。ピッ! とボタンのスイッチを押せば僕らは直ぐ離れてしま います。友達も友情も恋人だって、人の絆はいつだって脆く儚いものでした......」

私は周期的な乱れから昼間の内に酔いが回ってカウンセラーから巫女の魂を受けて まるで講談師へと変貌してしまったようだった。私は一人唸っていると動揺する相談者の前でそのまま涙を溢れ落とし、私が私自身に課していた完璧にコントロール された世界から解放されると

「きょ、きょうはもう、時間が来たカラァ」 
ティッシュで涙と鼻水をグシュグシュと音を立てながら拭く私に相談者は動揺する 様子を見せると

「分かりました。では、今日はこれで失礼します」
去り際に彼は相談が始まって初めて私の目を見つめ、微笑を浮かべると
 「先生、先生とは良いトモダチになれる気がします」 
彼が本気でそう言ったのかは分からない。相談者がバタンとドアを閉めた後も、私はひとしきり泣いていた。ヤレヤレ、これではどっちが相談者で慰められているか、分からない。私の仕事への向き合い方もまた反省点が浮かび上がる。どんなに一時 (いっとき)完璧に見えても、そこから愚かさがこぼれ落ちない理念などない。守れない約束ならしない方がいい。ちゃんとしたかった。でも、出来なかった。世間 がそうさせてくれなかった。世の中が私を作り、同時にいつだって私の思うような 私にはさせてくれなかった。 
「そんなの当たり前じゃないか。一人で生きているわけじゃないんだし」
 みんなが笑ってくれるから、自分を好きになれるんだ。
 「一所懸命やってる。ちゃんとしてる」 
嘘だ。一所懸命やろうとしてる。でも、出来ない。それが真実だ。分かってるのに、どうしてそれで良いとハッキリ言えないんだろう。思えないんだろう。それを認めてくれる人ばかりじゃないからかも知れない。 
「合わせなくても、良いんだよ」 
合わせなくても良いなら、合わせずに許してくれない人がいることも知って欲しい。いや、これ以上涙を流す訳にはいかない。男として涙を拭いて立ち上がる時だ。しかし、時にこう、小休止も必要なものだ。例え、その小休止が側から見えて 惨めなものに見えても、闘う人間の小休止とは本番と違い、不恰好で惨めで、そんなものだ。少し、気持ちが落ち着いてきた。徐々にトンネルの向こうからローからハイへ私を引き戻す光が差し込んでくるのが見える。でも、まだ少し乱れた鼓動が 収まらない。思うように出来なかったこと。どうしても思うように出来なかった自分。時折、走馬灯のように記憶が蘇る。穴から抜け出たいといつも思い、抜け出たと思って喜んでいると、不意打ちに合い、穴から抜け出た筈がまた同じように穴の中にいることにいつも気づく。穴の先が穴なら、そこへ差し込んだ光は私になにを指し示していたんだろう? 愚かである。私も、私を作った世界も、私を疎むもの も、そして歓迎するものも。その愚かさの全てが笑いになり、憎しみになり、人生の機微を教え、全ての喜怒哀楽を象ってきたのに、その中で揉まれながらも時に疲れを口にし、ハーフタイムを求めれば手に入ることばかりじゃない。それなのに、 まだ私は目の前にぶら下がる人参を求めて自分の尻に鞭を打って歩を進めようとしている。そして、私にはそんな私の今まで歩んできた人生の全てが、時に人目を気にすれば恥ずかしい程に、狂おしく、愛おしい。私は今まで決して立派な人間では なかったのに、立派であろうとすら本音では望んでこなかった。私は私の愚かさを、呪うべきだろうか? 誰だって同じように愚かだ。いや、同じようにじゃない。星の数ほどある人それぞれ千差万別の愚かさを抱えている。自分達と種類の違う愚かさを指摘して嘲る人々の群れ。立派なこと。これも反吐がでるくらいつまらないこ とだ。不器用で、何をやってもダメで不出来で、それだからこそ愉快だ。私の理想の死に方は路上で反り返る大ガエルの間抜けな死に面だ。間抜けで愚かなことをやって笑い者になる手段は幾らでもある。いつか吉原のほとりにある名前は事情あって言えないが、湖の上で一升瓶を脇に浮きながら豪快な死に方をしたいものだ。どう死ぬか? 大事な問題だが、生前私を嫌い、いびり倒した人生の先輩方も、やっぱりアイツは愉快な奴だったねえ、と代々語り草になるような痛快極まる死に方をしたい。『天才バカボン』の赤塚先生の死に様は犯罪的に愉快だった。私にしんみり共感を寄せていた人はこれを聞いて怒るかもしれない。バカ言っちゃいけな い。生前、散々いびり倒しても死んだ時笑ってくれる人の方が楽しい人に決まって る。そう言えば、あの人達も時折人間味のある顔を見せた。私はそれを見る度、内心ガッカリしたものだ。散々いびられてもどこかであの人たちのどこかに私の抱え ている弱さへの理解と愛情を時折感じたものだ。散々いびり倒してもどこかで私を愛していたなら、少しは泣くかもしれない。そうしたら人生は何て素晴らしいもの だったんだろうと全てを肯定できるだろうに。オイ、そんな泣くなよ。生前アンナにいびったオレが死んだのが内心寂しいのかい? えっ? ここで泣かなきゃ女が 廃れる? 格好つけんな、ブスのくせに! どいつもこいつも忌々しい連中だ! やっぱりだから、オイラは未だ死ぬのヤーメタ! 
「ポチャン」
 と湖になにかが落ちる音を響かせ、さて、この音はなんの音でしょうか? と問いかけ、私の人間の感情の機微に纏わるとりとめのない話を締めさせて頂きます。 

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ランダとダンス

スチームでパンダ
スクリューでヒーロー
ピンクでイレブン
キッシュで玉砕
サンダーでサイダー
ニッキで一擲

ダックがギャップ
テッドがノック
ドクターがキット
アクトがリュック
スノーが息切れ
サンドが逆襲

チャットにキック
ロックにバット
ルークにイマジン
ナイトに嫉妬
ショックにヨーデル
プールに激震

素数と兎と幾多と灰汁と超過と街と
チープとネオとスープとチアとシアンとロンドと
ランダとダンス


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shidan

遠い森の中
色とりどりの鳥たち
麗しくよくとおる声で
さえずりあつて

私は立つ
酢漿草の上
何も聞こえてこない
ただ遠くで森が揺れてゐる

変わらぬ森の深さ
知らない風の記号に
新しい鳴きかたを
鳥たちが試しだす

私は蹲う
落雁色の空の下
新しくはないやりかたで
又同じみぞ筋を掘りなおす

https://i.imgur.com/la2ngxV.jpg

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とん、とん、とん

今ここで、包丁を持っているおかあさんを後ろから蹴り上げたらどうなるか、ずっと考えているんだ。だから、僕はおかあさんの後ろにずっと立っています。ごめんなさいおかあさん、でもね、僕本気じゃないんだ。僕だっておかあさんのお腹から産まれた、れっきとしたおかあさんのこどもだよ。だからね、おかあさんなら、僕のことだって全てわかるはずでしょ?
だから、僕はおかあさんの後ろにずっと立っています。まな板を叩くおとがとん、とん、とん、とまるで木魚のように反復して、ごうごうとうねる風の音に消えていくんだ。おかあさんは僕のすべてを知っているんだ。だから、なんで僕がおかあさんの後ろでずっと立っているのか、僕のおかあさんならわかって当然なんだよ。

今ここで、包丁をリズミカルに動かすおかあさんの頭を思い切りはたいたっていいんだ。だから、僕はずっとおかあさんの背後を見つめ続けています。おかあさんは僕が悪いことをしたときに、すごくいっぱい叱ってくれたんだよね、とても感謝しています。僕がほしいものは半分くらいはただで買ってくれたし、僕がいやがることも半分くらいはしないでいてくれたんだよね。そういえば、僕のお年玉ってどこかなぁ。
とんとんとん、とリズミカルに叩かれるまな板に合わせるように、僕の足先もとんとんとん、とリズミカルに振動して、ごうごうとうねる風の音に消えていくんだ。だから、僕はおかあさんの後ろに立っています。おかあさんは僕の前に立っていて、僕からはおかあさんの顔がよくみえないけれど、おかあさんは違うんだ。僕がいようがいまいが、或いは永遠の常闇に沈んだ絶望の中ですら、僕がいつも笑っていることをしってるんだよね。

おかあさんはとんとんとん、とリズミカルにまな板を叩き続けているから、僕はついに両方の足でとんとんとん、と足先をリズミカルにバウンドさせてふぅ、ふぅ、と呼吸を荒くしているんだ。今ここで、包丁を持っているおかあさんを後ろから蹴り上げたらどうなるか、ずっと考えています。
だってさ、考えてもみてごらんよ。おかあさんにとって、僕は人生のすべてといってもいい。なぜなら、おかあさんはずっと、何十年も文句ひとつ言わず僕の世話をし続けていたんだから。そんな僕が、今ここでおかあさんを後ろから蹴り上げたらどうなるのか、ずっと考えています。だって、僕は今もなおずっと、おかあさんの後ろに立ち続けていて、おかあさんもずっと、僕の前に立ち続けているのだから、僕はおかあさんに何をしようと文句の言えない立場なんだよ。そうでないなら、今すぐに踵を返して、その持っている包丁で僕の脳天を貫けばいいだけだ。何も難しい行動が要求されているわけじゃないんだから、児戯に等しいはずなんだけど、おかあさんはなんでしないのかなぁ。

照明をつける暇もなかったキッチンは次第に太陽の恩恵から離れて、薄暗い地下室のようになりました。とんとんとん、と木魚のように反復する音だけが、僕とおかあさんを繋げています。或いは僕とおかあさんには、その程度のつながりしかなかったのかもしれないね。だから、僕はおかあさんの後ろにずっと立っていて、おかあさんは僕の前に、ずぅっと立ち続けています。おかあさん、やっと僕はおかあさんのことを深く理解できそうになってきたんだよ、きいてくれる?おかあさんにとって、僕がどういう存在なのかというのを実は勘違いしていたみたいなんだ。

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 4

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詩人には夢が見れない

どうせ誰も真剣に
私の詩なんか読まないので
好きに書かせてくれ

わたしは
「肩書き詩人」は
要りません
「物書き」では
ありたいですが

某エックスでは
やたら饒舌な輩かヤツラが
ヤガラみたいに口先ばかり
尖らせる
※ヤガラが分からない場合
検索したらいいじゃないの

詩人では全く夢が見れません
詩と人が結びつくのは
今のままでは私は私はワタクシは
許し難いのでございます

詩人では夢を語れません
何人にブロックされるかしら
何処のグループから外されるかしら
いやいや誰にも読まれず当たられず
触られず消えていくだけです

それでいい それでいいから
言わせてよ 本音なんて
ひゃくぱーせんとははけなくて
いつのまにか 120ぱーせんとくらいに
膨らまされるんだから

わたし
わたくし
詩を書きます
ひとりでかきます
わたしの世界の中心で
あなたの世界の恥の端の恥で
静かにひたすら書くのみですから

わたしは詩人ではありません
精神分析必要ございません
発達障害、鬱病、双極性
働いてません、働けません
さみしいさみしいさみしい
死にたいし
死にたいし
生きたいし
もう死んでます
どうせどうせどうせどうせどうせ
それでも書きますそれしか出来ません


もう結構です

はい 採点、ごくろーさま!

零点!

星無し!

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終幕

 古書をあさる手の汚れに
 くじいた足が痛んでく
 割れた窓硝子の前でくしゃみする
 これで終幕か
 肉体のほころびに茶店の娘
 アイツのヘアバンド 髪の匂い
 着物姿に「雪国」か
 おやおや
 抜けたトンネルの先は
 桃のスジ?

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こうするしかなかったんだ

全てを捨てないと
この地獄は終わらない

楽しかったこと
好きだったこと

それらはいつの間にか地獄に変わっていた

過去の自分に縛られて
捨てようにも捨てきれない

一度離れようと思索するも
戻るときの苦労は目に見える

なら全て捨てるしかない

この地獄から解放されるためには

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新しい恋人

艶めくパラジウムのエンジェル
ネオジムに惹かれ合うイオンたち
煌めくタンタルのストレージ
指先で触れ合うインジウム
すぐに頭とろけそうになる
やけに硬質でスクエアーな恋人

君と触れる時全てがE.T.との邂逅
それはもう不可抗力
紡がれるタナトスの陰謀
周りを見渡せば誰もが君と手を繋いでる
それでも頭とろけそうになる
やけに硬質でスクエアーな恋人

「有機」の接吻は3,4-パルスの奥深くへ
ブルーラ3,4-イトが明滅す3.4-る度
指先だ3,4-けで僕らは繋3,4がっている
Automatic3,4-InfectionLoveそれでも3,4いい-
空3,4-は視3,4-線の下3,4-に3,4-ある世3,4-界は僕3,4-3,4-の手3,4-の3,4-中に3,4-あるそ3,4-れで3,4-3,4-も3,4-3,4-い3,4-い3,4-3,4-3,4-3,4-

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六月の朝

雨はすっかり上がったのに
雲はいまだに敷きつめられて
いまも少女は夢見心地で
遙かな空は群青色で

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 3

恋の病で入院中


スマートフォンで 初めて書いてみる
いつもはパソコン

貴方への恋慕は
こんな ちっちゃい長四角ではもどかしい
そう あたし 不器用だし 誤字も多い
思い込みの激しい ヤキモチやき

病室から 貴方だけ求め たまらずに
スマートフォンだっておおよそ あたしの スマートじゃない恋文

じゃあパソコンならば 大海原へ
ふたり 繰り出せるのかと訊かれたら
あたし達は 口を閉ざすことしかできぬ

だからどうした

あたしなら 別れを望まれるのなら
別れられる

その意味が わかりますか
どんなにスキかわかりますか?

あたしを手離さない覚悟をしているあなたの愛が
どれほどのものか
あたし 知ってるよ

無慈悲な不良ならよかったのに
ちがうから、手首を結んだリボンを痛がる貴方

けどねぜったい離さない
知ってるよ

残酷な フランス映画に酔って千鳥足
電柱に激突して鼻血
路面に大の字 星が綺麗

そのうち車に轢かれるかもね

馬鹿な恋人同士だと
笑われたって
あたしはこの綿菓子を手放さない
貴方が慕ってくれる限り

とても愛してる愛してる
あなたからフワフワが消え 棒になったら
あたしがモコモコ製造してみせる

スマートフォンで毎日、伝え合う

逢いたくて
おかしくなりそうだねって



https://i.postimg.cc/RCfThJnf/lianno-bingde-ru-yuan-zhong.png

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新婚

初めて住んだ 築四十年の
古いマンションの
畳の部屋は 西日に焼けて
何か 香ばしい匂いがした
隅には 
黒い四つの四角形があって
それは 爛れた皮膚を
思わせたから
わたしはそこに
白い敷物を乗せて
見て見ぬ振りをした
 
部屋に入るたびに
わたしは草原を思い出した
乾いた風が 草木をなびかせ
わたしは香ばしい風を
長い灰色の鼻から吸い込んだ
 
わたしは 
ほんしつ的に象だった
ぱおんと一声 
高い声で鳴いてみたかった
 
遠くで誰かが
わたしの名前を呼んでいた
夫であるようでも
よく知らない人のようでもあった
しかし 
つよい声をもっていた
 
わたしはまだ
大地を駆けていたかった
わたしのからだは 
若くて
こんなに力があるのだから
せいかつなどとは無縁の
わたしの草原は
のびのびとそこにあった
 
ある日 
白い敷物が
はがされていた
こんなもの邪魔だろうと言って
夫が外したのだ
 
「この方が清々する」
 
わたしは草原を失った 
黒い四つの四角形が
わたしを見ていた

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 3

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BAR「Creative Writing Space」

ニーズがあるやらないやら、まったく見当がつきませんが、
毎度おなじみの思いつきで、BAR「Creative Writing Space」を開業いたしました。

皆様にお使いいただけなければ、すぐに閉店いたします。
電脳空間の片隅にある、吹けば飛ぶような小さなBARでございます。

一杯引っかけた体で雑談していただけるスペースをイメージしています。
「Talk」がさほど機能していないことも踏まえ、もっとカジュアルに使っていただけたらと思っています。


【ルール】
・ワンドリンク制です。必ず何かお飲み物をご注文してからお話しください。ノンアルコールでも構いません。
・お代はいただきません。もしスペースコインをお支払いになりたくなったら、他のお客様に奢ってあげてください。
・酔っ払いすぎにはご注意くださいませ。

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批評・論考

主張強め日記 6月8日 貸し本棚サービスの狙いとか

昨日、貸し本棚サービスをローンチさせて頂いた。以前、生成AIだけでラフに実装したものを一度公開し、一定の手応えを確認した上で、改めて作り直してのリリースである。すでに10近い本棚が作られていて、ありがたい限りだ。


着想のもとは、町の本屋にある。詩集を置いている本屋は、大型書店を除けば一部にしか存在しないが、そうしたこだわりの強い、町の小さな本屋には、貸し本棚を設けているところがある。読書家や作家が、利用料を支払い、自分の趣味を一棚に並べて披露しているわけだ。あれをオンラインで、しかも無料でできるなら、一定の需要があるのではないか。そう感じたのが出発点だった。


貸し本棚にこだわった理由は、はっきりしている。ネトスト機能や開示請求機能といったギャグ機能の案もあったし、AIを使った別機能の案もあった。その中で貸し本棚を選んだのは、コミュニティの強化と、経済的な仕組みづくりを、ひとつの機能で両立できると踏んだからだ。


まずコミュニティの面で言えば、互いの読書遍歴を見せ合うことは、文芸投稿サイトにとって直球の交流だと思っている。CWSには、コミュニケーションそれ自体を目的に群れたがる人は、正直なところ少ない。CWSでの交流へのニーズは、暇つぶしの雑談や馴れ合いというより、もっと学びに近い何かを指している気がする。誰が何を読んできたかを知ることは、その人の書くものを読み解く手がかりになるし、自分の次の一冊になることもあるだろう。貸し本棚は、学びの交換を起こす装置としてポテンシャルがあると感じた。


念のため対比として言っておくと、マナー無視、罵倒上等の「硬派」を看板に掲げる場は、異質な人間を排斥する方向で罵倒を撒き散らしているだけで、結局は気の合うごく少数と馴れ合う方向に向かいやすい。極道だのアウトローだのと冠した場が、いかに緊張感のない馴れ合いに終始する傾向があるか、食傷している人も少なくないだろう。CWSのユーザーが求めているのは、そういうものではないと思う。


次に経済の面。あけすけに言うと、本棚から本が買われれば、運営にアフィリエイト収入が入る。ただし、これを私たちのポケットマネーにするつもりはないし、サイトの維持費に充てるつもりもない。サーバー代もAIの利用料も、CWSにかかる費用は今後も全額、私が負担する。そこは私の負担でよい。では収入をどこへ回すのか。答えは再投資だ。具体的には、出版事業をより手広く展開する原資にしたい。コミュニティから生まれたお金を、コミュニティのために使う、という一本の流れである。


詩や文学で飯が食える時代ではない。それでも、プラットフォームとして経済が回る仕掛けは、いろいろと試していきたい。利用料の類は、これまでも今後も、どんな形であれ投稿者に求めるつもりはない。感謝してほしいとも思わない。その代わり、運営者として十二分に偉そうにさせてもらっていると感じている。


その偉そうついでに、ひとつお願いをさせて頂きたい。本棚を作り、それを各自で宣伝してもらえれば、この小さな経済はまわりはじめる。サイトの活動がさらに広がっていくよう、力を貸してもらえるとありがたい。

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批評・論考

愛と幻想

一本の斧の煌きに僕は生きている
世界の夜のその星の輝きを弾きながら
すうっと冷たく澄んだ刃のために

生きている

僕は束の中の一本
一本の斧を構築するがための
何本もの結束の
儚いたった一本

ただそれだけであろう

その儚さの塵たちも
そっと身を寄り添うならば
やがては何にも折れなくなると

そう知っているのだから



斧があった
柄が何本もの魂の構築の
そんな斧があった

そこにこそ人間時代の愛と幻想のその高貴は存在しうる

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 2

歩道橋

こんなに揺れただろうか
足に感じるのは
歩道橋の階段の揺れ
 
あの頃は
駆けだして昇ったから
感じなかったのかもしれない
 
今は
急ぐ必要もない
ゆっくりと階段を昇る
 
こんなに近かっただろうか
眼下を走る車が
大きく見える
 
あの頃は
遠くに見える信号から
どの車が先にこの下を通るのか
友達と賭けをしていた
 
道路を渡るために
今は
止まることはない
 
こんなに手すりは低かっただろうか
階段の滑り止めのゴムが
欠けている
 
降りきって振り返る
ただ
剥がれた水色が
灰色になっていた
 

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◽️プチストーリー【おじいちゃんの誕生日】(作品No_02)

僕のスマートウォッチがもうじき明日を刻もうとしている
家に着く頃には、もう明日だ
最近、最終電車で帰ること多いなぁ
今日仕事行ったら、今日帰りたいよ
明日に帰るなんて、軽いタイムトラベルだよ
ふぅ
彼はマンションへと帰る途中だった

タッタッッタ
歩く自分の足音が聞こえる

足音にもう1つ音が重なった
ブルブルブルルルルル
うん!?
なんかスマートウォッチの振動がいきなりし出た
うん?なんか設定してたっけ?こんな時間に
暗い道で立ち止まり、

画面を見ると

『おじいちゃんの誕生日』

と表示されていた。僕の名前だ。
だけど、ちょっと待った!そりゃ仕事疲れしてるけど鏡を見ても流石におじいちゃんは切ない。
、、、あー、そっか。明日は僕の誕生日だったんだ。
それすらも頭から追い出されていた。
僕は家に辿り着く前の道で明日になり、誕生日を迎えたのか、、、周りには誰も見えない
にしても、僕は自分の誕生日出るように設定してたかな???しかも、おじいちゃん、、、
、、、、帰ろ

と歩き出そうとした矢先

ブルルルルルブルルルルル
またスマートウォッチが振動し僕が歩くのを引き止めた

え?自分の誕生日を2回通知設定?もしかして。どんだけ自分が好きなのよ。え?
と、画面をみたら、なんだかさっきと違い文字が流れてる。

『おじいちゃん、言い忘れたことあった。若い時から無理したの良くなかったって言ってたよ。おじいちゃん大好き。お小遣い貯めて、お母さんに頼んでタイムメッセージを送ってもらいました。長生きしてね。お外で遊べたらいいな』

なんだこれ??女の子の声だ。聞いたことない声。でも、なんかほっておけない声。後半少し声が滲んでいたような。

ピー
タイムメッセージは以上です。返信もお受けできるメニューを注文されてます。この後のブザー音の後に、スマートウォッチに話しかけて下さい。

僕の理解のスピードなんてお構いなしに、いきなりクイズ番組の回答席に座り、参加させられてる気分。え?まってまってまって

ピーーーーーー

「え、えーと、こちら、おじいちゃんでないおじいちゃんです。誕生日祝ってくれてありがとう。祝ってもらったの何年振りだろう。僕の健康を心配してくれてありがとう。そーだな、女の子を安心させたいな、えーと、」

「とりあえず、明日仕事行ったら、明日帰るからね。そこから始めるね。」

ピーーーーーー

(了)

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ポテチが一番おいしかったとき



父ちゃんが子どものころはな
じゃがいもばかり食べてたんや
なぜならそれしかなかったんや

母さんがあんたを産んだとき
わたしは二十歳やったわ
お見合い結婚てわかる?

仕事を終えさっぱりして
おでんをつまみにしながら
熱燗で晩酌を嗜む父のそばでぼくは
ソファに寝転がっていた
母は台所で夕飯を作っていた
ぼくはポテチを食べていた
なぜならおいしかったから

誰もが貧しかった頃の食料事情
幼いながらに感じ取ってはいた
どこか遠いお話のようだった
なぜならなにも知らなかったから
空襲の中で生まれた子であったこと
まだ戦争のせの字も知らなかった

ぼくはポテチを食べていた
笑いながら食べていた
他人事のように聞いていた
今は生きてはいない人の言葉を

あれからすっかり大きくなった
いろいろなおやつを食べてきた

ポテトチップスは買わなくなった
自分で作ることを知ったから

食べたいならじゃがいもをスライス
そして
フライパンに油をひき焼き上げる

香ばしい匂いを放つ
焦げ目が付けば止め
軽く塩をふりかける
熱々をつまみにする
贅沢を味わえるから

山のおじさんは月のカールを漕ぎ夜の海へ消えた
かっぱのえびせんはいつしか種類が増え止まらなくなった
黒い雷もいつのまにか垢抜け轟かなくなった
なぜか突然きのこたけのこが和解を果たした
ぼくは台所でじゃがいもを切っていた

価格が少しづつ上がっていた
ぼくは驚かなかった
ぼくはぼくのポテチを食べている



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ゆれて



 さざなみの揺れるてのみぢか
 けだかき雲の なかったことに
 ゆめ ゆま ゆめ ゆみ 
 ゆるし

 ゆるされるもの
 ゆるされざる人

 ゆれる ゆらぐ けしきに


  海を揺れていた、頃
  遥かな、波の。
  少し 揺蕩う、青の
  揺らいでいるのは
  ミトコンドリアの(幻視)
  貝殻や藻屑と ともに
  深く、海の底まで


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ユーカリのキ


一気呵成に言い聞かせ
木々の隙間から覗く輝かしき世界
双丘と大海原と大木がせめぎ合う

舌先で味わう塩味と
法華経の理が
鯨の背に乗って吹き晒す

例えとしての虹が
滝のように流れ落ちれば
もうもう縁もたけなわ

彫り込まれた世界で
飲み込めない玩具
網に掛かるは雁字搦め

輝いた一瞬
残るは一生

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かさぶた


ずいぶん長いことご無沙汰しておりました
その後お変わりございませんか


いつぞやは大量のクスリを飲んでしまい
あなたやたくさんの方々に
大変な心配とご迷惑をお掛けしてしまいました


人生はそうカンタンに タンジュンには
終わってはくれないものですね
なんてね
いやはやこれは ブラックジョークと
受けとめてやっていただければ幸いです



生まれてこのかたずっと 
家族というものについて考えています
家族団らんとか あたたかい家庭とか
そういったものが本当に存在しているのか
あんなのはただ 物語の中だけの
絵空事でしかないのではないかと
私には思われて仕方がないのです
考えがひねくれすぎかもしれませんが
いまだ 考えてしまうのです



いったいどういう育ち方をすれば
あんなふうになる なってしまうものなのでしょう
何を見て聞いて触れて感じたれば 
あんないい加減な大人子供が出来上がるのでしょうか
絶対にあんな大人にはなるつもりはないしなりたくもないですが
自分もやがてはそうなってしまうのでしょうか
いやもうすでにそうなってしまっているのでしょうか



できることならこの躰を流れる血液まるごと全部取り出して
洗濯機でジャバジャバ洗い流してしまいたいですよ
あんな人間の血がこの躰の隅のすみまで走っているなんて
考えただけで そら恐ろしくてたまらないのです
夜な夜な 髪の毛を引きずり回される夢を
ぶん殴られ蹴り飛ばされる夢を
家中の物というものを投げつけ破壊
あの壊れる音を
何度も何度も繰り返し 再生してしまうのです
いずれ間違いなく つま先から腐敗していく
そんなどうしようもないクズの血が流れている私だから
きっとみんな その匂いを嗅ぎ分けて
誰も寄り付こうとしないのではないか
そんな考えなくていいことまで考えてしまうから
ホントまったくもってやれやれなのです



いつだって自分の気持ちはどこかへ置いてけぼりのままで
しょうがないしょうがない
だってこれが私だもの
しょうがないよ しょうながい
そんなふうに今までずっと 
言い聞かせ続けて生きてきましたが



だけど本当はもうとっくに 
うすうすと感づいてもいるのです



思い出したくないのに思い出してしまうから辛いのだと
ずっとそんなふうに思ってきたけれど
本当はそうじゃなくて  そんなことなんかじゃなくって
そいつによって沸々と湧き上がる感情であったり
心が拠り所を失ってしまったり
どこへもぶつける宛もなく
結局は自分に向けるしかないやり場のなさだったり
眠ることさえ怖くなってしまったり
思い出すことによって何度も何度も痛めつけられていたんだということ
かさぶたをひっぺがえすのはなにも
てめぇの爪ばかりじゃ 決してないんだということ


つらい記憶がフラッシュバックしてしまうのは
もうしょうがないことなのです
思い出すつもりじゃなくても出てきてしまう
そんなの当たり前のことだったのです
たとえて云うなら 子供のころに習った掛け算の九九
繰り返し繰り返し復唱しては覚えていった
要するにあれと同じようなことなのです
経験してしまったんだもの
強く強く刻みこまれてしまったんだもの
忘れろと云われることのほうが無理な相談というものなのです




殴られた記憶が いまの私を殴りたおす
蹴り上げられた記憶が いまの私を蹴り散らす
酷い言葉が いまの私の存在を脅かす



もうええでしょ もう十分でしょ
縛り付けてるその重い足かせ 
そろそろ外してもいい頃よ



あの頃の痛みを思い出してつらいんじゃない
記憶の刃先が斬りつけるのは
まぎれもなく いま現在のわたし



まったく何かの罰かなにかのように
自分を痛めつけることに熱中していたのです
しあわせになることは罪なことだと
どこかでそう思い込もうとしていた
いや そう自分に押し付けようとしていた


つまりは 今度は私自身が
わたし自身を弄り倒していじめていたのです




しあわせになるのに 罪も罰も
遠慮も会釈もいらないのにさ




そんなふうに思ってしまう思考のくせみたいなものが
知ってか知らずか いつの間にかついてしまったんだって
最近になって ほんのちょっぴり
解って 解りかけてきた気がして




ずっと自分が大キライでした
愛を求めて伸ばした手は撥ね付けられ
歩みよろうとすれば近寄るなとばかりに壁をつくられて
何をしても 何もしなくてもいつも余計者扱いで
どこにも拠り所のない自分が
大キライでした
もてあましてばかりいました
消えてなくなってしまえばいいと
ずっとそう思いながら生きてきました






だけど今日宣言します
私はわたしを引き受ける覚悟を
どんな情けない自分も
決して見放さない覚悟を


ここに決めました、と













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不倫

高ぶる私の香りに貴方の香りが
纏まり付いて来る
唇に伝わる野暮だけれど柔らかい感触
絡み合う舌だけが
落ちてゆく底知れぬ恋情の中で
現実への扉をまさぐっているかのように
相手の舌を押し戻しながら別れを告げる
貴方が帰った部屋の残り香が
私の知らない 知らなくて良い 彼の顔を隠す様に
火照った私の心を抱きしめる

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necrographaim


2020年8月、レバノン首都ベイルートの港湾地区にて爆発事故が発生した。過去に貨物船から押収され、処分が出来ないまま港の倉庫に放置され続けていた大量の硝酸アンモニウムの発火が原因とされる。爆発のエネルギーは凄まじく、非核兵器によるものとしては史上最大級であり、その猛烈な衝撃波は爆心地から数百キロ離れたキプロス島でも観測されるほどだった。死傷者七千名以上、住居を失った者は三十万人にも及び、湾岸地区は文字通り瓦礫の山と化し、爆心地にはとてつもなく巨大なクレーターが穿たれた。
付近にあった穀物倉庫もまた、爆発により著しく損壊した。貯蔵されていた大量の穀物が崩れた壁のあいだから溢れ、港湾区域一帯に散乱した。やがてそれらは発酵し、腐敗し、その臭いに釣られてか、爆心地付近にはおびただしい数の鳥の大群が棲みつくようになったのだという。

私はその映像をたまたまテレビで目にしたのだった。
崩壊した倉庫から鉄骨や鉄線が骨や臓器のように突き出し、その隙間からこぼれだした穀物が内臓や体液のように外側に溢れていた。まるで巨大なしかばねがいくつも転がっているかのような廃墟群を、たくさんの鳥たちが覆い、地表をおぞましい数の黒点が蠢きながら埋め尽くす。互い違いに囀りあいながら、重なりあいながら、はぐれまぐわい、まるでひとつの意思を共有するようにうねる集合体!



小学校の頃、クラスに普通ではない男の子がいた。といっても、何がどう普通でないのか、は誰も知らなかった。知らされていなかった。会話が出来ず、コミュニケーションを図ることが難しかったが、それ以外は、特段暴れたりすることもない、とにかく物静かな印象の子だった。そう記憶している。
一部の男子はその子を揶揄ったり、虐めることに執心していた。謗るだけでなく、殴ったり蹴ったりする者もいた。しかし彼は、そんな仕打ちを受けてもやや顔を顰める程度で、呻き声ひとつあげず、どんな時でもその視線はいつもぼーっと宙を泳いでいた。その反応が面白いのか、(あるいは癪に障るのか、)男子たちの蛮行はしだいにエスカレートしていった。

ある日の数学の授業中のことだった。若い女教師が黒板に向かってチョークで数式を書いている最中、数人の男子たちが目配せしあったかと思うと、彼の真後ろの席の男子が彼の膝裏を思い切り蹴り上げた。べちっと肉のぶつかる音がして、クラスメイトたちはちらとそちらを一瞥するも、誰も声を上げず、上げられず、大半は気まずそうに彼から目を逸らした。しかし逸さなかった者もいた。彼が、痙攣でも起こしているかのようにぷるぷると全身を震わせていたからだ。彼はかっと目を見開き、勢いよく立ち上がったかと思うと、突如、学校中に轟くほどの凄まじい声量で絶叫しはじめた。金切り声とも唸り声ともつかない音だった。みんな一斉に彼を見やった。が、あまりに突然のことだったので、生徒はおろか、教師ですら戦慄したように固まっていた。怒りとも悲しみともつかない表情で叫び続ける彼。しかし数瞬ののち、クラスのあちこちからざわめき、嫌悪の声、嘲笑が起こりはじめ、ハッとした顔で我に返った教師が、しばらく自習時間にします、と告げると、なおも絶叫するその子の手を引いて教室から出て行ってしまった。ほんの、数瞬。

しばらくして落ち着いた彼はすぐにまた元の物静かな子に戻った。
それから叫ぶ彼を見ることは二度となかった。
きっとあのとき飛び散ってしまったのだ。



幼い頃から重度の吃音症だった。だから、他人と会話することが少し苦手だった。言葉を聞き取ってもらえないことより、言葉を聞き取れなかったということを、気まずそうに謝られるのがなにより辛かった。感情を表に出すことも苦手だった。感情が乗れば乗るほど、言葉がつっかえ、震え、崩れていく。まるで激しい流れを何かに堰き止められているかのように、行き場を無くした言葉は、逆流し、内臓の奥でうねりをあげる。それが苦しくて、どうしようもないので、なるべく感情と遠いところにいようとつとめた。自衛のための所作。

幼い頃に父を亡くし、女手ひとつで育ててくれた母が再婚相手を連れてきた時も、その男性となかなかうまく喋ることができなかった。どうやらこれから父となるらしい男性に対し、どういう感情を、どういう言葉を向ければ良いのか分からず、なんとか口を開くが、喉には何かつよく透明な膜が張っていて、そこに引っかかった言葉が弾き返されてしまう。いつも身体の奥の方で、放たれなかった熱が、蛇のようにわだかまるのを感じていた。

継父の実家に連れて行かれたときも、やはり上手に喋ることができず、俯いたままじっと母の背に隠れていた。挨拶をしなさいと言われ、いくつかの定型を口に出してみるも、うまく言葉を紡げず、出来ないことを意識すると余計に呂律が回らず、自分がどこに立って何を話しているのかだんだん分からなくなる。そっと継父とその母の顔を窺うと、彼らは私にとって見慣れた表情を浮かべていた。怒っているのか悲しんでいるのか分からない、ばつの悪そうな、宙ぶらりんの顔。それからは頑なに口を閉ざした。いっそ喋らない方が、いっそ喋れない方が、誰にとっても都合が良いのだ。

継父の頼みで、結局その日は泊まっていくことになった。母と二人、廊下の突き当たりにある和室をあてがわれた。夜更け、ふと尿意を感じて目を覚まし、母を起こさぬようにそっと部屋を抜けトイレに向かうと、廊下の途中にあるダイニングから、かすかな光と声が漏れていた。こっそり聞き耳を立てると、どうやら継父とその母が、自分たちのことについて小声で話しているようだった。でもねあの子、なんて言ってるのか全然聞き取れないし、何考えてるのか分かんない顔してて、こう言うとあれだけどね、気味が悪いのよ、なによりあの腕の痕…と不快そうに囁く継父の母。



掻いても、裂いても、
もっと深く、
皮膚の、真皮の内側に蠢くもの。
たくさんの粒々がうねり、ぶつかり、溶融しながら、どろどろと粘性をたもち、渦を巻いている。

私は何も言わなかった。そのときも、それからも、何も言わず、何も言えず、口を開けば吃音が、まるでかすれた喘鳴のように漏れ、言いたかった、言葉よりずっと手前の音だけが溢れ、だから何も言わなかった。そして、だから誰も、何も聞いてはこなかった。

蓋を閉じたミキサーのように、内側でひたむきに攪拌されていく、臓腑や体液、言葉、あるいはもっとおぞましいものたちの溶液で、身体が浮腫のように膨れ上がっていく。ぬるい膜の中で、蠢く澱、発酵し、腐敗し、それでもなお形取る、死蛹、

しかし、
あの港の映像を見た時、気づいたのだ、
こうして、たたえるうちに、
たとえるうちに、
とうに溢れていたのだ、

地表を汚すつぶつぶ、に、飢えた鳥が群れる、剥き出しの骨の、隙間から、饐えた臭いの穀物をこぼし、放棄された、瓦礫まみれの地平に、仰向けに転がって、ついばまれる、


見上げる、実をあげる、

空、





今日も雨が降っていた。昨日も、おそらく明日も。この街には年中雨が降るから、人々は傘を差さない。むしろ、雨に濡れることこそが彼らのよろこびであった。この街特有の、激しく、そしてひどく冷たい雨を彼らは慈雨と呼んだ。毎日、彼らは欠かさず雨に祈る。日が昇ると外に出て、一様に濡れ、笑い、手を繋ぎ、輪を作りながら歌い、踊り、日が暮れるまでゆっくりと回る。その所作そのものが、雨乞いの儀式のようでもあった。

この街の外側からやってきた僕は、雨に濡れない。何故か、雨粒は僕をすり抜けていってしまう。自分の体を水が通り抜けていくという感覚は不思議なものだったが、なにせ毎日雨が降るのだ、この街で暮らすうちにその感覚にすっかり慣れてしまった。雨に濡れないものだから、次第に外に出るのが億劫になって、やがて僕は部屋に篭るようになった。日が昇るたび、窓の外から雨音を掻き消すほどの楽しそうな歌や笑い声が聞こえてくるのを、ただ耳を塞いで過ごした。

この街では、人々は身体の中に文字を孕むという。それを孕んだ者は次第に腹が異常に膨れていき、やがて肉が弾けて内臓が飛び出す。あふれた内臓の表面には文字のような腫瘍が走っており、そこに刻まれた言葉から、彼らは自らの起源や役回りを読解する。僕にはいまいちぴんと来なかったが、人々はきまって明け方、その文字を指でなぞり、日の出と共に家を出て、出会った人と、挨拶をするように互いに刻まれた言葉を反唱し、それから手を繋ぎ、鈍色の雨の中、ひたすら輪になって踊った。踊り続けた。腹からこぼれ出た内臓をひきずりながら。

街の外側から来たという僕は、しかしそれ以前の記憶がない。なぜ僕がこの雨降りの街にやってきたのか、あるいはなぜ連れてこられたのか。何も分からない。だからこそ僕は、この肉の奥に隠された言葉を読みたかった。確かめたかった。どこから来て、どこへ行くのか。しかし、僕の腹は一向に膨れる兆しを見せず、雨に濡れることすらできず、僕はこの街で一人、気が遠くなるほどの時間を半ば幽霊のように過ごしていた。

やがて僕は、短い物語を書くことに没頭するようになった。ひきこもっているあいだ、退屈凌ぎとしてなんとはなしに始めたものだったが、どこかで、ものがたる、という行為になにか強く惹きつけられるような気がした。ひとつのセンテンスを書きあげるたび、僕は外からの雨音や、歌、声すら届かないほどの深みへ沈んでいった。文字と、文字と、文字が、手を繋ぎ、くるくると回転し、ひとつの連なりをつくる。まるで奔流のような、ささやかで激しい儀式。しかし、逃避する僕を嘲笑うように街に降る雨はしだいに激しくなっていった。空を覆う雨雲は徐々に厚みを増し、昼はどんどん暗くなっていく。

呼応するように、人々の歓喜の舞もいっそう激しさを増していった。息を荒げ、半ば叫んでいるかのような声で歌い、手と手を硬く握りしめ、髪を振り乱しながら踊るさまは、祈りというよりもむしろ怒りに見えた。そのうち、黒雲に覆われた空の向こうから軋むような音が聞こえてくるようになった。激しい雨音、地響きのような叫び、彼らはひたすらに身体をうねらせ、そのたびに、繋がった内臓がびちゃびちゃと地面に打ち付けられる、



夢を見る。
たくさんの腕が重なり、揺れ、花のように蠢いている。誰のものとも知れない腕の群れは、それぞれが異なった腕と結びつき、絡み合い、手を重ねている。(まるで祈っているみたいに?)それらの指は奇妙にくねり、宙に文字を描きながら何かを示そうとしているようにも見えた。誰に読まれることもなく。

一瞬とも永遠とも思えるような時間、僕はずっと腕たちの動きを眺めていた。そこに何かの意図を見出そうとした。やがて僕はその中に淡く光る腕を見つける。ほっそりとしていて青白く、若い女性のか細い腕のようにも、老人の痩せこけた腕のようにも見える。僕はその腕をそっと持ち上げ、両手で手を包み込んで、他の腕たちと同じように祈りのポーズを組む。そして祈ろうとする。しかし出来なかった。分からなかった。いったい僕は何に祈るのだろう。いったいこの腕たちは何に祈っているのだろう。(ここに脳はないのに?)

包み込んだ手の中で、指が蠢き、
僕の掌に文字を書いている────



────しかし何を、と、そこで僕は筆を止めた。いつも、結末を描こうとすると決まって手が止まってしまうのだった。終わりなど誰も知らないのに、どうやって描くというのだろう。途中まで書いた紙をぐしゃぐしゃに丸め、屑箱に投げ入れようとしたが、とっくに箱は握りつぶされた紙で溢れていた。部屋には物語となるはずだったくず紙が散乱していた。

そのとき、陶器が割れたような音が聞こえたかと思うと、すさまじい轟音と共に部屋の天井が弾けるように吹き飛んだ。見上げると、空を突き破り、巨大な腕が天から伸びてきているのが見えた。先ほど紙に書いたものと同じ、若い女性のものにも、老いた老人のそれのようにも見える細い腕。腕がゆっくりと指を揺らしながら、手招きするように空を掻き回すと、ぐるぐると渦を撒くように厚い雲に穴が空き、そこから蒼穹と太陽が顔を覗かせた。眩むような光が一筋の柱となって街を貫き、雨だまりに反射して街全体がきらきらと発光している。まるであたり一面に星を散りばめたようだった。

腕はなおも手招きのような、攪拌のような動作を続ける。指が艶かしくしなり、少しずつ腕の動きは激しくなっていく。だんだんと地表から強い風が吹き上がり、葉や、石や、木片などが空に向かって巻き上げられていく。人々は目を細め、いつものように手を取り合って、輪を描き、踊り始める。激しさを増していく風。腕は大仰な手振りで空を掻き回す。怒声をあげているかのような彼らの歌が、叩きつけるような足踏みが、地面を小刻みに揺らしている。猛烈な暴風が、大樹を根こそぎむしり取り、家々を引き裂くように抉り取り、雨水を竜巻のように巻き取り吸い込んでいく。人々は固く手を繋ぎながら、踊りながら、歌いながら、一斉に地面から足を離し、腕が招く空へ向かって飛び込んだ。まるでそれが、いにしえからのしきたりであり、ものがたるための役まわりであるかのように。腹部からはみ出した内臓をプロペラのように躍動させ、いくつもの人々の輪っかが、旋回しながら、臓腑に吊られるようにして空の中に吸い込まれていく。役割を知らない僕だけが愕然とその光景を見つめていた。彼らは雨の中で歓喜に踊りながら、雨ではなく、晴れを乞うていたのだ。

僕の部屋のくしゃくしゃの紙屑が暴風に煽られ青空へと巻き上げられていく。未完の物語たちが、それでも祈りであった物語たちが、その一編一編が、塵や瓦礫などと共に眩むような陽光の中に溶けていく。風はさらに強くなる。それなのに、なぜか僕の身体だけはまったく風を受けていない。風が触れていない。この凄まじい風は、僕をすり抜けながら、この街から僕以外のあらゆるものを吸い上げようとしていた。

人々の肉の輪が次々に昇天していくなか、僕はポケットの中の、ずっと執筆に使ってきた万年筆を握り締めていた。遂げられないのならいっそ、と、僕はそれを逆手に持ち、少し躊躇してから、思い切り自分の腹に向かって突き刺した。そのまま捩じ込み、引きちぎるように力一杯上下に動かす。上手く開かなかったので何度も何度も突き刺し、捻り、捻る。血が吹き出したが不思議と痛みはなく、しかしとにかく熱い。熱を堪えながら、空けた穴に強引に両手を突っ込み、無理やり押し開くと、ついに僕のお腹はぶちぶちと音を立てて弾け、そこからどす黒い血飛沫が上がった。僕は意を決して、開かれた自分の腹の中を覗く。そこには骨と窪んだ肉の器があるだけで、なにひとつ中身が、臓器が詰まっていなかった。ただ、なにかの存在がさっきまでそこにおり、それが今まさに熱い血の飛沫と共に腹から吹き出して空に吸い込まれていったような、なんとなくそんな感覚があった。僕は呆然としながら、まだ熱の残る腹の中にそっと手を入れる。腹腔の上の方の壁に何かの文字が刻まれているような気がした。しかし何もわからない。いや、確かに何かの形が彫ってあるのだが、それを文字と認識できない。

いよいよ街の全てがほどかれ、見えるもの、見えないもの、そのさかいで位相をえがき、ものがたる、隔たりのすべてが、輪郭をなくし、空の先へ消えていく。巨大な腕に、汲み上げられていったものたちの、悲鳴とも歓声ともつかぬ叫びが、いくつも響き、よろこびの歌の旋律となって和音する。雲ひとつない快晴のした、僕だけが、何にも招かれず、何も宿さず、干涸びた身体を持てあましたまま、澱みなく澄んだ空と、まばゆい逆光の中にいつまでも立ち尽くしていた。



あのとき、
埋められたまま、
掘りおこすことのなかった、
できなかった、
すくいの、井戸より、
どうかすくうように、すくうように、
あなたがたはよろこびをもって、
祈るようにくむ、祈るようにくむ、


‎מים (水を!)





ち、ちち、ちちち、と、とりが、みとり、み、みずに、すみ、みすみの、すみの、すぼみの、まの、まにまに、まくの、まくまの、まなこの、みと、の、まわり、に、みに、みまわり、に、つまり、につまる、あつまる、まる、まって、つまって、は、はまる、まるは、はて、てん、まつ、は、はは、はてては、まち、まる、ち、ちる、ちるちる、ちち、ちる、ちちる、ち、あう、ちりあう、ああ、ふれた、あふれた、ありふれた、なかみの、たかみの、かみの、みなの、みなのみの、みのまわりの、みなみの、のに、て、にえ、てん、かく、てんかく、かく、てんをかく、えんを、かく、えんかく、をかく、えん、を、かんする、を、えんかん、する、えんか、する、そる、そって、そして、そうして、そう、うつ、うつろう、うそを、つろう、うお、おう、しし、うおうし、うも、もう、うもう、とり、おとり、の、とおり、とりを、とりちがえ、とが、たがい、ちがい、とだえ、たがった、いい、たかった、いとが、ちかい、ちを、かち、うがち、ちちかえ、ちを、かえ、ち、にて、ちににて、ちにく、くちに、こぼれ、くち、ここに、これ、あれ、あふれ、ああ、ふれ、あき、ふれ、きにふれ、きぶれ、ぶれ、あめ、ふれ、あふれ、ふね、ゆれ、ゆうれい、ゆられ、うれい、ゆる、ふゆ、ふゆう、し、ふうは、し、しは、はう、はうる、はゆ、はる、は、はは、ははは、な、はな、はなつ、はつの、なつ、なえぐ、なえ、なぐ、つなぐ、えつなく、えげつなく、なく、なくなく、いな、いななく、いなくなく、ない、くえ、ない、くえず、えずく、すを、すく、えを、すくえず、うずく、えん、かく、えんをかく、えんかくを、えがく、えが、えがき、えんを、かんし、えんかん、かく、しかく、かくし、かくして、かん、かく、は、かくう、か、くうか、うか、か、かく、くる、くるう、ね、うねり、ねり、うね、うねり、うねる、ねる、うねる、うで、


 

 100

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 3

 3

お子様よ! 

お子様よ!
キミは毎日ステキに元気いっぱい
キミのエナジーはますます宇宙を膨張させている
手にとるようにわかる健やかなキミの成長
お日様の降り注ぐ部屋で駆けまわるキミに注がれるママの慈愛の眼差し
それはまったく祝福すべき黄金の幼年時代
だがキミの優雅な日常がボクには悩ましい
お子様よ!キミは真上二階のお子様でボクは真下一階のオジサンだ
キミのギャロップはドラム・ソロ
キミのジャンプは頭の上で破裂の爆弾だ
弟とそれに時々ママも交えてキミたちったら、部屋の中
毎日トランポリン、来る日もサーカス
年中サッカー、いつも無邪気な運動会
おお、お子様よ!お子様の母上よ!
ボクの頭脳はヒート・アイランド、臨界、爆発寸前だ
お子様よ!キミはボクから静謐な日々を奪う
お子様よ!キミはボクから閑雅な生活を取り上げる
廊下ですれ違うママと一緒のキミはとても可愛いお坊っちゃん
お子様よ!二階の天使で王子で至宝のキミは
一階この部屋では悪魔で魔王でタイラント
ボクの頭脳をブンブンさせる電気ドリル
ハリケーン叩き続けるキミのティンパニー、バスドラム
オジサンのココロは炸裂して飛んで行っちゃうぞ
けれど家賃滞納中の失業者にはオオヤさんも味方せぬ
だからオジサンは天井に向かってそおっと叫ぶ
シズカニシヤガレ!コノガキ!
キミの人生は今はじまったばかり
さあ、お子様よ!ひろびろとした地球の広場で遊べ!
そして無産のオジサンにも安眠を与える大きな人間になってくれたまえ
でも怪しいオジサンがうろついているからかな
この世紀
公園にはもう誰もいない

 0

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 1

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ぼくはセカイを心中させたい

 ぼくのお家は救われたいこと座です。量産されたスーサイド&スーパーマーケット。みなさんと購入する、ぼくを贈る希死念慮ゼリー。くにゅくにゅのあひるが天井で溶けてゆく。伽藍堂の団欒にキザな言葉で書き殴る。



 いぢめだっていえない曲の数数を破壊するために生まれてキた、ぼくの身体ハ中学生。コンパクトディスクの裏側に指紋をつけて、カッターナイフで音楽を切り刻む。お財布から取りだした校歌で、ミネラルウォーターを購入し、髪の毛のいっぽんいっぽんまで、みずに浸して感受性と閉じこもる。



 薔薇肉のアルバイトしているやつって、おまえかって、ぼくに聴いてきたラブレター。ギターの隅に火をつけて、ハートでお願い燃やしてやるよ。



 罪悪感・罪悪感・罪悪感、コロコロでしごかれた、ぼくの青春。バイブレーターでさざめく森が、とてもうる星やつらだぜ。



 ライオンのフリしてやってきた蝉の抜け殻に恋をする。賜物みたいな恋がしたい。くにゅくにゅのあひるの溶けた玄関の時計に右肩を押しつけて、ぼくをみつめるきみはセカイだ。



 サア、扉を開けてください。ぼくのお家は救われたいこと座です。きみを残して,「きみ」を「きみたち」に変えてやるよ!



 はっと息をした瞬間、きみの泪が、ぼくに押し寄せてくる(ぼくは知った!),罪悪感・罪悪感・罪悪感、そんなものはどこにもない(知りたいだけ、ぼくは知った!)!



 ただし、ただしくやってやる(滴ることで、死を知ること、雨がみんな、教えてくれた!)!




 知りたいだけ、ぼくは知った!

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一滴の醤油から始まる世界




 君は死んだ瞬間に、
全69巻のコミックスとなって、世界中に飛び散った。
古本屋、探し回って集めた60冊。
残り9冊で君をもう一度、生き返らせることができる。

私は君大学、君学部、君研修室の生徒だったから、
君の事なら何でも知ってる。
君の奥歯にはスイッチがあって、
噛みしめるたびに、新しい星が夜空に一つ生まれる。
君の奥歯が削れて無くなったのと引き換えに、今夜も満点の星空。

人工衛星が私の上に落下して来た瞬間、
体の半分がメカになったから、
はずむ心をアンインストールして、
今日の気だるさ、ダウンロードする。

この世界のバグを取り除く新法案で、
私は次のアップデートで消えることになった。
私の記憶を失った君の記憶の中には、
空白が生まれて、そこからは、
セブンスターの副流煙の香りがする。

『残り1冊で君を復活させられるのに』って所で、
私は政府に処分されて、
君と私は、銀河鉄道の線路に生まれ変わる。

それからはずっと、君と手を繋いでるみたいで嬉しい。
 
 「21年間も、遅刻して、ごめん」
 
遅れてきた恐怖の大王が、
謝罪しながら、世界を終わらせる。
演技でイったフリしてる、不思議の国のアリス。
スワイプしまくって、世界を吹っ飛ばす。
 
眼球の受信料、払い忘れて、
視界全部に、
スクランブルが、かかってる。
味覚障害のミシュランは、
ドッグフードに五つ星を付ける。
 
テレパシー使える、温泉芸者が、
宛先不明の郵便物を、相手の脳に直接、宅配。
心がまだ、君を好きなまま、フリーズドライしてる。
 
本当は、
シャボン玉になるはずだった私は、
誰かに触れられただけで、
弾けて潰れる。
何もしないで、今日が終わった、
命の節約家。
季節を食べる、虫たちのせいで、四季が消滅した後の世界。
 
シザーハンズと、同じ博士に作られた、
全ての指が、ハサミの女の子。
全身を埋め尽くす、QRコード。
全てが怪しい、出会い系サイトに繋がる。
 
銀河鉄道で発生した痴漢事件。
外に逃げ出した加害者は、
たまたま横切った、隕石にしがみつく。
 
プーさんが、いつも上に着てる、
赤いシャツ脱ぐほどの熱帯夜。
 
肉眼で、見えるようになった永遠は、
空気コーヒーのような、水色をしていた。
 
捜査一課に配属された、天才バカボンの本官は、
繋がった眼球から、ビームを出して、
全ての雲を、クリーム色のピストルに変える。
 
人類全員が、
楽器に変身できるようになった世界で、
私は三絃しかない、
アコースティックギターに変わる。
 
 『絶滅した生き物を、一日一種類だけ復活させることができる能力』
今日は大雨。
生き返らせたプテラノドンの下、同じ速度で歩く雨宿り。
 
『今まで人生で、人とすれ違った回数がわかる能力』
「全く要らないなあ」と思っていたら、0って表示された君が現れる。
「ねぇ、君は今までどこにいたの?」
 
次の日起きたら私は、君の家のベランダになっていた。
洗濯物干してる君を、下から見上あげた瞬間、
人間の姿に戻って、君と一緒に落下していく。
 
何にもチャージしてないPiTaPaと衝突して、
中身が入れ替わる。
私の魂は、PiTaPaの中にチャージされて、
それを君が改札に当てた時、
世界の全てを狂わすバグが起こる。
 
酸素に触れる君は、
私が吐いた吐息を蝶々結びにして私に返す。
 
 
 ケチャップ工場の爆発のせいで、
全部が真っ赤に、染まったこの街。
 
生クリーム、宙に浮かび上がって、雲の居場所を奪った。
 
閻魔大王が、休日にしてるファッションは、
ジェラートピケ 地獄支店で買ったやつ。
 
自分自身を自動操縦に切り替えて、勝手に街を歩く。
次に意識を取り戻したのは、奈良の大仏の手の平の上。
 
排水溝に吸い込まれた、私の影。
取り返すために、下水管の中を旅してる。
 
両肩から常に、BB弾発射してる私は、
エアガンの生まれ変わり。
夜は、青空のサーバーダウン。
ルイージマンションクラスの事故物件。
明日の太陽は、私がジャンケンで出した手の形になってる。
 
巨大乾電池、背中に埋め込んでもらわないと、
動けない、私の恋人。
神様がサービス残業して作った、新しい生物。
革命失敗した、ナポレオンが、
夜逃げするために呼んだクロネコヤマト。
 
神様が飼ってるブルドックの、歯型が付いた惑星。
世界を圧縮したみたいな、口の中。
 
ジェットエンジン搭載してる、
仮死状態になった白雪姫は、
眠ったままこの世界を爆走する。
 
 人類は、『ざわざわ』、『もにゅもにゅ』のどちらかに分類されて、ざわざわに分類されたスナックのママは、名探偵コナンと同じ薬を飲んで、姿が子供になってしまい、しゃがれた声で聖歌隊に混じる。
 
私はもにゅもにゅに分類されて、
今日から輪郭が無くなるの事になって、
地べたに落ちていく目と鼻と口は、
地球を新しい輪郭に変える。
 
手に入れた水面の上を歩ける能力、初めて役に立ったのは、噴水の上に乗って、飛んでった風船キャッチした時。
だけど両手がUFOキャッチャーの手だから、掴んだ風船をすぐに手放してしまった。
 
青空は脱皮した地球の抜け殻。
鼻をぐるぐると回して、上に来たときに、くしゃみを放ったら、上空に吹っ飛んで、私の鼻水が飛んでる鳥を撃ち落とす。
 
水道水に生まれ変わるための100の方法を、
全てクリアーした時に気付いた事。
 
水はこの世で唯一、触る事の出来る愛。
 
 

未来の物が買える未来Amazonで買った地球儀は、人間の形をしていた。
 地球はこの先、人の形になるみたい。
 
千手観音が1000個の魔法のランプ同時にこすって、
1000体のランプの魔人をこの世に放った。
一体につき3つまでの願い事は、合計3000個叶えられる。
 その千手観音が、3000個目に願った事。
 「地球を、こぼした液体の形になるようにして下さい」
 
ヘクトパスカル操作できる能力で、
地球全体の湿度を上げて、ミストシャワー発生させる、演奏会。
 
逆再生コンチェルトの途中だったから、
 今まで流した涙全てが、 逆流するみたいに、目の中に戻って、
 膨らんだ涙腺の中には、 世界で一番小さな湖が出来る。 
 
指揮棒か片手に、次に演奏するのは
『神様が地球作る時に、 出した騒音のサウンドトラック』
 
雨じゃなくモルヒネを降らせて、
傷だらけの地球の痛みを和らげる。
 
ビタミンCをこぼした瞬間、地球はレモンの形に変わった。
 今から私の血液落として、人間の形になるか試してみる。 
タッチの差で甲子園に住む魔物の血液が地球にぶつかる。
 
地面にコケたら地球が、キャッチャーミットの形になって、
私はその中にキャッチされる。
 
 これは〝死んじまえ〟から始まるラブレター。
 
巨大化した初音ミクがツインテールで、
ぶっ壊したビル。
 
消防車完食したガッちゃんが出した、
赤色の大便。
 
世界中の地面がタイプライターに変わり、
道行く人が踏んで生まれた現代詩。
 
巨大なピンボールマシーンの中に入れられた地球。
バウンドするたびに、世界の終わりが訪れる。
 
炭酸まじりの血液。トランポリンで跳ねて爆死。
枕元に立って、君の顔に落とした涙。
 
トイザらスから、
一生出られなくなったマフィアは、
おもちゃのピストルで今日も殺し合い。
 
 機械じかけの私は、背中のゼンマイ巻いてもらわないと動けない。
 
体中にスイッチ。
来世、自販機に生まれ変わる準備が、もう始まってるみたい。
 
閻魔大王に抜かれた舌が、メルカリに出品されてたから買い戻す。
おかえり私の愛しいスプリットタン。
 
体の一部分だけ透明人間になる薬で、顔面が透明になった指名手配犯は、時効まで逃げ切れそう。
 
生まれ変わったら何になるか決める面接で、
神様と大喧嘩して気づいたらなってた、
テトラポット。
 
でもね、えっと、あのね、うん。
 
太陽に暮らしてた時期があるから、
全身が今も燃え続けているの。
 
天国の病院を脱走した天使は、
右の翼が取れそうになってる。
 
ほっぺたには凍りついた涙、へばりついたまま。
 
 
終電逃した神様が始発待つ間に作った、
新しい生き物は、エレキギター片手に、
世界一悲しい歌を歌う。

月の裏側にある街で、
マッチングアプリ起動したら、
ものすごい数の、リトルグリーンメン。
迎えに来るUFOは、アダムスキー型。


幽体離脱して、空から自分の後ろ姿を見たら、
あんな所に寝癖ついてる。

スキップ機能付きの走馬灯で、
飛ばしまくった学生時代の全部。

ペットボトルロケット
MADE IN NASAで、
たどり着いてた惑星は、幽霊になった地球。

エイプリルフールについたウソ全部、
現実に起こる世界で、
「ママは生きてる」って言ったら、
生き返ったママが、
後ろから私を抱きしめてくれた。

私はマバタキするたび、タイムスリップする。

江戸時代→安土桃山→原始時代。

ティラノサウルスの小さな両手に、握り潰されるような恋だった。

Wi-Fiに触れると、死ぬ体だから、もう地球では暮らせない。

コーヒーからのぼる煙に乗って移動する、
世界一脆弱な筋斗雲。

ティッシュペーパーで包み込んだ天国。

潔癖症の神様が、バイキンマンに恋をした。

ルシファーはキスする時の顔で、世界を滅ぼす。


この千里眼で見える、君の前世全部。

エジソン、ゴッホ、アインシュタイン。

君が一人ぼっちで作り出した宇宙。

透明人間の腐る音がした。
ベティ・ブルーの、えぐりとった眼球が、
巨大化して生まれた新しい惑星。
句読点を、心臓に付けられたような恋。

2000年ぶりに復活した、
アダムとイブが、
素っ裸のままデートする、
渋谷スクランブル交差点。
大統領暗殺計画の首謀者は、
世界一IQの高いエリマキトカゲ。

両乳がチェーンソーになった彼女とハグして、
胴体貫かれて死んでった、
彼の亡霊を、中に閉じ込めてるおにぎりは、
神様の眼球を、ナメた時の味。
ため息と一緒に抜けた魂は、
君の心臓の外側を、
餃子の皮のように包み込んだ。

未来から来た人は、血液に微炭酸が混ざってる。
海に触れた瞬間、
サイコメトリー能力が発動。
脳裏に広がる、
地球がまだ出来たばかりの映像。


電話ボックスから、
一生出られない呪いのせいで、
永遠に立ったまま頼む、Uber Eats。
「奇遇ね、私、
点字ブロックの上から永久に出れないの」

人生のエンドロールは、君の名前で溢れてんだ。


シンデレラの魔法がとける寸前、
PM11時59分59秒で、時を止める。
ニュースキャスターが無言のまま浮かべた笑顔。
今日は何の事件も、起こらなかった一日。



私は絶望高等学校を、首席で卒業出来るくらい、 昔から絶望していた。 人生開始数秒で上げた白旗。
ある日、地球と衝突して中身が入れ替わる。 そこから私の中身に地球が入って、 ずっと自転を繰り返してる。 眼球の裏側に書いてある、 人間の取り扱い説明書は全1ページ。 そこにはこの一文だけが書いてある。 『人間全員が地球依存症』
それ以来、私は止まったままの観覧車に暮らしてる。 頼んだウーバーイーツ。 背中に羽根生えた配達員が届けに来てこう言う。
「ご注文、『地獄の食べログ 3・5以上を取ってる店で、必ず出される、閻魔大王が抜いた舌のシチュー』で間違い無かったでしょうか?」
新しい恋人は未完成のまま終わった作品の続きを、 あの世に行って描かせる幽体離脱編集者。 手塚治虫の新作漫画の続きは、あの世にしか売っていない週刊少年ヘブンで連載している。
話したこと全てに、 テロップが出るようになった世界で、 君と口喧嘩した後、 たくさんの悪口が私の部屋の床に落ちてる。 起きたら姿が文庫本になっていた私の恋人。 ページを開いたら、 私への愛が何ページにもわたって、綴られていた。

神様が雇ったペンキ職人が、 色を塗り忘れたもう一つの地球に暮らす、 全てが白色の世界の中を生きる白色の私から送られて来たテレパシー。
「キティーちゃんが戦死して財産分与で大量のオーバーオールを相続したの」
私は顔面取り外してそこに、パトカーのサイレンを埋め込んだ。朝が来ても君と過ごした部屋、永遠と赤色に染めながら、テレパシーに返信する。
「今度、そっちの世界に引っ越そうと思う。荷物は一冊の文庫本だけ持って」
そっちに行って一番最初にやる事はもう決まってるの。
まだ白色しかない世界に、 一滴の醤油を垂らす。


アイスクライマーが、
ハンマーで吹っ飛ばした、
雪だるまの顔面が、
君の新しい顔面になる。

ピーターパンが考えた、成人式襲撃計画。

足音がマシンガンの乱射音になったから、
図書館司書の仕事は解雇。

妊娠10ヵ月のロボコンが運ばれた、
分娩室から聞こえる機械音。

人の輪郭を消す消しゴムのせいで、
顔のパーツが、宇宙空間を漂う。

背中についた巨大なゼンマイ、
巻いてくれないと動けない、
この屋敷のメイド達。

&の形に折り曲げられた体。

天国にイタズラ電話かける。
「ハロー、マザー・テレサ。
今日はどんなパンツ履いてるの?」

水中でエレキギター、
アンプに繋いで全ての魚たち、
感電死させる。

銀河を掃除するルンバが、
宇宙の中を、
さまよっているから、
今日も星一つない空。

デートの最中に、
「ごめんね。
私、もう死んでるの」って、
彼女は言い出して、
その体ごし、
透き通って見える向こう側では、
十字架も、ニンニクも、
平気なバンパイア。
人が、あんま来ないバス停に、
体をくくりつけられている。


朝の天気予報。
「今日は人間の死体が降ってくる日です」

外からは、人の体が、
地面に、叩きつけられてく音色。

明日の街は、臭そうだな。
明日の道路は、歩きにくそうだな。

コーヒーメーカーで作られた、
ウェディングドレス。
オレンジジュースの失敗作。
愛の形を、こわす液体。


「世界に、
切り取り線を入れるのが、
私の仕事なんだ」
マグニチュードの担当医。

モンスターズ・インクのマイクみたいに、
眼球が、
一つだけになったから、
今夜は、満月を、
イチゴ柄に変える。
ストロベリー・ムーン、
アーンド、
その下に、
チョコレートクリームパフェ。

「電卓の全てのボタンを、
同時に押してごらん。
それが、この世界を終わらせる、
スィッチになってる」

ケータイ電話の電源が、
勝手に落ちて、
そこから暗黒。

雨の中に混じって落ちてくる、
神様の涙。

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宮沢賢治の「歯ぎしりしつつ、行き来して」ってのも、七音、五音なんだよ@しろねこ社賞推薦文

推薦対象

さじ
by 尾崎ちょこれーと


 私は何か、もう自分の中で、詩、というものを書く、という事から、詩というものを、読む、という事に興味が全く移ってしまったように思う。
 今までのインターネット上での活動の経験もあって、詩を読む、閲みする、その過程で学ぶ、という事は貴重な体験だったのだと思う。


ネット詩、ありがとう。


 そうしてネット詩平等論に至ったわけだけれど、しかし、私の「好み」その今まで経てきた経験の過程を踏まえて、「ああ、今、この方の詩は凄く良くわかる」というのがある。

 比喩、圧倒的テキストボリューム、序破急、ナンセンス、フォマリスム、本歌取り、シュール・・・。
もう何でもありと言った世界の中で、ああ、この人の作品は何か自分の詩の把握が近しい、と、思うことがある。


そこで尾崎ちょこれーとさんなのですけれど、難しい事を書けば、この方の音律
日本語のリズムの把握の近さ、という点でわたしは勝手、近しい位置にいると思う。


はじめて尾崎ちょこれーとさんとコメントやりとりしたとき、彼女は確か
「毎朝、遺書を書くように詩を書いています」とあっけらかん、に言っていた。
言っている事と、このあっけらかん、の差に最初は戸惑ってしまった。


そうして、CWSの方に来てコメント付けをする中で、尾崎ちょこれーとさんの作品にふれて音律的に「こうこう、こういう事ですよね」とコメントしたのだけれど、何か、その返信コメントにも「あっけらかん」がしっかり入っているような気がした。

その「あっけらかん」に細かな分析をコメントするのも、無粋なような気がしてだから、もう「イイネ」でいいのじゃないかと思っている。


「音律は詩の命だろ!」


 誰かのいつかの怒号が聞こえてくるような気がするが、そうなのだ。音律は、詩の命だ。
 しかし、すべての方がそれに賛同されて、みんな、音律を意識した詩を書きはじめたらおかしい。
 突っ込んで書けば、五、七、五、七、七、という短歌を三遍くりかえして並べたら
 それは自由詩になるが、じっさいそう書かれている方もいらっしゃるがそれでいいのだろうか。それでもいいのだけれど。
 こう、うーん、とまたぐるぐる考えている内にまた、「あっけらかん」としてればいいんだ、と思った。


 日記としての詩の在り方、詩とは本来プライベートな試みの筈で、それを公にするというのはどういうことなのか。
 そうして、詩人、多すぎる問題、という事を考えても、新陳代謝の問題も考えていかなければならない。
 私の書きたいようなことは、尾崎ちょこれーとさんが、黙々書いてくれるだろうという期待というか安心を勝手している。


 そうしてnote.comというサイトもあるが、その近々、海外の方が読めるよう仕様が変わって
 AI自動翻訳されるのですけれど、そのとき、「日本語としての音律」は多分死んでしまう。


 このCWSも先進的なサイトとして、そうなるかも知れない。
 でも、「このひとがいいなー、と思ったら推薦すればいいよー」とラフに教えて下さった人がいたから。

 尾崎ちょこれーとさんの詩の貴重性を重んじ、書籍化を推薦します。

 宜しくお願い致します。


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【小説】ココアのせい(原稿用紙3枚)

 女友達の透明な頬にあかいぬくもりがふわっと浮いて、僕は思わず手の甲で触れていた。彼女は猫舌で、缶のココアをふーふーしている最中で、上目遣いに僕を見た。その目にはっきりと、なに? という疑問が見て取れた。僕はそっと手を下ろす。

 ねえいま鳥肌たった?

 ううん、と彼女は首を横に振った。

 そっか。ねえ、エッチしたい

 え、意味わかんない。何がどうしてそうなった?

 女友達はいつもの調子で言った。そう、こういうところが好きなんだ。僕たちはついさっきまで性とは離れた場所で感情を通わせていた。けど僕は不意に女友達に性欲を感じて、一度感じてしまうともう、あと戻りはできない。いまここが人が多い公園のベンチでよかったと思う。

 ダメ、かな? 鳥肌立たなかったなら、生理的にありってことでしょ
 勇気を出して言ってみる。

 ダメじゃないけど、なんでしないといけないかわかんない

 女友達はそう言ってココアをすすった。彼女が口を離した缶の、凹みに残るココアが目について離れない。
 僕はたぶん性欲で視野が狭くなってる。彼女の言うことは真っ当だと思う。でも僕は落ち込んだ。彼女はもっと落ち込んでいるかもしれない。失敗したなと思う。

 ごめん

 と謝った。女友達は小さく首を振った。もう視線は合わない。
 女友達が着る、僕のオーバーサイズのパーカーの肩にホコリが付いているのが目に留まり、手を伸ばす。彼女はさっと肩を引いた。ベンチから立ち上がって、ココアの缶を差し出した。僕は缶を受け取った。冷たく、空だった。

 あのさ、
 と言ったとき、女友達がかぶせるように言った。

 なかったことにはできないから

 うん。わかってる

 その上で、なに?

 男女の友情は存在する?

 しない。
 彼女は考える間もなく答えた。

 さっきまでしてた。けどもう存在しない。そうなってもいいかもってずっと思ってた。けど違った

 ごめん

 別に。そうゆんじゃないから

 女友達は僕の手からココアの缶を奪い取った。ポコポコ缶を鳴らしながら地面を見ていた。

 わたしたちっていっつもどうやってバイバイしてたっけ

 彼女が誰にともなく言った。僕は思い出そうとして、思い出せなかった。

 ほんと、どうやってバイバイしてたっけ

 わかんないからはい、これ

 ココアの空き缶が胸を押した。女友達が背中を向けて歩いていく。僕はいま思い出していた。また明日って僕が言って、彼女が二度と会うかって顔をしかめて言う。僕らのお決まりのやりとり。僕は口にしたくなかった。

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キリストなめんな

 ぼくはいぬがキライです
 キがつくとうしろにいる
 ぼくの視界にはいってくる
 ハイッテ合図でえさをくう
 あとずさりしながらもほえている
 檻のなかでは襲いかからん勢いで
 隠れてたべてとぼけてたべる
 いぬのずるさが我慢ならない
 いぬのあたまにバケットかぶせて
 そのうらだんだんとたたいてゆく
 いぬとぶたがダッキライな漫画
 作者は首を吊ってしんぢゃった
 メカニカルな心臓のように
 光りかがやくいぬのひとみ
 かれらの目のなかで処理された
 セカイにぼくも生きているのだ
 キライなやつはしなない
 ずぶといからしなないと
 さけんだあとのICUで
 目が覚める前にみた世界
 この世には存在しない白さのなかに
 どなたかいらっしゃる再生したぼく
 命は生きたがりの天才だ
 シンぢゃえなんて二度と
 ゆうな
 イキロ
 キ真面目くそ真面目ま正直
 ぼくはばかで救われている
 かみさまの御心は
 宇宙よりひろいよ
 抱きしめろ精いっぱいおのれの腕で
 おまえごとぎゅーっとして離すなよ
 ぼくに欠けた従順な愛をお持ちだ
 いぬを好きな人間が変態に想える
 くそう撫で撫でくそう撫で撫で
 いつまで続く撫で撫でもう嫌だ
 撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で
 いぬの愛は何様ダァ?
 くそう撫で撫で撫で!

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愛    (E.E. カミングス   purer than purest pure)


どんな純真よりも純真で
囁きながらさらに囁く

余りに(無邪気の故に大きくて)
何でも受け容れたあの瞬間
熱意に溢れた栄光の、これ
以上の奇跡はあるまい

子供っぽくも真剣に
聖なる花よ

遙かなる遙か未来の
さらに向こうからの巡礼者。
しかもすぐにも寄り添う
人が新たに思い出す夢に似て

燃やすのは冷たく鐘が
いとも些細なるに触れるのは
その時までのこと

(永遠に)連れだっているのは(今)
光るその影
自身の愛の。僕らとは誰?
君も僕も死にやしないのに

そしてすべて世界は、沈黙が
始まる前は星





カミングスの詩集『XAPIE』所蔵の3つ目の詩。この詩集、すべての詩には題名はなくて単にそれぞれに番号が振ってあるだけであるが、内容からここでは「愛」とした。正直、内容を把握するのに困難を覚え、ネットに落ちていた分析を参考にした。最初は何も参考にせずに読み、意味が分からずに再度再再度読み、訳してみては手に負えずに何度も諦めた。ネットの分析を読んで、そうかそういうことかとある程度見通しを立て、それでも訳せそうにないなあと思っていたのだが、ふとある瞬間にすべてが通じてスラスラと七割程訳せた。そこから後はどうにかこうにか訳すことができた。不思議な体験であった。読書百遍義自ずから見るという言葉があるが、翻訳でもそれに似たことがあるのですね(もっとも、訳し終えてこうして投稿した後のいまでも、実はよくわかっていないところはあるのですが、それはナイショ)。

愛というのは最も純真なるものよりも純真であり、囁きよりもさらに小さな囁きである。とはいっても、愛はか弱いものではなくて、無邪気でとても大きいものである。しかも心のきわめて広いものであり、どんな奇跡よりも奇跡的なるものである。愛は子供っぽくもあれば同時に実に真面目なものでもある。聖性を帯びているのではあるが、しかも花のように生き生きとしている。はるか遠い未来からやって来るものであるが、それでもすぐにも人の側に来てくれるものである。愛はあたかも人が思い出す夢のようにはかなくもあるが、しかも新たに思い起こされる力強さもある。愛は炎のように燃えるかと思えば氷のように冷たくもある。そして最も些細なるものに触れる。さらに、愛は永遠にあるかと思えば絶えず今と共にもあり、輝かしいが影のようでもある。愛はその人自身であるのだが、また我々でもあるが、その我々とは何者なのかはちょっとわからない。愛に終わりはなくて、僕たちは愛し続ける限り、君は死なないし僕もまた死ぬことはない。すべて世界は囁くような愛が始まる前は沈黙であったのだが、その沈黙は実は星だったのである。ざっと、そんな解釈となろうか。愛の讃歌であるのだが、この愛をカミングスは実にモダニズムの詩人ならではの表現方法で歌い上げている。

愛の讃歌というと、私は新約聖書にあるパウロの言葉を連想する。カミングスには信仰心があったのかどうか、私はまったく詳しくないのだが、少なくとも愛の讃歌とも呼び得るこの作品には宗教的信仰心があるとも解釈できる。そのためなのか、作曲されてある種の讃美歌として歌われているようである。私に言わせれば、この作品は文法的にきわめて破格であるので、それにメロディーを載せて歌にするなんざ、どんなもんだろ?って思うのですが。

https://www.youtube.com/watch?v=M641uDGvV5E&list=RDM641uDGvV5E&start_radio=1






purer than purest pure
whisper of a whisper

so(big with innocence)
forgivingly a once
of eager glory, no
more miracle may grow

—childfully serious
flower of holiness

a pilgrim from beyond
the future's future; and
immediate like someone
newly remembered dream-

flaming a cooly bell
touches most mere until

(eternally)with(now)
luminous the shadow
of love himself:who's we
—nor can you die or i

and every world,before
silence begins a star

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