投稿作品一覧
冬
カレーうどんが好きだったけれど
アレルギーだと分かってからは
一度たりとも食べていない
ここは豊かな国らしいから
精密な躰に 傷やほころびが生まれても
そう簡単には壊れない
カレーライスを食べてみた
ほうれん草と、牡蠣フライ付き
ご飯の量は少なめで
充足されていく満腹中枢の先に
横たわる四桁の数字
味なんかもう すぐに忘れた
溌剌とした声にも怯えて
もうここまできたら
倒れるまで怠けてしまおうか
ろくに眠れなくて
水も上手に飲めないのだから
やめてしまえばいい こんな日々
日々、
役目を終えていく黄蘗色が
ありふれた自暴自棄に纏わりつく
空気が冷たい
蝕まれるような感触は
生に近い季節だ
黎明は神経毒のように
闇に浸潤された街を麻痺させて
きょうだいのかげは
刻々と西に向かって押し広げられ
その上を
ゆっくりと通り過ぎる始発列車
群青のプラットホームに流れ込む
まばらな人権
それから、
生という呪縛からの解放をねがう
おまじないみたいに
認識するものも
しないものも
思い出も
忘却も
まるですべてがつながっているかのように、詠む
いくら折り返されようとも、
諦めたひとだけが正気を呼び戻せる。
そして真実に辿りつく
帰るべき場所はつねに
異郷であるということ―
一晩寝かせた題名を借りて、
瞬きのように
スパイシィ
狂気のように
自己陶酔。
***
空っぽのような天上に
注がれていくバイオレット
色を深める夕刻に
融け込むような旋律があって
眼と耳を遊ばせるだけの才能と
値打ちのいらない風景のなかに
根を張ることができるなら。
そんな願いはいつだって
踏み壊されてしまうのだけれど
大丈夫、
未来は刃物だから
どちらにしたって切り刻まれて
明日には何も残ってないから
大丈夫。
気楽に見えるのなら
身軽に見えるのなら
それも素晴らしいことで
痛み苦しみもがいても
いつかは朽ちていくのなら
この躰こそが救いなのでしょう
さすればきっと、優しくなれる。
目の前の、
取り残された世界も
目の前で、
粉微塵になって
真夜中の静寂を縫うように
融けることのない
純白の雪景色へと還っていける。
蹴球生活
いつからか久しく
傾きが生活となってからはついに
玉蹴り遊びが日常となる日が到来したのです
いつまでたっても
家計の傾きは一向に改正されず
躰も傾いて蟹のごとくに歩行していたのでした
それでも家計の傾きはいっかな改善されず
傾いて傾いていつか
家屋の傾きにまで及びはじめ
風が吹き寄せるたび、波が打ち寄せるたび
おっとっと、おっとっと、と傾いた躰で
あちらこちらへ移動して
家屋の傾きはいつか家族にまで滲みて
かしいだ躰を四つ足でつっぱって
むなしい狩りへと猫も精を出し
家計と躰と家屋と家族の傾きはついに生活を支配し
波に揺れ浮かぶ家の中で二人と一匹
愛のようなボールも自然と動きだし
右に左に、前に後に、かしぎつづける部屋で
時にこわごわ、時にそわそわ、二人と一匹
傾いた躰でボールを蹴り合い
「まだ楽観してるんでしょ?生きていられるって」
女が転がして寄越すボールは時々形が歪んで
疑いや侮り、不安やあきらめのパスに見えたり、消えたりして
そのボールに猫は飛びついて奪い去り
前足を交互に繰り出してはドリブル
猫はいつでもわが家のエースなのです
自由と節度を慮る
この小さな界隈で、仮にも詩という方向性は同じにして、書いているはずなのに。不毛な争いに進展するアレは何なのかなと顧みました
でまず、自分の書いているものは何なのか?あれら蔑みや驕り、違いを認めない風潮はなんなのかなと、かんがえました。自分の考えと他者の違いを、そのままぶつけてくる輩には、ほとほと疲れましたけど。それほど、強くあたってくるのには理由があるのでしょうね。シランケド
言葉が好きでしょうがない人たちが集まっているからどうしても、言葉を見せびらかしたい、言葉自体をスルーできないんですよね。皆、ガチなんですよ。そのガチの方向も方法も違うだけ、衝突するのがあたりまえなんです。ただ読むという行為にも、ちゃんと作法があるのではないか。レフリーもろくにいない場では裸でプロレスすることになる、そういうことです。やってられないね。
今はこの場に生息しているんだけど(凝りないねえ)まあ他者コメント読んでいて思うんだけど、自分は周りから見ればだいぶずれたこと書いてるとはおもう。
とーこけーじばん見ているとさ、作者の意図を探そうとする、作者の意図をよませようとするんですね皆さん、あからさまに、理解を大事にする、それがもう いまの「私の詩作の方向と違う」なと思ったので、過去作と論のようなものを出してますけど。私は常に「♡たのしんで♡」としかおもってない。けど、
詩は救いや共感を描くツールではないけど。いいたいことがあって深く考えなくては成らなくて真面目に受け取らないといけないみたいな風に思ってた時期、私にもありましたね。っていうか皆そうじゃないのかな、学校で習ったものがそうだからね。どうしてこうなったのか、わからない方向へイッちゃってますけど^^;
ただ今は、ポエムと詩と現代詩って、「自分の中で」きちんと境があるだけで
ぽえむは発露、共感同調。詩は感情を表し受動的に入ってくるもの。現代詩は感覚で書く、能動的読解で読み手次第。っとまあ勝手に選別するとこうかなー まあジャンルというより態度だな。だから強度によってその境はなくなるとおもってるけど。
そんなものないって言い切ってしまいたいですけど、それぞれがなにをどうみているのかって違うから、境としてがっつりわからなくても、位置は掴んでおくべきだとおもうよね。理解できない、知らなくていい、首突っ込まない。そういう場における節度は守れるのかなと。喧嘩したってしょうがないっしょ
ワタシ的には何言われても考えるきっかけでしかないので何でも食うのだけど、自分的には気づいたところでしかないので、サラッと書けるけど、実は評価的なコメントは結構勇気出して投稿している。しょうじきこわいです。ぶろっくすいしょうだよね。
口頭だと声色とかあるので角立たないんだろうけどね。合評会になれちゃうと、どうしてもテキストだけでは伝えきれないものがあって、とーこーけいじばんでは、利害が一致しているかどうか、わからないですからねーー
私はすっと入ってくるもの。理解が及ぶ範囲ではなくて、是が非でも考えたくなるようなもの。まあ好みだよね、もう、これは。考えすぎてしまう、それが問いになる、
この文面も含めて、考えていることが楽しいだけ
自分はたいていは共感共有では読まない、受動的でもない読みをするので。読みすぎてしまうのかな。書いていて過度に自分を(自分の詩の感覚で書きすぎて)出しすぎているわけで。
作者的には一読者という視点からはでないていど。でも書き手として欲するところってあるわけで。で同じ読者という立場からすれば、なにいってんだ?となることも、理屈としてあっているけれど、もしかりに作者がそこまでかんがえていた、としても、明かすことではない。必要性を考えること。
――詩を読むということ
コメント書いててもだいぶ削りますよね、いやいらんやろと。詩から逸脱するんだよね。思想が強かったり深読みすぎてしまったり。詩における、顔ってあるじゃないですか。それが中心なわけでね。んー難しいよね、どこまでがテキストでどこからが想像か
でもそれって詩の可能性だとおもうのね。どこまで見えてしまうのか、人それぞれの力だからテキストに書かれたものが、そこまで読ませる強度を持っているからこそ。突き動かされるわけだよね、結局
目立ちたいわけでもないし、自分を誇示したいわけでもない。ただテキストを読んでこうおもった、かんがえた、かきたくなりましたよ。ってだけでみんな根底はそれでしかないんだ。
ただ考えを吐き出すと、反応が得られて、それが承認欲求になって、自分を誇示したくなる。自他境界がポンコツになり相手を顧みなくなる。困ったもんだねぇ
詩ってさ。意味わかって楽しい スッキリした やってやったぜ!じゃねえからさ。なんで惹かれるんやろ覗きたくなるのかなって、こうかな?どうだろう?ってわかんねえけどこの手触りを言葉で仮どめしてくこと自体だから、
その工程が楽しめりゃ💮はなまるで、簡単に答えが出ない正直わかんねえが真っ当なんじゃねえのかなとは思うから
良い詩っていうのと好きな詩は違う、もちろん上手い詩も違うなと考え……
どこか引っかかる解きたくなるようなものが、好きなので。まず考えたくなるものが第一条件。で、広く読み手に受け入れられる詩を良とする。上手いは、真似できねえ凄えなと違いを見たときかな。まあ好きは好きなので良いも上手いも混ざってくる、けど純粋に読者になってしまうものですかね。
でもまあその時の気分にもよるよな、読みなんてものは。一つに定まるものではないから、考えたいときに考えて、そういったきっかけがありがたくて、考えることが楽しいだけ。
とにかく読み手として楽しくねえなら、書き手に伝えなくていいんですよね。ただぶっちゃけ本当に何いっても構わねぇのさ。ガチンコだからさ。ただその後に自分の意見が通んねーからって、しつこいのがバカ。まあ作品を見て、何を思おうと構いません、恥だと思わないなら、どうぞお勝手に、ですかね。まあ他者に対する品性が問われるだけだからね。
ここはブロックが書き手に委ねられているので、安心して投稿していますが。イヤなら簡単にブロックしていただければなとおもいます。←これがいいたかった
花が咲くように
ブラウンフェルス城の城門横に構えたホテルの一室からは、木組みの家並みがゆったりと流れる時の中に佇んでいる様子がよく見て取れる。石畳の道には観光客が弾んだ声を上げ通り過ぎてゆく。未だ目の覚めない男は、ベッドのうえで何度も寝返りを打ちながらその穏やかで退屈な平和を聴いていた。
「おはようございます、エルンスト先生」
不意に男とも女とも取れぬ美しい声に呼ばれ、その男、エルンスト・ニールマンはゆっくりと老いた身体を起こした。
「おはよう、ルカ」
エルンストがルカと呼んだ少年は、部屋の入り口に佇み、寝惚けた優しい微笑みを前にその冷淡な美貌を微塵も崩さない。エルンストは見慣れたその顔を見詰め、遥か遠い記憶を思い起こした。まだ、エルンストが三十代の頃の事だ。毎朝、毎朝、エルンストはその頃の事を思う。
呆然と浸っていると、ルカは徐にベッドへと歩み寄った。硝子玉の瞳に見下ろされ、エルンストは思わず喉を詰まらせる。
「心拍数が上がっています。何か心配事でもあるのですか」
「いいや、何もない」
それ以上ルカは踏み込んでは来ず、エルンストは深い溜息を吐いた。
顔を洗い、チェックアウトを済ませ、ふたりはホテルを後にした。大きな四角い革張りのスーツケースはルカが持ち、エルンストは片手に持っていたハットで見事な白髪を抑え微笑んだ。
「さて、今日は何処へ行こうか」
「雨は降らないようです。散歩をするには適しています」
観光客が行き交う城前の通りを眺めるエルンストの横顔を真っ直ぐに見詰め、ルカは無機質にそう伝えた。このやり取りも一体何度目か。その疲労感に、エルンストの枯れた唇からは吐息が漏れる。
晴れ渡る空を見ると思い出す。研究室にこもりパソコンの画面ばかりを見詰めていた日々を。エルンストは白んだ瞳を細め、流れてゆく雲を追いかける。青白く透ける、肌のようだ。触れたことはなかった。触れる前に、消えてしまった。
「ほら、外に出ると気持ちがいいでしょう」
その声が遠くなった耳に触れる。幻聴か、記憶の底か分からないままルカを振り返る。硝子玉の瞳は、どこか知らない空間を見詰めていた。
その先を追いかける。ちょうど路地裏から通りに出てきた青年が、祖母の手を引いていた。
エルンストはまた空を見上げた。太陽を嫌い、ブラインドを締め切った研究室がエルンストの城。そこ以外に空気はなかった。けれど誘われるまま外に出てみると、確かに気持ちが良かった。肺を通り抜ける空気は澄んでいた。呼吸ができた。それは、彼がいたから。
ふとふたりの前をじゃれあった子供たちが通り過ぎた。明るく開けた笑みを浮かべ、彼らは声を上げて笑っている。頬が緩む優しい景色にエルンストも口元を弛ませ、そっとルカの腰に手を添えた。
「ご覧ルカ」
「はい、先生」
ルカは言われた通り、子供たちを見詰める。
「あれが笑顔だ」
不純物の何もない、純粋な笑顔。ルカは相変わらず子供たちを目で追いながら、おおきく頷いた。
「はい、それを教えて頂いた回数は二百五十二回目です」
「そう、何度も教えたね」
「はい、先生」
エルンストはまたひとつ息を吐いた。変わらない返答。変わらないルカ。やはり重い疲労がエルンストの肩を圧した。
「エルンスト先生、交感神経が活性化しています。少しお休みになられた方が」
「いいや、違うんだよ、ルカ」
優しく首を振り、エルンストは疲れたように笑った。
あの晴れた日の言葉の往復が、ずっと頭の中で鳴り響いている。
君を側に置いておきたい。はい、先生。驚かないで、君を愛しているんだ。気持ちが悪い。
悪くなった記憶からも消えない笑顔。全身で拒絶を示す引き攣った頬、離れてゆく背中、愛しているという呪いの言葉──。
ルカは相変わらず真っ直ぐに子供たちの笑顔を見詰めている。その横顔に、エルンストの胸は圧し上げられて軋む。想いを伝えなければ、きっとこの道を歩むことはなかった。それは不幸か、幸福か。
ひとつ吐息を吐いて、エルンストは老いた足を踏み出した。
ふたりはブラウンフェルスの街をゆっくりと歩く。擦り切れた靴底を引き摺るように音を立てて歩むエルンストの少し後ろを、ルカは何も言わずについてくる。気が付けば、故郷のミュンヘンをこの少年と旅立ってから随分と長い時が経った。
「もう長い事旅をしているね」
「はい、先生」
記憶の底に染み付いた顔と同じはずなのに、相変わらずルカの返答に抑揚は無く、エルンストの心を狂わせたあの笑顔を見せてはくれない。エルンストはふと足を止め、自身を見詰めるルカの温度のない頬にそっと触れた。
「君はいつ、笑ってくれるのだろう」
まるで蕾が綻ぶような笑みを、何時見せてくれるのか。独り言であった筈のその言葉を、ルカは残酷に拾う。
「エルンスト先生が望まれるのでしたら、私は笑う事ができます」
まるで愚かな老父を嘲笑うその存在に、エルンストは吐き気を催す程の愉楽を覚えた。
従順なルカ。愛など知らないルカ。その唇はもう二度とエルンストを気味悪がって罵ったりはしない。その深い安堵と嫌悪感が、エルンストの曲がった背筋を震わせる。
「さあ、行こうか」
「はい、先生」
その声の調子は、あまりにもいつもと同じだった。
エルンストはまた歩き出す。ルカが笑顔を手に入れるまでの終わらない旅路を。遥か昔その身に刻まれた、狂おしい呪いを連れて──。
了
母像
私は本当の母親というものを知らない
母親は私が幼い頃にいなくなってしまった
美しい人だったようだ
父親からは
「お前とよく似た顔立ちだ」
と聞いた
とても広く寛大な心を持ち
私からすれば
そんな人間がいるとは信じられなかった
他の家庭が羨ましかった
両親に恵まれて
ただ他人からは
私は恵まれていると言われた
どこを見て言われたのか分からない
冷やかしなのかもしれない
私は愛情が欲しかったのだ
父親は私に無関心で
よく暴力を振るわれ
暴言を言われ
家にいるだけで精神的苦痛があった
仕事で家にいることも少なかった
広く閑散とした石の塊の中で
私は孤独と戦っていた
さるにしても
私は存外その時期を謳歌していたようで
まあ若気の至りといいますでしょうか
今となってはもう昔のことですが
愛情なぞというものは
もう感じなくなりましたさ
肌から伝わる熱を感じながら
眠りに落ちる
そんな毎日を送っているものです
いや死ぬための仙道を歩いている
そう言ってもいいのではないでしょうか
まああなたは知る由もないでしょうが
振り返る、ということ
普通を、最高などとは思わない。
ただ、普通はそこに在るだけで、
静かに、確かな重みを持つ。
普通でないものは、
普通という広野がなければ、
立つことが出来ない。
地平がなければ、空は落ちてしまう。
だからこそ、
普通が息づいているからこそ、
「違う」は初めて息を吹き、
意味という翼を広げる。
わたしは、
ちょっとだけ得意な場所を、
風の通り道のように、
たまにだけ、そっと開く。
もっと遠くまで飛ぶ翼は、
すでに後ろに控えているかもしれない。
あるいは、ずっと先をゆく、
知らぬ影かもしれない。
それでも、ね。
その小さな灯を、
誰かの暗がりに一瞬置いておく。
消えゆく前に、
誰かの胸に、かすかな温もりを残せれば
それで、
十分だと思える夜がある。
主張強めの文芸投稿サイト運営者日記(2月21日分)詩投稿サイトの政治性について
オンラインの詩投稿サイトについて話すとき、ときどき「運営は政治的だ」という言い方がされることがあります。ただ、その「政治的」という言葉が、具体的に何を指しているのかは、案外はっきりしていないのではないかとも思います。なんとなく雰囲気で共有されているけれど、きちんと言葉にされることはあまりない。
今日は、そのあたりを少しだけ語ってみたいと思います。
振り返ると、オンライン詩投稿サイトで「政治」が話題になりやすかったのは、すでに無くなった文学極道と、機能停止の可能性が高くなったB-REVIEWの二つでしょう。どちらも「政治的」と言われましたが、その中身は違っていました。
文学極道は、とくに後半になるとかなりクローズドな運営体制でした。誰が運営しているのかもよく分からない。どういうプロセスで判断が下されているのかも見えにくい。なぜあの人はアク禁なのか。なぜあの人の作品はよく評価されるのか。外から見ると、判断の基準が見えにくい。
特に、運営者が半ば投稿者との対話を忌避していたのも「政治的」にみえる要因だったかもしれません。
運営に物申すと、「その話題はフォーラムでお願いします」と言われ、フォーラムに書くと「このスレッドでお願いします。書く場所が違います」と誘導され、ようやく該当のスレッドに辿り着くと1週間近く放置された上で梨の礫のような回答が返ってくる、不条理コントのような対応も珍しくなかったのです。
おそらく、その閉鎖性が「政治的」と感じられていたのだと思います。
一方のB-REVIEWは、あらゆる意味で文学極道のアンチテーゼとして始まった場所です。「マナーガイドラインに合意する者なら誰でも運営になれる」という仕組みを採っていました。運営の閉鎖性を徹底的に壊すための設計だったわけです。
その結果、実に多くの人が運営に関わることになりました。結果として、
サーバー、ドメイン、銀行口座、公式アカウント、管理パネル――それぞれの所管が分散し、複数人が関与する体制ができあがったわけです。
運営は1年くらいのスパンで次々と引き継がれていきました。
引き継がれても、所管の一部が過去の運営の元に残っていたり、あるいは過去の運営に照会しないと進められないオペレーションも生じたりします。
結果、いま誰が関係者なのか。誰がどの程度の影響力を残しているのか。外から見ると、何か見えない政治的な力が渦巻いているように見えたかもしれませんね。
「マナーガイドラインに合意する」これが担保されるからこそ、誰もが直ぐに運営になれてしまう、そういう構成です。
だからこそ、マナーガイドラインに違反するような運営をやらかしてしまうと、過去の運営者、関係者らからの協力は途絶えます。
大仰な言葉を使えば、ガイドラインは、ある種の聖書であり踏み絵のようなものだったとも言えるかもしれません。手を挙げれば、驚くほど簡単に運営になれる。だが、ガイドラインを違反した瞬間、協力は得られなくなり、管理コストが一気に膨らむ。だからこそ、ガイドラインを維持することが、コミュニティ管理の観点でもひたすら重要になってくるわけです。
マナーガイドラインという内部の合意構造を壊した瞬間にエコシステムが軋むという意味で、独特の政治力学は確かに存在しているといえるかもしれません。
だからB-REVIEWにとってガイドラインは、フリーメイソンの合言葉のようなものだった、というと言い過ぎかもしれませんが、しかし、Creative Writing SpaceがTabuseという謎のミームコインを発行し、そのもとでの分散型の統治などを構想しているそのセンスとは何かしら合い通じるものがあるかもしれないと今、感じているところです。
ある種の思想、ノリ、原則、そうしたものを核に据えて、それ以外は一切何も条件を問うことなく、顔も知らない者同士で独特のコミュニティを作っていくような思考は、マナーガイドラインからTABUSEへと引き継がれているかもしれません。両方とも、初期のデザインを考えたのが私なので、花緒の思考の癖のようなものがあるかも知れず、注意が必要です。
現在、B-REVIEWは、文学極道出身者が乗っ取り、運営の立場に立てばなんでもできると誤解したのでしょうね、ガイドラインを無視する運営により、文学極道化を推し進めるような運営をやったが故に、必要な協力が途絶え、時には嫌がらせのような措置まで始まり、結果、運営コストが急増して瓦解することになりました。乗っ取った運営の大半が音信不通状態。おそらく、機能停止に向けて対応が進んでいくのではないでしょうか。
さて、では我らがCreative Writing Spaceはどうあるべきか。
現在は運営2名+相談役2名の体制ですが、実際の方針決定は花緒が多くを担っています。昨年のアクセス禁止対応など、外から見れば恣意的に感じられた部分もあったと思います。
その意味では、完全にオープンな運営とは言えません。
ただ、スペースコインやTABUSEのような仕組み、そしてこうした日記投稿を通じて、少しずつ「参加している感覚」をより共有できる場にしていきたいとは思っています。政治性は、おそらく完全には消えません。どんな場にも、判断があり、設計があり、方向性があります。
でも、それを隠すのではなく、言葉にして共有し、議論し、なんならレスバトルをやったっていいじゃないだろうかとも思っています。単に荒れているだけの議論にしかならないか、あるいは、議論を通じて、考え方が磨かれていくか。後者になるなら、白熱した議論だって当然ウェルカムですし、その中で花緒への批判・罵倒があったって全然構いません。
では今日はこのあたりで。
風邪もだいぶ良くなってきたので、美味しいものでも食べに行こうかな。
また、ぼちぼち書きます。Bye.
ちびえんぴつの殺意
ひとりぼっちになれないから
ひとりぼっちなのだ
ぬくもりがないところに
ぬくもりを探すから
いつも寒くて
地上の魚みたいにぎこちないのだ
身体とココロは
やさしさのなかにもたくらみを
嗅ぎつけようとして
恋人やともだちをなくし
犬の目で飢え
素裸で生傷を詩にさらしながら
世界のベッドでは眠れないと嘆く私は
ようなものばかり拾って
向こう岸まで投げ捨てる
父のようなもの
睡眠のようなもの
堅実な季節のようなもの
なによりすべっこい愛のようなものを
風を切る音は傷ついている自分を
忘れさせてくれるから
ひゅんひゅん投げる あゝオノマトピア!
はためくジャンパースカートのポケットの
ノートに丸文字で書いた「死ね」は
教育テレビのアニメーションに似てる
少女のままの殺意で生きようと決めたこと
画面の前のみんなは知っていてね
恋する詩人 (第一詩集)
世界史詩Ⅰ
エラトステネスが
我等が地球の
「まはりをくるくる回っています」
世界史詩Ⅱ
アレクサンドロス大王の
黄金の額は
砂漠
熱風は吹く
紅信号
異国の空の下 遥かなる街角から
僕らを見守り続けている孤高の瞳
朝靄に煙る交差点にすっと立ち
六月に一点咲いた神々の薔薇
海
若者と娘とは
結婚に反対されて
小さな島から逃げ出しました
それでも二人は見張られています
青くて大きく澄んだ瞳に
忘れ物
夕暮れは
赤いポストを忘れていった
予備校の帰り道
恋する少女の頬さながらに
そこだけは暖かい
夜
一本足の電灯よ
お前はまるでひとつ目オバケだ
へんだ ぜんぜん怖くなんかないよ
じいっとうつむいて 寂しそうだね
余韻
ブランコは揺れている
風もないのに揺れている
ああ 彼をかなでる者は誰?
ついさっきまで
あの娘はそこにすわっていたね
その暖かい思い出に
いまでも甘く酔っている
月夜に彼は揺れている
夢
今朝 クラスで彼女に会うと
たちまち 彼の顔はまっかになった
「昨夜 夢のなかでキスをしたんだ」
ニュース
ろくに新聞も読まないけれど
それでも僕は知っている
あの娘の髪型が微妙に変わったことを
リンゴ
君はバラが好きかい
バラは机上の空想さ
どんなに美しくとも
あの畏れ多い刺のせいで
手折ることすらできやしない
それよりもリンゴはどうだい
育ててもうかなりになるが
いっつも赤く輝いている
キッスをしてみたいけど
いまだに許してもらえない
ああ 我が恋人よ
君の頬は健康そのものだね
灰皿のために…
灰皿のため
ライターのため
禁煙パイポのために
僕は何をうたえばいいのだろう
灰皿のため
ライターのため
禁煙パイポのために
僕はこんなうたをうたおう
灰皿はおととしの誕生日に
ライターは去年のクリスマスに
禁煙パイポは今日別れた日に
彼女が僕にくれたもの
奇跡
炎はいつしか灰となり
僕もいつかは骨となる
それでも炎は燃え続け
どっこい僕は今日も生きてる
涙
僕は泣かない
泣いたら大地は海となるでしょう
僕は決して泣いたりしない
なぜって君は泳げないから
失恋
グラスの向こうに夕日は落ちる
そうして俺は
熱い太陽を一気に飲み干さんとする
渋茶
熱すぎるのは僕のお茶
おまけに苦い
とても飲めぬと人はいう
近寄り難い その渋茶
僕の苦悩はそこにある
海
七月の雨上がり
七色の虹につつまれ
長い髪をほどいたあなたは
あかるい日差しのまんなかで
やがて人魚となるでしょう
空想
空の想いの
はるかなる
愛
僕の言葉は矢よりも鋭くあなたの胸に突き刺さり
僕の愛はシュワルツェネッガーよりも強くあなたを守るはずだったのに
あなたの愛は弾丸よりも速く僕のもとを去っていった
オクトパス
彼女はきれいな脚をもっていた
でも足の数ではタコにはかなわなかった
恋
抱き合った二人は
まるで化石
瞬間も永遠に匹敵する
ああ 愛よ 永遠なれ
待ちぼうけ
映画館の前
少女は
恋のためなら
モアイにもなるのです
花
悲しい花は咲いている
優しい娘は泣いている
夕陽たゆたう夕暮れに
娘はだんだん花になる
Arthur Rimbaud
乱暴な酔っ払いっ!!
雨
愚痴があるなら
雨に向かって
いってみろ
文句があるなら
雨にむかって
いってみろ
性懲りもなく
夜通し止まない雨にむかって
いってみろ
お前が何といったって
いっこうにかまいやしない
夜の雨さ
そんな奴なんだ
ひとりの夜 ふたりの夜
ひとりの夜は寂しいけれど
あなたを想えばそれも楽しい
ふたりの夜は楽しいけれど
あなたの夢に忍び込むすべもない
宝石
暗闇の淵に沈んだ宝石は濡れ
人知れず光り ひっそりと この世を呪う
薄明
夜明けの匂う少女を抱くと
少年は悲しげな翼の音を聞いた
それからふたりは戯れて
無明のなかで恋はしきりに笑ったのだが
春
僕らが浮き世の春にうかれ騒いでいたから
花は咲き花は乱れ咲き花びらの間に舞う僕らの喜び
花びらは光と降り全身に花びらを浴びて
花びらとともに散りしきる僕らの思い出の春
炎のように…
炎のように燃えているもの
水面のように透き通っているもの
それはあのひとの美しい恋
微笑ましい幸福そうなふたつの瞳
砂漠に朽ち果てた骨のようにひからびたもの
暗くさまよう深海魚のように醜くよどむもの
それは僕のこのにがい片想い
あなたの前で燃え尽き煙となり灰となり落ちては大地を汚す
ふたつの太陽
ある詩人はいった
むかし太陽はふたつあったと
ところで現在 僕の太陽もふたつある
(あんまり熱いのでのどはいつもカラカラ
胸の動悸もどうやら止みそうにない)
それは恋を知る幸福な女の
そして僕の苦しみを少しも悟らぬ非人情の
魅せるような 焼き尽くすような 挑むような
ふたつの瞳
片恋
Ⅰ
たとえ幾つもの眠れない夜を過ごしても
たとえこの肉体がどんなに衰弱しても
たとえこの両眼がどんなに落ちくぼんだとしても
たとえ僕がしまいには発狂しても
僕はなにひとつ悔いることはないだろう
君のためならば
Ⅱ
もし僕が幾つもの眠れない夜を過ごし
もしこの肉体が衰弱しきってしまい
もしこの両眼くぼみ切るまで落ちくぼみ
もし僕がしまいには発狂してしまったなら
僕はなにひとつ悔やまずにいられるだろうか
君のために
少女よ
少女よ ああ 君は海のざわめきを知らない
僕のこの揺れ動く想いを知らない
君のそこはかとない仕草に波立ち
とりとめもない言葉に荒れ狂う海の悲しい調べを知らない
あまりにもわずかな空のかげりに 海の面は深いうれいに沈み
あまりにもわずかな光に 海は輝き跳ねる妖精たちでいっぱいになる
海よ ああ 僕の心よ 望みはなべて満たされよ
凪いだ海の空に現れる太陽よ それは明るい君の笑いなのだ
失恋
僕の思いが雪となって降る
僕の思いが君の黒髪にかかる
僕の思いがその長い髪を零れ落ちる
僕の思いが大地に落ちてこわれる
それを君の美しい脚が無残にも踏みにじる
ROSE
君の窓辺に音もなくバラは咲き乱れ
君は安らかに夢をむさぼっている
僕は今宵も眠れない夜を過ごし
月影は君の窓辺をさまよう
バラの花びらをそっと濡らしながら
修行中
いろんな歌の真似はするけど
まだ自分の歌はうたえない
カラスはカアカアとしか鳴かないが
僕よりはよほど正直だ
プレゼント
こないだ買ってあげたバラは
小さな手の中でしぼんでいったけど
かわりに彼女の笑顔が咲いている
こうして命は巡りめぐるのでしょう
心理学
彼女はたいそう心理学が好きで
いつも恋の手練手管を分析してみせる
それでも 僕と公園を散歩する時は
雀のように 真っ赤になって逃げまわるだけ
黒髪
それほど長いようでもないが
ポニーテールに結ってある
群がる蝿を追い払うけど
僕には素直な小馬なのです
ディズニーランド
平日というのに嵐のような人混みだ
豪雨のように流れ込む人々
時に 僕は髪の長いひとりの水滴に恋している
手を握ればそれは夏の日にひんやりと冷たい
片想い
「真夜中の波の誘いに
浮気なあの娘はついてゆくから…」
彼はこう呟くと
砂浜に彼女の足跡を探しにいきます
薔薇
春の雨そぼ降る街角をひとり歩いていると
僕の瞳に映った路上の赤い薔薇一輪
踏みしだかれてひとりしくしくと泣いている
花も刺も散り 路上は赤く濡れ 心痛み傷れ砕け散る
白百合
バラをたとえに借りるとあなたはささやいた
バラほどありふれたたとえはないもの と
その頃 あなたはひとり刺のような思いを抱え苦しんでいた
ふたりしてみつめあった 白百合のように清純な夜
雨上がり
雨上がりの朝は音もなく晴れ
せわしげに街を歩く人々
どこかで車が走り どこかでしぶきが跳ねる
思い出は水滴のように輝き 静心なく青空を映す
清里
清里の夜風はここち良く吹き抜ける
静かに照らす月 ひと群れの星 万物は物の音に溢れる
それはあたかもかつての僕たちの夜のように
微笑み 安らいで おのづと満ち足りている
そよ風
野原にそよ風が吹いていた
思えばそれだけのことだった
あたたかい春の日曜日
野原にそよ風が吹いていた
ひとびとは楽しげに弁当を食べたりしていたし
ほんとうにそれだけのことだった
だのになぜだか無性に悲しくて
いまも野原にそよ風は吹いていて
木蔭で僕はずうっと泣いていた
カレーライスうと青空と失恋と
それはとっても辛かったから
冷たい水を何杯も飲んだ
辛くっておまけにとっても熱かったから
大粒の涙がポロポロと落ちた
窓からみあげれば太陽はとても美しく
青空がやけに眩しく目に染みた
その夜
美しい名だった
何度も小声で呼んでみると
部屋じゅうにその名がしみこんだ
夜 あなたの瞳は輝き
明け方 そのくちもとは微笑んでいた
それは花の名だった
あなたは花のように清らかだった
花のように あなたの芳香は悩ましい
真昼 あなたは咲き誇り
夕べ あなたは匂い立つ
その名
その日 雨はいちめんに匂いたっていた
街角にバラは濡れ
紅く映え
人々は静かに歩いていた
その日 夕暮れは紫色に包まれていた
路上には水溜まり
人々の横顔を濡らし
髪を濡らし 心を照らす
その夕べ あなたの名をささやいた
そこはかとなく風は立ち
僕はひとりだった
その夜 あなたは誰かを待っていた
月影はさやけく
そのひとはついに現れなかった
声
暗い海辺の夜
絶えることのない重たい波音にまぎれて
遠くから優しい細い声がする
なつかしい声 遠い昔に耳にしたような声
僕の暗い道を照らす一条の光のような声
その声に導かれて僕は悲しげに歩む
ああ 母のような 恋人のような 姉のようなそのひとよ
いつしか僕はそのひとの胸もとに抱かれ
ほのかな光となって夜の海辺をさまよう
灰と吸い殻
物にはなべて凋落があると詩人はうたったが
それはほんとうだ
みよ 絶えず休みなく降りしきる花びらを
夕暮れ時の公園に 終電の去った真夜中のプラットホームに
汗まみれの運動場に テニスコートに
はては我らが部室にも降る
あきらめのように 最後のはかないホタルの光のように
散るとしもなく散ってゆくもの
あわれ 人生の花々
良月夜
ながいことひとり月を見上げていた
凍えるような寒い夜
魂は萎え衰え うち沈んでいた
窓辺から見上げる月はまるく
冬の大気はしめやかに中空に燃えていた
悩める魂はいつしか翼をまとい
音もなく天に舞い上がっていった
鳥は月の湖上に静やかにその翼を浸し
水面はくもりない鏡のように輝いていた
恋
サングラス
あなたが眩しいからかけた
コンタクト
もっとじっくり眺めたかった
近眼
ふられてからなった
ある女の子
化粧は濃いほうだったし
それっぽい娘だったけれど
彼女はまじめだった
どのサークルにも入っていなかったけれど
いつだって彼女は忙しかった
毎日のように授業に出ていた
学校がひければバイトに行った
家に帰ると予習をした
化粧は濃いほうだったし
それっぽい娘だったけれど
彼女はごく普通の女の子だった
時々 夜には長電話もしたし
時々 灯りを消して窓辺で泣いたりもした
酔いどれ
その晩 彼は前後不覚になるまで酔った
帰り道 何度も立ち止まり 何度もひざまづいた
駅を降りても帰る気にならなかった
遠回りしようと決めた
少し歩くと公衆電話があった
酔い覚ましに中へ入り込んだ
そこで千円のテレカを買って彼女に電話した
タバコに火をつけて
とりとめのないことを話した
ひときわ陽気になったり
時おり落ち込んでみせたり
それとなく「彼氏いるの?」って聞いてみたり
「酔っ払っててゴメン」と何度も謝ったり
意味もなく何度もうなづいたり…
長い電話が終わった
すると彼女はすべてを忘れてすぐにぐっすりと眠り始めた
彼は電話ボックスを出た
まだ帰る気になれずに
明け方まで暗い公園のベンチに座り込んでいた
花の教え
「人生にあらがうな」
咲く時は咲き
散る時は散れ
花のように
ある愛
愛しい と書いてカナシイと読む
ああ そういえば
あのひとは僕の愛しい人だった
生き方
雨の降る日は静かにものを思い
風吹く夕べは背中を丸めて街を歩く
友と酒を飲めば陽気に語り
恋に破れたら悲しい歌をくちずさむ
海辺
夜の海辺を歩いてた
たったひとりで歩いてたんだ
あなたに恋をしてたから
ピラタス
山を登った
雨が降り 霧が山をおおった
高くどこまで歩いてゆこうとも青空は見えず
太陽はいつまでも僕を照らそうとはしなかった
詩人
ある日
ある日ある声がした
「実はヘビにも足があるように
そしてヒトにもシッポがあるように
醜くて、天ノジャクで、猫背で、うぬぼれ屋で、不器用で、
気まぐれで、陰鬱で、臆病なお前にも
その背中に翼があるかもしれない」
慌てて背中をさぐってみたが
あるのは場違いなニキビばかり
あいされたい
あいされたいという気持ちが、とっても大切なんだ
海夏空川 嗚呼、あいされたい あいされたい
あいされたいと願うから、賢くもなれるんだ
血肉鉄皮 嗚呼、あいされたい あいされたい
あいされたいという気持ちを、吐き捨てる勇気がない
月足す太陽 嗚呼、あいされたい あいされたい
あいされたいという気持ちが、日増しに強くなっていく
スーツネクタイ紐ベルト 嗚呼、あいされたい あいされたい
あいされたいという気持ちが、人を強くもする
挨拶 洗顔 清潔感 嗚呼、あいされたい あいされたい
生まれ変わっても、死んでからも
嗚呼、あいされたい あいされたい
御仏に心預け 陽光たっぷり受けて
ただひたすら願うことは、そう あいされたい あいされたい
凍える蝶
夏の終わり
うつくしいアゲハを捕まえた
弱々しいながら生きているアゲハを
私は冷凍庫に入れた
なぜそんな残酷なことをしたのか自分でも分からない
分からないまま翌日
恐る恐る冷凍庫を開けてみる
アゲハは凍っていた
必死に出口を探そうとしたのだろう
開き口の側で壁に張り付く形で凍り付いていた
私は包丁を持っていき
蝶と壁の接合部分をうやうやしく
少しずつ削り取った
冷凍庫で冷やされた私の手の平の上で
凍りついたアゲハを見詰め
何かが可笑しかった
可笑しくて笑った
笑いながら
一気に手の平を閉じた
閉じた手の平を開けると
アゲハの細切れが零れていった
そうして
ようやく何故アゲハを凍りつかせたか
思い至る
夏の終わり
もうすぐ何らかの形で終えるはずだった
アゲハの最期
その、何らかの、どうやって死を迎えるのかを考えると
私には耐えられなかったのだ
うつくしいアゲハ
弱り切っている所を外敵に襲われるのではないか
あるいは人に踏みつけにされやしないか
花の下で安らかに死んでいくのか
分からないからいっその事
うつくしいまま
殺してしまった
私は床に落ちたアゲハの残骸をかき集めて
ユリの鉢植えに弔った
ユリもまた、枯れ始める前に凍らせよう
ぼんやりとそんな事を考える
うつくしいものは
うつくしいままに殺し
ありえない形で死体を壊す
自分の中の冒涜心に初めて気がついた
夏の終わり
沿うて滴る
貴女の御顔を
流るる雫は
時には冷たい汗となって
縁になぞって
溢れゆく
汗ばむ季節になると
私はほんのり趣を感じる
色艶を感じる貴女の表情が
私を高揚感に襲わせる
嗚呼なんということでしょう
私は気づいてしまったのです
その艶やかなヴェールは
いつか消えてしまうとわかっていても
引き剝がしてしまいたくなるような
この何とも言えない感情を
一体どう表せばいいか
いつまで経っても
思いつくことができず
貴女に沿うて滴る雫を
じっと眺めるしか
するべきことはないのだと…
[く]屑の正道
無性に誰かを傷つけたくなる夜がある
宛もなく百均で買ったカッターをポケットに忍ばせて、駅に行くとか
どうしようもないほどの悪党、覚悟のない政治家、愛を食い物にする端正な悪魔に出会いたい
クズになってしまった僕のラベルを誰でもいいから書き換えてほしい
中立を装った無自覚な差別主義者に似合う服を見繕ってほしい
正しい人である必要はないかもしれないけど、優しい人であるだけでは満たされない痴れ者を殺して下さい
誰も彼もの特別にはなれなくてもせめて、手に届く人たちの特別になりたくて今日も僕は生かされている
可愛いホクロ
あなたのホクロが はやく見たい
あたしの二の腕の裏側のホクロに はやく 優しくしてほしい
きっと退院してすぐは ご病気があるから愛し合えないかな
元気になったら 骨折して 救急車で運ばれるぐらい
ギュッ してね
約束よ
指切りしてくれたら
電気を消して もう寝ます
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宇宙旅行
月に暮らすうさぎの月呼ちゃんは、みんなに誤解されていることが気に入りません。
(あたしはお月さまの中で餅つきなんかしていない。 このか弱い乙女の腕で杵なんて振りかざせる訳ないでしょう?)
そんなヘンテコな物語りを思い描いている人間達の棲まう地球に、実は月呼ちゃんは興味津々。
ある日、リュックサックに人参味のお星さまクッキーとキャロットジュースを詰め込んで地球へ下りたちました。
特別な呪文を唱えた月呼ちゃんの姿が地球人には見えません。ぶつかったってすり抜けます。
二本足でトコトコトコ。
人間がいっぱいいるわ。街中をそぞろ歩く月呼ちゃん。
可愛いドレスを売っている洋服屋さんや、かぐわしい香りの漂うお花屋さん、大きな看板のある映画館……。
(ええ、知っているわ。あたし、月の学校の優等生よ? 専攻は宇宙学だもん。星々のことを知っている。 地球の皆がロマンチストだっていうことも)
(それにしても、あたしは餅をつくような筋力はありませんよ!)
(あら?)……月呼ちゃんは字も読めます。
「ペットショップ」
(あ! あたしの仲間が檻に入ってる)
ジー……。
(うさぎ同士通じ合うみたい。その子はあたしに気づいたわ)
「あなた、どうしてこんな所に?」
「うーん……よくわからない、あたしたち以外にも犬や猫もいるみたいよ。声と匂いがするわ」
「うん」
「あなたは……檻の外にいるのね? 可愛いピンクのワンピースも着てる! それあたしも着たいわ!」
「う……ん、檻の中なんて入ったことないわよ。お月さまに住んでいるの。名前は月呼よ」
「えええ!?」
「お月様が分かるの?」
「うん、わかるわよ。一瞬だけどなぜか見たことがあったわ。黒い空に黄色くて丸いの」
「うんうん」
「あ!」
檻の中から人間が彼女を抱き上げた。そうして彼女は買われていった。
月呼ちゃんは、もう「餅つきをすると呼ばれ」ようが構わないと感じました。なぜかはわからない。
月呼ちゃんはその夜、空に帰りなぜか辛くなり泣きました。お月さまは雲隠れ。
地球には月呼ちゃんの涙が、雨となり降り注いでいます。
あの子が幸せになりますように……。
チクリとするような痛みとさみしさを感じながら、月呼ちゃんはパジャマに着替え、着ていたピンク色のワンピースを地球へ放り投げました。
……バサ!
「あれ? ママー! 今日やって来たうさぎのルリちゃんの体にお洋服がひっかかってるよ?!」
ルリちゃん……月呼ちゃんとペットショップで出会ったうさぎさんです。
(あ! 月呼ちゃんのフリルのワンピース!)
ルリちゃんにはすぐわかりました。
でも……ルリちゃんは月呼ちゃんみたいに二足歩行ではないので着られません。
ルリちゃんは自己主張をして、そのお洋服を離さない。
今でも毎日、口で引っ張って暮らしています。
月呼ちゃんのお祈りが通じたらしい。ルリちゃんの家族はとっても優しい人たちです。ほんとうに良かった。
https://i.postimg.cc/T2qRTQQQ/yu-zhou-lu-xing.png
旅
森を歩いていたら、
うつくしい鳥の声が聞こえた、
近くにいた女に、
「いま鳴いた鳥の名は何ですか?」と尋ねた、
「わからないけれど、時々鳴いていますね」と答えた、
昨日の夢の中、
その鳥の名を、誰かに教わった、
目覚めると、
誰かを忘れ、鳥の名を忘れた、
会いたい人が、ひとりいて、
もう会えないことを知っていた、
やがて鳥の声を忘れて、
しずかで、
それでもあなたを忘れなかった、
小さな夏の牛
ちりちりと刺す日差しが むずがゆく感じる日
とある山荘に いきました
野花が広がる 高原に
ぽつりぽつりと うごめく影
近づいてみると つぶらな瞳でこちらを見てきます
私の目を ただ見る牛や
手のにおいを かぐ牛
私の存在などどうでもよい
そんなふうにいる牛も
いました
私はそんな牛たちをながめ
ただぼんやりと
人のいる現世に戻りたくはないと 感じながら
心地よい関心と無関心の中で
深呼吸をしました
ひかり
夕方が終わらない国だった
夜は上から組み立てられて
ふわっ、と空が折れる
午後7時を過ぎても 空はまだ青い
交差点で立ち止まると
空に細い線がいくつも張られている
鳥のものでも 雲のものでもない
街の上だけにかかる網
トラムが通るたび
屋根の棒が触れて
火花にならないほどの
ひかりがほどける
建物はまだ昼のままなのに
その線だけが うすく ねむる
カートの鎖が外れる音が 数年後
ふたつの国で同時にこぼれ
昼の色が残る空の下
1ユーロ硬貨が乾いた音を立てたところで
目が覚めた
同じ形の取っ手を押し込みながら
惣菜の湯気と人の列の体温に背中を押され
思わず100円玉が転げ落ちる
ベルリンの歩道はこんなに広くて
硬貨が落ちた瞬間に
風景から切り離されるのに
日本では ずっと帰れず
振り返ってしまう
手の中の硬貨を確かめて
やっと歩き出しても
服屋はもう閉まっている
白いシャツが ひかりに浸かったまま
誰の肩にも届かない
子ども部屋の禁忌
子ども部屋の鏡はいつも裏返しにされている
母が言う
「映ると困るものがあるのよ」
納得したふりで
夜中こっそり表にしてみたら
私の顔が映っていた
フィッシュ
きょうはかりんの蜂蜜漬けをつくりました
瓶に入らなかったぶんを齧ってみると
通過していない青春みたいに酸っぱい
あのころは生き死にの心配ばかりしてました
自分の家で眠れないので
よその小父さんのお部屋にいました
狂った振り子式メトロノームの十代は
美しい母から受け継いだ
形のよい鼻の脇を小さなにきびで赤くして
深夜帯の空を見ていました
凍りついた空の下を
魚がたくさん泳ぐのです 先生は
そういうやさしいまぼろしを知っていますか
私はきっとまちがって地上に生まれた魚です
だから呼吸が苦しくて
冬の夜 青白い肌をしているのでしょう
鱗の下に語りえぬ秘密の流星群が
時限爆弾としてある
文学と呼んで食べてしまうなら
いつかみんなで死ねるでしょう
箪笥のダンス (第二詩集)
序
短詩集を挙げた。玉の緒はいつ絶えるともわからない、そんなことを思う夕べが増えた。若い頃にワープロに書き溜め、プリントアウトしたはいいが、どこへ吐き出す場もなく、徐々に薄汚れていくだけの紙。行き場のないものを、恐縮ではあるが、こちらに置かせていただきます。一つ一つ挙げればいいのかもしれないし、いままでもちょっとはそんな真似事をした記憶があるが、それだと飽きてやらずじまいになってしまう。なので、一気に載せます。題名の『箪笥にダンス』は「短詩」(どれもほんの数行)に引っ掛けたものだが、シャレとしても不成功である…。
刑事コロンボ
コロンボのようにあなたを尾行していたのは
ぞっこんあなたに惚れていたからだけど
コロンボのようにあなたは僕の秘密を暴き
犯罪者のように僕は逃げ去ったのです
Dream Coffee
「夢の珈琲」という名の小さな喫茶店
雨が降るといつもあなたは立ち寄った
カップの底に残る砂糖が少し
あなたが去ってカップにはぬくもりが少し
コマーシャル
コマーシャルは日がな一日商品を宣伝し
宣伝部長は食い入るようにテレビを見る
僕はいつもいつもあの娘のことを宣伝するが
彼女はそれに気づく気配すらない
タバコ
投げ捨てたタバコを揉み消そうとしたが
火はなかなか消えそうになかった
僕はあの娘に捨てられ踏みにじられたが
この思いはいつまでも消えそうになかった
告白したら…
「お使いになったフレーズは
現在使われておりません
もう一度お考え直し下さい」
恋文
待てど暮らせど来ないので
ついに僕から出しました
番地を二つ間違えたので
たれのところへ着いたやら
シュー・クリーム
ハンサムで背の高いアメリカ青年が
下町のおきゃんなフランス娘に恋をした
明日はいよいよ結婚式
もっとも 仲人は日本人です
※シュー・クリームは、シューはフランス語、クリームは英語で、日本人が造った言葉であるとか。
彼奴はピアノ ――エフゲニー・キーシンへ
君があんまり
無口で不愛想で乱暴に
いきなり恍惚として
殴るものだから
みろ
奴のあごは外れ
がたがたいって止まない
※エフゲニー・キーシンという、この詩を書いた当時はまだ十代半ばだったピアニストの演奏場面を詩にしたもの。
雨宿り
雨宿りする娘さん
眺めるともなく眺めていると
忘れた歌を思い出す
梅雨時
小雨がぱらつき始めると
息せききって少年は家を出る
全速力で三分ばかり
公園に
アジサイが咲いています
浪人生
春になると死ぬ者も多いと聞くが
生まれる者も多いと聞く
ところで僕は浪人生
これといった事件もないまま
春の日を寝て過ごすばかり
※文字通り浪人の時に作ったものだが、「聞く」と二度も使っており拙さが目立つ。それよりも勉強しろよ、といまになって思う。だから二浪するんだぞ、と。
虫眼鏡
虫眼鏡
花弁が見える
おしべとめしべが見える
ああ 虫眼鏡
それでも見えない
恋心
証明写真
僕の存在を証明する写真はあるが
僕の彼女の存在を証明する写真はない
彼女の存在を証明する写真はあるが
僕が彼女の彼氏であることを証明する写真はない
蛍Ⅰ
自転車置き場に迷い込んだ万人
自転車泥棒が来るとその顔を照らす
蛍Ⅱ
墓場に住み着いた守り
恋人たちの声が聞えるとその顔を照らす
いわゆるひとつの
いわゆるひとつの恋をした
いわゆるひとつの恋文を練り
いわゆるひとつの失恋をして
いわゆるひとつの詩を書いた
八重椿
女子高前の通学路
詰襟坊や ひとり行く
背中あたりがむずがゆい
垣根を越えて目をやれば
百の眼が目白押し
ぽっと染まった桃色の頬
ダルマ
いつまでたっても
独眼竜
コクトー讃歌
鳥だ、
飛行機だ、
いや、ジャン・コクトーだ!!
※いくら讃歌でも、こんなもんじゃコクトーも浮ばれまいよ。
地図論
琵琶湖の底から
発見されたコカ・コーラよりも
お前のくびれは美しい
だから誇りをお持ちなさい
横たわる美女よ
日本よ
バッハ
バッハよ
貴方は美しい。
いえいえ、お顔ではありませぬが。
マーライオン
ライオンは二日酔いだ
でも奴が飲んだのは酒じゃない
昨日は朝から晩まで広い海を泳いでいた
ごらん 奴の唾液は透明だ
駅
駅よ 君はいつまでも失恋ばかりしている
添い寝の相手にゃ困らないけど
三分とたたないうちに
皆 君の腕の下をすり抜けていく
東京
上野発の列車が走り
駅から駅を巡るバスが走る
僕の若い恋も走るけど
終着駅はどこだか分からない
習作
秀作ならぬ
これはほんの習作です
詩作の試作
思索なき詩作なのです
少女よ
少女よ
君の手はゴム
あんまり強く引っ張ると
ひっぱたかれる
娼婦よ
君の手はガム
あんまり何度も握ると
粘ついて離れない
あるプレイボーイの独白
切手をひと舐めすれば
地の果てまでもハガキと一緒
ところで僕も 君のみ肌をひと舐めすると
君は生涯 僕のもの
夜鷹街
駅を降りたらバラの群れ
どいつもみんな鮮やかなバラ
朝になったら枯れていた
街角
隣町の可愛い娘
ポニーテールを赤いリボンで結っていた
あの日はそろそろ春風が吹いていて
振り返ればポニーテールは揺れていた
名月
窓辺に少女は泣いている
それもそのはず
今宵は 名月です
夜のファミレス
ながい黒髪
どこかへ消えた
よくよくみると
女子トイレ
秋
秋がとっても長いのは
あなたに恋をしてるから
博愛主義者
浮気ばっかりしていた
アカペラ
ダ・ビンチが解剖しても
器楽は発見されずじまい
いったい 声楽家は
どんな霊薬を飲み込んだのでしょう
地球儀
なんべんまわしてみても
あなたの居場所はわからない
「竜馬がゆく」
なんべん読んでも
えらくなれない
風
しみひとつない真っ白なTシャツが
青空の下 洗濯バサミにつねられて
痛いいたいと泣いています
残暑
北国の人々へ
残りものですがよかったら
暑中見舞い
あんまり暑くないもんだから
誰にも書かず
昼まで布団にくるまって
寝ているひとりの夏休み
遺失物係り
潮風に濡れた黒髪
日に焼けた肌
これは夏の忘れ物
僕の腕の中で預かっています
真夏の夜の夢
目覚めると
薔薇は枯れていた
※この含意、伝わりにくいですよね。着飾った美女と一晩を共にして、翌朝目覚めると…ということなんです。コクトーやアポリネールの影響を幾分か受けています。私はそういった世界とは縁遠いところをとぼとぼ歩んでおりますので、精いっぱい背伸びしたものとなっておりまする、はい。
暗闇
鏡よ
鏡をみつめ
鏡にみつめられ
妖精と月光の乱反射に
お前は独り呻吟するという
Isadora Duncan
ソクラテスと
一晩中 エロスを語り合ったそうですよ
どうりで
少々 気が触れていますな
雨
私の心は悲しい
ああ天よ お前もか
たれのせいにもあらなくに
いまここで 雨ぞ降る
DISCOTHEQUE
ここ海溝一万メートルでは
種々様々な深海魚が泳いでいる
時々 人魚も来るには来るが
どうにもマネキンばかりでやり切れない
異心伝心
この上もなく彼は幸せで
たまらなく彼女は悲しくて
ある秋の夜の
シーツの上のふたつの心
流行と恋
西暦二千年が近づくにつれ
髪形も服装も変わる
歌も生活も思想も変わっていくが
バラは昔ながらの手作りが一番良い
雨
突然の雨だったから
あわてふためいて雨宿り
無性におかしくなって笑ったら
君の黒い髪に雨の滴がきらめいた
恋
実った恋は女を育て
実らぬ恋は男を挫く
女は日増しに美しくなり
男は日増しに醜くなる
恋
煙が立ち上っているけど
別に火事ではない
僕はタバコを吸っているだけ
炎が燃えているけれど
別に火事ではない
僕は恋をしているだけ
春
"Anoko wa choppiri wagamama
dakedo soko ga mata kawaii."
そんな落書きの匂い立つ公衆便所で
僕はいわゆるひとつの大きなクシャミをした
秋
誰かが追いかけてきて僕の方に触れた
てっきり君かと思って振り向くと
枯れ葉が風に舞っていた
傷ついたレコードのように
傷ついたレコードのように
「愛してる」と僕は繰り返してばかりいた
傷ついたレコードのように
「タバコは嫌い」と彼女は繰り返してばかりいた
路傍の花を…
路傍の花を摘もうとしたら
風に吹かれて花びらは散りました
刺ひとつないあなただけれど
触れることすらできないわたしです
フルート
この小さな筒のなか
妖精たちは
十本の指をくすぐって歩く
こそばゆくって
愉快でたまらない
Shakespeare
偉大なるシェイクスピアも
舞台はつまらなかった
あなたがそばにいなかったから
サイクリング
こんな爽やかな五月の水曜日には
いっしょにサイクリングに出かけよう
やさしい太陽の光を浴びて
あの娘の涙も乾くだろう
アルペジオ――断章――
ぎたるの丘の洞窟に
虹のかけらが落っこちた
消しゴム
消しゴムは誤答を消すが
優しい「時」よ
この恋の思い出だけは消さないでおくれ
William Wordsworth
ステキな名字をお持ちです
四行詩
宇宙とは
大きなおおきな瞳です
瞳とは
小さなちいさな宇宙です
名月
窓辺に少女が泣いている
それもそのはず
今宵は名月です
バレリーナ
どうしたことか
雲間に舞う天女じゃあるまい
ほら 童顔の少年も
赤ら顔
地球
出血多量で
彼女は重病です
只今面会謝絶中
収穫
今宵 少女は母になりました
頬もたわわに
甘いリンゴを実らせます
僕の知らぬ間に…
Ⅰ
僕の知らぬ間に
桜は満開になっていた
僕の知らぬ間に
彼女は僕に惚れていた
Ⅱ
僕の知らぬ間に
桜は散っていた
僕の知らぬ間に
僕たちはもう終わっていた
雨
雨が降る
限りなく優しい響きを伝えながら
大地を生命の源で潤している
カルマ[業]
惚れたんだけど
僕にはもう恋人がいた
惚れたんだけど
僕にはもう妻がいた
惚れたんだけど
僕はもうお墓の中だった
Joseph Turner
俺もどうやら老いぼれた
お前の汽車がぼやけてみえる
参考書
参考書は便利なものだ
僕の知らないことを教えてくれる
時に 僕は彼女の髪の匂いを知っているが
そのくせ 名前も知らないのです
月
月よ おお この生意気な奴よ
お前のでしゃばった光の前
無数もの星たちは
人間どもに己が光を認められる術もなく
すっかりとしょげ返っている
天の川
天の川は美しい
いちめんに星々が輝いている
ところで 僕だって小さな天の川だ
君の名を口にすると思いは星々のようにきらめく
木登り
バカは高いところが好きだというが
僕はどんなバカにもなろう
高くたかく雲よりも高く登って
僕の瞳はあなたの屋根を探すだろう
深夜の喫茶店
七杯目のコーヒーを飲んでいる
深夜のテレビニュースは異国の事件を報道している
よくみかけるこの美人キャスターは
僕の好きだったあの人と同じ瞳の色をしている
バイオリン
道端に
壊れたバイオリンが落ちている
雨降る夜には
迷える水滴たちが雨宿りをするという
天女形見
天女の櫛を
滝の裏手の洞窟で
拾いました
君は黒髪を梳き
二人して耳を澄ますと
あわれ 水音
人生論
木の葉がみんな小首をかしげている
静かに雨が降っているのだ
それで僕も首をかしげて考えてみる
いつまでも止みそうにない僕の人生の雨について
神
砂はほどけ落ち
指をからみあわせて
僕たちはうっとり海辺で抱き合った
あの頃 確かに二人は神を信じていたのに
天気予報
タバコの煙が
部屋じゅうに充満していますので
明朝は激しい雨になるでしょう
悲しい詩人の歌が聞えてくるでしょう
テニスコート
僕はテニスコートの片隅にいる
いまほうきを掛け終えたばかりです
きらりコートに輝く天の川のような水滴の一群
いま水を撒き終えたばかりです
笑う・せえるすまん
初恋 片恋 両想い
奪った恋に 奪われた恋
恋にもいろいろございます
あなたがどれを選ばれようと
そのお値段は同じです
未成年
夜は更けていく
雨は激しく降り続ける
いつかは僕も独りで生きていかなくてはならない
タバコを…
タバコをくゆらす時は
僕はライターを捻るが
君はマッチさえも必要としない
ただ唇にタバコの先を触れるだけ
君の燃えるような口づけに
タバコもぽっと赤くなる
色男
そいつは天下の色男だったから
いっつも豪奢に光り輝いていた
近づく女たちはみな薔薇色に燃え
咲き誇り 匂い立ち やがて枯れ 刺だけが残った
雪
雪をみた
白く 汚れのない
こころは踊る
雪を踏み 雪に触れ 幼き獣の如く
こころ輝く
夜行列車
雪はひっそりと積もっていた
誰ひとり知ることもなく
列車は静かに通り過ぎていった
カエル
カエルが鳴いている
昨日の喜びを
今日の糧として
明日に伝えるべく
カエルが鳴いている
ホラー
夜のマネキン置き場には
時折死体が紛れ込んでいる
あの世への入り口を探しあぐねて
木の葉散ったら…
木の葉散ったら木の葉を積んで
小さな城を築きましょう
わずかな風にまた散って
恋のはかさな知りましょう
キャンパス内には…
キャンパス内には部室もある
その壁には赤い消火器がへばりついている
またその下にはタンポポが可憐に咲いている
ああ 小さき者よ
君は僕だ
世界の片隅で精一杯日を浴びている
汚れた部室の…
汚れた部室の壁に咲く
五つ四つのタンポポよ
風さえ吹けば揺れてまた止む
かすかな心の痛みのように
輝く太陽の下では…
輝く太陽の下では夜のように暗いひとだった
深まる闇の中では月のように光るひとだった
僕の背中にニキビができた
僕の体は雲の峰背中の上に銀河系かな
夕暮れ
父と娘がジョギングしている
帰れば楽しい夕食が待っていることでしょう
ほろ酔い
たくさんの竹を見た
竹は踊っているようで
僕は踊っているようで
たくさんの竹を見た
さて僕は人混む駅の階段を上っていたのか
それとも暗い竹藪で鶏に化けてしまったのか
さっぱりわからないんだ
シュールな恋
今日も三時に待ち合わせ
砂漠も遥かピラミッドにて
剣
棄てられた女は夜な夜な爪を切る
雷
神様がお腹を壊した
藤
あな香ばしや
あなたの長い
髪かとも
吐息
散った薔薇一輪
ただ赤く
夜の一隅を照らすこと ひとしきり
薔薇
白いシーツに
一輪の薔薇
折るもかなわず
触れるに忍びず
幸せについて
幸せは逃げたりしない
あなたが拒んでいるだけ
グルメ
さもしい国になりはてたもの
太平洋の沖合で
人魚の群れが発見されて
生の尾びれが美味いといわれ
いまじゃ飯屋は大繁盛
シッポをなくした乙女たち
就職難につけこまれてか
安月給の皿洗いして
店の裏手の階段で
時々泣いているという
Marie Laurencin
憂い勝ちなるまなざしで
たれをみつめてはや幾とせ
眠れぬ夜はあんたをみつめ
あんたは捨てた男を思い
タマネギ
泣かせるね
植物界最大の詩人です
風
背中丸めてため息ついた
風が吹いたらため息散った
風は何でも吹き散らす
あなたの長い黒髪も
風が吹いたら木の葉が散って
木の葉が散ったら音がして
ものみな 触れ合うと音を発して
かくして僕も あなたに触れてこころときめく
鏡
「鏡よ 鏡よ 鏡さん
この世で一番美しい人は誰?」
「それはあなたの好きな人
この世で一番あなたが恋をしてる人」
偶成
同情しない
僕はひとりの志士なれば
哀れみもしない
君もひとりの獅子なれば
笑うと…
笑うとえくぼが「こんにちは」
どこに隠れていたんだろ?
住宅街の午後
シーツに太陽をしまい込んでいる
母の白い手の下に咲いているひまわり。
夕餉の食卓を這う母の白い手から
立ち上るひまわりの匂い。
花束
ラッシュ・アワーの満員電車
乗っているのは女子高生だけ
腹巻
海外旅行をするのなら
サイフは隠そう腹巻の中
かなわぬ恋をするのなら
やっぱり隠そうこの思い
折りたたみいす
僕の心も折りたためるのなら
君の小さな心の隅に
折ってたたんで置いてもらえるのに
待ちぼうけ
あなたがついに来なかったから
一番星みぃつけたぁ
失恋
クサンティッペに蹴られても
黙って耐えたソクラテス
君に蹴られはしなかったけど
それでもやっぱり耐えかねる
クラスメート
久しぶりに旧友に会った
やっぱりいまも可愛らしかった
夕暮れの空に一番星が灯り
君の指にもきらり光るものがあった
白いハンカチⅠ
別れる前にいただいた
これは彼女のプレゼント
いまとなっては手を拭くたびに
だんだん汚れていくばかり
白いハンカチⅡ
涙ぬぐった拍子に見れば
これはあの娘の贈り物
未練も恨みもあるんじゃないが
畳んで尻のポッケに入れる
体重計
「優柔不断の典型だけど
黙った時が一番怖いわ」
恋する女はうつむきながら
髪をいじってぼそぼそと
ひとり
ひとり暮らしのアパートの
うしみつ時の台所
女がしくしく泣くかと思えば
緩んで締めた蛇口の呪い
それは最後の夏のバラ (訳詩)
それは最後の夏のバラ
残されひとり咲いている
その子の可愛い友はみな
枯れ果て逝ってしまったのにね
その赤らみに照り返したり
漏らす吐息に応えたりする
同種のバラの花のみならず
その蕾すらどこにもいない
己れの茎に嘆きを零す
お前ひとりを残しはしない
愛しいものは眠りの床さ
お前も共に眠るがいいさ
思いを込めてその葉一枚また一枚と
俺は寝床に散らしていくさ
お前の庭の仲間はみんな
もはや薫らず死して眠れるこの床に
俺ももうじき後を追うもの
友の情けも衰えて
濃やかに織り成す仲の輪の中からも
玉の思いも落ちては消える
心の友のみな横たわる時
優しい者みな消え去った時
この寂寥の世にひとり
生き長らえる者がいようか
※トマス・ムーア(1779~1852)というアイルランドの詩人の代表作を訳してみました。当時は(いまも?)有名な詩人だったらしいのですが、不勉強で彼については、いくつかの詩を読んだことがあるくらいで、詳しくは知りません。この作品は、訳しながらだんだんと気分が沈んでいき、最期は暗く落ち込んでしまいました。読み手にそんなことを思わせるのだから、それなりの詩人と言えるのかもしれませんね。何でも、ゲーテも彼に一目置いていたとか何とか。訳については、言葉の流れや響きを重んじているので、原詩には忠実でないところもあります。それに自分の英語力ではよくわからないところもあったりして…。何にせよ、これからは、英語圏の詩人の詩を訳してもみようかと思います。
メートル法(訳詩)
ポプラの木々の間に鳥だ!
あれはまさしく太陽だ!
百の木の葉は小川を泳ぐ
黄色なる小魚の群れ。
あの鳥はその上をかすめ飛び
両の翼に日を担う。
太陽神のアポロンよ!
汝の生み出すものこそが
木々から漏れる眩い光!
その歌声は
風にかさこそ鳴りやまぬ
木の葉を優に凌ぐのだ。
※ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ(1883~1963)の詩を訳した。原題は"Metric Figure"で「メートル法」と訳されるようだが、私には意味がわからない。ウィリアム・カーロス・ウィリアムズは米国の詩人で、エズラ・パウンドやT.S.エリオットに比肩する20世紀の詩人とされ、モダニズムやイマジズムを思わせる作品を書く。私は詳しくないが、文学においては、モダニズムとは現代的かつ新奇の傾向であり、イマジズムとは視覚でとらえた対象を明確な言葉づかいで言い表す形式であるそうだ。ウィリアム・カーロス・ウィリアムズは故郷のニュージャージー州の町医者として生涯を過ごし、その傍らに詩作しており、町の人々や景色を切り取って詩へと昇華した作品が多々見られるようである。詩人兼医師であるので、文系が理系と一つの人物の内部で統合されているという点ではゲーテや鴎外とも似ているが、作品の性格はだいぶ異なるようである。以下に原詩を挙げる。
There is a bird in the poplars!
It is the sun!
The leaves are little yellow fish
swimming in the river.
The bird skims above them,
day is on his wings.
Phoebus!
It is he that is making
the great gleam among the poplars!
It is his singing
outshines the noise
of leaves clashing in the wind.
この詩は韻を踏んでおらず、必ずしもリズミカルでもなく、どちらかといえばぶっきら棒とでも言えそうである。原詩の yellow fish は「ブリ」という訳があるようだが、果たしてそう訳していいものかどうか。ネットで yellow fish を検索すると、何とも可愛らしい黄色い魚が出てくるのである。また、Phoebus は太陽神アポロンの別称であるが、日本ではこの名前では知られていないので、訳ではアポロンを使った。
白状すると、私がこの詩を訳したのは感銘を受けたからではなくて、訳しやすそうだったからである。一読して少しも感心しなかった。それでも不思議なもので、ひとたび訳し、何度か手直しをしているうちに、愛着が湧くものであり、いまでは原詩も訳詩も読み返すたびに、ふうん、なかなかいいものじゃないか、と思ったりするのである。
[こ]子と俺
君にはちゃんと理解してもらわなければならない
はっきりとしておかなければならない
君のママをこの世で一番愛しているのは俺であること
君がどんなに一番になりたくても君に一番は譲れないこと
君が生まれるずっと前に俺の一番にすると誓ったあの日から、今に至るまで守り続けた決意を初めて揺るがしたのが君だ
君は俺に試練を与えるかわいい天使だ
君のママが大いなる痛みと引き換えに光と共に落とされた君は俺の人生最大のライバル
それと同時に君のママを共に守る戦友でもあるんだ
俺が老兵となりて朽ちる時、お前の一番が変わっていても、変わらず君の一番だったものを守ってやってくれ
君はそういう美しい心を持って成長していく
君はお母さん似だからね
君は世界で一番の最強の子だ
君のママが最強なんだから
俺はしっかりと尻に敷かれて
君たち二人の幸せを世界で一番考えてるからね
少しずつ君の前歯が生えてきて少しずつ成長する感じられることが愛おしい
俺の皮膚を叩く強さをより深く感じていけることが誇らしい
様々な顔を振りまいてくれるその自由さが彩りを授けてくれる
君は世界の特効薬だ
もしも君が人生最大の窮地に陥った時
どうか周りを見てほしい
君に手を差し伸べる最強がいることを
僕がそうだったように
息災
マスキングされたサンセットにフルイドアートを零す。
ジュークボックスの、後ろ髪を、きいたのか そうか
罪深し水の色 ふかき 山間にて
手のひらの奥に滴る 血潮の音は、
どうだ(湿度は順当 在り)
慎ましき、春の声あさし 海洋を
あしあとの先にこぼれる 土気色に
脱線して尚
嗚咽が昇華する、か。
笹浪に帯びて おやすみ 夜鷹の欠片たち
さざ波に与える。
まどろみの風。また今度、ヒヨドリへ
オレンジ峠をこえ 咽頭部に 手網を弾く
我儘な待ち人が また追いかけてくる
数多 彼方 貴方へ
忘れちまった面影を頼りに、生きる、
わたしは、わたしとして そのひをあびる
なないろの雨の詩を捧げ、
偶然の天秤は 可視化、
両手両足をなかほどに おとし
けのびする(冷却された 受け皿の 模様)
泥沼の生簀にて
どこまで活けるのか、
息が続く限りに 域を確かめるように はばたく
死海は当然、自重落下。白椿の首を思い、描く。
種とは記憶である
聞き齧った立ち話を
車掌が鷲掴み
ちりぢり。
プレイヤーは針をやどした、一つくしゃみにて、
通りすぎるいくつかの事情
ドーナツショップは今日も混み合ってる
女子高生たちはさっきから
鏡に向かって入念にアイメイクをチェックしながら
誰が誰と付き合ってるかで盛り上がっていて
若い母親は 落ち着きのないわが子には目もくれず
さっきからずっとケータイをいじくってばかり
30代くらいのサラリーマン風の男性は
甘ったるいドーナツをかじりながら
ノートパソコンを忙しげに叩いてる
混み合う店内
バイトの女の子たちは 商業的スマイルを見せながらも
どこか疲れを隠しきれない
そして私はといえば 窓際の席に座って
アイスコーヒーをストローでかき混ぜながら
ただなにげなく ぼんやりと窓の外を眺めていた
平日だっていうのに 街は人であふれていて
誰もかれもどこを目指しているのか
足早に先を急ぐ人たちばかりだ
そんなに急いでどこへ行くのだろう
尋ねてみたい気もしたが
そんなことは意味のないことだと
すぐに視線をそらした
絶え間なく流れる人ごみを避けるように
ベンチに寝そべっているあの老人
ボロボロになった上着を
肌掛けがわりにかけて
眠るともなしに目を瞑っている
私はなんだかその老人が気になってしまい
しばらくずっと 目が離せないで眺め続けた
あの老人は今 一体何を思っているのだろう
たとえば春
満開の花びらが ヒラヒラと風に舞い落ちるとき
夏 容赦ない灼熱の太陽に ジリジリと肌を焼かれるとき
秋の夜長 真ん丸いお月様にじっと見つめられるとき
冬 吹きすさぶ冷たい木枯らしに身を晒されるとき
生まれ育った故郷のことを ふいに思い出したりするだろうか
まだほんの小さい子どもだった頃 無邪気に遊びまわっていた
あの頃の風景が 瞼の裏側に映し出されていたりするだろうか
かつて好きになったひとのこと 愛したひとのこと
傷つけてしまったひとのこと
傷つけられたひとのこと
自分が生きてきたこれまでのすべての出来事
今 こうしてベンチに寝そべって
街の喧騒を眺めるともなしに眺めていること
あの中に かつての自分を見つけようとしているのか
あの中に 入れなかった
あるいは 入らなかった自分を見つめているのか
行き交う人々は 誰もあの老人を避けるように
足早に通り過ぎていくけれど
この人たちはきっと ちゃんと帰る場所がある人たちだ
待っていてくれる人がちゃんとちゃんとある人たちだ
あの老人に 帰れる場所はあるだろうか
あの老人を 待っていてくれる人はあるだろうか
私には帰れる自分の部屋はある
けれど 私を待っていてくれる人はどこにもいない
心の拠り所をずっとずっと探し続けて
彷徨い続けている
あの老人がどうしていま そういう生活をしているのか
若い頃から自堕落に生きて 酒タバコギャンブル
女子どもを不幸にして 自分さえも不幸にして
家族からも社会からも追い出されるみたいにして
ここにたどりついてしまったのかもしれないし
実はエリート街道まっしぐらの
大手企業のお偉いさんかなんかだったのに
ある日すべての俗世間に嫌気がさして
なにもかも捨て去って 自ら進んでそんな生活に入ったのかもしれない
生きれば生きる分だけ重くなっていくものたち
誰だって好き好んでそんな重たい荷物を背負い込んでるわけじゃない
気づいたらいつの間に背負い込まされてて
降ろすことも捨て去ることも許されず
だから仕方なく 仕方なく抱えて生きるしかなくて
誰だって幸福になりたいのは同じじゃないか
いつの間にか選んだり選ばされたりしてきた道が
いまの自分にたどり着いているだけの話で
それが間違いなのか正解なのかは
誰にも解らないし誰にも決められるわけがない
あの老人が たとえば病気になったりしたら
あのまま息絶えてしまったりしたら
一体 どうなるというのだろう
路上生活者ひとり死んだところで
一滴の涙さえこぼれおちたりはしないだろうし
世界がグラッと揺らぐこともないだろうけれども
こんな社会の上で それでも私は生きているのだと
考えたらたまらなくなってしまって
胸やけしそうな思いを必死でこらえながら
ただひたすら
薄くなったコーヒーをすすったんだ
寒花晩節 ーー 俳句十五句 ーー
寒花晩節 ―― 俳句十六句 ――
笛地静恵
1
冬ごもり骨の不在を嘆くのみ
足もとをすくわれ金の金魚玉
アスファルト皮膚ひび割れぬ小鳥網
雪煙おとこの肌を神あさり
2
東京と夜店と海とつばくらめ
精米の小屋の匂いの夜長し
花火師はもう帰れない神の留守
天ぷら屋ふりむけば十六夜の月
3
キンキンと杉板の眼の除夜の鐘
菊根分問題はなし容姿のみ
東北の森の祭りへもろこし屋
同類の家焼き払いシャクナゲだ
4
貧窮の問答はせずカラスの巣
イオカステ荒れ野に剣のイオマンテ
ザクザクと雨風は打て氷湖まで
とりいそぎヨモギの市へ二輪車で
了
サラダボウル
考えないようにしてきたけど
好きになる口実を探しているということは
いまあなたを好きなのです
(洞穴がむぐむぐ動いている
「おいしそうな子
お前を丸呑みにしてしまいたい」
暗やみは数mmずつ近づいてくる
私のまなざしのうつろは
男の人のまなざしの中にもある)
人間はみな聖なる凡俗だから
抱きしめてくれるとかぎらないが
角のピザ屋の後光がさしながら
青い服の彼はこちらに話しかけます
(昨日 俺は千の島にいる夢を見たよ
たった一つの身体で千の意識を持ったんだ
セントローレンス川は
目ん玉が痛くなるほど眩しかったよ…)
危うい 私たちはよく似ている
なぜ詩人が薔薇を愛するのか
わかりかけた気がした 火曜日
それぞれの命に途方にくれてなお
生き延びるため壊れていきます
自分自身でさえ信じてやることができない
こんな夜更けはグリーンサラダの森の奥で
私を手酷く抱いてください
コンビニ行こうか
「さあ 今日はコンビニ行こうか」
そんなことを言ってくれたあなたはもういないけれど
コンビニ行こうか
あなたがよく買ってくれたブルーベリーヨーグルト
ひとり かごにぽとん
ポテトチップスで思い出す命日
スルメイカはマヨネーズにつけるのがあなた流
ゲームをしながらあなたが差し出すそれを
私はもぐもぐと頬張った
いつも一人先を歩いていた背中
誰が風邪をひいても構うことはなかったのに
いつも真面目に働いて
コンビニだけは連れてってくれたね
いつしか追い詰められていたあなた
綺麗な雨の日に知った永遠の別れ
時がたち私も大人になりました
「さあ 今日もコンビニ行こうか」
もしもし宇宙です
今日も錆びかけのアンテナをたてる
僕だけが知ってる その番号
ピー ガラガラ ピー
「はい こちらピコパコ星人です
ご機嫌いかが」
「こんにちは
僕は 昨日お父さんが死にました
お母さんは 泣いています
お姉ちゃんは 熱を出しています
僕は 幼稚園の先生に送ってもらいました
なんだか綺麗な 雨の日でした」
「ピコパコ星には 家族という概念がありません
お父さんのことは残念でしたが 理解することはできないでしょう
そんなことより こちらの星に来てくれませんか」
「ごめんなさい そちらに行くには 僕たちの星の技術が足りないみたいです
あなたの星のお話を聞かせてくれませんか」
「現在ピコパコ星では 近くの星が爆発した影響で
交通が滞っています
エネルギーが足りずに たくさんの方が亡くなっています
なんとか そちらの星からエネルギーを送ってもらえませんか」
「わかりました」
僕は無線機を持って 国の偉い人に会いに行った
「ピコパコ星でエネルギーがたりずに たくさんの方が亡くなっているそうなんです
なんとか 助けられませんか
ここにピコパコ星に繋がる 無線機もあります」
「この国は 課題が山積みだ
そんなことより 君も自分のことに 集中しなさい
お父さんが 亡くなったんだろう
ピコパコ星とやらに 構っている暇はない」
僕のアンテナはその日壊れて
二度と宇宙へは繋がらなかった
問わず語り/雨水・浅き夢みしすかせ奉り、候。
AМ9:30
毎週のように降った雪が路肩で山になっているけど、今年は雪解けが早いのかな。という景色を左へ。マンションが立ち並ぶ、この辺りは都心から離れたビジネスホテルがあって札幌市内に展開しているMORIHICO.STAY&COFFEEが併設している。
今朝はモーニングを食べながら執筆。
お目当てのフレンチトーストは朝食付き宿泊プラン利用者限定メニュー。残念だけど、私がここで食べたいのは、おかめやの食パン。札幌市西区発寒にある業務用高級食パンの工場で知られるおかめやは、工場直売の小売販売を行っている。焼きたての長い角食は「まっすぐに持ってください」この言葉通り、柔らかすぎて型崩れする。袋に包まれた姿で濡れるものだから、少し開いて、角を摘まんで下に指をおろすとちぎれる様に・・・・・・もう、大興奮!・・・・・・数年前に勤めていた会社で定期購入が行われていた為、便乗したのは言うまでもない。
市内飲食店で「あれ?」と思うのは、大概おかめや。中央区なら、サンドリアの可能性も。
前にも書いた気がするけど、札幌は山から海に向かって扇状になった街で、東京都23区の約2倍、香港と同じ広さ。6割は森林。人間が住んでいる地域は札幌10区が全体の4割しかない環境で、中央区寄りの白石区で食べれるのは、ほんとに嬉しい。
さっきまで眩しかった窓の外に目をやると、大粒の雪がまっすぐ街路樹に降りる。
ロールカーテンを巻き上げると高い窓の向こう側に鉛色した空。晴れると放射冷却になるので、吹雪になっても、このくらいならいいと思える。
さて、温かいうちに食べよう。
------------
モーニングプレートの内容
・季節のサラダ:北海道興部町産ベーコン・黄パブリカ・ラディッシュ・りんごをトッピング
・自家製たまごサラダ
・ヨーグルト:いちごジャム付き)
・季節のスープ:ほうれん草のロースト胡桃トッピング/プラス100円
------------
厚切りトーストは四角いバターが溶けてパンの切り目に落ちる。
ナイフで少し押し付けると乾いた音を擦りながら、理想的な溝バターに!右手にフォークを持ったままトーストを掴んで歯の間に挟む・・・・・・さくり・・・・・・残酷な圧力を受けて嚙みちぎれる。普通の食パンなら。
おかめやの食パンは歯を埋めたまま、手を遠くへやると、むっちりと伸びながら裂ける。
例えていうなら、ストッキングの伝線と似ている。極細糸の繋ぎ目に穴が開いて、引っ張られることで縦に裂けていくあの感じ。わかる?思い切り噛んでやらないと歯がパンを貫通しない弾力と柔軟さ。じわるバターから乳製品の香りが鼻に抜ける。何度も。
うまい。なんて、素っ気ないリアクションはできません。
仰け反って喘ぎそうになるくらいセクシーな局面で、やばっ・・・・・・パン全部食べちゃいそう。落ち着け、私。
本日のスープ、カップに口付けて飲み込む。
がっつり野菜の味がする私好みのスムージーに、ローストした胡桃がめちゃ美味しくて、これ・・・・・・酒じゃね?(酒と男ってすぐ欲しくなるよね)
興部ベーコンはスーパーでも取扱いがあるけど、ちょっとしたお値段。
朝から2枚も食べれるのは、贅沢だよ。
たまごサラダは塩加減とソフトな触感、このくらいがいい。もう全部が心を掴む要素。
ドリンクは土倉のほうじ茶ラテ。
札幌に自社工場がある土倉は北海道で愛され続けて60年の老舗。CMソング「だから土倉のお茶に決めてます♪」祖母の代から飲んでるから私で三代目。
北海道では、ほうじ茶のことを、番茶と呼びます。
香ばしさの順だと番茶>麦茶>とうきび茶。土倉のとうきび茶とっても美味しいので、メーカーから販売している【北海道大地の恵み・北海道産の麦茶/とうきび茶/黒豆茶バラエティパック】おすすめ。こちらの商品は全てノンカフェインなので、小さなお子様や体調管理が必要な大人まで幅広く、そして美味しくご愛飲いたただける自信があります。もう、うちはこればっかりですから。
ドリンク2杯目が割引になるから、お抹茶とショコラオランジュ/期間限定どっちがいいかな。
思考をまったりとさせる酸味控えめなヨーグルトを彩る、いちごジャムは甘酸っぱい「初恋の味」です。
食品アレルギーで、バラ科の果物ほぼ食べれなかった頃。それでも食べたくてアレルギーの薬を2週間飲み続けて、やっとひとくち辿り着く。その至福に魅せられたのは、今から8年前。俺たちのオンちゃんが豊平区の坂道から中央区に引っ越して、それも大通駅直結という立地の札幌市民交流プラザにMORIHICO.芸術劇場がオープンした。
夏が暑くて、頼りない秋の窓辺に座った私は、当時トレンドだったフルーツサンドを迷わず選んだ。
キューブタイプのおすまし顔でやって来た噂のフルーツサンド。掴んだら肘を上げて、口の中に放り込む。
わ、
わ、
・・・・・・わや。 ※北海道弁「なまら」の上位互換。
私の日常会話で、フツーに北海道弁が出る属性。
うまいべぇ~食べてみれ/函館〇〇〇CM風ではなく、わや。この一発で具合がわかってしまう道民の皆さんと、握手。
これは森彦のコーヒーが美味しく飲めちゃうやつで間違いない。ライトなコーヒーを好む私にとって森彦のコーヒーは正直、苦すぎて、飲み終わった後に胸やけ必須で晩ごはんが食べられなくなる。あの違和感を洗い流す、上質な生クリームと見るほどに可愛いルックスをクリームの間から覗かせるいちごはキュンとした甘酸っぱさ、私まんまと丸め込まれる。これはトータルバランスの美食として優勝しちゃうのでは、と思いましたが・・・・・・
森彦のコーヒーは苦くて、未だ苦戦している。
カフェなのに。あろうことかコーヒーを注文しない、いちごファンの私。
それでも森彦を選ぶ理由は、各店舗コンセプトがあり、ファブリックな空間で私のボディに必ずマッチする椅子があること。お客様目線でいうと、座り心地は、居心地です。この条件を満たすカフェ、あまり無い。
たくさんの好きと、思いでがある森彦に、死んでもいいほど恋してる。
片思い歴8年、好きになったら一途な私はXで創立者である市川さんに出会った過去があります。
市川さんの上梓した自書には、こう書かれている。
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カフェなんかこの世になくても究極的には困らない。だけれども、この世からカフェが無くなってしまったら、僕たちはどの場所で夢想し、愛を語り、希望を見出したらいいんだ。
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それは私の心に、ゆっくりと降り積もる雪にも、似て。
春まで待てない。逸る足取りで古民家の本店に向かった。軋む床板、急な階段を登れば、窓から見える景色はまだ寒々としており、でもここで確かめたかったんです。彼の愛情を。その全てが私の為にあることを、どうしても。
森彦のケーキ
一番好きなのは、りんごのシブースト。
おそらくケーキの種類でシブースト愛が深い。牛乳、玉子、砂糖で作られたクレームを冷やし固めるシンプルなケーキ。
昔、いたのよ。これを上手に作る魔術師が、確か人妻に横恋慕してたっけ。
彼は腕組みを解いて「ああ、これを食べたらいいんだね」そう、私はりんごが食べられない。でもずっと私の代わりに思いで多きシブーストを食べて感想を聞かせてくれる。窓際の狭い席に向かい合って座る、私たちの間にあるシブーストが角を無くす頃、深煎りのコーヒーに微睡む彼は「何だか他所の家に来ている気分で落ち着かない」私も最初はそうだったよ。でも、ここが好きだから一緒に来たかったの。
長らく一緒に暮らしてもデートなんかしない私たちはここで、やっと結ばれた気がした。
後に、市川さんに宛てたポストは・・・・・・
愛を語りました
希望をみつけました
彼と、ふたりで。
今日はどこの森彦にいく?
選択肢はたくさんあるのに森彦を選ぶのは彼を独り占めにしたいから。俺の我儘を叶えてくれる場所、ないと困るよ。
いいねを送ってくださったこと、今でも嬉しく思っています。ありがとう。
深愛なる慕情を込めて────
また、いつか愛の廿楽をついばみに来るから。チョコレートのクッキーは、お預け。
・
・
・
腹ごしらえが終わったら、さぁ希望を胸に次へ。歩きだせ、私。
むちゃくちゃ抒情的でごじゃりますがな。
枯れ葉が、自分のいた場所を見上げていた。
木馬は、ぼくか、ぼくは、頭でないところで考えた。
切なくって、さびしくって、
わたしたちは、傷つくことでしか
深くなれないのかもしれない。
あれは、いつの日だったかしら、
岡崎の動物園で、片角の鹿を見たのは。
蹄の間を、小川が流れていた、
ずいぶんと、むかしのことなんですね。
ぼくが、まだ手を引かれて歩いていた頃に
あなたが、建仁寺の境内で
祖母に連れられた、ぼくを待っていたのは。
その日、祖母のしわんだ細い指から
やわらかく、小さかったぼくの手のひらを
あなたは、どんな思いで手にしたのでしょう。
いつの日だったかしら、
樹が、葉っぱを振り落としたのは。
ぼくは、幼稚園には行かなかった。
保育園だったから。
ひとつづきの敷石は、ところどころ縁が欠け、
そばには、白い花を落とした垣根が立ち並び、
板石の端を踏んではつまずく、ぼくの姿は
腰折れた祖母より頭ふたつ小さかったと。
落ち葉が、枯れ葉に変わるとき、
樹が、振り落とした葉っぱの行方をさがしていた。
ひとに見つめられれば、笑顔を向けたあの頃に
ぼくは笑って、あなたの顔を見上げたでしょうか。
そのとき、あなたは、どんな顔をしてみせてくれたのでしょうか。
顔が笑っているときは、顔の骨も笑っているのかしら。
言いたいこと、いっぱい。痛いこと、いっぱい。
ああ、神さま、ぼくは悪い子でした。
メエルシュトレエム。
天国には、お祖母ちゃんがいる。
いつの日か、わたしたち、ふたたび、出会うでしょう。
溜め息ひとつ分、ぼくたちは遠くなってしまった。
近い将来、宇宙を言葉で説明できるかもしれない。
でも、宇宙は言葉でできているわけじゃない。
ぼくに似た本を探しているのですか。
どうして、ここで待っているのですか。
ホヘンブエヘリア・ペタロイデスくんというのが、ぼくのあだ名だった。
母方の先祖は、寺守だと言ってたけど、よく知らない。
樹が、葉っぱの落ちる音に耳を澄ましていた。
いつの日だったかしら、
わたしがここで死んだのは。
わたしのこころは、まだ、どこかにつながれたままだ。
こわいぐらい、静かな家だった。
中庭の池には、毀れた噴水があった。
落ち葉は、自分がいつ落とされたのか忘れてしまった。
缶詰の中でなら、ぼくは思いっ切り泣ける。
樹の洞は、むかし、ぼくが捨てた祈りの声を唱えていた。
いつの日だったかしら、
少女が、栞の代わりに枯れ葉を挾んでおいたのは。
枯れ葉もまた、自分が挾まれる音に耳を澄ましていた。
わたしを読むのをやめよ!
一頭の牛に似た娘がしゃべりつづける。
山羊座のぼくは、どこまでも倫理的だった。
つくしを摘んで帰ったことがある。
ハンカチに包んで、
四日間、眠り込んでしまった。
聖体なき受肉(天井の うつくしいもの)
北の果て、国境の街ではなぜか、
カンツォーネが響き渡っている。
マツキヨで買った胃腸薬の止瀉成分を調べたい。健康志向とは真逆の嗜癖によるものである。いつもの如くスマホも持たず出てきたようだ。
考え事をしながらコンビニまで歩く途中で見上げた空が、
いつかの旅路と繋がっているような錯覚に囚われていた。
駐輪場から電動アシスト自転車による再出発を図った記憶と、4時間前にLINEの既読をつけた記録がある。
サンクトペテルブルク、不凍港の役割、眠らない港で番をする者、完全なる意識消失の手前、氷点下の街では吐息の長さと唇の厚み、余計なひと言が敗戦者を暖炉で炙り出す。
ー連想をやめない脳に閉じこもってキーワードを拾っていただけのはずが。周囲はすっかり暗くなっており、駐輪場から2km以内を私は小径サイクルでグネグネと小刻みな蛇行を続け、さいわいか、大幅な脱線もないまま。
冷えのせいで線状にさしこんだ腹痛に急かされ、手に取った薬を
飲み干すためだけの水を求め、
Sans ristorante・サイゼリエ大聖堂の軽い扉を引いた。
早速、ドリンクバーとフォッカチオだけ頼んだ罪が、罪状リストに追加されたようだ。
スタッフの女子により、提示するQRが読めず手間取らせた旨も追記されている。字が可愛い。
と脳内でタイプする音が聞こえるようだ。
二杯目のカフェオレを飲み干す頃には後頭部がすっかり新雪に包まれ、
釧路、ナポリ、択捉、フィレンツェのあわいの街では、語尾を「サイゼのおいしい水」と共にデロンギ製の銀色の箱で溶かし込んでしまう。これは演歌の歌詞か。北国の春?襟裳岬?
不凍港の止瀉。休戦にも似ている。暖炉、ウォトカ、グラッパ、甲種乙種、、、
散漫の極みで連想を続けていた回路にもどうにか糖とカフェインが供給され、
視界は狭まり、焦点が遠くなっている。
気を抜くと変な中年が虚空を見つめており、簡単に公衆良俗に反するのだ。
スマホを持ってくればよかった。
他人と関わっているフリができるから。
聖堂では伝票とボールペンを駆使すると罪状が増えるから。
読みかけの八木重吉『うつくしいもの』を持ってくればよかった。
天井でラッパを吹くミケランジェロ的天使を見て、いや、宗教体験とサイケ、fMRIによる測定データ群をなんとかっていう海外の論文の、GPT-5.1 thinking に訳してもらった章の……と思い巡らす。
♪嗚呼北の街では 後悔ばかりを鴎が 嘴でかすめ〜
そんな歌詞はない。
国境の、また隣の国との境にはローマ風の教会があり、
ピザなどという食べ物は存在せず、
ピザを食べたこともない誰かがネトフリで観た
「シカゴピザ その歴史」というようなタイトルのドキュメンタリー映像を見ながら
書き起こした文章を、
料理などは目玉焼きが関の山、の溶接工が、材料だけは揃った台所で拵えたようなものがピッツァとして供される。
―それを聖体なき受肉と呼ぶ。
天井では赤子の天使がふたり抱き合って、
空想癖の人間、それも人より首尾が悪いせいで罪状リストがやや長い者を笑っている。
セビリア大聖堂を臨むホテルの部屋番号は1783だっただろうか?
サイゼのメニューの1969番めがロペラミドならば シロシビンは1958に位置するだろう。歴史になぞらうのならば。
国境の街では、個人の代表として領土について語らなくてはいけない時、足元で根雪の層を踏み固める自らの爪先を呪ったふりをしなくてはいけない。
チーズフォッカチオにオリーブ油とホットソースをかけてシカゴ風ピザを再現した罪が追記される。無責任のツケが重い。
きっと再び電アシのペダルを漕ぐ頃には、また自分の輪郭など溶かしてしまいたい。
鐘が、鳴ったような気がする。
―サラミ無き受肉、または天ヌキの天使。
𝚂𝙷𝙸𝙽𝙸𝙶𝙸𝚆𝙰 𝙻𝙰𝚂𝚃 𝙱
2026/01/27
基本をおさえたリリシズム
推薦対象
サーカス
by afterglow
乱れなく豊かで、彫りつけたような美しい詩
濾過された声
母との待ち合わせ場所へ行くには、駅からかなり歩かねばならなかった。この場所のように、都市とそのベッドタウンと、そのベッドタウンではたらく人々が仕事以外の生活をする場所に、まだ適切な名称はないのだろうか。
深い緑いろの胴体に、白い屋根が載せられたログハウス風の建物は、その周辺を、かざらない印象の、白をベースにした背の低い草花と、うさぎや小人の置物で装飾したかんじの良い庭で囲ってあった。中に入る前にぐるりと一周したところ、駐車スペースの反対側には、テラス席があり、テーブルやイスは、木製のように見えたが、ガラス越しなので詳しいことは分からなかった。建物へ向かう数段の階段は、靴底が当たるとカンカン音を立てるので、それに気を取られて、うっかりと蹴飛ばしてしまった銀色の、やけに軽くて私の拳くらいのサイズしかない小さなバケツを元にあったであろう位置へ戻す。
この暑さのなか、駅から25分も歩いたために、私は汗をだらだら流していて、小さなバケツなんかどうだってよかったのだが、そのままではなんとなく後味がわるい気がした。よっ、と声をかけて、膝を折った姿勢から、もとの姿勢へもどり、扉をこちら側へ引いて、中へ入ると同時に、キンとした冷房の涼しさと、いらっしゃいませ!という複数の女性の声に迎えられた。
ご予約は、と一番近くの店員に尋ねられ、ああ、予約していて、連れが先に入っているんです、若林といいます、と返す。店員の女性は、一瞬、黄色い花柄のバンダナから溢れた髪を耳にかけ直し、私の角度からは見えない店内を見渡したあと、案内ボードを注意深く確認してから、こちらへ、と私を店内へ案内した。
信じられないくらいざわざわした店内では、20代から60代くらいのあらゆる女性たちがケーキを食べ、紅茶を飲んでいる。そこの喧騒は、小学生の頃、500人くらいの生徒が集まる体育館での全校集会が始まる前と変わらないくらいのざわめきで、私はここで、誰かとお互いを理解し合うための会話をすることは、きっと誰にも不可能だろうと思った。
案内された店内の私から見て、左端の一番奥の席のテーブルの中の左側で壁に少しもたれながら、ホールの入り口の方を向いて座っているのが、母だと気づくのに、少しかかったが、出された水をちびちびと飲んでいる姿を見て、ああ母だ、と思う。店員は、私を席に案内したついでに、私の分のグラスに水を注ぎ、母のグラスにも水を足した。店員が、メニュー表をもってきて、今日のおすすめがほうれん草となすのトマトソースだと伝えて去るまで、私たちは目も合わさなかった。
あ、久しぶり、と私が声を掛けると、母は、久しぶり、と返し、一つしか置かれなかったメニュー表を手に取って、目を通し始める。あー、その、元気?と、次切るのは、天気のことしか残らないペースで、私は母との会話カードを切ってしまう。元気も元気、昼間っからこんなとこ、元気じゃなきゃこれないよ、と返ってきて、私はそれに頷く。ここにいるさまざまな年代の客に共通しているのは、ありあまるエネルギーだ、そして、それは私に足りないものでもある。母は、メニュー表を一度隅から隅まで見たあと、また最初のページにもどり、二周目のメニューチェックを始める。店員に、もう一冊メニュー表を頼もうとするが、店員は忙しそうで捕まらない。それどころか、目すら合わない。諦めて、母のメニューが決まるのを待つ。
母は、ナスとベーコンのペペロンチーノとオレンジジュース、私は、本日のおすすめとウーロン茶を頼むことにして、呼び出しボタンを押して、店員を呼んだ。注文が繰り返され、飲み物は食前にということになり、店員は喧騒のなかへ去っていく。
私たちには、いよいよ話すことがなくなり、ただお互いのドリンクを心待ちにするよりなかった。それから少しして、おろおろとしながら、学生のような店員が、ドリンクを盆に載せてこちらへきた。私は、お手拭きや水の入ったグラスを壁際に寄せる。店員はにっこりして、何かの確信の下の行為なのか、ウーロン茶を母、オレンジジュースを私に提供して、消えていった。私は黙って、オレンジジュースのグラスを母の方へ押しやり、代わりにウーロン茶をとった。いやだわ、ああいうの、という自身の発したひと言が、トリガーとなったように母は、彼女を苛立たせるあらゆる物事について、堰を切ったように話し出す。パート先に新しく来た社員が信じられないくらい使えないこと、同僚が孫自慢をしてくること、近所のスーパーの店員の態度がおそろしく悪いこと、父が映画を深夜まで見て、彼女と口を聞かないのが気に食わないこと。この洪水のような発話を、止める術がないと私は27年間の母-子関係で熟知しているため、曖昧な相槌をうちながら、ただパスタか、前菜のサラダかが来て、一瞬でも私が自由にできる時間がくるように祈った。
私と母のもとにサラダがきたとき、急にヒートアップした母の声に驚いた私は、ウーロン茶のグラスを引き倒しそうになった。なんとか私はそれをパッと手を出して支えて、ことなきを得たが、母はその一瞬の出来事にも、目の前に置かれた彼女の分のサラダに目もくれず、日頃の鬱憤を晴らそうと、オレンジジュースを片手に話し続けている。
私は、フォークを2人分、カトラリー入れから取り、一つを母に渡し、母にことわってから、サラダを食べ始めた。ドレッシングが甘酸っぱいような味で、水菜やサラダもしゃきしゃきとして、美味しかった。てっぺんに乗っていた、コーンをチョイチョイとあとで食べようと避けつつ、サラダを食べ進める。
好き嫌い、まだあるの?
私は顔をあげる、母が白けた顔で私の方を見つめていた。まあね、まだ少しある。でも、嫌いなわけじゃないよ、食べる、けど、最後でいいかなって。私はそう言いながら、逃げるように、水の入ったグラスへ手を伸ばした。「そういえば、この前、お父さんが、ポップコーンなんて家で作ってた。後始末せずそのまま、お母さんが後は片付けた、いつも通り」。
コーンを避ける私をチクリとしたついでに、ポップコーンへ連想をつなげ、見事に父の愚痴へと着地する母のみごとな姿は、オリンピックならメダルが貰えるレベルかもしれない。まあ、あれでしょ、映画、映画見て寝落ち……。よくあるよ、私もよくする。まあ、まあ!片付けは自分でしなきゃいけないよ、そうだけど!と言いながら、私はコーンを一粒、フォークの先に突き刺した。
あんたはどっちにもいい顔をする。
地を這うような声に顔をあげられなくなる。それは、たしかに度々指摘される私の悪癖だった。フォークの全ての先端にコーンを一粒ずつ装着しようとすることを、顔を上げない口実にしようと私は足掻く。そのうちに、それぞれに正しいパスタが届いた。私は、すべての先端に、ブーツを履いているみたいにコーンを刺されたフォークを見てふふと笑って、それを口に入れて、なるべく雑に噛み、すぐにウーロン茶で飲み下した。ウーロン茶の少しの苦味が、コーンの甘さを和らげる。パスタは特筆することはないが、まずまずの味で、私はそれなりに満足したが、母は味については何も言わずに、引き続き何かに悪態をついていた。
わたしはいつのまにか、母の声だけが聞こえない世界へ行く術を身につけてしまっていて、今も何か濾過装置みたいなものが起動して、母の声だけを通さない。サイレント映画みたいに、ぱくぱく、と母は口を動かし続ける。その間も、世界は回り続け、音を発しているのに、お母さんだけが、妨げられている。
(いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか? 本日のおすすめは……。もう孫がかわいくて可愛くてねえ。本日のケーキは何かしら? あのひとはだめだめ! やっぱりマッチングアプリにいいひとなんかいないよね! )
テラス席の方から、ちいさなポーチ片手に白いワンピースを着た女性が、こちらへ向かって歩いてきたのは、私がパスタの中のベーコンにフォークを刺そうとしたのと同じ時だった。白いワンピースから出た手が、健康的に焼けていて、その、日焼けした肌と白い布の作るうつくしいコントラストに目が吸い込まれていく。そのひとはさっさといってしまう。おそらくお手洗いに行ったのだろう。それよりも、私は、白いワンピースに包まれていた、いつかのおかあさん、を思い出していた。
おかあさんは、私と同じで、(私が母と同じで)やけにしろくて、だからさっき見たようなあわいコントラストはできない。ただ、白い布に包まれた白い身体があるだけだ。わたしの左の上腕には、いくつか離れて火花が散っているような黒子があった。今もあるそれらを、当時は、何かあるといつも、指先でつないで、はやくおかあさんの気分が変わりますように、と願って、でたらめな方向に頭を振って、(すべてがまざるように、)わたしという、さなぎのなかみが均一にうつくしく塗りつぶされて、おかあさんを怒らせないにんげんになれるよう祈っていた。ふるえている赤いジャムのついたスプーンを掴んだ子どもの指先が、白いパンをめがけて、食卓上をたどたどしくうごく、このときに怒られているのは、わたしではなかったけれど、標的は、ねこのきまぐれみたいに変わった。わたしも、お父さんも、代わりばんこというか、常に標的を流動的に変えるおかあさんになれてしまって、もうどうしようもなかった。もう、わたし自体が、早いうちに何かに食いちぎられていて、吐き出された吐瀉物がわたしというにんげんのかたちをして、おかあさんの前に立って、頭を垂れているだけだったのに。だが、そうやって、ある種の知恵を身につけることが、わたしがさなぎから、孵るということだった。
泣くなんて、嘘だよ。私が私へ言い続けた言葉。泣いたらお母さんはもっとひどくなる。泣くなんて、嘘だよ。おかあさんは、そんな私の様子に気づくことなく、いまだに皿から、どろどろした吐瀉物を、大切な娘にするように抱き上げている。
でも本当はちがう。お母さんは、私にお母さんのお母さんになってほしいんだ。母の母、私の祖母は、とにかく花が好きで、花を育てることにだけ精魂を込めているひとだった。祖母は親としてはひどく未熟で、母は祖父と祖父の母に育てられてきたという。でも私は祖母が好きだった、まだ幼い子どもだった私からみても人として未熟なところは多々あった人だけれど、私は祖母には気を遣わなくてよかったし、祖母は私をとにかく甘やかしてくれた。庭でたくさんの花を見せてくれる祖母、西瓜を畑にぶつけて、来年もここに西瓜がなりますように、と二人で手を合わせて笑った。母がさみしい子ども時代を送ったことは、本人から何度も聞いて知っている。祖母はあきらかに親向きの性質、能力の持ち主ではなかったし、でもお見合いで祖父と結婚し、母を産んでしまったのだから仕方ない。母は子どものときに、ふつうのお母さんがいる家に憧れたという。だから自分は温かい家庭を作りたかったというのが彼女のいい分で、その相手としては父は不適だったという。
お母さんにはお母さんの話を聞いてくれるお母さんがいなかったの。その代わりとされた私は、母の話を随分たくさん聞いてきた。私は彼女の優れた愚痴聞き係として、かつ標的として生きてきた。十八で家を出たとき、家というのはこんなに静かで、誰からの制約も受けないのかと感動したものだ。
私は素早く、パスタをフォークに巻きつけた。もう私は母の標的になることはそうそうない。その役割を一手に引き受けていた父は、近頃、母に別れを切り出したらしく、今日もそれについて私は母から呼び出されたのだった。私にできることはなにもない、私は何もしないと、はやく告げなければならないが、私はのろのろとパスタなんかをたべている。この後のことを考えると、胸が勝手に苦しくなるが、本当に私に出来ることはなにもない。ただのフリーターの私が、母を迎えて暮らすのはあらゆる観点から無理だし、金銭的援助も今以上には、無理だ。
お腹が痛くなって、母に言ってから、ハンカチを片手に、お手洗いへ向かった。馬鹿馬鹿しいくらいうるさいここに、私の居場所がないことは自明だった。ならば、母はどうだろう。お手洗いのドアノブを握って開けたとき、しかし、私には、母がどのような暮らしをしてきたどのようなひとなのか、そして、その(物理的-精神的)居場所にも、すこしのこころあたりもなかった。
お母さんは、家族に尽くしてきた!と席に戻るなり始まった母の弁を私は深刻な顔で聞き流している。お母さんがどれだけ頑張ってきたか、と熱弁を奮いながら、感情の昂った母は、ついに顔を両手で覆って、ワッと泣き声をあげたように見えるが、いかんせんここはうるさすぎる。あんたには、わからないだろうけど……!と言って、母は顔を覆う手に力を入れる。
泣くなんてうそだよ。
私の声に、母がパッと顔を上げる、真っ赤な顔をしている、両目が充血しているのが見える、狼狽えた母を見て、私は反射的に口にしてしまった言葉を後悔する。子どもの頃からいつも、私はそう自分に唱えつづけてきたが、かといって、そのことを誰かに押し付けようと思ったことはないはずだった。母はぶるぶると、歳を重ねて皺の増えた手を振るわせながら、水の入ったグラスを取る。そこに水は入っていない。私は机を転がってきたグラスを掴んで、きちんとあるべき姿の向きへ戻して、母の手元に遣った。ここがうるさすぎる場所でよかったと心底思った。
足元の荷物入れから、肩掛けの鞄を取って、黒い財布を取り出し、そこから三千円を出してテーブルの上に置く。そして、ちいさな紙袋をそこへ添えた。「お母さん、誕生日、近いから。おめでとう」。母は今度こそ本当に泣き出しそうになりながら、テーブルの上から目を背けている。「もう帰るよ、お母さんも身体に気をつけて。じゃあ」。私は席を立って、店内を横切り、レジにいた店員の女性に、連れがまだ中にいる旨を伝えて店を出た。カンカンと小さな階段を降りている間にも、ひんやり冷たかった身体が、すぐに夏の熱気に包まれてぬるくなる。庭に目を遣れば、薄い紫色の蔦性の花が地面を這って、敷地から溢れ出しそうな姿で咲いている。それはクレマチスと言うのよ。いつか祖母がそんな風に言っていた気がする。そういう母の声の濾過された記憶ばかりが、ある。
リューフの犬
リューフの犬
風のつよい日は全く、
すべてが揺れどよめく、
わたしが試されているように、
風、わたし、吹き飛ばされて、ひもじい、野に放たれた、犬みたいに、とにかく走る、
日傘をさす必要のない日、わたしは黒い日傘をひろげて、しらない国のパンの匂いを探して、地図を辿る、パンの匂いは、パン屋の厨房だけに立ち込めて、パン屋の周りからする匂いはすべて、うそだとあなたが言った日、わたしのお腹にスッと切れ目が入って、ホイップクリームとジャムがはさまれたので、わたしはすべてを疑うあらしのような女になり、あなたのなまえはリューフ、わたしはあなたに忠実だった、
あなたが見せてくれるといったもののひとつに、鎮魂の踊り子が麦畑に降りたつ風景。
わたしがひとりで乗り継いだ先、とても揺れて、がたがた道を行くベビーカーのなかにいるようだった、地方の私鉄、の車窓から見えたのはダンス、豊穣のダンス、
適当な駅で車内を後に、わたしはそれをみた、麦畑で、
つばさをもたないダンス、
首輪をもたない、
つよい風の中、身を切るようなダンス、力強い、もう存在しない、わたしの切れ目に触れてみようと手を伸ばす、わたしは、ダンス、弱々しく、ダンス、やはりリューフのために踊っていたい、
何もかもを捨てて、風のようなあなた、籠と黒い日傘以外の何も持たずにわたしが追いかけること、ダンス、あなたがいない、ダンス、どこにもいかない、
聞き分けのよい鳥
家の図書室から連れ出してくれる人を探して
一冊の本のページに夢中で飛び込んだら
先生 私はあなたに出会った
秘密のお小遣いの何億何兆倍も魅力的な
国歌斉唱のとき座ったままのあなたに
あなたが騙るあなたは
焼け跡に咲いた素朴な花のようで
何度も読み返しては
そのたび体温を与えられた気がした
先生 あなたは信じてくれた
正しさの水で傷口を洗ってくれた
でもいつしか私は
あなたに見られるための身体になり
口調を真似て 思想を暗記し とうとう
デスクの下で聞き分けのよい鳥になった
先生 名前を返してください
醒めたい
最近世界がおかしいように感じます。
大学の講義中に息が苦しくなって、他の人の声が聞こえなくなりました。読めるようになったハングルが、平仮名が、漢字が、文字が読めなくなります。
なんだかおかしいと思って、教室を出て医務室に電話をかけてみます。気付いたら私は車椅子に乗っていて、キャンパスのそこらじゅうにいる人からの視線を浴びながら医務室まで運ばれていました。恥ずかしかったです。
この世界が映画の中のようにも感じます。夢なのか現実なのかなんだかよく分からない空間にいつの間にか私はいるのです。日中は外に出た方がいいと思って、散歩をしています。ですが気が付いたら世界にフィルムがかけられ、平面的に感じるようになるのです。私はロボットのように、生ける屍のようにコントロールができなくなってしまいます。
そうしているとなんだか心がどんどん塞がってしまって、憂鬱な気分になるのです。こうなってしまった時、なぜかどうしても辛くなってしまって腕を切ってします。良くないことだと思います。
気が付いたら友人から連絡がきていました。私から連絡したらしいです。覚えがありません。私ではない誰かが勝手に連絡をしたのです。携帯電話は一日中私の手の中にあります。
では、一体誰が?
そういえば時間の進みが早かったり遅かったりしますね。最近世界はおかしいので、こういうことがあっても不思議ではないのかもしれません。
聞くところによると、誰かが勝手に私の体にログインしているらしいです。どこからパスワードが漏れてしまったのでしょうか。私の脳の履歴にないことが、現実にはあります。誰が私の脳みそを食べてしまったのでしょうか。大分面白くないイタズラをしますね。その人は、ふわふわしてるらしいです。
体と心が麻痺してしまっているのでしょうか。心は何回も死ねるのに、体は一向に死んでくれません。おかしいのは世界ではなく私だったのです。
もう、赦してください。たすけて!たすけて!たすけて!誰かたすけて!
その誰かって、誰だと思いますか?
助けてと言っても、他人が助けてくれても結局その人が居なくなれば終わりなのです。自分のことをちゃんと救えるのは自分だけなのです。他人は自分の人生の責任を取ってくれません。これは私の人生です。私の傍にいてくれるのは、私だけなのです。
私は息が上手くできないし、心臓の音もうるさいし、何回も映画の世界にトリップしてしまうし、おまけに脳みそを食べられている。こんな私が私の傍にいてあげられるのでしょうか。私のことを救えるのは私だけ。私は私のことを認められません。助けてください。助けてください。助けてください。どうやったら助かりますか?どうしたらこのモヤモヤは消えてくれますか?はやくこの世界の悪意から逃げたいです。助けてください。助けてください。助けて、助けて。
こういうとき、腕を切ります。
家族
生き物がそれぞれの皮膚と皮膚とをへだてて
複数が単数にならない
その幸せをたやすく破壊するあなたがたと
明日からも同じ食卓を囲むこと
天国のない島
譲治は
転んでもすぐには泣かずに
ひざ小僧の痕を
ひとつふたつと
数えていた
数えているうちに
血が滲んできて
滲んでくる血を見ているうちに
お婆が寄り添ってきて
優しい手でひざ小僧を
ツルメックェー
ツルメックェー *
仕上げに
痕をさすった手で空を切った
譲治の
家のガスレンジの向こうには
仏壇のように
お茶とお酒とお米が供えられたヒヌカンがあって **
お婆は朝な夕なに
黒線香を立てていた
お米を取り替える時には
下げた米粒を譲治の頭にすりつけ
チャーガンジュウ
チャーガンジュウ ***
仕上げに
髪をさすった手で空を切った
譲治の
お婆はいろんな神様を知っていた
そして
いろんなムジナも知っていた
それは
George のパパの国にも
譲治の新しい父ちゃんの国にも
昔は住んでいたらしいけど
強い神様がやってきて
もういなくなったらしい
譲治は
生まれた時には「George」であって
「譲治」ではなく
お婆にはその違いも判らなかったが
譲治が
そのことに気付いたのは
随分小さい頃で
ずっと気付かないふりをしていた
母ちゃんはいつも
夜遅く帰ってくるので
子守り唄はお婆の声で
ナチュヌワラバー
ミミ グスグス ****
仕上げに
耳をさすった手で空を切った
譲治は
母ちゃんのやっている歓楽街のスナックに
初めて入ってみた
昔はドルが高くて
Pay day には大賑わいだったらしいが
この頃では観光客相手に
店からの帰り道
母ちゃんは突然
道ばたの草をちぎり
いつもお婆がやっていたように
〆に結んだサングヮーを作り *****
譲治の胸ポケットに挿した
「Georgeのパパは ベトナムに行く前に
この島は天国 と言ってたよ
でも、本当の天国に行ったけどね」
仕上げに
頬をさすった手でクロスを切った
譲治は
生まれた時には「George」であって
「譲治」ではなく
けれど
大人になった譲治には
パパの言った天国の意味も
母ちゃんの言った天国の意味も
心で感じることはできずに
ただ
〆に結んだ草を見つめて
空から聞こえてくる
お婆のつぶやくような
いくつものおまじないの声に
耳を澄ませていた
* チチンプイプイのようなおまじない
** 火の神を祀る棚
*** ずっと頑丈で
**** 泣いている童は耳グスグス、『耳切り坊主』の一節
***** 魔よけ、お守りのようなもの、
夜出歩くときに身に付けた。
掌編「天使代行」
知り合いから紹介されたアルバイトだよ。
仕事は「天使代行」。胡散臭すぎる……!
令和じゃ天使も隙間バイトで募集する時代だってさ。
指定された場所に行くと、不健康そうなお兄さんが待ってました。話しかけたら、同じく応募した人なんだって。天使って顔じゃないよ、目の下のクマがヤバい濃いし。(アダ名はクマ兄だな。)ちゃんと寝てる?
そんな俺もスキンヘッドだからキューピットにはなれないかもですが。
しばらくしたら、教育係の先輩が来ました。
めっちゃ美人のお姉さん、ラッキー。
今日の天使代行のお仕事は、偉い神様からのメッセージを指定された人に伝えるんだって。めっちゃ楽。さすが隙間バイト。人間相手だから天使役も人間がやるのね!
終末のラッパとか吹いてみたかったけど、まだやる予定無いらしいよ。
気になったのは、お姉さんのヤル気が全然無いこと。話してみたら、なんとお姉さんもバイトだってよ!天国も随分と経費削減なんですねー。
じゃあ本職はなにしてんですか?って聞いたら、まさかの看護師だって。えっ、普段も白衣の天使、やってんのかい!って心の中でツッコミ入れちゃった。
クマ兄の仕事も気になるな、と思ってたら胸元に銀の十字架が見えました。
マジモンの聖職者ですかー?って聞いてみたら、いえ悪魔祓いです、だってよ!
あ、そっちですか!なんで天使代行なんかに応募してるわけ!?夜通し悪魔と戦ってるから寝不足なのかも?不健康そうだもんな……
二人のやり取りを見て、お姉さん退いてないといいけど。そうだ、一つ聞いておかないといけないことがあった。
お姉さん、俺、実家が寺で仏教徒なんですけど、それでも天使代行やってもOKですか?
はい……完全にお姉さん呆れてるわぁ。
その時、彼女の胸ポケットからメロディが鳴った。
~♪(ワーグナーのワルキューレの騎行だ……も、黙示録……!)
液晶を一瞥して、こっちにスマホを寄越す。
相手は、神様って書いてあるけど。。。
「もしもし?」
「もしもし、あーワタシ神様ヨ。キミ達、この仕事ナメてるデショ?冷やかしならカエッテ!クビよ!」
……無言で、スマホをお姉さんに返した。
すごい冷たい視線で俺らを一瞥したお姉さんは、何も言わず帰っていってしまった。
取り残された二人。
ボソッと隣のクマ兄に俺は尋ねた。
「あのさ、悪魔祓いってどれくらい稼げる?」
俺は今、猛烈に金欠なのだ。
羊と兎
走る車の窓からの夏の光はさびしい
センチメンタルやエモーションではなく
あれらはもっと暗い地点にある光
愛されて育った人と同じ言葉を持てない
冷やかし以外で使ったことがあまりない
汎用の形容も嘆息も使いたくないのに
他者を見るときまなざしが泥のように深い
ご先祖様のセックスと蛮行の連続でできた
心と身体は文章題の点Pと点Qだ
大人は汚いと真顔で言う中年は危ない
わめくガキは嫌い わきまえた若者も嫌い
家の黒い雌羊として生まれて生きて
どこにも属すということができない
いいんだよと簡単に言ってくれる人は
まもなく女を寝室に引っぱり込むだろう
社会は複雑怪奇な森林の類であるらしく
ここでは善良な市民も一羽の肉食の兎
みんなで悪賢いおばあさん兎になろう
彼女たちの事情~愛しすぎる女たちのうたう詩~
眠れない夜 パソコンに向かって
「死にたい」と検索してヒットする件数61,600,000件
あなたは ひとりじゃない
というコトバがむしろ逆説的に
ますますひとりを感じる午前1時
***ケース1 ユウコ
思えば子供のころから ぐっすり眠れたためしなんてなかったわ
家の中はいつもごたごたしていたし
毎夜いろんなものが壊れていく音が聞こえてたから
我慢して眠りなさいと 母はそれ以上かかわりたくないといった感じで背を向けてしまうし
仕方がないから無理矢理目を瞑ったけど 眠れるわけなんかなかった
暗い天井をずっと見つめていたら 得体の知れないものたちが
なにやらうようよ蠢いているように見えて
怖くなってふとんをすっぽり被って
大丈夫 大丈夫 なんてことない なんてことないって
まるで何かの呪文かおまじないみたいに
何度も何度も そうつぶやいていたわ
やがて疲れて眠ってしまうまで
あのころからはじまってしまった不眠症は
1日分の睡眠薬くらいじゃビクともしなくなってしまった
強い薬と強いお酒で意識を失ってしまえれば
何も考えず 耳障りなあの音あの声を思い出さないでいられるなら
他のことはもう どうでもよかったのよ
どうでもよかったの
***ケース2 さなえ
誰が使ったのか 誰が触ったのかわからないものなんて
気持ち悪くて 絶対に触れない
ジュースの回し飲みなんて よく平気でできると思うわ
古着とかビンテージものとかいって
いかにも付加価値があるように思わせてるけど
要は人のおさがりじゃないの
どんな人がどういうふうに着ていたのかもわからないのに
お洒落ぶっちゃって 何が格好いいよ
そんなものに高いお金使っちゃうなんて ホント馬鹿じゃないの
部屋が散らかってても平気な人とか
頭がおかしいんじゃないかと思うわ
足の踏み場もないほど物であふれかえった部屋の中じゃ
とても安心して息なんかできないの
なのにみんな あたしのほうがおかしいって云うのよ
1週間も頭を洗わないで平気でいられるなんて信じられないって
***ケース3 マユミ
痩せてなきゃ かわいくなけりゃ
他になんにもないあたしなんか
誰も振り向いちゃくれないわ
ああ あごの肉が気になるわ
もっとウエストを細くしなきゃ
手も足ももっともっと華奢でなくっちゃ
綺麗にさえなれば きっとなにもかも上手くいくはずよ
あたしには2つ下の妹がいたの
あたしたちは姉妹なのにちっとも似てなくて
顔も可愛らしくって頭もよくっておしゃべり好きで
要領もいい妹ばかりを 両親は可愛がっていたわ
あたしは顏も頭もそれほどだし しゃべるのも苦手で
おまけに何をするのにもグズでのろまだったし
同じ姉妹なのに どうしてこうも違うのかしらねえ
やっぱり駅のコインロッカーで拾ってきた子だからかもしれないな
なんて よく真面目な顔して云っていたっけ
妹のことがキライとかかわいくないって思ったことはないけど
おもちゃも洋服も食べたいご飯も 家族のお出かけも
すべてが妹優先だった
お姉ちゃんなんだから お姉ちゃんなんだから我慢しなさいって
あたしだって好きで長女に生まれてきたわけじゃないのに
それで今日も 1万円も食糧を買い込んでしまったってわけ
あたしには何にもないから
せめて痩せてキレイになることくらいしか
食べてるときだけは安心できるの
けどなんでかな 誰にも見つからないように
テーブルの下とか トイレとかで食べてるの
自分でもよくわかんないのだけど
すっかり食べ終わったそのあとはいっつも
ものすごい罪悪感に苛まれるわ
「お前は自分自身をコントロールすることも 管理することも出来ないのか」って
どこからかそんな声が聞こえてくるの
だからあたし的には 食べてるときより
吐いてるときのほうが むしろ気持ちよかったりするの
***ケース4 みゆき
さっき彼から電話があったの
他に好きな娘ができたんですって
それにもうお前の面倒は見切れないとも云っていたわ
どうしてそんなことを云うのか あたしにはまったく理解できなかった
彼はとてもやさしかったし 愛してるとも云ってくれた
何度も何度もそう云ってくれた
あたしも彼を愛していたわ 愛していたの
彼は少しワガママなところもあったけど
料理好きで あたしには考えつかないような料理をいつも作ってくれたし
話上手で いつだってあたしを笑わせてくれて
そうして必ず 貪るように互いの温度を確かめ合ったわ
なのにどうしてなの?
あたしの何がいけなかった?
何か気に障るようなこと云った? した?
ふっ 結局はまた いつもと同じパターン
もうあたしはいらない必要ないってことなのね
わかったわ わかった いなくなってあげるわ
あなたが傍にいてくれないのなら
もう生きてたってしょうがないもの
安全剃刀を左手首にあてがい 一気に引いた
みるみる真っ赤な血があふれてきたわ
生ぬるい温度が腕を伝って少し気持ち悪かったけど
頭の中はとっても冷静だったわ 自分でも驚くほどね
そうしてもう一度彼に電話するの
あたし今さっき 手首を切ったのよってね
***ケース5 エミリ
両親からはとても大事に育てられたのよ
パパは欲しいものなら何でも買ってくれたし
料理好きのママが作るごはんは世界一だったし
あたしのためによくケーキやクッキーを焼いてくれたわ
誕生日会だって毎年やってくれて
クラスのほとんどの子がお祝いに来てくれたのよ
それも沢山のプレゼントを抱えて
はじめて男の子に告白されたのは小学4年生のとき
格好よくて頭もよくて運動神経も抜群で
女の子たちから一番人気のあった男の子だった
はじめて付き合うようになったのは中学1年のとき
ひとつ上の先輩から告白されて 付き合うようになったわ
あたしに告白してくる男の子は ひとりやふたりじゃなかったのよ
みんなとてもやさしかったし
あたしの云うことはなんだって聞いてくれたわ
「いま、ひとりぼっちなの」なんてちょっと甘えた声で電話すれば
必ず誰かしら駆けつけてきてくれたわ
あたしは見た目も可愛いし
みんな放っておけないみたいなの
だから淋しいなんて思ったことは一度もないの
そう ただの一度だってね
***ケース6 かずみ
いらっしゃいませ
いつもご贔屓ありがとうございます
お客様のために特別にご用意している品がございますのよ
こういったデザインのものなど いかがですか
スタイルのおよろしいお客様でしたら
絶対にお似合いになると思いますよ
ご試着なさいますか ありがとうございます
このお洋服でしたら たとえばこういった色柄のものなど合わせると
お顔の色もとってもきれいに見えますし
いま履いていらっしゃるスカートともとてもよく合うかと思いますよ
お買い上げでございますか いつもありがとうございます
毎日毎日ストレスが溜まってしょうがないのよ
仕事のできない後輩の面倒を見るのも
ミスの尻拭いをさせられるのも全部あたし
あのアニメ声の新人女 あいつよあいつ
ちょっとばかり可愛いからってちやほやされて
一体何をしに会社にきてるのかしら
あたしがどれだけフォローしてあげてると思ってるのよ
課長も部長も 同期入社のあのさぼり常習男も
みんな鼻の下のばしてデレデレしちゃって
めんどくさい仕事は全部あたしに押し付けるんだから
まったく やってらんないわよ
なんて 面と向かって云えるわけもなく
嫌なことも嫌と云えるわけもなく
だから ここにくるととても満たされるのよ
このお店にとってみたら あたしは上お得意様なわけで
すごく大事にされるし 特別扱いだってしてくれる
もちろん 買わせるためにおだてられてるってことくらい解ってるけど
これもお似合いですね あれもお似合いですね
なんて云われて悪い気はしないもの
***
淋しいと云えば もっと淋しくなるし
悲しいと云えば ウソっぽく思われて
だから無理くり笑っていれば
悩みがなさそうでいいよな ですって
別にそんな風に見えるならそれでも構わないけど
出来ることならあたしだって
やさしい女になりたいわ
かわいげある女になりたいわ
けど出来ないの
やればやるほどにこんがらがってほどけなくなるばかり
この結果がほら ご覧のとおり
みんな あたしから去っていってしまった
こんなのもう 笑うよりほかしょうがないでしょ
***
分裂した精神は 今夜も散り散りのまま
どこにも着地することもできずに
秒針のカチカチ音ばかりに神経を尖らせている
ずっと
ずっと
よごれ
七歳のころから私は不思議によごれている
先祖代々のおこないがこの一身にあるような
正体の知れないよごれ
抱きしめられたくてもできない
そういうたぐいのよごれ
本当は正体を知っているのだけれど
まっすぐ見つめれば死んでしまう
レーザー光線のよごれ
よごれの名前は私の名前ではないと
言ってくれた人もあったけど
信じてやれなかったから
今でも同じ公園の同じ隅をぐるぐる廻って
おかしな女だと噂されているのです
不具
チャーリー・カークが死んだ
今年で、三人目の
彼女の舌が鎖骨を這う
「サランヘヨ」と、引き伸ばされた요が
飛び立つひばりのように上ずり
やがて聞こえなくなる
ねえ、聞かれたら嫌なことを教えて?
聞こえないふりをする耳朶に
犬歯を立てる
力を入れるたび
彼女の腕が背骨を優しく包む
蓮の茎を締め付ける蛇のように
古い神話をたとえとして
私たちは生きたまま焼かれる
私たちの遺体は海に捨てられる
彼女の泡のような発話に
私は海に沈むひと粒の真珠となり
音のない世界を降りていく
泡のように発話される
私たちの異なる言語が
絡みついては
振りほどかれて
舌が胸の下の助骨を這い
柔らかい鉄のように折れ曲がる
唇がうなじに触れ
言葉にならなかった
たくさんのことが
彼女に流れ込んで
しまいそうで
酸素のない水槽で
魚たちは
泳ぐでもなく
慌てるでもなく
ただ、鈍く
生きている
今年で、四人目の
殺人の報せが
るるとして
彼女の口から
紡がれている
朝をとじこめる
目をつぶり、握っている
握っていると安心する
こころはまもられて
面に膜が張って、そのうえに置かれている
遠くに炭が燃えていて
じっじっ、と空気をふるわせている
目を閉じると、蚕にもなれます
鳥にもなれます
鳥は明け方、もう起きていて
追いかけっこをしています
隣にいないひとがいて、安心
煙がはしごをのぼっていく
道行く人を上から眺める
あなたたちは、虫になれる
マネキンが手を広げている
飲み終わったジュースがたくさん
肌を撫でて登ります
電線を綱渡りするねこ
ねこねこねこからすねこ
ダストシュートで放り出される鳩
はとはとはとドブいろ
すぽんと丸まります
握っていると、金属のやさしさ
奥歯の痛みもわすれてしまう
自販機で古代エビを買う
湯をかけて三分まつ
はつらつとした新代エビになる
冷蔵庫のブーンという音に
鼓動が眠っており
目なしであやとりをする
迫る、ウォーター、迫る
感センサーで、照らされるパイロン
卓上の石に
額を預ける
曲がったビル
手をかけて登る
手には古代インクがあります
溝に沿って並ぶので
▼
とまではいかないものの
室外機に回される犬
がサモエドだった場合。
石を数珠繋ぎにしてマントを編んだとき
ガソリンスタンドでは
円周率が洗車されていた
かすかに苺の気配があり
それは予備校に漸近していく
粒になって吐き出された
すべて煙で説明できてしまったら
太極拳体操が湯気をつめたく持ち帰り
南極にとじこめた
ここからさらにとじこめていく所存
だからPARTYとはおそれいった
鳥の形と相似形をなし
二階にハンバーガーが運ばれ
名前をつけていくことだけが
抵抗だとすれば
朱鷺色平茸として
ドーナツにもドードーが宿るはずで
新たに発見されるいくつもの
反射鏡、装いあらたに
葉で隠すとよい
すべての災厄から守ってくれるタイマー
もう切るよ
交換しよう
恋の実
二月十四日。
机の中に置かれた恋の実。
中に誰にも知られたくない想いがあり、丁寧な包装に包まれている。
それを発見した青年。
持ち上げてそれを見る涼しい顔。
立ち上がり、近くにいた一人の女子の肩を叩く。
会話する二人。
くれたのか、と尋ねる青年。
女子はポニーテールを揺らして首を振る。
困惑する二人。
誰から、と尋ねる女子。
青年は首を傾げて、恋の実を近くの棚に置き去りにする。
距離が近い二人。
やがて触れ合う手。
それはそれは、品種改良のされてない“いちご”のよう。
並び歩く二人。
それを見ていた私。
置き去りの恋の実は独りで回収した。
青い鳥
霧の国のさびしい顔をした灯台に
生まれてすぐ秘密という鎖で繋いでおいた
青い鳥はいまも大きく翔んでいけない
正当化された海と空に立ち向かう力もなく
繋がりへの敵意ばかりを燃やしている
親鳥よ あなたのフィクショナルな天使は
そのために育てていたのですか
鳥の頭には疑問が多い
青と青との綱引き遊びで生き物が裂けて死ぬ
その裂け目と悲鳴が美しいすべての泉
だとしたら命はどこへ消えてしまうのか
ある人の若さや知恵や創造性といった賜物は
文明にあってはしばしばたやすく収奪され
気づけば洗練された大鷲の巣で眠っている
それでもかろうじて呼吸している
その呼吸は果たしてかれ自身のものなのか
鳥にはとても難解だった
オワレナイ
モモのままでメロン
(じゅるじゅるじゅる)
モモのままでメロン
(じゅるじゅるじゅる)
アタシをヤミツキにする
このグラデーション
どうでもいいけど
どうでもよくはない
バナナのままでママン
バナナのままでママン
になりたい
好きにさせて
銀幕のスターたちは
二次元空間にピン留め
(昆虫採集は嫌いじゃない)
それにしても
あれにしても
このミストシャワー
夏の盛りに
ミントのにおいがする
(じゅわんじゅわん)
どうやら
かなしい結末が
待っていそうね
撮影前に
アップルパイをひとくされ
フォークとナイフのハーモニは
半分は夢
半分は現実
(悲しい結末は確定みたいだけれど)
モモのままでマロン
モモのままでマロン
(じゅるじゅるじゅる)
わかってはいるんだけれど
残酷な幕切れみたいだけど
このままでは
オワレナイワ
一矢むくいるわ
(その晩
寝たふりをしている
監督の後頭部に
そっと 忍び寄り)
思いっきし ガツンと
モモのままでトマト
モモのままでトマト
ああ 真っ赤になっていく
(じゅるじゅるじゅる)
ヤミツキになる
これいける
題を付さない
死に際、英子おばさんの胸から、レオが出てきたのは必然で、だってこのひと、レオ、レオってレオナルド・ディカプリオに、いのちを賭けてた
【開幕】
英子おばさんの胸を破って、無数のレオが現れる、
①三等船室でこの上なく楽しくポルカを踊り、
②憂鬱の種をめざとく見つけだして、死を迎えるロミオが、
③パイロットの制服を着て、離陸の瞬間に肩の高さで両手を伸ばす、
英子おばさんのひだり手の薬指には、長年つけてきた指環のへこみがあり、最後にこそ、彼女の宝物を、いのちのすべてを、その身体へをつけてやろうと、
彼女が胸の前で、蝶々結びにしていた両手の指を、わたしが一本ほどくたび、新しいレオがあらわれては、病室を歩き始める、
④狭い病室を歩くことに倦んだレオ(のうちひとり)は、
廊下へ出て、患者たちが食事を食べるテーブルまであるき、そこにずらりと並んだ、
フォーク、フォーク、フォーク ナイフ、ナイフ、ナイフの群れを見つけると、
小さな声で隣に座った老女へ、どちらから使えばいいの、と尋ねている、
(これはタイタニックのレオ)
「レオ、戻ってきて、おばさんが死んじゃう!」
これ以上のレオの流出は、命にかかわるというのに、英子おばさんに、指環をはめてやることへのわたしの執念はとどまることを知らなくて、
また新たなレオが、
⑤昔の恋人を忘れられずに、ずぶ濡れであらわれて、病室をぐっしょりさせた、
(レオ、レオ、レオ!)
わたしがあた、ふた、とレオを制しながら、指を解くうちに、
英子おばさんの胸は、波うち、タイタニックが沈んでいくにふさわしいようなつめたい肌になる、
わたしにできることは、気を不確かにすることしかなくて、一心不乱に彼女の指をほどき続けているうちに、
【終幕】
(Leonardo Wilhelm DiCaprio)
と刻まれた指環が金庫の中で、
唯一の現実として存在している病室は静か、
そのさきの廊下、ビーズの指環をつくり、それを指にはめる老女。
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