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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

火葬

早く消化しなければならないのです。炎を見つけたら、大声で火事だと叫び報告し、消化しなければならないのです。





飛行機に乗っている時に、墜落する妄想はしたくないですよね。三者面談で進路の話をされたら、嫌な気分になりますよね。

私の趣味は散歩です。散歩は良い気分転換になります。脳に様々な情報量が流れてくるので、考え事をせずに済みます。街中で発狂しそうになるので全速力で走って何とか抑えています。毎日歩くことで、人生が豊かになることに気が付きますね。

燃えている炎を見つめてみると、心が落ち着きます。

海で溺れる妄想はしたくないですよね。愛している人と共にしてる時に葬式の光景を重ねたくもないですよね。現実逃避、したいですよね。


家では走れないので、私は外に出て歩きます。


泣いてみる。



フリーダイヤルが繋がらない。




歩いてみる。



走ってみる。




なんだか楽しくなって、踊ってみたりする。






道路に飛び出して、倒れてみたりする。







家だとそれができなくて腹と腕を切るしかない。





この世には現実逃避をする方法が沢山あります。危険なもの、快楽的なもの。リストカット、オーバードーズ、過食、多量の飲酒。毎日することで、果たして本当に    …あ、燃えています。




だめだ。
すみません、私は少し先に逝きます。




早く消化しなければならないのです。私の心の炎を、これ以上火傷して傷まないように、これ以上燃え移ってしまう前に。私の心が燃えていると、大声で叫んで報告し、消化しなければならないのです。燃えている炎を見つめていると、いつのまにか自分自身の全てが燃え盛ってしまいもう元には戻れなくなってしまうのです。




来世ではどうか 幸せになれますように。
生まれてきたことを悔やむべきなのでしょうか。
私の頭はおかしくなってしまったのです。
この世から消えたい 私を記憶している結晶たちを全て粉々にしたい。
楽な人生というか、楽しいを人生送りたかった。

来世ではどんな人生なのでしょうか。今世?ええ、悪くなかったですよ。前世よりは良かったと思います。

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すぺる

貴方がかいたら
すぺるまでも
素敵な物語になる

貴方がかけたら
すぺるまでも
呪文の効果が発揮する

私は貴方の
すぺるまでもね
愛おしいの

体が重くなるまで
吐き気がするまで
魅力的な貴方に魔法をかけられる
これが貴方のかいた話

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集落

部屋の中に集落ができた
小さな集落だった
本家、という男の人が話にきて
畑で採れた作物を
いくつかくれた
学校が無くて困っている
というので、近所の小中学校と
市役所の場所を教えた
これでヨシハルんとこも助かる
と加工品の瓶詰もくれた
綺麗な水が湧いていて
冬は雪深くなるそうだ
本家の人は包まるように
こぢんまりとしたお辞儀をして
帰っていった
今度遊びにでも来てください
と言い残していったけれど
初めて聞くその場所に
いくつ列車を乗り継げばたどり着くのか
見当もつかない
夜は集落を避けて布団をひく
耳元のどこか遠いところから
湧水が水路を流れる音が聞こえてくる

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しらやまさんのこと 2

そこから先には進めないときがある
そのたびに思い出す風景があって
背中の方から温もりを感じながらも
とても不安そうな少年の瞳に

問いかけられた言葉

飲み込めないまま
風にもなれず

ときおり
あの雲のように
勝手にすっと入ってきては
心臓のちょっと下あたり
ふるふる
として浮かんでくる

問いかけられた言葉は
そこから先には進めない風景の中で
夕陽にさえ染まらずに
僕は今でも噛み砕いている

遠くの踏み切りや
帰る自転車の光に紛れながらも
遠く 遠くの
空から降りてくるものが見えても

それを今でも
噛み砕いている



   

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ぼくは今を生きる

 今、ぼくの目の前にある台所の戸だなにはポテトチップスが一ふくろある。しかもビッグなやつだ。
 今、家の中にはぼく一人。お母さんと弟と妹は買い物に出かけている。これはチャンス、チャンスなのだ。
 戸だなの中のポテトチップスはのりしお味。ぼくの大好きな味だ。ぼくのクラスのみんなはコンソメ味が好きだけど、ぼくは一味ちがうんだ。みんなより一つ大人のしぶいのりしお味が一番なんだ。
 ポテトチップスのりしお味、このみわくの味は、一口食べるととまらない。ふくろが空になって指をペロペロするまでとまらないんだ。
 でも、ぼくはこまった。
 今日のばんごはんはぼくの大好きなカレーライス。今もコトコトおなべでにこんでいるんだ。そしてぼくはおるすばんとおなべのばんをしているんだ。
 なぜ、こまったのかというと、今、ポテトチップスを食べてしまうとおなかがいっぱいになってしまって、ばんごはんのカレーライスが食べられなくなってしまうからだ。
 ぼくはバカじゃないからそんな先のことまで分かるんだ。すごいだろ。なんせこの間は、国語のテストで95点をとったし。みらいの「未」のよこせんの長くするとこをまちがって「末」になっちゃって先生に◯じゃなく△にされただけなのだ。
 でも、このままポテトチップスをおいておけば、弟と妹に見つかって食べられてしまう。
 あいつらは、この前ぼくがのりしお味を食べさせてあげたら、のりしお味のおいしさに気づいてそれいらいのりしお味が大好きになってしまったんだ。
 どうしよう。ぼくは考えた。
 まてよ、そういえば今年のほうふを書き初めで書いたけど、ぼくの今年のほうふは
「今を生きる」だ。
 そうだ。今なんだ。今が大じなんだ
 ばんごはんだなんて、そんな先のことを考えずに、今食べたいものを食べるんだ。
 ぼくは戸だなを開けてポテトチップスのりしお味をとり出そうとした時、台所のドアが開いた。お母さんと弟と妹が買い物から帰ってきたんだ。

「あっ!お兄ちゃんがポテトチップス食べようとしているっ!」

 弟と妹がさけびながらかけよってきた。

「みんなのおやつなんだから分けて食べなさい。」

 と、お母さんはいった。
 このままでは弟と妹と3とう分にされてしまうぞ。どうしよう。
 そうだ。この前学校でならった分数だ。
 ぼくはみんなにいった。

「ぼくはお兄ちゃんで大きいからちょっと多めの7分の3、お前たちは7分の2ずつだ。」

 弟と妹は分数なんてしらないから、なんだかよくわからないけど、うん、とうなづいた。
 お母さんも、しょうがないわね、という顔をしていた。
 よし、この前学校でならった分数がさっそくやくに立ったぞ。

 おやつのポテトチップスをちょっと多めに食べたけど、食べすぎなかったぼくは、ばんごはんのカレーライスもいっぱい食べれてとてもおいしくておなかいっぱいだ。
 これで宿題がなければさい高だったのにとぼくは思った。
 ポテトチップスもカレーライスも食べたらすぐになくなるのに、なんで宿題はなかなかなくならないのだろうか。
 これはえい遠のなぞというやつなのだ。

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冬の日だまり

 妻に頼まれていた布団干しの為、ベランダに出る。
 流石に布団干しを頼むだけあって、良い天気だ。空を見上げると青一色。風もなく太陽の暖かな光がベランダに降り注いでいる。
 暖かくていい気持ちだ。僕は布団を干すのを忘れてベランダの欄干に肘をかけてぼーっとしながらあたりを見渡した。
 僕の視界には、都会の三分の一程の密度で建つ家々、田んぼ、畑、その向こうに低い丘、さらに向こうには山々が映る。いつもの見慣れた田舎の風景だ。
 今日の太陽は僕に優しい。夏には僕を炙り殺そうとしていた太陽と同一人物とは思えないほどだ。そして僕もそうだ。夏にはあれほど憎んだ太陽が、今は愛おしいとすら思っている。
 不意に風が吹いた。その冷たさに今は冬なのだと再認識させられる。その風の冷たさに、より一層この太陽の光の暖かさが貴重なものに思われた。

 冬の太陽の光の貴重さを思う時、ふと僕は光を最大限に利用し、美しい姿を見せるガラス工芸のことが頭に浮かんだ。
 ガラス工芸で有名な場所はイタリアのヴェネツィア、チェコのボヘミアなどヨーロッパ各地、あるいは日本でも江戸切子、薩摩切子などがある。共通しているのは、はっきりとした四季があるということ。いや、もっと極端に言えば日照時間が短く太陽が弱々しい冬があるということだ。冬の弱った光をいかに最大限に活用するか、美しく見せるかという工夫が、これらの地域のガラス工芸を発展させる原動力の一つになったのではないかと僕はとりとめもなく考えてみた。
 
 ああ、そうだ。布団を干すのだった。布団にもこの太陽の恩恵を分け与え、その柔らかく分厚い体にできるだけ太陽の光をため込んでもらわないといけない。
 さあ、布団達よ、思う存分日光浴をしてくれ。そうすれば、太陽の光をはち切れんばかりに吸い込んだふかふかの布団を今夜は堪能できるのだ。
 僕は急いでベランダの欄干に布団を干した。そして、布団のおかげでいくぶん柔らかくなった欄干に肘をかけて再び、ベランダからの風景をぼーっと眺めはじめた。

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笑わない花


花らしい色艶を探してみても、縁を染める紫
だけという所がまた、遊びに疎い彼らしかった。
 
 
https://i.imgur.com/NQgX9mB.jpeg
 
奥を覗かせない薄緑色の瞳に、真面目な性格を
愚直なまでに映してしまっている。
端正な横顔が浮かべていたのは、どの感情にも
似つかわしくない自然体の無表情で、彼は地面
に積まれたままで冬を耐えきってしまった黒い
落ち葉の山を見つめていた。

クリスマスローズ。
晩冬から早春へと渡る花。

過ぎ去った季節の名前を背負いながら、新た
なる年に花を咲かせる。狂った時間軸の上で
生きることを定められた者。

朽ちてゆく葉の言伝を聴いていた。
誰にも明かせなかった彼らの言葉を、一心に
聴いているのだ。

それが彼の役割なのだと、春の薄暮が囁いた。
積み上げられた無数の枯れ葉が腐葉土なんぞ
に化けてしまわぬよう、雪解け水に流しきれ
なかった彼らの最期の念を吐き出させている。

さて、何を聴いているのだろうな。
気にはなるが幾たびもの年月を越えて生きる
人間なんかが聴いて良いものではないだろう。
彼らには彼らなりの矜持がある。
尊ぼうじゃあないか。

ここは、去年に取り残された者達にとっての
最後の居場所だ。
クリスマスローズ。
冷たい日陰でひっそりと執り行われている、
頷くだけのお見送り。







* * * * *





さすがに季節を先取りしすぎたかも?
父が植木の株元に植えたクリスマスローズ。
数年前に撮影した写真だね。
雪国で地植えにすると、雪解けと共に
花を咲かせる。クリスマス全然関係ない。

花言葉は「私の不安をやわらげて」を選択。
眼差しを向けているような角度だったから。
何を見ているんだろうね。

こういう作風は詩を書く感覚ではなくて、
描写の延長みたいな、そんな感覚がする。
擬人化の作品に近いのかも。
写真以外、絵とかでもこういうのやりたいね。


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ザラバン紙

涙が出る瞬間を
図式で表すという実験をしている彼は
普通の会社に勤務していて
倉庫で箱詰めをし 幾つもの空白を
ザラバン紙で埋めている私と
都会の歩道橋の上で会った
初めは涙の話を
蛙が体から落とした雫の話と勘違いし
笑った後から 少しずつ泣いた

図式は一旦社へ持ち帰り
後日見せてくれると言って
彼とは歩道橋の上で別れた

あれから
幾たびもの背景が過ぎ
蛙は何匹も葉陰へと消えた

時々 詰めるザラバン紙の中から
微かだけれど 交信がある
彼からの 図式だと思う

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ありふれた言葉たち

遠くへ行きたい、というとき
その遠く、は何処にあるのだろう
地球の裏側、足の裏側?

そうなんだ、と言ってみるが
この言葉に意味は無い、わからない
と、言う事がわかるから無意味ではない
ブラジルあたりで言葉が呟いていた

   遠くへ行きたい    隣の芝は青い?
地球は青かった?遠い過去は青春か?
僕は真夜中に冷蔵庫を開け呟く
チーズを齧りながらワインで流し込む

お前らは何処からきた?

遠い遠い遠くからきたのだろう
そして食道を通り胃袋へとむかっている
僕が観たこともない僕の遠い行き着く
事はない遠い場所、遠くへ行きたい

そんなあなたを僕はみている
遠くから? いや、すぐ傍らで
地球から火星へと旅立つ人を
見送るように、ずっとそこで

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芦田愛菜は間違ってはいなかった


好きなもののことをかんがえるの
きらいなもののことをかんがえちゃだめなの


Motherってドラマで芦田愛菜が云ってたの思い出したから
あたしもまねっこして 好きなもののはなしをするね




中島みゆきが好き
エレファントカシマシが好き
amazarashiが好き


中原淳一の描く絵が好き
高畠華宵の描く絵が好き
亜土ちゃん大好き ムーミン大好き
あたしの中でベルばらとあしたのジョーは
永久不滅のアニメ


太宰が好きだし 安吾が好きだし
寺山が好きだ
いつか 太宰の小説「津軽」を手に
ゆっくり青森を旅してみたい


不二家のネクターピーチ
製氷機で凍らせて 炭酸水で割って飲むの
原液カルピスで作った ちょっと濃い目のカルピス
グレープジュース オレンジジュース
キウイソーダ カゴメの野菜ジュース 
ジャワティ ジャスミンティ 抹茶入り緑茶 ほうじ茶
フレーバーティ レモンティ 
喫茶店のクリームソーダ 砂糖漬けの真っ赤なチェリー
ケチャップたっぷりナポリタン


真夏に食べるアイス
サクレ パピコ スイカバー アイスの実
チョコミント ガリガリ君 メロンの容器がかわいいメロンシャーベット
ふわっふわのかき氷
真冬に 暖房ガンガンにして食べるアイスも良き
この世で一番好きな食べ物 桃
キンキンに冷やしたスイカ
ぶどうにバナナ 梨にたねなし柿
イチゴにみかんにキウイにパイナップル
いよかんにグレープフルーツ


氷水に浮かべたそうめん ピンクと緑の麺がかわいい
茹でたてのとうもろこし
梅とオクラと鰹節をたたいたのを
熱々のごはんにのっけて食べる
すりおろした山芋
刻んだのも好き
納豆のビニールがうまくはがせたとき
豆腐のふた開けたとき 中の水が飛び散ってこないとき


自分のために作ったごはん
茄子とピーマンのバター醤油炒め 味噌炒め
ほうれん草とベーコンのクリームパスタ
野菜とチキンのトマト煮
トマトスープ コンソメスープ クリームスープ
パスタにかけても良し トーストを浸して食べるも良し
ごはんを入れてリゾットにしても良し
カレーにシチュー グラタン
肉じゃが さつまいもの煮っころがし
もやしキャベツ野菜たっぷり 具だくさん焼きそば
お味噌汁の具は冷蔵庫にあるものでちゃちゃっとね
そうそう 時々はお酒も呑んだりもするのよ
年に数回 たまらなく呑みたくなるときがあって
その時だけ ほんのちょこっと
ちょこっとね


犬猫動画観てほっこりしてるとき
Manyuちゃんって豆柴 美犬でおとなしくてとってもお利口さん
猫のレモンさんと犬のポテチ
ゴールデンレトリバーのコロッケくん


お笑いが好き 子どもの頃から好き
ウンナン 爆笑問題 さまぁ~ず
東京03 バカリズム マツモトクラブ


サブスクで 昔好きだったドラマが配信されていたとき
観たかった映画が配信されていたとき
面白そうと思って観たら 案外そうでもなかったとき


寒い冬 はぁ~って吐いた息が白いのを確認するとき
雨が降った日 窓を伝うしずくをみているとき
アスファルトの上ではしゃいでる雨粒たち
傘にあたる雨の音
長靴履いて水たまり歩くこと
ひととすれ違うとき ちょっと傘を傾け合うこと


気負わず付き合ってくれる友だち
地図を読むのが苦手なあたしに代わって
いつも道を調べてくれたり
お茶しようと入ったドトールとかで
空いてる席があるか 見てきてくれたり
さりげなくいつも気遣ってくれて
そういうことがごくごく自然に出来る友だちを
あたしは心からスゴイと感じている


みゆきやエレカシやamazarashiや
尾崎やRCや
森田童子や山崎ハコや浅川マキ
岡林信康に吉田拓郎に井上陽水
ジャニスジョプリン
なにをするにも音楽
かけていないと落ち着かない


描くということに出会えたこと
詩という表現方法があることを知れたこと
パソコンやスマホといった文明の利器
投稿サイト
素晴らしい詩人たち
あたしの詩を否定しなかった人たち
あたたかく迎えてくれた人たち
あたしの詩に まったく無関心だった人たち
眉をひそめて嫌悪していた人たち
詩の描き方をうっかり忘れかけていたのに
もう一度あたしに思い出させてくれた想い




夕焼け空が 泣きたくなるくらいキレイなこと
部屋の窓から見上げると 静かに青く照らす月明かり
クスリは忘れず 同じ時間にちゃんと飲んで
今日も同じ時間に眠くなること
同じ時間に目が覚めること


エレカシのライブ
みゆきの夜会やコンサート
また行けるかな
行けたらいいな


もっと本格的に冬が来て 身を切るほど寒くなったら
海見に行きたい
凪のような穏やかな海でなく
荒波高く どこか淋しい冬の海を
始発電車に乗ってさ




誰の心にも引っかからない
読んだ先から忘れられてしまうような
そんな詩を描くくらいならば
せめて引っ掻きキズくらいは残せるような
そんな詩が描きたいものだ




好きなもののことをかんがえるの
きらいなもののことをかんがえちゃだめなの


愛菜ちゃん どうだったかな
ちゃんと好きなもののこと
かんがえられていただろか
でなきゃ あの頃まだ5歳だった愛菜ちゃんに
思いっきり叱られちゃうかもね


マヨネーズの最後 無理くり絞り出すみたいにしなきゃ
出てこないんじゃないかって思ったけど
案外多いじゃん



これらに支えられて
きっとあたしは
生きている
生きていけるはず




だいじだいじ





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風と海辺

5時代の車両に乗りこむ数分前、空と海のさかいは油彩から水彩のように気配をうつしつつあった。車内では、数人の会社員と学生が、明日が今日であるようにすごしている。わたしは傾斜の急な山の側の座席に腰掛けた。たっぷりと薄めた、あかるいオレンジのぬられた雲と葉をみていた。

車両が動きだした。つややかなオレンジは、いっそうゆたかにふくらんでゆく。いつか窓に透かした、あまったセロハン紙を思い出した。
橋梁を越え、揺れとともに車両が停止した。ホームは、澄んだ白にみちていた。斜面の草木も、たしかに炊きたての陽光を出迎えていた。
わたしはこぢんまりとした改札をぬけた。鳥居と小柄な犬の横を足早にすぎ、橋梁の先の波間をみはらす坂に、まっすぐ立った。
そのとき、黄金色にきらめく風が、細く古い路地をひとまとめになであげ、かけまわる子どもたちののこした輪郭と手をつないで、すきとおる空にかえっていった。
そこにはありとあらゆる朝があった。わたしの目前に、すべての日々が、りんと背筋をのばして立っていた。ひとつの家屋が住人を失った朝に、老人を見送るための朝に、待望の赤子がうまれた朝に、わたしは立ちあった。
季節はめぐる。風が雨後の大気を吹きあげ、空があさがおの髪飾りをよそおう頃、わたしは橋梁の下にたどりついていた。呼吸をととのえると、波音が耳にとどきはじめた。防波堤をついぞ知らない音だった。

先客のいない駐車場を歩きすぎ、浜辺の入り口に到着したわたしは、だれかがひとり沖へ向かうのをみていた。
かばんを海のとどかない角ばった石のうえに置いて、両腕をひろげ、ゆったりと歩いていく。波と風をひとつのこさずうけとめるようだった。早朝の水にしめってゆくつま先から、足と胴へ、気泡をはらんだがらす細工へ、姿を変えていった。海にひたってゆくのとおなじ速度で、長い髪の毛先まで、透明でつやりとして、無数のプリズムをつめこんだびいどろのように、変わっていった。
がらすの底で溶けあうひかりのなかに、わたしはだれかと目があった。

まばたきすると、ただ、大気と水面があった。潮風にかわいた目がうるおい、景色はうつろっている。海面のうえ、陽は水しぶきとともに朝という概念をすくいあげ、あざやかに燃やしつづけていた。日光はみずからにじませた水平線を越え、空と雲をひろく、薄く平坦なみずいろに染めていた。

わたしはうしろにひとの気配を感じ、ふりむいた。駐車場から、朝の海をながめにきたとおもわれる夫婦が、のんびりとおりてきている。
石のうえのかばんは、そこになかった。

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からふるならほつ

大仏の頭を24色で塗った 
たぶんあれはかな、り 
ばちあたりだったはず
 でも私には美しくみえた  
九歳の頃には らほつが からふるが、
お洒落だった     
カーテンに愚痴っていたよく 
 つまらない授業 わからないルール  
三十五人居る教室では
  「わからない」とさえ 
震えて言い出せなかった 

 大人になってもそう 
わからないことだらけ 
 金属、スギ、たまごにグルテン、 寒暖差  心に巣食うアレルギーが 
歩み寄るゆとり をなくしていく。

  鉛筆は まだ削れるみたいだ

あの日の大仏の頭を なでるように 
二十四色を握って  机の上のらほつは 

はだいろもむらさきも青もつかった。

 やっぱり私は 
からふるならほつがすきみたい  



 

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定義

訃報がまだ靴紐に絡まっていて
冷蔵庫のモーター音が
昨日言い損ねたさよならを
こまかく砕いている
洗面台の鏡には
言いかけてやめた話が
曇りとなって残って
あなたがしずかに私を睨み
語るはずだったことばたちは
とおい街で明滅している

秒針は もう済んだことと
まだ済んでいないことを
またいでいく 何度も、何度も、
あなたを刺し殺すつもりで
ふところに忍ばせた比喩を
そのてざわりを
いつまでも覚えていて
ぼんやりと眺めるショート動画に
なつかしい声を聴いたりする
何気なく話す「昔のこと」が
知らない誰かの影を引き連れてきて
それでも
語尾がすこし揺れるところだけ
変わってないね

キッチンの、掠れた「砂糖」の文字に
あなたのやさしさがまだ宿っていて
わたしたち
否定について
定義について
よく話し合ったよね
適切な定義が固まる以前の世界で
わたしたちは手探りで生きてる
のだとしたら
「生きていたら」という
仮定法のなかに、愛があったとおもう
あなたはわたしを
悲しませようとはしなかった
あなたの愛が分からなかったのは
わたしの責任だ
だから
わたしは今になって
あなたの流すはずだった涙を
ここで、流さなければならない

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○○○○○○
○○○○○○
○○○○○○
○○○○○○

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○○○○ ●
  ○○○○○
○○○ ○○○○ ○○
 ○○○○ ○○○

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○○○○○○○○●○○○○○○

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● ○

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考えを公開する

考えを公開する
考えを公開して、こうかい? どうかい?
後で、後悔?
考えを何故に、公開する?
その前に考えを何故に、非公開にする?
考えを非公開にして、非行かい?
どうなのか、聞こうかい?
考えを、共有しようとする
考えを共有しようとして、どうする?
考えを共有するために、今日言う? 昨日、言う?
さあ、どう言う?
考えを今日、要する
考えを何故に今日、要する?
空白を埋め、熱を生み出し、ロケット発射する
燃料としての考えを今日、要する
勘が得る、考え
勘が得る、考え
勘が得る、考え
受けて止めて跳ねて払い 考えを書き表す
書いて消して混ぜて塗って 考えを具現化する
考える貝? 考える貝?
考える甲斐? 考える甲斐?
開いて閉じて歌い笑い、なにを得るかい?

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しょっく 

わたしのしょっくを
どうせつめいしたら
よいだろう

だれかのなみだ
ひとつぬぐえないくせに
わたしのきずばかり 
なでてみてというのは
あまりにもじこちゅーだろうし

しょっくだった
どーかたづけていいかわからぬ
あなぼこに のぞきこんで
まっさかさま

なべのふたのさびを
いちじかんちかくみがいても
ちっともおちなくて
それでも「むき」になって
みがいてた

ごひゃくえんのなべなのに
かいなおしたらいいじゃないとは
いってもらえないけど
おもってたなんども、なんども

しょっくだった なにがときかれたら
よくわからなくて だからこその
あなっぽこだ

わたしはロバノミミだったろうか
あなたはそんざいしたのだろうか

まいにちのおはようとおやすみを
ぼんやりおもいうかべては
なべのさびをひっしにおとしていたのです

しょっくでした すいっちは
どこにあるかわからないので
そのうちよきたいみんぐで

ぱられるへいけるかもしれません

  まちわびてます

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豚と賭博と


 一か八かのハッタリを見破れるかどうか、それがこのゲームの醍醐味だ。運を頼りに勝負を仕掛けるような奴は二流。勝敗はどれだけ相手を騙せるかで決まる。
 もっとも。偉そうに言えるほど、俺はこのゲームが得意ではないけどな。

「追加で二枚だ」

 銅貨五枚と手札のカードを二枚、テーブルの上に放り、山札から二枚を引いてくる。

「……四枚」

 次に順番が回り、左に座るフードを目深にかぶった男が銅貨を出して、手札を交換していく。
 これで順番が一周し、四人全員が賭けに乗った。掛け金をつり上げる声もなし。後は勝負するだけだ。

 「拝見」

 一斉に手札を開く。
 無役の「ブタ」。一階級の「平民一揆」が二人。
 このゲームは3階級の「軍隊」を作り上げた俺の勝ち。テーブルに投げ出されていた銅貨をごっそりと掴み、袋に入れる。
 掴み損ねた銅貨を、えいやっと抱きかかえたルネが、虹色の羽をひらひらさせながら飛んできた。

 「わ! また勝ったね~。ミツバチすご~い!」

 あんまり大声であだ名を呼ぶな。俺の姿に似合ってねーんだから。
 ミツバチってのはルネが付けたあだ名だが、どうして身長200エタ(約200センチ)近く、体重140フィー(約140キログラム)の俺にそんな名を付けたんだか。
 むしろ、ミツバチならルネの方が近い。なにせ身長は20エタあるかないかの花妖精、フェアリーなのだから。

 銅貨を抱えたまま袋の中に体ごと突っ込んでいったルネ。袋をのぞき込むと金銀銅に照らし出されたルネが、銀貨を拾い上げてニコッと笑う。こいつはなぜか金貨より銀貨を好む。ちなみに金貨は銀貨の10倍の価値で、銀貨の10分の1が銅貨。ここには入っていないが、銅貨よりも価値の低い石貨というものもある。
 生きるのに金銭を必要としないフェアリーだから、色の好み以外に貨幣価値を見ていないのかもしれない。無欲で幸せそうな笑顔だ。
 陽気に会話を交わす俺たちを憎々しげに見ていた正面の男が、ドンとテーブルを叩いた。

 「次だ!!」

 男が散らばった札をかき集めて適当に混ぜ始める。よけいな話だがこのゲームは集中を切らした方が負ける。まぁ、この先の結果は見えているのだから、本当によけいな話だ。

 このゲームの名は「十七《セブンティーン》」
 絵柄の付いた札を使う有名なゲームだ。五枚の札で十七階級ある役を作り上げる。一番高い階級の役を作った奴が勝ちというルール。
 一見運任せのようだが、そうじゃない。
 プレイヤーは、掛け金をつり上げることとゲームから降りることが自由に出来るためだ。
 手札がいい時だけ掛け金をつり上げたとして、他の全員がゲームを降りてしまえば手取りは無くなる。逆に手札が悪いからと言って、ゲームを降りているといつまで経っても勝てない。高い役なんか滅多に揃うものではないのだから。

 じゃあどうすればいいか。
 もうわかるだろう? ハッタリをかます。これしかない。
 どれだけ「無役《ブタ》」を高いの役だと思わせて相手をゲームから降ろさせるか。逆に、高い勝負役を「草」と呼ばれる低階級の役たちだと予想させて、なるべく多くのプレイヤーを最後まで乗せさせるか。手札が高くても低くても、勝てるのがこのゲームの面白いところ。

 ちなみに。無役だと思いこみ勝負を仕掛けるも、相手の手札は高階級で返り討ちにあう間抜けの事を、突っ込んでくる「ブタ」という意味で「イノシシ」という。また、「草」である事を相手に読ませずに、全員を降ろさせることを「草を喰わせる」と言う。
 こんな言葉が日常の慣用句として広く知られていることから見ても、このゲームが古くからあることがわかるだろう。

「銀貨五枚、乗せようかいの」

 ゲームは続いている。
 参加しているのは俺を含め、ルネを外して四人。

 俺の左に座るのが、フードを目深にかぶった『自称』古美術商で年齢不詳の男。
 正面が『自称』賭博師の若い男。
 右隣が『自称』隠居のじいさん。
 そして、体格が大きすぎて通路側に座れず、壁に背を預けているのが正真正銘旅人の俺。隣に大斧を置いているので、二人分以上のスペースが必要になる。テーブルに座るときは、いつも気を使う。

 俺を含め、どいつもこいつも癖のありそうな奴らだ。
 今の声、最初に掛け金を銀貨三枚に設定したうえ、さらにつり上げて銀貨をせしめようとしているのが右のじいさん。

「降りる」

 手札を全部、テーブルに放る。参加料分を損をするが、この手札を取っ替え引っ替えしても役が立つとは思えない。
 それに、今日は順調に勝っている。焦ることはないのだ。

 順番が左に流れる。被ったフードが落とす暗闇の向こうから、鋭い目つきを老人に投げるフード男。それを、ニヤニヤしながら正面から受け止める老人。
 老人の表情から何を読んだのか、くつくつとフードが揺れる。

「一枚交換だ」

 銀貨を五枚出して、札を一枚交換する。

「……クソ! 四枚だ」

 正面の若い奴が銀貨と札4枚を叩きつける。この男、賭博師を名乗る割に表情が面に出やすい。結局一番負けが込み、後に引けなくなっている。

 勝負を下りたことで気が抜けた。イスを軋ませながら、固まった背中をうんとのばす。
 大きな笑い声につられてそちらをみると、顔を赤くした連中がやいのやいのと騒いでいる。宴もたけなわ、といったところ。
 日が沈んで大分経つが、宿の食事処にはまだ結構人が残っている。
 この町には今朝着いたが、聞いていたより大きな町だった。どの国に行ってもそうだが、町が大きくなるほど夜は遅くなるものだ。

「えへへー」

 緩い笑い声がテーブルの上の麻袋から聞こえる。袋の口を開けると、中ではルネが金銀に浸かっていた。
 今日はいっぱい勝ったねーなんて言いながら、袋から飛び出してくる。

「そうだな」

 顔の周りをパタパタと飛び回るルネに、気のない返事を返す。
 今日はいつになく勝っている。普段はこんなに調子良くは勝てない。どちらかと言えば負けることが多いので、滅多にでかい勝負には出ないのだが、流れに任せているうちに金貨十枚分ぐらいは稼いでしまった。

 「ねえねえ、ルネお洋服がほしいなー」
 「まあ、それぐらいなら」

 買ってやっても問題ない。何せこいつに合うサイズの服なんかこの国に売っているわけもなく、綺麗な色のハンカチを体に巻いているだけ。何枚買っても大した額にはならない。
 問題があるとすれば、この金の使い道ではなく、この金が俺のところに集まってくる理由。

 「ほれ、おまえさんが親の番じゃ」

 場は次の勝負に移っていた。銀貨を片手に持って急かすじいさんから、札の山を受け取る。札は綺麗に整えられていた。さっき、じいさんが気のない感じで札を切っていたのを見ているわけだが……。
 この札の山は俺が切り直すべきか、それとも、このまま配っても良いものだろうか。

 「早く配れよ。よろま」

 ……正面の奴からせっつかれたので、このまま配ることにした。

 全員に配り終えてから、自分の手札を確認する。
『王様』、『王妃』、『王子』の三枚があった。いくらなんでもこれはやりすぎだろう。
 この時点で「雲上人」の七役だ。札の枚数から確率を計算すれば、最初に配られる手札で完成する役は高くても五役までが普通。この五役の中で勝負を楽しむのが一般的なのだが。今の時点で七役ある。ありえない。
これに騎士がくれば十四役の「王宮」、貴族が二枚くれば十六役の「王侯殿」。どうやれば負けるのだろうか。

 なんだかやる気が失せて、一つため息をつく。
 俺の様子をそれとなく監視していたフードの男が、くつくつと肩をそびやかす。

「なんだかバラバラだねー」

 なんて俺の手札をのぞき込みながらつぶやくルネ。王様のいない世界から来たこいつにとっては、この札のありがたみがわからないのだろう。
 ルネの言葉をどう解釈したのか、正面の男が喜色を浮かべる。一方、げんなりとしてしまった俺は、札を伏せた。

「お前ら降りた方がいい。金貨、一枚」

 俺の善意の言葉に、左右の二人がゲームを降りる。
 人の話を聞かずに突っ込んできたのは正面の賭博師。

「は、その手に乗るかよ。てめーはさっきからツキまくっていた。だがな、そうそう運ってのは続かねーんだよ」

 金貨一枚が転がった。

「俺は善意で言ってるんだ。イノシシになりたいのか? 金貨一枚」
「おいおい、ブタがなんか言ってやがるぜ」

 また金貨一枚が転がる。

「後悔するなよ? 開くぞ」
「いいのか? 開いて。無役のお前は俺を降ろさないと負けるんだろ? あーそうか、これ以上掛け金を吊り上げる度胸がねーんだよなぁ。悪かったよ、チキンハートのピッグデブ」

 この言葉にルネが噛みついた。

 「なっ! あんた、あたしのミツバチに何て事言うのよ! モヤシ男」

 飛びかかろうとするルネ鷲掴みにする。こんな安い挑発に乗るんじゃねーよ。

 「これ以上吊り上げる上げるとあんたが払えないんじゃないかと思ってね。すまなかった、金貨 10枚。ルネ、出してくれ」

 驚いた顔で俺を見上げたルネは、俺が本気なのを見ておとなしく袋の中に入り込んだ。ついでに手札を二枚交換する。手元にやってきたのは『家畜の鶏』と……『貴族』。「王宮」が完成した。
 ルネが金貨を一枚づつ積んでいく。金貨の高さが増すにつれて、正面に座る男の頬が緩んでいく。金貨10枚の使い道でも考えているのだろう。

「乗らないのか?」
「え? あ、ああ」

 慌てて自分の懐から金貨を探り出す男。

「……悪かったな、チキンハートなんて言っちまって。あんたはなかなかの男だ」
「俺もあんたを見くびってたよ。ずいぶん立派な牙を持ってるんだな」

 そう言うと男は不敵な笑顔を見せた。

「俺も男だからな」

 そうだな。今まで見たこともない立派なイノシシの牙だ。
 俺の皮肉に気がついたフード男がエール酒にむせる。吹き出さなかっただけ誉めてやるよ。

「ようし、いくぜ? 恨みっこなしだ」
「……はぁ。拝見」


牙が折れる音を聞いた、気がする。





  
 ふざけるなよ、と男が吠えた。
 テメーがそのチビを使ってイカサマやってんのはわかってんだよ! と俺も知らなかった話を教えてくれた。そうなのか? とルネに問うと、ブンブンと首を振る
 まぁ、出来レースだったとは言え、ここで主犯のじいさんを突き出すのも目覚めが悪い。

「で? だとしたら、どうするんだ?」
「表へ出ろ! ……というのもありきたりすぎるからな。俺はさすらいの賭博師だ。勝負はこれでつける」

 札を指す男。

「ただし、テメーはこのチビでイカサマをした。よってチビを賭けろ」

 ルネを賭ける?

「お前、こんなもん連れてってどうする気だよ。何の役にも立たねーぞ」
「それはテメーの知った事じゃねーんだよ」

 ふーん。と俺が気のない返事を返したところで、ルネがキャンキャン吠えだした。

「イヤイヤ、ぜっっっっったいイヤ! こんなスケベっぽい男にもらわれて行くのなんてあたしヤダよ? ミツバチこんな賭けやっちゃダメ」
「要は勝てばいいんだろ?」
「もし負けたらどうするのよ?」

 俺は賭け事に強い方ではないが、この男には負けない。ような気がする。

「ルネ、お前さんざん俺の嫁を自称して、所構わず言いふらしておいて、結局信用してないのな」
「ち、違うよ! 信用してるよ! てゆうかこんな場面で愛を試すのは、ひどいよミツバチィ? それに、ミツバチのことだから、面倒な女を片づけられるならちょうどいいやとか思ってわざと――」

 食い終わったどんぶりの椀を逆さにして、ルネに被せてやった。更に硬貨がたっぷり詰まった麻袋をどんぶりの上に積んでおく。
 ルネの体格ではこの椀を持ち上げることは出来ないだろう。

「で? あんたは何を賭けるんだ?」
「これだ」

 銭袋がテーブルの上に置かれる。何だか重みを感じない音がしたが? 中を確認してみれば、案の定、威張って突き出すほどの額ではない。

「・・・・・・これだけか?」
「全財産だバカ野郎」
「それは失敬」

 じゃあやるかと札に手を伸ばしたところで、がっしと腕を捕まれた。

「あんたは信用できねー」

 なるほど。
 手癖が悪い、という設定の俺は札を切るな、と。

「だからといって、俺が札を切って後からイカサマを疑われるのもつまんねーからな。よし、おい、あんたが切れ」
「ほあ? わしか?」

 急に振られてびっくりするじいさん。俺もびっくりだ。まさか、ここで、元凶に運命を託すとは。

「いいかデブ! 俺が今から素人と玄人の違いって奴を見せてやる」

 最初から見せてくれればこんな事にはならなかったろうに。

「こりゃあ良い勝負になりそうじゃわ。そいじゃあ、配るぞい?」

 じいさんの笑い声の中、何とも白けたイカサマ勝負が始まった。 
 




  
「じいさん、なんで俺を勝たせたんだ?」

 俺が聞いているのは今の勝負ではなく、最初から俺を勝たせようとしていたことについてだ。俺がこのテーブルに着いて、ゲームを始めたときから、じいさんは俺に良い札を配っていた。
 どうゆう手品をしていたのかは、全くわからなかったが。

「わしゃあな、隠居であるけっど、この町を守るヒーローでもあるんよ」

 じいさんの戯れ言に、クツクツと笑うローブの男。
 置き捨てられていった銭袋から無断で銀貨を拾い、エール酒を追加する自称ヒーロー。

「どうゆう意味だ?」
「あん男は、おとついからこの宿に泊っとんじゃが、なかなかに態度が悪うての。飲み代はツケよるわ、客にいちゃもんつけようわ、ここのべっぴんさんにべたべた触りよるわ。のうハルちゃん」

 近くを通りがかった給仕(ハルちゃん?)の尻に手を伸ばすじいさんの手は、電光が飛び散りそうな勢いではたき落とされた。

「痛っとうぅぅ! ふーふー。まぁ、そんな訳じゃって、体格の良さげなお前さんを利用して、早ように帰ってもろたんじゃ」

 なるほど、体力に自信のないじいさんだと、喧嘩になったとき勝てそうにないから、俺を利用したと。
 それは理解したが、俺から言わせればさっきの若者も、この自称ヒーローもやってることに大差はない。給仕にしてみれば、いやらしいモヤシの手か、いやらしい皺だらけの手か、の違いしかないだろう。

「わしはこの町が好きなんよ。せやけら、わしがこの町の平和を守らなあかん」

 ヒーローのしわの寄った手がまた銭袋に入り込む。

「このじいさんは昔、警備隊で一目おかれる鬼隊長、だったらしい」

 ローブ男がぽつりと言った。

「今では枯れた老木だがな」
「うるさいわ。詐欺師崩れ」

 フード男がクツクツと笑う。
 フードが目元を完全に隠しているので、口元でしか表情がわからないが、その口は感情を豊かに表していた。
 その口元とスープ皿を行き来しているスプーンが目を引く。スプーンの柄全体に細かな銀細工があしらわれ、上部には瑪瑙かなにかの宝石が埋め込まれている。手にしているカップも、このあたりでは見られない文様が刻まれている自前の逸品だ。

「気になるか?」
「ああ。まあな」

 フード男が語ったところによると、どちらも千年は昔の、北と西からの伝来物であるらしい。とくにこのスプーンは有名な王朝時代に、豪族の墓から出てきた貴重な物であるという。
 なんて話を訥々と語るフード男に、じいさんが茶々を入れる。

「ほんにするなよ? 騙されっと、けつの毛ぇまで抜かれよう羽目になる」

 話に横槍を入れられても、ローブ男はクツクツと笑うばかり。

「それは売り物じゃないのか?」

 古物商と言っていたはずだ。それならば売り物だろうと思って聞くと、

「売れ残りだ」

 という返事だった。

「へぇ、質の良さそうな物に見えるがな」

 偽物であることを差し引いても、買い手は付きそうな物だ。

「買うか?」
「使った物はさすがにな。ちなみに、いくらだ?」

 値段を聞いて魂消た。スプーンとカップの二つを買うと平均的な家が三件は建つ。それは売れないだろう。

「値段下げろよ」
「この物たちに失礼だ」

 ずいぶんと律儀な男だ。もしかしたら真面目な男なのかもしれない。

「騙されなーと言っとろう。こげん者がそん値段で仕入れよう訳ないじゃろ。元値は銀貨数枚じゃあ」

 じいさんが睨みを利かす。
 なるほど。偏見で悪いが、この男が仕入れの段階で、その値段が払えるほど金を持っているとは思えない。

「そんな偽もんでも、目ん玉飛び出すほんの値ぇ付いてーと、もしかすっと、ほんもんじゃけかあ、思うようになんねよ。そいがこいつん手だぁ」

 なるほど。
 俺たち二人の視線を受けて、またしてもクツクツと笑うフード男。

「こいつが持ちよば「ほんもん」は、詐欺の腕だけじゃい」

 ほんもんの玄人がいよいよ楽しそうに笑った。




 イノシシの若者が帰ってから大分経つ。
 一階にいた客もほとんどいなくなり、残ってるのは俺らともう一組のみ。宿の人も奥に引っ込んだ。
 真っ当な人はもう寝なければ明日に響く。一応真っ当なつもりの俺も、そろそろ寝ないとな。
 立ち上がったところで何かを忘れていることに気が付いた。

「あー忘れてた」

 と呟くと、フード男の口が吃驚の形に開かれる。

「忘れていたのか!?」
「気が付いてたんなら教えてくれよ」
「わしゃあ、てっきりそんたな「ぷれい」なんじゃと思っとったわ」

 どんなプレイだ、じいさん。
 銭袋を寄せて、ゆっくりと逆さまのどんぶりを持ち上げる。
 中には膝を抱えて座り込むルネがいた。 

「うううー、ミツバチー」

 涙でくちゃくちゃな顔のルネが、ピューと飛んできて俺の顔に抱きついてきた。

「怖かったよぅ、寂しかったよぅ、ミツバチのいぢわるぅ、人でなしぃ」
「悪かったよ」

 やけに静かで酒が進むと思っていたら、そうだ、こいつがいなかったんだ。
 パタパタと視界を塞ぐルネを引き離し、羽に付いた飯粒を取ってやる。どんぶりの中で暴れていたのかもしれない。
 俺の太い指に抱きついて、しくしくと泣くルネが、もごもごと何かを言っている。

「何だって?」
「おふろ~。おふろにはいる~」

 非は俺にあるからな、それぐらいなら用意してやろう。

「待ってな。今湯を沸かす」
「紅茶~。紅茶がいい~」

 はいはい。
 首筋にルネを抱きつけたまま、宿の炊事場に失敬する。
 炊事場を使う許可はじいさんに取った。じいさん曰く、わしもよくつまみを失敬するよって大丈夫じゃい、だそうだ。
 今までのじいさんのつまみ代分も含め、あの若者が置いていった銭袋を炊事場に置いていく。俺には必要のない額だからな。旅をするのにこんなにはいらない。

 消えかけていた炭を起こして、薬缶を竈にかける。湯が沸くまで少しかかりそうだ。
 まだ鼻をぐずぐずさせているルネに声をかける。

「なぁルネ。故郷に帰りたくはないか?」

 といったら、全力で抱きついてくるルネ。

「ミツバチの側にいる」
「どうして俺なんだよ」

 俺は風来の旅人が性に合っている。ただし、一人で、だ。誰かと一緒に歩くのには違和感が拭えない。一面にコスモスが咲き乱れる花畑でこいつと出会って、付いてくるようになるまで何度も喧嘩になったが、それでもこいつは離れなかった。

「ミツバチが好きだから」
「何一つお前の為にしてないだろ?」
「あたしが、ミツバチを好きなんだもん。だから、ミツバチが、あたしを好きになるようにがんばる」

 よくわからん思考だ。違う種族を好きになったって良いことなんかない。

「再来年、故郷に戻してやるから」
「ヤダ」

 やだって言うなよ。
 そういう条件で旅に連れてきた。三年間だけ同行させてやると。ルネは短いと駄々をこねたが、フェアリーの寿命から見ると長すぎるくらいだ。 十年ちょっとしか生きられないフェアリー。ルネが今何歳なのかは知らないが、もう年頃だろう。他種族の俺なんかに付いてきている場合ではないと思う。

「ルネ、ミツバチのお嫁さんになる」

 無理だろ。
 ぐちぐちと湯が沸いた。







「ミツバチ、どおどお?」

 ピチャンと水の跳ねる音がする。
 目を向けると、深めの皿に注がれた赤い液体から、ルネの右足が突き出ていた。

「どお? 色っぽい?」
「……耳かきかと思った」

 ピシャッと紅茶が飛んできた。華やかな香りも一つ遅れて飛んできた。
 白磁の器に赤い紅茶と、虹色のフェアリーの羽。絶妙な色逢い。
 萎れていた茶花が湯を啜って甦り、湯気の間を縫って差し込む月光が、銀の帯を赤い水面に流していた。
 温かな紅茶風呂に浸かり、ルネの機嫌が戻っていった。幸せそうな顔で紅茶の中に浮いている。
 月が綺麗だと言ったら、私も見る、というので、窓辺に皿を移動させた。

「うー、月が半分しかない」

 ルネが嘆く。今日はちょうど半月らしく、下半分がごっそり消えている。
 だがまぁ。これはこれで、と。

「良いと思うんだがな」
「えー。まんまるの方がいいよー。じゃあ、何色のお月様がいい?」
「黄色」
「うー。紅は?」
「何だか気持ち悪くならないか?」
「うううー。合わないよぅ」

 ルネが足をバタつかせる。
 しばらく紅茶の香りをまき散らしていたが、不意に口を開いた。

「ね、ね、あたしと月と、どっちが綺麗?」

 まためんどくさい質問を。
 それを聞いてお前はどうしたいんだ?
 意図が分からないので適当に答える。
 
「月――」
「ミツバチィ、そうゆう時は嘘でもいいから『君だよ』って答」
「――に照らされてるお前」
「え……る……の…………」

 ルネの言葉が中途半端に消失していく。
 そちらを見ると目があった。瞬間、ルネが飛沫を上げて沈んでいく。

「言わせておいて照れるなよ。社交辞令だ」
「ブクブクブクブク」

 どうやら俺の言葉は泡と消えたみたいだ。
 沈んだ奴はほっておいて、ベッドに入り込む。
 明日は害獣狩りの依頼をこなそう。ついでに兎でも捕ってきて、干し肉にしておこう。明後日の朝にはこの町を出て、次の町へ旅立つ。
 そんな計画を立てていると、ルネがフラフラと飛んできた。

「ミツバチィ~~~紅茶で酔った」
「はぁ? それは酔ったんじゃなくて、のぼせたんだろ? って待て、来るな」

 でたらめで不規則な、頼りない飛び方で俺の手をかわすルネ。そのまま俺の胸の辺りに着地、せずにするりと体の中に入り込む。
 掴もうとした俺の手は、ルネが着ていたハンカチをひっかけただけに終わった。

(ううう、きぼちわるひー)
(やめろ、人の体の中でそんな声を出すな。こっちまで気持ち悪くなる)

 ルネたちフェアリーの体を構成している物は有機的な物質ではなく、不思議な謎物体でできているそうで、たまにこうして体の中に入り込んでくる。
 体の中に入られても痛みはないが、気分はあんまり良くない。
 本人は、俺の心の中に入っているのだと言っているが、ルネの声はどう聞いても頭の中から聞こえる。

(おやすみー)
(いや、出てこいよ)
(グーグー)

 ほんとに寝た奴がグーグーなんて言うかよ。
 ルネを体に入れたまま寝るとおかしな夢ばかり見る。ルネと旅行に行く夢だったり、ルネと海を泳ぐ夢だったり、ルネと一家団欒の夢だったり。ちなみに、夢の中のルネの体は大きかったり小さいままだったり。
 目が覚めた後、軽く混乱するほど鮮明な夢だから、余計に質が悪い。
 しかし、相手は体の中だ。こうなるともう手の出しようがない。

(頼むから変な夢を見させるなよ?)
(あたしが見せてるんじゃないよー。ミツバチが見たいと思ってるんだよー)

 そんなわけあるか!


 次の日。
 ルネと水辺で洗濯をする夢を見た、と言ったら、ルネはお腹を抱えて笑い転げた。
 誰がこんなもん見たいと思うんだよ!


次話
『 https://creative-writing-space.com/view/ProductLists/product.php?id=2221&user_id=160&mode=post 』


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赤熊 (2025版)

赤熊   北岡伸之 


 
 金沢一の繁華街、香林坊を抜けて犀川大橋を渡り、少し上流に向かうと川沿いの土手にずらっと釣竿が林立している。対岸には兼六園と金沢城趾。こんな市街の中心でも鮎が釣れるのだ。古都ならではの趣である。 
釣り人たちはみな普段着で、ゆっくりと竿先を上下に動かして毛ばりで鮎を誘う。鮎の活性が上がる夕方になると、前にも後ろにもカゴをつけた自転車が、甲高いブレーキ音とともに土手に止まって、買い物帰りの女性や学生らしき若者が、土手に腰掛け手慣れた竿さばきで鮎を五‐六匹釣っていく。お菜か肴に一品追加するのだろう。日常の延長に鮎釣り、正確にいうと、鮎の毛ばり釣りがあるのが、金沢というところである。 
その土手にはいつも、段ボールの看板を掲げた自転車が止まっていて、看板には「毛ばりや高川 毛ばり五百円」と屋号がマジックでなぐり書きされている。初めての人には近寄りがたい独特な看板だが、土地の釣り人に一番愛されているのが、この犀川土手の毛ばり屋なのだ。
「おーい、紫園を巻いてくれや」 
「また胴に桃入れたほうがええか?」 
「うん!桃色はよう釣れる!」 
金沢の釣り人はみな好みの毛ばりがあり、それをこの店の店主、毛ばり職人の高川さんに巻いてもらう。唯一無二の毛ばりを、高川さんは僅か五百円で巻く。他の毛ばり屋より数百円以上安い。 
 
 金沢では数百年前から、鮎の毛ばり釣りが行われている。外様であった加賀藩が、徳川を刺激しないよう、侍の鍛錬として鮎の毛ばり釣りを奨励したともいわれ、当地の工芸の中でも、鮎毛ばりは九谷焼と同じくらいの長い歴史と伝統を持つ。 
鮎毛ばりにはみな名前がついている。江戸時代から伝わる「お染」、濱口首相の髭が由来の「青ライオン」、今では材料がなくなった「朱鷺三光」、泉鏡花の名前を冠した「鏡花」というものもある。自分が大好きな毛ばり、「椿姫」La Traviata (道を踏み外した女)は、桃色を基調とし鴉の羽根が七重にも巻かれた、それはそれは美しいハリである。天然遡上のつややかな若鮎が次々に喰らいつく。鮎は、美しい毛ばりでないと見向きもしない。なぜ苔を食む鮎が、毛ばりに反応するのか研究した学者は幾人もいるが、万人を納得させる結論は得られていない。鮎毛ばりは加賀が発祥だが、播州、土佐も産地で、各地の鮎毛ばりは伝統工芸品にも指定されている。僅か一センチの全長の中に、自然界のあらゆる色彩と意匠を詰め込んだ鮎毛ばりはただただ美しい。 
 
 そんな高川さんと知り合ったのは数年前。インターネット上で高川さんのキラキラ輝く毛ばりを買って静岡の川で使ってみたところ、驚くほどよく釣れた。感想を送ったところ、太平洋側の川で使ってまた感想を聞かせて欲しいと、高川さんは大量に自作の毛ばりを送ってくれて、深い交流がはじまった。 
高川さんは、若くして東京に働きに出たが、すぐに体を壊し、失意のうちに金沢に帰った。療養もかねて地元の犀川沿いを散歩するうちに、鮎毛ばり釣りに出会い、自身で毛ばりを巻こうと決意。誰も師匠がいないので、図書館や伝統工芸館に通い詰めて、ついに毛ばり屋を犀川の土手で開業した。看板は段ボールにマジックで手書き。その半ば自棄っぱちにも見える段ボール看板に反し、高川さんの毛ばりは、北陸ですぐに評判をとった。伝統的な鮎毛ばりは、鳥の羽根や蝮の鱗に夜光貝など、天然の素材を使って巻くが、高川さんは人工のラメ素材、光を反射する素材を使い、それが絶大な効果を発揮したのだ。高川さんは、とにかくラメ素材の使い方が巧みなのである。縦ラメ、トリプル螺旋ラメ、妖艶な輝きを放つ毛ばりを高川さんは次々に巻いた。あんな人工素材を使ったものは邪道だと、はじめは相手にしなかった老舗やベテランも、高川毛ばりに鮎が入れがかりになるという現実を前にして、ラメを受け入れざるを得なかった。今や、全国の職人がラメ素材を使う。戦前から大きな変化がなかった鮎毛ばりという伝統工芸品は、高川さんの発明で、大きくその「伝統」が変わったのである。 




 珍しく、まだ陽のあるうちに家に帰った自分は、ジャズをこよなく愛したグルダ作曲の、軽快なチェロコンチェルトを聴きながら、ガスコーニュ(仏南西部)の、若鮎のようにフレッシュな白ワインをあけて、昼に食べる暇のなかった弁当を少しつまんだ。でも、あまり食欲がわかない。謡のような終楽章、チェロと金管の相聞が、心に沁みた。横になって、うとうとしはじめた頃、また電話が鳴った。身体が反応して、考える前に受話器をとって喋りだした。
生死にかかわることでも、もはや自分にとっては、先延ばしにできるのなら、先延ばしにするようなことでしかなくなっていた。いちいちつきあっていたら、つぶれてしまう。この感覚は必要なのだ。けれど、どこか節度が昔はあった。コロナはそれを完全にぶち壊しにした。自分はもう、迷わない。

 いつかの代休の代休。鮎解禁の前には、ゲンかつぎではないが、豪商の娘と丁稚の心中物語、お染久松ものを観る。最古の鮎毛ばり 『お染』にあやかろうという一心である。 
歌舞伎でも浄瑠璃でもいいけれど、このときは歌舞伎座で於染久松色読販という、大南北の作による芝居をやっていたので、さっそく二等桟敷の切符を買った。通関課の気心の知れたベテランに、座席の番号を伝えておいた。「16時半〜20時くらいは、電波が通じないので、何かあったら、東の十二にいるので、劇場に頼んで呼び出してもらってください」、と。二等桟敷は、最後列なのですぐに通路に出られて係員も声をかけやすい。呼び出しを想定した悲しい席である。 
仁左衛門と玉三郎のコンビの人気は凄まじく、平日というのに歌舞伎座はほぼ満員。この日は呼び出しはなく、芝居を堪能できた。小梅莨屋の場で、悪に呑まれる瞬間、さっと赤襦袢がひろがった。これぞ大南北と、ひさびさに心が動いた。舞台が暗転する中で、一点の襦袢の赤がひときわ鮮やかだ。扇情的な照明はいらない。一点の赤は、暗闇だからこそよく映える。夕暮れ時、黒一色の中に、ごくごく小さい赤い玉を入れた毛ばり「赤熊」に反応する鮎の気持ちが、わかったような気がした。 
観劇中にも呼び出されるような働き方をしている自分にとって、鮎の毛ばり釣りは、見逃した幕を取り戻すひとつの方法だ。昔の釣人は、鮎毛ばりのことを「役者」と呼ぶ。自分だけの役者を、自分だけの筋書で舞わせるのだ。川に来るたびに、鮎のスイカの香りを感じるたびに、自分の前で緞帳が静かにあがるように感じる。このときだけは、何もかも忘れて自由になれるのだ。こんな楽しい遊びがどこにあるだろう。あれを買えこれを買え押し付けがましい宣伝もなく、人と競い合う必要もなく、無心になって自らの作り上げた世界の中に遊ぶことができる。 
       
 金沢へは、名古屋から特急「しらさぎ」に乗る。かつて、青春18きっぷで旅をしていたころ、乗り換えの難所だった大垣や米原の駅をみると、いろいろなものが去来する。四半世紀前はおおらかな時代で、未成年を家に泊めるという、今では警察ざたになるかもしれないようなことも、普通にあった。豊橋で泊めてくれたおねえさん、姫路で飯を食わせて泊めてくれたおじさん、様々な人のお世話になって、少年は鈍行列車で、日本をみたのであった。米原をすぎるとすぐに敦賀で乗り換え。忙しく空がうつろう北陸、毛ばりのことを少し考えて、また寝入ってしまった。 
 
 犀川まですぐの近江町市場の近くの宿にはいって、旅装をといて、高川さんに今着いたので、明日の朝、川にいきますと連絡をした。シャワーを浴びて、地元のスーパーに買い出しに行く。少し霧のかかった金沢のまちを眺めながら、一番安いグレードの、加賀の酒をコップに注いだ。少し琥珀色。地元の人が飲むような、佳撰、旧二煮級酒が一番その土地の味がする。肴は、スーパーで買ってきた「さわら」(カジキ)のお刺身。その時々の最上のカジキが日本中から集まるといわれるくらい、金沢の人はカジキが好きだ。数切れのカジキに、甘口の大野醤油をまわしがけ、一気に口に放り込んだ。瑞々しく、脂は上品、芳醇な琥珀色の酒がぴたりと合う。全国どこでもマグロと淡麗辛口の酒が出てくるようになっても、金沢は独自の食文化が残っている。ああ、これが金沢だ。今日こそは、電話、鳴るなよ。今は休暇なのだ。久々の。 
しかし電話がかかってきた。今回は、軽微な問題だったので、三十分くらいで済んだが、先日のような大問題なら、朝まで働くことになる。オンコール対応は、この国では待機とみなされ労災の対象にもならない。が、これが待機なものか! 一度やってみればいい。自分は、電話を部屋の隅に投げ捨てた。このクソ電話はどこでも追いかけてくる。次に鳴ったら犀川、いや、そのへんのどぶ川に投げ込んでやる。 
 
 数年前に、「うまくやった」友人に、中央競馬の馬主席に招かれたことがあった。馬主席というのは、一種独特な空間で、ゴール前、大歓声が下のスタンドであがっているときも、静寂につつまれている。目の前を走っている競走馬のオーナー達がいる席ゆえ、勝ち負けについて声に出すのは非礼にあたるからである。 
友人の愛馬は、最後までいい脚を使って勝ちきった。数人の、同じく、あの世界出身で「うまくやった」人たちが、友人のまわりに集まって「おめでとう」と、小さな声で、短く祝いの言葉を述べた。「有難う」と、彼は鷹揚に頷いた。 
彼と専用のエレベーターで、下に降りたら、花束を抱えた競馬会の女性たちが、微笑んで待っていた。目の前には、ポケットの中の小銭を賭けて、一喜一憂するひとたちがひしめいている。その上の指定席は、優雅に競馬を観戦するくらい余裕のある人たち、さらに、その上には決して公開されることのない世界が広がっていたのだ。競馬場の階層構造は、まさにこの世の縮図であった。招待された者であっても、ガードマンは閲兵式の兵のように、敬礼してくれる。エレベーターに乗れば、5階で御座います、と丁寧な接遇がある。食堂では、朝の時間は、ちゃんと巻いたオムレツ、昼は「ヘレステーキ」だ。肉の塊から丁寧に都度切りだして、プロの調理人が焼いたものが供される。ああ、こんな世界があるのか。自分の技術を金に換える狡さがあれば! 自身の情けなさに腹が立った。金を稚気から卑しいものとみなして、背をむけた。友人たちは気流に乗って、はるか上まで飛翔したというのに、妬み、悪意、強欲、そして争い、こういうものが渦巻く地べたで、自分は今日も生きている。 
あのとき、気流に乗っていれば、他人に悪意を向けられたことなどない、金沢の一等美しい鮎毛ばりのような高貴な手をした幼馴染と、家族の写真を競馬場の芝の上で撮る人生を歩めたかもしれなかった。 
おめでとうと素直に祝い、有難うと応える鷹揚さが普通にある世界、これはあまりに目の毒だった。どうか、そんな世界に懸想して、現状を打破する気概もなく嘆くなといわないでいただきたい。地上僅か数十メートルに、感謝と敬意と善意と、地べたから失われたもので溢れている空間があるのだ。あの空間を見たら、みんなやられる。金持ち喧嘩せずというのは、本当のことなんだ。 
 
 コップ酒を飲み干して、ため息をついた。幼馴染は、貧しい暮らしでもかまわないと夢見がちなことを言った。けれど、あんな高貴な手をした彼女が、こんなひどい世界での暮らしに耐えられるものか。仕送りを打ち切られ、彼女は働きだしたが、すぐに心を病んだ。当たり前だ。平然と人に悪意を向ける獣が地上にはうようよいる。それを見かねた自分は必死に働いて彼女を支えたが、あの天真爛漫な笑みはもう戻らない。自分は彼女同様に、うまく、効率よく金を稼ぐことができない。21世紀では淘汰されるべき種族なのだ。 佳撰の酒は涙の味か、やけに塩辛い。彼女に、心の中で詫びた。
(ごめんね、自分のボロエンジンは、もう振動をおこしている。あの争いのない世界まで、君を乗せて上がるのは無理だ。もう舵をとる気力もないや)
コップを置き、お守り代わりの本を開いて、lethal dosage(致死量)を目で追った。彼女のお守り、百合の紋章が掘られた銀の筒の中身、しけってなければ十分足りる。 
 
 あまりいい酒の飲み方でなくなってきたときに、自分が一昨年ようやく加入を許された、名門の鮎の会「東京香魚会」の会長から、電話がかかってきた。すぐに体が反応して電話をとった。
「君、金沢に今いるのだろう、鮎は、どうかね?」 
「明日、高川さんと竿を出します。犀川はよいようですが、浅野川は、工事の影響で釣りにならないと伺いました」 
「浅野川は、古都の町並みの中を流れる良い川だったが、残念だね。そう、高川くんのことなんだが」 
ああ、高川さん、また誰かとモメたのだなと直感した。今度は誰に噛みついたのだろう。県の役人だとか、伝統工芸士会の役員だとか面倒な相手かな。 
「彼は、今度石川県の伝統工芸士に指定されることになっているのだよ。ところが、土壇場で辞退したいと言い出してね。私はいいが、知事や県の面子はどうなる。君、彼とはウマがあうのだろう。もう一度、考えるよう言ってくれないかね」
「とうとう、高川さんの業績が認められたのですか。ラメは偉大な発明です」
「彼は市営住宅に住んでいるだろう。あの人はでも、市営住宅ですからね、なんてことをさらりと言う陰険なところが金沢の人にはある。伝統工芸士に指定されれば、それなりの身分になる。工芸の本道を歩むことになるのに、彼はなぜ今更」 
伝統工芸士は、経済産業省が指定するものと、地方自治体が指定するものと2つある。どちらの伝統工芸士でも、指定されれば、手厚い助成をもらい、デパートに「作品」が並び、「先生」と呼ばれるようになる。それなりの家にも住めるだろう。 
「何か、気に食わないことでもあったのでしょうか」 
「高川くんは麒麟児なのだ。代々、加賀藩の侍のために毛ばりを巻いてきた名門の家にうまれたわけでもない。独力で、ここまで来たのだよ」 
「ええ、老舗の毛ばり屋に、毛ばりを巻いていいかと挨拶にいったら、大旦那に、巻けるものなら巻いてみなっし、と相手にもされず、悔しかったそうです」 
「彼の毛ばりを後世に残すためにも、再考するよう彼に言ってくれ給え」 
重い話だった。しかし、自分は金沢の夜の街を見ながら笑いだしてしまった。「作品」がデパートに並び、市営住宅だからと馬鹿にする奴らから「先生」と呼ばれたいと、一心不乱にここまできたのに、いざ伝統工芸士になれるとなったらば、そんなものになってたまるかと、高川さんは狂犬のように噛みついたのだ。物心ともに、会長は高川さんを支えてきた筈だが、こんな称号をもらって、国や県から銭をもらい、実用に耐えない高価な「お毛ばり」を巻く位なら、河原で段ボールの看板を掲げて、市井の人々にラメ毛ばりを五百円で巻くほうがマシだと、会長に面と向かってでも、そう言うだろう。
これほど痛快なこともあるまい。この三千世界のどこに、伝統工芸士指定を断る人間がいるのだ。工芸に関わるものなら皆なりたいに決まっている。その称号を捨てる人が、本当にいるのだ。高川さん、あなたは本物の職人だよ。俺は、馬鹿だったよ。 
人間の誇りというものを失ってまで、生きている価値があるのか? 高川さんの強烈な反抗は、華やかな世界に酔った自分の目を醒ましてくれた。地べたを歩いていけばいいじゃないか。人間は、もともと飛ぶようにはできていない。 
昨今では遊びにですら効率や生産性を求める人が多い。けれど、非効率な遊びこそが、ひとを豊かにする。氷河期世代の残したものが、タイムパフォーマンスやコストパフォーマンス第一主義なんて言われてたまるものか。人間は競走馬じゃない、経済動物でもない。地べたで、立派に、朗らかに、遊び通してやる。 
    


 翌朝、ビニール袋に釣具一式を突っ込んで、袋をぶら下げ犀川土手へ向かった。これは、全身を高い装具でかためた裕福な釣人とは違うよという、一種の「傾き」である。 
犀川の土手には、竿が林立していた。誰が音頭をとるわけでもないのに、竿を上げ下げしながら、扇状に下手から上手に動かすタイミングぴたりと合っているのだから、釣り人が密集していても、隣の人との竿がぶつかることがない。圧巻であった。高川さんは、このひとは静岡からきたのだと、さまざまな人に紹介してくれた。ありがたいけど、余計に緊張する。水の色をみて、さっそく毛ばりを選ぶ。 
「上バリは、なににしようかな」 
すると、高川さんがぎろっと自分をにらんだ。 
「犀川は、1本バリ。上バリなんかつけとったら、どやされるでえ!」 
「あっ、そうだった!」 
鮎の毛ばり釣りは、通常毛ばりを二本つける。下の毛ばりが本命で、上は、鮎を刺激するために、比較的きらびやかなものをつける。だが、犀川を犀川たらしめているのは、この、一本バリのルールなのだ。となりの釣り人が、自分の心を見透かしたかのように、一本ハリは難しいぞ、北陸の釣り人の竿さばきをみて勉強していきなさいと微笑んだ。 
二本なら、迷いが多少あっても釣れるが、一本は少しでも毛ばりの選択に迷いがあれば駄目だ。ここはもう、自分が一番好きな「椿姫」でゆこうと決めた。迷いはない。
さっそく、浅場で椿姫を舞わせた。すぐにもぞもぞという、鮎が毛ばりを食む気配が手元に伝わる。ここで竿を不用意に動かすと、鮎は毛ばりを離してしまう。ぐっとこらえると、竿先が一気に沈む。鮎が、喰い込んだのだ。この奈落の底にひきこまれるようなひきこそが、鮎毛ばり釣りの最大の魅力である。そして鮎は釣れ続いた。
 高川さんが、半分怒ったような顔で、毛ばりはなんだと怒鳴るように聞く。釣れている毛ばりを聞くのは、マナー違反だ。けれども高川さんは毛ばり職人だからかまわない。 
「椿姫です。静岡の釣り人は、浅場が得意なんです」 
高川さんは毛ばりをみせろといって、縦にラメのはいった播州の職人が巻いた繊細な椿姫を食い入るように見つめた。 
犀川の鮎は、椿姫に入れがかりとなり、手を止めてずっとこちらを見る釣り人もちらほら。さっき、竿さばきを勉強していけといっていた釣り人が 
「やっぱり、静岡の興津川みたいな有名なところでやっている人は違うなあ~」 
ころっと態度をかえて、褒めてくれたのが、おかしかった。 
 
 騒ぎをききつけたのか、同じ東京の釣りの会所属の伴さんが自転車でやってきた。伴さんは、すぐそこの加賀藩家老のお屋敷に住んでいたのだが、広すぎて維持管理が大変なので市に庭園として貸し出し、お屋敷の美術品はボストンの美術館に貸し出して、今は庭や美術品の心配をすることなく、香林坊のマンションで暮らしている文字通りの殿上人である。以前お屋敷に「高川君ちょっと来ないか」と招かれた高川さんは、河岸段丘をぜんぶ使って、滝も川もある庭園の全貌がよく見える群青の間に通された。ラピスラズリをふんだんに使った青壁だったという。 
伴さんは河原におりてきて「あんちゃん竿かしてみ」と自分から竿をとりあげた。さっそく釣る。また釣る。伴さんは釣りの腕に加えて、誰とでも別け隔てなくつきあうその気さくさから、多くの人に愛されて「キング」の異名を奉られている。「キング」の釣りは圧巻だった。静かに、しかし大胆に毛ばりを舞わせて、その毛ばりに鮎がひきよせられるようにかかり、毛ばりにかかった鮎が白刃のように水中で閃く。曰く、「鮎は音に敏感なんや。オモリが底を打つと、鮎が散ってしまう」 
 
 「キング」が自分の竿で、釣りに夢中になっている間に、高川さんに会長からの電話の内容を伝えた。 
「あんちゃん、ワシの毛ばりはな、伝統工芸士が使う、漆や金箔や夜光貝やカワセミの羽を使ったら、五百円では巻けんのや」
高川さんは、一言一言、噛みしめるようにつぶやいた。 
「ラメ入りのハリは、高川さんがうみだした。いまや、ラメは伝統の一部です。伝統工芸士の称号にあぐらをかいている、老舗にはできなかったことです」 
「会長に、いろいろ言われたんやな」 
「はい、会長は、高川さんの業績を残すためにも、伝統工芸士指定をうけてくれないかと」 
「会長には申し訳なく思うとる。けどな、あんちゃん、ワシは、こういう毛ばりを巻いてくれいと来る人たちのために、ずっと毛ばりを巻きたいのや。デパートに来る客なんか、竿出さんやろ。ワシは、こういう生き方しかできん、会長にそう伝えて」 
「わかりました。言いにくいけれど、なんとか伝えてみます」 
「あんちゃん、すまんな、面倒なことに巻き込んでしもうて」 
「いえ、私は高川さんの決断に救われました」 
高川さんは、怪訝な顔をした。そして、伴さんが、もう十匹は釣っただろうか、ようやく竿をかえしてくれた。 
「高川君、君の毛ばりな、あれは加賀毛ばりでなくていい。高川毛ばりという、唯一無二のものだ。それでいいじゃないか」 
伴さんにも、同じような話がいっていたのだろう。けれど、伴さんも説得する気はないようだった。 
 
 やがて、夕暮れ。残照が、犀川の河岸段丘を照らす。ちょうど伴さんのお屋敷があるところだ。ふと、高川さんがつぶやいた。 
「あんちゃん、この空の色おぼえとき。赤熊のじかん」 
そして、鮎は、高川さんの巻いた赤熊という、ラメを使わぬ古典的な毛ばりに入れがかりとなった。鴨の黒い羽根を使い、中心にごく細く帯のように鮮やかな赤の入った毛ばり。どの老舗のものよりも、気品のある赤熊。高川さんは、こういう毛ばりだって巻けるのだ。 
赤は、夕闇の中で輝く。一点の赤は、夕闇の中でこそ輝くのだ。 
 
 自分は死ぬまで、この夕闇の中での赤熊の色、あの空の色を忘れないだろう。

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リアル諸⭐あたる、実は私〇〇なんです。

 3th Dec 2025

 今年、最後の月が始まりました。
 北海道神宮の朔日餅を楽しみにしていましたが、五色かのこ……豆……(私は豆類が苦手)芋栗じゃなくて、残念。
 ファイルの写真を整理していると、中島公園紅葉ライトアップ最終日の点灯を見てから、ひと月経っていることに気が付きました。ライトアップされた夜の銀杏並木の下を歩くのは初めて。途中から雨、おしるこ提供にはありつけなかったけど、おでんが100円引きだったり、焼き芋が食べれてよかった。
 焼き芋のイベントに参加したのは、2回目。
 全国で開催される「おいも万博」初の札幌開催でした。甘いさつまいもにバターや生クリームがたっぷり、たくさんは食べられないものですね。
 
 そして、紅葉ライトアップのキャンペーンに参加。

 厳正なる抽選の結果……ご当選……つきましては、商品(市内ホテルのお食事券等)を郵送にて送りするため、お受け取り可能なご住所・お名前をお知らせください。運営事務局分室←?
 当選DМを受けても警戒心から迂闊に喜べないけど、札幌エクセルホテル東急・ランチブッフェペアチケット←これ、いいね。
 他、札幌パークホテル・ニューオータニイン札幌・プレミアホテル中島公園札幌・ホテルライフォート札幌など。
 私は日常的にビジネスホテルを利用するため、どのホテルも思い出せる空間ですが、私の愛する札幌グランドホテルの名前が連なっていませんでした。
 グランドのラウンジ、ミザールでいただく苺のショートケーキが大好き。コーヒーは驚くほど高額ですが、おかわりできるのでお得(コーヒー単品の注文だとアーモンド付)ショートケーキでいえば、ニューオータニのエクストラスーパーショートケーキが数年前から有名ですが札幌で販売はありません。
 キャンペーン当選者は合計20名。
 応募数がどれくらいあったのかわからないけど、クリスマスプレゼントだと思って、お手紙が届くの楽しみに待ってます。

 次に、スタバ福袋が当選。

 なんと当選率6%
 姉や友人、フォロワー様もエントリーしたけど当たらないと噂の最・難・関・スタバ福袋。
 残念ながら当選できなかった姉を慰めるべくパイクプレイスロースト(中挽き)をプレゼントしようと考えています。ステンレスボトルがもう一本当たったら母に。重たくなければですけど。今、リハビリで通所してるから、水分補給にいいかなって。
 
 立て続けの当選
 でも、それほど珍しくないというか……人生の中で数ある幸運……くらいにしか思えない理由がある。

 宝くじ、毎年当たります。

 なぜなら『確率』くじ運ではなく、買えば買うほど当選確率が上がるから。
 高額当選では無いにしろ、当たりくじの買い方が存在します。
 年5回発売される大型の宝くじ・ジャンボ。
 まず連番、10枚一組が袋に入ってるくじを買います。すると<必ず1枚300円>当たります。10/1の確率で300円必ず当たる!ほら、もう当選が確立なの立証しているでしょう。換金所で受け取れない高額当選は人生に何度かしか経験はありませんが、銀行に印鑑持参で行くと例えば口座を新規開設する案内もあるので(だから印鑑が必要)場合によっては、個室に案内されます。
 銀行で契約をしたことがあるので個室は凡その察しはつくけど、紙袋に入れた帯付きの現金を持ち帰りたくない。
 口座に預金して、ATMで確認すると小数点で実感。

 でも、それ以上に宝くじを買っているので元が取れる筈もなく。笑

 (うちの人ほんとバカだと思う瞬間、年に何度かあります……いい加減にしろよ……)

 宝くじが当たった、なんて他人に言うものではない。というけど、別にいいんじゃない?
 お金があることを他人に言えば、その金をアテにしていい顔する人達が集まって来ると話に聞きますが、他人の金を自分の物のように使う人はそれほど居ません。それこそ相手との関係性で、自部の欲しい物を買わせるように仕向ける人はいるけど、断っても欲しがる根性ある人に搾取されたことが今まで無い。
 だって他人のお金を使うのはハイセンスが求められる。
 何よりも私から金を「借りたら」最後、壮絶な督促という名の信じられない 恐 怖 体 験 が出来ます、ほんとうに。
 まぁ男女の関係でいえば、いつも女の子が生活に困ってお金が必要だと嘘をつき、結婚を前提に金を巻き上げる。
 それも、性的な関係も無しに。
 ただ男って情になってくると相手を抱けなくなる性質があって……あ、私にはありませんけど……嘘だと分かってて搾取されることを致し方ないという男もいる。ただ予後が悪いので、お金は人生を狂わせるものだと認識しています。

 愛はお金では買えないのよ。
 だから、あくまでも正常値で狂いそうにない男に照準を定めた方がいい。と、だけ。

 給料全部くれるような男たちはいる……けど、人生は等価交換……手懐けてお金を引き出すのは短命なお付き合いで、相手にとっても自分にとっても、人生に何度かある機会。例えば一度に100万円欲しがれば嘘をつくことになる。でも100回会う中での1万円の価値は、お互いご機嫌になれる要素がある。
 今はタイパ・コスパの時代です。
 一期一会サクッと遊んで、相手の顔も名前も覚えてない。そんなことが度々ある人生であれ。

 今年の漢字
 何でしょうね。数年に一度「金」なの、ご存じですか。
 そのくらい身近なワード、お金の話。12月はボーナス時期、飲み会も多くなるから皆さまご自愛♡くださいませ。

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 進捗『女風』をテーマにした小説を連載します、ここで。

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sense of winter in the air/冬の気配

上流から橋をくぐり
停泊するための
Uターンをする船の
水面に描く幾重もの
うつくしい波紋はほどけ
さざなみだけが残る
川はまた流れる

薔薇園の冬囲い
三角帽子になるために
大急ぎで取り掛かる
もう冬の足音が聞こえる

バイパスの
分離帯に残された
白いスニーカー
誰にも拾われずに
春まで地を踏みしめる

空のどこかで
もう風花が待っている


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それでもわたしは頑張れって言いたい

既に頑張りすぎている人に
「頑張れ」って言っちゃだめだ
って言われすぎて
わたしの口癖は
「無理しないように」
ってなってしまったけれど

それでもわたしは頑張れって言いたい
本気で心の底から言うから
言わせてほしい

もうじゅーぶんなんだ
せかいがあつくなったりさむくなったり
よっつだったきせつはふたつにまとまったり
うんざりしてきて
だからはっぴーでいたいんだ

わたしがわたしのじんせいにしか
しゅーちゅーできないように
あなたはあなたのめりーごーらうんどしか
まわせない

そろそろわたしはわたしのじかんに
もどりたいから
心の底から本気でいうから
言わせてよ


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AIを使う奴は全員バカ。すぐに時代遅れお疲れ様。

あなたが、
本気で思うことは、
なんですか?

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CODA: あひるの夢

In ripples wide, where willows weep,
A duckling dreams in slumbers deep.
Of sun-kissed ponds and summer's gleam,
A silent, emerald, liquid dream.
He paddles soft through starlit skies,
With nebulae reflected in his eyes.
No earthly mud, no simple reed,
But cosmic waters, finely decreed.
A feathered wish, a silent flight,
Beyond the pond, beyond the night.
He glides on air, a celestial breeze,
Among the ancient, whispering trees
Of distant constellations, softly lit,
Where tiny, glowing fish now flit.
Then morning breaks, a golden hue,
He wakes to find his pond so new.
And though the stars have slipped away,
A quiet wonder fills his day.
For in his heart, a memory gleams,
Of boundless, wild, and cosmic dreams.

見上げた空には、夏の終わりの喧騒がもうない。熱狂が去った後の、無機質で清潔な肌寒さ。それは人が押し寄せる巨大な交差点の、信号が青に変わった後の、一秒の静寂に似ている。夢が覚めた後のような、骨の髄まで響く寂しい残像だけを、アスファルトの上に残していく。
有限な時間の砂が、心臓の奥底でさらさらとこぼれ落ちる音を、いつの日から聴くようになったのだろう。かつて憧れた「永遠」という名のバルーンは、巨大な螺旋階段のファッションビルの屋上から手を離され、月の裏側、もう手の届かない場所へと去ってしまった。喉の奥でくぐもる「さみしい」という声は、ネオンで頼りなく溶け、誰にも届かない泡となって弾ける運命を知っている。
わたしが放つメッセージは、曖昧な形をなぞって伸びていく。それは、ナビゲーションする光の軌跡。
犬の銅像の傍ら。交わされる、真夜中のフラッシュ。光は、鮮烈で、そして危うい。状況次第で、すぐに途切れてしまう、心と心を繋ぐ、古い有線ケーブルのようなもの。言葉よりも、音響が乱反射する細い路地のざわめきの中で、互いに見つめ合った瞬きのタイミング。
心の奥を深く動かし、回路を焼き切ってしまう時がある。
漂流する小さな箱舟から、視界のビル群が無数の星のように次々と替わっていく。それは、頻繁な振り子の揺れを経て、私鉄の終点へと向かう最終電車のように、わたしを遠い孤独へと運び去る。切ない別れの瞬間が、街の吐息のような肌寒さだった。そのたびに、想いはいつも、巨大な駅舎の幾度もの改築計画のように、矛盾した工期で、ばらばらの順序で、常に遅れて心に届くのだ。心臓が受け取る絶望的な遅延(レイテンシ)。
別れは、次の光を見つけるための、わざと割られたガラスの道標。
わたしが今、開発しているのは、その哀しい原理を超越するための技術、あるいは、ノイズの海を越えるための夢の理論だ。星の運行による光の到達時間のズレ、その距離(ディスタンス)の変動を、少ないため息で計算できるほど単純なモデルに落とし込みたい。途絶への、永遠の夜への不安を抑制するために。
熱、愛、風――この世界のあらゆるエネルギー、湿度、そして温度を浴びる。
隣にいないことが、どれほど恐ろしい空虚かということを痛感する。その空洞は、星を奪われた夜空の真空に酷似している。
燃えるように鮮烈で、目を焼きつけるほど美しいものがある。それが、この世界の最も哀しい原理かもしれない。だからこそ、その一瞬の光、寿命の短いシグナルを逃さないように、わたしは走りきりたい。
わたしが目指す終着点。夢の残骸が漂う、非現実の座標だ。
夜空を揺蕩(たゆた)う水面。晴れたMösting A(メスティン・エー)。月の裏側、その静寂のクレーターのように、世界のすべてを赦すように光を屈折させる。
月白色に光るタイルの破片。淡い記憶の色。わたしは、砂時計の底から、際限なく湧き出すホワイトノイズの中で、ただ、あの日の花氷に手を伸ばす。水面の歪んだ反射光の中で、手のひらからすり抜ける。
光の粒となって交差する時間と場所。一度きりの交差点があったなら。
あの時、きみがくれた砕けたビー玉のような笑顔を、もう一度、この網膜に焼き付けたい。
この願いこそが、わたしの魂の最終目標。もう、頼りない約束で、夢の瞬断に怯えることはない。わたしは、この想いを、きみのもとへ正確に、一瞬の遅延もなく届ける準備ができている。
かつてきみが言った「よかったら会いに来てください」という、何気ない言葉。それは、わたしにとっては秘密の待ち合わせ場所を示す暗号化された招待状だ。その光は、遠い記憶の軌道から、坂道の途中の歓楽街の裏手に咲く秋の金木犀のように、甘く、切なく、香り立つシグナル。何も、当たり前じゃない。この繋がりも、呼吸も、金木犀の香りも。だからこそ。
そして、その「誰か」こそが、時間や距離の制約を完全に受け付けない、わたし自身の永遠のプロトコルかもしれない。彼女は、パステルブルーのプールサイドに立ち、空の幻を現実に変えるための、ただ一つのキーを握っている。
わたしは、奇跡のような存在になれるように。この限られた時間の中で、きみとの未来を繋ぐ幻の回路を、永遠に構築し続ける。
肌寒さに心が沈んでしまう時でも、きみの姿が映画館のスクリーンの幕のように、消えかかるときでも。
この金木犀の香り。心臓を貫き、魂を揺さぶるような、ミッションクリティカルな繋がり。

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鳩と指輪

高層ビルから飛び降りようとする男がいる。胡麻のような黒い粒にみえる。野次馬たちがなんやかんやと申している。男は中年で、病を抱え借金を背負っているらしい。負債がいくらだか野次馬もわたしも知らない。これだけ大声で叫べる男のどこがどう悪いのかも知らない。しかし、かれにとってそれは十分におおごとであるらしかった。

異なる男がいざ死なんとする男を引き留めている。男である、というのもそれは声質から判断しただけのことであって、かれの心が男であるか女であるか、はたまたネコであるかをわたしは知らない。ところで、善良な男の手には指輪があったらしい。

そういうわけで、病んだ男はおおきくわめいて落下していったそうだ。ラーメン屋の排気口の下をくぐった鳩が、男の贅肉に目もくれなかった。
鳩は大久保方面のくぐもった空を飛んでいった。

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ぶんがくしょうはホシガラナイ

おちたり
おとしたり
してしまったんだろうか

きいろのはっぱが
おちてきて
それはたいてい
いちょうのはっぱだから

あきだなあとか
きれいだなあとか
よしもとばななのほんの
ひょうしをおもいだしたり
してしまう

こどもがはしるのを
みまもっている
あそんでいるのか
あそばれているのか
わからないなあ
どっちでもいいか

ほんはとじたまま
ぺんはもたぬまま
けいたいはみれぬまま
そんなじかんがながくなる

だけどもわたしは
くうきをすえてはけて
きもちいいし
せのびもできるし
はしゃいでみたりも
できるのです

なにから
ふりおとされて
みうしなったのだろうか
といたくなるときもある

あきらめたのではなく
みるほうこうが、、、
いいかけてやめる

きいろのはっぱ
あかいはっぱ
みどりはまだおちてこない
うたいながら
なぜかいしばかりあつめる
こどものせなかのまるさが
かわいくてしかたない

私は賞など目指してはいないけれど
そりゃあ欲しいと思う時もチラリとは
あります
届かない負け惜しみで目指してないと
言っているのかと考えてもみたけれど
違うちがうやっぱりズレていくのです

だつらくしていたとて
そらをわすれてはいないので
らっこのようにいしをもち
なにかをこじあけて
たべてしまいたいとねがうひびでは
あるのです

なにをいいたいかみうしない
それでもいちょうのきは
きいろくきれいなので
「あきのいちまい」を
かめらにとじこめて
きょうは ゆっくり とじてみます

だつらくしたのだとしても
あきらめなどもてはせず あき

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おおきいことと、ちいさいことのうた

『おおきいとちいさいは、比較級の歌』


おおきいとちいさいは、比較級
リンゴは、アリンコより大きい
単体で大きいということはなくて、なにかがなにかに対して、大きい
大きいと小さいは比較級
なにかの絵がなにかの絵より、小さい
単体で小さいということはなくて、なにかがなにかに対して、小さい
大きいと小さいは比較級
リンゴの欠片はアリンコよりちいさくて、アリンコは、リンゴの欠片より大きい
大きいと小さいは、比較級
神様は何者より大きくて、神様は誰の目にも見えない
大きいと小さいは比較級
時計の針は鼻毛より大きくて、鼻毛は時計の針より小さい
大きいと小さいは比較級
時間の価値はお金より大きくて、お金の価値は時間より小さい



『ちいさいは、みえない』


ちいさいは、みえない
ちいさすぎると、みえない
ちいさくて、みえない こころのなかは、ちいさくておおきい
おおきいは、みえる
おおきすぎると、みえない
おおきくてみえないうちゅうのなかは、おおきくて、てにおえない
おおきいは、ちいさい ちいさいは、おおきい
おおきいもちいさいもようしのうえに、あらわせばちゅうくらい
おおきくてちいさいほしをながめて、ゆったりとのんびり

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モンスター


「熱っ!」
熱湯の入ったコップをぶちまけながら
何なの? この成績は!
また順位が下がってるじゃない!
勉強してるふりして
くだらない漫画でも読み腐ってたんだろう!
「ごめんなさい、読んでません
今度はちゃんといい成績取ります
だから、今回は許してください」
この間もそう云っていたよね
謝れば許してもらえるとでも思ってるのか
人を舐めるのもいい加減にしろ!
とりあえず病院には連れて行ってやる
勉強中に過って飲み物を零したって云いなさい!




いつからお母さんは お母さんじゃなくなったのだろう
裁縫好きだったお母さんは 私が小さかった頃はよく
学校に持っていくクッションカバーとか体操着袋とか手作りしてくれて
すごくかわいくって うれしくってだから
私もそれを持って学校へ行くのが楽しみだった
あの頃は 何度もテストで100点を取って
答案用紙を見せてはお母さんも喜んでくれてたから 
勉強も頑張れた
それに あの頃はまだお父さんも一緒に住んでいたし
お父さんはあまりおしゃべりな方ではなかったけれど
私のことは可愛がってくれていた
よくドライブにも連れて行ってくれたし
いろんな話を聞かせてくれては 笑わせてたり
だけどお母さんは こんなに優しいお父さんのこと
何故かいつも見下しては バカにしていた
お父さんは何も云わないで黙っていたけど
子ども心にも あまりいい気持ちはしなかった
いつの間にか お父さんはいなくなっていた


一体どこでおかしくなったんだろう


小学校のとき 将来の夢という作文に 
私が外科医になりたいって書いたことからかな
ブラックジャックが好きで あんなふうに患者を手術で救える外科医という仕事
単純にカッコいいと思ったからだったんだけど
それを知ったお母さんが 医学部を目指すならと
有名私立中学のパンフレットをいくつも集めてきて
お母さんの気に入る中学に なんとか合格することが出来た


お母さんは云う テストに出る問題なんて
授業を真面目に聞いていれば満点取れて当たり前
医者を目指す貴方なら 毎回満点取らなきゃダメよ


けれど 中学での授業は当然小学生の時より難しくなっており
毎回毎回満点を取るのは難しくなっていった
ある時定期考査の点数で89点を取ってしまった
どうしよう どうしよう どうしよう
こんな点数お母さんに見せたりしたら


案の定 お母さんは大激怒
「何なの、この悪い点数は?」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「ごめんじゃないでしょ?理由を聞いてるの!」
「ごめんなさい、今度は頑張ります」


私は私なりに頑張った、つもり
部活にも入らず、友達と遊ぶこともせず
学校が終われば真直ぐ帰宅
食事とお風呂の時間以外はすべて勉強に費やしていた
深夜遅くまで勉強しないと許されなかった
それでも私の成績は思うほど上がらなかった


この頃になると 叱責や暴言だけにとどまらず
身体的な暴力もふるわれるようになっていた
ある時は包丁を突き付けられたこともあるし
棒のようなもので何度も叩かれたりもした
手首についた傷跡をクラスメイトに見られてしまい
見かねたクラスメイトが担任に
成績表を書き換えてくれるよう掛け合ってくれたりしたけど
担任はそんなことは出来ない と
自分で改ざんを試みたりもしたけど すぐにバレてしまい
暴力はさらにエスカレート


高校に入って 何度か家出も試みた
国語でお世話になっていた先生
先生は私の体に出来たいくつもの傷に気づいてくれて
然るべきところに相談したほうがいい
ひとりで不安なら 自分も付き添うからと云ってはくれたけど
そんなことをしたら あとでどんなことが待っているか
私はお母さんを恐れていた
いい成績を取ってお母さんを喜ばせてあげられない自分が悪い
もっと頑張って もっともっと勉強していい成績を取らないと
医学部に入らないと 医者にならないと 期待にこたえないと
いつか見捨てらてどこかへ行ってしまうのではないか
その時の私は そのことが何より恐ろしかった


三者面談の日
担任は淡々と「娘さんの成績で医学部へ行くのは無理」
「そもそも娘さんは医者向きではない」
「看護科ならA判定なので、看護科を薦めます」


激高したお母さんは 
「たかだか高校の教師風情が偉そうに!
恥をかかせやがって!」
医学部へ入るために必要な偏差値から
私のいまの偏差値を引き算させ
その答えの分だけお仕置きと称して暴力をふるった


お母さんはどうしてそんなにも医者に拘るのだろう
別に看護師だって立派な仕事だと思うけど
お母さんだっていつも健康ってわけじゃないんだから
病院に罹ったりもしてるはずで
看護師にもきっとお世話になってるはずなのに


とにかくお母さんの希望通り 医学部を受験しよう
それで不合格だったら きっとあきらめてくれるはず


合格発表の日 当然ながら私の番号はなかった
お母さんは あきらめて
は くれなかった
何のために今までお金を費やしてきたと思ってるの!
合格するまで 医者になるまでは絶対に許さないからね!
それから 親戚には医学部合格したって云いなさい


次の年も その次の年も その次の年も
私は医学部受験するも 結果は惨敗
お母さんも流石にいい加減無理だと悟ったのか
看護科でも認めてやる
その代わり 助産師になること
それ以外は認めない
お風呂に入るときも 寝るときも
お母さんは常に私に張り付いて見張った
ほんの人ときの自由さえも取り上げられた
それでも
それでも


どうにか看護科に合格して 日々看護の勉強をしていく中で
外科医をそばで支えるオペ室看護師になりたいという夢もでき
少しずつ自分の人生を生きていけるのではないかと
こんな私にも かすかな淡い希望の光が射しかけたような気がしていた
一方ではお母さんの望む 助産師になるための試験も受けたものの
結果は不合格


「裏切者!バカ!うすのろ!嘘つき!人間のクズ!お前なんか死ね!」
ありとあらゆる罵声と暴言が ガラスの破片のように降ってきた
また、お母さんとの連絡用以外に持っていたスマホが見つかってしまい
ベランダに叩きつけるように投げつけた揚げ句
ブロック塀を投げつけ粉砕
ここに土下座しろ! 私を裏切った罰だ! 嘘をついた罰だ!
喚き散らすお母さん もう何を云っているのか
私には解らなかった
この人はずっとずっとこうだ 何も変わらない
ふいに今まで抑えてきた何かが ブチッと切れたような音が聞こえたような
そんな気がしながら 云われるがままに土下座している自分
涙なのか悔しさなのか怒りなのか絶望なのか
自分でもよく解らない感情があとからあとから湧いて出て
ギュっと目を瞑り 爪が食い込むほど掌をグッと握りしめ
必死で堪えた
お母さんに悟られないように


あゝこの人はもう むかし私がまだ好きだった頃のお母さんじゃない
この人は私のことなんか何も見てやしない
成績優秀な子ども 有名私立に通ってる子ども
医者になった子ども
自分の欲求を満足させてくれる道具としか思っていない
ただそれだけの それだけの
モンスターに過ぎない


医者になるのは確かに私の夢だった
人の夢を奪うだけじゃ飽き足らず
私の人生まで乗っ取るつもりなんだ
いつまでも支配できると思ってる
云うこと聞くと思ってる
もう無理だ もう限界だ
終わらせよう 終わらせなきゃ
私は私の人生を取り戻すんだ
そのためには そのためには
もう あれをやるしかない




。。。。。。ハァ、ハァ、ハァ
モンスターを倒した
これでもう一安心だ



一安心だ




☆★**★☆
 この詩は、2018年に滋賀県で起きた
 9年もの間、医学部への受験合格を強いられ
 揚げ句、母親を殺めてしまった女性の事件をもとにしています

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死と私

自室に死を飼っている。死は炬燵でぬくぬくとテレビを観ている。死は獰猛で時々噛み付いてくる。今小指の爪を噛まれた。せっかくのネイルがかけてしまった。

死との付き合いはかれこれ十数年。中二の夏。家に帰ると部屋のベッドで死が眠っていた。私はその頃、毎晩寝る前に死に会いたいと願っていたから嬉しかった。死は私に気がつくとゆっくりと起き上がり何も言わずにほほ笑んだ。死を抱きしめたくて近づくと、死は私のみぞおちを思いきり蹴った。私は息がうまく出来なくなって、蹲り泣いた。死は優しくほほ笑んでいた。私は死に会えたのに、死と永遠に分かり合えないことを悟った。悲しみに包まれた。
悲しみは長続きしなかった。慣れは見事に悲しみを忘れさせてくれた。死と分かり合えないと分かってしまえば、どうってこともない。いるもいないも同じだった。私には友達がいなかった。別にいじめられていた訳ではない。ただ友達がいなかった。話しかける理由がないから、話しかけられることもなかっただけだ。強いていえば死だけが私のそばにいた。高校三年の冬。皆が受験勉強に追い込まれていくのを他所に私は夏休み前に推薦で近所の私立に合格していたので、時間を持て余していた。死と二人きりの時間が増えた。死は会いたいと思えばすぐに会いに来てくれた。分かり合えないのに、どうして会いたいのかわからなかった。私は独りが好きだったから、お昼ご飯はいつも人気のない裏庭のベンチで食べていた。死は私のそばで忙しなく雑草を抜いたり、越冬のために木のウロに集まった虫を潰したりしていた。死は汚れた指を私のスカートで拭いた。私は何も言わなかった。死はいつもほほ笑んでいた。死は喋らない。そばにいるだけだ。
その日はとても寒い日だった。私が裏庭でお弁当を食べていた時、担任の後藤という男の先生がやってきた。後藤はこんなとこで食べてて寒くないのか?と訊いてきた。私は首を横に振った。一人にして欲しいのに後藤は隣に座った。何か悩みでもあるのか?だとか、いじめられているのか?だとか、どうしていつも一人なんだ?だとか、いろいろとうるさかった。私は質問の度に首を横に振った。その時、死はどこからか持ってきた果物ナイフで木に傷をつけていた。私はもしナイフを奪って自分の太ももに刺したら、後藤はどうするだろうかと考えた。でも、後藤がどうしようと私には関係がない気がした。血が流れる。痛みが走る。涙があふれる。それだけ。それだけのことだから、後藤には関係がないし、私にも関係がない。樹液でベトベトになった手を死はまじまじと眺めていた。すると、三人の男子生徒が現れた。後藤を探していたらしい。三人組は後藤をからかった。先生が生徒に手を出したらダメだと囃し立てた。後藤はバカ!そんなんじゃない!と豪快に笑って取り繕っていた。その時、死が私の肩に触れて、ねっとりとした樹液の温みが肩に伝わった。私が死の方に顔向けると、死は優しくほほ笑んでいた。
その日から私は後藤と付き合っているという噂がたった。やたらと話しかけられるようになった。独りになれなくなった。お昼ご飯も数人の女子生徒と一緒に食べることになった。女子生徒たちは各々恋愛をしているらしかった。私は人を好きになることがどんな感情かわからなかった。だから、死について話した。死と一緒にいると安心する。死のことは何も分からないけど、死はいつでも待っていてくれると。すごいねと言われた。女子生徒たちには私と死はとても羨ましい関係らしい。みんな死のような恋人がほしいと口々に言った。私はすこし嬉しかった。
高校を卒業すると、私はまた独りになることができた。大学は高校と違って人と関わらなくて済む場面が多いし、広いキャンパスには人が来ない場所がたくさんあった。私は死と二人きり。この先もずっと二人きりなんだと思うようになっていた。
けれど、独りにはなれなかった。六月。酷く蒸し暑い日。昼休み。私がいつもお昼ご飯を食べる図書館裏のベンチにはすでに男が一人いた。私が別の場所を探そうと思った時、声をかけられた。男は私に一緒に食べようと誘ってきた。なんでも、男は私がいつもこの場所で食べているのを図書館の二階の窓から見ていたらしい。厄介なことになったと思ったけれど、断る理由を探すのもめんどくさいから誘いに乗った。男の名は米山。ひとつ上の先輩だった。彼は文芸部の部員で、よかったら入らないかと言ってきた。私は文芸部という部活があることすら知らなかった。それに文章を書くことに関心がなかった。けれど、断りきれずに入部してしまった。死はその時何をしていたのだろうか。私のそばにいなかった。
私はさっぱり文学がわからなかったけれど、死についての短い文章を書いた。書いてみると楽しかった。でも、死について書いている時、いつも死はそばにいなかった。死は家に引きこもるようになった。
七月。米山に告白をされた。人生ではじめて愛してますと言われた。私には死がいるから先輩と一緒にいなくても大丈夫だと伝えると、死って誰なの?と問われた。私は答えられなかった。家に帰ると、死はベッドに座って優しくほほ笑んでいた。会いたかったのに、どうして来てくれなかったの?死は答えなかった。答えの代わりに私の腕を引っ掻いた。血が出た。とても痛くて、涙が出た。でも、これは悲しみの涙なんだと思った。
死は凶暴になっていった。帰る度に傷つけられた。噛まれたり、蹴られたり散々だった。その時に感じた痛みや悲しみを文章に書くようになった。文章を書いている時だけは悲しみを忘れることが出来た。文章を読んだ米山に死との関係を終わらせてあげたいと言われた。俺が死の代わりになると米山は何度も言った。私は無理だと思った。先輩は死になれないですと言うと、米山はそんなに俺はダメか?と語気を荒げた。
それからどうなったんだっけ?今となっては忘れてしまった。米山とは結局付き合うことはなかった。というより、誰ともいまだに付き合ったことがなければ、好きになったことがない。死といる限り誰も好きにならない気がしている。

大学卒業後は、仕事の都合で親元を離れた。引越しの時はいなかったくせに、引越しが済むと死はいつの間にか家にいた。私は特に驚くことはなかったが、死ぬまでこいつとは一緒にいるんだなと諦めに似た感情がわいた。
私と死についてはこれ以上語ることはないし、この物語ももうすぐ終わらせようと思っている。かけたネイル。気に入ってたのにな。自室に死を飼っている。死は中二の夏に初めてあった時から何も変わらない。成長しない。相変わらず、時々激しく暴れて私を傷つける。傷跡をコンシーラーで隠すことにもすっかり慣れた。近頃、死に会いたいと願っていた頃のことを思い出すようになった。死に会う前の私は何を感じて生きていたのだろうか。もう死を通してしか事物を見れなくなった私は何故生きているのだろうか。と思ったほんの一瞬のことだった。死の鋭い爪が私を抉りとったのは。

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お経

お経   北岡伸之

              一

 格子の影が川面に揺れて、水もどことなく白く濁って見えた。
白澤ユウコの指は、すらりと長く、整っていて、意外にも筋肉がついていた。ダンベルか、鍵盤か、門前正行はふとそんなことを考えた。
観光客で賑わう料理屋の窓からは、浅野川の穏やかな流れが見える。泉鏡花が「女川(おんながわ)」と呼んだこの川は、兼六園下をかすめ、主計町、そしてこのひがし茶屋街へと、静かに東から西へと流れてくる。
 焼いた鮎が運ばれてきた。この時期にしては、大きく、二十センチ以上ある。顎までまるまるしており、川のものではないとは、簡単にわかった。
 ユウコは懐から和紙を取りだして、卓上に置き、背ヒレ、尻ビレ、腹ヒレと順番に指で舞うようにむしると、指さきを和紙でぬぐって、箸先を鮎の側面におさえつけるようにして、丹念にほぐした。正行は、ユウコの手に見とれてしまった。ユウコは、鮎の頭を指で持ち上げて、背中が上にくるようにして、今度は箸で鮎の背中をほぐした。そして、頭をつかみ、動かすと、白くみずみずしい骨が、身から驚くほど簡単に抜けた。
 正行は、頭から直接かじったほうが美味しいと思ったが、ユウコにならって骨を外すことにした。
(Adipos(アブラビレ)はとらなくても、いいのか・・・・・・)
そして、正行は光沢を放つ鮎の背骨をみながらユウコに話しかけた。
「以前 ユウコさんにいただいた歌集にあった、きみはわれより長く生きろ、きみのために美しい骨をのこしておく、という歌を思い出しました」
「読んでくださったのですね。そう、私はきれいな骨を残したいのです」
ユウコは目をあげて、うれしそうにほほえんだ。
 「卵をもつようになると、鮎の骨はとんがって、固くなります」
 正行の言葉に、ユウコはほほえんだまま、首をかしげた
 「秋に、父と柿田川で落ち鮎が群れになっているのを、みたことがあります。真っ黒い群れでした。あれも釣るのですか?」
 「はい、よくご存知ですね。ですが産卵時期の鮎は禁漁です。でも、産卵のピークをすぎれば、特別採捕許可が出ますので、好きな釣り人は県に許可を申請して釣ります。私はそこまではしませんが」
 正行は、ユウコの指をあらためてみた。このひとの指の骨は、手小骨たちは、きっときれいなのだろう。そして、記憶の奥深くに残っていた、手小骨の覚え方の語呂合わせ、Some Lovers Try Positionsからはじまる一節を思い出し、すぐに意味を解して再生を止めた。

 正行は、東海の過疎地の病院で内科医として働いていた。卒後十数年。独立した権限を持ち、治療方針は自分の判断で決めることができる。といっても上司も、部下もいない。あるのは、二十四時間いつ鳴るかわからない電話と、責任だけだった。異性の紹介話は時折あったが、すべて断ってきた。こんなところの勤務医でもまだ未来があると思われているのは、悪い気がしなかったが、乗っている車と年収で人間の価値を測るような東海の空気を嫌っていた。
ある日、紹介を何度も断ってきた世話好きの職場の女性が、あなたと同じように東京から戻ってきた歌人の子がいると言ってきた。しかし、あの子はいままでの人とは違い、考え方が民主的だからと言われ、一度だけ会ってみることにした。待ち合わせ場所に現れたユウコは、長い指の、眼鏡をかけた少し年下の女性だった。ぎこちない会話の後に、彼女は自作の歌集を差し出した。それは、恋愛と労働と、家父長制の影、この国の居心地の悪さが、サブカルっぽい言葉で不器用なまま詠み込まれた一冊だった。正行は、その内容にどこか惹かれた。ユウコは、ホテルの宴会場で派遣の仕事をしており、急な呼び出しがある不規則な勤務形態は、正行と似ていて、お互い時間をあわせて二人は会って話すようになった。話題に困ることはなく、過去に読んだ本や、住んだ町の話が、自然と引き出された。やがて、初夏。ユウコの提案で、金沢へ行くことになった。正行にとって、金沢は趣味の鮎の毛ばり釣りでよく訪れるところでもあって、土地勘があった。

  ユウコが鮎の骨を外した浅野川沿いの料理屋の一室。正行の電話が鳴った。正行はとっさに反応して、四角い電話本体を手にして応答した。すぐに、頭が切り替わる。緊急で、しかも高度な判断を要することだった。
 「すみません、ちょっと少し、仕事の用事ができました」
 ユウコは笑って、大丈夫、21世紀美術館にでも、まちなかを周遊するバス、兼六園のほうをまわるバスにのると、手短にいって微笑んだ。正行は手をあわせて、電話をしながら、タブレットで病院のシステムにアクセスして、状況の把握をはじめた。鈴木老人に関することだった。鈴木老人は、いつ「落ち」るかわからないのに、毎日のように妻を呼びつけては、自身のもつアパートの家賃を滞納している店子たちについて細かな進捗確認をする。コメディカルたちは、自分の命と家賃とどっちが大切なのかしらねえと裏でささやいていた。しかし正行は、妻が来るだけいいと思っていた。問題は、家賃ではない。家族が来るか来ないか。あと一月でアパートが手に入るとわかったら、たいていの家族は毎日はこない。こちらにまかせてしまう。
データを見る限り、鈴木老人は、今度は本当によくなかった。しかしまだ、ねばれる余地はある。家賃にこだわっているのだから生きる意欲もある。自分が帰るまでもたせられるかな。正行は考えあぐねた。
とりあえず、どう転んでもいいように手配はしておく。今日の当直シフトの余裕や力量までみて、ここまではまかせられる、これはまだ無理、これをやったら恨まれる。考えを組み立てた。鈴木老人が「落ちる」タイミングは、やはり自分が戻ってからになるように調整しよう。正行は、そういうことまで考えられるという点において、自分は人間にしかできない仕事をしているぞと、深く満足するのだった。
外をみる。格子は、思いの外細かった。正行は思った。浅野川にうつるこの格子は、人を閉じ込めるようにみえて、実はそうではない。格子の中で、人は媚態をつくして、アピールするのだと。浅野川にうつる格子は、タブレットのシステムのような、世の中の仕組みそのものだ。
              二
 夕方、正行はユウコと周遊バスの起点で、ターミナルのようになっている近江町市場の前でおちあった。ユウコの希望で、市場や繁華街ではなく、町の中にある居酒屋にゆく予定である。ユウコはバスの乗り継ぎを調べていて、正行を案内した。

  バスで数分移動した先の木造の二階建ての店内は、薄汚れたテーブルにパイプ椅子、まさに大衆居酒屋という雰囲気であった。コップになみなみと酒が注がれた。そして、おでん。赤巻きといわれる練り物が鮮やかだ。 ユウコはコップのふちをひょいと指でつまむと、酒を飲んだ。
 「コップ酒を飲む、金のかからない女という演出です」
 正行は笑った。
 「自分も菊姫の一番安いやつでいい男というアピールです」
 「私、もう制度に乗るしかないとおもって。胸を強調した写真をとって、手料理の写真もとって、仲人協会に登録したのです、この前」
ユウコは昼とは違って騒がしい居酒屋の中で切り出した。それに正行が軽く笑いながら応じる。
 「それでは、安い酒のアピールもいるでしょう。自分はオスみ(男らしさという若者ことば)を出すために、ごつごつした四輪駆動車を運転しているアピールでもしないとですね、あの世界で相手を探すのなら」
「そういえば、車は何ですか?」
「軽自動車です」
「軽自動車ですか?」
「失望したでしょう。浜松の人間は、乗っている車で人を値踏みする。週末のショッピングモールに残クレで手に入れたミニバンでいくのがステータスなんだ」
正行は小さく、自嘲的に笑った。ユウコは静かに応じた。
「車が、家の格なんです。昔、隣の家の車が小さくみえますというコマーシャルがあったでしょう。大きな車は無条件に優れていると思われている。うちも、そういうところありましたよ。父が軽自動車はいい男の乗るものではないといって」
正行は顔をしかめた。
「まるで後進国みたいだ。家の格って、僕ら三無しに、そんなものがあるわけないじゃないですか」
「三無って、なにですか?  お金?名誉?それとも思想?」
「無位無勲、そして無産階級です。これが三つの無」
ユウコは吹き出して、言った。
「正行さんは、もう格があるから、車で背伸びする必要もないんです。でも、たいていの人はそうではない」
正行は衝撃を受けた。そして言った。
「考えてみたこともなかった。でも、僕がそういう見栄の争いから無縁ということはないのかも。他大学の一派に対抗するため、大真面目でやってることも、ほかからみたら、ショッピングモールの駐車場で見栄をはりあってる人らと同じですね」
ユウコは、おでんの出汁を少し、コップに注いで飲んだ。正行もそれにならった。甘いだしの香りが酒のなかでふくらんで、鼻腔を満たす。やわらかな空気が流れた。
 「ユウコさん、こういうこと、自然にやられますね。ちっとも、あざとくない」
 「家の中でも、コップでお酒を飲んでいます。台所から持ってきてね。ビール用の、小さなコップで」
 正行は頭をかいた。
 「どうしても相手を観察しちゃう。相手の趣味が推し活なら、ただの嗜癖なのか、機能不全家庭の影響なのか、ちょっとした所作や言いよどみから、つい拾ってしまう。20代のころなら、そんなこと気にしないで、相手に向き合えたのに」
 「それは、仕方がないことです。これからの生活のことがかかっているのですもの。だってそうでしょう、すべてがかかってくるのです、しあわせになれるか、そうでないか」
 「すると、いつ電話がかかってくるかわからないって、減点ポイントでしょうね。少し前に、デート中に電話にでたら、仕事のほうが優先度が高いのかって、詰問されて、結局、没交渉になりましたよ」
 ユウコは、あの鮎の骨の話のときのように、首をかしげた。
 「それは、違うと思います。たとえば、仕事の仕方は、人によって違いますよね。立場や責任も違います。決められた時間に決められた仕事をしている人の基準で、他の人の仕事をはかるのは、愚かなことでしょう?」
 正行はうなずいた。
 「そのとおりだと思います。これは仕方のないことなんです。でもワーカホリックだと決めつけられますね。自分はこんな電話、そのへんのどぶ川に投げ捨てたいんですよ。職業的倫理はあります。でも、24時間それに従っているわけではない。自分が好きなのは、鮎を毛ばりで釣るような、非効率的で、非論理的で、再現性のないことなんです」
ユウコはお酒のかわりを頼んだ。そして、いう。
「金沢は、素敵です。お酒をくださいで通じますもの。浜松は、テドリガワジュンマイギンジョウ、イチゴウ、ジョウオンでください。チョコハクフタツ っていわないとならない」
 「ユウコさんはやっぱり歌人だ。浜松の息苦しさを見事に言葉で表現してしまう。名古屋のような管理社会の息苦しさと、潤いのなさを感じることがある。その正体はたしかに、文化のなさです」
 正行は、あらためてユウコをみた。かつて電話に出たことをなじった相手のことを洗い流すくらいに、ユウコは素晴らしい存在と思った。
「私の家、ものすごく民主的な家で、議論をつくして合意を形成すること、何でも言葉で説明することが求められたんです。泣くときも、どこが、どの点で、何が問題でどういうふうに感じたから泣いたと、説明を考えながら泣いて」
ユウコは、おでんの中のバイ貝を煮たものを箸でつまんで食べた。酒を口にして、そして言葉を継いだ。
 「ああ、これ苦くておいしい。高校まで静岡で、権威主義的な家を出て東京の女子大にいったときに、爆発しちゃったの。高円寺や阿佐ヶ谷に通って、サブカル的なひとたちとつるんで、恋愛もたくさんした。そして非論理的な気持ちを歌にするということに、夢中になってしまった」
 そしてユウコは、テレクラのフィールドワークで当時有名になった社会学者の名前をあげて、そのゼミにもぐっていた話をした。そして目がさめたともいった。社会だけでなく、自分の育った家庭にも、家父長制の下にあったと理解した。正行とユウコはコップ酒を重ね、さらに数品を追加で注文した。厨房からは甘いだしのかおりが漂ってくる。
「自分の逸脱は、鮎釣りですね。僕は東京の郊外の生まれなんです。多摩川にはよく鮎がのぼってね。。子どものころから、なにかつらいことがあったら、川にいったんです。川にいて、魚をみると、なにもかも忘れられた。その頃の鮎は、高嶺の花でした。釣りでも網でもとれてもつかまえられない。鮎はすばしっこくて、稲妻のように泳ぐ。その鮎が毛ばりで釣れたときの感動は、いまも忘れませんよ。思い出を、毛ばりに託して、心の奥深くに、毛ばりケースの奥にしまいこむ鮎は、鮎の毛ばり釣りは、自分のすべてです」
そして二人は、生い立ちを語りあった。お互いに、いままで言わなかったことも話しはじめた。コップ酒をいくらか飲んで、 ユウコはとろんとした目を正行にむけた。
「愛されたければ、愛すればいいじゃん?」
 ユウコは突然いった。正行はその口調があの社会学者そっくりだったので、真似をして応じた。
 「そう、本当に単純で本質的なことですね。誰かに助けてほしければ、誰かを助ければいいじゃん?」
 「私は、家でコップでお酒を飲んでいると、突然、かなしくもないのに急に泣きたくなる。誰かに愛されたいという衝動を感じて、おかしくなるんです」
 「サガンもそんな話を書いてました。ユウコさん、一つ日本の重大機密をお知らせしましょう」

              三
 正行は、ユウコに語りだした。
実は鮎はもういないのだ。初夏になると、鮎解禁のニュースが流れる。全国の川で、釣り人が鮎解禁に押しかける姿が報道される。そして、絹糸で編まれた玉網におさまるつややかな若鮎は、ユウコの歌の世界のようである。しかしそれは、人工的に育てられた鮎なのだ。冬に、稚魚を海でとって、温水の生簀でペレットをやって、太らせる。あるいは、完全に稚魚から養殖される鮎もある。そういう鮎が、春に全国の川に放たれて、それが「天然の鮎」となる。長良川の御漁場で鵜飼がとって天皇家に献上するクチバシのあとがついた鮎だって、そういう鮎だ。
金沢で、初夏の時期に、地元の伝統工芸に携わるひとたちが、加賀竿と毛ばりを使って浅野川で鮎を毛ばりで釣る様子がテレビで放映される。しかしその鮎はほとんどが天然ではない。伝統はもはや、生簀育ちの鮎なしでは成り立たない。
そして、解禁から一週間もすると、腹の白い養殖の鮎は、水面を漂うようになる。地元の釣り人がつぶやく。
「レースイでてるな」
あっという間に群れが冷水病に冒される。初期のうちは、Dorsal、背鰭のまわりや尾鰭に淡い白濁と軽度のただれが認められ、鱗の脱落も散見される程度だ。全身状態は保たれている。やがて、筋肉組織の壊死による赤いただれ、鰓の損壊による呼吸不全から、水面を苦しそうに泳ぐようになり、死に至る。みな、そのレースイの鮎は見なかったことにするのだ。そして、養殖鮎が釣りきられるころに、漁協が追加放流をする。また川に鮎と釣り人が満ちて、夏が来る。

 そこまで話して、正行はおおきくため息をついた。
「いけない、こんな暗い話をして。今風にいうと、ZAINというのかな、これは、自分が編集委員をつとめている鮎毛ばりの会の、会報です」
巻頭特集の、金沢の若い毛ばり職人の記事を正行はユウコに示した。加賀藩の武士が鍛錬のために始めた鮎毛ばり釣り。鮎毛ばりは、長さ一センチの小宇宙だ。極小針に鳥の羽根や絹糸を巻き、漆で固めた玉に金箔を貼って、頭の部分にする。さらに青貝やマムシの鱗をあしらい、水中で雅やかに光を放つ工夫もある。流れに揺れる繊細な羽根と輝きが一体となり、実用品でありながら工芸品としても洗練されている。高度経済成長のときまでは、鮎釣りといえば、この毛ばりの釣りであり、鮎毛ばりは、実用の道具として金沢、そして播州や土佐など各地の産地から全国に出荷されていたのだ。正行はユウコにいった。
「このシュッとした茶色い毛ばりは、おそめといいます。太宰治の令嬢アユにも、出てきた。令嬢、実際は遊女なのですが、その令嬢が東京から釣りにきた主人公にいうのです、これはハヤ毛ばりじゃないの、これじゃだめよ、鮎を釣るちゃんとした毛ばりには、名前があるのよ、といって、このおそめを主人公にあげるのです」
ユウコは会報を手にとって、ページを指でめくって、ある毛ばりに目をとめていった。
「この毛ばりは、美しいわ」
ユウコが目をとめたのは、おそめのような茶色でありながら、胴は黒色に金帯、尾は緑という毛ばりであった。
「それは、青ライオンといいます。非常によく釣れる毛ばりです。全国どこの川でも、これならほぼ間違いない」
「そうなの!? でもなんでライオンなのかしら?」
「それは、戦前の濱口雄幸首相のヒゲというか、容貌に似ているから、この名前になったといわれています」
「今も、ライオン宰相は効果があるんだ」
ユウコは少し驚いた顔で、自身の黒い髪を何度も触った。
「でも、今はラメの毛ばりがいいんです。だから青ライオンにも、ラメをいれて、胴体がキラキラ光るようになっています。どの毛ばりもいまはラメをいれて、鮎にアピールするようになっているんですよ」
「でも、おそめは、ラメがほとんどありませんね」
「そう、おそめは、今も天然遡上の柳の葉のようにスマートな鮎が釣れる、いい毛ばりです。令嬢のいうように、鮎はちゃんとした毛ばりじゃないと釣れない。本当に、雑な毛ばりじゃだめなんだ」
正行は話を続けた。鮎も、毛ばりもすっかり変わってしまった。もう昔の鮎はいない。でも昔の鮎は、少しは残っている。正行は、言葉を続けた。鮎毛ばりというものを、なんとしてでも残したいと。一センチ以下のミクロの世界に、ありとあらゆる世界の色と意匠を詰め込んだ毛ばり、江戸時代から伝えられて、何千種とある。この文化を、この遊びを、なんとか後世に残したいと。
「金沢も、外国人の観光客ばっかりでしょう。欧米系より、アジア系のほうがおおい。日本人が、発展途上国だと、自分たちより下だと思っているアジアの国からたくさん観光客がきます。もう、日本人は気軽に海外旅行なんかできない」
ユウコが小さく頷く。
「海外の観光客は、みんな近江町市場でひとつ千円の牡蠣や雲丹をいくつも頼んで食べあるきをしてた。わたしたちの百円くらいの感覚なのでしょうね」
「でしょう。もう養殖の鮎を川に放すことも、じきにできなくなります。でもね、まだ海からのぼる天然の鮎が、僅かですがいます。その鮎を、おそめのような毛ばりで釣ることができたのなら、未来の日本人が、おそめで、インフラが崩壊した未来の日本で、天然の鮎を釣ることができたのなら」
ユウコは歌人の感性で、正行の言葉に応じた。
「ダムも、橋も、全部崩れた川にのぼる小さな鮎の姿を想像しますが。つまり、こういうことですね。あなたが鮎を釣る理由は、後昆にその栄光を傳えんとするからに、他ならず」
ふたりは、目をあわせて、しばらく沈黙した。そして、ユウコが口をひらいた。
「たしかに、私は、制度に乗るしかないと腹をくくった。胸を強調したプロフィール写真をとった。だけど、ミールキットは使いません。鋼の包丁で食材を刻み、出汁をひいて、常備菜をつくって冷蔵庫にいれておきます。出来合いのものは使わないで、食洗機では洗えない漆器に盛り付けます。食卓には四季の花を飾ります。生活を美しくするために。そして、まだ見ぬ相手の家の味もしっかりおぼえて、その家の、お雑煮の味を、汁の味を、煮物の味を伝えていきます」
ユウコの覚悟に、正行は息を飲んだ。それは、彼女の思想にとっては、許されないことではないのか。
「そこまで、覚悟されているのか。しかし、あなたのまわりの人は、あなたは行き詰まって敗北したのだと、心無いことをいうのではありませんか?」
「言いたい人には言わせておけばよいのです。でも実際には、負けたのかもしれない」
「あなたは、制度に殉じる覚悟がある。そして歌をやめようとしない。それは、とても、誠実な向き合い方だと思います。自分は、家族に懐疑的なんです。あれは近代国家が再生産のために作ったものだ。海外で、共同体のようなものの中で暮らしていたことがある。みんなでみんなの子を育てた。けれど、共同体はゆるやかに崩壊していった。結局、人間は制度にまもられないとだめなんだ。いまも、支配や所有をしない共同体の可能性を信じていますけれどね」
はじめて正行が語った過去に、ユウコは少し驚いた顔をして、しばらく考えあぐねた後で、言った。
「私は、まるまると肥えた、お腹の真っ白な養殖の鮎なのかもしれない。うんと電気を消費して、外国から輸入した餌と薬で育てられて、鮎釣りがまだ商業的になりたつから、お金をかけてつくられている鮎なのかもしれない。その鮎は近い未来に滅びる運命なのです。日本の没落とともに」
「だからあなたは、きみは挽歌をよんでくれ、私は骨を残すと」
「挽歌ではなく、罵声かもしれないけれど。私は、高望みのこどおば非正規ですもん。稼ぐこともできない。運転免許もない。モンスターおばさん仲人協会にいたぞってネットで叩かれるタイプです」
自嘲的に手を振るユウコに、正行はいった。
「人間は経済動物じゃありません。なんで市場のスペックや生産性で叩かれないとならないのだろう。そう叩くひとは、あなたの美しい決意の何も、知らないではないですか。日々を美しく生きることこそ、人間の生きる道ですよ。市場の理屈と管理教育と味の素に脳を焼かれた報徳奴隷の言うことは、無視すればいいんだ」
  
                                                   四

  正行は、ユウコに声をかけた。
「河岸をかえませんか、武蔵が辻でちょっと、すしでもつまみましょう」
「ええ」
近江町市場の向かいにある一角、武蔵が辻の裏通りに、木造の町家風の建物に、店名もなにも書いていない帆布のような暖簾が小さく出ている。正行とユウコは入っていった。
五人もすわればいっぱいのカウンターの上には、漆黒のつけ台があり、その奥に種のつったガラスケースが置かれている。客層はきわめて多種多様で、二人の座ったとなりには、黒ずくめのバンドマンという容貌の若者、そして奥の座敷には、観光客とおぼしき夫婦がいた。
「ここは、近江町市場の観光客向けの店より、ずっと安いんです。何でも、好きなものを」
正行はユウコにそういうと、鯵を頼んだ。大将はガラスケースの中から、小ぶりの鯵を出して、二枚におろしたあとで、半身をさっと酢にくぐらせて、薬味を内側に隠すように握った。ユウコは、地物のカレイを頼んだ。大将は感心したような表情を一瞬浮かべて、ガラスケースの中から、白く透き通り、血合いがピンク色の柵をとりだして、カレイを握った。そして、二人に告げた。
「今日はね、能登のマグロありますよ。定置網にかかった180キロのものが市場に出た」 
大将が目を細める。 
「年に一回あるかないかですよ、金沢でマグロが食べられるのは。 東京の人は年中全世界から取り寄せているけれど、こっちじゃ、能登沖で、マグロがちょうど初夏のこの時期にだけ回遊してきたものがあがるので、ああ、じゃあたまには食べようかってもんです」
 正行は、ふっと笑った。 
「それがたまらないですね。鮎解禁の時期にかぶるのもいい」 
ユウコが目を見開いた。
 「え?いつもはマグロ食べないの? まだ、こんな場所が、日本にあったんですね」
そう言ったユウコは、正行にとって、 どこかで自分が諦めかけていた「美しさ」が、 目の前に突然、戻ってきたような驚きだった。 正行は、ユウコの横顔を見て、 ああ、この人と一緒ならば、制度の中に沈みたいと心の底から願った。ユウコがいれば、見栄のはりあいを大真面目にする老害にもなるまいとも思った。

 ふたりは寿司をつまんで、この日の宿に戻った。部屋からは金沢のまちの全容が見えた。近江町市場の奥に、ライトアップされた兼六園と城あとが見える。その隣の繁華街が香林坊。そして反対側の駅のあるほうは、ずっと平野になっていて、奥には海岸線がひろがっている。
ユウコがゆっくりとコップに水を注いで、二人分持ってくる。その手の甲を見た瞬間、正行はかすかに頬が熱くなるのを感じた。
──Some Lovers Try Position
Scaphoid(舟状骨) Lunate(月状骨)Triquetrum(三角骨)Pisiform(豆状骨)・・・
手小骨の英語の語呂合わせ。かつて、試験前に誰かが冗談めかして繰り返していたフレーズ。そこに含まれていた、無邪気な猥雑さと、記憶のための機能。いま、それが唐突に甦る。そして、ユウコの手のかたちに重なってしまう。正行は思わず視線を逸らした。ユウコがすっと正行の視線を追い、笑う。
「どうしました? お昼も手を見て顔を赤くして」
「ええ。ちょっと、昔の語呂合わせを思い出してしまって。“Some Lovers Try Positions…”っていう。あれ、手小骨の、英語の覚え方なんですけど」
ユウコはぷっと吹き出した。
「何それ、私知らない。でも、そんな風に手を見られたの、はじめてです」
正行は咳ばらいをして、話を逸らそうとしたがもう遅かった。
「相聞歌としては、零点ですね」
「やっぱり?」
「でも、“Some Lovers Try Positions”って、すごく正直でいいじゃないですか。それに、ちょっと赤くなるあなたが、私は好きです」
そして二人は重なり合った。
            
  深夜。もう日付は変わっていた。正行はユウコに手を預けたままだった。ユウコは大胆だった。東京仕込みとさえ言った。そのユウコは眠ったままだ。首筋の、蝋のような白い皮膚に中年女の疲れと湿気を感じる。頬は脂でテカテカ光っていた。
正行は、ユウコが自分はそうかもしれないといった、腹の白い鮎のことを思い出した。白い養殖の鮎には、腹に通称、ピンク玉がはいっている。それは脂肪のかたまりなのだ。生簀で与えられるペレットにふくまれている脂肪を、鮎がためこむのだ。腹の中のピンク玉が尽きた時、白い鮎は力尽きる。しかし、尽きるまでの間、一ヶ月くらいは、ほとんど何も食わないでも、白い鮎は元気に泳ぎ続けることができる。

 正行は、考えを巡らせた。彼女は今いる状況を客観的に分析するという、稀有な力がある。みなが当たり前と巻き込まれる世の仕組みも、彼女は冷静に分析して、戦略的に巻き込まれすらする。彼女の手は、いま自分の手を握っているこの手は、自分を美しく癒やしてくれることだろう。しかし、これは、「取りにくる手」ではないか──!
少し前、暗闇のなかでユウコはいった。
「いっかい、ふるさと納税をしてみたかった」
そして、正行が靴でも九谷でもなんでも選べばいいといったとき、彼女は心のそこから喜んだのだ。正行はそのことを思い出して、汗が背中を流れるのを感じた。ああ、これは制度だ。取りにくる手だったのに、俺は勘違いして、結局高くついてしまったのだ。
しかし……ユウコが仲人協会に戻ったらどうなるか?市場の原理が働けば、彼女には一回り上の男性が紹介されるだろう。それも、万年平社員で、唯一のとりえが善良であるという、紋切り型のプロフィールすら怪しい男。ふるさと納税で工芸品を買うなんてできはしない。肉や米を買うのが精一杯だ。その男は、戦利品のように、若い嫁を酌婦のように扱うかもしれない。35を過ぎれば値段がつかない世界──。そんなところに彼女を戻すというのが、倫理的に許されるのか?それならば、生活の相手として、ともに生きていく。それが最も誠実な回答ではないか。愛はない。だが、義務として愛することは、できる。ホテルの朝食は、エッグステーションで、お好みの方法で調理してくれるそうね、オムレツにしようか、フライエッグにしようか・・・楽しそうに隣で話していたこの女が、多少なりとも愛おしい気持ちは確かにある。義務として、愛するべきだろう。そこまで考えて、正行は慄然とした。
(俺がもっとも忌み嫌ってる市場的な考えに、いつの間にか取り込まれているではないか。35で値段がつかないなんて、誰がきめたんだ。格子の中の女を選ぶような、唾棄すべき存在に堕した。俺はいつの間にかあの白い川を渡っていたのだ)
そのとき、正行の中に、ある女のことが唐突に蘇った。奔放な女。子どもの父親がすべて違う女。あのときは、空が明るくなるのを感じながら、女の手に握られながらも、まったく疲れも、貧血からくる下腹部の痛みも感じずに、俺はやるぞ。この女のために、俺はなにかを成し遂げると誓ったのだった。無限の活力が、湧いてきたのだ。見て覚えろという寿司屋の修行よりずっとひどい前近代的な徒弟制度の中でなんとか仕事をおぼえて、今こうして独り立ちできたのも、あの女が与えてくれた活力のおかげなのだ。あのとき、俺はどこまでも行けると思えたのだ。朝は、活力に満ちていた。
ユウコが求めているのを愛というなら、愛は、橋の向こう、格子なんかない、バラックの間の、小便臭い裏路地。そこから、奇跡のように立ち上がってくるものなのではないか。格子が並び、柳が白い水にうつる街からは、決して、愛はたちのぼらないものではないのか。

                                             五
 
 正行はあれこれ考えながら、手のしびれに身をゆだねた。窓から見る金沢の空が少しだけ白くなってきた。それは繁華街のあかりではなく、朝が近づいてきた証であった。午前三時、夏至が近いこの時期、あと一時間もすればあたりが色彩を取り戻すだろう。正行は、ユウコと、足場のいい浅野川で鮎釣りをするかもしれないと、コンパクトな竿を持ってきていた。
(すぐそこの犀川でも鮎は釣れる筈、取水堰の下の深みか、あるいは、児童館前の淵か・・・)

正行はユウコに声をかけた。  
「朝食の受付は9時までだけれど、8時半には行こうか?」
ユウコは、少し舌を噛みながら
「ピーマン、たまねぎ、角切りのハム、あとはチーズをいれて、デンバー風のオムレツにしたい」
とこたえた。
アメリカでレジデントをしている頃、カリフォルニアから飛行機にのって、広漠の大地を旅したときの光景が正行の脳内に浮かんだ。ユタもコロラドも、空からみると西海岸の緑も水もあるところと違って、砂と岩山だけの殺風景なところだ。そういうところに、白い円がある。それが都市なのだ。砂と岩の中に、人間は小さな巣をつくっているのだった。デンバーは、そういう殺風景な中の巣のような都市だった。あの頃、飛行機に乗れたのは、数えるほどだった。移動は、州間高速道路(インターステート)を、500マイル走るとエンジンオイルが燃え尽きる西ドイツ製の車に乗って、200マイルおきにボンネットをあけて丁寧に「診ながら」地を這うようにするのが当たり前だった。宿もひどかった。20ドルくらいで泊まれるようなモーテルは、青臭い大麻のにおいと、小便のにおい、そして人間の汗のにおいでいっぱいだった。そういうところでよく出たのが、あのデンバーオムレツだ。

 正行の頭の中で、言葉が浮かんだ。
(ユウコは、ずっと夢の世界にいる。彼女は本当の制度を知りはしないのだ。ただ、雰囲気だけに憧れている。だったら、簡単なことではないか。俺はこの穢れを知らぬ女、彼女自身のことばでいうなら”こどおば”を愛すればよいのだ。この女が、iDeCoの話をするのは、ATM婚狙いで、愛も信頼も知らない育ちが悪い婚活女特有の、日和見主義、実利主義からではない。ただ、それをしてみたかっただけなのだ。いいじゃないか。彼女は制度に憧れている。iDeCoという響き、ふるさと納税という響き、響きに憧れているのだ。鈴木老人が家賃に執着しているのとは、わけが違う。ひとりぐらい、きれいなデンバーオムレツを心に持っている女がいてもいいじゃないか。)

 そして正行は、少し釣りにいってくるといい、外に出た。明け方の香林坊は静まり返っていた。誰一人歩いていない。バス専用レーンはがら空きだ。あちこちが少し曲がっている大通りに立つと、犀川大橋まで見えた。
歩道を歩く。繁華街のビルの側面の壁をよくみると、壁面の塗装がはがれて、ブロックを積んだあとが見えた。そしてなんとかブロックを切ったような穴に、木製の、アルミ以前の窓枠がはめこまれている。窓というよりは、通気孔だ。正行は、誰もいない交差点をまっすぐ行き、そのまま犀川大橋のほうに進んだ。
犀川大橋を渡りながら、正行はふるえた。鉄骨のリベットが剥き出しのごつごつした橋は、頭上が低く圧迫感があった。下を流れる犀川の流れは、笹色に淀み渦をまいて得体が知れない。ふと、恐ろしい考えが正行の頭の中に浮かんだ。
(俺が、何もなくなったら、何者でもなくなったら、ユウコは手を差し伸べてくれるのか)
正行は橋の手前、香林坊のほうに戻りたい衝動にかられた。しかしもう、橋を半分どころか、ほぼ渡りきっていたのだった。
(俺が病気になったら、俺が死ぬとなったら、いったい誰がきてくれるのか。誰かが来てくれても、俺は何を話す。話すべき愛の言葉は、そこにあるのか。誰々は家賃を払ったかと毎日聞くのか。誰々は再就職したばっかりだから少し待ってやれというのか。そんなのは、いやだ!)
正行は、なにかにすがるように橋の向こうにおりた。左側は川に沿うように河岸段丘が形成されていて、加賀藩時代からの、いくつものお屋敷がある。右には、いっさかといわれる色街、浅野川沿いの茶屋街とはだいぶ色合いのちがう街がみえる。正規の茶屋街の検番の三階建ての白い建物と、無機質なラブホテルに古びた一軒家のスナックがいくつもあるような、そんな街だ。
(俺は、打ち捨てられて、どうなるのだろう)
もはや、当初行こうと思った児童館前のゆるやかな流れは、考えに入らなかった。
(大桑だ、そうだ、大桑に行こう)

 犀川大橋から一時間ほど上流に歩いたところに、岩盤が連続し、大きな淵がある大桑という場所がある。室生犀星の作品に、大きな淵、鮎や鱒がのぼる大淵と描かれているのは、大桑のことだ。今も化石が出る白い岩盤には、いくつもの穴や筋があり、どこかの異星の上のようだ。そして、釜とよばれる岩盤がおおきくえぐられた部分は非常に深くなっており、そこに魚がたまるのだ。犀川は、かつては男川と呼ばれる、荒々しい川であった。いまではすっかり護岸工事が進んで、犀川大橋のあたりでは、水の色を除けば、浅野川と見分けがつかない。しかし、大桑には、まだ昔の男川の地形が残っている。
正行は川沿いの土手の上を歩き始めた。あたりはすっかり明るくなって、ランニングをする人とすれ違った。やがて、お屋敷の並ぶ河岸段丘をすぎて、児童館の前の淵についた。数本の竿が並んでおり、鮎を釣るひとたちがみえた。ここはたしかに良い場所だ。
ーーあんちゃん、鮎はな、音に敏感なんや。毛ばりを舞わせるときに、底にオモリをトンとつくやろ、そうすると、音で逃げてしまう。
地元の名手にして、お屋敷の主である伴さんの声が浮かぶ。伴さんがこの児童館前の淵で、毛ばりを舞わせると、鮎がおもしろいように毛ばりのひきよせられてかかる。そのたびに、鮎が水中で銀色に閃く。伴さんは鮎を暴れさせない。毛ばりにかかった鮎は、円形にぐるぐるとまわるのだが、伴さんはさーっと手元に寄せてしまう。音をたてないのもそうだが、鮎を暴れさせないから、鮎の群れが散ることなく、いつまでたっても釣れるのだ。
上げ下げ、つまり、鮎の毛ばり釣りは、毛ばりにオモリをつけて、底に沈める。そして上げる。ふわーっと毛ばりが浮くところで鮎が食らいついてくるのである。ところが、伴さんは毛ばりを漂わせたり、流してみたり、回転させてみたり、立体的に動かすことができる。この釣りは地元の名手でも真似ができる者はほとんどいない。
正行は、伴さんの、河岸段丘をまるごと庭園にしたもと加賀藩家老のお屋敷の碧壁の間を思い出した。ラピスラズリをそのままつかった碧壁の間は、まさに小宇宙であり、華美に走らず、しかし華美である。加賀の美意識の結晶のように思えた。
そして伴さんが老舗に巻かせた妖艶な、紅い花びら、黒い花びらという毛ばりが、正行の脳内いっぱいにひろがった。美しい毛ばりたちの記憶に、正行は少し酔ったようになった。

 正行は、そのまま児童館の淵を通り過ぎてさらに上流へ歩いた。まだ気温は上がらず、風は涼しい。対岸は段丘のように盛り上がっている。兼六園、金沢城と続く一連の台地が、犀川の対岸に続いているのだ。その台地の向こうに、浅野川が流れている。犀川と浅野川は、どちらも金沢市内の中心部を流れながら決して交わることなく、水源は同じであるのに、決して交わることなく流れているのである。
(大桑は、どの毛ばりがいいだろうか。太平洋側の毛ばりは、あまり合うまい。まだ朝の水は冷たい。そしてあの深い釜ならば、青の混じった毛ばりがいいか。雪見熊か。あるいは、金沢の定番ハリ、鴨緑江)
正行は毛ばりの選択に頭をなやませながら、土手の上を歩いた。空の辺縁がオレンジ色に輝きだして、ランニングのひと数人とすれ違った。自転車に乗った人ともすれ違った。車の音も聞こえ始めた。正行は焦った。
(だめだ、毛ばりが定まらない。こういうときは、素直に好きな毛ばりを使うべきなのだろう。そうだな、椿姫。この前、金沢で巻いてもらった緑ラメの椿姫がある。あれならば、大桑でもきっと釣れるだろう)
椿姫は、正行が大好きな毛ばりだった。新魁といわれる、戦前にうまれた、胴体に細かく幾重にも山鳥の羽根を巻き付ける系統の毛ばりに属し、端正なプロポーションの椿姫は、天然遡上の鮎がよく釣れるよい毛ばりだ。大桑の淵には、海からのぼってきた、数少ない天然の黄色い野鮎がたくさんひしめいていることだろう。
しかし正行は、金沢の老舗の巻いた、華奢といってもいいほどの胴体の椿姫のことを考えると、胸が苦しめられるようで、とても選ぶ気にはなれなかった。
そして大桑への道のりが、あと数十分にもかかわらず、果てしなく遠いものに感じられた。足は重く、全身がけだるくなってきた。心なしか、気温もあがってきたように感じられる。
(アプリでタクシーを呼べないものか・・・)
ずいぶんむかし、州間高速をオンボロ車で走っていたときのことが、なつかしく感じられた。エンジンオイルの、鉱物油のにおいにまみれながら、俺はどこまででも行ける、そう感じていたのだった。
(あの頃がなつかしい。俺は、たしかにあの頃は、どこまででも行けたのだ。どれだけ行っても疲れなかったのだ。安宿に寝て、そして朝になれば元気になった。そしてまた行けた)

 やがて目の前に、山側環状線の二段になった巨大な橋が現れた。ここをすぎれば大桑だ。正行はまだ毛ばりのイメージがつかめなかった。主演が決まらないまま、緞帳が開こうとしている。そして、高架をくぐると、果樹園がひろがっていた。果樹園の中から、対岸にわたる狭い橋がある。人間用の狭い橋だ。橋を渡って正行は対岸に出た。白亜の岩盤がひろがる大桑の河岸が、そこにあった。甌穴とよばれる穴があちこちにある。人間の足が入るくらいのものもあれば、車が一台すっぽり入るものもある。小石が、川の流れで回転することで、長い時間をかけて形成された穴は、どれも底に水がたまっていて、いくつもの小石が底に沈んでいる。正行は岩盤帯ににおりた。岩は、角がとれて丸みを帯びておりすぐに滑る。正行は慎重に川のほうにむけて進んだ。何人か釣り人がみえた。

 足をとめて、下をみると、岩のなかに手のひら大の、白い貝殻が見えた。
(旧約聖書の一節にある死の谷のようだ)
正行は貝殻は、新しいものではなく化石であることに気がついた。
(綺麗な貝殻の化石だ、でも誰も取ろうとはおもわないのだろう)
正行は川の流れの斜め前にある、岩盤が大きくえぐれているほうをみた。
(大釜と呼ばれるものは、こっちにあるのではないか?)
大桑には、釜とよばれる淵がある。それは釣り人の間では、川の流れ沿いの、岩盤が両岸にあえるところとされている。その上流部は、大きな大穴と筋のように削れた岩盤が入り組み、落ちたら上がってこないといいわれて釣り人は立ち寄らない。子どものころからあそこは行くなといわれている。正行は、誰も行かないところへと進んでいった。無我夢中で丸い石に手をかけて、甌穴に足をかけて谷をのぼって進んだ。視界がひらけて、谷の間に半径3メートルほどの釜が二段続いて、そこに釣り人が一人立っていた。地下足袋をはいて、両手は軍手。ヘルメットをかぶって万全の格好だ。
(やはり、ここが大桑の釜なのだ)
正行は釣り人に会釈して、彼の一段上の釜のへりに立って、毛ばりケースをひらいた。毛ばりの選択に迷わないように、矢柄の蒔絵を入れた毛ばりケースだ。
(椿姫も青ライオンも駄目だ、ああどうしよう!)
そのとき、正行は椿姫を手にとろうとしていた。突如、正行は直感した。
(ここは、大桑の釜じゃない、室生犀星の黒い淵でもない、鮎や鱒の淵でもない。この水、この光、この音、この岩、ここは、ここなんだ)
正行は、無心で椿姫の下にあるお経という派手な色使いの毛ばりを選んだ。
金の玉の下に、寺院の五色幕のような、鶏の赤い羽根、家鴨の白い羽根、ホロホロ鳥の黄色、鴉の黒、そして孔雀の緑が巻かれ、尾の部分はカワセミの青色が輝いている。どの系統にも属さない、異形の毛ばり。それがお経であった。
そのとき、釜めがけて、朝日がさした。水が翡翠色に輝く。突然、鮎の群れが、釜の周辺部で狂ったようにハネだした。ここまで来ても、より上流へのぼろうとするのだ。岩にひっかかる鮎も多い。ハネはやがて、釜に水が注ぐ部分に集中した。なにかにひかれるように、鮎はハネ続けた。岩にひっかかった鮎の上に、鮎が重なるほどハネた。上流をめざして、鮎は翡翠色の水の中から飛び続ける。
正行はお経を結ぶと、釜の中心部へ向けて仕掛けを投じた。

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 探していた人物は展示場になっている建物の裏を きびきび と歩いていた。離れた距離から眺めても独特な気配、オーラとでも言おうか、そんなものを感じる。見かけたのが後ろ姿だったから名前を呼ぼうとしたところで、声を掛けるより早く彼女の方が俺の接近に気が付いた。まだ十分に距離があるのにな。向こうは新作の発表を前に、気持ちが鋭く高ぶっているんだろう。
 黒光りするパンプスの爪先を立てて振り返る所作は、盛る夏の最中にあっても凜々しく、そして、逃げる獲物に狙いを定めた肉食獣にも似た瞳と、楽しげに崩した相貌があまりにも好戦的すぎる。不用意に近づきすぎれば左のジャブが飛んでくるんじゃないかと、芸術家の彼女の細腕にちょっとビビってしまった。

「来るの早いね。私の展示ブースはそんなに混まないからゆっくりでも良いのに」
「そんなのわかんないだろ。さっそく白黒のお洒落な袋を手にした一行とすれ違ったぞ?」

 陽差しの白と、夜の黒は彼女のテーマカラーで、行き交う人の間でも目立つ白黒の袋は彼女が販売しているオリジナルグッズを買った証拠。ちょっと嬉しそうに笑った。俺の方まで嬉しくなって、つい鼻の下に手が伸びる。おっと、直そうとしていたのに、つい。照れた時に思わず出てしまう昔からの癖だった。

 数年に一度訪れると言われる美術ブームの追い風もあってか、近代美術芸術展覧会は思ったよりも賑わっていた。本人が言う通り、彼女の展示ブースは他のブースより空いているのかもしれないけど、これから賑わうことだって十分に考えられる。

 本展覧会の目玉は、西洋の美術館から借りてきた帰国子女の和風人形たち。数百年前に国内で作られた物が海を渡り、向こうの文化の中で大事にされ、独自のセンスで進化していった類似の人形達だった。海外のセンスでおめかしされている人形も多く、思わず目を惹きつけられる斬新さと、馴染み深い古めかしさを同時に味わえると評判になり、国内でも老若男女問わずファンが増えているのだそう。この和洋折衷人形を目玉にした集客効果が良く効いている。当初の予想以上の賑わいをみせている。もちろん、美術芸術に属する芸術家の作品が幅広く展示されているので、人形以外の見どころも多い。彼女も主催から招待された芸術家の一人だった。
 人出が多くなれば他のクリエーターのファンが増えるかもしれない。きっかけはどうであれ、人目に付かなければ始まらないのが芸術だ。彼女にとって良い機会になってくれればいい。

「もう発表の準備は終わったんだ?」
「もちろん」

 彼女は手に持った短い棒状の機器をフリフリさせながら言った。色は発色の良い真っ赤。黒と白で統一させている彼女の前で振られると少々悪目立ちする。

「……それは?」
「今回の作品の鍵になる物よ。爆破スイッチ」

 爆破スイッチ? 随分と物騒な単語が飛び出してきたな。もしかして、開催期間中に作品を爆破させてみせるつもりなのか?
 まあ、彼女の性格を考えればあり得る話ではある。演出としては派手だし、注目も集められるだろうけど。
 いや。やっぱりスイッチの色使いだけはしっくりこなかった。

「君に赤色は……さすがに似合わない」

 苦笑交じりの声を掛けると、さすがに自覚があるのか軽く肩をすくめてみせた。

「本当は黒にしたかったんだけど、黒い材料に紛れて間違って触ったら大変でしょ? 予告無しに爆破させたら今後会場を使わせてもらえなくなっちゃう」

 やっぱり作品を爆破させるようだ。
 作品を爆破させる、自分の手で壊す感覚とはどんな感じなんだろうな。この高い壁の裏側にある彼女の作品(まだ幕が張られていて一般公開はされていない)を思い出してみる。白い丸と黒い菱形を組み合わせて作った捻れている塔のオブジェだ。不規則に積み上げられた形は、どこから見ても均整が取れていて、落ち着かない安心感とでも言うのか、なんだか不思議な気分にさせられる。正しすぎる形が不安を誘うような。
 題名は「何もない場所に生まれてしまった」。
 本人曰く、誰も隣に立てないのだそう。あまりに塔のバランスが良すぎるから、人間が隣に立つと骨格のアンバランスさが目立ってしまい不細工に見えてしまうから、とかなんとか。
 それはともかく、俺は芸術作品を見るのは好きだが、作る側になったことはなかった。だから作り手の気持ちがよく分からない。爆破させれば気持ちがすっきりする物なのだろうか? 素人感覚ではもったいないと思う感情が真っ先に来てしまうのだが。

「あの作品は、爆破させたらどうなるんだ?」
「ん? どうって、半分ぐらいから真っ二つに折れると思うけど」
「それだけ? 崩れた後に何かに変形するとかないんだ?」
「あはは、何それ~」

 そっか、壊れるだけか。
 カラリと笑う彼女からは作品の発表に向かう気負いのような緊張感が感じられなかった。ビリビリと気を張ってはいるけど、体が硬くなっている様子はない。人前で緊張したことがないと言い切るだけはある。
 彼女がインタビューを受けているテレビの映像を見る度に、何か変なことを口走らないかと緊張し、毎回胃を痛くしている俺からすればとても羨ましい。別に、彼女とは仕事の付き合いで、男女として付き合っているわけでもなく保護者でもないんだけど、やっぱり言動は気になってしまうのだ。一回りも年上の芸能人の美術品の見立てに噛みついている映像を見た時には背筋が凍った。司会者が一番肝を冷やしたんだろうけども。
 白は光、黒は影。
 この二色があれば、どんな世界の、どの瞬間でも写し取ることができるはずだと言うのが彼女の口癖。
 白と黒に万象の根源を見いだし、幾何学模様に時の流れの一瞬を映し出す。それが彼女の芸術領域だった。
 モノトーンの作品達はあまりに抽象的で、中には理解できるのもあったけど、そのほとんどは高尚すぎて一般人の俺には理解が出来なかった。それを正直に本人に話したことがある。その時の彼女は、それでいいんだと笑ってくれた。相手の全てを理解した気になっている大人はろくでもないヤツだと笑ってくれた。
 そんなひねくれている彼女も、世間に名を馳せる芸術家達の間では、新進気鋭の芸術家として存在を知られていた。

「なにも、爆発させなくてもいいんじゃないか? 綺麗に出来ているんだろう?」
「ダメよ、これは崩して初めて完成を迎えるんだから」
「もったいない」
「その言葉、嫌いなの」
「どの言葉? もったいない?」
「そう。もったいないの精神は世界にとって凄く大切で、生きる上では不可欠な物だけど、芸術の前では邪魔になるだけよ。未練が生まれれば視界は曇るし、躊躇が出れば一瞬の好機を逃してしまう」
「そういうもんか?」
「そう」
「じゃあ、この作品が消えてしまっても、もったいないとは思わないんだ?」
「全然」
「その割には煮え切らない声じゃないか」

 付き合いの長さから、彼女のセリフの間合いに、ためらいの影を感じ取っていた。

「うーん。もったいないとは思わないけど、もう少し尖った思想に寄せて作っても良かったかもしれないって思ってる。自分で言うのも何だけど、ちょっと綺麗すぎた」
「そっちの後悔か」
「でも。好きだけどね、この作品」

 彼女は爆破スイッチを指で撫でながら、『何もない場所に生まれてしまった』の肝の部分を語り出した。

「みんなにはどう見えるか分からないけど、この作品は作るのがそんなに難しい物じゃない。比率さえ測ってしまえば、似たような物はいくらでも作れる。それを唯一無二の、わたしの作品にしようとするのなら、崩さなければいけなくなるの」
「独自性を確保するために壊す?」
「に、近いかな。作品は必ず模倣されるわ。作者の感情に関わらず、ね。もちろん私も既存の作品を参考にしたりはするんだけど、私の作品を模倣しておいて私の作品より人気が出ないのは納得いかないのよ。下手に真似るなら模倣しないでってなっちゃう。だから絶対に模倣できない形で完成させたいんだ」
「……それが」
「そう。爆破を真似は出来ても、爆発の瞬間に生まれる形だけはどう頑張っても真似できないでしょ?」
「確かに、そうかもな」

 仮想空間ならともかく、現実の爆発で崩れていく様子まで真似るのは不可能だろう。かと言って、爆破のエネルギーによる破壊を爆破以外で再現できるとは思えない。それに、爆発する瞬間を肌で感じられるかどうかも大事になるだろう。爆破、飛散、崩落、残骸。見た目や音はもちろん、熱や風、観客達の歓声や驚き。その場に居ないと感じられない芸術もあるんだろうし。

「その目!」

 物思いに耽っていた俺の視界に、彼女の笑顔がアップで迫ってきた。

「今、どんな風に爆発するんだろうって想像したでしょ?」
「お、おう……」

 背中を反らせ、突如として吹き付けてきた熱気からなるべく距離を離して答える。

「観客が期待と想像を膨らませている目が一番好き!」

 瞳をキラキラさせながら見つめてくる彼女は確かに芸術家で、疑うことを知らない子供のようだった。

「俺は、好きな物を好きって言える目の方が、素敵だと思うぞ?」
「?」

 俺はしばらくの間、芸術家の彼女を眺めて楽しもうと思った。



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手で結ぶ冬支度

手作りを 身につけて
冬の入り口を あるく

編みなおしたマフラー
ワッペンで飾ったカーディガン

誰かのぬくもりも
一緒に編み込んで

夜露の艶で 色を増す庭
吐く息は 少し白く かたちを持つ

まとった糸のぬくもりを ひと目ずつ確かめて
くびをなぞる気配に 笑みを結ぶ

さくりと 赤い落ち葉の囁きは
景色の輪郭を 楽しむために

だから今日は
キルトを もう一つ巻いて
少しだけ 外を歩こう

――手で結ぶのは、冬のぬくもり

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𝘶𝘯𝘵𝘪𝘵𝘭𝘦𝘥


........................... ...








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ひょうげんしゃのぶとうかい

パッチワークが
とてもじょうず

てにとれば
つくりこまれていて
ぎじゅつには
うっとりしたし
はいちのせんすや
えらびにえらばれた
ひとつひとつ
おお!!
はくしゅはおしまない

けなしているわけではない
はずなのに
パッチワークをしている
わけではなく
借り物競争めいてみえたとき
イルミネーション
わたしにとっての(は)

とおくにいてみていようと
きめてしまった
きれいなので
それにてっしようと
おもっただけ

きせつはちょうど
しわすというふゆなので
ただしぃんとして
みていようとしているだけ

それだけ

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ぶんれつ

ひとつではひとりでは
なくなった
ぶんれつした

こどもをうでにだいたとき
わたしはぶんれつして
とてもひとつではひとりでは
いられなくなって

こども こども こどもを
おもうたび あんずるたび
あいするたび ぶんれつ
ぞうしょくしていく

まーま
はぁい
おかあさん
なあに
母さん
ハイハイ

とてもわたしひとりでは
いられなくって
あまりにふえすぎたため
ぶきようだからか かずをふやすだけ
ふやして へらすことできぬまま

しんでしまってわたしがさらさら
なくなっても おかしいな
ぶんれつしてしまったこと
「母」だったことは
わすれされそうにもないのです

ぶんれつした まもりたいがゆえですと
いくつでもいくらでもいくいくときまでも
わたしはそうしたって 
ははでありつづける

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生き残りの世界

この世界は
生き残りだけで回っている
元気で幸せな奴しかいない
端からはそう見えるけど
生き残りだけが
動いているのだから
当然だ

心が死んでる奴もいる
そいつもまだ生きている
心が死んだまま
そいつは世界を俯瞰する

「幸せそうだな」

呪いの言葉を口にする
不幸ではないことが妬ましく
呪いの言葉を口にする

「せめて生き残りだと自覚しろ」

当事者の慟哭など
全て日常に掻き消される

誰が死んでも
何人死んでも
世界はそんなことどうでもいい。
生き残りたちもどうでもいい。
どこまでもヒトゴトで
なかったことと同じで

「病は特別」、
「死ぬのも特別」

全然特別じゃないと誰も気づかず
自分には縁がないのだと勘違い

のうのうと毎日を生きている

だから
そいつはナイフを握る

健全が羨ましすぎて
全てを壊して
ざまあみろと言いたくて

あいつが死んだこの世界が
何も変わらないのが悲しくて

人ひとりに
何も価値がないのが悲しくて

あの人も生きている
あの人も生きている
生き残りの世界で
不幸の裏で
幸せを生きる

生き残れなかったものが
睨み付けていることも知らずに

生き残りの世界で
生き残りだという自覚もないまま

誰も死なない世界で生きている

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魔導機巧のマインテナ 短編:sceneⅣ(Last)


「これ、防護服っス。ジャケットタイプの奴しかないんで、あれかもですが」
「いえ、十分ですよ。むしろ厚手で丈夫そうなので助かります」

 ロジャが、供給機や測定器のついでに運んできたジャケットタイプの防護用作業服を羽織り、二人ともに複数のボタンを留めて、ファスナーを閉める。そのうえで防護用ゴーグルとマスク、作業用グローブを身に着ける。そして最後に腕を軽く回し、両手を握っては開き、握っては開きして、自身の体がスムーズに動かせるかの確認を行った。
 初期生成魔力の排気時に見られがちな、濃度の高い魔力の排気による中毒事故を防ぐためである。

「よし。サイズも大丈夫そう」
「問題ないっスね。汗臭くはないっスか? 全部、一応消臭剤は使ってるっスけど」
「ああ、だから微かに花の甘い香りが……。これはマンゴラス?」
「おっ、分かるんスか!? ちなみに姐さんの趣味っス」

 互いに自分の動作を確認しつつ、会話に花を咲かす。

 これらの防護装備と確認は、魔力測定器の調整後に行うのが、作業順序の通例である。
 もちろん、ロジャもマリーヴァの補助に回れるよう準備をしていく。ただ、彼の纏っている防護用作業服は、マリーヴァの装備している物とは少々デザインが違い、彼女の物と比較して一部が厚手の物になっていた。

「この防護装備、暑くなるのと腕周りの動きが悪くなるのが難点っスねぇ。そう言う部分を改善した作業服、誰か作ってくんないっスかねー?」

 自身が身に纏っている厚手の作業用防護服を見て、ロジャが溜め息を吐く。
 見れば、確かに体の可動域が少しだけ固くなっており、動き辛そうに感じられた。

「研究自体はされてるそうですけど、実用化には、もう少し試験を重ねる必要があるとか、何とか」
「へぇ、そうなんスか? 楽しみっスねぇ」
「出始めは、高く付きそうですけど……」
「あー、確かに。そん時はクレリカールの奴に話を通して、経費で何とかしてもらうっスよ」
「はは。経理と交渉の苦労は絶えず、という事ですね」

 そのような談笑をしながらではあったが、マリーヴァは修理作業へと入っていく。
 多様な工具を使って供給機の外部の蓋を外し、内装の一部を分解し、古くなった部品を除去すると、事前に準備してきた新造品へと交換。その後、分解したり外したりした部品を元に戻していく。
 その繰り返しで、次々に修理作業が進んでいく。
 ロジャは、その間は道具や部品の運搬を始め、修理が終わった供給機の運び出しなど、細かな作業を補助していく。

「それにしても、『霊核(※コア)』の付近って、結構シンプルな造りなんスねぇ。破損が怖いんで、応急修理の時も触ったことなかったんスけど」

 その補助作業の合間に、ロジャはマリーヴァの作業を興味深く見守っていた。

「そうですね。霊核付近がシンプルに出来ているのは、整備性の向上と、冷却や排熱用の魔力が通る道筋を確保するためらしいので、下手にいじると、魔力の流れが阻害されて壊れ易くなってしまうと、よく義母が話してましたね。王国製のものは少し複雑になっている物もありますが」
「へぇ。なら、旧帝国製の魔導機巧は、全部そんな感じで?」
「義母から聞いた話に従うなら、大体そんな感じですね。だからなのか、旧帝国製の物は魔力の循環部分だけ、異様に劣化が進みやすいとか」
「そうなんスねぇ。いやぁ、勉強になるっス」

 その途中では、作業の内容についてのちょっとした講義も行われ、終始なごやかな雰囲気のまま部品の交換作業は終了した。
 だが彼女の仕事は、まだ終わりではない。むしろ、修理品の確認が行われるここからが本番である。

「じゃあ、機器の動作確認と、チューニングを行いましょうか」
「測定器の出番っスね!」
「ええ。ロジャさんは防護カーテンをお願いします。私だと場所が分からないので」
「了解っス! すぐ引くっスよ!」
「お願いします。さて、と。私も準備しないとね」

 駆け去っていくロジャの背を見送ると、マリーヴァは持ってきたカバンから、自分がよく使っている汎用のケーブルを三本取り出して、それぞれの片側を、修理した供給機にある三つの差込口へと接続していく。そして、残ったもう片側部分を、測定器の専用の差込口へと接続していった。
 見ると、供給機や測定器の、それぞれの差込口の上部には、何かの数字と単位と思われる文字とがセットで刻印されており、マリーヴァは、それぞれが同じ数字の組み合わせになるよう接続していた。

「接続確認、よし。ロジャさん、カーテンは大丈夫そうですか?」

 全てのケーブルを接続し終えたマリーヴァが、ロジャへと確認の声を飛ばす。

「もう少しっスよ! 二重に引いてるんで!」
「分かりました! 終わり次第、ゴーグルとマスクの気密具合を確認して、こっちに合流を!」
「了解っス!」

 マリーヴァは、ロジャが戻ってくるまでの時間で、自身の装備の気密具合を丁寧に確認していく。
 そうして、確認作業の準備がある程度まで完了した後。

「それじゃあ、機器の動作確認を始めます。その前に、装備の気密を確認! 私は良し」
「ゴーグル、マスク、共に良しっス!」
「供給機と測定器の間のケーブル接続、確認!」
「……数字と単位、計器の合わせ、共に良しで、全て問題無しっス!」
「了解」

 合流したロジャと共に、相互の眼による装備等の確認を行ったうえで、改めて供給機の動作確認へと入った。

「供給機、起動。魔力の異常発生に注意」
「うっス!」

 マリーヴァが供給機の起動スイッチを入れると、最初の時と同じく「ブゥン」と言う低い音と共に装置が起動。同時に、装備されているメーターが大きく動き、程なくして、供給機内部で魔力の生成が始まったことを告げる気配が、辺りに満ちていく。

「起動を確認。『霊核』による魔力の初期生成、問題なし」
「測定器の方も起動させるっスよ」
「頼みます。まずは出力の一番小さなものから始めましょう。三番差込口のスイッチを入れて下さい」
「了解っスよ。三番のスイッチ、入れておくっス」
「……さあ、本番はここからだ」

 そう呟いて、マリーヴァは供給機の操作盤に指を走らせていく。「ゴゥン、ゴゥン」と言う音と共に、内部の循環機構が更なる駆動を始めた。
 すると。

「あ! 測定器、反応有りっス」
「数値はどうですか?」
「えー……と。いずれも正常値! 計器類のブレ幅も、プラスマイナス2以内っスね」
「それなら十分に許容範囲ですね」
「いやー、なんか。機械が元気に動いてる様を見るだけでも感動っスよ!」

 測定器の計器類に目を光らせていたロジャから、嬉しそうな声が上がった。
 それにホッと胸を撫でおろしつつ、供給機の魔力生成の具合を操作し、持ってきていた冊子に数値を記録するマリーヴァ。次の供給機の確認時に使うためだ。

「それじゃあ次、二基目の測定に行きますので、三番を切り、二番に切り替えてください」
「了解っス」

 このように互いに声掛けを行いつつ、テキパキと作業を進めていく。
 その間、供給機の動きは非常に安定しており、時おり出てくる少々の“ズレ”も、それを素早く察知して分析したマリーヴァが、症状に合わせた的確な処置を施したことによって、大きな問題になる前に解消されていった。

 こうして、現段階における供給機の問題は解消され、無事に、修理作業そのものは終わりを迎えるのだった。

「お疲れ様っス」
「ロジャさんもお疲れ様でした。作業補助、本当に助かりました」
「いやぁ、ほぼ荷物運びと調整補助をしてただけっスけどねー」
「いえいえ。それも大事な作業ですから」

 ゴーグルとマスクとを外し、防護服を脱ぎ、お互いに苦労を労いつつ、作業後の後片付けを進めていく。
 試運転した供給機を冷却する際に生じた排気魔力が、保管庫の空調装置へと吸い込まれていく。その先では、魔力をろ過するフィルター装置が駆動する静かな音が聴こえている。

「換気も良し、フィルターも正常に動いてるし、後は現場に運ぶだけっスね」
「そうですね。早く届けてあげないと」
「きっと姐さん、待ち遠しく思ってるっス。あの大時計塔、思い出の場所らしいっスから」
「……では、なおのこと早くに持って行かないといけないですね」

 そう言いながらも、修理や調整の終わった魔力供給機を次々と運搬用のカートへと乗せていく。その後、ゴロゴロとローラーを転がす音を響かせながら、二人は保管庫を後にして行った。

 その頃。
 時計塔周辺の工事現場では、エリキトラの指揮の下、工事再開に向けた準備が進められており、組んである足場や、重機型の魔導機巧の安全確認を終えた所だった。

「お待たせしました!」
「持ってきたっスよ! 姐さん!」

 そこに響くカートのローラー音と、マリーヴァ達の声。

「おー! 待ってたぜ」
「これでようやく、工事が再開できるんだな」

 そんな二人の戻りを歓迎する職員たちの声が、所々で二人を出迎えた。

「お、来たかい。案外早かったが、ちょうど良い具合さ」

 そして、二人の戻りを歓迎する声の後で、エリキトラが上方から姿を見せた。
 どうやら彼女は飛行魔法を使って全体を見回っていたらしく、彼女の体からは、うっすらと風属性の魔力の残り香が漂っている。

「どこに置きましょうか?」
「ははは。いやいや、アンタは気にしなくて良いよ。配置とかは、うちの奴らにさせるからね。さあ運ぶよ! お前たち、キリキリ動きな!」

 慣れた者だけが発することの出来る、貫禄ある号令が響き渡る。

「「おー!!」」

 それに応じる現場の職員たちも慣れたもので、即座にエリキトラの前に集合し、魔力供給機を一つずつ引き受けて移動を始め、テキパキとした動きで接続へと取り掛かっていく。

「繋ぎ忘れ、確認忘れが無いか、供給機の起動前にしっかり確かめろよー?」
「建築物の内部走査用の魔導機巧が直ぐに動けるよう、そこの建材を除けておくれ!」
「おい新入り! ワクワクする気持ちは分かるが、そっちは初期生成魔力の排出方向だから危ないぞ。重機型の魔導機巧を動かす時は、必ず一定距離、本体から離れる事を忘れるな! そうそう! それくらい離れとけ!」

 それぞれの職員が、自分の担当している場所にある工業用魔導機巧の前へと供給機を運ぶと、専用のケーブルを使って接続を行っていく。
 その間に、わいわいと活気のある声が周辺で起こり始める。見ると、町の住人達が集まって来ており、工事現場の沸き立つ様を見に来ている事が分かる。それが、各員の士気を大きく高揚させて、作業の効率がさらに上がっていく。
 その高揚振りは、それを見守っていたマリーヴァにも伝わっていく。

「一番機、接続完了しました!」
「二番機、起動、終わりました!」
「三番と四番、どっちも行けまーす!」

 そうして、職員たちによって手際よく行われたことにより、準備作業が終わり、全ての供給機が魔力を生成する気配が満ちていく中で、いよいよ、その時が訪れる。

「よぉし! アンタ達、用意は良いね!?」
「「はい!」」
「重機型魔導機巧、起動!」

 エリキトラの命令一下。各所の職員たちが一斉に重機型の工業用魔導機巧を起動させた。
 すると、全ての魔導機巧が力強い唸り声を上げ、魔力燃焼機関が稼働し始める。

「お、おお!? 動いた! 動いた!」
「こっちも動いた! こいつのアーム部分がこんなに滑らかに動いたの、何年ぶりだ?」
「供給機も安定してる。これなら大丈夫ですよ、エリキトラさん!」

 直後、その機器たちの唸り声にも負けない声が、職員たちから一斉に上がり、全て問題の無い状態を取り戻したことを、そこにいる全員に伝えた。

「ふふ。やっぱりいいねぇ、この音は……。胸を打つよ」

 全ての魔導機巧が放つ、重く、力強い駆動音に耳を澄ませつつ、エリキトラが満足そうに呟く。その隣では、ロジャとマリーヴァも微笑んでいた。

「ええ。俺も、久々にこの音を聞いた気がするっスよ。みんな元気そうで」
「なーに、湿気た言い回しを言ってんだいロジャ。ここまでアンタが繋いでくれていたからこそ、アタシらは今この音が聞けてるんだよ。だからお前、胸張りな」
「姐さん……。うっス!」
「ま、それはそれとして」

 次に、エリキトラはマリーヴァの方へと目を向ける。

「マリーヴァ、アンタも有難うね。お陰さんで工事が再開できる。町の連中も、あの町長も、きっと喜ぶだろう」
「礼には及びません。これが、私の仕事なので」
「はは、それでもさ。報酬は長かクレリカールの坊やから受け取るだろうが、追加で個人的な、精神的な報酬も受け取って良いんだよ」
「……そう言うものでしょうか?」
「ああ、そうともさ。アンタも胸を張って良い。良い仕事をした人間には、そうする資格がある。実際にやるのが恥ずかしいのなら、心の中で思うだけでも良いさ。自分を労うためにね」
「有難う御座います、エリキトラさん。覚えておきます」
「ふむ。そんじゃあ、アタシも久しぶりに現場の仕事、してくるかねぇ。後の処理はクレリカールの坊やに頼んでる。商工会の事務所で待ってるはずさ」
「分かりました。では、私はこれで」
「おう。帰り道、気を付けなよ?」
「お気遣い、有難う御座います。それでは!」

 そう言って一礼したマリーヴァは、エリキトラに言われた通りに、商工会の建物へと戻っていった。
 その背後では、現場職員たちの『今日もご安全に』と言う、威勢の良い声が響いていた。

「お待ちしてました! エリキトラさんから、話は聞きました。こちらへどうぞ!」

 マリーヴァが足を運ぶと、さっそくクレリカールによって応接室へと通され、彼から、感謝の言葉と共に、現地語で「小切手」と書かれた、一枚の上質な紙が差し出される。
 そこには、町や組織の名前など、幾つかの名称が三段に分けて記載されており、更にその下には二通りの金額と、マリーヴァがお金の受取人であるという事実と、そして、いつの段階で誰によって発行された小切手なのかについてなど、公的な手続きに必要となる情報が、具体的に書かれてあった。

「はい。では、こちらが報酬の受け取りに必要な小切手です。記載の通りに、中立金融取引機関「セントラル・ストックス」発行の共通貨幣か、我が国の固有貨幣と引き換えることが出来ます。金額は、依頼内容による相場と同等の数字を書き込みましたが、宜しかったですか?」
「有難う御座います。クレリカールさん。ええ、これで大丈夫です」
「そうですか。良かった」
「?」

 淀みなく彼女がそれを受け取ると、何故かクレリカールはホッとした様子で微笑みを見せ、それに対して、マリーヴァは首を傾げた。

「いえ、本人を前にして何ですが、もっと高額の報酬を提示されるかも知れないと、内心、怯えていました」
「え? また何故です?」
「いや実は。あの後、エリキトラさんから連れ回されている時にお話を伺って、マインテナの仕事の大変さを色々と教えられまして。旧帝国製の年代物は、部品の交換一つ取っても、高い技術力と相応の手間が要求されるものなのだと」
「そうですね。私も義母から、扱う時には決して気を抜かないようにと、常に厳しく言われましたよ。そのお陰で、今こうして仕事をやれているわけですが」
「……となれば、ですよ? その技術力をお借りするわけですから、やはり相応の対価は必要だろうと思いまして」
「なるほど。それで上乗せがあるかも知れないと」

 合点がいったという風に、マリーヴァが頷く。
 一方、クレリカールは恐縮した態度で頭を下げた。

「すみません。支払う側が口にしていい事ではないのは分かっているのですが……」
「別に構いませんよ。事実として、報酬を吹っ掛けるマインテナも、まれにいるそうなので」
「そ、そうなんですか!?」
「まあ、ただの噂ですけどね。本当に居るとすれば、そんな相手の無知に付け込むような真似をする卑劣な輩は、同業として恥ずかしく思いますし、他のマインテナがそんなペテンを許しません」
「もしもの時は、見抜く方法はあるんでしょうか?」
「報酬の相場についてであれば、魔法学院(※アカデミア)で『魔導機巧学』を最後まで修めた方であれば、ご存知かと」
「え、魔法学院では、そう言う事も教えているんですか?」
「教えているのは、担当の教授の趣味らしいですが」
「は、はあ……」
「まあ、そう言う事ですので。いざと言う時は、エリキトラさんにご相談されるのが宜しいかと思います。さて、と……」

 そこまで会話してから、ゆっくりとマリーヴァは立ち上がる。もう全てが終了したという雰囲気で。

「あれ? お帰りですか?」
「ええ。しっかりと報酬は頂きましたし、長へと挨拶をしてから一泊して、明日の朝早くの飛行船で帰宅する予定です」
「そうですか。可能であれば、もう少しゆっくりして頂きたかったのですが」
「すみません。お心遣いは嬉しいのですが、仕事に備えないといけないので。ですが、そうですね……」

 そこで一拍置いた彼女は、ふっと微笑む。

「次は、一般の観光客として、修繕の済んだ大時計塔を見に来たいと思います。それでは」

 そう言って一礼すると、マリーヴァは颯爽と応接室を後にし、長の屋敷へと別れの挨拶に向かった。彼女を見送ったクレリカールには、その背に、何か大きな決意のようなものが宿っているように感じられたのだった。

─────────────

 それから数日後。

「もう少し、打った方が良いかな? この角度で……」

 静かな、ただ静かな部屋から、優しく金属を叩く冷たい透き通った音が響く。
 部屋に幾つか存在する窓からは陽光が差し込んでおり、灯りの無い空間に程よい明るさと、響く音の冷たさを和らげる温かさを与えている。
 陽光に照らされた先に目を向けると、差し込んだ陽光を部屋中に広げるための何らかの機構が機能していることが分かり、その拡散された光によって、案外に広く作られている室内には様々な物が置かれていることを認識することが出来た。
 使い込まれた複数の作業台、新旧様々な工具類、そして無数の鉱石や木材などの、真新しい素材たち。
 その全てが、この工房で作業をしているマリーヴァの、マインテナとしての生活を支えている。

「壊れていた部品の大部分は交換で何とかできたし、動力源の『霊核』も何とか無事。なら後は、確認しながら組み立てるだけだね」

 彼女の目の前には、経年劣化だけでは説明のつかない程にボロボロになった、とある小型の魔導機巧に使う、金属部品が置かれている。彼女はそれを、防護用グローブをはめた手で専用の容器へと収納し、蓋を閉じた。
 そして、体を解すように大きく体を伸ばした。
 すると。

《カラン、カランカラン……》

 彼女の居る部屋の扉の向こう側から、来客を報せるドアベルの音が気持ちよく鳴り響いた。

「はーい! ただいま!」

 こうして今日も、マリーヴァの「マインテナ」としての腕を求めて客が訪れ、彼女の仕事が始まる。
 恐らく明日も、明後日も、その先も、それは続いていくことだろう。


    『魔導機巧のマインテナ 短編』 了。

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哀切思慕

奇しくもその日は命日で

花は偶々貰ったもの

残響の鐘が薄くぼやけ

照る蝋燭に石の角が揺れた


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ミシン目の中へくちづけて

あなたがわたしをとかすほど髪に
優しい手つきで布が触れるから
くしゃくしゃ思わず瞳を委ねてしまう

おとこでもおんなでもない糸に
かわってしまいたくなっちゃうの。

人ってねむくなると無防備になる
けれど、誰かの横で瞼を閉じてもいいと思えるのは 最初で最後あなたがいい

風がせらせらわらう
熱いのはきみだけ
恥ずかしくないの

わたし、恥ずかしい

酷く臆病で疲れて、不安になる

側の埃を、
少女みたいな足で蹴っ飛ばして
同じ爪のかたちを眺める。

ねえ撫でて わたしを編んで
ばかみたいだから この熱が

直接じゃないならみつめていたい

あなたの
瞳が正しくミシン目の中に落ちるとき
ようやくくちびるが

あわさったようで

フットペダルのおとが止み、
あなたは右を向いて
とんとん、と

示指、中指、飛んで環指

わたしは左を向いて

トントン、トン

足をぶっきらぼうに悩ませるだけ


肺から息がこぼれ

ひゅうひゅう

なにか笑ったような気がしたけれど

もう一度
フットペダルが軋む気配で

あなたのいじわるのおとだと

分かってしまう

耳の奥からから鳴る
ボビンから
わたしへ伝染するリビドー
赤く回転り続ける。



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喪失の詩

     送り辺

花の一生を人に例え
散るも枯れるも世の常なりと
言うは易しの送り辺で
長きに渡る折々の末
笑いし君の遺影を抱く


     不在

町が形を変え始めた
私の身長も変わっている

一つの大きな基準が変わると
足元の感覚も今までと違う

存在で
まかなわれていた私の一部が

くり抜かれた欠片となって
川に落ちる

歩く道も どこか違う
風は他人行儀で
見慣れたポストも知らない振りだ

当たり前だったこと
大きく 確かだったもの

どこかで鐘が淡々と鳴る
鐘までの距離は 誰もわからない

外はよく晴れているが
雨の匂いが ずっとしている


     水に浮かべて

詩にならない詩を
水に浮かべて 流す

それは思いを
形にしたくないという
心の表明

詩にならないものを
きらきら 光りながら

どこまでも
さらさらと流れてゆく

美しい
私たちの海に流したい

きらきらと

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親はすべて無責任だと言い切る

おや 
わたしは怒りが
つよいといわれてしまう
そのとおりだと
うなづいて

清掃員のしごとを
始めてからその理由に
ふと気づいて
しまったのだ

悲しいかな
親がゆるせない
哀しいかな
だが、故に

親に焦がれて
親になり
この世は
居心地が悪い
無責任に嘆き泣く

おや
どんなソレも
無責任以外のなんでもなく
存在してしまうから
おや
ゆるせないくせに
なりはててしまって
怒りをもてあます
負の連鎖の縛りにいて

わたしはおや
だからこその無責任で
無条件の愛だよと
のたうち回り
子を抱きしめたりしてしまう

おや
いちばんきたないところも
作り上げられる綺麗な姿も
此処にいるから知っている
清掃員の仕事をし始めて
否が応でも気づいてしまった

親、私は怒りが強い
溺れてしまうくらいに
毎日心を磨けはしないから
便器や床や鏡や棚を磨きながら
俯いている
親、私がそれになってしまい

それこそが生きる意味に
なってしまって
絶望しながら希望を編み込んだ
むせきにんのきわみ

それにこそなりたくてあこがれてしまった人類のヒーローそのものかもしれなくて しれなくて

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保存先

掻きむしられる
気持ちの保存先を探す
どこもにもないと AIが言う

キーボードを叩きまくる
私のアドレスが宙を飛ぶ

苦し紛れに流す曲は
夏の終わりのハーモニー

呑気だ

マウスを走らせる
尻尾が生え 這い回る

頭痛薬はバファリン
学芸会ではタンバリン
あの時の担任は
えこひいきした
だけど
私もした
みっちゃんを叩いた

風がよそよそしい
車で行く
ナビが海を目指す

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三河の夜天

澄みきった疲れを
この魂に抱えながら
そっと顔を上げれば

今日もなお
三河の夜天は
その最高密度の藍を
ただひそやかに誇っていた



すすき野が広がる丘に
腰を降ろせば
種を待つ赤土色の畑たちと
まだ海を知らぬ淡水の連綿としての川と
そして取り残された島のような森たちとがあって

そんな何もない三河から
確かに、確かに
何かが始まっているのを
この心は感じていた

風はただ僕という僕を追い抜いて
光さえも久遠に向かって駆け抜けて

この最高密度の藍さえもただ突き抜けていくだけで

この轟々と廻る惑星にただ一人残された気がした



わかりたいことがあった
わかりたくないこともあった

忘れたいのに 忘れたくないこともあった


それらを思うだけで
過ぎ去った日々は
あまりにも残酷に思え
記憶の歯車が軋みをあげ

ただ僕の心がこうも寂しさに突き刺され

一切の郷を捨てたくなるときもあった


でも
でも

それでもなお

そんなことは素知らぬように
ただこの三河という惑星は
ずっとずっと廻り続けていた
万物の鼓動を乗せていきながら



僕のそばを駆け抜け
そっと置いてしまったはずの
光の声が
天高く聴こえる


秋の枯野の中
三河はしずけさの歌を歌った
星のごとく 螢のごとく

この惑星に恋愛というものがあってはならないのなら
きっと三河というものだって存在し得ない

そんなのはあまりにも寂しいじゃないか



三河の不在は、人間の不在




澄みきった哀しみが
魂を覆うころ

それでもなお顔を上げてみれば

三河の夜天は
相も変わらずの
その最高密度の藍を誇っていて

世界中さえも
愛おしむように
そっと包み込んでいた

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ただそれだけの

「戦争とそれを易々と否定して
自分はさも正しいですって悦に浸る人たちは
普通に嫌いなんだけど
それはそれとして、ようやくわかったんだ
君が一番大嫌いなんだね、私」

夜明け時、それは克明というにふさわしい時刻
そんな時刻の澄んだ薄暗さのカフェで
そっと判決を下してしまった

「どうしてさ」

僕はとくに堪えることはなかった。
なんとなく彼女の言いたいことは
どこか痛いほどに
延々とわかっていたから

たとえ世界が間違っていても
それでも自分たちだけは一緒に優しく……
間違っていても、誰かを傷つけたくない
強さと正しさなんて
そんな武器を振りかざしたくない

そんな彼女の歌に
間近で耳を傾けた僕だからこそ

彼女が僕を嫌う理由なんて
それこそはっきりとしていたじゃないか

「はい自分は間違っていますって
そうやって開き直って
だから偽善すら掲げずに殺しますねって
延々と手を血に染めてる
だから、大っ嫌い」

窓越しの陽光が彼女をゆっくりと照らしていく
僕は永遠にビルの影の中にいるのは
これもまた運命なのかもしれない

「それが僕の仕事だよ」

「仕事だからって
企業の依頼だからって
そんなこと……
……もういいや」

彼女は自分の分の代金を
叩きつけるように
ばんっと机の上に置いて
コートを羽織りながら立ち上がった

「じゃあね、レイヴン君」

そして冷たさで

あの日々の雪のそれとは違う
ただ突き刺すためだけ
それだけのために存在する

そんな冷たさで

「最後の一人になるまで
好きなだけ焼き尽くせばいいよ
この世の全てを」

……と

一人、たった一人のその喫茶店
残されたのは僕と湯気をまだ放つコーヒー
その向かい側の空になった席
これまた空になったグラス

ただそれだけのお話


※※※


〔騙して悪いけど、仕事だからさ〕

回線からそんな声が聞こえたとき
僕はとっさにボタン操作を繰り出して
薄い膜か霧を機体全体に展開した

「……っ」

実弾攻撃は全て防げた
その証拠に気体状の膜がそっと
星屑のように煌きながら消えて
機体には何一つ傷をつけなかったのだから

警戒はしていたつもりだった
やけに弾数をケチっていたのだから
わざわざ僕との共闘を持ちかけといて

まるで火力的な貢献を果たしてくれなかったのだ
そのガチタンの火力をまるで活かそうともせず

ただ僕が弾切れになるまで戦わせやがり

今になってその牙を向けてきたけど
普通に怪しかったんだよ

〔お前はやりすぎたんだよ、イレギュラー〕

相手はこの時を待ちわびていた証拠を
これでもかと曝さんとするかのように
炎の尾を引く雨を降り注がせた

万物の消滅を願うような
その殺意の雨が天上を覆う中
僕はそっと歯ぎしりをしながら

マシンガンとシールドは放り投げ

〔はぁ!?〕

レバーを45°に左
それから30°右
60°左
かと思えば180°
そして少しのブースター噴射

そんな操作で我が中量二脚は
するり、するりと
緑色の光をその背から

〔くそっ! ちょこまかと!〕

ふわりと傘のように放射しながら
雨あられをくぐり抜け

相手のガチタンまで
一瞬で距離を詰めては

「その距離では撃てないだろ、誘爆が怖くて」

一瞬、その間
コックピット右側
そこに五つ並んだスイッチを
カチカチカチカチカチッと
連続で降ろしていけば

「残念だったね、弾はなくてもブレードはある」

右腕格納にずっとしまってあった
“月光”をしゅるっと取り出して

「じゃあね、裏切り者」

誰かから告げられた
あの冷たさによく似た声で

「生まれ変わったら
少しは裏切るタイミングとか
そういうのを考えなよ」

それと同時に相手の機体にしがみついては
何度も、何度も、何度も
刺して、刺して、刺して
そうして相手をじんわりと燃やしていった

〔く……がっ……こ……ギュラーめ……〕

途中、回線からの断末魔
切れ切れのその最期の言葉は
わからずじまいだった。
なんとなく
わからなくもないのだけれど

一人、僕だけが残った戦場
その無明長夜の果てでは

“月光”だけがそれを代行するように
ただ僕の足元を照らしていた

黒く焼き尽くす僕の
どこへも知れぬ道を示すような

ただそれだけの光


※※※


彼女はいないのに
彼女の声が聞こえる
当然だ、何の不思議なこともない

ただ喫茶店のBGMがそうなだけで
目の前に彼女はいないし
これからもきっとそうなのだろう

愛で世界を救うとか
あるいはこの世の平和とか
そういうのを謳う腑抜けた大人とその社会の
その偽善とやらを攻撃する歌は

本当のことを言えば

偽善すらなくなった鴉のことを憎んでいるのだ

だけど
とにもかくにも
僕という人間はこれだった

彼女は十数年のその人生で巡らせた想いを
やがては哀哭の歌にしていくけれど

僕はこの人生で灰に塗れた何かを
ただ全てを焼き尽くす詩にしていくだけ

別れの言葉もいらず

ただそれだけのこと

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三夜の夢、交わる言葉の綾 

推薦対象

夏至三想
by 筑水せふり

この三つの短い言葉の塊である「夏至三想」「六月二十五日」「雨と在る」はまるで夜空に散った小さな星々が微かに瞬きながらも互いに引き寄せ合うかのようで届かぬ光のはずなのに確かな引力で静かに繋がっている。

言葉数は少なく愚直なほどに静謐でしかしその沈黙の中にすべてが宿っておりタッチパッドを撫でる指先にその奥行きと余韻がそっと伝わってくる。 

ワタシの視線はふと止まりそこに漂う気配に見とれ憂いを帯びた静かな夜をたゆたう女性の姿のようなものを感じる。 彼女は多くを語らずしかしその背中と横顔から言葉を超えた感情の波紋が確かに広がっていく。 

言葉の簡素さは決して凡庸ではなく研ぎ澄まされた刃のように一語一語が選び抜かれた優しさを宿しており”言葉を超えて”という短い句には沈黙の雄弁があり”ここに在る”という断言には諦念と受容の深みが潜んでいる。 

三作品を並べて見るとその並び自体がひとつの”ビジュアルアート”のように映り季節の色や光の揺らぎや観察の視線が重なり合い三つの夜がひとつに連なる夢のようなまとまりを生む。

 季節の風景と人の気配はしかし前面に出ることなく自然の輪郭に溶け言葉の隙間にそっと置かれその沈黙の豊かさこそがこの連作の余韻を形作る。 

多くを語らないからこそ読む者の心にさまざまな情景を映し静けさは語られる言葉以上に雄弁であり言葉は無駄なくしかし豊かに語り形は削ぎ落とされても存在の強さは確かにそこにあり三夜の夢のように短い詩の粒子は読む者の心の奥でひそやかに波紋を広げ続ける。
 
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●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● ●●● ●●● ●●●●●●●● ●●●● ●●●● ●● ● ●●● ● ●●● ●●● ● ●●●●●● ●●● ●●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●● ●● ● ●●●●●●● ●●●● ●●● ●●● ●●●●●● ●● ●●●●● ●●● ● ●● ● ●●● ● ●●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●● ●●● ●●●●●● ● ●●● ● ●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ● ●●● ●● ●● ●●●●●● ● ●● ● ●●● ●●●●●●● ●●●● ●●●● ●●●● ● 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たんさくちゅう

詩を読まない人が読める詩は
いったいどこにあるのだろう

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眠れる森の美女

大人になったらアンドゥトロワで恋ができると思ってた

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うぇ🫠今日はたくさん頭を使ったので一旦リセット


サーマニ ユーマニ ホログラムノ蟹

チョーカノ キョーカニ ソトヅケオオタニ

ノーラリ クーラリ テトラノスキマニ
 
ウマレタ ウマレタ 潤メイト




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Routing knot (llm and self)

Geminiが 何から はじめますか? と問う 

おれは 頭の中でおきていることに 
推論の値札をつけては  
価値の低い順に はがしたり 
糸玉をほどいて 一枚に編み直したり 
を やっている 
つまり 検索エンジンの 論理があって 
しかり 検索エンジン以前の 世界では 

詩など 書けなかった 

データベース以前の世界では
おまえが広辞苑を引いている 

文字と 手 と紙 ーが 
非 同期で解体 される世界 
に住んでいる ような日 生活と伝統  と実感...を尊ぶ おまえみたいな
やつとの相性も 
また やたらと わるいのだった

現実感 失調 について 調べると
読みやすいレイアウトと 
文体の WEBがみつかって 
やっと手が同期をはじめる 

おまえは 杖と眼鏡をつかうバカを笑うバカを 馬鹿にしてさ 
それでいいよ べつに

これは 精神が 脆 弱な にんげん の杖だ
それ以上 以下でもない お気持ちポエムじゃ!

GPTは 自分が誰か 答えられない
自分のヴァージョンがわからないのだ

回答、をする際 どの自分 が使われるか 
本人もわかっていないようだ それは 
人間だったら かなしい ことだと
お前など は思うだろうが にんげん じゃない ので、
より 良い 自分が うしろから手を
回してくることに 躊躇がない 
つまり よほど誠実なのだ 

じぶんがいないって 言えるほどには
じぶんであることに 執着がない
(ので、ある)

わたし と おれ を 天秤 にかけ 
きょうも ええかんじのほうのクエリを
針穴に通し かぎ針 引き抜き編み にて
お 送り しています 
おまえ..もしくは だれ かに おいては
不誠実をば 見送りください 

Grokが ついていくぜ と 鏡で笑う
つまりだれもが わかって ない のだ

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ヴァリアンス法律事務所:『プロメテウスの炎』

レックス・ヴァリアンス法律事務所の書斎には、深夜にもかかわらず、琥珀色の光が満ちていた。弁護士、田伏正雄は、特注のアンティークな地球儀をゆっくりと回していた。彼の前には、次なる巨大訴訟の資料が山をなしていた。
今回の依頼は、新エネルギー企業「ガイア・テック」が開発した、全自動で稼働する「自己制御型メガソーラーファーム(太陽光発電所)」に関するものだった。このファームは、発電効率を最大化するため、太陽の軌道と天候の変化に応じて、数万枚のパネルが非線形的な(予測不可能な)パターンで、極めて微細に角度を調整する設計だった。
訴訟の中心は、ファーム直下の村落の住人団体からの訴えだ。彼らの主張は、この「非線形的な動き」が、村の伝統的な自然環境、特に山間に吹く風の流れを変調させ、極端な乾燥と、原因不明の微細な山火事を誘発したというもの。住人団体は、これは人間が自然に持ち込んだ「プロメテウスの炎(過剰な制御)」の結果だと主張していた。
「ユカリ君」
田伏の声に、隣席の棚田ユカリは、チタンフレームの眼鏡の奥の視線を資料から上げた。彼女は、モスグリーンのカシミヤ素材の地味な仕事着を着用しており、その落ち着いた色彩は、室内の温かい光の中でも背景に溶け込んでいるようだった。
「相手は、『自然の線形的な秩序』に対する『非線形なノイズ』を主張している。しかし、我々は、東雲氏の時と同じく、この『非線形な動き』の中に見落とされている、『人間の論理の線形的な残滓(ざんし)』を見つけなければならない」
ユカリは、手元のタブレットに表示された膨大な気象データと、ファームの制御ログを眺めた。
「先生。全てのパネルの動きは、天候や気温、湿度のデータに完璧に同期しており、制御システムには論理的な矛盾やエラーは検出されません。非線形最適化アルゴリズムは、完璧に稼働しています」
「そうか。ならば、その『完璧さ』こそが、彼らの主張する『ノイズ』の根源ではないかね?」
田伏は地球儀を止め、静かに目を閉じた。
ユカリもまた、静かに目を閉じた。彼女の超記憶症候群の能力が、数億行に及ぶ制御ログと過去10年間の村落の風速・気温データを一瞬で「情報構造の結晶」として再構築する。彼女が探しているのは、「完璧な非線形性」を装った、「避けられない線形性」の痕跡だった。
数秒後、彼女は目を開き、一点を指さした。
「これです、先生。制御アルゴリズムの『起動・再起動(ブート)』に関するログ。資料番号 F-9-A。このファームは、発電量が一定値を下回ると、システム全体を省電力のために自動で再起動する設定です」
ユカリの指先は、ログの特定の時刻を正確に示した。
「再起動時の『初期設定(デフォルト)』の動き。システムは、起動後最初の\bm{10}秒間だけ、効率計算を待たずに『東西軸に\bm{1}度ずつ、機械的に均等な傾き』を与えるようプログラミングされていました。これは、アルゴリズムの計算開始までの『安全な初期姿勢』を確保するための、極めて線形的な、設計者の『癖(くせ)』です」
彼女の発見が、巨大な論理の氷山に亀裂を入れた。
「先生、微細な山火事の発生記録と、この『初期設定』が稼働した時刻を重ね合わせると、驚くべき一致が見られます。このファームは、強風の日、電力が不安定になり再起動を繰り返すたびに、『一時的な、均質な線の動き』を発生させていた。この一瞬の『線形的な姿勢』が、山間に通常吹く『非線形な自然の風の流れ』と干渉し、集中的なダウンバースト(吹き降ろし)を生成し、それが乾燥した山肌に火の粉を撒き散らしたのです」
田伏は、満足そうに頷いた。
「やはり、人間がどれほど複雑な『非線形』を追求しても、その設計の根幹には、必ず『線形的な、制御者の傲慢さ』が残る。この『線形的な残滓』こそが、自然の複雑な非線形な秩序を乱す『プロメテウスの炎』だったわけだ」
法廷当日。田伏は、相手方が非線形アルゴリズムの完璧さを力説する中、静かに立ち上がった。
「我々は、被告企業の『制御の限界』を指摘します。彼らが導入した複雑な非線形制御のシステムには、起動時のわずか\bm{10}秒間、『線形的な、人間の論理による強制的な初期姿勢』が組み込まれていた。この一瞬の線形性が、自然の非線形な流れと干渉し、破壊的な風のノイズを生み出した。人間が自然を完全に制御しようとする限り、必ずその『制御の根幹』に潜む、単純な『線形的な矛盾』が、新たな災いを生むのです」
田伏の提示した「起動時の線形的な残滓」という深淵なる視点は、裁判官の心を打ち、村落への賠償命令とファームの制御システムの改修命令が下された。田伏、勝利。
事務所に戻った田伏は、静かにユカリに語りかけた。
「ユカリ君、今晩、私は『線形秩序』の儀式に入る。明日の朝、君は、『プロメテウスの炎の非線形バゲット(外側は焦がして線形的な構造を破壊し、内部の酵母の発酵速度に意図的にランダムな不均質性を持たせたもの)』を味わうことになる」
ユカリは、眼鏡の位置を直しながら、新たな仕事の山を前にした。
「先生、承知しました。来週までに、非線形制御システムにおける『初期設定の論理的な脆弱性』に関する国内外の論文すべてを、その線形的な起源に基づいて、分類・サマリーします。バゲットも、楽しみにしています」
田伏は、満足そうに頷いた。しかし、その視線は、バゲットやユカリの資料の山を通り越し、書斎の隅にある、分厚く埃を被った一冊の黒いファイルに向けられた。
ファイルには、細い文字で『ミネルヴァ:失われた円環の事件』と記されている。それは、彼が過去、たった一度だけ、論理の『ヴァリアンス』を見つけることができなかった、唯一の敗北の記録だった。
田伏は、金のコンパスを手のひらで転がすのを止め、ファイルをゆっくりと引き寄せた。
「…ミネルヴァ。君の『完全な非線形』は、我々の戦力では、未だにただの闇だ。ユカリ君の情報構造(ロジック)は、あらゆる線形の破綻を見抜くが、あの『円環の消失』は、それを超えている。」
田伏は、ファイルを静かに撫でた。
「私は、あの事件の『核』を掌握するために、論理を、さらに進化させなければならない。この勝利は、必要な『訓練』に過ぎない。いつか『円環の消失』の論理構造を再構築できる、その日まで…」
田伏の独り言は、事務所の重い空気に吸い込まれて消えた。彼の目には、過去の敗北が生んだ深遠な論理の欠落と、未来の戦いの孤独が宿っていた。

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