投稿作品一覧
クッキーが焼けるまで
オーブンから甘い香りがただよってくる
わたしは、まるで無邪気にときを過ごす人のように
クッキーが焼けるのを待っている
このときの、えがたさ、いとおしさ
せ、きせつ
まっくらにならないことに、
驚いてたちどまる
日の出まえの 薄青が
窓のそとに貼りついていた
深夜 東京は氷点下
圧倒的な静かであって
畏けるほど つめたいにもかかわらず
ぬるま湯のような 最初の冬だ。
city girl
ナメられないように 目立たないように
でも自分の場所はしっかり守って
立つのは今日もcity girl
隣で釘がさされたらひっこぬく
誰かが泣いていたら背中をなでる
誰にも覚えられないまま咲いている
それは桜 百合 薔薇
なんでもいい 自分の愛の形がそこにあればいい
小鳥のさえずりには微笑みを
カラスのゴミ漁りには静かな怒りを
タワーを見下ろしてヒールを鳴らす
その音が地球の裏側まで響く
嘲笑にはダンスを
罵声には歌を
点数づけにはウインクを
お酒には酔わないように
見知らぬ誰かのインターホンは無視
ポケットにはいつも宇宙 電波は今日も絶好調
手元の閃光をスクロール
照らされて 捨てられて 拾われて
推し活のキックバックはいらないの
現実と理想の狭間に夢を見る
探されないように 見つかるように
でもアイデンティティはしっかり守って
生きるのは今日もcity girl
物語14
澄み切った青空の下、広がる野原の小道に、一台の黒塗りの堂々たる自動車がゆっくりと入ってきました。美しい曲線を描くその車体は、まるで異国から舞い降りた貴婦人のよう。子供たちの好奇の目を一瞬にして釘付けにします。
車のドアが静かに開き、降り立ったのはすらりとした背丈の紳士でした。光沢のあるシルクハットを被り、仕立ての良い燕尾服に身を包んでいます。胸元には洒落たポケットチーフが覗き、手には純白の手袋。その立ち居振る舞いは、銀幕のスターさながらです。
紳士は優雅な仕草で車から木枠の紙芝居舞台を降ろし、野原の真ん中に据え付けました。
「坊やたち、お嬢さんたち。そして、淑女の皆さま、紳士の皆さま。本日はようこそお集まりくださいました」
紳士は柔らかな声で語りかけ、ふっと微笑みます。
「まずは、わたくしからささやかなおもてなしを。特製のキャラメルはいかがかな? 遠い異国から取り寄せた、とっておきの甘味でございます」
洒落た小箱から取り出されたキャラメルの甘い香りが、風に乗って野原に広がります。子供たちの顔にパッと笑顔が咲きました。配り終えると、紳士は白い手袋の手で舞台をトントンと軽く叩き、居住まいを正します。
「さて、皆さま。お席にお着きください。これから、わたくしがいつものように、とっておきの物語をお聞かせいたしましょう。これは、遠い星々の彼方で繰り広げられた、愛と運命の壮大な叙事詩でございます」
紳士は深々と一礼し、拍子木を手に取ると、カチーン!と澄んだ音を響かせ、物語の扉を開きました。
「さぁ、前回の続きでございます。
空を覆うのは、光を失い、星塵が舞い散る暗い天蓋。
かつて『木星の王』とまで称えられたグリフィスは、見る影もなく地に伏しておりました。眠れる森の序列八位、ゲンムの一撃に沈んだのです。その身を縛る『永遠の指環(リング)』の呪いが、彼の力を無慈悲に封じ込めていたからに他なりません。
そこに佇んでいたのは、vozlyublennyy。八本の腕を持つ、ふにゃふにゃとした熊のような不思議な生き物。しかし、その瞳には深い悲しみを湛えつつも、揺るぎない決意の光が宿っておりました。
vozlyublennyyが古の呪文を唱えます。……その刹那!
永遠の指環の呪いが一分間だけ解除され、その身は、まばゆい祝福の光と燃え盛る業火に包み込まれました」
紳士はここで一度言葉を切り、観客をじっと見渡します。
「……皆さま、お静かに。ここからが、この物語の最も過酷で、そして最も美しい場面でございます」
「光の中に現れたのは、呪いから覚醒した眠れる森の女王カティア。その美しさは冷徹な刃のようでありました。
彼女が指先をひらりと翻した……ただそれだけの仕草で、鋼の肉体を誇った巨漢ゲンムは、声もなく塵へと変じ果てたのです。
『二十秒。私の前から消えなさい』
女王の宣告に、序列五位のJDは即座に悟りました。対話など通用せぬことを。彼は空間を歪める魔力を解き放ち、仲間たちを強引に銀の船へと転送させます。
二基の巨大太陽炉『ダイソン球』は女王の力に共鳴し、血のような赤光を放って悲鳴を上げております。
『ワープ成功率は十パーセント……!』
『やるしかない!』
JDは運命を天に預け、制御レバーを力任せに引き抜きました。
遭遇からわずか十八秒。あと二秒遅ければ、彼らは宇宙の塵となっていたことでしょう。
標的の消えた虚空で、女王カティアは凝縮された暗黒のエネルギーを解き放ちました。それは惑星を喰らう顎(あぎと)の如き衝撃波。狙いは地球の心臓。地殻を突き抜け、芯へと伝播するその一撃は、星の運命を根底から書き換えるための儀式。
呪いが解けるまで、残り三十秒。
彼女は、力尽き横たわる愛しき仇敵、グリフィスをその細い腕で抱きしめました。砂塵が舞い上がり、二人を包み込む漆黒の繭を作り上げていきます。
『グリフィス、生きなさい。……あなたを殺すのは、私だけなのだから』
その愛憎に満ちた誓いは、砂の球体の中に深く刻まれました。
やがて非情なる『永遠の指環』の千年の呪いが再び二人を捉え、その意識を深い眠りへと引き摺り込んでいきます。カティアの意識は、荒れ狂う嵐の果て、果てしない静寂の海へと沈んでいったのでございます……」
紳士は静かに最後の一枚を引き抜き、余韻を残すようにゆっくりと舞台の蓋を閉じました。
西日に照らされたシルクハットの縁をそっとなぞり、彼はふたたび、穏やかな「街の紳士」へと戻ります。純白の手袋で燕尾服の皺をひとつ伸ばすと、彼は空を見上げ、独り言のように、あるいは聴衆全員の心に届くような低い声で囁きました。
「……さて。二人が再び目を覚ますのは、いつのことになるのか。この愛憎の行方はいかに。その時、この世界がどのような姿になっているのか、それは誰にも分かりませぬ。あるいは、この風が運ぶキャラメルの香りのように、すべては甘い夢の中かもしれませんな」
紳士は、いたずらっぽく片目を閉じると、脱いだシルクハットを胸に当て、地面に影を長く引いて深々と一礼しました。拍子木を懐に収めるその動作一つにも、名残惜しさと物語への敬意が溢れています。
不孝
薄白色になった空を見上げ
私は今日も佇む
手にはスマホと財布を持って
取ったばかりの原付で旅に出た
ここがどこかも分からない
分からろうともしなかった
誰にも知られたくなった
ただ一人になりたかった
誰にも頼らず
一人で
町を出て
誰もいない町へ
目的もなく旅に出た
手綱は何もない
生きている
ただそれだけが
私を突き動かす
死にたかった
心は叫んでいる
体はそれを拒絶する
だから私はただ走る
何もない
この道を
何もない
未来を
私にとって
意味のない
この人生を
ただ
意味のないそれが
楽しかった
失う
ああ、そうか
熱がないから
雪は
からだからよけいなものを
投げすてるように
ふるのだ
呼気にまざる水蒸気が
そうじゃない
体温が
窓を白くよごす
熱が
あるからだ
こんなにも
重い
零度になりたい
雪の心をもちたい
見渡すかぎり
何一つない広野で
この大地のたわみを
見通せるだけの
白くすきとおる
視野をもちたい
糸を巻き付けた指
窓ガラスにつたう
熱
記念の日
氷雨の音に包まれる軒下
雨が吹き込んでいないのを確認して
小さな国旗を掲げる
いつもの土日はお寝坊ですけど
祝祭日は早起き
久しぶりの平日のおやすみの日。
色をともす
真新しい白は 光を返し
パステルの縁取りが
微かな色を 滲ませる
休日の朝
窓の外では
乾いた風が 枝を震わせているけれど
わたしの体温は
布の裏側で
萌黄の色を すこしだけ先に 目覚めさせる
指先にも伝わる一雫
その気配は
ほぅっと わたしを あたためてゆく
切れない
またすぐ会えるよ
これで何度目だろう
すぐなんてないのに
あなたは私の頭を撫でた
手は繋がっても
心の距離は繋がらなくて
必ず会える保障なんてないのに
忙しくて
やっぱり会えないや
ごめ
会うまで
いつ
いつ会える
消して
なんで
会える って
消して
消して
消して
消し て
わたし
あなたの傀儡になって
繋がったのは
心じゃなくて
手でもない
ただの都合のいい
ピアノ線だったんだね
[け]敬虔なるあなたへ
惰性でも生きることを許してくれるでしょうか。
誰に言われるでもない事かもしれませんが、
「生きてていいんだよ」って言われなければ上手く生きていけない気がするのです。
病熱にさらされる。
故に、恋しいのです。
いつの間にか消えてしまったあなたのこと、
今まで知らなかった私に罪はありますか。
特効薬はどのような時間でしょうか。
あなたは私のビタミンだった。
数え切れない恋慕の中で、今が一番あなたを想っている。
夢見れぬ身体でも夢を見ましょう。
おやすみ。
[く]屑の正道
無性に誰かを傷つけたくなる夜がある
宛もなく百均で買ったカッターをポケットに忍ばせて、駅に行くとか
どうしようもないほどの悪党、覚悟のない政治家、愛を食い物にする端正な悪魔に出会いたい
クズになってしまった僕のラベルを誰でもいいから書き換えてほしい
中立を装った無自覚な差別主義者に似合う服を見繕ってほしい
正しい人である必要はないかもしれないけど、優しい人であるだけでは満たされない痴れ者を殺して下さい
誰も彼もの特別にはなれなくてもせめて、手に届く人たちの特別になりたくて今日も僕は生かされている
0.02..
海の見える町に住んでいる少女
概念と図形によって構成された空間
外気は暖かく、音響は風に乗る放物線に乗って
漂う粒子が拡散する市街地まで
通過するバス停前の時刻表に
飛来する戦闘機の見える空から
聴こえるアナウンスと透明な光線と
太陽系を周回する空間から見える暗闇のなか
リング状の流星群が通過する夢から
地上波に乗る編集された月面写真の
monochromeに揺らぐイメージに
色鉛筆で彩色していく途中で夢から醒めて
爆撃から逃れたシェルターに
乗り込む真空の海にゆく途中で
並べていたパズルのピースがひとつ足りない
寂然と水鏡
光が反射するから
憎んで見える
遮るものが
あって
はじめて
背負うものがあると知る
あまり甘くもない半月をすりおろして、
かがやきもしない琥珀糖にまぶした
苦くもない 痛くもないのに
口からこぼれはじめた、
きれいごとの うそ
くさりはじめるまえに凍らせて
みんなおなじすがたにかえる。
永遠の夢にくぐした、そのまえに
錆びつかせたと言わせたい
少し値下がりした 夏 でしたね
海のあるくらしにも充分
ありふれた日常にも多分
なにも求めない
届かないところまで 唄っていたからだ
くらんでいたのだと
大分 理解するまでに
くだをまく 塒のこと
なまぬるく 日々 溢れ出したからだ
黄昏、寂然と水鏡に曝す
だれよりもわざとらしく、
えげつなくキレイな
いきをはく
と 何重も 帯を惹く
空気よりやわらかで 強情で壊れやすい
火がついたような そうでもないような
何処か逃げ出してしまいたかった
夜の虫だ まつりのあとだ
一服する。
停留所から流れる 蜩を
追いかけていた。
ゆうべだった。その呼吸、
朝焼けまでが未練がましく泣きながら
また腐ってしまう 退色した薄化粧の夏
堰を堪え箱に詰められた手形は 生きているから
吸い寄せられる 紫の空に月が星が烟るように煌く
緑青の鳥籠から カワリバナかと咲う
包み隠すあと 汚らしい唇慰めにも
正直なところ。と茎を啜る
互いを愛撫するように敷き詰められた
生黑い風が 安易な処を剥き出しにして
花も舟も鏡も提灯も、どの生き方にもすべて
違う姿を纏わせるわけだから
ただ茹だるような靄が、さいごまであり
やはり 狂っているのだろうさ
地平線より太陽が微笑うよう
描かれた、
塩水より泥水より
土の中から
線香花火が生えてきたから。
もうあかんのだろうとおもった
指の股から人の顔が見えてしまったから
隠れていたのかといまさらにきづいた。
覆ったところで 見知ったかおりだから
裸足で逃げた 肢体たち
ベランダから しろいくもに告る
貪ると白雲
無惨にも白磁
霧幻な白煙
今はまだ、海の底のトイピアノ
やすらかでなだらかな波風が
ただただ ひかれている
ただ 傾けられた すがた
夏が終わる。かたち、だけの
まま
生まれてすぐ
ふたりは親密圏に突入して
まもなく息が 息ができない
もみじの手で藍色の世界をまさぐり
よだれに濡れた口をぱくぱくさせ
生きながらえようとする私を
女の人は幸せそうに見てた
僕の人生、漫画だよ~
とある日とある街とある瞬間
どこに行くことも出来ずに、院内をブラブラと
永遠に続くような退屈は治療の名目の下、正当化された
空気のような毎日を、奥歯の奥まで噛み締める
こいつは病気だから仕方なしの視線 視線 視線
暇な時間、我を蝕むは邪念 邪念 邪念
これまたとある日とある時とある場所で
悲しき迷い子のように、夜中のグループホームをウロウロと
やり場のない怒り苦しみはやがてくる希望を餌に、置き去りにされた
今日という日の無念空虚なる自分の存在を、心の奥まで噛み締める
ただ風吹き、雨降るは自然 自然 自然
人として、青春の味知らなきは未練 未練 未練
またある時ある街あるところ
死に損ないの蝉のように、街中をブラブラと
義務果たし誇らしく歩く人々の忙しきは、眩しかった
自分の非力と支持なきを、頭から爪先まで噛み締める
弱き者馬鹿と常識無きは、誰よりも危険 危険 危険
殺したくても、この国に人権ある限り消せん 消せん 消せん
そしてまたある日ある時ある一日
ミシンの針の運動のように、作業所の単調労働を黙々と
さもしい工賃で買う帰りに飲むコーラが、美味しかった
夜中に股間を握り締めながら、頭の中で女を抱きしめる
このまま人生長く続くのが、重くのしかかる試練 試練 試練
世にとり、必要なもの。それは誰にとっても資源 資源 資源
地平線
帰らなきゃ
と君が言う
僕も
帰らなきゃ
また
君に会うために
ある日のこと
梅と桃の混在性花束を抱え
薄ら寒さの晴天路地を
ゆっくりと急いでいきました
早く行っても
遅く行っても
さして変わりはなかったのですけれど
それでも祝日をしっかり踏みしめていきたかったのです
春空を見上げれば
掲揚塔
ゆらゆらと揺れる赤い旗に
金糸で縫われた高潔の花
それをすぅっと見つめては
また帰路に戻っていって
昼霞
どこかの家の台所の幸せな匂いが、足を急かしてくれました
たぬき王国
あと数メートル。
続々と前足を出す。
瞳の中にあるものは、天から舞い落ちたかのようにキラキラと輝くサツマイモ。
これを目の前にして喜ばない者はたぬきではない。
本能のように走り出して飛びついた……。
そのとき、悲劇は起きた。
突然金属の棒が落ちてきて周りの空間と隔絶された。
改めて周りを見渡すと、金属の檻の中にいて、物陰からゾロゾロと二足歩行の生物が出てきた。
草を踏みつけながら、一歩一歩近づいてくる。
そしてジロジロと見られる。
そのとき、地面がグラッと揺れて浮いたような感覚がした。
視界が上がって、歩いてもいないのに動き出す。
そのまま白くて大きな四角い台みたいなところに乗せられ、檻に布を被された。
そして前方から低い音が鳴り、直後に細かい振動を感じる。
ときどきガタンと大きく揺れる。
とりあえず目の前にあるサツマイモを食べることにする。
しばらくして布が取られ、檻が開いた。
その先には、夥しい数のたぬきがいた。
恐る恐る前へ踏み出し、その群れへ近づく。
たぬき王国へ入国である。
視点を移し、人間社会での会話。
「たぬき肉って知ってる?」
「うん!おいしかったよ」
このサイトで思ったこと
“あなた”の作品にこそ、評価をしたい
考察をしたい
いいね、と言いたい
私はすごい人ではないけど
一読者でしかないけど
“あなた”のお話を推したい
“あなた”の背中を押したい
伸びていなくたって
他から評価されなくたって
“あなた”の作品だったら
溢れ出る熱がある
私はそれが好きだ
だから私は
“あなた”の作品にこそ、評価をしたい
魂の幽霊・幽霊の魂
御霊についての見解がききたくて、夕飯は外でって言ったのに帰ってきてしまった。夏は暑いのにどうして冬は寒いのだろう、あたしがいてもいなくても。
言葉には魂があります。人には魂がありますし、右手には右手の左手には左手の魂があります。心臓の魂、腎臓の肝臓の十二指腸の魂。釘の魂。金属バットの魂。病の魂。記憶の魂。雨の魂。空の魂。穢れの魂。天使の魂。悪魔の魂。幽霊の魂。魂の魂。魂の魂の魂。
魂続きのこの世の中で毒を持つ海月であるためには海豹や魹のような巨体が必要だと聞いたことがある。
神さまは神格化される前に神さまになってしまって御霊を作ったって言ってた(誰が?)魂。
ほら、雨の幽霊が冬の幽霊のなかで晴れの幽霊を殺しているよ。あっちでは家出の幽霊が家出少女の魂を呼んでいるよ。家事の幽霊はサボりがちで、風呂の幽霊はかびている。枝毛の幽霊やキューティクルの幽霊がヘアピンの魂を抱きとめていて、小声の幽霊が寒い寒いと言い、カンガルーの幽霊とゴリアテの幽霊が闘っているね。厠の幽霊はトイレの幽霊やはばかりの幽霊や泉の幽霊と愛のうたを歌い、あなたともやり直せるような気がしています。
魂はただしい。魂である限り。神さまの幽霊が時間の幽霊と旅の幽霊を連れて逆さまに歩いている頃、地球の魂は長いながい隧道を抜けて隧道の魂を引きちぎって行った。
やっぱりお腹が減ると空腹になるんだね。まだ冷めないうちに味噌汁の魂をひと口いただき、空になった味噌汁の幽霊が地上を離れて魂であることを辞めようともがいて、あたしは腹が捩れるほど笑って笑いの幽霊になって、もうどこへでもいけるとわかってはじめてどこにも行く場所がなかったとわかった。あなたが帰ったのはその時だったと記憶の幽霊が喋り、言葉の幽霊がこの星を覆っていた。
あれは それは これです
あそこは
分岐点
あっちは
汽水域
歩いて 美容院に行って
髪をカットする
かなり のびましたね
彼方から 神のように手が伸びてくる
「そこは おもいっきり 切ってください」
感覚器官の陶酔
鏡の中から
価値ある輪郭だけ ぬきだし
腹の そこを 真っすぐにして
こっちを 探す
こっちの 分岐点
こっちの 汽水域
髪は おもいのほか なくなり
なにかを おおく捨てたら
「ただいまあ」
いま まさに
両手をひろげて 海に
であった気分
コメント
お腹が空いた
お腹が空いた
冷蔵庫を開いてみても、空っぽで
食べるものがまったくない
わたしは悲しくなって、1粒 涙を流した
見渡せば、他にも食べるのもがない人が10人
わたしは10粒 涙を流す
そしてわたしは約6億7,300万粒 涙を流した
怪物
陽が燦々と照りつける夏の陽気
今日はとても良いお天気で
滝のように汗が流れております
町行く人は目を細めて
何を見つめているのでしょうか
あれは積乱雲
あれは雑踏に佇むビル街
あれは何でしょう
見つめているのは怪物です
血眼にして辺りを見渡す
恫喝する怪物です
夏の陽気共に出てきたのでしょうか
何かを叫んでいるようですが
私には何も聞こえません
まるで展覧会のように
人々は怪物を見物しています
自分が対象になることはない
そんなことを思っているかのように
常套句は『聞いてないよぅ』
聞こえないふりっていうのは
聞こえてはいるってことだよね
都合が悪いから
うざったいから
どうでもいいから
聞こえているのに
聞いてはいない
右耳から入って左耳に抜けていく
便利な耳もあったものね
この間話したことだけどさあ
え? 何だっけ?
今週の日曜 観たい映画があるから
一緒に行こうって云ったじゃん
そうだっけ? そんなこと云ってた?
オレ知らないし聞いてないけど
云ったし あなたも観たいって
わかったって頷いてたじゃん
ビール飲みながらゲームに夢中だったけど
あー、だって帰ってゲームすんのが
オレの楽しみなの
おまえだってよく知ってんだろ?
買ったばっかの新作のゲーム
めちゃくちゃ面白いよ
おまえも一緒にやんない?
それでなんだっけ
日曜に映画? なに観るの?
まだ外寒いぜ 週末雪降るかもだって
家にいようよ めんどくせぇよ
めんどくせぇってなに?
あなたがそうやって
ゲームを楽しみにしてるように
あたしだってめちゃくちゃ映画行くの
楽しみにしてたんだからね!
大体 あなたっていっつもそうだよね
わかったわかったって云いながら
全然ひとの話聞いてないよね?
なんなの? バカにしてんの?
聞いてないわけじゃないよ
ちゃんと聞いてるじゃんよいま
聞いてないじゃんいっつも
約束したこと覚えてなかったじゃん
蛍光灯が切れかけてるから
新しいの買ってきてって
あなた 買ってきてくれた?
朝 ゴミ出しお願いねって云ったのに
わざわざ玄関まで出しておいたのに
出さなかったよね?
遅くなるなら連絡してって
何回も云ってるのに
連絡してくれたことあった?
ゴミ出さなかったの 悪かったよ
急いでたし ほらあの日はたしか
朝から会議があって
蛍光灯に関してはさ
てか ちゃんとついてるしよくない?
またそうやってその場しのぎの嘘ばっかり
同じことをもしあたしがやったらどう?
絶対烈火のごとく怒るよね?
お前だって怒ってんじゃん
あなたと一緒にしないでよ!
あーわかったわかった
今度から気をつけます
これでいいだろ?
今度じゃない たったいまから気をつけて
じゃないと あなたのそのゲーム捨てるよ
大事にしてるもの全然
処分させていただきます
ちょっと それとこれとは話が。。。
違わないでしょ? これまでどれだけ
あたしの時間や労力
楽しみ 気持ちを奪ってきたと思ってる?
それともそんなのは大事じゃないとでも?
。。。ハイ、スミマセン
申し訳ありませんでした
今日から改めますので
ゲームやらオレのもの捨てるのだけは
どうか ご勘弁を
じゃあこれまでの罰として
アイス買ってきて
ハーゲンダッツのストロベリーと抹茶
特別にあなたも買ってきていいわよ
ただし ガリガリ君ソーダ味
期間限定のなんて許さないからね
なにやってんの? ほらさっさと動く!
気まずい空気が漂う中
それでもその夜二人は アイスを頬張りながら
同じソファで 眠くなるまで
仲良く古い映画を鑑賞し続けました
さてさて、この彼氏
ちゃんと彼女の話を聞くようになるでしょうか
喉元過ぎればなんとやら
またいつものように 今日誓った約束さえも
そんなことあったっけ? などと云って
しらばっくれなければいいのですが
くわばらくわばら
霊威師のレンリ 旅語り「山の贄」・肆
一歩、門から外に出ると、広がる視界に、夕方の中を家路に就く村民たちが歩いていく姿が見えた。流れていく空気は穏やかで暖かく、同時に、少しだけひんやりとしていた。
すると。
「あら。貴方もさっそく見回りですか?」
レンリの背後から、女性の声が届く。それに応じて振り返ると、そこには外套を羽織ったミツバが立っていた。
「ええ。件のミノリサマに何かあるとしても、それとは別に村の様子を知っておく必要がありますしね。奥様も、今から見回りに?」
「名前で良いですわよ。代わりに、私もレンリさんとお呼びしますが、宜しいかしら?」
「ええ、もちろんです。それに、その方が私も気が楽なので……」
「ふふふ。確かにそうですわね。では、気楽ついでに、共に参りませんか?」
「それは願ってもない話ですが、宜しいので?」
「単純に、久しぶりに外の方と一緒にお話でもと思いましてね。ついでに、貴方の情報の収集にも役に立ちますわよ? ふふ」
「……そうですね。では、お言葉に甘えさせて頂きます」
「では、参りましょうか」
互いに笑むと、ほぼ同時に村の方へと歩を進める。先ほど見ていた夕方の風景へと溶け込んでいく。
そこから二人は、しかし何を話すこともなく、ゆっくりと歩き続けていく。
ときおり手を振る村人に笑顔や挨拶を返したり、周り組担当の村人にレンリのことを紹介しつつ彼女の調査への協力を要請したり、レンリの滞在中は村長の家に入らないように村中に触れ回ることをお願いしたりと、業務的に必要な会話はするものの、当人同士が何かを語らうことは無かった。
そのまま二人は森の方向へと舵を切りつつ、静かに流れていく時の中を、ゆっくりと歩いていく。しばらく行くと、人の気配も完全に無くなっていた。
「ん、もう誰も居ないわね。レンリさん、ちょっと良いかしら?」
すると、周りに人が誰も居なくなる機会を見計らっていたかのように、唐突にミツバがレンリへと話しかけた。
「……あ、はい。なんでしょう?」
互いにほぼ無言に近い状態で歩き続けていたこともあってか、一瞬だけ、レンリの返事が遅れる。
「今回の依頼の内容。レンリさんは、あの人からはどのように聞いていますの?」
「うーん。何やら、意味深長な問いかけですね」
「人が多いところでは流石に、こう言う話は出来ませんもの」
「ああ、そう言うことですか」
しかし、ミツバの言葉でその意図を察したらしいレンリは、少しだけ考える素振りを見せる。
「村の異変調査、或いは、ミノリサマ関連の調査と解決、ですよね?」
「やはり、そうですか」
「と、言いますと?」
「実を言えば、当初の依頼内容は、祠の状況調査および状態の改善について助言してもらい、達成に必要な指導をお願いする、だったのですよ」
「ふむ。となると初めは、ミノリサマそのものへの異変の可能性は想定していなかった、と言う事ですか?」
「ええ。田畑の衰えによる作物の不作そのものは定期的に起こっていたようだから、仮に原因がミノリサマにあったとしても、疑問を持つ余地もなかったと思いますわ。村の高齢組からも、期間が短いとかの話は聞いてなかったから」
「確かに、不作の周期が短いとかの明確な異変があれば、すぐに気が付くでしょうからね」
「ええ」
そこで二人とも足を止めた。見ると、周囲は徐々に薄暗くなり始めており、夕方から夜へと落ちていく。
ただ、周囲の薄暗がりに反するように、レンリの瞳は夕焼けのような色合いが更に濃くなっているように見える。
(瞳が濃くなってきたかな。陽が落ちかけているのに周囲がよく見える。ああ、この先にある道、あそこからミノリサマの祠に行く感じか……)
足を止めるついでに周囲を見回したレンリは、胸中で独り言ちると、一つ頷く。
「暗くなってきましたわね。戻る前に、話しておきたいことを話していきたいのですけど、宜しい?」
「それが良いと思います。私もまだ話したいことがありますので」
「それは良かった。じゃあ、幾つか確認。まずは、ガンキはどのようにして貴方と?」
「川沿いの道を歩いていたところ偶然に。まさか森の中からボロボロになった子どもが飛び出してくるとは思いませんでしたが」
「そして、彼を救助した後で、ミノリサマの話を?」
「はい。祠の様子や、ミノリサマの異変もその時に。山犬のような息遣いや声が聞こえたと言っていましたね」
「なるほど……。しかし、山犬のような息遣いや声、ですか。もしかすると事態は予想以上に深刻、かつ時間の猶予が無いものになっているのかもしれません」
「件の、山の荒神と何か関係が?」
「そう。昔、学生の折に民俗伝承を調べていたことがあったのですけど。その中に「山犬を真似て恐怖を煽る悪神」の逸話がありましてね」
「ほう? 悪神ですか」
その言葉に好奇心が刺激されたのか、レンリが興味深そうな表情を浮かべる。しかし同時に、何処か拒否感に近いものを滲ませている風にも見えた。
ただ、ミツバはそれには気付かなかったのか、特に気にすることもなく話を続ける。
「ここからほど近い地域にある里に伝わる話でね。とある化け神が、弱り切っていた山犬の頭領を喰らって成り代わり、群れ全てを自分の眷属に変えてしまったそうなの。恐ろしい話よね」
「神格の乗っ取り、ですか。そう言う神々の侵略行為は、伝承ではたまに聞きますが……。まさかその実例がこんなところにあったなんて」
「驚きですわよね。しかも、その「悪神」は特定の場所に定住するものではなく、一定期間で移動する「渡り」を行う存在のようで。里で伺った伝承にも、「悪神は突然に現れて山犬達を従えていた」と伝わっておりました。他の場所に伝わっていた話には、渡った先に根を下ろし、土地そのものにも影響を与えるんだとか」
「定住してヌシになるような存在ではなく、他の存在に寄生することで永らえる神格。だとすれば、確かに人間的には「悪神」なのかもしれませんね。もしや、ミノリサマの一件で封じられた荒神が?」
「ええ。前にこの村を襲った山犬と、件の里に居た山犬の特徴が全く同じでしたからね。恐らくは、同じものなのでしょう」
「ふぅむ……。ちなみに、この事はケンゼさんは?」
「知らないはずですわ。ただ、あの人も私と共に民俗学を専攻・研究しておりましたし、二人で遠征したり、互いの研究を書き留めた帳面を共有したりしていたこともありましたから、もしかすると同じ結論に辿り着いているやも」
「なるほど……。お二人の馴れ初めも含めて、了解しました」
レンリのその言葉に、ミツバが誇らしげに微笑む。
「ええ、ええ。学者繋がりでしてよ。あの人の研究に向かう姿勢に惚れ込みましたの。西大都の家から、こちらに押し掛けましたわ」
「西大都!? 都市部からこちらに? 何ともはや凄まじい熱愛振りで」
「私、惚れ込んだものは何としても手に入れたい質でして。あの人は飛び切りでしてよ。あ、この事は村の皆には内密に。流石に恥ずかしいので」
「ええ、承知してますよ」
そう言ってレンリは微笑む。その頃には、先程に覗かせていたわずかな拒否感のような雰囲気も、すっかり消えていた。
「さて、そろそろ戻りましょうかミツバさん。日もほぼ落ちましたし」
「そうですわね。戻りましょうか。すっかり話し込んでしまいましたわ」
「確かに。ああ、そうでした。戻る前にもう一つだけ。あの道の先は山の方に続いてますが、あの先に祠が?」
「ええ。直通の参道になってますの。良ければ明日、私が案内しますわよ」
「宜しいのですか?」
「今更ですわ。それに私、今、無性に胸躍ってますのよ。不謹慎ではありますが、霊威師の活動に携われると思うと、民俗学者としての血が、どうしようもなく騒ぐと言いましょうか。ですので、遠慮なく私を使ってくださいな」
「では、再度お言葉に甘えさせてもらいますね。明日は宜しくお願いします」
「ええ。こちらこそ」
そう言って互いに笑い合うと、二人は、村を自警している見回り組の松明の灯りを横目に、そのまま村長の家へと戻っていくのだった。
巨体嗜好症ーー性愛千句--
巨体嗜好症――性愛千句
笛地静恵
【ノート】
笛地静恵(ふえちしずえ)男性です。一九五五年生まれ。
SNS上に二年半にわたり発表した、主に性愛をテーマとする三千余句から千句を選びました。「巨体嗜好症」という題名は、尊敬する稲垣足穂の「天体嗜好症」に、インスパイアされて命名したものです。R-18の句集です。成人したら読みにきてください。
有季も無季も定型も自由律も、節操なくごちゃごちゃに混じっています。三段切れなども使用しています。自己のやや特殊な巨大な少女を愛する性的嗜好を、創造の核としています。性愛の表現に限界を設けないように、手法にもできるかぎり規制をかけないように心がけました。俳句でも川柳でもない「句」として鑑賞いただければと思っています。
笛地がネットに発表してきた、巨大な少女たちが活躍する物語の読者の方々にも、楽しんでもらえる内容になったと思います。もしも好きな一句を、見つけていただければ、望外の喜びです。読みやすさを考え、四巻二十章に編集しました。
自己紹介を兼ねて、ときおり暗誦する三十余句を、引用しておきます。
父母の快感の夜に生を享け
人形の四十八手の秋葉原
男の世ふみ潰すのみハイヒール
しがらみやマンモスの牙をけずる
屋根裏のない時代まで散歩する
満月の赤線を越え傾けり
熱低や沼正三と二丁目へ
江戸切子星の夜景の青や碧
錬金の賢者の石路傍の石
そうなのかもう死んだのか蝶なのか
青臭き人魚すくいのカーバイト
ゆうれいは天井の杉板に食いこんでいる
東京を押し潰したりアゲハ蝶
あら汁の好きな人魚とまずビール
大よりも小のつづらを好む老い
美しき若人らつぎつぎと生まれ来る
デルヴォーの子宮の底の良夜かな
月光の人間椅子へ尻を据え
眉間にはレモンサワーの皺をよせ
書のごとくおんなひもとく村の暮
廃線の駅舎の猫と汽笛待つ
鶴病みて水晶の脾を啄みぬ
地下鉄や線に終わりなき預言
狂句には狂気の裂け目狂い咲き
とぼとぼと雨のうしろを雨男
羊水の帆船右へ傾けり
立ち飲み屋赤きダルマとにらめっこ
男子みな忘れたふりの十四日
肉眼で見られぬ我の後頭部
なぜだろうこんなにも月光がしみる
人間の詞華集を食うリリシズム
青空へ渇きの井戸の底光り
なまたまご熱いごはんのエロスかな
もし一句でも、おもしろいと思われた句があれば、読んでみてください。よろしくお願いします。性は生であり、そうである以上は、すでに死を内包しています。ごく自然に性愛から老いへのつながりを、うたうことができました。
二〇二五年四月三日
笛地静恵
目次
ガリバーの娘たちの巻
一
二
三
四
五
子宮ホテルの巻
六
七
八
九
十
スカートの下の荒野の巻
十一
十二
十三
十四
十五
乳首山頂の巻
十六
十七
十八
十九
二十
ガリバーの娘たちの巻
一
性愛の鍋それぞれに味がある
燦然ぞフロントホックご開帳
校庭に雨のふとももはじく列
夕紅葉山の生理の盛りなり
女子だけが家庭科室の密会へ
先輩を上ばきのごとはきつぶし
黒レースシルクのブラの乳輪へ
若葉して体操服の影ふたつ
ブリーフの輪郭なぞる競べ馬
春の画のかんじんなとこだけ空白
ブルマーの湾曲青し着陸す
はじめての固さに笑い踊子草
ぴょっこんとかわいくおじぎ新芽かな
体育館倉庫の隅を貸し切りで
セーラーの撫で肩のえり手首 細
女子たちの着替えのあとの教室に
父母の快感の夜に生を享け
男子より女子の大きい五年生
新しき乳房の統べる我が五月
たそがれのはるかへかえれ夢精卵
スカートの中の荒野を夕焼けて
巨乳山谷間どっぷり大暑かな
こうなっていたのか禁漁区
みていいよトイレのドアをあけたまま
ほんとうの愛をじゃまするわかれ道
角砂糖のぼりのぼれよありのまま
見たゆえに一寸法師流刑地へ
不機嫌なシュミーズたちとふとん部屋
漁師小屋赤い蝋燭を人魚へ
春の夜の夢の浮橋どんぶらこ
わだつみや二重らせんののたうつは
地下鉄は曲がり女の奥の駅
ふとももに蟻をまよわせ昼ごはん
子どもの日「おいしゃさんごっこして」
キャタピラー陰阜を越える春の雷
スキー履き斜面をすべる雪女
終電の大股開きミニスカ座
夕焼けの雲を炎上黒き塔
夜明けのカルデラを星のキャラバンと
男へはまつ毛と胸を大盛りに
藤の棚養護教諭の手は白衣
安下宿ブラウン管のポルノ蚤
十月十日子宮ホテル滞在記録
ちんちんのつけ根の位置に穴はない
ダンジョンの入り口ではや自爆かな
おずおずとブリキ男の虹を追い
挑戦の大陰唇を山岳部
紫陽花や露地の師匠の裾捌き
十円ですべてみせます木下闇
指紋からはすかに光り梅雨の闇
二
嬢に棹させば流され早漏
短夜の時を惜しめる筆下ろし
郭公や不倫の果ての黒ネクタイ
そこだけの雨の気配の青葉闇
雲の峰ビキニの胸を比べつつ
夏めいてパン屋のあの子ふっくらと
活きた日々ロマンポルノの美と純と
アパートの深夜放送下の部屋
吊り橋のあの板からの先がない
翡翠に恋を盗まれ禁欲へ
底辺の遠きデートの金縛り
スカートの参拝蛇のジュリアナへ
長き夜へ蛾は銀粉のながし目を
着飾りし娘に茨城訛りあり
パンティと紙幣等価交換し
あてのない耳へ泊めてとつぶやく子
しもの毛やシャネルの蝶のバブルバス
人肌のシャンパンに酔えサルガッソー
夜の姫と朝は宿題解くホテル
いつわりの時代のうそのつわりかな
突き刺しぬスカイツリーをアスホール
籐椅子の蠢く午後のお嬢様
ふられたよ雨にも降られ吹きちぎれ
黒豹の如き女と獣園へ
モテ期など来てもいないさモンテーニュ
青蔦の女神開脚グロッタへ
鉄骨のあなたの鎖骨あたしもよ
陰毛の森を彷徨い半世紀
陰核に腹ばいとなり見下ろせり
褶曲の山脈の襞影深し
白妙のブラの斜面へシュプールを
雨だれの倦まず弛まず穿つ日々
温水の大地溝帯下降せり
鼻の下どこまでのびるのっぺらぼう
ズロースの尻の谷間に顔を入れ
太腿へ乳の漲るシルヴァーナ
稲光り女体山脈産道を
陰陽の男体山の蹲る
ともかくもあしたへとどけ子宮式
とびこみのスクール水着くいこみの+
フライデーときに奴隷を志願して
抱擁の肋骨軋む心の臓
美人客のっぺらぼうの赤い頬
白桃の桃の臀部の露骨なり
くちづけのビール臭きをゆるしつつ
エイズなど知らぬ時代のおめでたさ
雀斑の白き高地へ花盛り
六尺の娼婦へ奢る黒麦酒
髪洗う仕上げのシャワーかけてやり
人形の四十八手の秋葉原
三
処女という幻想を売る電気街
太腿の四十デニール攀じ登れ
狼と血と血痕と赤頭巾
炎天や蒸れる女の群れる駅
ハイヒールほどよく蒸れる午後の五時
緊迫の女縄師の乳首立つ
老鶯や歌に孕みの力あり
カルーアの母乳搾りや夜の不倫
遺伝子を人魚ら食らう金魚玉
メテオラの僧の明眸罪深し
看護師の白衣の下のローライズ
ミミズの子あながあったらはいりたい
風を読みあの子の部屋へドローンを
少女ケンタウロスの背に渇き
男の胸筋に潰される胸がある
サニタリーショーツの好きなやつのゆび
夕立ちの部室に紺のブルマ脱ぎ
男の世ふみ潰すのみハイヒール
高層のビルの鏡に盛るまつ毛
ひきの腹おやゆびの姫おしつぶし
ゲームするさみしいよねえ金曜日
青梅雨の女王のラバー匂い立ち
鼠径部を下山途中の遭難者
うつせみの一寸先の闇になく
鰹節田螺を好む少年期
サーカスに柔らかき酢の神話あり
立て札【産道に入るを禁ズ】
卵管を潜るスキューバダイビング
東京へ敵のヒップが落ちてくる
ワイシャツとネクタイ毟り椅子の背へ
緊縛や金襴緞子剥落し
夏帯を国芳の猫ほどくべし
旅に病み乳房の村の午睡哉
恋人とひとめでわかる牛丼屋
パンティの真白き不二の寝
なまぬるきこんにゃくすくう舌の先
しがらみやマンモスの牙をけずる
チョンの間の裸電球切れしまま
少年や半ズボンから金亀子
紺青のレザーの女王蛇衣
屋根裏のない時代まで散歩する
身を削りご奉仕します鰹節
パンティの高温多湿懲罰房
軍隊を丸呑みにする売笑婦
UFOピアスの孔に吸いこまれ
競技会足の先から女体山
はるばると水源もとめ遡る
上流へ口実として岩魚釣り
言葉では女を抱けぬレ・トリック
湯上りの汗のおんなのひざまくら
四
満月の赤線を越え傾けり
月光の大股開きチョモランマ
大いなる乳房都心へ垂れ下がり
足がかり手がかりとして網タイツ
凋落の金の斜面をハイヒール
異邦人女の地図の旅はるか
炎天の影寄り添いぬ彫り深し
蛇いちご愛は一語で騙るべし
焼き林檎アリスと齧る寂しさよ
ひややっこ三行り半のやっこだこ
空中へはしごは垂れてさようなら
かけそばや恋にいのちをかけしこと
のみの身のはねてもはねても乳の山
ひきこもりぬきつくされぬエロサイト
蟻のごと攀じ登りゆけブラジャーを
二等辺三角形夏至の火よ
少年よ帆を高くはれ筑波山
めしべのみスカイツリーとせいくらべ
雲を呑み紅きくちびる雪女
黒髪の黒雲あらし雪女
男とは屹立このむ生き物ぞ
肛門期ここがこの世のとっぱづれ
うろうろとうろつくばかりうつろ舟
立葵青い星から来た女
ハイヒール男尊女卑の拘束具
おっぱいはふたつあるのよくちびるさん
すみやかにアダムのリンゴかじるイヴ
パンツぬぐ腰に自由の息吹あり
しののめの聖地の葦のしなやかに
耳をあて臍の声きく夜さびし
別れとは乳肉のごと柔らかに
烏賊墨のスパゲッティの黒い舌
風青しブルマ湾曲登りつつ
胎盤へノーチラス号子宮海
あげつらうつらさにあきたあかつきの
生まれたままで生まれる安居
熱低や沼正三と二丁目へ
蟲螻蛄の都市さりさりと石の下
スカートを天蓋として瞑想期
水晶をてのひらに享けつぶしたり
パンティに片目を盗られオーディン神
炎々とモテねえ日々の黒歴史
コスプレの巨乳ふたつを首に下げ
くちづけに溺れ戦艦のみこまれ
失恋のひといろをのみあまがえる
ふもとからスイッチバック乳首へと
黒髪の深みに探す行方哉
江戸切子星の夜景の青や碧
もののけの絶えし木曽路の鹿の歌
安楽の椅子光速を疾走し
五
錬金の賢者の石路傍の石
梅雨寒の瀧の直下を女体へと
水戸の子と納豆こねる塩梅で
鉄道の同じ座席だ夏銀河
古池や青き胡瓜と赤き浮子
水源へ遡るまで精子船
食べられる恋を至上と家鼠
三角はときに四角へプリズムや
蜘蛛の糸地下の女の髪の抜け
霧深し女の塔を登る猫
そうなのかもう死んだのか蝶なのか
楼蘭や女王の足の下に消え
むっちりとズロース下ろすゴムの痕
ぼんじりを頼みアラフォーひとり酒
むしむしと蒸発をせよブルマ紺
村祭りわたあめ売りの下りる雲
天狗の子いっぽん杉に星ひとつ
青臭き人魚すくいのカーバイト
ふんどしへお面のひとみみぎひだり
大小の一物ならべ茣蓙の上
おねえちゃん帰ってこない夜の祭り
赤いタコ売るオジサンは手八丁
キスのあとサクサクくだくカルメ焼き
約束を固く握れば夜の杜
金玉の泣いた赤鬼射的場
スカートや金魚ら逃げろ赤い影
夜の市たましいを去るごくつぶし
もろこしの焼かれマニエリスムの夜
皮むけてへびぬくもりの穴に入る
知と愛とカスターリエン朝の庭
火宅とはカタクリスムのクリトリス
子ども部屋みだらなオモチャ隠しけり
引用の迷宮の卵内奥へ
ハイヒール小人の靴屋爪先へ
硝子瓶海賊船の嵐哉
人間のマリオネットのあやつりの
ゆうれいは天井の杉板に食いこんでいる
赤トンボ銀ギラ銀に沈みゆく
女の子足の片蔭秋葉原
空蝉や包容力の虚構性
時計草未来の子でも恋は恋
スカートの三角錐ぞ夏来たる
爪先に溽暑つぶれる黒タイツ
駄菓子屋のメクリの籤の無窮なり
材木屋角を曲がればラブホテル
シルヴァーナ水平線を胸曲げる
蚤の市美女の血液量り売り
池袋ぬか漬け臭き映画館
雌の前つばさ尖らせ夏燕
十八の腕のつけねの乳の張り
支給ホテルの巻
六
若者は船漕ぎ出だす大暑へと
味噌汁の上の澄みつつ夏の菊
深夜へと流し目およぐ露天風呂
夕暮れに一角獣と掃苔へ
手鏡へ映す性器の歪みけり
肉厚のジョッキで呷る生ビール
いかせてはまたいかせては夜の舟
逃げ水やアスファルトより河童の手
ささやきはくさかげろうの旅の本
行水や湯呑みの中の未亡人
茫漠と乳部山脈登山小屋
向日葵や光りに叛く傷みあり
たそがれて独り身の夜につかむもの
ところてん少女の膣に出口なし
東京を押し潰したりアゲハ蝶
ああ 女の息に生まれる 風よ
人形に逝くとき吾に蝶の羽
二次元の少女を愛し美少年
ださずにはすまぬ男のあわれさよ
朝シャンのふりして洗う下着かな
びんびんねどうする腫れていたいでしょ?
女から出してもいいとゆるされて
ゴンドラのおっぱい洗う夏バイト
この世とはなつかしさかな草いきれ
なつかしき人の名わすれコンビニへ
くりかえし西日の部屋のカムイ伝
小水の瀧の湖岸へ波高し
夏野より遥かに望め双丘を
帰省してなまりに染まるおしゃれな子
打ち水の男を迎え濡れたまま
衣紋竹シルクのブラの乾きつつ
まさに今ふたつに割れる受精卵
数知れぬ交尾の床や熱帯夜
蚤の身の知るのみぞ身の下世話
汗しとど渋谷は乳の谷間へと
夕焼や百万都市を尻に敷く
雷雨過ぎ健やかな乳の匂いよ
成熟と若さの出会う君の腰
あら汁の好きな人魚とまずビール
レテ河の岸へ句を積む一石経
山百合や雌蘂天へと聳え立ち
夜の孤独男を犯す力あり
乳房から上陸をする夏の果て
わが息子うなだれるまま立秋へ
人妻の乳酪を練る朝の市
保健室生理整頓秋立つ日
立秋や鎖骨の影の汗淋漓
滑落のストッキングを内腿へ
スカートのずり上げなまなましい桃
はじめての風呂 父以外の男と
七
血管の太さを舌に夏の露
女とは観音様か夏惜しむ
蜩や精子時代の揺れる船
サーカスの蚤ほど知らず無知の音
全天に素足の影の都市暗し
新蕎麦や娼婦二人と街道を
林檎園不倫の止まぬ午前五時
紺青のブルマのうねりマス・ゲーム
チョンの間の草のしずくやすいっちょん
大よりも小のつづらを好む老い
人妻の茶筅の泡の濃やかに
胴の肉垂れ下がるまま夏の果て
カマキリの雌うるわしの冷蔵庫
口腔の桃や果肉へ満ちる汁
山もみじ三角木馬さみしけり
恋人よ切手の糊の粘り哉
逞しき筋肉の足ペディキュアを
遠火事の鎮まる頃に終わる自慰
笛吹きや人みな性のよろこびを
美しき若人らつぎつぎと生まれ来る
椋鳥や精子一匹鷲掴み
先輩の乳房を背負い三歩のみ
右脚の尾根をたどればブルマへと
おひめさま一寸奥まで参ります
女とは見上げる山と観自在
草の葉やしゃがむ乙女の仰ぐ天
男とは酸いも甘いも椿の実
遺伝子の若き媒体白き桃
たらちねや白く大きくあたたかく
千一夜洞窟の壺底なしへ
猿酒や湖水の藍へ銃口を
青い地球の耳飾りの少女
いただきはあまりに遠し秋の蚊よ
ご破算に願いましては恋の秋
アリバイの競輪不倫インを斬る
見上げてごらん夜の太陽
無心に啜るクンニの乳を
六階の画廊淫靡の秋湿り
健全やeスポーツのペッティング
グラビアのスカートめくり荻の風
芋虫や悪人志願透ける皮膚
刃を入れて左右対称林檎の果
アラフォーとそば屋の酒を木槿垣
足あてる秋めく腰をゆらすまで
先生は小さいほうね衣被
金剛の露に潰れる不二の山
青春期錬金の炉に熔解し
進撃の立体駆動立ち上がれ
青年よ大尻をいだけ青葡萄
ああ、お嬢様そんなにお猛りになられては
八
雷雲や女王の口の雨を呑み
黒髪の潮に揉まれる勇魚捕り
待宵や城門固き乳金具
革命の幻想郷へ早漏屋
壮観の二つの月を見る男
評判の夜の女王と月の宿
白菊や湯殿あかるき水のおと
デルヴォーの子宮の底の良夜かな
体育のアイツが消化される午後
三日月に切られしままの林檎園
いわし雲そらのふかみへ沈みゆく
自然薯やすりこぎ棒の黒き艶
ふとももの奥の谷間へぼくたちは
ほんとうにねむっているのおねえちゃん
おんなにはほら穴あるよおどかされ
黒髪の匂いの森へかくれんぼ
八月の男を吸わせタンポンに
重厚のもんぺの尻の稲架を組む
高層の密会は百八階
腰骨の陰の諧調秋麗
コンドーム精液の玉百八つ
背くらべママのおっぱい見上げつつ
鋭角に太刀魚の愛の水圧へ
秋燕終末の日に飢えるため
月光の人間椅子へ尻を据え
たらちねの片膝をつくヘラクレス
つばをためメトロポリスへ落とすのみ
コスプレのナースのやさしピンク色
ノーマンや黒蜜の夜へつややかに
もう少しあともうすこし秋の潮
デパ地下で夜食を仕入れラブホへと
恥おおき人生なれど落鯰
紫蘇の香やはかなきものを信じたり
ハイヒール高速道路またぐとき
ものうげにとびらへもたれ裂け目かな
十月のサーカス大き乳を載せ
長き夜はコーダのごとく暁へ
純白の下着を捧げ薄紅葉
ミソハギやしみじみとわがミソジニー
ビデ使い捨て一億の男を流す
ナプキンへ包んで丸め元のカレ
一輪を口うつしされ菊膾
前を向く白き山より湧く水へ
色好きな女のままでいてくれよ
眉間にはレモンサワーの皺をよせ
わが罪は神無き月のわが前に
地下都市や不気味の谷の人形師
シミューズや天衣無縫の白い月
烏瓜天を揺さぶり破瓜の声
忠実に落陽の季語しゃぶる舌
九
十六の乳首へ男またがらせ
漂うは寄る年波に流されて
バービーの娼婦の館灯を点し
秋日和こころに哀の病いあり
小魚のコンドームへと秋出水
厚底のショット・グラスとひとりのみ
京急にはたちを抱いたけだるさと
うれいつつ酔性夢私でくたばるか
東京の箱庭の巣へ蟻地獄
人妻と艶夢の続き早寝する
大陸へ滴り落ちる乳の川
母の胎飲み屋の在らば寄ってから
上は金下は赤毛のラティーナと
初キスや人祖アダムの腿太き
白砂とアグネス・ラムとラム酒かな
やらないという選択肢なし秋深し
地下二階人間椅子の売り場過ぎ
英霊の聲を伏せたり秋の虹
晩秋の眠りについた谷間から
丑三つの黒鶴来る遊水池
潤む目の半球をゆくノーチラス
陋屋に不純文學積み重ね
一トンの姉妹と木星ガニメデへ
ひとさらいがくるからもうかえろうよ
いたずらな少女と廻るリリパット
あといくつ月の終わりへ雁の宿
春よりも人血もとめ秋桜
つゆだくの女と入る牛丼屋
秋雨の膣くちほどにものをいい
樽生の黒のギネスを持つ女
書のごとくおんなひもとく村の暮
人肌の燗にゆっくり口を寄せ
陰毛へ夜間飛行の熱気球
いたずらなラストノートの膣ヴァニラ
秋寂の乳房に渋谷圧潰を
エピファニーヒル午餐やや遅刻
くちびるの糸ついと消え雪迎へ
酢橘サワー昨夜は俺が搾られた
成層圏絶対領域良夜哉
できるときできるかぎりを秋惜しむ
泉よりまた輪廻への予感あり
十代の王の椅子とし番台を
老骨を鏡の部屋にさらし首
縦笛のぬくもり濡れる指の穴
交渉は鋼鉄都市の街娼と
相棒は女剣士の膣の奥
人鬼の雑炊を煮る奴隷市
死者の入るを禁ズ 神聖娼館
宵越しの精は持たねえ使い切り
川向こう人形町へ人形と
十
錬金を口実として媚薬売り
満ち足りて何を土産のジギタリス
水星のほくろ太陽面通過
はるかなり電話ボックス呼び出しぬ
はいいづる牝の迷宮ようやくに
したたかに生きて牡の巣を臨む
消えぬまま六十年のシャボン玉
冬浅し水商売の指の先
生牡蠣の下から上へ啜る汁
茶の花のはたけ借景ラブホテル
くちびるから秋田の美酒を迎えに
玄関の若さの締まり有難し
鷹の眼の五臓六腑を翔けるべし
月明や乳を浮かべて湯殿かな
湯の底のすあしの指のはさむかに
太陽にストッキングの鞭の音
光のみ纏う乙女子ルノアール
天然の黒光りせよ泥鰌掘り
赤線の路地を曲がれば昭和へと
ネクタイの垂れる朱塗りの衣紋掛け
三味線の爪弾く音の糸を引き
まっすぐにつながる奥の路地の家
逝く声の演技も床し優し君
床の間の書も花の名も色の道
朝茶漬け佃煮少し川の音
廃線の駅舎の猫と汽笛待つ
額縁と猟銃冷えるアトリエに
ブーツより見上げる天の高さ哉
帆船や風を孕みて欲情す
新鮮な精を寝酒の高鼾
品川のしぐれの坂をビル風と
はしゃぎつつ高層ビルへキャミを干し
ぬりかべのいつも無口な恋心
未黒野を黒衣の僧か西行か
雲の峰雲のかげりにかくれんぼ
世を祝い大きく舐める泡の国
竹馬の高く嘶き戦あり
しるこ屋に若き女のしぐるるや
おのおのに精気をこめる闇の鍋
大福を黒のレースへ包みつつ
三時過ぎ女中の腋の腥し
城塞へ難攻不落黒タイツ
振袖や八百八町道連れに
船長の巨乳の湾の深さ哉
おさげ髪ねえやの吾を捨て子して
なめくじら便所の壁をよじのぼれ
海峡を渡れば遠き女哉
海星らの月光の釘うちつけぬ
宿帳のわが名に添わせ源氏名
霜月や夢罪放免影二匹
スカートの下の荒野の巻
十一
部屋つきの露天の風呂の雪囲い
下腹部を祭り太鼓の響く哉
観念のゆらゆら萌えて霜の月
浦安のホテルの窓に都鳥
四十の左の肩へ冬の雨
セーターの斜面に指のシュプールを
ためらいの家からむけるかたつむり
ビキニ脱ぎまず匂いからマウントを
襞のみが考えられる嘘がある
白菜の鍋に蕩ける骨女
声だけで逝きそうになるイケブクロ
いつまでも女はおんな柿落葉
つぎつぎと若き乳房の実りゆく
陰核のひとつ落ちたり冬の道
火の番のもう一回と柝を入れる
藍染めのどこまでが空けざやかに
昭和へと隠れる茅の雪の宿
フィルムの画像もうすれ白昼見
大いなるつづら恐ろし雪深し
ふりしきるラブホの部屋の舞い上がる
部屋干しのパンスト弛み冬の雨
生肉を購う横浜駅の大女
黒髪の櫛を囚える十二月
女医の胸白衣を高く告知せり
大潮に真白く泛ぶ孕み胎
極月や捨てる家あり蛞蝓ら
青銅を万年筆に年の暮
寒の風呂しもの毛を剃る尼僧たち
品川の知の銀箔にハレルヤを
アトリエの襞の奥まで覗く花
夜来たる廃都の空を含羞し
原宿の乳したたらせくだんの子
妙齢の乙女の起伏冬日和
搾るのは得意なのよとレモンサワー
陰毛の根元は暗し冬の杜
曲馬団上半身は人の馬
たまあられほとばしる卵みだらなり
肉塊へ日の当たりつつ午睡かな
雪落ちて閂を挿す裏の門
呼び覚ませみどり子たちを山眠る
唇は裏切るものと決めている
鶴病みて水晶の脾を啄みぬ
雪おんな腰に白雲まとわせつ
立てば這え歩めば這えのサド心
スキー場ゲレンデを曲げ女体山
霙より雪までの大理石峠
大雪や氷河の底の重圧を
渋皮の剥けて立身出世栗
生きていりゃいいことあるさなめくじよ
左右から白い翼の抱きしめる
十二
黒鱏の飛びはねていく冬の雨
のぞきこむ枯れ井戸スコープ底なし
クリスマス苦しみまするひとりもの
AIの受胎告知を厳かに
靴下の中に元カレ贈り物
聖樹には新製品のコンドーム
濃密のブッシュ・ド・ノエル口をつけ
異教徒は家族を捨てて自分だけ
太腿の真白き塔や冬景色
童貞と処女が創めた創世記
口中に延びる乳首を回す舌
たぷたぷと下腹ゆらすノリごこち
預言者も裸で生まれ出る聖夜
つらなりは青からすうり北斗星
円形の黒きリースへキス捧げ
コンビニの熱いおでんとラブホ街
大根とあん肝煮込みまた女
地下鉄や線に終わりなき預言
胸そらすカラータイマー赤色に
コンドーム蒸着!という奴がおる
受胎するおそれ童貞人形師
音信の不通となりし雪の宿
ひときれの恋くちもとへねぎま鍋
ヤドリギやドルイド僧の古代の森閑
紅白の歳暮祝いの下着から
童話には性のいろはをきびだんご
七人の小人に好きな部位のあり
赤ずきん猟師の銃を腹に受け
冬の空恐怖のキスが落ちてくる
血管の樹を遡る冬の蝶
白黒の渾然交渉寒の猫
高熱に魘されるまま膣の中
まれびとを迎えて開くあかずの間
恋などは欠けた茶碗の酒に訊け
好きなもの観音びらきやめられぬ
かなしいなうるめイワシよまあ飲むか
白々と白ける白の白髪や
おかあさんぼくがつかったこんにゃくを
冬椿ひだりの頬のしずくのみ
蝋燭の炎へ恋を祈りけり
デニールの寒風を蹴る鬱ガール
寒風へ絶対領域仁王立ち
濡れたまま雨戸にそっと冬の星
母乳入り珈琲の味熟女の夜
紺碧のセーラー服の雪崩れ落ち
乳首より跳び下りてみる虚空蔵
狂句には狂気の裂け目狂い咲き
正月や正常位のみ正すべし
新鮮の淑気は来たり淑女より
手づからに反りをたしかめ弓はじめ
十三
お年玉うやうやしくもしらたまを
温泉の渓流白く年立ちぬ
鯉の恋こくがあろうがなかろうが
いくつかの秘密のしるし古日誌
軟着陸おおつごもりの月の海
大晦日貫く愛の低姿勢
レミングら初東雲へスイミング
体位とは力点・支点・作用点
乳頭は山のあなたへ道の駅
昨年中は大きなお世話でしたストーカー
堂々の巨乳を揉めり鏡餅
横須賀の波へまっ赤なスカーフを
遺伝子の相性うらない始めます
ささやきの恋をささやき枯葉町
小寒や木星卵の分裂し
イベリコの豚もふられりゃ木がふれる
松納注文多い泡の店
女王様ストッキングの匂う葦
長身の娼婦の部屋のローヒール
ガーターや薔薇の庭園逍遥す
ルージュのみヌードへ着せてひらひらり
雪女深山の風を孕みけり
重ね着の性器を登る山男
懸崖に天狼星を貫けば
雪女のどふるわせて、大嵐
右の羽もうないけれど壁を越え
レンタルの女の脚と冬紅葉
大根を一本背負い冬の旅
蹌踉と枯蟷螂の首の筋
さしいれはカストラートのカステラを
犬死にの犬へ運河の雨蕭蕭
うすぎぬの君よ淫らな蝶となれ
ひとりとは沙汰は三度であとひかぬ
鍵穴や覗く童子や死と乙女
冥府とは女陰にひらく目蓋かな
葡萄酒の樽へ隠れる世界線
さかしまのさかさまおとこ輪廻かな
神保町密偵潜む棚の裏
さかほがいブラキストンを遡る
ホログラムホムンクルスの子宮揺れ
バベルの塔跡地絶賛分譲中
クリムトの金にゆらめきビルの風
子宮の奥の邑に還ろう
陰唇を極める森の隠れ宿
老人形展示会高齢者割引
とぼとぼと雨のうしろを雨男
もりあがりあふれるものを凍ての滝
ソムリエのワインの品を嗅ぐ鼻梁
はじめての失敗なんてなんでもない
季語の無い街に生まれた記号論
十四
あしあとはつけられぬまま月の海
杞憂より黒のヒールの底あおぎ
寒風や糸を切られる夢を見た
四本の足を伸ばしてホテルの湯
水槽の翡翠の水に緑亀
ちりちりと黒い三角ちりぬるを
陶芸家轆轤も濡れる中の指
細工師や体位の変化手ぎわよし
枯野より胸の谷間へ細い道
人形師二度の離婚を人形と
寒烏愛を忘れた木が痛い
焼酎の小宇宙へは花と月
贈ります金星大の金の薔薇
真実の限りも知らに冬深み
転生は薔薇星雲の彼方へと
雨水には黄金の亀の沈む沼
ぷっくりと腹をさらして寒蜆
葉牡丹の開いたままの襞に雨
数年でオバケ屋敷さラブホテル
オネエさん影は着替えか霜の窓
荒涼の茜の岸へ燗の酒
助六のあとの刺し身は柴沼で
いつわりのご主人様へ舌を出し
月光に舞い降りて来よ恋の糸
山小屋へ男は呼ばれ雪の井戸
手ぶくろの雪の公園きつねのみ
青黒き穴に星釣る我が凍湖
心臓をください春のサイボーグ
内臓の脂肪を喰らい鳴く鶴ぞ
たそがれの東キャナル市鶴帰る
深海の哲学語れ痩せた烏賊
天上の牛丼屋へと腕を組み
サバ缶とストロングゼロ星三つ
一粒の米も流さず米を磨ぐ
あたしんち貧しかったから、ふ、と笑う
一杯のみそ汁こころあたたかし
シラウオやモビー・ディックに憧れて
鳥雲に入るゾーンへと黒飛沫
あしゅらおう踵をかえす彼岸過ぎ
蠟梅や紅茶にレモン入れたまま
師走には西池袋ねぎま鍋
掃除婦の冷えに疲れた腰を揉み
冬眠やこの夜を過ぎて次の夜へ
手足荒れ掃除婦白く眠るべし
紅白の二色の紙の小箱哉
内面を見つめ孔雀の眼の焦点
羽毛より潮騒の香の渡り鳥
色ちがい三色の紙おそろしや
てのひらの乳房のかたちこれは誰
寒の雨消石灰は発熱し
十五
顔へ騎る紺のブルマの圧さかな
跳び箱の粗き布地へ頬擦りを
体操部マットの塩を調味する
褐色の鹿に跨る黄色猿
子羊の沈黙を煮る羊ども
黒く塗れ裏からバターああ滲む
満ち潮の原理を教え春立ちぬ
海流へ歌を海豚を人魚へ
メモリーの目盛りはとみにヘルダーリン
愛されたことのある日のひだまりよ
いろいろと季疲れのする二月来る
白衣には白衣の詩情白き峰
わたしたち汚れているの看護師は
職業の秘密漏らさぬ固い舌
いまのみは癒されていよ奉仕する
立ち仕事むくみ揉みあげふくらはぎ
人面の犬いそいそとヒール舐め
地吹雪を圧して吠えよ雪女
泥葱の一皮剝けば輝けり
白菜の白さのゆえにゆるしけり
少年の少女へ変わる地動説
新宿や百夜夜行の百丁目
うぶ声のはたととだえてラブホテル
縦横の武蔵小杉に宮本氏
羊水の帆船右へ傾けり
横笛の耳を澄ませる能の面
厳粛に眉間を揉んでエロサイト
立ち飲み屋赤きダルマとにらめっこ
どろどろの汁に淫するモツ煮込み
地下のバーママの子宮へ背を丸め
牛すじのスジを通してせつなさや
くすくすと女子に笑われ腰が引け
愛の矢の無限遠点狙うのみ
囲炉裏にはいつも男の魚がいる
シラウオの人の顔読むひややかさ
男子みな忘れたふりの十四日
デパートにかゆいところをこすりつけ
ジャガイモに男を磨く皮がある
雑踏の頭上に黒い太陽が
種芋の紺のブルマの太る夜々
赤つばき首の落ちるよりはやく
物干しへ夫を干して春淡し
行水の盥を揺らす乳の影
聞くは一時の恥ヘビ穴に入る
けがれなき清水は苔をいつくしみ
燃えるとも飛びこむ蝶の誠あり
平成を去る夜の地下のブランデー
日蝕や人形の宿昏みゆく
春の水むくむく動け砂の粒
ポストへと死亡通知を影法師
乳首山頂の巻
十六
落ちにけり落ちにけり落ちにけり滝壺
亡骸の火と変わるべし黄金蛾
タバスコやスパゲッティの燃え上がる
紹興酒檸檬雄々しく杜少陵
虹の脚大きく開く世紀かな
ぬめぬめと裂け目をひろげ春の空
レーザーを掌底で受け赤ブルマ
おとうさんおふろをまたぐぞうさんね
蜷局巻く蛇の重心中心に
いろいろの遺伝子を継ぎ猫の恋
つぶつぶと楊枝ほじくる田螺和え
春水の土手すれすれへ溢れけり
枝ひとつ揺らしさくらの予言かな
姦通のせんたくばさみぼろぼろに
ブラジャーへ君を呼びたい春の谷
大脳の灰白質は裸体のみ
視神経尻の谷間を下るべし
肉眼で見られぬ我の後頭部
はやすぎた目をあわさずに春火鉢
ブルックナーシューリヒトのアダージョよ
司書ついに書架にならびぬつつましく
両腕で抱擁できぬ太腿を
吉野家のビールで肩へよりかかり
ゆきてまた帰り道あり性の果て
花びらのへりより淵をのぞきこむ
そちらでも空は春になりましたか
このひとは生まれる前に寝た女人
自らの卵子を買いに道の駅
深山の電話ボックス緑呼び
寒山を帰りて夢の十夜目の
西方に妖しき噂青い牛
引用のうねりからまりなめくじら
肌色の大地貫け水の脈
エーテルの小雪となりて降る里に
くれないの芯射るわれの火吹き竹
金魚玉赤い人魚を二、三匹
梯子かけビキニラインを剪定へ
もう少し下よといわれ舌を出し
痛い、けど、やめないで、だきしめて
内面の深度粘膜接触面
男ってこんなことまでできるのね
大うなぎお濠を出でてそれからは
ダリーくんあの子の胸へ侵略す
いろりばた目がまんまるのウーの子ら
うたれ強い性欲ならばザラガスだ
新宿のヒールの濁る春の昼
てのひらに乗せる男の手をひろげ
いたずらなつまさきピンク春コタツ
陰獣やひざへだっこの春炬燵
春の夜の窓いっぱいの乳房かな
十七
盗賊や砂丘のくびれなまめかし
詩の中へ縄文土器をひとかけら
その川のはじめのしずくゆびさきへ
朝焼けや犬のふぐりを照らしけり
逞しき甘藍の芯の大理石
エンピツのヌードをなめよメモリーよ
啓蟄や果肉のしまり首をしめ
柿食えばゲノムの鐘の夢幻能
氷河期の終わりに青き雪解河
三月の脳中の霧の点描
うらみごとすきとおるまでねぶか汁
ふる傷やポルノ映画のポロポロと
石をもて傷つける身の泣く豚ぞ
どじょう鍋残酷の機微わきまえよ
つつましく私生活から自滅する
古代を透かす土器よ精霊の腑分け
土偶くんお前も好きかシジミ汁
鶏小屋に生まれるものの予感あり
つくば山どこまでいけど里の夢
夢女力の限り来たり去る
隼やとりかへばやや鶯や
二次元やアニマアニムスアニムスメ
中空にやっかいなものはいりこみ
そのひとはそこにいるだけ春の庭
箱庭の底には青い空がある
ジブンちへ帰れない駅いく旅も
吾輩は複雑である名前とは
玄関におひさまの立つ日曜日
針先は布の広さを慕いけり
裂け目へと吸い寄せられて象墜ちる
海豹や昔の愛に魘されて
青の無い傘屋の内を見て帰る
蒸れ蒸れの女子高生の雨の中
短夜の枕の下にコンドーム
直角の通りを曲がり君の家
どうしてもキスをしたいと恋手紙
春色の紺のスカート土手の下
菜の花と下着の色を同じうす
うすぎぬやおぼろにかすむ円い月
一本を口に摘んで春の草
春の水かくもあふれる流れかな
わがダンス君のダンスにダンスする
さざなみに指くすぐられ笑う君
行く春や紫霞む筑波山
まだなのと眠そうな目の細い日や
小手かざし絶景かなの春の乳
立たぬまま春の女と朝の風呂
青い目の青い書物の青い部屋
男の股間にかかわるが撤退だ
ピーターに乳首あずけるウェンディ
十八
霙より男にくらり腕枕
恋ごころ黒電話機の重さ哉
湾内に男を囲い好色屋
夜更かしの百についてのものがたり
銀時計が壊れた時間が割れた
方違え我は小暗き路地に入る
禁断の症状縷縷と年代記
なめくじをみくだしているかたつむり
まっすぐの道はさみしくつい曲がる
なぜだろうこんなにも月光がしみる
くれないの胃の腑に沈むわれの腕
抽象の乳に足もと救われる
ゆくほどに細く細くて裏の道
大根の絶対領域白き哉
ほろ酔いの女のまぶた花の宵
お立ち台ガラスの下をふみつぶせ
ジュリアナへつきあわされてクアーズを
ジュリ扇や春いろいろの町田駅
太腿の虜囚となりて大桜
人肉の春の峠を売られゆく
ストロボのヌード写真を女医さんと
鉄骨を象持ち上げる渋谷駅
時計屋の零時を告げる古時計
きっかけは塩の加減のギムレット
スツールにはちきれそうな網タイツ
二人してチーズケーキを西ひがし
眠らない灯りをともしネグリジェ街
狡猾や乳房の部屋の寄生人
掌に思い出を揉め彼岸西風
人肌の燗はとろりと上野駅
パン生地を白く捏ね上げ春の雲
紫のショーツの似合う女かな
春夜クリムトの画集に黄金
さびしさや光りの乳にやしなわれ
スリッパのみだらにみだれラブホテル
羞恥心第二の皮膚を鎧とし
男性のお道具女子会品定め
洋灯の下で腐肉を切る市場
ジーパンのヒップハングの野蒜摘み
春の夜の夢に浮き橋流された
買う店と愛を売る店おもてうら
おヘソの下にお豆屋さんがござる
逐電は男の孤剣春の塵
朝寝して朝立ちをして朝酒を
ウォッカに膝を盗られて流氷を
老サクラししゃも三匹焼いてきた
芋虫の右か左か夢の道
死んだ町きつねのうどんの二杯目を
民宿の朝は人魚の酢味噌和え
蕨狩あたらしき光りをまとい
十九
揚げひばり肩甲骨へ翼生え
雪崩れるや麓の村へ雪女
無花果を喰い終わるまで禁猟期
芳香の第七感界春の声
不倫とは対岸へ橋霧の中
玄関に水晶売りの星月夜
観音やひとつひとつの足の指
いらいらとはしからくずすひややっこ
雨の森下着を脱いだ蝸牛
連想の色の俳句の艶めかし
めっちゃヤバい夜這いの村のJKら
アニタ・エクバーグの北窓を開く胸
JKのスカートの裾スカイツリー
吟醸を古都でもとめし杯へ
ぐい呑みや旅の思い出てのひらに
鼠径部を一列に行く大氷河
鞭の知を語りて舌にソクラテス
おもらしのガルガンチュアの春の鼻
月の紺ひとすじ白きハミパンが
一瞬の首都消失の足の跡
陰毛の一本すらも動かせず
まろやかな母韻をなめるちょうの舌
鮟鱇め深海の性欲の肝臓め
胎蔵界へ臍の緒の胎児
白い雲から白い手が垂れ
かすみたなびくおとめ春のはらわた
甘噛みの前歯の朝の萵苣を裂き
乙女にはウェットスーツ子宮中
咲いたのに見るひといない花疲れ
ふらここや聖フランチェスコの笑み
乳房へロープウェイの急傾斜
長針短針らせんぜんまい時計
疲れては男が勃たぬ落し角
抒情立ちのスタンドプレイひきこもり
文体は梨で初めて体位変え
鳴いたゆえ雉すべりゆくきりぎしを
張力の水すべりゆく水すまし
校庭へ帆船の来る水曜日
不忍の桜蘂降り廃墟へと
しがみつき若き血を吸い言語老
初めてのリンゴに笑うきみの頬
豹が降る日を驚かず昨日のこと
人間の詞華集を食うリリシズム
体毛の草ツンツンと肌を征く
カラス鳴けクロスロードのひと節を
八重桜山脈のごと襞に襞
十四の女に負けた少年期
本能の壊れた日永猿発語
世界にはなお数知れぬ肉の市
まず骨を女を削り身を削り
二十
惑星や大陸もまた腿の上
サバ缶を世界の果てのコンビニで
三年を寝太郎するか落花燦
差し入れのびわ茄子キュウリ野球部へ
小父様の水晶と貝殻とパイプ
腐蝕画微細蟲を彫る幻燈
四方よりしんしんとしなやかな蟹
眼球を左へ飛ばし恋の花
クトゥルフも九龍城も蟹と烏賊
枝豆や抜いてしみじみ白犬歯
鳩化して蛇となる日のヨハネ伝
人の世のたそがれどきに来る舟は
ゆるやかなひき潮のとき砂の魚
黒潮や人魚の腰のくびれたり
ここよりは肉のうなばら肉に肉
くるめきのめまいの渦の泡の国
火遊びのさびしきギャルのしかすがに
六月の友の上履き香ばしく
春の木を二つに裂いて鉈に火を
鼻梁へと夕焼け雲が落ちて春
黒薔薇や学生服のおさげ髪
青空へ渇きの井戸の底光り
股間の逆三角形の黒き均衡
茶道部のマンネリスムの体位かな
便所の落書「もう一歩前へ短小」
料峭や未来の木乃伊ほろほろと
若者の汗食用の蘭を斬る
荷造りは古い屋敷の下宿人
緑蔭の影に抱かれ黒と紺
黒髪を登りて唄え恋の鯉
設計図二枚少女捕獲専用
機械の乙女と心中する日
塹壕に頬すりよせるキャロルと
毛織物は日に焼かれている
ふとももは生ハムにしておくからね
包丁の稍翳りつつ帰れ、鶴
黒髪をあげてうなじに白を見せ
夜道には人さらいが隠れていた
茅葺きの屋根を圧して杉の梁
モンローの蝋人形と地下室へ
満開の菜の花の下の女装
麦うづら遊行の僧のごとくにて
ときたまごはしのさきからとろとろと
なまたまご熱いごはんのエロスかな
むっくりとアンドロギュヌス水墨画
黒ギャルとセイタカ童子上野駅
巨体嗜好症星の下に生まれた
ともかくもやることはやる人間と
性愛の夜の彼方に産声を
百均のサバ缶を開け最後
偶然出会う
偶然出会う偶然出会う偶然出会う……
僕だけが
道で偶然彼女に会うことがなかった
不運なことだ
誰より彼女を必要としていたのは僕だったのに
僕だけが道で偶然
誰か必要な人に会うことがなかった
尊敬できる人
助言してくれる人
寄り添ってくれる人
そういう人たちのことだ
誰か僕に何かの資格を授けてくれていたらと
思わずにはいられない
僕は一人だったから
そうしてくれる人がいなかった
苦労したよ
僕は一人だった
一人で何かを考え詰めてゆくと
無関心に似た心境になる
いやこれこそが無関心だと僕は言いたい
関心は
二人以上で抱かなければならない
答えはそうして出てくるだろう
一人が持つ容器は
関心に比して小さい
何をやっているのだろうと
自分の行動をしょっちゅう疑い
意味が常に無意味に向かう
一人が持つ容器は
意味に比して小さい
僕だけが
道で偶然
会うべき人に会わなかった
みんな言っていた
会ったよ
会ったよと
北投温泉
ようやく海外と自由に行き来できるようになった今、台湾の「釣蝦場(エビ釣り堀)」が恋しくてたまらない。 台湾のエビ釣りというのは、釣り堀で手長エビを釣る遊び。日本でいえばパチンコような、お世辞にも上等とはいえない、湿った空気の漂う遊びだ。
だから、台北の友人は「エビ釣り」と聞いただけで、あからさまに眉をひそめる。彼は旧台北一中の流れを汲む、台湾一の名門校時代は、フェンシングの選手としてアジア大会にも出たような、文武両道の教養人だ。そんな彼にとって、友人の私が「下卑た遊び」に耽るのは耐え難いことらしい。彼は私がそんなものを忘れるようにと、台北の洗練された賑わいをこれでもかと浴びせかけ、私の感覚を「矯正」しようと画策してくる。
無類のお菓子好きである彼に連れられ、台北に行くといつも洋菓子巡りをすることになる。
「どんなもんだい、台北の洋菓子も、東京レベルになってきたろう?」
法式菓子(フランス風の菓子)という看板の出た路地裏の店のケーキは、確かにレベルが高い。キャラメリゼされた青リンゴは、芳香いっぱいでいて、酸味と甘味のバランスが申し分なく、その下のクレーム・ダマンドのしっとりとした重厚な層と、土台となるサクサクのシュクレ生地が、まるで精密な建築物のように口の中で調和する。 どこを切り取っても「正解」しかない、完璧な設計図通りの味だ。
「ああ、これはおいしいね」
彼は微笑む。街の小さなお店を覗いたかと思えば、さっと五つ星ホテルに入ったりもする。そのすぐ後で、今度は下世話な路上の屋台へ飯を食いにいくのだから、案外、彼と私の好みは似ているのかもしれない。 台北では、巨大なビルに店を構える有名店が、実は屋台からはじまったという話がざらにある。屋台で一発当ててやろうという野心があるうまい店が、路上にひしめいている。
屋台飯をつつきながら、彼はいつも私を諭すように言う。 我々は、そのとき、台北の少し北、淡水というところで、名物の屋台飯、「阿給」という煮込み料理を食べていた。
「温泉なら、台北にも北投や陽明山があるじゃないか。なのに君は、どうしてまた南へ行くんだい?」
私は沈黙する。 本当は、エビ釣りがしたいのだ。南の 原住民の部落に泊まって、素朴なきび飯を食べて、明け方にビンロウを一発キメてから、あの薄暗い釣り堀へ向かいたい……。 そんな渇望を、誇り高き台北人の彼に言えるはずもない。
「ああ、じゃあ今回はしばらく北投に滞在するよ」
私は彼の顔をたててそういう。阿給はうまい。けれど、心の中の羅針盤はすでに南にむいている。
黒と白。大理石の床。恭しく挨拶にきたシェフに笑顔で彼は応対して、誰もいなくなってからボーイズトーク。
「結婚しろと親がうるさくてね、これはこの前紹介された、台中の娘」
彼が差し出した写真は、洋風のドレスを着た、色白のお嬢さんが写っていた。化学工場からデパートまで手広くやっているグループの娘だそうだ。
「いいじゃないか、俺なんか県庁の下っ端役人、高等官なんかじゃないぞ、せいぜいが判任官の娘なんかですら、最近は紹介もしてくれない。君だったら県令の娘だ
って紹介されるのだろう」
まあ、ろくでもないボーイズトークだ。ガールズトークはえげつない、ということになっているが、男性たちだってこういうことをいうのだから、まあおあいこだね。
彼は少し前、精神的に危なくなって、いつも銃を身につけていた。彼の親も大きな商売をしている。お見合いひとつで、命をとられるような思いをするのかもしれな
い。自分は、夜中に電話してくる彼にいったのだ。大丈夫か、いざとなったら日本の田舎にアパートを借りてやる。しばらくパチンコでもやって、打ち捨てられたように暮らせ。
大理石の床は、チェスの盤面のようだ。自分はふと、今の彼女のことを考えた。
彼女の完璧なスコットランドディフェンス、それを崩していく。そうだ、この白黒の上でね、ナイト同士がつぶしあって、ビショップ同士が牽制しあい、ポーンが突っ込んでいく。
彼女を得たときに、自分は幸せだと思った。教養がある女。そのへんの育ちの悪い婚活女じゃないぞ。珠洲焼の美しさのわかる本物の女だ。
けれど、所詮それはディフェンスを崩して得たにすぎないのだ。小便臭い、南台湾。そう、路地裏の女。朝までずっと握っていてくれた女。俺はこの女のためにやろうと心から誓った女、ああ、俺の求めているのはこの大理石のチェス盤で得たものではないのだ。
北投温泉の宿は、申し分なかった。熱海の温泉宿のような、過ごしやすく文明的な宿。少し古くさいが。
もう私の心は台北になかった。明日、発とう。
連泊の予定だが、南にいくことになったから、今、精算してくれといったら、派手なネイルのフロントの小姐(シャオジエ)は、上乗せすればいいものを、バカ正直な勘定を書いて投げてよこした。
続く
黄色い灯
しがない町の
民家のような郵便局から
黄色い光が外に洩れている
夜の始まりの薄暗い中
繋がれて歩く犬の呼吸が
妙に大きく単調に聞こえている
眠らないで
抱え取る全てを柔らかに溶かしたいと
あなたが言うような気がして
一瞬 目を閉じるけれど
固くつむったまま私は地にひれ伏す
そう もう誰もいないのでしたね
時の学校は終わったのでしたね
先生さようなら
皆さんさようなら
木張りの床は温かでした
四角い枠のある戸をガラガラと引き
あなたが出て行ったあとから
私はいつも靴音を忍ばせ
ついて行こうとしていたのよ
知らない町のことを話すみたいに
爪楊枝を取ってと言うみたいに
居酒屋の窓から
湿った外の景色を見ていた
あなたの頸が切なく沁みたけど
洩れながら伸びる郵便局の灯は
消えることのない時の点に
繋がる繋がる繋がる糸
何もなかった町の
何もなかった私たちの
存在のあかし
同時に
黄色い光は夢
お伽話という意味
犬考
犬からはじまる
朝というのは、犬の肛門から、あらわれ出る。そうしてこの世の風景が、犬からひろがっているのだから、遠近法のずっと奥、見えなくなるところは犬の肛門であった。つまり犬はお尻で、遠近法を引き摺って歩き、風景を生み出しながら歩いている。色彩はかならず犬色から始まり、事象は犬の粒子を含んでいた。しかし遠近法は、どこにも消失点をつくる。したがって犬はつねに、遠近法の端を、引き受けてくれる他の犬の肛門を探し回っており、犬たちの肛門によって風景が途切れることはない。
犬にとっての前
人の方こそ通りすがりであり、たえず犬に待たれている。犬には、前向きなひろがりしかない。犬の後ろ、というのは人が勝手に認めているもので、犬の後ろに危機が迫るときには、犬は自分で尻を吐き出して、自分の後ろを前に作り出し、前向きな後ろを、嗅ごうとしながらそれを犬の後ろとする。
犬の善意
一度、空き巣になってみるとわかります。人のほうに悪意がないと犬が、成立しないのです。犬は人の、過去形をたどり、言葉で人につくられる。つまり犬は、人からイヌを借りて犬になり、死ねば人に返す。空気に、人が濃くなるところで犬が、空白からたちあらわれる。改行したら犬、である。犬を含んだ人が、イヌを空気に吐き出して犬が、産まれてしまうのだ。だから人が、薄く積もる犬の集合である場合、その犬の成分により唐突に、朝が去来するのだ。犬を数乗して、人が生まれる。では犬の平方根は何か。とりあえず人から乗数を除くと、犬、とマイナス犬、があらわれてその存在しないはずの犬が、朝靄の向こうから人を眺めている。朝の烈しい冷気のなかには虚軸の犬が、盛り沢山で人が、川辺に置き忘れた犬の太腿を、拾いあつめて駆けていたことを偶然、あらわれ出た朝にもう忘れているのが犬である。
犬保身
犬は、犬を保つために生きながらにして、身体の外に亡霊をつくってしまう。唾液よりも放埒な身体は、自分がついてきた嘘を蓄積してしまう。嘘の、辻褄が合わなくて悩む夜、ついに自分の歯のすべてが、義歯になっていると気付く。舌で、その歯の内側に触れながら豊かな唾液を、滴らせる夢を見ている。そうして人はすでに、犬の臓器を小分けにしていて特に犬の性器を、質に入れてしまっているので犬は、人に自分を擬人化してもらって、取り戻しに行きたい。だから犬は人に、身体を擦り付け、とっくに流れた質草が、帰って来るの夢想して、遠吠えがやまない。
犬にあたえられた生活
犬に水をのませる、という他人の生活が突然、自分の日常に潜んでいたことがあった。暮らしの行間に、犬の咽があふれた。冗談半分を身体に残して、自らは人の言葉からかけ離れないようにしている。そうしていつの間にか、犬の不在を所有する人々が出来上がっている。この世の至るところに犬の不在がある。
犬の最後
だから犬は、肛門で生きているのを見せていた。尊敬できる人が、少なくなる時間が訪れると、世間体から愛される準備にまごついてしまう。人工的な人々から、今日の犬がつくられて犬は、軽蔑できる存在を探しはじめる。いつも人は、鍵括弧で括り始めたはいいが、綴じる括弧を忘れてしまう無責任のかたちで、生きている、と犬は思っている。犬は人の生活に、背景をあたえているが、人を尊敬している、という嘘をつきすぎると、肛門から地球のにおいがただようのを隠せなくなる。そうして雪ののこり方さえ疑うと、犬から排泄されたイヌが、冬の冷気そのものになりかわり、犬の肛門だけがひらひら空気のいたるところに浮いている。
論考:ネット詩投稿サイトはどのような夢をみてきたか
本稿では、インターネット詩投稿サイトの歴史を整理し、その変遷を論じる。対象とするのは、文学極道、B-REVIEW、Creative Writing Spaceの3サイトである。他にも現代詩フォーラムなど著名なサイトは存在するが、本稿では単なるアクセス数や投稿数の多寡ではなく、場としての理念を明確に打ち出し、ネット詩文化の方向性に影響を与えたサイトに焦点を当てる。上述の3つを論じることで、オンライン詩投稿サイトの歴史を大まかに俯瞰することができるだろう。
まず、筆者自身の立場を明らかにしておく。2017年頃、文学極道において創作活動を開始し、同年、新人賞を受賞した。また、B-REVIEWでは創設メンバーの一人として、ガイドラインの策定を含むサイトのコンセプトや制度設計に関与した。現在はCreative Writing SpaceのFounderとして運営を統括している。
文学極道の最盛期をリアルタイムで経験したわけではないが、オンライン詩投稿サイトの変遷について一定の知見を持っている。本稿は、詩に関心を持つ読者のみならず、小説や戯曲など詩界隈以外の創作に携わる者にも届くことを目指している。ネット詩の興亡を整理し、今後の展望を示すことで、オンライン上の文芸創作に携わる人々の議論の材料となることを願う。
【文学極道──ネット詩投稿サイトの象徴】
文学極道は、2005年に創設された硬派な詩投稿サイトである。私は2017年頃に半年ほど活動したのみで、最盛期をリアルタイムで体験したわけではない。しかし、このサイトがネット詩文化に与えた影響は計り知れず、文学極道の成功こそが、その後のネット詩投稿サイトの方向性を決定づけたと断言できる。
文学極道は、最果タヒ、三角みづ紀といった広く読まれるようになった詩人が投稿していたことでも知られる。特に、初期の投稿作品の質の高さと、コメント欄で交わされた鋭い批評の応酬は特筆に値する。
サイトのトップページには、次のような一節が掲げられていた。
>芸術としての詩を発表する場、文極(ブンゴク)です。
>つまらないポエムを貼りつけて馴れ合うための場ではありません。
>あまりにもレベルが低い作品や荒しまがいの書き込みは削除されることがあります。
>ここは芸術家たらんとする者の修錬の場でありますので、厳しい酷評を受ける場合があります。
>酷評に耐えられない方はご遠慮ください。
この言葉が示す通り、文学極道は単なる創作発表の場ではなく、詩を芸術として追求する者のための修練の場を標榜していた。馴れ合いを排し、批評によって切磋琢磨する文化を築くことが、この場の理念である。文学極道は、インターネットがまだ黎明期から拡大期へと移行する中で誕生し、必然的に2ちゃんねる的な匿名性の高いネット文化の影響を受けていた。その結果、サイト内では低レベルな作品には容赦なく酷評することが許容され、むしろ推奨されるような雰囲気すらあった。罵倒や激しい批評が日常的に行われる場となったのである。
では、文学極道が夢見たものとは何だったのか。
文学極道が目指したのは、詩壇では評価され難い、真に新しい詩文学の創造の場、そして活発な批評の場であった。そのため、実験的な作品が評価され、罵倒を伴う荒れた議論も場の活力と捉えられていた。しかし、この批評文化の攻撃性は、やがて場そのものを揺るがすことになる。
【文学極道からB-REVIEWへ──批評文化の変質と転換】
文学極道における厳しい批評文化は、当初は場の水準を維持するための手段として機能していた。しかし、次第にそれ自体がサイトの荒廃を招く要因となっていく。過度な罵倒が横行し、サイト内の風紀が悪化することで、真剣に詩を議論しようとする者が次々と離れ、罵詈雑言ばかりが横行する傾向が生じた。そして、この状況に対するカウンターとして、2017年にB-REVIEWが創設される。
B-REVIEWは、以下の三つの原則を掲げた。
1. マナーを重視し、まともな議論ができる場をつくること
2. オープンな運営を心がけること
3. 常に新しい取り組みを行い、サイトを進化させること
文学極道が「酷評・罵倒の自由」を強調したのに対し、B-REVIEWは「罵倒の禁止を強調し、投稿者が安心して作品を発表できる環境」を作ることを重視した。一見すると、両者は対極的なサイトポリシーを持つように思える。しかし、本質的にはどちらも「オンラインならではの創作の場とレベルの高い批評の場を作る」ことを目的としており、その方法論が異なるに過ぎなかった。すなわち、似た夢を見ていたのである。
文学極道が2ちゃんねる的な文化の影響を受けていたのに対し、B-REVIEWはソーシャルメディアの時代に適応した開かれた場を志向していた。文学極道が罵倒と酷評による場の引き締めと活性化を狙ったのに対し、B-REVIEWはガイドラインとオープンな運営によって場を整え、活発な批評空間を形成しようとした。この方針のもと、B-REVIEWには文学極道の文化に馴染めなかったネット詩人たちが流入し、活況を呈するようになった。
また、B-REVIEWの運営スタイルは、文学極道とは根本的に異なっていた。文学極道が管理者主導の運営を行い、選評制度によって場の権威性を保っていたのに対し、B-REVIEWはオープンな運営体制を取り、投稿者の主体性を重視した。選評のプロセスにおいても、投稿者と運営者の垣根を超えた対話が行われ、投稿者が主導するリアルイベントの開催等の新たな試みが積極的に導入された。
では、B-REVIEWが夢見たものとは何だったのか。
それは、ハイレベルかつ安心して参加できる詩文学の投稿・批評の場の創造であった。従来のネット詩投稿サイトの問題点を克服し、新たな時代に適応した批評空間を作ることこそが、B-REVIEWの掲げた理想だった。
【文学極道の終焉──自由な批評の場から単なる停滞と崩壊へ】
B-REVIEWの台頭により、文学極道の状況はさらに悪化していった。B-REVIEWのマナーガイドラインに馴染めない投稿者が文学極道に集中し、サイトの荒廃を加速させたのである。かつて、文学極道は「自由な批評の場」であった。しかし、その自由は次第に「無秩序な荒らしの場」へと変質し、本来の機能を果たさなくなっていった。もはや、詩作品への鋭い批評ではなく、ただの罵詈雑言や無意味な言い争いが繰り広げられるだけの場となってしまった。
この状況に対し、運営の方針も迷走を続けた。荒廃を食い止めるために運営の介入が求められる一方、介入を強化すれば「文学極道の自由な批評文化が損なわれる」という批判が巻き起こる。しかし、介入を抑えれば無秩序が進行するという悪循環に陥った。
さらに、運営者自身が文学極道の理念を十分に共有していなかったことも、混乱を深める要因となったと考える。たとえば、終末期の運営者には、もともとB-REVIEWの評者として招聘されていたが、運営内部の諍いを経て文学極道へと移行した者も含まれていた。また、最終期の文学極道では運営主導の朗読イベント/ツイキャス配信が行われるようになったが、和気藹々としたオンライン交流は、「罵倒上等」の文学極道の風土とはそもそも相容れないものであった。
もともと文学極道が持っていた「罵倒を許容してまで議論を重視する場」としてのコンセプトと、後期運営が試みた「サイトの健全化」は、よほど緻密に進めないと両立しない類のものだっただろう。サイトコンセプトにそぐわない志向性を持つ運営者たちが運営方針を弄ったことで運営内外の揉め事が拡大し2020年、文学極道は閉鎖された。かつてネット詩投稿サイトの象徴であった場は、その幕を閉じたのである。
【B-REVIEWの凋落──運営の乗っ取り】
文学極道が終焉を迎えたことで、かつてその場に馴染んでいた投稿者たちがB-REVIEWへと流入した。しかし、これがB-REVIEWに大きな問題を引き起こすことになる。文学極道的な「罵倒・酷評上等」の文化、不規則な放言や誹謗的な発言を含め、マナーガイドラインに縛られず自由に発言できる場を復活させたいと考える者たちと、B-REVIEWの掲げる「マナーを重視した批評空間」を維持したいと考える者たちの間で、次第に齟齬が拡大していったのである。
B-REVIEWは「ガイドラインに合意した人間であれば、手を挙げれば誰でも運営になれる」という極端にオープンな運営体制を採用していた。この方針は理念としては美しかったが、現実には大きな問題を孕んでいた。すなわち、サイトポリシーに共感しない者であっても運営の中核に入り込むことが可能な脆弱な仕組みとなってしまっていたのである。
B-REVIEWは2017年の創設以来、複数の運営者によって引き継がれてきた。そして、B-REVIEWの運営は、文学極道を出自とする第八期運営者らに引き継がれたことによって2023年に大きな転換点を迎えることになる。かつて何度もB-REVIEWから出禁処分を受けていた人物が、運営側に招聘されたのである。この新たな運営体制のもとで、サイトのルールは事実上反故にされることとなった。従来であれば「マナー違反」として取り締まられていた行為が放置されるようになり、むしろ運営自らが批判者を中傷するような状況すら生まれた。これにより、B-REVIEWの運営方針は大きく変質し、従来の批評文化の維持を求めていた投稿者たちとの対立が激化することとなった。
また、サイト内の意思決定の透明性も失われた。それまでオープンな場で行われていた議論はディスコードへと移行し、投稿者全員の目に触れる形での意見交換は意図的に避けられるようになった。これに対し、「もはや本来のB-REVIEWではない」として数十名の投稿者が抗議し、これまでのすべての投稿を削除しサイトを去ることとなった。
現在、B-REVIEWは存続しているものの、創設当初に掲げられた理念はすでに形骸化している。本来の姿を知る者からすれば、屋号とサイトデザインが引き継がれているだけで、もはや別のサイトに見えるほどである。
また、本来のあり方を否定したために、かつて開発を支援したプログラマーや、資金援助を行った者からのサポートも失われており、今後の大きな変革はほぼ不可能な状況にある。ここで、B-REVIEWを乗っ取った者たちの行為を具体的に断罪するつもりはない。
しかし、強調しておくべきなのは、文学極道の最終期と非常によく似た現象が、再びB-REVIEWにおいても発生しているということである。つまり、「サイトの理念に共鳴しない者が運営の座につき、方針を変更することで場が混乱し、迷走し、凋落していく」という構造が、またしても繰り返されたのである。
【文学極道の亡霊にしがみつく人々】
B-REVIEWが創設されて以降、ネット詩壇には文学極道的な「罵倒カルチャー」を復活させたい、適度に荒れた雰囲気の場をつくりたいと考える人々が常に存在していた。そして最終的に、そうした投稿者たちがB-REVIEWを乗っ取る形になった。
本来、罵倒や荒れた議論は、創作に真剣に向き合うための「手段」であった。しかし、それが次第に変質し、「無秩序な放言や支離滅裂な発言、癇癪を起こすこと、誹謗的な発言をすること」すら、詩人としての特質であり、詩に対する純粋な姿勢であるかのように誤認する者たちが現れた。
不思議なことに、サイトを乗っ取った彼らは自分たちが何を目指しているのかについて、殆ど議論も説明もせず、批判には無視か排斥で応えるばかりである。議論すること自体を忌避するような性格の人々が、本来のサイトポリシーを反故にすることだけに妙に固執しているようにも見える。彼らが本当に求めているものは何なのか。
私の見立てでは、彼らが求めていたのは、文学極道というサイトが生み出してしまった「間違った幻想」である。
まともなことがほとんど何もできないような人々、すなわち、一貫性のある態度や振る舞い、社会的な態度、感情のコントロールが一切できないような人たちが、自己正当化の手段として、放言や支離滅裂な発言を許容しているかのように見える文学極道の文化にすがりつくようになったのかもしれない。彼らにとって重要なのは、創造することでも、議論を深めることでも、場を発展させることでもない。ただ、自分を肯定してくれる空気に浸り続けることに他ならない。
もともとは停滞する人々を排除するために存在していたはずの「罵倒文化」が、いつの間にか停滞する人々の拠り所となってしまった。ここまで読んでもらえればわかるように、私は文学極道というサイトが成し遂げた功績についてはリスペクトしている。また、最盛期の文学極道のような場を取り戻したいと思う人々の気持ちもとてもよく理解できる。
しかし、このサイトの残滓のような人々、場を乗っ取り、まともな説明を忌避し続けている人たちは、文学極道を含めて、これまでネット詩サイトが積み重ねてきた活動に対して、実質的に「悪口」を言う機能しか果たしていない。彼らはそんなつもりはないと反発するかもしれないが、しかし結局ところ、なんのつもりで場を変質させたかったのか、明確な説明も主張もない中にあっては、場を壊し、停滞させ、しかしそうした結果に無頓着な様子以外に読み取れるものがない。
【そしてCreative Writing Spaceへ】
B-REVIEWの混乱と凋落を目の当たりにした元運営者たちは、新たな文芸投稿サイトの必要性を痛感し、新しいサイトを立ち上げた。これがCreative Writing Spaceである。これまでのネット詩投稿サイトの歴史を踏まえ、サイトのコンセプトや運営方針を再設計し、新たな創作の場を築こうと試みたのである。
このサイトは、もはや「詩投稿サイト」ですらない。そもそも、詩の枠組みを超えた作品を生み出すことこそが、ネット詩投稿サイトの夢だったのだから、「詩サイト」を名乗る必要もないという急進的な考えに基づいている。また、詩の場である以上、不規則に振る舞って構わないはずだと考える人々が一部に蔓延る中にあっては、特定のジャンルを特権化せず、開かれた場をつくることが詩界隈にとっても利益になると考えた。特に、旧来の詩投稿サイトにまつわる過去の遺物──すなわち文学極道の「罵倒文化」やその残滓──を一切引き継ぎたくないという意識が強かった。
B-REVIEWの最大の問題点は、「オープンな運営体制が仇となり、乗っ取りが容易なシステムとなってしまったこと」にあった。この失敗を踏まえ、Creative Writing Spaceでは、クローズな管理体制を持ちながらも、分散的な自治が可能なシステムを設計することにした。
その一環として、サイト内通貨「スペースコイン」を導入し、単なる作品投稿の場にとどまらず、各ユーザーが自律的に活動できる仕組みを取り入れている。また、各ユーザーが気に入らない相手をブロック・通報できるシステムを整備し、運営が過度に介入せずとも各自が自身の環境を管理できるようにした。
さらに、詩だけでなく小説、幻想文学、戯曲など、多様なジャンルが交差する場を目指し、文学極道やB-REVIEWとは異なる新たな可能性を模索している。名興文庫との提携を通じて、小説界隈との連携を強化し、これまでのネット詩メディアにはなかった展開を示している。
サイトの立ち上げからまだ間もないが、月間の投稿数はB-REVIEWの最盛期と同程度に達しており、順調に成長を続けている。しかし、これはまだ始まりにすぎない。Creative Writing Spaceはどのような夢を見ているのか──それは、かつての文学極道やB-REVIEWが見た夢の続きであり、それらとは異なる、新しい何かでもある。
【言い訳としての結語】
Creative Writing Spaceは、特定のジャンルに依拠しない文芸投稿サイトである。あたらしく進めていくことをテーマに掲げている。したがって、本稿のように、詩投稿サイトの系譜を振り返ること自体が本来の方針にそぐわないかもしれない。
名興文庫との提携を通じて小説界隈とも接点を持つ中で、特にアンチ活動に勤しむ人たちを目にするにつけ、小説の世界にもまた、特定のジャンルに閉ざされることで停滞が生じていることが理解できた。他方で、特定のジャンルに囚われることなく、純粋に創作を研ぎ澄ませたいと考える書き手が一定数存在し、Creative Writing Spaceに参画くださっていることも確かである。
特定のジャンルに閉じないことは、詩に限らず、創作全般において重要な課題なのではないか。内輪の論争に拘泥するのではなく、異なる背景を持つ書き手たちが交わり、互いに刺激を受けるような場を築くことこそが、今後の文芸創作の発展にとって必要なのではないか。Creative Writing Spaceは、まさにそのような場を目指しており、現状にとどまるつもりがないからこそ、この論考を投稿している。
帰路
ぺたぺた鳴る靴、
揺れるビニール袋。
右肩にリュック、
左手のホッカイロ。
ポケットのキーケース、
真っ赤に晴れた耳、
変わらない景色。
あの帰路を覚えている。
コンビニ行こうか
「さあ 今日はコンビニ行こうか」
そんなことを言ってくれたあなたはもういないけれど
コンビニ行こうか
あなたがよく買ってくれたブルーベリーヨーグルト
ひとり かごにぽとん
ポテトチップスで思い出す命日
スルメイカはマヨネーズにつけるのがあなた流
ゲームをしながらあなたが差し出すそれを
私はもぐもぐと頬張った
いつも一人先を歩いていた背中
誰が風邪をひいても構うことはなかったのに
いつも真面目に働いて
コンビニだけは連れてってくれたね
いつしか追い詰められていたあなた
綺麗な雨の日に知った永遠の別れ
時がたち私も大人になりました
「さあ 今日もコンビニ行こうか」
ナマケモノ
本当はね
ナマケモノは怠け者ではないんだよ
一生懸命、木に掴まっているんだ
木の葉を摘んだり虫を捕まえたりして、ちゃんと自分でごはんも食べられる
トイレにだってちゃんと行ける
だからナマケモノは毎日、頑張り屋さん
若い人
人の仕組みは単純だと考えたいな
生きるプロセスはとてもつまらない
食べるのもつまらないし、排泄もつまらない
それから
眠って黄色い夢を見るのが好きなヤツっているか?
愛も恋もつまらない
大事なのはニュアンスだよって言いながら
何で愛や恋はロマンチックなんだろう
そんなわけないじゃん
細かいことを言うな
わたしを解釈するな
わたしを天体にたとえたり
変なケモノにたとえたり
よくわからない植物にたとえたり
言葉にしたりしてはいけない
気に食わない
ここで待っていると学校へ行くための電車が
のこのこやってくるのが
気に食わない
学校さぼってもさぼった自分が残るのが
気に食わない
おい、おまえ、わたしが見ることも触ることもないメロンを
おまえの机の上で育ててみろよ
大きくなるまで育てて
それでどうなったかなんて
絶対、わたしに言うなよな
恋の実
二月十四日。
机の中に置かれた恋の実。
中に誰にも知られたくない想いがあり、丁寧な包装に包まれている。
それを発見した青年。
持ち上げてそれを見る涼しい顔。
立ち上がり、近くにいた一人の女子の肩を叩く。
会話する二人。
くれたのか、と尋ねる青年。
女子はポニーテールを揺らして首を振る。
困惑する二人。
誰から、と尋ねる女子。
青年は首を傾げて、恋の実を近くの棚に置き去りにする。
距離が近い二人。
やがて触れ合う手。
それはそれは、品種改良のされてない“いちご”のよう。
並び歩く二人。
それを見ていた私。
置き去りの恋の実は独りで回収した。
何も楽しくない
僕は詩を捨てた。
高校生の時から書き続けてきた詩を切り捨てた。
35歳になった今、遅すぎる決断と言えるだろう。
詩が僕の全てであると錯覚した。
それはなぜか? それ以外に何もなかったから。
何もなかった。
詩を書くことで、僕は何かを成し遂げているような気がしていたし
そして評価してくれる人もいるから、何かを成し遂げたような気分の後押しをしてくれる。
YESもNOも、僕の詩から生まれたものだと思うと、どんなに些細な反響であっても、
僕に繋がっているという感覚が孤独感を紛らわせてくれた。
何者でもない自分を直視するのが怖くてたまらなかった。
ただ単なる現実逃避と知りながらも、表現者になったような高揚感に突き動かされてきた。
ネット詩人。こんなにダサい言葉があっただろうか。
いやいや、ちゃんと受け入れよう。ネット詩人、すっごくダサい存在だからね。
たまに凄まじい作品が投稿されたりするけども、実のところ僕は否定的な心情を隠し持っている。
田中宏輔さんとか、誰でもいいけど凄い作品を書かれる方が、誰でも容易くアクセスできる掲示板に投稿すんなよって僕は思う。
だって、そういう凄まじい作品はキラキラと輝いている宝石のようなもので、
寝転がりながら見つけるようなものじゃないんだよ、本来は。
苦労して苦労して、やっと見つけたものであるべきじゃん、というのは僕の勝手な思いだけどさ。
こんな簡単に0円で読めちゃうと、もったいないなーと思う。
凄い作品は、掲示板に投稿しちゃだめだよ。
あーこの作品、掲示板じゃなくて、どっかの本で偶然見つけたかったなと思う。
何だか話がコロコロ変わるようだけども。
ああ、そうだ。僕は詩を捨てたんだ。
正確に言えば、ネット詩を捨てたんだけどね。
じゃあ詩誌に応募でもするのかって言うと、全然やらないよ。
ああいうのはもっと歳を取ってからでいいと思うし、応募しなくても後悔しないからね。
何で僕はアホみたいに齷齪と詩を書き続けたのだろう。
友達がいなかったわけじゃない。彼女だって途切れたことはない。
詩の魔力に取り憑かれたんだろうな。
詩を書き続けて、書き続けて、後悔しないのだろうか。
何のために詩を書いてきたのだろう。
創作に集中している間、周囲の人に寂しい思いをさせてまで、
タバコを吸うように書き続けてきたのはなぜだろうか。
詩人だから? 詩人なんて言葉、煙のように覚束ないじゃないか。
そもそも詩人を本気で目指しているなら、詩誌に出すべきじゃないか。
一度でも真面目に詩誌を読んでみて、その詩誌のレベルの高さを直視するべきで、
それはつまり、ネット文芸投稿掲示板のレベルの低さも同時に直視するってこと。
自分がなんでネット文芸投稿掲示板に身を浸しているか?
同レベルだからだよ。落ち着くんだろう、そこが。
レベルの高い人は、きちんと自分のレベルに合った場所を選ぶものだよ。
便所の落書きの美しさ云々を語る前に、掃除しろよってな。
とりとめがなくなってしまったな。いつもこんな感じだ。
赤い鍋のお話
壊れたあなたに壊れたキッチンの
焦げがこびりついて取れない赤い鍋をあげる
労働を軽蔑する者は労働に復讐されろ
では生肉のような情愛を軽蔑する者は
果たして情愛に復讐されるべきか
赤い鍋は言葉を話すことができる
私は人々の森の穴だから
棄てられた秘密で常に窒息しているのです
と年齢のわりに幼い声でぼそぼそ話している
この気の毒な小鍋をあなたはきっと
見る影なくぼこぼこにするだろう 彼と同じ
鍋はときどき思い出す
抱きしめてほしいときにかぎって
死ねと叫ぶ子や 夜と朝との曖昧な線引きや
お腹空かせた老人の舌や あの唾液の苦さを
いつも吐き出すための料理を作っていた女や
場違いな漂白剤 他人どうしの恨み言 嘘偽り
その一方で赤い鍋自身はいっさいの
自分のための秘密を許されなかったことを
そういう時間たいていは薄暗くて雨の日だ
たくさん雨が降ると
この家の人々は訛り交じりに山の心配をする
夜明けの辺りで
夜明けの辺りで
ニワトリが鳴いている
静かだ、夜が岩の陰に戻っていく
蜥蜴のようにするすると、その音を
聴いている、夢。
朝、とともに夢も岩の陰に
滑り込むとしたら昨日の、十年前の
夢も岩や石を捲ればそこにいるのか
夜、を告げるサヨナキドリの真似をする
随分と真似が上手くなったもんだ、と
夢たちが這い出してから苦い顔をしている
それだけ時間が過ぎてしまったんだよ
僕は僕の夢たちと顔を見合わせた
春風
青々した木々が風に揺れ
生暖かい風が頬を撫でる
春風は夏を呼び起こし
気持ちの良い夏が目を覚ます
持っていた飴玉は
春風にさらされ
夏の陽気と共に
ゆったりと溶けていく
階段を上って
深呼吸をする
春風が私の胸の内を通る
あまりに急だったもんで
私はむせてしまった
反省したような面影で
春風は過ぎ去っていく
何と声をかけていれば
あの子はあんな顔しなくて済んだのか
私はそっと跡を追った
君の生暖かい残り香
青々した木々は
日に日に夕陽に染まってく
春風は今でもそばにいる
君の生暖かいような冷たいような
冷たいような生暖かいような
そんな風は
今でも吹いている
当たり前
指先がそっと触れる
貴女の顔をなぞる
絹のように滑らかな肌
いつ燃えてしまうか分からぬ体躯
その魂がそばにいて
あたかも当たり前になっているが
それは当たり前ではないのだ
貴女と体を重ねるたび
貴女の温かさに気付く
貴女の輪郭をはっきりと思い出す
そこでしか感じることのできない
当たり前ではない感覚
これを忘れてしまったら
そんなことを考えるたび
私は恐怖を覚える
いつしかいなくなってしまうのではないか
いきなり消えてしまうのではないか
いつか「記憶」から
貴女の体温
それに輪郭
そして存在すら消えてしまうのではないか
いつしか消えるとも知らぬ貴女を
私は見つめていたいのです
当たり前が日常になった現代で
私は貴女を見つめています
きれいごと
わたしの言葉は、よくきれいごとだと笑われちゃう
確かに、「きれいごと」と片付けてしまわれればそれまでだけどね
現実を見よう、なんてよく言われる
わたしの見ている現実は、あなたにも同じに映っているかな?
「きれいごと」
もし、そのきれいごとが本当になったなら、それは素敵なことだと、わたしは思うなぁ
フラワープリント
命のさびしさを
分かちあえる男の人の足元で
小さく死んでしまいたい
おまえは人間なんかじゃない
一人前の牝犬だよ
って言ってくれる
泥のような目をした魔術師
彼は私の口のまわりを拭きながら
父親ぶって笑う人だろう
その人間らしい浅はかさを前にしたら
奴隷の女王になれるだろう
花の模様の服を着て
下にはなにもつけないで
捨て子
カフェに入ると
コーヒーを飲みます
それから喫煙所で
煙草を吸いました
夕暮れが窓に映って
私の顔も映りました
帰り道に捨て子がいて
拾って帰りました
家に帰ると
私の乳でミルクをあげました
私はこの子を離しません
ずんずん運動
ずんずん運動
首がタラーンとして
赤ん坊の顔は真っ青になりました
やかましい静寂
僕が、この島を離れないのは
静かなところが怖いから。
初めて、島を離れた日。見知らぬ土地、見知らぬ人
ほんの少し匂いが違う空を見上げて
「静かな場所」だと思った
轟音で鳴り響くヘリは、上空を通らない
行き交う人たちは、無言で足早に横切る
たくさん人がいるはずなのに、そこには誰もいないかのような
僕を包むあたたかな陽の光とは裏腹に
雑踏の音が、しんとしていた
そして、島へ戻ると、途端にやかましく感じ始めた
人々のざわめきが
木々の声が
波の音が
ヘリが
あの、静かな土地に帰りたい、恋しいと思い始めた
だが、僕は、静かな土地の住民じゃあない
いくら希ったって、叶うものもかなわない
幾分か月日が経つと、次第に怖くなってきた
もう一度、島を離れると、今度こそ戻れないと
宙ぶらりんのまま
いったきり
恋しくて、苦しくて、悔しくて
どうしようもない気持ちのまま、刺すような日差しを浴びる
この島は、おせっかい焼きの塊だ
静かなところは僕の心の中だけ
そう言い聞かせて
耳鳴りみたいな潮騒を抱え込む
朝になれば
商店のシャッターは乱暴に開き
名前を呼ぶ声が
遠慮もなく背中を叩く
逃げ場のない親しさ
ほどけない網みたいな視線
優しさはときどき
棘を隠したまま差し出される
それでも夜になると
島は急に、深海のように沈む
遠くで回るヘリの灯り
規則正しく瞬く赤が
星のふりをして
僕の未練を数えている
あの土地の静けさは
僕を透明にした
ここでは
僕は名前を持ちすぎている
呼ばれるたびに
僕は僕に固定される
けれど
もし本当に
どこにも属さない静寂の中へ
溶けてしまえたら
僕は
僕を保てるのだろうか
うるささのなかでしか
形を持てない心がある
波が砕けるたび
くらげたちの夢
クラムボンが、ぷかぷか、浮かんでいるよ
明日学校行きたくない
今日、出勤ギリギリだ
ごうごうと風を鳴らしながらやってくる鉄の塊に、行進をするように足を揃えて乗る私たち
鉄の箱は、水槽のようで
それぞれの魂は、ぷかぷかと泳いでいる
ぶつからず、それでも気ままに
この鉄の塊が体にぶつかる夢を一度は見る
そして、はっとする
気づけば、また、水槽の中
ナイルレストラン物語
銀座のナイルレストランには、かつてラジャンさんという大番頭がいた。今もいらっしゃると思うが、全盛期の彼は、店の中を睥睨するように奥にどっかと構え、それでいて人当たりは恐ろしく良かった。 満面の笑みで
「ムルギーでよろしゅうございますね」
と、メニューも出さずにオーダーを取ってしまう。客のほとんどがムルギーランチを頼むのは、それが名物だからじゃない。あのラジャンさんのスタイルに気圧され、絡め取られてしまうからだった。
名物のムルギーランチは、鶏モモの乗ったカレーで、ゆでたキャベツとマッシュポテトがそえられている。
「マジェてね!」
ラジャンさんは、混ぜて食べろと力説する。どんなお嬢様も、ラジャンさんに気圧されて、カレーを行儀悪く、ぐちゃぐちゃに混ぜるのだった。
自分はまだ、仕事を始めたばかりの駆け出しだった。先輩に靴を投げられながら、基本を叩き込まれていた。 36時間ぶっ通しで働いて、朝の10時ごろ、ふらふらになりながら晴海通りを抜けて銀座に出る。
あの頃の歌舞伎座は、まだ高層ビルと一体になる前の、重厚で古めかしい佇まいだった。幕見席も当日発売で、気が向けば小さなカウンターで券を買い、ふらりと入ることもできた。
「もう、お上がりいただけますよ」
劇場の、黒いスーツの係員は、下手したら牛丼一杯の価格の切符しかもっていない客にも、恭しかった。
幕見席用の専用の入口は、本当に狭かった。
けれど、勤務明けの日が土日なら、歌舞伎座よりも迷わず銀座の場外馬券売り場へ向かった。 1レースが始まるのはだいたい10時。 お目当ては、4レースの障害レースだ。
障害レースというのは、せいぜい競馬場を1周する普通のレースとは違い、2周近くを、竹の柵や池を飛び越えながら、えっちらおっちら回ってくる競技なのだ。 そこにはスピードもないし、華やかなスターホースもいない。騎手だって、テレビを賑わすような有名どころはまず出てこない。
馬に乗ったことのある人ならわかるはずだ。障害の騎手は、格別に格好いい。 拍車を使う古いスタイルの田中騎手(今は調教師になった)、鞭を風車のように回す嘉堂騎手、そして何も考えず突っ込んでいき、たまに勝つ野武士のような出津騎手。 歌舞伎でいうなら、名門の家に生まれた血筋のいい役者ではなく、養成所あがりのいぶし銀――そんな役者ばかりが集まっているのが、障害の世界なんだ。
競馬の専門紙ですら、障害をまともに予想できる記者はそうはいない。彼らは馬をタイムや血統でしか見ないからだ。 だが、競馬場を2周も回りながら飛び跳ねるレースは、力任せに走ったところですぐにバテてしまう。 大事なのは「息を入れる」のを覚えることだ。
水泳を思い出してほしい。 息継ぎができるようになって初めて、5メートル、10メートルという限界を超え、25メートル、50メートルを泳げるようになった、あの感覚だ。
思えば、あの時の自分は、息継ぎなんかできていなかった。 先輩は何も教えないまま、自分に靴を投げる。仕事をすべて自分に押し付けて、先に仮眠へと消えるのだ。 仮眠の前に、先輩はコンビニで買ってきた新刊のコミックを、ゴミ箱へダンクシュートを決めるようにぶち込む。落ち武者のような髪がその瞬間揺れて、不養生で青白い肌があらわになった。
けれど、先輩はどんな時でも冷静だったし、判断がブレることはなかった。
「お前は、なぜそう見立てた? 状況の変化と手がかりから、根拠を述べろ」
不機嫌な一言を投げ、コミックを投げ、靴を投げる。家に帰ってからも、ただ記録を見返し、手を動かして、どうやったら上手く運べるのか。それだけを考えていた。今思うと、真面目すぎたね。
そうそう、障害レースの話だ。 馬は、障害を走るようになっても、すぐには上手く息をつけない。 けれど、何回か走るうちに、馬は覚えるのだ。息継ぎを。 そうなると、がぜん走りは変わる。
そのタイミングをどう掴むか。 それは、数字しか見ていない人間には一生わからない。 調教の様子、騎手や厩舎のコメント、そして当日のパドック。そうした断片から、馬が上手に息継ぎができるようになった「瞬間」を読み取る。 それが分かれば、障害レースは面白いほど勝てる。 「なんでこんな馬が来るんだ」と周囲が首を傾げるような8番人気の馬を、頭に据えて馬券を買うことができるようになるのだ。
晴海通りの奥、マロニエ通りにある銀座場外(ウインズ銀座)は、どこか洒落た建物だった。鉄骨の錆が浮いたような立川や錦糸町の場外とは大違いだ。
自分が好きだったのは、地下のミニシアターのようになっている一角だ。 競馬場に行ったことのある人ならわかるだろう。皆が新聞やレーシングプログラムを置いて、当たり前のように席を取るのが競馬場の日常だ。場外売り場なら、マナーはもっと悪い。
けれど、銀座場外の地下にあるその場所には、新聞で席取りをする人間はいなかった。
ここはみんなの席だから、という暗黙の了解があり、レースを見終われば、スッと席を立つ。そして馬券を買いに行き、戻ってきては空いた席に座る。 たまに、競馬場のように3席も4席も新聞を放り投げて占領する奴がいれば、飄々としたおじいさんが
「ここはみんなの席だからね」
と笑って、新聞をどけてしまう。その実力行使は、実に見事なものだった。
「次は、どこだい」
「福島だよ、開幕週だ、内側がのびるぞ」
わいわいと、みな競馬に興じる。東西の場に加えて、ローカル場というのがあって、レースは10分刻み。けっこう忙しい。
「次は、障害か!」
「これはむずかしいな。いったって、逃げ切れんだろう」
「福島は小回りだ、先にいったほうが勝つよ」
「福島のバンケットは難しいぞお」
その一角で、自分はいろいろな人と仲良くなった。 銀座といっても、いかにもな金持ちはそう多くない。蒲田の工場の隠居さんや、近所に務める板前さん。そんな人たちが多かった。 自分はいつしか「障害の兄ちゃん」と呼ばれるようになり、時折予想を聞かれるくらいにはなっていた。 実際、あの頃の自分は、面白いほど障害レースを当てることができたんだ。
障害レースを当てて懐に余裕ができると、マロニエ通りの銀座場外を出て、晴海通りのほうへ向かう。 二階建ての、少しボロっちいナイルレストラン。隣には同じくレトロな「レストラン早川」がある。
(ここのポークソテーは本当にうまい。肉汁にバターをモンテしたソースが、もうたまらないのだ)
そして自分は、当時の海老蔵(今の團十郎か)よりもずっと強い目ヂカラで
「ムルギーでよろしゅうございますね」
と慇懃に微笑むラジャンさんに告げる。
「いや、マトンカレーとアチャール。あと、マサラチャイをください」
このオーダーが通ったとき、自分は初めて「大人になれた」気がした。 職場に戻れば、先輩は相変わらず新刊コミックをゴミ箱にダンクシュートして、自分に靴を投げたけれど。
クローブのがっつりきいたマトンカレー、乳酸発酵して、ザワークラウトのような酸味のアチャール、そして、スパイスのきいたマサラチャイ。
大人の世界のなんと素晴らしかったこと!
今、自分はナイルで好き勝手にオーダーを通せるようになった。 七之助が大好きなチキンマサラだって、激辛の海老カレー(海老蔵は関係ない)だって。何なら銀座の紳士のように、カレーの前にラサム(トマト味のスープ)を頼んで、ゆったりと食事を始めることだってできる。
ファンの目をさけて右近さんがカレーを食べてまったりしている二階に通してくれる。そこで、食後のマサラチャイに、スプーン3杯、砂糖をいれて、ギーの浮いたチャイをゆっくり飲む。歌舞伎座の夜の部、16時はまだまだ先だ。
ラジャンさんは言う。
「この前、ご飯を残されたそうですね。なにかありましたか?」
これは味に問題があったのかを気にしているのではなく、こちらの体調を気遣ってくれているのだ。
自分はもう、先輩に靴を投げられることもない。 。自分の見極めで動き、自分の手で事を進める。
それは、あの地下のミニシアターと、ナイルレストラン。 あの頃の銀座が、自分に「息継ぎ」を教えてくれたからだと思っている。
だから、自分は東京の中で銀座が一番好きなんだ。
心づもり
ランディングの
そぶりを見せずに
交差を繰り返す綿雪は
オブラートに包まれた
光より
生まれる
それぞれの
ダイバート
デザイナー
北田町か尾張町だったか
あるいは その斜め上だったか
昭和から建っているような建物の
中二階の奥へデザイナーを訪ねた
壁のむこうの雲を見ている
デザイナーの前 テーブルへ
紺の糸で束ねた藁半紙の冊子
詩の十数篇を置く
「詩集をデザインしてください」
デザイナーは右手を冊子に置き
しばらく喉を上下に揺らし
「わかりました」
もらった名刺のうらの言葉は
▽デザインはありたいかたち
▽ではなく あるべきかたちへ
キャベツを切りながら半年は過ぎ
ふたたび記憶をたどり
中二階の奥を訪れる
デザイナーはやはり
壁のむこうの雲を見ている
テーブルの上は 無
「詩集はどうなりましたか」
デザイナーの右手は裏返り
てのひらは空気の重さを示した
デザイン料五万円の封筒を置いて
帰途 春風に含まれる色の数は
いまの自分には多すぎた
明日もきっとキャベツを切る
忘れん坊のサンタさん
僕はサンタのアシスタントのトナカイ。
今はサンタさんがとあるゲームの名前を忘れてしまったらしいので思い出している最中だ。
「う〜ん、それならたぬき王国2じゃないですか?」
「それじゃ」
サンタさんが思い出す。
「でもなんでそんな事を急に聞いてきたのですか?」
「はて、なんでじゃったかのう」
最近はずっとこんな感じだ。
でもなんとなく見当はつく。
「もしかして、クリスマスプレゼントのお手紙に正式な名前が無かったからですか?正式名称が無いとプレゼント工場で作り出せないですもんね?」
「そういえばそうじゃったのう」
「もう〜、しっかりしてくださいよ!」
「ほっほっほ。すまないのう」
サンタさんは呑気だ。
そこで僕は重大なことを思い出す。
「ところでサンタさん。ちゃんと子供達の見守りはしてましたか?」
「もちろんしておったぞい。なにしろ普段は暇だからのう」
「流石です」
ここで「はて、なんのことじゃ?」なんて言われなくてよかった。
「じゃあ今年はどれくらいの子がプレゼント貰えるんですか?」
「……はて、どの子が良い子じゃったか」
なぜ……?
なぜそうなる。
どうしてそうなった。
一度サンタさんに期待した僕が馬鹿みたいじゃないか。
「覚えてないんですか!?」
「ふむ……覚えてるはずだったんだけどのう」
サンタさんがぶつぶつと言い訳をする。
これは覚えてる“つもり”ってやつですか。
一番良くないやつだ。
「サンタさんどうするんですか?もう12月23日ですよ!」
サンタさんが悩んだ末に、何かを思いついたみたいだ。
あ、これはまずい予感。
「う〜む。それをなんとかしてくれないかのう?」
予感的中!
「またですか?」
サンタさんが、いや〜、だって〜、とおねだりしてくる。
「トナカイちゃんはしっかり者だし〜、いつも頼れるから〜、解決してくれないかなぁって?」
毎度毎度かわいくおねだりされる。
そしてなんだかんだで僕が解決しにいく。
いつもの流れだ。
「わかりましたよ……。僕がなんとかします。クリスマスに間に合わせれば良いんですよね?」
僕が渋々そう言うと、サンタさんが目を輝かせる。
「ありがとう!もちろんそれで良いぞ!いや〜、やっぱりトナカイちゃんは頼れるな〜」
そうやって僕を褒めてくれる。
褒めてくれるのは悪くない。
「それで、どうしましょうか。解決するって言っても、方法が思いつきませんよ」
「そうじゃのう……」
二人で悩む。
子供達の行いが分かる物。
そんなものがあるのか?
……あ、ここには全知全能の神様、「ゼウス」様がいるんだった。
ゼウス様に聞けばいいだろう。
「サンタさん。ゼウス様に聞くのはどうですか?きっと子供達のことも知っていますよ」
「なるほど。たしかにあのゼウスなら知っているじゃろう」
なんとかなりそうだ。
「よし、トナカイよ。全知全能の神─ゼウスに会って子供達の行動を教えてもらってくるのだ!」
「ハハー!」
そんなこんなで、僕はゼウス様のもとへ行くことになった。
ゼウス様が住んでいる「オリンポス」までは、数時間ほど飛んだところにある。
クリスマスの前に飛ぶことになるとは思ってもいなかった。
もう、サンタさんしっかりしてくださいよ。
そんなことを思いつつ、僕はオリンポスに着いた。
初めて行く場所だったけど、なんとか着いたのでひとまず安心する。
オリンポスには、地球にある白を基調とした宮殿のようなものがあった。
多分そこにゼウス様含め、オリンポス12神が住んでいる。
僕がそこに着くや否や、12神の1柱──ヘルメス様が向かい入れてくれた。
「あら、トナカイさんこんにちわ。こんなところに来ちゃってどうしたの?迷っちゃったのかな?」
そして僕の頭をわしゃわしゃする。
そんな、ペットじゃないんだから。
一応でも神の使いなんだけどな。
「あ、あの──」
「迷っちゃったのか〜。じゃあサンタさんのところまで送ってあげようか?」
僕がまだ何も言ってないのに、勝手に話が進む。
そしてサンタさんのところへ帰らされそうになっている。
「いや、そういうわけではなくてですね、──」
「うん?きっとサンタさんが悲しんでるよ?早く帰らないといけないんじゃないの?」
「あ、あの今日は、ゼウス様に用事があって……」
「んー?でも今はゼウスいないよ?」
え、なんだと?
それは困るな。
「そうなんですか?」
「うん。そうだよ?」
「じゃあ、いつならいますか?出来れば今日中に会いたいんですけど……」
「ゼウスならいるよ」
その声の主は、同じく12神の1柱──アポロン様だ。
「まったく。私がサンタの使いが来るという予言を伝えて喜んだと思ったら、こんなことをしてたんだね?」
「んー?こんなことってどんなこと?」
「トナカイに嘘をついたことだよ」
あれ嘘だったのか!
僕は驚いてヘルメス様の方を見る。
「アハハッ!ごめんねートナカイちゃん!」
また僕の頭をわしゃわしゃしてくる。
いやだからペットじゃないんだよ。
「もう、ヘルメスは先に宮殿に戻ってなよ」
「う〜ん、そうするね〜。トナカイちゃんなんも持ってきてないし。あ〜あ、せっかくなんか盗れると思ったのにな」
そんなことしようとしてたのか。
「また盗ろうとして……」
アポロン様が嘆く。
ヘルメス様は宮殿の中に入っていった。
「ごめんね〜、ヘルメスってやんちゃなやつだから許してやって?」
「あ、いえそんなに気にしてませんから大丈夫ですよ」
正直結構面倒なやつだなとは思ったけどね。
言わないのがお約束。
あくまでも、僕は神の使いでヘルメス様は神なのだ。
「ありがとね。あ、それでゼウスのことだけど今案内するよ。着いてきて」
「ありがとうございます」
アポロン様は信用できそうだ。
宮殿の中は、外見と同じく白を基調とした建物だった。
でも外から見た時より建物が広い気がする。
まあ大体の建物がそうだから、特に驚くことでもないけどね。
アポロン様に連れられて宮殿の中を進む。
「この部屋にゼウスがいるよ」
「わかりました」
アポロン様がその部屋のドアをノックして、開ける。
「父さん、サンタの使いが来たよ!」
「お、やっと来たか。サンタの調子が悪いみたいだって聞いたぞ?その理由を聞きに来たのか?」
ゼウス様がソファに横になりながらそう話す。
「知ってるんですか?」
僕は思わず食い気味に言う。
「もちろんだ。とりあえず中に入るといい」
「し、失礼します」
僕がその部屋に入る。
すると、アポロン様は静かに扉を閉めて帰ってしまう。
信頼できそうだったからいてほしかったんだけどなぁ。
僕はゼウス様の前まで言って座る。
すると、ゼウス様が近づいてきて、僕の頭をわしゃわしゃしてくる。
どいつもこいつも、僕のことをペットだと思っていやがる。
「そんなに固くならないで、リラックスして〜」
「あ、あの僕ペットじゃないので、その、──」
「ん?私にとってはペットのようなものだぞ?」
「い、いや、僕一応でも神の使いなんです〜!や、やめてください!」
「も〜う。せっかく可愛いのにな〜」
なぜか不服そうだ。
あぁ、こう言うときにアポロン様がいれば……
ゼウス様が思い出したかのように話し始める。
「あぁ、それでトナカイちゃんは理由を聞きに来たのだったね」
来た理由がいつのまにか変わってしまっているな。
といっても、そういえばまだ誰にも言ってなかった気がする。
「あ、それもそうなんですけど、地球の子供達の行動がどうだったかも聞きたいんです……」
僕がそう言うと、ゼウス様は手を顎に当て考える。
「ふむ。そういうことなら、まず先にそちらに答えよう」
「ありがとうございます!」
ゼウス様が堂々としながら僕に告げる。
「まず、結論から言うが、私はそれを覚えてない!」
「え」
な、なんだって〜!?
あの、全知全能の神が、ゼウス様が、知らないなんてことあっていいのか!?
「そんなことあります?失礼ですが、嘘ついてますよね?」
ゼウス様はずっと堂々としている。
「まあまあ、そう慌てるでない。いくら私が全知全能だからといって、それを覚えてるわけではない。ましてや、地球にいる全ての子供の直近一年の行動、となると、覚えるのも大変なのだ」
まあたしかに全知全能なだけで、覚えてるかどうかはまた別なのだろう。
知ろうと思えば知れる、みたいな感じ?
「そう言われたらそうですけど、でもなんか、ほんとは知ってるとかないんですか?」
「ない」
「ない?」
「ない」
キッパリ言われてしまった。
「そもそも、何が悪で何が善なのかすら私にはわからないのだ。誰が良い子か悪い子かなど私にはどうでもよいからな」
全知全能の神といえど、人の善悪はわからなのか。
意外だけど、よく考えてみれば不思議ではない。
「それもそうでしたね」
僕は落ち込んで下を向く。
すると、ゼウス様がこう言ってきた。
「だがしかし、知る方法はある」
「ほんとですか!」
僕の頭が自然と上がる。
「ほんとだ。それに、それを使えば善い悪いも書いてあるから私に聞くより良いだろう。ふふ、私も馬鹿ではないのだ」
「流石です!それでどうすれば良いんですか?」
僕は次の言葉に期待する。
「うむ。ズバリ、閻魔大王の閻魔帳を見ることだ!」
「なるほど!」
言われて今思い出した。
ほんとにすっかり忘れてたなぁ。
閻魔大王様が持つ、閻魔帳。
それは、閻魔大王様が、死者の生前に行った善悪を書き記しておく帳面だ。
「事情を説明すればあの大王でも貸してくれるだろう」
「わかりました」
場所も聞きたいと思っていたらゼウス様が話してくれた。
流石は全知全能の神。
その名は伊達じゃない。
僕の心の中もわかるってことかな?
「ここから閻魔大王がいる“夜摩天”までは、サンタのところからここまでの倍くらいの距離がある。時間がないといっても体力的に厳しいだろう。少し休みながら行くといい」
「ご心配いただきありがとうございます。ですが大丈夫ですよ。僕は毎年地球を一周しますから、体力には自信があります」
僕が少し自慢げに言う。
「そういえばそうだったな。ただのトナカイだと思っていたわ」
「ちょっと……」
「まあまあ、悪気はない。では時間もないのだし、行ってくるがいい」
僕の頭をわしゃわしゃしながら言う。
「だから、それやめてくださいよ」
「いや〜、でもかわいいじゃ〜ん?」
そう言ってくるところがサンタさんに似ている。
「やめてくださいよ、僕はペットじゃないんです!」
「そうか〜。じゃあ早く行くといい」
「わかりました。……ってちがああう!」
あやうく聞きそびれるところだった。
「サンタさんの調子が悪い理由も聞きたいんです」
「ああ、すっかり忘れてたわ」
ゼウス様がハッハッハと豪快に笑う。
もしかしてゼウス様も調子悪いのかな。
僕がそんなことを思ってる間に、ゼウス様が咳払いをした。
そしてゼウス様は僕に告げる。
「……では、サンタの調子が悪い理由だな?それは──」
無言でゼウス様を見つめる。
「疲れているのだ!」
「……え?」
思わず聞き返してしまった。
「サンタは地球の子供の見守りなどで常に働いている。それがサンタが生まれてからずっと続いてるから、えっと〜人間界の単位では1750年くらいかな?だから、それで疲れちゃったんだよ」
ゼウス様が、「いわゆる、脳疲労ってやつだ」と付け足してくれる。
「そ、そうなんですか?サンタさんも疲れるんですね」
「まあ、普段からあれだけ忙しそうにしてたらちょっとは疲れるだろう」
たしかにクリスマス以外の日にも見守りをしている。
サンタさんは暇だから、と言っていたが周りからみれば忙しそうに見えるのか。
「う〜ん、そうですか。じゃ、じゃあサンタさんには休んでもらえれば元気になるってことですね?」
「その通りだ」
「なるほど。今度そうしてみます」
「うむ。そうすると良い」
ゼウス様が笑顔で言う。
「さあ、話も終わったことだし、トナカイちゃんは行くといい」
またまた僕の頭をわしゃわしゃしてくる。
「だから、ぼくはペットじゃないんですって。……ってまあ、教えてくれたお礼ですよ?」
「お、トナカイちゃん優しいなぁ。……ア──」
ゼウス様の顔がどんどん青ざめていく。
何かと思ったが、後ろで部屋の扉が開いていることに気づいた。
そしてその扉の近くにいるのは、オリンポス12神の1柱であり、ゼウス様の奥さん──ヘラ様で、立ってこちらを睨んでいた。
この場から早く立ち去らないとマズイ。
「……あ、ありがとうございました。それでは、失礼しますね」
すると、
「あらトナカイちゃん、うちのゼウスがお世話になったみたいね。迷惑かけてなかった?」
と、ヘラ様が笑顔で話しかけてくる。
これはマズイ。
「い、いえ。全然そんなことないですよ。むしろ、丁寧な対応をしてもらえて、僕の方がお世話になりました」
「あ、ほんとに〜?それはよかったわ〜。……何やら急いでいるみたいだから、立ち話もほどほどにしましょうかね」
「す、すみません。それでは失礼します」
僕は、足早にこの宮殿を出た。
ふう。なんとかなったかな。
宮殿を振り返る。
「閻魔大王様に会いに行くなら、これを渡しておきますね」
後ろから声をかけられる。
「わっ」
後ろから話しかけてきたのはポセイドン様だ。
「急に話しかけてごめんなさいね。ただ、これを渡しておいた方がいいかと思いましたので、呼び止めました」
そう言われ、何かの紋章が書かれた紙みたいなのを渡してくれた。
いや、渡すと言うよりは僕の首輪に取り付けてくれた。
「それを馬頭に見せればすぐ通してくれますよ」
「あ、ご親切にありがとうございます」
「いえいえ、それでは私はこれで」
そう言ってポセイドン様は宮殿の方へ戻っていった。
一瞬の出来事だった。
そして静寂が訪れる。
な、なんかつけてもらったけど、これでよかったのかな。
まあ、いいや。
そう思って僕は歩き出す。
……そういえば結局、12神の全員に会うことはなかったな。
だけど中は賑やかだったからきっと他の方たちも元気にやっているのだろう。
なんとも賑やかだったからこそ、外の静けさが際立つ。
ってそんなことを思ってる場合じゃない。
次は閻魔大王様のところだ。
急げ!
そんなこんなで僕は、夜摩天に向かう。
今は、地球の時間では12月23日の午後4時みたいだ。
夜摩天に着く頃には24日になっているくらいかな。
あと一日か。
急がないとな。
約八時間後。
周りは明るく、地面には深さ1センチほどの澄んだ水が張られている。
至る所に青い蓮の花があるが、どれも花は閉じている。
ここが夜摩天。
ここも初めて来たが、なんとか着いた。
思ったより綺麗な場所だな。
なんかこう、もっと炎が燃え盛っていて暑い場所なのかと思ってた。
僕は歩いていく。
地面に足をつける度に水紋が広がっていく。
しばらく歩いていると、向こうに大きな鏡と何かの行列、そして閻魔大王様が見えてきた。
そのあたりでは、水の上で炎が燃え盛っている。
そこで僕のところに、閻魔大王様の使いの1人──牛頭が寄ってきた。
「サンタの使いよ。何か御用であるか?」
そう言う牛頭。
「えっと、閻魔大王様とお話がしたいんですけど良いですか?」
「う〜ん、そんなことを急に言われても出来るわけなかろう。歓迎の準備もしてないのだ」
「あ、いえ歓迎などしてもらわなくていいですよ。お話がしたいだけなので」
「そう言われても、すぐには出来ない。何しろ閻魔大王様は忙しいのだ」
う〜ん、まあそうだよね〜。
「それは承知してますが、どうしても今すぐ会わないといけなくって」
僕がそこまで言ったところで、これまた使いの1人──馬頭も寄ってきた。
「サンタの使いよ。その首に下げているのは、ポセイドン様の紋章じゃないか?」
「あ、そうですよ。前にポセイドン様と会ってつけてもらいました。」
紋章には、ポセイドン様の三俣の鉾と馬頭の鉄叉が描かれている。
「なら話は早い。閻魔大王様に話をつけておくから、ここで待っていてくれ」
「あ、ありがとうございます」
なんでそうなるのかはわからないけど、閻魔大王様に会えるのならいいか。
牛頭馬頭のどちらも閻魔大王様の方へ戻り、何かを話している。
そして、牛頭馬頭のお二人が戻ってきた。
「閻魔大王様との面会の許可が降りました。ご案内いたします」
「ありがとうございます!」
僕は二人に着いていく。
着いた場所は、人間界でいう神社の本殿のような建物だった。
その中の閻魔大王様の部屋に案内される。
閻魔大王様は豪華な椅子に座って僕の話を促す。
僕、今から裁かれるのかな。
そう思うほどに威圧感がある。
堂々と前に座られると怖い。
「あ、えっとこの度は急な──」
「いや、そういうのはいい。本題を話してくれ」
「あ、わかりました」
怖いよ〜。
「えっと、どうしても閻魔帳を貸してほしくてここに参りました。現在、地球での時間は12月24日の午前0時ほどで、急がないとクリスマスに間に合わないんです」
その言葉を聞いた閻魔大王様は少し驚いた。
「なるほど、そうであったのか。何に使うかは知らないが、急いでいるのならすぐにでも閻魔帳を貸そう」
「ありがとうございます!」
そこで閻魔大王様が呟く。
「もとはといえばこれはサンタのものだからな」
僕は驚愕した。
「え、そうなんですか!?」
今度は閻魔大王様が驚いた。
「ん?知らなかったのか?まあ、無理もない。いつもワシの部下が貰いに行ってるからな」
「な、何を貰いにきてるのですか?」
「……あぁ、それすらも知らないのだな。なら説明してやろう」
僕はその説明を聞く。
「閻魔帳は、ワシが、死者の生前の善悪の行動をメモするものだ。それは知ってるな?」
「はい、もちろんです」
「だが、ワシが全部を見るのは大変だ。だからサンタにも協力してもらっている」
「協力?ですか」
閻魔大王様に聞いておいて、僕自身でもなんとなく見当がついた。
「そう、協力だ。内容は、まずサンタが子供の善悪の行動をメモする。そしてそれを、そのメモしている子が大人になったときにワシに譲るっていうものだ」
「つまり、子供のときはサンタさん、大人になったら閻魔大王様が行動をメモしているということですね?」
「うむ。その通りだ。理解が早くて助かるのう」
僕の予想通りだ。
「いえ、それほどでもないです」
そうは言いつつも、僕はとあることに気づいた。
「では閻魔大王様。疑問なのですが、そういう協力をしているということは、僕が閻魔帳を借りたところで子供達の行動はわからないということですか?ここにある閻魔帳にはもう大人になった人の行動しかないわけですし」
「あぁそういうことになるな」
閻魔大王様が告げる。
じゃあ、僕ここに来た意味ない……ってこと?
少しの間、沈黙が続く。
「……サンタの使いよ。もしかしてとは思っていたが、まさか、閻魔帳で子供達の行動を確認しようとしていたのか?」
ギクッ。
図星すぎる。
「い、いや、そんなこと──」
「私の前で嘘をつくのか?」
圧倒的な威圧感が目の前にある。
「お話しします、お話しします!全部話しますから、許してください〜!」
「それでよいのだ」
閻魔大王様はにっこり笑顔になる。
僕は今までの経緯を全て、洗いざらい、嘘をつくことなく、真実だけを話した。
「……なるほど、だからここに来たのか」
「は、はい」
「それにしても、あのゼウスでも閻魔帳のことを誤解しているとは。まあ無理もないが」
ゼウス様ってなんだかんだ全知ではないんだよね。
ちょっと抜けてることもあるし。
まあそれでも僕の100倍以上、知識を持っているとは思うけど。
「まあだがこれで、やるべきことはわかっただろう、サンタの使いよ」
「はい、承知しました。行ってきます」
「うむ、行ってくると良い」
僕は本殿のような場所を出る。
すると、牛頭馬頭の2人が入り口近くで立っていた。
サンタさんのところに帰る前に、少し話しをしておこう。
「牛頭さん、馬頭さん、ありがとうございました。おかげで助かりましたよ」
「あぁ、それはよかった。お役に立てたなら何よりだ」
牛頭がそう返す。
「それで、そのお礼といってはなんですけど、少し役に立つようなお話がありまして」
「ほう、なんだ?」
僕は一旦間を空けてから話す。
「神様も、長い時間働き続けると疲れるそうですよ?その時間は、人間界でいう1750年くらいだそうです。もし神様が疲れたら、忘れん坊になるみたいですから、たまには閻魔大王様にも休ませてあげてくださいね」
牛頭は「なるほど」と理解したようだが、馬頭はそうでもないみたいだ。
「牛頭、人間界でいう1750年とは、ここでいう何日なのだ?」
「馬頭、そんなこともわからないとは阿呆か。大体九日ぐらいだ」
それを聞いた馬頭は笑顔になる。
「なるほど、それなら心配はいらないか。閻魔大王様は五日に一回しっかり休んでおられるし、何しろこの牛頭馬頭がいるのだから心配あるまい」
自信満々にそう言う馬頭。
「それならたしかに心配いらなかったですね」
「いや、いいことが聞けた。サンタの使いよ、感謝する」
牛頭がそう言ってくれた。
牛頭は良いやつで、頭も良いな。頼れる。
馬頭は、……知らないけど別に悪いやつじゃない。
「いえいえ、感謝されるほどでもないです」
「それはそれは謙虚だな。……あぁ、ここで長話もよくないな。用事があるのなら早く行くといい」
「ありがとうございます。それでは帰らせていただきますね」
「いつでも会いに来て良いからな」
牛頭が言う。
「もちろん、俺にも会いに来て良いからな?その紋章を貰えたということは、俺達はもう友達なのだ」
馬頭がいう。
ポセイドン様からもらった紋章にはそんな意味があったのか。
友達っていうのはなんか良い!
「じゃあ、そのときもよろしくお願いします!」
僕は夜摩天を出た。
遠かったけど、来た甲斐があったな。
閻魔大王様から思ってもない話を聞けたし、牛頭馬頭という新たな友達が出来た。
ちょっと怖いけど、良い人達だ。
いや、そもそもあの人達は、悪人を更生させるためにあえて怖くなってるのだ。
それで優くないわけがない。
それに、どんなに怖い人でも、優しい一面はあるのだ。
僕は、ふとそんなことを思ったのだった。
サンタさんのもとへ飛び始めて、約八時間。
「サンタさん、ただいま帰りました!」
「おお、トナカイちゃんよ。随分と長旅をしていたな」
「はい、思ったより長くなっちゃいました」
サンタさんは笑ってくれる。
「そうか、そうか。それはさぞ楽しかったのだろう。ところでトナカイちゃんに見て欲しい物があってのう」
そう言って、サンタさんは分厚いメモ帳を何冊か出してきた。
「これを見つけてのう。子供達のメモを取っていたことを、すっかり忘れておったわい」
ホッホッホと笑い声が響く。
「いつ気づいたんですか?」
「あれは、……たしか、トナカイちゃんが出てからちょっと経ったころだったかのう」
いつもなら不満を言っていただろう。
でもこれで良かった。
いろんな出会いもあったし、新たな発見もあった。
旅に出てよかったと思う。
むしろ、あとちょっと違えばあの出会いはなかったのだ。
僕はサンタさんに密かに感謝した。
「そうだったんですね。思い出せたならよかったです!」
「うむ。わしも良く思い出した。偉いぞ、わし」
「流石です」
僕達の笑い声が響く。
「さあ、サンタさんそろそろクリスマスです。プレゼントの準備をしましょう」
「そうじゃの。急がないとな」
「はい。それで、これが終わったら一緒にゆっくり休みましょう」
和やかな雰囲気が、僕たちを包み込む。
そして、今年の一大行事が始まる。