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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

無題

別に詩なんて
書けなくてもよかった
ただ
何気ない出来事を
くだらない冗談を
笑われるような心配事を
しょーもないわがままを
話したいと思える
そんな誰かが
いてほしかった
ただ、それだけ

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海になればいい


陽が昇るのを待って 僕らはあてもなく電車に乗った
まだ人気はなく静かで 
ただ薄く空を覆った雲だけが車内を包み込んでいた


僕らは互いに黙って 流れていく景色を呆然と眺めていた
この景色の中に なにもかも捨てることが出来たなら
そんなことを考えてみたりしたけど
多分それはとても無意味なことだと 
ひとりごちて 
小さなため息をひとつ 
窓が一瞬だけ白く曇った




僕にとって毎日は ただ消費していくだけの
退屈極まりないものだった
特に何か取り柄があるわけでもない僕は
与えられる仕事を淡々と こなしていくだけで
それで褒められるわけでもなければ 
決して怒られるわけでもない

毎朝ギュウギュウ詰めの電車に押し込まれ
痴漢に間違われないように 細心の注意を払い
残業を頼まれれば いやな顏もせずにひきうけて

帰りの電車 またもギュウギュウ詰めに揺られながら
スーパーによって弁当と缶酎ハイを買って帰る
テレビをつけてみても 面白くもない番組ばかりだし
ネットを開けば 芸能人の不倫かスキャンダル
誰かの誹謗中傷ばかりだ
缶酎ハイの蓋を開け 弁当に箸をつける
味なんかよくわからない ただ胃に流し込んでるだけ

明日も明後日も 日々は続くから
風呂入るのめんどくさいな
朝起きたら入るか

今日も疲れた 昨日も一昨日もずっと疲れてる
生きがいってなんだろうな
昔はそんなことも真剣に悩んだ時期もあったけど
いまはもう どうでもいい
それより早く寝るとしよう




初めて君と出逢ったのは
同僚に連れられて行った 
クラシック音楽と香しい珈琲の香り漂う
大正浪漫漂う喫茶店だった
ステンドグラスが嵌め込まれた窓際の隅の席で
なにやら難しそうな本を
君は読みふけっていたね

どこか他人を拒絶しているかのような
君の周りには見えない膜のようなものが張り巡らされてるような
何故だかわからないけど そんな気がしたのをよく覚えてる

僕は何を思ったか そんな君に声を掛けたんだったね
いつもこの店に来てるの? 
ずいぶん難しそうな本を読んでるねって

君はニッコリと微笑みながら
本を読んでいるときは 生きてることを忘れられるのよ
あなたは生きてるってことを忘れることはあって?

僕はてっきり 君は何かの宗教にでも入ってるのかと思ったし
いきなりそんな質問するから 驚いてしまって
咄嗟に うん、まあそうだね 
なんて適当にごまかしたら

君は大層がっかりしたように
そう それは残念だわ
生きてるってこと忘れるくらい 
生きてられるなんてしあわせねって

君はしあわせじゃないの? 
何か悩みごとがあるとか?

悩みのない人間なんていやしないわ
いまの生活に満足している人間だってきっと
産まれたばかりの赤ん坊は欲のかたまりだって説もあるらしいわよ

愛欲性欲食欲睡眠欲金銭欲独占欲
この世の中 誰も彼もみんな
自分の欲望を満たしたくてたまらないニンゲンばかり
人生なんて所詮 しあわせの奪い合いじゃない
ねえ ニンゲンって生きてるうちは不完全で未完成な生き物なの
死んで初めて完全に完成されるのよ




僕はいつの間にか 完全に君のペースに巻き込まれてしまっていた
人生なんてしあわせの奪い合い、か
たしかにそうかもしれないな

うちは他と比べれば まあまあフツーの家だったと思うし
両親も決して仲が悪いわけでもなかったし 
けど

父親は他に若い女がいたのを 僕は知っていたし
母親はなにに使うんだかよくわからないものを次々買いまくって
山のような請求書 督促状が届いてて
それでよく 二人が夜中に言い争っていた声は 
いまでも耳にこびりついて離れない

大人ってしょうもないくだらないって 
子どもながらそう感じていたっけ
けど 大人の言うことに逆らったことなんか
ただの一度もなかったし
逆らったって何もいいコトなんかないっていうのも 
なぜだろうか よくわかっていた




将来なりたいものはなんですか
僕には将来なりたいものなんてなにもなかった
友だちたちはそれぞれ 
サッカー選手に宇宙飛行士に
医者に弁護士に 
漫画家 芸能人と
目をキラキラ輝かせながら語っていたけど
夢とか希望とか未来とかそういうの
僕にはちょっとよくわからなかった
解らないままに こんな大人になってしまった




思えば 全くもってつまらない人生
自分でも笑えてくるな
日々 会社と家を往復するだけ
最近笑ったのはいつだったっけ
泣いたのはいつだったかな
生きてることを忘れるくらい
僕には生きてる実感がまるでなかった
云わば 生きる屍そのもの

そんな日々をどうにか変えたくて
資格の勉強してみたり
慣れない料理にチャレンジしてみたり
普段 自分からはなかなか開けない心の扉を
勇気を振り絞って 開けてみたりしていたあの頃
まだなにか変えられるんじゃないかと
柄にもなく



はじめて本気で好きになった女の人があった
でも その人にはもう別の相手がいて
それが 同期入社のアイツだった
アイツは顔もいいしオシャレだし
愛嬌もよく ユーモアのセンスも抜群で
人望も厚く 仕事もできる
本当にいい奴だ
いい奴過ぎて むしろキライになりそうなくらい

そうだよな そうだよな
人に選ばれるニンゲンてのは
愛されるニンゲンてのはきっと
こういう奴のことを云うのだろう
別に嫉妬するだとか羨ましいだとか
そんなことは思わないよ
思えるはずもない
ただ静かに いつものように
しょうがない しょうがないと
自分を納得させるクセを
発動させるだけ



あるとき 今日で人生ログアウトするからと
突然 古い友人からLINE
もう耐えられない
ログアウトすることで
あの人を後悔させてやりたい


話を聞くことくらいしか出来なかったし
それだけの意思を止める力も
もちろん持ち合わせていない僕には
どうすることも出来ず
それでも ケーサツに電話した方がいいだろうか
どこか相談出来るところはないか など
心がザワついて離れず

数日後 その友人からまたLINE
お金貸してくれない?

人生ログアウトの話はどこへ行ったのやら
そして こうも続く
今度引っ越すことにしたから
緊急連絡先をお願い

あゝ アレは僕からお金を引っ張るための芝居だったのか
切羽詰まってる体にすれば
どうにかなるとでも?

なにか頼みごとがあるときばかり
まるで砂糖に群がる蟻ん子みたいに
街灯に群がる虫たちみたいに
なぜだかいつも 僕に近寄ってくる
用済みとあらば サッサと何処かへ消えて行ってしまう




いい人っていうのはね
「どうでもいい」人っていう意味なのよ


くだらない
全くもってくだらない




あなた 死んでしまいたいとは思わない?
君の口からそんな言葉が出てきたのは
ある意味 必然なことだったかもしれない
僕ももう この世界に未練なんかとっくに失っていたし
行きずりの女と心中なんて
昔の文豪みたいでちょっとカッコいいじゃないか
僕は君の提案に乗っかることにした
そうしたら 不思議なことに
いままでに感じたことのないワクワクした気持ちが
心の奥底から湧いてくるのがわかって少し困った




君も僕も精神科に通院歴があった
クスリの処方が変わるたびに 
余ってしまったクスリをひそかに溜め込んでいたのだが
彼女はどうやら複数の病院をドクターショッピングしており
かなりの量のクスリを溜め込んでいることがわかった
それから 度数のキツい酒をたくさん買い込んだ
万が一生き残ってしまうことのないように なんて笑う君が
ゾッとするほど恐ろしく 美しく見えた




君はチョコレートを齧りながら 過ぎてゆく景色を眺めている
こんなふうに電車に揺られるのも
流れていく景色を眺めているのも
これが最後だと思うと なんだか無性に愛おしくも感じられた
ふいに君が 後悔してない?って訊くから
僕は何も言わず ただかぶりを横に振った






冷たい冬の海がいい
ただ波の音しか聞こえない 
きれいな海の町へ行こう
そして暗くなるまで 波の音の中で眠ろう
霧雨が降ればいいね
僕らのもろくこわれそうな命のような
やさしい雨が降ればいいね
風は冷たい方がいい
ふたり疲れた躰寄せ合って
海の中で飽和しよう
やさしく そっと







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色無潤雨

やまをもかくす しろいあめ
かわいたはだは めぶくまえ
いろなきからだ かたいめを
わずかにひらく みずをえて

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へんしんじゅつ


                 昨日は男の子だった。
 今日は女性になるの
   
      おまえは蝙蝠か  渇きを嫌うのような蛇の目か

それでも 明日はこころを変えない
 
                       

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主張強めの文芸投稿サイト運営者日記(2月25日分)B-REVIEWの消滅について


現代詩投稿サイトB-REVIEWが突如、機能を停止した。投稿できなくなっただけでなく、アーカイブすら閲覧できない。7〜8年前、立ち上げに関わった人間として、何も思うところがないと言えば嘘になる。アーカイブが見られなくなったこと自体は残念だ。しかし正直に言えば、どこかホッとしている自分もいる。


もともとB-REVIEWは、マナー重視の場として設計され、ナイーブな人を包摂することにこそ存在意義があり、代々それを引き継いできたはずだった。それが、乗っ取った運営者によって方針が大きく変更され、いつの間にか「罵倒上等」「好き放題やれる」ことが訴求点のようになった。屋号は同じ。しかし中身は正反対。私に至っては、かなりの誹謗中傷を受け殺害予告まで出されたが、サイト内では当然のごとく不問に付されていた。正反対の運営をやりたいなら、別のサイトを一から作るのが筋ではないだろうか。おそらくはシステムやアーカイブを使いたかったのだろう。私から言わせれば、それは窃盗に近い。


サイトが停止してから、この数日で新規登録者が急増している。まだ投稿を始めていない人も含め、相当数がこちらへ流れてきているのだと思う。運営としてはありがたい。同時に、一定の負荷とチャレンジがあることも覚悟しなければいけない。


B-REVIEWの終末期では、放言や罵倒、喧嘩を含め「好き放題やれる」こと自体が魅力として語られていた側面がある。そうした文化を出自とする人がこちらに来た場合、物足りなく感じるかもしれない。あるいは、周囲にストレスを与えるコミュニケーションを選ぶかもしれない。私はなるべく多くの方を包摂し楽しんで頂きたいと思っている。
しかし、頭を下げて「荒らしてもいいですから、他の方々に迷惑をかけていいですので、入ってきてください」と言うつもりはない。


私は、知る人は知っていると思うが、決して柔和なタイプではない。むしろ罵倒体質と言われれば否定はしない。粘着的にしつこく批判することもあるし、喧嘩っ早いところもある。私の描く「田伏正雄」は確実に私の人格の一面を表象している。だが、C-SPACEの書き手を罵倒して荒らして楽しみたいと思ったことは一度もない。運営だから我慢しているのではない。そもそもそういう欲求が湧かないのだ。荒れ野にして内輪で盛り上がるよりも、外に向かって広がる場を作るほうが、私には面白い。結局のところ、自分の場所だと思っていないからこそ、荒らして楽しめるのだと思う。


荒らすタイプの人間にはいくつかのパターンがある。長年この界隈で荒らしアカウントを続けてきた人には、奇妙な共通点がある。それは「荒らしてあげますよ」という謎の上から目線だ。好き放題書く人がいないと場は停滞する。退屈になる。風通しが悪くなる。だから私が罵倒も誹謗も含めて好き放題書いてあげますよ、というわけだ。当たり前だが、おととい来やがれ、としか言いようがない。無視して放置する者はいても、その上から目線に迎合して、頭を下げる運営者などいるはずがないではないか。


ちなみに、「私はときどき自分をコントロールできなくなるかもしれませんが、そのときは事前に注意いただけたら何とか修正しますので、BANしないでくださいね」などと事前に書く人はいない。もしそういう姿勢で望まれる方がいたら、その時点でその人は荒らしではなくなるだろう。場への挑戦や揺さぶりと判断すれば、基本は即BAN。ただし、対話や謝罪があれば、BANはすぐ解く。それ以外は、できるだけ参加者の自主性に委ねる。基本的にはこれまで通りのスタンスでやるつもりである。


B-REVIEWが消えた。狭い界隈の話ではあるが、一つの時代が終わったと言っていいのかもしれない。詩投稿機能のある掲示板を核とするサイトはもはや私たちしかいない。私たちは詩投稿サイトを標榜してはいない。ジャンルに縛られない文芸投稿サイトと自らを定義している。しかし、ネット詩の歴史はC-SPACEにバトンが手渡され、私たち以外には更新できるプレーヤーは他に見当たらない。

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批評・論考

刹那スキャット

人に言葉を投げる前に背中を見せたら
虹のように軽やかに逝ける
サイバー攻撃みたいにリズムを刻んだら
誰も踏み入れたことのない場所へ行ける
クラクラくる甘いカクテルを蹴っ飛ばせば
今までにない景色に会える

人生を叫ぼう
心なんて後からついてくる
今すぐ飛ぶ

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まわる、まわる

冬芽ばかりの並木道を
蜂蜜色の髪の
少女が歩く
影踏みしながら
春色のコートで
くるりと回る
陽を浴びた芽は
すこし、背伸びする

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途方にくれる

むかしむかしあるところに
じいさんがこの世を去って
ばあさんが途方にくれていた
ばあさんもこの世を去って
犬のここあは途方にくれた
犬のここあが引き取られて
家は途方にくれた

遺品を片付けようと
じいさんとばあさんの家族が
家に訪れるようになって
家は余計に途方にくれた

その家も
今は更地になって
空き地には
不動産の看板が立てられた
看板は途方にくれていた
新しい家が建つと決まったからだ

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問わず語り/褐色の恋人はバラ色の夜に、穿つ。

 23th Feb 2026

 ああ、悩ましい。

 CWS利用を始めたのは昨年9月、わずか2カ月余りで運営からイエローカードが出た。
 ここにはここのルールがあって「コメントには気を付ける」これができないとサイト理由はできない。過去CWSを利用していた創作界隈のユーザーが離れて行った背景には、コメント等の不適切さが原因だったことは、まだ記憶に新しい。
 サイトの利用規約とは別に、運営/お知らせの欄に何点か利用する上での必要事項が記載されています。
 ここを読まないでサイト理由するのはトラブルの原因になるので、ご一読を。


 その内容を踏まえて、今日のエッセイは『お酒の話』にします。


 私はお酒をよく飲みます。
 病院や健康診断では飲酒について書く項目があるけど、ほぼ正確に埋める。しかも飲んでるお酒に関して「単式蒸留焼酎、本格焼酎乙類」など、ひらかながひとっつも出てこない字ずらと詳細を余白にびっちり書くキモい男。思えば初めてのバイトはカットモデルでした。

 美容業界のイベントに最年少として参加。
 衣装を着て、メイクをして、ステージの上で実際にカットした後にランウェイ。15の夜はその道のプロである多くの大人と関わり、教えられながら過ごした。
 最高に楽しかった一生の思い出を携えて、私は夜の世界で働きます。

 小さな町の繁盛店。

 最初は開店準備の掃除と配達の受け取り、滅多に鳴らない電話番でした。
 1か月ほどで、手順を覚えたらチャーム作りと板氷を割る作業。
 未成年がお酒を扱う店で働く上で、表(店)には出ないことを親から約束させられた。厨房から繋がるカウンターの中を通る作業は仕事上、仕方ないと許されたのでカウンターの中でオーダーを取って、顔馴染みの常連客からチップを貰う、ハートフルな接客を少しだけ。
 カウンターの向こう側、暗いホールで手が上がると反射神経で爪先立ちになる。
 まず、テーブルの配置を覚えて、今差し出されている指の数は何を意味しているのか。人の数なのか、酒の数なのか、客の入りを把握できないとカウンターの立ち位置は難しかったけどオーダーを覚えきることで解消された。
 例えば指が3本で「モスコ、ファジー、スクリュー、オールワンで。」と言われたら3番テーブルのオーダーが、モスコミュール、ファジーネーブル、スクリュードライバーを一杯ずつ。食べ物もこちらで用意するので、棚の上に決まった数のバスケットは常備しておくこと。ポッキーやスナック、乾物の補充をしつつ、先程のオーダーに合わせたグラスを予め並べておく。
 カクテルで使うグラスはショート、ロング、ロックの3種類。
 お酒の割合までは教えて貰えなかったけど、混雑時に会計など重なるとチーママが一瞬離れる際に作業の引継ぎとしてステアするくらいはやった。
 18になればシェイカーを扱えるようになり、カウンターは私の持ち場。
 フルーツを絞りながら、グラスに注いで提供。お酒の飲み方がわからないBAR初心者の言う曖昧さにも、具体的なニュアンスでお伝えして、接客しながらコースターを置いてからグラスを置く。お客様をみつめながら。
 大学に入ってすぐ、高時給のBAR勤務を選んだ。
 初手から黒いロングサロンの紐を、手元を見ないで綺麗に結べる制服の着こなし「飲食やってたの?」聞かれても、初めてだと笑って誤魔化してた。小さな頃から着物の角帯を結んでいたので、できない人が多い事に衝撃を受けたものです。
 新人バイトの中で群を抜いて、声が出る・接客が丁寧・混雑時に間違えずオーダーを捌けることからすぐカウンターに立って時給アップ。繁忙期はシフトを増やして、マネージャーとペアでフロア管理、会計で過不足無し。お客様はお酒が入っているので金額を間違えたり、大きな声を出すこともある。カード払いの機械トラブルによりお客様にご迷惑おかけすることもある中で、ケアレスミスを防ぐアイディアはコミュニケーションだと熟知していた私は、どうすればお客様が不快な思いをしないかに着目して接客を心掛けていました。対応の速さだけでは凌げない際は、間を作らないで簡単な質問を繋いで会話する。
 感謝の気持ちを込めて、エレベーターまでお見送り。
 その際、特定のお客様にはキスして「今度はいつ逢えるんだろう。でもすぐに逢えるよ、夢の中で。気を付けて」これが言えるようになると確変リピ率が激アツ。おじさんばっかり来るから「いい加減にしろよ」と注意されたけど、私は毎日が誕生日。お祝いに皆さん高級なお酒を飲んでくれる。有難いことに。
 店の知名度は当時の繁華街でも名の知れたもの、いわゆる『従業員が全員イケメン』カウンターに立てるのは顔採用された精鋭たちばかり。飲み屋って、そういう風潮あるよね。
 
 22歳で、歴5年。

 働く側が感じる忙しさ、お酒の知識と接客のクオリティを身に着けましたが、あくまでも働く為の術でお酒が好きで働いてるわけではなかった。
 飲み物として、美味しいお酒はある。
 当時、好きだったのは日本酒・新潟の雪椿。現代の日本酒はキレイなタイプが好まれるけど、昔の日本酒は甘くてまっ濃い。古酒にも果敢に挑戦するのは蒸留酒と比較して、醸造酒は「甘くて美味しい」ジャンルだと思っている、今でも。

 種類別に説明すると

 蒸留酒:ウイスキー・ブランデー・焼酎/40度前後の高アルコール
 醸造酒:ワイン・ビール・日本酒/15~20度

 リキュールも醸造酒に含まれます。
 これ、何が違うかというと「発酵させる」のが醸造酒。日本酒やワインの多くはタンクの中で造られるのをご存じですか?タンク内で発酵させるからです。ワインも瓶内発酵などの種類があります。
 そして「加水して」飲みやすいアルコール度数まで下げられていることが、醸造酒の特徴。
 日本酒も加水してアルコール度数が調整されているので私にとって、醸造酒は全て低アルコール類という認識です。

 日本酒についてもう少し詳しく説明すると、純米酒・吟醸酒・本醸造種の3種類。
 
 純米酒:米(酒造好適米)、米麹、水で造られたお酒。
 吟醸酒、本醸造種:米(酒造好適米)、米麹、水、醸造アルコールで造られたお酒。

 アル添が入ってると悪酔いするなど云われがちですが、原料は主にサトウキビで、日本酒において香りやキレなどの香味調整と品質を保つための要素。含有量によって名前が変わります。
 私が若い頃に好きだった雪椿は純米酒。
 最も純粋な日本酒と比較して、カクテルに使用するリキュールに含まれるアル添は凡そ6割。3割しか純粋なアルコールではない代物、を・・・・・・ですよ?
 蒸留酒ベースで、アルコールを継ぎ足していく。
 それがカクテルの正体です。
 想像してみてください。ウォッカのアルコール度数は40度以上、氷点下でも凍らない(冷えてとろみがつきなめらかな口当たりに変わる)ので冷凍庫保存が可能。話を戻して、先程のバ先のオーダーで、モスコミュールとスクリュードライバーの名前が出てきましたが、これはウォッカベースのカクテル代表格。
 アルコール度数がとても高いので、モスコ/ジンジャエールとライム。苦味のある炭酸とライムの香りでスッキリ。
 スクリュードライバー/オレンジジュース。カクテルの割合は酒1:ジュース3~4が基本なので、オレンジジュースの甘さで緩和されるキュートなバカンスハイが楽しめる一杯。
 ジュースで割らないと、ウォッカなんて飲めたものじゃない。

 しかし、私がウォッカベースで一番好きなカクテルの名前は「カミカゼ」スーパーユーロビートの曲でお馴染みのアイツでございます。

 ・ウォッカ
 ・コアントロー
 ・ライムジュース

 これを全て同じ量で氷を入れてシェイク。振り過ぎると泡立つので程よくスピード調整。ショートグラスに注ぎ、ライムを添えるのが一般的なレシピですが、自分で飲む時は氷を入れたグラスにウォッカとコアントロー同量を入れて軽くステア。仕上げにグラスの上から生のライム2/1個を手で握り潰して、そのままライムをグラスに突っ込む・・・・・・完成・・・・・・

 特攻野郎で、ご承知おきいただけますと幸いです。

 オレンジのビタースィートな風味が特徴的なコアントローは洋菓子作りにも使うので、常備。
 貴人グラスに少量入れて香りを愉しみ、消毒液のような刺激に舌が鋭く反応して、体内が活性化される。コアントローのアルコール度数は40度。サヴァランはラム酒やキッシュもいいけどコアントローをシロップに入れるのもおすすめ、お酒に弱い人は控えてください。

 BAR飲みするようになったのは、ここ数年。
 オーセンティックバーを営む方との出会いが始まりでした。彼は仕事に関してはプロフェッショナル、寡黙で正確な身のこなしから、生きている芸術品と讃えられていますが、最初はそんなこと知らなくて私は純粋にお酒を話しを楽しみました。別れ際、名刺を差し出され・・・・・・見覚えのある名前・・・・・・え?ご本人ですか。
 私と一緒にいる時は、饒舌でご機嫌。
 いつも楽しませてくれるけど、きっと気を使っているのでしょうね。
 私に特別を与えてくれて、自分が「いい男」である演出に事欠かない。
 それが彼の充実した満足感。褒めると疑ってかかる気質があるので大袈裟に喜ばない塩対応とロマンスを引き換えに、ザマッカラン12年シェリーオークを醸す。シェリー樽が好みなので、そうなるとなかなか種類が限られてくる。必然的にシングルモルトのロールスロイスに辿り着くのは、運命としか言いようがない。
 アメリカンなバニラ、キャラメルも好きだけどたまにでいいかな。そんな私が余市ニッカの竹鶴をフロートで飲んだ夜の罪深さは計り知れない、伝説だ。

 ウイスキーフロートは氷を入れたグラスに水や炭酸水を注ぎ、マドラーに沿わせてゆっくりウイスキーを注ぎ層にする作り方。
 これを竹鶴17年ピュアモルトで飲んだら、どうなるか。

 竹
 鶴
 う
 ま
 い
 べ
 や

 グラスから唇を話すことができず、ゴクゴク飲んだら、ただの炭酸水になってしまいマスターが気の毒そうに見ていた。
 これは気まずい。と、さすがの私も「喉が焼けた」なんて嘘つきながらワンチャン竹鶴17年を足し入れたらフローと復活するのでは。

 さて、チャージ料金がかさむ前にチェックするよ。
 私はとってもリアリスト。作家は経験したことしか書けないという命題があるけれど、私は体験型の作家で想像された物語を描く機会は少ない。書き心地でいうと、体験談の方が筆が進むからね。ただ想像で筆を進める人もいて、鮮度こそ違えど、書く側と読者が物語という媒体を通して心が近くなったらそれは成功に限りなく近づけている証拠。
 その接点は輝ける価値観であり、伝える喜びに他ならないのでは。
 
 どうか勇気が、宿りますように。

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 それではこの後「即時一杯の飯に如かず」を続けて更新します。

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大和路のための祈り

どうか祈らせてください
僕がそこを訪れてないだけで
そこのために死ぬ権利を
どうか奪わないでください

心の迸るままに
死ぬがために生きるを見出す
そんな簡単なことを
どうして叫べなかったのか
どうして誰も許してくれなかったのか


たった一つの夜を見ました
その星の下で
草生す骸となった僕に
誰かがそっと花を供えました

”高潔”の刻まれた花弁は
やがて昇りゆく旭日と共に
世界を満たしていくのでしょう


讃美に、ひとり静かに咽ました
薄明が人間の中に
ぼぅっと燃えていた日のことを
誰にも知られぬまま抱いたまま

暁の空は
この世界が見た
最も美しい夢だと確信します

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終わりを考える|習作 v1

26,27歳頃から、人生の終わりを考えるようになりました。あと10年は残されていないだろうと直感していた、という方が近いかもしれません。

というのも、わたしのスペックでできることは、ひととおりやりおえてしまったからです。そんなことはないと思われるかもしれません。しかし、大枠ではそうだと思うのです。

時々国内旅行をしました。時々外食もしました。わたしには海外旅行をする金はありません。きっとこれからもないでしょう。趣味として歌も楽しみました。そろそろ歴8年ほどになります。どうやらわたしには、さほど素質がないとわかってきました。絵を描いたり文章を書いたりもしました。どうやらこちらもさほど素質がないとわかってきました。

世間一般に、結婚し子を成すのは、これが理由でしょう。人生が同じことの繰り返しになってゆく年頃なのです。特別な何者かになれないという、まぎれもない事実が明らかになるのです。そして「家庭を持つ」ことが、人生におけるいまだ未開拓の出来事、父あるいは母という「何者かの成り先」を与えるのだと、わたしは気づきました。

わたしは結婚もできそうにありません。いや、この手紙が読まれているということは、少なくとも30歳までにはできなかったのです。わたしは、これまでの人生を、いわゆる「非モテ」として、所得が上がる見込みもなく生きてきました。そんな女が30歳以降に結婚、というのは、なかなかに期待が薄いものです。

わたしだけの問題ではありません。実家は細く、きょうだいは障害者です。詳細は省きますが、遺伝疾患の素因を持っている可能性があり、子供が病弱に生まれるリスクもあります。なおのこと異性がわたしを選ぶ理由がなくなってしまいました。

という現実を前に、疑問が生じたのです。この人生を、これ以上生きる意味はあるだろうかと。何も人並みにできない。かといって創作のような何か変わったことを、人並み以上に成す才能もない。わたしは、「わたしの人生」という欠陥品に、いま以上の労力を払う意図を失ってしまいました。

これでも、ギリギリまで足掻きはしたのです。最後の2年弱、職を探し、異性にアタックもしました。けれど、すべてが無駄に終わったのです。

もはや残りの人生は、ただ衰えてゆくばかりです。わたしに与えられた人生最後の幸福は、死に時と死場所を決めることでした。

朝焼けの海が好きです。だから太平洋で死にたいと思いました。晴れた日に、さわやかな海辺で錠剤をいくつか服用し、薬が効く前に、なるべく沖へ出るのです。

はたして、苦しまずに済んだのか。それはわかりません。しかし、酸素を失うまでの、ごくいっときであったことには間違いないでしょう。生きながらえ、病床で孤独に痛みに耐えるよりも、みじかな時間であった。そこに疑いの余地はなかろうと思っています。

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プロ😎ハラスメンター ~だったったver.~  📚ただいま読書実況用に調整を加えております





📚読書実況用の紹介💭


 絶対に捕まらない犯人と 正体不明の指示役たちが 暗躍闊歩の大都市で、日夜 振り回されている者たちにスポットを当てた問題作。世界の裏に切り込んでいく 斬新なストーリーが 読者の倫理観にメスを入れる。
 そして繰り返される、実行犯がわかっているのに 誰も防ぐことが出来ない悪質な嫌がらせとは……。

 まさかの推理小説かと思いきや、まさかのあらゆる小説書きに向かってファイティングポーズを取っている超(当社比)話題(予定)作品。


















 僕は天才コロシ屋だ。
 それも飛び切りセンスが良くて、この国で一番華麗な技術を持っている。

 この国の首都の真ん中に、どんな悪事も見逃さない 切れ者刑事が集まっている 天下無双の警察署がある。この国に巣くう悪党どもは、彼らが広げる捜査網を すこぶる恐れて 警戒していて、びくびくおどおど暮らしてる。
 老人を騙す詐欺師のアツシも、怪しい薬を売ってるカズキも、泥棒猫のキャッシュ姉妹も、ギャングの親玉バーボンだって、ひとたび刑事がパトカーに乗れば トッピンパラリと逃げ出す始末さ。

 それでも僕は捕まらない。見つけることさえ不可能だろう。どんな凄腕刑事だろうと 僕のコロシは止められないのさ。
 今夜は月がとっても綺麗。仕事道具を右手に握り、カリカリささっとヤっちゃおう。

 連続連夜のコロシは4日目。今夜はホテルの最上階で、麗しレディーを密室サツジン。右往左往しているスタッフ、怒りで真っ赤な警察官達、恐怖におののく野次馬連中。みんなの感情豊かな顔は、僕が残らずメモしてあるよ? 疑心暗鬼がうごめく街角、こんなに楽しい夜はないよね。
 真犯人はそこにいないのに、誰も彼もが犯人探しだ。

 そして翌朝、急展開。
 密室トリック見事に破られ、電光石火の犯人逮捕。
 どのチャンネルもトップニュースで、犯人の顔を晒してる。
 イケメン犯人 レディーの元彼。異性交友関係の歪みが生んだ、悲劇の事件。

 実行犯は捕まったけど、あ~愉快爽快。真犯人は僕なんだよね。
 そうさ! 僕が命令を下し、彼の身体を操って 密室サツジンをさせたのさ。
 彼は泣いて嫌がってたよ。
 だけどこれは命令なんだ。
 あの方々が望んでいるから。僕に生きがいを下さっている●●様が望まれたこと。世界が求めるジャンルのために彼はやらなきゃいけなくなった。
 コロシをしなくちゃいけなくなった。

 このサツジンは必要なことさ。
 世の中にとって。
 僕にとって。
 ●●様にとっても、ね。


 次の獲物は誰にしようか?
 別荘に暮らすタレントのジョー?
 それとも花屋のミルチルさん?
 車を売ってるクドウもいいかも。彼はあちこちそっちで恨みを買ってる。なにせ壊れた車を売っては、各地で事故を招いてきたから。

 クドウは今夜、海辺をドライブしちゃうらしい。これなら楽にコロシができる?
 よし決めた!
 右手に狂気を握りしめ、白紙の未来に書き連ねていく。
 次のシタイは車屋クドウ。サツジン犯は、そうだな~。中華飯店で鍋を振るってる 有能学生アルバイト君。
 犯行動機はありがちだけど、みんな大好き親の敵だ。
 僕が右手で彼を操り、彼は右手で鉄鍋を振り、クドウの頭をゴッチンと。


『プルルー プルルー』

 NO! こんな時分に誰やねんって。はーいはいはい、もしも……うげッ……ゲフンゲフン。いつもお世話になっております。はいはい。ええ締め切りですよね。もちろん、大丈夫です。2週間後には必ず。え、10日後でしたっけ? あ、いや、全然ピーポー大丈夫! もちろんですよ。間に合わせますとも。そんなそんな、読者様をお待たせするなんて、やだな~担当さん。えっと、それで、お電話の用件はそれだけ……え? 新刊のタイトルが決まったんですか?
 首都 直下 型 連続 殺人 事件~爆 誕 卵のプリン 刑事 カラメルルの魔法 事件簿~
 ……え……ぇえぇ?
 魔法? あの、この話に魔法なんかこれっぽっちも出てこないんですが? はぁ、魔法少女のコスプレ……。ステッキ持ってるだけ……。女装の子と書いてジョシと読ませる……は、はあ。最近は魔法女装子がブームなんすね。いや、いや! 不服なんて! すみません、最近のトレンドとか見てなくて、はい、わかりました。適当に主人公の容姿を書き換えておきます、はい。進捗状況……ですか? えっと、さっき7日分のうちの4日目のコロシの犯人が捕まりまして、これから5日目のサツジンを書くところで……いやいや、間に合いますって。もちろん。はい、はーい、失礼します、はーい、は~~~~い。


 ……ふう。
 何にゃねん、プリン刑事って。女装子なんか聞いたことねぇ。存在するのか?
 おっと、だめだだめだ。読者様がそういうのを望まれているんだから文句を言ったら罰が当たる。

 よーし。アルバイト君、やれ。
 コロシをしろ。
 ひと思いにクドウの頭に鍋を振り下ろせ。
 ああん? やりたくないだ?
 何を甘っちょろいことを言ってるんだ。泣くんじゃない! 喚くんじゃない! 僕の仕事をなめるなよ?
 いいか? 君がやらなきゃ話が進まないんだよ。小説が次章に進まないんだ。わかるだろ?
 こんなところで話を終わらせるわけにはいかない。首都直下ぁなんとかぁ爆散プリプリン刑事を落とすわけにはいかないんだよ。
 登場人物が全員消えちまおうが、捕まろうが、ヤられちまおうが、作者のこっちは痛くも痒くもないんだからな。
 さっさとやれ、やっちまえ、君には親の敵を探してるという過去をくれてやる、ついでに名前もくれてやる。チッ、それなら出血大サービスだ! 今までのサツジン犯の濡れ衣までくれてやる!
 出番を与えてやったんだから、ありがたいと感謝しなさい。言われたとおりに活躍しなさい。そして、思う存分やんなさい!
 ゆけ! 君に決めた!



*******



 反射的に沸き上がってきた吐き気に耐えながら、もう一度目を凝らし、男の顔を確認する。痩けた頬、潰れた鼻、額が薄くなった頭、常に にやついている口元。厨房からは距離があるが間違いない。アイツだ。クドウだ。
 まさか、こんな所で再会してしまうとは思わなかった。もう忘れたいと願って、人口の多い遠い土地へ引っ越したのに。
 芯の冷めた頭で凶器になりそうな物を探す。ああ、探すまでもなかった。手元にあるじゃないか、ちょうど良いものが。
 中華鍋の柄にタオルを巻いて、コンロから取り上げる。これが運命だとでもいうのか。俺は運命という言葉が、この世で一番嫌いだった。だが、ここでの再会は、もはや運命の導きよって繋ぎ合わせられたとしか考えられなかった。再び出会ってしまったんだ。もう、躊躇しない。

 何十もの火柱が立つコンロのつまみをひねり、小さな火に落とす。
 この中華料理屋、好きだったんだけどなぁ。

 事故のあった日は父方の実家から帰省した帰り、うだるような暑い夜だった。小さな車に家族4人で乗っていたけど、それでも、俺たちは楽しく、わいわいと文句を言いながら高速道路を走っていた。
 そんな最中だった、父が慌てて叫んだのは。
 ブレーキが利かない、アクセルが戻らないって。

 真っ赤なテールランプ以外、何一つ覚えていない。あの夜、家族はみんな天国へ旅立った。そして俺だけが生き残った。生き残ってしまったんだ。記憶喪失で生死の境を彷徨っている時に、俺は、この世に居ながら地獄の底を踏んだんだろう。病室で目が覚めたとき、世界の色は、まるで終わっていた。景色は全て、白い霧と黒い影に覆われていた。人は全て、見たことのない生き物に見えた。白黒映画のようだった。三途の川だって、もう少し鮮やかな色をしていたんだけどな。

「くっそ、忙しいな。団体客が入ってなくて良かったぜ。なあ、次の注文なんだって?……なあ……おい! ノダ、どこ行く! ノダ! おい!!」

 親方の言葉を無視したのは初めてだ。火に掛けられていたフライパンを握る手が熱い。中華鍋の柄は鉄、この鈍色がグツグツと煮えたぎる心を応援してくれているかのようだ。
 忙しく包丁を振る同僚の間を抜けて、ホールへと出た。包丁を選ばなくて良かった。包丁をぶら下げていたら、途中で通りすがりの英雄にでも行く手を止められていたことだろう。
 いや、この世に英雄なんか居るのだろうか? もし居るのなら、どうして俺の周りで英雄が生まれなかったんだ? 英雄が悪者を罰してくれないから、だから俺が怪人になるしかなくなったんじゃないか。
 家族の復讐に燃えるのは英雄だろう、だって? 英雄は中華鍋で頭をかち割ったりはしねぇよ。

 あの事故現場には警察と、なぜかクドウが来ていたと聞いた。俺が救急車で病院へと運ばれている間に、俺たちが乗っていた車は漏れ出したガソリンに引火して全て焼けてしまったという。あり得るだろうか? ぶつかったのは前の方だけ。確かに車が潰れはしたが、ガソリンタンクにまで被害が及んだとは考えにくい。そして、警察はろくに調べもせずに、ひしゃげて丸焦げとなった車をクドウに引き渡したという。これで、父が叫んで訴えた整備不良の証拠が無くなってしまった。
 退院してから何度もクドウの元へと通い詰めた。何か知っていることはないか? 車におかしな点は無かったか? 父は確かにブレーキが利かなくなったと言っていたんだ、と。しかし、クドウは聞く耳を持たなかった。運転の腕が悪かったのを車のせいにするなんざ、ろくな人間ではないと言い切って俺を追い出した。
 クドウが廃車寸前の車を買い集めて、ガワだけ綺麗に塗り直し、高く売りつけていることを知ったのはその後のことだ。もっとも、今は警察に目を付けられて、そういう真似は控えているらしいと風の噂で聞いている。クドウの周りでは、警察が嗅ぎ回るぐらいの事故が起こったと言うことだろう。被害者は何人も居るという。
 この世の中は地獄に似ている。
 俺は何もかも投げ出したくて、この街へ引っ越した。それなのに、運命はどうしても俺を再び地獄へ落としたいらしい。
 いいさ、大人しく従ってやるよ。
 そのかわり、道連れぐらいは許して欲しい。



 汚れた前掛けを身につけて、湯気の昇る油をぽたりぽたりと垂らしながらホールを歩く調理人を、周りの客からはどう見るのだろうか。すでに何人もの視線を感じていた。足を止めて驚いた顔を向けてくるグループ客もいる。だが、制止してくる者はもちろん、声を掛けてくる者さえ居ない。案の定、英雄は不在のようだ。
 クドウは熱心な様子でスマホに視線を落とし、周囲の気配の変化に気が付けない。もっとも、気が付いたところで逃がすつもりも無いけどな。

 もう少しで、凶器が届く距離に入る。
 どうせなら、このままやっちまいたい。許しを請うだけの時間も、祈りの言葉を吐く暇さえもコイツにはもったいない。

 さあ、俺と一緒に閻魔に会いに行




♪~~

『トウキョウワンから徒歩5分、立体駐車場完備。全室からフジヤマが見える、まるで映画のような最高の景観を保証致します。周囲360度を24時間防犯監視。どんな怪獣だって見逃しません。安心安全な癒やしの空間を貴方に。
駅前ホテル「進撃の踊る代走ゴジラのホテル」今年5月、堂々のオープン』

『痛車修理に族車の整備、空気入れからバーニングの改造に至るまで、愛車のことなら全て当社にお任せ下さい!安心安全、スピード修理! 高く買います安く売ります
みんなの車屋 クドウ・クルマルク・レヴィオゥサ完璧整備工場♪』

『食材に宿る命をありがたく頂く。素材感謝の精神で 今日も僕らは真っ赤な炎を 天井高く噴き上げます! 油は正義 油は勇気 油が元気に跳ね回る!
炎と油の熱血中華飯店! 「ぃやるっちゅうか屋」 ぜひお越し下さい!』


♪~~




 クドウは熱心な様子でスマホに視線を落とし、周囲の気配の変化に気が付けない。もっとも、気が付いたところで逃がすつもりも無いけどな。
 もう少しで、凶器が届く距離に入る。
 どうせなら、このままやっちまいたい。許しを請うだけの時間も、祈りの言葉を吐く暇さえもコイツにはもったいない。

 さあ、俺と一緒に閻魔に会いに行こう。その時も、いや、地獄に落ちたその先でも、俺はお前を殺してやる。

 鶏油で滑りそうになる手をきつく握り直し、息を止める。

 最後に見る景色は何だ? クドウ。
 俺の景色は、あの時の、真っ赤なままで止まってるぞ。




 握った中華鍋を、俺は高々と振り上





♪~~

『はい!新年おめでとうございますみなさま、こんばんはおはようございますこんにちはみなさま、朝晩の冷え込みが厳しくなってきましたね~みなさま元気に過ごされていますか?みなさま、冬はどうしても体調を崩しやすいんです、朝になると目が覚める、昼にはお腹が空いてくる、夜になるとなんだか眠い、こんな症状に悩まされてはいませんか?みなさま、その症状、善良タンパク質が足りていない証拠かもしれませんみなさま、そんなわけで、始まりました銭箱がぽがぽテレフォンショッピングのお時間ですみなさま、本日ご紹介するのはこちら!丸々と太った鶏!裏表の無い善良タンパク質と、天然由来のカロリーを同時に摂取できると話題の、高品質な新鮮肉がたっぷり付いた無頭鶏1羽!なんと!1羽丸ごとのご紹介です!頭を落として血を抜いただけの安心安全な1羽をなんと、爪の先から五臓六腑に至るまでカチンコチンに冷凍してのお届けですよみなさま、しかも!米国生まれの欧州育ちで頭を切るのはジャパニーズという三拍子揃った格式高い一品でございますよみなさま、春は上司の出世祝いに、夏は打ち上げ花火のお供に、秋は図書館読書のおやつに、冬はアイドルライブのペンライト代わりに、春夏秋冬丸鶏1羽!ですよみなさま、食べ方は簡単明快、まずは解凍ついでにバーナーで羽毛を焼いて、内臓を取り出し――









おわり。

題名
『プロ😎ハラスメンター ~あらゆる真犯人はどう考えても僕しかいない~ 
ウェブ小説の収益向上のためCMを差し込んだったったver.』












2025/11/10 少し書き換え。
2025/12/07 読書実況用に大きく追加。
2026/02/24 少々書き換え

ちとせもり の みちしるべ(ジャンル別一覧ページに飛びます)
  

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花粉症

かわく、二つの窓から部屋へ
もつれる、近視の夜明けを迎え
うなだれる、吹きっ曝しになった
始発にもまた、雨が降る

声は躰のように
再び熱を帯びながら
いっしんに喉元を弾く

とける、肩から足元へ
うもれる、モカマタリの匂い
ひざまずく、光の差さない
密林にもまた、雨が降る

それが、花粉症。

意思の嘲笑われるほかない
脳をこねくり回して、弊害
歴史を遡って、出直したい
唐突過ぎた君との巡り合い

とにかくつらい
ただただつらい
それが、花粉症。

***

創造は神秘を伴って
かたい大地へ流れゆく
万物は命である
とでも言いだしそうな気配で
ならばこれは殺戮なのか
答はない
凍えた色をした
やわな首根っこを引き戻し
いくつになっても
差し出さなければならない骨髄
過剰すぎる私とは違う
彼らは れっきとした生命だ

かじかんだ手を頬に当てて
ハウリングする冬の記憶
それでも、
屑籠に集積していくばかりの季節を思えば。
すがすがしい素顔で、傘を開いて
やまない雨があってもよかった
Eをこおりづけにして
Eをこおりづけにして
Eをこおりづけにして
ねがいを
寒の戻りに込める

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Astrocyte drei

小浦宗次郎の右掌に、「田伏正雄正17面体」は静かに収まっていた。触れるたびに伝わるのは、世界という巨大な法的文書の、冷たい重み。それは彼が背負う「地獄」の秩序であり、同時に、彼の魂に深く刻まれた現実への不可解な罪悪感の証左であった。
斑目・Das Gesetz(法則)との死闘の後、夜霧は一時引いたものの、今は再び、宗次郎の周囲を無関心を装った鉛のように濃く取り巻いていた。
宗次郎の左目が、再び異形の光を放つ。それは、この世の不完全さを正確に測り続ける、悲劇的な「秤(はかり)」の光。その網膜が捉えたのは、音もなく、あらゆる光の粒子を吸収する黒点のように立つ、新たな人影であった。
男は、斑目のような過剰な厳密さとは対照的に、まるで世界が彼に触れることを諦めたかのような、絶対的な「不在」をまとっていた。全身を包む黒い外套は、ただの布ではなく、虚無そのものの織物に見える。
「当該物件の返却義務を確認した。……小浦宗次郎、その絡繰を返せ」
声は、冷たかった。数万ページの帳簿を読み終えた後の、疲れ切った官僚のそれだ。
男もまた、「玉座の支配機構」の頂点、「Die Zwölf Axiome(十二の公理)」の一人。その名は、鹿島・Die Grenze(境界)。その執行において『無相の証明』と称され、いかなる干渉も許さない絶対的な境界線を構築する異能者。
鹿島の腰に、刃物と呼べるものはなかった。彼の武器は、物理的な実体を持たない、純粋な概念の壁。
「貴様らが求める『零の世界』とは、世界から不完全さを削ぎ落とし、不確かな現実を閉ざすこと。だが、それは単なる『生温い地獄』だと、師は言われた」
宗次郎は、自身の内に溜まる熱を、押し殺した声に乗せた。
鹿島は動かない。彼は宗次郎と背後の闇との間に、見えない、しかし絶対的な線――「不可侵の境界」を敷いた。
「それは感傷だ。不完全さとは、帳簿を汚すインクの染みに過ぎない。我らの陛下の世界に、余剰は不要である」
鹿島の指先が僅かに動いた。その瞬間、路地の石畳は光の屈折を拒絶し、物理法則の版図から切り離される。宗次郎の左目の秤が、境界の向こう側を「誤差0」と断罪した。いかなる質量も速度も、その座標に触れた瞬間に「零」へと還元される、絶対的な論理の壁。
「ならば、お前には片鱗も見せられぬな。この境界線は、展開された正17面体の内宇宙すらも分断する」
鹿島の声には嘲りも焦燥もない。ただ、淡々と「処理」を待つ事務的な報告があるのみだ。
宗次郎は右掌の異形を強く握りしめた。田伏正雄正17面体の冷たさが、彼の肌を焼く。
(師は言われた。温い地獄を押し戻すのは、至難であると。ならば――)
宗次郎は、抜刀した。皆伝を受けた太刀は夜の闇を裂く光芒となったが、その切っ先が境界に触れる寸前、彼は太刀筋を「自らの肉体」へと反転させた。
柄を握る手に、全ての力を込める。それは「不完全さの許容」という奥義の極地。世界が内包する悲しみと矛盾、そして「不可解な罪悪感」そのものを、自らの肉体にねじ込む異形な動作。
――境界を、内側から汚染する。
太刀が宗次郎の左肩を浅く斬り裂いた。その瞬間に噴き出した一筋の血潮が、鹿島の築いた完璧な論理の帳簿に、計算不可能な「負債」を塗りつけていく。
境界線が、微細な「揺らぎ」を見せた。完璧だったはずの壁に、宗次郎の罪悪感から生まれた血のシミが、消えない汚れのように付着したのだ。
その一瞬の揺らぎを、宗次郎は見逃さない。
「地獄の熱は、自らに負債を負うことでしか、押し戻せぬ!」
宗次郎の太刀は、もはや物理的な刃ではない。それは、世界が彼に課す不条理の目録。彼自身の悲劇的な秤の光が具現化した、「自傷の熱」。
ガチンッ。
音は、硬質な衝突音ではない。それは、世界という整合性がひび割れる、不吉な軋み。完璧な境界の概念が、予期せぬ不完全な血の熱に触れ、論理の限界を超えて崩壊する断末魔だ。
鹿島の黒い外套が、静かに霧の中に溶け始めた。彼の体は両断されたわけではない。宗次郎の血が塗りつけた「不完全さ」によって、彼が体現する「境界」の法則そのものが内側から瓦解し、存在の領域から拒絶されたのだ。
「……余剰が……余剰が、発生して……」
鹿島は最後にそう呟いた。彼の肉体は、シュレッダーにかけられた機密文書のように、端から虚無へと裁断され、夜霧の中に消滅した。
宗次郎は、深く息を吐いた。左肩の傷から流れる血は、もはや痛みよりも、不可解な満足感を伴っている。
夜霧は、相変わらず鉛のように重い。宗次郎は、腰にぶら下げた正17面体を見つめた。その冷たい金属は、彼の体温に触れ、わずかに、しかし確実に熱を帯びていた。
そして、宗次郎は、再び吠えた。
その声は、己の欲望かもわからない熱を紛らわせるためであり、田伏正雄が統べる世界の柩を背負い続ける、悲劇的な決意の証明であった。

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寒花晩節 ーー 俳句十五句 ーー

寒花晩節 ―― 俳句十六句 ――


笛地静恵





冬ごもり骨の不在を嘆くのみ



足もとをすくわれ金の金魚玉



アスファルト皮膚ひび割れぬ小鳥網



雪煙おとこの肌を神あさり







東京と夜店と海とつばくらめ



精米の小屋の匂いの夜長し



花火師はもう帰れない神の留守



天ぷら屋ふりむけば十六夜の月







キンキンと杉板の眼の除夜の鐘



菊根分問題はなし容姿のみ



東北の森の祭りへもろこし屋



同類の家焼き払いシャクナゲだ







貧窮の問答はせずカラスの巣



イオカステ荒れ野に剣のイオマンテ



ザクザクと雨風は打て氷湖まで



とりいそぎヨモギの市へ二輪車で





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ユビキタス、雑念

詩を詠む欲望があるとすれば、それ以外の欲求がなくては言葉もなかなか生まれない。はずだ。ほとんどの場合、地下鉄から吹き出てくる生温い風、スモーキィな空模様を呈する早稲田駅前交差点、みっともない、よれた通学路に挟まった笑い声。有刺鉄線の向こうに桃色の春。街は歩く、街は衒う、青春のくせに、間違わないからこうなる。しかし、冬の残り香をしずかに吸い込んで、マイヤーループから氷点下の視界、網膜に光を閉じ込めて、私は何も見ていないのに、遊具の剥奪された公園の真ん中で、どうして知る由もない光景が手に取るように判るのだろう。

季節はずれの鳳仙花が、ここにはたくさん咲いている。触れられる近さに困惑させることになろうとも、私をひた隠しにする、育ちの悪い、十一回目の太陽を両手に包んで、居る。
指からこぼれていく夕方、インモラルに遡っていく脈拍、行き掛けに受け入れてしまうような軽さ、染みつくような朦朧と揺蕩、たとえとりかえしのつかないことなど無いと言われても。流れゆく誕生日を拾い上げて、やっぱり代わりなどいない。耽美な感情は再び世界の戸を叩く。ありきたりな言葉になる前の、ささやかなねがい。
横断歩道を反復横跳びで、ポニーテールは揺れ、重力すら演出のようで、赤信号だけが今起きたような顔をしている。来世はライムライトの朝になって、1/fゆらぎみたいな詩をみんなに書かせたい。
うん、だめだね。すきま風のない家なんかに、間借り罷り通る中に智慧、見栄、にべも無い語彙にひれ伏すだけの。じゃあ、正解なんてどこにあった。皮膚にざらつく罪と罰。からくりのように夜は更ける。
そうは言ってもウィキペディアが無ければ今の半分もものを知っているだろうか、なんてことないと思っていると、知れば知るほど真実と呼ばれるなにかに迫害される。なにか。嘘がいい、どうせ嘘みたいな存在だから。連想ゲームのように、泥沼。それでうわべのまた明日。

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ケモミミ少女 早苗

獣耳と書いてケモミミと発音する。
アニメやゲームなどでは奇矯なキャラが頻繁に登場するが、少女などの頭部に動物の耳を付けた姿を見かける機会は多いと思う。その耳をケモミミと呼ぶ。

最近私が観賞したアニメのうち、印象に残っているケモミミは下に挙げる10キャラである。
いきなりだが、私にはケモミミに執着する性癖がほとんどない。
つまりケモミミを選んでTVアニメや映画を観ているのではない。
また、ケモミミの少女が3次元にはいない、したがってケモミミとは極めて特殊な意匠であるということも重要だ。
それらを考慮すると、たちどころに下記10ケモを私が思いつくということは、これは相当多い数だと言える。
いないんですよ、ケモミミ少女なんて。しかも私は別にケモミミが好きじゃないんです。それでも10キャラですよ!何その呪い、怖い!!!って思いますよね、洗脳かよ!って、仮にあなたが私なら。あなたは私ではないので思わないでしょうけど。
ケモミミは、もはや【呪術】と言ってよいほどの強力な「萌え」を日本国に及ぼしたのであり、社会に深く浸透しているのだろうと思う。思う、というかこれは良いか悪いか、性質ははっきり述べないが、呪いであることは間違いない。私はケモミミなどぜんぜん好きではないので、どうでも良いのではあるけど。
―ちなみに大島弓子の「綿の国星」の諏訪野ちび猫嬢はアニメ化されていない。だが、あまりにも可愛いので下記に混ぜておく。

(ケモミミキャラ)

犬:犬夜叉(犬夜叉)
猫:キャサリン(銀魂)、りつ(ケムリクサ)、諏訪野ちび猫(綿の国星)
狼:ホロ(狼と香辛料)
狸:まめた(うちの師匠はしっぽがない)
狐:子狐(夏目友人帳)、大黒亭文狐(うちの師匠はしっぽがない)
馬:サイレンススズカ(ウマ娘プリティダービー)
不明:ななち、姫(メイドインアビス)

このように列記すると、等しくケモミミキャラでも、容姿も役柄もだいぶ違うことがわかる。
と、いうより、ぱっと見では動物種を超えた共通点が無いように見えるだろうと思う。

たとえば猫については「賢い」という特徴が一応は見て取れる。受験とかIQとかで測れる賢さとは違う意味でだが、人生経験豊かなキャサリン姐さん(銀魂)も、おっとりお姉ちゃんに見えて判断は超絶早い「りつ」さん(ケムリクサ)も、この世の悲しみを地の底まで見通すちび猫嬢(綿の国星)も、とても賢い。
だがその特徴は「しっぽな」のマメタ(狸)や、夏目の友達の子狐には共通しない。逆にマメタはおバカさんだから愛される。子狐は泣き虫なのに健気なのが良い。
ケモミミキャラは賢いから流行っているのではないのだ。

言い方を変えるなら、キャサリン(銀魂)とホロ(狼と香辛料)が役を交換してみたらどうなるか?
想像してみて欲しい。完全にぶち壊しで、荒れ地に草も残らない。
銀ちゃんとホロでは殺し合いしか起きないし、ロレンスとキャサリンならどっちかが泣かされてどっちかは邪悪に笑う。
他のキャラ組み合わせでもそうだ。上記ラインアップは共通点など見当たらない(ように見える)のに、なぜこんなに多くのキャラがケモミミなのか?
その問いに答える目的で、これらをキャラではなく、萌え要素で私なりに分析してみたのが、以下である。


(抽出元:萌え要素)

狐、猫、馬 :様式過剰な服装(しばしば和服)
狐、馬   :第一ボタンをしっかり締め、胸元を開かない
狐、狼、馬 :ストレートの長い髪
狸、犬、猫 :ウエーブの髪かショートヘア
狸、狼、馬 :大食い
狐、狼   :大口
狐、狼   :細目(引き目)
狸、猫   :丸目
猫、馬   :可愛い靴を履いてる
狐、犬、狼 :感情の幅が大きい
狸、猫   :防衛本能が攻撃に転化しやすい
狐、犬、狼 :そもそも獰猛
狐、狼、馬 :愛情が深い
犬     :ご主人様に従う
犬、猫、馬 :眼の色、靴などが左右で違う
狐、猫   :移り気
犬、馬   :いったん着手すると高い集中力でやり遂げる
狸、猫   :すぐ怠ける
狸、犬   :失敗が多い
犬、狼、猫 :性格が明るい

この表の通り、ケモミミであることが何を意味するかは、獣種によって異なるとしか言いようがない。
だがこのラインアップからは、うっすらと人物像が浮かんでくる。

ケモミミ少女はころころと気が変わるが、根が正直なので彼女がどんな気持ちなのかはバレバレである。
目の大きさやルックスは人それぞれ、靴は可愛いのを履いている場合も多い。
感情の起伏は大きく、すぐ怒る。
そして注意力や集中力についてはADHDの傾向を示し、それは欠点ととられることも可愛らしさととられることもある。
だが、その気になれば異常な集中力で、定型発達的な人間キャラには達成できない事を達成する。

そうしたことを「予感」させるのが、ケモミミなのだ、と考える。
そして、それが具体的にどんな物語にどんな影響を与えるのかは、すなわちどんなエピソードとなるかは獣種によって全く方向性違うし、個体差も大きい、違っても構わないのだと考えてみる。
そう考えてみれば、そうか、と思うだろう。
とにかくケモミミが観客をひきつける魅力の一つではあると、概ねは理解できた。

ところで、3次元に目を向けてみると、現在ひろく知られているケモ的なキャラといえば、何と言っても天下のキツネ女こと高市早苗氏であろうと思う。
もちろん、あれはウマずらともいうのだが、アニメのキャラの例に、儚くも美しいスズカをだしてしまった手前、そうは言いにくい。スズカの悪口をいうやつを私はどうしても許せない。たとえそれが自分であってもだ! と、いうような、そんな気持ちになりたくないので、馬ではなくキツネという事にして考察をすすめよう。

高市氏は非常に高い支持率が報じられているが、その人気は政策の支持ではなく、推し活であると言われることがある。おそらくは完全にそうではない。私には高市氏の政策の良さはわからないし、氏の政治信条には反感しかない。だが高市氏の政策や政治思想を支持している人もいるには違いない。しかし、それを論じるのではない手法をここでは試みるので、賢明なる読者は下記をご検討いただきたい。
もしも推し活なのであればどうかと、あくまで仮にだが仮定する。そして思考してみる。これを思考実験とか、実験的批評というだろう。

もしも支持ではなく「推し活」だという言説が多かれ少なかれ誰かには当てはまるのであれば、それならキャラ個性ではなく、キャラの持つ【要素】で推されているはずだ。
そこでここでは高市氏はキツネの一種であると仮定して、まずは上記のケモミミの萌え要素からキツネが当てはまる要素だけをピックアップしてみる。

(上述の表から、狐該当業を再掲すると下表のとおり)

:様式過剰な服装(しばしば和服)
:第一ボタンをしっかり締め、胸元を開かない
:ストレートの長い髪
:大口
:細目(引き目)
:感情の幅が大きい
:そもそも獰猛
:愛情が深い
:移り気

やってみて、なるほど、そういう風に見るとそう見えるか、と思った。
これが政策や人格を見ず、萌え要素だけを見た高市早苗氏だ。
こういう萌え要素をもつ狐キャラは、確かに根強い人気がある(総理大臣に向いているかどうかは別だが)。

なお、多くのアニメで狐はいじめられっ子キャラでもあり、苦労人キャラでもある。
夏目の子狐はいじめられっ子であり、しっぽなの師匠も苦労人だ。だからなのである。これに対抗しようと思って強烈な批判をしてしまうと、観客の手で、いじめっ子席に座らせられる。
それがキツネだ。

さて。ではどうしようか?

冷静に考えてみよう。
あなたはある動物村に住んでいるとします。
投票で王様を決めることになりました。
誰に投票しますか?

狼、狐、狸、犬、猫、馬

キャラは不明のまま、萌え要素で投票するなら、です。

よくよく考えてみてください。ここからは賢明なる読者諸兄にゆだねて手渡します。

狸ですよね?

狸いいと思いません?
狸むすめ、可愛いと思うなあ。

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 6

 6

批評・論考

コタツよな

コタツよな
温もり集う
牛団子
丸くなっては
眠くなってく

焦げるよな
赤熱線に
牛あくび
重なり合って
仲良くイビキ

雪が降る
黒毛の上に
粉砂糖
それでも眠い
ヒーターの下

あぬあむと
眠りなまこで
反芻し
知らず食みたる
となり牛耳

餅のよに
くっつきあって
目をつむり
犇めき合って
また眠り付く





辛うじて
繋ぎとめたる
命あり
祈りと共に
スイッチ入れ

原子力
石油石炭
火を灯し
紡ぎたりたる
子牛の命

温めた
点滴吊るし
牛の中
生食水に
祈りこめたり

夕日よな
ヒーター灯し
朝日よな
ストーブ燃やし
体温上げろ
今 今 生きろ

冬になり
ヒーター縋る
子牛たち
続けよ続け
牛たちの命

 100

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 5

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大きな紅葉の木の下で

この舞華町には、大きな大きな紅葉の木がある。その大きさは、街の空を全て覆ってしまうほどだ。だが夏は葉が暑さを和らげ、冬は日光を通して寒さを和らげるため、人々の生活に欠かせないものだった。

そんな紅葉の木の葉が赤くなり始めた頃に、父の危篤の知らせが届いた。
慌てて駆けつけた病室内には、ベッドに横たわる父の姿があった。父に必死に話しかけても、反応はない。もう時間の問題なのだと悟った。
その後ゾロゾロと親族が集まり、皆父のことを見つめていた。
そして、ついにその時が来てしまった。
だんだん生気を失っていく父。頰が黒い粒に変わって、ボロボロと崩れ落ちる。それに続いて、腕や足、肩、太もも、お腹も黒い粒に変わり、崩れ落ちる。その黒い粒は砂のようにサラサラしており、きっと手で掬い上げてもすぐに落ちてしまうだろう。
やがて、父の髪も顔もからだ全て、黒い粒となった。

──父は肥料になってこの世を去ったのだ。

そう思ったが、すぐにその考えを否定した。

──紅葉の木の一部になっても、父は生きているのだ、と。

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証言としての文学

性と死というテーマは安直だと批判されたこともあるが、私はこれらを扱うのが宿命だと思っている。これまで出会い系サイトのこと、女性用風俗のこと、またCSA(チャイルドセクシャルアビューズ,児童性的虐待)のサバイバーとしてのいくつかの作品を書いた。ウェブマガジンあさひてらすに『美しい祖父』の題で掲載された詩もそうだし、このサイトでは『水入らず』や『不眠症の少女の詩』が当てはまる。また『ティーチャーズ・ペット』は成人後受けた師弟関係にからむハラスメントを学校での性被害に置き換えたものだ。
詩の読み書きを教えてくれたのは虐待した祖父だったし、言葉を呪いながら言葉に縋りつくいびつな生き方をしている気がする。それなりに名前の知れた研究者の彼は私を膝に抱いて本を読みながら、私の服の中に手を入れていた。詩を書くたび七歳の自分に戻っている。
いや、不正確だ。身体を触られているときはいつも「私ではないほかの女の子」になっていた。私は後頭から彼女を眺めていて、一連の行為は風景のようだった。書くことは幽体離脱の状態から自分自身の身体に入りなおすことに近い。
言葉の存在と取っ組み合いながら、知を受けわたすさまはどうしてこんなに交接に似ているのだろうと考える。お勉強はできても幼な子の痛みに対しては鈍い"先生"はあれとこれとをまちがえてしまったのか。
私は精緻さを大切にしているから、自己憐憫は邪魔になる。吐露したいわけではない、証言がしたいのだ。
「きみはあの日なにを見たの?」
司法面接でも受けてるみたいに、詩を書く。

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批評・論考

春やってきた   真暗な道に
静かに静かに広がった
くらくらするよ   風もないのに
街灯の光ざわめいた

追い抜かれてはかけ離れた
春やってきた   花も咲かせず
気づいたが今   もう挙句
新幹線が   春の音

春やってきた   真暗な道を
君と歩けたらどんなにか
なんて相手も見つからぬけど
くらくらしたまま笑います

春よ広がりどこまでも
わたしは口を開けたまま
草原の一匹羊みたいに
ひとり座ってしまいます

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藍色

情報の大海原が
独りの空間を与えてくれる
海に沈む夕陽を眺めるような
エメラルドグリーンが
オレンジから藍へ移りかわる
グラデーションを追うような

波打ち際
遠浅の浜辺を素足で
バシャバシャと駆けてゆく白い指
待って 待って と
風に乗る帽子に伸ばす腕
間に合わない
届かない
肌が小麦色になる前に
夏は過ぎぬ

燃えるような夕焼け
とんぼ
紅葉の落ちる カサっという音
フレディ

落ち葉を集めたら
パチパチ
焚火はあったかい
静まり返った冬の日に
ふいごの風で息を吹き返す

朝昼夜へ眠る藍
独りの夜に眠る愛

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図書館

缶で飲む赤ワイン
山茶花の濡れるような枯れ方に好意を示す夕陽が黒い靴下か白い靴下を選ぶ日々に延びる
ひなんばしょになる図書館に鯨の化石/猫背の完成形を探す芸術とスポーツが同じ括りならば
BGMにされてしまう音楽たちを殺してあげようね
猫が一匹死んで牛が千匹死んで
どうしても見つからない本が数冊
調子悪くてあたりまえ
進化したら馬鹿にされても良い気分
退化したら馬鹿にされても良い気分
予約制の天国に興味なんかない
みんなが静かに勉強してる
トイレに行きたくなったら行ってる
そのうち覚める夢を見るように
そのうち死ぬいのちを保つだけ

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家業

病みに病んで、記憶のないあいだにボロボロの個展をし、
アーティストとして二度と復帰できない失敗をしたあおいうには、
実家へ強制送還されることになった。

母の運転する車で帰る。
その車すら「家業」仕様に改造されていて、
付き添いの人がドアに手を挟まれかけていた。
安全よりも、機能が優先されている。

実家は変形していた。
はなれは消え、庭は異様に広がり、
無数のこけしが立ち並んでいる。
家の中は迷路のように複雑化していた。
「外敵」から身を守るためだろう。

おじいちゃんもおばあちゃんも生きている。
まずおばあちゃんに会い、抱きしめる。
おじいちゃんを探して、私は長いハシゴを降り、地下へ向かう。

妹は見える場所で着替えている。
それを囃し立てると、逆ギレしてくる。
いつもの挨拶だ。

だが妹は、二歳児ほどに縮んでいた。
姉も十六歳くらいにしか見えない。

「家業」を継いでから、若返ったのだという。

そしてもうひとつ。
姉妹には「うに化現象」が起きていた。
顔立ちも、目の光も、話し方まで、
少しずつ私に似てきている。

私の複製のように。

とりあえず今日は疲れた。
泥のように眠る。

朝四時。ベルが鳴る。

妹と姉は跳ね起き、無言で「修練着」に着替える。
「うにもだよ!」
「えっ、私も?!こんな早く?」

修練着をまとった二人は、
シュタタタ、と異様な速度で
複雑化した家の最上部を目指して駆け上がる。
長い、長いハシゴ。
転びそうになりながら、私は必死で追いつく。

頂上には、まっ白く広大な空間が広がっていた。
そこで「修行」が行われる。

「家業」は、トップレベルのアーティストよりも稼げる。
だが「修行」に失敗すれば、
天災が起きる。
多くの人が死ぬ。

その重さに耐えられず、
私は幼少から「修行」をさぼっていた。
だから東京へ逃げ、アーティストになった。

だが、ひどい個展をしてしまった。
もう干されるだろう。

だから、実家へ帰るしかない。

今後は、「家業」を継ぐ。

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愛情Ⅱ

青春とは望まれない赤ん坊のことだ
海峡の光を抱えきれぬ子の胎にも鯨はいるし
哺乳類の口が月に似てあえぐとき
やっぱり生きているとわかる
螺旋階段はしんと冷え
波間に人がゆれている
それぞれに星を傷痕として負った鳥たちが
男という字で飛んでいて
私たちは手を繋いで降りる
愛でもない 恋でもないのに
指の間の水かきのところに
全宇宙の存亡がかかっていた
(できるだけひどく抱いてね小父さん
もっと奥まで暗い空を突きこんで
あなたの鯨をぜんぶ見せてね
そして生き物の生き物たるゆえんの
水しぶきの国を分かちあって
よく理解できたふりでバイバイね)

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愛情Ⅰ

ラジオの天気予報は雨
とべないアニマとアニムスは
朝の鱗粉にまみれて
合法の幻覚剤のように
森林が熱く湿り
腹いっぱい夏を飲み干すのを見た
羊歯の葉に嬲られるオランピアを
土壌微生物の理性なき繁殖を見た
ふたりはいちじくのジュース 音楽 旅
森の人里近いところで
ばらばらに死んでいる一頭の蝶
やがてみずたまを走ってくるサイレン
(自身という名の恋人よ
野生の宇宙へかえろうよ
きみに処女と童貞をあげて
水晶の船を漕ぎすすむ
まぐわいながらすすもうよ
私たちの翅はもうつかえないから自由だよ)

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小さな夏の牛

ちりちりと刺す日差しが むずがゆく感じる日
とある山荘に いきました
野花が広がる 高原に
ぽつりぽつりと うごめく影
近づいてみると つぶらな瞳でこちらを見てきます

私の目を ただ見る牛や
手のにおいを かぐ牛
私の存在などどうでもよい
そんなふうにいる牛も
いました

私はそんな牛たちをながめ
ただぼんやりと
人のいる現世に戻りたくはないと 感じながら

心地よい関心と無関心の中で
深呼吸をしました

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いくら名詩と誰が申しましても

長いね

一言の感想

詩を読まぬ母は

わたしに必ず言うのです

なんとなくなふりをして

わたしも深く深く
頷くのでした

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こ、とわり

すべてはかがみ

もういなくなった実姉ではない
姉が残した言葉

「何が足りないと言うんだ?」
一番愛して愛した愛すオトコが
わたしにいって
 
いま
はなれてしまいそな
実妹ではない魂のsisterに
「すべて持ってるじゃない!」
と斬りかかる

わたし(たち)は
かがみのまえにたつ
めぐりめぐるまなびすたるため

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ことばのふりをして

誰を
撃たんかね
鹿でも
撃つた顔をして
あんたも
撃つたのかね  

ことばのふりをして

転がる
薬莢
だらり
目を細めて

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即時一杯の飯に如かず②


 第二話「朝ごはん」

 俺は趣味でキッチンに立つ。
 毎日の日課で弁当も作る、大袈裟にいえば料理研究家だ。客人を迎えてもそれは変わらず、冷蔵庫から北海道産大豆使用の白みそを取り出して一言。

 「白鳥、お前なぁ……」
 「お説教はもういいです。ちゃんと責任取ってくださいね」
 「何もしてない」
 「嘘、何もしてない証拠あるんですか?」

 そんなものどこにも無い。
 布団に潜り込んでからの出来事は伏せるとして……ハワイコナが苦くて飲めないと不機嫌をまき散らす白鳥の前に皿を並べる。
 目玉焼き、ショルダーベーコンの素焼き
 ストックしておいた作り置きに、納豆、キムチ。
 無難な朝食を前にして「いただきます」手を合わせてから箸を取る。

 「料理上手いんだね」
 「趣味みたいなもんだ。おい」
 「なに?」
 「納豆はもっと混ぜろ。最低30回、空気を含ませた方がマイルドな味になる」

 手本となる器の中身を覗き込む素直な様子に、反射的に頷いてみせる。
 箸の使い方がなってない。
 握るな、寄せるな。
 現代人の孤食に歯止めが利かないのは親の躾の範囲じゃないとしてもこれは酷い。余所ン家で一晩世話になっておきながら未だお礼の一言も無しに皿に口をつける威勢のいい食べっぷり、俺より頭二つ分小さいのに随分な貫禄だ。
 茶碗に炊飯器の米全部入れたと思われる様子の白鳥が着席、また食べ始める。

 「キムチまだある?」
 「無い。これ食べていいぞ」

 大袈裟にして見せるけど最初から貰う気でいたのか、天然過ぎてもうわからん。

 「いいなぁ、絢斗の彼氏になったら毎日美味しいご飯食べれて」

 あ、絢……下の名前を呼び捨てにされて、視線が合わない。
 ゆとり世代を弊害とは言いたくないが、彼女ではなく彼氏、どうあっても自分基準で何の脈絡もなく話し始めるモンスターは狙った獲物を残さず食べて舌なめずり、米粒を舌で浚っていく。
 見ないようにしたが、不覚にも箸が止まってしまった。

 「洗い物は俺がするよ。一食一泊の恩義、だっけ」
 「いい。片付けは俺がやる」
 「じゃあシャワー浴びてきてもいい?それとも……」

 前に回り込んで胸から下に滑り落ちる指に咳払いをひとつ、逃げ腰でシンクの前に立った。やめろ、そんな目で俺を見るな。キムチ納豆食った男とキスはご免だ。

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[さ]咲

朝 鳥 声 人
 本 糸 毬 猫
花 頬 君 手
 熱 血 骨 心
恋 言 涙 新
 夜 月 子 光
森 息 傷 金
 羽 影 青 土
星 時 穂 影
 朔 音 窓 僕
愛 愛 ごめん 嘘

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四重渓温泉

私は朝、朝食を食べてから北投駅まで、宿の親父に送ってもらった。
車はフォードのセダン。20年くらい前のだ。頑丈な車。

高架になっている北投駅から、赤の路線のMRTに乗って、台北駅まで行く。
地下から、駅のコンコースに向かう通路には、少し前は盲人のマッサージ店なんかが軒を並べていたのだが、東南アジアの食材を売る店がどんどん増えてきた。
ここは都会の女のにおいはしない。香辛料と、汗、そして腋臭のにおいもする。

まだのこっていた盲人マッサージの店にはいった。視障按摩という看板がかかっている。
施術台によこになって、待っていると肩をぐっとつかまれた。
あちこちを撫で回し、押して、そしてどこが疲れているのかをつかんで、その周辺からほぐしていく。本当に台北駅の按摩さんはうまいんだ。

「先生、東京だな」

先生という、一般的な男性の敬称をつけて、按摩さんはいう。

「うん、わかりますか」

北投温泉につかって、旧友と台北の殷賑を数日堪能しただけでは、体にしみついたにおいは抜けないらしい。
東京の同僚のS女史が、高級ホテルでのスパなる施術に夢中で、頭に油をかけてもらう、そうすると何もかもが流れていくと話していたのを思い出す。

ぐい、ぐい、ぐい。
按摩さんが押すたびに、いろいろなものが流れていった。

台北駅の切符売場につく。在来線は隅っこの薄汚い一角にあるのだ。
自強号という特急列車で南に行こうと思ったら、ちょうどいい時間の列車がない。
仕方がない。

新幹線のチケットはもうスマホで買えることをおもいだして、台湾の高速鉄道のアプリで、左營(高雄)までの切符を買った。
そして、新幹線に乗るために、コンコースに出ると、そこには巨大なチェス盤のような、あるいは精密な碁盤の目のような床が広がっている。
吹き抜けの天井は、無駄に高い。

その整然としたグリッドを埋め尽くしているのは、鮮やかな紫や黄色のヒジャブを纏った東南アジアの女たちだ。
彼女たちは誰に遠慮することもなく床に座り込み、タッパーから溢れんばかりの異国の菓子や料理を広げ、喧騒の中に身を置いている。

新幹線に乗り込んだ。甘いマンゴーのかおり。もう、あの香辛料と汗と腋臭のにおいはしない。
台北駅は、東南アジアから住み込みの家政婦として台湾にきた女性たちの憩いの場になっているのだった。来るたびに規模が大きくなっている。
子が父母の面倒を見るべしという価値観の強い台湾では、東南アジアの女性を女中として家におくことで、子は義務を果たしたことになるのかもしれない。

新幹線は速い。あっという間に台中だ。大きな化学工場が見えた。
黄金の時代、何をやっても儲かった時代があったという。日本も、台湾も。
そんなことを考えているうちに、景色はブロックを積んだ家と、水田が連なる田舎にうつっていく。

そして高雄について、三越前のいつものレンタカー屋で車を借りる。
今回は、トヨタのヤリス。係員はもう慣れたものだ。日本の免許証の翻訳文のコピーをさっととって返した。
高速に乗って、あっという間に屏東、そして下道で車城まで一気に南下した。
山のほうにいく道にはいって、少し走れば四重渓温泉だ。

この山の麓にある寂れた温泉街に、友人の国民学校の先生がやっている温泉宿がある。
日本時代からの歴史がある、清泉旅館のすぐ前だ。
硫黄のかおりのとろりとしたお湯につかって、友人の帰りを待った。

銀縁眼鏡のほぼ同い年の先生は、夕方にはやってきた。
挨拶を交わして、お互いに近況を話し合う。

「今度ね、昇進するんだよ」
「おめでとう」

友人の昇進を心から祝った。

「ようやく、結婚できる。でも金がかかって仕方ないね」

お廟で撮った婚約者との写真を友人は見せてくれた。丸顔の、健康そうな女だった。
そうして酒はビールから、高粱酒になる。接着剤のような香気がする酒だ。
盃を干すうちに、お互いに本音が出てくる。ここでもボーイズトークだ。
我々は英語で話している。つまり、内容のわかる人間はこのあたりにはいないのだ。

「僕はね、教え子に頑張って勉強していいところに就職しろと学校で言っている。でもね、どうせどこに行っても最低賃金の仕事しかないのだから、このあたりで家族と暮らしたほうがいいというのが本音さ」

「ああ、台北のマクドナルドの時給は130NTD(約650円)だったよ。いまも22K問題のようなものが、台湾にあるのだろう」

「政府は22K問題はもうないという。けれどね、それは23K問題、24K問題になっただけさ」

友人は、若者の給料が最低賃金にはりついている問題について、かなり本音をぶちまけた。
そして我々は盃を重ねて、男の生きにくさについて不満をぶちまけた。
つまみは、八角のきいた、豚の耳やゆで卵のごった煮。
壁には大きなヤモリがはりついていた。
そして酔っぱらった友人は教師の声になっていった。

「君、また夜中にエビ釣りにいくのだろう、やめ給え。あれは不良のすることだ」

けれど私は夜中にスクーターに3人乗りしてエビ釣りにくる色黒の少年たち――おそらく友人の教え子と思うのだが、車城の市場で拾ってきた魚の内蔵を赤く染めた餌をいつもわけてくれる少年たちは、不良とは思えないのだった。


続く

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愛の具現化


もらい泣きとは背嚢の澱みが浄化される涙だ
訣別に啜り泣きが止まらないのは血の涙だろう
兵士が息絶えるときに神様とは呼ばなかった
ママン、磔刑の下で項垂れる罪人の喉元から
死刑執行人は微かに嘆く聲を聞いたのだ
震える空を駆け巡る響き
やがて大地は切り裂かれ
洪水に洗い流されるとき
言葉は祈りを捧げる像(かたち)
旅の先で涙を捨てにくる人々
祭典の旗標が感動の涙に幕を終える
風もない夜に通り過ぎる轍
路の端で風車が泣いている



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豆苗


ゆれゆられみゆき
    あまめさう蓮華
  にもしびにともり
        ためろうことなかれ
   わらべにも育つうるわしき
 水おもう豆苗のむら


 
  

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禁じられた詩吟

分裂少年は引鉄に指を駆け、言魂を放つ
孤高の奇体はヴォルフスシャンツェ
稀代の妄執はアッテンタート
禁じられた詩吟はアインザームカイト

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主張強めの文芸投稿サイト運営者日記(2月21日分)詩投稿サイトの政治性について

オンラインの詩投稿サイトについて話すとき、ときどき「運営は政治的だ」という言い方がされることがあります。ただ、その「政治的」という言葉が、具体的に何を指しているのかは、案外はっきりしていないのではないかとも思います。なんとなく雰囲気で共有されているけれど、きちんと言葉にされることはあまりない。


今日は、そのあたりを少しだけ語ってみたいと思います。


振り返ると、オンライン詩投稿サイトで「政治」が話題になりやすかったのは、すでに無くなった文学極道と、機能停止の可能性が高くなったB-REVIEWの二つでしょう。どちらも「政治的」と言われましたが、その中身は違っていました。


文学極道は、とくに後半になるとかなりクローズドな運営体制でした。誰が運営しているのかもよく分からない。どういうプロセスで判断が下されているのかも見えにくい。なぜあの人はアク禁なのか。なぜあの人の作品はよく評価されるのか。外から見ると、判断の基準が見えにくい。


特に、運営者が半ば投稿者との対話を忌避していたのも「政治的」にみえる要因だったかもしれません。
運営に物申すと、「その話題はフォーラムでお願いします」と言われ、フォーラムに書くと「このスレッドでお願いします。書く場所が違います」と誘導され、ようやく該当のスレッドに辿り着くと1週間近く放置された上で梨の礫のような回答が返ってくる、不条理コントのような対応も珍しくなかったのです。
おそらく、その閉鎖性が「政治的」と感じられていたのだと思います。


一方のB-REVIEWは、あらゆる意味で文学極道のアンチテーゼとして始まった場所です。「マナーガイドラインに合意する者なら誰でも運営になれる」という仕組みを採っていました。運営の閉鎖性を徹底的に壊すための設計だったわけです。


その結果、実に多くの人が運営に関わることになりました。結果として、
サーバー、ドメイン、銀行口座、公式アカウント、管理パネル――それぞれの所管が分散し、複数人が関与する体制ができあがったわけです。


運営は1年くらいのスパンで次々と引き継がれていきました。
引き継がれても、所管の一部が過去の運営の元に残っていたり、あるいは過去の運営に照会しないと進められないオペレーションも生じたりします。
結果、いま誰が関係者なのか。誰がどの程度の影響力を残しているのか。外から見ると、何か見えない政治的な力が渦巻いているように見えたかもしれませんね。


「マナーガイドラインに合意する」これが担保されるからこそ、誰もが直ぐに運営になれてしまう、そういう構成です。
だからこそ、マナーガイドラインに違反するような運営をやらかしてしまうと、過去の運営者、関係者らからの協力は途絶えます。


大仰な言葉を使えば、ガイドラインは、ある種の聖書であり踏み絵のようなものだったとも言えるかもしれません。手を挙げれば、驚くほど簡単に運営になれる。だが、ガイドラインを違反した瞬間、協力は得られなくなり、管理コストが一気に膨らむ。だからこそ、ガイドラインを維持することが、コミュニティ管理の観点でもひたすら重要になってくるわけです。


マナーガイドラインという内部の合意構造を壊した瞬間にエコシステムが軋むという意味で、独特の政治力学は確かに存在しているといえるかもしれません。


だからB-REVIEWにとってガイドラインは、フリーメイソンの合言葉のようなものだった、というと言い過ぎかもしれませんが、しかし、Creative Writing SpaceがTabuseという謎のミームコインを発行し、そのもとでの分散型の統治などを構想しているそのセンスとは何かしら合い通じるものがあるかもしれないと今、感じているところです。


ある種の思想、ノリ、原則、そうしたものを核に据えて、それ以外は一切何も条件を問うことなく、顔も知らない者同士で独特のコミュニティを作っていくような思考は、マナーガイドラインからTABUSEへと引き継がれているかもしれません。両方とも、初期のデザインを考えたのが私なので、花緒の思考の癖のようなものがあるかも知れず、注意が必要です。


現在、B-REVIEWは、文学極道出身者が乗っ取り、運営の立場に立てばなんでもできると誤解したのでしょうね、ガイドラインを無視する運営により、文学極道化を推し進めるような運営をやったが故に、必要な協力が途絶え、時には嫌がらせのような措置まで始まり、結果、運営コストが急増して瓦解することになりました。乗っ取った運営の大半が音信不通状態。おそらく、機能停止に向けて対応が進んでいくのではないでしょうか。


さて、では我らがCreative Writing Spaceはどうあるべきか。
現在は運営2名+相談役2名の体制ですが、実際の方針決定は花緒が多くを担っています。昨年のアクセス禁止対応など、外から見れば恣意的に感じられた部分もあったと思います。
その意味では、完全にオープンな運営とは言えません。


ただ、スペースコインやTABUSEのような仕組み、そしてこうした日記投稿を通じて、少しずつ「参加している感覚」をより共有できる場にしていきたいとは思っています。政治性は、おそらく完全には消えません。どんな場にも、判断があり、設計があり、方向性があります。


でも、それを隠すのではなく、言葉にして共有し、議論し、なんならレスバトルをやったっていいじゃないだろうかとも思っています。単に荒れているだけの議論にしかならないか、あるいは、議論を通じて、考え方が磨かれていくか。後者になるなら、白熱した議論だって当然ウェルカムですし、その中で花緒への批判・罵倒があったって全然構いません。


では今日はこのあたりで。
風邪もだいぶ良くなってきたので、美味しいものでも食べに行こうかな。
また、ぼちぼち書きます。Bye.

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批評・論考

死ぬな蜚蠊よ

室外機の錆、抜ける蜚蠊の健気さよ
アジアの飯を食らう、隣の佳人に目もくれず
目だけが正直で、目だけが嘘をついた
雨の変わりに舌が降ってきて
私の代わりに喋っていた

迷宮を前に硬直する身体、つんのめる
転がる石にも苔は生す、重畳
はっ、としたらぶつかった
仏陀、石仏陀にぶつかった
ナンマイダ、枯木立より寒風の吹く

無数の色のオセロ、白と黒だけがない
違う色を出しては置いていく、置けなくなれば
当然積んでいく、あざやかなケルン
ひっくり返らない、置かれるだけの
小さな社、高く高くと

トンボの交尾、トンボの死骸
重なって溶けて、それで?
不自然な自然の、ささやかな物語
新しい命と、古い命は
同じページの、同じ場面で
交差し、ゆるやかに離れていく

ああ、ある一時、その時間を
ともに座れば、蜜柑の季節にもなる
息の白さ、やわらかさに負けて
力を抜く、抜けた力が山を抜く
山を抜けたら竹林の先
空の青みに目が眩む

室外機の錆、抜ける蜚蠊のせつなさよ
未来はこの一点に集約する
2人の船乗りは、やがてそれぞれの航路へ
蜚蠊の航路に塵紙の壁、ああ
死ぬな蜚蠊よ、死ぬな死ぬな
ぐったりとゴミ袋に吸い込まれては
術なし、また命が交差して、離れていく​

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夢と現実の間、或いはそれ以外。【エッセイ作品】

私が普段「悪夢」と呼んでいるものは世間一般では「夢」ではないということに気付いた。夫にそう指摘されたのだ。
今まで「悪夢」と呼んでいたものはどういうことかというと、まず「ストーリー」や「イメージ」「シチュエーション」「エピソード」がない。

一般的に悪夢とは夢の中で悪いイメージが出てきてエピソードやシチュエーションが起こる、ストーリー仕立てのものだと思う。

しかし、私の悪夢にはそれが全部ない。

何も見えず、何も出てこず、自分も相手もそこに存在せず、ただただ恐怖や苦痛、不安など負の感覚だけが押し寄せてくるのだ。
今にも死ぬんじゃないかという動悸がしてきて、叫んでいるけど声になっていないらしく、誰も気づかない。次第に、「良いもの」と「悪いもの」がないまぜになってくる。「苦痛」とは「快楽」で、「暗い」とは「明るい」で、今起こっている「負の感情」は「正そのもの」なんじゃないか?という感覚に陥る。

そして、目が覚めると「今夜も長い思考の旅だったな……」と思うのだ。

これを夫に話したら、「それは夢とは呼ばないよ、発作と呼ぶのでは?」と言われた。もしくは感覚過敏の部類かもしれない。

そこから色々話していて、もしかしたら私は「睡眠」や「記憶」「意識」に関するレパートリーが人よりも少し多いのではないか?という気付きを得た。

具体的にどんなものがあるのか紹介しよう。

・悪夢:嫌なエピソードを寝ている時に見るもの。寝ている中のイメージで悪いことが起こるもの。わりと朧げな視界やイメージ。起きると具体的な内容は忘れる。一般的に人が悪夢と呼ぶもの。

・気持ち悪い夢:具体的なエピソードやイメージがなく、ただただ恐怖や負の感情だけが寝ている時に襲ってくるもの。私はずっと叫んでいるが周りには聞こえないらしい。最後は無の境地に至る。私が今まで悪夢と呼んでいたもの。

・ものすごくリアルな夢:現実よりも視界がハッキリとクリアな夢。匂いも味もするし、感触もする。トイレにも行くし空腹もある。手をつねっても痛い。普通に働いたり休んだり生活している。物が拡大ズームで詳しく見られる。現実と違う点は、文字が読めない。

・普通の夢:一般的な夢。ほぼ覚えていないことが多い。

・桃源郷みたいな夢:とにかく多幸感で包まれて「ずっとこのままだったらいのに」という夢。家族で実家にいる夢が多い。条件は、祖父母と兄が生きている。父母は離婚していない。姉妹とは仲良し。

・明晰夢:夢だなとわかる夢。でも悪いことをすると「夢警察」がやってくる。空が飛べる。食べ物、甘いものが自由に出せて、味がする。

・白昼夢:起きているのに夢を見ること。例えば、家の中にカラスが飛んでいたりとか。

・入眠時幻覚:寝る前や起きる前などの中途覚醒のときに幻触や幻視、幻聴がある。

・金縛り:体は寝ているのに体は寝ている。この時に幻聴が多い。

・夢遊病:寝ている間に買い物行ったりしている。記憶はない。

・解離症状:気付いたら知らない場所にいるなど。

・短期記憶喪失:嫌なことをさっぱりと忘却していたり、昔のことは改竄されていたりする。

・起きてる時に夢と現実の区別がつかないこと:現実にいるのにふわふわ夢みたいになる。

・離人感:親しい人(夫とか)と話していて、「こいつ誰だっけ?」「なんでここにいるんだっけ?」「私って誰だっけ?」「人類とは?」「地球とは?」みたいな不思議な感覚になること。数秒で終わる。

・デジャヴュ:何度も同じ世界をループしているような感覚。週に4回ぐらいある。

・フラッシュバック:トラウマの体験をしたときと身体が全く同じ状態になること。思い出すこととは全く違う。

・極度の不安発作:不安が押し寄せていても立ってもいられなくなる発狂状態。1〜2時間で治る。

・幻触:まぼろしに触れられる感覚

・幻聴:あるはずのない物が聴こえる

・幻視:そこにない物が見える

・運命(人生のルートが変わった瞬間をはっきり感じること):自分もしょっちゅうはないが、何かをやったり誰かに会った時に「あ、今人生変わったかも。」「この人は今後深く関わるだろう」、と思う瞬間がある。

・感覚過敏:音が大きく感じる、途切れ途切れになる、物が大きく感じたり、自分が地面から離れて飛ぶ感じ等

・共感覚:数字に色が見える、音に触れる等




このような感じで、普通の人よりレパートリーは少し多い気がする。
だが、私は現代美術家の仕事をしているから、このような「五感外」の「感覚」を研ぎ澄ますことが大事だと思っている。

「それって、スピリチュアル的なやつ?(笑)」
と一蹴されることがあるが、いやいや、そうではない。
私は心霊現象も神も第六感も信じていない。

第六感という大仰なものではない、五感外の素朴な感覚がある、と実際に体験しているのだ。

全世界的に見ると近い現象を体感している人は多いだろう。
例えば、禅の修行者や、宗教家、薬物使用者、シャーマン、一部の部族の人々等。
(人工的に悟りを拓くために、薬物を用いる宗教団体や部族もあるらしい。)
彼らはそれを、「悟り」や「真理」や「神」、「宇宙」等と呼んでいるが、それは言葉づかいの違いであって、もしかすると私と同じ場所、感覚を指しているのかもしれない。

例えば、「無は有であり、有は無である」とか、「幸せとは不幸で、苦痛とは快楽だ」とか。ある種の境地に至ったとき、人は共通してそう口にする。
だが私には、そうした“教え”としての悟りではなく、“落ちる”ようにしてそこへ行き着いてしまう感覚がある。
夢の中で、あるいは夢でも現実でもないどこかで、私は何度も「自分不在の長い旅」に出ているのだ。

最初はいつも、現実に近い日常が続く。会話があり、記憶があり、五感がある。だけど、何かが崩れ始める。シーンは歪み、恐怖や苦痛だけが残る。気がつけば「快」と「不快」が溶け合っていて、「明るいのに暗い」「生きてるのに死んでいる」といったわけのわからない感覚が波のように押し寄せてくる。そして最後には「無」が訪れ、私はそれに包まれたまま目を覚ます。

あるときは、それが「死んで土に還った」と感じられることもある。自分という個が消え、ただ何かの大きな循環の一部になったような感じ。「輪廻転生」という言葉では到底追いつかないような、ミクロ的で、もっと無意識的な“回帰”の感覚。
私は特定の宗教を信じているわけではないし、スピリチュアルな思想にも懐疑的だ。
けれど、あまりにも同じような感覚が繰り返されるたび、「これはDNAに刻まれた記憶なのでは?」と思わずにいられない。

幽霊が見えることもある。だけど、幽霊を信じているわけじゃない。白昼夢や金縛りの中で見るそれらは、あくまで“像”として現れる。意味はない。
でも、見る。理解はできない。
でも、起こる。
たぶん、夢や幻はすべて、「無意識が無意識を通して自分を確認している現象」なのだと思う。

もしかすると、人間には「土に還って、また命に戻る」という一連の循環が、あらかじめプログラムとして組み込まれているのかもしれない。そのプログラムは、死の直前や深い睡眠、強烈なフラッシュバックの中で、偶発的に起動する。
だから私たちは時々、夢や幻の中で「無」や「死」や「すべての始まり」に触れてしまう。

そして目が覚めると、あの不気味で、苦しいはずの「無」が、どこか懐かしくて心地よいものだったとすら感じる。
息を吸い、重力を感じ、スマホを開き、夢日記を書く。
けれど私はもう、「私」だけではいられない。夢の中で触れていたものは、ただの個人的な幻ではなかったように思えるのだ。

私の見た「気持ちの悪い夢」、あのエピソードも像もない、感情だけの奔流。それはまるで、宇宙そのものが目を閉じているときに見る夢の断片のようだ。星が爆ぜ、光が引きちぎられ、重力がねじれながら「存在」と「非存在」が溶け合っていく。時間という概念が形を成す前、まだ名もなき振動だけがあった頃。そこにいたのは、私ではないし、あなたでもない。ただの「感覚」だった。

その感覚が、私という入れ物の中で再起動するのが「夢」だとしたら?
つまり、夢とは“個人”の現象ではなく、宇宙の記憶が生物の神経網を通して局地的に再生されている状態なのではないか。

土に還る感覚。生まれ変わる感覚。無になる感覚。
それは私の神経系が見せる偶然ではなく、宇宙の構造が反射しているリズムそのものかもしれない。
まるで、宇宙が何度もビッグバンを繰り返しては眠りに落ちるように、
私の睡眠と覚醒、忘却と記憶もまた、ひとつの宇宙的呼吸なのだ。

だから、私は恐れない。
たとえ自我が溶けてゆくとしても、そこには名もなき全ての“はじまり”が広がっているから。
そして私は、夢を見るたび、その始まりの粒子にまた触れる。

それが苦痛でも快楽でもなく、「ただ在る」ということの本質──
宇宙の底が見せる、最も静かな、最も深い夢のかたちだ。

人は夢を見る。
だけど、その夢の正体は「見ること」そのものではなく、「見えないものに触れた記憶」なのかもしれない。

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 4

かき氷の新左翼

赤いシロップは血ではないと言い張りながら
わたしたちは舌を真っ赤にして夏を批評する。

それは業務用だ。一リットル三百円。仕入れ値はもっと安い。

氷は透明だ。立場を持たない顔をして、すべてを受け入れるふりをする。
思想は着色料でできている。溶ける前に叫ばなければならない。

「資本主義反対!」

しかし屋台の親父はキャッシュレス決済に対応している。
革命はQRコードを読み込んで始まる。
スプーンは環境配慮型のプラスチック。

わたしたちは冷たい理論を口の中で砕き、キーンとした頭痛を覚醒と呼ぶ。
それは真夏の消費だ。

最後に残るのは色の抜けた水。

氷を削る音は美しい。だが、本当に削られるときの音はもっと鈍い。

わたしの革命の音は、カリでもガリでもない。

ゴリッ!、だ。

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夜明けの辺りで

夜明けの辺りで
ニワトリが鳴いている
静かだ、夜が岩の陰に戻っていく
蜥蜴のようにするすると、その音を
聴いている、夢。

朝、とともに夢も岩の陰に
滑り込むとしたら昨日の、十年前の
夢も岩や石を捲ればそこにいるのか
夜、を告げるサヨナキドリの真似をする

随分と真似が上手くなったもんだ、と
夢たちが這い出してから苦い顔をしている
それだけ時間が過ぎてしまったんだよ
僕は僕の夢たちと顔を見合わせた

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3ページ目(2)

2
 資料室は編集部のいちばん奥にある。蛍光灯はすでにLEDに替わっているが、光はどこか冷たい。壁一面の棚に、創刊号からのバックナンバーが並んでいる。背表紙の色は時代ごとにわずかに違う。紙質も、厚さも。

 凛は1冊を抜き取る。創刊50年目の特集号。帯には太い明朝体で、「継承と逸脱 ― 戦後文学を読みなおす」とある。

 いかにも灯標らしい、と凛は思う。

 背表紙を指でなぞる。ざらりとしたコート紙の感触。何度も棚に戻され、手に取られた痕跡が、角をわずかに丸くしている。棚に並べれば3cmは場所を取る。書店員が一瞬ためらう厚みだ、と営業時代の自分が囁く。

――どこまで届くのだろう。

 文芸誌『灯標』は、かつて「この誌面に名前が出ることが、作家としての第一歩だ。」と言われた。白鷺文学新人賞は、その象徴のように扱われていた。発表号が出れば書店に問い合わせが入り、受賞者の名前が文化面の隅に載る。文学好きの学生が選評に赤線を引き、「来年は出す」と呟く。

――あの賞を取れば、文学の側に立てる。

 そんな空気が、確かにあった。
 
 白鷺文学新人賞は年1回。最終候補5作。受賞1作、もしくは該当なし。10年前の受賞作は単行本で初版1万部を刷った。2作目も順調だった。

 今は違う。

 営業部長が資料を机に広げる。
「過去5年の受賞作、平均増刷率は28%。初版5000部なら、受賞後に1400部増える程度です。10年前は倍でした。2作目の初速は受賞作の6割。長期的な伸びは読めません。」

 凛は売上推移のグラフを閉じる。右肩下がりではない。だが右肩上がりでもない。横ばいの線が、ゆるやかに沈んでいる。

 受賞速報の公式Xは1.2万インプレッション。購読申し込みは前号比プラス2%。

 数字は動く。だが、跳ねない。

 それでも、受賞者発表日には、公式Xのリポストが流れる。「おめでとうございます!」といった類の引用ポストがほとんどだ。その中に、最終候補に残っていた候補者の悔しさが書かれたポストもある。賞を受賞した作家を称えつつも、自身の作品への誇らしさは失わない。

 凛は今、このポストでは垣間見えない、最終候補者の気持ちにこだわってしまう。そんなこと気にして何になるのか?それでも先程の河野の言葉が頭のなかでぐるぐる回る。

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メッセージ

超個人的な手紙が
詩に化けて
ちがう、ちがうんだよ
1枚足りない 一言余計だ
大騒ぎで 
葉っぱを破く

もう今となっては
ニンゲンじゃあございませんよ
狐狸の類でしょうか

はあ?
語尾上がり疑問系で
質問に答えるのは
日本の学校教育の植え付けた悪癖
求められる
ひとつだけの正解を
導き出したいお利口ちゃん

詩に化けきってますか?
手に負えない感情が
破棄出されて逃げていく
あれ?誤字ですか?
いいえ、それは、、、
「詩」ゆえに

超個人的な手紙など
公開しない後悔ノートに書き付けて
私は航海に出るべきですよね
目の前は紅海じゃなくて
太平洋の大海原

メッセージ
これは詩として完成でしょうか
歓声で返してくれませんか
ええ、ええ わかりやすく
もうね、こうして
馬鹿試合(化かし合い)してるうちに
あっちゅーまに
狸狐の類になっちまったので
葉っぱを破くので忙しいから
にんげんのかんせい みうしなってしまって

これは詩ですよね
超個人的なメッセージには
手紙などには見えないですよね

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せ、きせつ

まっくらにならないことに、
驚いてたちどまる

日の出まえの 薄青が
窓のそとに貼りついていた

深夜 東京は氷点下

圧倒的な静かであって
畏けるほど つめたいにもかかわらず

ぬるま湯のような 最初の冬だ。

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リビング

日付けの変わる頃
父がリモコンを取って
録画リストを開いた
単語帳をめくる私の手が止まる
父が無言で再生する
私は無言で座り直す

時折クスッと笑って
時たま「おお」とか言って
それしかしなくて良かった
隣には父だけがいる
母も姉も弟も夢の中にいて
私たちは現実にいる

無理やり盛り上げなくていいし
面白いことをひねり出す必要も
弟のボケにつっこむ必要もない
そんなことをしなくても
空気は美味かった

ブルーライトに照らされて
リビングの食卓がチカチカ光る
秒針の音はどこかへ行って
テレビと父以外が背景になる

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恋する詩人     (第一詩集)

   世界史詩Ⅰ

エラトステネスが
我等が地球の

「まはりをくるくる回っています」



   世界史詩Ⅱ

アレクサンドロス大王の
黄金の額は
砂漠

熱風は吹く



   紅信号

異国の空の下 遥かなる街角から
僕らを見守り続けている孤高の瞳
朝靄に煙る交差点にすっと立ち
六月に一点咲いた神々の薔薇



   海

若者と娘とは
結婚に反対されて
小さな島から逃げ出しました

それでも二人は見張られています
青くて大きく澄んだ瞳に



   忘れ物

夕暮れは
赤いポストを忘れていった
予備校の帰り道

恋する少女の頬さながらに
そこだけは暖かい



   夜

一本足の電灯よ
お前はまるでひとつ目オバケだ
へんだ ぜんぜん怖くなんかないよ
じいっとうつむいて 寂しそうだね



   余韻

ブランコは揺れている
風もないのに揺れている
ああ 彼をかなでる者は誰?

ついさっきまで
あの娘はそこにすわっていたね
その暖かい思い出に


いまでも甘く酔っている
月夜に彼は揺れている



   夢

今朝 クラスで彼女に会うと
たちまち 彼の顔はまっかになった

「昨夜 夢のなかでキスをしたんだ」



   ニュース

ろくに新聞も読まないけれど
それでも僕は知っている

あの娘の髪型が微妙に変わったことを




   リンゴ

君はバラが好きかい
バラは机上の空想さ
どんなに美しくとも
あの畏れ多い刺のせいで
手折ることすらできやしない
それよりもリンゴはどうだい
育ててもうかなりになるが
いっつも赤く輝いている
キッスをしてみたいけど
いまだに許してもらえない
ああ 我が恋人よ
君の頬は健康そのものだね



   灰皿のために…

灰皿のため
ライターのため
禁煙パイポのために
僕は何をうたえばいいのだろう

灰皿のため
ライターのため
禁煙パイポのために
僕はこんなうたをうたおう

灰皿はおととしの誕生日に
ライターは去年のクリスマスに
禁煙パイポは今日別れた日に

彼女が僕にくれたもの



   奇跡

炎はいつしか灰となり
僕もいつかは骨となる
それでも炎は燃え続け
どっこい僕は今日も生きてる



   涙

僕は泣かない
泣いたら大地は海となるでしょう
僕は決して泣いたりしない
なぜって君は泳げないから



   失恋

グラスの向こうに夕日は落ちる
そうして俺は
熱い太陽を一気に飲み干さんとする



   渋茶

熱すぎるのは僕のお茶
おまけに苦い
とても飲めぬと人はいう
近寄り難い その渋茶
僕の苦悩はそこにある



   海

七月の雨上がり
七色の虹につつまれ
長い髪をほどいたあなたは
あかるい日差しのまんなかで
やがて人魚となるでしょう



   空想

空の想いの
はるかなる



   愛

僕の言葉は矢よりも鋭くあなたの胸に突き刺さり
僕の愛はシュワルツェネッガーよりも強くあなたを守るはずだったのに
あなたの愛は弾丸よりも速く僕のもとを去っていった



   オクトパス

彼女はきれいな脚をもっていた
でも足の数ではタコにはかなわなかった



   恋

抱き合った二人は
まるで化石
瞬間も永遠に匹敵する

ああ 愛よ 永遠なれ



   待ちぼうけ

映画館の前
少女は
恋のためなら
モアイにもなるのです



   花

悲しい花は咲いている
優しい娘は泣いている
夕陽たゆたう夕暮れに
娘はだんだん花になる



   Arthur Rimbaud

乱暴な酔っ払いっ!!



   雨

愚痴があるなら
雨に向かって
いってみろ

文句があるなら
雨にむかって
いってみろ

性懲りもなく
夜通し止まない雨にむかって
いってみろ

お前が何といったって
いっこうにかまいやしない
夜の雨さ

そんな奴なんだ



   ひとりの夜 ふたりの夜

ひとりの夜は寂しいけれど
あなたを想えばそれも楽しい

ふたりの夜は楽しいけれど
あなたの夢に忍び込むすべもない



   宝石

暗闇の淵に沈んだ宝石は濡れ
人知れず光り ひっそりと この世を呪う




   薄明

夜明けの匂う少女を抱くと
少年は悲しげな翼の音を聞いた
それからふたりは戯れて
無明のなかで恋はしきりに笑ったのだが



   春

僕らが浮き世の春にうかれ騒いでいたから
花は咲き花は乱れ咲き花びらの間に舞う僕らの喜び
花びらは光と降り全身に花びらを浴びて
花びらとともに散りしきる僕らの思い出の春



   炎のように…

炎のように燃えているもの
水面のように透き通っているもの
それはあのひとの美しい恋
微笑ましい幸福そうなふたつの瞳

砂漠に朽ち果てた骨のようにひからびたもの
暗くさまよう深海魚のように醜くよどむもの
それは僕のこのにがい片想い
あなたの前で燃え尽き煙となり灰となり落ちては大地を汚す



   ふたつの太陽

ある詩人はいった
むかし太陽はふたつあったと
ところで現在 僕の太陽もふたつある
(あんまり熱いのでのどはいつもカラカラ
 胸の動悸もどうやら止みそうにない)
それは恋を知る幸福な女の
そして僕の苦しみを少しも悟らぬ非人情の
魅せるような 焼き尽くすような 挑むような
ふたつの瞳




   片恋

  Ⅰ
たとえ幾つもの眠れない夜を過ごしても
たとえこの肉体がどんなに衰弱しても
たとえこの両眼がどんなに落ちくぼんだとしても
たとえ僕がしまいには発狂しても
僕はなにひとつ悔いることはないだろう
君のためならば

  Ⅱ
もし僕が幾つもの眠れない夜を過ごし
もしこの肉体が衰弱しきってしまい
もしこの両眼くぼみ切るまで落ちくぼみ
もし僕がしまいには発狂してしまったなら
僕はなにひとつ悔やまずにいられるだろうか
君のために



   少女よ

少女よ ああ 君は海のざわめきを知らない
僕のこの揺れ動く想いを知らない
君のそこはかとない仕草に波立ち
とりとめもない言葉に荒れ狂う海の悲しい調べを知らない

  あまりにもわずかな空のかげりに 海の面は深いうれいに沈み
  あまりにもわずかな光に 海は輝き跳ねる妖精たちでいっぱいになる

海よ ああ 僕の心よ 望みはなべて満たされよ
凪いだ海の空に現れる太陽よ それは明るい君の笑いなのだ



   失恋

僕の思いが雪となって降る
僕の思いが君の黒髪にかかる
僕の思いがその長い髪を零れ落ちる
僕の思いが大地に落ちてこわれる
それを君の美しい脚が無残にも踏みにじる



   ROSE

君の窓辺に音もなくバラは咲き乱れ
君は安らかに夢をむさぼっている
僕は今宵も眠れない夜を過ごし
月影は君の窓辺をさまよう
 バラの花びらをそっと濡らしながら



   修行中

いろんな歌の真似はするけど
まだ自分の歌はうたえない
カラスはカアカアとしか鳴かないが
僕よりはよほど正直だ



   プレゼント

こないだ買ってあげたバラは
小さな手の中でしぼんでいったけど
かわりに彼女の笑顔が咲いている
こうして命は巡りめぐるのでしょう



   心理学

彼女はたいそう心理学が好きで
いつも恋の手練手管を分析してみせる
それでも 僕と公園を散歩する時は
雀のように 真っ赤になって逃げまわるだけ



   黒髪

それほど長いようでもないが
ポニーテールに結ってある
群がる蝿を追い払うけど
僕には素直な小馬なのです




   ディズニーランド

平日というのに嵐のような人混みだ
豪雨のように流れ込む人々
時に 僕は髪の長いひとりの水滴に恋している
手を握ればそれは夏の日にひんやりと冷たい



   片想い

「真夜中の波の誘いに
 浮気なあの娘はついてゆくから…」
彼はこう呟くと
砂浜に彼女の足跡を探しにいきます



   薔薇

春の雨そぼ降る街角をひとり歩いていると
僕の瞳に映った路上の赤い薔薇一輪
踏みしだかれてひとりしくしくと泣いている
花も刺も散り 路上は赤く濡れ 心痛み傷れ砕け散る



   白百合

バラをたとえに借りるとあなたはささやいた
バラほどありふれたたとえはないもの と
その頃 あなたはひとり刺のような思いを抱え苦しんでいた
ふたりしてみつめあった 白百合のように清純な夜



   雨上がり

雨上がりの朝は音もなく晴れ
せわしげに街を歩く人々
どこかで車が走り どこかでしぶきが跳ねる
思い出は水滴のように輝き 静心なく青空を映す



   清里

清里の夜風はここち良く吹き抜ける
静かに照らす月 ひと群れの星 万物は物の音に溢れる
それはあたかもかつての僕たちの夜のように
微笑み 安らいで おのづと満ち足りている



   そよ風

野原にそよ風が吹いていた
思えばそれだけのことだった
あたたかい春の日曜日

野原にそよ風が吹いていた
ひとびとは楽しげに弁当を食べたりしていたし
ほんとうにそれだけのことだった

だのになぜだか無性に悲しくて
いまも野原にそよ風は吹いていて
木蔭で僕はずうっと泣いていた



   カレーライスうと青空と失恋と

それはとっても辛かったから
冷たい水を何杯も飲んだ

辛くっておまけにとっても熱かったから
大粒の涙がポロポロと落ちた

窓からみあげれば太陽はとても美しく
青空がやけに眩しく目に染みた



   その夜

美しい名だった
何度も小声で呼んでみると
部屋じゅうにその名がしみこんだ

夜 あなたの瞳は輝き
明け方 そのくちもとは微笑んでいた

それは花の名だった
あなたは花のように清らかだった
花のように あなたの芳香は悩ましい

真昼 あなたは咲き誇り
夕べ あなたは匂い立つ



   その名

その日 雨はいちめんに匂いたっていた
     街角にバラは濡れ
      紅く映え
     人々は静かに歩いていた

その日 夕暮れは紫色に包まれていた
     路上には水溜まり
      人々の横顔を濡らし
     髪を濡らし 心を照らす

その夕べ あなたの名をささやいた
      そこはかとなく風は立ち
       僕はひとりだった

その夜 あなたは誰かを待っていた
     月影はさやけく
      そのひとはついに現れなかった




   声

暗い海辺の夜
絶えることのない重たい波音にまぎれて
遠くから優しい細い声がする
なつかしい声 遠い昔に耳にしたような声
僕の暗い道を照らす一条の光のような声
その声に導かれて僕は悲しげに歩む
ああ 母のような 恋人のような 姉のようなそのひとよ
いつしか僕はそのひとの胸もとに抱かれ
ほのかな光となって夜の海辺をさまよう



   灰と吸い殻

物にはなべて凋落があると詩人はうたったが
それはほんとうだ
みよ 絶えず休みなく降りしきる花びらを

夕暮れ時の公園に 終電の去った真夜中のプラットホームに
汗まみれの運動場に テニスコートに
はては我らが部室にも降る
あきらめのように 最後のはかないホタルの光のように
散るとしもなく散ってゆくもの
あわれ 人生の花々



   良月夜

ながいことひとり月を見上げていた
凍えるような寒い夜
魂は萎え衰え うち沈んでいた
窓辺から見上げる月はまるく
冬の大気はしめやかに中空に燃えていた
悩める魂はいつしか翼をまとい
音もなく天に舞い上がっていった

鳥は月の湖上に静やかにその翼を浸し
水面はくもりない鏡のように輝いていた



   恋

 サングラス

あなたが眩しいからかけた

 コンタクト

もっとじっくり眺めたかった

 近眼

ふられてからなった



   ある女の子

化粧は濃いほうだったし
それっぽい娘だったけれど
彼女はまじめだった

どのサークルにも入っていなかったけれど
いつだって彼女は忙しかった
毎日のように授業に出ていた
学校がひければバイトに行った
家に帰ると予習をした

化粧は濃いほうだったし
それっぽい娘だったけれど
彼女はごく普通の女の子だった

時々 夜には長電話もしたし
時々 灯りを消して窓辺で泣いたりもした



   酔いどれ

その晩 彼は前後不覚になるまで酔った
帰り道 何度も立ち止まり 何度もひざまづいた
駅を降りても帰る気にならなかった
遠回りしようと決めた
少し歩くと公衆電話があった
酔い覚ましに中へ入り込んだ
そこで千円のテレカを買って彼女に電話した
タバコに火をつけて
とりとめのないことを話した
ひときわ陽気になったり
時おり落ち込んでみせたり
それとなく「彼氏いるの?」って聞いてみたり
「酔っ払っててゴメン」と何度も謝ったり
意味もなく何度もうなづいたり…
長い電話が終わった
すると彼女はすべてを忘れてすぐにぐっすりと眠り始めた
彼は電話ボックスを出た
まだ帰る気になれずに
明け方まで暗い公園のベンチに座り込んでいた



   花の教え

「人生にあらがうな」
咲く時は咲き
散る時は散れ
花のように



   ある愛

愛しい と書いてカナシイと読む
ああ そういえば
あのひとは僕の愛しい人だった



   生き方

雨の降る日は静かにものを思い
風吹く夕べは背中を丸めて街を歩く
友と酒を飲めば陽気に語り
恋に破れたら悲しい歌をくちずさむ



   海辺

夜の海辺を歩いてた
たったひとりで歩いてたんだ

あなたに恋をしてたから



   ピラタス

山を登った
雨が降り 霧が山をおおった
高くどこまで歩いてゆこうとも青空は見えず
太陽はいつまでも僕を照らそうとはしなかった




   詩人

ある日
ある日ある声がした

「実はヘビにも足があるように
 そしてヒトにもシッポがあるように
 醜くて、天ノジャクで、猫背で、うぬぼれ屋で、不器用で、
 気まぐれで、陰鬱で、臆病なお前にも
 その背中に翼があるかもしれない」

 慌てて背中をさぐってみたが
 あるのは場違いなニキビばかり

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Beautiful Sky

プロローグ 話のはじまり
「政治家って?」
「世界で一番、自分が可愛い人間のことさ。」
「ふぅん..….。じいじはいつも何を書いているの?じいじのたいせつなひとのこと?」
「そうだよ。」
「なんのために、書いてるの?」
「忘れないためさ。記憶は変わる、思い出は美化される。」
「美化、って?」
「ほんとうではなくなることさ。」
「ほんとうではなくなるの?」
「そう。じいじは、ほんとうのことを書いていたいし、ほんとうのことだけを見ていたんだ。彼女のことは...…ポッカリーネのことは昨日の事のように思い出せるが、それさえももはや真実では無いかもしれない...…」
「ポッカリーネさんのこと、教えてくれる?」
「そうだね。さて、どこから話そうか。」


を受けたこと、生きてること全てに疲れることがある。
ああ...…空気ってこんなに重いんだな。
僕はその時、そう思った。


"もう諦めなよ、どんなに抗いたって、朝はまたやって来るんだ。アンタはいつもそうやって、理屈ばっかり捏ねているけど、肝心なことはひとつも理解していないじゃない。"
"人の命って短いんだよ。楽しまなきゃ。いっぱいいっぱい、楽しまなきゃ。"
ポッカリーネは言いました。
ポッカリーネは、瞳の大きな女の子です。
ハルホスがまた、生きることについて悩んでいたので、いつもの場所で夕陽を眺めながら言いました。
"やなことだっていっぱいあったし、これからもやなことだって、きっといっぱいあると思うけど、その2倍、3倍楽しいことが出来ればそれでいいじゃん。
その、<楽しいこと>を見つけられるかどうかは、自分次第だって……"

ガタン・ゴトン
にわかに窓の外の景色に目をやった。
世界を構成する二つの時間が美しく混ざり合っていた。最果てまで続くような。僕の中で世界は二色きりだった。
高層ビルに差し掛かり、無機質な鉄鋼で視界が埋まる。循環列車が通るほんのわずかな時間。
刹那、世界は深い海にのまれていた。世界を照らす色は無く、全くの満潮が世界をおおっていた。
ああ、たった一秒だって世界は止まることなく流れていく。世界はいつも刹那的。
毎日がどれほど同じようなものの繰り返しだとしても、決して同じものでは無い。明日また朝がやってきたとしても、違う朝がやってくる。
毎日違う朝がやってくる。
(ポッカリーネの言う通りだったな。)
そんなことを思う。
(いや、いつだって彼女は正しい…)
明日は明日の風が吹くなんてよく聞くけれど、そんなことは分からない。今の僕にとって、明日はやっぱり死にたい今日の続きでしかなくて、明日もきっと、明日が来なければいいのにと思うんだ。
だけど、確かにこの景色を見ていると、世界の色どりはたった1分だって同じじゃないと分かる。
(明日は、また違う朝がやってくる……)
ガタンゴトンという音を聞きながら、そんなことを思う。

ポッカリーネ
ポッカリーネは強い女の子です。
少なくとも、ハルホスからするととっても強く、しっかりと生きている芯の強い女の子でした。
「私は強くなんかないわ。少しだけ、あなたより気持ちをコントロールすることが上手いだけよ。そもそも世の中に強い人間なんていないもの。」
ポッカリーネは言います。
「私ね、小さい頃は泣いてばかりいたの。」
「信じられない……」
「ある日ね、泣いてることがバカらしくなったの。」
「どうして?」
「だって、私が泣いたって、誰もなんにも気にしちゃいないんだもん。」
「……うん。」
「だからね、バッカみたい。そう思ったの。神経図太くないとこの世の中、生きていけないなって。」
「……そうだね。」
泣いてばかりいるポッカリーネをハルホスは想像することが出来ませんでした。
しかし、こうして気丈に振る舞っているポッカリーネにだって弱い部分や弱い感情はあって、きっとどこかでたくさん泣いてきたから僕のような人間の気持ちが分かるのだと、自分のような生き物に寄り添えるのだと思うと、こうして泣いている毎日がいつか誰かを助ける材料になると思えました。
どんなに強く思える人にだって弱い部分や気持ちはあって、上手くそれらと向き合っているのだと思いました。
「強いだけの人なんてさ、そんなのは嘘っぱちよ。それは"哀しみと罪悪感を持たない"、ただの憐れな奴なんだわ。」
「哀しみと罪悪感を持たない、憐れなやつ……」
「本当に強いって言うことは、本当に自分が弱いことを知っている人よ。」


"人って...…存外弱い生き物なんだね。"
"どうしてそう思うの?"
"不安なのは自分だけじゃないと思うと、随分と楽になったんだ。"
"そう。だけどあなたはひとりになりたいんでしょう?"
"うん.….."
僕は確かにいつだってひとりになりたかった。
"誰にも迷惑をかけたくないんだよ。"
"それは自分が迷惑をかけられたくないからでしょう?"
"そうかも……しれない。"
本当のところを突かれたような気持ちになりました。
"あなたが人を嫌うのは、自分が嫌いだからよ。"
"そんなこと、分かってる……どうやったら自分を好きになれるのだろう。"
"人と関わるしかないのよ。不安で弱くて、失敗だらけの人と関わることでしか自分を好きにはなれないわ。"

世の中

「世の中そうでしょ?結局。認められないと意味ないんだよ。優しさでメシが食ってけるってのか!?」
「じゃああなたのそのやりたいことっては、認められるためだけにやっているのね?」
「崇高な真理だとかあ、信念なんてのは金持ちの道楽さ。結局、奴らには何の悩みもなくって、泥水を啜ってしか生きられないような人間のこと考えたことがないのさ。」
「はぁ?アンタバッカじゃない?私のことを分かるのは私だけよ。アンタに私が分かってたまるかっての。」
「誰が何をどう言おうが、私は私を生きるわ。だって、そうでしょ?人生は1度しかないのよ。」
「どうしてそんなこと分か...…」
「だから。だからね、アンタのことをなめてる連中のことなんてほっときゃあいいのよ。」


ポッカリーネは言いました。
"私、春が好きなの。暖かくて、ポカポカしていて..….何だかとっても、切なくなるの。"
ポッカリーネとは、よく夕陽の見える丘で話をします。
夕陽の時間をふたりは大切にしていました。
どうして春が切ないのか、いつだって不安で仕方がないハルホスには分かりませんでした。
"最終的に、自分がよかったらそれでいいんじゃない?他人がどうとか、そんなことよりもっと、自分を生きてみなさいよ。"
"……自分を生きるってなんだろう。"
"誰が何を言おうと、私は春が好きなの。四つ葉が咲いて、風が気持ちよくて。また、美しい春を探しに行くのよ、来年も。"
確かに風が気持ちよかったのです。
そよそよと吹いていて、ハルホスの頬を優しく撫でました。
こんなに暖かなところで美しい景色を見ていて、どうして僕はこんなにも臆病なのだろう。そう思うとため息が出ました。
ハルホスのため息も、風がさらっていきました。そよそよと吹いて、ポッカリーネの頬を撫でました。

旅人
「ルシュファンはどうして旅をしているの?」
ハルホスは尋ねました。
「そうだね、答えを探しているんだよ。」
「答え?それはこんなに辛い旅をしてまで探し出したいものなの?」
「生きたいから生きている。そう強く思える日までは頑張ろうと思う。」
みんな頑張ってるから頑張らなきゃいけない。なんてバカらしいんだろう、とハルホスは思いました。
じゃあみんなが人殺しを始めたら僕も人殺しにならなきゃいけないのかい?
..….だけど、人は一人では頑張れないと思う、決して。だからみんなが頑張っているから頑張れる、それは本当だと思うよ。
ハルホスはこの旅人と友達になりたいと思いました。
「涙も、しんどいことも全部自分になる。全部強くなって還ってくる。だから安心して泣けばいいんだ。」
ルシュファンは楽しそうに笑います。
生きていることが、時に厳しい旅をしていることが楽しいのだと言いました。

愛するということ
"人を愛するって、どういうことだろう?"
ハルホスは尋ねます。
"その人の為なら、死ねるということよ。"
"……僕は誰かの為には死ねそうにない。人を愛するにはまず自分を愛さなければならないってルシュファンが言っていたよ。"
"そうね、ゴミ箱にゴミを捨てるように、自分を粗末に扱っている人は誰からも粗末に扱われるようになるものだわ。自分に余裕がなきゃ、他人を愛すことなんて出来ない。"
"けどそれは、エゴなんじゃないかな。"
ハルホスは訝ります。
"そうよ、所詮、エゴよ。"
ポッカリーネはあっさりと認めました。
"所詮、エゴなのよ。そんなもの。だけれども、見返りを求めない、依存や執着と違う本当の愛というものは、その人が本当に望むことを惜しまずに出来ることをさすのよ。高尚な愛ってやつね。まあ最も、高尚なんて本人は思わないのでしょうけれど。そんなふうに誰かを愛することの出来る人は。"
ポッカリーネのいう、高尚な愛についてハルホスは考えました。
自分には到底出来そうもない、歪んだ愛でさえ生み出せるか分からないと思います。
愛に正解が無いことくらい、幼いハルホスにも分かっている事でしたが、正解が無いからこそ難しいんだと少し大人になったハルホスは感じるようになりました。
"ポッカリーネは、誰かを愛することが出来るの?"
"私はたくさんの人から愛をもらった。私は人を愛せるわ。"
強く優しく笑うポッカリーネは、とてつもなくかっこよく見えました。

信じるということ
ポッカリーネは言いました。
大丈夫。大丈夫だから。
信じることが肝心よ。
信じていれば、なんだって出来るわ。
出来ないことなんてないのよ、信じていればね。
大丈夫。できるわ、私を信じて!!!

ハルホスは、ポッカリーネを信じて、手を伸ばします。

そう、ゆっくりよ!出来るわ!あなたなら出来る!

ポッカリーネの励ましにより、ハルホスはだいぶと勇気を振り絞ってようやく登りきることが出来ました。

「ほらね、ここからの景色は美しいって言ったでしょう?」
「下から見ても綺麗だよ……」

いつもは丘から眺めている夕陽を、一番高い木の上から見ようとポッカリーネは提案したのです。
「下からは、下からしか見えない景色があるの。ここからは、ここからしか見えない世界があるの……」
登りきった時、夕陽がちょうど地平線に入ったところでした。
「信じることが肝心よ。信じていたらなんだって出来ちゃうんだから。」
「……そんなことないと思うけどな。信じてたって、あの夕陽に触ることは出来ないじゃないか。」
無理やり木に登らされたハルホスは拗ねてみせます。
「それは本気で信じていないからよ。できる人とできない人の違いは、信じているか信じていないか、よ。」
不安定な枝の上で、ハルホスは思います。
来年も、また来年も、ずっとずうっと、夕陽が見られますように。
この景色を、僕もポッカリーネも忘れませんように。


日曜日の絶望
暗く狭い、閉鎖的な空間、そういうところにハルホスは憧れました。そういうところにいると、まるで自分の心の中にいるようで何だか安心できたのです。

もういい。もうどうだっていい。
母さんが悲しもうと、父さんが悲しもうと、僕はもう、どうだっていい。
僕は僕が死にたい時に、死ぬ。
それだけさ。僕が……
知ってた?耳を削ぎ落としても、音って聞こえるんだってさ。
鼓膜は残るから。僕たちは、そう簡単に外音をシャットダウンできないのさ……

せっかく美しい夕陽を見ても、日曜日はハルホスを絶望の淵に追いやります。
どうやって明日から逃げようか、明日の朝日はどうやれば沈められのだろうか、そういったことをもっとどろどろした言葉でハルホスはいつも考えます。

ルシュファン
ルシュファンは旅人です。
ポッカリーネとハルホスのいる街に突然やってきました。

"生と死と
息をすることと、空が青いこと
それが僕らのすべて
それが、今の僕らのすべて。"

ルシュファンは詩人でもありました。
こういう詩を書いている時に、ハルホスはルシュファンと出会いました。
ハルホスはルシュファンに色々質問をしました。

分からない、分からないんだよ。
答えなんて
分からないことを考えたって、仕方ないだろう?だからあまり深く考えなくていい。
未知数が5つあるのに式が2つしかない様なものさ。
僕たちがそれを解くにはまりにも材料が少なすぎる。
楽しけりゃ、それでいいんだよ。
そんなに、そんなにさ
後悔することを生きがいみたいにして生きなくてもいいんじゃないかい?
死にたくなる時だってある。
そんな時、また空を撮ればいいさ。
海を見に行けばいい。大きくて、広い海を。……自分の悩みなんてさ、ちっぽけなものに、思えてくるんだから。

生きるということ
毎日、毎日僕は死のうと思う。
毎晩生きていることを恥じるんだ。
毎晩生まれてきたことを後悔するんだ。

……ごめんね、世界。
ハルホスはそう言いました。
僕なんか生まれてこなければよかったし、僕は本当に生きている価値がないのかもしれない。
だから…ごめんね。
ハルホスは静かに涙を流しました。
どうかこのまま深い眠りについて、一生目が覚めなければいいのに。
ハルホスはそう思いました。

1回くらい本気で死んでやろう。

生きていれば、良いことがあるとずっと昔に聞いたことがありましたが、そんなことを思い出す余裕なんてないくらいハルホスはくたくたに疲れていたのです。
そんなことを、本気で信じられるほどハルホスの心は落ち着いていませんでした。

一方でこうも思います。

意味なんて無いんだよ。

想いを伝えるのは難しい。それだけだ。
本当は世界というものはもっとキラキラ輝いていて……もっともっと素晴らしいところなんじゃないかと。
僕の考え方1つで、僕がもっと楽に、許してあげられたら、
うんと僕の人生は楽しくなるんじゃないか、と。
…やっぱやめよう、そんなもの。うすっぺらい詩人やオトナたちのざれ言のような人生は歩みたくない。
そう思いました。

頑張るということ
"こんな世界まちがってる!!!!!!!"
ハルホスは夕陽に向かって大声で叫びます。
"なら、変えてみなさいよ"なんてポッカリーネだと言いそうだなあ。
"よく分かったじゃない。変えてみなさいよ。"
"こんな世界、全部間違ってるんだ……何もかもがおかしい。"
"じゃあどんな世界が正しいの?"

"……頑張っている人が、損をしない世界。"

"僕は大人になったら、そんな世界を見れるんだって、いや期待なんかしちゃいなかったさ…大人の世界が何もかも間違っていることは、もうずっと昔から分かっていたことなんだ……"
"あなたはまだ大人じゃないわ。私も。"
"そんな世界は、夢幻なんだろうけれど……"

頑張っている人が、損をしない世界というのはある人からの受け売りでした。
かつてハルホスが唯一信頼した大人が言っていた言葉です。
そんな世界は嘘っぱちで、幻だとその時も思いましたが、やっぱりその人なら
"じゃあ変えてみようよ"と言うだろうなと思いました。
それは無責任や重圧ではなく、ただ正しい意見だとハルホスは受け止めることが出来ました。
それを無責任や押し付けだと思わなかったのは、その人たちが頑張っていることを知っているからだと思いました。
(そんな世界を作るために、僕はたくさん損をしながらたくさん頑張らなきゃいけない……)

イライラ

はじまりにもおわりにも、理由があるなら、その中間の、この生を身のうちに宿している時間は一体なんなんだ
愛によってはじまり、それぞれの理由に収束していく
命はほんの一瞬、微小な時間を流れゆくものにすぎない
死にたくもなるよ、こんな世の中
だけど、頑張って生きてんだろ
歯食いしばって、明日を挑んでんだろ
大丈夫だって
いつか誰か
お前さんを認めてくれる日が来るさ

ハルホスは、日記を書いていました。
旅人のルシュファンが美しい詩を書いているのを見て、自分もなにか書いてみようと思ったのです。
どれも駄作で、そもそもなにが傑作なのか分かりませんでしたが、なんとなく、書き出すと気持ちが楽になったのです。
とかく、イライラした時は紙に書くようにしました。
想いを書いて、だからどうなる訳ではありませんでしたが、今まではため息ばかりついていたのが深い深呼吸にかわるようになりました。

勝手
「僕ね、時々思うんだ。誰も僕にかまってくれるな!ってね。話しかけてくれるな!無視してくれ!僕をほうっておいてくれ!ってね。」
「ははーん。とどのつまり、貴方はとんでもない"かまってちゃん"なわけね?」
「めんどうくさいんだよ、もう。なにもかもすべて。」

"……あなたはどうしたいの?"

"……もう、疲れたんだ。"

ボクが世界をどう見てようと……
そんなもの僕の勝手だろ
ボクがそれを何色に見ていようと
そんなものボクの勝手だ
全くボクはボクの世界を見ている
全くボクはボクの世界を生きている

ずいぶん間をあけて、ポッカリーネが言いました。
「……確かに勝手かもしれないわね。人間ってのは。」
自虐気味に笑います。
「勝手上等、よ。あなたに構おうが、構うまいが、私の勝手よ!」

「死に溺れ、生に逝く」

死に溺れ、生に逝く

「自分の涙に酔っているのか」
そうして悪の資質の上に偽善の涙を流し、お前は仏にでもなったつもりなのか
その涙、その笑顔全て嘘、偽りであり、お前の本当の表情は完全な無である
万人を愛し、全事象を受け入れ、お前は何も愛しちゃいない

ルシュファンは自分の書いた詩をときどきハルホスに見せてくれました。
旅の情景を綴ったものもあれば、ハルホスにはまだ分からない心情を綴ったものもありました。
どれも力強い言葉です。

ハルホスはときどき生きていることが怖くなることがありました。
"ヒィッ!こわい!こわよ僕。生きていることが、とってもこわい。"
"じゃあ死ねば?"
"……それは、もっと、こわい。"
"なんの為に僕らは生きているんだろう。"
"……光るため?"
"光る?"
"えっと……輝く、そう輝くためよ!私たちはみんな、キラキラ輝くために生きているのよ!!"

席はどこにでもある
「生きなくていい人なんてひとりもいないのよ。」
「ひとりもいないなら、何も無いのと同じじゃないか。」
ポッカリーネは少し笑いました。
穏やかに笑ったまま、続けます。
「誰にだって座る席はあるの。」
「..….僕にだって?」
ポッカリーネはまた、少し微笑みます。
「ええ、そうよ。」
夕陽で照らされたポッカリーネの横顔はとても美しく思えました。居場所なんてものはなくたっていい、ただ僕がこうやってたまにポッカリーネの横で夕陽を眺められるのならばそここそが僕の席だとハルホスは強く感じました。
「私、小さい頃たくさん虐められたの。」
「……そうだったんだ。」
「その時はそんな奴らはみんな消えてしまえばいいって思ってたわ。だけど、そいつらのおかげで私は強くなれた。
そいつらと仲良くしたいわけじゃないけれど、多分そいつらにもそいつらの事情があったんじゃないかって今は思うの。」
「ポッカリーネは、優しいね。僕だったら、ひどく憎んでいたと思う。」
ハルホスはポッカリーネの小さい頃を知りません。
辛いことが彼女を強くさせたのだと、否強くなければ生きていけなかったのかもしれないと思いました。
"さようなら、ハルホス。"

空の青さ
死ねば楽になるーーーーその考え方はもうやめよう。ハルホスはそう思いました。
どうやって死ぬのか、死んだらどうなるのか。そんなことばかり考えるのはもうやめよう。
きっと死んだって、どうにもならないのです。私たち人間は、実際何の選択肢も与えられていないのです。生まれてしまったその時から人は、"生きる"その選択肢しか与えられていないのです。
"ボクってバカだなあ。"
ハルホスは空を見上げました。

"空の青さを知る、か……"
いつだったか、ポッカリーネの言っていた言葉です。
"広い世界を知らない人は、空の青さを知っているのよ。"

偽善と悪魔
"できることなら死にたかった。"
"そう、あの時僕はきっと
死にたかったんだ。"
なんだかもう、何もかもがバカらしかったのです。
"……バッカみたい。"
ハルホスは言いました。
"なんで頑張るんだろう?"
考えたって、仕方ない。

死ぬ勇気が欲しい。

生きたく…ない。

ハルホスは目が覚めました。
夢を見ていたのだと、知りました。
とてもかなしい夢でした。
今まで自分が感じてきた辛い気持ちや悲しい気持ちが一気に押し寄せてくる夢でした。
悲しいから死にたいのではない、辛いから逃げたいんじゃない、もう楽になりたいだけなんだと夢でハルホスは言っていました。
ポッカリーネも居ました。
泣いていました。
ポッカリーネの涙は、夕陽を反射してキラキラと輝いていました。

ポッカリーネと最後に夕陽を見てから、1週間が経ちました。

さよならの意味
……こんな世界、滅んでしまえばいいのに!
「逃げてるだけなんだ、僕は。こんな世界からも、僕自身からも。そして、ポッカリーネからも。」
「また美しい春を見つけに行こうと言ったじゃないか!どうして。なんでた。ポッカリーネは僕に嘘をついたことがない。あれは嘘だったって言うのかい!?」
ハルホスは取り乱しました。
「ああ、僕は一体何を求めていたんだろう。僕は、何を手に入れたかったのだろう?毎日が同じ?よくもそんなことが言えたな。変わってしまうことがこんなにも恐ろしいことだったなんて。」

ポッカリーネはハルホスを置いて行ってしまいました。
遠く、遠くの世界に行ってしまいました。
ハルホスがもし、夕陽に触れられると信じて夕陽に触れられたとしても、もうポッカリーネに会うことは出来ません。

ルシュファンは遠くから来た医者でした。
ポッカリーネは小さい頃から身体が良くないのだと、教えてくれました。
最善を尽くしたけれど、ポッカリーネは消えてしまった、と。
「消えてなんか……消えてなんかいない!!!ポッカリーネは消えたりしない!」
ハルホスは叫びます。
「人はね、2進法なんだよ。生きているか、死んでいるか、のね。」
ルシュファンは詩人なのに数学的なことを言います。
「人と人との関わりっていうのは、グラフにあるふたつの線の接点のようなものなんだ。関わりあえるのはほんの、ひと時だけなんだ。だから、出会いを大切にしなきゃいけない。
人を恨んではいけないんだ。
これはポッカリーネが持っていた日記だよ。君にあげよう。」
小さなノートには、「夕陽の丘」と書かれていました。
「さようなら、ハルホス。」
ルシュファンは行ってしまいました。

それでも

毎日丘に行きました。
夕陽を見に行きました。
ここに来れば、ポッカリーネに会える気がしたのです。
来る日も来る日も、ハルホスは夕陽を見に、ポッカリーネに会いに丘に来ました。
ときどき話しかけてみたりもしました。
僕はまだ、死にたいんだよ、と。

応えてくれる人はもういません。
叱ってくれる人は、もういません。
毎日生きることから逃げていたハルホスは、毎日生きることに挑んでいたポッカリーネを失いました。
永遠に、もう夕陽をポッカリーネと見ることが出来ないのだと思うと、やっぱりこのまま消えてしまってもいいような気持ちになりました。

ハルホス
旅人のルシュファンも、ポッカリーネもいなくなった今、ハルホスはひとりぼっちでした。
ああ僕、本当にひとりぼっちになったんだなあ。
重く深い虚しさがハルホスを襲います。
僕は一人になりたがっていたけれど、本当にひとりになるってこういうことなんだなあ。
涙も出ませんでした。この悲しみを、この寂しさをどう表現していいのかハルホスには分かりません。
こんなところでずっと空を眺めていると、ポッカリーネに怒られそうだな。僕はまだ、自分の足で歩いて行けるほど強くはない。それでも、僕はここから歩き出す。ポッカリーネの隣が僕のいる場所なんだから。
そう、自分に言い聞かせました。

それから
それからハルホスは、旅に出ることにしました。
ルシュファンの見た景色を知りたかったのです。
"ここの夕陽はいっとうに綺麗だけれど、夕陽はここでなくたって見れる。それに、あの夕陽が触れるようなところまで僕は行ってみたいんだ。
信じていれば叶うってことを、ポッカリーネを証明したい。ポッカリーネを信じたいんだ。"
強くなろう、そう心に決めました。
荷物は大してありませんでした。
ただ、心にポッカリーネと見たこの夕陽を刻み込みました。

エピローグ
生きる意味
「それで、じいじはポッカリーネと会うことが出来たの?」
「ポッカリーネは、いつだってじいじの心の中にいるんだよ。さあ、もう寝なさい。また明日、続きを聞かせてやろう。」
大人の言う明日はいつだって嘘でしたが、じいじの言う明日だけは本当でした。
「おやすみなさい。」
「おやすみ、坊や。幸せな夢を見るんだよ。」
歳を取ったハルホスは、家を建てました。
自分のような、ポッカリーネのような子供たちを迎え入れる家を作りました。
旅をしながら、ポッカリーネの日記を読みました。
理想や涙について書かれていました。
気丈なポッカリーネも、たいへん悩んでいたことが分かりました。
夕陽を探して、新しい明日を探して旅するうちに、生きる意味が分かってきました。
"人はいつか、死ぬ。唯一平等なのはいつか死ぬということだけだろう。"
"けれど終わりなんてないんだ。終わりのない過程にこそ、生きている毎日にこそ本当の意味があったんだ。"

夕陽の丘
今日も、暖かく綺麗な夕陽をハルホスは眺めています。
小さな椅子に座り、ひとり眺めます。
春風が心地よく吹いていました。

夕陽の見える丘には大きな家が建っていて、草原で子供たちが走り回って遊んでいます。
「じいじ、そろそろ戻ろう!お腹減った〜」
「そうだね、そろそろ戻ろうか。」
小さな手を取って、温かな家に戻りました。
玄関には、"朝日の家"と書かれていました。
「それで、それでどうなったの?」
「死んじゃうのに、終わりは無いの?」
せがむ子供たちに、昨日の続きを聞かせます。
「ポッカリーネが居なくなっても、ずっとじいじの心の中に生きている。死は終わりではない。生きることは、探し続けることなんだ。自分の居場所を、生きる意味を、楽しいことを、辛いことを忘れることを、探し続けることなんだ。点と点じゃない、連続的な生を謳歌するには、信じ続けることが大切なんだよ。」
子供たちを寝かせた後、灯りを消して日記を書きます。
もう何冊目になったか分からないノートに、ポッカリーネに話しかけます。

 "もう僕は、朝が来るのが怖くない"
 "明日も朝日が美しいと、信じている"

 この家で、'朝日の家'で、子供たちと生きる意味を探しているんだよ、と。

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透徹

濡れ跡の朝
水珠映える碧

透徹した芳香


風が
肉体を磨き

閉ざされた骨格が
蒼穹へ溶け出す

降り注ぐ明度
髪に吸われる光

細胞が目覚める

花開く道

── 碧井雫 


#碧井雫 #詩 #現代詩 #短詩

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ニンゲンだもの


ニンゲンにはニンゲンらしい権利というものがあり

ニンゲンらしく 子どもに殴る蹴るの暴行を加え

ニンゲンらしく 平然と暴言を浴びせ

ニンゲンらしく 支配しコントロールし身動き出来ないようにし

ニンゲンらしく 弱いもの気に食わないもの目障りなものを

寄って集ってイタぶったりハブったり排除しようとし

ニンゲンらしく ほんのさっき云ったことさえ

そんなことは云っていない聞き違いだと

平気な顔してひとのせいにし

ニンゲンらしく 平気でひとのものも時間も奪い盗る




ニンゲンの ニンゲンらしい

権利として




ニンゲンらしく 自身が傷つくことには

過剰なくらいヒドく敏感なくせに

他人の傷口には 笑いながら平然と塩を塗りたくる

裏切られた裏切られた 信じていたのに

いいひとだと思っていたのに

みんな自分と同じ いいひとだと

などと云っては

他人を勝手に悪人に仕立て上げて

可哀想な被害者になりすます




ニンゲンの ニンゲンらしい

権利として



間違うことだってあるさ

ニンゲンだもの

間違いを認められなくたっていいじゃない

ニンゲンだもの

いつまでも ネチネチ攻撃したっていいじゃない

ニンゲンだもの

力尽くでも 自分の方が正しいと云い張ったって

相手をひれ伏し 打ち負かしたくて仕方がない

だって だって

ニンゲンだもの




ひとを騙したっていいじゃない

ニンゲンだもの

ひとを刺したっていいじゃない

ニンゲンだもの

ニンゲン辞めたくなったっていいじゃない

ニンゲンだもの




ニンゲンだもの

は 決して

免罪符などではないはずなのに




それでも それでも

うまく立ち回れたもん勝ちの

許されたもん勝ちの

このこんがらがったニンゲン社会



あのひともニンゲン

このひともニンゲン

誰にだっていいトコもあれば

ダメなトコもあるはずなのに

ひとのダメには激しく断罪する

お互い様というコトバが通じない

ニンゲンだもの

ニンゲンだもの





みつをさんよ

貴方が残した にんげんだもの







ニンゲンとは一体?






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沙羅の独り言

1990年代は、コギャル全盛期。顔黒(ガングロ)で、目の周りを真っ白にメイクした巻き髪やサラサラストレートの女の子が街を闊歩していた。
 沙羅は18歳。髪の毛は、ピンクがかった銀髪で目は垂れ目。甘えん坊で我儘だけど、渋谷109のギャル服の店の販売員で根性だけは据わっている。
 
 朝、目を覚まして顔を洗う。メイクをする前はいくら整形したとはいえ、淡白な顔をしていて自分でもげんなりする。
「今日の気分はストレートヘアにしよう」沙羅はそう言って、ストレートヘアアイロンの電源を入れて、180度に設定した。髪の毛を整えると眠気も昨日の失敗も全て一緒に流れていく気がする。
 TVからは安室奈美恵の歌が流れている。その歌を口ずさみながら、沙羅は温まったストレートヘアアイロンを髪の毛の裾から毛先に向けて伸ばしていった。熱が髪の毛を整えてくれて、サラサラストレートになった。
 それから、頭頂部の髪の毛をストレートヘアアイロンで挟んで、また毛先に向かって伸ばしていく。少し痛んだ髪の毛がチリチリと熱で音を立てながら伸びていく。
 
 沙羅の耳にはキュービックジルコニアのピアスが6個開いている。中学三年の終わりに、安全ピンで耳たぶの後ろに消しゴムを当ててブスッと刺して開けた。胸元には、彼氏が買ってくれたティファニーのハートモチーフのペンダントをしている。
 
これでも案外真面目に生きてると思う。沙羅は誰に言うでもなく、独り言を言った。だって、高校を出てからすぐ洋服の販売員のアルバイトを始めたし、自分の生活費は自分で稼いでいる。
 他の友達の中には、援助交際をしている子もいるから、高校までに援助交際をするのを辞めた沙羅は自分では結構偉いと思っている。
 
 髪の毛にヘアアイロンをかけ終わって、沙羅はピチピチのミニTを着てストレッチジーンズを履いた。勿論、パンプスは10cmヒールでスタイルも綺麗に見える。
 プラダの黒のリュックを背負えば、出掛ける準備はOKだ。
 
 ドアを開けて階段をカンカンと降りる。お店に向かう道すがら洋服の売り上げの目標について、どうしたら売れるか考えていた。太陽は、そろそろ夏日に近くなってきて5月だというのに眩しい日差しが差し込んでくる。
 まだ、希望はある。この世界で生きる意味はある。そんな風に沙羅は思っていた。友達の中には自殺した子もいた。上手く学校や親と馴染めなくて、屋上から飛び降り自殺をした。呆気なかった。沙羅は前の日にその子と電話で話していた。
「お父さんに殴られたの?」
沙羅が聞くと、
「大丈夫よ、大丈夫」
その子はよくそう答えた。それは彼女の口癖だった。それでも、やっぱり耐えきれなかったんだろう。
 前向きに生きることがどうしてこんなに大変なんだろう。沙羅の頭ではわからなかったけど、ともかく生きなくてはという想いだけは強かった。
 沙羅は母子家庭で、父親のDVから母親が沙羅を連れてシェルターに避難して、それから都営住宅を探して今暮らしている。だから、母親には苦労はかけたくない。そう思っていた。
 
 最寄駅が見えてきた。
今日も頑張るぞ!沙羅はカツカツと颯爽にパンプスの歩みを進めていった。
 

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