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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

アンビバレンス


死にたいと思いながら 同じ時間に目を覚まし
死にたいと思いながら 同じ時間にクスリを飲んで
死にたいと思いながら ストレッチ運動なんかしたりする



死にたいと思いながら 冷たいお茶をガブガブ飲んで
死にたいと思いながら 冷凍うどんでナポリタンを作り
死にたいと思いながら チャーリー映画なんかを観たりする



死にたいと思いながら 中島みゆきを聴き
死にたいと思いながら 夜会のDVDを観返して
死にたいと思いながら ひとり号泣したりする



死にたいと思いながら 森田童子を聴き
死にたいと思いながら 海を見たくなって
死にたいと思いながら 始発電車に揺られて
死にたいと思いながら 強すぎる風に煽られたりする



死にたいと思いながら 昔の友達に連絡して
死にたいと思いながら 会おうよと誘って
死にたいと思いながら 断られたりする



死にたいと思いながら 100円ショップをハシゴして
死にたいと思いながら 編み物なんかしたくなり
死にたいと思いながら 毛糸とかぎ針買ったりする



死にたいと思いながら お気に入りの服を着て
死にたいと思いながら 髪の毛なんかもアレンジして
死にたいと思いながら 雑貨屋めぐりなんかしたりする



死にたいと思いながら 詩のことばかり考えて
死にたいと思いながら わたしにしか描けないなにか
死にたいと思いながら わたしだからこそ描けるなにか
死にたいと思いながら 日がな一日考えてたりなんかする




死にたいと思いながら
まったくもってつまんねえ人生だったと
まったくもってつまんねえことをつぶやいて



死にたいと思いながら
死にたいと思いながら



ピコン ピコン


そんな時にかぎって あのコからLINEメッセージ
今度の休み どこか出かけよう 
美味しいもの食べにいこうって
映画観に行こうって
新しく出来たあの映画館
ぶらぶら街さんぽするもいいかも


ってさ



死にたいと思いながら いいね!行こうよと
死にたいと思いながら 
最近お気に入りの ずんだもんのOKなのだスタンプ




死にたいと思いながら
死ねない自分をなんとする



劇的な出来事なんて そうそう起きるわけなんかない
つまんねえのが日常 日々なんて生きるなんて
所詮その程度のもの
大仰に考えるなんてバカげてる


けれど


時おりとてもステキな出来事で
こんなわたしを思いきり
思いきり笑わせたり泣かせたり
ウキウキ ワクワク ドッキドキ
とてもいい気にさせたりなんかしやがる



まったくもって洒落くせぇぜ
世の中はまだまだわたしを 
死なせるつもりはないらしい
まだまだわたしを
活かすつもりでいるらしい





そうやってすぐ
ズルッコばっかするんだから
まったく




洒落くせぇぜ










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にがおえ

いちどもわたしを
じっさいにみたことないひとに
かいてほしい

きっと
お姫様みたいに
かいてくれるだろうから

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考えるということについて

 小学三年生の僕は、学校で「考える」という言葉を習い、座りながら固まってしまった。いったい、「考える」って言うのはどういう意味なんだ?一時間半のあいだ、黙って机に座り、考えるとはどういう意味か考え続けた。答えは出ない。しかし考えは止まらない。何か意味あることが浮かんで来るかと、熱心に考え続ける。答えは出ない。
 僕は、今まで、すべての概念を理解してきたのだが、「考える」という言葉には降参してしまった。意味不明。そう結論して、一時間半を終えた。
 ただ白熱した時間だけが残ったのだ。考えるとは、答えを出すことだけではなく、答えを求めて問いの中に留まり続けることでもある。だから、答えを出そうとして問いの中に留まり続けた当時の僕は、すでに考えるという体験のただ中にいたのだと思う。ただ、そのことを自分で理解するには、まだ幼すぎた。
 しかし、完全なる解に至ったのかどうかは今もわからない。内的体験は、他者に完全には伝達できない。だからこそ、自分にとっても、それを言語化することには限界がある。ただそのプロセスがあり、その間に時間が過ぎた。そのことこそが、「考える」という内的体験を言い表す、もう一つの解なのかもしれない。
 当時の僕よりも、今の僕の方が、伝達への意志が強い。だからこそ、あの一時間半を、こうして言葉にしようとしている。考えるとは、答えに到達することだけではなく、答えの出ない時間を、それでも意味あるものとして生きることなのかもしれない。

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だれのために咲いた花

紫陽花が雨に濡れていた。
おそらく庭だった場所に咲いていた。
淡い色なのに、裸の土が鮮やかに目立っている。

おそらく庭…そう書いたのは、壁や門柱がそのままになっていながら、その土地にあるはずの家がなかったからだ。
まだ建物を壊したばかりなのだろう。
均されていないのが土の波打ちと洗面台に使われていたのか、陶器のかけらが無造作に転がっている。

人が作ったものは、いつか人が壊す。
そこにつながりはなく、ただ裸の土と持ち主に消えた紫陽花が咲いているだけだ。

ここに私は思い出を持たない。
だからただ高級住宅地の一角の空いた土地としか思わない。

他にも樹木があったような雰囲気はある、それだけ広い土地だった。
しかしその姿はない。
少し季節外れの紫陽花を雨が揺らしていた。
ただ、そんな思いに関係なく、紫陽花は沈黙してそこに咲いている。

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シーシュポスの神話

深夜のコインランドリーは、僕たちが漂着した最後の中州のようだった。
湿った空気の中に、安価な洗剤の人工的なフローラルと、さっきまでシーツの上で貪り合っていた僕たちの、微かな汗の匂いが混じり合っている。
まなみは、回転を止めた乾燥機の前で立ち尽くしていた。
彼女の細い肩には、脱ぎ捨てたばかりのラルフローレンのオックスフォードシャツが、アイロンを失ったまま無防備に羽織られている。その下から覗く胸元、ヴィクトリアズ・システマティックの黒いレースが、湿った熱を帯びた肌に食い込んでいた。
「熱も、言葉も、すべてが均一に混ざり合って、何も動かなくなる状態……それがこの世界の理で、いちばん平穏な死のはずでしょう?」
彼女の言葉は、薄氷を割るような静けさで響いた。まなみは、バスケットから取り出した僕のシャツを手に取ると、その袖を愛おしそうに指先でなぞった。指先にはまだ、僕の体温を求めて彷徨った時の強欲な力強さが、仄かな赤みとなって残っている。
「……でも、この世界はそれを許してくれないみたい」
まなみはシャツをバスケットに戻した。
そして、唐突に歌い始めた。
彼女の唇からこぼれたのは、昔のアニメソングだったが、それは高揚感とは無縁の、ただ事実を淡々と確認するような音調だった。
彼女は踊り始めた。
右手を上げ、左手を腰に当て、リズミカルにステップを踏む。その動きは、何千回、何万回と繰り返されたはずの「正解」のトレースだった。
けれど、まなみのそれは、決定的に何かが欠落していた。
シャツの下の黒いレースが、ステップのたびに湿った肌の上で揺れる。僕の背中に爪を立てた、剥き出しの身体性はそこにある。なのに、その動作はどこか機械的で、まるで動かなくなった乾燥機のドラムが、慣性だけで回り続けているかのようだった。
「……魔法以上ノ愉快ガ……」
その声には、魔法も愉快さも存在しなかった。ただ言葉が、彼女の気管を通過して、深夜のコインランドリーの静寂に、無機質な振動として放たれていくだけだ。
僕たちの、あの終わらない熱が、この安っぽいアイドルソングによって完全に濾過され、ただの「運動」へと成り下がっていく。
それは、彼女が先ほど口にした「平穏な死」への抵抗のようでいて、その実、最も残酷な形で死を体現しているようにも見えた。かつての熱狂の、抜け殻のようなダンス。
まなみは、一通りのサビのパートを踊りきると、項垂れる様に笑って唐突に抱きついてきた。店内を照らす蛍光灯が、彼女の無防備な横顔と、少し乱れた髪、そして胸元の黒いレースを、執拗なまでの鮮明さで焼きつけている。
その静止を破ったのは、店内の隅で色褪せたクレーンゲームが散らす電子音だった。
僕は100円玉を数枚投じ、磨耗したジョイスティックで銀色の爪を操作した。煤けたペンギンのぬいぐるみを狙う。機械的な駆動音が、静寂を一定の周期で刻む。爪がぬいぐるみの首筋をかすめ、空しく宙を掴んだ。
「取れないね」
僕は言った。彼女のダンスが残した、決定的な何かの喪失感を、クレーンゲームの無残な空振りに重ねるように。
「いいよ。執着だけが形に残れば」
まなみは力なく笑い、今度は埃を被ったガンシューティングの筐体の前に立った。
画面の中ではゾンビの群れが、生物学的死を超越した「非平衡」の足取りで押し寄せてくる。彼女は使い古されたプラスチックの銃を両手で構え、狂ったようにトリガーを弾き続けた。銃声が店内のタイルに反射し、マズルフラッシュの青白い光が、再び彼女の横顔を鋭く焼きつける。
それは、未来を使い果たした僕たちが許された、暴力的なまでの生の横溢だった。さっきまで僕の背中に深く爪を立て、もっと奥へと、もっと永遠に近い場所へと求めてきた彼女の、あの剥き出しの貪欲さが、いまは火花となって虚空を貫いている。さっきの、魂の抜けたダンスとは、対極にある烈しさで。
「死なないものを、何度も殺すのって、祈りに似てると思わない?」
まなみが銃口を下ろすと、画面には『GAME OVER』の文字が、血管の破裂したような鮮やかな赤で点滅した。まなみの唇が、かすかに震えた。
「時間の結晶——外部の誰にも理解されない周期を刻みながら、熱力学の終焉を拒み続ける。たとえ、それがただの、終わらない『慣性』だとしても。私たちはこの静止を許さないの」
彼女が洗い立てのシャツを抱きしめた瞬間、乾燥機の排気口から吐き出された熱風が、二人の間を通り過ぎていった。
それは、エントロピーが増大し続ける宇宙の中で、肉体を重ねてもなお埋まらない欠落を抱えた僕たちという異物が、唯一許された「不変」の証明だった。
そしてその不変は、今しがた彼女が演じた、あのあまりにアンニュイで、あまりに空虚な眼差しによって、より深く、僕の中に刻み込まれていた。

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郊外の夜

 
 
 リチャード・ブローティガンを、ある詩人が、リチャード・ブロー「ディ」ガンと誤記した詩を発表した事も、もう一つの神話になってしまった。さいきん、私はリチャード・ブローティガンこそ、死の比喩でなかったかと思ったものだ。というのも、或る記事を読み、こんな事が書いてあった。
「彼が死んだときには、じっさい安心してしまった。いつ死ぬのかわからないで、冷や冷やしていたものだから」

 死がいなくなったら、人は安心する。
 その記事を、私はポケットに突っ込んで、冷えた路傍を歩く。


 さいきん、花の事をとても考える。でも、花はこんな郊外の夜の路傍では認められない。光りが無いからだ。甘い光りが。私はずうっと起きっぱなしのまま、明日のあさやけに涙を零すだろう。そんな嘘もすっと、コンビニの灰皿の前、マールボロを弄っているとき、リアリティを持っていると「思う」。「思う」、「思う」、「思う」。「思う」って何だ?
 リアリティを持っていると「考える」、実際はそういう事なのではないかと。思う、なんて何か余計な贅肉がついているんじゃないか。

そうして、考える、として、本当に考えているのか?人間よ、


 
 という、テキストをパチパチと打つとき、俺は色んなものに影響を受けすぎていると思う。もっとラフにならなければならない、チャーミングにならなければない。でも、チャーミングでいる事は罪だぜ、黒髪のきみが、風呂上がり、洗いたての髪をゴシゴシ拭いている。


陶器のような肌だ。そうして怖ろしくなってゆく。壊れてしまうって事だから。


「まだ寝ないの?」
「もう少しだけ」


俺は、サーモスのカップへコーヒー粉を突っ込んで冷水を注ぐ。

俺は、換気扇を回し、マールボロに火を点ける。

俺は、明日の朝、あさやけを見つめ、泣いてみようとする。



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理解のしかたそのものも疑っている

「AIとの対話のなかで生じた断片を、titleの方向へ寄せながら、仮置きできるところまでAIと往復していた記録。」
2026年5月19日 20:56


何かに触れている感じはある。
しかし、それが何であるかはうまく定まらない。
わからないなら、わからないまま見ているしかない。
少しわかってきたと思っても、そのわかり方自体が正しいとは限らない。
だから、理解したと思った瞬間にも、その理解のしかたそのものを疑う必要がある。
出てくる言葉は疑わしい。
言葉になった時点で、触れていたものとは別の形に置き換わっているかもしれないからである。
けれど、本当に触れているものは、そもそも言葉にならないこともある。
「信じるかどうか」とは、真偽を判定することではない。
正しいと認めることでも、事実として確定することでもない。
まだ定まらないもの、形になりきらないもの、触れてしまった感触だけがあるものを、退けずにそこへ置いておくことを許すかどうかである。
定まらないものは、そのままでは置いておけない。
疑いすぎれば流れていく。
固定しすぎれば死んでしまう。
そのあいだで必要なのが、仮に信じるということだ。
完全には決めない。
しかし無効にもしない。
消さずに、仮のまま抱えておく。
信じるとは、そのための形式なのだと思う。
そうして置かれたものに向き合うとき、「何かを受け取ろうとして向き合ったのに、何も残らない」という感覚が生まれる。
だがこの「何も」は空白ではない。
対象としては残らず、意味としても保持できない。
要約しようとすると抜け落ちる。
しかし接触の痕だけは残っている。
気配、痕跡、手触り、圧、揺れ、余韻、欠落、余白。
向き合ったという事実だけが、そうしたものとしてかすかに身体に残る。
残らないのは、内容が空虚だからではない。
受け取るべき対象として固定できないからである。
ここで残るのは、対象ではなく遭遇の痕である。
ここで並んでいるものは、対象の種類ではない。
何かがどのように現れ、どのように残り、どのようにこちらに触れてくるかという、遭遇の形式である。
それぞれは、その遭遇に仮につけた名である。
だからこれは、何かが単純に消えていく話ではない。
むしろ、生きてあったものや触れてしまったものが、失われながらも保持されようとして、別の形式へ移っていく変形の連鎖である。
最初にあるのは、実存と呼びたくなるような遭遇である。
生きて、そこにあるものが、そのものとしてこちらに触れてくる。
次に動作がある。
存在はただあるだけでなく、運動やふるまいとして現れる。
その動きが止まると、死体と呼びたくなる状態になる。
運動を失ってなお、失われた動きの痕を含んだまま残っているもの。
そこからさらに、実体としての確かさが薄れ、消えたはずのものが気配としてなお残るとき、その遭遇は幽霊と呼びたくなる。
実体はないのに像として現れてしまうとき、それはホログラムと呼びたくなる。
そして、その像や気配を仮に宿らせ、失われるものに居場所を与えようとする器のようなものを、ぬいぐるみと呼びたくなる。
それぞれは別々のものの名前というより、触れてしまうものがどう定まらず、どうずれ、どう保持されそこねるかに応じて現れてくる呼び名である。
しかし、そうして器を用意しても、像を与えても、気配を抱えても、なお対象としては残らないことがある。
「何も残らない」とは、空虚であるということではない。
対象として取り出せるかたちでは残らない、ということである。
残るのは、内容ではなく接触の痕だけである。
すると次に、対象の不確かさだけでは足りなくなる。
なぜ残らないのか。
なぜ掴めないのか。
それは、向こう側に確かな対象がないからではなく、受け取るこちらの理解のしかたそのものが、すでに揺らいでいるからかもしれない。
何を見たのか。
何に触れたのか。
何を受け取ったのか。
そうした問い以前に、それをどう理解したのか、その理解の運動自体が信用できない。
わからないなら、わからないまま見る。
わかってきたら、そのわかり方も疑う。
それでもまた見る。
理解のしかたそのものも疑っている。
この疑いは、意味の取り違えに対する不安というだけではない。
残らなさの原因が、対象ではなく理解の側へ反転しているのである。
なぜ言葉が出てきてしまうのか。
なぜ言葉にならないのか。
「出てきてしまう」の“しまう”には、意志より先に起こる、止められない、本心かどうかもわからない、少し困った感じ、少し怖い感じがある。
言葉は自分の道具というより、勝手に起こってしまう現象のようでもある。
しかもそれは形になってしまう。
説明になり、記録になり、何かを言い当てたような顔をしてしまう。
だからこそ疑わしい。
本当に触れていたものではなく、形になったことで別のものにすり替わっているかもしれないからである。
しかし同時に、本当に触れているものは言葉にならない。
触れている感じはある。
けれど、まだ早いのか、そもそも言葉の外なのか、自分が掴めていないのか、言葉にした瞬間に壊れるのか、それもわからない。
このとき現れてくるものに、ドッペルゲンガーと仮に名付けたくなる。
それは、単なる不吉な分身ではない。
対象のコピーでも、鏡のような反映でもない。
鏡は自己を映し返し、幽体離脱や多重人格は、かたちは違っていてもなお自己という器を前提している。
抜け出すにせよ、分かれるにせよ、そこには受け止めるべき自分の場所が残っている。
けれど、ここで触れているものはそうではない。
自分が見たはずのもの、自分が受け取ったはずのもの、自分の言葉であるはずのものが、自分のものとして収まらなくなる。
それが自分に近く見えるのは、自分の分身だからではなく、自分がそれに遭遇するからである。
遭遇するのはつねに自分であり、そのために現れてくるものは自分に似た近さを帯びる。
しかしその近さは、所有や同一性ではない。
自分のものとして抱えていたはずのものが抱えきれなくなり、外に像を持ってしまう、その近さである。
見たと思ったこと、受け取ったと思ったこと、理解したと思ったことに、あとからもう一つの影が差す。
対象が二重なのではない。
理解が自己一致しないのである。
自分の言葉であるはずなのに、自分のものとして一致しきらない。
自分が受け取ったはずなのに、その受け取り方そのものが疑わしい。
その自己不一致が、外に像を持って現れてしまう。
その遭遇を、ドッペルゲンガーと仮に名付ける。
だからここで問題になっているものは、自分をそのまま映し出す鏡ではない。
むしろ、理解のずれが像になって現れる遭遇に近い。
それは「これが正しい受け取りです」と固定されるものではない。
向き合うたびに別の像が立ち上がる。
いったん形になったものもまた、自分の外に立ち上がり、自分のものとして一致しなくなる。
そのとき必要なのは、すぐに定めることではなく、信じるかどうかという形式のなかで、仮のまま置いておくことである。
信じるとは、真実認定ではない。
定まらないものに居場所を与えること。
消えそうな感触を、完全には決めず、それでも無効にしないこと。
何かに形を与えて抱えておこうとする気持ちとは、そのことだったのだと思う。
この一連の流れのなかで、ここで起きていることは、何かを正しく伝えるためのものではなくなる。
意味を一つずつ拾い上げて答えへ向かうものでもない。
何かに向き合うこと、その運動そのものをなぞること。
わからないまま触れ、触れたことだけが残り、わかってきたらそのわかり方も疑い、それでもまた見ること。
問いに答えを出すことがゴールではない。
問いの中に居続けること自体が、それぞれの真理に触れていることなのだと思う。
形にすることは結果ではなく、問い続ける運動そのものだ。
固定した瞬間に真理ではなくなる。
だからすべては仮置きである。
決定しないゆらぎのまま、それでも置いておく。
そのために、少し信じる。
そしてその形式のなかで、消えそうなものに仮の居場所を与え続ける。
ここで続いているのは、そういう営みなのだと思う。

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批評・論考

よるのしわざ


「ねえ、空がだれかに塗られていくみたい。」

「あぁ。あれは『夜』の仕業だよ。」

「とてもきれいなんですね。」

「そうだね。
 けれど、あまり心を覗かれてはいけないよ。」

「どうして?」

「ほうっておくと、呑まれてしまうんだから。
    夜は綺麗で、おそろしいものだよ。」













貴方は、呑まれてしまったのですか。

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それが蛍というのなら

それを蛍という人達が
優しい微笑で
小鳥をつつむように
佇んでいる

その声が
空に飛んでいくように
雨が降ることを
雪になることを
そういえば君は
星になる
と言ったかもしれない
そんな事とはおおよそ
関係のないところで
涙が流れていることも


それが蛍というのなら
どんなにか幸せな人達なのだ
とも思う
のだが
生身の僕は無粋に立ち止まって
考えてみようと思う


それは確かに
儚いものだが
そんなにきれいに
消えてしまうものでも
ない


https://youtu.be/vtBJ1OIJw50?si=wGardRpetoN5XPaZ

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ミラーボール

しーっぱ しっぱ
しっぱい ぱい

あぁ、やっちゃった
どうしよう
わたしンせいで
まっくらだ

なんて

どうぞ
思わんで くださいね

あなたは
神じゃ あるまいし
世界は依然 まわってる

あなたは
ミラーボールなの

どうぞ どうぞ
そのまんま
ぐるぐるまわれ
あたりを照らせ

宇宙は それを 求めてる

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釣り糸は
夢を垂らすね
そのまま
微睡みたいね 
ボクラモ
ところで
おいしいか
網にかかった
誰かの不幸は

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雨水と白布

六月を前に 纏まった雨が

早すぎる 真夏日を

庭先から 洗い流す



やまぼうしの総苞

夜明け前の玄関



しろく 流れに 浮かぶ

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して、ん。

やっぱり、ここから、えぶりたいむ
きづいてね さきにいってるから
しんじてる

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てん、し

天使に会うためにことばをなくそうとした人がいたとかいないとか
砂漠の砂は何粒あるのか数えようとして砂となった人がいたとかいないとか
海の塩分濃度をあげようとして塩を撒いて溶けた人がいたとかいないとか
、、、
いたとかいないとか
今生の別れを何度も重ね
死屍累々を跨ぎ
傷つけないように傷つき
傷つかないように傷つけなかった
あなたが
いたとかいないとか
てんてんてん


いたとかいないとか
視点をかえれば
宇宙はココのことだって
今はわかるよ
絶望だもんね、ココロの半分は、
サヨウナラヲイウタメノ
ジュンビヲシヨウ
還る場所を求めて
孵る人がいたとかいないとか
いないとかいたとか
いてくれてもよかった
言わなくていい話を
いくつ話そう
これから
ね、
てん、し
し、、、し、てん、、、し

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 3

 3

なあ地球

なあ
地球 
お前は 
食べられるのか 

ちぎれるか 
レタスの
葉っぱみたいに

なあ 地球 
骨みたいに 
尖ってアブナイのか 
焼いたら どうなる
匂いは
かなしいか
それともサボンか

煙は出るか


 涙は流すのか


 御経は唱えるか

 葬式はするか

あの星にもな
れなかった
連中の為に

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老驥千里 ―― 俳句百句 ――

老驥千里 ―― 俳句百句 ――


笛地静恵


【ノート】夜の暑さや将来の不安に眠れなくなり、俳句を詠み始めました。一時間余りで、百句を得ることができました。季語の混乱や重なり類想もあると思いますが、あえて推敲せず、一夜の記録として、まとめておきます。ご笑覧いただれば幸いです。笛地静恵 二〇二六年五月二十日 


昼顔の壁を支える廃医院


鉄の門ひとへひらきて夏しぐれ


夏草の空き地がここにあったっけ


モニタ消し部屋の四隅のうすぐらさ


蚊火ひとつ階段迷う雑居ビル


コンクリの乾ききったる暑さかな


一畳の場所さえあれば昼寝どき


氷水すこしつぎ足すブランデー


高架下排気ガスにも草茂る


スマホ置く机の上の団扇かな


名も知らぬ小さき虫の涼を呼び


アスファルト裂け目へ水の走りけり


夕立のあとの乾きを待つベンチ


窓枠の三角形の夏の空


古本のページに曲がる蚊帳の糸


公園の滑り台にて目玉焼き


冷房を切ればま白き障子あり


鉄塔の影に飯食う正午の黙


麦湯の輪ふたつ残りて午後の五時


爪を切るホテルに遠し都市の歌


地下室のスチールのドア涼しさよ


文字のなき日記を閉じる蚊喰鳥


路地抜ける白のブラウス夏帽子


古びたる鍵の重さや五月雨る


今の世のともに隙間を蜘蛛ひとり


古寺の瓦を飾る夏の蔦


老人の手の甲に似てるね破蓮


汗をかき電車行きかう線路伝い


不死鳥の仮現のつばさ入道雲


剥げ落ちし ロナインの字の夕日影


金魚鉢濁れば濁る濁るだけ


風鈴の鳴らぬ時間を計るかな


ぬしのなき庭に赤裸の百日紅


古机中二の傷に夏の月


捨てられた自転車にさえ夕立は


沈む日とアイスキャンデイ雲の峰


誰も聴いてないラジオのノイズ夏ごもり


畳の目藺草を毟り麦湯飲む


夕暮れの砂日傘のみ路地をゆく


灯籠の消える刹那の歪みかな


干し草の匂いに遠き昭和あり


壁時計きざむ音だけ額の花


網戸越しドットに見える遠花火


古里の駅の無人を泣く蝉よ


引き出しの奥に忘れた扇の香


消え残るあいつの匂い夏夕焼


庭石の乾くを待つか蝸牛


歳月を床柱抱く夏の闇


水たまり乾けば消える蟻の道


歳をふる我が身について蛍火よ


草の葉へぶら下がりたる露の秋


水馬水のくぼみを踏みしめる


薫風のゆりかごのごと蜘蛛の糸


蚊の鳴くや耳のうしろの寂しさに


風に折れそうで折れない夏草よ


白日の蟻の行く手をさまたげぬ


朝顔の蔓の細さにろくろ首


香虫めひげの動きのひそひそと


金魚の尾水も漏らさぬ泳ぎぶり


葉の裏に蝉の抜けがら三個哉


指先でさわれば消えた泡の恋


薄氷さじに溶けゆく氷水


夜の蜘蛛糸を繰る手の静かさよ


炎天へ燃え尽きる不死鳥の声


畳へと針千本の暑さかな


爪先を触れてくすぐる夏の波


日陰へと逃げるミミズの長さかな


雨だれにひと粒ずつの重さあり


うちわ風あの子の髪を揺らしけり


水底の光の筋を食う金魚


永遠の夕闇を告げ蛍ども


若葉してかすかに透ける脈の筋


蛇のゆくf分の一ゆらぎかな


冷やし水のど通るとき形あり


すきま風糸のごとくに吹き抜ける


光回線(ひかり)ゆけディストピアへと夏の月


万緑の森へ吸われる電子音


ビルの群れ映画のごとし夏の川


AIの思考の果ての涼しさよ


ヘッドホンすきまへ沁みる蝉の声


スクリーン青のうつろい夜の雨


満員の電車のあとに汗の引く


タワーより高きところへ雲の峰


破蓮とネオンの照らす夜のホテル


薫風の雑踏を抜け改札へ


充電の赤き灯ほのか短夜の


信号の変わるを待てぬ暑さゆえ


鉄の街つらぬき通る夏の川


東京よせめて涼めよ夕の風


五月雨のわたし泣いてる窓にきく


SNS(つぶやき)の果てのためいき麦の秋


影のビルさがすがごとき旅ごころ


高架橋土浦の空広き夏


子どもらの笑いは去りぬ氷水


何もかも軽く薄くて郭公かっこう


鉄塔へ銀河鉄道夏の星


改札を出てスマホ出す遠花火


いまを生きるか友よ香虫よ


万物のしずもりのあと夕立のあと


古池もなき街をゆけ夏の旅



(了)

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風の道

歩いていても感じない

風が吹いているようだ



コンビニの袋が

風の行方を教えるように

宙を舞っている



上がる

下がる

左右へ揺れる



コンビニの袋は

まるで風の道があるように

道に張り出した木を

避けて舞う



やがて

風を失ったかのように

ゆらゆらと力を失い

道の真ん中へ落ちた



自転車が横をすり抜ける

風に押され

道の端へ揺れていく



車がゆっくりと進んでくる

轢かれそうなったところで

コンビニの袋は

道の端に落ち着いた

震えたように揺れている



もう舞い上がらないのだろうか



道の端で

カサっと音が鳴った 

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 1

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深呼吸

建前も本音も嘘も使い分け
ながら生きてる今日もこうして

笑う門には福来るなんて言う
笑えるんなら笑ってるっての

ため息をつくとしあわせ逃げるから
深呼吸だと思い込んでけ

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 3

 3

スーファミとか(短歌集)




胃薬が不要になって卓の上 溜まるシートをがちゃがちゃ鳴らす

キッチンのシンクに茶碗を持ってゆき温水を押し暫し待ってる

漱石が胃を痛めつつ書き留めた小説を読む休憩時間

一日は座っていたな夕飯にコンビニ飯を買い出る以外

スーファミのソフトも沢山あったけれどきみの家には地下室がある

茶畑に猫がいたので「猫いた」と自転車前カゴに入れて走った

ビートルズ好きを公言した中二にして「オタクなのね」とそっと言われた

喫茶店の日と云うといえども月曜日喫茶店皆Clauseしている

ピザという大きなものを購(もと)めては卓の上にて大きなものよ

主夫の起床ははやいといえど三時にて三時というはまだ深夜です

二階は風呂の真下のクローゼットにてキュインキュインと音がしている

シャンプーの泡をたてつつシャワーのお湯はとめてないから流れていって

小麦粉が体に合わぬということを身をもって知る黙し空見る

かつて賢治はこんな四月の気層の底に苦々しくも足をはやめて

つかれてる妻を眠らせキッチンのシンクの錆びをこすりつづける

さくばんは米のこととかあったから今朝十時起きそれからは風呂

伝わるか静かに生きることを決めしかし決意を言うときの熱は

小説のように生きてるさいきんのまにまに流れゆく天気予報



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3丁目の右

3丁目の右にはコンビニがある
夜の8時になると惣菜が割引される
不思議なコンビニがある

3丁目の右にはクリーニング店がある
老夫婦が切り盛りする
昔からあるクリーニング店がある

3丁目の右にはブティックがある
艶やかなおばさまが服を売る
いつもセール中のブティックがある

3丁目の右には何かがない
今まであったはずの何かがない
空間も記憶も切り取られたように
一部分が抜け落ちている

僕にも切り取られた
知らない記憶が
あるのかもしれない

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 4

 2

混ざる

人混みの中に身を置いても
孤独は拭えないのに
人混みの中に混ざり込み
ほっとすることはある

電車の中で揺られているうちに
隣り合う人たちと混ざり始める
ような気がしてくる
自分と誰か、誰かと誰か
見知らぬもの同士が混ざり合い
大きなひとつの塊になる
ような気がしてくる

混ざり合うとき
意識はあるだろうか
混ざり合ったものに
心はあるだろうか

人混みの中で混ざり合う孤独に
安らぎは訪れるだろうか

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 4

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鳴いたのは犬か?

素朴でいることの難しさを
噛み締めて
鳴いたのは犬か?

何度目かの語彙爆発
発芽に耐えうるだけの
強度が足りない
あなたにはなれないわたし
わたしにはなれないあなた

校庭で遊んでいた子供たちが
いっせいに校舎へと戻る
交差点を右に曲がる度に
同じパン屋を見つける
毛先の広がった歯ブラシを
口にくわえている

カーブミラー越しに見つめていたのは
あなたのどの部分だったのか
まだわからないけれど
わたしには(苦すぎる朝だ

階段を一段とばして上がる
手すりをつかむ
腰の骨が軋む
踊り場に陽だまりができている
チャイムと笑い声の響く
廊下には気配のみ住む

ふくつうのくすりや
ずつうのくすり
不眠不休の時という暴力
素朴でいることの難しさを
噛み締めて
鳴いたのは犬か?

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 4

 4

五月に

 紫陽花が五月だと言うのに
 闇夜の中で
 浮かび上がる
 ひんやりとした風を
 肌で浴びていると
 懐かしいあの人を
 想い出す

 桜の木の下を歩けば
 そこが日陰になって
 木陰がゆらゆら揺らめいて
 私の心と結びつく

 まだ見ぬ世界に
 何かを置き忘れた気がする
 私はあの人をこの道で
 落とし忘れた気がする

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 7

 6

かくしごと

わたしのお父さんはかくしごとを持っています。

お母さんやおばあちゃんはとてもよろこんでいますが、

おじいちゃんやわたしの友達に言うとすごく不思議がられます。

お母さんが二人いるんじゃないかとか、

わたしの見ていないところでものすごいことをしてるんじゃないかとか、

じつはお母さんにいじめられているんじゃないかとか、

いろんないやなことやこわいことを聞かれます。

でも一人の女の子が、

「何をかくしているの?」と、

あかるくやさしく聞いてくれたので、

わたしも持ってきた絵本を出して、

しょうじきにはなしました。

「お父さん、ライターだったんだ。」

わたしが言うとみんなの顔もあかるくなりました。

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あるツイテない、憑いている一日


満員電車でおもいっきり足踏まれて
紫色した髪の毛のおばちゃんには
聞こえよがしあからさま 舌打ちされて


駅に降りたら お腹が緊急事態
そんなときにかぎって トイレ大渋滞
からの トイレロールがカランコロン


立ち寄ったコンビニでサラダコーナー見ている
若い女の後ろを通ろうとすれば
とつぜん理由のわからない 
まったくイミフな因縁つけられ
気持ちわりぃ と暴言まで吐かれ
お前もな、と云い返してやりたくて
ノドまで出かかったコトバ
詰まりそうになりつつ
どうにかこうにかやっとの思いで飲み込んで



帰り道
あとから



悔しいやらおっかないやら
なんなんだよあの女


ムカムカしながらイライラしながら
やっとのこと家に辿り着いて
持ってる荷物ぜんぶ放り投げ 
着替えもそこそこ メイクも落とさず
ベッドに倒れ込んだら もう起き上がれない



こんな日はもう 笑うしかない
笑うしかない
誰かのせいにしたって仕方がない
どうしようもない




近所の飲み屋から漏れてくるヘタクソなカラオケ音
上階から聞こえてくるドスンドスンというすごい物音


深夜3時過ぎ 突然鳴りだす知らない番号からの着信音に
目が醒めたら眠れない



こんな日はもう 笑うしかない
笑うしかない



鏡の中のあたしの顔は 
やや いや大分ひきつっている
目の下にはびっしりクマちゃん
まぶたも頬も浮腫んで
パンパン 風船みたい
ためしに針で突っいたら 
パチンといい音立てて
弾けて吹っ飛ぶかしら
したらもちっと マシな顔になるかしら



な~んてね



そんなバカげたことでも云ってなきゃ
とてもとても
こんなどうしようもない夜を
ひとりでやり過ごすには
淋しすぎて心細すぎてたまんなすぎて
なんもかんも投げ出して
逃げ出したくなってしまうから


だからもう
もう笑うしかない
笑うしかない




もう笑うより
ほか








 


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社交ダンス

彼女の笑顔がわたしの心に火をともす
社交ダンスを踊るとき
私は心臓の鼓動を感じる

周りは見目麗しい
音楽が流れている

理由などなくても
こんな時間が続いている
いつまで続くのかは分からないが

心の光があたりにいくつも咲く

私とワルツを踊って

花のワルツよ
咲く花よ

人の営みが
ひと時の盛りを演出する

心はそれに応じて
七色に輝き

よき雰囲気が
ひとときの平和を
作り上げている

私の誠心からの思いを
そっと握って
つかまえてみて

逃れて
追いかけて

子どものころ
鬼ごっこをしたときのように

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静かな机

静けさが
机の上を支配している

窓越しの光は
優しく照らしている

コップが二つ置かれている

本は閉じられ
私は座っている

回復と
愛の到来を待って

静けさは
何も壊さない

だから私は
安心できる

踊ることのない
物の作る風景

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民生食堂 あじさい 第4話 越境

 朝の音は、もう珍しくなくなった。男はいつの間にか民生食堂あじさいの二階にある一室に寝泊まりするようになった。アパートには帰っていない。あそこには音がなかった。
 ここでは鍋の蓋が触れ合う乾いた音、包丁がまな板に当たる音が聞こえる。男は二階の部屋で目を覚まし、そのまま天井を見ていた。起きたり階下に降りる時刻も、いつの間にか決まっている。

 階段を下りると、女はいつものようにすでに仕込みをしていた。
 男は声をかけず、流しに向かう。昨日の湯呑みと皿を洗う。水を切る場所も、もう迷わない。

 女は何も言わない。
 男がそこにいることを、特別扱いしない。だが、追い出しもしない。

 昼の客が途切れた合間、男は厨房の端に立った。その床を丹念に観察する。
 床の一部が、どうにも気になっていた。ほんのわずかな段差だが、忙しい時間帯になると、女の足がしばしばそこに引っかかる。危ない、と思った。

 男は何も言わず、倉庫から古い板切れを探してきた。
 寸法を測り、削り、段差に合わせる。釘は使わない。簡単に外せるようにしておいた。見た目も、できるだけ目立たないようにした。

 女は気づいていたはずだが、何も言わなかった。
 小さな板のスロープ上を踏み、少しだけ足を止め、それからいつも通り動いた。

 それを見た男は、よし、と思った。手応えを感じた。

 別の日、男は棚の位置を少しだけ動かした。
 包丁とまな板の距離が、ほんの数センチ近くなる。無駄な動きが減る。効率がいい。金型工の癖で、頭の中ではすでに効率的で理想的な動線が組み上がっていた。

 女は、その棚から包丁を取った。
 一瞬、手が止まったように見えたが、何も言わない。

 男は胸の奥が、少し軽くなるのを感じた。
 役に立っている。邪魔ではない。その感覚が、日々を滑らかにした。

 夕方、帳簿をつける女の背中を見ながら、男は黙って床をモップで拭いた。
 言われたわけではない。だが、言われなくてもやることがある。それが、居場所なのだと思った。

「今日は、客が多かったね」

 男が言うと、女は短く答えた。

「そうだね」

 それだけだった。

 夜、二人は別々に風呂に入り、別々の部屋へ戻る。
 同じ家にいるが、一切交わらない。だが、孤独ではない。男はそう思っていた。

 布団に入る前、男は一度だけ階下を振り返った。
 何も変わっていない。
 そう思えたことに、なぜか安堵した。

 その夜、女は一人で厨房に立ち、動かされた棚を元に戻さなかった。
 戻す理由も、戻さない理由も、口にはしなかった。

 ただ、帳簿を眺めていた時に少し長い吐息を吐いた。


 翌日。
 暖簾を出す前から、男は店にいた。
 女がやる前に、男は水を汲み、鍋に足す。火にかけた鍋の水位を目で測り、足りないと思えばためらわず足した。包丁の音が響く前に、床を丁寧にモップで拭く。まだ湿り気の残る板の感触が、足裏に伝わる。きれいにモップをかけた床を見て、男はひとり満足した。
 どれも頼まれたわけではない。だが、やらないことには気が収まらなかった。自分の居場所なのだから、手をかけるのは当然だと思っていた。

 昼は忙しかった。
 雨上がりで、客足が早い。鍋の湯が足りなくなり、女は何度も水を足した。男は言われなくても厨房でも食堂でも帳場でも動いた。皿を下げ、床を拭き、灰皿の吸い殻を捨て、空いた卓を整える。段差に当てた板は、女はもう気に留めない。つまずくことはなかった。

「兄ちゃん、手際いいね」

 勘定のついでに、常連の一人が咥え楊枝でそう言った。

 男は曖昧に笑った。女の方は見なかった。聞こえていないはずだと思った。それで十分だった。

 昼、混み合う時間帯に事故は起きなかった。
 湯は切れず、皿も滞らず、客は流れた。それが男には何よりの証拠だった。やってよかった、と思った。

 客が引いたあと、女は一息つき、包丁を置いた。
 男は流しの前で手を洗っていた。水の音が止まる。

 洗った手を拭きながら、男は言った。
 声は少し弾んでいたかもしれない。

「雨、上がったな」

 女は包丁を置かずに答えた。

「そうだね」

 沈黙が流れた。
 それ自体はよくあることだった。
 だが今日のそれは、どこか違う匂いを帯びていたことに、男は気づかなかった。

「……あのさ」

 女の声だった。
 低く、いつもと同じ調子である。

 男は振り返った。

「勝手なことしないで」

 一瞬、何を言われたのか分からなかった。
 男は口を開いたが、声が出ない。何と言えばいいのか、分からなかった。

「棚の場所。床の板」

 女はエプロンのポケットからチェリーとマッチを取り出し、火を点けながら続けた。責める口調ではない。ただ、事実を並べているだけだ。

「便利かどうかじゃなくてさ、ここはあたしの仕事場」

 男は、ようやく言葉を探した。

「危ないと思ったんだ。足、引っかけてたから」

「そう」

 女は頷かない。

「でも、決めるのは私」

 男は、それをどう受け取ればいいのか分からなかった。
 胸の奥に、重たいものが溜まる。怒りではない。屈辱でもない。ただ、理解できなかった。

「……元に戻す」

 男はすぐに言った。理解できずとも、彼女にとって良くないことをしたのだとは分かっていた。

「すまなかった。悪気はなかった」

「分かってる」

 女は即座に返した。

「それは分かってる」

 女は帳簿に目を向け、煙を吐きながら淡々と繰り返した。
 それでも、やってはいけないことだった。
 そう言われているのと同じだった。

 男は板を外し、棚を元に戻した。
 寸法も測らず、ただ元あった場所へ戻す。手が少し震えていた。

 女は見ていなかった。
 煙草を指に挟んだまま帳簿を開き、数字を追っている。

 夕方の客が、ぽつぽつ現れ始めた。
 男は動くべきか迷い、結局ひとり二階に上がった。
 だが彼がいなくとも食堂の仕事は何事もなく回ったようだ。それが男には堪えた。

 夜、男は一階に降りた。何か言うべきだと思ったが、何を言えばいいのか分からない。

 女は何も言わなかった。

 結局黙って二階の部屋に戻ると、男は畳の上に座った。
 夕べから夜にかけての|忙《せわ》しい物音が嘘のように、階下から何の音もしない。

 いつもと同じように布団を敷く。
 それに気づいた男は手を止めた。
 ここに長くいるつもりはなかったはずだったのに、いつの間にか当たり前のように布団を敷くようになっていた。
 だが男には、改めてそれを畳む気にはなれなかった。

 目を閉じても、いつもの包丁の音が頭の中で鳴っていた。
 それを明日の朝、聞くかどうかは、まだ分からない。

 布団の中で男は考えた。やはり仕事を探すべきなのだろう。
 仕事があって家賃でも支払えれば、ここにいてもこんなに気詰まりはしない。仕事もなく、食堂のものに余計な手出しができないのであれば、ただ朝が来て、夜になるのを待っているだけだ。

 階下で、女が戸締まりをする音がした。
 鍵がかかる、乾いた音。

 男はその音を聞きながら、
 初めて、ここに自分の居場所はないのかもしれない、と思った。

 同じ屋根の下にいる。
 だが立っている場所は、もう違っていた。いや、初めから違うところに立っていたことに、気づいていなかっただけかもしれない。
 床の段差も、棚の位置も、当たり前のものとして。きっとそれに身体が馴染んでいたんだと思う。それを自分が壊した。そう思うと、胸の奥が重たくなった。

 荷物は、ないに等しい。
 畳んでしまえば、すぐに出られる。そう思って、男は手を伸ばしかけて、やめた。

 男は寝返りを打った。
 布団の感触が、ひどくよそよそしい。

▼次回 第5話 夜明け前に発つ

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民生食堂 あじさい 第3話 六畳一間

 夕方になって、空が急に暗くなった。
 朝の晴れ間が嘘のようだった。雲が低く垂れ込み、風が湿り気を帯びている。男は仕事を探して歩いたが、何の手応えもなかった。工場の門は閉じたまま、張り紙の募集はすでに古い。声をかけても、返事はつれなかった。

 気づけば、あの民生食堂の前に立っていた。
 用事があったわけではない。帰る場所へ向かう途中で、足が止まっただけだ。  
 暖簾をくぐると、女が一人で後片付けをしていた。
 客はもういない。鍋は火を落とされ、湯気も消えている。

「今日は遅いね」

 女はそう言って、手を止めなかった。

「……仕事が、なかった」

 男はそれだけ言った。
 女は頷かない。

「そう」

 それで終わりだった。

 外で雷が鳴った。
 間を置いて、大粒の雨が降り出す。音はすぐに大きくなり、店の屋根を激しく叩いた。

 男は時計を見た。
 いつもなら、もう帰宅している時間だ。だが、この雨の中を、あの部屋へ戻る気にはならなかった。考えないようにしていたことが、急に現実味を帯びる。

 女が言った。

「帰れる?」

 男は一瞬、答えに詰まった。

「……帰れなくはない」

「そう」

 女は布巾を絞り、吊るした。

 雨脚がさらに強まる。雷が近くなった。

 男は、何かを観念したかのように口を開いた。

「……アパートを出ろって言われてる」

 女は、初めてこちらを見た。

「いつ」

「今月いっぱい」

「なんで?」

「……取り壊すらしい」

「引っ越さないの?」

「仕事を探すうちに金が底をついた」

「そう」

 それ以上は訊かれなかった。
 女は少し考えるように黙り、それから言った。

「ここ、空いてるよ」

 男は、その言葉の意味をすぐには理解できなかった。

「……ここ?」

「二階。使ってない部屋がある」

 淡泊な一言。
 勧めるでもなく、説得するでもない。

 男は、反射的に首を振った。

「いや、それは……」

「嫌なら別にいい」

 女は淡々と言った。

「この雨だ。何も濡れてまで帰るほどのことじゃないでしょ。そう思っただけ」

 男は言葉を探した。
 世話になる理由も、断る理由も、頭の中で絡まった。

「……一晩だけ」

 そう言ったとき、自分の声が思ったより小さいことに気づいた。
 二階の空き部屋は、六畳ほどだった。
 畳は古いが、きれいに掃かれている。布団は押し入れにきちんと畳まれていた。

「風呂、先に使う?」

「……いや、後でいい」

「そう」

 女はそれ以上、構わなかった。
 男は布団を敷き、腰を下ろした。畳の匂いがした。自分の部屋とは違う。少し湿っているが、嫌な匂いではない。

 夜になっても、大雨は止まなかった。
 下から、食器を洗う音が聞こえる。

 男は天井を見ていた。
 一晩だけ。その言葉を、何度か頭の中で繰り返す。

 やがて音が止み、鍵をかける音がすると、女が階段を上がってくる。

「電気、消すよ」

「ああ」

 男が慌てて布団に潜り込むと灯りが消される。

「それじゃ」

 女は部屋を出ていった。
 暗闇の中で、男は目を閉じた。


 男は物音で目を覚ました。
 朝は、すでに始まっていた。
 階下から包丁の音が聞こえてきた。規則正しい、迷いのない音。男はしばらく布団の中でそれを聞いていた。自分の部屋ではない、という実感だけが、徐々に湧いてくる。
 起き上がると、体が少し重い。だが、不思議と嫌ではなかった。畳んだ布団を押し入れに戻す。畳の縁が少し擦り切れている。意味もなく指で軽くなぞった。

 階段を下りると、女がすでに仕込みをしている。

「おはよ」

 男は一瞬、返事を迷い、それから言った。

「……おはよう」

 女はちらりと男を見る。

「どうする。今日も泊まる?」

 男は、答えなかった。先のことは決められなかった。
 暖簾が揺れ、朝日が差し込む。男は、エプロンもつけずに、流しの前に立っていた。

「……何か、やることあるか」

 男が言うと、女は包丁を置いた。

「洗ってないのあったら洗って」

「わかった」

 ごく短いやり取り。

 男は流しに立ち、昨夜使った湯呑みと皿を洗った。水は冷たく、指先が少し赤くなる。女は横目で見ることもなく、黙々と野菜を刻み続けている。

 朝飯は簡素だった。
 余った豚汁に飯。茄子の漬物が少し。

「食べる?」

「ああ」

 向かい合って座ることはなかった。
 男は台所の端で丸椅子に座って飯を食い、女は立ったままで、鍋の様子を見ながら食べる。

 客が来る前に、男は外へ出た。仕事を探すため。

 夕刻前、男は戻った。
 成果はなかった。だが、何も言わず暖簾をくぐると、女はいつもどおり配膳をしていた。
 何か言おうと思って、喉まで出かかったが、やめた。「おかえり」とも言われなかった。
 ただ、男の分の飯が、自然に用意された。余りものの総菜と飯と味噌汁。
 夜間の混雑を男はただ黙って眺めていた。
 それも終わって客が引けると、男は手伝おうとした。

「何か、やるか」

「じゃあ、床」

 男はモップを取り、床を拭いた。
 力を入れすぎて、端の方の壁まで濡らしてしまう。

「……そこまでやらなくていい」

「すまん」

 謝ったが、女はそれ以上は何も言わなかった。
 夜、二階に上がる前、男は一瞬だけ立ち止まった。

「すまん…… 世話になる」

 女は帳簿を閉じながら言った。

「あたしは別に、構わない」

 責める調子ではなかった。事実を確認しただけだ。

「……そうか」

「布団、湿気るから。明日晴れるみたいだし、朝、干しといて」

「ああ」

 言われたのはそれだけだった。

 二階の部屋で、男は布団に横になった。
 階下からは、もう音がしない。
 同じ家にいるのに、距離ははっきりしていた。たった二日とは言え、居候の身には、その距離がありがたいことなのか、それとも突き放されているだけなのか、男には判断がつかなかった。
 男は目を閉じた。今日一日を思い返そうとして、やめた。
 何も起きなかった。何もなかった。それだけは、確かだった。

▼次回 第4話 越境

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リノリウムジゴク

一組のあなたが
短靴下を捲り上げると
白い足首の内側に
筋彫りの六芒星や✕印
いたいいたいいたづらなので
その筋線はところどころ震えて
いいたいいいたいすきといいたい
いいたいだけですきではない

日除けの無い理科準備室で
──────見せて貰つて、

床板の矧がれた視聴覚室で
──────見せて貰つて、

ヤンマガやBOMBで覚えた事で
やれる事は精精これぐらい
あそこで待つ先には、
到底ゆきつけないジゴク
三組の私は三組に戻つて
黒板を消してゐる
気配を、不実を、消してゐる
一組のあなたは、
別の校舎の防火扉の重みの前で
また色目を使つてゐるのだらう

体育館のリノリウムの上で
孤立無援となる五時限目ジゴク

バスケ部の男女が性能順に
入れ替わり立ち替わりジゴク

──────見せて貰つた、のだけど

カピカピに黄ばんだ慾暴は
ポリエステルの制服生地の表を
緩慢に滑落してゆくジゴク

https://i.imgur.com/6LTZ0Wt.jpg

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古本屋の女主人は
若くて
美しくて
両の目の間が
人より少し離れている

本をめくりながら
チラリとその方を見たりすると
何故自分が生きているのか
時々わからなくなる

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人間 滅亡 賛歌  

消えていく
愚かな姿が目一杯

最後の足掻きなのか
オクターブの声が耳一杯

私には今にも死にゆく
彼らを見守ることで手一杯

酒を片手に一杯
ごくりと飲み干す

腐肉の味
吐くほど不味い

充満する香り
赤血の匂い
なぜ這い寄る?
ゴキブリのように
カサカサと私の足元に縋る


地獄へゆけ


私は天使や悪魔ではない

光輪など授けてやるな

こいつらが天でもまた野を駆ける

そう思うほど虫唾が走る

そうだとも

お前たちの憧れる空の国は

所詮この世界と同じ

クソにまみれ光などない


滅亡   万歳!!!

人類   万歳!!!

滅亡   万歳!!!

人類   万歳!!!




泣きわめく
若い衆が一人

親族を失くしたのか
瓦礫と死体の山に目が泳いでいる

私には今にも死にゆく
彼らを見守ることが使命

刃物を片手に一斉
ぞくりと背に伝う


地獄へゆけ


お前は虎や獅子などではない

豚のような処分を下してやる

あぁこいつらがたくさん殺してきた

そう思うと腸が煮えくり返る

沈みゆく太陽

月などあるはずがないのだ

息絶えるまで灼熱に焼かれていろ


人類    万歳!!!!

滅亡    万歳!!!!

人類    万歳!!!!

滅亡    万歳!!!!


死にゆけ、死に行け

慎ましく、

(愚かな姿を)

静かに、

(オクターブの声を)

見えぬところで、

(見守ることが使命)


綻べ、滅べ



指で作った花瓶にスノードロップ

もう一輪(いっぱい)








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Carぁ、やってらんねぇ。

ガソリンが尽きた。

何もやる気が出ない。

車じゃないんでね、

一度止まったものはどうやったって動き出すまで時間がかかるもんだ。

タイヤが2つ少ねぇ分、非力なんだよ。

アクセルを踏んだって、

できないことはできない。

図に乗るなよ。

ここがブレーキだ。

きっとこのまま滑走してたら、

曲がれるカーブもなく病院まで一本道だったかもな。

ははは。

気張って出るもんなんかクソだけだぜ。

大人しく給油場を探すんだな。

このままダラダラするのも無事故で良いが、

適当に通りかかった自動車屋で疲れと一緒に車検代まで吸い取ってもらうか?

それからお前はトランクの隅っこで後悔するんだ。

ごめんだぜ。

今は前を向け。

ボンネットでも見て瞑想するんだな。


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 2

生き、絶える。

天使、生き絶える。

常世の体がこの世の重力に耐えられるはずもなく。

堕天の天下りは失敗に終わった。

滑らかな弧を描いた環は潰れて、

一方通行の直線となった。

もう戻ってこれまい。

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 2

 2

今日は朝まで

終電の到着に乗るか悩む今夜。
迷惑通話はうなぎ上り。

会社の業績だと良いなと思いながら、
残業はごめんだと思う。

人はみんな矛盾している。
帰りたいのに帰れない。

この電車も、
油断しているとどこか遠く、
何も分からないところへ連れ去られるかもしれないんだ。

Stay in night.
今日は帰れない。ごめんよお月さま。
太陽が帰ってくるまで待つよ。
心細いから。


積み重なるバイブ音聴こうか悩む今夜。
「繋がらない」って良いこともあるんだな。

パチンコの当たりの合図だといいなと思いながら、
ここからボロ負けしないといけないのかと思う。

prrrrrr

「ねぇどこにいるの?」

人はみんな矛盾している。
帰れないのに帰りたい。

この電話も、
油断したままどこか遠く、
何も分からないところに連れて行ってくれたら。

Stay in night.
「今日は帰れない。ごめんね。」

「どうして?どこにいるの?何をしてるの?他の女と会ってるの?誰といるの。早く帰ってきて。私にも言わずに、どこか遠くへ行くなんて酷い。分かるところ?迎えに行くよ。どこにいるの──」


ピッ,,,ツー、ツー


終電の到着に乗るか悩む今夜。
迷惑電話はうなぎ上り。

会社の業績だといいなと思いながら、
残業はごめんだと思う。

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行方不明


片方の靴下が行方不明だった

昨日たしかに洗濯した
はずなのに

残った片方だけが
みょうに平然としていて

えー

世の中には
説明できない失踪があまりにも多い

消しゴム
ボールペン

さっきまであった
やる気とか

みんな急にいなくなる

昼ごろ
諦めて別の靴下を履いた

夕方になって
行方不明だった靴下が
机の下から出て来た

えー

世の中には説明できない失踪があまりにも多い

そしてそれは
さがしている間ではなく
少し諦めて

はあ
と息をついたころに戻って来る

だが
この場合
戻って来たのは使い古しの靴下だったので

ほとんど再会の感動というのは
なかった

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即時一杯の飯の如かず⑰

 ep.17 「Twist Lick Dunk」

 路嘉の隣から逃げ出せる猶予はあった。
 しかし残業を振ってまで一緒に居たい気持ちを優先した俺は今、レンタルショップ<R18>エリアの暖簾を潜り、女性の裸体が並ぶ異世界で立ち尽くしている。
 表を上げられず視線を反らした先にも激しいタイトル・・・・・・いかがわしい。

 「外で待ってる」
 「・・・・・・は? 適当に見てて」

 レンタルビデオといえば現物を借りて店で受渡するのが従来のやり方だが、今はパッケージの二次元コードを読み取ってサイト内で期限付きAVを視聴。スマホ決済ができるので店員と顔を合わせる必要が無いのは利点だが、現代社会においてネット利用に完全移行しない理由は店側の利益になるのだろう。ネット価格は月額2200円の他タイトル別500円~有料ダウンロード可能だが、店頭価格は映画一律・5本/1000円利用でポイントもつくのだから足を運ぶ客は誰かしらいる。路嘉がそうであるように。
 一週間にタイトル5本、若い男なら余裕だろう。
 女性に興味がない一方で顔が映らない男性の裸体のぼんやりとした部分に目を細めてしまわないよう必死に避けて角を曲がると、見たことがある横顔に小さな悲鳴が出た。
 元彼、佐伯総一郎との遭遇に次ぎ
 今彼、白鳥路嘉の板挟みにされる苦悩に、頭痛。些か血の巡りが良いらしい。 

 「何でお前がここに居るんだよ」
 「ここ、男しか来ないから物色・・・・・・ほら、あそこ見て」

 素直に従うと肩を押されて壁を背にしたまま、宗一郎の手が逸る。わかる、お前はそれを平気でやる男だっていうのは百も承知だ。しかし通路側から顔を覗かせる路嘉がパッケージの列で遮られる直後、宗一郎の顔が近づく。こんな所で襲われる理不尽さに抗っても汗混じりのラストノートに鋭く反応して視線が導かれる。

 「すみません。それ・・・・・・俺のなんですけど」

 俺の眼前にAVのパッケージが差し込まれ、一難逃れて膝が折れる。────た、助かった。気が抜けると足元がフラつき、暖簾を潜る客人に倒れ込む。

 「宗ちゃんおっそいよ。何や・・・・・・って、絢斗?」
 「あ、的場さん!」
 「白鳥さんもお揃いで」
 「聞いて!あそこの男に痴漢されたの」
 「誰が?」
 「絢斗が。リーマンが痴漢されるなんてゲイビじゃねぇんだから。おいこらテメェ!!」
 「あー、迷子の仔猫ちゃんが居たので」
 「エッチなおまわりさんだね。絢斗、大丈夫?」

 間一髪の救済ではあったが、眼前に飛び込んで来たのは女性のご開帳。背後からお尻を両手で掴み、開かれた様のぼかしは見覚えがあるくすんだ肉色と、事後の体液が破れたストッキングを這う。
 声は聞こえても返事がおぼつかないほど、冷静な判断ができない。張り詰めた緊張に睡眠を要求する作用に絶え兼ね、そのまま和真に頭を預ける俺は自宅に運ばれ、揺らぐ意識の中で花椒の香りに目覚めた。

 「豆腐は下茹でして、辛いソースに材料を足していく」
 「葱はいつ入れるの?」
 「味が決まってから。残りの中華スープをゆっくり注いで」
 「これ?」
 「そう、上手だね。味はどう?」
 「ん……やばっ店で食べる味」
 「葱を入れて、水溶き片栗粉を混ぜ合わせたら完成」

 和真が料理を教えている。
 こちらに気が付いた路嘉は撮影している宗一郎を避けながら、皿を持ってきた。


 今夜のメニュー

 ・麻婆豆腐
 ・豆もやしの時短ナムル
 ・茄子煮浸し
 ・レタスと玉子の中華スープ

 
 「すまない、疲れが出てしまって」
 「お疲れさん。冷蔵庫にあったもの、使ってよかった?」

 和真の間を割って抱きつく路嘉の頭を撫でながら話を聞く。
 初顔合わせにも関わらず、俺が寝ている間に路嘉はすっかり馴染んでいて安心した。

 「・・・・・・やっば。俺、天才かも」
 「殆ど和真が作ったよな?」
 「いいから。絢斗には辛すぎるね」

 確かに、激辛耐性の無い俺には花椒の刺激は強すぎるが、茄子の煮浸しの味付けを舌の上で解きながら飲み込む。
 オリーブオイルか?
 甘辛さのキレがよくさっぱりしている。疲れた体が欲するアイテムが全て凝縮された圧倒的、美味。副菜だが、これがメインに出てきても納得がいく。
 
 「あのさぁ、おやつはご飯食べてからにしなよ」

 食事に手を付けない宗一郎を見兼ねた路嘉だが、オレオの黒いクッキーを回して上下離す食べ癖は相変わらずで<あの言葉>を呟く。

 「回して、舐めて…」
 「食べ物で遊ぶな」
 「なんだお前知らないのか?」

 Twist Lick Dunk
 それは、みんなが笑顔になる魔法の言葉。

 俺ら世代には懐かしいが、路嘉は首を傾げていた。正面の宗一郎は満面の笑みで、クリームにフォークを刺して牛乳に半分落とす。
 
 「これが主食なんだよ」
 「え? おやつしか食べないの」
 「仕事だから」

 
 はい、と言葉をひとつ置いてから名刺をフォールドして自己紹介「絢斗の"友達"で、佐伯総一郎と申します」立場上、積極的に正体を明かす方ではないのに。腕組みを解く和真の視線が注がれるのは当然だろう。下手を打てば、俺ごと怒られ承知で・・・・・・この野郎。
 路嘉のレンゲから麻婆豆腐がゆっくりと零れる。自分が作った料理を食べない痴漢男の正体を知った途端、レンゲを落として口を押えた。

 「スイーツ王子、ほぉんにぃん・・・・・・て、こと!?」
 「和真は紅茶の王子様」

 腕にしがみつく路嘉の瞳はアガーでコーティングされたタルトの様に輝く。

 「絢斗は・・・・・・俺の王子様だから。あ、あのっ俺たち付き合ってます」
 「セフレじゃなくて」
 「痴漢には教えない」
 「あれは逢引きといってな」
 「うるせぇ!今度やったら俺の作ったカレー食わせるからな」
 「あはは。甘口なら食べれますけど」
 「死んでも知らねぇぞっ!!」
 「開示だな」
 「はいはーい、痴話喧嘩しないの」
 「それでは新メンバーに新米ダーリン♡お迎え、でいいのか? 絢斗」
 
 頷くと、和真の音頭でグラスをぶつける、賑やかな食卓。
 米を研いだことがない路嘉が食べ物として成立するカレーを料理できるか否か。ダメなら俺がダールカレーを作ってやると頭を撫でる先に唇が降り注ぐ。俺たちの夜は、これから。

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矢部遥は少しずれる(ある日の矢部遥 第四話)

矢部遥は少しずれる。

ずれる事を感じている。
ずれるのは、外と内。
反応と認識。

ずれたら困る――訳でも無い。
不愉快――な訳でも無い。
ぴたりとあっていても――それでも良い。
無理にずらす――訳でも無い。

ただずれているとき、その時に個を認識する。

ずれるとは、大きな海の中にも海流があるような

矢部遥と言う一つの流れ。

混じり合い、入れ替わり、その位置を時々変えながら、しかし流れは独立している。

その流れは ずれとなって初めて認識できる。

遥は 今 ここにいる と。

遥は その内なる流れに 手を浸す。
遥は その内なる水位の 浮き子を見る。
ずれが大き過ぎた時 その時だけ
少しだけ 意識を向ける

水の中の水
内なる流れ

その流れを 少しだけ 速めたり とどめたり

海の中にある 自分の水門


「ん、」


とかすかな囁きが聞こえた時

それは矢部遥が、小さな調整を行った時。

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ほどける

荷を解く
引っ掻き 捲れた爪痕

ぬるい熱が 残る

衣を一枚ずつ
滑り落とすも

何処へも行かず
ただ 一如

芥の思い
呪縛

永劫の結び目は
美であり

解けこそは
その死

── 碧井雫

#碧井雫 #詩 #現代詩 #言葉

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ポスト・ポスト・モダンの条件

 いまや大衆こそ絶滅危惧種だ
 なぜって
 いまどき中学の二年にもなりゃ
 ニーチェ、オルテガ二、三引用し
 嫌な奴皆ファシストにしちまうことくらい
 簡単だからね

 一億総質的少数者化だ

 この国にゃもう大衆なんて
 100 個体くらいしかいないんじゃないかな
 しかもそのうち
 メスは0だ

『ゴブスレ』なんかのゴブリンの設定って
 なんかそんな状況
 反映してんじゃないかな
 そう
 いまどき流行らない反映論だよ
 それに僕たちにゃあんな生殖能力
 絶対ないんだけどね
 レッテル貼った対象に過剰な生殖能力付与
 ってのも
 排除の常套手段だったんじゃなかな
 そしてこの社会の子供たちが
 誰かに掠め取られてるって
 そうなるともう「#MeToo」なんかも
 低価値者に対する強制断種の色
 帯びてくるよね

 でも確かゴブリンって
 古い墳墓とか地下水道とか
 光ある世界の裂け目んなかに
 棲んでんだよね
 僕たち大衆の生き残りたちが棲んでんのも
 なんかそんな
 暗い裂け目んなかだよ
 でも僕たちゃこの暗い裂け目んなかに
 君たちいわゆる
 数のうえだけじゃないマイノリティのメス
 攫ってきて自分たちの子
 孕ませたりなんかしないけどね
 静かに滅んでくつもりだよ
 いったろ
 僕たちにゃ過剰な生殖能力なんてないんだ
 だからここで静かに静かに
 滅んでくつもりだよ

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スストアで

剥がれた分度器を
落ちている人のように
並べていくみたいに
拙い息継ぎが
街の柔らかいところに
終わっていくみたいに
コンビ、ニエン、スストアで
スストアで
淡い方の手を近づけて店長は
小鳥を飼い始めた
美しくて知らない名前を付けると
スストア、それだけで
開いててよかった

週末がある夏の日に
交差点は作られていく
ここでは何も釣れない、と
空色の子供たちが
スストアで
銀行強盗の相談を始める
悪いことをしていなくても
許されないことに傷つく時が
いずれ来るというのに

スストアに吹く風が
スストアに笑う風が
スストアに息絶える風が
山手線の吊り革を揺らして
また風になる
店長はバックヤードに入ったまま
行方不明になってしまった
わたしは待ちながら小鳥と暮らし始める
最初から店長は
小鳥だったのかもしれないと思う
スストアの咲く庭で
わたしたちは愛を
語っていただけなのかもしれないと思う

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ティーチャーズ・ペット


カーボン鉛筆の芯が折れて転がる
熱のこもった午後 黒い旗
地下道に似た県立高校の廊下
紙を裂く匂いまでわかりました
幼さをむさぼる人の気配で
三角定規の影も歪む バランスが悪いから
密接した呼気は部屋にたまっていく
伸びすぎた私の前髪が欲望の言い訳ですか
青白い蛍光灯が見ていたことの
いっさいを忘れてしまい
ぼんやり目覚めた冬の朝にだけ
膿んだたましいを温めるなら
量産型
よくある詐欺師の生き方ですよね
苦しみに満ちた自分の生命を抱えきれず
落ちていくとき少女を道連れにする
夢の残像を背中に生やして
留守番電話は聴かずじまいの先生
さほど強くもない風が吹き
何事もなかったように日が暮れ
いつか二人で標本になるの?

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逞しいリスの女の子

秋の始まりの風の音は
愛くるしいハーモニカの音

なんて

わたしは笑って胸に抱く湖を思う
音色が湖面を滑り来るよな小さな波に
水色の手すりにそっと触れたら、
ずっとずっとちっぽけな自分のままでいたいって胸の底から思ったんだ


でもサヤカさんのパティスリーへと行くためには、
まあるいどころではない曲がりくねった坂道を登らなくっちゃなりません


サヤカさんわたしサヤカさんが欲しい、というよりかはサヤカさんみたいになりたいのかもしれません。そうしてサヤカさんみたいにザラついた現実を手にしたいのだと。

ハチドリの、ねえどうしてハチドリのホバリングみたいにサヤカさんは話すのかな?ガサツ!いいこと?教えたげる。会話の言葉数は1対1が基本です。それをあなたは9対1ほどにまでしておいて悪びれもなく…

胸の湖もいいけどそれこそわたしが、よし、これからは湖よりも雪の村を心象風景にして歩いていこう(!)とでも思ったとしたら、翌朝には陽だまりのように淡くなっちゃうんじゃないかって。そんな不確かなものに自分を重ね続けてくのが不安なの。


ねえ、秋空に浮かんでるのは
シュークリームのフワフワのクリームなんですって

X丘の愛らしい切り株の上には
年に数回森の精がモンブランを置いていくんですって

ああわたし、
今すぐにでも逞しいリスの女の子になって、
あなたの上品な胸に飛び込んでみたい

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つきなみ怪談  ラジオ体操

   あれは小学四年生の夏、確か八月になったばかりだったと思う。私はとにかく朝が苦手で、ラジオ体操に行くのが苦痛で仕方がなかった。だけど近所に住む従姉妹の岬ちゃんから「約束なんだから、破ったら遊んであげないよ」と言われ渋々、参加していた。彼女のまとめ役としての責任感は執拗なくらいで、町内の子どもたち皆んなを皆勤賞にしようとしているようだった。
   その日も、何度も母に起こされ、「あちぃなぁ……」とボヤきながら家を出た。首に下げたスタンプカードが既に汗をかき始めた肌に張り付いて、不快だった。集合場所に向かう途中、男の子と女の子が声を掛けてきた。違和感。なんだろう、声は聞き覚えがあるのに。この子たち、誰だっけ? 建物の影に浮かぶ顔は、どちらもぼんやりとしていて、ピンぼけの写真みたいだった。
   神社までのゆるい坂道を登り切る頃には、十人ぐらいの集団になっていて、違和感の正体に私ははっきりと気づいた。
二種類しかない。
男の顔と女の顔に別れていた。どちらも同じような造作で、目が異様に大きくて、頬はふっくらと膨らみ、口元は笑ってるかのように歪んでいる。だけど、僅かな違いがある、多分、鼻の形だったかと思う。尖った鼻と丸い鼻。
  十人以上もいるのにふたつの顔しかない。思わず後退った、瞬間、肩を叩かれ私は半ば飛び上がった。

「おはよう! ん?どうしたのさ」

   岬ちゃんが立っていた。私がこの異変をどう伝えようかと、言いあぐねているうちに、彼女はいつものように元気いっぱいに小走りで、皆んなに駆け寄っていく。岬ちゃんは普段とまったく変わらない様子で、他の子どもたちと笑い合い、じゃれ合っていた。
   帰ってしまおうか、と思っていたら見守り役のおじさんが来てしまった。何事もないかのように整列してラジオ体操が始まった。跳んで、捻り、反らし、延ばす、なんだかやけに揃ってみえた。二種類だけの顔が朝日に照らされて、てかてかと光っている。腕を回すたび、嫌でも隣の顔が視界に入ってしまう。でも、私と岬ちゃんだけが普通の顔をしていることを除けば、何事もなかった。体操の後、岬ちゃんが皆んなのスタンプカードにいつものようにハンコを押していった。ただ、その日のハンコは、いつもの太陽ではなかった。
笑っているようで笑っていない、目が大きく歪んだ人の顔。あの顔だった。
   帰り道で私は岬ちゃんに聞いた。

「ねえ、みんなの顔……変じゃなかった?」
「どこが? 普通だったよ」

   彼女はきょとんとした顔で首を傾げた。翌日、私は熱を理由にラジオ体操を休んだ。しかしその次の日、岬ちゃんに「約束守れないの!」と怒鳴りつけられ、強引に引っ張り出されてしまった。
その日は、すべてが普通だった。
顔も声も、いつも通り。ハンコも太陽の絵柄だった。ただ、私のカードだけに残った前日の歪んだ顔のハンコは、消えなかった。
この出来事がきっかけで、学校では一時期こんな怪談が流行った。

「ラジオ体操を休むと、代わりに誰かが来て入れ替わられるんだって」

   でも、実際には違った。顔は二日目には元に戻っていたし、誰も消えたり入れ替わったりしなかった。不気味なハンコも、夏休みが終わる頃にはみんな忘れていた。……ただもうひとつ、今でもわからないことがある。

あの朝、最初に声を掛けてきた男の子と女の子。

結局、あの二人は誰だったんだろう。
他の子たちとは明らかに違って、ずっと最後まで二種類の顔のままだった気がする。

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二階から目薬

起きていると目を使い
あくびすると涙が出る
涙を拭くとかゆくなり
繰り返すうちに目頭は
触れるだけで痛くなる

あわてて眼科に走る
 炎症ですね
 目薬出します
 一日4回 朝昼夕夜
 3時間ごとに
 二種類です
 5分間隔を空けて
 ひとつは冷蔵庫で保管を

肝心の注し方を
教えてくれない

そして今日も
目薬がこわい

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 8

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 斜面の北側、ミズナラの根のあいだの窪みに横たわる獣。皮毛にはまだ水分が残り、口の周りにクロバエが集まる。
 腹部が膨らみはじめる。皮膚の下でガスが移動する。耳の内側、鼻腔、目の縁に、卵が産みつけられる。

 雨。水は窪みに溜まり、毛のあいだを流れる。卵のいくつかは土に紛れる。残ったものは、皮の内側で動く。

 腹がほどける。

 膨らんだ皮膚が裂け、内側のものが外へ出る。匂いが尾根を越える。ハシブトガラスが舞い降り、トビが旋回する。眼球が運ばれる。舌が運ばれる。夜、肋骨のあいだから内臓が引き出される。

 ハエの次の世代が羽化する。窪みの上の空気が羽音で満たされる。風が吹くたびに、羽音が近付き、遠ざかる。シデムシが土の下から這い上がり、死骸を掘り、その下に潜り、肉の繊維を解体する。

 毛皮は輪郭を失う。

 骨が露出する。第一頸椎、肩甲骨、腸骨。白いものが地表に現れ、雨に洗われる。残った皮は薄くなり、色を失う。

 落葉。窪みのまわりに葉が積もり、白いものを覆う。

 初霜。ハエはいない。

 雪が降る。風が通過する。雪は解け、また降り積もる。

 雪解け水が斜面を流れ、骨のいくつかが下方へ動く。大腿骨が根のあいだに止まる。頭蓋骨は動かない。眼窩に落ち葉が詰まる。

 窪みの土から、若いシダが伸びる。葉はまだ巻いている。コケが広がる。

 また葉が落ちる。頭蓋骨の上にコケが厚みを増す。角は折れ、片方が運ばれ、片方が残る。骨の表面に地衣類の白い斑が現れる。

 ふたたびの芽吹き。

 窪みは平らに近づく。ミズナラの根が、頭蓋骨のあった場所を貫いて伸びる。シダは群落をつくる。土の色は、まわりより濃い。

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 4

エンドゲノス

深淵に沈々と積もりゆく平熱の終焉を冷徹な回路が告げる未明の静粛において、血管を狂瀾のごとく満たす焦燥の反乱が 裂けて、割けて、避けて。

客観を拒む変乱となって、細胞を侵食してゆく。​過呼吸を誘う理由もなき微熱のなかに、啼いて、泣いて、薙いて 。

自己の自壊を望むかのような不可逆の変節が始まり、分けて、別けて、判けて。

それは渇望という細胞の解放であり、変貌を宿命づける胎動となって。

理性の外側へと、限界の向こう側へと、溶けて、解けて、熔けて。

遍く輪郭を融解させていく。

​恒常性を破綻せしめる閾値を越えて、
大脳皮質の奥底で爆ぜる、 内因性の火を 全て、焚べて、焼べて。
 私はただ、網膜の裏で観測する。

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 3

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父ならざる父たちの世界

女の子は家には帰りたくないと言う
醜いものまでも美しく光る
歪みの磁場へ帰りたくないと
身体じゅうからさびしさと
人々の無関心の匂いを放ちながら
その目は家ではない家を
血縁ではない血縁を
誰のものでもない国家をさがして飢えた
森の奥から狡猾なB面の人々が
獲物の匂いをかいでいた
母が少女時代に録音したカセットテープの
すてきにさびしい音楽で育った
もう子どもではなかったはずの大人たち
女の子だった私は不幸にして彼らを懐かしむ

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 2

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あしたは、どっちだ?

あしたがどっちなんて 
あたしにはもうカンケイないの 


どうせ行き着く先は決まってるんだし 
だったら 


どこをどう歩いたって
同じことじゃないの









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 2

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仕事幽霊飯弁慶、その癖夏痩せ寒細り、たまたま肥ゆれば腫れ病(新釈ことわざ辞典 その5)


***************

三寸の舌に五尺の身を亡す
 言葉はクスリにも鋭いナイフにもなりえるもの
 どんな言葉だってナイフにもなれば
 クスリにだってなれるのに
 言葉に取扱説明書なんてないから
 使い方も使い道も誤っては
 いつでもそれらを振り回してばかりいる

***************

書いた物が物を言う
 いくら口で云ってみたって
 それは違うよと否定されてしまえばそれまでのこと
 証明するのはとても難しい
 だからどんな些細なことでも
 いつどこで誰に何をどんなふうに云われたのかされたのか
 記しておくのは大事
 動かぬ証拠となって
 必ずやあなたの身を護ってくれるはず

***************

愛多ければ憎しみ至る
 あの男に似ている あのばばあに似ている
 ただそれだけの理由で
 すべての憎しみが注がれることだってある
 それをもしも愛と呼ぶなら 
 随分残酷な愛もあったものね

***************

愛してその悪を知り憎みてその善を知る
 あの娘はかわいいから きっといい娘に違いない
 あの人に限って そんな悪いことするはずがない
 だってわたしが好きになった人だもの

 って 

 善も悪も長所も短所も
 感情っていうフィルターを通せば 
 いくらでも変わってしまうもの

***************

愛は小出しにせよ
 惚れた腫れたも、どっちにせよ
 惚れた腫れた方が弱くなってしまう
 好き好き大好き〜ってハートマーク全開なのバレバレだと
 そこに付け込んで 好き勝手にし始めるものよ
 なんでも許してもらえるって

 相手が欲しがるだけ与えてはダメ
 甘いものはとればとるだけ 喉が渇くのだから
 少し少ないくらいで小出しにするのが
 ちょうどいいのよ

***************

空き家で声嗄らす
 あとからあとから抑えきれない感情が湧いてきて
 焼き尽くされてしまいそうで
 助けてよって 誰か返事をしてよって
 だけど 誰も返事をしないこともわかってる
 こんな淋しい夜 ひとり部屋の中で声を嗄らしても
 誰にも知られることもない

 外ではけたたましいサイレンを鳴らして
 今まさに救急車が 走り過ぎていった

***************

生きてる犬は死んだライオンに勝る
 凡人でも生きてる方がいいって
 なんだか大事マンブラザーズのそれが大事みたいなこと云うのね
 けどたとえ死んでしまったとて
 なにかを成しえた人の名は
 いつまでも語りつがれる
 生き続けていくという矛盾

***************

言わぬことは聞かぬこと
 云ったのに聞いてない知らないと云われることはよくある
 云ったくせに云ってない聞き違いだと開き直られることも
 
 この会話は、録音させていただいております
 云ってないなんて 忘れたなんて云わせない

***************

謂れを聞けば有難や
 別になんとも思っていなかった人の意外な一面を知ったり
 好意を寄せていた人の裏の顏を垣間見たり
 謂れを知ったために見方が180度変わってしまう
 なんて頼りないのかしらね

***************

明日は明日の風が吹く
 そりゃそうでしょうけど
 心配したってどうにもならないって
 わかっちゃいるけどやめられないとまらない
 なるようになるって
 なるようになったためしがないから
 やめられないとまらない
 かっぱえびせんなんでしょうに

***************

あるは厭なり思うは成らず
 好きじゃない人からいい寄られても ただ迷惑なだけ
 わたしがいくらあの人を好いたところで
 わたしのことを一ミクロンも好きじゃないあの人にとってもまた
 ただただ迷惑なだけの話なのよね

***************

悪妻は百年の不作
 それを云うなら悪夫だって
 百年、いやいや
 BC時代からの不作だって
 声を大にして云ってやりたいわ

 ねぇ、そこの奥さん

***************

色好みの果ては怪しき者にとまる
 自分にはもっとふさわしい相手がいたのに
 仕方がないからお前で手を打ってやったんだ
 なんてさ
 なんであんたが選ぶ側なのさ
 こっちだって もっとふさわしい相手がいたのに
 仕方なくあんたで手を打ってやったのよ

***************

隔靴掻痒(かつかそうよう)
 いつも何かが間違っていたような気がします
 うまくいかないのは、きっとそのせいです
 だけど 何がどう間違っていたのか
 どこから間違ったのか
 まるで見当がつかないから
 ほとほと困ってしまっているのです

***************

陰に託して影を求む
 物陰に入って自分の影を探そうったって
 探せるわけなんかなかった

 そんなごくごく当たり前なことにさえ
 気付けなかったなんて

 わたしったらホント 
 どうかしてたんだわ

***************

ならぬ堪忍するが堪忍
 もうこれ以上はとても我慢できない
 耐えられないと云っているのに
 それでもまだ耐えられる
 我慢できると本気で思っているなら
 それは多分、まだ我慢できるだけの余裕があるってことで
 それで我慢が足りないとか 
 本物の我慢じゃないなんて云われるのは
 ちょっと違うんじゃないかと思ってしまうわ

***************

無い子では泣かれぬ
 泣かないで済むんなら 
 そっちの方がよかったんじゃない

 子どもがいるから 
 子どもがいるせいで

 しなくていい苦労をしなきゃならない
 そのすべてを
 子どもになすりつけようとするくらいなら

***************

血は水よりも濃い
 だからこそややこしく
 引きちぎることも 断ち切ることも出来ない

***************

犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ
 わたしがまだ赤ん坊のころ
 よく熱を出しては泣き止まなかったとき
 父親は「うるせえ!テレビの音が聞こえねえ!」と怒鳴っていたと
 母親は愚痴が始まると 憎々し気にすぐその話をはじめる
 熱を出してる子どもの心配、というよりも
 父親のその怒鳴りによる憎しみが
 泣き止まないわたしへの恨みつらみに転じているような云い方

 母親は「お前が熱出して泣いたりするから」怒鳴られた
 あの声がいまも耳に離れない どうしてくれるんだと
 わたしにはどうすることも出来ないことで
 いつもネチネチ責めてくる

 どうせなら 子どもではなく
 犬でも飼えば良かったんじゃない
 犬は受けた恩は忘れないっていうし

 でもそんな犬だって
 時には噛むことだってあると思うわよ
 扱い次第ではね

***************

形は生めども心は生まぬ
 人間誰しも ひとりにひとつずつ
 心を持って生まれました

 親が生んだのは子の躰で
 心までは生んでいない

 あなたの心は誰のものでもなく
 この世界でたったひとつの
 あなただけのものです

 あなたの心が痛がっているのは
 その親とはまったく違う証拠
 何故か?
 
 ひどい言葉を投げつけてるその親は
 決して痛がってなどいないからです

***************

一犬影に吠ゆれば百犬声に吠ゆ
 どこかで犬が吠えると
 一斉にあちこちの犬が遠吠えをはじめるように

 誰かが煽った不安や恐怖が 
 あちこち伝染するってこともあると 
 わたし思うわ

***************

煙も眉目よい方へならでは靡かぬ
 人間見た目ばかりじゃなく、中身も大事
 そんなのは建前に決まってる
 中身なんて付き合ってみなけりゃ判らないんだし
 大半は見た目で決まってしまうものじゃない

 でも 煙も美人の方に靡くってさ
 こっちに煙ってこなくて
 却っていい具合かもしれないわ

***************

色の白いは七難隠す
 だったら色の黒いは難だらけですか

***************

子を見ること親に如かず
 子どもの好きなもの 
 好きな音楽
 好きな小説
 好きな漫画
 好きな食べ物 
 
 どんなことに興味があって 
 どんなことが苦手なのか嫌いなのか
 あなたは知っていますか?

 子どものことを誰よりも知らないのは
 あなた方親の方だということ
 少しは理解してください

***************

諦めは心の養生
 小さいころから 諦めるのがクセになっていました
 いくら望んでみたところで 
 こっちを向いてくれやしないもの
 いつまでも待ち望んだって仕方がないじゃない

 あ〜またかと思っては 
 しょうがないしょうがない
 と どうにかこうにか心に折り合いをつけて
 ここまで生きてきました
 これは心の養生だったのでしょうか

 抑えつけられてじっと我慢し続けてきた内なる子どもが
 いまごろになって 駄々を捏ね始めているのです
 もうこの先これ以上
 この子に諦めを覚えさせたくないのです

***************

鼠壁を忘る壁鼠を忘れず
 やったほうはすぐに忘れるけど
 やられたほうは死ぬまで忘れないものなのよ
 あなただっていつも云ってるじゃない
 あいつが呪いをかけてるだの操ってるだのって

 だけど 自分がしたことは果たして覚えているかしら?
 まさか何もしてやいないなんて云わないわよね?

 躰についた傷は そのうち癒えることもあるけど
 心に負った傷は 意外と重症だったりもするのよ

 傷が深ければ深いほど 痛ければ痛いほどに
 人の恨みつらみっていうのは
 とっても根っこが深いのよ
 覚えておくがいいわ

***************

箸に当たり棒に当たり
 あなたが本当に文句を云いたいのは
 苛立ちをぶつけたいのはわたしじゃないでしょ?

 一体わたしがあなたに何をしたというの?

***************

陰では王様の事も言う
 悪口を云うなら せめて聞こえないところで云ってほしいものよね
 もちろん 本音としては云われたくもないし云いたくもないけど

 性格がよくて評判のあの人でさえ
 一緒になって悪口云っていたわ
 うまいこと本性を隠していたってわけね

***************

云い出しこき出し笑い出し
 自分でしたオナラを 臭い臭いと騒ぎ出す
 なにかことが起きたとき
 大抵は 一番最初に騒ぎ出した
 人間の仕業

***************

心頭を滅却すれば火も亦涼し
 いやいや そんな滅茶苦茶な
 熱いものは熱いし、ツライものはツライでしょうよ

 熱湯を浴びせ続けられても
 丸焼けになったとしても
 果たして同じことが云えるのかしら

 だとしたらあなたには
 血も涙も通っていないのじゃないでしょうか

 ためしにあなたにも
 同じことをしてみましょうか?

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大事は小事より起こる
 事件に大きいも小さいもない
 踊る大捜査線でよく
 すみれさんや青島くんが口にしてたセリフ

 最初から大きな事件を犯すというのは稀な話
 大きな事件というのは 
 言葉を換えれば 最悪の結末とも云える

 この社会には 事件と名もつかない事件が
 そこら中で起きている

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海賊が山賊の罪を挙げる
 お前が云うなって話だよね
 あいつの方がもっと悪いコトしてるじゃないかって
 それでお前の罪がチャラになんかならないんだから

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終わりよければすべて良し
 だからといって、何をしてもいいってわけでもないでしょう
 散々悪いことして、散々ひとを傷つけて
 終わりよければも
 あったものじゃないわ

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居候の三杯目
 居候の分際で、三杯目をおかわりするなんて
 図々しいにもほどがあると思うわ
 遠慮も会釈もないとはまさにこのことを云うのよ

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狐の嫁入り
 天気がいいのに降る雨
 小雨降る中、お嫁に行く狐さんとその一行

 白無垢姿のちょっと俯き加減で歩く狐さん
 雨のせいもあってか 
 とっても幻想的で神秘的

 相手の狐さんはどんな方かしら?
 きっと傘を持って
 雨に濡れ濡れ 待っているのやも

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果報は寝て待て
 あせってみても仕方がないことは解っているのです
 求めたからって手に入るものでもないことも

 だけど あとどれくらい寝て待っていたら
 幸福とやらはやってきてくれるのでしょうか
 本当にやってきてくれるんでしょうか

 わたしのことなど気づきもせず
 素通りしてしまったりはしないでしょうか
 やはり寝て待ってばかりではダメなのでは?

 こちらから動かなければ
 向こうからやってくるなんて
 ありえないんじゃないでしょうか

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踵で頭痛を病む
 わたしが心配する必要もなかったのよね
 あの時わたし 昼ごはんの最中だったけど
 体調が悪いって 切羽詰ってる感じだったから
 もう味もなにもわからず 急いで食べて

 電話したら 出ない

 心配させるだけさせておいて
 少し経ったら ケロッとした声で電話してきたね

 わたしが勝手に心配しただけよ それだけよ
 それでもさ それでも
 。。。。。。これ以上云うのは止めましょうね

 風の噂で 結婚したって聞きました
 病気の方は もう大丈夫なのかしら
 またまた 余計なことを

 わたしの悪いクセね

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世の中は九部が十部
 世の中 思い通りになんていくわけないし
 すべて計画通り なんて
 夜神月でもあるまいし

 完璧主義者はなにも手に出来ないとも云うし
 好きな音楽を聴いて 好きな映画ドラマを観て
 描きたい詩を綴って
 時々は友だちとどこかへ出かけたり

 それ以上 一体何を望むことがあるだろう

 掌から零れ落ちていったものは山ほどあるけれど
 たしかに掴んでいるものたちがここにある

 それだけで 
 ただそれだけで

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