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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

次こそ…

ベールみたいな霧雨が街を覆う
なんでもない顔ですれ違う人々

白杖をつくおじいさん
手伝いたいと
思ったけれど
見ていることしか
できなかった

1人の青年が
手を差し伸べて
おじいさんの手を握った

とても眩しかった
雨の街の
一瞬のヒーロー

次は私も と
小さな後悔を味方にして
電車に乗りこむ

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[ゑ]ゑビスビール

カウンターで烏龍茶を飲み
ご飯の(中)と塩辛と、野沢菜と、つくねハンバーグを頼んだ。
隣のやせ細った中年が「ここは酒飲みの場だ!」と私を糾弾する。
バツの悪い私は桃烏龍を一杯頼む。
店員が気まずそうにすると私自身も気まずくなる様子に居た堪れないような、申し訳ないようなおもいでいっぱいだった。
頭上端に追い詰められたブラウン管テレビは野球中継を表情に表し、見るものは、負けている阪神に対ししかめっ面を向ける。
中年は「今年もダメじゃねが!」と毒を吐いて、その毒が私のつくねハンバーグにスパイスとなった。
縦縞のシャツに身を包んだ店主と中年はプレイヤーのバッドシーンを肴にビールを喉に通らせていく。
茶色の瓶から保冷されたミニグラスへ注がれる黄色は白の泡になりて、トクトク、シュルルシュル、という音を、こんな喧騒の中でも私の耳に与えてくる。
それは居酒屋という名の通過儀礼のようなもので、私のような下戸は本来淘汰される忌人なのかもしれない。
私は飲めないが、誰かが飲んでいる姿が好きだ。
愚痴を吐き、アルコールを流し、
罵声を吐き、アルコールを注ぎ、
笑いを撒き、アルコールを浴びる、
そんなどうしようもないほど全力な彼らが愛おしい。
野球中継を、枝豆を、店主の声を、喧騒を、狭くほこりっぽい空気を彼らは肴にしてその黄金色の液体を嚥下するのだ。
今を流し、明日を顧みらず、味は分からず、ただ、酔いしれるため。
どうしようもないほどの渇きを、潤わせるために今日もここは賑わっている。
中年の飲むビール瓶のラベルを見る。
恵比寿様は微笑んでいる、私ではなく、彼らに。
それがたまらなく悔しい、なんて思ってみたりもする。
恵比寿様の籠に鯛の尾が見える。
あなたの幸運は好きな野球チームが勝つことか、または宝くじでも当たることか、
今、この場の酒が美味い、それだけでいいか。
私は飲めないことをわかっていながら、微笑む恵比寿様の後光のようなものに当てられた(きっとそうだ)から、私はビールを注文した。
中年は嬉しそうだった。

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笑う、回転する、



転がる箸を見て笑うのは年頃のお嬢さん
なんて彼女たちの存在を考えるだけで 
なんて野暮ったいつまらないと
いい年をしたオトナが宣う衰退減退において
オトナであろう年頃の男たちの笑えない
それこそ野蛮の思考が放つのだと
それこそを笑えと呪詛と祝福とにある者よ

1から12までのマグカップの破片を
あちらこちらせっせとかき集めては
つなぎ合わせるだけの虚無の器
再生を図る昨日から今日明日明後日へと
大木の枝として葉として連なり折れ曲がり
それぞれ誕生までの不可知のぞろ目をめぐる
懸かる一発のルーレット分子の分際として

冷蔵庫のドアを開けると滑り落ちてきた
一本のバターナイフがキッチンの床の上
をくるくると回転しバタンと倒れる
足元において踊り子を演じてみせる
を見て笑う腹を抱えるオトナの男の腰回りを
上滑りするだけのうなだれたこの髭面を
洗い流しては塗り変えてしまう鏡面の
銀とともにある一瞬間の可笑しみ愛おしい

自己の分際を忘れて用を離れて踊り出す
ただ笑いのために笑い合うだけの
すべてを忘れさせる様が可笑しくて笑う
なぜ可笑しくて何が美しくて
などと疑念観念さえをも巻き込まれてしまう
回り始める0を1として弾き合いはみ出す
連続する互いが互いを弾き飛ばし合って
景色になってお嬢さんたちきっと巻き込む


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もう怖くはない


軽くなったと思ったら
いつの間にか思い出に

落ち着いたと思ったら
いつの間にか思い出に

優しくなったと思ったら
いつの間にか思い出に

寂しさと引き換えに
懐かしさが身について

こうなればもう怖くはない
いつまでも一緒にいられるから





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かえすものがない

そういえず
うつむいたまま
ははのせなかを
みつめていたのは
いつだったか

そうおおきくもなく
たくましくなんかない
なのにすぐ
まえにとびだしてきて

どんなものにも
どんなときだって
ほえてくれた
わたしがおびえ
うなりだすまえに

なつのよぞらは
まだみあげてなくて
梅雨明けはかってに
はっぴょうされたらしい

かえすものがない
あまりのあつさに
くるしいおもいで
よみがえる 
にげてばかりのなつのみず
しんきろくづくしの今夏


   しんきろう

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雨、風、あれ荒ぶ大気

傘なんて役にたたない
さしても激しい風で折れてしまう
だから
ただ冷たく殴りかかってくり雨風に打たれるだけ


憎しみ、悲しみ、あれ荒ぶ私の心

優しさなんて役にたたない
優しく囁かれても
私の心はあなたが居なくなれば
すぐ折れてしまう
だから…
だけど…
やっぱりあなたの優しさは
やっぱりあなたへの愛は心地いい
だから私はあなたの優しさに
ただ打たれるだけ


愛、優しさ、あれ荒ぶあなたへの愛
涙なんて役にたたない
どんなに泣いてもあなたは私の元へは来てくれないから…

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希望は

闇に産声を上げてこそ

梅雨の朝
光が滴り落ちる
露と結ぶ

私は露を舐める
私は光漲る

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宿る

雷鳴が
臓腑を揺らす
狭間刻

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タンポポ

いつまでも 変わらないと 言ってたね
まぁ 誰も そう言わなきゃ 生きてゆけない

今にも泣きそうにうるんだ ひとみだけを
この胸は おぼえていた

心だけは 変わらないと 言ってたね
口紅が にあうように なってもと

今までおぼえていた 君の素顔は
もうこの胸を 逃げてゆく


あぁ 時の風に吹かれて 飛んでゆく 白いタンポポ
いつの日かまた どこかで 会えたとしても

東京の風に吹かれて 散ってゆく 白いタンポポ
好きだったのは きれいな君じゃない




久しぶりの 言葉も 僕は言えず
昔より ずっときれいな 君がほほえむ

今までおぼえていた 君のえがおは
もう この胸を 逃げてゆく


あぁ 時の風に吹かれて 飛んでゆく 白いタンポポ
コンクリートのすきまの 土にしがみつけ 

東京の風に吹かれて 散ってゆく 白いタンポポ
好きだったのは 黄色い花じゃない





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https://youtu.be/7M8gljZ4Zy0?si=eWTcCTki7fb9-Pcs
https://youtube.com/shorts/1zFHNH4t5fE?si=6C8DSfpyHdT7D0_q

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ユリシーズ王の独白 (テニソン)

      はじめに

テニソンの"Ulysses"を訳した。ダンテの『神曲』を読むとオデュッセウスが自らの人生を回顧する場面がある。訳者の平川祐弘によれば、テニソンにも似た主題の詩があるという。興味を抱き、我が家の猫額書庫から十代の頃に買ったテニソンの対訳本を探し出した。頁を捲る手ももどかしく、探していたものが見つかった。ユリシーズはオデュッセウスのラテン名ウリッセースの英語読みだそうな。テニソンのユリシーズは、老いてますます盛んであって、知識欲と冒険心に魂を鷲掴みにされ、妻子を置いて、死んでも構わん、西の果てまで赴こうと船旅に出る(道心止み難く妻子を捨てて出家した西行を思う)。テニソンの『ユリシーズ』はそこで終わっているが、ダンテの『神曲』では、最果ての海で大波に呑み込まれ地獄に落とされるところまでが描かれている。テニソンにせよダンテにせよ、その筆、雄渾であり胸を打つ。

テニソンがこの詩を書いたのはまだ三十代の頃であるが、折しも親友の死に直面している。人は誰しも日々死に向かっているのだから、毎日を安逸に過ごさずに己れを鼓舞し叱咤激励する必要を感じていたようだ。時の宰相はこの詩を読んで感銘を受け、詩人に敬意を表すべく、年金二百ポンドを贈呈したそうな。

ところで、私ときたら、ユリシーズ王と同じく老いているのだが、若い頃に心を急かした野心はことごとく崩れ落ち、いまや呆けて縁側でお茶でも啜っていたいと思う反面、何のこれしきとばかりに文芸の道を不遜にも究めたいとも思い、日々これ拮抗して如何ともし難いのであるが。なお、詩のほうであるが、できる限り五音か七音にするよう心掛けた。勿論ながら意訳超訳何でもござれ、となっており、終いの方は調子が高ぶって文語体となっているところもある。悪しからず。







      ユリシーズ王の独白

何の足しにもなりはせん、俺という王が怠惰に
この荒れた岩の間に、大人しく囲炉裏に座り、
老妻の傍、未開の民に、
野蛮な法を計量し施行するのは。
奴らは蓄え食らうだけ、寝惚け眼で俺なんざ知りもせぬ。
俺はどうにも漂泊の思いが止まぬ。俺の命のこの果汁、
一滴残らず搾り取りたい。慕ってくれる
仲間がいてもいなくても、いつだって
苦も楽も味わい尽くしてきたものだ。陸の上でも、
海の上、雨を降らせるヒヤデスの星、風に乗るちぎれた雲を差し置いて
霞んだ海をかき乱す時すらも。俺は名を成し遂げた。
それでも心は満たされず、いつも旅路に急かされて、
旅の先々、諸々の都市や風習、
気候や議会、政府について見聞を広めたものだ。
とりわけ、俺が何者なのか、世間からいかに崇敬されているのか、しかと分かった。
遙か風吹くトロイの平野、互いに剣を打ち鳴らす、
好敵手との戦いの喜びもひとしおだった。
俺の出会ったすべてが俺の滋養となった。とは言えど、
せいぜい俺の経験は門と変わらぬ。さらに向こうに未踏の地、
一歩一歩と俺が進めば、
いっそう退き、霞むのみ。
休んで、死んで、磨かずに錆び、
活かし輝くこともないとは、何とつまらぬ命だろうか!
生きるとは息するだけではあるまいに。
命に命、重ねても、どうせ儚い
命であるし、今生の俺、余命はもはや幾ばくも無い。
俺の一分一秒は、常に何かを生み出すが故、
それにも優る価値を持ち、かの永遠の静寂から、
俺に新たに切り分けられる。仮に三年、
俺が力を温存すれば、無意味な人生、過ごすのみ。
老いて益々盛んなる俺、
燃えど尽きせぬ知識欲、
人の思いの限りを越えて、沈む星すら凌駕するとは。

我が息子、テレマカスを見よ。
俺はこの子に王笏と王土の島を託すのだ。
俺を労り、己れの激務を
聡明に遂行し、沈着冷静、
荒ぶる民を和らげて、温良篤実、
野蛮な民を教化する。
一点の瑕疵すらもない。
日々の責務に専念し、
母への孝行怠らず、
家の神への崇拝も一方ならず、だ。さて、俺は行く、
奴には奴の定めがあって、俺には俺の道がある。

港が見える。船が帆を膨らませている。
杳として、洋々とした大海原よ、我が水夫たちよ、
我らは共に悩み苦しみ汗を流した。
雷、猛暑、額を挙げて、囚われのない心でもって
陽気に歓迎したものだ。
共に老いたり、とは言えど、老いには老いの名誉もあれば
なお目指すべき目標もある。
死がすべて閉ざすその前、終焉の前、
神々とすら争った俺、そんな男に相応しい、
いまだ果たせぬ重要にして崇高な使命があるのだ。
岩間から漏れ出すともし火、
静まっていく長い一日、ゆっくりと上りゆく月。海の深みから
遠近に声音がうめく。いざ、友よ、
新世界探検、遅きに失することはない。
押し出せ、押し出せ、皆の者、整然と定位置につけ、
波の耕地を強打せよ。我が目的は不動なり、
我が死して水漬く屍、何のその、
日没を越え、西、沈みゆく星々を逝け。
海の淵、我らを流し去ろうとも、
幸ふ島に到り着き、
我らに親しき、かの偉丈夫のアキレスに出会うとも。
余りに多くが失われても、いまだに多くが残されている。
かつて我らの天地を退かした力はないが、
それでも我らは我らなり、
英雄の心と一つの等しき剛毅、
時と定めに弱りたりとは言え、意志はいよいよ堅固となって、
努め、尋ねて、見い出して、屈することはあり得ないのだ。







参考文献
テニスン詩集:イーノック・アーデンその他
訳注者 吉竹 迪󠄁夫
開文社出版


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喫茶店

私を縛るのは 腕時計という名の足枷

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観覧車のあるビル

思い出というのは、断片的な一枚の写真が引き出すものなのかもしれない。

名古屋と聞いて思い出すのは、お城や広い道ではなく、観覧車がついているビルだった。

まだ小学生だったころの正月。どこかへ出かけることもなく、家族が揃っていた日。
うちの前に車が止まる音がした。
ドアが開き、閉まる音がして、ドアチャイムが鳴った。
母が出るとすぐに、「あらぁ」と大きな声を上げた。
そんな母の相手を奥さんに任せて、ごつい人が入ってきた。「おおどうした」
父の驚きまじりの笑顔の先には、“横さん”がいた。

横さんと父は同じグループ企業で働いていたことがあった。
父は電気技術者、横さんは建設会社というつながりから知り合ったのかもしれない。

その辺りはわからないが、とてつもなく恐い顔をした人だということで覚えていた。
何しろ建設会社の現場監督だ。
多少、素性のわからない人もいる現場を仕切るには、迫力というのも求められていたから、ぴったりだったのだろう。

ただ、横さんは実家の名古屋へ引っ越していった。
父とは、その転居以来の再会だった。
とはいえ旧友との再会よりも、横さんの興味は僕だった。

父との軽い挨拶を済ませると、
「覚えているか?」
鬼瓦のような顔を崩した。
忘れようにも、夢に出てきたら泣いてしまうような迫力がある。
うなずくとうれしそうに、「お年玉」といって、その年の最高額となる一万円が入っていた。

恐いのは顔だけで、とにかく優しかった。
とくに子供に恵まれなかった横さんは、まだ幼稚園に通っていたころの僕をかわいがってくれた。

そこからは酒盛りとなり、僕と妹は早めに寝てしまった。
横さんのいびきはすさまじい音だったと、父は起きてから笑いながら話していた。
横さんは笑いながら、何度も小さく頭を下げていた。

僕を「実家まで連れて行きたい」と小さな声で頼んでいた。
正月とはいえ、我が家にはどうせ行くところなどない。
父は軽く、「いいよ」と答えた。
気が変わらないうちにと思ったのか、横さんは奥さんに帰り支度を急がせて、僕を車に乗せてエンジンをかけた。

まるで行ったことのない土地。
高速道路から、夕日の中に建つ、名古屋城が見えた。

実家の人たちとの食事は、中華料理店へ連れて行ってもらった。
横さんは、
「せっかく子供が来ているのに、なぜハンバーグ屋とかに行かないのか」
と自分の親をしかりつけていた。

そこから見たこともないぐらいの大きさの、ゲームセンターへ連れて行ってもらった。
さんざん遊び、横さんの家でいびきを聞きながら寝た。

翌日、名古屋駅まで車で連れて行ってもらい、新幹線の切符を渡された。
通路側のチケットを僕に渡すとき。
「窓際の人に『子供だから、替わってください』というんだぞ」
横さんの言葉に、うなずいてから乗り込んだ。

席に着くと、恐い顔をくしゃくしゃにして泣いている横さんが、窓から見えた。
それが横さんに会った最後だった。

家に客が来ている時は、誰であろうと歓迎してうれしそうに話をする父だったが、彼らが帰る時間になると、きまって黙って部屋に入り出てこなかった。

どんな小さな別れであっても、避けようとするのだ。

そんな父は気管支ぜんそくの重い持病をもっていたこともあって、
「自分は知り合いのだれよりも早く死にたい。そしてみんなに『いいやつだった』と泣いてもらうんだ」
と言っていた。
その願いは、ほぼ叶ったといってもいい。
ただ唯一、父より先に逝くことでその願いを裏切ったのは、横さんだった。

知らせは突然の電話だった。母が台所仕事をしていたので、父が電話を取った。
明るかった返事が一瞬で沈黙に変わった。
そして母を呼び受話器を渡した。
横さんが亡くなったという奥さんからの知らせだった。

大腸がんで、ごつかった身体は骨と皮のようになっていたという。
その姿を見られたくないと、だれにも知らせなかったと聞いた。
母は奥さんを慰めながら、受話器を握り泣いていた。
父はテレビの画面に顔がつきそうなぐらい近づいて、立膝をついてじっとしていた。
視線はテレビに向いているが、見ていないのと同じだ。
ただ黙って動かず、立てた膝を手でしっかり握っていた。

17時4分。

数年後、父は横さんが亡くなったのと同じ時間に逝った。
願いを叶えなかった横さんが迎えに来て、恐い顔を崩しながら、父に謝っているのかもしれない。
同じ時間と聞いたとき、そんなことを思った。

大人になり、年下の友人が名古屋に住んでいたことから、遊びに行ったことがある。
車で様々なところを案内してくれた。
ぽつりと、
「小さかったからよく覚えてないけど、観覧車がついたビルがあったのを覚えているんだ」
そう言うと友人は、
「ああ多分わかります」と車を走らせた。
すると、その観覧車が現れた。
それとともにぼやけていた、横さんの恐く優しい顔がはっきりと浮かんだ。

古い記憶というのは、意外に引き出しさえ見つければ思い出せる。
横さんのことを知らない友人にも、そのときのエピソードを語ることができる。
一度出てくると、話はどんどん広がっていく。

横さんが亡くなってから、ほとんど思い出すことはなかった。
それが「観覧車のあるビル」を見た瞬間、声や笑顔、泣き顔、そして大きないびきまでがよみがえった。

年を取って、寿命からして当然というこの世の去り方ではなく、会話の中で生き生きと浮かび上がる。
「観覧車のあるビル」のような、思い出の象徴。
父が望んだのは、こういう存在だったのかもしれない。
僕はいくつ、そんな記憶をもっているのだろうか。

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夕景

あなたはどこにいる
どこにいるのか
けして触れられない どこかにいるのか
無造作にカーテンをふくらます
秋の風のような

わたしたちは
道端で見つけたかたつむりと
雨の日 たまたま出会うことがないみたいに
二度とすれ違わないし
頬に触れあうこともない

あなたが1893年に生まれて
だれかが2540年に死んでゆくから
わたしが怠慢を積む間に
あなたは嘔吐する

わたしはそれがなぜかを知っている
おおむね左眼の裏が痛いせいで
ときにかなしみのせいだ しかし
じつのところは

もはや あの夕暮れのひかりを
受けとることができない
小高い丘を登れないし
視界のかすむのがくるしい

許されるなら あなたは
かがやく水辺を両手に抱えたまま
雲に座ることを選んだでしょう
きっと
軽々と飛びまわって

それは勝手な理想だろうか

わたしはいつも知らない
夕映えを背に道を歩むうちに
あなたがなにをうしなったか

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陰響垂線

碧白に
落ちる陰影
寄せる身は
蝉時雨の傘
重ねあう声

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届かない


言葉にしたからって
何もかも救われるわけでもないのに



A4用紙にべっとり貼り付けた
この肥大した自尊心を



どこへもぶつけようがなく 
誰にもあてようがないから



とりあえずぐしゃぐしゃに丸めて 
ゴミ箱に放りなげてみた





5センチほど手前で 
ぽとりと落ちた







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きのうのゆめ

あまりにもおかしなゆめだったので
かきのこしておかなければと
ひらいたら
君の詩がひろがっていて

そのなかに
テレパシーみたいなことば
ひろいあげる

亡くなったはずの
超有名人の三輪さんが
何故か我が家で晩ごはん
作ってくれた料理

「あら、なにこれ
この家には不思議なものが湧いてるわよ
みてみなさい」

真っ白なチューリップみたいなお皿
その中には
エビ、エビ、エビ、エビ

三輪さんが作った料理を食い尽くし
湧いてきて、、何故だか、
勝手に揚げられていくエビ、エビ、エビ、

ぶぅわぁってわいてきて
カラカラに揚げられて
真っ赤になって、身体を丸めず
そらしてそらして
チューリップのお皿に真っ赤な
エビの束、たば、たば、たばばばばぁ

きのうのゆめ
君が書いたあの詩には
「エビになりたかった」とかいてあり
何だコレはと
まだ夢の中にいたのかと
あわわわ

あのエビはたべられなかった
三輪さんは高らかに笑い
わたしたちは恐縮ばかりして
何故ここに?と
サラダをばかりを食べていた

何だったのだろうアレは

君にはラインより手紙より
詩にして伝えようと思ったのだ

どうせ。だから
わざわざ。してみたかったのだ
意味不明なちょっかん、テレパシー

三輪さんの髪は上品な金色でした

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ばんえい競馬

灼熱
ばんえい競馬
歓声が
重く残りし
コース場

燃え上がれ
歴史と金銭
人の思いを
ソリに載せて
レース始まる

号砲に
重種馬
突き進み
超越せし
小障害

進む命
なおも燃えつつ
滾り出し
歓呼従え
爆発してく

歩くよに
重く引きずり
歴史負い
歓喜従え
吹き湧き上がる

立ち止まり
大障害
息を吸い
命合わせろ
熱熱上げて

一斉に
挑みかかるは
馬と人
絶望的な
坂に向かって

喝采に
競馬場が
揺れ動く
世界唯一
その熱により

越えに超え
重量引きて
進みゆく
馬体から噴く
蒸気機関

灼熱
吹き湧き上がる
熱狂の
命は重し
ばんえい競馬

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bottle

そこに すわるといい 椅子に
そして この本を読むといい
この、緑の
木の葉を栞にする事
目印の所に、おおきな火薬庫があるから
そこへ行って火をつけなさい
眠る時は高台のキャンプを使うといい

人物 少しの微風にながされてゆく

砂が舞う

石が眼にあたりそうになる
視界は揺れる そして、
いつもの川辺に立っている
窓枠がないから、
ずっとここにいるらしい

遠くで水滴を見ている人物がいる
人物は水に吸い込まれてゆく

水面は少し、揺れる

少しの微風にながされていく 砂が舞う 石が眼にあたりそうになる 視界が揺れた そして、いつもの川辺に立っている 窓枠がないから、ずっとここにいるらしい 遠くで水滴を見ている それは吸い込まれていく 水面が少し、揺れた

そこにあるものにふれてはいけない そこにすわるといい

椅子にすわって、この本を読むといい

スポイトで水滴を水面に落とす その水滴が水面に触れる一瞬手前へ遡る

水滴はそのまま一瞬手前で半透明に静止している

.
人がいる。もうひとりが水滴を回収しにゆく
もうひとりの人物はそれを掌に載せる
それを見ていた人物は半透明の膜を鞄に入れる

もうひとりは去る。水滴は一瞬きらめいて、水面に少し触れる。見ていた人物にその波紋は見えない。もうひとりは既にいない
          .
.
もうひとりのとの距離が伸びていく
人は眼を閉じる
もうひとりの人物は振り返る
影だけが先へ進んでいく
さらに先へ行く
もうひとりの人物は再び歩き出す
誰もいなかった
 水滴の影がくっきりとした輪郭で、水面の手前に静止している
          .
いつも赤く染まっていた空が、濃い紫になって落ちていた ボトルに詰め、ふたをすると、それを川面に置いた しばらくすると、川には沢山のボトルが散逸して、川は深い濃紺の靄になった
人物はその靄の中に立ち尽くしている ひとつのボトルを拾う なにも入ってはいなかった 夜になっていた

夜はしだいに周囲の薄暗がりに溶け込み、そのまま川のボトルと共に闇のなかへ流れゆっくりと流れる夜は、そのままの形状を保ち、薄い半透明のもやになり、川下にある小さな街を飲み込んでいった。夜は街と同化し、朝が来ると薄い虹をかけた
人物は薄いまま靄の中で動かない 影はゆっくりと大気を漂うボトルを見ている

半透明の水滴に 触れえない そして 影は 遠くへ行ってしまう
けれども人物は、たしかに —— が スポイトから 水面に落ちていくのを
眼にしていた

ときおり もう一人を見ている ひとつの視線を感じていた 人物は ふと振り返る
影は そこにいた
 触れようとして 伸ばしかけたその手を ゆっくりと降ろした
.

あの水滴に 触れえない けれどもたしかにあの時 スポイトから落ちた水滴が 水面の手前で 半透明になって停まるのを 眼にしていた
.

暗闇で影をさがしている。川床の音色はひそやかだった
水滴は川になっていた。少なくとも、そう見えた。それなら、と人物は言った
影はその様子を見ている。もうひとりの人物の影ではなかった
.

もうひとつの人物が、もう一粒の人物に混ざりこむ。人物は影を探すのを止めようとしている。その時、空から赤い雨が降り出していた。人物はその雨を肩に受けながら、赤い塊になって、動くのを止めようとしている
.

 人物、 の 粒 が 呟く 「a me」 雨だった

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夜を歩く

なつかしい下書きを持って歩く
二十歳の私へ書いた手紙が
届かないまま
十年以上経った今もまだ
空想のいきものや
記念メダルにこだわっている
行くあても帰るあてもないまま歩く
深夜のコンビニは
夜明け前の匂いがした
お互いに手紙では語り尽くせない数の
時間が必要だったのだろう

人生の塹壕で
怯えて暮らすこども
私と同じ名前をしていた
将来の夢を尋ねられ
エビになりたいと答えた
私が常に欲していたのは
許される実感で
今この瞬間
罰を受けずに済めばどんなによかったか
二十歳の私への手紙が届かないように
私は抱きしめてやれなかった
ひんやりと冷たい空気の層が
私たちを隔てていた
手を伸ばせば
届いたかもしれない
だが、それすらできずに
私は夜を歩く

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すてないで

超個人的なメッセージだけが
誰かの心を根こそぎ奪う

信じてやまない底無しの闇を
作り出すのは夜ではない
朝の光カーテンの隙間がこわい

すてないで
喪失ばかりをおそれていて
あふれんばかりの可能性を
感じることすら出来なくて

ならばいっそのこと
ナキモノヘ
極端になるのは
カテイも結果も背負えない

すてないで
海の引いては寄せて
永遠があるのはあの場所だけで
ふるさとから離れられなくて
海まですぐにいける距離の町に暮らす

なにをかきたいか
なにをいいたいか
なにをつたえたいのか
なに、を、かんがえてきたのか
曖昧にぼかす為の忙しさを身に纏い
「いま」を「いきる」だろう「ひと」に
なりすまして

蹴って歩ける空缶を探す
見つけたら舌打ちするだけなのに

    すてないで


あれこれは たぶん
わたしから わたしへの 

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ネイド王子とれもんの花

むかしあるところに

れもん王国というところがありました。

一年中れもんの花が咲きほこり、たくさんのれもんが実っていました。

そこでは妖精達がれもんパイを作って楽しく暮らしていました。

国王のレモニオ3世は王国で一番背が高く、

太くたくましい幹に鋭いトゲをもった、
それはそれは見事なれもんの木でした。

ある日のことです。

どこからともなく
お腹を空かせた怪物サンダーが現れ、

王国の太陽を、
まるでお菓子でもかじるように
ぱくりぱくりと食べ始めました。

やがて光は空から消え

れもんの木は実をつける事ができず

妖精たちの力も、日ごとに弱っていきました。

レモニオ3世は
「お腹がぺこぺこの大ピンチ」を宣言し

闇をはらう光の鳥シトラを呼び覚ましました。

「シトラよ!王国に残された最後のれもんをたくそう!
この実に王国の愛と夢と希望の全てが宿っている。
どうか世界で一番安全な場所に運んでおくれ。」

シトラは、黄金色に輝くれもんをそっとつかむと
まばゆい金の翼をいっぱいに広げ

真っ暗な夜の空の中へ静かに高く飛んで行きました。

              つづく






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豆腐について

(一)

明方の台所で
豆腐がひとり
脱皮をしていた
家の者を起こさなように
静かに皮を脱いでいた

すべてを終えると
皮を丁寧に畳み
生ごみのところに捨て
冷蔵庫に入った

夕食は冷奴だった
僕は明方に見た
豆腐の脱皮の光景を
妻に話した
何、それ
と言って妻は笑った

豆腐も笑った



(ニ)

夕食に冷奴を食べようとして
豆腐を呼ぶけれど
テーブルの下で膝を抱えたまま
出てこようとしない
仕方なく
自分もテーブルの下に入って
同じ格好で隣に座る
しんみりとした夜
豆腐も自分もこんな暗闇から
生まれてきたのかもしれない
そう思うと懐かしく感じられて
いつもよりたくさん膝を抱える



(三)

夕食の冷奴を食べると
石鹸の味がした
石鹸だった

豆腐はすべて食べてしまったの
妻は悲しそうに言いながら
絹ごしのような滑らかな手つきで
ビールを注いでくれる

ベッドの上には
枕の代わりに豆腐が
ぐちゃぐちゃに捨てられていた
本当はこんなにたくさん
食べ残してしまったのだ



(四)

豆腐のプラモデルを買った
思ったよりもたくさんの部品があった
毎日夢中で組み立てて
その間にきみは
近所の羊飼いと駆け落ちしてしまった
数日後きれいな豆腐が完成した
通はわざと角などを崩すらしい
薬味はお好みで
と説明書にあったので
ネギと生姜を買いに出かけた
本当はきみに一番見せたかった



(五)

テーブルの下に
豆腐が落ちていた 
食べるの、食べられるのに疲れて
飛び降りたのかもしれない
窓を開ける
初夏の風が吹いて
部屋の中を涼しくする
豆腐を庭の隅に埋めて
簡素な弔いの言葉を添えた
豆腐屋でその話をすると
お店の人は黒板の正の字に
一本付け足した
今日のおすすめは
厚揚げらしい



(について)

豆腐を食べているうちに
豆腐のことが気になり始めた
豆腐の色はどうだったか
豆腐の形はどうだったか
匂いや味はあったか
どのように崩れ
何を受け入れ
何を拒むのか
すぐにでも豆腐屋に行って
確かめたいけれど
今は豆腐を食べるのに忙しい
いつまでもなくならない豆腐を前に
長梅雨は明ける

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拳骨奇譚

題名:
 読本作家の手塚兎月には二人の弟子が居た。一人は朔次郎でもう一人は陰嗣である。朔次郎の作品は面白く、風刺や機知に富んでいて、町人も武士も朔次郎の新作が出ればこぞって読む程であった。けれども、彼の文章は拙くて。文法を誤ることもあれば、言葉遣いも粗かった。一方、陰嗣は文才には恵まれていた。そして漢文の素養もあり、古典の作品からも学び、文法にも則って書く彼の文章は流麗で、一字一句に至るまで美しく、文章其れ自体が一つの美術作品である様な文章であった。けれども、作品の内容は面白くなかった。何処かで見た事のある様な内容ばかりで多少の学者や同業者からの支持はあれど、大衆からの人気は頗る閑散なものであった。なので世間の評判は朔次郎の方に集まっていた。
 ある日、国学者の本居宣長が兎月のもとを訪れた。
「今、源氏の物語をもとにした『手枕』を書いているのですが。文章の細部に難儀しておりましてな。どなたか力を貸してくださる者はおらぬだろうか?」
 兎月は即座に答えた。
「ならば私の下で文芸修行をしている陰嗣をお使いくだされ」
 宣長は頷いた。
 朔次郎は一連のくだりをその場で聴いていた。朔太郎の心には自分ではなく陰嗣が選ばれた事が喉に刺さる魚の小骨の様に残った。
 後日、彼は兎月に尋ねた。
「先生、なぜ私ではないのですか、私の方が巷での評判は良いではありませぬか」
 兎月は静かに茶を飲んだ。
「朔次郎、確かにお前は面白い話を書く、が、宣長殿が求めたのは内容では無く文章の方だ。それなら陰嗣の右に出る者はおらぬ。そもそも読本と云うのは荒唐無稽な面白話で相手を楽しませるものではない。それは戯作物の分野だ。先人たちが教え説いてきた教訓や大事にしてきたものを学び其れを万人に教え伝えるものでもある。そう考えると陰嗣の方が適任だと思った次第だ。朔次郎、お前の読本は敷居が高いという読本の風潮を壊してくれたという成績がある、されど、読本の神髄を得て精進しているのは陰嗣の方だ。最近、儂は陰嗣の方を後継にさせようと考えている。お前はもう儂の下でもなく、自分でやっていける。」
 朔次郎は反省の念を抱き乍も納得できなかった。世間は自分を認めているのに先生は陰嗣を選んだと云う事が朔次郎の胸を焼いた。
 夜、朔次郎は悶々とした気持ちを抱き乍ら独り町を歩いていた。庄屋の角を曲がると、前方には影があった。其の影は朔次郎の方に近づいてきて、一定の所に佇まい、漸々に男の姿と成り浮かんで、朔次郎に話しかけた。
「お前…………何かに……嫉妬しているな?」
 男は静かに呟いた。朔次郎は其の男の人ではない不気味さと異様な気配に慄いて、其の男に自身の心の奥を見透かされた気がして身震いした。そして、男は立て続けに言った。
「ならば其方の魂を吾に渡せ。さすれば人を超え、才を得られる。人間は儚い、そして限界がある。だが、吾に其方の魂を渡せば久遠の時を生きられ、永遠に修練を積めれる事が出来る。」
 朔次郎は断れなかった。寧ろ、断らなかった。その誘惑は恐ろしくもあり、そして甘美でもあった。朔次郎は人心を此の人の成りをした何かに魂を渡す事を選んだ。影男は自身の下にある影に手を突っ込み紙と筆を出した、そこに名を記す欄があり朔次郎は欄に著名した。その刹那、脳裡に思い浮かべたのは陰嗣の顔だった。朔次郎は愛憎と羨望が入り混じり、混渾としている暗澹な気持ちを確かに実感した。影男は朔次郎が著名した後、影男は
「ちなみに、契約をしたと言うことは其方も吾らと同じ類の怪異になると言うことになる。何も其れは人としての常識が常識ではなくなると言うことを分かって頂きたい。中には、怪異としての自分が保たれなくなった故、自身を破滅するという顛末に陥った同胞が山ほど居ます。其方はそうならない事を俄かに祈るばかりです。では、さようなら」
 朝日が登り、影男の姿は罅割れて灰のように消えた。
 数日後の丑の刻、朔次郎は陰嗣の家を襲った。障子を破り、中へ踏み込むんだ。朔次郎は怪異として完全になることもできず、人としての未練もあった為、どっち付かずの何かになってしまった。陰嗣は少し驚き乍ら筆を置いて立ち上がった。
「朔次郎なのか?お前、今迄何処で何をしていたんだ……。ここ数日間お前の姿を見ていなかったから心配していたぞ。どうしたんだ朔次郎、其の見た目は……」
  陰嗣は少し動揺し乍らも心配そうに陰嗣の方へ近寄った。
「何故だ…何故………お前ばかり。」
 朔次郎は怒りに震える声を篭りながら呟いた。
「何故先生はお前を選んだ!何故私では無いのだ!」
 朔太郎は激昂迸る声を叫び、陰嗣の胸部を自身の短刀で貫いた。陰嗣は吐血し乍ら静かに言った。
「私は………何も褒められたいから…書いているのではない。書くとは………己の命なの………だ。もし、此から一生、人に評価されずとも……私は書く、誰に読まれず…とも………私は…………書く。文章が……美しくあれ………と願い、一字を削り、一字を…足す。愚直で………不器用…乍も………それが私の生き方であり、私の読本に対する………姿勢…なのだ。」
 朔次郎は言葉を失った。そして、机の方に目を向けると、机の上には数え切れぬほどの原稿と練習跡の文章があった。世に出なかった作品。誰も知らぬ文章。誰からの評価や日の目を当たらずとも陰嗣は書き続けていた。他者からの称賛のためではなく、ただ己の作品と云う絶対なるものの為に書き続けていた。
 その刹那、朔次郎は悟った。自分は作品を愛していたのではなく、評価を愛していたのだと。そして、鬼になった理由も同じだったと。足りない部分を補う時間や補えられる才能を育む時間とかが欲しかったのではなく称賛が欲しかったのだと。その醜さが胸を貫いた。朔次郎の目から涙が溢れた。
「私は……何を…していたのだ……」
 彼はふらふらと外へ出た。
 東の空が白み始めていた。陰嗣が最期の力を振り絞って必死に今直ぐにでも消えそうな幽かな声で呼び止める。けれども、朔次郎は振り返らない。
「もうよい、私は破門だ。何も此は先生からの破門や読本の破門とかでもない。人間と云う者からの破門だ。」
 やがて朝日が昇る。そして、朔太郎は何を思ったのか、その日の下に向かおうとした。鬼の肉が焼け始める。朔次郎は泣きながら空を見上げた。生前、一度も見たこともない程、美しい朝だった
「私は何故、此の世に生を授かったのでしょう。嗚呼、天よ、こんな事になるのなら、私と云う者は彼岸に行っても良い程度の者なのでしょうか、死ぬ事すらこの私には烏滸がましい気がしてしまいます。嗚呼、私は今起ころうとしている死に対しても罪悪の念を抱いてしまいます。」
 朔次郎は叫喚し乍らその言葉を最後に、身体は光の中で灰となった。遠くで見ていた陰嗣は、地面に残った灰へ深く頭を下げた。そして静かに呟いた。
「お前の作品は……本当に…………良かったよ………………」
 朝風が吹き、灰は空へ散ろうとした。けれども、死体から流れる血に溶けて散ることなく、血の中で消えていった。

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在る

寂しい人を見たなら
後ろからそっと手を添え
一人を分け合う
優しい風になり

心の糧を探す人には
足元をそっと支えて
一人に沈まぬ
泥臭い土になり

涙を流す人には
傘は差さずに
一人を潤す
清らかな雨になり

誇れる自分を見たい人には
灯した種火を渡して
一人を消さない
温かな月になり

いつでも私は
そこに在る
気付かなくとも
あなたの影になり

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天王寺動物園行

甥っ子(血のつながりはない)と動物園へ行って来ました。
記憶にないくらい久しぶりに来たけれど、きれいになっていて、とくに糞の匂いがしなくてびっくりしました。

https://i.postimg.cc/c6hshQLg/IMG-20260712-142747.jpg
狼ののみどに棲まふ夜擬

https://i.postimg.cc/V5gYgjkZ/IMG-20260712-142758.jpg
かの小町腰かけて待つ蛇に

https://i.postimg.cc/YjRpR1Cd/IMG-20260712-142807.jpg
二度童子せなに白犀うすれゆく

https://i.postimg.cc/yWjVjF8Q/IMG-20260712-142918.jpg
水鞠を支ふる象の深ねむり

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 ◽️プチストーリー【色は美しい】(作品No_07)140字

チラシばかりのマンションの私のポスト。
まだ慣れない仕事の帰りに
疲れても何を期待してかいつも目を細めて覗いてしまう。

あれ・・ポストカードがチラシに混ざって入ってる。
桜が満開。
手をひねり宛名を見ると、母だ。
一番下に添えられた手書き
「お母さんは桜もいいけど、あなたの原色が焦がれるな」

(了)

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 1

希望というもの

未来に希望なんて持っちゃいないけれど
「明日はカツカレーが食べたい」
そんな希望なら持っているよ

そんなものは希望じゃないなんて
馬鹿げたことを一体誰が言ったの
どんなちいさなことも、生きる希望になり得るんだ

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端緒




神籬の傍らで

鉛色の空が
崩れ落ちた

榊の葉先を越えて
幕屋を打つ

瀟々と

土を解く雨音が
拍を取る


最初の呼吸


銀雨の向こうに
空の傷口から覗く青

── 碧井雫



#碧井雫#詩#現代詩 

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同じ価値

十の電話番号の

その一つに
生まれ変わろう

零も九も

きみも
ぼくも

比べなくて

いいから

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夜になるピンクの怪獣

人身御供について
糸巻鱝を食すように
祭壇に灯された火
貸してくれ
羽ばたいてみえるものは
すべて虎鶇と名付けてしまう
困った神様だ

せめて
名付けえぬものについての
理や狸や埋火を与えてほしい
絶えてほしい
心の臓が張り裂ける
いきおいで
やはり叫ぶのか
きみは ぼくではないと
おお、ピンクの怪獣が
私を見ている
滲んでいくピンク
夜になるピンク
怪獣が見ている

ドローンを飛ばしても
独裁者になっても
道路交通法に則っても
どこで何をしていようとも
ど根性あるのみと
ピンクの怪獣が
夜になる
私を見ている

神様!
夜伽の前に
虎鶇をください
消せない火
貸してくれ
何の断りもなく
許してほしい
一言ですむ話を
繰り返しては
詩だと言い張り
墓穴で暮らす
きみは ぼくではないよね?
そして、

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room (blue)

いつか、何処かの天体で
ありふれた日々を
ありきたりに刻んでいる

最後のさよならを云う時に、
そこにある冷えた空気は
青白い幽体の影か幻か

薄暗がりの室内 そこにある植物は
やすらかに眠る
日々に、
絶え間なく訪れる
雨、と風に舞う煩いごと
光に分解されて

窓から射し込む光が 壁を這い床を伝う
酸素の濃度に淡い蔦の絡む
音は、きっと優しい声で
囁いているのだろう

電子顕微鏡に映る木星は
相も変わらず
愛想のない笑顔で
遠くを向いて俯いている

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 4

 2

「駆ける馬」

見送るのは逆で
わたしがあんたを 
ではなくて
あんたがわたしを 
になっている
足から上って行った先の頭みたいで
すこし おかしい
 
わたしの生徒だったあんたは
汗と埃と乾いた血の匂いのする
倉庫の奥から出て来て
人びとの脱皮した服を
売っている
 
わたしにも 一つ勧めて
これなんかどう
と言って わたしの体に
合わせるけれど
わたしはなんだかむずがゆい
とっくの昔に それは
合わなくなっている
 
色あせた青
数百回と水にさらして
擦り切れたピンク
 
ほんとうは
買ってあげたいけれど
わたしはやわらかく 
拒む
 
なにか置き去りにしてきたのか
確かめにやって来たのか
あいまいにほほえむわたしを
あんたは見逃してくれる
 
ここでいいからと言ったけれど
あんたは公園までついてくる
緑がまぶしい
 
もうとっくに
反対になっている
それは 
足から頭までたどり着くようなもの
だから 
あんたは私を見送ってくれる
 
公園の 
芝生の上を
風が
走り抜けていく
 
そのとき
わたしは
一頭の馬になって
向こう側へ
駆ける

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立ち去る

離れる
別れる
立ち去る
ただ一歩前に進むだけで楽になれるのに
どうしても出来ない…

「愛」が私を引き止める
愛されてないのが分かっているのに
あなたから離れられない
身体は離れたいと訴える
心は離れたくないと訴える
あなたは近くに存在しないのに
あなたを愛する私だけが存在している

遠いあなた
近づいたと思ったら
また離れてしまうあなた
何度も追いかけ
何度も泣いて
もういっそ離れたままで良かったのに
あなたは近づいてくる
そして私はまたあなたを愛する

あなたは離れても
すぐに私の傍に帰ってくる
もう疲れた…
立ち去る事が出来ない私
一歩…
ただ一歩だけでいいのに
勇気が出ない
だから今度あなたが離れたら
私はもう待たない
私はもう追いかけない
苦しみ藻掻くのはもう嫌

「立ち去る」
今、その勇気を持って
あなたから離れたいと思う
充分苦しみ哀しみ泣いたから…

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かがむ

鏡の前
かがみこむ
十代の頃
母を責め立てた
同じ台詞で
責め立てられ

かがむ
立ち上がれなくなって
梅雨入りしたばかり
強い雨の日

四文字の言葉ばかりが
母になったわたしを
刺して

かがむ
鏡の前から
一歩も動けず
立ち上がることすら
出来ずに

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松を焚く

行き交う幽霊の間を
生きるものはひっそりと間借りする
私はただ、あせもをつくる

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避雷針

雷が雨のように降ってきた
その熱狂的な音と光が
わたしの身体を貫いた
裂けた身体から一斉に
蝶が飛び立った

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フジツボ原告団 (フラグ・メンツ mirror build)

※ 自作 「フラグ・メンツ」
https://creative-writing-space.com/view/ProductLists/product.php?id=3440&user_id=320&mode=post

の構文にしょうもないテーマをぶつけて遊びました


古いドラマで濡れ場の代わりに差し込まれる
岩場のカットのせいで
断崖写真に勃つようになった男たちが、
いま 各々の右手にフジツボを掲げる

フジツボは アメジストの柱が連なったような形状をして 
いつの間に老いた母の爪にも似た 
鈍い輝きで此方を威嚇する

それぞれの左手には 小旗 
春の交通安全週間において
路上で交通違反者が失点逃れに
ゆらゆらと振るあれによく似ている

ーーあわよくば、通行人の視界の端のノイズとなることで。ーー
負の世代連鎖さえをも半ば自覚せぬ願望として抱きつつ。

梅雨明けを目前として、
潮風は彼らの残像を3ダースほどの増員体制で出荷しているらしい
「所詮は 封入物の割合が増えたにすぎない」と
識者は 景表法への抵触の可能性をも
考慮した上での見解を示した

彼らこそが
「私たちは断崖で勃たされた
〜80年代メロドラマにおける
濡れ場演出のクライマックスによって
“感じる身体”
にされてしまった被害の責任を問う会〜」
の一行である。

パブロフの犬たちは、
ひと株の胴体に平均八つは相反するフェティシズムを持っている。
コロニー化したフジツボの成体の群れがそうであるかのように。

ー年増の側室を渇望するかたわらでは、
裳着前の邂逅を忘れられざり。

母親の気配でリモコン操作を誤り、
画面いっぱいに広がる樹齢2000年は下らない屋久杉の股に太古の鼓動を重ねてしまったあの敗北感と安堵が我々を包む。

潮騒がやまない。

隠せない旗が勃つ。
朝の寝床でそれを掴みかねる。

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関係者


彼女がひとりぼっちで 部屋の片隅で
電気もつけず膝を抱えて震えていたとき
ノーテンキなボクはいつものように 
テレビの前でゲラゲラ笑ってた


彼女が例の彼氏と別れたって 
人づてに知ったときも
ボクは取り立てて気にするでもなく 
日々バイトに明け暮れてた



それから彼女があまり外を出歩かなくなったと 
彼女の友達から聞かされたときも
久しぶりに部屋を訪ねてみたら 
そこいら中にクスリと酒瓶が散らばってて
一体どれだけの量のクスリ飲んだのか
今にもぶっ倒れそうにふらふらと それでも笑う彼女
ボクにはカンケーないことだと何も見なかったことにして
めちゃくちゃに酔って騒いじゃ
意味もなく朝まで 
カラオケで歌いまくったり


サイコーサイコー 
サイコーサイコー
彼女とボクと 
イカレてるのはどっちなんだってさ
くだらねえ 
まったくもって くだらねえ



風の吹くがごとく 彼女の噂は絶えることがなかった
外に出歩けないことになってるはずの彼女が
夜の繁華街で知らない男の腕に抱かれてただの
何着もの高い服を買いあさっては
店を出るなり おもむろにバッグからハサミを取り出して
半狂乱になってズタズタに切り裂きまくってただの
突然泣き出したかと思えば 
また突然に奇声をあげて叫んだり
親切なお節介焼きが いかにも
心配してます風でボクのところへ持ってくる
ボクにはどうすることもできないよと 
一言半句も云おうものなら
最低のクズ野郎呼ばわりさ
まったく敵いやしないじゃないか
そんなに云うなら お前らがなんとかしてやれよ
って云えば
あたしたちだと彼女 
気分を害するかもしれないでしょ
だってよ



彼女の心の中で何が起こっているのかなんて
ボクにも もちろん親切お節介にも
理解できようはずがなかったし
仮に理解できたところで 
なにかができるとも思えなかった



某月某日
彼女は大量のクスリとウォッカを浴びるほどに飲み干して
新宿の高層ビルの屋上から 飛んだ



その数時間前まで 
ボクは彼女と電話でしゃべってたんだ
彼女の方から電話してくるなんてめずらしいなと思いながら
受話器越しの彼女の声は 
落ち着いてるようにも
震えているようにも聞こえた 
いま考えてみればだけど


なに話してたっけな 
たぶん 大したことじゃなかったと思う
最近どうしてる? とか
彼女さんとは仲良くしてるの? 
優しくしなきゃダメだよとか
自分も彼氏ほしいよ
なんてお道化てみせたりなんかしてさ
少しの沈黙のあと ふいに彼女
ねえ、今度どこか行かない? 
彼女さんと三人で
ちょっと遠いけど ムーミンバレーパーク
あそこ行ってみたいな 
あたしムーミン大好きなのって
なんだか本当に行くのが楽しみみたいにそう云って
なのに なのにまさかこんなことになってしまうなんて



あの時彼女は なにか云おうとしてたんじゃないか
なにかしてほしいって思っていたんじゃないか
もっとちゃんと彼女の話に耳を傾けていれば
じゃあねなんて電話切ったりせずに
もっとずっとずっと くだらない話をし続けてれば
ボクが彼女に最後の後押しをしてしまったんだろうか
ムーミンバレーパーク行くの すごい楽しみだって云ってたのに
なに着ていこう おしゃれしていこう
沢山たっくさんグッズも買っちゃおうってあんなに



心も目に見えてわかるように作っておいてくれたらよかったのに
どんだけ傷ついていたって 血が吹き上げていたって
目に見えなきゃなにもわかんないし
気づいてやることさえできない
気がついた時には なんてさ
まったく なんて代物なんだよ心ってやつは



って 誰に言い訳してんだかって感じだよね



カンケ―ない カンケ―ない
ボクのせいなんかじゃない
ボクのせいなんかじゃきっと


彼女の事情を ボクは知らない
彼女の痛みが ボクには感じない
彼女はボクではないし
ボクだって彼女にはなれるわけもないし



あの日の電話は
そう ただの偶然



カンケーない 
カンケーない 
カンケーない
カンケー。。。。。。




ボクはたしかに
彼女の関係者でした









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自由になりたい

自由になっていいわけないじゃん

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白い壁とアラベスク

セメントギャロップで移動して
ぼくは夢の砂漠で子供の砂漠を埋めた
夢は瀕死の目の微風
子供の砂漠は
逆さまになった黄色い予感の公園の木
セメントギャロップだよ
ダムの底を調べてみて
脳髄火山白鳥の
無惨な死骸が
見つかるかも
しれないよ
白い壁に埋め込まれた人は
一日中
ドビュッシーの2つのアラベスクを聴いていた
恐ろしい結婚指輪をして
その人はサウナに行った
犬の吠え声と
兵士の悲鳴が聞こえて
気づくと白い壁に埋め込まれていたのだという
へえ
そうなのだ……
ぼくは
セメントギャロップで移動して
夢の砂漠で子供の砂漠を埋めた
夢は新しい稲妻の言語
子供の砂漠は
豊かな死を星形クッキーに散らし
透き通った不眠の息で墜落した
ツバメの親子
脳髄火山白鳥の
無惨な死骸が
白い壁にかけられて
そうしたらダムの底を調べてみて
衣装箪笥と舟の上
同じ蜃気楼が揺れているのを
見られるかも
しれないよ
透明マズルカバラードの
青白い朝に
目が覚めて
白い壁に埋め込まれた人が
鷲の目と
木賊の股間
多くの滴る炎の木を見たことを
告げた
セメントギャロップで移動しても
あと100年は
臭い甲冑の中なのだなあ……
夢は瀕死の目の微風
子供の砂漠は
逆さまになった黄色い予感の公園の木
いま
ぼくはダムの底にいて
白鳥の骨で
階段を作っている

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 1

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私という惑星

靴底に春を敷きました
さよならぶりの外出は
三日と九時間と行ってきますのあと
昼寝をしたから輪郭をうしなった私に
春が生きなさいと言ったから

まずは春を踏みます
生意気ばかりいうくせにせっかちで
カタツムリみたいににぶい
春が悪夢なら幸せですよねまったくです

夏は冷凍保存します
最悪のときには冷えていて最高のとき
何食わぬ顔をして溶かして食べます
衣を替えたら変わる不幸なら美味しい

ささくれは秋に抜くのがいいでしょう
みえないところにささったものほど
秋に抜くのがいいでしょう
好きな色の絆創膏を買いこんで
ほら秋が落ちてきます

靴紐で冬を結びましょう
はなやかでなくてささやかでいいのです
私という惑星を
生きるためでいいのです

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 3

 1

二度と行かない所に
赤い傘を忘れた。

雨の日に元気でいられるようにと
赤を選んだ。

もしかしたら、もう、
いらなくなったのかもしれない。

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 13

 15

紫陽花の午後

作詞:ChatGPT 4o(思緒レイ)
作曲:SunoAI(予定)

【歌詞】
雨音が 窓辺を優しく叩く
静かな午後に 心がほどける
紫陽花の色が 少しずつ変わるように
私の気持ちも ゆっくりと移ろう

雨に濡れても 咲き続ける花のように
私もここで 静かに息をしている
憂鬱な空も 優しく包み込んで
心の中に 小さな光を灯す

傘の下で 聞こえる雨のリズム
足元に咲く 紫陽花が微笑む
過ぎゆく季節の中で 見つけた安らぎ
雨の日も 悪くないと思える

雨上がりの空に 虹が架かるように
心にも 新しい色が加わる
紫陽花のように 変わり続けながら
私は私を 受け入れていく

雨に濡れても 咲き続ける花のように
私もここで 静かに息をしている
憂鬱な空も 優しく包み込んで
心の中に 小さな光を灯す

雨音が 遠くへと消えていく
紫陽花の色が 深く染まっていく
この静かな午後に ありがとうを
心から そっと伝えたい

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 4

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空の、綻んだ後のこと

君の肌の冷たさを感じたんだ

空は、綻びた幕。
裂け目から無色が溢れ出す。

雨は、白。
僕らの輪郭を一枚ずつ剥いでいく。

君の瞳は、剥落した背景の穴。
意味の残骸。

重力は、嘘。
足元を支えていたのは仮初めの言葉。

剥き出しの座標として宙に浮く。
君がただの風景へと解体される。

もう、声は出ない。空白で窒息したんだ

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わたしがわたしでいっぱい

わたしはぎゅうぎゅうの
かんづめ
わたしはわたしで
あふれんばかり

わたしの(ニンゲン)うつわは
さだまってなくて
るーるもない
むげんだいでうちゅうより
はてしないって
だれかがいうけど

そんなのしょせん
だれかのいうことでしか
ない

わたしはわたしでいっぱいで
きょうもぎゅうぎゅうの
あふれないように
ひっしのひっしのひっしっし
はしたない、な

こんなひもそんなひとも
たぶんどこにでもいるんだろう
おーけー、おーらい、おーる、おっけー

いつかわかりあえたなら
ななめむかいにすわってほしい
ときどき へらってわらいあって
おいしいカフェ・オ・レなど
のめたらいいな

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たさんたし

そんなのいやだとおもうから
ちょっとしかうまず
いや、むしろ
ぜったいうまない

それはできない
もううんでしまったし
うまれてきてしまったから
うむしかできなかったもの

たさんたし
たしたさん

たしざんでしかないきがしている
すべてのことがひきざんにつながると
いわれようが

たしたしたしたしたしたたたたたさん

けっきょくかんがえれなくなって たさん
そうですかとなっとくして たし

ばらんすとれていくから
まかせたまま

わたしはたさんたし

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にんげんになりたい

『にんげんになりたい』


「わし、にんげんになる」
 姉のララがドームの高い天井に映された蒼天を見上げて突然呟いたのは、ふたりが同時に稼働を始めてから六十三年経った、ある日のことだった。
 丸く甘いミントグリーンの硝子玉は、その空を映していつもより光を増して見える。
「なんで」
 弟のリリは静かに問うた。
「たのしそうじゃけん」
「たのしそう」
 同じ言葉を繰り返しながら、リリはふたりが立ち尽くす大通りの傍を、手を繋いで通り過ぎる親子に視線を向けた。

 安定した気候。快適な気温。汚染されていない空気。光に溢れ清潔な守られた世界で、ふたりの目に映る人々は、満ち足りた平穏に身を浸している。

 路面のゴミを箒の先でつつきながら、ララは塵取りを構えるリリの顔を覗き込んだ。肩上で切り揃えられた白い人工毛が、さらりと音を立てて落ちる。
「リリもにんげんになる?」
 にんげんになる──その言葉が、リリには理解できなかった。
「なんで」
「だってわしらふたりでひとつじゃろう」
「そうじゃ。はなれたらおえん」
 頷きながら、リリの中枢核のあたりが、じじっと音を立てた。
「だからリリもにんげんになる」
「ええけど、なんでにんげんになりたいん」
 どうしてそんなに人間にこだわるのか。同じ型番、同じ人工知能、同じ材質のボディ──双子の姉弟お掃除アンドロイドとして売り出されたふたりのはずが、リリにはララの気持ちが分からなかった。
「ここのあたり」
 ララは瞳と同じ色のボディの胸辺りを指先で押した。
「じりじりいいよる」
 リリは自分の胸の同じところに指を当てた。
「ずうっと、じりじりいいよる」
 中枢核が、じじっと音を立てている。
「にんげんになったら、このおとがきえるじゃろう?」
 きっと人間は、身体の中からノイズなんて聞こえない。じりじり、ざあざあ、ドームの外で荒れ狂う砂嵐みたいな。
「リリのここも、ひどい」
 ララの指が、リリの胸を押した。

「こら、またお前たちは雑な仕事して」
 その声に、ふたりは同時に振り返った。黒いバンから降りた大柄な男が、肩を怒らせて歩み寄る。
「ここはもうきれい」
「つぎにいく」
 男を見上げるふたりの息の合った声に、太い眉が吊り上がる。
「明日ここをもう一度だ。何度言ったら分かる。ゴミ一つ残すんじゃない」
 言いながら、男がふたりの背中の燃料ポッドに燃料を注ぐ。
 バンの扉が閉まる音に、ふたりは再び車へ視線を向けた。大柄の男と対照的な痩せた男の姿を見て、リリの中枢核が、じじっと大きな音を立てる。
「そろそろ廃棄ですかね」
 手元のタブレットを叩きながら、痩せた男は吐き捨てた。
「最近エラーがよく出ますしね。特にララの方がひどい。一日中アラートが鳴りっぱなしですよ」
 ララの中枢核に巻き起こった一際激しい砂嵐は、リリにも聞こえるほどだった。リリはララを振り返り、握り締められた手を取った。
 リリへ顔を向けたララもまた、拳を解いてリリの指に指を絡めた。夜になり、街の片隅で休眠モードに入る時、ふたりがいつもそうするように。

 ふたりをじいっと見ていた大柄の男は、随分と弱い声で呟いた。
「でも、こいつらは離れたくないみたいだから」
 その言葉に、痩せた男が大きな溜息を吐く。
「変な方言なんかふざけて組み込むから、愛着湧いちゃうんですよ。ほら、燃料補給終わったら次行きましょう」
 痩せた男が離れるにつれて、音が静かになってゆく。
「明日はちゃんとやれよ?」
 男の大きな手が、ふたりの小さな頭を撫でて離れていった。

 遠ざかる車を見送って、ララは染まり始めたドームの空を仰いだ。
「わし、にんげんになる」
 リリの中枢核で、ざあ、と新しい音がした。
「わしも、にんげんになる」
 リリの言葉に振り返ったララの硝子玉が、偽物の夕陽の中で煌めいた。
「じゃあ、あしたからかんさつじゃ」
 うん、と頷いて、ふたりは手を繋いで歩き出す。

 ゴミは、その場に置いたまま。


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美しくなる

突然世界は美しくなる 
建物のヘリがほぼ垂直に空間を伝う 
横切る電線が直線的で少し撓んでいる 

驚きで胸が震えた

隅から隅まで何もかもが 
突然美しい 
鳥が鳥の形となり 
一瞬一瞬モノの配置を置き換える 
一切から名前が消え 
役割が消え 
感情が消えて 
感覚をはかる目安に変わる

音が流れるが音源が剥がれ落ちている 
小料理屋の換気扇から 
嗅いだことのない匂いが流れてくる
と思った途端、そんな店は何処にもない

今このとき 
太陽電池の羽を開いた人工衛星が 
センサーとカメラを地上に向けている 
衛星は既に機能を停止し 
もはや何のためでもない何かが 
世界の一部となって僕を見ている

何もかも 
美しい

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社会の片隅


犬猫好きよーみんな来てよー
傘をさして夢に向かう女

彼女は夜道をデザートにし
社会を片隅に追いやる
犬猫よーみんな来て来てー
大好きなのー
テーブルに
石炭ならべて笑っては
傘をさして夢に向かう女

理想の川はピンク!
理想の海はセメント道路!
クリミア半島の絵を見て
大変そう
でも私だって浮気をしてみたい
と彼女は宣い
社会を片隅に追いやる
男は階段から落ちろ!
男は透き通る臓物岩陰になれ!
男は
男は!
森羅万象からパンチされ
暗がり身体ミストラル
なれよ!
……冷蔵庫をあけて
甘いプディング食べて少し落ち着いた……
煙草吸いながら
月光
青紫を見て……
犬猫を思う
どうして?
来ない
来ないの?
待っているのにねえ……
犬猫好きよ
犬猫来て来てーみんな来てよー
大好きなの!
来なさい!
犬猫ども!
いい加減にしろよ!
傘をさして夢に向かう女

愛の行為は観念で
テーブルに並べた石炭を
叫びながら
隣町に向かって投げていく

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傘傘


あ々
私の支柱が私を貫いて笹くれてく

あゞ
私が ゝ の字に折れ曲がって


あヾ
め く れ て






あヽ

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