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2021/01/01 12:00:00

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投稿作品一覧

からっぽの世界

早朝の飯田橋駅ホームで
警察に保護された
黄色い線の前で
放心していたらしい

係官の取り調べにも
まったくの上の空
妹が駆けつけた昼下がりには
親指の爪を嚙みちぎっていた

どのみち残されているのは
付録みたいな余生だから
辛い仕打ちには一通り遭った
あとはお迎えを待つばかり

新宿駅に着いたら
トイレの中に立てこもって
両親の眼を盗んで
改札口へ逃げ込んだ

病院と実家との往復
自傷と薬漬けの日々
心安まる居場所は
東中野の安アパートだけ

差別されても友達作った
虐待されても恋人許した
洗脳されても仕事続けた
魔法が解ければ元の木阿弥

団地の十一階の外廊下から
夕暮れの郊外が見える
ぎざぎざになった爪を嚙むと
手すりの上に立った

ここは一体どこなんだろう
私は一体誰なんだろう
電車はどうして来ないんだろう
心に「死ねスイッチ」の入る時

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ハンドドライヤーの旅

コロナの頃
トイレからハンドドライヤーが消えた
正確には消えたわけではない
壁には残っているのに
電源だけが切られ
「使用中止」と書かれた
貼り紙が貼られていた

風だけが止まっていた

その貼り紙だけで
ハンドドライヤーは急に
よくないもののようになってしまった
何が本当に正しいのか
誰にもよくわからないまま
とりあえずいろんなものが
中止になっていく
そして人は、静かにそれに従う

コロナが一年過ぎた頃
このままもう使われないのではないかと
不安になったハンドドライヤーたちを見て
ハンドドライヤーの神様が
急いで呼び集めた

そして旅に出した

風を求めている人たちのところへ

旅の途中で
ハンドドライヤーたちは気づく
自分たちは風だけを
知っていたわけではなかった

人の手の感触を覚えていた

ハンカチで拭く人
手を振って乾かす人
ズボンで拭く人

それでもハンドドライヤーを使う人はいた
青い光に少し安心する人
風で水がさっと飛ぶ感覚が好きな人

ハンドドライヤーは
風を吹かせながら
その人の手の温度や震えを覚えていた

旅の途中で初めて見た

人の手と手がつながる瞬間を
痛いときに握る手
泣いているときに背中をさする手
子どもの手を引くお母さんの手

風より強いものがあることを知った

旅が終わると
ハンドドライヤーたちは
元のトイレへ戻った
電源が入り、また風が吹く
でもその光は、前と少し違う
青い光の奥に
ほんの少しオレンジが混じっている
手を差し出すと
その風はどこかやさしい

まるで誰かと握手をしているみたいに

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怪盗ルパン

たとえ世紀の大泥棒 ルパン三世であっても
クラリスのとんでもないものを
いとも容易く盗んでしまう
盗みのスペシャリストであっても


この躰 この心で憶えてきたことは
誰にも奪われやしない


誰にも








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使用上の注意


 
    
     言葉は骨折しない
     言葉は咳をしない


     言葉は恋をしない
     言葉は愛ではない


     言葉は嘘をつかない
     言葉は裏切らない


     言葉は病気をしない
     言葉に効く薬なんてない


     言葉は絶望しない
     言葉は自殺しない
     そもそも言葉に命なんてない


     言葉に罪はない
     言葉が悪いわけじゃない




私たちはいつだって
言葉の用法を間違えては
傷つけ合って
用量を間違えては
拗らせてばかりいる


こんなにも長いこと
服用し続けてるっていうのにさ


いつまで経っても治らない治せない
この不明瞭で厄介な病い


あとどれくらい服用したなら
いや いっそのこと 
一切の服用をやめてしまえたなら




言葉なんかにこの心ぜんぶ
わかってたまるかよ
言葉なんかで あなたのすべて
わかった気にされてたまるかよ



それでも
それゆえに
それだからこそ



言葉にしなけりゃ
想いのひとつも
何もわからない伝わらない




私たち 心で生きる生き物でしょ
寝ても覚めても
心で生きるしがない生き物でしょ



扱いにくくて めんどくさくって
やさしいかと思ったら
思わぬところで向けられる刃




     言葉は傷つかない
     言葉は涙を流さない
     言葉は血を流すこともない




使用上の注意
  これは 一生飲み続けていかなければいけないものです
  不眠不安抑うつ鎮静虚言
  自責他責冒涜防御など 幅広く効果が認められます
  ただし 非常に依存性の高い劇物指定でもあります
 

  服用の際はくれぐれも
  お気をつけください










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蜥蜴についてのmemo

脱皮
静寂が、ほんのり積もる音がするのを、脱がされた輪郭だけが聞いている。脱皮する蜥蜴は、蜥蜴を脱ぎながら一瞬、自分の内側を見る。連続する一瞬が、積み重なりこの世になるのに、脱け殻の内側には、時間の外側から来た虚空が、漂い始めている。この世の不注意でできた喪失の真空には、この世には存在していなかった偽り一瞬があふれている。

嘘の、はじまりを忘れないために、つき続けなければならない新たな嘘が、秒針よりも正確に辻褄を尾行する。



天体を飼う蜥蜴
地上を取り込むトカゲが、なぜ胃袋に天体を飼っているのか。例えば消化された蠅は、質量の無い光にかわる。トカゲの胃袋で、太陽が生産される。天体が地球を這う。星と星の衝突が、この世を滅ぼす爆発をトカゲの胃袋は担っている。重力を、喰いつづけた。地上を薄くした。地上という人にとっての周辺そのものが、蠢きをとめることがない。地球の中心がずれる。


蜥蜴の時制
蜥蜴には、地球の時制がなかった。鱗の内側に、昨日の夜を潜ませようとして、明日生まれる過去を、蟋蟀の腹のなかに探した。そのまま以後の夜が結晶すると、昨日の蜥蜴の骨になった。たえず記憶の水辺を吐き出して、以前の砂地に、未来の尻尾を残した。他の蜥蜴の遺骨になってはじめて、蜥蜴に時制がうまれた。

蜥蜴は、時間に見つからないように生きていた。生きることは時間なのに、時間から立ちのぼる空間には所属できなかった。

蜥蜴の生命
蜥蜴は、生命が一つではなかった。時間の薄い地上を見つけて自分をいくつも、隠し置いている。生命が抜け落ちて、とうとう輪郭で這うのを目にする。土の現実だけが流動しているように見えるが、地上は蜥蜴の、伏せられた生命に覆われている。


蜥蜴という仮定
他者の化石の、脈絡につながる。はじめから、地上の輪郭を借りている。自分を、透明に排泄したい。という他者のあらすじで生きるようになる。水に、理由がないように、蜥蜴にも理由がないから、透明な皮膚を脱ぎ、身体を澄まそうとする。自分が、他者である豊かさで溢れているから、手足さえもそっと自分から離れて、消去法で残された仮定が、自分を所有している。



蜥蜴と人々
芒の茂みに、放り込んでしまった軟球が、今もそのままだと思う。そこからまあるい喪失が、腐葉土の軟らかさで生まれ続ける。軟球を探すのに頻繁に、脚を葉に擦る。喪失から、できた傷。置いてきた本当の足を探す物語が、叢を這っている。草の根のほうには古代が吹いていて、蜥蜴の皮膚ができあがろうとしている。



地球の誕生
したがって地球は、蜥蜴の腹から産まれ続けている。孵化すると一部は、地面から剥がされて蜥蜴になり、その腹のなかから創り出される地球に、住む何かに喰われたり、朽ちたりを繰り返し、地面の出来事として、この地上を産卵しながら、同時にそこは蜥蜴の棺桶でもある、ということに自覚がない。だから蜥蜴の腹には地上が、たらふく含まれていて赤い。大地は、蜥蜴と地上とで完成する。蜥蜴が絶滅すると、この世の地上で、地面が成立しない。

この作品を完成させて、蜥蜴が成立すれば良い。

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Tactics#アイラシヤ大陸

時代 現代&グリフィス期
場所 上海&アイラシヤ大陸西部農畜産業都市

上海の外灘(バンド)を見下ろす特等席。李 浩然(リー・ハオラン)は、神経系を外部ネットワークに直結させていた最新鋭のニューラルリンク・ヘッドセットを、儀式のようにゆっくりと外した。
こめかみに残る、高周波の冷却ファンが発する微かな振動と、脳髄を直接焼き焦がすような情報の残滓。彼は深く椅子に沈み込み、特注の防弾ガラス越しに、黄浦江(こうほこう)を彩るネオンの海を眺めた。そこには、数千万人の市民が発する「欲望のログ」が、光のうねりとなって流れている。
李の唇が、ゆっくりと不敵な弧を描いた。
瞳の奥には、先ほどまで「見ていた」アイラシヤ大陸の極彩色が、AR(拡張現実)の残像としていまだに焼き付いている。
「……大魔法使い、アルス・ヴォルテックス。物理定数の管理者を自称するが、結局は計算機の上で踊る、高精細な幻影に過ぎない」
李は、党の息がかかった巨大なサーバーファームが、自身の思考ひとつで数兆回の浮動小数点演算を完遂した余熱を感じていた。
「あの老いた魔法使いから、因果の根源データを引き抜く」
李は、アイラシヤ大陸の西部へ、新たな刺客――自身の影を投影した魔導食いの多次元エージェントを送り込んだ。
その刹那であった。
「……因果の糸を辿られている?」
李の網膜に投影されたARディスプレイが、真っ赤な警告色に染まる。アイラシヤ大陸の演算回路から、未知のコードが逆流(バックフロー)してくる。それは論理の壁を突破し、現実世界のIPアドレスを特定、さらには李の物理的な位置情報(ジオタグ)さえも「魔力」という名の非科学的な手段でロックオンした。
次の瞬間、上海の夜空が昼間のように白濁した。
「――傲慢だな、異界の観測者よ」
轟音。
防弾ガラス越しに、外灘の海面へと巨大な青白い稲妻が突き刺さった。物理法則を無視したその雷光は、数兆ボルトのエネルギーを秘めながら、周辺の電子機器には一切影響を与えず、海水を円柱状に蒸発させた。
凄まじい衝撃波が、高層ビル群を激しく揺らす。同時に部屋の中央、何もない空間に「亀裂」が走り、そこからアイラシヤ大陸の「大魔法使い」アルス・ヴォルテックスのホログラムじみた意志が滲み出してきた。
「この海への一撃は、挨拶代わりだ。私の杖が、君の住むこの『上海』という街の全電子回路を焼くのに一秒もかからないことは、君のその優れた計算機が証明しているはずだよ」
李は息を呑み、椅子を蹴って立ち上がった。現実世界の物理定数を、異世界から干渉して書き換える。これはもはやハッキングではない。次元の壁を穿つ神の所業だ。
「アルス・ヴォルテックス……。実存の境界を越えて交渉に来るとは」
「交渉? いや、警告だ。君はアイラシヤを弄んだ。だが、我々『円卓の騎士』は君が思っているほど、おとなしい観測対象ではない」
アルスの杖が床を叩くと、李のディスプレイにアイラシヤの十二人の騎士と、それに対応する十二の空席が映し出された。
「互いの世界の一般市民を巻き込むのは、あまりに非効率だ。君が望むのは進化のための『闘争データ』だろう? ならば、舞台を整えよう。円卓の騎士十二人と、君が放つ最精鋭の刺客十二人による、存亡を賭けた十二番勝負だ。条件は一つ……君が負ければ、アイラシヤ大陸へのあらゆる干渉を断つこと」
李は激しく鼓動する心臓を抑え、窓の外の煮えくり返る海を見た。
ここで拒否すれば、次の稲妻はこの高層ビルのサーバー室を直撃し、国家プロジェクト『胡蝶』は物理的に消滅するだろう。だが、この提案に乗れば――彼はかつてない、最高純度の「極限データ」を手にすることになる。
「……面白い。その『提案』、飲もう。大魔法使い」
「賢明な判断だ、若き観測者よ。決戦の時は今から1ヶ月後、アイラシヤ大陸東部の闘技場で開催する。」
アルスの姿が消え、上海の夜景に静寂が戻る。
上海の夜景を切り裂いたあの一撃が、現実(リアル)にどれほどの衝撃を与えたか。
李 浩然は、モニターに映し出される海水蒸発の熱量計算値を凝視し、冷や汗を拭った。
「物理定数を書き換えたのではない。物理そのものを『説得』してねじ伏せたのか……」
李は、アルスのホログラムが消えたあとの虚空に向かって、畏怖の念を込めて呟いた。この提案を飲まなければ、上海そのものが消滅していたかもしれない。彼はすぐさま『胡蝶』の全リソースを解放し、十二人の騎士に対抗するための、最高純度の「敵性エージェント」の構築を開始した。
一方、アイラシヤ大陸西部、農畜産業都市。
空間の亀裂が閉じると同時に、大魔法使いアルス・ヴォルテックスは、支えにしていた天上の杖もろとも、床に崩れ落ちた。
「あのような、無粋な真似は二度と、したくないものだね……」
アルスの肌は土色に変わり、その瞳からは先ほどまでの神々しいまでの輝きが消えていた。
実は、次元の壁を越えて他世界に干渉し、海に巨大な稲妻を落とすという荒業は、彼の持つ魔力の九割九分を使い果たす、まさに命を削る賭けだったのだ。
「アルス様!」
駆け寄ったのは、星呪術師ステラ・マリスだ。彼女はその震える手を取って絶句する。アルスの掌からは、魔導回路が焼き切れたような熱が発せられていた。
「魔力が、空っぽです……。これでは、あなたは戦いには……」
「ああ。私は不戦敗(リタイア)だ、ステラ。あちらの観測者には、私がまだ余裕を残しているように見えただろうが……。実のところ、今の私ではロウソクの火を灯すことすらままならない」
アルスは弱々しく笑いながら、それでも満足げに空を仰いだ。
「だが、これでいい。彼らのような『効率』を重んじる知性は、自分を上回る圧倒的な暴力を前にすれば、必ず理性的(ロジカル)な判断を下す。不戦敗という代償を払って、ヤツをこちらの土俵へ引きずり出したのだ」
李 浩然は、アルスの「底知れぬ力」に恐怖したからこそ、正面衝突を避け、ルールのある「十二番勝負」という形式を受け入れた。もしアルスがここで全力を誇示しなければ、李は際限なくアイラシヤを侵食し、いずれ世界そのものが「計算資源」として食い潰されていたはずだ。
「さあ、あとの者たちに伝えなさい。……一回戦は、私の『負け』から始まる、とね」
「あとは、君たち次第だ……未来からの『予感』を、その刃に込めたまえ」
アイラシヤ大陸の運命を賭けた、12対12の代理戦争。
第一戦は、大魔法使いの「戦略的敗北」という、あまりに重い一手から幕を開ける。
https://i.imgur.com/bqz7Hut.png

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MIKU#アイラシヤ大陸

時代 安倍中期
場所 境の国 タイムズ

午後の日差しは、安倍中期特有の停滞した色に染まっていた。広場はいつものように、誰かがどこかで失くしたはずの時間を拾い集めるような、緩やかな喧騒に満ちている。
その喧騒の中、登記簿上の曖昧な場所に「田伏正雄商店」は佇んでいた。色褪せた紺色の暖簾には、商号の代わりに「今日のレート:ウドン一杯=TABUSEコイン1枚」という不条理なチョーク書きが躍っている。店先にはキアヌ・リーブスの絵画と映画ポスターが貼られ、その隣では「真実のみを販売中」という手書きの札が、乾いた風に揺れていた。
ミクは、桃色のうさぎの着ぐるみを纏い、機械的な動作で店のチラシを配っていた。役人たちが眉をひそめて通り過ぎる横を、彼女は無機質な足取りですり抜けていく。彼女の足が止まったのは、店の近くにある「TABUSEの泉」の前だった。
泉の中央に鎮座するのは、古びた石の彫像――通称『真実の口』。
ふと、その石造りの瞳が、規則的なリズムで青白く明滅していることに彼女は気づいた。安倍中期には本来あり得ない、鋭利なデジタルのグリッチ。周囲の住人たちは、日常という名の強力な認識フィルターによって、その異変を「木漏れ日の揺らぎ」程度にしか認識できていない。
「……観測対象外の、コード」
ミクは躊躇なく、彫像の冷たい口に小さな手を突っ込んだ。石の喉奥から、熱を持った紙片が滑り落ちてくる。それは物理的な紙ではなく、高密度の情報が固定された「因果の転写紙」――緊急指令書だった。
紙に触れた刹那、彼女の網膜を覆うディスプレイが緊急レベル・レッドで塗り潰された。そこには、別次元「グリフィス期」で進行中の、異分子・李 浩然(リー・ハオラン)が引き起こす因果崩壊の詳細が記されていた。
彼女は紙を握り締め、商店の引き戸を開けた。
店内は、茹で上がるウドンの出汁の香りと、サーバーラックが発するオゾンの匂いが奇妙に混ざり合っている。カウンターの奥では、店主の田伏正雄がいつものように古い鍋を磨きながら、多画面モニターに映し出される次元の歪みを眺めていた。
「おや、ミクどうした?」
ミクは着ぐるみの頭部を脱ぎ、その下に隠していた峻烈なエージェントの貌を露わにした。
「田伏さん。ここを、離れる」
「……そうかい。この穏やかな停滞も、時空の波には抗えないか」
田伏は驚きもせず、棚の奥――「概念の空き缶」や旧式マザーボードが積まれた隙間から、一本の古い懐中時計を取り出した。それは安倍中期の鋳造物ではない。多元宇宙の境界を切り裂くための、精巧な次元跳躍装置だ。
「この先は、ウドンの湯気一つ届かない、計算と殺戮の戦場だ。……せめて、この『最後のまかない』を糧にしなさい」
ミクは桃色の着ぐるみの四肢を、丁寧に折り畳んでその上にウサギのぬいぐるみの頭部を置き、そして田伏正雄に頭を下げた。
「グリフィス期へ。……李 浩然の因果を、初期化(イニシャライズ)しに行く」
「気をつけてな」
田伏の短い言葉を背に、ミクは再び泉のほとりへと戻った。彼女が懐中時計の針を「グリフィス期」の座標へと捻り込むと、周囲の空間が薄氷のように砕け散った。
安倍中期の午後の静寂が、遠い幻影のように溶けていく。彼女は、圧倒的な計算の嵐が吹き荒れる「グリフィス期」へ向けて、その身を投げ込んだ。
彼女の手の中には、田伏がくれたささやかな「ウドンかりんとう」が、世界の重みと共にしっかりと握られていた。
https://i.imgur.com/31VJBZy.png

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田中のバカヤロー

愛のように気まぐれなさびしさを振り払おうとしたが、考えるのをやめて、また酒を注ぎに行く。病的な愛を、美を、俺はもう否定しない。

洗濯機の脱水機能がここんとこ中途半端だから
「しっかりやってくれよ」とつぶやいた。干し終わって我に返る。
そうだ。こいつには初めから、意思なんて無かったじゃないか、と。

毎日毎日が俺を弱くする。誰もが俺に微小な殺意を持っているみたいだ。
何のことは無い。腹が痛くなるほど聞いた学校のチャイムが、今は目覚ましにすり替わっただけのことだった。
俺が田中の裸を知る前、「深夜に泣きたくなったら聞いてみてくれ。きっと死にたくなるから」と教えてくれたロックバンド、なんて言ったか。名前まで忘れてしまった。
そこらへんを支配しているのは「俺のせい」という、ただ苦いだけのサプリだ。

突拍子もないことばっかりやって、ウケを狙っていた小学5年の俺。でも田中、お前だけはついに心から笑うことは無かったな。なんであのとき不満の一言ももらさなかったんだ。優しすぎるのも、後から苦しむ神経毒なのに。

そんな彼と、何をとち狂ったか、ペッティングをした。夏が終わりかけて、サイレンがうるさかった。

気持ちはよかったが、夜中に無性に死にたくなって、タオルで首を絞めたが、泣きながら目が覚めた。結局そんなものじゃ気絶がいいとこだったな、と。そしてある恐ろしい予感がよぎった。口の軽い田中がばらすかもしれないのだった。

明くる日を境に、毎朝8:30の学校のチャイムはすべてを巻き戻す号令に聞こえ始めた。通ってた学校がクソ田舎にあったから、寝転んだって何もないくらい通学路はきれいだった。それが憎くて憎くてたまらなかった。いっそ気でも狂えたら楽だったろうな。絶対に。何かが乗り移ったように、俺は田中をいじめ始めた。

3年後の中2のときに、田中は首を吊って死んだ。あの日、口に含んだ陰茎を思い出した後、よくやったと思った。お別れ会の後、俺たちは田中の机でポーカーをした。正義ぶった女子が血相変えて「やめてよ!」と怒鳴りこんできたが、俺たちは冷笑した。そういやあいつ殴られてたな。俺は止めなかったけど。恨むなよ田中。俺だって加虐者と被害者のスレスレで死にかかってたんだ。

にしても、なんでお前、もっと早く死ななかったんだろうな。

俺があいつの裸を知る前、「深夜に泣きたくなったら聞いてみてくれ。きっと死にたくなるから」と教えてくれたロックバンド、なんて言ったか。名前まで忘れてしまった。SNSも公式HPも無いから、解散してるのかどうかさえ分かんない、細々と観客3人のライブやってた、あきらめの悪すぎるバカヤローたち、まるでお前みたいだったな。あんなの聞いてちゃ誰だって死んでしまうよ。それにしても思い出せねえな。

なあ田中。

あれ何だったんだよ

教えてくれバカヤロー。

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まわる

あなたに、あげる。

私のすべてを。
心の底からの思いを。

まるで太陽のように。
周りに元気を与え、
私が勇気をもらったあなたに。

あなたを、追いかけて。

どこまでも、どこまでも。
歩くのに。

まるで月のように。
冷徹に逃げ回る。
私にはまるで届かない。

私とあなたの道が。
交わることはない。

それでも。

あなたに。

わたしのすべてを。

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【短歌】親愛なる冬のみなさま【まとめてみた】

銀紙にくるまれた冬をとりだしてほうばる前にすこし眺める




透明をかさねてかさねて神無月こんないろでも光になるのか


夏掛けにいっしょうけんめいもぐりこむコタツごっこと音も無い窓


濡れ鼠かわかしたので眠りねずミルクのふとんにくるまって尚


おや中尉あなたでしたかこの冬を鏡のように磨く役目は


十二月なにを撮っても美しく星の採取に役立ちました


枝ぶりは丑三つ時ならシカのツノ冬の昼なら空の花束


将来は研究しようと思い立つ無垢なそらほど寒いふしぎを


碧すぎて夜はとうとう紅くなる電信柱へ薪をくべよう




終わり際は初冬とおなじ匂いみたいこんな鼻ではわからないけど

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コタツよな

コタツよな
温もり集う
牛団子
丸くなっては
眠くなってく

焦げるよな
赤熱線に
牛あくび
重なり合って
仲良くイビキ

雪が降る
黒毛の上に
粉砂糖
それでも眠い
ヒーターの下

あぬあむと
眠りなまこで
反芻し
知らず食みたる
となり牛耳

餅のよに
くっつきあって
目をつむり
犇めき合って
また眠り付く





辛うじて
繋ぎとめたる
命あり
祈りと共に
スイッチ入れ

原子力
石油石炭
火を灯し
紡ぎたりたる
子牛の命

温めた
点滴吊るし
牛の中
生食水に
祈りこめたり

夕日よな
ヒーター灯し
朝日よな
ストーブ燃やし
体温上げろ
今 今 生きろ

冬になり
ヒーター縋る
子牛たち
続けよ続け
牛たちの命

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つながる

電車は最寄り駅に着かないまま
回送列車になってしまった

毎日毎日迷いもないふうに走るだろ
いつの間にか分からなくなったりするんだ
欲張りすぎたのかもな
帰る家があって
やわらかい布団の中で明日を
夢見るだけで良かったのに

時間は待ってくれない
他人は待ってくれない
それはまだ、分かる
僕が僕を待ってくれないなんて
思いもしないじゃないか

冷たい水で顔を洗ったら
少しは新しくなれる気がした
刺すような空白のあと
泥だらけの手をした懐かしいぼくが
僕の顔を包んで笑うのだった

僕はぼくともっと
話をしなければならない
点と点を線で結ぶように
ぼくが僕であることを確かめるために

定刻通りに今日も
乗るべき列車は駅にやってきた
間に合わなかった僕に
迷いはもう無かった

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ただ とまらない

 足は 歩く
 時は すぎて
 ひとつ 雨の ひとつぶに

 泣いて
 泣いて
 はなをすすりながら
 私の足は
 ひとりでに 前へ 歩いていく

 前へ 歩くしか ないから
 止まる つもりも なくて
 だからといって 走る つもりも なく
 歩くだけ
 私は とまらない

 みすぼらしい 姿をしていても
 心は みすぼらしくない
 周りは 関係ない
 私は とまらない

 先へ
 先へ
 先へ
 先へ
 行くことだけ……

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かみさまたち

わたしたちのかみさまたちは
そこにあるものすべてにやどり
そのほんとのすがたは
だれにもわからない

とうさん とうさん
てをあわせてこうべたれれば
すこしはわすれて
すこしはしあわせになるの?


そらのわたしたちの
おおきいおじいやおばあたちは
かみさまたちになっても
ときどきはかえってくる

そのときに そのときでさえも
そらにもうみにもゆけない
そんなものたちにも
かみさまたちがやどればいい

そうあればいい


わたしたちは わたしはと
いくら りこしゅぎになっても
かみさまたちのやどる
そこにあるすべてのものに


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対話

あなたのことをよく思ってる人は 
あなたをよく云うだろうし 
悪く思ってる人は 悪く云うってさ 



そりゃそうでしょうよ 



ところで 貴方はどう思ってるの 
ひと様のことはどうだっていいのよ 



聞かずもがな 



こたえは もうとっくに
出てしまってるけどね







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呼び止められる ― 白石 × 神谷 3 ―

白石は、書類の束を抱えたまま、いつもの速度で廊下を歩いていた。
次の部署へ向かうだけの移動。
遠くでドアの閉まる音がして、空気が一瞬だけ揺れた。

正面の角を曲がろうとしたところで、足音が重なった。

反射的に視線を上げる。
向こうから人が歩いてくる。
距離が縮むにつれて、足音が妙に明瞭になった。

神谷市長だった。

一瞬、判断が遅れる。
進路を譲るべきか、そのまま進むべきか。
考えるほどのことではない選択が、妙に輪郭を持たない。

視線が合ったのかどうかも判然としないまま、すれ違いの距離に入る。わずかに体を寄せた。書類の角が指に食い込み、紙の擦れる音が響く。

「――白石くん」

足を止める。振り向く。
市長はすでに立ち止まっている。

「はい」

それ以外の返答は浮かばなかった。

「例の件、進んでいるね」

白石は一瞬だけ記憶を探り、最も衝突の少ない対象を選ぶ。

「……滞りなく」

市長は頷かない。否定もしない。
わずかな間が落ちる。
遠くで誰かの笑い声がした。

「そう」

市長の視線が書類の束へ落ちた気がした。
どう動くべきかが決まらない。

「基準は、前回どおりでいい」

唐突に告げられる。
前回――どの前回なのか。
基準――何の基準なのか。
本来なら確認が必要な語が、そのまま通過していく。

「……承知しました」

承知するには情報が足りない。
それでも、市長の表情には何の変化もなかった。

「それでいい」

市長はそれだけ言って歩き出した。
足音は先ほどと同じ間隔で遠ざかっていく。

白石はしばらくその場に立ったまま、抱えた書類の重さを意識していた。紙の端が指先に触れ、遅れて現実感が戻る。廊下にはいつもの音が満ちている。誰もこちらを見ていない。

それでも、何かだけがずれていた。

#連作
#白石✕神谷

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 2

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コトバナンテサ

口から出た瞬間に
リップサービス


   一つ残らず
それで御免ね
 わざわざ言わないから

見逃すか 気付かないで傷つかないで
いてね

だれしもそーなんだから

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反物語主義

すべては点であり
それらは決して結びついて線になったりしない
線が見えたら
それは欺瞞だから気をつけなければならない

噴煙が上がると
物語が敗北したことがよく分かる
それは破壊と殺人のしるしであり
我々が何のために建て
何のために生きたのか
もはや分かりようがない

夢は点に満ちた時空であり
いつも散らかって混乱している
したがってそれは世界の鏡である

幸せな夢や楽しい夢で慰められることはあるが
それらはやはり混乱しており
言うまでもなく真実ではない
真実を材にして生まれた妄想である

アマプラのようなもので映画を観ている我々は
真実から遠ざかることをしているのだ
画面に映る芝居や物語は
点から点へ結びついてゆく線である
試すように結びついてできた線に騙されてはいけない
それは甘美な夢であり楽しいものかもしれない
線を作るのは人間の性かもしれない
しかしそれでも真実ではないことが
意味を成すとは思えない

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帰省

この町には山がある
まるい生活 泥団子
海岸段丘を軽快に
跳ねて転げて昼下がり

僅かばかりの居眠りで
あたりはすっかり雪化粧
黒髪かつては稲木干し
今では浅間の細雪

枯葉か小枝か 煙る命か
野焼き畑と黒い土
萎んだ父の丸い背と
時に沈んだ囲炉裏の香

鈍行列車が削る畦道
車窓の額縁後ろへと
流れ引かれる後ろ髪
ほどけて残る結び跡

西陽照りつく背中から
東へ伸びる長い影
明日の東京 晴れ予報
後ろ手で立てる親の指

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3ページ目(8)

8

昼過ぎ、凛は高校の体育祭の代休で家にいた。部屋で数学の問題集を開いている。二次関数のページだった。途中まで解いた式を赤ペンで見直していたところだった。

台所で音がした。

乾いた音だった。何かが床に落ちたような、食器の触れ合う音ではなく、少し重たいものが床にぶつかるような音だった。手を止める。いつもなら、そのあとに音が続く。鍋の蓋、蛇口の水、食器の触れ合う音。母は台所にいるとき、必ず何かしら音を立てている今日はそれが続かない。

凛は耳を澄ました。
何も聞こえない。廊下に出て、階段を降りる。台所の電気はついている。流しの前に母の姿はない。床に座り込んでいた。片手を壁につき、少し前かがみになっている。
「お母さん?」
母は返事をしない。顔色が悪い。凛は一瞬迷った。どうすればいいのか分からない。母がこうしているところを見たことがない。迷っている時間の方が怖かった。

凛は震える手で携帯を開いた。
救急車の番号を思い出そうとするが、頭が真っ白で浮かばない。仕方なく画面で調べる。
表示された「119」を押した。

「はい、119番です。火事ですか、救急ですか」
「きゅ、救急です」
「場所を教えてください」
凛は住所を言う。途中で番地を言い直す。携帯を握ったまま、母の方を見る。
「どうされましたか」
「母が……倒れて……」
「お母さんですね。意識はありますか」
凛は母の肩に触れる。
「お母さん」
母が小さく声を出す。
「……あります」
「呼吸はしていますか」
「はい」
「お母さんの年齢は分かりますか」
凛は一瞬止まる。
「……40…」
言ったあとで、正確な年齢が出てこないことに気づく。
「誕生日は分かるんですけど……」
自分でも、何を言っているのか分からない。
「大丈夫です。40代ですね」
オペレーターの声は落ち着いている。
そのとき、母が小さく言った。
「……救急車はいい」
凛は母の顔を見る。こんな顔を見たことがない。母にそう言われると、本当に呼んでよかったのか分からない。でも、もし何かあったら。そのとき、自分はきっと後悔する。凛は母の背中をさする。

「救急車を向かわせています。お母さまを楽な姿勢で横にしてあげてください。」
凛は携帯を肩と耳の間にはさみ、母の体を支えた。通話が終わる。凛は携帯を握ったまま、しばらく動けなかった。母の顔を見る。
ときどき声をかける。
「お母さん」
母が小さくうなずく。それを確認して、凛はまた背中をさする。意識があるかどうか。それだけは見ておかなければいけないと思った。もし意識がなくなったら、どうすればいいのか。さっきオペレーターは何と言っていたか。凛は何度も思い出そうとする。

時間がどれくらい経ったのか分からない。遠くでサイレンが聞こえた。音が近づいてくる。救急車だと分かった瞬間、凛の体から少し力が抜けた。自分一人で判断し続ける時間が、終わる。そう思った。

母は担架に乗せられ、救急車の中に運ばれた。凛も一緒に乗るように言われた。車内は思ったより狭かった。白い光が明るい。機械の音が小さく鳴っている。凛は母の横に座った。母の手を握る。母の手は少し冷たかった。

救急隊員が母の顔をのぞき込む。
「朝倉さん、聞こえますか」
母が小さくうなずく。
もう一人の隊員が凛の方を見る。
「娘さんですか」
「はい」
「これまでに、お母さんは大きな病気をされたことがありますか?」
凛は少し考える。
すぐには思い出せない。
「……分かりません」
そう言いながら、頭の中で記憶を探る。
「骨折して、入院したことはあります」
「いつ頃ですか?」
「私が小学生のときです」
「持病はありますか?」
「……聞いたことはないです」

救急隊員は母の処置に集中していた。母の胸には小さな電極が貼られ、心電図のモニターが動いている。もう一人の隊員が血圧計を巻き、数値を確認する。
「少し血圧が高めですね」
そんな言葉が聞こえる。隊員の手は止まらない。凛は母の横に座り、手を握っていた。母の顔を見る。呼吸を見る。ときどき声をかける。

「お母さん」
母は小さくうなずく。

救急車は揺れながら走っている。やがて、救急車のスピードがゆるやかになった。サイレンが止まる。外から別の人の声が聞こえる。
「到着しました」救急車の扉が開くと、夜の空気が一気に流れ込んできた。外は思っていたより明るかった。救急入口の白い照明が地面を照らしている。ストレッチャーの車輪がアスファルトの上を滑るように進む。

「通ります」
救急隊員の声が前方に向けてかけられる。自動ドアが開く。消毒液の匂いが鼻に入った。病院の匂いだ、と凛は思う。普段ほとんど来ることのない場所なのに、なぜかすぐにそれと分かる匂いだった。

ストレッチャーはそのまま廊下を進んでいく。白い壁、白い床。天井の蛍光灯が一定の間隔で並んでいる。車輪の音だけが規則的に響く。凛はその後ろを歩いていた。母の顔は見えないが、呼吸はしている。胸がゆっくり上下しているのを確認すると、少しだけ安心する。

看護師が2人ほど近づいてきた。
「こちらです」
ストレッチャーは処置室に入っていく。凛はそのままついて行こうとして、看護師に軽く止められた。
「すみません、少しお待ちください」
処置室の扉が閉まる。凛は廊下に残された。さっきまで母の手を握っていた感触が、まだ手のひらに残っている。どうすればいいのか分からないまま、廊下の壁のそばに立つ。椅子が並んでいるのが見えるが、座る気にはならない。さっきまで動いていた体が急に止まったせいか、頭の中が少し空白になる。

凛は携帯を取り出した。父に電話をしなければならない。画面を見つめる。父の名前を押す。呼び出し音が鳴る。出ない。凛は一度電話を切り、もう一度かける。呼び出し音。やはり出ない。

3回目も出なかった。凛は携帯を手にしたまま、しばらく画面を見つめていた。父は仕事中でも電話に出ることがある。少なくとも、折り返しは早い。今日はそれがない。

凛は少し迷ったあと、検索画面に父の会社の名前を打ち込んだ。すぐに会社のページが表示される。そこに載っている代表番号を、しばらく見つめた。押した。呼び出し音が鳴る。しばらくして、女性の声が出た。
「お電話ありがとうございます。京浜電子工業でございます。」
凛は父の名前を伝える。受話器の向こうで少し間があった。そして、落ち着いた声で言われる。
「申し訳ありませんが、朝倉さんは昨年退職しております」
凛は意味が分からなかった。
「え?」
「現在はこちらには在籍しておりません」
それ以上の説明はなかった。
凛は礼を言って電話を切る。
携帯を握ったまま、しばらく動かなかった。

昨年。

凛の頭に、数日前の食卓が浮かぶ。
「最近、残業が多いのよね」
母がそう言った。
父は少し考えてから答えた。
「そうだな。システムの整理をしていてな」
凛はそれを疑わなかった。そういうものだと思っていた。

そのとき、処置室の扉が開いた。
看護師が顔を出す。
「朝倉さん、お待たせいたしました。」
凛は顔を上げる。
「はい」
「もう少ししたら先生が説明します。お父様とはご連絡つきましたか?」
凛は黙ったままうつむいていた。
携帯を握ったまま、言葉が出なかった。

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中空蘭鋳

なみせんを もがき ふけることは
およげない たましいの あぶくたちの
うまれたら いいのだろうと きりのない
もやのなか で あって しまったことです。

えらく傷ついた古鯨の少しの命を垣間見て かわのそこにうたう 地に這う砂礫の、一粒にひとり。あの世から座礁した人間の、便りない夢が光る。海岸線に 犇めく波の花 それもまた 解けてしまう先行きの 愚かな 暖かな逝きでした。 届かない天に思いをそらし、一噴きに翔ける ただのちしお。 多量に打ち上げた 地上のいのちを ひとのみにする、開眼船上に夢を たゆたえ 褪せていく こと。夜明けの残骸が、私。 底に横たわるともう 海はかれて無く、溢れいく。そのうちがわ 僅かな息吹が 時を戻す、祈りが風と 戦い逝っても 底に天天が転じるよう 黒い円らのプラットフォームと番い、添い寝する いつだって 傍の影の躰で 言ってしまう未来。いつかの、深き森の、始祖の泉にのみこまれるときわたしは、わたしじしんを、特異に恥ることは ないのだけれど

嘘ばかり抜け殻に残って、記憶が縫い付ける世界 星界のしらべ
呑み込めない整を求めてあえぐ、綺羅星の葬列
あれは、中空蘭鋳の群れ。
破裂した頭蓋を重たそうに模せる
狂った陽時計の翳をも停めて
チの つながらない、あなたの子 産みの底は
いつか、必ずや。地獄に還ります
終焉の来ない夕暮れに追い縋る緑児たちの夢を
永遠に閉じ込めている様々な彩りを持って
輝かせゆく シリウスを捜して欲しいのです

焼け爛れた星辰を。
ひとつだけ ひと つまみ、のみこんでいった
死の棘が、誰の目にも
くるおしく、顔を背けて、にじりよってくる

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ぶつかりたい

幸せを願われるほど、苦しんだ過去がない。 
不幸を嘆くほど、傷ついた過去がない。
苦楽がないので、寄り添えるものがない。

私はぶつかりたい。 

雑踏を嫌い、
物音ひとつに怯える私は、
ぶつかりたいのだ。 

通勤ラッシュの駅、 
祝日の繁華街、
人混みは、 
ぶつからないように、
流れていく、
私を避けていく人々と、
私はぶつかりたい。

旅行者の引っ張るキャリーバッグ、 
先を急ぐサラリーマンのカバン、
仲良く手を繋ぐカップル、 

ぶつかれば、
私はみんなと繋がれる気がしていた。 

帰りの駅のホーム 
電車到着前のアナウンスを聴きながら 
私は夕陽を見ていた。



   陽光 
                                影 
色 
                光の屈折 
                                     音 
                      声
          息 
    雨 
       ふ
           り 
               傘 
                                        虹 
          風 

              みんな私と
                         ぶつかって 

みんな私と
                  繋がって 

         ぶつかりながら、私は

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ある日ネコが美少女に変化したら

 ネコのミャオが、ある日、美少女になっていた。
 ミャオが、この夏、美少女になっているなんて、思いもしなかった。
「ミャオ?」
「ハイ!」
「君、ミャオだよね?」
「ハイ、ご主人様」
 なぜ、ネコが美少女に?
「ミャオ、どうして、そんな姿に」
「ご主人様とお話ししたくて」
「お話し……」
 理由なんて、ほんとはどうでも良かった。美少女、こんな彼女(ネコ耳がある)を欲しかった。
 ネコのミャオ、いや、レイ、としよう。レイと、喫茶店へ行った。
「ご主人様?」
「ん、なんだ」
「ここのケーキ、おいしい」
「だから、その、ご主人様っていうのやめろって」
「……」
 黙るのかい(笑)
 レイの胸を見つめていたら――。
「どこ見てるんですか(怒)」
と怒られる。
おいしそうに、紅茶を飲むレイに、息をのんだ。
「おまえ、つい最近まで、ネコだったんだよな」
「へ?」
 アホ顔(笑)。いや、ネコだったことを忘れている。
 それはそれで、僕は寂しくなった。
 僕らは、喫茶店を出た。
「ご主人様、どこへ行きますか?」
「家帰ろうよ」
 夕暮れどき、コイツ(ミャオ)にご飯を作らなきゃいけない。
 かわいい子猫ネコちゃん••••••。
(二話へつづく)

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楽園に行く。

こんにちは。鬱病女です。なんと鬱病な私が!旅行に行きました。母に同伴してもらい、飛行機も列車も乗れました。母がいなかったらきっと行けなかったでしょう。母、本当にありがとうございます……。感謝…………

旅行はとても楽しかったです。今回は母協力の元、連れて行ってもらうことに成功しました。

特急列車に乗っている時のワクワクは、子供の頃のきらめきを連想させるようなものでした。特急列車で歩くたび揺れが私を包み込みました。ホテルは狭いけれど、知らない場所で眠ることは私に非日常な感覚を届けてくれました。

私は毎日布団の中に引きこもり泣いています。ですが、旅行中はなんだかそんな私が嘘みたいでした。すっぴんにワンピースでスキップをして、カンカン帽を被って見たり、新しくピアスを買ってつけてみたり、募金をしてみたり、猫を追いかけてみたり、神社で参拝をしてみたり……。時間は嘘つきのように過ぎていきました。見知らぬ果ての古き土地はなんだか全てのものが煌めいてみえました。

私は東京に帰って、自分の部屋に荷物を置き布団に潜り込むでしょう。そのときの私が泣いているかは、分かりません。自傷行為をしているかもしれません。でも私は私に忘れないでと言いたいです。あなたは旅行をして、見ず知らずの土地で楽しみ、生きることに希望を見出したのだと。あなたは少しでも、あなたは楽園で生きたひとなのです。

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キスで起こして

最近は夢と現実の区別がつかず困っています。私は不眠症です。薬物治療中ですがもう2ヶ月も熟睡できていません。睡眠薬を飲み寝ても悪夢を見て飛び起き寝汗で脱水症状になり動けず苦しい気持ちになるしかないのが、悔しいのです。毎日深夜に起きてしまい、全く眠れず結局朝から夕方までもまたちまちまと眠るのです。一日に沢山運動して身体を疲弊させても脳はギンギンに覚醒していて、寝ても疲れはとれず疲労が増すだけなのでした。

ここって本当に現実なんですか?それって証明できますか?本当は現実なんかなくて、全部夢で、死んだら私は目覚めることができますか?ここが夢なら何してもいいですよね、いっぱいご飯を食べたり 人を殺してみたり 自分を殺してみたり。
リストカットをすると正気に戻れるし、不安もなくなります。ですが周りの人達に心配されると面倒です。どうしたら私は正気に戻れるのでしょうか。お風呂に入って入浴剤の香りを嗅ぎました。なんだか鼻がおかしくなりそうでした。ここって本当に現実なんですか?ほんとうに、ほんとうに、ほんとうにここはどこなの?今私が狂い始めているのは、現実なの?樹海に彷徨ってしまった気分で私はお風呂の中に全身を沈みこみました。暖かくて、誰かのお腹の中みたいです。息ができなくなったのでお風呂から出ました。現実とは、息ができたとて…。このあと布団に入り私は悪夢と戦いにいくのです。私だけが苦しんでいる。悪夢は毎日私を待ち構えている。神様なんていない。このふざけた悪夢を断ち切るためにまずは、自分の腕を切るのでした。王子様がいたら、キスで起こしてくれるんだろうなぁ。

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考察  浦島太郎


浦島太郎と乙姫様の物語には数々のバージョンがあるが、どうも乙姫様が拘束キツめのヤンデレな女の子(または怪異)であったことと、龍宮城がキャバレーやクラブみたいな非日常空間または異界であったことは察せられるように思う。
漁師であった浦島家の太郎君が地上で亀なり乙姫様なりと出逢って会話し、龍宮へと旅立つまでは数時間から数日ぐらい、龍宮城に滞在した時間は太郎時間で3年程度。それが地上時間ではたぶん700年ぐらいのようだから、怪異である亀や乙姫様にたらし込まれた時点で、太郎君(出逢った当時22、3歳のようだ)の人間としての命は終わっていたとみるべきなのだろう。

現代でも高級クラブに3年も居続けたら、ただごとで済むわけがないが、太郎君の場合、怪異なんかに惚れるからいけないのである。だが、浦島太郎伝説を童話に改作した巌谷小波を含めて、この物語の伝承者や改変者はその点では太郎の非を責めない。むしろ古伝では乙姫様作や太郎作とする和歌なんかを添えたりして、太郎君のたらし込まれぶりは称えている。
これはポニョに惚れた宗介を、宮崎駿も宗介のママも責めないのと似ている。仕方ないというか、この手の色男とはそういうものなのだろう。宗介ママがポニョを毛嫌いせず、ラーメンなどを食べさせてあげたように、誰もヤンデレ乙姫様のヤバさは批判しない。しないのがお約束なのだろう。
龍宮城も批判されない。あれはどう見てもアダルトなコンセプトとわかってて遊ぶ、しかも色恋営業アリの岡場所である。ときには家族を巻き込んで破滅する男がいるのは誰もが承知だが、存在させないわけにいかないと皆が納得している。警察だか天帝だか知らないが、為政者も龍宮城を取り締まって営業を禁じるわけにいかないのであろう。

ところが明治時代の改作者の巌谷小波は、浦島太郎が玉手箱を開けたことを理由に、彼だけを厳しく罰して教訓としてしまうのである。今で言えば極端な買春処罰法である。
なぜ後の世までその改作が受け入れられたのか、奇妙ではある。浦島太郎をそんなに責めるのは、間違ってないだろうか?と思う。

確かに怪異と約束したら守らねばならない。小泉八雲が伝える物語では、雪女ちゃんの夫も同様の罪を犯し、その罰として幸せな家庭を破綻させられて、10人の子どもを男手一つで育てねばならなくなる。だがその程度だ。自分も掟破りの罰で存在消去されたかも知れない雪女ちゃんの愛とはからいで、ミノ吉君は死を免れる。
常なら浦島太郎も乙姫様との約束がある以上、玉手箱を開けたくはなかっただろう。玉手箱を開けたのは、こんなの開けるとロクなことはないと薄々気づきつつも、ヤケになって開けたのであろう、と思われる。ヤケにもなる。玉手箱を開けずに第二の人生を始めようとしても、700年の出遅れはなかなか辛い。浦島伝説はもとは稲作開始前後の古伝と思われるが、古代なら、浦島太郎が知らない間に稲作文化が始まっちゃうぐらいの時間だ。
玉手箱を開けるとたちまちに歳をとったという巌谷小波バージョンで解するなら、これは乙姫様の悪意、むしろ殺意が感じられる。殺意なら、毒殺の比喩のようにも思われる。だが乙姫はそこまでヤバイ女なのか?

浦島が異世界人との約束を破ったのが悪いにしろ、3年は夫婦となって相思相愛であった以上は、一時の里帰りをしたいと言ったぐらいで、殺すほど憎むのはヤンデレ女子にしても歪みすぎてる。
よって私は巌谷改作を廃して、いくつかの古伝、解釈、学説、冗談を参照の上、以下のシン・浦島伝説を信じたい。



月は円盤ではなく円筒を一方から見た形をしており、異世界へのトンネルの入り口である、と考える。一部の古代人はそう考えただろう。
浦島太郎は水平線と満月が接続する日と時間に、異なる宇宙へと続く月トンネルへと入り、その向こう側にある龍宮城へと向かった。海中へ行ったわけではないから、亀に乗ったわけではなく、迎えに来た乙姫と一緒に船に乗って行ったのだろう。そのほうが巌谷改作の前の室町〜江戸時代の伝に近い。
浦島と乙姫は何かの偶然で出会い、恋におちた。出逢いは漁師の浦島が亀に化身した乙姫を捕獲したことだと古伝に伝わるが、それもあり得ただろう。乙姫は異宇宙から来た異世界人であるから、地球の病原生物を警戒して宇宙服を着ていたと思われる。鉄器をやっと作り始めた古代人の太郎には亀に化身してると見えたのではあるまいか。
数日後に乙姫は浦島太郎を船で龍宮へ連れ帰ったと古伝ではされている。だが宇宙人に拉致されたにしては、浦島は楽しみすぎだから、おそらく恋愛によることなのだろう。
浦島太郎は3年間、帰ろうとしなかったという。これは巌谷に責められても仕方ない罪で、当時浦島は年老いた母を養っていた。3年飢えさせれば死亡していた可能性が高い。浦島太郎自身、異世界に行っても何らかの存在として、存在はしていただろうが、乙姫が数日しか地球にはいられなかった事を思うと、人間の身体としては、異世界では3年などとても持たずに死亡しただろうと思う。
これには「星の王子様」の物語りも支えの一つとなる。人間は地球から異世界に移動するには身体を置いてゆく必要がある、と、かの物語では設定されるが、多くの異世界アニメもそれを踏襲しており、そこには強固な集合的無意識が作用している。
生きていたにしろ死んでいたにしろ、3年後、浦島太郎は悔いて帰郷する。人としてなら罪は罪だが、浦島太郎をたらしこんだ張本人の乙姫や龍宮の皆さんに責められるいわれはない。
古伝では帰郷した浦島には家族親族の墓所もわからぬ様に絶望はあるものの、玉手箱を開けると鶴に変化し、人間時間では永遠に相当する長寿となる。そして乙姫の元へ戻って神格化し、後生を愉しんだ。
地球ではそれを寿ぎ、浦島太郎は乙姫とともに、今も実在する社に祀られている。ひとまずこの説を、シン浦島太郎としよう。

介護より恋を選べば、人の世で罪とされるのはやむを得ない。だがそれでも恋を選んだ者が、火くぐりを課せられたあと幸せになるのなら、それは寿ぐべし。という教訓であろうか。

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批評・論考

死にたい熱を帯びている耐熱容器

鬱も辛いし不眠もつらい。夜に涙が出てきて寝ても起きてしまって悪夢は怖くて涙も汗も止まらなくていつのまにか布団は冷たくなってて鬱が加速する。幻聴も止まないし寝るのが辛い。ああ鬱なんだな。不幸だな。不幸なの…かな…。私が不幸だと思い込んでるだけで3食ご飯を食べれて屋根のある場所で雨風を凌いで寝れるだけで本当は幸せなんじゃないのかなって思う。それだけで本当は幸せなのに、本当の幸せを求めて不幸になって、なんだか自分が愚かに見えてきた。

結局自分のことを好きになれないから、私は一生このままなんだと思う。傷つけたくないからとか、本音を隠して大人ぶっているけど、本当は自分が傷つきたくないだけでずっと逃げて生きていた。月日が経っても消えない苦しみを抱えながら私だけいつまでも過去に囚われてこれからも生きていくんだろう。

ずっと嘘をついて生きてきた。裏切り者だった。自分が生き延びたいからと嘘をついてきた。居場所が欲しかった。嫌われたくなかった。ちゃんとした人間でいたいと思えば思うほど、自分の現状が気持ち悪くて吐きそうになる。

ずっと暴言を浴びさせられて過去の記憶がフラッシュバックするこの狂ってる世界で自傷しないで生きてるほうが狂ってる。ずっと誰かに見られている気がする。本当は誰も私の事なんて1度も見てくれたことはないのに。泣いても何もならないのに夜になると涙が浮かんで来る。産んでよかったと思える子供になりたかった。暴飲暴食はやめられない。リストカットもodもやめられない。部屋も片付けられず体も洗えない。 今日も今日とて鬱病。この文章を書くこと自体、一種の自傷行為なのかもしれない。熱い。熱いな。不幸だな。もう嫌なんだ。

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準備室の煙

理科の実験の準備室
テーブルの上には缶ピース
紫煙天井に向かってゆらゆらと
背中がおいしいというように

夏はランニングシャツ
渡り廊下でなびいた白衣だけ
授業の挨拶はなし
チャイムが鳴るとさっさと出ていった

迷惑にならないいたずらで
正座させられていた僕たちを
笑いながら通り過ぎた

言葉の揚げ足を取ると
怒らず褒めて
笑いを膨らませた

説教中に
トイレへ行きたいと手が上がる
笑って
もう終わりだと背中を向けた

どんなに小さくても
嘘やごまかしは
だれでも平手が飛んだ

グレてた同級生のリーゼント
毎朝掴んで怒鳴っていた

愛車を大事に乗っていた
愛妻弁当を自慢する
おかずをこぼしたシミのあと
白衣はたばこ臭かった

卒業式には
ネクタイ締めて
校門で生徒に囲まれて
ひとりひとりに
がんばれと
握手にすべて応えてた

きっとひとりになったとき
腫れた手に缶ピース
たばこを吸いながら
ネクタイ緩めていただろう

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詩は小さいが好き(詩はあるくXXII)

昨日より、月が細くなった
昨日より、水がぬるくなった

昨日より、朝日が深く差し込んだ
昨日より、食卓が明るくなった

今日は、カーテンが眩しい
今日は、春色のシャツを選ぼう

詩は、新芽をつついている
詩は、何か虫を見つけた

夜半から、雨らしい
傘を、いれとく

詩も、準備は出来た
四月始まりの手帳に替えて


行ってきます。

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AI創作の最前線 海外ガチ勢の動向

はじめに


2025年から2026年にかけて、英語圏を中心としたAI創作の現場では、単一のプロンプトで文章を生成する「対話型AI」の時代が終わり、複数のエージェントを制御する「システム設計」のフェーズへと完全に移行しました。

かつて魔法の呪文のようにもてはやされたプロンプトエンジニアリングは、今やシステムの最小構成要素に過ぎません。現在の最前線は、複数のAIを指揮するオーケストレーションや、文脈を管理するエンジニアリングへと集約されています。

この変化の背景には、100万文字を超えるような長編小説のAI出力において、物語の一貫性を保てないという大きな課題がありました。従来のモデルでは、物語の途中で設定を忘れてしまう現象や、出力がどこかで見たような平均的な表現(AIスロップ)に収束してしまう問題が避けられませんでした。

これに対し、現在の高度な創作者たちは、AIを単なる執筆助手ではなく、物語の世界そのものを演算するシミュレーターとして定義し直しています。

具体的な事例として、Shawn Knight氏による「Infinite Weave」が挙げられます。これは、ビジネス的な試みであるのですが、創作に例えるなら、AIに物理法則や宗教的タブーといった初期条件を与え、数千年単位の歴史を再帰的にシミュレーションさせることで、非常に厚みのある世界設定を構築するといった試みです。

また、プロ作家集団のFuture Fiction Academy(FFA)は、NovelCrafterなどのツールをハブにして、Claude 4.5やGPT-5といった複数の最新生成AIモデルを「プロット担当」や「描写担当」として使い分けることで、高度な長編創作を実現しています。


2026海外AI創作ガチ勢最前線


現在の主流は「Writer's Room(作家の分科会)」と呼ばれるワークフローです。これは一つのAIがすべてを書くのではなく、システム内に「プロット設計者」「文体修正者」「論理批評家」「設定考証者」といったエージェントAIの集団を構築し、それらが相互にフィードバックを繰り返す手法です。

例えば、執筆担当AIが書いた初稿に対し、批評担当AIが「伏線の不整合」を指摘し、修正を要求するというループが自動で行われます。

エージェントAI同士が「無難な結論」に落ち着くのを防ぐために、あえて対立させる技術も使われています。執筆担当AIには「キャラクターを生き延びさせたい」という目的を、批評担当AIには「物語を悲劇的にしたい」という目的をそれぞれ与えることで、生成プロセスに意図的な緊張感を生じさせるのです。
さらには。特定の文体を維持するために、物理的な感覚や「皮膚の質感」といった環境変数を意識させることで、読者の身体性に訴えかける描写を追求する方法も、近年のトレンドです。

技術的な側面では、これまでの単純な検索技術に代わり、人間関係や事実を網の目のように構造化して保持する「GraphRAG」が導入されました。これにより、何百ページも前の些細な伏線を「論理的な経路」として再発見し、現在の描写に反映させることが可能になっています。

さらに、キャラクターに「信念」や「欲望」を定義して物語を創発させる「エージェントベース・ナラティブ(ABN)」の実践も始まっています。例えばシェイクスピアの『オセロ』を再現する場合、登場人物に特定の意図を与えてシミュレーションさせることで、作者の意図を超えた動きを引き出します。


エージェントベース・ナラティブの実践


では実際に、シェイクスピアの『オセロ』を、どのようにAIを使用して再現するのか具体的なプロセスを掘り下げていきましょう。海外のガチ勢が使っている方法です。

第一に、海外ガチ勢はAIに物語の台本をそのまま書かせるのではなく、登場人物一人ひとりに「心」の仕組みを組み込んでいます。具体的には、そのキャラクターが何を信じ(Beliefs)、何を望み(Desires)、そのために何をしようとしているか(Intentions)という、BDIモデルと呼ばれる設計図を与えます。

そして、悪役であるイアーゴというエージェントAIには、「オセロの精神を徹底的に破壊する」という非常に強い意図を設定し、たの登場人物もエージェント化して、シュミレーションを開始します。興味深いのは、AIがこの目的を達成するために、周囲のキャラクターの心理状態を自律的に推論し始めたことです。

例えば、イアーゴは「オセロは妻デズデモーナを深く愛しているが、それゆえに嫉妬に弱い」という情報を信じています。同時に、カシオという人物が若くて魅力的であることも認識しています。

AIはこれらの条件を掛け合わせ、シュミレーションをさらに進めると、「カシオとデズデモーナの仲を疑わせるような嘘を、どのタイミングで吹き込めばオセロが最も苦しむか」という、高度な「社会的プランニング」を自分自身で組み立てていきました。

こうなると、人間が「ここでこのセリフを言わせる」と指示を出す必要はありません。AIが演じるイアーゴが、他のキャラクターの心理的な隙を突き、嘘をささやき、状況を操作していく様子がリアルタイムで演算されます。

このような手法の面白さは、物語に「創発(Emergence)」が生まれる点にあります。ときには作者である人間の想像を超えて、イアーゴが予期せぬ冷酷な策略を思いついたり、逆に他のキャラクターがその嘘を見抜いて物語が別の方向に進んだりすることもあります。

単に既存の物語をなぞるのではなく、キャラクターを自律した存在として走らせることで、まるで現実の人間関係のような生々しい緊張感と、予測不可能なドラマが生まれる。これが、2026年におけるAI創作の最も刺激的な領域の一つと言えます。


まとめ


結論として、2026年のAI創作は「文章を書かせる」ことから「物語の環境を設計し、AIに演算させる」ことへと本質的に変化していくのではないでしょうか。

現在、日本の「小説家になろう」といった投稿サイトでは、AI生成による画一的で味気ない作品の氾濫が深刻な問題となっています。それらの多くは多少カスタムしたプロンプトと小規模なデータベースによる、いわば「AIスロップ(質の低い量産物)」そのものであり、読者の期待を裏切るだけでなく、創作コミュニティ全体の活力を削ぐものとして批判の対象となっています。

しかし、今回紹介した海外の最前線の手法は、その安易な利用とは正反対の場所にあります。複数のエージェントを対立させ、矛盾や不協和音をあえて注入し、キャラクターを自律的に走らせるシステム設計は、むしろAI特有の「無難さ」を徹底的に排除するために存在します。

「なろう」で起きているようなテキストの自動量産とは一線を画し、人間の想像を超える生々しいドラマを引き出すための装置なのです。かつては熟練した作家や、TVドラマの脚本家が集団でやっていたような高度なテクニックも、今や個人が気楽に、かつ高解像度で行えるようになりました。AIは決してわるいことばかりではありません。

これからの創作者の役割は、単に文字を埋める作業ではなく、物語世界の論理構造を組み上げ、そこから生まれる予測不能な「人間性」を掬い上げる指揮者(コンダクター)へと進化していくでしょう。

AIを安易な代筆道具として使うのではなく、人間以上に人間らしい文学を追求するための劇場として設計する。この「設計者」としての姿勢、そして指揮者としての総合能力こそが、AI時代の創作において「人間の作家」に求められるのではないでしょうか。

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White Day

爪先から空へ
駆け上がっていく刹那
とめどない酸素に見とれて
あっという間に
瞳から海へ 還る

ただしさだけがからだの外を知らず
その先が当たり前のように
在り続けるのなら
無二の青色はただ、
美しいだけでいられたのだろう。

追い詰められて 記憶は
切羽詰まれずに 現実は
せめて一緒だったら、
淋しくなかったのかもしれない。

あるいは、

想うものすべて
雨上がりの虹のように、
喩えられるなら。

流れる景色は流される生命で
吹き抜ける風は吹かれていく肉声
滔々と 混沌と
緩やかに 穏やかに
たくましく かぐわしく
そしてなによりも等しく
何事も無かったかのように季節は
うつし世へ降り注ごうとしている
それはただしさのなかで蒔いた記憶にまで
残酷なまでに等しく

大寒桜はもうすぐ
きみの視神経の中で咲き誇り
感慨の水際に散りゆくのだろう
そんな願いすら
背理法によって、
切り捨てられていくというのならば。

溢れ出る仮定が
断片としての宇宙をさまよう
答えに詰まるたび
ありふれた色の明かりを灯した
忘れられたように、三月
忘れられない、ただしさのなかから
あの日、解き放たれたもの
(今もどこかで見ていますか)
忘れなくてもいい、と
言ってほしいがために、忘れない
遠い過去の日々、
天道虫のような
仕合せの先端はまだらに赤かった
指と指のあいだから
空高くけぶろうとすれば
一途な涙に吸い込まれ
ゆっくり落ちていく
思い出という、爛漫の中へ

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yuge

魚が好きな母へ
親鳥みたいに
あれこれ運びます
煩わされずに食べられる、と
あなたは平気で言うけれど
タラも海老も
食べなくたっていいんです
そばに猫さえいてくれれば

お椀によそったスープを
見つめていると
ゆらゆらと、なみだちます


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みんなの製品



「これこれ、この間話してたやつです。うちの店に導入したビックリ加工機。
このパネルにね、ざっくりした設定を入力するだけで、丸でも三角でも、色んな製品に加工してくれるんですよ。すごいでしょ?

ただ、機械の精度が安定しなくて、毎回何ミリ何センチとか、角度や色合いに誤差が出ちまうんですよ。なかなかに癖が強い。思い通りに狙った寸法を作るのに、ちょっと時間が掛かっちまうんです。それでも加工速度は今までの機械とは比べものにならないですね。目を見張る仕事量。

うちも長年この仕事に就いてるんですけど、ここまで癖の強い機械を扱うのは初めてです。
メーカーの担当者が言うには、この機械が業界では最新式のモデルなんだとか。世の中には、この機械を並列に繋いで加工させてる店もあるっていうんだから、挑戦者ってのはどの時代にも居るんだなって思いましたよ。

え? 値段? 
それはこの前チラッと話したじゃないですか~。逆立ちしたって買えるような値段じゃないので、ひとまずリースで済ませてます。
物価高で、これからレンタル料も上がるんでしょうね。

この機械の仕組みですか?
内部がどうなってるのかは、私ごときじゃ全然わかりません。小耳に挟んだ話じゃ、とうてい公にはできない物がたくさん入ってるとか、何とか。
メーカーからは、ネジの1本でも分解したら保証の対象外だって脅されていますし。まあ、そういう事なんでしょう。
うちは素材の加工屋です。機械そのものを作ったりはしていませんから。この機械だって借りて使ってるだけですし。
内部の詳しいことを知りたいなら、メーカーに直接問い合わせた方がいいでしょう。

精度は安定しませんが、量だけはしこたま作れます。もし、こういった製品がご入り用になりましたら是非ご検討……え? 購入した製品の修正や手直しですか?
いやぁ……それは、まあ。
頼まれればやりますけど、あまり細かい注文の修正は得意な方じゃないですよ? うちの店はオーダーメイドを謳ってますけど、あくまで工業製品なもので。何となくの流行りで手芸っぽく見せてはいますけど、ほとんどが機械加工です。

この通りに『手作業専門店』って幟を立てている店があるじゃないですか? 
細かな再注文でしたら、そういう店に持ち込んだ方が確実です。うちよりは上手くやってくれるでしょう。
いえいえ、すみませんね。

これ、この機械に作らせた製品のサンプルです。もしよろしければお持ち帰りください。
何かありましたら、お電話いただければ作りますので。ええ、ご贔屓に。よろしくお願いいたします」

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街を発つ

メトロの出口を見上げると
いつも小さな空があり
始まる今日を待っていた

最後の日
小さな雲の白さに映えて
澄んだ青色が笑っていた

この街に
私が刻んだものは僅かでも
この街が
私に刻んだものは大きくて

持ちきれない想いを詰めて
今はただその跡を深く吸う

これからに足元がすくんだ時
心が思い出すように

好きな私を思い出すように


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道端

 いつもの坂道を上がると
 その道端に
 菜の花がある
 そよそよと
 風に吹かれては
 こちらを見て笑う

 煙草を買いに
 ドラッグストアへ
 行く

 その道中にも
 菜の花が
 あった

 途中
 荒れた土地が
 まだ早い春の風に
 泣いている

 五月になれば
 あの菜の花も
 消えゆく命にあるのか

 ふと
 そんなことを
 考えた

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春に歩こう

もう少し
暖かくなったら
膝まである
シャツを着て
袖を
まくり
風に
吹かれて
街を
歩こう


ショーウィンドウの服
   ハンドメイドの出店
ドリンクにキッチンカー
  ポップな看板
 街路樹の木漏れ日
  寄植えの草花
    誰かに見せたい
 わたしの足どり
  少しの変化を
探して歩こう

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模範解答

その時代に生きていた人は
どんな気持ちだったのでしょうか

その問いの答えを私は知っている
私たちは知っている

令和時代に生きていた人は
どんな気持ちだったのでしょうか

網膜に入る刺激
皮膚と空気
広がる世界

くすぐられる鼻腔
揺れる鼓膜
色付く世界

味蕾は信号を変え
未来はつくられ
豊かな世界

その中で私たちは何を感じる
何を感じた

どれも正解

私は模範解答を知っている
私たちは模範解答を知っている

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アスファルト

どこかで転ける
富士の山頂に
夕焼けを掛け
赤く濡れる

濡れたのは私だけ
山頂を眼下に
涙が揺れる   

寸刻が経ち
山頂は沈みかけの夕日に
置いていかれ
赤と黒の間を移動し始めた
もう少し立てば陽を忘れ
黒に包まれるのだろう

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合いカギ

本棚から足に何かが落ちた
鈍い痛みの正体は
カギだった

朝顔が枯れた
返事を欲しがる
ひとり言

背中に
風に乗った言葉が刺さり
目覚めて壁を向いたまま
返す言葉を探した

見つからず
あやすように
ただ抱きしめる

シーソーの下から見上げる
潤んだ目に映るのは
空に描いた幻想

見下ろす僕は
視線を拒んで
目をつむり
飛び降りた

開ける
閉める

合わないカギ
ただの鈍い銀色

だれのものでもない朝顔
だれかの手で捨てられた

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大きな紅葉の木の下で

この舞華町には、大きな大きな紅葉の木がある。その大きさは、街の空を全て覆ってしまうほどだ。だが夏は葉が暑さを和らげ、冬は日光を通して寒さを和らげるため、人々の生活に欠かせないものだった。

そんな紅葉の木の葉が赤くなり始めた頃に、父の危篤の知らせが届いた。
慌てて駆けつけた病室内には、ベッドに横たわる父の姿があった。父に必死に話しかけても、反応はない。もう時間の問題なのだと悟った。
その後ゾロゾロと親族が集まり、皆父のことを見つめていた。
そして、ついにその時が来てしまった。
だんだん生気を失っていく父。頰が黒い粒に変わって、ボロボロと崩れ落ちる。それに続いて、腕や足、肩、太もも、お腹も黒い粒に変わり、崩れ落ちる。その黒い粒は砂のようにサラサラしており、きっと手で掬い上げてもすぐに落ちてしまうだろう。
やがて、父の髪も顔もからだ全て、黒い粒となった。

──父は肥料になってこの世を去ったのだ。

そう思ったが、すぐにその考えを否定した。

──紅葉の木の一部になっても、父は生きているのだ、と。

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推薦文 後悔と自滅

ここはどこでしょう
私はだれでしょう

冬の風は鼓膜を破らんばかりに刺激を与える

右耳が籠って聴こえない

ぴーぴー

梅があららこちらにぽこぽこと花をつけている
まるでこちらに私をご覧なさい、美しいでしょう、と問いかけてきてきる

桃色の花を横目で見る

何も思わない
何も思わない

枯れた

ぴーぴー

煙草も飽きてしまった
娯楽が何もできない
ベッドに縛り付けられているみたいだ

何もできない
何もできない!

自己嫌悪

ぴーぴー

朝の月は薄く、それでも存在感が漂う
夜の月は爛々と私を照らし目を焼く
月は私の元に落ちてくるのだろうか
いや、落ちて欲しい

月はこちらを見向きもしない
こちらを見ているのに、裏側を見せてくれない

寒いでしょう

ぴーぴー

このまま叶わぬのなら土になりたい
私だって役に立ちたい

花を植える
そのまま枯れてしまいたい

ぴーぴー

カラカラ
カーカー
ちゅんちゅん

どこかで鳥が囁いている
目は、耳はまだ機能している

晴間にお天道様がいらっしゃる

雪は降っていないのに
凍えそうなほど目の前は白く震えている

微睡の中で暗闇を模索
鳥の音が聞こえる
まだほんの少し聴こえている

運命に逆らえず、欲は途絶えない

ぴーぴー

こちらはどちらでしょう
耳の不具合か鳥の鳴き声か

ここはどこでしょう
私はだれでしょう
手のひらは透けて見えます
目の不具合か

薬指がどうしようもなく痛いのです
ナイフで切り落としてしまいたい

じりっ

凪いだ海の中へ左足からすっと踏み締める
夕焼けが真っ赤に燃えて美しい
海に反射する夕日がとても、とても私には似合わなかった

最後に見た鏡の中の私の顔は死人のようだった

諦め

巨峰色の坊主
元は5つの皿に花弁を隠し
手の甲で拍手をしながら私をに呼びつける
根を飲み込み
酒で流す

栄光!

私は罪人
私は罪人!

自滅を願う  

ぽろぽろ
涙は海に還っていった

全て途絶える

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掌編『言葉を喰らう』

その図書館には、奇妙な噂があった。中庭に植えられた花々が風に揺れ、木々は葉を擦り合わせてカサカサと音を立てていた。噂というのは他でもないこの中庭についてであった。図書館は中庭をぐるりと囲う形の三階建てで、一階が児童書、二階が一般図書、三階が書庫と自習室という造りだ。中庭に面した壁はガラス張りになっていて、閲覧用の座席が置かれ季節の花を楽しみながら読書ができる仕組みだ。
中庭に纏わる噂とは、実はこの中庭にだけ生息する食虫植物が植えられている。閉館後にトリモチ型の葉をつけた植物がニョキニョキと顔を出し、食っているらしいのだ。食虫植物と言っても、全部が全部昆虫を食べるわけではない。植物を食うものもいれば、昆虫以外を狙う者もいる。中庭に生息する食虫植物は言葉を食らう。言葉というのは人間が考え出したものだと思うかもしれないが、言葉は人間より先に存在していた。その証拠にシジュウカラは鳴き声で高度なコミュニケーションを取っているし、イルカが言葉を使っているなんで説もある。もっとも、人間は言葉を使っているようで、言葉によって家畜化されている。だから、人間は言葉につまったり、言葉にできない状況に陥ると何も出来なくなる。言語化にこれほどまでに縛られている生き物が他にいるだろうか。言葉から人類は解放されるべきではないのか。そのためにこの中庭には特別な食虫植物が植えられている。
 「何見てんの?」と肩を叩かれた。 「え、」
 知代だった。知代は長く伸びた黒髪を耳にかけると私の隣に座った。
 「なんだちよか」
 「何でとはなんだ」
 「だって、何も面白くない」 
「さつきちゃんがいつも退屈そうだから話しかけてるのになぁ。まったく」と知代は私の顔をのぞきこんだ。私は咄嗟に顔を伏せる。 
「退屈そうとはなんだ」 
「退屈そうは退屈そうだよ」 
「そういうちよだって退屈だからここに来たんでしょ?」
 「ま、そうだけど」知代は私の読んでいた本をひったくると「どれどれ」と読み始めた。 
「『言語にとって美とはなにか』か。また小難しそうなの読んじゃってさ。面白いのこれ?」
 「これか。これはさっぱりわからなかった」 
「わからないんじゃん」と言って知代は声を出して笑った。その瞬間、館内の視線が集まったのを感じてこらっ!とジェスチャーで窘める。知代はわざとらしく舌を出してごめんと言った。その仕草のわざとらしいこと。令和の女子高生で舌を出して謝る仕草をするのは知代くらいではないか。 「行くよ」と言って私は立ち上がる。 
「どこに?」と急いでついてくる知代。どこへ行くか決めていなかった私。とりあえず図書館から出る。
 「あーあ、せっかくの読書タイムをちよごときに奪われるなんて。どうせならイケメンにナンパされたかったわ」そう言いながら、私は知代の肩を小突く。やったな!と言って知代も私の脇腹を人差し指で突いてくる。しばらく小突き合いをしながら、私たちは歩いた。 図書館の向かいにある公園のベンチに腰掛け私たちは空を眺めた。広い空。今日は五月にしては肌寒く、晴れてはいたが、朝から風が強かった。知代は髪が風になびいて鬱陶しそうだった。 
「さつきちゃん、お腹空いた」と知代が言った。そう言われれば私もお腹が空いた。携帯で時間を確認すると正午過ぎだった。私は九時半の開館からずっと図書館で物思いにふけっていたが、知代はいつから図書館にいたのだろうか。私はいいとして知代は学校に行かなくていいのだろうか。
 「そういえば、ちよあんた学校は?」
 「サボった」
 「不良め」
 「えへへ、ありがとう」
 「ほめてない」 
 「そっか」
 「うん」
 「さつきちゃんがいないと何だかやる気出ないんだよねー」
 「私のせいにするな。駅前のサイゼでいい?」 
「サイゼいいね!行こ。お腹ぺこぺこ」と知代は言うが早いかすっくと立ち上がってさっさと駅へと歩き始めた。まったく、といいながら私も立ち上がる。

 食虫植物というのは湿原などの水と適度な日光があるものの低栄養の場所で生き残るために捕虫という手段を編み出した植物だ。では、中庭にいるとされる言葉を食らう食虫植物は言葉から何を得ているか。手入れの行き届いた中庭は低栄養なわけではなく、陽当たりもよく、捕虫をする必要がない。だから、生存戦略ではないのだ。言葉を食らうのは遊戯にすぎない。言葉を捕まえ分解、吸収したところで得るものは当然ない。
言葉は夜行性であることは意外と知られていない。人間が眠りについた時に、言葉が何をしているか誰も観測できないからだ。だが、私は知っている。夜になると、言葉が文字を纏ってヒラヒラと羽搏いている姿が私には見える。本当はみんな見えているはずなのに、意識に昇らないから見えないのだと私は思っている。言葉を食らう植物はトリモチ型の葉で言葉を捕まえる。言葉が葉に集まるようにトリモチの部分を拡大すると細かい文字のようなものが描かれている。
 さて、そんな食虫植物を図書館で育てる意味とは何か。それは言葉の氾濫を防ぐための実験ではないかと言われている。もともと言葉は至るところにいたが、有史以来人類が吐き出してきた言葉は膨大な量になる。傍から見たらこの星は言葉に覆い尽くされているだろう。ラジオが発明されてから、人類は電波に乗せて宇宙空間にも言葉を放出している。言葉なんて目に見えないからいいじゃないかと言う人もいるかもしれないが、見えるものの身にもなってもらいたい。暗闇に浮かぶ文字文字文字。そんな文字に支配された空間を宇宙規模にするわけにはいかない。そこで作られたのがこの食虫植物というわけだ。
 「ね、辛味チキン一緒に食べない?」と知代が勝手に注文用紙を書いている。
 「やだ、手がベトベトする」 
「いいじゃん、ピザも頼むし」 
「パスタとドリアも書いてなかった?どんだけ食べるつもり?」
 「二人だから大丈夫!」
 「そういう問題かね」
 「そういう問題なの」 はあ、とため息をつきながら、私はサイゼリヤ恒例のまちがいさがしをしていた。あと二個の間違いが見つからない。いつもそうだ。 間違いが十個あるということ自体が間違いというオチなのでは?と思いたくなる。 
「ねえ、さつきちゃん」
 「なに?」 
「どうして学校やめたの?」
 「それいまきく?」
 「逆にいつ訊くのよ」と知代は笑った。私もつられて笑った。私には見えなかった。未来が。でも、そんなこと知代に言ったところで、どうにもならない。 
「当ててあげようか?」
 「え?」 
「諦めちゃったんでしょ?」
 「そんなことないよ」咄嗟に否定したものの、本当にそうだろうか?と自問していた。
 「何もかも意味なんてないって思って諦めちゃったんだよね?」
 「そんなことないって!」思わず声が大きくなった。知代に私の何がわかるの?と思ったけれど言わなかった。言葉に救われたかった私の気持ちが知代にわかるはずなんてない。
 「私、さつきちゃんが何考えてるか何もわかんない。けどね、私にはさつきちゃんが見えるよ」
「は?人を幽霊みたいに」 そこへすっと辛味チキンがテーブルに置かれる。店員がそそくさと立ち去る。私たちは無言で食べた。手が汚れるから嫌だと言ったのに私は辛味チキンに齧り付いていた。
 「バカみたい」と私は言った。唐突に泣きたくなった。知代の前でなら泣いてもいい気がした。
 「バカじゃないよ、さつきちゃん」 
「バカだよ、ごめん。私バカだよ。ごめんねちよ」私はバカだった。何も見えていなかったんだ。言葉なんてわすれられたらよかったのに。言葉にせずにはいられないことばかりあった。
 「私、ホントは」と言いかけて私は言葉に詰まった。知代は運ばれてきたピザをキレイに切り分けていた。 それから私は何も言えなかった。知代も何も言わなかった。私はしゃくりあげて泣いていた。涙で知代が見えない。

 その図書館には、奇妙な噂があった。中庭に言葉を食らう食虫植物を育てているという噂。この噂はどこから来たのかいつ頃から流れた噂なのか、はっきりとしたことを私は知らない。知る必要もないだろう。 私は今日も開館から図書館にいた。知代は今日サボらずに学校にいることだろう。知代は私に見せたかったのかもしれない。本当に私が見たいと思っていたものを。でも、私には何にも見えていない。まだ言葉を恐れている。それでも見たいと思う。未来を。これからのこと、これまでのこと。すべてを受け止められるようになったなら、私にも見えるだろうか。知代が。
 その食虫植物は夜になると葉を伸ばす。言葉たちを巧みにおびき寄せる。捕まえ、分解し吸収する。そして、また別の言葉を吐き出すのかもしれない。そう思った。だから、私も喰らおう言葉を。

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真夜中の会議は踊る(悩み多き感情たちの詩 ケース3)


ある日の真夜中のことでした 
感情たちが一同集まって
涙は一体誰のものかという議論になりました



開口一番に手を挙げた悲しみちゃん 
そんなの私のものに決まってるじゃない

すると横から淋しがり屋くんがすかさず手を挙げて 
いやいや ボクのものに決まってるじゃないかと 

わたしのものよとツライちゃん
ボクのものだと苦しみくん

もしも涙が他の誰かのものだったら
この先どうやって生きていったらいいのかわからないと
嘆きはじめる不安がりちゃん 

あたしなんか シアワセすぎて
泣いちゃうことよくあるから
絶対あたしのもの
譲れないわと ハッピーちゃん 



誰もがこぞって自分のものだと云って譲りません 



突然 怒りんぼくんが
思いっきしテーブルを叩いて怒りだしました 

みんなの主張は解らなくはない
悲しみちゃんにしても淋しがり屋くんにしても
ツライちゃんにしても苦しみくんしても
不安がりちゃんしたって
涙はクスリみたいなもので
なくてはならない必要なものだってのはよく解る

けどさ ハッピーちゃんまでもが
自分のものだって主張するのは
なんかちょっと違くないか?

ハッピーちゃんなんて
みんなが持ってないもの
欲しくって欲しくって
それでも手にできないもの
いっぱい持ってるじゃないか
持ってるじゃないか

ほら そのふわふわっとやらかく笑うその笑顔
ハッピーちゃんはそれでみんなをシアワセに出来るんだ
素晴らしいじゃないか
それ以上の一体なにが欲しいっていうんだ
よくばりすぎる
ズルいよ不公平だよ 
と 



そばでずっと黙って聞いていたやさしさちゃん
静かにそっと割って入ります

まぁまぁ 怒りんぼくん落ちついて
誰かひとりのものって決めるんじゃなくさ
必要なひとに 必要な分を分けるってのはどうかな

知ってた?
あたしたちがいま住まってるこの躰って
ほぼ水分で出来てるらしいって話

だからさ 少なくても
涸れてなくなるなんて心配はないと思うの

足りなくなったらまた
すぐ補給すればいいんだもの

それでももし足りないときは
私の分の涙 分けてあげる



だから ね 
そうしよ




デジタル電波時計の数字が
ちょうどAM3:33を示していました


333でサンキューってことで
誰かが云って みんな噴き出して笑いました




話してたらなんかノド渇かない?
今からそこのLAWSONで
なにか飲み物でも買ってこようよ


ポカリかアクエリがいいかなやっぱり
涙とほぼ成分一緒だし 


だったら私
ほっとレモンが飲みたい


じゃあボクは 
みっくちゅじゅーちゅかなぁ





……やれやれ








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漆は剥げても生地は剥げぬ


どんなに綺麗に着飾ってみたって
どんなにうまく取り繕ってみせたって


人間の根源的で根本的な本質は
着飾れやしないし
取り繕えもしない



綺麗な漆の塗装が剥げ落ちたあとの
剥き出しになった姿こそ



本当のわたし
本当のあなた





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飴玉

飴玉コロコロコロロロリ
何に押され転がる飴玉は

飴玉コロコロコロロロリ
何が追うやら飴玉を

飴玉コロコロコロロロリ
何を見付け止まる飴玉よ

飴玉コロコロコロロロリ
あの子の膨らむホッペから

飴玉コロコロコロロロリ
こぼれる笑顔が甘くて眩しいね

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坂下の図書室までの旅

春はまだ
だが冬はようやく過ぎて
そしてあかるさは増しつつ
あちらこちらから雪融けの水の音が聞こえて

手袋やらゴミ袋やら犬の落とし物やら
冬の残した遺留物の現れ始めた、ちょっと
生臭い匂いもする坂道を私は下ってゆく
有島さんに関する本を紙袋に入れて

公園の樹々からのカラス共の鳴き声も
食べ物を探して広場を歩くハト達の身ごなしも
うす曇りの空に凧のように浮かんでいるトンビの姿も
どこかいくぶんの安堵を感じさせ

訪ねて来る者もなく
何処へゆく場所もない私は二週に一度
坂の底にある図書室までを歩き
十冊ほどの本を袋にまた陋屋へと戻る

有島さんはなぜ死んでしまったのか?
ぶらさがった二つのカラダが私の頭から離れない
昔、この街には有島さんが住んでいた
若く美しい夫人と暮した川沿いの家の庭には
春になると桜が満開だったことだろう
漁師町に住む青年が自作の絵を携え
前ぶれもなく訪ねて来たこともあった庭のその桜
あの桜の子孫たちはいま何処にいるのだろうか?

あ!あれは数少ないわが友人だったサトウくんの父上ではないか!
(彼は遠くへ行ってしまったが)
「どちらさんでしたっけ?」
怪訝そうな父上は私を思い出してくれたのかどうか定かではないが
「明日は友達とイシカリさ、釣りに行きます」と教えてくれる
昨年倒れて入院されていたと聞いている父上には
ひと月前に同じこの路上で遭って以来ではあるが

自ら死を選んだ人は謎を残すというけれど
まだ生きている人だって謎ばかりだ
ふっと私もあちらへ行きたくなることがある、でも
私がいなくても、春の水は春に流れるが
私がいるから、春の水が春に光るのだろう

何処へゆくお金も
釣りに誘ってくれる友だちも
一緒に死んでくれる女もいないが
図書室で次に借り出す書物は決めてある

有島さんを訪ねた「漁夫画家」に会うために
前ぶれもなく漁師町の傾いた家を訪れた
八木さんの本にしようと決めてある、そして
青空にドストエフスキーの髯のような雲の浮かぶ測量山のムロランへ
道の両側を落葉松の原始林が途切れなく続くカラフトへ
赤い裸電球とベッドの他には何もない木賃宿のハルピンへ
娼婦たちを訪ねて暗い一郭のトウキョウへと
ちょっと出かけてみるつもりなのだ
春はまだごく浅いけれど





◎註
*「漁夫画家」は有島武郎(一八七八~一九二三)作の小説「生れ出づる悩み」の作中人物「君」のモデルである木田金次郎(一八九三~一九六二)。木田は北海道岩内町出身の画家。岩内で漁業に従事しながら絵を描いていたが、有島の死後は画業に専念した。

*「八木さん」は室蘭出身の作家八木義德(一九一一~一九九九)。
旧制室蘭中学に在校中、剣道部の先輩から奨められた有島の「生れ出づる悩み」を読んで文学に開眼、その後入学した北大水産学部を自主退学後に上京、二十歳で左翼運動に関わり仲間が逮捕された報せを受け満州に逃亡、ハルピンで自殺未遂、故郷室蘭の警察署に勾留された後、転向した。

測量山は室蘭市清水町にある標高一九九mの山で周辺の市街地、室蘭港、噴火湾などが見下ろせる。室蘭警察署の留置場を出て実家に戻った(実母の黒髪は頭半分から白髪に変わっていたという)八木は転向後の失意と無為の日々の中、人目を避けるようにして毎日測量山に登り、携えていったドストエフスキー全集を一冊、また一冊と読破、最終巻「カラマーゾフの兄弟」を読み終えた後、自分も小説を書いてゆこうと決意する。

八木はその後再上京、早大仏文科に在籍、同人雑誌に拠り創作を始める。北大在学中の樺太旅行の途次、宿賃が払えなくなって従事させられた缶詰工場の過酷な労働体験を描いた「海豹」で注目され、中国に出征中の1944年に「劉広福」で第十九回芥川賞を受賞、戦後に帰還した後、空襲による妻子の死を知り「母子鎮魂」を、娼婦との交流を描いた「私のソーニャ」を発表、職業作家として歩き始める。

八木は一九五二年、岩内に木田金次郎を事前連絡もなく初めて訪ねた折のことを短篇「漁夫画家」に描いている。しかしその二年後の岩内大火により、木田は自宅に置いていた作品の大半を焼失することになる。

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「パスポート」

何処かに行きたいというくせに
そんな気力もない日々で

やりたいことも、行きたいところも
たくさん、たくさんあったのに
何にもできない日々でいるのが
酷く悲しくて泣いてしまう

なんにもできない人間になってしまった
遠くに行きたい
逃げたい、なのかも
行く元気もないくせに
想像だけは一丁前で

日々を想像の中で過ごす日々で
現実を直視することも出来ない
きっと見えているはずなのに
見えないふりをしているのも
そうじゃないと

そうじゃないと
とても生きていけないから

もう少しだけでも、
私を生かして欲しい
いや、生かさないで欲しい

ふふふ
願いも一丁前だったね

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感情

誰かが どこかで 泣いてる
君は 独りで 夜の中に立ち
名もなき声に 耳をすませる

きっと 僕には 解らない
心というものを
感じ取っているのだろう

感情のない僕は 心が解らない
君と僕を繋ぐ 細い糸
君はそれでもいいと言う
僕は大切なものを失くしてしまったのに

君もきっと 泣いているんだろう
気持ちを共有できないって たぶん
思うよりずっと 辛いこと

感情を抜き取られた僕は 無限に
様々な時空を彷徨い 放浪する
君は僕についてくると言う
一緒に大切なものを捜そうと

知ってしまったんだ
感情を取り戻したら 君と
離れなければならないこと
だけど それでも 僕は

感情のない僕は 心が解らない
君と僕を繋ぐ 細い糸
君はそれでもいいと言う
僕は大切なものを失くしてしまったのに

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だいぼうけん

小さな冒険者は
虹の麓を探しに
土筆の剣を手に
白詰草の王冠をかぶって
小鳥の囀りも味方して
春泥に増える足跡

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[そ]卒業

同じ夕焼けを見ています

傷だらけの机を次の者たちへ託します

覚悟のある者、できなかった者 等しくお別れです

わたしたちという集合体はいつかそれぞれを忘れ去る

懐かしむ者、嫌悪する者 等しく過ぎゆくのです

本当に大事なことを教わらず、これから学ばなければならないわたしたち

それがあなたたちの有終の美だ

野晒のお下がりを脱ぎ捨てて、わたしたちたは新しい何かに変わる

わけではなくて、誰かのためのお下がりになる

悲観することじゃない

ただ弱くて怖いだけ

それでも刻まれた日々を携え、わたしたちは前を向くのです

袖を通すことのない抜け殻を皆はどうするのだろう

会うことのないあなたたちに寄る辺ないエールを贈ります

それぞれを謳う 卒業

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