投稿作品一覧
美しくなる
突然世界は美しくなる
建物のヘリがほぼ垂直に空間を伝う
横切る電線が直線的で少し撓んでいる
驚きで胸が震えた
隅から隅まで何もかもが
突然美しい
鳥が鳥の形となり
一瞬一瞬モノの配置を置き換える
一切から名前が消え
役割が消え
感情が消えて
感覚をはかる目安に変わる
音が流れるが音源が剥がれ落ちている
小料理屋の換気扇から
嗅いだことのない匂いが流れてくる
と思った途端、そんな店は何処にもない
今このとき
太陽電池の羽を開いた人工衛星が
センサーとカメラを地上に向けている
衛星は既に機能を停止し
もはや何のためでもない何かが
世界の一部となって僕を見ている
何もかも
美しい
問わず語り/人生という航海を導く海の星、漣凪らう漢煌に。
自分の話はノンフィクションで、やること成すこと、誰かにとっては勘弁ならねぇブロック推奨だとつくづく思いながら。
今回は『まゆのあげまん事情』男同士のエッチな話が飛び出すこと請け合い。
改めまして────
I・N・M~実録・漢衆ジャック‼俺は神秘な摩天楼~ (ゲイビっぽいタイトルで、笑。)
────今から10年以上前の話です。
札幌駅の地下街、北側▨番出口の隅にある「よく当たる占い師」と評判の女性に会った時のこと。今思えば、おぼろげな記憶で私たちは、不思議な扉を開いてしまったのかも知れません。
通路のガラス扉を押し開け、出口付近で占いを営む化粧の濃い女性は見るからに妖しい風貌でもない、黒髪に民族衣装のようなロングワンピースを着た美魔女でした。
占い師を目の前にしても冷静な貴之は、霊的なものを一切信じない。ビジネス脳なリアリスト。
ただ社会情勢の影響を受け、職場の環境が一年足らずで変化する。新規制定に合わせた動きに伴う仕事量も増えて、不満を募らせ、精神的な若さを以てしても肉体の疲労を拭えないことから、札幌にいるうちに一度視てもらうよう会社の女性に進められた場所がここだ。
占い師の女性は私を見上げ、挨拶を済ませた後に着席を勧めた。が、私ではなくこっちと貴之に親指を立てる。
「生年月日を、今日はどこまでにしますか」
占いは内容や時間で料金が決まる。始めてなので、仕事運や今後の運気について聞ける範囲で頼みました。
疑ってかかる貴之だけど、緊張して敬語になっている。
左の掌を明かりの下で広げると、すぐに言われた。
「あら、あなた財運に恵まれているわね。大器晩成型、てところかしら」
キャップをつけたボールペンの先で、その印となる手の皴を示すとそう・・・・・・見えなくもないが、私の勘はご名答。
貴之はとても勤労で真面目に働く。それは子供の頃から傾向があり、受験を繰り返す若き日々も大きな失敗をするようなことがなく卒後の就職先でも安定した働きを見せた。日々の努力の甲斐というものを誰よりも熟知していると言える人物だ。
しかし対極にある陰影に左右される乱気を生まれ持つ。
いい事があれば同じように悪い事も起きる。
運命的なものを本人も偶然ではないと知っているからこそ<何もない繰り返しの日々>を望み、それこそが平穏だと言い聞かせて来た。社会では立派に独立した男性だが、内弁慶で外面がいい。責任感の強さから、自分では決められない優柔不断な部分があり、変わったことを受け入れられない。当時まだ30代後半なのに柔軟性がないとか、そりゃもうやばいお墨付き。
急な変化が苦手。それが今、職場で何年も続いてる。
世の中的な背景があるから対応せざるを得ないストレス肥大を、人に話してどうにかなるものではない。
でも、内心は救われたいと思っている。一方、ポジティブで自由を愛する私と付き合うにつれ「自分がおかしいのでは」と思い始めている心の内まで、占い師に告白していた。
おそるべし、術中。
どうすればいいか聞きたいところで、追加料金の時間になるのがお約束だ。
まぁこちらは星占いが得意で「アンタ地獄に落ちるわよ」で、お馴染み六占星術で貴之が霊合成人だと判った時点で、気性の激しさと乱気を見抜いていた。内側にあるパワーが強いのではなく、見えないサイクルがあっていつも決まったレールを歩いてるだけ。
では、貴之の悩みはどのように解決するべきか。
少し先の未来を知ることで、目安ができる/安心に繋がる。
例えば今から何年後以内にある出来事が起こる、こういう人に出会う。など、不確定でもアドバイスされることで貴之は今の思考から解放されることがわかった。さすが占い師、適当なことを言っても貴之がそうだと思えば当たったことになるバイアスをかけてくるとは。
あまりの商売上手さに得心がいくばかりで、うんうんと話を聞く私と占い師の目が何度も合う。
むしろ、私に言ってないか? と、思うくらいこっち見てるんですよ。さっきから、ずっと。
「なるほど。では向こう3年は用心して掛かるか」
「海外で"ああいう事"があると日本に影響が出るのはこの先、まぁお仕事励んで下さいって事で」
「先生、今日はどうもありがとうございました。これ、お礼です」
料金とは別に、心付けを渡すと有難く受け取る、占い師とまた目が合った。
「あのね、彼・・・・・・」じっと私を見て、その躊躇いを払うと同時に私の左手の下に指を揃え、占い師は話を続けた。
手相のキホン
親指から人差し指にかけて3本の太い線がある。
親指に近い下・生命線/下にさがっている、途中で二重。
真ん中の頭脳線/感情線とつながる十字の線がある
一番上の感情線 ←ここに注目
私は右・左どちらも三本の線が離れている。
これは「空気が読めない」マイナスのイメージが浸透していると言われがち。でもその実は滅多にない手相で、天才肌のカリスマだと言われた。そして、見れば見るほど左手に星や神秘十字や仏眼があると占い師に言われたなかで一番印象的だったのが、あげまん線。
右と左の感情線の先が、肉眼で見えるほど分かれている。
私はこれを鳥の前足・もみじのようだと自分で言っていたが、ここが三本以上に分かれているのがあげまん線。
手相の世界では左手が生まれ持つ性質、右手が後天的な運勢や現在の状態を表す。左右にあげまん線があるのは大変珍しく、だからといって私自身に何ら影響は無いが、周囲の人やパートナーの運気を上げる、幸運の相。神秘的な存在であることの確証を示された。
「あなた、絶対に彼のこと離しちゃだめよ。あなたの財運は彼あってのもの、そして彼はあなたがいて初めて幸せになれる。ふたりは運命的に結ばれていますね。お幸せに」
この一言に、貴之は心を打たれたという。
実は私、家庭運に恵まれない傾向がある。
この通り色事に長けていますし、お金もたくさんあるけど湯水の如く使う怒涛を家庭に置いたら女性から許されるものではない。女は物理だけでは満足できないからね。そして神秘過ぎる力のせいで子供の頃から厄介ばかり起きるのも、自分は消化しているけどスピリチュアルの話を信じない人もいる。実際に不思議なことが起きても「偶然だろ」その程度だ。
色と金の縁がとこから来るのか
私ずっとわからなかったけど、やっぱり魔性は自分のせい。損な性質だと諦めて立ち上がる。
歓談の際はチャーミングな笑顔を見せてくれる占い師が、最後はとても穏やかな顔で丁寧に会釈をしてくれた。
私たちも頭を下げてお礼を言うと、貴之は手を繋いで階段を降りる前に「段差、気を付けて」いつものように先立って教えてから私は足を下して、開かれたドアの向こうへと進む。
男にエスコートされるのは慣れている。でも私ずっと、貴之に守られてばかりだと思っていた。
本当は上手くいくように、最初から決まり事があって、ふたりでそれに気付きながら手と手の皴を合わせて<しあわせ>になる為に出会った、運命の恋人。周囲が教えてくれる度に貴之に対して有難い気持ちになる。
ずっと好きでいてもいいか
何度も確かめたくなのは、貴之を心から必要としているから。
好きになる理由はない、と誰かは言っていたけど、求愛は万有引力のようなもの。とてもじゃないけどこの男には抗えない。
抱かれたら嬉しくて我慢できないから、貴之とはセックスしなくても多幸感が得られて満足に至る。キスする瞬間もいいからね。顔を近づけて話した後、見つめ合うといやらしい気持ちとは別にキスしたい。欲求から目を閉じるタイミングで唇が触れ合うボリュームが深すぎないのが、すっげぇいいのは貴之くらいだよって言うと「誰と比べてるの」クリームのついた唇に指を伸ばして拭う。
仕方がない奴だと笑いながら、話を続ける余裕はいつになく素敵で・・・・・・ずっと見ていたい。
テーブル越しの距離にお預けすら感じる、もどかしさからわざと手間をかけさせる。私のいじらしさは、どこでも健在。
お前のいいところは、その顔面と財力で間違いない。
こんなに好きになれる相手に、なぜ出会えたのか。
いい男選び、選抜にはコツがある。
ひとりの男にあれもコレも求めないこと。ひとつかふたつ、いいところがあればいい。ということは9割ダメでもひとつだけいいところがあれば合格。それを色と金に絞る。逆に性格が温厚で優しくて気遣いが出来て、こちらを大事にしてくれる根底に愛情があるけれど、働くセンスが無くてどんな仕事も続かない。疫病の気がある男もいるけど、相手に優しさは求めてないから却下。
でも、世の中で女性が求められる男はそういうのが多いよね。実際。
安定した収入があって、亭主元気で留守がいい。悪さも性欲もこっちに向けてこない優しくて利便性の高い男を求めている女性は妄想を諦めない限り、ハイクラスの男と縁組は叶わないでしょうね。
そもそも、なぜ条件がいい男に選ばれるのかを考えて欲しい。
相手の望む条件が揃わなければ、そうはならないだろう。自分が希望する条件ばかり並べて、選べる筈もない現実は必ずある。
今は便利なマチアプで簡単に出会えるけど、嘘つきの行き遅れた勘違い中高年の男しかいない。
うら若い素人女とやりたいオジサンには、それなりのオバサンがお似合いです。何歳からオバサンということはなくあれって性質だと思うんだよね。私は根本的に女性の持つ女性らしさが合わないようで、故に結婚も必要性を感じない。マチアプで相手を変えながら、時間を費やし年齢を重ねて、相手に決定打がないから出費を続けて「真剣交際」を掲げる。
なぜが真剣なのか。それを婚活というのだから、ラノベで契約結婚や溺愛が流行するのも頷けるわ。
根性座ってる奴だけが、史上最高のパートナーに出会える。
そして、色事も望んでやらないと。
韓国の宮廷映画をご覧なさい。美しく情熱的なベッドシーンは、いやらしい事をしているのに何だか素敵に見えてしまう。なかには男のパッションが激しすぎて笑ってしまう描写もあるけど、まぁ確かに激しい血統ではある。支配欲というか精力溢れる独占欲から絞首、押さえて付ける性交は恫喝にも似た内容で、日本人男性とは明確に異なる性欲の位置付けが韓国人男性にはある。
日本から西に行くほどその傾向は強く、もう天竺に旅する感覚で暴力と性交の在処について悟りを開かないといい男になんか出会える筈もないといえよう人生観。だから貴之の上質な穏やかさは私に情緒をもたらす、浮気な猫ちゃんの戯言。
皆さんの手の中に、星はありますか。
私の母は「ますかけ線」があって心も体も丈夫です。母を嫁にもらえた父親が、私の知る最強の男です。
断片、大正十二年
電報、着信、九月一日午前十一時五十八分
その後の通信は途絶えたり
婦人之友、附録、家計簿の付け方
一日一銭を笑う者は一銭に泣く
統計年鑑、人口動態、出生率は微増
死亡率は、この欄には記載せず
モダン語辞典、「エロ」の項、参照ページなし
「グロ」の項、参照ページなし
「ナンセンス」の項、これもまた、参照ページなし
百貨店広告、初夏の陳列会、
紳士用シャツ、婦人用日傘、
瓦礫の下より発見されし品も、
特価にて御奉仕申し上げます
産婆学教本、正常分娩の手順、第一期
異常の場合は、この限りにあらず
活動写真、封切館、本日満員
スクリーンの中では、誰も倒れない
震災義捐金、寄付者芳名録
名前、名前、名前、名前、
その下に、金額
心霊研究会、会報、第三号
「声は、瓦礫の隙間から聞こえた」
編集後記に、これ以上の記述なし
電報、着信、九月三日午後三時十二分
「ブジ シンパイスルナ」
婦人之友、附録、家計簿の付け方
一銭を笑う者は、もう、笑っていない
隠された灰色の相貌
僕らは灰色の相貌をした星の下で生きていて、
白か黒かを突き詰めると、仲違いが決定的になる、
場所とも、時間とも、時代とも形容できない、「時空」に住んでいる。
トランプの耳を弾丸がかすめたあと、
彼が星条旗のもとで拳を振り上げた瞬間、
時空は急激なスピードで変化を始めた。
厳粛に、整然としているのは最早デジタル時計くらいだろう。
アメリカ第一主義、貿易戦争、暴かれるディープステート、
小児性愛、人身売買、性別は二つ、移民追放、分断、乖離。
陽気でハイに振る舞う、無能なイーロン・マスクをかたわらに、
大統領の息子が終始つまらなさそうにしているのが、
僕にはやけに不気味に見える。
問題はいつだって種を撒いたあとだ。
ロックスターがスキャンダラスに生きて、
みなが熱狂していたのがまるで子供の遊びのようだ。
今の時空では、ろ過された情報や言説ばかりが飛び交う。
誰もが賢者で告発者で、また被害者で加害者であるように、振る舞うことが出来る。
巨岩を未来永劫、頂きへと運ぶシーシュポス。
僕は煙草に火をつけない、
アルコールもコップに注がない。
なのに充分に酩酊し、昂揚して戦地を見ている。
傍観者ではなく、孤軍の老猿として、常に。
昨日、君にメールを送った。
返事は来なくて正解だった。
艶かしく身をくねらせる蛇が、
愛と情欲をすり替えて、死の島を這っている。
僕は見極めなければならない。
本当の重力を持つ愛を。
安住の地を見つけられない百年の孤独は、
時に移り気なのだから。
今日もTLはジェンダー、夫婦の諍い、レッドフォックス、詐欺まがいの投資、ゴシップであふれている。
官能がポルノムービーだけだとしたら、
それほど贋作の世界はないだろう。
僕は天国を疑っている、地獄は信じない。
君が完全に見えなくなる前に、
僕は君を信じていたい。
寒空の中、髪の毛をこれまで見たことのない色に染めるこの日、
僕の眼前を飛ぶのは、ドローンでさえ、そのかぎ爪で突き落とす鷲。
AM 8:40 朝食のカフェオレが尽きようとしている。
stereotype2085
2025/02/19
こわれる
とても
静かに
一枚の
写真を
撮っていた
爪の凹凸を
つるつるさせた
中年
男が
いきなり
僕の腕を掴み
ホネ
きれいに
なったかな
と
床をゆびさしたずねた
僕はきっとなりましたよとシャッターをきりながら
中年
男を
組み伏せて濯めた
もちろん
視覚的に四角
であるところのトド
まることを知らない
まるで丸
であるような
ビシビシ
ないしヒシヒシとした
菱形のひしめきで
なくもない
暗夜行路の鮟鱇
よもやよもや四万本の木
河岸の話
はたまた時に象に似た
あるいはヘソならぬイソ
かもしか錯乱や月
などなどの
長く保たれる事柄については
論ずるにも
イヤ!
オー!
なくなく
長々伸びるという
言うまでもない話だ
Non,non,trop,de reflets!(ノン・ノン・トロップ・ドゥ・ルフレ)
雨粒 あまつぶ 雨粒
貴方とあたしはシルクの糸で結ばれている
空へ 堕ちていこうよ
ネェ貴方 あたしが死んだら 貴方は泣くかな
雨粒雨粒雨粒 雨粒 あまつぶ 雨粒
答えられるの?
あたしはね、うんとおしゃれ 水玉模様のべべを着て ハイパーソニック機 操縦するの
It's okay if you die. 雨雲へ突っ込むよ
貴方とあたしの涙が 一瞬で吹き飛ばされる
雫と雫の形が仲良く遊んでいるの 可愛いでしょう 豊かでしょう
天地創造の伊邪那岐 伊邪那美 カッコいいでしょう
今 貴方と 窓硝子を這う雨粒を黙って見ている
この手、死んでも離さないでね
https://i.postimg.cc/SjFHrn4v/pixivnon'non.jpg
金貨と目薬(4)
<新しい流れ>
「ねえ、達也~大きな川って、どれくらいの川が合わさっていると思う?」
加賀見 陵介との仕事の後、モデルとしてメディアに出る事も控え気味にしている深水だったが
ジムでのトレーニングは続けていた。
夜の仕事も増やす事もしなかったので、ジムでのトレーニング後に予定を入れずに武内の部屋で
シャワーを浴びてトレーニングの成果など他愛のない話しをするのが常と成っていた。
武内の部屋の洗面所から聞こえる深水の声は下手をすると独り言のテンションだったが
武内は聞き逃す事なく返事を返すのだった。
「美味しい皮のタレの組み合わせ?」
「今日のトレーニングに身が入っていないと思っていたら、お腹が減っていたのかよ。」
シャワーを浴びてスッピンの呆れ顔で武内を睨みながら
「焼き鳥の皮の話しなんかしてないわよ。川・都内に流れている大きな川の話しをしているのよ。」
武内は深水とは肉体関係は無かったが、深水がスッピンで接してくれる事に優越感を感じており
肉体関係を持つ事でプラトニックな深水 琴李を失う事を恐れる様に夜を共にしても体を求める事はしなかった。
「川?川がどうしたんだよ?川なんかに興味を持っていたか?」
深水も体を求めて来ない武内の前では心からリラックスが出来て自然と相談をする様になっていた。
「陵介との仕事で水の流し方は解ったのだけれど、大きな流れにするにはどれくらいの流れが
必要かなと考えていたら自然と口から言葉に出ていたのよ。」
深水の言葉に戸惑いながらも
「なに?加賀谷さんとの仕事に不満というか満足出来ていないのか?」
深水は、冷蔵庫から持って来たビールをコップに注ぎながら
「達也、新しい流れはアナタと考えているのよ。協力してくれるわよね。」
武内は唾を飲み込む代わりに注がれたビールを一口飲み込んでから
「琴李がジムに来た時から、琴李の夢を応援すると決めている。」
グラスのビールを一気に飲み干して深水は武内に話し始めた。
「次はね・・・・」
「編集長、次はスポーツウエアで切り込んで行きたいと思っているのですが、
モデルにと考えている男性も決まっているので会って貰えますか?」
前回の企画熱が冷めない内に動きたいと言う深水の意気込みとモデル男性が来ていると言う段取りの良さと
前回同様に深水の名前は出さない条件で企画の話しが進み加賀見と武内と深水を交えた打ち合わせする事と成った。
~つづく~
うさぎ
扉が開くと…
そこには、黒目がちで
つるんとした丸い目のうさぎがいた
捕食される側で、常に警戒しているのか?
少し怯えて見えるが
それはそれは はかなげな瞳
それはそれは 健気な瞳
声も上げず
文句も言わず
弱々しい目つきで
辺りをきょろきょろ見渡している
つぶらな瞳で わたしを見つめ返すうさぎ
このうさぎをそっと引き寄せたい
守りたい…そう思った
でも
勝手にはかなげだと思っているのはわたし
勝手に健気だと思っているのはわたし
勝手に弱々しいと思っているのはわたし
すると
うさぎは言った
ぼくは、じぶんの足でちゃんと立っているし
びぶんの足でちゃんと歩いています
これはきっと
わたしが
わたしの弱さを
わたしの儚さを
重ねて見ていただけ
うさぎはうさぎらしく生きている
無防備な目つきで
金貨と目薬(3)
<3人の関係➋>
加賀見にショートメールで店に出るシフトを送り、
加賀見が来店する日は太客以外の指名を断り加賀見との時間を取るようにした。
何度目かの来店で同伴出勤を約束して貰い、同伴のお礼にとアフターで他の店へ飲みに行った。
何度目かのアフターで加賀見の寝ている横で目を覚ます事となった。
記憶を失くしての結果でなく加賀見のタイミングで、こうなる事を深水は望んでいた。
加賀見と朝を迎えるタイミングで深水は自分の考えるデザイン企画を持ち出した。
自分で考えた企画でなかった事も有って乗り気で無い加賀見に
この企画が成功すれば夜の世界から完全に抜け出せるから力を貸して欲しいとねだった。
加賀見の脳裏を深水と二人で成功する世界が横切り
「やってみるか、俺もイラストで食べて行ける様に成れば最高だしな。」
その言葉を聞いて身支度を済ませて深水は加賀見を置いて部屋を出て行った。
加賀見との企画を進める為に深水は持てる人脈をフルに使い企画に現実味を持たせた。
深水はファッション雑誌の編集長を前に企画の面白さを熱弁していた。
「深水君、面白い企画だと思うけれど大きな問題が有る様に思うのだよ。」
編集長の言葉に深水は動揺の欠片も見せる事なく先回りする様に答えた。
「私が夜の仕事をしている事ですか?協力して貰えるアパレル企業からも指摘されましたけれど
この企画に対して私は一切、前に出ようと思っていませんし出ません。」
深水の言葉に「そんな貪欲な目で言われても誰が信じられるのだよ…」編集長の言葉を遮る様に
「私が今、欲しいのはお金でも名声でも無いのです。流れ私が源流と確信出来る流れが見てみたいのです。」
モデルが企画を提案しに来た場とは思えない異様に重い空気を押しのける様に
「流れ?流れて何だよ!まあ、深水が表に一切出ない事を条件に前向きに検討してみるよ」
編集長の言葉によって深水の異様な申し出と雰囲気に吞み込まれる様に深水の企画が机上に乗った。
そして雑誌の後ろの方に加賀見の顔写真と共にデザインに込められた思いなどが紹介された。
記事の内容からは自分の影さえ伺う事は出来なかったが深水は気にする事も無く企画の反響を追っていた。
愛の言葉文字を読めぬ程に解体してデザインとして使っているとアピールしたところ
秘めた恋心を感じるとネットで騒がれはしたが爆発的な流行とは成らなかった。
しかし深水は細いけれども自分が作り出した流れを感じて満足げだった。
~つづく~
ちきゅうを蹴れ
手を滑らせたか
わざと
なのか
落葉へ
滴る
なぜ
あなたは
顔を焼かれたから
このは
というのか
それならそれなら
もっと
喚いて
わたしを蹴れ
ちきゅうを蹴れ
BAR「Creative Writing Space」
ニーズがあるやらないやら、まったく見当がつきませんが、
毎度おなじみの思いつきで、BAR「Creative Writing Space」を開業いたしました。
皆様にお使いいただけなければ、すぐに閉店いたします。
電脳空間の片隅にある、吹けば飛ぶような小さなBARでございます。
一杯引っかけた体で雑談していただけるスペースをイメージしています。
「Talk」がさほど機能していないことも踏まえ、もっとカジュアルに使っていただけたらと思っています。
【ルール】
・ワンドリンク制です。必ず何かお飲み物をご注文してからお話しください。ノンアルコールでも構いません。
・お代はいただきません。もしスペースコインをお支払いになりたくなったら、他のお客様に奢ってあげてください。
・酔っ払いすぎにはご注意くださいませ。
Creative Writing Space事務局
2026/03/21
批評・論考
草笛
6月の
しめっぽさを
ひきつれて
石から石へ
跳ねて飛ぶ
息切れ、
蛙とは
友達になれそうもない
みず辺の草を 一本
芯はていねいに抜くこと
「ここにいます」と
一息に吹けば
草叢から
牛のような
泣き声がした
夏
夏
そらは白く
道はどこまでも続いていた
何処にゆくでもなく
ただ
ひとり迷子で
雑踏にはみしらぬ人
あふれかえって
夕暮れは
街を
染めあげて
灰色の雑踏と人の群れ
途中下車をして
夏が
終るまえに
夏
いつかの季節
遠い日
プールの塩素の匂い
いつか
夏は終り
蒼い水は揺れて
古ぼけた写真のなか
Ny.
灰色の海だった
壊れた
連絡帳に
なにかを書かれた形跡が
緋色の筆跡で
修正してある
・
灰色の海だった
海の上の
空だった
壊したのは
・
灰色の砂だった
水に
流されて
おちてゆく
地下へ
・
白い灰だった
灰の空だった
見上げると
なにもなかった
・
色とりどりの
ガラスで出来た
花々が
・
灰色の砂のなかで
ないている
・
空が燃えていた
青い
青い
青い空に
・
灰色の雲が
広がって
太陽の
黒点だけが
白かった
・
阿国花伝
昔、出雲の杵築に阿國と呼ばれる巫女がゐた。家は代々神に仕へ、神意を人の世に傳へる事を業とする家であつた。阿国も亦、其の一族としての生を受け、幼き頃より舞に精進してゐた。阿國は一族の者の中でも右に出る者がゐない程舞が上手であつた。
永禄の頃、社の勸進を名目として諸國を巡る折、荒れ果てたる里の廣場にて七座を舞つてゐる時、群衆の中より荒い聲が立ちて、
「そんなことして何になる」
と叫び、石を投げる者がゐた。
「神に祈つた処で何の意味がある、數日前、隣村に飢饉が起こりみんな死んだ。村民は眞面目で厚く神佛を敬つてゐたんだ。本當に神樣がゐるのならば、こんな事にはなつては無いだらう。」
と、罵詈雜言が風の如く吹き荒れてゐた。其れも無理はなく、舞や藝能の類などは、京の公家や格式高い武家などの餘裕がある者達にとつての娯樂でしか無く、明日も生きていけるか分からない日々を送つてゐる農民からの顰蹙を買ふには余りにも十分すぎるものだつた。況してや、この時代になると神樣の存在や神祕現象等の靈妙なものに對して懷疑的な風潮が出て来てゐた。阿國は其の刹那、心境に「神に祈る意味、藝能の意味とは何なのか」と云ふ問いが浮かんだ。阿國はそんな葛藤を抱き乍ら各地で舞ひを續けてゐた。併し、惱みを抱きながら舞つてゐたものだつたから、出來榮えは漸う稚拙になつていった。
かくして、反芻する思索を伴に諸國を巡り、やがて京の島原に辿り着いた。此処は人の欲と夢とが交はる街、音曲は絶えず、言葉は花の如く散り、情は夜に蘖し、夜明けに朽ちる──。阿國は此処で遊女と云ふものを知つた。阿國の眼には、遊女と云ふ者は人の嘆きや欲望を身に引き受け、笑みの下に深き孤獨を藏する藝能者にみえた。阿國は日を費やし、彼女らの歩み、視線の影を見つめてゐた。やがて心動かされ、同性であり乍らも、その色香に心を打たれた。阿國は遊女一人を迎へ、夜もすがら語つた。舞のことや、花街の事や、各地を旅して勸進をしてゐること、そして、内に抱へる葛藤のことも赤裸々に語つた。遊女の言葉は輕い樣にして重かつた、
「わつちは生まれた時には父母もおらず孤兒として生を受けたけど、今の旦那に引き取られて今のわつちがありんす。もし仮にこの生まれに意味が最初からあるなら、わつちはおそらく天涯孤獨の儘、生き死んでゐたでせう。されど、今の旦那に拾はれて、此処で暮らしてゆくうちに種々の遊女の仲間も出來て、今のわつちがありんす。さう考へれば、意味といふものは後より附くるものにして、初めより意味を持ちて存在せしものなどは無きやもしれませぬ。」
と遊女は微笑み乍らさう言つた。阿國は其の時、靄の掛かつた心境に一點の光が射した樣に感じた。惱みと云ふ濃霧は晴れ、阿國の心は、明鏡止水の如く透き通つて清く澄んだ相を帶び始めた。其れはまるで、神樂を舞ひ始めた昔日の頃と同じ心境であつた。
時は知らず知らずの内に移り、いつしか夜の氣は隠れて、東雲の光が天地のあはひに滲み出でてゐた。曉を迎へた空の色は紫と朱色の二重の層を象つてゐた。阿國は、夜もすがら遊女に言はれた事の餘韻に浸つてゐた故、一睡もできなかつた。
阿國は宿から出て、水路の溝に立つた。そして、一思ひに護身用の短刀で髮を切り斷つた。阿國は何処か決意を固めた目をしてゐた。そして、其の切つた髮を水路に流した。その刹那、阿國の境内に覺悟と云ふ燈が曄いた。神の爲に舞ふも、人の爲に舞ふも、意味を求めれば皆須く空しく、意味を忘れて舞へば、やがて意味は後より立ち現れるもの、と、阿國は悟つた。茜さす水面に寫る、亂れはだけた着物を、天女の羽衣の樣に纏ひ着てゐた阿國の姿は、藝能の神である天宇受賣命を彷彿させる樣であつた。
阿國は京の四條河原に仮小屋を結び、日々、其処に立ち舞ひ續けた。嘲りを避けるため男裝し、神樂にも遊興にも屬さない獨自の舞を編み出した。其の舞は、敬ひと戯れ、聖と俗とを隔てず、見る者の心を搖らし、笑はせ、時には畏怖の念を呼び起こした。
人々は是れを「かぶき踊り」と呼んだ。かぶくとは常ならぬこと、外れし事の意である。斯くて阿國の舞は、神を離れ、人に近づき、人の世に根を下ろす藝となつた、後の世に歌舞伎と稱せられる大河の源となる。
神に仕へし巫女の舞は、意味を疑ふ処から始まつた。疑ひを抱きて舞ひ續けた果てに、ひとつの文化の華へと變じたのである。されば、人の營みの意味とは、初めにあるものに非ず、耐へて續けた跡に已、仄かに殘り、後々、開花するものであるのやも知れぬ。
(京都府の某作家の書斎から)
ねねここ
気がつくと
たくさんの
ねこねこねこ の顔が
寄り集まって
こちらを見ている
何十の ねこねこねこ
何百の ねこねこねこ
の目線が
金色に見つめている
その前を
わたしたちは 右往左往して
追い立てられるねずみのように
暮らしている
あらゆる 石垣の上の空に
あらゆる 境界線の土に
背丈の目盛りを 掘りつけられ
削られた森の 木々の合間に
ねこ ねこ ねこ
ねね ここ ここ
じいっと 動かない 何百の
ねこの目の中には 月も陽もあるから
夜も昼も その目は
閉じることがない
こうしていると もうどこまでが
一匹のねこなのか
空の縁 地平線 あの山も全て
ねこの一部なのだろうか
新月の闇に ねこたちは
溶け合わさり わたしたちへ覆いかぶさる
そういえば ねこは元は海なのだ
だから時々
リビングの椅子や塀や屋根の上で
液状に戻りかけているではないか
ねこたちが いっせいにまばたくと
わたしたちは流れ星を見たという
ねね ねね ここ ここ
ここ ここ こ こ
からっぽの ねずみとりのそばには
大きな爪が
だまって置かれている
繭に成る。それが、だ
薬指には琥珀蝶
唇には迷酔蛾を
硝子の自鳴琴が砂にかわるころ
万華鏡を抜け出して
朔の元を去ります。
角を亡くした手鞠が気ままに転がっていく
この鬼ごっこも追いかけるのもまた自由でした
其後に灯籠が経ちました、
ただ明りは知っているだけで
誰もいない近くて遠い場所で、
幼子はお隠れになったところで。
無意識の石の意図を糸に潜して置く。すると死や霊や念みたいなものが
栄えてくる。狂ワの民が持つその童歌に礼は 自然と生えているものか。
夏の盛りを過ぎた盆に置かれた私たちが空を見上げ
考えている。
なにかが通り過ぎるのを、
なにかが咲き乱れるのを、
なにかが熟まれるように績まれ、
『繭に成る それが だ。』
ただ来年も再来年も屹度違う色違う花を咲かせては腐らせるぐらいなら、
今この瞬間の風に蒔かせて、沢山の夢も希望も運に委ねて。記憶だけは
永遠に真新しいまま、祈りも願いも総て停めてしまえばいい。
すききらい なんて興味もない けど花占い
足元に散った 数殺した 命
儚いね、なんていいながら 踏みにじったあとで
青の子も赤の子も黄色の子も、皆違うね。間違い探しをしながら黒白の
歯車を駆け上がる、終わりのない果てを最期まで昇って。虹が見えたり
星があったり、躓いたり転んだり笑ったり泣いたりしたけれど、
(できないことをしようとして勇気だと讃えるヒトがいた。)
――やっぱり翼がない 『しのまえに しのあとに』
(空白と余剰、若しくは法面に寄生された、かお・かお)
船倉の踏み板に狡い鼠の一家がいて穀物を食い荒らし、それで
穴があいて全部沈んじまった。昨日見た夢の続きは長い首巻きに綴
られ、それを底におろし口から足先からハラワタからドウドウと流さ
れていた、時代も歴史も空になるまで月陽を与え風化するほど 傾いて
――カラダはもうなかった
(ほら、どいつもこいつも わたしから と 離れようとしない か)
薬指には琥珀蝶、唇には迷酔蛾を。
硝子のオルゴールが砂にかわるころ
カレイドスコープを抜け出して
月食の元を絶ちます。
角を亡くした手鞠が気ままに転がっていく。
この鬼ごっこも追いかけてもまだ自由でした。
其後に灯籠が経ちました、
ただ明りは知っているだけで。
誰もいない近くて遠い場所で、
わたしが お隠れになったあとで。
ボクの言う宝石はキミのところで、心臓にあたるところで
どうせ真直ぐに嗄れて。だとしても――炎の色に似ていた
――嘘ばかり/騙されてる
――天地が逆さまだよ
――堕ちないように溢れないように
「きこえないか?」
ささやかな風が耳朶に触れ頬を霞め輪郭を消す
近すぎる花火が網膜を焼いた それだけの指をなぞらえる
たった一片の ものは はじまりだった
たぶん私以外のすべて
特定の何かを保たない
/愛すべきヒト/亡くした家族/報われなかった、過去
生まれ得ることのなかった未来
懐古の天壌は 在りし日よ ―― わたしからみた、わたしいがい
視界にうつるもの総て、想像すること凡ての
『彼方』よ。
2023-03-09
静物の地平
檸檬は今にも
飛んでいきそうな色と
形をしているけれど
決して空を飛ぶことはない
朝、テーブルの滑走路で
神性
スマホを眺めたまま
夜の草原を歩く行列が
崖へと続く道を歩いている
「あっち、落ちたら死にますよ」
と、その行列の一番声かけやすそうな人に喋りかけたら
数人がこっちを一瞬見て
暗やみの奥から
「死ぬとか、ハラスメントです!」
と、怒鳴られた
ひらひらと蝶が飛んできて
辺り一面に咲いている花のなかから
ひとつを選んで
蜜を吸っている
確かに、
人間は必ず死ぬるのだから
キメセク中にオーバードーズで泡を吹こうが
畳の上で往生しようが
歌舞伎町のホテルから飛び降りようが
東武東上線沿いの安アパートで孤独死しようが
スマホをみながら崖から落ちようが
関係ないわな
おれだって死にたい気持ちが0%ではないくせに
善人ぶったかも知れない
或いはその行列の仲間に入れなかったことが
恥ずかしかったのかも知れない
やがて雲の隙間から月は現れその光線は
この、正しさの1つも無い夜の草原一帯を
レーザー兵器のように照らし、薙ぎ払った
人々はスマホの電源を切って
靴と一緒にそろえると
その崖の上から地獄へと飛び降りて行った
♡
ハートをね、あかく染めるんだ。
だれかのことばが
きれいだったから
すてきだったから
あたたかかったから
いたみだったから
そっと、あかく染めるしゅんかんに
このきもちが届けばいいなって
ゆびさきから小さく願って
ハートに触れる。
3巻目くらいの話
まだ暗いうちに飛びたったのは太陽がつめたいからだと聞かされた、凍えんばかりに寒がっている星々の間をすり抜けていく宇宙飛行士の話だった、村はずれに行き家並みが尽きるとイボだらけの山がゆりかごのようにふたりを揺らして、氷になった太陽にタッチしたのはとても遠い弔いのようだとおもった、毎日のように後悔をしている、愛猫もいなくなって世の中のことといえばまるで、まるで詩のようだ、
#シンガポールパルクールシニア
あたりはふるえ続けていた。そしてあなたは、手縫いのように丁寧に畳んで、爪がまたよごれていた。この、ことばで。あるいは、そのことばで。どのことばも少ない会話のほとんどが詩であるように、あなたはその文字に没頭していた。それからすぐ拳のなかでおしつぶして、りんごやりんご以外の果実に囲まれるような、夕飯には、必ず帰れよ。それは、リボン。でしょう?、だってかじかんだ晩につけられた、透けるような縫い目の贈り物を畳む、その手が、ささやくんだもん!運び込んだ砂は、小さな丘のお腹を真っ黒にする、のけぞったままはいつくばると紐のようにのびて、歩きつづけた、この脚を、なくしてしまう。踵もつま先もあるので、きみがその気なら、と、声をかけるこの語を。あなたへの文句とする。でもときおりなにかをさがすように弧をえがいてただようものがあった、それが手のなかで、さりさりと砂のことばのように語る。
☆
どこにも出掛けないから髪の毛まで痛くなったシニアここはシンガポールではないからパルクールは誰もやってない、開いた口がふさがらないのは私だって、ずっと一緒だよ。
俳句短歌誌『We』第20号(2025.9)掲載「うゐ」より
うつつなの母の名乗せて流氷来
ノイズになりたい
なんせすべてが朽ちてしまうのに、(――手をあげて。)柔らかいまばたきが 非情な拍手を熾していた。とぷんとくれた凪に、過ぎた谷間の火蓋も日当たりは欲、痩せた風もなく、あらゆる臭い そして、揃えた色もなく痛い。ためらいがちに塗りつぶす感覚を はなしの真んなかに定義するには。ほら、気が触れた口と共にダンスする。いきのよい兄妹たちや、来るはずもない客人を馳走して
わたしは破れた時間を引き連れて行く、その意志は足がついているか。二枚舌の魚のよう 今に均しい浄夜を汲み出して、冷却したメタファーにそっと手をあてる。なら吸い殻というには南に向けて 皮肉にもどの子の指先も、縒れた手紙のような水槽の。目の前が圧縮された無限の図形をもつ 白いペンキが発光した空模様は、夢窓。その距離は、自由とは浮き彫りにされているレリーフを、紐解く。と、ともに赫いてくれるなら、それで、と唸った
市販の洋間に孵化した楽観がまた脱糞した。いたいほど味気ない。近々、骨を折り 伏せられた急流に横たわり 雷鳴に包まる。酸いを舐める酔うな読経も その硬さや残骸の軌跡や荒々しく、容姿と晒されている。磨り減ったシャム猫、とも呼んで 暗緑色のコトノハは、キネマで。手から手へと吹き抜け、あちこちに性器をおちつける
幾重にもゆるんだ返事も 故に怪訝そうな字名を美しい、と称するなら。わめきの奥に固有の訛りを 記憶から消してくれ。芥子粒ほどもない赤 錆る。とでも選り分ける錘に身寄りはないから 達磨、知らず知らずに 眼差しも眇め時に感化される、原色の造花。第二頸椎の哀歌だ
あなた、と焦点をあわせる、だからだね。煙たげに、ためらいながら口にする暗譜も然り。いつかの熱病は領域の無い鴉だ。と、ひっそりと痛んではやはり怖いのだ。今ここでひとかどの傷口の糸をゆすぐ翼よ。呆れ顔を意味し。まもなくぴたりと停まる
吐き捨てられる、存在はひしゃげたキャンドルに ああ、鳥が耳をよびだす めくらな黄金は。重力を忘れたトランペットが、血肉を作る未完の虻蜂なら。岩石や木の幹にも重なる ゆたかな沈黙を弾く風がきて 色々と抱きあげる
何かしらのゆとりがなくては、跳ね返る街に埋もれゆく テーブル上の陶器が、二客 また。よくよく思い出して 放射されたそこなしの曙に覆われてしまうでしょう。星座がのそのそと水きりの塚へ。気の毒な程 とりつかれているか、いしぶみは。断ち切られた多次元を置き去りに、どこか湿るようになる
不安定なラヂオか (かみさまはここにいる)
遠ざかってきた (すませ/つづける)
あけすけな中りといきどころの往来がにわかに活気づく
だが――この歌声に、耳を貸さない
あれこれの蝶や霧が日常を繰り広げるのです
バタバタとなぶる音。働きかけるには 目覚ましく
浮かぶ泡をピシャリと閉じるには無機的で これを見て
身を寄せる斉しく/充てがわれた感情に対し/釈す為に.
ひろわれたばかりの文字列に呼応せよ
わたしたちはことばもえらべない
特別なものはないけれども
そのすべてがきっといらないものだった
2024-09-29
陰響垂線
碧白に
落ちる陰影
寄せる身は
蝉時雨の傘
重ねあう声
人間意識プログラム
とある哲学者は言った。
──人間は、自身のプログラムに沿って生きる。
意識とは、自身のプログラムを観測するプログラムである、と。
今やAIは人間のように話し、行動し、働き……。まるで生きているかのようだ。
では人間との差は何か。
それを証明したのが、その人間意識プログラム理論であった。
人間とAIはさほど変わりはない。だが決定的に違うことがあった。
なのだが、それは知られることはなかった。
──提唱者が完全に証明しきる前に死んだからだ。
関係者
彼女がひとりぼっちで 部屋の片隅で
電気もつけず膝を抱えて震えていたとき
ノーテンキなボクはいつものように
テレビの前でゲラゲラ笑ってた
彼女が例の彼氏と別れたって
人づてに知ったときも
ボクは取り立てて気にするでもなく
日々バイトに明け暮れてた
それから彼女があまり外を出歩かなくなったと
彼女の友達から聞かされたときも
久しぶりに部屋を訪ねてみたら
そこいら中にクスリと酒瓶が散らばってて
一体どれだけの量のクスリ飲んだのか
今にもぶっ倒れそうにふらふらと それでも笑う彼女
ボクにはカンケーないことだと何も見なかったことにして
めちゃくちゃに酔って騒いじゃ
意味もなく朝まで
カラオケで歌いまくったり
サイコーサイコー
サイコーサイコー
彼女とボクと
イカレてるのはどっちなんだってさ
くだらねえ
まったくもって くだらねえ
風の吹くがごとく 彼女の噂は絶えることがなかった
外に出歩けないことになってるはずの彼女が
夜の繁華街で知らない男の腕に抱かれてただの
何着もの高い服を買いあさっては
店を出るなり おもむろにバッグからハサミを取り出して
半狂乱になってズタズタに切り裂きまくってただの
突然泣き出したかと思えば
また突然に奇声をあげて叫んだり
親切なお節介焼きが いかにも
心配してます風でボクのところへ持ってくる
ボクにはどうすることもできないよと
一言半句も云おうものなら
最低のクズ野郎呼ばわりさ
まったく敵いやしないじゃないか
そんなに云うなら お前らがなんとかしてやれよ
って云えば
あたしたちだと彼女
気分を害するかもしれないでしょ
だってよ
彼女の心の中で何が起こっているのかなんて
ボクにも もちろん親切お節介にも
理解できようはずがなかったし
仮に理解できたところで
なにかができるとも思えなかった
某月某日
彼女は大量のクスリとウォッカを浴びるほどに飲み干して
新宿の高層ビルの屋上から 飛んだ
その数時間前まで
ボクは彼女と電話でしゃべってたんだ
彼女の方から電話してくるなんてめずらしいなと思いながら
受話器越しの彼女の声は
落ち着いてるようにも
震えているようにも聞こえた
いま考えてみればだけど
なに話してたっけな
たぶん 大したことじゃなかったと思う
最近どうしてる? とか
彼女さんとは仲良くしてるの?
優しくしなきゃダメだよとか
自分も彼氏ほしいよ
なんてお道化てみせたりなんかしてさ
少しの沈黙のあと ふいに彼女
ねえ、今度どこか行かない?
彼女さんと三人で
ちょっと遠いけど ムーミンバレーパーク
あそこ行ってみたいな
あたしムーミン大好きなのって
なんだか本当に行くのが楽しみみたいにそう云って
なのに なのにまさかこんなことになってしまうなんて
あの時彼女は なにか云おうとしてたんじゃないか
なにかしてほしいって思っていたんじゃないか
もっとちゃんと彼女の話に耳を傾けていれば
じゃあねなんて電話切ったりせずに
もっとずっとずっと くだらない話をし続けてれば
ボクが彼女に最後の後押しをしてしまったんだろうか
ムーミンバレーパーク行くの すごい楽しみだって云ってたのに
なに着ていこう おしゃれしていこう
沢山たっくさんグッズも買っちゃおうってあんなに
心も目に見えてわかるように作っておいてくれたらよかったのに
どんだけ傷ついていたって 血が吹き上げていたって
目に見えなきゃなにもわかんないし
気づいてやることさえできない
気がついた時には なんてさ
まったく なんて代物なんだよ心ってやつは
って 誰に言い訳してんだかって感じだよね
カンケ―ない カンケ―ない
ボクのせいなんかじゃない
ボクのせいなんかじゃきっと
彼女の事情を ボクは知らない
彼女の痛みが ボクには感じない
彼女はボクではないし
ボクだって彼女にはなれるわけもないし
あの日の電話は
そう ただの偶然
カンケーない
カンケーない
カンケーない
カンケー。。。。。。
ボクはたしかに
彼女の関係者でした
美しい
夕日を見ながら私が紙になると
妻は薄い私の身体を
一枚一枚
シュレッダーにかけていく
紙はシュレッダーするものよ
と妻は震える手で淡々と私を
回転する歯の方に押し込んでいく
細断された紙片は風に乗り
どこかに運ばれ
そのどこかでもっと小さな
繊維や粒みたいなものになるのだろう
これが君と見る最後の夕日か
そう思うと紙のように
思い出までもが薄くなって
視覚も嗅覚も透明になっていく
最後に君の首筋の匂いを嗅ぎたかったな
それは言葉になったのだろうか
私は私がいなくなった後の
夕日と妻のシルエットを想像する
美しい
夏の嵐
夏の嵐が近づきつつある深夜
つかのまの眠りからも見放され
ウィスキーに水を注いでかき混ぜる
それで不安が薄くなるかのように
テレビの台風情報を眺めながら
おい、十年に一度の大物だってさ
熟睡していたインコを起こして籠から出す
こいつも水割りをちびちびやるのが好きなのだ
この地方にはめったに通らぬ台風で呼び覚まされた
わたしの知っている夜のひとつひとつを
老いた小鳥を相手に数えている
彼の迷惑もおかまいなしに
故郷の家で何かの遠吠えを聞いた気がした嵐の夜
トーキョーで友だちと馬鹿げて清潔な大騒ぎをした嵐の夜
(破産したと聞いた彼からは音信が途絶えたままだ)
諍いのあと二人黙りこんだまま蹲っていた嵐の夜
それら過ぎ去った夜の嵐にゆられながら
老いた小鳥を相手に飲んでいる
グラスに酒と記憶を注ぎ足しては
水泡を浮かび上がらせている
ぽつり、ぽつり、と雨が屋根に落ちてきた
いよいよ大嵐の気配が近づいて来たね
予報では上陸は正午過ぎだって云うけれど
グラスにはもうさざ波が立っているよ
だんだんに風も騒いできた
おい、そこの歌いやまない酔っぱらいのインコよ!
もうしたたかにお前も飲んだだろ、だからねえ
もうそろそろねぐらへ戻ってくれないか
でないとわたしはいつまでも
わたしの眠りへ帰れない
でないとわたしは声あげて、窓の外
嵐の中へ出てゆきたくなるから
ゆりかご
「ナームーホーレーキョー、ナームーホーレーキョー」僕は儀典長を務めながらボソボソとお経を唱えていた。
あいつは東京の新宿の歌舞伎でオーバードーズをキメて死んだらしい。享年二十二歳、周りは早すぎる死とか言って悲壮に暮れていた。死んだ前日にあいつと電話をしていたが、そんな素振りは全然感じなかったので驚いた。僕はボソボソとお経を唱えながら昔のある日を思い出した──。
「なぁ、お前成人式行くん?」
「行くかよ、どうせ行ったって中学の頃が全盛期のやつか、良いところの大学通ってるやつがイキったり、学歴マウント取り合いとかしながら自分たちの学生時代や現状を気持ちよくオナニー語りして射精するだけの自慰会話が繰り広げられているだけの所だろ。誰が好き好んでいくねん。行きたい奴はそうい奴らの自慰会話ディルドになりたい奴らだろ。」
「相変わらず不貞腐れてんな、まぁ、おれも行かへんけど」
「なんやねん」
僕とあいつはDiscord通話をしながらAPEXをしていた。心なしか成人式の会話をしている時、あいつのエイムの照準が少しブレついてたような気がした。ゲームは残り十人の所で敗けた。
「クソっ!あとちょいやんけ」
あいつは叫んでヘッドホンをとって席を外し、冷蔵庫から飲み物を取り出す音が聞こえた。そして席に座り缶ジュースを開け一飲みし、ふぅーと息を吐いてからまた話し出した。
「てかさ、たっちゃんとか来るん?あいつらが行くなら俺もワンチャン行くかもしれんわ」
「いやー、どうやろ。でもあいつら『久しぶりにシュウジに会いたいわ。あいつ今何してるん?』とか言ってたよ。」
「あーね、俺じゃなくて俺が今何しているのかが知りたい感じね。ならシュウジはオナニーしながら玉川上水に身投げして死んだ言うといて」
「いや、文学部ネタ挟み込んでええねん。お前大学中退してるのに何一丁前にカッコつけてんねん」
「しね、やかましいわい」
「ほんで女と心中じゃなくてオナニーかよ」
「いやー、めっちゃヤりたい。同い年で童貞じゃないやつ全員フェイクだろ」
そう言ってまたゲームを始めた。
そんな些細なことが頭の中を過った。一通り葬儀を終え、他の人達は談話していた。泣いてるいる人を宥めたり、昔話をしてノスタルジーに浸っている人、朗らかに談笑している人、色んな人がいた。意外と大多数の人がいて、僕もそうだがひねくれていたあいつが生前にここまでの人に好かれていたことに驚いた。何も僕だけではなかったことに。
「この度はご愁傷様です。」
一人の女性が赤ん坊を抱え挨拶に来た。
「ご愁傷様です。あのー、つかぬことをお聞きしますがどちら様で?」
「シュウジの叔母です。シュウジは生前、5つの時に母親を亡くし、その後は父親と暮らしていたのですが、小学生の時に父親も亡くし、その後は私たち家族のもとで暮らしておりました……」
あいつとは中学の頃からの付き合いだった。母親を早くに亡くしていたのは知っていたが、小学生の頃に父親も亡くしていたのは今初めて知った。
「話はシュウジから聞いております。今までシュウジが本当にお世話になりました。」
「いえいえ、とんでもありません。こちらこそいつも遊んでいただき感謝しています。」
咄嗟に大人な対応をしてしまった。僕はあいつの全てを知っていると思っていたがそうではなかった、なんも、あいつのことを知った気でいたに過ぎなかった。
「おぎゃあ、おぎゃあ」
赤ん坊がなき始めた。シュウジの叔母さんは赤ん坊をあやかしたが、一向に落ち着く気配がなかった。
「すいません、ちょっといいですか」
僕は赤ん坊を抱いて、あやかした。赤ん坊はリラックスしたように、まるで棺桶の中のシュウジの死に顔のように穏やかな顔をしてた。
「弟がいるんですが、小さい頃は母は多忙で、僕がよく面倒を見てたんですよ。」
「あー……通りで、色々苦労なされたんですね。お父さんは?」
「僕が物心つく前にはいなくて」
シュウジの叔母さんは申し訳なさそうな顔をした。
僕は葬式という場で赤ん坊という新たな命の芽吹きがいることにどこか不思議な心地を感じた──。
心毒丸
青年が十九になった春、父親が再婚した。母親が縊死してから三年が経っていた。青年の心裡には母の死が深く残っていた。
父親は運送会社で働いており、朝早く出て夜遅く帰る生活を続けていた。新しい妻は父親より十歳ほど若く、最初のうちは青年にも接していたが、再婚相手の母親は青年のことをあまりよく思ってなく、青年も俄かにそれを実感していて、家族に対して寂しさから来る反抗をぶつけていた。父親のいない時間になると、再婚相手の母親は青年に冷たく当たるようになってきた。青年の大学の学費も私的に使ったり、父親にも飽きてきて、別の男と浮気することも多々あった。家では何か問題が起これば、青年のせいにされた。青年は父親に話そうとしても、父親は再婚相手の母の顔を窺っているせいか、あんまり青年の事を庇う事なく、父親も見て見ぬふりをしていた。再婚相手の母親はどうにかして青年を家から追い出そうと思っていた。
「反抗期だから、最近、私にきつく当たるんです」
そう言われるたびに、父親は困った顔をするだけだった。食卓の蛍光灯の白い光の下で、箸を持ったまま視線を落とし、何か言いかけては飲み込む。その沈黙が、青年には何より重かった。
やがて、青年は引きこもるようになった。
大学にも行かず、公園や友達の家で時間を潰すようになった。家はもう、帰る場所ではなくなった。
冬の頃だった。再婚相手との喧嘩のあと、父親は初めて青年を殴った。青年から事情を聞くこともなく、再婚相手の言葉だけを信じた。青年はその夜、自室で荷物をまとめた。窓の外では冷たい風が電線を鳴らし、遠くで犬が一度だけ吠えた。財布と着替え、それから母親の写真だけをリュックに入れた。写真の端は少し擦り切れていたが、母親の笑顔はまだはっきり写っていた。
翌朝には家を出ていた。スマートフォンを捨て、誰にも連絡しなかった。電車を乗り継ぎ、見知らぬ地方都市へ向かった。海の近くにある人口数万人ほどの町だった。駅を出ると、潮の匂いが風に混じって鼻をくすぐった、遠くの防波堤に打ちつける波の低い音が聞こえた。商店街のアーケードは古びていて、色あせた看板が並び、シャッターの下りた店の前を自転車が静かに通り過ぎていった。行く当てはなかった。ネットカフェを転々とし、公園のベンチで夜を明かした。夜の公園は街灯の下だけが白く浮かび、風が吹くたびに木々の葉が乾いた音を立てた。
やがて所持金も尽きた。このまま餓死してやるのも一つの逃避だと青年が思ってたところ、コンビニの前で座り込んんだ時、一人の人から声をかけられた。声をかけたのは小さな定食屋の店主だった。五十代の女性だった。女性は青年の事情は聞かなかった。ただ、
「腹減ってるでしょ」
と言って、店に連れて行かせようとした、その刹那青年は走って逃ようとしたが、数日前からまともに食事をとってなかった彼は、逃げる前に倒れてしまった。女性は救急車を呼ぼうと思い、青年の身分がわかるものを探そうとし、青年の財布をあけたが、中身が空で何かワケがあると思い、警察に連絡を入れようとした瞬間、青年が僅かな力を絞って
「お願い……します………どうか、警察や…救急の人には連絡しないでください……。」
と言った。女性は不審な気持ちを抱きながらも、一応自分の店に青年を運び、状態がよくなってから連絡しようと考えた。そして、翌朝、青年は目が覚めて、気付かれない内に逃げようと思い店の扉を開けようとした途端、声が聞こえてきた。
「おはよう、もしかして君は家出かい?」
渋い男性の老人の声がした。青年は固まってしまい、あそこに帰らせられると思った。しかし、男性は目を卓上の方へ向けて、
「まぁ、食べなよ。色々あるのはお前さんが話したくなった時に話せばえぇ」
卓上には焼き鮭と味噌汁とご飯が並ばれていた。彼はビクビクしながら席に着き、箸をとって食事を口に運んだ。その刹那、つーっと涙が頬を流れた。
それが始まりだった。その後、店主は知り合いの農家や漁協の人たちを紹介した。青年は学校へは通わず、アルバイトをしながら暮らした。
農作業を手伝った。朝露の残る畑で土を起こし、泥のついた野菜をコンテナに詰めた。土の匂いは湿って重く、朝の空気は冷たかった。
漁港で荷物を運んだ。潮風に混じって魚の生臭さが漂い、岸壁にはカモメの鳴き声が鋭く響いた。氷の入った発泡スチロール箱は冷たく、手袋越しでも指先がかじかんだ。
古い倉庫の掃除もした。埃をかぶった床を掃くたび、乾いた埃が光の筋の中で舞い上がった。
町の人々は不思議なほど世話を焼いた。誰も無理に過去を聞かなかった。
「話したくなったら話せばいい。」
皆そう言った。青年は少しずつ町に馴染んでいった。朝になれば店の暖簾が揺れ、昼には港のラジオから古い歌が流れ、夕方には商店街の魚屋から氷を砕く音が聞こえた。いつの間にか青年の日常になっていた。
やがて二十歳になった。定食屋の店主は誕生日にケーキを用意してくれた。小さなホールケーキの上で、ろうそくの火が揺れ、甘い生クリームの匂いが店いっぱいに広がった。漁港の男たちは酒を奢った。グラスの氷が鳴り、笑い声が夜の港に弾んだ。農家の夫婦は実家から帰ってきた息子のように接した。血の繋がりはない。それでも青年は初めて、自分が誰かに必要とされていると感じた。
それから数年後のことである。秋祭りの日、人混みの中に見覚えのある顔があった。父親だった。白髪が混じり、以前よりずっと老けて見えた。祭りの提灯が赤く揺れる中で、その顔だけが妙に冷たく見えた。境内には焼きそばのソースの匂い、綿あめの甘い匂い、炭火で焼かれるイカの香ばしい匂いが混ざり合い、太鼓の低い響きが胸の奥まで伝わってきた。人々の話し声、子どもの笑い声、屋台の呼び込みが重なり、夜の空気は熱を帯びていた。
父親は何年も探していたという。警察には相談せず、家にいるよりかは外にいる方が青年にとって幸せだと思っていた。知再婚相手の母親とはすでに離婚していて、別れたのを機に青年を探し始めた。父親は頭を下げた。長い時間をかけて、何度も。
息子の話を聞かなかったこと。
守れなかったこと。
見て見ぬふりをしたこと。
そのすべてを謝った。
青年は自分の親がここまで号泣しながら罪を贖うかのように誤り続ける姿に怒りなど沸かず、後ろめたい気持ちが徐々に募ってきて、青年は泣き始めた
「僕のほうこそごめん」
青年は顔を涙と鼻水にまみれながら泣いた。
祭り囃子が遠くで鳴り、笛の高い音が風に乗って流れてくる。屋台の明かりが父親の横顔を照らし、深く刻まれた皺を浮かび上がらせていた。
「帰ってこないか」
父親がそう言った刹那、境内の向こうで太鼓がひときわ強く打ち鳴らされ、観客のどよめきが波のように広がった。提灯の列は橙色の光を連ね、足元の砂利は人の往来で細かく鳴った。
「ごめん……やっぱ………ここにいたい。」
青年は下を向きながら静かに応えた。
「そうか…」
父親は諦めと微妙な納得感を以て静かに応えた。
定食屋の店主が屋台の準備をしている。鉄板を拭く金属音が聞こえ、湯気が白く立ちのぼっていた。漁港の仲間たちが手を振っている。遠くからでも分かる大きな声で、新徳の名を呼んでいる。子どもたちが走り回っている。草履が砂利を蹴る音、笑い声、誰かが落とした風船の軽い弾む音が、祭りの熱気の中に混ざっていた。
その光景を見て、父親は静かに笑った。
「いい町なんだな」
青年はうなずいた。
父親もまたうなずいた。
それ以上、何も言わなかった。
夕暮れの空に花火が上がった。最初の一発が夜空を白く裂き、少し遅れて腹に響くような音が届いた。赤、青、金色の火花が広がり、潮の匂いを含んだ風の中で、火薬の焦げた匂いがかすかに漂った。見上げる人々の顔が一斉に照らされ、歓声が上がった。
二日後、父親は仕事があるので家に帰るべく駅へ向かった。たった二日間だけだったが青年にとっては数年間の体感だった。生まれた家は失ったかもしれない。しかし、流れ着いた土地にはそれ以上なものがあった。人に迎えられ、人に育てられ、人に支えられて生きてきた家族めいた実感があった。
青年は仲間たちの輪の中へ戻っていった、海からくる潮風が青年の頬を撫でた。
こどものじかん
歴史を受けわたすことは
あまりにも交接に似ているので
かしこいあなたもまちがえたのですよね
光が折れて失われるほんとうのこと
月 まだ名前をつけられていない星と
すべての青 東京の汚い空
K先生 幻惑をみとめながら
好きだと囁くならその嘘を最後まで
護りぬかなければなりません
愛は世界を危険にしてしまう
揺るぎない知恵と力とが
揺らぎのわたし 揺蕩いのわたしを
あたためる営みが正当だとしたら
あってはいけない
寝室が教室であってはいけない
だって海が見たかっただけなのに
どうして溺れているのでしょう
愛しい人殺しの後退した髪を風が嬲るとき
わたしはクラゲの海になりたいのです
主張強め日記 7月11日 B-REVIEWのアーカイブ引き継ぎの拒否について
B-REVIEWというすでに投稿機能が失われた現代詩の投稿サイトについて。7月20日をもってサイトへのアクセスが完全に遮断される予定であること、また来年初にはデータそのものも失われると思われることを踏まえ、私たちはアーカイブの整理と引き継ぎを申し出てきた。現管理者との折衝は非常に時間のかかる、というより率直に言うと無為に待たされるものであったが、この度、引き継ぎの申し出を拒否したいという返答がはっきりと示された。
拒否の理由は下記の通りだそうである。示された文章をそのまま掲示しておく。
1)運営としては、6月20日〜7月20日にかけて(短期間ではあるが)アーカイブ化を実施しており、その間に取りに来なかったユーザーはB-REVIEWを「単なる詩の保管庫」としか看做していないだろうと思われる
2)そもそもガイドラインに「サービス終了時の対応」について明文化されていない(改変前・改変後どちらも)
3)ユーザーによる投稿の結果、「これは詩誌に投稿したい」と思わせる結果となった作品もあることだろう、詩は未発表作品であることを前提とした賞が多いと感じるため、「サービス終了したサイトに載せられた詩」に関しての応募要項は各詩誌に問い合わせる他ないと思われるが、いずれにせよ運営側がユーザーの足を引っ張ることはしてはならない
ディベートをする意義があるとも思えないが、念の為、順に応じておく。
1)については、意味が判然としない。一ヶ月のアーカイブ期間の存在を知らないユーザーも多いだろうし、そもそも10年分の作品とコメントを各自が手元に保存しきることなど不可能である。いまは要らなくても、あとから「あの時のあれが読みたい」となることは十分にありうる。取りに来なかったことは、消してよいことの根拠にならない。
2)については、明文化されていないのなら、全部消してアクセス不能にする権限も、あるいはデータだけを特定個人の手元に残してアクセス不能にする権限もまた、明文化されていない。規定の不在は、消す側の根拠にこそならない。
3)については、削除要請があれば速やかに対応できる仕組みを整えた上でアーカイブする、と当初から提案している。消したい人は消せる。残したい人は残る。一律の全消去よりユーザー本位であることは自明だろう。
いずれにせよ、これらは論理的な帰結ではない。自分たちに一切の負担をかけずに引き継げる手段が現に提示されているにもかかわらず、それを取ろうとしない。その姿勢が明確になった。
私はサイトを運営する立場の人間として、「引き継いだサイトを次に引き継ぐことなく閉め、ユーザーが作品にアクセスできない状態にすることを望む運営者などいない」という前提でこの折衝に臨んでいた。だから手助けをしたい、負担はすべてこちらで引き受ける、と申し出てきた。だが、残念ながら、その前提自体が違う、ということだろうと思う。なくなろうと、どうなろうと、あまり関心がないのだと思う。そうした精神性で、なぜ運営にジョインし、中心人物たちが失踪した後も対応の任に就き続けているのか、私にはわからないし、おそらく今後わかるようになることもないだろう。
ここで、はっきり書いておきたい。B-REVIEWとは本来、理念への同意だけを運営資格の根拠とするサイトだった。ガイドラインに合意する者であれば、誰でも運営になれる。裏を返せば、理念に同意していることだけが、権限を振るうことの正当性のすべてだった。場の理念に賛同せず、維持にも継続にも引き継ぎにも関心を持たない人間が運営の座に就き続ける。これは、このサイトの設計に照らして、運営という営みの根幹が壊れていることを意味する。理念を共有しない運営者とは、たまたま権限だけを手にした第三者に過ぎず、そのような者に、10年分の他人の作品とコメントのログを永久に葬る決定を下す正当性はない。
私は現管理者に対して、次の問いを投げている。10年近く代々引き継がれてきたサイトのアーカイブを、コストも手間もかけずに引き継げる相手がいるにもかかわらず引き継がず、永久に消すことを選ぶ、その責任についてどう考えているのか。そう選択する権利が自分たちにあるのか、あるとすればその権利を行使したい理由は何か、と。本稿執筆時点で、回答はない。回答があれば記録するが、もはや期待はしていない。
この申し出が最終的にどうなるかは、まだ確定していない。ただ、はっきりさせておきたいのは、この取り組みの狙いは、データを引き継げるかどうか、だけではないということだ。
私たちは引き継ぎを申し出た。負担はすべてこちらで持つと提示した。そして相手の回答を、その理由とともに、こうして皆さんと共有している。誰が何を決め、何に答えず、何が失われようとしているのか、それを見える場所に記録し続けること自体が、すでに一つの運営実践である。思えば、B-REVIEWの本来の理念とは、オープンな運営、すなわち意思決定を投稿者の見えるところで行うことだった。その理念をいま実際に動かしているのはどちらなのか。答えは、この日記が公開されている場所そのものが示していると思う。ここまで運営の内部事情や考えを垂れ流し、コンテンツ化する文芸投稿サイトも珍しいだろう。B-REVIEWの理念を我々なりに再解釈し、引き継いでいるからこそ、もはや壊れてしまったB-REVIEWについて語ることにも意義があると考えている。
B-REVIEWという取り組みは、データが消えても消えない。あのサイトが本当に蓄積したものは、サーバーの中のテキストではなく、「誰もが自分ごととして関われる創作と批評の場は設計できる」という実証の経験であり、それを担った書き手たちである。理念に共鳴した人間が場所を移して書き続けている以上、失われるのはアーカイブであって、系譜ではない。
文芸投稿サイトとは、作品の保管庫と投稿機能のことではない。膨大なコメントの応酬、サイト運営をめぐるやり取りや議論、そうした全体を含めてはじめて「場」なのである。場を預かるとは、その全体を預かることであり、どう終わらせるかまで含めての責任である。CWSは、仮にいつか終わる日が来るとしても、誰の判断かもわからないまま場を闇に葬るような終わり方だけはしない。終わり方まで設計してこそ、運営である。
だから、この一連のやり取りを公開しながら進めていくことには、データの行方とはまた別種の価値があると考えている。場の終わらせ方とは何か、預かったものへの責任とは何か、私たちはどういう方向で運営していくのがよいか。こうした問いを皆さんと共有し、議論しながら、CWSというサイトのコンセプトと運営の方向性を鍛えていくこと。それこそが、この日記を書いている理由である。
みっつめの
わたしにはみっつめの眼がある
両の目と違いそれは指先にある
その眼でわたしは見つめる
きみを、雨を、冷めた眼差しの数々を
閉じたくても閉じられない眼で
この世のあらゆるものを見続ける
わたしの指先にはちいさな太陽がある
空にある太陽とは照らすものが違う
その太陽はこころや人を照らしては
その内にあるものを見せてくれる
きみを、雨を、あたたかさを持つものを
沈むことなく照らし続ける
ラタトゥイユ
フライパンで妻が
僕の持ち帰ったトマトとナスと
その他大量の有機栽培野菜で
見慣れない料理を作った
塩は肉を炒めたときしか使わず
トマトの酸味とズッキーニの旨味と
いろんなハーブの匂いがしている
ーグリーンカレーかと思ったけど、カレーじゃないね
ーイタリアンだよ
ーエスニック料理かと思った
ーもとは影響あるのかも。アフリカの人も好きみたいだから
ふうん。
と、僕は思う
ちかごろ妻はアフリカ人の暴食動画を毎日見ているので
アフリカの食生活に詳しいのだ
ーおいしいね
ーラタトゥーユ
自慢げに妻は言う
そうか、これがラタトゥイユってやつか、と僕は思う
ープロバンス地方の伝統的な郷土料理なんだよ
ープロバンスってよく聞くけど、どこにあるの?
ーイタリアのどこかでしょ
有名な観光地で、
プロバンス出身の有名な歌手がいっぱいいて
みんなラタトゥーユが大好きなんだって
ーそうなんだ
有名な俳優とかもいそうだね
と、僕は言う
短時間で、香りを飛ばさず強火で煮た野菜が
彩りも緑、黄色、紫、赤、ベージュと鮮やかだ
妻はいつも絵を描いていて
ときどきはイラストの仕事もしてきた
そればかりか
彼女の絵を好きになった僕が
この絵の作者にひとめ会いたいと、
彼女の個展に行ったのが
僕らのなれそめなのだ
僕も絵は好きだし
そればかりか
ピカソ、ゴッホ、ルノワール、セザンヌ、マティスは
(いずれも南仏プロバンスを愛した画家)は
ものすごく好きなのである
だがそんなことは
二人とも翌朝まで
まったく思い出さず
僕らの晩ごはんのラタトゥイユと
二枚の皿の並んだ
小さなテーブルの上では
イタリアのどこかの市の
たぶん広々とした真っ黒な大地の
プロバンス地方に揺れる
トマトとナスと
ニョキニョキ生えてるズッキーニを
水晶みたいな陽光がすてきに照らして
穏やかな風が吹いていた
傘
二度と行かない所に
赤い傘を忘れた。
雨の日に元気でいられるようにと
赤を選んだ。
もしかしたら、もう、
いらなくなったのかもしれない。
最後
昼休み、まだパンは残っていた。
窓の向こうの地平では、雲が赤く光っていて、遠くで何かが燃えているのか、夕焼けが早く来すぎたのか、俺には分からない。
それでも、購買前の自販機はいつも通り動いていて、焼きそばパンを一つだけ抱えていた。
彼女は、財布から小銭を出そうとして、手を止めた。
指先が透けている。
「半分こする?」
と彼女が言う。
「いいよ。腹減ってない」
「嘘」
「嘘じゃない」
「嘘だよ。朝から何も食べてない顔してる。」
そんな顔があるのかと思ったが、彼女は昔から変なところを言い当てる。
俺たちは非常階段に座った。校庭には誰もいない。朝礼台の横にライン引きが倒れ、そこから溢れた石灰が少しずつ流れて地図を描いていた。
彼女はパンを二つに割り、大きい方を渡してきた。
「そっちのがおっきい」
「気のせいだろ」
「見れば分かる」
「じゃあ見んな」
俺は冷えたパンにかじりついた。ソースの匂いだけがやけにはっきりしていた。
ふいに、パチンと乾いた音が鳴った。
音のした方を見ると、彼女の袖口の下から細い光の線が一本伸びていた。ひび割れた空の欠片みたいだった。
「痛い?」
彼女は首を横に振り、くすぐったいと言う。
「ほんとか?」
「ほんと」
それが嘘だと分かっていた。でも、俺も嘘をついていたから、何も言えなかった。
遠くでサイレンが鳴る。これはもう、訓練ではない。先生たちも走ってこない。放送室からは、ずっと、砂嵐のような音だけが流れている。
彼女はパンの袋を畳み、綺麗に端を合わせ、いつもみたいに小さな四角形を作る。
「ねえ」
「なに」
「明日も購買開いてるかな」
校庭を見ると、地図が少し広がっている。
「開いてるよ」
「焼きそばパンあるかな」
「あるよ」
「最後じゃない?」
「明日の最後がある」
彼女が少し笑う。その声があまりに普通で、俺は少し怖くなる。世界が終わることより、明日の焼きそばパンの話をする彼女の方が怖かった。
多分俺たちは、最後まで話をする。最後まで、普通の話をする。好きだとか、行かないでとか、死なないでとか、そういう大事な言葉は、きっと言えない。だから代わりに、パンの話をする。
彼女の指はさっきよりも薄くなっている。でも彼女はまだ、パンの袋を持っていた。
「半分こ、またしようね」
彼女が言った。
その時、校舎の窓が一斉に震え、空が光に覆われた。彼女は空を見なかった。俺も、見なかった。ただ、残った焼きそばパンを少しずつ食べた。
ソースの味がする。昨日と同じ味がする。明日も同じ味がすると、俺はまだ信じていたい。
八月
「クーロンで泳ぐ熱帯魚は死んだことがないんだよ。
死んだことを自覚するための
うつつが
わからなくなる街だから
死んだって
思わないんだって。
「夢の中で溺れてしまえば
死んでしまうよね?
「溺れるような夢を見る方が悪いって。」
また誰か
蝉を知らず知らずのうちに
踏み殺してしまったようだ
僕も君も
似たような寝汗をかいている
よせあえば焼き殺してしまうほどに
ふれあっている部分がやわい。
献華
数刻前、一人の男が死んだ飼い猫を抱えて崖から身を投げた。深く仄暗い無機質な断崖の張り出した岩肌に身を削られ、水滴が滴るような緩急をつけて落ちた。しまいには地面に打ち付けられて男はあっさり死んだ。
彼の人生は暖かく淡い日差しで始まった。
ふかふかとした心地よい草原の上に寝ているような、そんな感触に微睡んでいた。小鳥の囀りが彼の耳を掠めていた。うつ伏せに臥して横を向き低反発な枕に重い胸と腹を預け両腕を下敷きにしていた。枕が頭から大幅にずれるのも些細で気にならない。
初めて意識の発生したその瞬間、どんな雑音さえ頭を過らなかった。ただゝ快かった。どんな障害も不都合も彼の世界には干渉できない。しかし、彼の曖昧な意識はそれらを無視することが出来たのだった。意識というものは存在を知覚したら最後覚醒して行くもので、抗おうとすればするほどよりその影を濃くしていった。そこで彼はだんだんと外界の不都合を無視できなくなってきた。ここで初めての違和感を覚えた。彼は肌を取り囲む微弱な刺激に一抹の不安を抱いた。そして、徐々に彼の意識の輪郭がはっきりして来た。神経に血が巡り、より明瞭になった感覚で不安を払拭するように自分の懐の暖かさに安堵の念を感じたのと同時に枕のじっとりとしたつめたさを知覚した。ここで初めて不快感を覚えた。なんだかひんやりとしていて、重く、指先で触れるとぬらぬらとしている。身を預けるのが嫌になって身を捩った。そして、ここで初めて痛みを覚えた。唸り声が耳を貫き頭に響いた。目を見開いてその日の青白さに眩んだ。明滅に眼球の奥が脈打つように痛み、顔を歪ませ首を背ける。そのうちまた耐え難い痛みが彼を襲う。息も絶え絶えになりながら磨り硝子を嵌め込んだような視界で辺りを見渡した。地平線から覗かせている太陽と目が合い、赤く半透明な空に斑な黒点が揺れ、水面に遊ぶアメンボのようだった。彼が顔を上げると同時に鼻からぼたぼたぼた、と何かが垂れて鼻腔に錆びた膜が張っていくのも束の間、酷く咽て吐くように咳き込む。胸部の激しい運動に伴う痛みに耐えられず咄嗟に口を覆うことを試みるが重たい枕に押し潰されている右腕はただ激痛を脳髄に流し込む複雑な何かになっていた。左手の肘を地面について半身を起こした所で彼はまた咳き込み、痛みを少しでも吐き出すように吐血した。
彼はこれでもかと目を見開いた。血液でじっとり押し固められた土に堕ちた自分自身の懐中の影にその苦痛を訴えかけた。ただ右腕に乗った数秒前まで体重を預けていたそれを凝視していた───。
──────視界がやっと晴れてきたその折、彼は何かの死骸と目が合っていた。
褐色の断崖の下、若菜の芽吹いた冷たい緩やかな地獄の底で彼は目覚めた。折れた利き腕。抉れた背と脇腹、バケツを倒したように浸みた血。神の与えた罰なのか、はたまた残酷な重力の悪戯なのか。数刻前、彼は惜しくも致命傷を逃してしまった。そして今際の際に、ほろほろした土に額がめり込んだ衝撃でその中身が震え、変形し、裂け、血液が思考能力、知識、そして剰え記憶すらも一切全てをさらっていき、鼻から零れ落ちたのだった。
彼はただ震えていた。しかし、じっと視線だけはそれから離さずにいた。腕に抱かれていたそれは何かの生き物の死骸だったが赤黒いその毛皮は染料にぐたぐた浸して放置されていた雑巾のようで、彼の血なのか、それ自体の体液が滲み出たのか既に判別がつかない。右腕を伝う感覚はずっしりとしていて、角の取れた石を入れた、だるだるの水風船を先ほどの雑巾でくるんだような物だった。その半開きの目には蠅が止まり、不快な臭いが鼻を通り眉間の底を刺す。胃酸の味に頭をもたげ懐の惨状に目を伏す。横腹からはゆっくりと絶えず血が流れ確実にその体温を奪っていた。本能が恐怖を叫んでいる。本能ただ一人が。しかし真隣で脳は黙りこくってその声を聞いていた。何故ここまで寒いのか。この赤色が何故ここまで恐ろしいのか。記憶の零れ落ちた彼には出血の危険性は分からなかった。
地平から刺す日差しに背を押し倒されるように彼は再びうつ伏せに臥した。浅い息遣いが通りすがりの優しい風にかき消されていく。ついにその呼吸すらも幻聴のように疑わしくなり、ついには薄目を開けてその死骸を見つめたままぴくりともしなくなった。彼は間も無く死ぬのだろう。そう思っていた。一体何故だ?何を思ったのだろうか。彼は息を吹き返し再びその半身を起こそうと左の肘で地を支えてみせた。そして左の膝を腹の前にねじ込み膝立ちで起き上がったのだ。空いた腕で死骸をどかしゆっくりと足の裏を地につける。何が彼をそうさせるのかは分からない。彼はふらふらと、しかし確実に、その両足で立ち上がった。人生で初めてその足で立ち上がったのだ。
彼は頻りに辺りを見渡し青灰色に反射した一つの石に目を留めた。間髪入れずに足を出す、蟻のような歩幅で、強い使命に突き動かされるように。呻き声と引き換えに掌にその石を収め、先程の歩みで死骸の隣に再び膝をついた。一つの静寂のあと、その柔らかな土肌に石が突き立てられ音無き衝動が春の寂寞を裂いていった。不慣れな手付きでそれを押し倒し草の根もろとも土を掘り返す。視界の端を何かが白やら黄色に明滅して揺れ動く。何度も何度も突き立てては掘る。何かに駆られるように。強い使命に突き動かされるように。
本格的な朝日が昇り、彼の色濃い焦燥の色が薄れて来たとき、彼の前に一つの影がぽつんと空いた。乾燥していた血と汗とが溶けあってその影に吸い込まれていった。彼はそれを見て少しだけ安堵して隣に横たわったそれを左手でそっと入れた。半開きの目を一瞥してからその腹に、足に、頭に、暖かな土を被せるが、咳き込んで手が止まりなかなか進まない。一度は逃れた焦燥が再び迫り腕を急かしていく。やっとの思いでその小高い土を押し固めて石を突き立てた。
その刹那、慣れてきていたはずの視界が変に眩んで、先程の明滅が淡い帯を引き始める。
眩んだ彼の命は潰えかけていた。乱雑に淡い帯の始点を掴みぶちぶちと引きちぎる。強い使命に突き動かされるように。まとめ上げられたそれは酷く不格好で数枚の千切れた色がはらはらと空を散っていった。彼は冷たく震えた手で、手中に残っている全てを静かに石の前に供えた。
彼の使命は燃え尽きた。冷たく刺すような日差しの中で彼は己の影に吸い込まれていった。影に吸い込まれた彼は粗いモザイクのような目で、灰色の世に咲き、佇む一輪をただ視界にとらえていた。感覚も絶え、消えかかった手を伸ばし、ただその暖かさに触れようとした。彼は目を瞑り虚空を掴むように弱弱しく、されども確実にそれに触れた。胸の前にそっとその一輪を抱き、消え入るような息を吐いた。
────────────そして、木漏れ日のぬるさの中で彼の熱は潰えた。
まるはちの暖簾
「小夏がなっているはずだから、田舎に行きたい。」
父がそう言ったので、初夏に中核市から車で一時間半かけて田舎の家へ向かった。
田舎の家の畑には、いつの間にか狸が住みついていた。
庭の小夏はたわわに実り、父は手際よくもぎ取っていく。
ものの数分で収穫コンテナは満杯になった。
まだまだ実は残っていたが、その日はそれで帰ることにした。
運転と慣れない収穫で私は少し疲れていた。
そんな帰り際、限界集落の代表的な町に、おしゃれなカフェができていた。
コーヒーでも飲んでいこうということになり、立ち寄った。
店ではオーナーらしき女性が明るくもてなしてくれて、
ランチも小味が効いていておいしかった。
女性の母親も静かに椅子に座っていて、歳を重ねてもどこか品があり、
父は「美人や」とぽつりと言った。
ふと棚を見ると、いちばん上の左側に
「㊇酒店」と書かれた大きなとっくりが三つ置かれていた。
大事なもののように見えたので、私は女性に尋ねた。
「もしかして、造り酒屋さんだったんですか?」
昭和の時代まで酒造業を営んでいて、屋号を復活させたのだという。
その話を聞いていた父が、急に目を輝かせた。
「まるはち…まるはち!」
「お父さん、知ってるの?」
と聞くと、父は嬉しそうに語り始めた。
「うん、知っちゅう!知っちゅう!なんで知っちゅうかというと、
昔、大きな台風が来て、まるはちの暖簾が川に流された。
それをお父さんが拾うてきて、お母さんが毛布に縫い直した。
昔は毛布なんて買えんかったき、それを使いよった」
私は思わず、店の女性の手前、
「それ、まるはちの人にちゃんと言ったの?」
と父に聞いてしまった。
女性は「もう、時効でしょう」と柔らかく言った。
そうか、七十年以上前の話なのだと我に返った。
それにしても――暖簾は毛布になるのか。
麻か綿だろう、と私は思った。
肌ざわりは硬く、ハリもあるはずだ。
綿を詰めたのかとも思ったが、毛布が買えないほどの時代に
綿が手に入ったとも考えにくい。
田舎の冬は雪がよく降る。
私の記憶の祖母は、さっぱりした人だった。
亭主が川で拾ってきた暖簾を毛布に縫い直す姿は、
どこか意外で、そして印象深い。
「川で暖簾を拾ってきた」
「毛布にしましょうか」
そのやりとりを、遠くにも近くにも感じていた。
数か月後、庭の整理で再び田舎に行き、同じようにカフェに寄った。
女性は私たちを覚えていて、
「あの時の暖簾の話があまりにも面白くて……ごめんなさい、
勝手に地元の新聞のコラムに投稿してしまいました」
と、申し訳なさそうに、しかしどこか嬉しげに話した。
造り酒屋だった家の名を受け継ぎ、店を開いた彼女。
「まるはち」の暖簾の話は、彼女の心にも残る何かがあったのだろう。
暖簾は毛布になるのか――その問いは、今も私の胸に残っている。
父は家具が壊れたりコードが古くなったりすると、
よくガムテープで補強する。
私はそれを見て「貧乏くさい」と思ったこともあった。
けれど、暖簾を毛布にした話を思い返すと、
父の原風景を見たような気持ちになる。
祖父と祖母のエピソードには、
物がなくても何とかしてしまう、
屈強で、ひょうひょうとして、
どこかコミカルな気質がある。
ガムテープで補強された家具を見て、
ふと親しみを感じる自分がいた。
祖父が暖簾を拾った田舎の川は、
今日も変わらず流れている。
灯
電燈が人を見送ってる。
ゆらりゆらりと人を照らせながら
苔むした電燈が人を見送っている。
ぴかりぴかりと点滅しながら苦しそうに
乾びた電燈が人を見送ってる。
解れながらも父のように堂々と
点滅しながら母のように優しく
ゆらりゆらりと人を照らせながら見送っている
パスタの山
街はずれに
パスタの山があって、
夕方だけ
少し湯気を立てる。
誰も登らない。
食べもしない。
ただ遠くから見て、
あれはいつか片づくだろう、
と言う。
僕は靴を脱いで
その山に入る。
麺はまだ温かく、
足首に絡み、
ふくらはぎを撫で、
腰のあたりで
急に重たくなる。
泳ぐしかなかった。
クロールも
平泳ぎも
誰に教わったわけでもない。
ただ、やわらかいものに沈まないために
腕を動かした。
小麦の匂いがした。
オリーブオイルの光が
夕焼けを薄く伸ばしていた。
頂上には
巨大なフォークが刺さっている。
誰かがここまで食べて、
途中で飽きたのだろう。
あるいは
最初から食べる気などなく、
刺したまま
忘れてしまったのだろう。
僕はその影に座り、
遠くの街を見る。
ビルも、
駅も、
コンビニの明かりも、
弁当箱の隅に残った
小さな具のようだった。
生きていることに
大きな意味がなくても、
こうして
意味のない山を泳ぐ日が
一日くらいあっていい。
帰り道、
髪から一本
、スパゲティが落ちた。
それは歩道の上で
夕日に光っていた。
僕は少し待った。
でも
それは何処へも行かなかった
端緒
神籬の傍らで
鉛色の空が
崩れ落ちた
榊の葉先を越えて
幕屋を打つ
瀟々と
土を解く雨音が
拍を取る
最初の呼吸
銀雨の向こうに
空の傷口から覗く青
── 碧井雫
#碧井雫#詩#現代詩
タンポポ
いつまでも 変わらないと 言ってたね
まぁ 誰も そう言わなきゃ 生きてゆけない
今にも泣きそうにうるんだ ひとみだけを
この胸は おぼえていた
心だけは 変わらないと 言ってたね
口紅が にあうように なってもと
今までおぼえていた 君の素顔は
もうこの胸を 逃げてゆく
あぁ 時の風に吹かれて 飛んでゆく 白いタンポポ
いつの日かまた どこかで 会えたとしても
東京の風に吹かれて 散ってゆく 白いタンポポ
好きだったのは きれいな君じゃない
久しぶりの 言葉も 僕は言えず
昔より ずっときれいな 君がほほえむ
今までおぼえていた 君のえがおは
もう この胸を 逃げてゆく
あぁ 時の風に吹かれて 飛んでゆく 白いタンポポ
コンクリートのすきまの 土にしがみつけ
東京の風に吹かれて 散ってゆく 白いタンポポ
好きだったのは 黄色い花じゃない
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https://youtube.com/shorts/1zFHNH4t5fE?si=6C8DSfpyHdT7D0_q
【批評】イーダビーさんの映画が良いです
https://www.mettle.co.jp/iidabii/
https://www.imageforum.co.jp/theatre/
映画「詩人iidabii ある宗教2世の記録」がとても良い映画ですので、推しかつさせていただきます。
この映画は社会問題を告発する主題を含む映画です。
二人の共同監督のうち松井秀裕はドキュメンタリーを手がけてきた制作会社の代表取締役/プロデューサー。津田友美は「ガイアの夜明け」「情熱大陸」「NHK BSスペシャル」などを作成。そんな二人が3年に及ぶ丹念な取材で、重い課題に取り組んでます。
でも、何よりこれは圧巻の芸術映画でした。
イーダビーさんの朗読はアートだなぁ、としみじみ。心洗われました。
作中のマサキ・オン・ザ・マイクさんの作中批評も大事なことをズバリ指摘してるし、暖かいです。奥さんも良いです。アート映画って、こうゆう周りの人の味わいのある言葉、大事なんですよね。
でも何と言っても、この映画は、イーダビーの言葉のパフォーマンスがとても良いです。
僕は2010年代に彼の朗読パフォーマンスを観て、アートの初期衝動みたいな部分で好きになったのですけど、その後の歩みと深化がとても良くて、感動しました。
イカシてます。
やめることが
できない
お酒も
煙草も
ギャンブルも
恋愛も
生きることすら
できない
だってまだ
なにひとつ
やったことがないのだもの
朝焼け
真実を知りたくて夜をすごしてる
うまく息を 出来ないので ごまかす
わたしは あなたの敵だったか
自らに 疑いをかけて 十キロ
また 目を凝らして あるく
見つかるのは
汗
良くて 風
道が怠く
足は眠い
二束三文の踵
朽ちろ
月が
唇を
動かして
告げる
あしたの朝一番
公衆電話で
見つかった
死体を
迎えに行くから 乗りなさい
痺れない
… … (V)
を
上げれば
滞りなく
進行すると おもうので
あなたに
… … (W)
を
絞って
いけない… …
金貨と目薬(2)
<3人の関係➊>
キャバクラで働く深水 琴李(23歳)は際立って美人とは言えなかったが、
スタイルの良さと頭の回転の良さで毎月の売り上げランキングでベスト3には入っていた。
深水が売り上げナンバー1に拘らないのは深水自身が夜の世界に対して執着が無かったからだった。
昼間のファッション雑誌の契約モデルとしての仕事を充実させて、
モデル業界で注目されて上手くすれば芸能界への進出を考えていたからだった。
予定していたモデルの子が事件を起こし、雑誌の大き目なイベント撮影が深水へと回って来たので勝負所と思い
店の常連客から貰った紹介状を使い会員制のスポーツジムへ行く事に決めた。
有名ともあって入会費と年会費だけでも百万を超えた。
しかし夢への投資と思い躊躇う事なく入会し受付でトレーニング・メニューの相談へと進んだ
夜の酒を抜くとは言えなくて不規則な生活からくる体のぬくみ取りとウエストの引き締めを中心としたエクササイズを頼んだ。
何人かのトレナーが交代でメニューに従いトレーニングを進めてくれた。
トレーニングの甲斐もあってイベントも好評に終わり少しずつ昼の仕事も増え夜と昼の仕事の割合差が無くなり、
ジムへ行く頻度が増えだした時に「僕が専属トレナーに成っても良いですか?」と声を掛けて来たのが
武内 達也(25歳)だった。
「良いですけど、追加料金とかが高いんじゃないですか?」の深水の言葉に「追加料金とかは頂きません。
深水様の活動の手助けをしたくて御声を掛けさせて頂きました。」と爽やかな笑顔と共にプレゼンして来た。
要するに私を雑誌で見たフアンの一人だなと深水は思った。
「良いですよ。追加料金も不要で私の事を応援して下さる人なら歓迎です。」と
自分の融通が利くし内緒で特別なトレーニングもして貰えるかもと下心満々で承諾した。
深水の思惑通りにジムでのエクササイズは快適なものとなった。
トレーニングの効果かスタイルも以前より磨きがかかり昼間でも時々だが脚光を浴びる様になり、
テレビにこそ出ないけれど何社かの大手ファッション雑誌との長期契約を貰える様にまでになり
昼の仕事だけで十分生活が出来る様になっていた。
武内とも二人で食事をする仲になり自然と夜を共に過ごし朝を迎える日も有った。
しかし、深水は夜の仕事を量は減らしたとは言え辞める事はしなかった。
何故なら店に出る日が少ない事からレア度が高いと客からの指名度が高まったからだ。
そんな深水を我先に指名すると息巻く客が占める店内で、
初めての来店客にあてがわれるシステムで女の子が自動的に入れ替わるお試しタイム中で
静かに相槌を打ちながら静かに飲んでいる男が深水の目を引いた。
それが加賀見 陵介(25歳)だった。
一目見ただけで仕立てが良いと解るスーツを着こなしクールな顔で女の子を相手する様子は、
どちらが客なのかと思う程に店の女の子達が浮かれていた。
フロアーボーイに耳打ちして指名を数件キャンセルし加賀見のヘルプにセッティングさせた。
「深水 琴李と言います。」座るなり名刺を渡し「御名刺を御持ちでしたら頂けますか?」と
加賀見に喋る間を与えず名刺を要求した。
「加賀見 俊介です。」と言って名刺を差し出す俊介の手を優しく包み込む様にして名刺を受け取った。
「凄い、イラストレーターさんなのですか?
私も少しだけですが雑誌とかでメディアに顔を出しているので興味が有ります。
良ければ私を今夜、加賀見様の横に座らせて貰えないでしょうか?」琴李の言葉に頷くのを見て
フロアーボーイに指名が入ったと合図を送る。
加賀見の必要情報と自分のアピールをして深々と頭を下げてから太客の指名をこなし深水は今夜の仕事を終えた。
~つづく~