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2021/01/01 12:00:00

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『あわいに咲くもの』 外伝 第三話 「雷鳴と静寂」

山間の自宅。わたし、姪浜伊都創作の城。
いつもの様に午後は執筆を行う。

外がやけに暗い。いつのまだろうか、林の梢を走る様に雲が流れている。
日没にはまだ時間があるのに。
いつもは木漏れ日が優しい林も奥行きがが見えない黒い姿を晒している。

 一瞬の閃光

そして家を揺らす音

雨足は激しくはない、が、大粒の水滴が庭を黒く変えてゆく。

 夜雷、か

以前は霧の様な雨の中、彼女と二人雨に打たれてみた。が、今日はまた違う雨だ。

わたしは一人、屋上の扉の前で衣類を落とす。

暗い中、肌を雨が打つ。
そしてまた閃光

暗闇と一瞬

わたしの控えめな曲線は浮かび上がる。

そして

その控えめな曲線すら震わせる轟き。

谷間に響くその震えは、わたしのうちなる身体を震わせる。

わたしの体は、風のない雨に包まれていく。

空はただの黒ではなく、雲と雲の間を這う銀の鱗のように瞬き、息を潜め、そしてまた光る。

そのたび、
濡れた肌に張りつく空気が
まるでわたしの境界線をひとつひとつ確認するように、
丁寧に輪郭をなぞっていく。

胸も、腰も、足も――
どこまでがわたしで、
どこからがこの雨なのか。

その曖昧な視覚と触覚
でも、どこか心地よい。

わたしの控えめな身体は
雷のたびに、光のなかで一瞬だけ「存在を誇示」される。

それが羞じらいとなって、
震えとなって、
小さなひそやかな吐息となって、空に消えてゆく。

音は遠ざかっていない。

この谷間に、確かに根を下ろして
雷は生きている。

夜の奥で、わたしもまた
静かに、誰にも触れられずに
その大気の震えだけが
「生きていること」を確認している。

雨に打たれても、冷えはこない。

むしろ、内からわたしの温度が
そっと水をその身体の表面にとどめおく。

雷鳴は半刻ばかり空を走り、
やがてその怒りも、ため息のような風に流されてゆく。

静寂が戻る。
けれどそれは、空の沈黙ではない。

雲が裂け、葉の先がきらめき、
ひとつひとつの星が、この夜に向かって静かに口上を囁く

そうして――
わたしの身体は、月の光の下に
水の薄衣(うすぎぬ)をまとうように立っていた。

雨はわたしを洗い、
光はわたしをなぞり、
この肌に触れたすべてが、新しいわたしを形づくってゆく。

良い夜だ。

わたしという存在が
ほんのひととき、身体を震わせ楽器になるような――

そんな、音を出さない演奏の夜だった。

―了―
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 永倉圭夏

 2025/10/14 19:35

筑水せふり様 こんばんは。

身の危険すらある猛々しい雷雨に、敢えて身を曝す伊都さん。雨風をまとい、その控えめな曲線である存在を稲光の下際立たせ、時に溶け合うさまに圧倒されます。そうして雨に打たれ月光をまとって生まれ変わる。激しさの後の静謐な力強さに、ため息が漏れます。
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