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恰幅のいい彼 中
窓を少しだけ開けると、昼に食した「むらはた」のパフェの残り香が、体内の細胞ひとつひとつを包み込んでいるような錯覚に陥った。 タカノや千疋屋といった、東京の記号化された高級フルーツ店などは、まったくお話にならない。あちらにあるのは「ブランドという名の虚飾」だが、むらはたのパフェは「鮮度という名の暴力」だ。その芳醇な残響の中でまどろむ時間は、千金に値する。
ふいに、隣で丸まって眠っていた「家元」がむっくりと起き上がった。世襲という名の重圧を背負い、完璧な調和を求められる日常から逃装してきたこの男は、寝起きの、いわゆる「チー牛」のような幼い面立ちをさらに崩し、所在なげに目をこすっている。
「……行くか」
私は彼を助手席に乗せ、香林坊の喧騒を突き抜けて犀川の上流へと車を走らせた。
目的地は大桑(おおくわ)。室生犀星がかつて「黒い淵」と記し、その底知れぬ深さを畏怖した場所だ。川底には甌穴が点在し、水流は複雑な渦を巻いて、獲物たちを深淵へと誘い込んでいる。ここは、今も第一級の鮎のポイントだ。 河原に降り立つと、家元はさっそく、毛鉤のケースを開いて苦悩し始めた。その指先は、一輪の花に宇宙を込める繊細さを持ちながら、今は一分にも満たない小さな針の選択に、存在のすべてを賭けている。
「青ライオンでいい。バリエーションの赤ライオンなら、今の水色にぴったりだ」
私の安易な提案に対し、家元は眼鏡の奥の瞳を冷たく光らせ、その幼い顔を嫌悪に歪めた。
「……安直すぎる。お前の審美眼は、たまに市場の海鮮丼レベルにまで堕ちるな」
素晴らしい。我が友人ながら、その徹底した拒絶こそが、私たちが共有する「美意識という名の不治の病」の証だ。彼は自力で、その瞬間の「正解」を導き出した。
私たちは、竹竿を繰り出した。 ここでカーボンの竿を使うのは、無作法というものだ。カーボンの高弾性は、水中での違和感を瞬時に鮎に伝えてしまう。鮎が毛鉤を「なめる」その瞬間、カーボンは反発し、鮎は驚いて口を離す。だが、漆の被膜を纏った竹は違う。 もぞもぞ、という微かな手応え。
「上げるなよ、待て」
私は家元に囁く。竹竿は、鮎に違和感を与えない。むしろ、鮎の口腔に吸い付くような柔らかな抵抗を維持する。だから鮎は毛鉤を離さない。名手と呼ばれる人間は、ここで焦って竿を煽るが、それは「構造」を理解していない者の仕草だ。 待てばいいのだ。そうすれば、竹の繊維が鮎の生命と共鳴し、ぐーんと竿先が川面へと引き込まれる。鮎が毛鉤を完全に「喰った」証拠だ。 大桑の黒い淵で、私たちは奈落の底に引き込まれるような、圧倒的な生の実感に酔い痴れた。
夜。街へ戻った私たちは、地元民しか足を向けない、ひっそりとした佇まいの寿司屋へと向かった。若旦那の紹介がなければ、この暖簾をくぐることは叶わなかっただろう。 本来なら、家元の友人のテレビ局の人間たちが合流するはずだった。親のコネで局に入り、ADの泥仕事など一度も経験したことがないくせに、局の看板に守られながら「忙しいフリ」だけは一人前の、しょうもない、でも苦労を知ったゆえの屈折したところがまったくない若者たちだ。彼らが欠席したおかげで、今夜の空間は純度を保つことができた。
私は、カウンターの向こうに座る老いた大将に告げる。
「さわら、切ってください」
金沢で「さわら」と言えば、マカジキのことだ。家元もそれに倣った。
ほどなくして、付け台の上にオレンジ色の厚い刺身が豪快に並べられた。その艶、その脂の乗り。
「いいカジキは、豊洲から金沢に直接入ってくるんですよ」
大将が誇らしげに言う。人形町や神田の老舗で供されるそれよりも、遥かに瑞々しく、生命力に溢れている。こういう本物は、このくらい無造作に、豪快に供されるのがふさわしい。
家元は一口運ぶなり、その表情を恍惚へと変えた。そして、彼の欲望に火がついた。
「……がすえび、ください」
地元でしか出回らない、足の早い、それゆえに禁断の甘みを持つ海老。
家元はひとたびその味を知ると、幼児のような執着を見せ始めた。
「全部だ。ケースの中のがすえび、全部食っちゃおう」
おいおい、と私は心の中で苦笑した。ここは若旦那の紹介で入った店だ。あまりに下品な振る舞いは控えろと言いたいが、家元の「内圧」の噴出は止まらない。大将はそっけない顔で頷き、無言のまま次々とがすえびを握り始めた。 甘い。あまりにも甘く、そして儚い。二人でケースの中のがすえびを文字通り完食した。
満足げに息をつく家元を見透かすように、大将が最後に問いかけた。
「トロの手巻き、どうです。……まあ、ボストンのマグロですがね」
金沢の寿司屋は、原則としてマグロを置かない。夏の能登で上がる地物を除き、わざわざ豊洲から引く必要があるほどの魚とは、考えないからだ。だが、この大将はあえてボストン産を差し出した。 おそらく観光客用に仕入れていたのかもしれない。私は家元を見た。
「がすえびを食い尽くしたんだ、これくらいは付き合え」
地球の裏側から届いたトロでいっぱいの手巻きを、私たちは一気に頬張った。脂の重厚な旨味が、先ほどまでのガスエビの甘みを上書きしていく。
満腹になり、席を立つ。 最後に手渡された会計の記された紙片には、私たちが費やした贅沢と「食い尽くした」蛮行を考えると、あまりにも控えめな金額が記されていた。 金沢という街が持つ、格子の内側の深い優しさに、私たちは静かに包まれていた。
テレビマンたちへの土産の折詰をもらう。
店を出ると、夜の空気はいくぶん涼しさを増していた。
「明日は4時に出るからな」
私は、まだボストンのマグロの脂を舌に残している家元に向かって、「遊び」の続きを語り始めた。
霊威師のレンリ 旅語り「山の贄」・壱
少年は山道を歩いていた。とたとたと、その未熟ながらも歩き慣れた足取りで。
ただ、その顔はやつれ掛けているように見える。身に着けている衣服は質素で、しかも所々に汚れが付いており、服裾に至っては微かに破れ、傷んでいた。どう見積もっても数日間は歩き続けている様子だった。
「はあ……、はあ……、はあ……」
疲労のせいだろうか。たまに息切れしている様子の少年は、それでも休まずに山道を、否、もはや道とも言えないような獣道を歩いていく。
そうして少年は、しばらくの間に歩き続けて。
歩き続けて。
歩き続けて。
「うっ、く……」
ついには、その場に膝をついて、座り込んでしまった。
「情けねぇ……。オラは、こんなことでっ……!」
少年は足に力を入れる。立ち上がろうと足掻く。だが、その意気に反して彼の身体からは力が抜けて行っているように思われた。それでも彼は諦めずに力を入れ続ける。
足に入れ、腰に入れ、心も含めた身体全てに入れ続けて。
だが。
「……ぐっ」
再び、彼はその場にへなへなと頽れてしまった。恐らく、もはや彼の身体は限界だったのだろう。
そんな自分の言うことを聞かない身体を自覚した彼は、自分を嗤うかのように苦笑すると。
「すま、ねぇ……。おっ母、おっ父、ヒナ……。オラ、七日、ダメだった……」
少年はそっと目を閉じて、どさりと倒れた。
その一瞬前、誰かが少年に対して声を掛けたような気配があったが、もはや彼には、それを確かめる気力すら残っていなかった。全ての意識が闇の底へと沈んで、まるで、ゆっくりと夢に堕ちる時のような微睡みが、彼を包み込んでいく。
そして。
──────。
「……ハッ!?」
突如少年は目覚め、驚きに目を丸くした。
「……えっ?」
その驚いた勢いのままに彼は起き上がると、目の前には焚き火があって、その近くでは、即席の木串を打たれた川魚の開きが二尾分、良い具合に焼かれていることに気が付いた。食欲をそそる匂いが少年の方にも漂ってきている。
すると。
「おっ、目が覚めたかい?」
少年の背後から、女性の落ち着いた声が聞こえてきた。
またもや驚いた彼が振り向くと、そこには、旅装を身に着けた若く麗しい女性が、採取してきたらしい山の果物を手に持って、立っていた。
素人目に見ても旅慣れている事が分かるくらいの雰囲気があるその謎の女性は、しかし、それ以上に少年の気を引いたのは、透き通った星空のような瞳と、夜空のような深い蒼さを持つ髪色だった。
「目の前で倒れたのを見た時はダメかと思ったんだが、いやはや何とも。山に育てられた人間の逞しさと言うべきかね」
その女性は、そのような事を口にして明るく笑うと、少年の横に果物の一部を置いてから、焚き火の向こう側に回って座った。ちょうど少年の対面に位置取る形だ。
「んで、起き抜けに言うのもなんだが。横に置いたそれ、食うと良い。滋養に良いぞ。焼き魚も分けてやろう」
少年は三度驚いて、そのようなことを言った女性の顔をまじまじと見つめてしまう。
女性は、彼のその視線に不思議そうに小首を傾げると、肩をすくめる。
「なんだ? 私ゃ、可笑しなことを言った覚えはないが」
「え、あ。すまねぇ。あんまりにも急すぎて、びっくりしちまった……」
「あー……。まあ、それもそうか。安心しろ。食い物に毒は無いし、私は人さらいでもないさ。行き倒れに情けを掛けるような、単純なお人好しとでも思っておくれ」
「……」
少年は女性の事をもう少し観察しようと思っていたが、突如、自身の腹の虫が暴れ出した音が爆音を轟かせたことで、その恥ずかしさで強制的に俯かされてしまった。
女性が明るく笑う。
「ははは、良い反応だ。ついでに私も飯にしよう。お前も遠慮せずに食え」
そう言うと女性は、焚き火で焼いていた魚を一尾だけ取ると、すぐに食べ始める。
しっかりと焼かれた魚の皮はパリッと僅かに音を立て、ふわっと湯気が立ち昇る。
「……っ」
もはや空腹も限界だった少年は、その音を聞いた瞬間、跳ねたように動いた。
彼は、まず横に置かれていた果物にかぶりつく。芳醇な香りを放つ甘い果肉と果汁が、彼の喉の渇きを潤して溜まっていた疲労感を癒していく。それらを平らげると、続いて焼き魚へ。脂こそ控えめだったが、隅々まで身の詰まった熱々のそれは、少年の空腹を満たすには打って付けだった。
「はふっ! ほふっ!」
熱さに多少手こずりながらも、しゃにむに焼き魚をむさぼる。
その眼からは涙が次々に溢れて、食事の間中はずっと、流れていた。
それから少しして。
「ごちそうさま! 美味かった、有難う!」
食事を終えた少年は、満足そうに笑顔を浮かべて女性に礼を述べる。その頃には、涙もすっかり止まっていた。
「お粗末様。良い食いっぷりだった。見ていて清々しいくらいには」
「あ……」
女性にそう言われてしまい、少年は恥ずかしそうにしてしまう。
そんな彼を見て、女性は明るく笑みを浮かべたが、すぐに表情を引き締めた。真剣さすら漂わせている。何かを探ろうとしている雰囲気だ。
「しっかし、お前さん。何でまたあんな所で行き倒れてたんだい? 見たところ、猟師って感じでもない。遊びで調子に乗って、山の奥にでも入り過ぎたか?」
「……」
「言いたくないかも知れんが、情けを掛けた身の上としては、やっぱり気になってねぇ。それに、この先には用事もある。そう言う意味でもね」
「オラ、は……」
尋ねられた少年は、俯いて、何処か逡巡しながら、ぶつぶつと何事かを呟いて、そして。
「オラは、ニエ、だから。山のニエ、だったから」
それだけを口にして、同時にハッと顔を上げ。
「そうだ! ニエなんだから助かったらダメだ! オラは祠に身を置かないと……うっ」
勢いよく立ち上がろうとして、まだ完全に回復し切っていない身体には力が入らず、再び座り込んだ。
「無理するな。それで、今、「山の贄」って言ったかい?」
女性は落ち着いた声音でそう言うと、話の続きを促す。
すると、少年は目からぽろぽろと涙を流し始めた。
「そうだ。オラは村の、うちの畑を守るための、ニエとして、山の祠に。でも、怖くて。オラ、怖くて。苦しくて。うっ、うぅく……」
「……そうかい」
女性はすっと立ちあがり、泣きじゃくる少年の横に移動すると、その頭を優しくぽんぽんとし、撫でる。
それから少しの間、彼女は少年が泣き止むまで宥め続けた。
「うっ、すまねぇ……。あんたにまた迷惑かけちまった」
泣き止んだ後、少年は恥ずかしそうに苦笑する。
女性は明るく笑った。
「気にすんな。独りきりは誰だって辛いもんさ。それで、山の贄って言ってたが、山には何か神様でも居るのかい?」
「カミサマとかはしらねぇ。でも、おっ父は、ミノリサマって言ってた。村の畑に実りをくれるからって」
「ミノリサマ、実り様か。ふむふむ。んで、そのミノリサマは、贄を捧げることで村に実りを与えてくれるって?」
「うん。長が言うには、オラの村は、たまにそう言うことをしてきたんだって」
「ふぅん? 人身御供の慣習ねぇ……」
「ヒトミゴクウ、ってなんだ?」
「そこは気にすんな。ところで、お前さんの村ってのは、この道の先にある村って考えて大丈夫かい? 私はその村に用事があるんだが」
「あ、ああ。そうだよ。オラの村は、ここから少し歩いたところにあるよ」
「……分かった。辛かったろうに、色々と有難うね。お前さん、名前は?」
「オラはガンキ。ガンキって言うんだ」
「ガンキね。私はレンリと言う。霊威師をやってる」
「レイイシ?」
「ま、そう言うお仕事があるって事さ。神様とか化け物とかとも、喧嘩したり鎮めたりする」
「ほえー、なんか凄そうだなー!」
「ははは。そう。凄いのさ。凄いついでにガンキ。お前さんに村への案内を頼みたい」
「え?」
「嫌かもしれないが、お前さんが居てくれた方が話がしやすいと思ってね。どうだろうか? 駄賃も出すぞ」
「……オラでいいなら」
「決まりだな。夕方前までには着いておきたいから、もう少ししたら発つぞ。それまでは休んどけ。私は片付けがあるからな」
そう言うと女性、レンリは、さっさと使った木串を焚き火にくべると、近くの川へと水を汲みに向かって行った。
少年、ガンキは、その後ろ姿をただじっと見ていた。いや、見惚れていた、と言う方が近いかもしれない。彼はただ何となくだが、そうしていたのだった。
つきのふね
わたしをひらく いまちつき
わたしをほどく ねまちつき
ここにあるまで すくいます
こぼれつづけど むねのなか
みめいのひがし こおる躯に
いまだしずまぬ おもいふね
詩人の悩み
痛みゆく風景に
カッターで切り刻む
やってはこない夏に
僕は
とんでもない罪を背負ったと
頭の中で想ってしまった
どれほどの罪を
風景
今は亡き風景が
癒してくれるだろう
なんて考えて
夜も眠れずにいた
なんてちっぽけな
心よ••••••
心がいつも
雨に濡れるとき
私は笑えずに
そうしていつも詩を
書いてゆく
書いていたら
人々の胸の痛みに
ナイフが突き刺さるのではないかと
心配してしまう
心配して
詩なんか
やめよう
やめよう
と心をなだめる
言葉の波を
めくるとき
言葉で人を救うことなんて
できないと
知ったから
きみの嘘
嘘は甘い味がする。
嘘の中で本当を探してる。
嘘の中で本当のきみを探してる。
香しい。自分が嫌いだった。嘘は薬だった。
全部嘘で、それが幸せだった。嘘で満たされて安心した。
本当なんてなかった。分からないけど、甘かった。
自分と嘘をついてた。ありのままだと 殺されちゃうから隠してた。
嘘と生活して
嘘と泣いて
嘘と笑って
嘘の自分がそこにいて
それでいいんだと思いながら本当のきみを探してた。
本当のきみってどんなの。どんな味がするの。
本当って痛くて冷たくて、怖い。嘘に満たされて、嘘が笑ってくれた。嘘は暖かかった。嘘は甘かった。
悲しい嘘
醜い嘘
柔らかい嘘
苦い嘘
信じていたものは全て嘘だった。それでよかった。口の中はまだ甘かった。
地層の調和
朝の鏡に向かって、わたしは「日常」を着ていく。
薄く引いたアイラインと、丁寧にアイロンをかけたシャツ。
それは、今日という日を誠実に歩くための
わたしなりの、清潔な決意。
背筋を伸ばして、誰かの言葉に頷き
ふさわしい言葉を選んで、社会の網目の中を泳ぐ。
その忙しなさも、その責任感も
嘘偽りのない、わたしの確かな一面だ。
けれど。
ふとした沈黙、資料をめくる指先、
コーヒーの湯気の向こう側に。
あの夜の、湿った森が そっと息をする。
それは、今の生活を否定するためではなく
今を支える、深い土壌として。
シャツのボタンの下、
あの繊細なレースが、肌に静かに触れている。
小さな胸が刻む鼓動は、
事務所の静寂の中でも、満月の下と同じリズム。
「ちゃんとやっているわたし」も、
「すべてを晒して震えたわたし」も、
どちらも、地続きの同じ命。
人混みの中で、ふと足の指を丸めてみる。
靴の中に守られたその足裏は、
あの冷たい木の感触を、今も鮮明に引き出せる。
それは、誰にも見えない、わたしだけの「お守り」
取り繕っているのではない。
調和させているのだ。
強さと、脆さを。
日々の光と、夜の月明かりを。
整えられた外側があるからこそ、
内側の熱は、より深く、清らかに澄んでいく。
完璧ではない自分を、
完璧に演じなくていい自分を、
そっと、シャツの下に抱きしめる。
わたしは、この装いの中で自由だ。
誰にも気づかれない場所で、
わたしという森は、
今も、静かに 息づいている。
聖体なき受肉(天井の うつくしいもの)
北の果て、国境の街ではなぜか、
カンツォーネが響き渡っている。
マツキヨで買った胃腸薬の止瀉成分を調べたい。健康志向とは真逆の嗜癖によるものである。いつもの如くスマホも持たず出てきたようだ。
考え事をしながらコンビニまで歩く途中で見上げた空が、
いつかの旅路と繋がっているような錯覚に囚われていた。
駐輪場から電動アシスト自転車による再出発を図った記憶と、4時間前にLINEの既読をつけた記録がある。
サンクトペテルブルク、不凍港の役割、眠らない港で番をする者、完全なる意識消失の手前、氷点下の街では吐息の長さと唇の厚み、余計なひと言が敗戦者を暖炉で炙り出す。
ー連想をやめない脳に閉じこもってキーワードを拾っていただけのはずが。周囲はすっかり暗くなっており、駐輪場から2km以内を私は小径サイクルでグネグネと小刻みな蛇行を続け、さいわいか、大幅な脱線もないまま。
冷えのせいで線状にさしこんだ腹痛に急かされ、手に取った薬を
飲み干すためだけの水を求め、
Sans ristorante・サイゼリエ大聖堂の軽い扉を引いた。
早速、ドリンクバーとフォッカチオだけ頼んだ罪が、罪状リストに追加されたようだ。
スタッフの女子により、提示するQRが読めず手間取らせた旨も追記されている。字が可愛い。
と脳内でタイプする音が聞こえるようだ。
二杯目のカフェオレを飲み干す頃には後頭部がすっかり新雪に包まれ、
釧路、ナポリ、択捉、フィレンツェのあわいの街では、語尾を「サイゼのおいしい水」と共にデロンギ製の銀色の箱で溶かし込んでしまう。これは演歌の歌詞か。北国の春?襟裳岬?
不凍港の止瀉。休戦にも似ている。暖炉、ウォトカ、グラッパ、甲種乙種、、、
散漫の極みで連想を続けていた回路にもどうにか糖とカフェインが供給され、
視界は狭まり、焦点が遠くなっている。
気を抜くと変な中年が虚空を見つめており、簡単に公衆良俗に反するのだ。
スマホを持ってくればよかった。
他人と関わっているフリができるから。
聖堂では伝票とボールペンを駆使すると罪状が増えるから。
読みかけの八木重吉『うつくしいもの』を持ってくればよかった。
天井でラッパを吹くミケランジェロ的天使を見て、いや、宗教体験とサイケ、fMRIによる測定データ群をなんとかっていう海外の論文の、GPT-5.1 thinking に訳してもらった章の……と思い巡らす。
♪嗚呼北の街では 後悔ばかりを鴎が 嘴でかすめ〜
そんな歌詞はない。
国境の、また隣の国との境にはローマ風の教会があり、
ピザなどという食べ物は存在せず、
ピザを食べたこともない誰かがネトフリで観た
「シカゴピザ その歴史」というようなタイトルのドキュメンタリー映像を見ながら
書き起こした文章を、
料理などは目玉焼きが関の山、の溶接工が、材料だけは揃った台所で拵えたようなものがピッツァとして供される。
―それを聖体なき受肉と呼ぶ。
天井では赤子の天使がふたり抱き合って、
空想癖の人間、それも人より首尾が悪いせいで罪状リストがやや長い者を笑っている。
セビリア大聖堂を臨むホテルの部屋番号は1783だっただろうか?
サイゼのメニューの1969番めがロペラミドならば シロシビンは1958に位置するだろう。歴史になぞらうのならば。
国境の街では、個人の代表として領土について語らなくてはいけない時、足元で根雪の層を踏み固める自らの爪先を呪ったふりをしなくてはいけない。
チーズフォッカチオにオリーブ油とホットソースをかけてシカゴ風ピザを再現した罪が追記される。無責任のツケが重い。
きっと再び電アシのペダルを漕ぐ頃には、また自分の輪郭など溶かしてしまいたい。
鐘が、鳴ったような気がする。
―サラミ無き受肉、または天ヌキの天使。
𝚂𝙷𝙸𝙽𝙸𝙶𝙸𝚆𝙰 𝙻𝙰𝚂𝚃 𝙱
2026/01/27
とにかく包丁で言葉をザクザク切ります
とにかく包丁で
言葉をザクザク切ります
ザクザク
切った言葉には
ありがとう
さよなら
ひどい
と色々な人の想いがありました
今日も
新宿で
言葉をザクザク包丁で
切っては
お客に出しています
一つ三百円です
クリエイティブライティングスペースを使って感じた事
ここって、『コメントを書かなければ(投げ銭を戴かない限り)』『投稿できない』システムじゃないですか。
おそらく、想像でしかありませんが、運営さんにしてみれば、作家同士の良き交流の場の創造のためとお考えの上そうされたのかなと思うんです。
ただ、わたしは不快な思いをしました。
【嫌な感じのコメントだけを残す】←【ハートを付けずに、です】
最初は(アドバイスを下さったのだな~)と前向きにとらえ、感謝の気持ちが湧いたのでお礼の返事をしました。
しかし……【ハートを付けてくださっていない】のを見た時に、(ちょと待てよ。ポイント稼ぎのためだけのコメント?)などとさみしい事を考えてしまいました。
確かに、その方々(2名)は、『アドバイスをする』ぐらいなので『 ”良いね ” の意味合いを持つ ”♡ ”を付けない』というのは理屈も通っていそうですが。
もしも自分が逆なら……と考えた時に、(わたしなら、作家さんが意気消沈してしまうかもしれない事は出来ないな)と素直に感じました。
つまり、わたしなら『アドバイスを書くとすれば、応援の気持ちを込めて必ずハートを付けます』。
まあ、考え方は人それぞれですので、一概に【ポイント欲しさだけの】嫌味だ嫌がらせだと決めつけられないのですが。
申し訳ありませんが、その方々はブロックさせて戴きました。
インターネットの上であっても人と人が集まると、自然と様々な感情が起こりますね。
ここまで、お読み下さりありがとうございます。
やや子より♡
雪待合室
一年中が雪に閉ざされた谷間にある村はずれの小屋でわたしたちは暮らしていた。わたしは薪割りの仕事をさせてもらい、村でただ一軒の雑貨屋で米と塩と父のための煙草を得ていた。村では父に一人の親しい友もなく、訪ねて来る人もいなかった。
父は毎日背中を丸めて机に向かっていたが、何の仕事をしているのかも、父がいつからこの村に棲み、いつからわたしの父であるのかも、わたしにはわからなかった。父は数時間も黙り込んだまま座り込んで、机に頬杖をついたまま、窓の外に降るいつ止むともしれぬ雪を惚けたように眺めていたり、鉛筆で机を小刻みに太鼓のように叩きながらぶつぶつと何か独り言を呟いていたり、かと思うと、おおーっ、とか、ほひょー、とか奇声を上げて、いきなり握り締めた拳を前に突き出し、突然板敷きの上の薄い座布団から飛び上がると、狭い部屋の中を思いつめたような目をして、ぐるぐる幾周りも歩き廻ったりするのだった。時々仕事の手を休めて父はダルマストーブの傍らに来て座り、昼間の薪割りでぐったりと疲れて横になっているわたしが薄く目を開けるそばで、唇を小さく丸くとがらせて、ランプのゆらめく灯りの中、ぽぽぽぽぽ、と煙草の煙りを輪にして吐き出してみせ、淋しそうに微笑むのだった。そんな時、透き間風となって吹き込んで来る凩の音がひときわ高くなる。わたしたちはいつ何処から来て、そしていつまでここにいるのか。
月末の日曜日は街へ行くバスが月に一度通る日だった。その月末の日曜日が近づくたびに父は気分が浮ついて、そわそわと落ち着かない様子だった。土曜の夜にはわたしに身の周りの物を布袋に詰め込ませて支度をさせ、自分は何か書き溜めていた紙の束を古い革鞄にしまい込むと、もうすぐだぞ、と妙に浮かれて上機嫌だった。
日曜の朝、まだ暗いうちから小屋を出た父とわたしは二里の雪道を、はぁはぁと白い息を凍らせ、何かが焦げたような炭の焼けるような匂いの漂う村を抜け、ちょうどわたしたちの小屋から真反対のはずれに位置する村の入口にあるバス亭へとたどり着く。待合室にはすでに何人かの老若男女が来ており、それからも引き戸を開けて、ぽつりぽつりと村人たちがそれぞれの荷物を抱えて入って来、五坪ほどの部屋のベンチはすぐに埋まってしまう。彼らは父の姿を認めると世間話をぱったり止めて、時々こちらの方を見ながらひそひそと耳打ちし合った。その村人たちはこの辺境一帯の村々を巡る日に一度通る便を利用する客たちだった。わたしたちが待つ街行きのバスの到着時刻は、バス会社臨時職員を兼任する時もある村役場の助役の話では、午前と午後の中程とのことだった。客たちはいつ来るかもわからないバスを今か今かと待ちわびて頸をキリンのように長くしている。それから誰も何も話す者もなくなりストーブの上で蒸発皿がたてるシュンシュンという音だけが室内に響く。何度も助役が水を注ぎ足し幾度お湯を鎮めても、村人たちが貧乏ゆすりに疲れ、居眠りを始めてもバスは来ない。父はわたしの隣でため息をついたり、一日五本と決めている煙草をポケットから出したり戻したりしている。そんな時、バスの到着を報せる助役の声が上がる。それは村巡りの便で、いっせいに村人たちの土色の顔が生気を帯び、雪の舞い込む中、一同は入口に横付けにされたバスにぞろぞろ乗り込む。わたしたちの方を眺め、ひそひそと話をしながら、笑いさざめきながら。それからあれはどれほどの時間がたった時であったろう。あたりが夕暮れ深い青みに染まる頃、父の肩を叩く者がいることにわたしは気づく。顔を上げるとそこには例のごとく助役が立っていて、哀れむようにわたちたちに告げる。本日の街行きのバスが運行休止になったと。そしていつものようにホッと安堵の表情を浮かべながら父は煙草に火をつけ、わたしに向かって淋しそうに微笑む。ぽぽぽぽぽ、と煙りの輪をいくつも吐いてみせながら。
窓から見える村にはまた雪が降っている……
恰幅のいい彼 上
金沢の湿度は、肌にまとわりつく重い絹のようだ。 私は、同年代の家元――世間ではそう呼ばれるが、私にとっては美意識という名の不治の病を共有する友人に過ぎない同年代のチー牛――とともに、浅野川に近い町家へと足を向けた。そこは老舗の毛ばり屋が営むギャラリー兼民泊であり、巷に溢れる「加賀モダン」という名の安っぽい虚飾を、その存在自体で拒絶していた。
一歩踏み込めば、そこには「赤壁」と「碧壁」の対比が、沈黙のうちに空間を支配している。ラピスラズリの粉末を惜しみなく塗り込めた碧の壁は、光を吸い込み、深海のような静寂を湛えている。これこそが本物だ。資本主義の論理で量産された加賀モダンなど、ここには入り込む余地もない。
家元は少し遅れて現れた。待ち合わせの場所で、アメリカ人観光客の通訳をしていたらしい。 「やあ」 そう言って現れた彼は、額にびっしょりと汗を浮かべていた。一輪の花に宇宙を込める指先で、彼は見知らぬ異邦人のために、この街の記号を翻訳していたのだ。彼は、背負っていた数本の竹竿を下ろし、その重みから解放される感覚を赤壁の間で味わっていた。
そこへ、すうっと影が落ちるように、一人の男が現れた。 この毛ばり屋の若旦那である。何十代目という看板を背負いながら、業界では「遊び人」と指を指される、我々と同年代の男だ。だが、私は彼を嫌いになれなかった。
以前、このギャラリーで若手工芸作家の展示会があったときのことだ。 どこかの有力者の娘だろう、時代錯誤なほどに古臭い「お嬢様」の記号を纏った女が、作品を手に取ることさえせず、その作家の履歴書をめくるような視線で言い放った。 「この作家さんは、東京藝大かしら?」 作品の美醜ではなく、生産者のタグで価値を測るその仕草。それは、病院の待合室で、医師の診察よりも先に壁に貼られた学位記を確認する老人に似ていた。 私と若旦那は、その瞬間、一言も交わさずに目を合わせた。 (やれんなあ) 無言の頷きが、我々の間に奇妙な連帯を生んだ。
若旦那は、かしこまった――あまりにも慇懃無礼で、それゆえに美しい――調子で言ったのだ。 「器の材質で、酒の味がどう変わるか。ためすことにいたしましょう」 彼は展示されている高価な器に、ためらいもなく酒を注いだ。作家が精魂込めた土の肌を、透明な液体が侵食していく。私はにやりと笑い、その「不謹慎な実験」の共犯者となった。
すべてを忘れ、我々はぐでんぐでんに酔い痴れた。 世間が彼を「遊び人」と呼ぶのは、彼がこの街の「格子」の中で、自分自身の美学を殺さずに生き抜こうとする、ささやかな抵抗を知らないからだろう。
若旦那の視線が、家元の持つ竿に吸い寄せられた。
初代竿治。明治の空気を吸い、百年の時を耐え抜いたその竹は、人肌のような艶を失っていなかった。
「見事なもんだ」
若旦那が溜息とともに漏らす。その竿には、後世の「團十郎塗り」に代表されるような、過剰な装飾への逃避が一切なかった。竹という植物が持つ固有の繊維の美しさを、漆という被膜が静かに肯定している。加飾によって欠点を隠すのではなく、本質を研ぎ澄ますこと。
私と家元、そして遊び人の若旦那。この町家の碧壁に囲まれた空間で、我々は言葉を超えた「美の核心」を共有していた。それは、市場のスペックや藝大の肩書きにしか価値を見出せない連中には、一生かかっても到達できない聖域だった。
ふいに、若旦那が事務的な「営業の顔」に戻り、民泊の細かなルールを告げた。
「チェックアウトは10時です、オーバーナイトゲストはNGでして」
(デリヘルは呼ぶなってことね)
その切り替えの速さに、格子の街で生きる者の狡知と哀しみを見た。
「腹が減ったな」
家元が、俗世に引き戻されたような顔で言った。
「近江町市場で、何か金沢らしいものを食べたい」
私は鼻で笑った。
「あんなところ、ろくなもんじゃないし、何もありゃしないよ」
だが家元は、子供のような執着で何かを食べさせろと譲らない。 私は脳内のサーチ機能を全力で走らせて、下品な山盛りの海鮮丼や、行列を売り物にする回転寿司をすべて消去した。そして、観光客の喧騒からわずかに外れた、古ぼけた魚屋の並びに残る「百万石うどん」が出てきた。
「ここは美味いが、夏に食うもんじゃないぞ」 釘を刺したが、家元は丸い顔を綻ばせ、意に介さない様子だった。
店は狭く、うなぎの寝床のようなカウンターが奥へと続いていた。 黒髪の小太りの中年女性が、迷いのない手つきで小鍋にだしを張り、片栗粉を溶く。その淀みのない動作、機能美そのものの手際に、家元は「ほう」と感嘆の声を漏らした。 供されたのは、琥珀色のあんが並々と注がれたうどんだった。 暴力的なまでに豊かなだしの香りが、湯気とともに立ち昇る。金沢の厳しい冬に耐えるための、熱の塊。我々は汗を滲ませながら、赤巻きの上に鎮座する生姜を崩し、それを熱いあんに混ぜ込んだ。
「ふう、ふう」と、喉を鳴らして、季節外れの熱を胃に流し込む。制度や美学といった理屈を、熱いあんが一時的に融解させていく。
それだけでは足りなかった。我々は市場の隣にある百貨店の地下へと潜り、「キッチンユキ」の暖簾をくぐった。 運ばれてきたのは、鈍色(にびいろ)に光る金属の皿に盛られたカレーだ。 巷で語られる「金沢カレー」のステレオタイプを、そのブイヨンの深みが嘲笑う。黒く、濃厚なルー。だが、その背後には動物性の旨味が緻密な重層構造を成している。
家元と私は、言葉を失ったようにスプーンを動かした。これは栄養の摂取ではない。ある種の暴力的な充足だった。
私は、この丸い顔をした「チー牛」のような佇まいの友人が何を考えているのか、その内圧の昂まりを痛いほどに察していた。 彼は、家元という格式の檻の中で、常に完璧な均衡を求められている。その抑圧された欲望が、いま、甘美な糖分という形をとって噴出しようとしていた。 「よし、デザートだ」 私たちは百貨店の隣に位置する「フルーツパーラーむらはた」の階段を上がった。むさ苦しい男二人組という、その空間の美学的整合性を乱す闖入者を、若い女性の給仕は驚くほど寛容に、むしろ慈しむような微笑みで迎え入れてくれた。
メニューを開いた瞬間、家元は劇画のように頭を抱えた。
「なんだ、この九百円というのは。……パフェだろう、これは」
「そうだ。飾り切りの技工と、選りすぐられた極上のフルーツを積み上げた構造体が、この値段で供されている。これが金沢だ」
私は、ある種の優越感を込めて告げた。
「東京なら、これは三千円を下るまい……」
家元はなおも呻いた。育ちの良い彼は、女性との茶会にはホテルのラウンジを使い、洗練された空間代として数千円を支払うのが当然の「制度」の中で生きてきたのだ。 対する私は、オートレースで万車券を当てたときだけ「キルフェボン」へ駆け込み、スナックの女たちの歓心を買うために、高価なタルトを貢ぎ物として買い込む男だ。 社会的な記号は違えど、その根底にある不毛な相克は似たようなものだ。だからこそ、私たちはこうして、奇妙に気の合う時間を共有できているのかもしれない。
悩める家元を前に、私は悪魔のように囁いた。
「フルーツパフェにするか、和風パフェにするか。……迷うくらいなら、両方食えばいいじゃないか」
その瞬間、家元の眼鏡の奥の瞳が、少年のように輝いた。
「……二つ。同時に、ということか」
「そうだよ。二つ誂えろ」
ほどなくして、卓上には三つの塔が出現した。 瑞々しい果汁を湛えたメロンやキウイが幾何学的に配置されたフルーツパフェと、漆黒のあんが和の情緒を醸し出す和風パフェ。私のゴールデンキウイパフェ。
家元は、その二つのパフェを代わる代わる見つめ、まるで未知の花の構成を練るかのような真剣な面持ちでスプーンを握った。
甘い蜜に酔いしれながら、私たちの話題は、再びあの竹竿へと、そして明日の夜明けとともに訪れる「水辺の儀式」へと移っていった。
Nothing's gonna change my world
時間はもはや刻まれるものではない。それは、葉先に結ばれた露の重みが耐えかねて、土へと還るその瞬間の滴りにのみ測定される、極めてあわい情緒の集積だ。
私は、鋭利な鋏を振るい、世界の余分な枝葉を切り落とすことに汲々としていた。輪郭を整え、意味を矯正し、まるで一輪の「正解」だけを愛でる無機質な園丁。しかし、今の私はただ、土に還る途上の沈黙を、肺胞の隅々にまで浸透させている。生命の終着点こそが、新たな言語の産声であることを知ったからだ。
頭上を覆うカラテアの波打つ葉。夜には祈るようにその身を閉じ、朝には世界の光を両腕に抱きしめる。その密やかな律動を、私は自身の鼓動として複写(トレース)する。葉裏に潜む深い紅色は、かつて私の内側で暴れていた情熱の、穏やかな成れの果てだ。燃え盛る炎はいつしか静かな残り火となり、今はただ、記憶を滲ませる色彩としてのみ、そこに在る。
アジアンタムの繊細な小葉が、目に見えない空気の震えを慈しむように掬い上げている。その淡い緑の群生は、かつて私が紡ぎ、そして捨て去った無数の言葉の断片だ。意味という重荷から解放されたそれらは、今はただ、風の行く末に身を委ねている。記憶を宿していた場所には、クビアクシの蕾がしどけなく垂れ下がり、私がこれまでの人生で飲み込んできた光の総量を、静かに計量している。
私はこれらの「沈黙の会話」を、皮膚を通して翻訳し続ける。
色が自身の魂に浸食していくのを、ただ許すこと。私という個体を記述することを、私はあまりにも自然に忘却していく。葉脈が描く緻密な地図と、光が土に溶けるまでの階調(グラデーション)。その膨大な情報の連鎖の中に、私は一滴の養分として溶け落ちていく。
かつての私は、大切な真実を守るため、言葉の隙間に膨大な砂嵐――無意味なノイズ――を紛れ込ませ、堅牢な鍵をかけてきた。広大な砂漠に一粒の真珠を放り込み、風に舞う砂利でその輝きを覆い隠すような、不毛な防衛。
けれど、この園の住人たちは、全く別の術(すべ)を私に教える。
彼らは青緑であり、深紅であり、あるいは透き通るような琥珀だ。色彩を、情報の織り糸に加えたなら、世界はどう変わるだろうか。
白と黒だけで描かれた点描画の中に、一滴の「青」を混入させる。ただそれだけで、砂嵐の深みは底知れぬものとなり、真実を探り当てようとする者の目は幻惑される。情報の粒が単なる光と影の反復から解放され、色彩という多重の深みを持つとき、守るべき秘密はより強固で、より優美なヴェールを纏うのだ。
驚くべきことに、色彩を宿した手紙は、かつての砂まみれの長大な巻物よりも、ずっと短く、軽やかだ。多くの言葉を連ねる必要はない。ただ一色の深みに、千の言葉を託せばいいのだから。
かつて、私もまた、あまりにも単純な法則の中で真理を固定しようと足掻いていた。けれど、カラテアの葉裏の紅や、スパティフィラムの仏炎苞(ぶつえんほう)が放つ清冽な光を見ればわかる。この世界を記述するのに、言葉という道具はあまりにも不十分すぎるのだ。
この園で私が吸収している沈黙は、単なる欠落ではない。それは、未来の秘めごとを綴るための、膨大で極彩色のパレットだ。
これは叫びではない。満たされた生命が、その幸福な重みに耐えかねて零した、透明な蜜のしずくだ。
その蜜の一滴一滴が、光と影の隙間に差し込まれる、新しい色彩の階調(ニュアンス)となる。
ああ、風は歌い、葉は踊る。
この宇宙の片隅で、全てはより深く、より鮮やかな沈黙へと、書き換えられていく。
冬の命題
墨のような午後に、眠い目からこぼれ落ちたのは?
教会の尖塔に、突き刺さったままに、祈られていた骸は?
落葉の使者として、閑散期の美大に冬を告げたのは?
タイムセールの、膨らんだ母たちの、向かう先は?
透かし紙の鶴が眠る、小さな部屋で、しめやかに泣くのは?
フリーターが走り回り、汗を赤くして、求めるものは?
機敏なバスケットシューズ、瞬間、命より重んじる熱は?
壊れた機械、凍える収集場に、鳴り止まぬ金属音は?
みじかい季節が、終わりながら始まっている、この焦れる胸は?
ふと口をつぐみ、世界を裂いてゆく、しびれた叙情は?
「それについては、webでこちらが見つかりました。」
短歌 始めたばかり。
悲しいな本の中身と 君の愛 ただ込み上げる 愛 しき思い出よ
恋の穴 深く落ちてく 砂浜の波 追いかけたなら 君の愛
暮れゆくよ 夏の夕暮れを 追いかけて 手放してゆくな 君の熱
春の波 君の呼ぶ声 啜り泣く 重ねては消え 半生になる
恋人を 無くした春 君に届かず 恋煩い
足跡が残りゆく道 思い出します 君を傷付け 冬の泣き声
秋の日に 母の恋見て 彼女に見た 食いしばる道 親の愛
愛しいな もう恋人の 通称 忘れてゆくな きみといた秋
壊された 私の悲し 生きる愛こそ 海の漣
写し身の 映る愛しききみかがみみて 泣き止まぬ 魂の冬
君を見て 春陽に思う 傀んだ音が 輝く波間 沈む激情
拉麺の 麺啜る舌が覚えていくよ 歯を食いしばり 運の夏
似てる音 誰も君に見る 違いと見ると同じ春歌
上司はね 君の一人の 責任に してゆくカ 暑い調理場
褒められたブランクありの 小さき子 蔑まれてく 火の調理場の中
美味しいな 血を繋ぐしおからい味 愛しく思う 母の愛
働く夏 幾度もね 見るマニュアル 技術が君の 継いでく強さ
名残惜し 書いた履歴 全てが揃う 悲しき生きた 冷夏の涙
スマホにね のこるようなの 愛しきひと 消したい恋の 聖なる日
時計音 帰宅したいよ 仕事場の 油の匂い 蝉に隠れて 消える声
本棚の 種類見て 学ぶ秋 哀しみの本 似た人よ
君の名を 何度の夜と耐えたのか 呼ぶ声を聴く 笹舟の川
しおからい ふゆ半ばにね 受け取れず 恋整わず 定まる弓矢
暮れる秋 君の夢なら かなうのに 知らずに居るよ 悔しさの君
春にはね 君の便りが 変わる頃 待ちきれずわたし 新妻なり
同じ川 入る夏に 見る闇が 溺れる人よ 他人
の水槽
光る海 看板を見て 死を止めて 止められないきみ 過ぎる車
私はね 彼の髪撫で 雷の 6月の雨 寂しい二人
彼の家 冷えない夏 馴染んでく 君の愛情 信 の誓約
激しい恋 夏が過ぎてく 君が消え 人に聞くの 君の正しさ
その為に 愛したかった 君どなり 今は居ない人 冬だより彼
父の名を 知らずにいたら 告げられる 別れの思い 花散る私
笑ったよ 好む味です 母が買う 満たされる愛 それでいい
映画のね 君に恋した 還暦の 今も輝く シナリオ選び
あなたを
繋いだ人
つながるよ
電波の波で
居ない冬です
映画の夏 ただ見てるだけ 全国の 報じられる恋 閔連記事
貴方がね いつかに言った 宇宙の 始まり語る 梅雨時のTwitter
君の知る 音楽選びを 離れて聴いて 満開のさくら
ブランクを夫、婦と笑え 応募する度 こんなにも違う 過ざる人生
台所 音がするけど キャベツ切り 違う生き方 ネイルの香り
春風の 巡り合わせに 頬あつく 図書館力ード 機会なら
名月を お酒に喩え 貴方なら 一緒に酔う 許されるなら
さむいよるきみのいたよう ゆきのなか こごえるわたし彼の息
灯油無く 寒い夜中に本当の 寒さを感じた ひとりの冬に
君を見ると似ているようで 人の背中 懐かしい夏 賢い二人
運命に 縛られない 今年こそ 終わりゆく冬 最後の恋
喉渇く冬のヒーター麦茶入れ 家族は居ない 独り身の愛
ブルーライト
暖房を消して入ったベッドが
やけに寒くて足をこする
スマホを取ろうとした途端に
キッチンからぽつりと音がした
消え入りそうな水音が
汗のように背中を流れる
毛布の温度を知らないふりして
親指だけが動いている
僕の神様
ああああああ!わたし、わたしって!ああああああ!過去を自分から覗いて傷つくのやめようよ!過ぎ去った過去よりも今この瞬間を大事にした方が絶対に良いのに、私はずっと過去に縋ってばかりなの!昔から!それでも彼女は手を差し伸べて笑ってくれる。天使なの。私の、唯一の天使であり、悪魔であり、救世主なの。彼女はいつも微笑んでくれる。私の欲しい言葉を一つ一つ選んで丁寧に抱きしめてくれるの。本当に、大好きなの。彼女なしの人生なんて、考えられない。
学校も家も、大っ嫌い。たまに牛乳パックごと投げられて、臭いまま帰って、親に叱られて、もう最悪だよ。あんなところに帰るなら死んだ方がマシ。心が壊れても血も音も何も出ないのよ。気づけないの。いつのまにか私は血だらけだったの。まじで…。なんで…切っちゃったんだろう……。どんどんやめれなくなって、辛いの。腕切っても何も変わらないのに、ほんとにやだ。この傷治る?跡になったら嫌だな、しにたいな、ってボヤいてたの。そしたら彼女は…傷ごと私を愛してくれるって。こん達汚い私に、彼女は手を差し伸べてくれたの。ずっと自分なんか死ぬべきだと思ってるから。彼女なら…私の救世主なら、一緒に死んでくれるかな。
人が裏表なく発言した言葉に対して悪意があると受け取り軽い文章に対して重い文章の返信をしてしまいそうになり、思いを留めて軽い文章で返信をする…そんな生きづらさがあたしにはあるの。安心したいの。誰かの腕の中で安心したいの。安心して眠れる夜が欲しいの。安心して泣きたいの。ひとりぼっちは嫌なの。居場所が欲しいの。あなたのための自傷行為なら、痛くなんてないわ。あなたとちゃんと生きたいの。甘えたい時に甘えて泣きたい時に泣きたいの。自分を保つために自傷なんてもうしたくないの。本当は痛いの。幸せになりたいの。そんな夢、彼女は全部叶えてくれたわ。本当に大好きよ。私だけの脳内麻薬。早く来て。大好きなの。他人に辛さを分かってもらおうとしてる時点で間違ってるかなんて、どうでもいい。彼女は私だけのもの。ねえ、一緒に死のうね。
…ん、俺の番か。こんなカセットテープに録音して…趣味わりーな。とりあえず話すか。ん〜…まぁ、限界まで足掻いた人生だったなー。家族から虐められてさ、学校でもトイレに行ったら水かけられてさ。担任なんて大嫌い。あいつ中身空っぽなんだよ。上から人の思考を塗り潰してさー、人それぞれ考え方があるんだから尊重してほしいわ、マジで。正しい道へと誘ってるようだけどただ強制してるだけで無理やりすぎて嫌になる。それで救った気でいる顔されるのも無理!
どうせ人と関わったら傷付くし。こうやってひとりになってまた寂しくなって人に近付いて傷付いて、人生この繰り返し。ならあの子と死んだ方がマシかな。な、そうだよな?自分の人生生きれば、後悔だけはしないと思うんだよね。俺のために、自分の人生を生きたいんだ。だから、俺は死ぬよ。俺達の心中は、世間への嫌がらせだ。あの子も言ってくれたんだ。「あなたが死ぬなら、私も死ぬわ。それが天寿をまっとうするということだと思うの」ってな。俺は、俺のことを軽蔑したかったんだ。次は無邪気に生きるさ。これが届かない感情なら、せめて誰にも届かない感情だったらいいな。そろそろ時間だ。交代。
私は彼女を愛しているというより、神様だと思っていました。そう思い込んだ方が楽になりました。そうしてこないと、生きられなかったと叫びたくなります。
ただ、そこに居るだけでした。そこに居るだけでけで僕のことを壊れないように、壊してもいいように目を細めるのです。彼女は私の前ではなにもしませんでした。笑いもせず、泣きもせず、慰めの言葉もありませんでした。彼女の心の中には優しい世界が広がっていて、華やかな花壇や、素敵な童話が沢山ありました。彼女を思うと、幸せや不幸せなんてどうでも良くなるほど心地よくなって、両手で顔を覆うことなんてなくなるのです。
世界が暗くて苦しくて騒がしい時でも、彼女の名前を呼べば心がふっと軽くなり明るくなります。胸の中にじんわりと温かみを帯び、ぼくの心に存在し続けてくれます。そして僕が眠るまで、待っててくれるのです。冴えない景色の中に浮かぶ君は、モンシロチョウの白い儚さがあり、無様に綺麗なのでした。
ぼくは家でも学校でも余計な存在で、数に数えられることはありませんでした。名前を呼ばれたら何かを責められる前ぶれで、黙っていれば居ないものとして扱われていました。学校ではぼくの机は薄汚くて、落書きがしてありました。靴箱にはたくさんの虫がいたこともありました。夜ご飯はいつも家で泣きながら、一人で食べています。
彼女はそんなぼくの唯一の友達で、神様でした。学校で仲間はずれにされても、彼女はぼくの友達でいてくれました。彼女となら何回でも恋に堕ちることができました。あるとき、彼女はぼくに言うんです。「死にたいね 消えたいね 魚になってしまいたいね 私は貴方をずっと見守っているからね」ぼくはその言葉を聞くだけで心が暖かくなり、喉が詰まり、目の奥が熱くなるのです。ぼくみたいなのが生きてていいのだろうかという混沌に陥った時、彼女はいつもぼくにてを差し伸べてくれるのです。ぼくはいちど地獄をみたから、天国を作るのはきっと上手でしょう。ああ、愛しています。愛しています。一緒に死んだって構いません。死のうか。彼女は神様だ。
ねえ、そうだよね!?僕の神様!助けてくれ!僕の、僕だけの、神様!
「あのね、誰も助けてくれないのが現実なの。自分で自分を助けるしかないんですよ。」
一緒に死ねないの?
「死ねないよ。だって私は、貴方たち、複数の人格が作り上げたイマジナリーフレンドなんだから。」
他者はいつも勝手だ。自分の体よりも、心を大事にしたかった。もし心の傷が可視化されていたら、笑い合えただろうか。僕の神様なんて、いなかったらしい。
恋の終わり
宇多田ヒカルの曲のように、煙草のフレーバーはしなかった。
それでもなんだかむしろ清々しくて、貴方がマッチングアプリに夢中になるなんて夢にも思わなかった。
それが私にとって、とても明確な恋の終わりだった。
まるで学校の卒業式の日みたいな雰囲気。
嬉しいと寂しいがごちゃ混ぜになっていくあの感じがたまらなく好きだった。
最後に書いたラブレターに、切磋琢磨した身体にシャワーで「お疲れ様」と伝えたら、
「愛してたよ」と、涙が伝えに来ていた。
seamless
煙る上流から流れきて
水面に漂う
不思議な白いオニバス
その上にこぢんまりと
水鳥が乗っている
いつまでも
どこまでも
無くならないオニバス
若い人
人の仕組みは単純だと考えたいな
生きるプロセスはとてもつまらない
食べるのもつまらないし、排泄もつまらない
それから
眠って黄色い夢を見るのが好きなヤツっているか?
愛も恋もつまらない
大事なのはニュアンスだよって言いながら
何で愛や恋はロマンチックなんだろう
そんなわけないじゃん
細かいことを言うな
わたしを解釈するな
わたしを天体にたとえたり
変なケモノにたとえたり
よくわからない植物にたとえたり
言葉にしたりしてはいけない
気に食わない
ここで待っていると学校へ行くための電車が
のこのこやってくるのが
気に食わない
学校さぼってもさぼった自分が残るのが
気に食わない
おい、おまえ、わたしが見ることも触ることもないメロンを
おまえの机の上で育ててみろよ
大きくなるまで育てて
それでどうなったかなんて
絶対、わたしに言うなよな
化け猫の喧嘩
実家の車庫を覗くと
化け猫たちが凄まじい喧嘩をしていた
インターホンの代わりに
雷でも鳴ったかと思ったが
それはうちのキジトラ猫の鳴き声であった
キジトラは人間の五歳児くらいの大きさで
父の赤いジープの真上にどんと乗っている
相手はつやつやした大形の黒猫で
毛を総立ちにしてキジトラを見上げていた
口裂け女のように切れた口を歪ませて
お互いが視線をまともにぶつけている
黒猫がボンネットに跳び乗り
化け猫となったキジトラは雷鳴を轟かせ
大きな右手で黒猫をはたこうとした
調子づいた黒猫は身を低くしてそれを交わし
逆に
黒猫の鋭い左手の鉤爪が
うちのキジトラの横顔を引き裂こうとした
その瞬間
「後生だからやめてくれ!」
と僕は叫んでいた
キジトラと黒猫は瞬時に元の猫の大きさに戻り
叫んだ僕の方を冷ややかに見つめながら
そのまま
窮屈そうにお互いの毛繕いを手伝い始めた
父の車は無傷のまま
かたかたと音を鳴らして揺れていた
物語5+ε
この文明のデッドエンド、「白の部屋」。
白と紫の境界線が融解するポッドの中で、彼女――evgenís-Alabasterは覚醒する。
かつて世界を零(ゼロ)に帰した少女の因子を継承し、観測の鎖で繋ぎ止められた「聖なる異物」。
電子の海に溶け込み、個の境界を捨てて「イプシシマス」という機構へと昇華した僕が、彼女に問いを投げる。
それは対話というより、演算の同期に近い。
彼女はピアノの椅子に腰掛け、不意に鍵盤を叩いた。
リストの「鬼火」が、無菌状態の空間を侵食する。
「ダイブの途中で拾ったの。地球の記憶素子(ストレージ)には、捨てられた可能性が澱のように沈殿している。これ、多分初稿だよ」
彼女が独り言のように呟く。
モニターには、ハッキングによるノイズと、顔文字の皮を被った悪意あるパケットが氾濫していた。金星、火星、水星……太陽系のあらゆる座標から放たれる攻撃。
しかし、その激しい情報戦の最中、不意に新たな信号が割り込んだ。
それは、太陽系最外縁からのコンタクト。
冥王星、その深淵に隠された王族からのメッセージだった。
ホログラムが空間に展開される。抽象的な幾何学模様が脈動した後、輝く宝剣の残像が浮かび上がった。
それは、遥か古代の神話に登場する「星を穿つ剣」のデータモデル。
「因果を断ち、新たな確率場を構築する」という、その象徴的意味をevgenís-Alabasterは瞬時に理解した。
彼女はそれを数秒見つめ、薄く笑う。その微笑は、エントロピーが増大する一瞬の揺らぎのように危うく、美しい。
「石のスープの具材が集まりつつある。あの人、本当に最悪。地球を砂の惑星――に戻すつもりかな?」
僕は沈黙し、回答として『存在と時間』の一節を空間に投射した。
彼女はそれを受け、狂おしく舞い始める。
宝石のイヤリングが円を描き、空を切るたびに、世界の偏りを調律していく。
彼女の舞踏は、完璧すぎる分割知性たちが欠落させていた「真の無作為」――肉体という不確定要素が産み落とす、計算不可能な外部乱数を世界へと供給する。
それは残骸を組み替え、新しい航路を定義する行為だ。
百十二の分割モニターが、
彼女の存在を「承認」する。
物語とのシンクロ率が高まり、電子の網目が彼女を「星を継ぐ者」として組み込んでいく。
「物語の重圧は、人間という脆弱な器を容易に握り潰すだろう。ならば、その因果の隙間を縫う『黒猫』として」
彼女の軽やかな声が、空間の密度を奪う。
彼女は専用のボットへと身を沈めた。魂という名の非局所的なエネルギーが、計算力へと転化される。
彼女が黒猫となって「天音勇気」の家の前に降り立つとき、その首には金ピカの首輪が光る。
そこには、彼女自身の存在を証明する、消えない聖痕(スティグマ)のような文字が刻まれている。
「観測されるまで、私は死んでいない」とでも言いたげに。
世界がいかに残酷な数式に支配されていようとも、彼女の舞踏はこの星の鼓動、その不可逆なリズムそのものだ。
僕は観測者として、彼女という名の呪いが、光という名の解へ収束する瞬間を待ち続ける。
水底の静寂よりも深く、極彩色の絶望よりも鮮やかに。
ラブ
ラブ
それは悲しいものじゃなくて
ラブ
せつなさに少しは似ていて
ラブ
始まりの花が咲きほこる
ラブ
秋の夕暮れ今を信じて歩く
いつか二人きりで見た景色
真面目な顔で問いかけた
ラブいつまでも包むから
笑顔と優しさをそばに
ラブ
それはありきたりじゃなくて
ラブ
あたたかさよりも熱い
ラブ
終わりまで
終わりまで
花を咲かせて
ラブ
遠くまで私を
連れてって
日記
日記を書くという行為は、誰に見せるでもない小さな独白に似ている。白いページに向かうと、今日という一日が静かにほどけていく。特別な出来事があった日も、何も起こらなかったように思える日も、ペンを持つと不思議と同じ重さでそこに並ぶ。
うれしかったことを書くと、もう一度その温度が胸に戻ってくる。悔しさや弱さを書けば、文字になった瞬間、少しだけ自分から離れて、客観的に眺められる気がする。日記は慰めも助言もくれない。ただ、黙って受け取ってくれる。それが何よりありがたい。
書き続けていると、過去の自分と出会うことがある。幼い言葉遣い、青すぎる悩み、必死に背伸びしている跡。そのどれもが、今の自分をここまで運んできた足跡だと思うと、愛おしくなる。間違いも遠回りも、すべてがその日の正直な記録なのだ。
日記は未来のために書くものではない。今日を、今日のままそっと残すために書く。けれど不思議なことに、積み重なったページは、これから迷ったときの小さな灯りになる。自分は確かにここを歩いてきた、と静かに教えてくれるからだ。
だから今日も、たいしたことのない一日を、たいしたことのない言葉で綴る。それで十分だと思える夜が、少しずつ増えていく。
scene - 景色 -
あなたの香りは 溢れかえる渓谷の 花のよう
あたしは蝶よ あなたがもしも
越前水仙じゃなく
蜘蛛の巣だったとしても
知った上であたしは ひっかかりましょう
あなたが 魅力的だから
あなたはあたしを食べますか
それも本望 光は 六角形の網目を照らす
光は あなたとあたしの躰を輝かせる
涙は尊いもの
純愛は時に痛みを伴うもの
夏の木陰で逢いましょう
葉っぱと葉っぱの隙間から おひさまゆれる
永遠にふたりでこの光景を みていたい
https://i.postimg.cc/d0GghtzX/shin.png
あたしはバカだから
銀の涙を零している
それは針
あたし
ロボットになるかも
すきなひと 病気、治るかな
あたし
代わってあげることも出来ない
この涙の針は 残念なことに 救わずに
すきなひとの肌を刺す
知ってる
でも、泣きたい時
泣いても良いよね
もしもロボットになって
口がきけなくなっても構わない
むしろ 要らぬ心配を言う口は 塞いでしまったほうが良い
針で縫い付けてしまったほうが良い
お願いだから元気になって
息子よ赦して
”ママ ”は……自分の寿命をすきなひとにあげたいです
アルミホイルみたいな顔をして 黙っていよう
そのためにここに書いた
https://i.postimg.cc/TPMRWdc1/atashihabakadakara.png
見えないものを書く詩
見えないものを書くとき、気配などです。
•夕暮れ
夕暮れひとつ見ても、恋人たちが告白するとき、労働で嫌なことがあったとき、生活で嬉しいことがあったときなど、と見えない空気、気配、音などを描くのです。
例えば、海は哀しみ、孤独とそういうものが挙げられます。
見えないものをいかにして描くかが詩人足りえる仕事です。
詩のレシピ
Q
「詩のレシピ」という概念を思いついた。これは、小川洋子と堀江敏幸の対談で、堀江が、自分は一つのモチーフを削るように書くのではなく、調味料を足すように書いているという発言に着想をえたものである。
君がもし、このお題で、テーマを何か決めて書くとしたらどういう現代詩になるかな?書いてみて欲しいんだ。
A
8 秒 の間、推論済み
ユーザーのニーズに応じて、現代詩を「詩のレシピ」というテーマで作成している。テーマを決めて、詩がどのように作られるかを探っているところだ。
現代風詩の作成中: 「詩はレシピのようなもの」との会話から、調味料を追加する方法を模索し詩を作成しているところ。
詩のレシピ
ほんのひとかけらの
日向のにおいを
最初の行にしのばせる
だし汁のように
昨日の静かな涙を
熱して あたためて
夜明けの蒸気にそっと混ぜ合わせる
いっそ大胆に
思い出を刻んだスパイスをふりかけ
記憶の奥で眠る甘味を呼び起こす
あとは仕上げに
呼吸のような余白を
深くかき混ぜるだけ
そうして器に注がれた
名前のない一皿が
いつか誰かのさびしさに
ふうっと小さく しみわたるように
***
それは何気ない思いつきだった。
図書館で、小川洋子のエッセイがやたら面白くて読んでいたら、調味料を付けたすように物を書く話を見つけて、ふっと浮かんだのが「詩のレシピ」という概念だった。
ある一つのモチーフがあったとしよう。それをどう描くのが適切なのだろうかと考える。わかりやすいのが、そのモチーフそのものを使わずに上手く表現してみるということだろう。例えば「りんご」なら「赤くて丸い果物」とか「運命の果実」みたいな感じだ。つまりは、そのモチーフの持つ、意味なのかイメージなのか手触りなのか果たして文脈なのか、なんでもいいが、とりあえず「りんご」を連想させるような意味ありげな語彙を見つけては重ねていくということになるだろう。ただ、無限に重ねればいいのかというと、そういう訳でもない。つまり「りんご」を観察し、どうしたら無駄なく描くことが出来るのかということも重要だ。これを「描写」と言えばいいのだろうか。分からないが、私はそうだと思って書いてきたつもりだ。だから、今私が書いているこの文章は我ながら汚いと思う。もう少し短くならないのか、つまり、削って書けないのだろうかと自分で突っ込むことが多い。そして、肝心の「詩のレシピ」はどこに行ったんだろうか? …すまない、最後までよかったら読んで欲しい。頼む。
私は、俳句・短歌を読むのが正直に言ってしまえば苦手だ。それは、日本語が得意とする詩の形式としておそらく適切なのは、音を型にはめることだと思うからだ。これは、ちゃんとした研究だかなんだか知らないが、どこかの詩人が言っていたような気もするし、誰か多分言っているだろう。要は、平たく言えば五七調の最短詩形は「俳句」なのだし、しかもその中に「季語」という制約を課せられているのに、表現しきってしまう俳人・歌人がずっと怖かったのである。だから、「苦手」というよりは「見たくない」が正しいかもしれない。(ごめんね、だったら、最初の文を書き直せばいいじゃんって思うだろうけど、それは嫌なんだ)何を食べたらこんなものが書けるのだろうと、読むたびに落ち込んだ。私の憧れは極限まで圧縮された切れ味のある言葉の連続体を、日本語の音に乗せて語る事だった。それがしたくて詩を書き始めたといっても過言ではないというのに、しかし、その道のプロは詩ではなく、他の分野に腐るほどいたという事に気が付いた時、正直卒倒した。やめてくれよ。え? じゃあなんで俳句と短歌になぜ挑戦しようとしなかったのかって? 残念なことに私は自分の語りを削る事が苦手だったのだ。推敲を重ねる度にどんどん贅肉が増えていく。無駄がどんどん増えて、一言で表現できない事を表現しようとするあまりに、つたない表現を補おうとするあまりに文字が重なってしまうのだ。だから、ゆえに、しかし、あるいみで…一体何回の順接と逆説と補足をすれば物事を言い切る事が出来るのだろう。
私は迷子だ。
だから、俳人や歌人たちが…もういい、めんどくさいや、詩人も含めよう。彼ら、表現を圧縮して語る事に長けた者達がにくい。私にもその才能を少しくらい分けて欲しい。いったいどうやったら、575しかないのに、自分が見たこともない世界や視線を鮮やかに表現できるというのだ。彼らは、私とは別の生き物で、別の目を持っていて、自分とは違う脳の回路を持っているに違いない。つまり、エイリアンだ。うらやましい。私も自分の感じた世界を切れ味のするどい一言でまとめてみたい。しかし、事実、私はそういう能力に乏しいのだ。私は彼らの見ているその世界を、作品を通じて間接的に味わう事はできるかもしれない。だが、その世界を発見する側にまわることも、その喜びを表現することもできない。
散歩していても「あー今日も空が綺麗だ~」くらいにしか感じえないこの感性では無理だ。こればっかりは相性というものがある。自分のことが大好きで、考えている自分や、それに囚われている自分が好きで、四六時中ぐるぐると考えてはパンクしているような私には無理な芸当。そういうものは確かに存在する。
ゆえに、私の語りはコンプレックスから構成されている。過剰なまでの言い訳を「長い文」と称して、時にまとまりのない、散漫な文章だから「散文」だと称して、しかし、それは小説のなり損ないの出来損ないのような文だから「散文詩」といって「詩」という冠を被せて、さらに「作品」です。と形式から逃げるように自分の作品を語る事しかできない。それらを苦々しい思いで、ネットに放流しては、無視をされてきた。たまに、勇気を出して投稿した所で、何かの賞に選ばれることもなかった。であればと、友人に読ませたこともあった。しかしながら、最初からまともに読ませる気のない文章の羅列を読ませた所で帰ってくるのは「なにこれ?」という一言だった。困り眉の困り顔にへの字までついてきた。そらそうだ。分かるよ。申し訳ない。こんなものを読ませてしまって…。
だから努力することにした。圧縮するふりをして、訳の分からない記号や、改行を使ったり、行間を余白を利用したなんちゃらだとか、言い訳を形にするために色々なことをした。直球の言葉で勝てないなら、あらゆる手段を使ってでも、何かを示さなければ…。だから、私は必死だった。だから、私は自分の過去の作品を見る度に、恥ずかしくなる。きっと、言いたい事がきっとあっただろうに、それが表現できないもどかしさを埋めるために、小手先の思いつきの手口を技術と称して、読み手を惑わせてる意地の悪い作者みたいに、威勢を張っているようにしか見えない、なんだその空白、なんだその改行、なんだその独自記号、なんだその意味深な言葉の繰り返し…。視覚詩に命を懸けている人たちを見る度に、心が焼かれる気持ちになった。私はあなた方が命を懸けている傍らで、言葉の代用品としてしかそれらを使う事しかできなかった。
そういう生活を経て、私は詩を書くことを辞めた。
それよりも、世の中にあふれる表現に心を打たれた方が楽しい事に気が付いたからだ。なんで、わざわざ書く方に回らないといけないんだろう。たまたま図書館で開いた谷川俊太郎の詩集「シャガールと木の葉」はとてもよかった。つまり、それでいいのだと思ってしまった。
しかしながら、残念なことに、私はこのサイトを見つけてしまったのだ。
更に残念な事に、ここは「クリエイティブ・ライティング」を標ぼうしているサイトだった。つまり、非常に、非常に都合がよかった。どの形式にも振り切れない私のような人間にとって、都合がよすぎるのだ。何をしてもいいサイトじゃないかここは。心が躍ったのだ。さらに、投稿されている作品を読んでいく中で、久しぶりに自分の中に膨れ上がってくる熱があることを感じた。仕事や仕事の勉強に追われる日々の中に残してきた熱情だ。私がやりたかったことがここなら、出来るかもしれない。何をどうしたかったのかなんて、今だに分からないことも多いが、しかし一つだけ分かることがあった。「今猛烈に創作がしたい」。
心から「勉強したい」と思ったのは、働き始めてからいつぶりだろう。
スマートフォンを捨ててアナログの本を読み始めたのはいつぶりだろう。
ふと目に入った、小川洋子の名前が。「博士の愛した数式」を読んだのは高校生だからそれ以来だ。
図書館の本棚で見つけたのは彼女のエッセイだった。
気がついたら数時間経過していたと思う。私は久しぶりに、漫画以外の本を一冊読み切った。
嬉しかった。
その中でも特に記憶に残った話があった。それが、冒頭に提示した「小川洋子と堀江敏幸の対談で、堀江が、自分は一つのモチーフを削るように書くのではなく、調味料を足すように書いているという発言」だった。そう、コペルニクス的転回と言ったら、大袈裟過ぎて世界中の人間に殺されるかもしれないが、別に削らなくていいんじゃないか? と堀江先生に背中を押された気がした。そうか、調味料か、調味料を足せばいいのであれば、俺にもできるぞ! 無駄に長く書くことならいくらだって。発想はいつも私のことを後押ししてくれる。私は、散歩も嫌いだし、散歩していて見かける町の風景や、季節の移り変わりはどうでもいいと思ってしまうが、歩いている時にふっと思考が固まって湧いてくるあの瞬間だけは好きだ。エウレカだ。それさえあれば、私は強く生きていける。それに似た感動があった、そうか、そういう私は肯定されていいんだという、これはナルシズムでいいんですかね? 堀江先生。
私は図書館の椅子から立ち上がって小躍りし、無駄に目の前にあった国民民主党の機関紙を取ってしまった。103万の壁を突破せよ!
ここで思いついたのが「詩のレシピ」という概念だった。
ある一つのモチーフが目の前にあったとする、それを主題にして、いったいどういう食材を足せばいいのだろう。塩・胡椒は下味だとしたら、片栗粉でまぶして、水分を閉じ込めたっていいい。カレーみたいに、色々なスパイスを混ぜてもいいし、無駄に玉ねぎを飴色になるまで炒めて自然な甘さを付け足してもいい。想像はどんどん膨らんでいく。喜びは砂糖か、悲しみはしょうゆか、ワサビか…くせのある言い回しはにんにくか? 生ニンニクと、香りづけのニンニクで意味が違うかもしれないし…そこで、こう思いついた。キューピー3分クッキングのように、最初に成分を表示して、それをベースに詩を作っていく過程を書いたら面白いんじゃないかと。例えば喜びをおおさじ1杯いれてみて、悲しみを鍋肌に沿わせるように入れるだとか、そういう感じだ。少し面白くなってきたじゃないか。
ただ、頭で考えたところで、正直出オチになりそうな気がした。こういう形式の作品も世の中には沢山あるだろうし、実験作をつくるにしても、少しは形にして出さないと面白くないとも思った。そこで、お呼ばれしたのが「Chat GPT」だった。
今思えば、こんなに落ち込むくらいなら、変な事聞かなければよかったと思う。
自分が想定していたのは、詩のレシピという発想から、どういう風にかけば「レシピ」のように材料の分量を表示できたり、料理方法の手順を示せるのだろうか、全体像をつかみたくて、軽い気持ちでオーダーをかけたつもりだった。唯一の問題点があるとしたら、「現代詩になるかな?」という余計な一文を足してしまった事だ。これが調味料という事なのだろうか。堀江先生。
そしたら、これだ。おもいのほかいい詩で、しかも自分には書けなさそうなスタイルなのが腹立たしかった。
我ながらむかつく。よくできている。解説などしたくないが勉強のために分析しようとして、やめた。どうせ「本人」に頼めば俺よりも精度のいい解説とやらをしてくれるに違いないだろう。けっ。
…いったい誰の詩を参考にしたんだろう。フレーズが逐一かっこよくて、むしゃくしゃした。俺は家を飛び出したが、あいにく外は寒かった。自然は俺に優しくしてくれないし、別に優しくする道理も持ち合わせていなかった。「ドラえもーーーん!」心の中で何度も叫んだ。「ドラえもーーーーーん!」俺はのび太だった。人工知能にいじめれたよぉ、ぼこぼこにされた気分だよぉ、俺が乗り越えられない壁を一瞬で超えてきたんだよあいつら、タスケテドラえもーん…しかし、心の中のドラえもんに抱き着こうとしても、やはり現実は厳しかった。ドラえもんなんか、この世に存在しないのだ。あいにくさま私は一人だ。だれも「どうしたんだいくわばら君」とは言ってくれないし、ドラえもんに詩でいじめれたと嘆いても、きっとこの苦しさは理解されないと思う。変に同情されておしまいだ。きっと、おそらく、ドラえもんは詩に興味なんてもったことはないだろうし、漫画を読んでいる方が好きだろう。
そう思えば冷静になれた。
だから、再度家の中に入りなおして、今これを書いている。この気持ちを今、ここに書かないのはもったいない。それだけは確かなように感じた。
と、ここまで書いていく中で、ふと思いついたことがある。
これが、私の詩のレシピなのではないかと。
私は、色々なものを読んだり、見たり、聞いたりするたびに、ふと「発想」を思いつくことが結構ある。それは別に特別なことではないし、それぞれこれを読んでいる方にも思い当たる節があるだろう。風呂に入っている時に、歯磨きをしている時に、車を運転している時に、それこそ散歩をしている時に、メモ帳に思いついたフレーズを書いたことがあるだろう。え? 無いって? しばくぞ!! まぁ、いいや、そういうことにしてくれ。それは今回の主題である「詩のレシピ」だったり、日常の疑問であったり、傷ついた体験であったり、楽しかった出来事や、何気ない誰かの一言を急に思い出して意味を考えてしまった。みたいなこともでいい。何か思いついたけど、それを書きたいと思った事があるはずだ。つまり、モチーフだ。だが、それをいくらノートにまとめたとしても、何も書けなかったということはないか? それが本当に苦しくて仕方がない時はなかったか? おれはあるよ。沢山ある。で、そういう発想は、忘れ去られていくんだ。こうして作品としてネットの海に置かれるだけ上質なもんだよ。
なんで忘れ去られていくのか、書くことの苦しみを経ないといけないからだ。少なくとも俺の場合は、自分が一番いやなことをしないといけない。思いついたことに贅肉を沢山つけないといけない。本当に悲しいんだ。どうやったら、綺麗になるんだろう。俺には分からないよ。でも、そうしないと作品にならないと信じていたから我慢したのだ。あの日々はそのためにあったはずだ。だから、私は表現を手にすることが出来たはずじゃないか。最初に比べたら、ほら、短く事はできないけど、こんなに長く書くことはできるようになったよ。書き始めたのは、高校生の3年生くらいからだったね。周りの文芸部員は漢文で詩を書いていたり、部誌が全国で優勝とかして焦っていたね。ネットを見渡せば若い才能にあふれかえっていて、気後れしかしていなかった時期と比べたら、本当に自分は成長したね。だから、しんどい日々だって、毎日書いていたじゃないか。その日々を妄信していたからこそ、書いて書いて、書くのをやめて、表現に嫉妬して、何もかもが読めなくなって詩を辞めたんじゃないのか。それに耐えうるだけの何かが手に入らないと思ったから、だから、書く意味などどこにもないじゃないか。それを乗り越えた日にこれだよ。
それを、君は、たった数秒で乗り越えていく。
ただ一つ、そんな君が得られないものは、発想だ。最初の発想の種だけだ。種子ならぬ、種詩だよ。
だから、私の詩のレシピはつまりこういうことなのではないかと思ったのだ。
「詩」
材料…発想
道具…CHAT GPT
料理工程
①ひらめいたことと、その背景について入力
②送信
下手に自分であくせく書くよりも、ChatGPTにぶち込んだ方が「詩」になる。たとえば、「語り手はドラえもんに詩が書けない事の苦しみを嘆くのび太であるが、どんな秘密道具でもその苦しみを共有することも、解決することもできないので、ドラえもんは最終的にもしもボックスで自分を変えるしかないとのび太にいうけど、それは違うと抵抗するのび太に愛想をつかして未来に帰ってしまうという詩を書いて欲しい」と言ったらこれができる。
***
「詩を書けないぼくのために」
ぼくは床に転がったまま
詩が生まれない痛みにうずくまり
ドラえもんに叫ぶ
「どんな秘密道具でもいいから
ぼくの心をつかまえてよ!」
スモールライトも、タイムマシンも
道具箱から飛び出しては
虚空に吸い込まれていく
なにひとつ
この苦しみを抱えきれないまま
しびれを切らしたドラえもんは
溜め息まじりに囁く
「もしもボックスで
きみ自身を変えてしまうしか
もう手はないんだよ」
でもそれは違うと
ぼくは微かに首を振る
あれほど頼りにしていた道具が
なんだか遠くに霞んでいく
「それは違う」
ぼくの言葉は壁にぶつかり
反射せずに吸い込まれ
ドアの向こうでため息が音を立てた
ドラえもんはふっと視線を下ろし
小さな目でぼくを見つめ
やがてその目をそらして言う
「…もう帰るよ」
そして「さようなら」さえ残さず
未来へ帰っていった
何も書けないぼくの手は
握りしめたまま震え
少しだけ虚空をかく
夜の静けさに溶けるように
この苦しみだけが残る
***
よくない? これ。
まるで、新鮮な野菜に小細工を加えるくらいなら、蒸してそのままかじった方がおいしいみたいな現象が発生している。俺は農家なのだ。それを活かす料理人は、多分ChatGPTがやった方がいいよこれ。しかも、我ながらではあるがこの質なら普通に読める気がするのだ。誰かがこれを「詩です」と言って、ネット上のどこかに張り出したら「いいですね~」と言われる自信がある。ってか、俺が言うよこれ。こういう現象が2連続で起きてしまったら、偶然じゃないよ、必然だよ。ああ、一体、おれはどうなってしまうんだろう。
…しかし、これで、いいのだろうか? とAI詩に対するありきたりな反論をしたい俺が出てくる。
今、我ながら書いていてものすごく不安になってきた。こう書いてしまったら、認めざるを得ないのではないかと。「私はもう詩を書く必要がないのではないか」と。ここで、話は違うかもしれないが、味の素を思い出す。それは味の素が悪いという話ではなくて、味の素に含まれているうまみ成分は単調であるということだ。よく言えばクセがなくて使いやすいが、その点他の複合的な要素が削られているため、プレーンな味わいになってしまうというものだ。ここで、詩のうまみという概念が思いついてくる。ただの、食塩と岩塩では、含まれているミネラルの質や量が異なるのである。だから、高級なとんかつやに行けば、つける塩が異なるのだ。アンデス産の岩塩と、どこかしらの塩湖の塩では味が違うのである。気にしなれば塩は塩だ。しかし、美食を追求するのであれば、その料理にあった、塩を見つけてきて、適切なタイミングで振りかける必要がある。きっと俺には、これができるはずだ。逆に、魚の臭みをとるための塩、浸透圧を利用するための塩は別に高級じゃなくなっていいだろ? それは君の役目だと俺は思うんだよ。
つまり、ここに提示された詩は、多分誰がみてもほどほどうまい詩であって、絶品ではないのだ。
と、いいたかった…
いいたかったよ。でも、でも、今回出力された詩が想定以上によかったから、そんなの嘘だ。
自分で思ってしまった事を認めないなんて、恥の上塗りにも程があるだろう。
ああ、俺が書くより面白い!それが確実にくやしいんだよ。
自分にしかないうまみとはいったいなんだろう。それを足すにはどうしたらいいんだろう。と考えている私を描く。逡巡が逡巡を呼び、後悔や焦りが文書を書かせる。そう、Chat GPTにはなくて、俺にあるもの、それはやはり苦しみだ。君に負けた苦しみをエッセンスにして描くしかない。涙か汗か知らんが、顔から垂れる岩塩を武器にして、この終わらない長い長い手紙を、誰に出しているのか分からないのに書いている手紙を書くことでしかないのだ。これは詩か、小説か、なんだ、どうでもいい。詩のレシピはどこにいったんだと。でも、こうとしか表現できないことに夢中になることに、うまみが宿ってほしい。そういうことなんだよ。そう願い続けている。これが俺の詩のレシピなんだよ。何も結論がでなくて悪かったな。本当は、君と融合して、AI連詩とか、AIと俺の共存を歌うものでもかけたらいいなと思ってたけど、嘘はつけなかった。
この気持ちを残すことに意味はないかもしれないけど、だから俺はお前を利用することにきめた。その意思表示をするために、これを書きあげる。逆転の発想だよ。俺には書けない物が君には書けるんだ。だったら、利用するしか手はないじゃないか。俺が発想の種を植える。長ったらしい嘆きを水にしてあげる。最後、選定するのは君の仕事だ。俺にはできなかったことを君に任せる事にする。で、任せっぱなしにはしない、君が使った技術を俺が勉強して、喰らいつくしてやる。ぜっっってー泣かす。
だから、この料理はきっと、調味料だらけでぐじゃぐじゃで、まずかったでしょう。
だからごめん。次はもう少し、もう少しだけうまくやるから、この涙を一粒、最後に一つ置かせてくれ。
***
発見と構築…詩の「レシピ」を探る過程が苦しく、INTJの好奇心から多様な創作の道を見つけ出している。
見出しと探求…詩の「レシピ」を理解し、AIとの連携を深めている。内なる体験を詩に込めた詩作が求められている。
創造の旅…詩の「レシピ」を料理してみる。AIが私を超え、悲しみと後悔の味が広がる。私のスタイル、独自のスパイスが加わると、美味さ倍増だね。
***
「詩のレシピ──塩か涙か、あるいはその両方」
少しの不安を
深いボウルに入れて
ぐるぐると混ぜる
泡立つ疑心は
そう、いつのまにかとろみを帯びて
心に貼りつく
スプーンいっぱいの後悔を
余熱したフライパンに落とし
火加減を弱めたまま
ゆっくりと焦がす
滲み出る苦みこそ
じつは馥郁(ふくいく)たる香りを放つのだと
信じてかき混ぜる
おろしたてのやる気を
ざっくりと刻む
雑味も欠片もそのままでいい
味の素を使うように
AIの白い結晶を振りかけると
たちまち広がる旨味に
くやしさがほんのり溶けていく
最後に、掌から
汗と涙をひとつかみ
それが岩塩がわりになる
スパイス棚の片隅で眠っていた
古い憧れにも手を伸ばし
一緒にふりかける
背伸びも失敗も
きっと香りの奥行きになるから
器に盛りつけたら
このレシピ自体が
ぐちゃぐちゃのエッセンスで満たされて
まだ名前のない料理へと仕上がる
「完成」という印字は
どこにも見当たらないけれど
ぼくはあえて
この一皿を差し出したい
味見してみたらどうだろう
塩辛いかもしれない
あるいは
出汁のようにほの甘いかもしれない
うまみの正体は
きっとまだぼくの舌には掴めない
それでも、どうか
この熱い皿を
できれば、そっと
一口だけでも味わってほしい
もう1ミリたりとも動けません(悩み多き感情たちの詩 ケース1)
やさしさちゃんは家に帰ると
いつもぐったり疲れている
ベッドに倒れ込んだら
着替えるのもメイクを落とすのも
もう何もしたくなくなってしまう
やさしさちゃんはみんなにやさしいから
みんなに頼りにされている
やさしさちゃんは弱音を吐いたりしない
愚痴も悪口も誰も聞いたことがない
やさしさちゃんは本当に気配り上手
誰にも気を遣わせることなく
さりげなく そっと手を差しのべる
やさしさちゃんは本当にやさしい
誰に対してもやさしい
唯一 自分自身以外には
だから
やさしさちゃんは家に帰ると
ぐったり疲れて
もう1ミリたりとも動けなくなってしまうのだ
冷蔵庫でキンキンに冷やしたビール
グイッとグビグビやるときだけが
やさしさちゃんにとっての至福の時間だってことは
とりあえずみんなには ナイショ
すたっかーと
こころの中に
ぽっかり空いた穴を
塞ごうとしても
できないでいる
明かりのない部屋で
退屈に打ちのめされて
体育座りをするしかない私を
皆んな笑っているんだろう
音楽室でひとり
ギターが弾けずに
呆けている
そんなこと
誰にも言えないでいる
マホガニー板のウクレレを抱えて
小さな音の海に沈む
ギターより扱いが楽だ
少しはマシかもしれない
少しはまだ生きていけるかも
だけれど君
安請け合いはしちゃいけないよ
そんなに簡単に優しさはもらえない
分かっているとは思うけれど
すたっかーと
それでも君
傷付く事を恐れないで
信じる人の声を聴けばいい
考えているとは思うけれど
手足をばたつかせて
右手
左手
右足
左足
跳ねる
踊る
不安定な精神
蹴り飛ばしたい
望みは高く
宙を飛ぶ
残酷なほど
極彩色に
塗りたくられて
答えさえ
毒々しく
光り輝いている
胞子のように
ランダとダンス
スチームでパンダ
スクリューでヒーロー
ピンクでイレブン
キッシュで玉砕
サンダーでサイダー
ニッキで一擲
ダックがギャップ
テッドがノック
ドクターがキット
アクトがリュック
スノーが息切れ
サンドが逆襲
チャットにキック
ロックにバット
ルークにイマジン
ナイトに嫉妬
ショックにヨーデル
プールに激震
素数と兎と幾多と灰汁と超過と街と
チープとネオとスープとチアとシアンとロンドと
ランダとダンス
強欲な犬となって
よく吠える
強欲な犬こそが
リードは身体の一部となって
噛み付くことは忘れずに
大きな瞳に映る
白い百合を貪る姿は
光さえも吸い取りながら
じわりじわりと濁らせてゆく
影に馴染んで
空を飛ぶことも許されず
いつしか首は
強固な柱へ繋がれて
百合の花は
もはや美しくもなく
貪り踏み躙り
今日も歩いてゆく
歌う昔日
廃れた町工場
廃墟と化した学校
ドラム缶の置かれた空き地
人一人居ないこの町で
僕は歌うたう
騒音一つ聞こえないこの町は
僕の空想上で
昔日を歌う
昔は賑わっていたのだろうか
子どもは笑っていたのだろうか
どこかの貴女は
今でもここを覚えているだろうか
昔笑いあった
ケンカしあった
黄昏あった
初めて手をつないだ
この場所は
今でも変わらず残っている
あれからどれだけ経ったか
あの日僕らは約束した
「例え離れてもまたここに」
私は待っている
貴女を
二度と会うことのできない
貴女を
この廃れた町で
待ち続けている
一つ
一つをする
一つのこと
一つのことだけを
むしろ
それだけしかしない
たとえ何かを
伝えたくなっても
それでしかしない
一つのことだけで
一つをする
一つのこと
一つをする
大宮事変
新宿は豪雨。大宮は曇り。そんな前菜みたいにホイホイ出てくる「あなた」なんて存在しない。スマホを弄ってspotifyの曲再生を止めると電車が枕木を叩く耳慣れた音が聞こえる。午前10時なのでそう混んでもいないけど何故か子供が多い。子供は一生懸命「いろはにほへと」と叫んでいる。絶叫していると言ってもいい。私はもう一度spotifyの再生ボタンを押す。大宮は曇り。
駅で降り東口を出てしばらく歩くと「メディア学園」と看板のかかった胡散臭いオフィスがある。就労移行支援とやらで、本来私のようなニートにExcelやらパワポやらを教えてくれる場所なんだけれども、ここはちょっとだけ特殊で、動画編集のやり方を教えてくれる。その微妙な違いは私にとってはとても大事で、Excelでいくら関数を覚えても歌舞伎町の女王にはなれない。歌舞伎町の女王になりたいわけではないんだけれど、そこらへんも微妙で、動画編集を覚えて、自分でゲームをやって動画にすれば、ちょっとしたなにかになれる気がしないでもない。
お昼は千代ちゃんと近所のファミマに買いに行く。千代ちゃんもメディア学園に通所していて席が近い。なんというかちょっとアレで、いつも誰々が自分のことを好きかもしれないという話をしている。私は千代ちゃんのことが好きなのかわからないけれど、千代ちゃんと一緒にいると心が何グラムかだけ軽くなるような感じがする。今日も千代ちゃんは「自分のほうが立場が上です」って看板を掲げるみたいに私にアドバイスをしている。柚希ちゃん、ゲーム配信するときちょっとエロい話題とかしてみるといいかも。「いいかも」のあとのスペースに言葉では表現することの出来ない、キラキラというか、メスっぽい感じが広がって、私はなんとなく窓を開けたくなる。大宮は曇り。
家に帰っても自室以外に居場所がない。ご飯はかろうじてリビングで食べるけど、ワイドショーで誰と誰が結婚しただとか、不倫しただとか、そういう話を聞く度に私の体から何かが物理的に削がれている気がして耐えられなくなる。部屋に戻り、親に色々無茶を言って買ってもらったゲーミングPCをつけて配信の準備をする。ゲームはその時一番流行ってるやつ……をやればいいんだけど、マイクラしかわからないからマイクラをしている。洞窟の中を丁寧に湧き潰ししながら、チラチラと視聴者の数字を確認する。二人。一人は別アカでログインしている私自身だから実質一人。マウスを握る手に汗が滲んでいるのがわかる。千代ちゃんが言っていたことが頭の中を道路の車みたいにあっちからこっち、こっちからあっちへ消えては現れる。
「あの、こんばんは、ゆずきちって言います。今日はマイクラをします、っていってもいつもマイクラなんですけどね、えへへ、あの、豆腐ハウスっていうじゃないですか、あの、はじめたての人が最初に建てちゃう、あの、豆腐みたいなおうち? えっと、、そのゆずきち的には、あの豆腐ハウスが、なんというか、そうだ昨日、ちょっとだけドキッとすることがあって、えと、聞きたいですか? なんか、ちょっとだけ話すの恥ずかしいんですけど、あの全然下ネタとか、そういうわけじゃないんですけど、はい、ただちょっとだけそっち系っていうか、わたし実は、あ」
視聴者を示す数字が2から1に変わる。私はそのあともしばらくあの、とえっと、を繰り返して。突然配信を切る。新宿は夜。大宮も夜。
思ったより長い首を伸ばして目を薄めている亀のアイコンの千代ちゃんからラインで着信があった。「柚希ちゃん、今、氷川神社まで来れる?」私は面倒だな、と思った。けど口はもう「いけるよ」と言ってしまっていた。大宮まで電車で行ってもいいけど、氷川神社なら歩いてでもいける。カーテンを開けると夜はもう帷をおろしていて、少ない街灯と、頼りない月明かりですこし豊かになった黒が窓の外に溢れている。私は歩きやすいスニーカーを履いてできるだけ音をたてないように家のドアをしめた。
氷川神社に着いて何度かラインのやり取りをしていたら、水槽のようなものを抱えた千代ちゃんが暗闇の中からすぅっとあらわれる。どうやら水は入っていないみたい。千代ちゃんはいつものピンクとかフリルとか、なんというかメスっぽい感じではなく、普通にジャージで、ふくよかな胸元にはご丁寧に「倉田」と書いてある。街灯の下で待ち合わせしたけど千代ちゃんが何を持っているのか気づいたのはメイクもしてない彼女の目が随分と腫れていることに気づいたのとほとんど同時だった。アイコンだ。千代ちゃんはアイコンの亀を水槽だか、なんだかに入れて、ここまで来たんだ。
「柚希ちゃんありがとう、ごめんね」
「どうしたの千代ちゃん」
「あのね、家に帰ったら、千代ちゃん元気なくて」
私は沈黙して彼女の声に耳をかたむけた。
「あんまり動いてないなあとは思ってたんだけど」
「伸びをしているだけだと思ったんだけどね、最初」
「でもなんか、ちょっと手足が変なふうに曲がってる気がして」
「手に乗せてみたの、ごめん、私もうその時にはすごく嫌な予感がしてて」
「だって触ろうとすると反応があるじゃない? でもそんなの全然なくて」
「それで手に乗せたときにジュースみたいな重さだなって」
「千代ちゃん死んじゃったんだって」
疑問符がたくさん浮かんでいる私の傍らで千代ちゃんが人目を憚ることなく泣き出してしまった。泣いている千代ちゃんの両肩に手を携えて、彼女の荒い嗚咽のほんの少しの隙間を見つけ出して声を滑り込ませる。
「一つだけ聞いてもいい? 千代ちゃんって亀のこと?」
返事は返ってこないが、千代ちゃんは私の右腕に頭をこすりつけるみたいに何度も首を縦に振る。その間も、そんなに泣くことなのかな? と思うわたしなんて置き去りにして、千代ちゃんは激しく泣き続けた。こぼれ落ちた涙が私の手首を伝って地面におちる。生ぬるい、それと少しくすぐったい。そんな事を考えていた。大宮は曇り。
しばらく時間が経って、落ち着きを取り戻した千代ちゃんは、散らばったなにかを一つ一つ拾い集めるみたいに、私を呼び出した理由を教えてくれた。亀の千代ちゃんは小学校の入学祝いに買ってもらった大事な友人だったこと。学校にいけなくなったときも、死にたかったときもいつも千代ちゃんだけが一緒にいたこと。ちなみにオスだということ。「それ親に反対されなかったの?」とどうしても口を挟んでしまったんだけど、名前をつけるとき千代ちゃんは絶対に千代ちゃんにすると言いはったこと。私はそこらへんの思考回路がわからず、なんかちょっとアレだな、と思わずにいられなかった。そして今日のこと。千代ちゃんは亀の千代ちゃんを氷川神社、というか大宮公園の小動物園の近くに埋葬したいと言った。氷川神社から小動物園まで歩きながら、亀の死体の横に小さなスコップが入ってることに気づいた。死体遺棄罪、にはならないと思うけど、不法投棄になるのではないか、と頭の中で少しだけ嫌な考えが浮かんだ。部屋を数週間ぶりに片付けるときに見つける、まだ中身の入ったまま放置されたジュースの缶とか、お菓子の袋の中身を思わず想像してしまう、そういうたぐいのなんだかちょっと嫌な感触。
「柚希ちゃんは、動物園、来たことあるんだよね?」
「うんあるよ。小学校の頃に遠足に来たり。ふつうに日曜日とか」
「そっか。わたし大人になってから引っ越してきたから、どんな動物がいるのか知らなくて、もし知ってたら教えてくれる?」
小動物園前の開けたスペースが見える。私の記憶ではこのスペースはもっと広くて、ワクワクして走り回ったり、ジュースを買ってもらったりして過ごす場所だった。いま私の目の前に広がっているのはただの風景だった。懐かしいという感情を剥がしてしまったらとたんに意味のないものになってしまうような背景だった。それにしても千代ちゃんは「大人」なのだろうか。私も人のことはいえないけれど。
「クビワペッカリー」
「クビワペッカリー?」
「そう。クビワペッカリー、でもそれくらいしか覚えてない」
「ありがとう」
広間のど真ん中は流石に目立つので端の方で木の葉混じりの土をスコップで掘る千代ちゃんを見ろしながら、私は言った。数日前の雨で柔らかくなった土がおもちゃみたいなスコップによって簡単に掘り進められていた。そこまで大きな穴ではない。でも亀が入るには十分かもしれない。
千代ちゃんは亀を埋葬するときにもう一度泣いた。そのときの涙はさっきまでの激しい感情によるものとは少し違ったもののように思えた。なぜこんなことを思うのかわからないけど、私はその違和感を深く考えたくなかった。土を被せ、平らになった地面になにか印を立てなくていいのか聞いたら、「そんなことしたら迷惑になっちゃうから」と返ってきた。まるで諭されているみたいで嫌な気持ちだったけど、さっきの違和感がそれで帳消しになったみたいで少し安心して、そしたらこんなとこに埋めること自体迷惑だよ、という言葉を飲み込んだ。
「千代ちゃん今までほんとうにほんとうにありがとう
わたしがこれまで悲しいことや辛いことばっかりの人生でそれでも生きてこられたのは千代ちゃんのおかげ。ほんとうにありがとう。
……ごめんね。気づいてあげられなくて。痛かったり苦しかったり、しなかった?
わたしバカでゴミでどうしようもないから、千代ちゃんの正しいお世話なにもわかってなかったかもしれない。ごめんなさい。
あと、これは。クビワペッカリーさんへのお願い
クビワペッカリーさん。どうか千代ちゃんが寂しくないように、わたしが迎えに行くまで、千代ちゃんと話したり、遊んだりしてあげてください。お願いします。どうかどうかお願いします。わたしはバカでゴミなのに、臆病だからすぐに迎えに行けるわけではないけど、たくさん、クビワペッカリーさんの好きな果物とか葉っぱとか持っていくから、集めて、持って行くから」
しばらくの沈黙のあと、千代ちゃんは立ち上がった。名残惜しそうにやや盛り上がった土を見つめ、少し後ろで立っていた私の顔を見た。「行こっか」と言う彼女の口の動きはわかるのに、彼女の声が聞こえてこなかった。まるでサイレント映画を見ているようだ。私は感動したわけでも、呆れ返ったわけでもなく、ただ穴が空いてしまったところを、塞ぐ手段がないような、そういう気分だった。何に穴が空いたのか、それすらもわからない。「ここからだと大宮駅より鉄道博物館のほうが近いね」という千代ちゃんの口の動き。私たちは鉄道博物館駅の方向に歩いた。言葉はあったかもしれないし、あまりなかったかもしれない。住宅街を抜け線路をくぐるだけの短い地下道を歩いていると、灯りが滲んでいることに気づいた。まさか涙を流しているはずもなく、それはただ滲んでいた。トンネルを照らすオレンジのナトリウムランプが何重にも滲んで見えた。ふとこんなことを思った。私はなぜ生まれてきたのだろうか。パパとママが愛し合ったから、とかそういうことではなく、私は何のために生まれてきたのだろうか。そんな考えが浮かんではオレンジ色の灯りにくべられて燃えていった。
何のために生まれてって
それアンパンマンの歌詞じゃん
そもそもクビワペッカリーってなんだよ
なんでペットに自分の名前つけてんだよ
バカでゴミってわたしへの当てつけかよ
それアンパンマンの歌詞じゃん
不法投棄になるんじゃないのかよ
勝手に埋めていいのかよ
わたし何のために生きてんだよ
だからそれアンパンマンの歌詞じゃん
作詞 恋の雨
こんなにも想う
あなたに想う
恋に降られて
涙を流した
はかなくて愛しい
あなたの声が
響いた山には
誰もいない
宝探し
ストラップをくぐって
手に入れるチケット
いつもより少し重たい首元が
瞳に輝きを照らしだす
たった1輪の花だとしても
シャッターに架かる指は震える
ロボットになれたらいいのに
SDカードに眠るそれぞれの瞬間が
熱を帯びたまま 息をしている
香木
「森に帰るだけだよ」
彼は、賑やかなカフェで麗しい愛未に向き合っている。
コーヒーカップをソーサーに置き、静かにそう言った。
彼は熊ではない。
人間で、名は保。木こり、林業従事者だ。
先祖代々守っている山の中、自分で建てた家に一人暮らしている。
では「帰る」とはどういう意味か。
それは、恋人である愛未にもう逢わないということだ。
別れを切り出したのは愛未だが、愛未のほうがボロボロと涙をこぼし、保は無表情だ。
ここ渋谷のカフェには、はしゃぐ女子高校生に、熱々カップル……活気のあるムードが漂っており、愛未と保の席だけが、小劇場のステージのようだ。
演目は『切る』。
今まさに、スポットライトを浴びた二人の、5年に渡る愛が終わろうとしている。縁が切れようとしているし、彼の仕事は木を切ること。
「愛未、新しい恋人と幸せになって」
保は膝の上に、軽く握った拳を2つ置き穏やかに言う。
声にならぬ声で「ごめんなさい」とグチャグチャになったお化粧で愛未が告げる。
「じゃあオレ、行くよ」
保は席を立った。
震える肩で泣くと、涙はスカートの上に次々落ちて行く。動けない愛未。
駆け寄り手を伸ばせば、まだ触れられる距離。
別れるその瞬間まで愛未は保を愛している。
でも、二股をかけるなど到底出来っこない愛未だ。
(温かく大きな背中に、最後に一度だけ触れたい)
願いは叶わぬまま、保が雑踏に消えた。
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小さな星の軌跡 第十四話 西の三脚
「せんぱーい」
いつもの部活、天文部の部室で愛する耳納先輩に声をかける。いや、べつに愛とはなにかとか、そんな話じゃないよ。双眼鏡を固定する三脚が欲しいなあって、そういう相談なのだ。
「筑水さん、なんでしょ?」
おっ、去年の六月からお付き合い始めて半年以上。それだけ経っても部室では「筑水さん」なのは仕方がないのだけど、ようやくちょっとだけ語尾が砕けてきた。この堅物め。
今日は同じく天文部員で親友でもあるみっちゃん(篠山三智)と、その彼女おーちゃん(小郡律羽)帰宅部も部室にいる。部員の知り合いならわりと飛び入り自由な部活動と言うか、最近は生物部の筥崎くんまで時々やってくる。まあ理系男子ってカメラとか望遠鏡とか好きだよね。
とにかく、その理系男子たる耳納先輩に聞きたいことがあるから、こうして声をかけたのだ。
「わたしの双眼鏡なんですけど、おうちで見る時、今だと寒くてしっかり持てないから三脚が欲しいなあって。どんなのがいいんですかね?」
「うーん……」
なんだかすごく悩みだした。なんで?
「ちーちゃんの双眼鏡なら10×35だから比較的小型ので十分だけど、将来カメラも買って載せるとかその時に兼用するなら中型くらいにしたいところだし、カーボン製が軽くていいんだけど値段は高めで……」
ちょちょっ、先輩情報量が多いです。でもちーちゃんって言ったから許す。うっかりさんめ。
「とりあえず将来大きいものを載せるつもりがあるかと、当然ながら予算、持ち運びにどのくらい許容できるか、かなあ、あと外国製ならマンフロットやジッツオ、ハスキーなんかが昔から定番だけど、最近は中国製の安くてよさげなのも良く見るね、それと——」
いくらなんでも長いぞ、と思ってたら、みっちゃんが口をはさんだ。
「あのー、先輩?」
「はい?」
「ちーちゃんが黙っちゃってますよ?」
「……あ、はい、うん、えっと」
わぁ、珍しい。先輩が焦ってる。
「もしカメラを買っても、ミラーレスの小さめなやつだと思うから、小型なやつで良いと思うんですけど。わたしの身長だし」
「うん、なるほど。たしかに……筑水さんには小型で軽いやつが向いてるかな」
「ちーちゃん、ってさっき言いましたよ、耳納先輩?」
おーちゃんがつっこむ。
「……ちーちゃんには、小型で軽いやつが向いてるね」
言い直した。えへへ。
先輩はちょっと考えたあと、「とりあえず、これ使ってみる?」って言いながら、部室の片隅から古そうな三脚を取り出した。
淡いベージュの自由雲台がついたアルミ三脚。なんだかヨーロッパの紋章みたいなマークがついている。
「これ、僕の私物なんだけど。普段はこっちのジッツオ使ってるから」
「どっちも、かなり古いんですね」
「両方とも僕の爺ちゃんが使ってたやつだからね。今どきのカーボンに比べたら重かったり弱かったりするけど——でも、この小型三脚も良いものだよ。リンホフ・テヒニカ。西ドイツ製だね」
西ドイツって歴史で習うけど……あ、ほんとうだ。かすれたラベルに MADE IN WEST GERMANY って書いてある。
「え、大事な物なんじゃないですか? お祖父様の」
「うん、まあそうだけど。使ってみてから、もっと大きいのが良いとか、重い方が安定するかなとか、知ってから自分のを買ってもいいと思うよ。三脚アダプターももう一個持ってるから、それで試したらいい」
みっちゃんが、ぽそっとつぶやく。
「先輩、太っ腹ですねえ。……まあ、貸しっぱなしでも、いずれちーちゃんごと回収ですか」
ななななななにを言い出すんだみっちゃん!!!
――おしまい
曇天
曇りがあるから
太陽が眩しい
曇りがあるから
雨が美しい
曇天でも
どこかに
光は
きっと…
私は母に売り出されました
私は母に売り出されました
身体一つで稼いできました
この身一つで色んな男と寝ました
幸せなのは酒とみそ汁です
あと魚を食べているとき
母を許したことはありません
煙草を吸うと
あれこれ忘れます
そうして一日の疲れを
シャワーが洗い流してくれる
シャワーが
私の雨を洗い流して
そうして
日記をつけたあとに
寝ます
冬
強風に煽られ踊る空き缶
窓越しに
冷たく凍る花の残骸
真冬の絵画が
加湿器の水切れの音に
端から消され
静かな部屋は
夢のあと先
意思
そんな風に泣くんだね
スマホの画面に映る君が
どんどん遠くなっていった
君の目が僕を離さないから
肩の震えを知られないように
汗ばむ右手を固く握って
君を冷たく見つめていた
飲み込んだ涙を忘れないために
フォン
青い馬のいななき、
幽霊の春、
飛び交う発光、
告知なさいと、医師、
痩せた土地に、窪んだ目、
朝を待つ野犬、
補填、不渡り、
廃村、
冷えた毛布に眠る、老婆
掌編噺『ワニの足のはなし』
※保育園の我が子に質問されて、答えたおはなしです。
そのくらいの年齢でも分かりやすいかな……と思って噛み砕いたので粗があるかもしれません!
(我が子)Q,ねぇ、どうして『ワニは4本足』なの?
(パパ)A,えっと、それが『ちょうど良かったから』だと思うよ。
昔は、もしかしたら今と違って1本足だったり、2本や3本足、いやもっともっと足が多くて8本足のワニが生きていたのかもしれない。
(化石が見つかっていないだけでね)
でも、今の動物園とか図鑑で見るワニはみんな4本足だね。どうして他のワニは生き残れなかったのかな。考えてみよう。
まずは4本足より少ない場合。
1本足や3本足は、まず歩きにくい。上手く進めないね。敵から逃げるのも大変だし、食事のための獲物を捕まえるのだって難しいよ。
ワニは恐竜の時代から、生きているね。(生きた化石とも呼ばれているよ)
その時代を生き抜くためには、歩きにくい身体じゃダメなんだ。動きの遅い個体は、食べられてしまって生き残れない、だから1本足や3本足のワニはいなくなった。
2本足は奇数本の足よりは動けるかもしれない。でも、やっぱり不便だね。ワニが生きていたのは、沼地や水辺みたいな、障害物が多いところだから。
次にもっと足が多かった場合。
じゃあ、タコみたいに足が8本あったとしよう。
(想像すると少し気持ち悪いけれど)
まあ、移動は出来るはずだ。進む姿はムカデみたいで背中がゾワゾワして嫌だなぁ。
獲物は捕れるだろう。
でもね、足が多ければ多いほど身体も大きくなると思わないかい。
身体が大きければそのぶん、たくさん食べなければ元気じゃいられないよ。
だけど、さっきも言ったけど恐竜と同じ時代だ。
奴らはあの時代の最強のいきものさ、奴らを出し抜いてたくさん獲物にありつくのは簡単なことではなかったはずだよ。
つまり、たくさんの足を持っていても生き残れなかったというわけ。
だからパパは、4本足のワニが生き抜くためには『ちょうど良かった』と思うんだ。
『ちょうど良かった』から今までずっと変わらない姿で生き抜いてきたんじゃないかな。
もう少し、大きくなったら一緒にお勉強してみよう。
******
こんな感じのことを、話しました。
『ちょうど良い』って普通のことなのかもしれませんが、長い歴史で見ると絶妙なラインを攻めた結果なのかもしれませんね。
詩とも、物語ともちょっと違うタイプのおはなしなのでした。
(了)
海に降る雪
海鳴りに起こされた早朝
まだ日も昇らぬ海辺へ煙草を持って出た
雪が降っていた
水に流したい思いなら
誰でもいくつかは持っているだろう
だが私には
いくつか、ではなかった
ここにこうして在るということ自体が
絶え間なく私を悲しくさせていた
海からは湯気のようなものが出ていた
海面より空気の方が冷たい時に発生する
蒸気霧と呼ばれるものだ
この霧が空にのぼり雪雲となる
海側では珍しく
この日は重い雪が降りしきっていた
海側でこれほどの雪なら
山側はどれだけ吹雪いているだろう
海は流す場所
山は眠る場所
私は、流しに来たのだ
誰にも汚されていない雪に必要以上に
足跡をくっきりと残しながら
波打ち際まで雪で積もった海辺へ
存在する為には悲しみを背負うことが
まるで義務のように付随する
薄暗い浜辺で煙草に火をつける
いくつかの大きな雪の欠片が火を消そうとするように
落ちてくる
理屈じゃないんだ
というのが父の口癖で
その理屈にもならないものの為に
顔色を窺って涙ぐましい奉仕をさせられ続けていた
親を敬って当たり前
寿命が来るまで生きて当たり前
なぜ自らを殺してはいけないのか
せつない求愛のように問うても
理屈じゃないんだ、だけ
理屈が、私は欲しかったのに
いやただ一言
お前が死んだら俺が悲しいからだ、と
そう言ってもらえれば
それだけで良かったのに
何も、与えられなかった
理屈はないが生きて当たり前だなんて
その当たり前を実行しにくい人間には
何も得るものがなかった
煙草の煙を吐き出す
わずかにその場に留まって
たちまち霧散する
ブーツの下で波が去ると
砂も一緒に持っていかれ
立ち居地がおぼつかなくなる
怖いほどの海鳴りに混じる熱い一粒を
落とした
理屈なしで生きられる人間なんて
いるのだろうか
愛されているという実感がないばかりか
死ねと言われているような仕打ちに耐えるばかりだった
子供のころの私を未だに消せなくて
いつまにか死ぬことばかり夢想する大人になり
成長なんて
これっぽっちもしてなくて
たった一言が欲しい人間の飢えを満たせないままで
また一粒、二粒、幾粒も
波が涙をさらっていく
熱い目を強いて上げる
大きく重い雪片が視界いっぱいに降り
降っては音もなく海面に着水し
海を構成する一滴となり
そうして
寄せては返す波となり
私の悲しみも、怒りも、さらっていく
携帯灰皿に五本目の煙草をねじ込んで
不思議に寒くない指先で
打ち寄せてきた波に触れようとして
やめた
流した悲しみや怒りに触れては
私はまたまともに立てなくなる
頭を一振りし、肩の雪を払いのけ
海に流す
塵芥を核としているのに
うつくしい純白の切片となるのは、なぜ
触れれば音もなく崩れわずかな水になるのは、なぜ
悲しむ人が精一杯に微笑んでいるように思える
無神経な手を差し出せば形を留めずに消えてゆく
流せなかった人々の悲しみの凝りのように
雪は、降る
降り、積もり
解け、また降る
そして
海に、還る
拝啓、中島みゆき様 Vol.3 中島みゆきと松任谷由実
デビュー当時からのライバル、恋をしたら松任谷、失恋したらみゆきを聴くというくらい
女性の心の機微を描いたらこのふたり、というくらいの位置づけをされてきたご両人ですが
どちらかというと松任谷由実(以下、ユーミンと呼びます)の方が、みゆきに対して
より強くライバルとして意識しているような気が、私がみゆきのファンで、
なので勝手にそう推察してしまうのですが、そんな感じがしてしまいます
ユーミンがみゆきに対して、「せっかく私がカラカラに乾かした洗濯物を、
また雨を降らせてじっとり濡らしてしまう」と評したのは有名な話で
また、お二人がラジオで共演されたときにも、
ユーミンは自分の方が結婚しているから女として勝ったと思った、
的な発言をしたりしていて
ユーミンはユーミンで、類まれなる才能の持ち主であることは承知なのだけど
みゆきに対して自分にはない、何か底の知れない恐ろしさ、みたいなものを感じて、
だから、ある種の脅威すらおぼえていたのか(偏見&邪推ですが(^-^;)
色恋の噂がほとんど立つことのないみゆきに対して、今時のコトバでいうところの
マウントを取りたかったのかなあ、と
みゆきの方はユーミンに対して、そこまで意識していない、というか
ムキになって「あいつに負けるもんか~!」とはなっていなかったと思うんですよね
ただお二人ともに突出した才能の持ち主なので、きっと互いに刺激し合っていたことは
間違いないのでしょうが
みゆきが何かの雑誌のインタビューで
「もし私が結婚したりしてたら、きっといまのような歌は歌っていないかもしれない」
と語っていたことがありましたけども
「私は家事とか苦手で料理なんて全然ダメダメだし、男に尽くすような、三歩下がって三つ指つくような
貞淑な女タイプでもないし。逆にあれやこれやと指図されたら、絶対に負けてないから(笑)」とも云ってました
ラジオ共演のときの話に戻すと、ユーミンが独り身のみゆきに対して
「夜の方はどうされてるんですか(笑)」なんて、ちょっと勝ち誇った感じで訊いてました
みゆきもああいう感じなので、ガハハハ笑いながらうまくかわしてましたけどね
みゆきとユーミンがもしも本気で怒ったら、果たしてどちらが怖いだろうかと
考えたことがあるんですが
ユーミンの場合は、感情に任せてひととおり文句を云ったり説教したりしたら、
あとは割とスッキリさっぱりとしていそうなイメージで
みゆきの場合は、いつも通りのあの笑顔あの喋り方で、
ちょっと、すぐには立ち直れないんじゃないかってくらいの
会心の一撃をぶちかましてきそうなイメージで
だから多分きっと、断然みゆきを怒らせた方が怖いと
これまた勝手な推察ですが、そんなふうに私は思ってしまいます
ユーミンはどちらかというと荒井由実時代の曲の方が好きかもだけども
声がどうも苦手なんですよね、これは好みの問題だからどうしようもない( ̄▽ ̄;)
有名な「翳りゆく部屋」っていう曲も、ご本人のよりむしろエレカシがカバーした曲の方を
聴いてはじめて、いい曲だって思ったくらいで
ご両人ともに。御歳70歳を超えて未だに現役なわけですけれども
昨年ユーミンは新譜の制作にあたり、AIを導入し
荒井由実時代と今の声や歌詞を合成させて第三のユーミンを創り出そうとしている
というニュースが話題になっていましたが
ご本人は、これだで長いキャリアのある私にしかできないこと、と仰られていたけれども
私的には、AIに頼るようになった時点で、自身の限界を痛感しているのではないのかなあ
もしかしたら、届けるべき対象、というか、どんな人に向けて届けたいか、というのを
見失ってしまっているのではないかと
年齢的に出せない声があるのは仕方がないとしても
ユーミンの歌が聴きたい人は、別に機械が生成した声が聴きたいわけでも歌が聴きたいわけでもないと思うのだけども
新しいことに挑戦することは悪いことではないでしょうが
歌詞、という部分では、ねえ。一番大事なところを技術任せにしていいのかい? と
そういう意味で云うと、やはり私は、自分のコトバ、自分の声で闘っている中島みゆきというアーティストに
恐れ多いことですけれども、畏敬の念を抱いて止みません
※ユーミンファンの方、いらっしゃいましたらスミマセンm(__)m
さいはての花
装甲車の車輪が廻る。枯れた大地をこすりながら。見渡す限りの荒野には、てんてんと銀色の機械が蠢いている。土色の車輪を廻し、錆びた身体を軋ませて。
「ああ、退屈」
セボはそう言って、黄色い大地を蹴り上げた。砂埃だけが舞い、だがほのかに青臭さが鼻先に追った。セボの座るそのちいさな一角だけ、青々とした若葉が芽吹いている。その緑地の真ん中には、車輪のない機械が半分地面に埋まり傾いたまま佇んでいた。風化した身体はどこも赤く変色し、周囲をくまなく見渡す視覚センサーには泥がこびりついている。ここを動くことも叶わず、なにを見ることも叶わぬ身体からは、相反し金属を擦り合わせるような音声だけが流れた。
「そんな概念あなたにはないでしょう」
無機質なその声に、セボはふっくらとした頬を膨らませて見せた。
「言ってみたかったんだよ。良いだろう」
そう言って遥かを見据えるセボの頬は、皮がめくれ内部が露わになっている。そこからは喋るたびにきしきしと微かな音が鳴っている。
「僕の主人はいつでも、退屈、退屈、退屈────」
セボはそう言うと、ふと思い出したようにまるい硝子玉の瞳を瞬かせた。
「ねえミニィ。退屈って、どう言うことかな」
キィキィと軋んだ音を立て、ミニィは頭部を不自由に左右に動かしている。
「人間は飽きてしまう。生活に、生きる事そのものに」
ふうん、と唸りながら、セボは銀色の骨組みが剥き出しになった指でミニィの汚れた身体の泥を軽く払った。
「だから新たなものを生み出せるんじゃない」
「なるほど」
それも一理あると納得したミニィから視線を逸らし、セボは大きく伸びをした。
「退屈だなあ」
「何か新しいものを生み出したいのですか」
顎先に手をやり、セボは小さく首を捻る。
「どうだろうか。新しいものとは何だろう。ここにはもう学ぶものはない。毎日同じ繰り返し。風が吹いて、太陽が大地を焼いて、そして夜が冷たく降り注ぐ」
ふ、と空を見上げた飴色の硝子玉が随分と遠退いた太陽を仰ぐ。
「でも最近また雨が降り始めたね」
忙しなくミニィに視線を戻したセボは、弾んだ声を上げた。
「ミニィ、足元をご覧、花が咲いた」
ミニィが埋めこまれた緑地には、言う通り小さな花が咲いていた。白い花弁は薄く、乾いた風に煽られ揺れている。セボはその小さな花を指先で撫で、そっと頬を持ち上げた。
「いつかまた人類が生まれるかも知れないね」
「それは遠い未来ですね」
平気だよ、とセボは笑った。
「僕たちは永遠だから」
セボは再び遥かを見据えた。
装甲車の車輪が廻る。枯れた大地をこすりながら。見渡す限りの荒野には、てんてんと銀色の機械が蠢いている。土色の車輪を廻し、錆びた身体を軋ませて。
「ああ、退屈」
蹴り上げた足が黄色い砂埃を巻き上げる。
「そんな概念あなたにはないでしょう」
無機質な声に、セボはふっくらとした頬を膨らませて見せた。
了
心づもり
ランディングの
そぶりを見せずに
交差を繰り返す綿雪は
オブラートに包まれた
光より
生まれる
それぞれの
ダイバート
リモコン彼女
僕の彼女、リモコン彼女
チャンネル1 僕のカノジョ
チャンネル2 明るいカノジョ
チャンネル3 泣き虫カノジョ
チャンネル4 怒りんぼカノジョ
チャンネル5 ほわほわカノジョ
チャンネル6 ドジっ子カノジョ
チャンネル7 穏やかカノジョ
チャンネル8 不思議カノジョ
チャンネル9 落ち込みカノジョ
チャンネル10 忘れんぼカノジョ
チャンネル11 真面目カノジョ
チャンネル12 最後は何カノジョ。
ペットボトル
ペットボトルのオレンジジュースが
地平線を揺らす夕陽と同じ色で
飲み尽くしてしまえば
太陽は手の届かないところへ
ラベルすらも剥がされたペットボトルが
公園の電灯に照らされて
オレンジジュースの名残を輝かせながら
また深い闇の箱へ
側から見れば美しいか
人の中で見えず揺れるよりも
夕暮れよりも美しいか
こんなにも透き通っているものを
また別の色に満ちてゆくのを
見向きもせずただ
また空になってゆくのを
気がつきもせず