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2021/01/01 12:00:00

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小さな星の軌跡 第二十話「もう一人」

 木曜日、二年生になって、数学や理科が一気に分野ごとに専門的になる。天文部にいるし選択科目は地学を選びたい気持ちもあったけど、二のAとBは理系のクラス。物理が必須で化学と生物が選択、地学は無し。で、化学にした。先輩は化学が抜群に得意らしいから教えてくれるかな?
 私立文系のE組に行ったおーちゃんは生物を取ったみたい。みっちゃんは理由は知っているようだ。でもそれは二人の間の大切な事かもしれないので、わたしも特に聞かない事にした。
 B組のたかちゃんも物理に化学。なので理科の授業は一緒の教室だね。

 あっという間に放課後。授業の進み方が一段と早い。先輩は去年部長をやりながらこのペースで勉強していたのかと思うと、ちょっと冷や汗。いやだって、わたしが部長するのが既定路線になっちゃってるし。
 ただまあ、今年は文化祭は無い。我が校は隔年で体育祭と文化祭なのだな。残念だけどちょっとホッとしたような?うーんどうなんだろぅ。

 となりの教室を覗くとちょうどたかちゃんも出てきたので三人揃って部室へ向かう。話題はやっぱり昨日の星乃さんの事。

ち「スケッチが得意って言ってたねえ」

た「おーちゃんの後輩さんですよね」

み「わ、わたしはなんとも……」

 明らかに動揺しているみっちゃんを後ろにお疲れ様でーすと扉を開けると、既に耳納先輩と星乃さんが並んで座っていた。天気図の事を説明していたみたい。
 手持ち無沙汰でちょっと離れた席に座った。別に誰が何処って決まりは無いけど、何となく定位置があって、先輩の隣にこの一年いつもいたのでおしりの座りが悪い。

 ん、入り口の扉が開けっ放しだ。
閉めておこうと立ったところでこちらを覗いている男子。背は高いけどピカピカのボタンに襟章は一年生。

「えっと、ここ、天文部でいいっすか?」

「うん、そうだけど、見学かな?」

「どんな機材があるのか、ちょっと見れますか?」

 いきなり機材を見せろと来たぞ。その前に名を名乗れ。一年坊主め。教育してやる。

「Nikonの10cm屈折赤道儀と、セレストロンの15cmカセグレン経緯台だよ。後は双眼鏡やピンホールプラネタリウムとか、まあなかに入って入って。ちょっと今から天気図を描くから見てくかな?」

 やっぱり優しいおねえさんを演出しておこう。

「あ、僕、気象通報聞いて描けますから」

 なんと生意気なやつめ。いや、天気図描けるとは優良物件なのかな?わたし一人で相手するのもおかしいので、先輩に引き継ごう。

「耳納先輩、一年生の見学希望者ですけど」

みっちゃんとたかちゃんも話を聞いていたようで興味津々だ。

「聞こえていたけど、今日は見学だけかな、ほかの部活にも興味あるの?」

「あ、はい、とりあえず文化部一通り見ようかなっと思って、昨日は生物と写真と見てきたっす」

「その両方の現部長は天文部にも所属してるんだよね、うちの観測会にも顔を出すし、平日もよくここに来るよ」

「あ、そうなんすか?えらくフリーダムっすね」
 
 なんか話かたはざっくばらんだけど理系趣味は強そうな御仁だ。そういえばまだ名前を聞いていないな。

「ねえ、クラスと名前、聞いて良いかな?」

「1のD、大刀洗 隼一:たちあらい しゅんいち、です」

「大刀洗君かぁ、今日は他の部活も見に行くの?」

「無線部に同中の先輩がいるんでそっちも見とこうかなと、4アマでコールサインはありますし」

 えっと、アマチュア無線の事か。さすがに良くわからないなあ。

「じゃあすみません、今日は機材を見せて頂きありがとうございました。あ、そうそう。今部員って何人いるんですか?」

 いろいろリサーチが細かいな。

「兼部も含めて三年生は男子二人女子二人、二年生は女子三人、一年生は今の所女子一人。今日入部届出してくれたよ」

 奥の星乃さんが顔を上げて軽く会釈した。
 大刀洗君も一応「あ、ども」ってな感じで応える。

「部室には大体誰かいるから、入部する気になったら何時でも来てね」
と告げると
「了解っす」
と短く応えてカバンを持って出ていった。

「今日は逃げられちゃったねぇ」
とたかちゃん。

「ずいぶんひょうひょうとしてたね、あちこち見てから何処かはいる感じなのかな」
とはみっちゃん。

「天気図は描けるって言ってたし、無線の免許も持ってるって言ってたよ」

「朝倉が写真部に一人見学に来たって言ってたのがさっきの大刀洗君か。ずいぶん多趣味な感じだね」

「……なんか、嵐みたいに去っていったわね」
 みっちゃんが、開いたままの扉を見つめてぽつりと呟いた。

​「大刀洗君ね。本当に多趣味だな。気象通報も描けて無線もできるなんて、うちの部に来たら、ISS(国際宇宙ステーション)からの画像受信とかも出来るかな?」
 耳納先輩は、ちょっと困ったような、でもどこか嬉しそうな顔でペンを置いた。

​ わたしは、大刀洗君が座っていたあたりに視線を落とす。
 彼が言った「フリーダムっすね」という言葉が、なんだか耳に残っている。確かにこの天文部は、星を愛でるだけでなく、写真や生物、そして人を想う気持ちも混ざり合った、不思議な温かさがある場所だ。
 それを「フリーダム」の一言に収斂した彼の視線に、ほんのりとした気恥ずかしさを覚えた。

 星乃さんがちょっと手持ちぶさたで何して良いのかなって顔だ。わたしから話を振ってみよう。

「星乃さん、スケッチっていつも描いていたりするの?」
するとちょっと顔が柔らかくなる。

「はい、小さなスケッチブックと色鉛筆は持ち歩いています。こんな感じですけど」
と鞄から手のひらサイズの小さなスケッチブックを出してくれた。

 ぱらぱらとめくると、駅前のアーケードや裏通りのお店に飾ってある小物、神社の鳥居に狛犬、何処かのケーキ、色んなものが細かく、特徴を良く掴んだ、でも優しい色使いと雰囲気をまとって描かれている。​

「わわ、すごい丁寧、優しい絵だね」

 星乃さんは、ふふ、と上品に微笑んだ。
「ありがとうございます。ついつい細かなとこまで見る癖がついちゃってしまいました」

​「さっきの、大刀洗さんも、はい。いろいろたくさんの事を見る方なんでしょうね……入ってくれると、賑やかになりそうで、楽しみです」

​ 星乃さんの観察眼に、たかちゃんが「さっすがぁ」と頷く。
「確かに。あちこちの部活を回ってるのも、自分が一番『熱く』なれる場所を探してるのかもね。……ねえ、部長?」

​ たかちゃんが耳納先輩を「部長」と呼ぶ。それは、暗に「もうすぐ交代だね」という合図のようにも聞こえた。

 耳納先輩はゆっくりと部室を見渡す。

​「そうだね。……四月の観測会。もし大刀洗君が入部届を持って現れたら、彼にもちょっと試練を与えよう」

​「試練?」

​「うん。……真冬ほどじゃないけど、冷え込む屋上で夜を明かして、皆で朝焼けを見て、それから――」
​ 先輩はそこで言葉を切って、悪戯っぽく笑った。
 
「皆で銭湯に行こう。あの熱いお湯に浸かれば、新入生も、僕ら三年生も、二年生になった君たちも、みんな等しく『天文部員』になれるからね」

​ 銭湯。
 その言葉に、わたしは思わず星乃さんの顔を見た。
 彼女は「銭湯……ですか?」と少しだけ戸惑ったような顔をしたけれど、すぐに「面白そうです」と頷いた。

​ 定位置を少し譲り、新しい後輩を迎え、自分も新しいステージへ進む。
 おしりの座りが悪いと思っていた今の席も、「わたしの場所」として馴染んでいくのだろうか。

​ 夕日に染まる部室で、わたしは描きかけの天気図にそっと鉛筆を置いた。
 等圧線は、まだ途中。
 でも、その先にある明日へ向かって、線は確かに伸びている。

​「そろそろ片付けよっ。今日は新入生の話題でお腹いっぱいになったね」
 みっちゃんの明るい声に促され、わたしたちはいつものように荷物をまとめ始める。

​ 帰り際、校門へ向かう道。
 自転車を引く耳納先輩の隣を歩きながら、わたしはいつもの様に見上げた。
 先輩は何も言わず、少しだけ視線を返してくれた。

​ 新しい春。

 小さな星々は、また一人、もう一人と、新しい輝きを巻き込みながら、ゆっくりと夜空へ、その軌跡を描いてゆく……。


――まだまだつづく
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 筑水せふり

 2026/01/17 19:40

https://note.com/chikusui_sefuri/m/mc4ef7cab4639

第一話ってどんなのって方はnoteのマガジンをどうぞ。第一話の前に実は連作詩があります。しかもそれがわたしの初文藝作品(の改稿版)
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 ラウンド

 2026/01/18 13:32

才能があり、多趣味でもあれど、コミュニケーションは不得手そうな御仁ですね。この大刀洗君は。

さあ、これからメンバーはどうあっていくのか。要注目ですね。
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 永倉圭夏

 2026/02/04 14:12

上品で穏やかな雰囲気の天文部につむじ風のように現れた彼。入部したらかなり目立つ存在になりそうですね。これからが気になります。
ちーちゃん、先輩の隣に座れなくなったのは残念でしたね。あと文化祭がないのも。
凍えた身体にお風呂は最高っすよ!
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