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2021/01/01 12:00:00

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小さな星の軌跡 第二十一話「もう一つの風」

 翌日の金曜日、朝はいつも通りみっちゃんとバス停で合流。

「おはよ、みっちゃん」
「ちーちゃん、おはよう」
「昨日の彼、今日来るかなあ」
「いろいろ見て回ってるみたいだし、今日はほかの部活見に行くんじゃないの?もし来るなら来週なんじゃないかねえ……」

 市の中心部に向かってバスはいつも通りに走ってゆく。わたし達の所ではまだ空いているので余裕で座れるのはありがたい。

 駅に近づくにつれてだんだんと混んでくる。去年と同じように乗ってくる人、今年から見かける他校の一年生。窓からの景色も気がつくと更地になっていたり、そうなるともう何があったかなって、いつも見ていたはずなのに、変な気持ちになる。八女先輩と甘木先輩が抜けた場所には一人、星乃さんが入って来た。星乃さんは八女先輩と甘木先輩を知らなくても、わたしやみんなを通じてつながっている。そんな事を思っているうちに、終点の駅についた。

 ささ、学校行きに乗り換えだ。

乗り場の前でおーちゃんと星乃さんに出会う。

「あ、おはようございます」

 ぺこりと星乃さんがお辞儀をする。議員家系のおーちゃんに劣らずちょっと優雅な雰囲気があるなあ。

 ここから学校までのバスはかなり混んでるので立ったまま詰めてゆく。大半はうちの生徒だ。みっちゃんとおーちゃんはぴったり並んでくっついている。まあだからなんというわけでも無いけど、見てるほうはどきどきするよ。

「それじゃあ、放課後ね〜」

 一年生と二年生は昇降口が分かれているので星乃さんとは校門入ってすぐでお別れ。おーちゃんもE組なので、わたし達のA組前を通り過ぎてそのまま奥へ去っていった。

 何となくまだ落ち着かない新学期。
 中庭を挟んだ向こうの3階。
 3-Aは耳納先輩のクラス。

 廊下から眺めていたらチャイムがなった。


……6時限目が終わって放課後。

「それじゃ部室に行こっか」

 みっちゃんが声をかけて来たので二人で廊下に出ると、既にたかちゃんが待っている。

「さっきおーちゃんがね、今日は家のことがあるからお先に失礼しますって」

「うんうん、聞いてるよ〜。お姉さん、今週末終わったらまた関西の大学に返るからね」とみっちゃん。

 新年度、なかなか何処も慌ただしい。
 そしてわたし達3人も部室に向かうと既に星乃さんが部室前で待っていた。

「開けて入ってて良いんだよ〜」
 
 わたしが声をかけてダイヤル錠を回していると、すぐ脇の階段から耳納先輩が降りてきた。

「お疲れ様でーっす」
 
 天文部のあいさつはだいたい男女先輩後輩関係なく「お疲れ様」たまに朝倉先輩なんかが「ちぃーーっす」って入ってくるかな。
 
 皆で入って窓を開ける。
 春風がカーテンをふわっと翻すさまが心地よい。

「お疲れ様、一年生入ったんだって?」
「あ、一年生だね〜、始めましてだよ〜〜」

 おや、柳川先輩と大川先輩の川川コンビが二人揃って長い髪を翻してやってきた。新学期になって始めてなので、わたし達もちょっと丁寧にご挨拶。そして星乃さんに川川コンビを紹介する。

「はじめまして、一年生さん。柳川です」「同じく大川です。よろしくね〜」

 星乃さんは少し緊張したように背筋を伸ばして

「星乃 霧です。よろしくお願いします」

と丁寧に頭を下げた。

「おお、礼儀正しい子だねぇ。かわいい〜〜」
「ほら、驚かせないの。うちの部は優しいから安心してね」

 星乃さんは「はい」と小さく微笑んだ。その笑顔が、春の光みたいにふわっと部室に広がる。

「じゃあ、そろそろ始めようか」  

 耳納先輩が椅子を引きながら言うと、わたしたち二年生もそれぞれの席に座る。
 星乃さんは、昨日と同じように先輩の近くにちょこんと座った。


 その時だった。

 からから……

 半分開けっぱなしだった扉が、誰かの手で更に軽く押し開けられた。

「……失礼しまーす」 

 昨日の一年生男子。
 大刀洗君だ。
 
 部室の空気が一瞬だけ止まる。
 でも、すぐに耳納先輩がいつもの調子で声をかけた。

「お、今日も見学かな?どうぞ」

 大刀洗君は軽く会釈して入ってきた。 
 昨日より少しだけ落ち着いた顔をしている。

「昨日はありがとうございました。……あの、ちょっと確認したいことがあって」

「確認?」

わたしが聞き返すと、彼はたかちゃんの方を見た。

「基山先輩って……中三の時、市の理科展で賞取ってませんでした?」

 たかちゃんが「えっ」と目を丸くする。

「え、覚えてるの?」

「はい。僕も出してて……。でも基山さんの“高牟礼山登山道の露頭観察レポート”、めちゃくちゃ印象に残ってて。ああ、こういう人が“理科好き”なんだって思ったんすよ」

 たかちゃんの耳が、ほんのり赤くなる。

「そ、そんな……大したことないよ……」

「いえ。僕、あれ読んで、もっとフィールドワークやりたいなって思ったんです。だから……」

 大刀洗君は、少し照れたように笑って、 カバンから一枚の紙を取り出した。

「入部届、持ってきました」

 部室が一瞬だけ静かになって。
 次の瞬間、みっちゃんが小さく「おお〜」と声を漏らす。

 星乃さんもぱちぱちと軽く手を合わせていて、そしてわたしは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じる。

 こうして、天文部にもう一人。
 新しい春の風が流れて来た。

「おっと、もう気象通報始まるな。大刀洗君は書けるんだっけ? いきなりだけど、ちょっと書いてくかな?」

 耳納先輩が声をかけると

「あ、じゃあ」
 と大刀洗君はそのまま入ってくる。

 たかちゃんの隣に座り、まっさらの天気図を受け取ると、鞄からシャープペンシルを取り出す。

 NHKの落ち着いたナレーションが始まる。各地の気圧、風向、天気が読み上げられていく。
 
 星乃さんはまだ書けないので、わたし達の後ろからそっと覗き込んでいる。
 大刀洗君の手元を見ると、なるほど、放送に余裕でついてきている。数字を聞いた瞬間に迷いなく書き込んでいく。
 
 放送が終わり、等圧線を書き込む前に耳納先輩が手を止めた。

「はい、それでは今日の天気図、仕上げは持ち帰りで。改めて簡単に自己紹介をしようか」

 昨日来られなかった三年生も含めて、全員で自己紹介。
 星乃さんも、大刀洗君も、少し緊張しながら名前を言っていく。
 ひと通り終わると、耳納先輩が手帳を開いた。

「それじゃあ、四月末の宿泊観測会の説明を簡単にしておくね。活動中の服装は自由だから、着替えを持ってきてください。四月でも夜はちょっと冷えるからね。あと、朝七時で終了になるけど、その後は学校近くの銭湯に行く予定。みんなで温まってから帰りましょう」

「銭湯、楽しみだねぇ〜〜」
と大川先輩が嬉しそうに言う。

「テーマは来週以降決めていこうと思います。柳川さんと大川さんも参加で良いのかな?」

「もちろん。二人も入ったんだから、わたし達も行くよ」  

「星乃さん、大刀洗君、よろしくね〜〜」

 星乃さんは「よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げ、  大刀洗君は少し照れながら「よろしくっす」と答えた。

 部室の空気が、すこしずつ塗り替わってゆく。春の風が、またひとつ、天文部に吹き込んだ金曜日だった。


――つづく
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