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2021/01/01 12:00:00

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新しい魚(漆黒の幻想小説コンテスト)

 新種の魚だと思う。魚は赤い砂の上で鰭をばたつかせ、もがく。乾いた鱗が砂煙をたてる。鱗が赤く汚れる。
「死を怖がっているのか」
 手袋の上に魚を載せる。鼓動がある。鰓は見えない。魚の眼球が動き、こちらを見る。
 野の向こうから叔父の醫手が来る。漁手を連れている。
「叔父さま、これです」
 手袋の上の魚を渡す。叔父は手袋で受ける。叔父は一瞥し、魚を漁手へ渡す。
「見たことはあるか」
 漁手の手袋はところどころ破れており裂け目から爛れた皮膚が見える。
「こんな魚は見たことはありません、邑人もないでしょう」
 漁手は叔父へ魚を戻す。鰭が動く。
「海へ還すまえに私が預かる。君は帰っていい」
 叔父は言う。漁手は私たちと離れて野を逸れる。
「彼はもう永くない」
 叔父は立ち止まって、ついてきた私へ言う。月の自転周期を語るように。
「彼の孫には邑から新しい手袋を贈る」
 叔父の醫処へたどり着く。醫術台の上に魚を置く。叔父は糧食を魚の口へ含ませ、壺の水を魚へかける。動かない。赤い砂が台の下へ流れる。
「海の魚ではないかもしれない」
 と叔父は言う。
「鰭が布のようで泳ぐのに適していない。獣の脚のようなものも生えている」
 叔父は書棚から旧い魚類図鑑を取り出す。多くの魚が横を向いて描かれている。そのなかに魚の生態を描いた図があり、叔父はそのなかのひとつの絵を指す。
「この魚はこれと近いのかもしれないけれど字は読めない」
「泳いでいるのは海じゃなさそう」
 魚類図鑑は閉じられる。頁が起こした風に舞い、栞が落ちる。栞には見たことのない地球の雲が描かれている。
 粗布で魚をくるみ、叔父は醫処を出る。私はついていく。
 海辺へ着くと叔父は粗布をひらき、魚を海に浸す。寄せる波は魚と赤い砂とを濡らす。魚は海へ還らない。ただ海辺に身を横たえている。
 しばらくそうしていた魚は、やがて身震いする。魚は海へ潜ろうとするのではなく、頭をもたげる。叔父は感嘆の声を漏らす。脚で立とうとする。私も声を抑える。魚は還るべき海ではなく、雲を見る。そして体長くらいはある鰭を展げる。
「泳げ」
 私は叫ぶ。叔父は私の肩を抱く。魚は鰭で地を打つ。魚は浮く。鰭を大きく動かし、宙にとどまる。でも浮いたあと、魚は海に落ち、波にのまれる。波は魚を沖へと運ぶ。
「宇宙船の発射実験のようだったな」
 と叔父は言い、私の肩を抱き寄せる。防光衣が乾いた音をたてる。
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 笛地静恵

 2025/04/14 13:42

執拗な登場人物の手の動きへの注視。なにゆえか。それが、「脚」で立つシーンに達する。開放感がある。
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 澤あづさ

 2025/04/15 13:48

みごとな叙述トリック(?) この文体からこのオチは予想できませんでした。
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 afterglow

 2025/08/22 14:46

赤い砂にまみれた魚の姿が、読むほどに胸に残ります。
気づけば「私」となって叔父と並んでいるようで、海へ還るのではなく空を見上げたとき、この作品に描かれた「新しい魚」の本質が立ち上がったように感じました。
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