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2021/01/01 12:00:00

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あわいに咲くもの 「いつもの風景と」

 元日の朝は、しん、としていた。

 伊都お姉さまは、まだ毛布の奥で小さく呼息をしている。大晦日とはいっても、いつもの様に食事をして、おしゃべりをして、それぞれ本を読んで、お風呂に入って、ベッドにもぐりこんだ。違ったのは遠くで聴こえる鐘の音。山の中腹だからか、いろんな鐘の音が聴こえていたのを聴きながら眠りについた。

 冷えたリビングに向かい古いブルーフレームの胴を倒す。芯の高さを合わせてマッチで火をつける。ガスライターでも良いのだけど、お姉さまはわざわざマッチを買ってきて置いてある。ので、わたしもそれにならって同じ様に火をつける。マッチの燃える香り、灯油の炎が広がる音。胴を立ててロックをかけると窓のなかの炎はすぐに青いフレームにかわり、かすかな灯油の匂いとともにふわりと暖気が立ち上ってゆく。

 やかんの水を入れ替えてストーブにかけておこう。

 玄関の脇に国旗を掲げた。
 お姉さまの大叔父様。かつてはここの主(あるじ)だった方。古い箱を開けると綺麗にたたまれた日の丸とポール。それをおそらくはかつてと変わらぬ様に掲げる。

 リビングに戻ったわたしは、ほんのり暖かくなった空気と、カーテンの隙間から差す光を手のひらで受けとめて――
 なんとなく、今年の抱負なんてものを考えてみる。

 ――たとえば、
“日曜の朝は、伊都お姉さまを起こしてしまわないように生きること”

 そんなの抱負と言えるのかどうかわからないけれど、わたしの一年は、ほんとうはそれで十分なのだ。
 お姉さまの寝息をひとつ壊すだけで、調和がちょっとだけ違ってしまう気がするから。

 あとは……

“お姉さまが書く言葉に、わたしの影が映っていても驚かないこと”

 それはつまり、わたし自身がもう少し丁寧に、
 日々の細かい感情を見つめて、
 きれいに散らかしてゆく覚悟を持つということで。

 あと、これは小さな決意だけど――

“お姉さまが淹れてくれる朝のコーヒーに、文句を言わない”
(もちろん今までも言ったことはないんだけど、わたしのほうが上手だよ)

 書き出してみると、どれもこれも、なんというか、他の人が読んだら笑うような薄い抱負だ。

 でも伊都お姉さまのとなりで、呼吸して、
 話すでもなく、黙るでもなく、
 ただそうして一年が経ってゆくのなら、
 わたしはそれで充分に満ちている。

 やかんが、しゅん、と鳴いた。

 寝室の方でかたんと音が聞こえた。
 お姉さまがもうすぐ着替えて出てくるだろう。

 今年も多分、
 世界はとりたてて良くもならないし、
 悪くもならないのだろう。

 けれど、わたしたちの小さな部屋は、きっと大丈夫だ。

 そんな気がして、
 わたしはそっと、
 寝室の方を振り返り、小さく呟いた。
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 北岡伸之

 2026/01/02 02:06

どこか古びた洋館での物語という気もいたします。
世間の流れ、特に30分刻みでスケジュールをいれるような世界の、いそがしい時間の流れとは別の世界。
お茶をいれる時間、そういう数分の感覚はあるけど、ほかはね、ゆったりなのです。
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